特許第6055575号(P6055575)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055575
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】真空処理装置及び真空処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/58 20060101AFI20161219BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20161219BHJP
   C23C 14/56 20060101ALI20161219BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C23C14/58 Z
   C23C14/06 F
   C23C14/56 G
   G11B5/84 B
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-505944(P2016-505944)
(86)(22)【出願日】2014年11月21日
(86)【国際出願番号】JP2014005862
(87)【国際公開番号】WO2015132830
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2016年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-41685(P2014-41685)
(32)【優先日】2014年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 弘士
(72)【発明者】
【氏名】芝本 雅弘
【審査官】 吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−56526(JP,A)
【文献】 特開2004−256837(JP,A)
【文献】 特開2009−283107(JP,A)
【文献】 特開2011−243254(JP,A)
【文献】 特開2001−237216(JP,A)
【文献】 特開2003−223710(JP,A)
【文献】 特開2005−171329(JP,A)
【文献】 特開2013−182640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
G11B 5/84
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にta−C膜からなる表面保護層を形成するta−C膜形成装置と、
前記表面保護層にラジカルを反応させるラジカル処理を行うラジカル処理装置と、
前記基板を大気に曝すことなく前記ta−C膜形成装置から前記ラジカル処理装置に搬送する搬送装置と、を備え
前記ラジカル処理装置は、
内部に前記基板が配置されるラジカル処理チャンバと、
プロセスガスからラジカルを発生させるラジカル発生部と、
前記ラジカル発生部で発生した前記ラジカルを前記ラジカル処理チャンバに導入するラジカル導入部と、を備えることを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
前記真空処理装置は、前記基板にそれぞれ所定の処理を行う複数のチャンバが矩形の無端状に連結されており、
前記複数のチャンバは、前記基板の搬送方向を転換するために前記矩形の角の位置に配置された方向転換チャンバと、前記ta−C膜形成装置を備えるta−C膜形成チャンバと、前記ラジカル処理装置を備えるラジカル処理チャンバとを含み、
前記基板の搬送方向に向かって、前記方向転換チャンバ、前記ta−C膜形成チャンバ、前記ラジカル処理チャンバの順番で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記真空処理装置は、前記基板にそれぞれ所定の処理を行う複数のチャンバが矩形の無端状に連結されており、
前記複数のチャンバは、前記基板の搬送方向を転換するために前記矩形の角の位置に配置された方向転換チャンバと、前記真空処理装置に前記基板を供給するロードロックチャンバと、前記真空処理装置から前記基板を排出するアンロードチャンバと、前記ta−C膜形成装置を備えるta−C膜形成チャンバと、前記ラジカル処理装置とを含み、
前記ラジカル処理装置は、前記アンロードチャンバと一体に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記ラジカル処理装置は、ラジカル処理容器に前記基板を複数収容するカセットを備えていることを特徴とする請求項3に記載の真空処理装置。
