【実施例】
【0052】
実施例1 FSGS患者由来の血清中のsuPARの増大
可溶性ウロキナーゼ受容体(suPAR)はELISAにより、糸球体疾患を有する患者の血清中で測定された。移植患者の場合、suPARレベルは、他に指定のない限り、移植前の血清から測定された。suPAR血清レベルは、健常対象と比べた場合にFSGS患者において有意に上昇していることが分かった。対照的に、再発期(RLP)であろうと寛解期(REM)であろうと、微小変化型疾患(MCD)、膜性腎症(MN)、または子癇前症を有する患者においては、suPARの有意なバラツキがなかった。FSGS vs. MNまたは子癇前症それぞれの場合にP < 0.05; FSGS vs. 健常、MCD RLP、MCDまたはREMそれぞれの場合にP < 0.001。FSGSを次いで、3つの異なる亜集団: 原発性FSGS、同種移植片における再発性FSGSおよび移植後の再発なしのFSGSに階層化した。再発なしの移植患者のものと比べて再発性FSGSを後に発症している患者の移植前血清において、有意にいっそう高いレベルの血清suPARが特定された。再発性FSGS vs. 非再発性FSGSまたは非移植原発性FSGSそれぞれの場合にP < 0.01。
【0053】
経年的試験を行い、再発性FSGS患者および非再発性FSGS患者においてその移植前採血から移植後1年までの血清suPARのレベルを評価した。移植後1年の時点で再発性FSGS患者において有意に高いsuPARレベルが認められ(再発性FSGS vs. 非再発性FSGSの場合にP < 0.001)、FSGSの再発が予測されFSGSの再発があった患者は、再発なしのFSGS患者と比べて高い移植後1年のsuPARレベルを維持することが示唆された。さらに、移植前レベルを移植後(6〜12ヶ月)レベルと比較した場合に、血清suPARは再発性FSGS患者13人中8人でさらに増加したが、しかし非再発性FSGS患者ではそうでなかった。バラツキの大きさを分析したところ、suPARはFSGS患者63人のうち45人で、しかしMN患者11人のうち4人、子癇前症患者7人のうち1人でのみ、およびMCD患者25人中0人で3000 pg/mlまたはそれ以上にて認められた(表1)。
【0054】
(表1)suPARレベル
*全体としてFSGS vs 他群のフィッシャーの直接確率検定
【0055】
suPARレベルはタンパク尿の存在に相関しているが、移植前の血清suPARレベルと移植後のタンパク尿の程度との間に相関関係は認められなかった(ピアソンr = 0.16, P = 0.50)。さらに、suPARレベルは移植前の血清(eGFR < 15) (ピアソンr = 0.36, P = 0.16)または移植後の血清(平均してeGFR > 60) (ピアソンr = 0.10, P = 0.58)のいずれにおいても、推算糸球体ろ過量(eGFR)に相関していない。移植前または移植後(すなわち、移植後1ヶ月から1年まで)のいずれでも、再発性FSGSと非再発性FSGSとの間でeGFRの有意差は認められなかった。これらの所見から、移植前の高い血清suPARレベルは移植後のFSGS再発と関連していることも示唆される。要約すれば、これらのデータは、suPARがFSGSでは特異的に増やされるが、しかしMCDおよびMNのような有足細胞の関与を伴う分析された他の糸球体疾患では増やされず、子癇前症、つまり内皮機能不全によって主に引き起こされるタンパク尿性疾患でもそうでないことを示している。
【0056】
ドメイン切断または選択的スプライシングに起因して複数の形態のsuPARが報告されているので、FSGS患者の血液中に存在するsuPARの形態を特定した。FSGSの血清を抗uPAR抗体で免疫沈降させた。優性のsuPAR断片が、ずっと低い発現レベルではあるが、約45 kDaおよび約40 kDaの位置の他の2つの形態とともに、約22 kDaの位置に見出された(
図1)。対照的に、健常対象はその血清中に強力なsuPAR発現を示さない。次に、suPARがアルブミンに結合するか、または血液中で自由に循環しているかどうか判定した。血清suPARがアルブミンに結合するかどうかを規定するために、FSGSの血清を特異的なヒトアルブミン抗体で免疫沈降させた。沈降物を次に、抗アディポネクチン抗体および抗uPAR抗体でブロットした。アディポネクチン(アルブミン結合タンパク質)を検出できたが、suPARは検出されなかった。さらに、モノクローナル抗uPAR抗体でのFSGS血清の免疫沈降、引き続きヒトアルブミン抗体での免疫ブロッティングでは、沈降物中にアルブミンが検出されず、FSGS患者の血液中のsuPARの大多数がアルブミンに結合しないことが示唆された。対照として、ウエスタンブロットからアルブミン抗体をストリップし、抗uPAR抗体で再ブロットすることにより、沈降物中のuPARの存在が示唆される。
【0057】
uPARのリガンドとして、ウロキナーゼ(uPA)のレベルは、多くの場合、より高いsuPARレベルを有するがん患者において上昇することが分かっている。したがって、同様に本発明者らの糸球体疾患コホートにおいて血清uPAレベルを測定した。興味深いことに、血清suPARとは異なり、次群: 健常、MCD RLP、MCD REM、原発性、再発性FSGSまたは非再発性FSGSの間で血清uPAレベルの差異は認められなかった。これらの所見は、uPAヌルマウスでの以前のマウス試験から得られたデータとともに、がんとは対照的に、uPAがFSGSのようなsuPAR媒介性の非炎症性糸球体障害に不可欠と思われないことを示唆している。
【0058】
suPARは有足細胞においてβ3インテグリンに結合し、β3インテグリンを活性化する
有足細胞において、uPARはβ3インテグリンに結合する。さらに、suPARはβ1およびβ2インテグリンと結び付くことが知られている。したがって、suPARが同様にβ3インテグリンに結合できるかどうか調べた。suPARおよびβ3インテグリンの共免疫沈降を用いて、suPARは膜結合型uPARの挙動と同じようにβ3インテグリンと相互作用することが分かった。翻訳開始因子をコードするGFP-E1F1B、およびリボ核タンパク質PTB結合1をコードするFlag-Raverを陰性の結合対照として用いた。
【0059】
したがって、本発明者らは、suPARが有足細胞において膜結合型uPARと同じように、β3インテグリンを活性化できるものと仮定した。抗β3インテグリン抗体AP5のような、活性化エピトープを認識する抗体を用いて、β3インテグリンの活性を測定する。ヒト分化有足細胞を、モノクローナルuPARブロッキング抗体およびβ3インテグリン活性をブロックするペプチドであるシクロRGDfVの非存在下または存在下において、高レベルのsuPARを含有する再発性FSGS血清(5%)とともにインキュベートした。組み換えヒトsuPARタンパク質を陽性対照として用い、ウシ血清を陰性対照とした。24時間後、活性化β3インテグリンに対応する、AP5シグナルの発現および局在を免疫蛍光染色によって分析した。ヒト有足細胞は、ウシ血清または健常対象由来の血清中で増殖させた場合、β3インテグリンの低レベルの活性化を示す。対照的に、再発性FSGS患者由来の血清(すなわち、suPARに富む)とのまたは組み換えsuPARとのインキュベーションは、β3インテグリンに対する位置であることが知られている、接着斑の部分を強調するパターン(AP5シグナル)で活性化を強く誘導する。特異的阻害剤uPARブロッキング抗体またはシクロRGDfVによって、この活性化をブロックすることができた。
【0060】
糸球体疾患を有する腎臓におけるβ3インテグリン活性を患者生検コホートにおいて調べた(
図2)。糸球体において誘導されているAP5染色が、特発性FSGS患者9人中7人で、および再発性FSGS患者の全員で認められた。さらに、巣状硬化の程度とAP5陽性の糸球体の数との間に強い相関関係が認められた(r = 0.65, P < 0.01)。対照的に、健常な腎臓の糸球体では、またはMCDおよびMNではAP5シグナルが認められず、または弱いAP5シグナルしか認められず、有足細胞β3インテグリン活性の誘導がFSGSに特異的な特徴であることを示唆していた。
【0061】
循環血中suPARが有足細胞β3インテグリンを活性化することによって、移植された腎臓に影響を与えることを証明するために、移植後の移植片生検にて、有足細胞マーカーであるシナプトポジンでの二重免疫蛍光染色により有足細胞においてAP5シグナルの存在を検出した。β3インテグリン活性は再かん流前の移植片有足細胞において低いことが分かった。その一方で再発性FSGS (n=2)では再かん流から2時間後に著しく増加するが、しかし非再発性FSGS (n=2)ではそうではない。さらに、AP5シグナルは、非再発性移植片を有する患者(n = 5)でよりも再発性FSGSでの移植後生検(n=3)にて高い。対照として、AP5シグナルは正常腎臓切片(n=2)にてほとんど目立たず、急性T細胞媒介性拒絶状態の腎臓移植片生検(n = 3)において増加しない。総合すれば、これらの所見から、有足細胞β3インテグリン活性の増大は、自然FSGSとFSGS再発の両方の特徴であることが示唆される。
【0062】
個体suPAR血清レベルおよび有足細胞β3インテグリン活性が再発性FSGSにおける血漿交換の処置反応を決める
suPARと有足細胞β3インテグリン活性との間の関係をさらに規定するために、正常対象由来の血清とともに、ならびに非再発性FSGS患者および再発性FSGS患者由来の移植前の血清とともにインキュベートされた培養ヒト有足細胞におけるβ3インテグリン活性について(AP5抗体を用いて)FACS分析を行った。有足細胞β3インテグリン活性(AP5)に及ぼすsuPAR含有患者血清の影響をさらに調べるために、分化ヒト有足細胞を正常対象(n=5)由来のプール血清、非再発性FSGS患者(n=10)および再発性FSGS患者(n=15)由来の移植前血清とともにインキュベートした。細胞を次に、β3インテグリン活性(平均蛍光強度MFIによって測定した場合のAP5染色)についてFACS分析によりアッセイした。再発性FSGS移植前血清は、非再発性FSGS血清および正常対象血清と比べて、有意に上昇したβ3インテグリン活性を有することが分かった(再発性FSGS血清 vs. 非再発性FSGS血清またはvs. 正常対象の場合にP < 0.001)。概して、suPARレベルは、A5抗体で視覚化された有足細胞β3インテグリンの活性とよく相関する。
【0063】
