(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃焼時に発生するイオンを検知するためのイオン信号検出手段を備え、前記検出手段により検出されたイオン信号によりノックもしくは失火を判定する異常燃焼判定手段を備えたエンジン制御装置において、
エンジンの現在の運転条件における正常燃焼サイクルの筒内温度を推定する筒内温度推定手段と、
前記エンジン制御に関するパラメータの変化量、または前記パラメータの変化発生からの時間経過の少なくとも一つに基づいて、エンジン運転状態が定常運転状態であるかを判定する定常運転判定手段と、を備え、
前記定常運転判定手段により定常運転状態でないと判定された場合に、推定した筒内温度が高いほど、イオン信号のノック判定しきい値もしくは失火判定しきい値を高く設定すること、を特徴とするエンジン制御装置。
前記筒内温度推定手段により推定された筒内温度に基づき、正常燃焼サイクルのイオン信号値を演算する正常燃焼時イオン信号演算手段を備え、演算された前記正常燃焼時イオン信号値に基づいて、前記イオン信号のノック判定しきい値もしくは失火判定しきい値を設定すること、を特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
前記異常燃焼判定手段は、燃焼サイクル中の所定期間のイオン信号の積分値、もしくは所定期間内のイオン信号のピーク値に基づいて、ノックもしくは失火を判定すること、を特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
前記定常運転判定手段により定常運転であると判定された時に、現サイクル以前に前記イオン信号検出手段により検出された所定数のサイクルのイオン信号の平均値に基づいて、ノック判定しきい値もしくは失火判定しきい値を設定すること、を特徴とする請求項6に記載のエンジン制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、
図1〜
図10を用いて、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置の構
成及び動作について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置を自動車用筒内噴射式ガソ
リンエンジンに適用させたシステムの構成を示すシステム構成図である。
【0023】
エンジン100は、火花点火式燃焼を実施する自動車用の4気筒ガソリンエンジンであ
る。吸入空気量を計測するエアフローセンサ1と、吸気管圧力を調整する電子制御スロッ
トル2と、吸入空気温度検出器の一態様であって吸入空気の温度を計測する吸気温度セン
サ15が、さらに、吸気管内の圧力を計測する吸気圧センサ21が吸気管6の各々の適宜
位置に備えられている。また、エンジン100には、各気筒の燃焼室12の中に燃料を噴
射する燃料噴射装置(以下、インジェクタ3)と、点火エネルギーを供給する点火システ
ム4が気筒ごとに備えられ、エンジンの冷却水の温度を計測する冷却水温度センサ14が
シリンダヘッド7の適宜位置に備えられている。また、筒内に流入する吸入ガスを調整す
る吸気バルブ可変装置5aと筒内から排出される排気ガスを調整する排気バルブ可変装置
5bとから構成される可変バルブ5と、がシリンダヘッド7の各々の適宜位置に備えられ
ている。可変バルブ5を調整することにより、1番から4番まで全気筒の吸気量およびE
GR量を調整する。また、インジェクタ3に高圧燃料を供給するための高圧燃料ポンプ1
7が燃料配管によってインジェクタ3と接続されている。燃料配管中には、燃料噴射圧力
を計測するための燃料圧力センサ18が備えられている。
【0024】
さらに、排気を浄化する三元触媒10と、空燃比検出器の一態様であって、三元触媒1
0の上流側にて排気の空燃比を検出する空燃比センサ9と、排気温度検出器の一態様あっ
て、三元触媒10の上流側にて排気の温度を計測する排気温度センサ11とが排気管8の
各々の適宜位置に備えられる。また、クランク軸には、回転角度を算出するためのクラン
ク角センサ13が備えられている。
【0025】
エアフローセンサ1と空燃比センサ9と冷却水温度センサ14と吸気温度センサ15と
排気温度センサ11とクランク角センサ13と燃料圧力センサ18と吸気圧センサ21と
点火システム(イオン信号検出回路)4と可変バルブ5(位相角センサ)から得られる信
号は、エンジンコントロールユニット(ECU)20に送られる。また、アクセル開度セ
ンサ16から得られる信号がECU20に送られる。アクセル開度センサ16は、アクセ
ルペダルの踏み込み量、すなわち、アクセル開度を検出する。ECU20は、アクセル開
度センサ16の出力信号に基づいて、要求トルクを演算する。すなわち、アクセル開度セ
ンサ16は、エンジンへの要求トルクを検出する要求トルク検出センサとして用いられる
。また、ECU20は、クランク角センサ13の出力信号に基づいて、エンジンの回転速
度を演算する。ECU20は、上記各種センサの出力から得られるエンジンの運転状態に
