(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンテナを介して受信されたエコー信号に基づいて生成されるデジタルデータから、前記アンテナ周辺の状況を表示するための画像データを生成するデータ処理装置であって、
前記デジタルデータをアンテナからの距離と方位に関連付けて記憶するメモリと、
前記メモリに記憶された前記デジタルデータのうち、処理対象のデータである注目データの値を、前記注目データ及び該注目データの周辺にある周辺データの値に基づいた値に置き換えるデジタルフィルタと、を備え、
前記デジタルフィルタは、前記注目データに関連付けられている前記アンテナからの距離に応じて、フィルタ処理に使用する周辺データの範囲を変更し、当該周辺データの範囲を定める、距離方向のデータ数と方位方向のデータ数の比率は前記アンテナから前記注目データまでの距離に応じて異なることを特徴とするデータ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
〔レーダ装置の構成〕
以下、本発明の第1実施形態に係るレーダ装置について図面を用いて説明する。
図1は、このレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
図1に示すレーダ装置10は、アンテナ20、送受信機30、信号処理装置40、データ処理装置50及び表示装置60を備えている。そして、データ処理装置50は、スイープメモリ51,52、バッファメモリ53、デジタルフィルタ54、セレクタ55、画像変換器56及び画像メモリ57を備えている。
【0013】
図1において、セレクタ55がスイープメモリ51を選択している場合の構成、つまり、アンテナ20、送受信機30、信号処理装置40、スイープメモリ51、セレクタ55、画像変換器56、画像メモリ57及び表示装置60からなる構成が、従来のレーダ装置
と同じ構成である。そして、
図1において、セレクタ55がスイープメモリ52を選択している場合の構成、つまり、アンテナ20、送受信機30、信号処理装置40、バッファメモリ53、デジタルフィルタ54、スイープメモリ52、セレクタ55、画像変換器56、画像メモリ57及び表示装置60からなる構成が、新たに加わった機能を実現するための構成である。
【0014】
〔アンテナ〕
このレーダ装置10において、アンテナ20は、鋭い指向性を持ったパルス状電波(レーダ送信信号)のビームを送信するとともに、その周囲にある物標からの反射波を受信する。ビーム幅は、例えば2度に設定される。アンテナ20は、水平面内で回転しながら、上述の送信と受信を繰り返す。回転数は、例えば24rpmである。アンテナ20が1回転する間に行う処理の単位を1スキャンとよぶ。また、レーダ送信信号を送信してから次のレーダ送信信号を送信する直前までの期間における送信と受信の動作をスイープとよぶ。1スイープの時間、すなわち送信周期は、例えば1msである。そして、1スイープ当たりの受信データ数がサンプル点数である。
【0015】
アンテナ20では、レーダ送信信号を、ある方向へ集中して発射することで、物標からの反射波(物標信号)を含むレーダ受信信号を受信する。レーダ受信信号は、物標信号成分のほか、クラッタや他のレーダ装置からの電波干渉波や受信機雑音などの成分を含む場合もある。
【0016】
レーダ装置10から物標までの距離は、その物標信号を含むレーダ受信信号の受信時間と、当該レーダ受信信号に対応するレーダ送信信号の送信時間との時間差から求められる。また、物標の方位は、対応するレーダ送信信号を送信するときのアンテナ20の回転角度から求められる。
【0017】
〔送受信機〕
送受信機30は、レーダ送信信号を生成してアンテナ20へ送出し、また、アンテナ20からレーダ受信信号を取り込み、A/D変換器41に出力する。そのために、送受信機30は、同一の時間間隔で、または、異なる時間間隔で、中間周波数のレーダ送信信号を生成する。レーダ送信信号は、例えば、チャープ信号として知られている周波数変調信号である。送受信機30は、中間周波数のレーダ送信信号をローカル信号と混合して周波数変換し、送受切換器(図示省略)などを介してアンテナ20に出力する。
【0018】
送受信機30は、送受切換器などを介してアンテナ20から出力されるレーダ受信信号を取り込む。そして、レーダ受信信号をローカル信号と混合して中間周波数に変換し、後段のA/D変換器41に出力する。