【請求項5】
前記搬送装置は、前記ラジカル処理装置および前記ta−C膜形成装置に一体に構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の真空処理装置。
【請求項6】
前記プロセスガスは、Oガス若しくはHガスの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項に記載の真空処理装置。
【請求項7】
前記プロセスガスは、N、NO、NO、NHのうち少なくとも1つを含んでいることを特徴とした請求項に記載の真空処理装置。
【請求項8】
前記プロセスガスは、CF、C、Cのうち少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項に記載の真空処理装置。
【請求項9】
基板にta−C膜からなる表面保護層を形成するta−C膜形成装置と、前記表面保護層にラジカルを反応させるラジカル処理を行うラジカル処理装置と、前記基板を大気に曝すことなく前記ta−C膜形成装置から前記ラジカル処理装置に搬送する搬送装置と、を備え、前記ラジカル処理装置は、内部に前記基板が配置されるラジカル処理チャンバと、プロセスガスからラジカルを発生させるラジカル発生部と、前記ラジカル発生部で発生した前記ラジカルを前記ラジカル処理チャンバに導入するラジカル導入部と、を備える真空処理装置における真空処理方法であって、前記真空処理方法は、基板に形成された磁気記録層を保護する表面保護層を有する磁気記録媒体の真空処理方法であって、
前記磁気記録層の上にta−C膜を形成するta−C膜形成工程と、
前記ta−C膜が形成された基板を搬送する搬送工程と、
プロセスガスを励起してラジカルを発生させるラジカル発生工程と、
前記ta−C膜の表面に前記ラジカルを照射するラジカル処理工程と、
を有することを特徴とする真空処理方法。
【請求項10】
前記プロセスガスは、Oガス若しくはHガスの少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項に記載の真空処理方法。
【請求項11】
前記プロセスガスは、N、NO、NO、NHのうち少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項に記載の真空処理方法。
【請求項12】
前記プロセスガスは、CF、C、Cのうち少なくとも1つを含んでいることを特徴とする請求項に記載の真空処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面保護層の処理に適した真空処理装置、及び表面保護層の真空処理方法に係り、特に磁気記録媒体の表面保護層の真空処理方法及び表面保護層の処理に適した真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブの磁気記録媒体の表層には、磁気記録層を保護するための表面保護層が形成されている。表面保護層にはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)が好適とされ、スパッタリング法や化学的気相成長法(CVD法)で形成された保護層が適用されている。磁気記録層と磁気ヘッドの磁気的隙間の狭小化により、記録密度を増大させることができるため、表面保護層の薄膜化が必要となる。そのため、極薄膜でも耐久性が満足できる保護膜が要求されており、表面保護層として、従来よりも耐久性および耐食性に優れたta−C(テトラヘドラル・アモルファスカーボン)膜を用いることが検討されている。ta−C膜は炭素イオンによる物理的蒸着法で成膜される。例えば、特許文献1に示すような真空アーク成膜装置が用いられる。
【0003】
真空アーク成膜装置により形成されたta−C膜の最表面には、sp結合比率が低く、硬さの低い層が生じることが知られている。表面保護層を薄くすると、膜全体の厚さに占める硬さの低い層の厚さの割合が高くなるので、ta−C膜本来の特性が損なわれる。表面保護層をさらに薄くするためには、表面のsp結合比率が低い層を除去することが望ましい。例えば特許文献2には、保護層を薄くするために、イオンビームを用いて表層を除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6031239号明細書
【特許文献2】特開2007−26506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録媒体の製造工程では、表面保護層形成後にフルオロカーボン系液体潤滑剤が塗布されているが、特許文献1の技術は、処理後の基板表面に存在するダングリングボンドにより表面エネルギが均一になりにくい。そのため潤滑剤塗布後の表面状態の均一性が十分でない。また、ハードディスクドライブの記録密度の増加には表面を平坦にすることが望ましいが、アルゴンイオンを用いてエッチングを行うと、基板の表面粗さが増加する傾向がある。