基づき、空気流量、燃料噴射量、点火時期、燃料圧力等のエンジンの主要な作動量を最適
に演算する。
【0026】
ECU20で演算された燃料噴射量は開弁パルス信号に変換され、インジェクタ3に送
られる。また、ECU20で演算された点火時期で点火されるように、点火信号4hが点
火システム4に送られる。また、ECU20で演算されたスロットル開度は、スロットル
駆動信号として電子制御スロットル2に送られる。また、ECU20で演算された可変バ
ルブの作動量は、可変バルブ駆動信号として、可変バルブ5へ送られる。また、ECU2
0で演算された燃料圧力は、高圧燃料ポンプ駆動信号として、高圧燃料ポンプ17へ送ら
れる。
【0027】
吸気管6から吸気バルブを経て燃焼室12内に流入した空気に対し、燃料が噴射され、
混合気を形成する。混合気は所定の点火時期で点火プラグ4aから発生される火花により
爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げてエンジンの駆動力となる。更に、爆発後
の排気ガスは排気管8を経て、三元触媒10に送りこまれ、排気成分は三元触媒10内で
浄化され、外部へと排出される。
【0028】
図2は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置の点火システム4の構成を
示した図である。ECU20からの点火信号が入力されるとイグナイタ4iを介して、一
次点火コイル4cに電流が流れる。点火信号がOFFになり一次側の電流が止まると、二
次点火コイル4bに起電力が発生し、点火プラグ4aの先端に高電圧がかかり、火花放電
が生じる。火花放電時は図の矢印Iの方向に電流が流れる。二次点火コイル4bの電圧が
減少し、ツェナーダイオード4eの降伏電圧(例えば100V)よりも低くなると、電流
はキャパシタ4dに流れ込み、キャパシタ4dに電荷がチャージされる。
【0029】
火花放電により点火プラグ間ギャップに火炎核が生まれ、その後燃焼室内に火炎が伝播
していく。火炎帯には燃焼過程の中間生成物として、ケミカルイオンやサーマルイオンと
いったイオンが存在している。この時、点火プラグ4aには、火花放電時にチャージした
キャパシタ4dによって電圧(この場合は100V)がかかっており、その電圧により燃
焼室内の陽イオン(および電子)を捕捉することによって回路内にイオン電流が流れる(
図中のIIの方向)。このイオン電流は電圧変換用抵抗4fによって電圧変換された後、イ
オン信号4gとしてECU20に送られる。
【0030】
図3は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置における、点火信号とイオ
ン信号の代表例を示した図である。イオン信号に関しては、正常燃焼時、ノック時、失火
時の例を示している。イオン信号には3つの山が出る特徴がある。1つ目の山4g−1は
イオン信号検出回路が点火システム4に内蔵されている場合に見られる波形で、時刻t1
で点火信号4hが入力された際にイオン信号検出部に電流が流れイオン信号として出力さ
れる。実際には燃焼室内には燃焼火炎は存在しないタイミングなので、これはノイズとし
て処理する。2つ目の山4g−2は、充電時間Δta後に時刻t2で点火信号4hが遮断
され点火プラグ4aのギャップ間に火花が飛んだ後に見られる波形で、ギャップ間に火花
が飛んでいる間はイオン信号を検出できないものの、その後、燃焼初期火炎中のイオン成
分を検出している。3つ目の山4g−3は、燃焼火炎が燃焼室全体に燃え広がる過程で検
出される波形で、燃焼室内の圧力波形ともよく一致し、主燃焼部分の火炎中のイオン成分
を検出している。
【0031】
ノックや失火といった異常燃焼発生時は、主に3つ目の山に変化が現れる。ノック時に
おいては、ノック発生に伴い燃焼室内の圧力/温度が上昇することから3山目の信号が大
きくなり、そこにノック周波数を持つ振動成分が乗っている。失火時においては、火炎中
のイオン成分が生成しないため、3山目の信号が著しく低下する。以上の特性を考慮して
、本実施例においては3山目の信号の積分値を異常燃焼判定用に利用する。具体的には、
時刻t2で点火信号4hが遮断され、遮断後Δtb経過後の時刻t3から、Δtc経過後
の時刻t4までの間のイオン信号4gを積分する。これをS(i)とする。
【0032】
図4は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置における、異常燃焼判定手
法の失火検出原理の説明図である。グラフの横軸は図示平均有効圧つまりエンジントルク
に相当する値を表しており、縦軸はイオン信号積分値である。燃焼状態が安定している時
は図中の正常燃焼範囲内に収まっている。そのような状態において不完全燃焼や失火が発
生すると、燃焼火炎が存在しないことからイオン信号積分値S(i)は小さくなり、設定
した失火判定しきい値以下になった場合に失火と判定できる。図中黒塗りのプロットは失
火と判定する条件である。前述のように、エンジン回転数などの運転条件によって正常燃
