特許第6055545号(P6055545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6055545光学ガラス、光学素子ブランク、プレス成形用ガラス素材、光学素子、およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055545
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】光学ガラス、光学素子ブランク、プレス成形用ガラス素材、光学素子、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/247 20060101AFI20161219BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20161219BHJP
   G02B 3/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C03C3/247
   G02B1/00
   G02B3/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-521453(P2015-521453)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2014064719
(87)【国際公開番号】WO2014196523
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2015年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-118047(P2013-118047)
(32)【優先日】2013年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】塩田 勇樹
【審査官】 宮崎 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−208842(JP,A)
【文献】 特開2009−286670(JP,A)
【文献】 特開平02−149445(JP,A)
【文献】 特開2007−076958(JP,A)
【文献】 特開2002−055201(JP,A)
【文献】 特開2013−256439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
G02B1/00,3/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン成分として、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上)を必須成分として含み、
アニオン成分として、O2−およびFを必須成分として含み、
カチオン成分比率において、P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’(R’は、Li、NaおよびKからなる群から選択される一種以上)の合計含有量は86%以上であり、
5+含有量は15〜35%の範囲であり、
Ba2+含有量は18〜43%の範囲であり、
5+含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/P5+は0.70以上であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Ba2++R2+)は0.40以上であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量に対するBa2+含有量のモル比Ba2+/(Ba2++R2+)は0.50〜0.85の範囲であり、
アニオン成分比率において、
2−含有量が40〜70%の範囲であり、
含有量が30〜60%の範囲であり、
アッベ数νdが72以上80未満の範囲であり、かつ屈折率ndとアッベ数νdとが下記(A)式:
nd≧2.179−0.0085×νd …(A)
を満たす光学ガラス。
【請求項2】
カチオン成分比率において、Ba2+およびR2+の合計含有量が30〜60%の範囲である請求項に記載の光学ガラス。
【請求項3】
5+含有量に対するO2−含有量のモル比O2−/P5+は3.30以上である請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
カチオン成分比率において、Al3+含有量が18〜35%の範囲である請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項5】
カチオン成分比率において、RE3+(RE3+は、Y3+、La3+、Gd3+およびLu3+からなる群から選択される一種以上)の含有量が14%以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項6】
カチオン成分比率において、R2+含有量が5〜30%の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項7】
液相温度が850℃以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラス。
【請求項8】
結晶化温度Tcとガラス転移温度Tgとが、下記(1)式を満たす請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラス。
120℃≦(Tc−Tg) …(1)
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項12】
請求項1〜のいずれか1項に記載の光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項13】
請求項10に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法。
【請求項14】
請求項に記載の光学素子ブランクを少なくとも研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法。
【請求項15】
