特許第6055655号(P6055655)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055655
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20161219BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C08J7/04 KCFD
   C08L69/00
【請求項の数】3
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-246248(P2012-246248)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-31489(P2014-31489A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-156124(P2012-156124)
(32)【優先日】2012年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和幸
(72)【発明者】
【氏名】今泉 洋行
【審査官】 安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125896(WO,A1)
【文献】 特開2010−188719(JP,A)
【文献】 特開昭64−062351(JP,A)
【文献】 特開昭56−002357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04−7/06
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K5600による鉛筆硬度がHB以上であり、かつ、JIS K7211による高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが50J以上であるポリカーボネート樹脂成形品の表面を、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物の硬化物層で被覆したポリカーボネート樹脂成形品であって、
前記ポリカーボネート樹脂が、ポリカーボネート樹脂(i)とポリカーボネート樹脂(ii)とを少なくとも含むポリカーボネート樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(i)とポリカーボネート樹脂(ii)の質量比が80/20〜20/80であることを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
(i)下記一般式(1)で表される構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000〜35,000のポリカーボネート樹脂
【化1】
(一般式(1)中、Rはメチル基、R及びRは水素原子であり、Xはイソプロピリデン基である。)
(ii)下記一般式(2)で表される構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000〜28,000のポリカーボネート樹脂
【化2】
(一般式(2)のXはイソプロピリデン基である。)
ことを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項2】
硬化物層被覆後の成形品の、JIS K7211による高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが8J以上である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【請求項3】
成形品が、自動車内装パネル、自動車ランプレンズ、窓又は筐体のいずれかである請求項1又は2に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネート樹脂成形品に関し、詳しくは、高い表面硬度と優れた面衝撃強度を併せ有するポリカーボネート樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れた熱可塑性樹脂として、自動車内装パネルや自動車のヘッドランプレンズ、携帯電話や携帯情報端末、液晶テレビ、パーソナルコンピューターの筐体等、幅広い用途があり、さらに、無機ガラスに比較して軽量で、生産性にも優れているので、自動車の窓用途等にも使用されている。
【0003】
しかし、現在広く用いられている、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAと記す)を用いたポリカーボネート樹脂は、優れた機械特性を示すのに反して、鉛筆硬度に代表される表面硬度(ビスフェノールAを用いたポリカーボネート樹脂では2B)が低いという問題点を有していた。
【0004】
ポリカーボネート樹脂の表面硬度を改善するために、これまでに多くのポリカーボネート樹脂、またはポリカーボネート樹脂組成物が提案されている。
例えば、特許文献1では、ジメチルビスフェノールシクロヘキサンとビスフェノールAとの共重合ポリカーボネートが、鉛筆硬度が2Hと高い表面硬度が得られることが報告されている。
また、特許文献2では、芳香族ポリカーボネート樹脂に、特定の(メタ)アクリル共重合体とリン系安定剤、及び、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステルを、それぞれ特定量含有させることにより、鉛筆硬度Hと透明性を維持しつつ、表面硬度の高い組成物が得られることが報告されている。
【0005】
しかし、これらのポリカーボネート樹脂の場合、確かに表面硬度は向上するものの、さらに高い表面硬度や、高い衝撃強度、特に高い高速面衝撃強度が要求される場合には、まだ不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009−500195号公報
【特許文献2】特開2012−025790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、ポリカーボネート樹脂の優れた機械特性を失うことなく、高い表面硬度と透明性を有し、優れた面衝撃強度を有するポリカーボネート樹脂成形品を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂、好ましくは特定の構造単位を有するポリカーボネート樹脂を成形した成形品であって、鉛筆硬度がHB以上であり、かつ、高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが特定値以上である成形品を用い、その表面を、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物の硬化物層で被覆した成形品が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂成形品を提供する。
【0009】