【0019】
〔信号処理装置〕
上述のチャープ信号に対するパルス圧縮処理やレーダ受信信号に含まれる干渉波を除去する干渉除去などの信号処理が信号処理装置40で行われる。このような信号処理をデジタル信号で行うために信号処理装置40は、A/D変換器41を備えている。
【0020】
A/D変換器41は、送受信機30から出力される中間周波数に変換されたレーダ受信信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換する。ここでは、代表的な信号処理としてパルス圧縮処理や干渉除去を信号処理装置40が行う場合を説明する。A/D変換器41で変換されたデジタル信号はパルス圧縮部42にてパルス圧縮処理される。そのため、パルス圧縮部42は、例えばトランスバーサルフィルタなどを備えている。パルス圧縮されたデジタル信号は、干渉除去部43に入力され、干渉波が除去される。ここでは、パルス圧縮処理や干渉除去を信号処理として行う場合を示しているが、信号処理は、これらに限ら
れず、他の処理であってもよい。
【0021】
〔データ処理装置〕
データ処理装置50は、信号処理装置40で信号処理されたデジタルデータを処理する。レーダ装置10におけるデータ処理には、CFAR(Constant False Alarm Rate)処理などの種々の処理があるが、ここでは、本発明に係る処理を記載する。従って、ここに記載されているデータ処理とCFAR処理などの他のデータ処理を併せて行っても構わず、このデータ処理装置50の構成は、以下に説明する構成には限られない。
【0022】
データ処理装置50は、2つのスイープメモリ51,52を備えている。これらスイープメモリ51,52は、レーダ受信信号のデジタル信号を方位毎(スイープ毎)に記憶する記憶装置である。以下の説明では、これらスイープメモリ51,52に記憶される各方位のデジタル信号をスイープデータという。スイープデータは、アンテナ20からの距離に応じて順に記憶されているデータである。スイープメモリ51は、例えば、方位毎にかつ距離の近いものから順にスイープデータを記憶することで、スイープデータにアンテナ20を基準とした方位と距離の情報を付与している。
【0023】
図2は、アンテナ20とスイープデータとの関係を示す概念図である。スイープデータθ1には、アンテナ20を基準として方位0度に対してθ1度の角度をなす方位θ1について距離R1〜Rnまでのデータが含まれる。同様に、スイープデータθ2〜θ9には、それぞれ方位θ2〜θ9について距離R1〜Rnのデータが含まれる。上述したように、アンテナ20は回転しており、従って方位θ1のスイープデータS2の送受信の時には、アンテナ20の長手方向に直交する方向に対してθ1度の角度を持った方向を向くが、
図2では、図示を簡単にするためにアンテナの向きと方位との関係は無視している。また、スイープデータθ1〜θ9以外にもアンテナ20の周囲360度から得られるレーダ受信信号から多数のスイープデータが生成されるが、
図2ではこれらの記載を省略している。また、レーダ装置10が船舶や車両や航空機などの移動体に積載されることが多く、そのような移動体とともにレーダ装置10が移動している場合には移動に伴う方位や距離の補正が必要になるが、レーダ受信信号の補正については説明を省略し、補正された後の方位と距離に応じたスイープデータが信号処理装置40から出力されているものとして以下の説明を行う。
【0024】
スイープメモリ51,52には、後段の画像メモリ57にスイープデータを記憶するまでの処理に必要な時間を得るため、少なくとも1スイープ分、例えば2スイープ分のスイープデータが常時記憶される。従来と同様の動作を行うときには、セレクタ55でスイープメモリ51が選択される。
【0025】
一方、セレクタ55でスイープメモリ52が選択されるときは、アンテナ20からの距離に応じた拡大倍率になるようにスイープデータのデータ処理が行われる。このようなデータ処理は、バッファメモリ53及びデジタルフィルタ54を用いて行われる。このデータ処理については、後ほど詳しく説明する。
【0026】