次に、suPARの阻害が有足細胞に対するAP5の活性を低下させうるかどうか判定した。抗uPAR抗体とのまたはシクロRGDfVとの再発性FSGS移植前血清の共インキュベーションは、FSGS血清誘導性の有足細胞β3インテグリン活性の有意な低減をもたらす。シクロRGDfv共処理細胞 vs. 再発性FSGS血清のみの場合にP < 0.01; モノクローナル抗suPAR抗体共処理細胞 vs. 再発性FSGS血清のみの場合にP < 0.001。suPARおよびβ3インテグリンアンタゴニストであるシクロRGDfvの両方の直接的遮断は、再発性FSGS患者由来の移植前血清によって通常なら誘導されるβ3インテグリン活性化をブロックする。
【0064】
再発性FSGSに対する現行の標準治療は血漿交換であり、これは、通常、5%アルブミンとの交換の前に取出される1.5リットル(l)の血漿量からなる。suPARが血漿交換によって除去されうるかどうか判定するために、再発性FSGS患者(n=4)由来の血清を単一の血漿交換過程の直前およびその後に回収し、その後、suPARレベルについてアッセイした。血漿交換はFSGS患者血清からsuPARを除去することができた(P < 0.01)。ヒト有足細胞を再発性FSGS患者(n=6)由来の血清とともにインキュベートし、これを数回の血漿交換の前または後に回収して、有足細胞に及ぼすそのβ3インテグリン活性を測定した。FSGS血清によって引き起こされた有足細胞β3インテグリン活性は、血漿交換によって有意に低下された(交換前の血清を用いた有足細胞AP5活性 vs. 交換後の血清を用いた有足細胞AP5活性の場合にP < 0.001)。患者の臨床転帰に及ぼす血漿交換の効果を理解するために、移植後に血漿交換を受けた再発性FSGS患者の臨床例4例について調べた。患者(n=4)は、移植前にsuPAR血清レベルの上昇を有していた。一連の血漿交換処置の後、2人の患者は臨床的寛解に到達し、その血清suPARレベルが2000 pg/mlを下回った。重要なことには、その血清はまた、有足細胞β3インテグリン活性を誘導する能力を失った。血漿交換は血清suPARを正常レベルにまで低減し、β3インテグリン活性を正常範囲にまで弱めた。対照的に、その他2人の患者は血漿交換にもかかわらず再発の状態を維持した。その血清suPARレベルは依然として高く、その血清は依然として、強力な有足細胞β3インテグリン活性を引き起こした。血漿交換は血清suPARレベルを正常化することができず、より重要なことには、β3インテグリン活性を生理学的範囲内の値にまで低減することができなかった。これらの所見から、血漿交換の疾患安定化効果は、有足細胞β3インテグリン活性を敏速に調節するレベルにまで個体の血清suPARを低下させることに依ることが示唆される。したがって、血漿交換による処置に抵抗性の患者の循環血からsuPARを除去するためには、改善が必要とされた。
【0065】
移植前の血清中のsuPARレベルが同様に高かったFSGS患者の一部は、再発性FSGSを発症せず、かつ移植片有足細胞において低い移植後AP5シグナルを有していたので、移植片のβ3インテグリン反応性について調べた。スペインのカナリア諸島において移植を受けた末期腎臓疾患(ESKD)患者333人のコホートでは、PIA
2多型について移植片105例がヘテロ接合性で、移植片11例がホモ接合性であった(表2)。PIA
2多型は、強力な活性化を起こしやすいβ3インテグリンをコードする。おそらく、これらの患者はsuPAR血中レベルの上昇に関して特に感受性が高く、PIA
2状態はsuPAR誘導性FSGSの第2の要因とみなされ得、これが、類似の(高いまたは低い)suPARレベルを有する患者数人において、移植前後でFSGS疾患が変動する程度が異なる理由の説明となる。
【0066】
(表2)ESKDに対するドナーでのβ3インテグリン多型PIA
2の遺伝子型決定
【0067】
suPARの注射によって糸球体沈着およびタンパク尿が引き起こされる
suPARがFSGSの原因または結果であるかを判定するために、異なる3種の腎臓疾患マウスモデルを樹立した: (1) uPARノックアウト(Plaur
-/-)マウスへの組み換えsuPARの注射、(2) ハイブリッド移植マウスでの内因性suPAR放出モデル、および(3) 血中suPARを過剰発現する遺伝子操作マウス。
【0068】
第一に、外因性の循環血中suPARが腎臓に沈着し、アルブミン尿を引き起こしうるかどうか判定した。Plaur
-/-マウスに漸増投与量の組み換えマウスsuPARを静脈内注射した。2 μgおよび10 μgでの低用量注射ではアルブミン尿が引き起こされなかったが、これは健常対象(各群でn=4)の血中suPARの生理学的(低い)濃度と一致している。しかし20 μgおよびそれ以上の投与量では、24時間以内に一過性アルブミン尿の誘導に至り(各群でn=4)、これは2〜3日以内に解消した。24時間の時点でsuPAR 20 μgを注射したマウス vs. その他の用量を注射したマウス、またはvs. その他の時点で注射したマウスの場合にP < 0.01。suPAR注射Plaur
-/-マウスを殺処理し、その腎臓を免疫染色のために切除した。suPAR 20 μgを投与されていたPlaur
-/-マウスでは有足細胞のすぐ近くのなかにsuPARの顕著な沈着が認められたが、2 μgしか投与されなかったPlaur
-/-マウスでは認められなかった。さらに、この沈着は、同じようにsuPAR用量依存的であったAP5標識の増大によって示されるように有足細胞に対するβ3インテグリン活性の増大と関連していた。
【0069】
suPARはPlaur
-/-ドナー腎臓において有足細胞疾患を引き起こす
第二に、内因性suPARレベルの増大が野生型マウスにおいて腎臓疾患を引き起こすかどうか判定した。LPSは、単球からの放出を通じてヒト対象の血液中のsuPARを増加させることが示されている。したがって、LPSがまた、マウスにおいてsuPARの血中レベルを増強しうるかどうか判定した。実際に、LPS注射は、対照マウス(n=6)で認められたレベルと比べて5倍までのマウス(n=6)の血清suPARおよび尿suPARの強力な増加を引き起こした。血清suPARレベルはLPS注射後24時間で大幅に増加し、48時間で減少するが、しかし対照と比べてなお有意に高い。LPS注射マウス24時間の時点 vs. PBS対照、およびvs. 0時間の時点の場合にP < 0.001。LPS注射マウス48時間の時点 vs. 0時間の時点の場合にP < 0.01。尿中、LPSによって誘導されたsuPARのレベルは、LPSから48時間後に高く、ピークに達した。LPS注射マウス48時間の時点 vs. 0時間の時点、およびvs. いずれかの時点でのPBS対照の場合にP < 0.001。LPSマウス24時間の時点 vs. 0時間の時点の場合にP < 0.01。野生型マウス由来の一方の腎臓を切除し、その後、Plaur
-/-の腎臓を移植した腎臓ハイブリッドマウスを作出した。これらのハイブリッドマウスは、外科手術後14日以内に完全に回復し、正常な腎機能および構造を有していた。次いで、ハイブリッドマウス5匹に単回低用量のLPSを注射して、suPARを刺激した; ハイブリッドマウス3匹に陰性対照としてPBSを注射した。24時間後、EM分析のために腎臓を切除した。陰性対照ハイブリッドマウスにおいて移植片にも自然腎にも正常なろ過障壁が存在していた。uPARの免疫組織化学から、自然野生型の腎臓の糸球体では低レベルのuPAR発現が、しかし移植Plaur
-/-腎臓ではそれがないことが示される。対照的に、LPSを注射したハイブリッドマウスは、自然野生型の腎臓でも移植されたPlaur
-/-の腎臓でもともに顕著な足突起消失を示す。PBSを注射したハイブリッドマウスは、自然野生型の腎臓の糸球体において低レベルのuPAR発現を示し、移植されたPlaur
-/-の腎臓ではそれがないことを示す。しかしながら、LPSを注射したマウスでは、免疫組織化学から、自然野生型の腎臓の糸球体において強力なuPAR発現が示唆される。興味深いことに、移植されたPlaur
-/-の腎臓において強力なsuPARシグナルも認められ、腎臓において内因的に誘導されたsuPARの沈着が示唆された。また、野生型腎臓でもPlaur
-/-でも顕著な有足細胞の足突起消失が認められた。Plaur
-/-マウスはLPS誘導性のタンパク尿および有足細胞消失から概ね保護されるので、Plaur
-/-移植片の有足細胞消失は、移植片における過剰な有足細胞β3インテグリン活性化に至る野生型宿主由来の沈着suPARによって最も良く説明される。
【0070】
循環血中suPARの持続的上昇はFSGS様糸球体症を引き起こす
第三に、マウスの血清suPARの持続的上昇が進行性糸球体症を引き起こすかどうか探索するために、皮膚からのsuPARの発現を推進する野生型マウスを遺伝子操作した。DIおよびDIIドメインを含有する分泌suPARに対する公知のコード配列に基づいて、マウスsuPARプラスミドを作出した。対照として、β3インテグリン結合欠損suPAR変異体を作出した。この変異体はドメインDIIに点突然変異を有し、これをE134Aと名付けた。プラスミドは、皮膚へのインビボエレクトロポレーションによりマウス皮膚へ送達された。マウスsuPARの両形態はエレクトロポレーション後に同じように十分に発現する。GFP-EIF1Bを陰性の結合対照として用いる。タンパク質の発現はFlagタグ付タンパク質に対してまたはGFPタグ付タンパク質に対して別々の免疫ブロッティングにより確認する。suPARが進行性糸球体疾患を誘導しうるかどうか調べるため、suPARのインビボ遺伝子送達を用いて、エレクトロポレーションされたマウスの血清中のsuPAR発現を増強した。血清および尿中のsuPARレベルはエレクトロポレーションから2日後に上昇し始めたが、これを、分析期間にわたる血中suPARレベルの持続的上昇のために週1回繰り返した。suPARの血清レベルは1週間後にピークに達する。7日目 vs. 0日目(最初のエレクトロポレーションの前)でP < 0.05。比較的、より多くのsuPARが尿中で認められる。7、14および28日目 vs. 0日目の場合にP < 0.001; 28日目 vs. 7日目の場合にP < 0.05。野生型suPARまたは対照となるsuPAR変異体E134Aについて血中または尿中suPARレベルの差異は認められない(各群でn=4)。
【0071】
アルブミンおよびクレアチニン測定のためsuPAR遺伝子送達の前および後に毎日、尿を回収した。マウス血清中のsuPARの上昇と一致して、アルブミン尿が誘導され、これが4週間の調査にわたって持続した。尿アルブミンは最初のsuPARエレクトロポレーション後7日目の時点で大幅に増加し、野生型suPARを発現するマウスでは14日目の時点でピークに達する。対照的に、E134Aを発現するマウスでは特筆すべきアルブミン尿は認められず、β3インテグリンへのsuPARの結合がsuPAR誘導性の腎傷害に重要な特徴であることを示唆している。7日目 vs. 処置前のsuPAR遺伝子操作マウスの場合にP < 0.05。14日目 vs. 処置前のsuPAR遺伝子操作マウス、またはvs. 7日目もしくは14日目のE134A処置マウスの場合にP < 0.01。