請求項10に記載のプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2013年6月4日出願の日本特願2013−118047号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、光学ガラス、光学素子ブランク、プレス成形用ガラス素材、光学素子、およびそれらの製造方法に関する。詳しくは、耐失透性に優れる高屈折率・低分散特性を有するフツリン酸系光学ガラス、この光学ガラスからなる光学ガラスブランク、プレス成形用ガラス素材、光学素子、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高屈折率・低分散特性を有する光学ガラスとして、リンとフッ素とを含む所謂フツリン酸系ガラスが知られている(例えば特許文献1〜7、ならびに特許文献5の英語ファミリーメンバーUS2008/132400A1および米国特許第7,989,377号、特許文献6の英語ファミリーメンバーUS2009/298668A1、米国特許第8,198,202号、US2012/245015A1および米国特許第8,431,499号、それらの全記載は、ここに特に開示として援用される、参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2010−235429号公報
【特許文献2】特開2011−37637号公報
【特許文献3】特開2012−12282号公報
【特許文献4】特開2012−126603号公報
【特許文献5】特開2008−137877号公報
【特許文献6】特開2009−286670号公報
【特許文献7】特開2003−160356号公報
【発明の概要】
【0005】
高い屈折率とともに低分散特性(高アッベ数)を有する光学ガラスは、各種レンズなどの光学素子材料として需要が高い。例えば、高屈折率高分散性のレンズと組合せることにより、コンパクトで高機能な色収差補正用の光学系を構成することができるからである。さらに、高屈折率低分散特性のレンズの光学機能面を非球面化することにより、各種光学系の一層の高機能化、コンパクト化を図ることができる。
【0006】
ところで、レンズなどの光学素子を作製する方法としては、光学素子の形状に近似した光学素子ブランクと呼ばれる中間製品を作り、この中間製品に研削、研磨加工を施して光学素子を製造する方法が知られている。このような中間製品の作製方法の一態様としては、適量の熔融ガラスをプレス成形して中間製品とする方法(ダイレクトプレス法という)がある。また、他の態様としては、熔融ガラスを鋳型に鋳込みガラス板に成形し、このガラス板を切断して複数個のガラス片とし、このガラス片を再加熱、軟化してプレス成形により中間製品にする方法、適量の熔融ガラスをガラスゴブと呼ばれるガラス塊に成形し、このガラス塊にバレル研磨を施した後に再加熱、軟化してプレス成形し、中間製品を得る方法などがある。ガラスを再加熱、軟化してプレス成形する方法は、ダイレクトプレス法に対してリヒートプレス法と呼ばれる。
【0007】
また、光学素子を作製する方法としては、熔融ガラスからプレス成形用ガラス素材を作製し、このプレス成形用ガラス素材を成形型により精密プレス成形することにより光学素子を得る方法(精密プレス成形法という)も知られている。精密プレス成形法では、成形型成形面形状をガラスに転写することにより、研磨、研削等の機械加工を経ることなく、光学素子の光学機能面を形成することができる。
【0008】
以上記載したダイレクトプレス法、リヒートプレス法、精密プレス成形法のいずれにおいても、製造過程においてガラス中に結晶が析出してしまっては、優れた透明性を有する光学素子を得ることは困難となる。そのため、結晶析出が抑制された、即ち耐失透性の高い光学ガラスが求められている。
しかしながら、ガラス中にリンおよびフッ素を含むとともに、高屈折率付与成分および低分散性付与成分を含む組成の光学ガラスは、一般に失透傾向が強い。そのため、高屈折率・低分散特性を有するフツリン酸系光学ガラスにおける耐失透性を向上することは、従来困難であった。
【0009】
本発明の一態様は、高屈折率・低分散特性を有するとともに、耐失透性に優れるフツリン酸系光学ガラスを提供する。
更に本発明の一態様によれば、上述の光学ガラスからなる光学素子ブランク、プレス成形用ガラス素材、光学素子、およびそれらの製造方法も提供される。
【0010】
本発明の一態様は、カチオン成分として、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上)を必須成分として含み、
アニオン成分として、O2−およびFを必須成分として含み、
カチオン成分比率において、P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’(R’は、Li、NaおよびKからなる群から選択される一種以上)の合計含有量は86%以上であり、
5+含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/P5+は0.70以上であり、
BaおよびR2+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Ba2++R2+)は0.40以上であり、
Ba2+およびR2+の合計含有量に対するBa2+含有量のモル比Ba2+/(Ba2++R2+)は0.50〜0.85の範囲であり、
アッベ数νdが72以上80未満の範囲であり、かつ屈折率ndとアッベ数νdとが下記(A)式:
nd≧2.179−0.0085×νd …(A)
を満たす光学ガラス、
に関する。
【0011】
上述の一態様にかかる光学ガラスは、必須のカチオン成分として、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+を含み、必須のアニオン成分としてO2-およびF-を含む。そのうえで上述の各成分とR’+の合計含有量およびモル比が上記関係を満たすことにより、72以上80未満の範囲のアッベ数νd、およびこの範囲内でのアッベ数νdとの関係で(A)式を満たす屈折率ndを有する高屈折率低分散特性を備えるとともに、優れた耐失透性を示すフツリン酸系光学ガラスを得ることが可能となる。
【0012】
本発明の一態様によれば、ダイレクトプレス法、リヒートプレス法、精密プレス成形法のいずれにも好適な、高屈折率低分散特性を有するフツリン酸系光学ガラスを提供することができる。更なる一態様によれば、上述の光学ガラスからなる光学素子ブランク、プレス成形用ガラス素材、および光学素子も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[光学ガラス]
本発明の一態様にかかる光学ガラスは、カチオン成分として、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上)を必須成分として含み、アニオン成分として、O2−およびFを必須成分として含み、カチオン成分比率において、P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’(R’は、Li、NaおよびKからなる群から選択される一種以上)の合計含有量は86%以上であり、P5+含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/P5+は0.70以上であり、BaおよびR2+の合計含有量に対するAl3+含有量のモル比Al3+/(Ba2++R2+)は0.40以上であり、Ba2+およびR2+の合計含有量に対するBa2+含有量のモル比Ba2+/(Ba2++R2+)は0.50〜0.85の範囲であり、アッベ数νdが72以上80未満の範囲であり、かつ屈折率ndとアッベ数νdとが下記(A)式:
nd≧2.179−0.0085×νd …(A)
を満たす光学ガラスである。
以下、その詳細について説明する。ガラス組成については、特記しない限り、カチオン成分の含有量および合計含有量は、カチオン%表示のガラス組成におけるカチオン%(カチオン成分比率)で表示し、アニオン成分の含有量および合計含有量は、アニオン%表示のガラス組成におけるアニオン%(アニオン成分比率)で表示する。また、カチオン成分の割合は、カチオン%表示のガラス組成におけるモル比、アニオン成分の割合は、アニオン%表示のガラス組成におけるモル比、カチオン成分とアニオン成分との割合は、原子%表示のガラス組成におけるモル比で表示する。なお、周知のように、ガラスは電気的に中性であることから、カチオン成分比率とアニオン成分比率により表示されるガラス組成から、原子%表示のガラス組成を一義的に導くことができ、原子%表示のガラス組成から、カチオン成分比率とアニオン成分比率により表示されるガラス組成を一義的に導くこともできる。
【0014】
2-は必須のアニオン成分であり、化学的耐久性を維持する働きを有する。その含有量は、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましい。また、熱的安定性を維持する観点からは、60%以下であることが好ましい。
なお、熱的安定性と耐失透性はともに、ガラス中における結晶の析出しにくさを意味する。ガラス中における結晶の析出しにくさには、融液状態のガラスにおける結晶の析出しにくさと、固化したガラスにおける結晶の析出しにくさ、中でも固化したガラスを再加熱したときの結晶の析出のしにくさが含まれ、熱的安定性、耐失透性ともに、相互の意味を含むが、熱的安定性は主として前者、耐失透性は主として後者を指す。
【0015】
上述の光学ガラスは、必須のアニオン成分であるO2-を、後述する必須のカチオン成分であるP5+とのモル比O2-/P5+が3.30以上となる量で含むことが好ましい。これにより、ガラス融液の揮発を抑制し光学的均質性の高いガラスを得ることができる。モル比O2-/P5+は、より好ましくは7/2以上、すなわち3.50以上である。モル比O2-/P5+の上限は、熱的安定性の維持の観点からは、4.00以下であることが好ましい。
【0016】
一方、F-は、低分散特性を有するガラスを得るうえで必須のアニオン成分であり、その含有量は、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。また、化学的耐久性、および研削、研磨等の加工に適したガラス(加工性に優れたガラス)を得る観点からは、60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましい。
【0017】
以上説明した通り、上述の光学ガラスは、アニオン成分として、O2-およびF-を必須成分として含むフツリン酸ガラスである。任意のアニオン成分として、Cl-、Br-、I-、S2-、Se2-、N3-、NO3-、SO42-等が含まれていてもよい。O2-およびF-以外のアニオン成分の合計含有量は、例えば0〜10%とすることができる。O2-およびF-の合計含有量は90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが一層好ましい。
上述の任意のアニオン成分の中で、Cl-は、パイプから熔融ガラスを流出する際、パイプ外周へのガラス濡れ上がりを抑制し、濡れ上がりによるガラスの品質低下を抑制することに寄与し得る。また、Cl-は脱泡剤としての効果もある。その含有量は、好ましくは0〜2%、さらに好ましくは0〜1%である。
【0018】
以上説明した通り、アニオン成分としてはO2-およびF-が必須成分である。一方、カチオン成分としては、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上)が必須成分であり、R’+(R’+は、Li+、Na+およびK+からなる群から選択される一種以上)が任意成分である。P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’+の合計含有量が86%以上であることにより、所望の光学特性を実現しつつ、均質性の高い光学ガラスを得ることができる。P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’+の合計含有量は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。上限については、100%であってもよい。
【0019】
5+は、ガラスネットワーク形成成分である。P5+とO2-とのモル比O2-/P5+の好ましい範囲については、先に説明した通りである。また、Al3+とのモル比Al3+/P5+については、後述する。
5+含有量は、ガラスの揮発抑制、化学的耐久性向上の観点から、好ましくは35%以下であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは28%以下である。ガラスの熱的安定性向上の観点からは、P5+含有量は15%以上であることが好ましく、18%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましく、22%以上であることが一層好ましい。
【0020】
Al3+は、ガラスネットワーク形成成分であり、また化学的耐久性、加工性の向上、ガラスの低分散化等に寄与する成分である。低分散特性の実現(アッベ数の増加)の観点からは、Al3+含有量は18%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。良好な熱的安定性を維持する観点からは、Al3+含有量は35%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0021】
Ba2+は、屈折率を高める働きがあり、上述の一態様にかかる光学ガラスにおける必須成分である。また、上述の通り、化学的耐久性、加工性の向上やガラスの低分散化等に寄与する成分であるAl3+の含有量を高め、ガラスの熱的安定性を高める上で有効な成分でもある。このような効果を得るため、Ba2+含有量は18%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。リヒートプレス法などのような再加熱時における耐失透性向上の観点からは、Ba2+含有量は43%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。
【0022】