データ処理装置50はさらに、セレクタ55から出力されるスイープデータを受け取る画像変換器56と、画像変換器56で変換されて生成された画像データを記憶する画像メモリ57とを備えている。画像変換器56では、アンテナ20から回転角度に関する信号を受信しており、アフィン変換が行われ、距離Rと方位θで表される極座標から表示画面61に対応したxy座標に変換される。画像メモリ57に記憶されている画像データは、後述の表示装置60の表示画面61の縦と横に対応して記憶されている。
【0027】
〔表示装置〕
表示装置60は、データ処理装置50の画像メモリ57に記憶されている画像データに基づいて画像の表示を行うLCD(Liquid Crystal Display)などの表示画面61を備えている。画像メモリ57に記憶されている画像データは、表示画面61の縦と横に対応して記憶されているから、画像メモリ57から順に読み出されるデータを表示画面61の画素に合わせて縦横に並べて表示すれば、例えば
図3に示すような画像が得られる。表示画面61の画素数は、例えば640×480ドットである。
【0028】
図3において、下方の比較的面積の大きな輝度が高い(明るい)領域101は陸地であり、上方の比較的面積の大きな輝度が低い(暗い)領域102が海であり、点在している輝度の高い小さな塊り103が小船などの物標である。
図3を見ると分かるように、中心100に近いところの解像度は高く、中心100から遠いところの解像度は低くなっている。これは、
図2に示されている例えば距離R1の1スキャンのデータ数と距離Rnの1スキャンのデータ数とは同じであるため、距離R1のような近いところでは一つのデータが示す範囲が狭くなり、距離Rnのような遠いところでは一つのデータが示す範囲が広くなるからである。
【0029】
〔データ処理装置の動作〕
セレクタ55によってスイープメモリ52の出力が選択されている場合のデータ処理について説明する。デジタルフィルタ54は、バッファメモリ53から読み出されるスイープデータを濾波する。この濾波の設定が距離R1〜Rnの長さに応じて変更される。
【0030】
図4及び
図5を用いて、デジタルフィルタ54によるデータ処理について説明する。
図4はアンテナ20に比較的近い領域のデータ処理を説明するための図であって、
図4(a)にデータ処理前のデータの状況が示され、
図4(b)にフィルタ処理後のデータの状況が示されている。また、
図5は、
図4に比べてアンテナ20から少し離れた領域のデータ処理を説明するための図であって、
図5(a)にデータ処理前のデータの状況が示され、
図5(b)にフィルタ処理後のデータの状況が示されている。
図4及び
図5の各データについて、データの値が大きいほど斜線で示されている面積が大きくなるように表されており、即ち斜線で示されている領域に物標などからの反射波があることが示されている。また、ここでは説明を簡単にするために斜線が示されていないデータの値は0とするが、実際にはデータの値が例えば0に近い値であればよい。
【0031】
図4に示されているように、アンテナ20に比較的近い距離R1〜R10については、デジタルフィルタ54が5×5の窓W1を用いてフィルタ処理する。一方、
図5に示されているように、アンテナ20から少し離れた距離Rm+1〜Rm+10については、デジタルフィルタ54が3×3の窓W2を用いてフィルタ処理する。ここで、mは10より大きな整数である。
【0032】
デジタルフィルタ54は、窓W1,W2の中心のデータの値を窓W1,W2に入っているデータの中の最大値に置き換える一種のFIR(finite impulse response)フィルタである。例えば
図4(a)に示されている状態では、窓W1が方位方向ではθ1〜θ5、距離方向ではR1〜R5のデータを覆っている。この状態で、窓W1に覆われているデータの中で最も値が高いのは、方位θ5、距離R5のデータである。従って、このときの窓W1の中心の方位θ3、距離R3のデータの値が方位θ5、距離R5のデータの値に置き換えられる。窓W1を距離方向に一つずつずらしながら一つの方位のスイープデータの全てが一回は中心のデータとなるように上述のフィルタ処理と同様のフィルタ処理を行う。その後、窓W1を方位方向に一つずらして先ほどと同様に窓W1を距離方向に一つずつずらしながら一つの方位のスイープデータの全てが一回は中心となるように上述のフィルタ処理と同様のフィルタ処理を行う。
図4(a)のデータにこのようなフィルタ処理を行うと、
図4(b)に示されているように物標を示すデータの範囲が広がる。