【0006】
本発明の目的は、真空アーク成膜装置により形成されたta−C膜の最表層を最適化する表面処理方法、および、このような表面処理に適した真空処理装置を提供することにある。本発明の他の目的は、処理後の基板の表面が平坦にできる表面処理方法、および、このような表面処理に適した真空処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る真空処理装置は、基板にta−C膜からなる表面保護層を形成するta−C膜形成装置と、前記表面保護層にラジカルを反応させるラジカル処理を行うラジカル処理装置と、前記基板を大気に曝すことなく前記ta−C膜形成装置から前記ラジカル処理装置に搬送する搬送装置と、を備え、前記ラジカル処理装置は、内部に前記基板が配置されるラジカル処理チャンバと、プロセスガスからラジカルを発生させるラジカル発生部と、前記ラジカル発生部で発生した前記ラジカルを前記ラジカル処理チャンバに導入するラジカル導入部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
或いは、本発明に係る真空処理方法は、基板にta−C膜からなる表面保護層を形成するta−C膜形成装置と、前記表面保護層にラジカルを反応させるラジカル処理を行うラジカル処理装置と、前記基板を大気に曝すことなく前記ta−C膜形成装置から前記ラジカル処理装置に搬送する搬送装置と、を備え、前記ラジカル処理装置は、内部に前記基板が配置されるラジカル処理チャンバと、プロセスガスからラジカルを発生させるラジカル発生部と、前記ラジカル発生部で発生した前記ラジカルを前記ラジカル処理チャンバに導入するラジカル導入部と、を備える真空処理装置における真空処理方法であって、前記真空処理方法は、基板上に形成された前記磁気記録層を保護する表面保護層を有する磁気記録媒体の真空処理方法であって、前記磁気記録層の上にta−C膜を形成するta−C膜形成工程と、前記ta−C膜が形成された基板を搬送する搬送工程と、プロセスガスを励起してラジカルを発生させるラジカル発生工程と、前記ta−C膜の表面に前記ラジカルを照射するラジカル処理工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面処理方法によれば、表面保護層本来の特性を損なわずに、sp結合比率が低い層を除去できる。また、表面処理後の表面の化学的性質を望ましいものにすることができる。あるいは、本発明の表面処理方法によれば表面に新たな機能を付与することができる。本発明の表面処理方法はラジカルを用いて化学的にエッチングするため、表層の除去による表面粗さの増加を防ぐことができる。本発明の方法の実施の際には必ずしも基板ステージを回転させる必要がないため安価な装置を使用することができる。本発明の方法をインライン製造装置で実施する場合は、基板搬送時のラジカル処理装置からta−C室へのガス流入によるクロスコンタミネーションを低減できる。
【0010】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
添付図面は明細書に含まれ、その一部を構成し、本発明の実施の形態を示し、その記述と共に本発明の原理を説明するために用いられる。
図1】本願発明の第1実施形態に係る真空処理装置の平面図である。
図2】本願発明の第1実施形態に係るta−C膜形成室の概略図である。
図3】本願発明の第1実施形態に係る搬送キャリアの概略図である。
図4】本願発明の第1実施形態に係る表面処理装置の上面図である。
図5】本願発明の第2実施形態に係るアンロードチャンバの側面図である
図6】本願発明の第3実施形態に係る真空処理装置の平面図である。
図7】本願発明の第1実施例の表面処理方法によって作製した膜の断面図である。
図8】本願発明の第2実施例の表面処理方法によって作製した膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示である。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。以下に、本発明の成膜装置を、真空アーク成膜法(Vacuum Arc Deposition)を用いて被処理物としての基板に保護層を形成する成膜装置に適用した実施形態について説明する。
【0013】
(第1実施形態)
