(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055587
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 17/00 20060101AFI20161219BHJP
B60C 15/06 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
B60C17/00 B
B60C15/06 B
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-58859(P2011-58859)
(22)【出願日】2011年3月17日
(65)【公開番号】特開2012-192853(P2012-192853A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年2月7日
【審判番号】不服2015-17722(P2015-17722/J1)
【審判請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100178685
【弁理士】
【氏名又は名称】田浦 弘達
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 剛
【合議体】
【審判長】
和田 雄二
【審判官】
出口 昌哉
【審判官】
尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−90776(JP,A)
【文献】
特開2011−42239(JP,A)
【文献】
特開平11−310017(JP,A)
【文献】
特開2004−175263(JP,A)
【文献】
特開2009−126409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部から一対のサイドウォール部を介して一対のビード部にわたってトロイド状に延び、ビード部内に埋設されたビードコアに係止されるカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、ビードコアの周りでタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返されてなるカーカス折り返し部とで構成される、少なくとも1プライからなるカーカス、前記ビードコアのタイヤ径方向外方に配置されたビードフィラー、および少なくともサイドウォール部に対応する部分で前記カーカス本体部の内周側に配置された補強ゴム層を備える空気入りタイヤであって、
タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態のタイヤ幅方向断面視において、
前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端が、リムライン位置を通ってタイヤ外表面に直交する仮想線上または該仮想線よりもタイヤ回転軸線側に位置し、
前記ビードフィラーのタイヤ径方向外端が、前記仮想線を挟んで前記タイヤ回転軸線側とは反対側、且つ、前記仮想線から該仮想線に対して直交する方向に10mm以内5mm以上の範囲に位置し、
前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端と前記ビードフィラーのタイヤ径方向外端との間の距離が、前記仮想線に対して直交する方向に沿って測定して10mm以上であることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態で、タイヤ最大幅位置においてタイヤ幅方向に沿って測定したタイヤの断面厚さS1が、リムライン位置において前記仮想線の延在方向に沿って測定したタイヤの断面厚さS2の0.9倍以上1.0倍以下であることを特徴とする、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態で、前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端が、前記仮想線から該仮想線に対して直交する方向に15mm以内の範囲に位置することを特徴とする、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記補強ゴム層のデュロメータA硬さが60〜80であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ビードフィラーのデュロメータA硬さが70〜80であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端と前記ビードフィラーのタイヤ径方向外端との間の距離が、前記仮想線に対して直交する方向に沿って測定して25mm以下であることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラット走行が可能な空気入りタイヤに関し、特に、ランフラット走行時の耐久性を損なうことなく通常内圧走行時の乗り心地を向上した空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パンク等によりタイヤの内圧が低下した状態でも荷重支持能力を失うことなくある程度の距離を安全に走行することが可能な、所謂ランフラットタイヤとして、タイヤのサイドウォール部のカーカスの内面に比較的モジュラスが高い断面三日月状のサイド補強ゴム層を配置してサイドウォール部の剛性を向上させ、タイヤの内圧低下時にサイドウォール部の撓み変形を極端に増加させることなく荷重を負担できるようにしたサイド補強タイプのランフラットタイヤが各種提案されている。