【0033】
アンテナ20から遠い場合には
図5に示されているようにフィルタ処理に窓W2が用いられる。
図5(a)に示されている窓W2の大きさが3×3であるため、
図5(a)に示されている状態では、窓W2に覆われているデータの中で最も値が高いのは方位θ4、距離Rm+4のデータである。そのため、このときの窓W2の中心の方位θ3、距離Rm+3のデータの値が方位θ4、距離Rm+4のデータの値に置き換えられる。
図5(a)のスイープデータに対しても窓W2を用いてデジタルフィルタ54でフィルタ処理が行われ、
図5(b)に示されているデータが得られる。
図5を
図4と比較すると、デジタルフィルタ54で処理される前のデータで値が0でないデータ数は
図5(a)に示されている方が多く、デジタルフィルタ54で処理された後のデータで値が0でないデータ数は
図4(b)に示されている方が多くなっている。
【0034】
このようなデジタルフィルタ54による処理を行うためには、例えば、デジタルフィルタ54の窓のうちで大きさが最大のものをu×uとすると、u個の方位についてのスイープデータが必要になる。スイープメモリ51,52を大きくすると、レーダ装置10のコスト上昇の要因になるので、従来は上述のようにスイープメモリ51,52が記憶するスイープデータは例えば1〜3スイープ程度である。そこで、記憶するスイープ数を拡大するためにバッファメモリ53が設けられている。
【0035】
従って、バッファメモリ53も基本的にはスイープメモリ51,52と同じ構成であるが、バッファメモリ53はスイープメモリ51,52に比べてメモリ容量が増やされて記憶することができるスイープ数が増加している。
【0036】
上述の説明では、デジタルフィルタ54が2種類の窓W1,W2を距離に応じて変更する場合について説明したが、もっと数多くの窓、例えば
図6に示されているような6種類の窓W11、W12,W13,W14,W15,W16を用いてもよい。この場合、窓の大きさは、W1>W12>W13>W14>W15>W16である。例えば、窓W16が3×3、窓W15が5×5、窓W14が7×7、窓W13が9×9、窓W12が11×11、窓11が13×13の大きさを持っている。6種類の窓が用いられる範囲は、窓と同じ符号が付された距離R1,Rnの間の矢印でそれぞれ示されている範囲である。表示画面61の画素数は上述のように例えば640×480ドットであり、距離方向のサンプル数や1スキャンのスイープ数に至っては、例えば数千に及ぶこともあるので、上述のような窓の大きさに設定することができる。また、表示画面61の画素数に対して、1スキャンのサンプル数の方が多くなるので、データを間引いて表示することになる。ここでは、計算時間やメモリ容量を抑制するため、スイープデータは、間引かれた後のデータである。しかし、間引く前のデータを用いてデジタルフィルタ54に上述のフィルタ処理を行わせることもできる。
【0037】
<特徴>
(1)アンテナ20を中心に方位を変えて送信ビームを繰り返し放射して、その送信ビームによる反射エコーを同じアンテナ20で受信するように構成されていると、遠くの距離にある物標の反射エコーほど分解能が低下する。つまり、近傍の物標は、分解能が高いため、表示画面61に小さく表示されて視認し難くなる。
【0038】
そのため、アンテナ20近傍の物標を拡大して見やすくしたいときには、セレクタ55によってスイープメモリ52が選択される。バッファメモリ53(請求項1のメモリ)は、アンテナ20を基準とする距離と方位に関連付けてA/D変換器41で変換されたスイープデータ(デジタルデータ)を記憶する。デジタルフィルタ54は、アンテナ20からの距離に応じて窓W1,W2の大きさ(周辺データの範囲)を変更する。
【0039】
例えば、
図4(a)に示されているデジタルフィルタ54が大きな窓W1を用いると(周辺データの範囲を広くすると)、窓W1の中心(R3,θ3)のデータ(注目データ)の値が、窓W1の(R1〜R5,θ1〜θ5)の25個のデータ(周辺データ)の値のうちの最大値に置き換えられる。一方、
図5(a)に示されているデジタルフィルタ54が小さな窓W2を用いると(周辺データの範囲を狭くすると)、窓W1の中心(R3,θ3)のデータ(注目データ)の値が、窓W2の(R2〜R4,θ2〜θ4)の9個のデータ(周辺データ)の値のうちの最大値に置き換えられる。その結果、