まず、本発明に用いる真空処理装置について図1乃至4を用いて説明する。図1は本実施形態に係る真空処理装置を示す平面図である。本実施形態の真空処理装置はインライン式の成膜装置である。本実施形態の真空処理装置は、複数のチャンバ111〜131が矩形の無端状に連結されている。各チャンバ111〜131は専用又は兼用の排気系によって排気される真空容器である。それぞれのチャンバには、キャリア10に基板が搭載された状態で、隣り合うチャンバ間で搬送できる搬送装置が一体に構成されている。
【0014】
各チャンバ111〜131はゲートバルブを介して無端状に連結されている。連結された各チャンバ111〜131にはゲートバルブを介してキャリア10を搬送できる搬送装置が設けられている。搬送装置は、キャリア10を垂直姿勢で搬送する搬送路を有している。基板1は、キャリア10に搭載されて不図示の搬送路に沿って搬送されるようになっている。チャンバ111は、キャリア10への基板1の搭載を行うロードロック室である。チャンバ116は、キャリア10からの基板1の回収を行うアンロードロック室である。なお、基板1は中心部分に開口(内周孔部)を有する金属製、若しくはガラス製の円板状部材であり、磁気記録媒体としての使用に適したものである。
【0015】
成膜装置内での基板の処理手順について説明する。まず、ロードロックチャンバ111内で未処理の2枚の基板1が最初のキャリア10に搭載される。このキャリア10は密着層形成室117に移動して、基板1に密着層が形成される。最初のキャリア10が密着層形成室117に配置されているときに、次のキャリア10へ、2枚の未処理の基板1の搭載動作が行われる。その後、次のキャリア10は密着層形成室117に移動し、基板1に密着層が形成され、ロードロックチャンバ111内でさらに次のキャリア10への基板1の搭載動作が行われる。1タクトタイムが経過する毎に、各キャリア10はチャンバ117〜131を1ずつ移動しながら、順次所定の処理がなされる。
【0016】
チャンバ117〜131は各種処理を行う処理室である。処理室の具体例としては、基板1に密着層を形成する密着層形成室117、密着層が形成された基板1に軟磁性層を形成する軟磁性層形成室118、119、120、軟磁性層の形成された基板1にシード層を形成するシード層形成室121、シード層が形成された基板1に中間層を形成する中間層形成室123、124、中間層が形成された基板1に磁性膜を形成する磁性膜形成室126、127、128、磁性膜の上にta−C膜からなる表面保護層を形成するta−C膜形成チャンバ129、ta−C膜の表面をラジカル処理するラジカル処理チャンバ130(ラジカル処理装置)が挙げられる。また、矩形の閉ループ状に接続された真空処理装置の4つの角の部分に位置するチャンバ112、113、114、115は、基板1の搬送方向を90度転換する方向転換装置を備えた方向転換チャンバである。チャンバ131はキャリアに付着した堆積物を除去するアッシング処理室である。上述しなかった他の処理室は、基板1を冷却する基板冷却室や、基板1を持ち替える基板持替室などとして構成されうる。
【0017】
ta−C膜形成チャンバ129の概略図を図2に示す。図2を用いて本実施形態のta−C膜形成チャンバ129について説明する。ta−C膜形成チャンバ129は、プロセスチャンバ201と、プロセスチャンバ201と内部が連通するように連結されたフィルタ部210と、フィルタ部210に内部で連通されるように連結されたソース部220を有する。プロセスチャンバ201内には、基板1を搭載したキャリア10を所定位置に移動できる搬送装置202が設けられている。
【0018】
フィルタ部210は電子及びカーボンイオンを基板1に向けて輸送する通路であり、フィルタ部210を囲むようにフィルタコイル212や永久磁石等の磁場形成手段が設けられている。磁場形成手段は電子、およびイオンを輸送するための磁場を形成する。本実施形態の磁場形成手段は、フィルタ部210の外側(大気側)に設けられているが内部(真空側)にも配置されうる。
【0019】
ソース部220は、電子及びカーボンイオンを生成するための陰極ターゲット部240と、アノード電極を備える陽極アノード部230を有している。陽極アノード部230と陰極ターゲット部240間での電子電流もしくはイオン電流を維持することにより、アーク放電を維持する。本実施形態の陰極ターゲット部240にはカーボン製のターゲットが搭載される。また、本実施形態ではta−C膜を真空アーク放電を用いた装置で形成したがta−C膜はスパッタリングプロセスで形成してもよい。
【0020】
図3にキャリアの概略を示す。キャリア10は2枚の基板1を同時に搭載することができる。キャリア10は、基板1を保持する金属製のホルダー401を2つと、ホルダー401を支持して搬送路上を移動するスライダ402とを有している。ホルダー401に設けられた複数の弾性部材(板ばね)403で基板1の外周部の数カ所を支持できるため、基板1の表裏の成膜面を遮ることなくターゲットに対向した姿勢で保持できる。