【0072】
5つの糸球体を各マウスから無作為に採取し、消失した突起で覆われている糸球体基底膜の長さを糸球体基底膜の全長に関連付けることによって足突起消失の程度を半定量的に評価する。野生型suPARで遺伝子操作されたマウスでは4週間後に重篤かつ広範な足突起消失が見られるが、変異体E134Aで遺伝子操作されたマウスでは特筆すべき消失は見られない。このように、糸球体疾患と一致した著しい足突起消失が、β3インテグリンを結合できるsuPARを発現するマウスでのみ有足細胞の超微細構造において顕著であった。suPAR誘導性の糸球体症がもっとMCDまたはFSGSのように挙動するかどうかを調べるために、光学顕微鏡検査および組織化学によって腎臓を分析した。腎臓形態の異常は、最初のsuPAR遺伝子過剰発現から早くも2週後に認められ、4週までに悪化する。H&EおよびPAS染色から、過形成を含む、進行性糸球体症の特徴が明らかとされ、メサンギウム拡張、メサンギウム融解およびまばらに存在する係蹄癒着が見られた。注目すべきは、分析されたマウスのいずれにおいても免疫複合体の沈着は検出されなかった。半定量的な組織病理学的スコアリングから、早期FSGSを思わせる進行性糸球体症に関する指標が明らかとされた。重要なことには、これらの変化は、β3インテグリン結合ができないE134A suPAR変異体を発現するマウスにはなかった(
図3)。
【0073】
疾患を引き起こすsuPARの影響をさらに調べるために、その作用をブロックした。高い血清suPARレベルを発現するように遺伝子操作されたマウスに、モノクローナル抗uPAR抗体を投与した。それらを4週まで2日おきにuPARブロッキング抗体で処置し、対照マウスには同量のアイソタイプIgGを投与した(各群n=4)。尿を両群から毎日回収し、総タンパク質およびクレアチニンについてアッセイした。タンパク尿の増大が、IgGアイソタイプ対照を投与された高い血清suPARを有するマウスにおいて見られたが、抗uPAR抗体の投与は、高い血清suPARによって誘導される腎疾患からマウスを保護した。アイソタイプ対照を投与されたsuPARマウス7日目の時点 vs. 最初のエレクトロポレーションの前0日目、またはvs. 抗uPAR抗体で処置されたマウス7日目の時点の場合にP < 0.05; アイソタイプ対照を投与されたsuPARマウス21日目の時点 vs. 0日目の時点、またはvs. 抗uPAR抗体処置マウス21日目の時点の場合にP < 0.01。4週の抗uPAR処置を受けたマウスでの腎臓の形態学的検査から、アイソタイプ対照抗体を投与された動物と比べて組織病理学的スコアの改善が示唆される(
図4)。H&EおよびPAS染色によって示されるように、抗uPAR抗体を投与されたsuPAR遺伝子操作マウスでは明白な腎傷害がない。対照的に、対照抗体を投与されたマウスは、野生型suPAR遺伝子操作マウスで認められたものに似た、初期段階のFSGSを思わせる顕著な腎臓損傷を示す。半定量的EM分析から、対照抗体を投与され、重篤な足突起消失を発現したsuPAR過剰発現マウスとは対照的に、抗uPAR抗体処置群において顕著に改善した有足細胞足突起構造(すなわち、限局的な消失だけ)が示される。測定された全GBM長に対する消失足突起の比率においてIgGアイソタイプ対照 vs. 抗uPAR抗体処置マウスの場合にP < 0.01。総合すれば、このデータから、suPAR作用の中和処理がsuPAR誘導性の腎傷害を改善しうることが示唆される。
【0074】
考察
本試験から、suPARは、FSGSを引き起こしうる循環血清因子であることが実証される。この結論は、小児FSGS患者および成人FSGS患者の集団での血清suPARレベルの上昇を示すヒト試験に基づいており、遺伝子操作suPARの過剰発現によってFSGSに特有の腎疾患を発症する動物モデルに基づいている。移植前の高い血清suPARレベルは、自然FSGSの存在と関連しており、また、移植後の再発性FSGSの著しく増大したリスクの一因となる。腎臓移植から1年後に、suPARレベルは、FSGSを再発させた患者では著しく上昇したままである。suPARと関連したFSGSによって引き起こされる傷害の機構は、有足細胞の足突起消失およびタンパク尿を起こすのに十分な事象である、有足細胞上のβ3インテグリンの活性化によるものである。suPARによって推進される有足細胞β3インテグリン活性のレベルは、個体の血清suPARの量に依り、おそらくまた、suPARの翻訳後修飾(すなわち、グリコシル化状態)に依り、全血清uPAレベルとは無関係であるように思われるが、これはある形態のがんでのsuPARとuPAとの間の結び付きとは対照的である。このように、循環血からsuPARを除去することによる発病の干渉により、suPARを介した有足細胞傷害から対象を保護することができる。suPARのレベルは、有足細胞β3インテグリン活性を低減することによって疾患発病を停止または緩徐化するのに十分なレベル(絶対量、循環血中の濃度、または別の血清タンパク質と比べた場合の相対量として測定される)まで低減されなければならない。
【0075】
腎臓移植後のネフローゼ症候群の再発に関する最初の臨床記述のときから、自然FSGSの場合にも移植FSGSの場合にも、循環血中の透過性因子/FSGS因子の存在を示唆する山のような証拠があった。Savinおよびその仲間らは、血漿交換によって除去されうる、FSGS患者での30〜50 kDaのグリコールタンパク質の存在を提唱していた。しかし分子特定および作用機序は、これまでに解明されていない。有足細胞によって産生された膜結合型uPARがFSGSにおいて誘導され、β3インテグリンを病理学的に活性化し、それによって足突起消失およびタンパク尿を引き起こすことを本発明者らが示したことに基づいて、候補手法を取り、FSGSにおける循環血中suPARの役割を調べた。移植前および移植後FSGSにおける高レベルの血清suPARを観察した後で、suPARの原因性か結果性かを探索できるマウスモデルを作出した。興味深いことに、FSGS患者血清中、22 kDaから45 kDaに及ぶ分子量を有する、異なるドメイン断片に対応した異なる形態のsuPARが見出された。これは、Savinらの研究から予測されたFSGS透過性因子の分子量範囲(30 kDa〜50 kDa)に近い。
【0076】
本試験は、移植の前および後のFSGSを有する患者でのFSGSリスクの測定可能な予測因子を提供する。現状では、FSGSを有する患者のおよそ75%がMN、MCDおよび子癇前症のような他の糸球体疾患と比べて上昇したsuPARレベルを有する。これは、MNでのホスホリパーゼA2受容体抗体およびMCDでのアンジオポイエチン様4またはc-mipに関連した既知の病理と一致する。suPARは健常ヒト対象および正常マウスの両方で検出可能であるため、生理学的suPARレベルまたは生理学的suPARドメインの組み合わせは、有害であるように思われない。しかしFSGS患者には、それらを疾患またはその再発にかかりやすくさせる他の要因が存在する可能性がある。別の興味深い問題は、suPARレベルの上昇がない少数のFSGS患者が、それでもなお、FSGSおよび再発性FSGSをどうして発症するのか?ということである。明白な答えは、suPARが有足細胞uPARと協調して作用し、これが、より高いsuPARレベルのない場合でさえもFSGSを推進しうるというものであろう。したがって、生理学的レベルを下回る対象の循環血中のsuPARレベルの低減が正当化されうる。
【0077】
方法
患者
FSGSを有する患者78人、微小変化型疾患(MCD)を有する患者25人、子癇前症を有する患者7人、膜性腎症(MN)を有する患者16人、および正常対照22人から血清を集めた。2組の一卵性双生児を含めたことに留意されたい。いずれの場合にも、一方が影響を受けなかったが、その双子の兄弟はFSGSを有していた。これらの患者を7箇所の異なる医療センターに登録した。試験は各参加センターの施設内倫理委員会によって承認された。移植FSGS患者の場合、移植時の年齢は非再発性FSGSで28.1±15.7歳、再発性FSGSで26.6±15.7歳であった。男性 vs 女性の比率は非再発性FSGSで16:8および再発性FSGSで15:15であった。全ての移植患者は免疫抑制の誘導および維持、ならびに移植前および移植後のケアを受けた(Renal Transplant Protocols, Royal Infirmary of Edinburgh, 4th Edition, 2007)。再発は、移植後の最初の30日間にスポット尿中タンパクとクレアチニンとの比が3.5 g/g超と定義された。移植の時点で自然腎タンパク尿を有する患者の場合、移植された腎臓にステントを置いて、移植片のタンパク尿を測定し、それから、2〜3週後に外来患者向け診療所でステントを除去した。
【0078】
PIA
2に対するITGB3遺伝子型決定
β3インテグリン多型PIA
2 (Leu33Pro)に対する遺伝子型決定は、既報(Salido et al., J. Am. Soc. Nephrol. 10:2599-2605, 1999)のように腎臓移植患者に対するドナーにおいて行われた。
【0079】
マウスモデル
Plaur
-/-マウスへの組み換えsuPARの注射
循環血中suPARが腎臓に沈着し、腎限外ろ過機能に影響を与えうるかどうか判定するため、漸増用量を静脈内注射した: 尾静脈を通じてPlaur
-/-マウス(雌性、20±2.0 g)に組み換えマウスsuPAR (R&D Systems) 2 μg、10 μgまたは20 μgを静脈内注射した。Plaur
-/-マウスは、もともと、75% C57BL/6および25% 129の混合型の系統にあったが、いずれの使用の前にも10世代にわたりC57BL/6マウスと戻し交配された。アルブミンおよびクレアチニン分析のため、注射前におよび注射後12時間ごとに尿を採取した。注射から24時間後に、Plaur
-/-マウスを殺処理し、免疫蛍光のために腎臓を瞬間凍結した。
【0080】
ハイブリッドマウス、移植、およびLPS媒介性suPAR放出
内因的に誘導されたsuPARが有足細胞傷害を引き起こしうるかどうか判定するため、交差腎臓移植を通じてハイブリッドマウスモデルを樹立した(n= 10)。右側の腎臓をPlaur
-/-マウスからひとまとめにして摘出した。このPlaur