焼時のイオン信号は変化するため、運転条件によって失火判定しきい値も変化させる必要
がある。
【0033】
図5は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置における、異常燃焼判定手
法のノック検出原理の説明図である。グラフの横軸はノック強度、例えばノックセンサの
出力信号からノック周波数成分の振動強度を演算した値であり、縦軸はイオン信号積分値
である。左に行くほどノック強度が大きい状態であり、最左部はヘビーノックの状態であ
る。ノックが発生していない時は図中の正常燃焼範囲内に収まっている。ノックが発生す
ると、燃焼室内の圧力/温度が上昇して、イオン信号積分値S(i)は大きくなる。設定
したノック判定しきい値以上になった場合にノックと判定できる。図中黒塗りのプロット
はノックと判定する条件である。前述のように、エンジン回転数などの運転条件によって
正常燃焼時のイオン信号は変化するため、運転条件によってノック判定しきい値も変化さ
せる必要がある。
【0034】
図6は、イオン信号の積分値と、筒内の最高温度との関係を示した図である。エンジン
負荷やエンジン回転数、空燃比、EGR率など、様々なパラメータを変化させて取得した
結果をプロットしている。この図から、イオン信号は筒内最高温度と強い相関があり、筒
内最高温度が高いほどイオン信号が大きくなることがわかる。例えば、エンジン負荷が大
きい条件では筒内
最高温度が上昇するため、イオン信号積分値も増加する。また、EGR
率が大きい条件では筒内ガスの熱容量が増加するため筒内最高温度が低下してイオン信号
積分値は低下する。
図4、
図5に示した失火およびノックの検出原理も、この筒内最高温
度とイオン信号との関係を利用したものである。前述のように、イオン信号から異常燃焼
を判定する際は、その時の運転状態に応じて適切な判定しきい値を設定する必要がある。
そこで、本実施例におけるエンジン制御装置は、対象サイクルの正常燃焼時の筒内最高温
度を予測し、
図6の関係を用いて正常燃焼時のイオン信号を算出する。その後、正常燃焼
時のイオン信号から異常燃焼の判定しきい値を算出する。例えば、正常燃焼時の信号を定
数倍したものを異常燃焼判定しきい値とする。
【0035】
図7は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置の構成を示すシステムブロ
ック図である。エアフローセンサ1、イオン信号4g、空燃比センサ9、排気温度センサ
11、クランク角センサ13、冷却水温度センサ14、吸気温度センサ15、アクセル開
度センサ16、燃料圧力センサ18、吸気圧センサ21、の出力信号は、ECU20の入
力回路20aに入力する。但し、入力信号はこれらだけに限られない。入力された各セン
サの入力信号は入出力ポート20b内の入力ポートに送られる。入出力ポート20bに送
られた値は、RAM20cに保管され、CPU20eで演算処理される。演算処理内容を
記述した制御プログラムは、ROM20dに予め書き込まれている。
【0036】
制御プログラムに従って演算された各アクチュエータの作動量を示す値は、RAM20
cに保管された後、入出力ポート20b内の出力ポートに送られ、各駆動回路を経て各ア
クチュエータに送られる。本実施形態の場合は、駆動回路として、電子制御スロットル駆
動回路20f、インジェクタ駆動回路20g、点火出力回路20h、可変バルブ駆動回路
20j、高圧燃料ポンプ駆動回路20kがある。各回路は、それぞれ、電子制御スロット
ル2、インジェクタ3、点火システム4、可変バルブ5、高圧燃料ポンプ17を制御する
。本実施形態においては、ECU20内に上記駆動回路を備えた装置であるが、これに限
るものではなく、上記駆動回路のいずれかをECU20内に備えるものであってもよい。
【0037】
ECU20は、入力信号に基づいて異常燃焼を判定し、異常燃焼であると判定された場
合に、点火時期および可変バルブを制御する。
【0038】
図8は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置のECU20内で実施され
る異常燃焼判定および回避制御ロジックの概要を示す図である。イオン信号処理部、ノッ
ク/失火判定部、ノック/失火回避制御部から構成される。イオン信号4gはイオン信号
処理部に入力され、
図3で示したように予め定められた区間の積分処理が実行される。ノ
ック/失火判定部には、イオン信号の積分値の他、可変バルブ5から現在のバルブ位相(
特に吸気弁閉時期、排気弁閉時期)、空燃比、吸気管圧力、点火信号(点火時期)が入力
される。ここで、吸気弁閉時期、排気弁閉時期、空燃比、吸気管圧力、点火時期を基に、
正常燃焼時における最高筒内温度
(発明の詳細な説明で上述、または特許請求の範囲、図面記載の筒内最高温度と同じ)を推定する。具体的には、排気弁閉時期および吸気管圧
力から、筒内空気量および内部EGR量を求める。吸気弁閉時期から求めた有効圧縮比と