[1]JIS K5600による鉛筆硬度がHB以上であり、かつ、JIS K7211による高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが50J以上であるポリカーボネート樹脂成形品の表面を、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物の硬化物層で被覆したことを特徴とするポリカーボネート樹脂成形品。
[2]硬化物層被覆後の成形品の、JIS K7211による高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが8J以上である上記[1]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
【0010】
[3]前記ポリカーボネート樹脂が、ポリカーボネート樹脂(i)とポリカーボネート樹脂(ii)とを少なくとも含むポリカーボネート樹脂組成物であって、ポリカーボネート樹脂(i)とポリカーボネート樹脂(ii)の質量比が80/20〜20/80である上記[1]又は[2]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
(i)下記一般式(1)で表される構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が20,000〜35,000のポリカーボネート樹脂
【化1】
(一般式(1)中、Rはメチル基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Xは、
【化2】
を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6〜12の、置換基を有していてもよい脂環式炭素水素を形成する基を示す。)
(ii)下記一般式(2)で表される構造単位を有する粘度平均分子量(Mv)が16,000〜28,000のポリカーボネート樹脂
【化3】
(一般式(2)のXは、前記一般式(1)と同義である。)
【0011】
[4]前記一般式(1)におけるR及びRが水素原子であり、Xがイソプロピリデン基である上記[3]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
[5]前記一般式(2)におけるXがイソプロピリデン基である上記[3]又は[4]に記載のポリカーボネート樹脂成形品。
[6]成形品が、自動車内装パネル、自動車ランプレンズ、窓又は筐体のいずれかである上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂成形品によれば、高い表面硬度と優れた面衝撃強度を併せ有するポリカーボネート樹脂成形品を提供することができる。特に、硬化物層を形成後の表面硬度と面衝撃強度の両方をバランスよく、向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本願明細書において、「〜」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
[概要]
本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、前述のとおり、JIS K5600による鉛筆硬度がHB以上であり、かつ、JIS K7211による高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが50J以上であるポリカーボネート樹脂成形品の表面を、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物の硬化物層で被覆したポリカーボネート樹脂成形品である。
以下、本発明のポリカーボネート樹脂成形品に用いる各成分、成形品の製造方法等につき、詳細に説明する。
【0015】
[ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリカーボネート樹脂成形品に使用するポリカーボネート樹脂としては、JIS K5600による鉛筆硬度がHB以上であるものが使用される。ポリカーボネート樹脂としては、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂もあるが、本発明では、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂を用い、具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体が用いられる。
【0016】
使用するポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、HB以上の硬度を有するが、ここで、鉛筆硬度はJIS K5600−5−4に準拠して測定される。
鉛筆硬度がHBより低いと、これを成形した成形品の表面硬度が低く、表面をエネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物の硬化物層で被覆した成形品の表面硬度の向上効果が小さく、成形品の使用中に表面が傷付きやすくなってしまう。ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、中でもF以上、特にはH以上であることが好ましい。
【0017】
このような鉛筆硬度を有するポリカーボネート樹脂としては、以下の、分子中に少なくとも下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂(i)と、下記一般式(2)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂(ii)からなるポリカーボネート樹脂組成物が好ましく挙げられる。
【0018】
[ポリカーボネート樹脂(i)]
ポリカーボネート樹脂(i)として好ましいものは、分子中に少なくとも下記一般式(1)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂(i)が挙げられる。
【化4】
(一般式(1)中、Rはメチル基、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Xは、
【化5】
を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を示し、Zは、Cと結合して炭素数6〜12の、置換基を有していてもよい脂環式炭素水素を形成する基を示す。)
【0019】
上記一般式(1)において、Rはメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であるが、R及びRは特には水素原子であることが好ましい。
【0020】
また、Xは、
【化6】
である場合、R及びRの両方がメチル基であるイソプロピリデン基であることが好ましく、また、Xが、
【化7】
