(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、集電体の表面に配置された第1負極活物質層と、第1負極活物質層の表面に配置された第2負極活物質層とを有する。
【0018】
(集電体)
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電または充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体に用いることのできる材料として、例えばステンレス鋼、チタン、ニッケル、アルミニウム、銅などの金属材料または導電性樹脂を挙げることができる。また集電体は、箔、シート、フィルムなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体の厚みは、10μm〜100μmであることが好ましい。
【0019】
(第1負極活物質層)
第1負極活物質層は、板状黒鉛粒子を有する。板状黒鉛粒子は、厚みが0.3nm〜100nmであり、長軸方向の長さが0.1μm〜500μmである。
【0020】
上記板状黒鉛粒子は、例えば、グラファイト構造を有する公知の黒鉛、具体的には人造黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などをグラファイト構造が破壊されないように粉砕することによって得られる。また板状黒鉛粒子として市販のグラフェンを用いることができる。
【0021】
板状黒鉛粒子は、天然黒鉛である鱗片状黒鉛と比べても厚みが大幅に小さいものである。板状黒鉛粒子の長軸方向の長さ/厚みで求めるアスペクト比は10〜1000であり、さらに望ましくは50〜100である。
【0022】
板状黒鉛粒子の厚みは、0.3nm〜100nmであり、さらに1nm〜100nmが好ましい。板状黒鉛粒子の長軸方向の長さは、0.1μm〜500μmであり、さらに1μm〜500μmが好ましく、短軸方向の長さは、0.3μm〜100μmが好ましい。
【0023】
板状黒鉛粒子の表面には、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基などの官能基が結合していることが好ましい。板状黒鉛粒子の表面に官能基が結合することにより、板状黒鉛粒子と溶媒やポリマーなどの他の有機物との親和性が増す。
【0024】
このような官能基は、板状黒鉛粒子の表面近傍、好ましくは表面から深さ10nmまでの領域にある全炭素原子の50%以下、より好ましくは20%以下、特に好ましくは10%以下の炭素原子に結合していることが好ましい。また官能基が結合している炭素原子の割合は0.01%以上が好ましい。官能基が結合している炭素原子の割合が50%を超えると、板状黒鉛粒子の親水性が増大し、有機物との親和性が低下する傾向がある。なお板状黒鉛粒子の表面近傍の官能基はX線光電子分光法(XPS)により定量することができる。
【0025】
また板状黒鉛粒子の表面には、下記式(1):
−(CH
2−CHX)− (1)
(式(1)中、Xはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基またはピレニル基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。)
で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体が吸着していることが好ましい。
【0026】
板状黒鉛粒子の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着していると、板状黒鉛粒子同士の凝集力が低下し、また、板状黒鉛粒子と溶媒や樹脂との親和性が増加するので、板状黒鉛粒子を溶媒中や樹脂中に良好に分散させることができる。板状黒鉛粒子を溶媒中に高度に分散させることができると、集電体上に板状黒鉛粒子の板面が集電体の表面に略平行になるように配向させやすい。
【0027】
芳香族ビニル共重合体はビニル芳香族モノマー単位とビニル芳香族モノマー単位以外のモノマー単位(以下、他のモノマー単位と称する)を含有することが好ましい。芳香族ビニル共重合体において、ビニル芳香族モノマー単位は板状黒鉛粒子に吸着しやすく、他のモノマー単位は溶媒や樹脂及び板状黒鉛粒子の表面の官能基と親和しやすい。
【0028】
ビニル芳香族モノマー単位の含有率が高い芳香族ビニル共重合体ほど、板状黒鉛粒子への吸着量が増大する。ビニル芳香族モノマー単位の含有率は、芳香族ビニル共重合体全体に対して10質量%〜98質量%が好ましく、30質量%〜98質量%がより好ましく、50質量%〜95質量%が特に好ましい。ビニル芳香族モノマー単位の含有率が10質量%より低くなると、芳香族ビニル共重合体の板状黒鉛粒子への吸着量が低下する。ビニル芳香族モノマー単位の含有率が98質量%より高くなると、板状黒鉛粒子と溶媒や樹脂との親和性が低くなって、板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性が低下する。
【0029】
式(1)の置換基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、水酸基、アミド基、イミノ基、グリシジル基、アルコキシ基、カルボニル基、イミド基、リン酸エステル基が挙げられる。板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性を高くするには、置換基は、アルコキシ基が好ましく、アルコキシ基は、メトキシ基が好ましい。
【0030】
ビニル芳香族モノマー単位としては、例えば、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアントラセンモノマー単位、ビニルピレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位、ビニル安息香酸エステルモノマー単位、アセチルスチレンモノマー単位が挙げられる。中でも板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性が向上するという観点からは、スチレンモノマー単位、ビニルナフタレンモノマー単位、ビニルアニソールモノマー単位が好ましい。
【0031】
