(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態の概要]
本発明の実施形態の詳細を説明する前に、この実施形態の概略を簡単に述べておく。
図1にて符号200にて示す部分は、この明細書では制御回路部と呼ぶが、実際には一般的にPLLを利用した発振機能を有する回路である。符号201はPLLに用いられるリファレンス信号を出力するDDS(Direct Digital Synthesizer)である。
このDDSを動作させるためのクロック信号は、
図1にて符号1で示す第1の発振回路の発振出力が用いられる。従って結果として電圧制御発振器100からの出力(この出力がこの例では製品である発振出力に相当する)を安定させるためには、前記クロック信号を安定させることが必要である。
【0012】
そこで、第1の発振回路1の発振出力を安定させるために、ヒータ回路5を用いて水晶振動子10の雰囲気温度を一定化するようにしている。ヒータ回路5の発熱量を制御するための温度検出信号としては、2つの水晶振動子10及び20の発振周波数の差分に相当する値とが温度との関係を事前に把握しておくことで、この差分に相当する値を用いている。
【0013】
前記発振周波数の差分に相当する値については後述するが、用語の煩雑さを避けるために、この値を求める部分を周波数差検出部3という用語を用いている。なお、この実施形態では、温度検出信号に相当する周波数差検出部3の出力ΔFを、ヒータ回路5の制御に用いるだけにとどまらず、電圧制御発振器100の出力周波数の設定値に相当する周波数設定値の補正に利用している。前記周波数設定値はコンピュータがメモリ30内のデータを読み出して出力される。従って、この実施形態の発振装置は、OCXOの機能とTCXOの機能とを備えていることになる。なお、本発明は、TCXOの機能を備えていない場合にも適用できる。
【0014】
そしてこの実施形態は、周波数差検出部3にて温度検出値に相当する既述のΔFを後述のようにPLLを利用して生成した後、生成された温度検出値に対して累積平均処理を行うと共に、この累積平均化処理を行うにあたり、データの累積数と丸め量とを独立して調整できるように構成している。
【0015】
[実施形態の全体説明]
次に本発明の実施形態の全体を詳しく説明する。
図1は本発明の実施形態にかかる水晶発振器を適用して構成した発振装置の全体を示すブロック図である。この発振装置は、設定された周波数の周波数信号を出力する周波数シンセサイザとして構成され、水晶振動子を用いた電圧制御発振器100と、この電圧制御発振器100におけるPLLを構成する制御回路部200と、前記PLLの参照信号を生成するためのDDS201を動作させるためのクロック信号を生成する水晶発振器(符号は付していない)と、この水晶発振器における水晶振動子10、20の置かれる雰囲気の温度を調整するための加熱部であるヒータ5と、を備えている。
【0016】
またこの発振装置は、制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償を行う温度補償部も備えている。温度補償部については符号を付していないが、
図1における制御回路部200よりも左側部分に相当し、前記ヒータ5を制御するための回路部分と共用化している。
制御回路部200は、DDS回路部201から出力するリファレンス(参照用)クロックと、電圧制御発振器100の出力を分周器204で分周したクロックの位相とを位相周波数比較部205にて比較し、その比較結果である位相差がチャージポンプ204によりアナログ化される。アナログ化された信号はループフィルタ206に入力され、PLL(Phase locked loop)が安定するように制御される。従って制御回路部200は、PLL部であると言うこともできる。ここでDDS回路部201は、後述の第1の発振回路1から出力される周波数信号を基準クロックとして用い、目的とする周波数の信号を出力するための周波数データ(ディジタル値)が入力されている。
【0017】
しかし前記基準クロックの周波数が温度特性をもっているため、この温度特性をキャンセルするためにDDS回路部201に入力される前記周波数データに後述の周波数補正値に対応する信号を加算部60にて加算している。DDS回路部201に入力される周波数データを補正することで、基準クロックの温度特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の温度変動分がキャンセルされ、結果として温度変動に対して参照用クロックの周波数が安定し、以って電圧制御発振器100からの出力周波数が安定することになる。