2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上である。上述の光学ガラスには、R2+の一種または二種以上が必須成分として含まれる。R2+含有量(二種以上含まれる場合には、それらの合計含有量)は、耐失透性向上の観点からは、30%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。ガラスの安定性向上の観点からは、R2+含有量は5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。
【0023】
ガラスの熱的安定性向上の観点からは、Ba2+含有量とR2+含有量の合計量(Ba2++R2+)は30%以上であることが好ましく、32%以上であることがより好ましく、35%以上であることがさらに好ましい。耐失透性向上の観点からは、Ba2+含有量とR2+含有量の合計量(Ba2++R2+)は60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。
Ba2+およびR2+の合計量(Ba2++R2+)とAl3+とのモル比Al3+/(Ba2++R2+)、Ba2+とのモル比Ba2+/(Ba2++R2+)については、後述する。
【0024】
Mg2+は、加工性や熱的安定性の向上に寄与する成分である。Mg2+含有量の下限値は、例えば0%以上であり、好ましくは0.5%以上である。上限値については、熔融性向上の観点からは、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。ガラス転移温度(Tg)が低いガラスは、プレス成形性が良好であり好ましい。低Tgの光学ガラスを得る観点からも、Mg2+含有量は上述の範囲であることが好ましい。
【0025】
Ca2+も、加工性や熱的安定性の向上に寄与する成分である。Ca2+含有量の下限値は、例えば0%以上である。上限値については、耐失透性向上の観点からは、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
Sr2+は、屈折率を高める働きをする成分である。Sr2+含有量の下限値は、例えば0%以上である。上限値については、耐失透性向上の観点からは、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
Zn2+は、屈折率を維持しつつガラス転移温度を低下させる働きをする成分である。低分散特性の実現の観点からは、Zn2+含有量は5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましい。Zn2+含有量は、0%であってもよい。
【0028】
上述の光学ガラスは、以上説明した必須成分とともに、R’+を任意成分として含む。R’+は、Li+、Na+およびK+からなる群から選択される一種以上である。
R’+含有量(二種以上含まれる場合には、それらの合計含有量)は、ガラスの熱的安定性の維持、脈理を低減し、均質性の高いガラスを得る上から、15%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。R’+含有量は0%であってもよい。熱的安定性の維持、ガラスの粘性低下、ガラス転移温度の低下、熔融性の改善などの観点から、R’+含有量は1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましい。
【0029】
Li+、Na+、K+は、ガラスの粘性を低下させるとともに、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの熔融性を改善することに寄与する成分である。Li+含有量は、例えば0%以上、好ましくは2%以上である。耐失透性の向上、または脈理低減の観点からは、Li+含有量は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0030】
Na+、K+は、それぞれ含有量が10%以下であることが、低分散特性を実現する上から好ましく、5%以下であることがより好ましい。Na+含有量、K+含有量については、それぞれ0%としてもよい。
【0031】
更に上述のガラスは、Y3+、La3+、Gd3+およびLu3+からなる群から選択される一種以上(RE3+と表記する。)を含むこともできる。化学的耐久性の向上、高屈折率化、ガラスの揮発低減、脈理低減への寄与、ガラス原料の熔け残り防止の観点から、RE3+含有量(二種以上含まれる場合には、それらの合計含有量)は、14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、8%以下であることが一層好ましく、5%未満であることが一層好ましい。下限値については、例えば0%以上であり、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは1%以上である。
【0032】
3+は、熱的安定性を維持しつつ屈折率を高める働きをする成分である。ガラス原料の熔け残り防止の観点から、Y3+含有量は、好ましくは14%以下であり、より好ましくは13%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、一層好ましくは8%以下であり、より一層好ましくは5%未満である。下限値については、例えば0%以上であり、好ましくは0.1%以上であり、より好ましくは0.3%以上であり、さらに好ましくは1%以上である。
【0033】
La3+は、屈折率を高める働きをする成分である。ガラス原料の熔け残り防止、熱的安定性の維持の観点から、La3+含有量は、好ましくは14%以下であり、より好ましくは13%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、一層好ましくは8%以下であり、より一層好ましくは5%未満である。下限値については、例えば0%以上である。
【0034】
Gd3+は、屈折率を高める働きをする成分である。ガラス原料の熔け残り防止、熱的安定性の維持の観点から、Gd3+含有量は、好ましくは14%以下であり、より好ましくは13%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、一層好ましくは8%以下であり、より一層好ましくは5%未満である。下限値については、例えば0%以上である。
【0035】
Lu3+は、屈折率を高める働きをする成分である。ガラス原料の熔け残り防止の観点から、Lu3+含有量は、好ましくは14%以下であり、より好ましくは13%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、一層好ましくは8%以下であり、より一層好ましくは5%未満である。下限値については、例えば0%以上である。
【0036】