-/-の腎臓をドナー腎臓と指定し、その一方で生来の右腎臓が切除された野生型マウスをレシピエントとした。それらは、糸球体中にベースラインレベルのuPARおよび血中に低レベルのsuPARを有していた。移植手術は、若干の修正を加えながら既刊のプロトコルにしたがって行われた(Coffman et al., J. Immunol. 151:425-435, 1993; Han et al., Microsurgery 19:272-274, 1999)。手短に言えば、麻酔下で、右側腎臓、尿管を、Plaur
-/-マウス(雌性、20±2.0 g)から幅の狭い動脈カフにより腎動脈を、および幅の狭い大動脈カフにより腎静脈を含め、ひとまとめにして摘出した(Han et al., 1999)。グラフトに10 U/mlのヘパリンを含有する冷乳酸リンゲル液0.5 mlを原位置でかん流させた。
【0081】
吻合は、端側縫合法を用いて血管カフとレシピエントの腹部大動脈および下大静脈との間でなされた。最後に、尿管の吻合のため、レシピエントの膀胱に21 gの注射針を突き刺し、尿管を引っ張り、尿管周囲組織を膀胱の外壁に縫い合わせた。腎臓移植片の生着率を動物の健康全般の毎日検査によって追跡し、移植片を血清クレアチニンおよび尿素窒素の測定によってモニターした。外科手術から14日後に、移植マウスのいずれにおいても拒絶反応は観察されなかった。
【0082】
外科手術から14日後に、動物2匹を光学顕微鏡検査および電子顕微鏡検査のために殺処理して、自然腎および移植腎の構造的完全性を分析した。ハイブリッドマウス5匹を10 mg/kg体重のリポ多糖類(LPS) (Sigma)で腹腔内処置して、血中suPARレベルを誘導し、その一方で、ハイブリッドマウス3匹に対照として同量のPBSを投与した。LPS処置から24時間後に、suPARの電子顕微鏡および免疫染色のため自然腎と移植腎の両方を切除した。
【0083】
部位特異的突然変異誘発
製造元のプロトコルにしたがいQuikChange (登録商標) II XL Site-Directed Mutagenesis Kits (Stratagene)を用いて部位特異的突然変異誘発を行った。マウスsuPAR cDNA (GenBankアクセッション番号BC010309)を保有するプラスミドを鋳型として用いた。DII中のsuPAR配列を変異させることを目的とした異なるプライマー対を作出した。部位突然変異誘発の後、新たに作出されたuPAR変異体をHEK細胞に、それぞれ、マウスβ3インテグリンプラスミドと同時にトランスフェクトした。次に共免疫沈降を行って、β3インテグリンとの異なるsuPAR変異体の結合能を調べた。β3インテグリンの結合で欠損が見られたsuPAR変異体(すなわち、E134A)を次いで、さらなる使用のために選出した。
【0084】
インビボ遺伝子送達およびエレクトロポレーション
suPARの持続的上昇が進行性糸球体疾患およびFSGSを引き起こしうるかどうか調べるため、マウスsuPARをコードするプラスミドを野生型マウスにおいて発現させた。麻酔下で、suPAR (ドメインDI-DII)をコードするプラスミド(PBS中40 μg)を、後肢へ皮内にかつ両側に注射し、引き続いてDerma Vax (商標) DNA送達システム(Cyto Pulse Sciences)でのインビボエレクトロポレーションを行った。対照のため、上記のように、β3インテグリンの結合で欠損のあったsuPARプラスミドE134Aで変異体マウスを作出した。遺伝子送達を最大6週まで週1回行った。分析のために各遺伝子送達の前後に血液および尿を採取した。毎週マウス4匹を腎臓の検査のために殺処理した。
【0085】
ブロッキング試験
suPARの影響をさらに確認するため、suPARインビボ遺伝子送達を受けているマウス4匹を無作為に選出し、モノクローナル抗マウスuPAR抗体(R&D Systems, 500 μg/kg)を投与し、その一方で、他のマウス4匹に同量のアイソタイプIgG対照を投与した。初めに、抗uPAR抗体を最初のsuPAR遺伝子送達から1日後に、引き続いて最大4週まで3日に1回投与した。尿を毎日採取し、最初の遺伝子送達から4週後に検査のために腎臓を摘出した。
【0086】
血清suPARおよびuPA測定
ヒト対象における循環血中suPARの濃度を、製造元のプロトコルにしたがいQuantikine Human uPAR Immunoassayキット(R&D Systems)によって定量化した。マウスsuPARを自家の酵素免疫測定法(ELISA)によって評価した(Tjwa et al., J. Clin. Invest. 119: 1008-1018, 2009)。血清uPAの濃度をIMUNBIND uPA ELISAキット(American Diagnostic)によって測定した。
【0087】
フローサイトメトリー
ヒト有足細胞に及ぼすβ3インテグリンの活性を定量化するため、フローサイトメトリーをFACScan機器にて行い、Cellquestソフトウェア(Becton Dickinson)で分析した。手短に言えば、完全に分化したヒト有足細胞を24時間ヒト血清(5%)またはsuPAR組み換えタンパク質で処理した。細胞をその後、培養プレートからかき集め、再懸濁した。AP5抗体(50分の1)を加え、室温(RT)で30分間インキュベートした。流動用緩衝液での十分な洗浄の後、細胞を20分間、二次抗体Alexa Fluor (登録商標) 488ヤギ抗マウスIgG (Invitrogen, 500分の1)とともにさらにインキュベートした。細胞を2%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、FACScan (Becton Dickinson)を用いて分析した。アイソタイプIgG1とともにインキュベートされた細胞を、陰性の染色対照として用いた。
【0088】
細胞培養およびトランスフェクション
条件的に不死化されたヒト有足細胞は、既述(Saleem et al., J. Am. Soc. Nephrol. 13:630-638, 2002)のように培養された。手短に言えば、有足細胞は、10% FBSおよび1%インスリン・トランスフェリン-セレン(Sigma)を含有するRPMI-1640培地(Invitrogen)中にて33℃で増殖かつ保持された。培養有足細胞をカバースリップ上に播種し、いずれかの処理の前に37℃の増殖制限温度で14日間分化させた。有足細胞に及ぼす異なる血清の効果を調べるため、慣用の有足細胞培地を除去し、4%ヒト血清を含有するRPMI-1640培地へ交換した。組み換えヒトsuPARタンパク質(R&D Systems)を1 mg/mlで用いた。uPAR-β3インテグリン経路の活性化による血清誘導性の細胞効果を調べるため、モノクローナル抗uPAR抗体(R&D Systems、1 mg/ml)およびシクロRGDfV (Biomol、1 mg/ml)、ανβ3インテグリン阻害剤をそれぞれ再発性FSGS血清とともに同時にインキュベートした。処理から24時間後、免疫蛍光標識化の前に4% PFAでヒト有足細胞を固定した。suPARおよびβ3インテグリンの相互作用を調べるため、ヒト胎児腎臓(HEK) 293細胞を、10% FBSを含有するDEME培地中にて37℃で培養した。90%の密集度にて、細胞にGFPタグ付またはFlagタグ付マウス膜結合型uPAR (Genbankアクセッション番号NM_011113)またはsuPAR (Genbankアクセッション番号BC010309)プラスミドを、マウスβ3インテグリン(Genbankアクセッション番号NM_016780)、翻訳開始因子をコードするGFP-E1F1B、およびリボ核タンパク質をコードするFlag-Raverを保有するプラスミドとともに同時にトランスフェクトした。PTB結合1 (PTB-binding 1)も同時にトランスフェクトして、その後の共免疫沈降試験のための陰性の結合対照とした。トランスフェクションを製造元の使用説明書にしたがい、リポフェクトアミン(商標) 2000 (Invitrogen)で行った。トランスフェクションから24時間後に、HEK細胞をさらなる使用のために収集した。
【0089】
免疫組織化学および免疫蛍光
培養ヒト有足細胞に及ぼすβ3インテグリンの活性を分析するため、固定された有足細胞を有するカバースリップをRTで30分間ブロッキング用緩衝液(5%ヤギ血清、5%ロバ血清) (詳細は細胞培養の項を参照のこと)とともに、その後、1時間AP5抗体(GTI, 50分の1)とともにインキュベートした。各3分間PBSでの3回の洗浄後、二次抗体Alexa Fluor(登録商標) 488ヤギ抗マウスIgG (Invitrogen, 1000分の1)を加え、45分間インキュベートした。次にカバースリップをPBSで洗浄し、5分間4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI, 3 mM, Invitrogen)でペルオキシダーゼ活性を目的に対比染色した。切片を脱水し、Bio Mount (Bio Optica)中で封入した。抗体標識化の特異性は、一次抗体の代わりにPBSおよび適切な対照免疫グロブリン(Invitrogen)を用いた後の染色の欠如によって実証された。
【0090】
マウス糸球体におけるuPARおよびβ3インテグリン活性の発現を調べるため、凍結切片をOCT包埋腎臓組織ブロックから切り出し、10分間、冷アセトン中で固定した。切片を30分間、ブロッキング用緩衝液とともに、その後、1時間、マウス(1分の1, uPARでの二重免疫染色の場合)またはウサギ(100分の1, AP5での二重免疫染色の場合)抗シナプトポジン抗体(Peter Mundel博士, マイアミ大学から頂いたもの)とともにインキュベートした。PBSで洗浄した後に、切片を1時間、ヤギ抗マウスuPAR抗体(R&D Systems, 50分の1)またはAP5抗体(50分の1)、引き続き45分間、2種の一次抗体に適合させた二次抗体の二つ組(Alexa Fluor(登録商標) 488およびAlexa Fluor(登録商標) 546, Invitrogen)とともにさらにインキュベートした。最後に、画像化のために封入する前に切片をPBSおよびH
2Oで連続的に洗浄した。Leica TCS SP5共焦点顕微鏡またはLeica DMI6000B蛍光顕微鏡によって画像を得た。
【0091】