【0018】
この実施の形態は、以下に述べるように基準クロックを作成する水晶発振器がOCXOとして構成されており、このため基準クロックの周波数は安定しているので、当該基準クロックの温度特性は見えてこないといえる。しかしヒータの不具合などが起こったときには、基準クロックの温度特性変動分に基づくDDS回路部201の出力周波数の温度変動分を補償するように構成しておくことにより、極めて信頼性の高い周波数シンセサイザを構成することができる利点がある。
【0019】
次に本発明の水晶発振器に相当するOCXOの部分について説明する。この水晶発振器は、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を備えており、これら第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は、共通の水晶片Xbを用いて構成されている。即ち例えば短冊状の水晶片Xbの領域を長さ方向に2分割し、各分割領域(振動領域)の表裏両面に励振用の電極を設ける。従って一方の分割領域と一対の電極11、12とにより第1の水晶振動子10が構成され、他方の分割領域と一対の電極21、22とにより第2の水晶振動子20が構成される。このため第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は熱的に結合されたものということができる。水晶片Xbとしてはこの例ではATカットが用いられている。
【0020】
第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20には夫々第1の発振回路1及び第2の発振回路2が接続されている。これら発振回路1、2の出力は、いずれについても例えば水晶振動子10、20のオーバートーン(高調波)であってもよいし、基本波であってもよい。オーバートーンの出力を得る場合には、例えば水晶振動子と増幅器とからなる発振ループ内にオーバートーンの同調回路を設けて、発振ループをオーバートーンで発振させてもよい。あるいは発振ループについては基本波で発振させ、発振段の後段、例えばコルピッツ回路の一部である増幅器の後段にC級増幅器を設けてこのC級増幅器により基本波を歪ませると共にC級増幅器の後段にオーバートーンに同調する同調回路を設けて、結果として発振回路1、2からいずれも例えば3次オーバートーンの発振周波数を出力するようにしてもよい。
【0021】
ここで便宜上、第1の発振回路1から周波数f1の周波数信号が出力され、第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が出力されるものとすると、周波数f1の周波数信号は、前記制御回路部200に基準クロックとして供給される。3は周波数差検出部であり、この周波数差検出部3は概略的な言い方をすれば、f1とf2との差分と、Δfrとの差分である、f2−f1−Δfrを取り出すための回路部である。Δfrは、基準温度例えば25℃におけるf1(f1r)とf2(f2r)との差分である。f1とf2との差分の一例を挙げれば、例えば数MHzである。本発明は、周波数差検出部3によりf1とf2との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分に対応する値との差分であるΔFを計算することにより成り立つ。この実施形態の場合、より詳しく言えば、周波数差検出部3で得られる値は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}である。ただし、図面では周波数差検出部3の出力の表示は略記している。
図2は、周波数差検出部3の具体例を示している。31はフリップフロップ回路(F/F回路)であり、このフリップフロップ回路31の一方の入力端に第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号が入力され、他方の入力端に第2の発振回路2から周波数f2の周波数信号が入力され、第1の発振回路1からの周波数f1の周波数信号により第2の発振回路2からの周波数f2の周波数信号をラッチする。以下において記載の冗長を避けるために、f1、f2は、周波数あるいは周波数信号そのものを表しているとして取り扱う。フリップフロップ回路31は、f1とf2との周波数差に対応する値である(f2−f1の周波数をもつ信号が出力される。