図4(b)と
図5(b)を比較して分かるように、窓W1を使って即ち周辺データの範囲を広くして窓W1の中心のデータ(注目データ)が周辺データの影響を受け易くなることにより、窓W2を使って即ち周辺データの範囲を狭くして窓W2の中心のデータ(注目データ)が周辺データの影響を受け難くした場合よりもデジタルフィルタ54の拡大倍率が大きくなるように設定することができる。これらの窓W1,W2のように窓の大きさを距離R1〜Rnに応じて変更すること即ち注目データに関連付けられているアンテナからの距離に応じてフィルタ処理に使用する周辺データの範囲を変更することにより、アンテナ20からの距離に応じた表示の拡大倍率の変更ができる。
【0040】
(2)デジタルフィルタ54は、窓W1,W2内のデータの最大値(周辺データの示すエコー信号の最大の強さ)が窓W1,W2の中心のデータの値(注目データの示すエコー信号の強さ)よりも大きい(エコー信号の強さが強い)ときには、中心のデータの値を窓W1,W2内のデータの最大値に置き換える。それにより、窓W1,W2の中心のデータが大きくなる即ち注目データが示すエコー信号の強さが強められる。その結果、アンテナ20の位置に近い物標の画像が拡大され易くなり、アンテナ20の位置から遠い画像が拡大され難くなり、アンテナ20の位置に近い方の拡大倍率を遠い方に比べて大きくすることができる。
【0041】
なお、上記第1実施形態では、デジタルデータの例としてスイープデータを示しているが、デジタルデータは上記のスイープデータに限られるものではなく、エコー信号から画像データを得るまでの過程で生成される途中のデータであればよい。また、上記第1実施形態では、表示画面61に表示されるための画像データとしてX−Y座標系の画像データを例に挙げて説明しているが、画像データは表示画面61やその表示方式に適したものであればよく、X−Y座標系のデータに限られるものではない。
【0042】
(3)デジタルフィルタ54は、窓W1,W2の中心のデータ(注目データ)の値が所定値以下の場合に中心のデータの周辺にある周辺データの中に所定値よりも大きな値があれば中心のデータの値を所定値よりも大きな値に変換する特性を有するFIRフィルタであるといえる。
【0043】
特に、このデジタルフィルタ54は、窓W1,W2の中心のデータ(注目データ)の値を当該中心のデータの周辺にある周辺データの値のうちの最大値に置き換える最大値フィルタである。
【0044】
そして、デジタルフィルタ54は、アンテナ20からの距離が所定距離より遠いものに対応する窓W1の大きさを、所定距離よりも近いものに対応する窓W2の大きさよりも大きくする。上記実施形態では、窓W1,W2は距離方向と方位方向のデータ数が同じであって
図4(a)や
図5(a)には正方形の形状として表示されているが、これらの数は同じでなくてもよく、例えば一方が多くなって
図4(a)や
図5(a)に表示したときに長方形になるような窓を設定してもよい。一般的に、周辺データの距離方向のデータ数及び方位方向のデータ数よりも近いものに対応する周辺データの距離方向のデータ数及び方位方向のデータ数のうちの少なくとも一方を多くする変更を行うことによりフィルタ処理を変更すればよい。
【0045】
また、上記実施形態では、デジタルフィルタ54として最大値フィルタについて説明したが、上述のように、デジタルフィルタ54は注目データの値が所定値以下の場合に注目データの周辺にある周辺データの中に所定値よりも大きな値があれば所定値よりも大きな値に変換する特性を有するFIRフィルタであればよい。そして、このようなFIRフィルタでは、アンテナ20からの距離が所定距離より遠いものに対応する注目データの周辺データの範囲よりも近いものに対応する周辺データの範囲を大きくする変更を行うことによりフィルタ処理を変更すればよい。
【0046】
そうすると、FIRフィルタがアンテナから近い注目データについては大きな範囲の中に所定値よりも大きな値を持つデータがあれば注目データの値が所定値よりも大きなものに変更されるので、その範囲が小さなアンテナから遠い注目データに比べて所定値が大きくなる確率が高くなる。そのため、このようなFIRフィルタでスイープデータを処理すると、アンテナから遠い物標よりも近い物標の拡大倍率を大きくすることができる。
【0047】
図3に示した表示画面61の画像が、