【0021】
搬送装置は、搬送路に沿って並べられた多数の従動ローラと、磁気結合方式により動力を真空側に導入する磁気ネジを備えている。キャリア10のスライダ402は永久磁石404が設けられている。回転する磁気ネジのらせん状の磁場をスライダ402の永久磁石404と磁気結合させた状態で、磁気ねじを回転させるとスライダ402(キャリア10)を従動ローラに沿って移動させることができる。なお、キャリア10及び搬送装置の構成としては特開平8−274142号公報に開示された構成を採用しうる。もちろん、リニアモータやラックアンドピニオンを用いた搬送装置を用いてもよい。
【0022】
ラジカル処理チャンバ130などのチャンバは、基板1の電位を変更する電圧印加手段を備えている。キャリア10のホルダーに保持された基板1は、導電性の弾性部材(板ばね)403を介してホルダー401と電気的に接続されている。弾性部材403の電位を変更することで基板1の電位を変更することができる。電圧印加手段は、基板電圧印加電源302若しくはアースに接続された電極をホルダー401に接触させる装置である。ホルダー401は接地電位でもよい。また、ホルダー401に、直流電源、パルス電源または高周波電源などから適宜選択した電源を用いて各種の電力を印加してもよい。
【0023】
図4はラジカル処理装置130(表面処理装置)を上方から見た模式図である。図4を用いて本実施形態のラジカル処理装置130について説明する。ラジカル処理装置130は、基板処理チャンバ300(ラジカル処理容器)、ラジカル源320、基板処理チャンバ300とラジカル源320の間に基板処理チャンバ300とラジカル源320を連結するラジカル導入路309(ラジカル導入部)を備えている。ラジカル導入路309は基板処理チャンバ300へのラジカル流量を調整する流量調整部308を有する。基板処理チャンバ300は、キャリア10(基板1)を基準として左右対称の構成を備えており、ラジカル源320とラジカル導入路309も左右にそれぞれ設けられている。そのため、キャリア10に保持された2つの基板1の両面に同時に処理できる。キャリア10を介して基板1を中央の所定位置に保持できるように搬送装置が設けられている。排気系301は、基板処理チャンバ300内を真空排気できるターボ分子ポンプ等の真空ポンプである。
【0024】
ラジカル源320は、プロセスガスを導入するガス導入部303と、ラジカルを生成するラジカル発生手段304と、ラジカル発生手段304に電力を投入してラジカルを発生するラジカル発生部305と、ラジカル発生部305とラジカル発生部305からラジカル導入路309へのラジカルの流入を制御するバルブ307を備えている。発生したラジカルがラジカル導入路309を通って導入され、基板処理チャンバ300に導入される。
【0025】
ガス導入部303は、ガスボンベ等のガス供給源、ガス供給源から供給されるガス導入量をコントロールするマスフローコントローラ(MFC)、真空容器内にガスを導入するガス導入部材、及びこれらの部材の間でガスを流通させるガス管を有している。ラジカル発生手段304はラジカルを生成する手段である。ラジカル発生部305はラジカル発生手段304を備えたものであり、導入されたプロセスガスに電力を投入してラジカルを発生する。ラジカル発生部305はラジカル導入路309を介して基板処理チャンバ300に接続され、ラジカル導入路309を介してラジカルを基板処理チャンバ300内に導入できる。ラジカル導入路309にはガス流量を調整するMFCやオリフィスなどから構成された流量調整部308が設けられている。
【0026】
ガス整流板310は、基板処理チャンバ300内で所定位置に配置された基板1に対して平行に設けられた一対の板状部材であり、ラジカルを基板1の成膜面に対して均一に照射するために多数のガス噴き出し口を有している。本実施形態のガス整流板310は、均等間隔若しくは基板内孔の対向面にガス噴き出し口が設けられたものを用いたが、ガス整流板310は、環状に均等間隔に配置されたガス噴き出し口を有するものでもよい。また、ガス整流板310は一対に限らず、1枚、もしくは3枚以上設けてもよい。基板処理部306は、基板処理チャンバ300内において、ガス整流板310と基板1の間の空間である。基板処理部306内で、ガス整流板310を介して導入されたラジカルにより基板1の表面に形成されたta−C膜の表層に処理(ラジカル処理)がされる。
【0027】