上述の光学ガラスは、以上説明したカチオン成分の中で、Al3+とP5+とのモル比Al3+/P5+は、所望の分散特性を有し、均質性の高いガラスを得るために、0.70以上とする。モル比Al3+/P5+が0.70以上であることは、化学的耐久性の向上にも寄与し得る。モル比Al3+/P5+は、好ましくは0.75以上、より好ましくは0.80以上である。
【0037】
上述の光学ガラスにおけるモル比Al3+/(Ba2++R2+)は、所望の低分散特性を実現するために、0.40以上とする。モル比Al3+/(Ba2++R2+)は、好ましくは0.45以上、より好ましくは0.50以上である。一方、熱的安定性の維持、特にリヒートプレス法のような再加熱成形時の耐失透性改善の観点からは、モル比Al3+/(Ba2++R2+)は、0.75以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましい。
【0038】
モル比Ba2+/(Ba2++R2+)は、ガラス熔解時の失透(ガラス融液の失透)やリヒートプレス法のような再加熱成形時の失透を抑制するために0.50〜0.85の範囲とする。上限値については、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.75以下である。下限値については、好ましくは0.52以上、より好ましくは0.55以上である。
【0039】
その他、添加可能な成分としては、Si4+、B3+、清澄剤として機能し得る成分を挙げることもできる。以下、それら成分について説明する。
【0040】
上述の光学ガラスは、以上説明したカチオン成分に加えて、Si4+を含むこともできる。熔融性や熱的安定性の維持、揮発性の低減という観点から、Si4+含有量は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。Si4+含有量は0%でもよい。
【0041】
上述の光学ガラスは、B3+を含むこともできる。熔融性や熱的安定性の維持、ガラスの揮発性抑制という観点から、B3+含有量は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。B3+含有量は0%でもよい。
【0042】
Sbは、清澄剤として添加可能である。ガラスの着色や、その酸化作用による成形型の成形面劣化を抑制する観点から、Sbの添加量は、Sb23に換算して外割りで0〜1質量%が好ましく、より好ましくは0〜0.5質量%、さらに好ましくは0〜0.1質量%である。
【0043】
Snも清澄剤として添加可能である。ガラスの着色や、その酸化作用による成形型の成形面劣化を抑制する観点から、Snの添加量は、SnO2に換算して外割りで0〜1質量%が好ましく、より好ましくは0〜0.5質量%である。
【0044】
上述の成分の他に、Ce酸化物、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、フッ化物を清澄剤として少量、添加することもできる。
【0045】
また、環境影響に配慮し、Pb、As、Cd、U、Thは導入しないことが好ましい。
さらに、ガラスの優れた光線透過性を活かすうえから、Cu、Er、Eu、Tb、Cr、Co、Ni、Ndなどの着色の要因となる物質を導入しないことが好ましい。
なお本明細書および本発明において、「導入しない」、「含有しない」、構成成分の含有量が「0%」とは、この構成成分がガラス成分として導入されないことを意味する。ただし不純物として意図せず混入することは許容するものとする。
【0046】
以上、上述の光学ガラスのガラス組成について説明した。次に、上述の光学ガラスのガラス特性について説明する。
【0047】
上述の光学ガラスは、低分散特性を有する光学ガラスであり、そのアッベ数は72以上である。アッベ数は、好ましくは72.2以上、より好ましくは72.5以上である。ただし、ガラス安定性の観点から、アッベ数は80未満とする。
【0048】
上述の光学ガラスは、先に記載した低分散特性とともに、高い屈折率を有する高屈折率低分散ガラスである。屈折率ndは、アッベ数νdとの間で、下記(A)式を満たす。
nd≧2.179−0.0085×νd …(A)
【0049】
上述の通り、屈折率ndの下限値は、アッベ数νdとの関係で(A)式により規定される。
屈折率ndの上限値については、ガラス安定性の観点からは、例えば1.62以下であり、好ましくは1.60以下である。
【0050】
上述の光学ガラスは、高屈折率・低分散特性を有するとともに、優れた耐失透性を示すことができる。
耐失透性の指標の1つとしては、液相温度を挙げることができる。上述の光学ガラスは、例えば850℃以下の液相温度を示すことができ、800℃以下の液相温度を示すこともできる。なお上述の光学ガラスの液相温度の下限は、ガラス組成から自ずと定まり、特に限定されるものではない。
また、熔融ガラスを流出する際の温度を低くすることにより、揮発による脈理発生を抑えること、および光学特性変動を低減することもできる。
更に、液相温度を低くすることにより、熔解を行うルツボのガラスによる侵蝕を抑えることができる。その結果、ルツボを構成する白金などの物質が、侵蝕によってガラス中に混入し異物となることや、イオンとして溶け込んでガラスの着色を引き起こすことを回避することができる。
【0051】
耐失透性、中でもリヒートプレス時の結晶の析出しにくさについては、ガラス転移温度Tgに対して結晶化温度Tcが十分高いほど、耐失透性に優れる光学ガラスと言うことができる。これは、リヒートプレス時の加熱は、ガラス転移温度近傍で行われることが多いためである。この耐失透性に関して、上述の光学ガラスは、下記(1)式を満たす耐失透性を示すことができる。
120℃≦(Tc−Tg) …(1)
下記(1)式は、好ましくは下記(2)式であり、より好ましくは下記(3)式であり、さらに好ましくは下記(4)式である。
140℃≦(Tc−Tg) …(2)
150℃≦(Tc−Tg) …(3)
160℃≦(Tc−Tg) …(4)
【0052】
ガラス転移温度は、良好なプレス成形性を得る観点からは、ガラス転移温度は低いことが好ましく、例えば550℃以下であることが好適である。
【0053】
上記光学ガラスは、異常部分分散性を有することができる。異常部分分散性を有する光学ガラスは、高次の色収差補正用ガラスとして好適である。
【0054】
以上説明したように、上述の光学ガラスは、高屈折率・低分散特性を有する、ダイレクトプレス法、リヒートプレス法、精密プレス成形法のいずれの方法にも好適なガラスである。
【0055】
光学ガラスは、目的のガラス組成が得られるように、原料であるリン酸塩、フッ化物、酸化物などを秤量、調合し、十分に混合して混合バッチとし、熔融容器内で加熱、熔融し、脱泡、攪拌を行い均質かつ泡を含まない熔融ガラスを作り、これを成形することによって得ることができる。具体的には公知の熔融法を用いて作ることができる。
【0056】
[光学素子ブランク、プレス成型用ガラス素材、およびそれらの製造方法]
本発明の他の一態様は、
上述の光学ガラスからなる光学素子ブランク;