、筒内空気量および内部EGR量とから、圧縮膨張行程における空気サイクルの筒内温度
履歴が求められる。この空気サイクルの筒内温度履歴と、空燃比から求められる燃焼時の
発生熱量と、点火時期から推定可能な燃焼終了時期と、に基づいて、正常燃焼時における
最高筒内温度を推定することができる。推定された正常燃焼時の最高筒内温度から、
図6
の関係を用いて正常燃焼時のイオン信号積分値を演算し、それに定数を乗じることによっ
てノックおよび失火の判定しきい値を算出する。ノックおよび失火の判定しきい値と、入
力されたイオン積分値を比較することで、ノックおよび失火を判定する。ノックと判定さ
れればノック判定フラグFkを1に、失火と判定されれば失火判定フラグFmを1にセットし、ノック/失火回避制御部へ出力する。
【0039】
ノック/失火回避制御部には、ノック判定フラグF
k、失火判定フラグF
mが入力され、
F
k=1であれば、ノック回避のために点火時期を遅角、吸気弁閉時期を遅角(有効圧縮
比を低下)するべく、点火出力回路20hおよび可変バルブ駆動回路20jに指令値を与
える。また、F
m=1であれば、失火回避のために点火時期を進角、吸気弁閉時期を進角
(有効圧縮比を上昇)するべく、点火出力回路20hおよび可変バルブ駆動回路20jに
指令値を与える。
【0040】
図9は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置におけるイオン信号による
異常燃焼判定および回避制御内容を示すフローチャートである。
図9に示す制御内容は、
ECU20によって、所定の周期で繰り返し実行される。
【0041】
ステップS901において、ECU20は、イオン信号4gを読み込む。次に、ステッ
プS902において、イオン信号を積分する期間を設定する。基本的には点火時期から一
定時間(例えば2ms)の経過後から、燃焼が終了する時期(例えば90deg.ATDC)ま
でを積分期間に設定する。この積分期間は運転条件ごとにマップとして予め記憶されてい
る。次に、ステップS903に進み、イオン信号積分値S(i)を算出する。記号iはi
番目サイクルを意味する。次に、ステップS904に進み、吸気管圧P
in、空燃比A/F
、吸気弁閉時期θ
IVC、排気弁閉時期θ
EVC、点火時期θ
spk、を読み込む。次に、ステッ
プS905にて、読み込んだパラメータから、正常燃焼時最高筒内温度T
maxを算出する
。具体的には、まず排気弁閉時期および吸気管圧力から、筒内空気量および内部EGR量
を求める。吸気弁閉時期から求めた有効圧縮比と、筒内空気量および内部EGR量とから
、圧縮膨張行程における空気サイクルの筒内温度履歴が求められる。この空気サイクルの
筒内温度履歴と、空燃比から求められる燃焼時の発生熱量と、点火時期から推定可能な燃
焼終了時期と、に基づいて、正常燃焼時における最高筒内温度T
maxを算出する。次に、
ステップS906にて、正常燃焼時の最高筒内温度T
maxから正常燃焼時イオン信号積分
値S
b(i)を演算する。具体的には、
図6に示した最高筒内温度とイオン信号との関係
を定式(近似式)化したものを予めECU20に記憶させておき、その式を用いて演算す
る。
【0042】
次に、ステップS907にて、正常燃焼時イオン信号積分値S
b(i)からノック判定
しきい値S
k(i)および失火判定しきい値S
m(i)を演算する。例えば、正常燃焼時イ
オン信号積分値S
b(i)に定数Aを乗じたものを、ノック判定しきい値S
k(i)、正常
燃焼時イオン信号積分値S
b(i)に定数Bを乗じたものを、失火判定しきい値S
m(i)
とする。ここで、Aは1.2〜2.0、Bは0.1〜0.5程度に設定される。
【0043】
次に、ステップS908にて、イオン信号積分値S(i)とノック判定しきい値S
k(
i)を比較することで、ノックか否かを判定する。S(i)>S
k(i)である場合は、
ノックであると判定し、ステップS909に進む。S(i)≦S
k(i)である場合は、
ノックでないと判定し、ステップS911に進む。ステップS909では、ノックを回避
するために点火時期の遅角制御を実施し、さらにステップS910で、ノックを回避する
ために吸気弁閉時期の遅角制御(有効圧縮比の低下)を実施して、一連の制御を終了する
。ステップS908でノックでないと判定された場合は、ステップS911に進み、イオ
ン信号積分値S(i)と失火判定しきい値S
m(i)を比較することで、失火か否かを判
定する。S(i)≧S
m(i)である場合は、失火でないと判定し、一連の制御を終了す
る。S(i)<S
m(i)である場合は、失火であると判定し、ステップS912に進む
。ステップS912では、失火を回避するために点火時期の進角制御を実施し、さらにス
テップS913で、失火を回避するために吸気弁閉時期の進角制御(有効圧縮比の上昇)
を実施して、一連の制御を終了する。
【0044】
図10は、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置による、イオン信号によ