の場合、Zは、上記式(1)中の2個のフェニル基と結合する炭素Cと結合して、炭素数6〜12の二価の脂環式炭化水素基を形成するが、二価の脂環式炭素水素基としては、例えば、シキロヘキシリデン基、シクロヘプチリデン基、シクロドデシリデン基、アダマンチリデン基、シクロドデシリデン基等のシクロアルキリデン基が挙げられる。置換されたものとしては、これらのメチル置換基、エチル置換基を有するもの等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキシリデン基、シキロヘキシリデン基のメチル置換体(好ましくは3,3,5−トリメチル置換体)、シクロドデシリデン基が好ましい。
【0021】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(i)としての好ましい具体例としては、以下のイ)〜ニ)のポリカーボネート樹脂が挙げられる。
イ)2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位を有するもの、即ちRがメチル基、RとRが水素原子、Xがイソプロピリデン基である構造単位を有するもの、
ロ)2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン構造単位、即ちRがメチル基、RとRが水素原子、Xがシクロドデシリデン基である構造単位を有するもの。
ハ)2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン構造単位、即ちRがメチル基、RとRがメチル基、Xがイソプロピリデン基である構造単位を有するもの、
ニ)2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン構造単位、即ちRがメチル基、RとRが水素原子、Xがシクロヘキシリデン基である構造単位を有するもの、
これらの中で、より好ましくは上記イ)、ロ)またはハ)、さらに好ましくは上記イ)またはロ)、特には上記イ)のポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0022】
これらポリカーボネート樹脂(i)は、それぞれ、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンを、ジヒドロキシ化合物として使用して製造することができる。
【0023】
ポリカーボネート樹脂(i)は、一般式(1)で表される構造単位以外のカーボネート構造単位を有することもでき、例えば、一般式(2)で表される構造単位(例えば、ビスフェノール−A由来の構造単位)、あるいは後述するような他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有していてもよい。一般式(1)で表される構造単位以外の構造単位の共重合量は、通常60モル%以下であり、50モル%以下が好ましく、より好ましくは40モル%以下、さらには30モル%以下が最も好ましい。
【0024】
本発明に好ましく用いるポリカーボネート樹脂(i)の粘度平均分子量(Mv)は、20,000〜35,000であることが好ましい。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られ、20,000を下回ると、耐面衝撃性が悪化し、実使用上問題となり、35,000を超えると溶融粘度が増大し、射出成形または押出成形することが困難となる傾向にある。ポリカーボネート樹脂(i)のより好ましい分子量の下限は、22,000、さらに好ましくは23,000、特に好ましくは24,000であり、その上限は、より好ましくは33,000、さらに好ましくは32,500である。
ここで、粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてジクロロメタンを使用し、ウベローデ粘度計を使用し、温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10−40.83 の式から算出される値を意味する
【0025】
ポリカーボネート樹脂(i)は、一種または2種以上を混合して使用してもよく、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量に調整してもよい。また、必要に応じ、粘度平均分子量が上記の好適範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。
【0026】
<ポリカーボネート樹脂(ii)>
上記ポリカーボネート樹脂(i)と併用するポリカーボネート樹脂(ii)は、下記一般式(2)で表される構造単位を有するポリカーボネート樹脂である。
【化8】
(一般式(2)のXは、前記一般式(1)と同義である。)
【0027】
一般式(2)で表されるポリカーボネート構造単位の好ましい具体例としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、即ち、ビスフェノール−A由来のカーボネート構造単位である。
ポリカーボネート樹脂(ii)は、前記一般式(2)で表される構造単位以外のカーボネート構造単位を有することもでき、他のジヒドロキシ化合物由来のカーボネート構造単位を有していてもよい。一般式(2)で表される構造単位以外の構造単位の共重合量は、通常50モル%未満が好ましく、より好ましくは40モル%以下、さらには30モル%以下、特には20モル%以下であり、10モル%以下、なかでも5モル%以下が最も好ましい。
【0028】
他のジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のような芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができる。
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジメチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルエチル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−(1−メチルプロピル)フェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロオクタン、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−6−メチル−3−tert−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0029】
ポリカーボネート樹脂(ii)の粘度平均分子量(Mv)は、16,000〜28,000であることが好ましい。粘度平均分子量がこの範囲であると、成形性が良く、且つ機械的強度の大きい成形品が得られ、16,000を下回ると、耐面衝撃性が著しく低下してしまうため、使用が困難となる場合があり、28,000を超えると溶融粘度が増大し、射出成形または押出成形が困難となる傾向にある。ポリカーボネート樹脂(ii)のより好ましい分子量の下限は、17,000、さらに好ましくは18,000であり、その上限はより好ましくは27,000である。
なお、粘度平均分子量(Mv)の定義は、前記したとおりである。
【0030】