図6に示したフィルタ処理の変更を行いながらデジタルフィルタ54でフィルタ処理を行うと、
図7に示した画像に変換される。
図7を
図3と比較すると、中心100に近い
図7の小船103Aの表示が
図3の小船103の表示よりも大きくなっていることが分かる。
【0048】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るレーダ装置について
図8を用いて説明する。第2実施形態に係るレーダ装置10Aは、第1実施形態に係るレーダ装置10と同様に、アンテナ20と送受信機30と信号処理装置40とデータ処理装置50Aと表示装置60とを備えている。
【0049】
第1実施形態と第2実施形態で異なる点は、データ処理装置50,50Aの構成の違いである。アンテナ20と送受信機30と信号処理装置40と表示装置60の構成や動作が第1実施形態のレーダ装置10と第2実施形態のレーダ装置10Aで同じであるので、これらの説明は省略する。
【0050】
上記第1実施形態では、デジタルフィルタ54による処理をスイープデータについて行う場合について説明したが、同様の処理を画像メモリ57が記憶する画像データに対して行ってもよい。このような場合には、バッファメモリ53とデジタルフィルタ54とセレクタ55に対応するバッファメモリ53Aとデジタルフィルタ54Aとセレクタ55Aとがデータ処理装置50Aに設けられる。そして、セレクタ55Aは、画像変換器56の後段に設けられる。セレクタ55Aは、従来と同様の処理を行う場合には、画像変換器56の出力が画像メモリ57に出力するように接続を切り換える。
【0051】
第1実施形態で説明したようなアンテナ20に近い物標を大きく表示させるような処理を行う場合には、セレクタ55Aは、画像変換器56の出力がバッファメモリ53Aに対して出力されるように接続を切り換える。
【0052】
バッファメモリ53A及びデジタルフィルタ54Aで行われる処理は、処理の対象となるデータがR−θ座標系からX−Y座標系に変換したエコーデータである点で異なるが、バッファメモリ53及びデジタルフィルタ54で行われていたR−θ座標系のスイープデータについての処理と同じものである。デジタルフィルタ54Aでは、データの配列に、距離方向Rに代えてX軸方向が用いられ、方位方向θに代えてY軸方向が用いられる。X軸方向とY軸方向にマトリクス状に並ぶX−Y座標系の画像データを処理するデジタルフィルタ54Aにおいては、デジタルフィルタ54Aの窓W1,W2の大きさは、距離方向
Rのデータ数に代えてX軸方向のデータ数で規定され、方位方向θのデータ数に代えてY軸方向のデータ数で規定される。デジタルフィルタ54Aでは、X軸方向やY軸方向に窓W1,W2が移動し、窓W1,W2内のデータの最大値が窓W1,W2の中心のデータの値よりも大きいときには、中心のデータの値が窓W1,W2内のデータの最大値に置き換えられる。このようにしてデジタルフィルタ54Aで処理されたデータは、順次画像メモリ57に格納される。
【0053】
そして、画像メモリ57に格納された画像データが表示画面61に表示される点は第1実施形態の場合と同様である。セレクタ55Aでバッファメモリ53Aとデジタルフィルタ54Aを経由する処理が選択された場合には、
図4や
図5を用いて説明されているように、アンテナ20に近いところの物標などが拡大されて表示される。
【0054】
<特徴>
(1)
アンテナ20近傍の物標を大きくして見やすくしたいときには、セレクタ55Aによって画像変換器56の出力がバッファメモリ53Aとデジタルフィルタ54Aとを経由するように切り換えられる。バッファメモリ53A(請求項1のメモリ)は、アンテナ20を基準とする距離と方位に関連付けて画像変換器56で変換された画像データのうちデジタルフィルタ54Aの処理に必要なものを記憶する。デジタルフィルタ54Aは、アンテナ20からの距離に応じて窓W1,W2の大きさ(周辺データの範囲)を変更する。それにより、アンテナ20からの距離に応じた表示の拡大倍率の変更ができる。
【0055】
なお、上記第2実施形態の説明では、デジタルフィルタ54Aが画像メモリ57の前にある場合が挙げられているが、バッファメモリ54Aやデジタルフィルタ54Aは画像メモリ57の後に設けられてもよい。例えば、画像メモリ57の直後にデジタルフィルタ54Aが設けられている場合には画像メモリ57が請求項1のメモリに該当することになる。