る異常燃焼判定のタイムチャートを示している。図中上から、アクセル開度α、吸気管圧
力P
in、空燃比A/F、吸気弁閉弁時期θ
ivc、正常燃焼時の最高筒内温度(推定値)T
m
ax、イオン信号積分値Sの時間変化を示している。イオン信号積分値Sのチャートには、
正常燃焼時イオン信号積分値S
b、ノック判定しきい値S
k、失火判定しきい値S
m、を併
記している。この例ではノックや失火などが発生していない状況を想定している。時刻t
s以前は、アクセル開度一定の運転がなされており、エンジンの運転状態(吸気管圧力、
空燃比など)および推定される正常燃焼時最高筒内温度は安定している。時刻t
sにて、
ドライバによりアクセルが踏み込まれると、それを受けてまずスロットルが開かれ、吸気
管圧力が上昇を始める。吸気管圧力はアクセル開度から一定の時間遅れを持って上昇する
。筒内の空気量に合わせて所望の空燃比(例えば量論比)となるよう燃料噴射量を制御す
るが、筒内の空気量が変化している際には、図示したように空燃比が一時的にリッチ化し
てしまう場合もある。また、吸気弁開時期は可変動弁によって制御されており、可変動弁
の径時変化などにより制御性が変化し、図示したように制御目標値に対してオーバーシュ
ートしてしまう場合が有る。結果として、時刻t
sから時刻t
eに至るまでエンジン筒内は
過渡的な状態となる。本実施例では、これら過渡的に変化するパラメータから各サイクル
における正常燃焼時の最高筒内温度を算出している。従って、吸気管圧力上昇(空気量増
加)に伴う筒内温度の上昇や、空燃比のリッチ化に伴う筒内温度低下、吸気弁開時期のオ
ーバーシュートに伴う温度上昇を全て反映できる。
【0045】
正常燃焼時の最高筒内温度T
maxから正常燃焼時イオン信号積分値S
bを算出し、その後
ノック/失火判定しきい値S
k、S
mが算出される。図示した範囲内において、計測された
イオン信号積分値Sは、S
k≧S≧S
mに収まっているため、ノック/失火なしと判定され
る。本制御によって、過渡的なエンジン状態の変化に追従したイオン信号の異常燃焼判定
しきい値を設定できるため、過渡運転時における異常燃焼の誤判定を抑制することが可能
となる。
【0046】
以下、
図11〜
図16を用いて、本発明の第2の実施形態によるエンジンの制御装置の
構成及び動作について説明する。
図11は、本発明の第2の実施形態によるエンジンの制御装置を自動車用筒内噴射式ガ
ソリンエンジンに適用させたシステムの構成を示すシステム構成図である。
図1に示した
第1の実施形態のシステム構成に加えて、本実施形態では、排気管と吸気管とのバイパス
通路が設けられ、その通路中に、吸気管へ流入する排気量を制御するためのEGR弁19
が備えられている。
【0047】
図12は、本発明の第2の実施形態によるエンジンの制御装置における、点火信号とイ
オン信号の代表例を示した図である。正常燃焼時、ノック時、失火時のイオン信号に関し
ては、
図3に示した通りである。ノック時においては、ノック発生に伴い燃焼室内の圧力
/温度が上昇することから3山目の信号が大きくなり、そこにノック周波数を持つ振動成
分が乗っている。失火時においては、火炎中のイオン成分が生成しないため、3山目の信
号が著しく低下する。以上の特性を考慮して、本実施例においては3山目の信号のピーク
値を異常燃焼判定用に利用する。具体的には、時刻t2で点火信号4hが遮断され、遮断
後Δtb経過後の時刻t3から、Δtc経過後の時刻t4までの間のイオン信号4gのピ
ーク値を演算する。これをC(i)とする。
【0048】
本実施例におけるイオン信号を用いたノックおよび失火の判定原理に関しては、
図4か
ら
図6で説明した内容と同様である(イオン信号積分値をイオン信号ピーク値に置き換え
ればよい)。
【0049】
図13は、本発明の第2の実施形態によるエンジンの制御装置の構成を示すシステムブ
ロック図である。
図7に示した、本発明の第1の実施形態によるエンジンの制御装置の構
成に加え、本実施形態では、入力信号としてのEGR弁19の開度、EGR弁駆動回路2
0lが備わっていることが特徴である。
【0050】
図14は、本発明の第2の実施形態によるエンジンの制御装置のECU20内で実施さ
れる異常燃焼判定および回避制御ロジックの概要を示す図である。本発明の第1の実施形
態によるエンジンの制御装置の異常燃焼判定および回避制御ロジックの構成に加え、ノッ
ク/失火判定部に入力信号としてEGR弁を備えていることが特徴である。また、イオン
信号処理部での演算内容が第1の実施形態と異なる。
【0051】
イオン信号4gはイオン信号処理部に入力され、
図12で示したように予め定められた
区間のイオン信号のピーク値が出力される。ノック/失火判定部には、イオン信号のピー
ク値の他、可変バルブ5から現在のバルブ位相(特に吸気弁閉時期、排気弁閉時期)、空
燃比、吸気管圧力、点火信号(点火時期)、EGR弁開度が入力される。ここで、吸気弁
閉時期、排気弁閉時期、空燃比、吸気管圧力、点火時期、EGR弁開度を基に、正常燃焼
時における最高筒内温度を推定する。具体的には、排気弁閉時期と吸気管圧力とEGR弁