上述の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材;
上述の光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法;および、
上述のプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法、
に関する。
【0057】
光学素子ブランクとは、目的とする光学素子の形状に近似し、光学素子の形状に研磨しろなどのような加工しろを加えた光学素子母材である。光学素子ブランクの表面を少なくとも研磨することにより、光学素子が仕上げられる。上述の光学ガラスからなるプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製することができる。上述の光学ガラスは、優れた耐失透性を示すことができるため、プレス成形時の加熱によりガラス中に結晶が析出することを防ぐことができる。
【0058】
プレス成形用ガラス素材の加熱、プレス成形は、ともに大気中で行うことができる。例えば、プレス成形用ガラス素材の表面に、窒化硼素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、加熱、プレス成形すると、ガラスと成形型の融着を確実に防止できるほか、プレス成形型の成形面に沿ってガラスをスムーズに延ばすことができる。プレス成形後にアニールしてガラス内部の歪を低減することにより、均質な光学素子ブランクを得ることができる。
【0059】
一方、プレス成形用ガラス素材とは、プリフォームとも呼ばれ、そのままの状態でプレス成形に供されるもの(以下、「素材1」という)に加え、公知の機械加工を施すことによりプレス成形に供されるもの(以下、「素材2」という)も含む。
【0060】
例えば以下に例示する方法により、上述の光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形することができる。
(1)熔融ガラスを鋳型にキャストしてガラス板を成形する方法(以下、「方法1」という);
(2)方法1によって作製されたガラス板をアニール処理した後、所望の大きさに切断し、カットピースと呼ばれるガラス片を複数作製する方法(以下、「方法2」という);
(3)方法2によって作製された複数個のガラス片をバレル研磨する方法(以下、「方法3」という);
(4)熔融ガラスをパイプから流下させて成形型により受けてガラス塊を成形する方法(以下、「方法4」という);
(5)方法4により得られたガラス塊をアニール処理した後にバレル研磨する方法(以下、「方法5」という)。
【0061】
上述の素材1としては、上記方法3、4、5によって作製されるガラス素材などを例示することができる。一方、素材2としては、方法1、2、4によって作製される素材などを例示することができる。
【0062】
[光学素子およびその製造方法]
本発明の他の一態様は、
上述の光学ガラスからなる光学素子;
上述の光学素子ブランクを少なくとも研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法(以下、「方法A」という);
上述のプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法(以下、「方法B」という)、
に関する。
【0063】
方法Aにおいて、研磨は公知の方法を適用すればよく、加工後に光学素子表面を十分洗浄、乾燥させるなどすることにより、内部品質および表面品質の高い光学素子を得ることができる。方法Aは、各種球面レンズ、プリズムなどの光学素子を製造する方法として好適である。研磨工程の前に光学素子ブランクを公知の方法により、研削してもよい。
【0064】
方法Bにおける精密プレス成形とは、モールドオプティクス成形とも呼ばれ、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。ここで、光学素子の光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面と呼ぶ。例えばレンズを例にとると、非球面レンズの非球面や球面レンズの球面などのレンズ面が光学機能面に相当する。精密プレス成形法は、プレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形で光学機能面を形成する方法である。つまり光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。精密プレス成形法は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に非球面レンズを高生産性のもとに製造する方法として最適である。
【0065】
精密プレス成形法の一実施態様では、表面が清浄状態のプリフォームを、プリフォームを構成するガラスの粘度が105〜1011Pa・sの範囲を示すように再加熱し、再加熱されたプリフォームを上型、下型を備えた成形型によってプレス成形する。成形型の成形面には必要に応じて離型膜を設けてもよい。なお、プレス成形は、成形型の成形面の酸化を防止する上から、窒素ガスや不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。プレス成形品は成形型より取り出され、必要に応じて徐冷される。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて表面に光学薄膜をコートしてもよい。
【0066】
このようにして、各種成形法に好適な光学ガラスからなるレンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子を製造することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例に基づき更に説明する。但し本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0068】
1.光学ガラスおよび精密プレス成形用プリフォームに関する実施例、比較例
表1に示す組成の光学ガラスが得られるように、各ガラス成分に対応するリン酸塩、フッ化物、酸化物等のガラス原料を所定の割合に100〜300g秤量し、十分に混合して調合バッチとした。これを白金ルツボに入れ、蓋をして、850〜1100℃で攪拌しながら空気中または窒素雰囲気中で1〜3時間、熔解を行った。熔解後、ガラス融液を40×70×15mmのカーボンの金型に流し、ガラス転移温度まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラスの転移温度範囲で約1時間アニールして炉内で室温まで放冷することにより、No.1〜No.35の組成を有する各光学ガラスをキャスト成形した。