ヒトにおける糸球体β3インテグリンの活性を調べるため、有足細胞に対して二重免疫蛍光染色を行った。腎臓組織を原発性FSGS (n=9)、移植後の再発性FSGS (n=6)、MCD (n=5)およびMN (n=5)の腎生検から得た。腫瘍を有する腎摘出済みの腎臓3例の健常極を対照として用いた。サンプルを4% PFA中で固定し、パラフィン中で包埋した。切片を切り出し、脱パラフィン化し、再水和し、その後、10 mMクエン酸緩衝液(pH 6.0)中でのマイクロ波照射により処理して、抗原を回復させた。その後、切片を0.5%アビジン(Sigma)および0.01%ビオチン(Sigma)とともにインキュベートして、内因性のアビジン結合活性を抑制し、3%過酸化水素とともにインキュベートして、内因性のペルオキシダーゼをブロックした。その後、切片を1時間、一次抗体AP5 (GTI, 50分の1)、二次ビオチン化ヤギ抗マウスIgG (Invitrogen)とともに、およびペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(Invitrogen)とともに連続的にインキュベートした。
【0092】
免疫沈降およびウエスタンブロット
本発明者らの刊行済みのプロトコルにしたがって(Wei et al., Nature Med. 14:55-63, 2008)共免疫沈降を行い、suPARとβ3インテグリンとの間の相互作用を調べた。手短に言えば、所望のGFPタグ付またはFlagタグ付プラスミドによるトランスフェクションから24時間後に、氷上にて30分間、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含有するRIPA緩衝液(Boston Bioproducts)中でHEK細胞を溶解させた。20分間14,000 rpmでの遠心分離の後、上清(すなわち、溶解物)を回収し、その総タンパク質濃度を測定した。約500 mgの総タンパク質を保有していた溶解物を次に、4℃で終夜、Flagビーズ、抗Flag M2アフィニティーゲル(Sigma)とともにインキュベートして、Flag融合タンパク質およびそのインタラクトームをプルダウンした。各10分間、RIPA溶解用緩衝液で5回洗浄した後に、Flagビーズを遠心分離によって収集し、NuPAGE LDSサンプル用緩衝液(Invitrogen)中に再懸濁し、10分間70℃でインキュベートした。短時間の遠心分離の後、溶出液(Flag融合タンパク質およびそのインタラクトームを含有する上清)を次いで、ウエスタンブロッティングのために回収した。
【0093】
ウエスタンブロッティングのため、溶出液、および共免疫沈降の投入対照としたHEK溶解物を電気泳動用のNuPAGE 4〜12%ビス-トリスゲル(Invitrogen)に負荷した。分離後、タンパク質をPVDF膜に転写した。膜を次に、RTで1時間または4℃で終夜5%ミルクによってブロッキングした後に、一次抗体の抗Flag (Sigma, 1000分の1)抗体または抗GFP (Abcam, 1000分の1)抗体とともにインキュベートした。トリス緩衝生理食塩水/0.2% Tween-20 (TBST)緩衝液中での十分な洗浄の後、膜を次いで、ヤギ抗マウス(Flagの場合10,000分の1)またはヤギ抗ウサギ(GFPの場合10,000分の1)二次抗体(Promega)とともにインキュベートした。最後に、ブロットを5分間、SuperSignal West Pico化学発光基質(Thermo Scientific)とともにインキュベートし、Kodakオートラジオグラフィーフィルム(Kodak)に露光させた。次に、Kodak X-OMAT 2000A処理装置(Kodak)を用いてフィルムを現像した。
【0094】
免疫沈降を用いて、ヒト血清中のsuPARの存在を判定した。反応ごとに、健常対象または再発性FSGS患者由来のヒト血清30 mlをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で500 mlの総量へ希釈し、4℃で1時間20 mlのプロテインA/G PLUSアガロースビーズ(Santa Cruz Biotechnology)とともにインキュベートした。遠心分離の後、ビーズを除去し、マウス抗ヒトuPAR (R&D Systems)抗体3 mgおよびプロテインA/G PLUSアガロースビーズ20 mlを上清に加えた。混合物を終夜4℃でインキュベートした後に、各10分間、PBSで5回洗浄した。次いで、以後、uPARプルダウンと呼ぶ上清を、LDSサンプル用緩衝液中に再懸濁し、プロテインA/G PLUSアガロースビーズから溶出させた。再発性FSGS患者血清中のsuPARの存在を検出するため、uPARプルダウンをNuPAGE 4〜12%ビス-トリスゲルに負荷し、PVDF膜に転写し、その後、ウサギポリクローナル抗ヒトuPAR抗体(Santa Cruz, 200分の1)でブロットした。血清suPARが遊離型であるか、またはアルブミンと結合しているかどうか知るために、uPARプルダウンをNuPAGE 4〜12%ビス-トリスゲルに負荷し、マウス抗ヒトアルブミン抗体(Abcam, 1000分の1)に対してブロットした。ヒト血清1 mlをヒトアルブミンに対する陽性対照として負荷した。逆免疫沈降の場合、ヒト血清を上記の抗ヒトアルブミン抗体によってプルダウンし、沈殿物をそれぞれ、ウサギ抗ヒトuPAR抗体(Santa Cruz, 200分の1)またはウサギ抗ヒトアディポネクチン抗体(Abcam, 1000分の1)で免疫ブロットした。
【0095】
透過電子顕微鏡検査、光学顕微鏡検査および組織化学
TEMはWeiら(2008)によって記述されているように行った。マウス腎臓組織は腎臓病医により既述のスコアリング系にしたがって盲検方式で検査およびスコア化された(Crowley et al., J. Clin. Invest. 119:943-953, 2009)。手短に言えば、固定された腎臓組織をパラフィン中で包埋し、切片にし、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)および過ヨウ素酸シッフ(PAS)で染色した。腎臓切片を糸球体、尿細管、血管および間質の異常の存在および重症度に基づいて類別した。半定量的尺度を用いて腎臓の病理学的異常の重症度を類別し、その中で0を異常なしとし、1+、2+、3+、および4+は、それぞれ、軽度、中等度、中重度、および重度の異常とした。各腎臓に対する組織学的スコアは、糸球体、尿細管、および間質に対する個々の評点に血管損傷または動脈狭窄の存在に対しての1点を加えて合計することによって得た。糸球体硬化症の割合は、切片中の糸球体の総数で除された、硬化症の証拠が有る糸球体の数と定義される。
【0096】
統計分析
統計分析は一元配置分散分析またはスチューデントの対応のあるもしくは対応のないt検定によって行われた。帰無仮説はP値0.05で拒絶された。特に指定のない限り、値は平均±標準偏差(S.D.)として提示されている。
【0097】
実施例2
本試験では、原発性FSGSの病因、治療反応性、および疾患進行に対して血清suPARの関与を評価した。小児および成人を含む、医学的に処置され、生検により確定診断された2つの異なる原発性FSGSコホートにおいて循環血中suPARを分析した。患者70人は北米に基づく無作為化FSGS臨床試験(FSGS-CT)に由来し、患者94人はステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の試験に向けた欧州に基づくコンソーシアム(PodoNet)に由来した。
【0098】
循環血中suPARレベルは対照の対象(5.4%)と比べて、FSGS-CT (84.3%)およびPodoNet (55.8%)コホートの両方におけるFSGS患者の大多数において著しく上昇していることが分かった(P < 0.0001)。FSGS-CT亜群において、血清suPARレベルは、サイクロスポリン処置患者では最小限に増加したが、しかしミコフェノレートモフェチル(MMF)患者では有意に減少した(5064 pg/ml ± 292 pg/ml vs. 4113 pg/ml ± 264 pg/ml、P < 0.01)。さらに、26週の処置にわたる血清suPARレベルの減少が、安定な完全寛解の達成と関連していた。PodoNetコホートにおいて、NPHS2変異に起因した家族性または遺伝性FSGS患者は、非遺伝性の症例よりも高いsuPARレベルを有していた。
【0099】
本試験では、suPARレベルが地理的かつ民族的に多様な患者において、ならびに遺伝性/家族性および非家族性のタイプのFSGSを有する患者間で上昇していることを示す。異なる治療計画によって経時的に誘導される循環血中suPARの変化および寛解状態との相関関係は、FSGSの発病におけるsuPARの役割を支持するものである。
【0100】
異なるFSGSコホートにおける循環血中suPARレベルの上昇
対照の対象110人、FSGS-CTコホート由来の原発性FSGS患者70人、およびPodoNetコホート由来の原発性FSGS患者94人において循環血中suPARを測定した(
図5)。対照の対象はPodoNet FSGS患者に年齢を適合させた。群内で性別分布の有意差はなかった。対照の対象と比べて、FSGS患者における血清suPARレベルは、両方のFSGSコホートにおいて著しく増加した(FSGS-CT vs. 対照、PodoNet vs. 対照、FSGS-CT vs. PodoNetの場合にP < 0.001)。異常な濃度を定義するために3000 pg/mlのカットオフ値を用いたところ、ベースラインの循環血中suPARレベルはPodoNetのFSGS患者の56%と比べてFSGS-CTのFSGS患者の84%において上昇した。平均suPARレベルは、PodoNetコホートにおけるよりもFSGS-CTコホートにおいて高かった(4588 pg/ml ± 203 pg/ml vs. 3497 pg/ml ± 195 pg/ml、P < 0.0001)。
【0101】
FSGS-CT患者の特徴
ベースライン(W01)時および26週(W26)の処置後に回収した血清から測定された循環血中suPARレベルを、人口統計学的変数および血清クレアチニン、血清アルブミン、推算糸球体ろ過量(eGFR)、またはタンパク尿(Up/c)との相関関係について分析した。分析された変数にはW01時のsuPARレベルについて予測的であると思われるものがなかったが、ベースラインおよび26週の両時点での血清アルブミン、ならびに26週時のUp/cは26週時のsuPARレベルと相関していた(
図6)。
【0102】
循環血中のsuPARレベルに及ぼす処置の効果を探索するために、試験のCSAまたはMMF/デキサメタゾン治療群のどちらかに無作為に割り当てられた患者においてサンプルを分析した。ベースライン時、2つの治療群の間には、サンプリング時の年齢、疾患発症時の年齢、性別、人種、タンパク尿、血清アルブミン、血清クレアチニンまたはeGFR (