ラジカル発生手段304は、紫外光励起もしくはプラズマ励起を用いてプラズマを生成する手段である。紫外光励起源としては、例えば、エキシマランプ、キセノンランプが用いられる。プラズマ励起を用いた場合、高周波プラズマ、直流プラズマ源のいかなるプラズマ源も適用可能である。紫外光励起とプラズマ励起を併用してラジカル発生手段304を構成してもよい。
【0028】
ラジカル処理チャンバ130はラジカル発生部305を複数備えている。複数のラジカル発生部305から同時にラジカルを供給してもよいし、1つずつ交互にラジカルを供給するようにしてもよい。交互にラジカルを供給する場合は、1タクトタイム終了後に、次の基板処理に対して直前のプロセスで使用していないラジカル発生部305から基板処理チャンバにラジカルを供給するとよい。こうすると、ラジカルを安定して供給できるため生産性の向上を図れる。
【0029】
ラジカル処理装置130を使用した表面処理工程について詳細に説明する。プロセスガスをラジカル処理装置130のラジカル発生部305にガス導入部303を介して所定の流量で導入する。プロセスガスとしては、酸素ガス(Oガス)または水素ガス(Hガス)もしくはそれらを含んだ混合ガスを用いることができる。あるいは、プロセスガスとして、窒素あるいはNO、NO、NHのうち少なくとも1つを混合した混合ガスやCF、C、C等を用いることもできる。ラジカル発生手段304に所望の電力を投入し、ラジカル発生部305に導入したプロセスガスを解離及び励起してラジカル発生部305にてラジカルを発生させる。
【0030】
発生したラジカルは、導入ガスと共にラジカル導入路309を通過して、基板1が配置される基板処理部306へ導入される。この導入中、ラジカル導入路309に設けられた流量調整部308により、所望の流量に調整される。所定の流量に調整されたラジカルは、基板処理チャンバ300内に導入される。そして、ラジカルが基板処理部306の所定位置に搬送された基板1に照射されてta−C膜の表層と反応してラジカル処理が行われる。ラジカル処理された基板をラジカル処理装置130から排出する。
【0031】
なお、本実施形態のようなインライン式の真空処理装置装置(図1参照)では、基板1の搬送時に隣接処理チャンバ間に圧力差がある場合、ゲートバルブを開放したときに、圧力が高いチャンバから低い処理室に向かってガスが流入する。本発明のta−C膜形成プロセスはプロセスガスを使用しないため、ta−C膜形成室129の圧力は隣接室より低く、隣接室からガスが流入するおそれがある。そして、ta−C膜形成室129に隣接室からのガスが残存した状態でta−C膜形成プロセスを行うと膜中にガス成分が混入し、所望の膜質を得ることができない。このため、ta−C膜形成室129に隣接した処理室のプロセスガスを十分排気した後にキャリア搬送を行う、若しくはta−C膜形成室129に流入したガスを十分排気した後にta−C膜の形成を行うことが望ましい。
【0032】
ラジカル処理装置130は、ラジカル発生部305と基板処理部306が分かれていることから、基板処理部306の圧力の必要以上の上昇を抑えることができる。ラジカル発生部305と基板処理部306が分かれているので、基板処理チャンバ300には所定流量に調整されたガス(ラジカル)導入となり、ガスの導入量が少なくなるためである。このような構造としたことにより、基板1の搬送時にラジカル処理装置130からta−C膜形成チャンバ129へのプロセスガスの流入をさらに低減できる。
【0033】
(第2実施形態)
上述の第1実施形態ではラジカル処理装置130でラジカル処理を行う構成例について説明したが、ラジカル処理をアンロードチャンバで行ってもよい。ラジカル処理をアンロードチャンバで行う構成例について第2実施形態として以下に説明する。本実施形態は、第1実施形態のラジカル処理装置130で行ったラジカル処理をアンロードチャンバ516内で行う構成である。図1の真空処理装置と比べると、本実施形態の真空処理装置は、第1実施形態のアンロードチャンバ116を表面処理が可能なアンロードチャンバ516に交換し、ラジカル処理装置130を備えない、もしくはラジカル処理装置130の位置で異なる処理を行う構成となる。すなわち、本実施形態のアンロードチャンバ516aは、第1実施形態のラジカル処理チャンバ300に相当する。なお、本実施形態の説明において、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0034】
本実施形態のラジカル処理装置はアンロードチャンバ516と一体に構成されているが、これは、アンロードチャンバ516内にラジカル処理装置を組み込んだ構成の他にも、アンロードチャンバとラジカル処理装置を隣接させた構成も含むものである。例えば、ラジカル処理装置をアンロードチャンバの基板排出側に取り付ける構成はアンロードチャンバ516と同様のものであり、本実施形態と同じ効果が期待できる。