【0056】
(2)デジタルフィルタ54Aも、窓W1,W2内のデータの最大値が窓W1,W2の中心のデータの値よりも大きいときには、中心のデータの値を窓W1,W2内のデータの最大値に置き換える。それにより、窓W1,W2の中心のデータが大きくなる。その結果、アンテナ20の位置に近い画像が拡大され易くなり、アンテナ20の位置から遠い画像が拡大され難くなり、アンテナ20の位置に近い方の拡大倍率を遠い方に比べて大きくすることができる。
【0057】
<変形例1>
上記第1実施形態及び第2実施形態では、FIRフィルタとして、最大値フィルタであるデジタルフィルタ54を用いた。しかし、FIRフィルタは、最大値フィルタ以外のフィルタであってもよく、例えば、注目データの値を当該注目データの周辺にある周辺データの平均値に置き換える移動平均フィルタであってもよい。
【0058】
デジタルフィルタ54に代えて移動平均フィルタを用い、アンテナ20からの距離が所定距離より遠いものに対応する注目データの周辺データの距離方向のデータ数及び方位方向のデータ数よりも近いものに対応する周辺データの距離方向のデータ数及び方位方向のデータ数のうちの少なくとも一方を多くする変更を行うことによりフィルタ処理を変更するように設定する。
【0059】
そうすると、FIRフィルタがアンテナから近い比較的値の大きなデータの影響がアンテナから遠い場合に比べて広範囲に及ぶようになるので、このようなFIRフィルタでスイープデータを処理すると、アンテナから遠い物標よりも近い物標の拡大倍率を大きくす
ることができる。
【0060】
<変形例2>
上記第1実施形態及び第2実施形態では、デジタルフィルタ54の窓W1,W2を距離方向又は方位方向に一つずつ動かす場合について説明した。しかし、移動させるデータ数は一つには限られず、複数であってもよい。ただし、複数移動させる場合には、中心とならなかったデータについて、中心となった周囲のデータを用いて補完するなどの処理を行う。
【0061】
例えば、距離方向に2つ移動させる場合には、中心とならなかったデータの前後にある中心となったデータの値の平均値をそれらの中心とならなかったデータの値と置き換える処理を行う。
【0062】
<変形例3>
上記第1実施形態及び第2実施形態では、
図6の窓W11〜W16を示して、窓の距離方向のデータ数と方位方向のデータ数が同じで、3×3、5×5、7×7、9×9、11×11、13×13のように距離方向のデータ数と方位方向のデータ数が距離に応じて同じ割合で変更される場合について説明した。
【0063】
しかし、窓は、距離方向のデータ数と方位方向のデータ数が異なるものであってもよい。また、距離に応じて変更する場合も、
図9に示されている窓W21、W22,W23,W24,W25,W26のように、距離方向のデータ数N
Rと方位方向のデータ数N
dの比率がアンテナ20からの距離に応じて異なるように変更してもよい。
【0064】
また、データ数の変更方法も、例えば、アンテナ20からの距離に応じて方位方向のデータ数N
dの変化する割合が、距離方向のデータ数N
Rの変化する割合よりも小さくなるように構成してもよい。
【0065】
<変形例4>
上記の窓W1,W2,W11〜W16,W21〜W26は、全体にわたって距離方向のデータ数が同じでかつ方位方向のデータ数が同じであったが、窓の形態はこのようなものに限られるものではない。例えば、窓の距離方向のデータ数N
Rが方位の増加に従って漸増した後に漸減し、窓の方位方向のデータ数N
dが距離の増加に従って漸増した後に漸減するように構成されてもよい。距離方向のデータ数を示す縦軸と方位方向のデータ数を示す横軸が同じ大きさのグラフを用いると、全体にわたって距離方向のデータ数が同じでかつ方位方向のデータ数が同じである場合には前述のグラフ上では窓の形が矩形になる。同様のグラフに、距離方向のデータ数N
Rが方位の増加に従って漸増した後に漸減し、かつ窓の方位方向のデータ数N
dが距離の増加に従って漸増した後に漸減するような窓を描くと、窓の形は、例えば、その漸増や漸減の仕方によって、菱形や円形や楕円形などになる。
【0066】
<変形例5>