【0003】
ここで、上記サイド補強タイプのランフラットタイヤでは、サイド補強ゴム層を配置してサイドウォール部の曲げ剛性を高めることにより、タイヤの内圧が低下した状態で走行(ランフラット走行)する際のタイヤの耐久性(ランフラット耐久性)を確保している。
【0004】
そのため、サイド補強タイプのランフラットタイヤには、ランフラット耐久性を確保するためにサイドウォール部の曲げ剛性を十分に高めると、タイヤの内圧が低下していない通常内圧時のタイヤの縦バネ定数が大幅に増加してしまい、通常内圧走行時の乗り心地が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、ランフラット耐久性を維持しつつ通常内圧走行時の乗り心地性能を改善したランフラットタイヤとして、硬質ゴムと軟質ゴムの2種類のゴムを用いて構成したサイド補強ゴム層を有する空気入りタイヤが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。そして、この空気入りタイヤによれば、サイド補強ゴム層の一部に軟質ゴムを使用してサイド補強ゴム層の弾性率を低減しているので、サイドウォール部の曲げ剛性を適度な大きさとして、ランフラット耐久性を確保しつつ乗り心地性能を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−278806号公報
【特許文献2】特開2000−351307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、硬質ゴムと軟質ゴムとの2種類のゴムを用いて構成したサイド補強ゴム層を有する上記従来の空気入りタイヤでは、乗り心地性能を十分に改善することができなかった。即ち、従来の空気入りタイヤでは、平坦な路面を通常内圧で走行している際の乗り心地性能に更なる改善の余地があると共に、タイヤが路面から大きな入力を受けることがある粗い路面(うねりや突起のある路面)を通常内圧で走行している際の乗り心地性能を十分に改善することができなかった。しかしながら、サイド補強ゴム層を有する空気入りタイヤにおいて乗り心地性能を十分に改善するためにサイド補強ゴム層全体を軟質ゴムで構成すると、サイドウォール部の曲げ剛性を十分に確保することができず、ランフラット耐久性が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、ランフラット耐久性を確保しつつ、通常内圧走行時の乗り心地性能、特に粗い路面における通常内圧走行時の乗り心地性能を向上した、ランフラット走行が可能な空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部から一対のサイドウォール部を介して一対のビード部にわたってトロイド状に延び、ビード部内に埋設されたビードコアに係止されるカーカス本体部と、該カーカス本体部から延び、ビードコアの周りでタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返されてなるカーカス折り返し部とで構成される、少なくとも1プライからなるカーカス、前記ビードコアのタイヤ径方向外方に配置されたビードフィラー、および少なくともサイドウォール部に対応する部分で前記カーカス本体部の内周側に配置された補強ゴム層を備える空気入りタイヤであって、タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態のタイヤ幅方向断面視において、前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端が、リムライン位置を通ってタイヤ外表面に直交する仮想線上または該仮想線よりもタイヤ回転軸線側に位置し、前記ビードフィラーのタイヤ径方向外端が、前記仮想線を挟んで前記タイヤ回転軸線側とは反対側、且つ、前記仮想線から該仮想線に対して直交する方向に10mm以内
5mm以上の範囲に位置し、前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端と前記ビードフィラーのタイヤ径方向外端との間の距離が、前記仮想線に対して直交する方向に沿って測定して10mm以上であることを特徴とする。このように、補強ゴム層のタイヤ径方向内端の位置を、リムライン位置を通ってタイヤ外表面に直交する仮想線上または該仮想線よりもタイヤ回転軸線側とすれば、通常内圧走行中のタイヤが路面から入力を受けた際に、補強ゴム層のタイヤ径方向内端を支点として補強ゴム層が曲げ変形し、入力を緩和することができる。また、ビードフィラーのタイヤ径方向外端の位置を、仮想線を挟んでタイヤ回転軸線側とは反対側、且つ、仮想線から該仮想線に対して直交する方向に10mm以内