【0022】
フリップフロップ回路31の後段には、ワンショット回路32が設けられ、ワンショット回路32では、フリップフロップ回路31から得られたパルス信号における立ち上がりにてワンショットのパルスを出力する。
図3はここまでの一連の信号を示したタイムチャートである。
ワンショット回路32の後段にはPLL(Phase Locked Loop)が設けられ、このPLLは、ラッチ回路33、積分機能を有する第1のループフィルタ34、加算部35及びDDS回路部36により構成されている。
【0023】
ラッチ回路33はDDS回路部36から出力された鋸波をワンショット回路32から出力されるパルスによりラッチするためのものであり、ラッチ回路33の出力は、前記パルスが出力されるタイミングにおける前記鋸波の信号レベルである。ループフィルタ34は、この信号レベルである直流電圧を積分し、第1の加算部35はこの直流電圧とΔfr(基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分)に対応する直流電圧と加算する。Δfrに対応する直流電圧のデータは
図2に示すメモリ30に格納されている。
【0024】
この例では第1の加算部35における符号は、Δfrに対応する直流電圧の入力側が「+」であり、第1のループフィルタ34の出力電圧の入力側が「−」となっている。DDS回路部36には、第1の加算部35にて演算された直流電圧、即ちΔfrに対応する直流電圧からループフィルタ34の出力電圧を差し引いた電圧が入力され、この電圧値に応じた周波数の鋸波が出力される。PLLの動作の理解を容易にするために
図4に極めて模式的に各部の出力の様子を示し、かつ直感的に把握できるようにするために極めて模式的な説明をしておく。装置の立ち上げ時には、Δfrに対応する直流電圧が第1の加算部35を通じてDDS回路部36に入力され、例えばΔfrが5MHzであるとすると、この周波数に応じた周波数の鋸波がDDS36から出力される。
【0025】
前記鋸波がラッチ回路33により(f2−f1)に対応する周波数のパルスでラッチされるが、(f2−f1)が例えば6MHzであるとすると、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が短いことから、鋸波のラッチポイントは
図4(a)に示すように徐々に下がっていき、ラッチ回路33の出力及び第1のループフィルタ34の出力は
図4(b)、(c)に示すように−側に徐々に下がっていく。第1の加算部35におけるループフィルタ34の出力側の符号が「−」であることから、第1の加算部35からDDS回路部36に入力される直流電圧が上昇する。このためDDS回路部36から出力される鋸波の周波数が高くなり、DDS回路部36に6MHzに対応する直流電圧が入力されたときに、鋸波の周波数が6MHzとなって
図5(a)〜(c)に示すようにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=−1MHzに対応した値となる。つまりループフィルタ34の積分値は、5MHzから6MHzへ鋸波が変化するときの1MHzの変化分の積分値に相当するということができる。
【0026】
この例とは逆に、Δfrが6MHz、(f2−f1)が5MHzの場合には、鋸波よりもラッチ用のパルスの周期が長いためにことから、
図4(a)に示すラッチポイントは徐々に高くなり、これに伴い、ラッチ回路33の出力及びループフィルタ34の出力も上昇する。このため加算部35において差し引かれる値が大きくなるので、鋸波の周波数が徐々に下がり、やがて(f2−f1)と同じ5MHzとなったときにPLLがロックされる。このときにループフィルタ34から出力される直流電圧は、Δfr−(f2−f1)=1MHzに対応した値となる。なお、
図6は実測データであり、この例では時刻t0にてPLLがロックしている。
【0027】
ところで既述のように実際には周波数差検出部3の出力は、{(f2−f1)/f1}−{(f2r−f1r)/f1r}の値を34ビットのディジタル値で表した値である。−50℃付近から100℃付近までのこの値の集合は、(f1−f1r)/f1r=OSC1(単位はppmあるいはppb)、(f2−f2r)/f2r=OSC2(単位はppmあるいはppb)とすると、温度に対する変化はOSC2−OSC1と実質同じカーブとなる。従って周波数差検出部3の出力は、OSC2−OSC1=温度データとして取り扱うことができる。