【0035】
図5は、本実施形態のアンロードチャンバ516の側面図である。アンロードチャンバ516は、基板1をキャリア10から取り外すアンロードチャンバ516bと、取り外した基板を収容するアンロードチャンバ516cと、基板1に表面処理を実施した後、基板1を大気側に搬出するアンロードチャンバ516aから構成されている。アンロードチャンバ516aとアンロードチャンバ516cはゲートバルブを介して接続されている。排気装置501、511はそれぞれアンロードチャンバ516a、アンロードチャンバ516cに接続されている。アンロードチャンバ516a、アンロードチャンバ516cのそれぞれは、基板1を複数収容できるカセット502(基板収納部材)を備えている。排気装置501、511は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプを備えている。
【0036】
アンロードチャンバ516aは、流量調整部308を介してラジカル源320に接続されている。ラジカル源320は、プロセスガスを導入するガス導入部303と、ラジカルを生成するラジカル発生手段304、ラジカル発生手段304に電力を投入してラジカルを発生するラジカル発生部305、所定位置に搬送された基板1をラジカル処理する基板処理部306、ラジカル発生部305から発生したラジカルを基板処理部306に導入するラジカル導入路(ラジカル導入部)、ラジカル発生部305からラジカル導入路へのラジカルの流入を制御するバルブ307を備えている。また、流量調整部308はラジカル源320からアンロードチャンバ516aに導入されるラジカルの流量を調整する部材である。すなわち、本実施形態のアンロードチャンバ516aと流量調整部308とラジカル源320を合わせたものが、第1実施形態のラジカル処理装置130に相当する。
【0037】
ガス導入部303は、ガスボンベ等のガス供給源、ガス供給源から供給されるガス導入量をコントロールするMFC、真空容器内にガスを導入するガス導入部材、及びこれらの部材の間でガスを流通させるガス管を有している。ガス整流板510は、アンロードチャンバ516a内のカセット502に収納された基板1の上方に設けられた板状部材であり、ガス整流板310と同様、ガス(ラジカル)を均一に導入するために多数のガス噴き出し口を有している。本実施形態ではガス整流板510を1枚だけ設けているが、複数設けてもよい。
【0038】
ラジカル導入路309とガス整流板510を介してラジカルを導入することにより、カセット502に収納された所定数の基板1のラジカル処理を同時に行うことができる。本実施形態の真空処理装置によれば、多数の基板1のラジカル処理を同時に行うことができるため、スループットを大幅に向上させることができる。
【0039】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態に係る真空処理装置を示す平面図である。本実施形態に係る真空処理装置は、ta−C膜形成室129を、方向転換室115とアンロードチャンバ516bの間に配置されている点で、第2実施形態の真空処理装置と異なっている。ラジカル処理はアンロードチャンバ516aで行うことは第2実施形態と同様である。なお、本実施形態の説明において、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0040】
本実施形態に係る真空処理装置にてラジカル処理を行う場合について説明する。まず、ta−C膜形成室129でta−C膜が形成された基板1をアンロードチャンバ516bに搬送し、キャリア10から基板1を取り外し、カセット502に収納する。その後、カセット502に複数枚収納された時点で、基板載せ換えロボット151によりアンロードチャンバ516bからアンロードチャンバ516aに搬送し、図5に示したアンロードチャンバを使用して、基板1の両面にラジカルを用いたラジカル処理を行う。
【0041】
本実施形態に係る真空処理装置では、ta−C膜形成室129を、方向転換室115と、ラジカル処理装置としてのアンロードチャンバ516bの間に配置し、表面処理(ラジカル処理)はアンロードチャンバ516aで行う構成とした。このため、ta−C膜形成室129の両側にプロセスガスを使用するチャンバを配置していない。このような配置とすることで、インライン式の製造装置において、基板1の搬送時に隣接室からta−C膜形成室129へのプロセスガスの流入を確実に防ぎ、膜質のよいta−C膜を高い生産性で連続して形成することができる。
【0042】