ポリカーボネート樹脂(ii)は、一種または2種以上を混合して使用してもよく、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量に調整してもよい。また、必要に応じ、粘度平均分子量が上記の好適範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよい。
【0031】
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明に使用するポリカーボネート樹脂を製造する方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
以下、これらの方法のうち特に好適なものについて、具体的に説明する。
【0032】
・界面重合法
まず、ポリカーボネート樹脂を界面重合法で製造する場合について説明する。
界面重合法では、反応に不活性な有機溶媒及びアルカリ水溶液の存在下で、通常pHを9以上に保ち、前記各ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(好ましくは、ホスゲン)とを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート樹脂を得る。なお、反応系には、必要に応じて分子量調整剤(末端停止剤)を存在させてもよく、ジヒドロキシ化合物の酸化防止のために酸化防止剤を存在させてもよい。
【0033】
反応に不活性な有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素等;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;などが挙げられる。なお、有機溶媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0034】
アルカリ水溶液に含有されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が挙げられるが、なかでも水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。なお、アルカリ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
アルカリ水溶液中のアルカリ化合物の濃度に制限は無いが、通常、反応のアルカリ水溶液中のpHを10〜12にコントロールするために、5〜10質量%で使用される。また、例えばホスゲンを吹き込むに際しては、水相のpHが10〜12、好ましくは10〜11になる様にコントロールするために、ビスフェノール化合物とアルカリ化合物とのモル比を、通常1:1.9以上、なかでも1:2.0以上、また、通常1:3.2以下、なかでも1:2.5以下とすることが好ましい。
【0035】
重合触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリヘキシルアミン等の脂肪族三級アミン;N,N’−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N’−ジエチルシクロヘキシルアミン等の脂環式三級アミン;N,N’−ジメチルアニリン、N,N’−ジエチルアニリン等の芳香族第三級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩等;ピリジン;グアニン;グアニジンの塩;等が挙げられる。なお、重合触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0036】
分子量調節剤としては、例えば、一価のフェノール性水酸基を有する芳香族フェノール;メタノール、ブタノールなどの脂肪族アルコール;メルカプタン;フタル酸イミド等が挙げられるが、なかでも芳香族フェノールが好ましい。
このような芳香族フェノールとしては、具体的に、m−メチルフェノール、p−メチルフェノール、m−プロピルフェノール、p−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等のアルキル基置換フェノール;イソプロパニルフェノール等のビニル基含有フェノール;エポキシ基含有フェノール;o−オキシン安息香酸、2−メチル−6−ヒドロキシフェニル酢酸等のカルボキシル基含有フェノール;等が挙げられる。なお、分子量調整剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0037】
分子量調節剤の使用量は、ジヒドロキシ化合物100モルに対して、通常0.5モル以上、好ましくは1モル以上であり、また、通常50モル以下、好ましくは30モル以下である。分子量調整剤の使用量をこの範囲とすることで、ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性及び耐加水分解性を向上させることができる。
【0038】
反応の際に、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。例えば、カーボネート前駆体としてホスゲンを用いた場合には、分子量調節剤はジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応(ホスゲン化)の時から重合反応開始時までの間であれば任意の時期に混合できる。
なお、反応温度は通常0〜40℃であり、反応時間は通常は数分(例えば、10分)〜数時間(例えば、6時間)である。
【0039】
・溶融エステル交換法
次に、ポリカーボネート樹脂を溶融エステル交換法で製造する場合について説明する。溶融エステル交換法では、例えば、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物とのエステル交換反応を行う。
【0040】
ジヒドロキシ化合物は、それぞれ前述の通りである。
一方、炭酸ジエステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物;ジフェニルカーボネート;ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ジフェニルカーボネート及び置換ジフェニルカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0041】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの比率は所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であるが、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルを等モル量以上用いることが好ましく、なかでも1.01モル以上用いることがより好ましい。なお、上限は通常1.30モル以下である。このような範囲にすることで、末端水酸基量を好適な範囲に調整できる。
【0042】