開度から、筒内空気量および内部EGR量を求める。吸気弁閉時期から求めた有効圧縮比
と、筒内空気量および内部EGR量とから、圧縮膨張行程における空気サイクルの筒内温
度履歴が求められる。この空気サイクルの筒内温度履歴と、空燃比から求められる燃焼時
の発生熱量と、点火時期から推定可能な燃焼終了時期と、に基づいて、正常燃焼時におけ
る最高筒内温度を推定することができる。推定された正常燃焼時の最高筒内温度から、図
6の関係を用いて正常燃焼時のイオン信号積分値を演算し、それに定数を乗じることによ
ってノックおよび失火の判定しきい値を算出する。ノックおよび失火の判定しきい値と、
入力されたイオン積分値を比較することで、ノックおよび失火を判定する。ノックと判定
されればノック判定フラグF
kを1に、失火と判定されれば失火判定フラグF
mを1にセッ
トし、ノック/失火回避制御部へ出力する。
【0052】
ノック/失火回避制御部は、第1の実施形態と同様である。
【0053】
図15は、本発明の第2の実施形態によるエンジンの制御装置におけるイオン信号によ
る異常燃焼判定および回避制御内容を示すフローチャートである。
図15に示す制御内容
は、ECU20によって、所定の周期で繰り返し実行される。
【0054】
ステップS1501において、ECU20は、イオン信号4gを読み込む。次に、ステ
ップS1502において、イオン信号の演算期間を設定する。基本的には点火時期から一
定時間(例えば2ms)の経過後から、燃焼が終了する時期(例えば90deg.ATDC)ま
でを演算期間に設定する。この演算期間は運転条件ごとにマップとして予め記憶されてい
る。次に、ステップS1503に進み、イオン信号ピーク値C(i)を算出する。記号i
はi番目サイクルを意味する。次に、ステップS1504に進み、吸気管圧P
in、空燃比
A/F、吸気弁閉時期θ
IVC、排気弁閉時期θ
EVC、点火時期θ
spk、EGR弁開度β、を
読み込む。次に、ステップS1505にて、読み込んだパラメータから、正常燃焼時最高
筒内温度T
maxを算出する。具体的には、まず排気弁閉時期と吸気管圧力とEGR弁開度
から、筒内空気量および内部EGR量を求める。吸気弁閉時期から求めた有効圧縮比と、
筒内空気量および内部EGR量とから、圧縮膨張行程における空気サイクルの筒内温度履
歴が求められる。この空気サイクルの筒内温度履歴と、空燃比から求められる燃焼時の発
生熱量と、点火時期から推定可能な燃焼終了時期と、に基づいて、正常燃焼時における最
高筒内温度T
maxを算出する。次に、ステップS1506にて、正常燃焼時の最高筒内温
度T
maxから正常燃焼時イオン信号ピーク値C
b(i)を演算する。具体的には、
図6に示
した最高筒内温度とイオン信号との関係を定式(近似式)化したものを予めECU20に
記憶させておき、その式を用いて演算する。
【0055】
次に、ステップS1507にて、正常燃焼時イオン信号ピーク値C
b(i)からノック
判定しきい値C
k(i)および失火判定しきい値C
m(i)を演算する。例えば、正常燃焼
時イオン信号積分値C
b(i)に定数Aを乗じたものを、ノック判定しきい値C
k(i)、
正常燃焼時イオン信号積分値C
b(i)に定数Bを乗じたものを、失火判定しきい値C
m(
i)とする。ここで、Aは1.2〜2.0、Bは0.1〜0.5程度に設定される。
【0056】
次に、ステップS1508にて、イオン信号ピーク値C(i)とノック判定しきい値C
k(i)を比較することで、ノックか否かを判定する。C(i)>C
k(i)である場合は
、ノックであると判定し、ステップS1509に進む。C(i)≦C
k(i)である場合
は、ノックでないと判定し、ステップS1511に進む。ステップS1509では、ノッ
クを回避するために点火時期の遅角制御を実施し、さらにステップS1510で、ノック
を回避するために吸気弁閉時期の遅角制御(有効圧縮比の低下)を実施して、一連の制御
を終了する。ステップS1508でノックでないと判定された場合は、ステップS151
1に進み、イオン信号ピーク値C(i)と失火判定しきい値C
m(i)を比較することで
、失火か否かを判定する。C(i)≧C
m(i)である場合は、失火でないと判定し、一
連の制御を終了する。C(i)<C
m(i)である場合は、失火であると判定し、ステッ
プS1512に進む。ステップS1512では、失火を回避するために点火時期の進角制
御を実施し、さらにステップS1513で、失火を回避するために吸気弁閉時期の進角制
御(有効圧縮比の上昇)を実施して、一連の制御を終了する。
【0057】
図16は、本発明の第2の実施形態によるエンジンの制御装置による、イオン信号によ
る異常燃焼判定のタイムチャートを示している。図中上から、アクセル開度α、吸気管圧
力P
in、空燃比A/F、吸気弁閉弁時期θ
ivc、EGR弁開度β、正常燃焼時の最高筒内
温度(推定値)T
max、イオン信号ピーク値Cの時間変化を示している。イオン信号ピー
ク値Cのチャートには、正常燃焼時イオン信号積分値C