5mm以上の範囲とすれば、荷重負担時にビードフィラーのタイヤ径方向外端部の倒れ込み変形が大きくなるのを抑制して、故障発生を抑制することができる。更に、補強ゴム層のタイヤ径方向内端とビードフィラーのタイヤ径方向外端との間の距離を、仮想線に対して直交する方向に沿って測定して10mm以上とすれば、補強ゴム層のタイヤ径方向内端とビードフィラーのタイヤ径方向外端とを近接配置した場合と比較して、荷重負担時に歪が集中するのを抑制することができる。従って、この空気入りタイヤによれば、サイドウォール部の剛性を確保してランフラット耐久性を維持しつつ、乗り心地性能を改善することができる。
【0010】
なお、本発明において、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会) YEAR BOOK、欧州ではETRTO(European Tyre and Rim Technical Organisation) STANDARD MANUAL、米国ではTRA(THE TIRE and RIM ASSOCIATION INC.)YEAR BOOK等に規定されたリムを指す。また、本発明において、「タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態」とは、タイヤを適用リムに装着し、適用サイズのタイヤにおけるJATMA等の規格のタイヤ最大負荷能力に対応する内圧(最高空気圧)とした状態を指す。更に、本発明において、「リムライン位置」とは、適用リムに装着して所定内圧を適用した無負荷状態でのタイヤとリムとの離反点を指す。
【0011】
ここで、本発明の空気入りタイヤは、タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態で、タイヤ最大幅位置においてタイヤ幅方向に沿って測定したタイヤの断面厚さS1が、リムライン位置において前記仮想線の延在方向に沿って測定したタイヤの断面厚さS2の0.9倍以上1.0倍以下であることが好ましい。S1をS2の0.9倍以上(S1/S2≧0.9)とすれば、サイドウォール部の剛性を十分に確保してランフラット耐久性を維持することができるからである。また、S1をS2の1.0倍以下(S1/S2≦1.0)とすれば、通常内圧走行中のタイヤが路面から入力を受けた際に、サイドウォール部が大きく曲げ変形するので、入力を緩和することができ、乗り心地性能が更に向上するからである。
【0012】
また、本発明の空気入りタイヤは、タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態で、前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端が、前記仮想線から該仮想線に対して直交する方向に15mm以内の範囲に位置することが好ましい。補強ゴム層のタイヤ径方向内端の位置を、仮想線から該仮想線に対して直交する方向に15mm以内の範囲とすれば、タイヤの転がり抵抗が増加するのを抑制することができるからである。
【0013】
更に、本発明の空気入りタイヤは、前記補強ゴム層のデュロメータA硬さが60〜80であることが好ましい。補強ゴム層のデュロメータA硬さを60以上とすれば、サイドウォール部の剛性を十分に確保してランフラット耐久性を維持することができるからである。また、補強ゴム層のデュロメータA硬さを80以下とすれば、通常内圧時のタイヤの縦バネ定数が大幅に増加するのを抑制して、通常内圧走行時の乗り心地性能を向上することができるからである。
【0014】
そして、本発明の空気入りタイヤは、前記ビードフィラーのデュロメータA硬さが70〜80であることが好ましい。ビードフィラーのデュロメータA硬さを70以上とすれば、ビード部の剛性を確保してビード部耐久性を確保することができるからである。また、ビードフィラーのデュロメータA硬さを80以下とすれば、通常内圧時のタイヤの縦バネ定数が増加するのを抑制することができるからである。
また、本発明の空気入りタイヤは、前記補強ゴム層のタイヤ径方向内端と前記ビードフィラーのタイヤ径方向外端との間の距離が、前記仮想線に対して直交する方向に沿って測定して25mm以下であることが好ましい。
【0015】
なお、本発明において、「デュロメータA硬さ」とは、JIS K6253に準拠して測定した硬さを指す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ランフラット耐久性を確保しつつ、通常内圧走行時の乗り心地性能、特に粗い路面における通常内圧走行時の乗り心地性能を向上した、ランフラット走行が可能な空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に従う空気入りタイヤの一例を、適用リムに装着した状態で、タイヤ半部について示すタイヤ幅方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に従う空気入りタイヤの一例について、適用リムRに装着して所定内圧を適用した無負荷状態のタイヤ幅方向断面をタイヤ半部についてのみ示す図である。