ポリカーボネート樹脂では、その末端水酸基量が、熱安定性、加水分解安定性、色調等に大きな影響を及ぼす傾向がある。このため、公知の任意の方法によって末端水酸基量を必要に応じて調整してもよい。エステル交換反応においては、通常、炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率、エステル交換反応時の減圧度などを調整することにより、末端水酸基量を調整したポリカーボネート樹脂を得ることができる。なお、この操作により、通常は得られるポリカーボネート樹脂の分子量を調整することもできる。
【0043】
炭酸ジエステルとジヒドロキシ化合物との混合比率を調整して末端水酸基量を調整する場合、その混合比率は前記の通りである。
また、より積極的な調整方法としては、反応時に別途、末端停止剤を混合する方法が挙げられる。この際の末端停止剤としては、例えば、一価フェノール類、一価カルボン酸類、炭酸ジエステル類などが挙げられる。なお、末端停止剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0044】
溶融エステル交換法によりポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、エステル交換触媒が使用される。エステル交換触媒は任意のものを使用できる。なかでも、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を用いることが好ましい。また補助的に、例えば塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物などの塩基性化合物を併用してもよい。なお、エステル交換触媒は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0045】
溶融エステル交換法において、反応温度は通常100〜320℃である。また、反応時の圧力は通常2mmHg以下の減圧条件である。具体的操作としては、この範囲の条件で、ヒドロキシ化合物等の副生成物を除去しながら、溶融重縮合反応を行えばよい。
【0046】
溶融重縮合反応は、バッチ式、連続式の何れの方法でも行うことができる。バッチ式で行う場合、反応基質、反応媒、触媒、添加剤等を混合する順番は、所望のポリカーボネート樹脂が得られる限り任意であり、適切な順番を任意に設定すればよい。ただし、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネート樹脂組成物の安定性等を考慮すると、溶融重縮合反応は連続式で行うことが好ましい。
【0047】
溶融エステル交換法においては、必要に応じて、触媒失活剤を用いても良い。触媒失活剤としてはエステル交換触媒を中和する化合物を任意に用いることができる。その例を挙げると、イオウ含有酸性化合物及びその誘導体などが挙げられる。なお、触媒失活剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
触媒失活剤の使用量は、前記のエステル交換触媒が含有するアルカリ金属又はアルカリ土類金属に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1当量以上であり、また、通常10当量以下、好ましくは5当量以下である。更には、ポリカーボネート樹脂に対して、通常1質量ppm以上であり、また、通常100質量ppm以下、好ましくは20質量ppm以下である。
【0048】
<ポリカーボネート樹脂(i)及び(ii)の割合>
本発明に用いるポリカーボネート樹脂として好ましく使用されるポリカーボネート樹脂(i)及びポリカーボネート樹脂(ii)の混合割合は、両者の質量比で、ポリカーボネート樹脂(i)/ポリカーボネート樹脂(ii)=80/20〜20/80であることが好ましい。このような混合割合で用いることにより、高い表面硬度と耐面衝撃性、さらに高度な透明性を達成することが可能となる。ポリカーボネート樹脂(i)は、その質量比が20を下回ると成形品の表面硬度が低下し、実製品としたときに表面が傷つき易くなってしまいやすく、80を超えると成形品の耐面衝撃性が低下し、実製品としたときに割れ易くなってしまう。
好ましい混合比は、ポリカーボネート樹脂(i)/ポリカーボネート樹脂(ii)=80/20〜30/70である。
【0049】
また、ポリカーボネート樹脂(i)及びポリカーボネート樹脂(ii)は、ポリカーボネート樹脂(i)及びポリカーボネート樹脂(ii)の合計100質量%中、10質量%以上をフレーク状の粉末として用いても良い。フレーク状粉末の含有割合は好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。このような割合でフレーク状の粉末を含むことにより、後述の必要に応じて添加剤を配合する場合の組成物製造時に添加剤成分が分級するのを防ぎ、未溶融物の発生や添加剤の凝集等を抑制し、難燃性、耐面衝撃性、透明性に優れた成形品が得られやすい傾向にある。フレーク状粉末の平均粒径は、2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましい。
フレーク状の粉末以外のポリカーボネート樹脂としては、ペレット状のものが好ましい。ペレット長さは、好ましくは1〜5mm、より好ましくは2〜4mmであり、断面が楕円形の場合は長径が2〜3.5mm、短径が1〜2.5mm、断面が円形の場合は直径2〜3mmのものが好ましい。ペレットの長さや断面形状は、ポリカーボネート樹脂製造時のストランドカッターの刃の回転数、巻き取り速度、押出機の吐出量等により調整することができる。
【0050】
[その他の成分]
ポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上記以外のその他成分を含有していてもよい。その他の成分の例を挙げると、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂、各種樹脂添加剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0051】
・その他の樹脂
その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート樹脂などの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体(ASA樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレン系ゴム−スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;(メタ)アクリレート系共重合体等が挙げられる。
なお、その他の樹脂は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
その他の樹脂を含有する場合は、ポリカーボネート樹脂及びその他の樹脂の合計100質量%基準で、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。その他の樹脂を上記の範囲よりも多く用いた場合は、表面硬度、面衝撃強度、透明性が低下する場合がある。
【0052】
・樹脂添加剤