【0028】
またフリップフロップ31においてf2をf1によりラッチする動作は非同期であることから、メタステーブル(入力データをクロックのエッジでラッチする際、ラッチするエッジの前後一定時間は入力データを保持する必要があるが、クロックと入力データとがほぼ同時に変化することで出力が不安定になる状態)など不定区間が生じる可能性もあり、ループフィルタ34の出力には瞬間誤差が含まれる可能性がある。このため
図2に示すように、ループフィルタ34の出力側に、予め設定した時間において入力値を平均化する累積平均化回路37を設け、前記瞬間誤差が生じても取り除くようにしている。累積平均化回路37を設けることにより、最終的に変動温度分の周波数ずれ情報を高精度に取得することができる。
【0029】
図7は累積平均化回路37を詳細に示す回路図である。第1のループフィルタ34の出力(ディジタル値)は加算部71に一方の入力値として入力され、当該加算部71にて他方の入力値と加算される。加算部71からの出力は、遅延回路72及び論理回路であるゲート73を介して前記加算部71に他方の入力値として入力される。遅延回路72は、取り込まれたディジタル値を1クロック分だけ遅延させて出力する。つまり遅延回路72にクロックに基づいて入力された加算値は、次のクロックにて出力される。
【0030】
従ってk番目のクロックにて加算部71に入力されたループフィルタ34の出力値をAkとすると、n番目のクロックにより加算部71からは、A1〜Anまでの加算値が出力されることになる。ゲート73は、累積クリア信号の入力により、加算値71におけるループフィルタ34の出力値の累積数(加算する出力ディジタル値の個数)を設定値に制限するためのものである。ゲート73の一方の入力端には、遅延回路72の出力値が入力され、他方の入力端には、累積制御信号生成部74からの累積クリア信号が入力される。
図7では、ゲート73は1ビット分だけ記載されているが、実際にはディジタル値のビット数分だけ設けられている。累積クリア信号はこの例では論理「1」の信号であり、累積クリア信号が発生していないときには、ゲート73の他方の入力端は論理「0」であるから、遅延回路72からの出力信号がそのまま加算部71に送られる。累積クリア信号が発生しているときには、ゲート73の他方の入力端は論理「1」であるから、ゲート73の出力は論理「0」となり、累積加算値がクリアされる。
【0031】
累積数の設定値を例えば「2
3」(便宜上の数値である)に設定すると、累積制御信号生成部74はクロックを8個カウントする度毎に、累積クリア信号を出力する。従ってこの場合には、ループフィルタ34からの出力値が8回連続してサンプリングされて加算され、その後この加算値がクリアされて再び次の第1個目のクロックから同様にして8回連続してサンプリングされて加算されることになる。
【0032】
一方、遅延回路72の後段には、丸め処理(2
−mを乗算する処理(mは自然数))を行うための丸め処理部75が設けられている。丸め処理部75は、遅延回路72からの出力であるディジタル値に対して、設定された丸め量に応じて丸め処理がされる。丸め量が例えば「2
−3」であるとすると、上述の例では10進値で言えば、8回目のクロックにより、ループフィルタ34からの出力値が8回累積された値に対して8で除算されたことになる。まるめ処理部75の後段には、ラッチ回路76が設けられており、このラッチ回路76は既述の累積クリア信号の入力によりラッチしているディジタル値が出力されることになる。従って累積クリア信号の発生により、ループフィルタ34からの出力値に対してそれまでの累積した値をクリアし、そしてラッチ回路76からそれまでの累積した値を出力するという動作が行われることになる。
【0033】
累積数としては、例えば2
9から2
12の値が設定され、丸め量としては、例えば
2−10から
2−13の値が設定される。累積数の設定については、周波数シンセサイザに備えられている例えばコントローラからなる制御部77から累積制御信号生成部74に累積数指定パラメータが入力される。累積制御信号生成部74は例えばカウンタからなり、累積数指定パラメータに相当する、カウントアップのためのクロックのカウント数の指定値が入力されることにより、クロック数のカウント値が指定された数になる度毎に既述の累積クリア信号を出力する。