図7)の差異も、単変量解析による循環血中suPARレベルの差異もみられなかった。しかしながら、26週後に、suPARレベルは試験のMMF治療群におけるものよりもCSA治療群において有意に高かった(P < 0.01)。ベースラインから26週までの変化を調べた場合、suPARレベルはCSA治療群において増加したが、しかしMMF治療群において減少し、2つの治療群間のsuPARレベルの変化は有意であった(P < 0.05)。2群間のベースラインから26週までのsuPARの変化と一致して、CSA治療群と比べMMF治療群に割り当てられた患者ではUp/c (P < 0.05)および血清クレアチニン(P < 0.001)の有意に大きな減少も認められた。
【0103】
FSGS-CT患者の臨床転帰は、26週の時点で完全寛解を達成したなら有益と考えられた。サンプルがsuPAR分析に利用可能な、FSGS-CTコホートにおける患者70人のうち、処置にかかわらず26週の時点で9人が完全寛解を達成した。suPARレベルの有意な全体的変化はなかったが、suPARは、52週の時点でタンパク尿が再発した4人の患者においてベースラインから26週まで明らかに増加し、しかし一方でsuPARレベルは、少なくとも6ヶ月間、安定寛解を達成した5人の患者において減少した。52週の時点で完全寛解を達成した患者において同じ傾向が認められた。
【0104】
治療に応じた循環血中suPARレベルの変化をさらに探索するために、患者を、血清suPARがベースライン時に上昇したが、しかし26週の処置後に3000 pg/ml未満まで下がった応答者、およびsuPARが26週の処置後に高い(3000 pg/mlまたはそれ以上の)ままであった非応答者に階層化した。全体で、応答者は9人: MMF治療群由来の6人およびCSA治療群由来の3人が存在した。ベースライン時に応答者と非応答者との間でUp/cの差異はなかった。しかしUp/cはsuPAR応答者の場合に処置の始め(6.43 ± 1.84)から終わり(0.33 ± 0.15、P < 0.001 vs. ベースライン)までずっと劇的に減少し、78週(0.61 ± 0.25、P < 0.001 vs. ベースライン)まで安定化したが、suPAR非応答者の場合には40%未満減少した(ベースライン時で4.95 ± 0.49 vs. 処置の終わりの時点で3.06 ± 0.62、P < 0.001)。
【0105】
FSGS CTコホートにおいて、suPARレベルについて分析された患者のいずれも、NPHS2、INF2またはPLCE1において疾患を引き起こす遺伝子変異を有していなかった。
【0106】
PodoNet FSGS患者の特徴
PodoNetコホートにおいて、重回帰分析により、循環血中suPARレベルは血清クレアチニン(P < 0.01)およびeGFR (P < 0.05)と相関していたが、しかしタンパク尿と、または疾患発症時の年齢、サンプリング時の年齢と、またはPodoNetコホートにおける性別と相関していなかったことが示された。相当数の家族性の症例またはFSGS患者で規定の遺伝子変異(NPHS2)が有ったので、このコホートを2つの亜群、家族性/遺伝性FSGS vs 非遺伝性FSGSにさらに階層化した(
図8)。2つの亜群間で疾患発症時の年齢、サンプリング時の年齢、性的衰弱、eGFR、または血清アルブミンおよびクレアチニンレベルに関する差異はなかった。しかしながら、タンパク尿は家族性/遺伝性の亜群においていっそう高かった。興味深いことに、循環血中suPARレベルは、原発性FSGSの非遺伝性の症例におけるレベルと比べた場合に、家族性または遺伝性FGSSの群において有意に高かった(P < 0.05)。
【0107】
患者をCSAまたはMMF治療のどちらかに無作為に割り当てた、FSGS-CTとは対照的に、PodoNetにおける処置は主治医の裁量に委ねられた。この分析の目的で、患者を、血液サンプリングの時点で投与された薬物: MMFまたはカルシニューリン阻害剤にしたがって分類した。
図9では、MMFを投与された患者および投与されなかった患者の特徴を分析している。全体として、2群の間で、その人口統計学的特徴または検査室測定(例えば、タンパク尿、血清アルブミン、eGFRおよび血清クレアチニン)に基づき有意差はなかった。しかしながら、循環血中suPARレベルは、MMF処置群において有意に低かった(P < 0.05)。同じパターンは、他の薬物を投与された患者と比べて、MMFおよびプレドニゾンを投与された患者において認められた。対照的に、CSAを投与された患者とCSAをとらなかった患者との間でsuPARレベルの差異は認められなかった。最後に、循環血中suPARレベルは、CSAおよびプレドニゾンを投与された患者でのそれと比べて、MMFおよびプレドニゾンを投与された患者で有意に低かった(P < 0.05)。
【0108】
考察
原発性FSGSにおいてはsuPARレベルの上昇が見られる。suPARは糸球体に侵入し、有足細胞の足底板のβ3インテグリンに結合し、それを活性化して、足突起消失およびタンパク尿を引き起こしうる。本発明者らは、以下と結論を出した: (1) 循環血中suPARレベルは2つの異なるコホートでの原発性FSGSを有する患者の大多数において著しく上昇していた; (2) MMF治療は経時的な血清suPARの減少と関連していた; (3) FSGS-CTでの26週の処置にわたるsuPARレベルの減少は、臨床的に安定した完全寛解と関連していた; および(4) 原発性FSGSを有する患者において、suPARレベルは家族性の症例または規定のポドシン変異を有する患者において有意に高かった。
【0109】
本試験の主要な長所は、広範囲にわたる民族性および人種的背景を有する患者の多数の不均質サンプルでの血漿中suPARレベルの測定である。患者は処置に対する応答および腎臓機能に関する情報で多型的に(phenol-typically)よく特徴付けられた。さらに、PodoNetコホートには、FSGSの遺伝的原因を有するかなり多くの患者サブセットが含まれる。循環血中の一貫して高いレベルのsuPARは、原発性FSGSの全ての形態の発病におけるこの分子の潜在的枠割を強調するものである。
【0110】
3000 pg/ml以上のカットオフ値を用いると、suPARレベルは、これらの2つの異なるコホート中のFSGSを有する患者の56〜84%で上昇していた。したがって、高レベルの血清suPARは、FSGSの症例の大多数において特有の特徴である。FSGS-CTコホートとPodoNetコホートとの間の平均suPARレベルおよび異常に高い濃度を有する患者数の差異は、欧州群の若年齢ならびに人種差および民族差を反映している可能性がある。PodoNetコホートの女児は、男性患者よりも高いsuPARレベルを有していた。性差は、suPARレベルの上昇を詳述した別の試験においても実証されている。米国のFSGS-CT患者では認められなかったこの現象は、さらなる試験を正当化するものである。薬物治療中の患者および腎臓移植を受けた患者を含む不均質な原発性FSGS患者の混合体から構成される本発明者らの以前の報告からの所見と同様に、本試験は、血清suPARレベルの上昇がタンパク尿の存在と相関しているが、しかしタンパク尿の量とは相関していないことを示す。FSGS-CTコホートにおいて、ベースライン時の循環血中suPARレベルは、分析された変数のいずれとも相関していなかった。対照的に、26週時のsuPARは26週時の血清アルブミンおよびUpcと相関していた。これは、処置に応じた循環血中suPARレベルの変化がFSGS疾患の経過およびプロセスの根本にある原因を反映しうることを示唆する。これは、処置の最初の6ヶ月以内に3000 pg/ml未満までsuPARレベルが明らかに減少することが、その後の12ヶ月間に達成される実質的な寛解を予測するものであったという観察によって裏付けられる。後者のシナリオでは、suPAR値は、同様にFSGS疾患活動性のバイオマーカーとして有用になる可能性がある。
【0111】
2つの異なる原発性FSGSコホートに関する本試験から、suPARレベルの連続的測定は処置に対する応答の有用なバイオマーカーになりうることが示唆される。治療の性質およびタイミングがsuPAR測定のための血液サンプリングと連動していなかったPodoNetコホートとは異なり、FSGS CTは、異なる処置の効果を評価するまたとない機会を提供した。というのは、血清および血漿標本がMMFまたはサイクロスポリンAによる処置の前におよびその処置の26週後に得られていたからである。この知見から、MMF治療が、血清suPAR濃度を増加させたカルシニューリン阻害剤とは対照的にsuPARレベルの著しい低下と関連していたことが示唆される。これは、MMFで処置された患者がカルシニューリン阻害剤治療で処置された患者よりも有意に低いsuPARレベルを示したPodoNetコホートからの横断面データによって支持される。これらの所見から、カルシニューリン阻害剤は、FSGSを有する患者において有益な効果を及ぼしうるが、MMFは、循環血中因子を産生する細胞に対して異なる生物学的効果を及ぼしうることが示唆される。これは、この2種の作用物質が異なる治療標的を有し、糸球体疾患の処置において相乗的に作用しうる可能性を高める。
【0112】
原発性FSGSの遺伝的症例と非遺伝的症例との間の発病および処置応答の関係および臨床的差異は、長い間、議論の主題であった。遺伝性FSGSでは、また、移植後の再発が起こりうると報告されている。NPHS2変異を有するFSGS患者の試験において、Caridiらは、タンパク尿の再発の可能性および血漿交換に対する応答性を含めてこれらの患者の移植後転帰が、古典的な特発性FSGSと同様であったことを見出した。それらの試験から、NPHS2変異を有するFSGS患者においても、遺伝的原因がない患者においても循環血中の透過性因子が存在する可能性があることが示唆された。実際に、同グループは、血清中の糸球体透過性因子(Palb)に対する常染色体劣性SRNS (NPHS2)を有する患者5人をさらに分析し、特発性FSGSにおいて認められた値と同等の、全症例での高い移植前Palbを見出した。それらはまた、移植後のタンパク尿が高いPalbと関連しており、いずれも血漿交換によって減少されうることを見出した。PodoNetコホートでは、循環血中suPARレベルが家族性FSGSおよび立証されたNPHS2変異を有するFSGSにおいて有意に高かった。本試験から、suPARが、根底にある遺伝的変化(例えば、NPHS1およびTRPC6におけるFSGS関連変異)に重ね合わされる共通のFSGS因子でありうることが示唆される。
【0113】
結論として、原発性FSGSにおける循環血中の透過性因子としてsuPARが初めて同定されたことに続いて、2つの異なるFSGSコホートに関する本試験から、循環血中レベルの高いsuPARが、原発性FSGSを有する患者の大多数における特徴であることが確認される。さらなる試験が正当化されるが、本試験から、FSGS疾患進行および/または応答性の独立したバイオマーカーとしてのsuPARの潜在的なさらなる役割が示唆される。