他のモノマー単位は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルイミダゾール類、ビニルピリジン類、無水マレイン酸及びマレイミド類からなる群から選択される少なくとも1種のモノマーから誘導されるモノマー単位が好ましい。なお本明細書において、例えば、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」および「メタクリル酸」の双方を意味する。
【0032】
このような他のモノマー単位を含む芳香族ビニル共重合体が板状黒鉛粒子の表面に吸着していることによって、板状黒鉛粒子と溶媒や樹脂との親和性が向上し、溶媒中や樹脂中に板状黒鉛粒子を良好に分散させることができる。
【0033】
(メタ)アクリレート類としては、アルキル(メタ)アクリレート、置換アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。置換アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0035】
ビニルイミダゾール類としては、1−ビニルイミダゾールが挙げられる。
【0036】
ビニルピリジン類としては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンが挙げられる。
【0037】
マレイミド類としては、マレイミド、アルキルマレイミド、アリールマレイミドが挙げられる。
【0038】
板状黒鉛粒子の分散性が向上するという観点から、他のモノマー単位は、アルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、アリールマレイミドが好ましく、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、N,N−ジアルキル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、アリールマレイミドがより好ましく、フェニルマレイミドが特に好ましい。
【0039】
上記芳香族ビニル共重合体の例としては、例えば、スチレン(ST)とN,N−ジメチルメタクリルアミド(DMMAA)とのランダム共重合体、1−ビニルナフタレン(VN)とDMMAAとのランダム共重合体、4−ビニルアニソール(VA)とDMMAAとのランダム共重合体、STとN−フェニルマレイミド(PM)とのランダム共重合体、STと1−ビニルイミダゾール(VI)とのランダム共重合体、STと4−ビニルピリジン(4VP)とのランダム共重合体、STとN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)とのランダム共重合体、STとメチルメタクリレート(MMA)とのランダム共重合体、STとヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とのランダム共重合体、STと2−ビニルピリジン(2VP)とのランダム共重合体、STと2VPとのブロック共重合体、STとMMAとのブロック共重合体、STとポリエチレンオキシド(PEO)とのブロック共重合体が挙げられる。
【0040】
芳香族ビニル共重合体の数平均分子量としては、1千〜100万が好ましく、5千〜10万がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の数平均分子量が1千未満になると、板状黒鉛粒子に対する吸着能が低下する傾向にあり、他方、数平均分子量が100万より大きくなると、板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性が低下したり、粘度が著しく上昇して取り扱いが困難になる傾向にある。なお、芳香族ビニル共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(カラム:Shodex GPC K−805LおよびShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)、溶離液:クロロホルム)により測定し、標準ポリスチレンで換算した値を用いる。
【0041】
芳香族ビニル共重合体としてランダム共重合体を用いても、ブロック共重合体を用いてもよい。
【0042】
芳香族ビニル共重合体が表面に吸着した板状黒鉛粒子における芳香族ビニル共重合体の含有量としては、板状黒鉛粒子100質量部に対して10
−7〜10
−1質量部が好ましく、10
−5〜10
−2質量部がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の含有量が10
−7質量部未満になると、板状黒鉛粒子への芳香族ビニル共重合体の吸着が不十分なため、板状黒鉛粒子の溶媒中や樹脂中への分散性が低下する傾向にあり、他方、芳香族ビニル共重合体の含有量が10
−1質量部より多くなると、板状黒鉛粒子に直接吸着していない芳香族ビニル共重合体が存在するようになる。
【0043】
芳香族ビニル共重合体が表面に吸着した板状黒鉛粒子は、下記の方法で製造できる。芳香族ビニル共重合体が表面に吸着した板状黒鉛粒子の製造方法は、原料黒鉛粒子、上記式(1)で表されるビニル芳香族モノマー単位を含有する芳香族ビニル共重合体、過酸化水素化物、および溶媒を混合する混合工程と、混合工程で得られた混合物に粉砕処理を施す粉砕工程とを含む。
【0044】
原料黒鉛粒子としては、グラファイト構造を有する公知の黒鉛、例えば人造黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛が挙げられる。原料黒鉛粒子の粒子径としては、0.01mm〜5mmが好ましく、0.1mm〜1mmがより好ましい。
【0045】
芳香族ビニル共重合体は上記で説明したものと同様のものが使用できる。
【0046】
過酸化水素化物としては、カルボニル基を有する化合物と過酸化水素との錯体、四級アンモニウム塩、フッ化カリウム、炭酸ルビジウム、リン酸、尿酸などの化合物に過酸化水素が配位したものが挙げられる。カルボニル基を有する化合物は、例えば、ウレア、カルボン酸(安息香酸、サリチル酸など)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなど)、カルボン酸エステル(安息香酸メチル、サリチル酸エチルなど)が挙げられる。過酸化水素化物としては、カルボニル基を有する化合物と過酸化水素との錯体が好ましい。