【0034】
丸め量についても前記制御部77から丸め量指定パラメータが丸め処理部75に入力されることにより設定される。丸め量指定パラメータは、例えば丸め量の値そのものに相当する。この例では、制御部77は、周波数シンセサイザに備えられている信号ポートを介して外部の制御部である外部コンピュータ78に接続される。外部コンピュータ78への接続は、周波数シンセサイザの製造時に各種のパラメータを制御部77のメモリに書き込むときや、周波数シンセサイザをメンテナンスするとき、あるいはユーザが一部のパラメータの変更を行うときに行われる。
【0035】
このため、累積平均化処理部37における累積数及び丸め量についても、例えば外部コンピュータ78から制御部77のメモリに書き込まれ、周波数シンセサイザの電源を入れたときにメモリから読みだされて、累積制御信号生成部74及び丸め処理部75に入力されることになる。累積数及び丸め量は、各々独自に(一方が他方に拘束されることなく)外部コンピュータ78により設定できる。外部コンピュータ78及び制御部77は、この例では累積数指定部及びまるめ量指定部に相当する。なお、累積数及び丸め量は外部コンピュータ78に頼らずに、周波数シンセサイザ側で制御部77を用いて、互いに独立して設定できるように構成してもよい。
【0036】
ここでPLLのループフィルタ34にて得られた変動温度分の周波数ずれ情報であるOSC2−OSC1に関して
図8から
図11を参照して説明する。
図8は、f1及びf2を基準温度で正規化し、温度と周波数との関係を示す特性図である。ここでいう正規化とは、例えば25℃を基準温度とし、温度と周波数との関係について基準温度における周波数をゼロとし、基準温度における周波数からの周波数のずれ分と温度との関係を求めることを意味している。第1の発振回路1における25℃のときの周波数をf1r、第2の発振回路2における25℃のときの周波数をf2rとすると、つまり25℃におけるf1、f2の値を夫々f1r、f2rとすると、
図7の縦軸の値は(f1−f1r)及び(f2−f2r)ということになる。
【0037】
また
図9は、
図8に示した各温度の周波数について、基準温度(25℃)における周波数に対する変化率を表わしている。従って
図9の縦軸の値は、(f1−f1r)/f1r及び(f2−f2r)/f2rであり、即ち既述のようにOSC1及びOSC2である。なお
図9の縦軸の値の単位はppmである。
【0038】
図10は、OSC1と温度との関係(
図9と同じである)、及び(OSC2−OSC1)と温度との関係を示しており、(OSC2−OSC1)が温度に対して直線関係にあることが分かる。従って(OSC2−OSC1)は基準温度からの温度変動ずれ分に対応していることが分かる。そして一般的には水晶振動子の周波数温度特性は3次関数で表わされると言われていることから、この3次関数による周波数変動分を相殺する周波数補正値と(OSC2−OSC1)との関係を求めておけば、(OSC2−OSC1)の検出値に基づいて周波数補正値が求まることになる。
また
図11は周波数差検出部3の出力信号である34ビットのディジタル値と温度との関係を示している。従って(OSC2−OSC1)は基準温度からの温度変動ずれ分に対応していることが分かる。
【0039】
図1に説明を戻すと、周波数差検出部3の出力値は、既述のように実質(OSC2−OSC1)として取り扱うことができ、この値は
図10に示したように水晶振動子10、20が置かれている温度検出値ということができる。そこで周波数差検出部3の後段に第2の加算部(偏差分取り出し回路)6を設け、ディジタル信号である温度設定値(設定温度におけるOSC2−OSC1の34ビットのディジタル値)と周波数差検出部3の出力であるOSC2−OSC1との差分を取り出すようにしている。温度設定値は、水晶発振器の出力を得るための第1の水晶振動子10に対応するOSC1の値が温度変化により変動しにくい温度を選択することが好ましい。この温度は
図8に示すOSC1と温度との関係カーブにおいて例えばボトム部分に対応する50℃が選択される。なお、OSC1の値が温度変化により変動しにくい温度という観点では10度を設定温度としてもよく、この場合には室温よりも低い場合もあるので、加熱部及びペルチェ素子などの冷却部と組み合わせた温調部を設けることになる。