【0019】
ここで、
図1に示す空気入りタイヤ10は、パンク等によりタイヤの内圧が低下した状態でも荷重支持能力を失うことなくある程度の距離を安全に走行することが可能なランフラットタイヤである。
【0020】
そして、空気入りタイヤ10は、トレッド部1と、トレッド部1の側部からタイヤ径方向内方に延びる一対のサイドウォール部2(片側のみ図示)と、各サイドウォール部2のタイヤ径方向内方に連なるビード部3(片側のみ図示)とを備えている。
【0021】
また、空気入りタイヤ10は、一対のビード部3間に延在する2プライからなるラジアルカーカス5を備えている。ここで、ラジアルカーカス5は、トレッド部1から一対のサイドウォール部2を介して一対のビード部3にわたってトロイド状に延び、ビード部3内に埋設された断面略六角形のビードコア4の周りに折り返されてなる第1ラジアルカーカスプライ51および第2ラジアルカーカスプライ52よりなる。そして、第1ラジアルカーカスプライ51および第2ラジアルカーカスプライ52はそれぞれ、トレッド部1から一対のサイドウォール部2を介して一対のビード部3にわたってトロイド状に延び、ビード部3内に埋設された断面略六角形のビードコア4に係止されるカーカス本体部51a,52aと、該カーカス本体部51a,52aから延び、ビードコア4の周りでタイヤ幅方向内側から外側に折り返されてなるカーカス折返し部51b,52bとで構成されている。また、第1ラジアルカーカスプライ51のカーカス折返し部51bのタイヤ径方向外端5aは、第2ラジアルカーカスプライ52のカーカス折返し部52bのタイヤ径方向外端よりもタイヤ径方向外方に位置している。なお、
図1ではカーカスプライのプライ数を2プライとした場合を示しているが、本発明の空気入りタイヤでは、プライ数は必要に応じて1プライとしたり、3プライ以上としたりすることができる。また、本発明の空気入りタイヤでは、カーカスはバイアスカーカスであっても良い。
【0022】
更に、トレッド部1のラジアルカーカス5のタイヤ径方向外側(クラウン部外周側)には、コードがタイヤ赤道面を挟んで相互に交差する方向に傾斜して延びる2層の傾斜ベルト層(交差ベルト層)61,62と、コードがタイヤ周方向に対して5°以下の傾斜角度で螺旋巻回することにより配列された周方向ベルト層63とを順次配置してなるベルト6が配置されている。また、ベルト6のタイヤ径方向外方には、トレッドゴムが配置されており、該トレッドゴムの表面には、タイヤ周方向に延びる周方向溝等のトレッド溝が形成されている。なお、
図1では、ベルト6が、合計3枚のベルト層61,62,63からなる場合を示しているが、本発明の空気入りタイヤでは、ベルト層の構成、配置位置、および数は、必要に応じて適宜変更することができる。
【0023】
また、トレッド部1のタイヤ幅方向端部からサイドウォール部2を介してビード部3に亘る領域の、ラジアルカーカス5と、該ラジアルカーカス5の内周側に配置されたインナーライナー9との間(即ち、タイヤ内面側に位置する第1ラジアルカーカスプライ51のカーカス本体部51aとインナーライナー9との間)には、比較的モジュラスが高いゴムよりなる補強ゴム層7が配置されている。そして、この補強ゴム層7は、タイヤ径方向内方およびタイヤ径方向外方のそれぞれに向けて厚みが漸減する断面略三日月状をしている。
【0024】
更に、ビード部3のビードコア4のタイヤ径方向外方であって、カーカス本体部51a,52aとカーカス折返し部51b,52bとで挟まれた領域には、ラジアルカーカス5に沿ってタイヤ径方向外方に向けて厚みが漸減する断面略三角形のビードフィラー8が配置されている。
【0025】
そして、
図1に示すように、タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態のタイヤ幅方向断面視において、この空気入りタイヤ10では、補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aが、リムライン位置RLを通ってタイヤ外表面に直交する仮想線Pよりもタイヤ回転軸線(図示せず)側、即ち仮想線Pよりもタイヤ径方向内方に位置するビードコア4側に位置している。
【0026】
従って、この空気入りタイヤ10では、補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aを支点として補強ゴム層7を曲げ変形させ得る。よって、空気入りタイヤ10では、粗い路面などを通常内圧で走行中にタイヤが路面から大きな入力を受けた場合であっても、補強ゴム層7が十分に曲げ変形して入力を緩和することができるので、乗り心地性能を向上させることができる。因みに、補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aを、仮想線Pを挟んでタイヤ回転軸線やビードコア4とは反対側に位置させた場合には、補強ゴム層7が十分に曲げ変形することができず、補強ゴム層7が圧縮変形して入力を十分に緩和することができない。