樹脂添加剤としては、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などが挙げられる。なお、樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
以下、本発明に使用するポリカーボネート樹脂組成物に好適な添加剤の例について具体的に説明する。
【0053】
・・熱安定剤
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられるが、有機ホスファイト化合物が特に好ましい。
【0054】
有機ホスファイト化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等が挙げられる。
このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、「アデカスタブ2112」、「アデカスタブHP−10」、城北化学工業社製「JP−351」、「JP−360」、「JP−3CP」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガフォス168」等が挙げられる。
なお、熱安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0055】
熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.03質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.7質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。熱安定剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、熱安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0056】
・・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0057】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、ADEKA社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
なお、酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0058】
酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。酸化防止剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0059】
・・離型剤
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0060】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は炭素数6〜36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0061】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
【0062】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0063】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0064】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0065】
数平均分子量200〜15,000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
【0066】
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5,000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0067】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0068】
・・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0069】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0070】
このようなベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製(商品名、以下同じ)「シーソーブ701」、「シーソーブ702」、「シーソーブ703」、「シーソーブ704」、「シーソーブ705」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、ADEKA社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0071】
紫外線吸収剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、耐候性の改良効果が乏しく、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こしやすい。
なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0072】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
ポリカーボネート樹脂の成形品を成形するためのポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、ポリカーボネート樹脂及び必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0073】
[成形品]
得られたポリカーボネート樹脂組成物は、上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して成形品とされる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して成形品にすることもできる。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等、また、具体的なものとしては、例えば、自動車内装用パネル、自動車(二輪車)ヘッドランプレンズ、窓、筺体等や特殊な形状のもの等、各種形状のものが挙げられる。また、例えば表面に凹凸を有していたり、三次元曲面を有する立体的な形状のものであってもよい。また、シートやフィルム、板状等として使用する場合には、他の樹脂シートと積層した多層構造の積層体であってもよい。
【0074】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ−ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
【0075】