上述した真空処理装置を用いた表面処理の例を実施例1,2として以下に説明する。上述した第1実施形態に示す装置を用いて、基板の上に密着層、下部軟磁性層、シード層、中間層、磁気記録層、表面保護層としてta−C膜を順次積層した。次に、基板をラジカル処理装置130に搬送し、ta−C膜が形成された基板の両面にラジカルを用いた表面処理を実施した。なお、第2実施形態もしくは第3実施形態の真空処理装置を用いる場合は、ラジカル処理をアンロードチャンバ516aで行う以外は同様の処理が行われる。
【0043】
(実施例1)
図7は、実施例1に係る表面処理方法である。磁性層610上に形成されたta−C膜601の表面には、sp結合比率が低い層603が表面近傍、深さ0.5nm程度まで生じている。図7に示すようにラジカルで表面保護層601の一部を除去した後は、表面粗さの増加を伴わずに、sp結合比率が低い層603が除去され、sp結合比率が高い層602が残り、膜全体に占めるsp結合比率が高くなる。基板断面612と磁性層610の間の層611は、密着層、軟磁性層、シード層、中間層の積層体である。密着層の材料としては、AlTi、AlTa、NiTa、またはCoTiAl等を用いることができる。軟磁性層の材料としては、FeCo合金、FeTa合金、Co合金等とRu合金等との積層体を用いることができる。シード層の材料としては、NiW合金、NiFe合金、NiTa合金、TaTi合金等を用いることができる。中間層にはRuやRu合金の積層体を用いることができる。
【0044】
さらに、sp結合比率が低い層603がラジカルで除去される際にsp結合比率が高い層602の最表層にラジカルが照射されるため、sp結合比率が高い層602の最表層の表面エネルギを均一に制御することができる。本実施形態の表面処理では、ラジカル発生部305が基板処理部306とラジカル導入路309を介して接続されており、ta−C膜が直接プラズマまたは紫外光に曝されることがない。そのため、表面処理時にプラズマから飛来する運動エネルギを有したイオンや紫外光によるta−C膜へのダメージがないため、ta−C膜が変質し特性を損なうことがない。本実施例でのプロセスガスとしては、酸素ガスまたは水素ガスもしくはそれらを含んだ混合ガスを用いることができる。
【0045】
(実施例2)
図8は、実施例2に係る表面処理方法である。上述のように、ta−C膜601が形成された表面には、sp結合比率が低い層603が形成されている。本実施例では、ラジカル照射によりsp結合比率が低い層603を改質した表面処理層704を形成した。本実施例のラジカル照射では、表面処理層704を形成しながらエッチングするため、sp結合比率が低い層603より薄い表面処理層704を形成できる。表面処理層704は、表面のsp結合比率が低い層603を改質した層であり、sp結合比率が低い層603と比べて表面粗さは増加していない。
【0046】
ここで、実施例2で形成した表面処理層704の特性とエッチング速度は、照射するラジカル量、照射時間、プロセスガスの混合比等を選択することで制御できる。例えば、窒化層形成による親水性及び潤滑剤吸着性を改善した特性、あるいはフッ化層形成による撥水性及び離型性を改善した特性を付与した表面処理層704にすることができる。ラジカル処理の際に、付与した特性に合わせてラジカルを生成するガス種を選択して、ラジカル発生部305に供給する。
【0047】
表面処理層704として窒化層を形成する場合には、プロセスガスとして、窒素あるいはNO、NO、NHのうち少なくとも1つを混合した混合ガスが用いられる。ここで、表面処理層の特性とエッチング速度は、照射するラジカル量、照射時間、プロセスガスの混合比等を選択することで制御できる。特に、上記のプロセスガスに加えて酸素もしくは水素ガスを添加することで、カーボンのエッチングを促進することが可能である。
【0048】
表面処理層704としてフッ化層を形成する場合には、プロセスガスとして、CF、C、C等が用いられる。ここで、表面処理層の特性とエッチング速度は、照射するラジカル量、照射時間、ガス種を選択することで制御できる。ラジカル発生手段304に所望の電力を投入し、ラジカル発生部305に導入したプロセスガスを解離及び励起してラジカル発生部305にてラジカルを発生させる。実施例2のラジカル処理では、極表層の改質(例えば窒化)とエッチングの両方を同時に行うことができるが、選択されたガス種(例えば、純Nなど)によっては極表面の改質だけを行う処理とすることもできる。
【0049】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。
【0050】
本願は、2014年3月4日提出の日本国特許出願特願2014−41685を基礎として優先権を主張するものであり、その記載内容の全てを、ここに援用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図6
図8