そして第2の加算部6の後段には、積分回路部に相当する第2のループフィルタ61が設けられている。
【0040】
ループフィルタ61の後段には、D/A(ディジタル/アナログ)変換部62が設けられている。D/A変換部62の後段には、加熱部に相当するヒータ回路5が設けられている。この例では、加算部6、ループフィルタ61、D/A(ディジタル/アナログ)変換部62は、加熱制御部に相当する。
【0041】
[TCXOの機能に関する構成部分の説明]
またこの実施の形態に係る発振装置は、既述のようにTCXOの機能を備えている。この機能は、制御回路部200に入力される基準クロックの温度補償を行う機能である。具体的には、PLLのループフィルタ34にて得られた変動温度分の周波数ずれ情報は、
図1に示す補正値取得部である補正値演算部4に入力され、ここで周波数の補正値が演算される。変動温度分の周波数ずれ情報とは、水晶振動子10が基準温度におかれたときの第1の発振回路1の発振周波数と、水晶振動子10の雰囲気温度(水晶振動子10を収納している容器内の温度)における第1の発振回路1の発振周波数と、の差分に対応する値である。
【0042】
この例では、発振装置はOCXOの機能を備えているので、当該差分に対応する値は、通常は一定値であるが、発振装置が設置されている環境温度が予想を越えて変動した場合には、TCXOの機能が発揮されてくる。
【0043】
この実施形態の発振装置は、既述のように第1の発振回路1から得られる周波数信号(f1)を
図1に示す制御回路部200の基準クロックとして用いており、この基準クロックに周波数温度特性が存在することから、基準クロックの周波数に対して温度補正を行おうとしている。このため先ず基準温度で正規化した、温度とf1との関係を示す関数を予め求めておき、この関数によるf1の周波数変動分を相殺するための関数を求めている。そして周波数差検出部3にて得られた温度検出信号と前記関数とに基づいて、周波数変動分を相殺するための補正信号を補正値演算部4にて求めている。この点について更に記載を加えておく。
【0044】
図1に示すように第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は共通の水晶片Xbを用いて構成され、互いに熱的に結合されていることから、発振回路1、2の周波数差は、環境温度に極めて正確に対応した値であり、従って周波数差検出部3の出力は、環境温度と基準温度(この例では25℃)との温度差情報である。第1の発振回路1の出力される周波数信号f1は制御部200のメインクロックとして使用されるものであることから、補正値演算部4にて得られた補正値は、温度が25℃からずれたことによるf1の周波数ずれ分に基づく制御部200の動作への影響を相殺するために制御部200の動作を補償するための信号として用いられる。この結果、本実施形態の発振装置1の出力である電圧制御発振器100の出力周波数が温度変動にかかわらず安定したものとなる。
【0045】
[実施形態の全体の動作]
次に上述の実施の形態の全体の動作についてまとめる。この発振装置の水晶発振器に着目すると、水晶発振器の出力は第1の発振回路1から出力される周波数信号に相当する。そしてヒータ回路5により水晶振動子10、20の置かれる雰囲気が目標温度になるように加熱されている。第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1は、水晶発振器の出力である周波数信号を生成するものであるが、第2の水晶振動子20及び第2の発振回路2と共に温度検出部としての役割を持っている。これら発振回路1、2から各々得られる周波数信号の周波数差に対応する値OSC2−OSC1は、既述のように温度に対応し、加算部6にて温度設定値(例えば50℃におけるOSC2−OSC1の値)との差分が取り出される。
【0046】
周波数差に対応する値OSC2−OSC1は、周波数検出部3における
図2に示す回路により、既に詳述した動作に基づいて取り出される。そしてループフィルタ34から得られるディジタル値は、
図7に示す累積平均化処理部31にて、設定されたサンプリング回数だけ累積され、そして設定された丸め量により丸め処理される(2
−mが乗算される)。
図12は、