このようにして得られる成形品は、JIS K5600による鉛筆硬度がHB以上であり、かつ、JIS K7211による高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが50J以上である。鉛筆硬度がHBより低いと、成形品に硬化物層を形成した場合であっても、成形品の表面硬度が低く、実際の製品とした際、使用中に表面が傷付きやすくなってしまう。鉛筆硬度は、中でもF以上、特にはH以上であることが好ましい。また、パンクチャー点でのエネルギーが50J未満の場合は、成形品に硬化物層を形成した場合であっても面衝撃強度が低く、実際の製品とした際、市場で割れる、欠ける等の不具合を起こす危険性が非常に高い。
なお、硬化物層が形成される前の成形品の高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーは、JIS K7211−2に準拠し、ストライカー直径20mm、サンプルサポート40mm、打抜き試験速度4.4m/sec、温度23℃の条件で測定される。
【0076】
[硬化物層]
本発明においては、ポリカーボネート樹脂成形品の表面は、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物の硬化物層で被覆される。エネルギー線としては、紫外線、電子線、α線、β線、γ線等の放射線等があるが、紫外線硬化型のものが、実用性や作業性、作業環境等の観点から好ましい。
エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物としては、アクリル系の光重合性プレポリマーや光重合性モノマーなどを主成分として、さらに光重合開始剤などが添加された樹脂組成物を利用することができる。
【0077】
アクリル系の光重合性プレポリマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
また、アクリル系の光重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
また、これらは、単独又は2種以上を混合して使用しても良い。
【0078】
光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド類等が挙げられる。
また、これらは、単独又は2種以上を混合して使用しても良い。
【0079】
エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物には、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、粘度調整剤、垂れ防止剤、難燃剤、顔料・染料、帯電防止剤等の各種添加剤又は添加助剤を添加してもよい。
【0080】
以上のようなエネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物を、ポリカーボネート樹脂成形品の表面にコーティングして硬化物層を形成する。
コーティングは、公知の塗布方法の中から、成形品の形状に応じた塗布方法を適宜選択して行うことができ、例えば、バーコート法、ディップコート法、フローコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ローラーコート法等が挙げられる。
【0081】
活性エネルギー線を照射する雰囲気としては、通常窒素ガス、炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気下が好ましいが、アクリル系樹脂組成物の種類により、雰囲気中の酸素含有量がある程度高い場合でも十分に硬化物層を形成させることも可能である。
硬化物層の厚さとしては、1〜30μm程度が好ましく、より好ましくは5μm以上であり、また、上限はより好ましくは25μm以下である。
【0082】
[硬化物層が形成された成形品]
このようにして得られる硬化物層が形成された成形品は、硬化物層を形成することによる鉛筆硬度の向上効果が極めて高い。硬化物層が形成された成形品はJIS K5600による鉛筆硬度が3H以上であることが好ましく、4H以上であることがより好ましい。また、本発明の樹脂成形品は、硬化物層を形成した場合であっても、JIS K7211による高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーが良好に維持され、パンクチャー点でのエネルギーは好ましくは8J以上、より好ましくは10J以上である。この硬化物層を形成した場合でのパンクチャー点でのエネルギーが8J未満である場合、硬化物層が形成された成形品は大変脆く、衝撃による破壊により、独立した鋭利な破片が形成される。例えば、自動車の窓用途にこのような成形品が使用された場合、前記鋭利な破片は、乗員にとって大変危険なものとなり、好ましくない。
【0083】
なお、硬化物層が形成された成形品の高速面衝撃試験におけるパンクチャー点でのエネルギーは、JIS K7211−2に準拠し、ストライカー直径5/8インチ(約15.9mm)、サンプルサポート40mm、打抜き試験速度4.4m/sec、温度23℃の条件にて、硬化物層側から打ち抜くことにより測定される。
【0084】
硬化物層が形成された本発明の成形品は、優れた機械特性を有し、高い表面硬度と耐面衝撃性を有するので、例えば、以下のようなものに好ましく適用できる。
・建物(ビル、家屋、温室等)の窓ガラス;車、飛行機、建設機械の窓ガラス;ガレージ、アーケード等の屋根;サンルーフ、ルーフパネル、日除け;各種のぞき窓;
・照灯用レンズ、信号機レンズ、光学機器のレンズ;レンズカバー;ミラー、眼鏡、ゴーグル、バイクの風防;太陽電池カバー;保護カバー;
・ヘッドランプ、インナーレンズ、リアランプ等の各種自動車用ランプカバー;自動車内装パネル;
・ディスプレイ装置用カバー、表示パネル用部材、遊技機(パチンコ等)用部品;
・各種携帯端末、カメラ、ゲーム機等、電気電子機器やOA機器の筺体;ヘルメット;
・フィルム(シート)およびその積層体。
特に、自動車内装パネル、自動車ランプレンズ、窓、筐体等に好適である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
以下の実施例及び比較例で使用した原料は次の通りである。
【0086】
[ポリカーボネート樹脂]
前記したポリカーボネート樹脂(i)に該当するポリカーボネート樹脂として、以下の製造例によるポリカーボネート樹脂(以下、「PC−1」)を使用した。
(1)ポリカーボネート樹脂(PC−1)の製造:
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「BPC」と記す。)26.14モル(6.75kg)と、ジフェニルカーボネート26.66モル(5.71kg)を、撹拌機および溜出凝縮装置付きのSUS製反応器(内容積40リットル)内に入れ、反応器内を窒素ガスで置換後、窒素ガス雰囲気下で220℃まで30分間かけて昇温した。
次いで、反応器内の反応液を撹拌し、溶融状態下の反応液にエステル交換反応触媒として炭酸セシウム(CsCO)を、BPC1モルに対し1.5×10−6モルとなるように加え、窒素ガス雰囲気下、220℃で30分、反応液を撹拌醸成した。次に、同温度下で反応器内の圧力を40分かけて100Torrに減圧し、さらに、100分間反応させ、フェノールを溜出させた。