次に、本発明の変形例5に係るレーダ装置について説明する。変形例5に係るレーダ装置は、第1実施形態に係るレーダ装置10と同様に、アンテナ20と送受信機30と信号処理装置40とデータ処理装置50と表示装置60とを備えている。変形例5に係るレーダ装置が第1実施形態に係るレーダ装置10と異なる点は、第1実施形態に係るレーダ装置10がFIRフィルタをデジタルフィルタ54に用いているのに対し、変形例5に係るレーダ装置ではデジタルフィルタ54に代えてIIR(infinite impulse response)フィルタを用いる点である。
【0067】
デジタルフィルタ54では、注目するデータに対して距離方向と方位方向の両方に広がっている周囲の状態を考慮したが、IIRフィルタを用いる場合には、注目するデータの距離方向における周囲の状態のみを考慮し、方位方向の周囲の状態は考慮に入れない。
【0068】
IIRフィルタを用いる場合には、例えばフィルタ処理前の画像データX(n)とフィルタ処理後の画像データY(n)の関係は、画像データY(n)の一つ前の画像データY(n−1)を用いて次式のように表せる。
【0069】
Y(n)=(1−α)×X(n)+α×Y(n−1)
上式において、αは定数であり、その範囲は0≦α≦1である。このようなフィルタの場合には、定数αの値を距離に応じて変更する。この定数αの変更によって、濾波前のデジタル信号に応じて表示画面に表示されるデータの画素数に比べて濾波後の当該デジタル信号に応じて表示画面に表示されるデータの画素数がアンテナから遠くにあるものより近くにあるものの方が多く増加するようにフィルタ係数の変更を行う。
【0070】
上記実施形態と同様に、IIRフィルタが濾波前のスイープデータに応じて表示画面61に表示されるデータの画素数に比べて濾波後の当該スイープデータに応じて表示画面61に表示されるデータの画素数がアンテナから遠くにあるものより近くにあるものの方が多く増加するように、アンテナ20からの距離に応じて定数α(フィルタ係数)を変更するので、アンテナ20から遠い物標よりも近い物標の拡大倍率を大きくすることができる。
【0071】
<変形例6>
上記第1実施形態及び第2実施形態では、エコー信号の強さが強い(エコー信号の振幅が大きい)ときにデジタルデータの値が大きくなる場合について説明した。そのため、アンテナ20の近傍の物標を大きく表示したいときには、窓の中のデータの最大値を窓の中心のデータの値とするデジタルフィルタ処理を行う場合を説明した。また、窓の中のデータの平均値が窓の中心のデータの値より大きい場合に、平均値を窓の中心のデータの値とするデジタルフィルタ処理を行う場合を説明した。
【0072】
例えば、エコー信号の強さが強い(エコー信号の振幅が大きい)ときにデジタルデータの値が小さくなるように設定されている場合については、アンテナ20の近傍の物標を大きく表示したいときに、上記実施形態とは逆に、例えば窓の中のデータの最小値を窓の中心のデータの値とするデジタルフィルタ処理を行ってもよい。そうすることで、窓が大きいほどデジタルデータの値が小さくなる(エコー信号の強さが強められる)可能性が大きくなり、エコー信号の強い部分の表示面積を拡大できる。
【0073】
<変形例7>
上記第1実施形態及び第2実施形態では、データ処理装置50のデジタルフィルタ54やセレクタ55が、例えば集積回路であるLSIとして実現される。これらは、個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全部を含むように1チップ化されてもよい。また、集積回路化の手法は、LSIに限るものではなく、専用回路又は汎用プロセッサで実現してもよい。また、LSI製造後にプログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0074】
また、データ処理装置50は、記憶装置(ROM、RAM、ハードディスク等)に格納された上述した処理手順を実行可能なプログラムデータが、CPUによって解釈実行されることで実現されてもよい。このプログラムデータは、記録媒体を介して記憶装置内に導入されてもよいし、記録媒体上から直接実行されてもよい。なお、記録媒体は、ROMや
RAMやフラッシュメモリ等の半導体メモリ、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクメモリ、CD−ROMやDVDやBD等の光ディスクメモリ、及びメモリカード等をいう。また、記録媒体は、電話回線や搬送路等の通信媒体も含む概念である。