【0114】
方法
FSGS臨床試験(FSGS-CT)コホート
FSGS-CTは、サイクロスポリン(CSA)の効果をミコフェノレートモフェチル(MMF)およびデキサメタゾンの組み合わせと比較した無作為化比較対照試験である。主要な試験対象患者基準は、年齢2〜40歳、1.73 m
2あたりeGFR > 40 ml/分、生検により確定診断されたFSGS、およびコルチコステロイド治療に対する抵抗性であった。除外基準には、二次性FSGS、肥満、または従前の実験的治療が含まれた。アンギオテンシン変換酵素阻害剤に寛容でなかった者において、全ての対象がリシノプリルまたはロサルタンを投与された。対象は52週間、処置された。主要転帰は、試験薬物による52週の積極的処置後の最初の朝の尿サンプルにおいて尿中タンパク質/クレアチニン比(Up/c) < 0.2と定義されるタンパク尿の正常化であった。主な二次転帰は72週時、つまり試験薬物の中断後6ヶ月のタンパク尿のレベルに基づいていた。対象は処置期間の間、11回受診し、各来院時に、血圧を測定し、血液および尿を採取して、血清クレアチニン、eGFR、アルブミン、コレステロール濃度、およびタンパク尿を測定した(Gipson et al., Kidney Int'l 80:868-878, 2011)。ベースライン(W01)および処置26週(W26)の時点で採取した血清サンプル(各治療群でn = 35)をsuPAR測定のために、NIDDK Biorepositoryから回収した。
【0115】
PodoNetコホート
PodoNetは、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群(SRNS)の臨床的、遺伝的、および実験的試験のためのコンソーシアムである。試験対象患者基準は、参加医療センターの管理プロトコルに基づいてSRNSを有する小児(年齢0〜18歳)および家族性SRNSを有する成人である。本試験に含まれた患者は、生検により確定診断されたFSGSを有していた(n = 94)。対象の処置は、その主治医によって臨床的に判定され、管理された。
【0116】
対照の対象
血漿サンプルは、年齢が0〜18歳であった、110人の健常な白人の小児および青年(女性 = 55人)から入手できた。これらの対象はRostockの小学校もしくは高校から、および独国のRostock大学医学部から登用された。小手術の前にまたはてんかんおよび起立性の病状のような非炎症性疾患に続いて鑑別診断のために大学小児病院Rostockに来院していた小児も適格とした。登録時に成長障害、新鮮骨折または栄養不良の既往歴、急性感染症、C反応性タンパク質(5 mg/l以上)またはクレアチニン(2 SD以上)の血清中濃度の上昇を有する小児、ならびに代謝障害、慢性炎症性疾患、および腎疾患または肝疾患を有する小児は除外した。試験は病院倫理委員会(HV-2009-003)により承認され、適切な場合、親および/または参加者からインフォームドコンセントを得た。血清およびEDTA-血漿を分割し、次に、後で分析するために-80℃で貯蔵した。最初の試験には健常な成人対照におけるsuPARレベルを含めた。
【0117】
血清suPARアッセイ法
血清suPARの測定は、QuantikineヒトuPAR免疫アッセイキット(R&D Systems)を用いて行った。
【0118】
統計分析
患者および対照の対象の人口学的および臨床的特徴は、カテゴリー変数の場合にはχ
2試験および連続型変数の場合にはスチューデントのt検定を用いて比較した。循環血中suPARと他の変数との重回帰分析は、SPSSで行われた。データは平均±標準誤差(SEM)として表された。全ての統計的検定は両側とし、P < 0.05を有意と見なした。
【0119】
実施例3
巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、罹患個体のおよそ3分の1で腎臓移植後に再発し、同種移植片喪失をもたらしうる。有足細胞の超微細構造変化に及ぼすsuPARの影響を、再発性FSGSまたは新規FSGSの間に調べた。有足細胞構造に及ぼす治療の影響を判定した。
【0120】
後ろ向き試験は、腎移植を受け、再発性FSGSまたは新規FSGSを発症した成人25人について単一施設で行われた。組織病理学的変化を再調査したところ、suPARは超微細構造的な有足細胞変化と相関していた。それらの臨床経過および有足細胞消失に及ぼす治療の効果を評価した。
【0121】
ベースライン時の同種移植片生検から、光学顕微鏡検査上でFSGSと一致する変化を有する対象は5人しか示されず、有足細胞消失度は15%から100%に及んだ。平均(± SD)の処置前suPARレベルは、重度の足突起消失(75%以上)を有する者の間で、軽度の足突起消失(25%未満)を有する者よりも高かった(それぞれ11,773 pg/ml ± 5,595 pg/ml vs. 5,070 pg/ml ± 1,277 pg/ml; P = 0.02)。中央値21 (IQR: 10〜23)回の血漿交換セッションを施した。患者12人がリツキシマブを投与された。応答者の間で、平均の血清クレアチニンは3.1 mg/dl ± 2.5 mg/dlから1.9 mg/dl ± 0.6 mg/dlまで改善した(P = 0.048)。平均のタンパク尿は5.3 g/g ± 5.9 g/gから1.6 g/g ± 1.6 g/gまで低下し(P = 0.01)、平均の足突起消失は54% ± 35%から23% ± 23%まで減少した(P = 0.007)。
【0122】
FSGS移植後の最初の病理学的兆候は、有足細胞の足突起消失である。消失度は処置前suPARのレベルに密接に関連している。治療に対する応答によって足突起消失が改善される。
【0123】
参加者の人口学的および臨床的特徴を表3に示す。FSGS診断までの時間の中央値は、腎臓移植後48日(4日から350日までの四分位範囲(IQR))であった。処置の前に、20人(80%)のレシピエントが1.73 m
2あたり60 ml/分未満のeGFRを有していたが、13人(52%)が3 g/gまたはそれ以上のタンパク尿を有していた。平均追跡調査期間は16.0ヶ月±20.1ヶ月であった。平均±標準偏差(SD)。
【0124】
(表3)人口学的および臨床的特徴(n=25)
【0125】
対象24人が、利用可能なベースライン時(移植後FSGS診断時)腎生検を受けていた; 対象17人では生検を血漿交換の開始前に実施し、6人では治療の開始直後(処置開始後5日平均、範囲: 3〜9日)に実施し、ベースライン時の足突起消失度の評価を行った; 個体1人は腎生検を受けておらず、別の1人は血漿交換治療を受けていなかった。ベースライン時の腎生検で、対象のうちの5人が光学顕微鏡検査でのFSGSと一致して組織病理学的変化(分節状硬化およびヒアリン沈着)を有し、19人が初回生検において光学顕微鏡検査でいずれのFSGS変化も有していなかった; 足突起消失は15%から100%に及んだ。個体22人で治療後の追跡調査が行われた; 光学顕微鏡的変化を有した対象のうちの4人は、同じ変化を有し続け、1人は光学顕微鏡検査でいずれのFSGS変化も有していなかった。しかし、さらに4人の対象が治療後の追跡調査生検で光学顕微鏡的変化を起こし、それらのうちの3人は治療に応答せず、再発の直後にその同種移植片を失い、1人は治療に対してごく部分的な応答を有したが、1年後に同種移植片を失った。
【0126】
処置前suPARレベルは、段階的様式で足突起消失の重度と有意に相関していた(表4)。平均suPARレベルは、重度の足突起消失を有する者の間で、軽度の足突起消失を有する者よりも2倍超高かった(それぞれ11,773 pg/ml ± 5,595 pg/ml vs. 5,070 pg/ml ± 1,277 pg/ml; P = 0.02)。
【0127】
(表4)ベースライン時の腎臓生検(n=14)での消失度に基づいた平均の処置前suPARレベル
*平均差のP値 = 0.02
【0128】
血漿交換(PXP)による処置は、タンパク尿の発症または悪化によるFSGSの再発または新規の顕在化の時点で始めた。対象は中央値21回の血漿交換セッション(IQR: 10〜23)を完了した。対象12人が血漿交換に対して抵抗性であり、補助的なリツキシマブ注入を受けた。対象8人(32%)が完全寛解し、個体さらに12人(48%)が部分寛解を達成した。処置(表5)により、全体平均の血清クレアチニンが3.1 mg/dl ± 2.3 mg/dlから2.1 mg/dl ± 1.2 mg/dlに改善し(P = 0.07)、平均eGFRが1.73 m
2あたり35.6 ml/分 ± 19.4 ml/分から46.0 ml/分 ± 24.3 ml/分に改善した(P = 0.01)。さらに、応答者の間で、血清クレアチニンが3.1 mg/dl ± 2.5 mg/dlから1.9 mg/dl ± 0.6 mg/dlにさらに低下した(P = 0.48)。
【0129】
(表5)処置前-処置後全体の腎パラメータの変化
【0130】
完全寛解または部分寛解を達成した者(表6)のなかで、平均のタンパク尿は処置後5.3 g/g ± 5.9 g/gから1.6 g/g ± 1.6 g/gに有意に低下した(P = 0.01)。対照的に、処置に応答しなかった個体は、4.2 g/gから17.0 g/gに及ぶ、持続性タンパク尿を有していた。これらの臨床パラメータの改善は、足突起消失で認められた変化と相関していた。その変化では、完全寛解または部分寛解を達成し、1人だけが光学顕微鏡検査でFSGSを発症していた対象において54% ± 35%から23% ± 23%までの減少があった(P = 0.007)。
【0131】
(表6)応答者における処置前-処置後の腎パラメータの変化
【0132】
考察
本試験は、腎移植後の再発性FSGSまたは新規FSGSの処置前の循環血中suPARのレベルが、FSGS診断時の腎同種移植片における有足細胞の足突起消失の重度と有意に相関することを実証する。第二に、本発明者らの試験は、腎同種移植片における再発性FSGSおよび新規FSGSの初期病理所見が、電子顕微鏡検査によって検出された、有足細胞の足突起消失であり、これは光学顕微鏡的変化がない場合であっても軽度(25%以下)から重度(75%以上)、場合によっては完全な消失に及びうることを立証した。第三に、本発明者らは、リツキシマブの有無にかかわらず血漿交換に対する完全応答または部分応答が、有足細胞の足突起消失の顕著な改善をもたらすことを実証した。
【0133】