図7に示す累積平均化処理部37における各部の信号を示すタイムチャートであり、(a)はクロックパルス、(b)は累積クリア信号、(c)はループフィルタ34からの出力、(d)は遅延回路72からの出力値、(e)は丸め処理部75の出力、(f)はラッチ回路76の出力である。この例では、累積数及び丸め量をいずれも便宜的に「8」としている。累積平均化処理部31から
図1に示す加算部6及補正値演算部4には、累積クリア信号が論理「1」になっているときの丸め処理部75の出力値がラッチ回路76を介して出力される。
累積平均化処理部37は、既述のようにループフィルタ34の出力に含まれる瞬間誤差を取り除く役割があるが、累積数と丸め量とを互いに独立して調整することにより、温度と既述のOSC2−OSC1の値との対応関係を調整することができる。
【0047】
図13は、丸め量をパラメータとして、累積平均化処理部37の入力値と出力値との対応関係を示すものである。
図13において、aは丸め量を「2
−10」に設定し、bは丸め量を「2
−11」に設定し、cは丸め量を「2
−12」に設定しており、累積数はいずれも「2
10」である。この図からも温度と既述のOSC2−OSC1の値との対応関係を調整することができることがわかる。
【0048】
[実施形態の効果]
以上のように上述実施の形態は、水晶振動子が置かれる雰囲気の温度を一定にする水晶発振器(OCXO)であって、2つの水晶振動子10、20の発振周波数の差分に対応する値を温度検出値として取り扱っている。そして温度検出値を累積して平均化(まるめ処理)した値に基づいて加熱部の制御を行うにあたって、温度検出値の累積数とまるめ量とが互いに独立して指定できるように構成されている。このため、水晶片のカットの違いや、水晶片のロット間のばらつきにより、温度の変化分に対する発振周波数の変化分の比率(温度の検出感度)が水晶片の間で異なる場合であっても、まるめ量を選択することにより、温度の検出感度のばらつきを少なくすることができる。この結果温度制御を行うための回路の規模を適切化することができる。またヒータ制御を適切に行うことができ、ヒータ制御の誤動作を防止することができる。このことは、別の観点から言えば、使用できる水晶片の選択の自由度が大きいということでもある。
【0049】
[その他の説明]
更にまた上述の例では第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20とは共通の水晶片Xbを用いているが、水晶片Xbが共通化されていなくてもよい。この場合、例えば共通の筐体の中に第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を配置する例を挙げることができる。このような構成によれば、実質同一の温度雰囲気下に置かれるため、同様の効果が得られる。
【0050】
周波数差検出部3のDDS回路部36の出力信号は、鋸波に限ることなく、時間と共に信号値が増加、減少を繰り返す周波数信号であればよく、例えば正弦波であってもよい。 また周波数差検出部3としては、f1とf2とをカウンタによりカウントし、そのカウント値の差分値からΔfrに相当する値を差し引いて、得られたカウント値に対応する値を出力するようにしてもよい。
以上の実施の形態では、第1の水晶振動子10及び第1の発振回路1は温度検出値を取り出す役割と水晶発振器の出力を作成する役割とを持っている。即ち発振回路1は温度検出のための発振回路と、水晶発振器の出力用の発振回路とを共用している。しかし本発明は、例えば水晶振動子を3個用意すると共に発振回路を3個用意し、例えば
図1の構成において、第3の水晶振動子と当該水晶振動子に接続された第3の発振回路とを用意し、第3の発振回路の出力を水晶発振器の出力とし、残りの第1の発振回路及び第2の発振回路の発振出力を周波数差検出部に入力し温度検出値を得るようにしてもよい。この場合、OCXOとTCXOとを組み合わせたものとするならば、第3の水晶発振回路の出力がDDS201のクロックとして使用されることになる。
【0051】
図1及び
図15に示す発振装置である周波数シンセサイザは、水晶振動子10、20、発振回路1、2、周波数差検出部3、加算部6〜ヒータ回路5に至る部分からなる、本発明の実施形態である水晶発振器を利用して構成されている。しかし、本発明は、周波数シンセサイザとして構成することに限られず、第1の発振回路1の発振出力を、本発明の水晶発振器の出力とする構成、つまり制御回路部200を用いない構成としてもよい。