b、ノック判定しきい値C
k、失火
判定しきい値C
m、を併記している。この例ではノックや失火などが発生していない状況
を想定している。時刻t
s以前は、アクセル開度一定の運転がなされており、エンジンの
運転状態(吸気管圧力、空燃比など)および推定される正常燃焼時最高筒内温度は安定し
ている。時刻t
sにて、ドライバによりアクセルが踏み込まれると、それを受けてまずス
ロットルが開かれ、吸気管圧力が上昇を始める。吸気管圧力や吸気弁閉時期はアクセル開
度から一定の時間遅れを持って上昇する。筒内の空気量に合わせて所望の空燃比(例えば
量論比)となるよう燃料噴射量は制御される。EGR弁開度はアクセル開度から一定の時
間遅れを持って増加するが、併記した実EGR率は、増加する前に一時的な減少が生じて
いる。これは、吸排気のバイパス管の長さなどに依存するEGRの到達遅れにより発生す
る現象である。結果として、時刻t
sから時刻t
eに至るまでエンジン筒内は過渡的な状態
となる。本実施例では、これら過渡的に変化するパラメータから各サイクルにおける正常
燃焼時の最高筒内温度を算出している。従って、EGR率の一時的な減少に伴う温度上昇
を反映できる。
【0058】
正常燃焼時の最高筒内温度T
maxから正常燃焼時イオン信号積分値C
bを算出し、その後
ノック/失火判定しきい値C
k、C
mが算出される。図示した期間内において、計測された
イオン信号積分値Cは、C
k≧C≧C
mの範囲に収まっているため、ノック/失火なしと判
定される。本制御によって、過渡的なエンジン状態の変化、とくに外部EGRを持つエン
ジンシステムにおけるEGR率挙動に追従したイオン信号の異常燃焼判定しきい値を設定
できるため、過渡運転時における異常燃焼の誤判定を抑制することが可能となる。
【0059】
以下、
図17〜
図19を用いて、本発明の第3の実施形態によるエンジンの制御装置の
構成及び動作について説明する。
【0060】
本発明の第3の実施形態によるエンジンの制御装置を自動車用筒内噴射式ガソリンエン
ジンに適用させたシステムの構成は
図11と同様である。本発明の第3の実施形態による
エンジンの制御装置の構成を示すシステムブロック図は
図13と同様である。本実施例に
おけるイオン信号を用いたノックおよび失火の判定原理に関しては、
図4〜
図6で説明し
た内容と同様である(イオン信号積分値をイオン信号ピーク値に置き換えればよい)。
【0061】
図17は、本発明の第3の実施形態によるエンジンの制御装置のECU20内で実施さ
れる異常燃焼判定および回避制御ロジックの概要を示す図である。
図14に示した本発明
の第2の実施形態によるエンジンの制御装置の異常燃焼判定および回避制御ロジックの構
成に加え、ノック/失火判定部に入力信号としてアクセル開度センサ16を備えているこ
とが特徴である。ノック/失火判定部はアクセル開度センサ16に基づいて、現在の運転
状態が定常状態か否かを判定し、その結果によって、ノック/失火の判定しきい値の設定
方法を変更する。
【0062】
図18は、本発明の第3の実施形態によるエンジンの制御装置におけるイオン信号によ
る異常燃焼判定および回避制御内容を示すフローチャートである。
図18に示す制御内容
は、ECU20によって、所定の周期で繰り返し実行される。
【0063】
ステップS1801において、ECU20は、イオン信号4gを読み込む。次に、ステ
ップS1802において、イオン信号の演算期間を設定する。基本的には点火時期から一
定時間(例えば2ms)の経過後から、燃焼が終了する時期(例えば90deg.ATDC)ま
でを演算期間に設定する。この演算期間は運転条件ごとにマップとして予め記憶されてい
る。次に、ステップS1803に進み、イオン信号ピーク値C(i)を算出する。記号i
はi番目サイクルを意味する。次に、ステップS1804に進み、アクセル開度αを読み
込む。次に、ステップS1805進み、アクセル開度の変化量dα/dtと所定値Xを比
較することで、現在定常状態であるかを判定する。dα/dt≧X、つまり定常状態でな
いと判定された場合には、ステップS1806に進み、吸気管圧P
in、空燃比A/F、吸
気弁閉時期θ
IVC、排気弁閉時期θ
EVC、点火時期θ
spk、EGR弁開度β、を読み込む。
次に、ステップS1807にて、読み込んだパラメータから、正常燃焼時最高筒内温度T
maxを算出する。具体的には、まず排気弁閉時期と吸気管圧力とEGR弁開度から、筒内
空気量および内部EGR量を求める。吸気弁閉時期から求めた有効圧縮比と、筒内空気量
および内部EGR量とから、圧縮膨張行程における空気サイクルの筒内温度履歴が求めら
れる。この空気サイクルの筒内温度履歴と、空燃比から求められる燃焼時の発生熱量と、
点火時期から推定可能な燃焼終了時期と、に基づいて、正常燃焼時における最高筒内温度
T
maxを算出する。次に、ステップS1808にて、正常燃焼時の最高筒内温度T
maxから
正常燃焼時イオン信号ピーク値C
b(i)を演算する。具体的には、
図6に示した最高筒