下記方法により、各光学ガラスの屈折率、アッベ数、ガラス転移温度Tg、結晶化温度Tc、および液相温度を測定した。
【0069】
測定方法
(1)屈折率(nd)およびアッべ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られた光学ガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度Tg
示差走査熱量計(DSC(Differential Scanning Calorimetry))により、昇温速度10℃/分にして測定した。
(3)結晶化温度Tc
示差走査熱量計(DSC(Differential Scanning Calorimetry))により、昇温速度10℃/分にして測定した。なお、ガラス試料を昇温していくと、DSC曲線に現れる最初の発熱ピークの温度を結晶化温度Tcとする。
(4)液相温度LT
ガラス試料を所定温度に加熱された試験炉内に入れて、2時間保持し、冷却後、ガラス内部を100倍の光学顕微鏡で観察し、結晶の有無から液相温度を決定した。
(5)ガラス組成
誘導結合プラズマ原子発光法(ICP−AES法)、イオンクロマトグラフフィー法により各成分の含有量を定量した。
【0070】
測定結果を、表1に示す。液相温度については、表1中、No.2〜8、No.19〜25、No.34、35のガラスの液相温度は800℃以下、表1中のその他のガラスの液相温度は850℃以下であった。
【0071】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0072】
次に、表2に示す組成のガラスが得られるように、ガラス原料を調合し、上記方法と同様にしてガラス(比較例)を作製した。
なお、表2のNo.1〜5は、モル比Al3+/P5+、Al3+/(Ba2++R2+)、Ba2+/(Ba2++R2+)、P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’+の合計含有量の少なくとも一つが、上述の一態様で規定する範囲外となるように組成が定められている。
表2のNo.6は特許文献1の実施例5、No.7は特許文献3の実施例1、No.8は特許文献3の実施例6、No.9は特許文献4の実施例1に相当する。
【0073】
以下、表2に記載のNo.1〜9の各組成について、説明する。
No.1は、モル比Ba2+/(Ba2++R2+)が、上述の一態様にかかる光学ガラスより少なく、No.2は、上述の一態様にかかる光学ガラスより大きい。これらでは、それぞれ、ガラス融液をキャスト成形する際に結晶が析出し、失透した。
No.3は、モル比Al3+/P5+が、上述の一態様にかかる光学ガラスより大きい。このガラスは、アッベ数νdが72未満であり、かつ式(A)の関係を満たさない。
No.4は、モル比Ba2+/(Ba2++R2+)が上述の一態様にかかる光学ガラスより大きい。このガラスは再加熱、軟化すると結晶が析出し、失透した。
No.5は、モル比Al3+/P5+が上述の一態様にかかる光学ガラスより小さい。No.5では、脈理が著しく、均質なガラスを得ることができなかった。
No.6は、RE3+を多く含み、P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’+の合計含有量が上述の一態様にかかる光学ガラスより少ない。No.6については、成形して得たガラス中に多数の未熔解物が認められ、均質なガラスを得ることができなかった。
No.7は、モル比Al3+/P5+が上述の一態様にかかる光学ガラスより小さい。No.7では、ガラス中に著しい脈理が生じた。そのため光学特性を測定することができなかった。
No.8は、モル比Ba2+/(Ba2++R2+)が上述の一態様にかかる光学ガラスより小さい。No.8では、ガラス融液をキャスト成形する際に結晶が析出し、失透した。
No.9は、モル比Al3+/P5+、Al3+/(Ba2++R2+)、Ba2+/(Ba2++R2+)がいずれも上述の一態様にかかる光学ガラスより小さい。このガラスは、アッベ数νdが72未満であり、式(A)を満たさず、ガラス融液からの揮発が著しく、成形して得られたガラスの表面に著しい脈理が発生した。
【0074】
【表2-1】
【表2-2】
【0075】
次に、表1に示す実施例の各光学ガラスが得られる高品質かつ均質化された熔融ガラスを白金合金製のパイプから連続流出させた。流出する熔融ガラスをパイプ流出口から滴下させ、複数のプリフォーム成形型で次々と受け、浮上成形法により複数個の球状のプリフォームを成形した。なお、流出時のガラスの温度は液相温度よりも数℃高温とした。
【0076】
実施例の光学ガラスから得られたプリフォームは、顕微鏡で観察できる結晶はなく、透明かつ均質であった。これらのプリフォームはいずれも失透しておらず、高い質量精度のものが得られた。
【0077】
実施例の光学ガラスから、滴下法に変えて降下切断法を用いてプリフォームを作製した。降下切断法により得られたプリフォームにも同様に失透が認められず、高質量精度のプリフォームが得られた。また、滴下法、降下切断法ともプリフォームに分離の際の痕跡は認められなかった。白金製パイプを使用しても、白金合金製パイプと同様、熔融ガラスの流出によってパイプが破損することはなかった。
【0078】
2.光学素子に関する実施例
上述のプリフォームの表面に必要に応じてコーティングを施し、成形面に炭素系離型膜を設けたSiC製の上下型および胴型を含むプレス成形型内に導入し、窒素雰囲気中で成形型とプリフォームを一緒に加熱してプリフォームを軟化し、精密プレス成形して上記各種ガラスからなる非球面凸メニスカスレンズ、非球面凹メニスカスレンズ、非球面両凸レンズ、非球面両凹レンズの各種レンズを作製した。なお、精密プレス成形の各条件は前述の範囲で調整した。
【0079】
このようにして作製した各種レンズを観察したところ、レンズ表面に傷、クモリ、破損は全く認められなかった。
【0080】
こうしたプロセスを繰り返し行い、各種レンズの量産テストを行ったが、ガラスとプレス成形型の融着などの不具合は発生せず、表面および内部ともに高品質のレンズを高精度に生産することができた。このようにして得たレンズの表面には反射防止膜をコートしてもよい。
【0081】
次いで、上述のプリフォームと同様のものを加熱、軟化し、別途、予熱したプレス成形型に導入し、精密プレス成形して上記各種ガラスからなる非球面凸メニスカスレンズ、非球面凹メニスカスレンズ、非球面両凸レンズ、非球面両凹レンズの各種レンズを作製した。なお、精密プレス成形の各条件は前述の範囲で調整した。
【0082】
このようにして作製した各種レンズを観察したところ、分相による白濁等は認められず、レンズ表面に傷、クモリ、破損は全く認められなかった。
【0083】
こうしたプロセスを繰り返し行い、各種レンズの量産テストを行ったが、ガラスとプレス成形型の融着などの不具合は発生せず、表面および内部ともに高品質のレンズを高精度に生産することができた。このようにして得たレンズの表面には反射防止膜をコートしてもよい。