また、空気入りタイヤ10では、補強ゴム層7の配置によりサイドウォール部2の剛性を高めることができるので、ランフラット耐久性を確保することができ、パンク等によりタイヤの内圧が低下した状態でも荷重支持能力を失うことなくある程度の距離を安全に走行し得る。
【0027】
なお、本発明の空気入りタイヤでは、補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aは、仮想線P上に位置していても良い。
【0028】
また、空気入りタイヤ10では、ビードフィラー8のタイヤ径方向外端8aが、仮想線Pを挟んで補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aやビードコア4とは反対側(即ち、仮想線Pを挟んでタイヤ回転軸線側とは反対側)に位置している。更に、空気入りタイヤ10では、仮想線Pに対して直交する方向に沿って測定した、仮想線Pからビードフィラー8のタイヤ径方向外端8aまでの距離H1が、10mm以内、好ましくは8mm以内であり、更に好ましくは5mm以上である。
【0029】
従って、空気入りタイヤ10では、ランフラット走行時などの荷重負担時にビードフィラー8のタイヤ径方向外端部の倒れ込み変形が大きくなるのを抑制して、故障発生を抑制することができる。因みに、距離H1が10mm超の場合には、ランフラット走行時などの荷重負担時におけるビードフィラー8のタイヤ径方向外端部の倒れ込み変形が大きくなり、適用リムRのリムフランジからタイヤのビード部3への突き上げによる故障が発生し易くなる。
【0030】
更に、空気入りタイヤ10では、仮想線Pに対して直交する方向に沿って測定した、補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aと、ビードフィラー8のタイヤ径方向外端8aとの間の距離H2が、10mm以上、好ましくは12mm以上であり、更に好ましくは25mm以下である。
【0031】
従って、空気入りタイヤ10では、ランフラット走行時などの荷重負担時に補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aとビードフィラー8のタイヤ径方向外端8aとの間に歪が集中するのを抑制することができる。よって、補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aとビードフィラー8のタイヤ径方向外端8aとを近接配置した場合(距離H2を小さくした場合)に比べ、タイヤのビード部3の耐久性を向上させることができる。
【0032】
なお、空気入りタイヤ10では、タイヤ最大幅位置M(適用リムRに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態においてタイヤの断面幅が最大になる位置)においてタイヤ幅方向に沿って測定したタイヤの断面厚さS1を、リムライン位置RLにおいて仮想線Pの延在方向に沿って測定したタイヤの断面厚さS2の0.9倍以上1.0倍以下(0.9≦S1/S2≦1.0)とすることが好ましい。S1をS2の0.9倍以上(S1/S2≧0.9)とすれば、サイドウォール部2の剛性を十分に確保してランフラット耐久性を維持することができるからである。また、S1をS2の1.0倍以下(S1/S2≦1.0)とすれば、通常内圧走行中のタイヤが路面から入力を受けた際に、サイドウォール部2が大きく曲げ変形するので、路面からの入力を緩和することができ、乗り心地性能が更に向上するからである。因みに、S1/S2>1.0とした場合には、タイヤに荷重を負荷した際の曲げ中心位置がビード部3側に位置することとなり、タイヤの曲げ変形が小さくなるので、路面からタイヤへの入力を十分に緩和することができない。
【0033】
このように、この空気入りタイヤ10によれば、サイドウォール部2の剛性を確保してランフラット耐久性を維持しつつ、乗り心地性能を改善することができる。
【0034】
なお、本発明の空気入りタイヤは、上記一例に限定されることは無く、本発明の空気入りタイヤには、適宜変更を加えることができる。
【0035】
具体的には、本発明の空気入りタイヤでは、タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態で、補強ゴム層7のタイヤ径方向内端7aの位置が、仮想線Pに対して直交する方向に測定して、仮想線Pから15mm以内の範囲内にある(H2−H1≦15)ことが好ましい。H2−H1を15mm以下とすれば、タイヤの転がり抵抗が増加するのを抑制することができるからである。
【0036】