内温度とイオン信号との関係を定式(近似式)化したものを予めECU20に記憶させて
おき、その式を用いて演算する。次に、ステップS1809にて、正常燃焼時イオン信号
ピーク値C
b(i)からノック判定しきい値C
k(i)および失火判定しきい値C
m(i)
を演算する。例えば、正常燃焼時イオン信号積分値C
b(i)に定数Aを乗じたものを、
ノック判定しきい値C
k(i)、正常燃焼時イオン信号積分値C
b(i)に定数Bを乗じた
ものを、失火判定しきい値C
m(i)とする。ここで、Aは1.2〜2.0、Bは0.1〜0
.5程度に設定される。
【0064】
ステップS1805において、dα/dt<X、つまり定常状態であると判定された場
合には、ステップS1810に進む。ステップS1810において、イオン信号ピーク値
のバックグラウンドレベルを演算する。バックグラウンドレベルとは、現サイクル以前の
nサイクル分のイオン信号ピーク値の平均値を意味する。定常条件においては、筒内状態
が安定しているため、過去nサイクル分の平均値であるバックグラウンドレベルを正常燃
焼時のイオン電流ピーク値と考えることができる。nは5〜30程度に設定される。次に
、ステップS1811にて、バックグラウンドレベルC
bg(i)からノック判定しきい値
C
k(i)および失火判定しきい値C
m(i)を演算する。例えば、バックグラウンドレベ
ルC
bg(i)に定数Aを乗じたものをノック判定しきい値C
k(i)、バックグラウンド
レベルC
bg(i)に定数Bを乗じたものを失火判定しきい値C
m(i)とする。ここでも
、Aは1.2〜2.0、Bは0.1〜0.5程度に設定される。
【0065】
定常状態である場合、定常状態でない場合、それぞれ別の方法でノック、失火判定しき
い値が設定された後、ステップS1812にて、イオン信号ピーク値C(i)とノック判
定しきい値C
k(i)を比較することで、ノックか否かを判定する。C(i)>C
k(i)
である場合は、ノックであると判定し、ステップS1813に進む。C(i)≦C
k(i
)である場合は、ノックでないと判定し、ステップS1815に進む。ステップS181
3では、ノックを回避するために点火時期の遅角制御を実施し、さらにステップS181
4で、ノックを回避するために吸気弁閉時期の遅角制御(有効圧縮比の低下)を実施して
、一連の制御を終了する。ステップS1812でノックでないと判定された場合は、ステ
ップS1815に進み、イオン信号ピーク値C(i)と失火判定しきい値C
m(i)を比
較することで、失火か否かを判定する。C(i)≧C
m(i)である場合は、失火でない
と判定し、一連の制御を終了する。C(i)<C
m(i)である場合は、失火であると判
定し、ステップS1816に進む。ステップS1816では、失火を回避するために点火
時期の進角制御を実施し、さらにステップS1817で、失火を回避するために吸気弁閉
時期の進角制御(有効圧縮比の上昇)を実施して、一連の制御を終了する。
【0066】
図19は、本発明の第3の実施形態によるエンジンの制御装置による、イオン信号によ
る異常燃焼判定のタイムチャートを示している。図中上から、アクセル開度α、EGR弁
開度β、正常燃焼時の最高筒内温度(推定値)T
max、イオン信号ピーク値Cの時間変化
を示している。イオン信号ピーク値Cのチャートには、正常燃焼時イオン信号積分値C
b
、バックグラウンドレベルC
bk、ノック判定しきい値C
k、失火判定しきい値C
m、を併記
している。この例ではノックや失火などが発生していない状況を想定している。時刻t
s
以前は、アクセル開度一定の運転がなされており、ECU20により定常状態と判定され
る。従ってノックおよび失火の判定しきい値C
k、C
mはイオン信号のバックグラウンドレ
ベルC
bkから算出される。時刻t
sにて、ドライバによりアクセルが踏み込まれると、E
CU20は定常状態でない、つまり過渡状態であると判定される。従って、ノックおよび
失火の判定しきい値C
k、C
mは正常燃焼時のイオンピーク値C
bから算出される。正常燃
焼時のイオンピーク値C
bはEGR弁開度などに基づく正常燃焼時最高筒内温度から求め
られている。図示した範囲内において、計測されたイオン信号積分値Sは、S
k≧S≧S
m
に収まっているため、ノック/失火なしと判定される。
【0067】
本実施例では、筒内状態が安定している定常状態においては、ノック/失火判定しきい
値をバックグラウンドレベルから算出し、筒内状態が著しく変化する過渡状態においては
ノック/失火判定しきい値を筒内温度推定に基づく正常燃焼時のイオン信号から算出する
ことにより、筒内温度推定に伴うECU20の演算負荷増大を最小限に抑えながら、異常
燃焼の誤判定を抑制することが可能となる。
【0068】
上記では、定常状態判定用のパラメータとして、アクセル開度の時間変化量のみを用い
た例を示しているが、それに限るものではなく、吸気管圧力や吸気弁閉時期の時間変化量
を用いてもよい。あるいは、アクセル開度の変化が発生した時点から一定期間(例えば1
00ms)を過渡状態と判定してもよい。