【0087】
次に、反応器内を60分かけて温度を280℃まで上げるとともに3Torrまで減圧し、留出理論量のほぼ全量に相当するフェノールを留出させた。次に、同温度下で反応器内の圧力を1Torr未満に保ち、さらに80分間反応を続け重縮合反応を終了させた。このとき、撹拌機の攪拌回転数は38回転/分であり、反応終了直前の反応液温度は300℃、攪拌動力は1.40kWであった。
次に、溶融状態のままの反応液を2軸押出機に送入し、炭酸セシウムに対して4倍モル量のp−トルエンスルホン酸ブチルを2軸押出機の第1供給口から供給し、反応液と混練し、その後、反応液を2軸押出機のダイを通してストランド状に押し出し、カッターで切断してカーボネート樹脂(PC−1)のペレットを得た。
【0088】
得られたポリカーボネート樹脂(PC−1)の物性は以下の通りであった。
鉛筆硬度:2H
粘度平均分子量(Mv):32,000
【0089】
また、前記したポリカーボネート樹脂(i)に該当しないポリカーボネート樹脂(Mv=17,100)として、以下のポリカーボネート樹脂(PC−3)を使用した。
また、前記したポリカーボネート樹脂(ii)に該当するポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート樹脂(以下、「PC−2」及び「PC−4」)を、前記ポリカーボネート樹脂(ii)に該当しないポリカーボネート樹脂(Mv=15,000)として、以下のポリカーボネート樹脂(PC−5)を使用した。
(2)PC−2
ビスフェノール−Aを出発原料とした溶融法によるポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製
商品名「NOVAREX M7027BF」
鉛筆硬度 2B
粘度平均分子量(Mv) 26,000
(3)PC−3
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンを出発原料としたポリカーボネート樹脂
SABIC社製、商品名「Lexan DMX2415」
鉛筆硬度 2H
粘度平均分子量(Mv) 17,100
(4)PC−4
ビスフェノール−Aを出発原料とした界面法によるポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製
商品名「ユーピロン S−3000」
鉛筆硬度 2B
粘度平均分子量(Mv) 21,000
(5)PC−5
ビスフェノール−Aを出発原料とし界面法によるポリカーボネート樹脂
三菱エンジニアリングプラスチックス社製
商品名「ユーピロン H−4000」(フレーク状粉末)
鉛筆硬度 2B
粘度平均分子量(Mv) 15,000
【0090】
なお、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ポリカーボネート樹脂をジクロロメタンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp
[η]=1.23×10−4Mv0.83
また、ポリカーボネート樹脂の鉛筆硬度は、JIS K7152に準拠して、射出成形機(株式会社日本製鋼所製J55AD)を用い、バレル温度280℃、金型温度80℃の条件下にて射出成形した多目的試験片の表面硬度を、JIS K5600−5−4に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。
【0091】
[エネルギー線硬化性アクリル系樹脂組成物]
以下のアクリル系紫外線硬化性樹脂組成物を使用した。
三菱レイヨン社製、商品名「ダイヤビームUL−1167」
【0092】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
[ポリカーボネート樹脂組成物ペレットの製造]
上記した各成分を、表1に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(田辺プラスチック機械社製「VS−40」)により、シリンダー温度280℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0093】
[試験片の作成]
得られたペレットを、株式会社日本製鋼所製射出成形機(J220)にて、樹脂温度300℃、金型温度80℃、射出時間1.8sec、射出圧力140MPa、保圧圧力65MPa、保圧時間10sec、冷却時間20secの条件で、100mm×100mm×4mmtの平板状試験片を成形した。
【0094】
[硬化物層の形成]
次に、上記アクリル系紫外線硬化性樹脂組成物を、平板状試験片上に塗布し、続いて、赤外線乾燥炉60℃、90secで溶媒を飛ばし、高圧水銀灯にて、紫外線を積算で1000mJ/cm照射し、膜厚10μmの硬化物層が形成された試験片を得た。
得られた試験片につき、以下の評価・測定を行った。
【0095】
[鉛筆硬度の測定]
硬化物層形成前と後の平板状試験片につき、JIS K5600−5−4に準拠し、鉛筆硬度試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、750g荷重にて測定した鉛筆硬度を求めた。なお、硬化物層形成後の平板状試験片については、硬化物層側の鉛筆硬度を測定した。
【0096】
[高速面衝撃試験]
JIS K7211−2に準拠して、島津製作所社製高速パンクチャー衝撃試験機「ハイドロショットHITS−P10」を用い、硬化物層形成前の平板状試験片については、ストライカー直径20mm、サンプルサポート40mm、打抜き試験速度4.4m/sec、温度23℃にて測定し、硬化物層形成後の平板状試験片については、ストライカー直径5/8インチ(約15.9mm)、サンプルサポート40mm、打抜き試験速度4.4m/sec、温度23℃にて、硬化物層側から打ち抜くことにより測定した(単位:J)。
以上の評価結果を、以下の表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1から明らかなように、実施例の成形品は、硬化物層形成前後で、鉛筆硬度Fが3H、Hが4Hと著しく硬度が高くなっている。また、硬化物層形成前の成形品は、面衝撃強度が66J、75Jと極めて高く、硬化物層を形成した場合でも、面衝撃強度を良好に維持することが可能であることが分かる。一方、比較例1〜2では元々2Hと高い硬度であったものが4H〜5Hと硬度の向上巾が小さい上に面衝撃強度は著しく悪く、比較例3では鉛筆硬度がHまでにしか高くならないことを示している。
したがって、本発明の、高い表面硬度と耐面衝撃性を有するポリカーボネート樹脂成形品を提供するという目的は、本発明の要件を全て満たして、はじめて達成されるということが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、優れた機械特性を有し、高い表面硬度と耐面衝撃性を有するので、自動車、電気・電子機器、住宅等の幅広い分野において、好適に用いることができ、産業上の利用性は非常に高い。