本発明者らのデータは、FSGSにおけるsuPARの最近発見された役割に及ぶ。Weiおよびその仲間らによる試験で、原発性FSGSを有する対象のおよそ3分の2が、健常対象および他の原発性ネフローゼ症候群を有する対象と比べて有意に上昇した濃度のsuPARを有していた。さらに、腎移植後にFSGSの再発を起こし始めたFSGSを有する対象の間で、最も高い移植前suPARレベルが顕著であった。本発明者らの試験は、腎移植後に再発性FSGSまたは新規FSGSを有するレシピエントの間で、suPARレベルがヒトでの有足細胞構造の超微細構造変化と相関することを実証することにより、これらの所見を推し進める。
【0134】
さらに、本発明者らの所見から、FSGSの再発リスクを予測するためにおよび腎同種移植片における有足細胞の、起こりうる損傷の量を推定するために、suPARレベルを測定することの潜在的重要性が実証される。実験マウスモデルに基づくと、足突起に及ぼすsuPARの影響は、有足細胞上に発現されたβ3インテグリンの結合および活性化によるものである。しかしながら、リツキシマブの有無にかかわらず血漿交換に対する応答のばらつきに照らし合わせると、レシピエントまたは同種移植片の腎臓でのβ3インテグリンをコードする遺伝子(ITGB3)がまた、再発性FSGSおよび処置に対する応答と予後的な関わりを有するかどうかを判定するために、前向き試験が必要とされる。また、血漿交換およびリツキシマブによって誘導される足突起消失の改善が循環血中suPARレベルの減少と同時に進行しているかどうか立証されておらず、循環血中suPARレベルの低減を達成する際にどの処置戦略が優れているかを立証する必要がある。
【0135】
再発性FSGSにおける最速効性の所見が、足突起消失であることを示唆しているものもある; しかしながら、これを確認する臨床データは限られている。いくつかの症例報告から、再発性FSGSを有する腎移植レシピエントにおいて足突起消失が示されているが、1例でのみ、死亡したドナーの腎臓移植後にFSGSの即時再発のあった単一患者で治療の設定前の電子顕微鏡検査での変化が報告されている。この報告のなかで、移植後1時間の移植片生検から、電子顕微鏡検査で部分的な足突起消失を伴う軽微な糸球体異常が示された。持続性タンパク尿に対する3ヶ月時のプロトコル生検から、光学顕微鏡検査の下で明らかなFSGSが示された。1年後の腎同種移植片生検から、足突起消失の回復、しかし全硬化の増大が示された。本発明者らは、再発性疾患のリスクが高いFSGS患者における再かん流後生検での足突起消失度から移植後の再発性タンパク尿が予測されうることを最近報告したが、これらのデータは、FSGSを有する成人患者を含めて異なる集団において認証される必要がある。
【0136】
本発明者らの試験は、腎移植後の再発性FSGSでの最も早い検出可能な変化が足突起消失であることを確認し、再発性FSGSの早期診断および処置が足突起消失、ならびに同種移植片の腎機能およびタンパク尿のような臨床的腎パラメータの改善または回復をもたらしうることを実証している、これまでで最大の症例シリーズに当たる。
【0137】
要約すれば、本発明者らは、処置前のsuPARレベルが移植後FSGS診断時の有足細胞の足突起消失の重度と関連していたことを実証する。さらに、本発明者らは、電子顕微鏡検査によって検出される有足細胞の足突起消失が腎臓移植後のヒト再発性FSGSおよび新規FSGS中の最初の超微細構造変化であることを立証する。さらに、リツキシマブの有無にかかわらず血漿交換に対する完全なまたは場合により部分的な応答が、足突起消失の完全なまたは部分的な回復をもたらした。これらの所見は、腎移植の前または後のsuPARレベルの低下によってFSGS再発が阻止されるかどうかを判定するための前向き試験の必要性、ならびにその他のレシピエントおよびドナーの要因がFSGS再発のリスクに影響を与えるかどうかを判定するためのさらなる試験の必要性を強調するものである。さらに、本発明者らの試験は、また、治療応答をモニターするための、および適切な治療期間を決定するための電子顕微鏡検査での変化の役割を評価する必要性を支持するものである。
【0138】
方法
試験デザインおよび母集団
本発明者らは、2003年1月1日から2011年12月31日までの間に腎移植を受け、かつ単一の三次病院での腎臓移植後に再発性FSGSまたは新規FSGSを発症した全成人の腎移植レシピエントの後ろ向き観察試験を行った。本発明者らは、年齢18歳およびそれ以上の腎移植レシピエント105人を特定した。93人が自然腎の生検により確定診断されたFSGSを有し; 12人が可能性の高いFSGS診断を有していた。個体25人が腎移植後に新規FSGS (n=4)および再発性FSGS (n=21)を発症した。再発性FSGSは、腎移植の前に無尿であった個体(無尿8人および不明2人)でのタンパク尿(1 g超/24時間)の存在または腎移植の前に無尿でなかった個体(n = 15)間でのタンパク尿の悪化によって定義された。新規FSGSは、ESRDの主因がFSGSによるものではなかったレシピエントでの腎移植後のタンパク尿の新たな発症と定義された。診断は、処置開始前または処置開始14日以内に得られた同種移植片生検での有足細胞の足突起消失の存在によって確認された。本試験は、ジョンズ・ホプキンス大学医学部の施設内倫理委員会によって承認された。
【0139】
データ収集
社会人口学的および臨床的データは、腎移植時から腎移植後3年または利用可能な最後の臨床追跡調査までダブルデータ入力を用いて患者の医療記録から抽出された。収集されたドナーの臨床的特徴には、ドナーの生命状態、レシピエントとの関連性、およびレシピエントとのABO型適合性が含まれた。レシピエントの臨床的特徴には、FSGS診断時の年齢、ESRDの主因、従前の腎移植数、透析を受けている者の間での期間、血清クレアチニンおよび尿中タンパク質とクレアチニンとの比によって定義されるタンパク尿が含まれた。糸球体ろ過量(eGFR)は、年齢、性別、および人種を調整するCKD-Epi方程式を用いて推定した(Levey et al., Ann. Intern. Med. 150:604-612, 2009)。レシピエントは血漿交換で処置された。持続的に顕著なタンパク尿を有する者には、1回または2回のリツキシマブ注入も行った。完全応答は、処置過程の完了時におよび/または利用可能な最後のタンパク尿定量化により1 g/g未満までのタンパク尿の減少によって定義された。治療に対する部分応答は、処置の終了時に、ピークのタンパク尿レベルから50%だけのタンパク尿の低下、しかし処置の終了時にタンパク尿が1 g/gまたはそれ以上残存している状態と定義された。腎臓の病理組織は、腎臓病理学者により、光学顕微鏡検査、免疫蛍光および電子顕微鏡検査を用いて評価された。有足細胞の足突起消失度は、生検報告、ならびに最初の生検報告に盲目とされた第2の腎臓病理学者による電子顕微鏡検査の二次評価およびレシピエントの転帰に基づいていた。次に、これらの2つの評価を平均化して、平均の有足細胞足突起消失を得て、これを25%未満(軽度)、25%〜74% (中等度)、および75%またはそれ以上(重度)に分類した。ベースライン時の電子顕微鏡検査結果は、治療の開始の前または直後に行われた腎生検から得られた。処置後の足突起消失は、血漿交換セッションの完了後にまたは難治例ではリツキシマブ注入後に行われた腎生検から評価された。処置開始の前に貯蔵血清が利用可能なレシピエントの間で、suPARレベルが、マイアミ大学医学部で製造元のプロトコルにしたがいQuantikineヒトuPAR免疫アッセイ(R&D Systems)を用いて測定された。
【0140】
統計分析
記述的分析を行って、レシピエントのベースライン時の社会人口学的および臨床的特徴の分布を評価した。Kruskal-Wallis検定を用いベースライン時の足突起消失の3つのカテゴリーにわたって処置前の平均suPARレベルを比較した。次に、対応のあるスチューデントのt検定を用いてベースライン時から処置後までの平均の有足細胞消失、腎臓機能、タンパク尿、およびsuPARレベルの変化を評価した。これらの比較は、全試験母集団を用いて行われ、その後、処置に対する部分応答または完全応答を達成したレシピエントだけに制限された。全ての統計分析は、Stata/MPバージョン11.2 (StataCorp)を用いて行われた。
【0141】
特許、特許出願、および本明細書において引用される他の刊行物は、その全体が参照により組み入れられる。
【0142】
添付の特許請求の範囲の意図およびその法的な等価物の範囲のなかに入る全ての修飾および置換は、その範囲内に包含されるべきである。接続部「含む(comprising)」を用いた請求項は、該請求項内にあるその他の要素の包含を許容し; 本発明は「含む」という用語の代わりに接続句「から本質的になる(consisting essentially of)」(すなわち、本発明の運用に実質的に影響しない場合に請求項内にあるその他の要素の包含を許容する)、および接続部「からなる(consisting)」(すなわち、本発明に通常関連する、不純物または取るに足らない作用以外の請求項に記載された要素のみを許容する)を用いたそのような請求項によっても記述される。本発明を主張するために、これらの3の接続部のいずれを用いることもできる。
【0143】
本明細書に記述された要素は、添付の特許請求の範囲に明記されていない限り、主張される発明の限定と解釈されるべきではないと理解されたい。したがって、添付の特許請求の範囲は、添付の特許請求の範囲に読み込まれる明細書からの限定ではなく、授権される法的保護の範囲を決定するための基礎となるものである。対照的に、先行技術は、主張される発明に先んじるまたは新規性を失わせる特定の態様の程度まで、本発明から明確に除外される。
【0144】
さらに、添付の特許請求の範囲の限定の間の特定の関係は、このような関係が添付の特許請求の範囲に明記されていない限り、意図されていない(例えば、物に関する請求項における構成成分の配置または方法に関する請求項における段階の順序は、そうであることが明確に述べられていない限り、該請求項の限定ではない)。本明細書において開示される個別の要素の全ての可能な組み合わせおよび順列は、本発明の局面であるものと見なされ; 同様に、本発明の記述の一般化は本発明の一部であるものと見なされる。
【0145】
前述のことから、本発明がその趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化されうることは、当業者には明らかであろう。本発明に対して提供される法的保護の範囲は、本明細書によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示されるため、記述される態様は、限定ではなく、単に例示と見なされるべきである。