更に、本発明の空気入りタイヤでは、補強ゴム層7のデュロメータA硬さを60〜80とすることが好ましく、また、ビードフィラー8のデュロメータA硬さを70〜80とすることが好ましい。補強ゴム層7のデュロメータA硬さを60以上とすれば、サイドウォール部2の剛性を十分に確保してランフラット耐久性を維持することができ、補強ゴム層7のデュロメータA硬さを80以下とすれば、通常内圧時のタイヤの縦バネ定数が大幅に増加するのを抑制して、通常内圧走行時の乗り心地性能を向上することができるからである。更に、ビードフィラー8のデュロメータA硬さを70以上とすれば、ビード部の剛性を確保してビード部耐久性を確保することができ、ビードフィラーのデュロメータA硬さを80以下とすれば、通常内圧時のタイヤの縦バネ定数が増加するのを抑制することができるからである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
表1に示す諸元で、
図1に示すような構成を有する、サイズが245/40R18の空気入りタイヤを試作した。そして、下記の方法でタイヤの性能を評価した。結果を表1に示す。なお、補強ゴム層のデュロメータA硬さは68とし、ビードフィラーのデュロメータA硬さは78とした。
【0039】
(実施例2〜4)
諸元を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして空気入りタイヤを試作した。そして、下記の方法でタイヤの性能を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
(比較例1〜3)
諸元を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして空気入りタイヤを試作した。そして、下記の方法でタイヤの性能を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
<乗り心地性能>
作製した空気入りタイヤをそれぞれリムサイズ18×8Jのリムに装着し、内圧を230kPaとして、乗用車両に装着した。そして、乗員数2名、速度40〜100km/hrの条件で平滑路面を走行し、乗り心地を官能評価した。また、乗員数2名、速度40km/hrの条件で、30〜50mmの不規則な高低差がある粗い路面を走行し、乗り心地を官能評価した。比較例1のタイヤを基準(ゼロ)として±5段階評価を行った結果を表1に示す。なお、評価は、数値が大きいほど乗り心地性能に優れることを示している。
<ランフラット耐久性>
作製したタイヤをリムサイズ18×8Jのリムに装着した後、バルブのコアを抜き、内圧を0kPaにして、荷重4.8kN、速度80km/hrの条件でドラム走行試験を行った。そして、故障発生までの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。指数は、値が大きいほど故障発生までの走行距離が長く、ランフラット耐久性に優れることを示す。
<ビード部耐久性>
作製したタイヤをリムサイズ18×8Jのリムに装着し、内圧を180kPaとして、荷重6.4kN、速度60km/hrの条件でドラム走行試験を行った。そして、ビード部故障発生までの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。指数は、値が大きいほど故障発生までの走行距離が長く、ビード部耐久性に優れることを示す。
<転がり抵抗>
作製したタイヤをリムサイズ18×8Jのリムに装着し、内圧230kPa、荷重4.46kN、速度80km/hrの条件でドラム走行試験を行い、タイヤの転がり抵抗を測定した。そして、比較例1のタイヤを100として指数表示した。指数は、値が小さいほど、転がり抵抗が小さいことを示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1より、実施例1〜4の空気入りタイヤでは、比較例1,3の空気入りタイヤと同等以上のランフラット耐久性を確保しつつ、通常内圧走行時の乗り心地性能を向上させ得ることが分かる。また、実施例1、3および4のタイヤでは、ビード部耐久性も向上させ得ることが分かる。更に、実施例1〜3のタイヤでは実施例4のタイヤよりも転がり抵抗を低減し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、ランフラット耐久性を確保しつつ、通常内圧走行時の乗り心地性能、特に粗い路面における通常内圧走行時の乗り心地性能を向上した、ランフラット走行が可能な空気入りタイヤ提供することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 ビードコア
5 ラジアルカーカス
5a タイヤ径方向外端
6 ベルト
7 補強ゴム層
7a タイヤ径方向内端
8 ビードフィラー
8a タイヤ径方向外端
9 インナーライナー
10 空気入りタイヤ
51 第1ラジアルカーカスプライ
52 第2ラジアルカーカスプライ
51a,52a カーカス本体部
51b,52b カーカス折返し部
61 傾斜ベルト層
62 傾斜ベルト層
63 周方向ベルト層