【0084】
プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更し、プリズム、マイクロレンズ、レンズアレイなどの各種光学素子を作製することもできる。
これらの光学素子は、異常部分分散性を有するガラスからなり、高次の色収差補正に好適である。
【0085】
3.光学素子ブランクおよび光学素子に関する実施例
表1に示す実施例の各ガラスが得られる清澄、均質化した熔融ガラスを用意し、白金製パイプから一定流量で連続して流出し、パイプ下方に水平に配置した一側壁が開口した鋳型に流し込み、一定の幅および一定の厚みを有するガラス板に成形しつつ、鋳型の開口部から成形したガラス板を引き出した。引き出されたガラス板を、アニール炉内でアニール処理し、歪を低減し、脈理や異物が無く、着色の少ない上記各光学ガラスからなるガラス板を得た。
次に、これら各ガラス板を縦横に切断し、同一寸法を有する直方体形状のガラス片を複数個得た。さらに複数個のガラス片をバレル研磨して、目的とするプレス成形品の重量にあわせ、プレス成形用ガラスゴブとした。
なお、上述の方法とは別に、熔融ガラスを一定流速で白金製ノズルから流出し、このノズルの下方に多数の受け型を次々と移送して所定質量の熔融ガラス塊を次々と受け、これら熔融ガラス塊を球または回転体形状に成形し、アニール処理してからバレル研磨して目的とするプレス成形品の質量にあわせ、プレス成形用ガラスゴブとしてもよい。
【0086】
上述各ガラスゴブの全表面に粉末状の離型剤、例えば窒化ホウ素粉末を塗布し、ヒーターで加熱、軟化してから上型および下型を備えたプレス成形型内に投入し、プレス成形型で加圧して目的とするレンズ形状に研削、研磨による取り代を加えたレンズに近似した形状の各レンズブランクを成形した。
【0087】
続いて、各レンズブランクをアニール処理して歪を低減した。冷却したレンズブランクに研削、研磨加工を施して、目的とするレンズに仕上げた。なお、一連の工程は大気中で行った。得られた各レンズとも優れた光透過性を備えていた。レンズには必要に応じて反射防止膜などの光学多層膜をコートすることもできる。
このようなレンズにより、良好な撮像光学系を構成することができる。
なお、プレス成形型の形状、ガラスゴブの体積を適宜設定することにより、プリズム等その他の光学素子を製造することもできる。
これらの光学素子は、異常部分分散性を有するガラスからなり、高次の色収差補正に好適である。
【0088】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0089】
一態様によれば、カチオン成分として、P5+、Al3+、Ba2+およびR2+(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびZn2+からなる群から選択される一種以上)を必須成分として含み、アニオン成分として、O2-およびF-を必須成分として含み、カチオン成分比率において、P5+、Al3+、Ba2+、R2+およびR’+(R’+は、Li+、Na+およびK+からなる群から選択される一種以上)の合計含有量は86%以上であり、モル比Al3+/P5+は0.70以上であり、モル比Al3+/(Ba2++R2+)は0.40以上であり、モル比Ba2+/(Ba2++R2+)は0.50〜0.85の範囲であり、アッベ数νdが72以上80未満の範囲であり、かつ屈折率ndとアッベ数νdとが上述の(A)式を満たす高屈折率・低分散光学ガラスであって、優れた耐失透性を有する光学ガラスを得ることができる。
【0090】
上述の光学ガラスは、先に記載した組成調整を行うことにより、850℃以下の液相温度を示すことができる。
【0091】
上述の光学ガラスは、先に記載した組成調整を行うことにより、上述の(1)式を満たす耐失透性を示すことができる。
【0092】
より一層優れた耐失透性と、高屈折率・低分散特性とを両立する観点から、上述の光学ガラスは、以下の1つ以上のガラス組成を満たすことが、好ましい。
【0093】
カチオン成分比率において、P5+含有量が15〜35%の範囲である。
【0094】
モル比O2-/P5+が3.30以上である。
【0095】
カチオン成分比率において、Al3+含有量が18〜35%の範囲である。
【0096】
カチオン成分比率において、Ba2+およびR2+の合計含有量が30〜60%の範囲である。
【0097】
アニオン成分比率において、O2-含有量が40〜70%の範囲であり、F-含有量が30〜60%の範囲である。
【0098】
カチオン成分比率において、RE3+含有量が14%以下である。
【0099】
カチオン成分比率において、Li+含有量が10%以下である。
【0100】
カチオン成分比率において、Mg2+含有量が10%以下である。
【0101】
カチオン成分比率において、Ca2+含有量が15%以下である。
【0102】
カチオン成分比率において、Sr2+含有量が15%以下である。
【0103】
カチオン成分比率において、Ba2+含有量が18〜43%の範囲である。
【0104】
以上説明した光学ガラスは、ダイレクトプレス法、リヒートプレス法、精密プレス法のいずれにおいても失透を抑制することができるため、光学素子ブランク、プレス成形用ガラス素材、および光学素子を得るためのガラスとして、好適なものである。
【0105】
即ち、他の態様によれば、上述の光学ガラスからなる光学素子ブランク、プレス成形用ガラス素材、および光学素子が提供される。
【0106】
また、他の態様によれば、上述の光学ガラスをプレス成形用ガラス素材に成形する工程を備えるプレス成形用ガラス素材の製造方法も提供される。
【0107】
更に他の態様によれば、上述のプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いてプレス成形することにより光学素子ブランクを作製する工程を備える光学素子ブランクの製造方法も提供される。
【0108】
更に他の態様によれば、上述の光学素子ブランクを少なくとも研磨することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法も提供される。
【0109】
更に別の態様によれば、上述のプレス成形用ガラス素材を加熱により軟化した状態で、プレス成形型を用いて精密プレス成形することにより光学素子を作製する工程を備える光学素子の製造方法も提供される。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる光学ガラスを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、ガラスレンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの各種光学素子の製造分野において有用である。