【0047】
このような過酸化水素化物は、酸化剤として作用し、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊せずに、炭素層間の剥離を容易にするものである。すなわち、過酸化水素化物が炭素層間に侵入して層表面を酸化しながら劈開を進行させ、同時に芳香族ビニル共重合体が劈開した炭素層間に侵入して劈開面を安定化させ、層間剥離が促進される。その結果、板状黒鉛粒子の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着する。
【0048】
溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエン、ジオキサン、プロパノール、γ−ピコリン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)が好ましく、ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサン、トルエンがより好ましい。
【0049】
混合工程において、原料黒鉛粒子と芳香族ビニル共重合体と過酸化水素化物と溶媒とを混合する。原料黒鉛粒子の混合量としては、溶媒1L当たり0.1g/L〜500g/Lが好ましく、10g/L〜200g/Lがより好ましい。原料黒鉛粒子の混合量が溶媒1L当たり0.1g/L未満になると、溶媒の消費量が増大し、経済的に不利となり、他方、溶媒1L当たり500g/Lを超えると、液の粘度が上昇して取り扱いが困難になる。
【0050】
また、芳香族ビニル共重合体の混合量としては、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部〜1000質量部が好ましく、0.1質量部〜200質量部がより好ましい。芳香族ビニル共重合体の混合量が、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部未満になると、得られる板状黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にあり、他方、芳香族ビニル共重合体の混合量が、原料黒鉛粒子100質量部に対して1000質量部を超えると、芳香族ビニル共重合体が溶媒に溶解しなくなるとともに、液の粘度が上昇して取り扱いが困難となる。
【0051】
過酸化水素化物の混合量としては、原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部〜500質量部が好ましく、1質量部〜100質量部がより好ましい。過酸化水素化物の混合量が原料黒鉛粒子100質量部に対して0.1質量部未満になると、得られる板状黒鉛粒子の分散性が低下する傾向にあり、他方、原料黒鉛粒子100質量部に対して500質量部を超えると、原料黒鉛粒子が過剰に酸化され、得られる板状黒鉛粒子の導電性が低下する傾向にある。
【0052】
粉砕工程において、混合工程で得られた混合物に粉砕処理を施して原料黒鉛粒子を板状黒鉛粒子に粉砕する。これにより生成した板状黒鉛粒子の表面に芳香族ビニル共重合体が吸着する。粉砕処理としては、例えば、超音波処理、ボールミルによる処理、湿式粉砕、爆砕、機械式粉砕が挙げられる。超音波処理は、発振周波数としては15kHz〜400kHzが好ましく、出力としては500W以下が好ましい。粉砕処理としては、超音波処理または湿式粉砕処理が好ましい。粉砕工程では、原料黒鉛粒子のグラファイト構造を破壊させずに原料黒鉛粒子を粉砕して板状黒鉛粒子を得ることができる。また、粉砕処理時の温度としては、例えば、−20℃〜100℃とすることができる。また、粉砕処理時間としては、例えば、0.01時間〜50時間とすることができる。
【0053】
第1負極活物質層において、少なくとも一部の板状黒鉛粒子はその板面が集電体の表面に略平行になるように配向している。ほとんど全ての板状黒鉛粒子がその板面が集電体の表面に略平行になるように配向していることが好ましい。
【0054】
板状黒鉛粒子は、上記したように厚みが0.3nm〜100nmであり、長軸方向の長さが0.1μm〜500μmである。つまり板状黒鉛粒子は、厚みの薄い箔形状である。板状黒鉛粒子の板面とは、最も面積の大きい面をさす。第1負極活物質層において、少なくとも一部の板状黒鉛粒子はその板面が集電体の表面に略平行な方向に配向している構造となる。この構造を有する第1負極活物質層は、集電体の表面に平行な方向の応力に対して引張強度及び圧縮強度が高くなる。つまり第2負極活物質層に含まれる活物質が膨張収縮して、第1負極活物質層に横方向の応力がかかっても、第1負極活物質層は壊れにくい。また集電体の表面に略平行な方向に配向している複数の板状黒鉛粒子は面で接触しているために、板状黒鉛粒子同士は集電体に対して垂直な方向にはがれにくい。6割以上の板状黒鉛粒子の板面が集電体の表面に略平行に配向していることが好ましい。
【0055】
また上記した板状黒鉛粒子を平面上に置こうとする場合、板状黒鉛粒子の厚みが薄いため、平面に対してその板面が垂直になるようには配置しにくく、自然と板面が平面に対して平行にして配置される。
【0056】
また板状黒鉛粒子の表面に上記した芳香族ビニル共重合体が吸着している場合は、溶媒に板状黒鉛粒子を入れた状態でも板状黒鉛粒子が溶媒中で凝集せずに分散する。そうすると、溶媒中にある板状黒鉛粒子を平面上に置こうとする場合も、板状黒鉛粒子の板面が集電体の表面に平行にして配置されやすい。
【0057】
第1負極活物質層は第1負極活物質層用バインダーを有し、第1負極活物質層において、第1負極活物質層全体を100質量%としたときに、第1負極活物質層用バインダーの含有率は1質量%〜20質量%であることが好ましい。
【0058】
第1負極活物質層用バインダーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の水溶性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムを用いることができる。
【0059】
第1負極活物質層用バインダーの含有率が、1質量%〜20質量%であれば、板状黒鉛粒子同士を良好に結着でき、さらに第1負極活物質層と集電体の間及び第1負極活物質層と第2負極活物質層との間を良好に結着できる。
【0060】
また芳香族ビニル共重合体が表面に吸着した板状黒鉛粒子を用いた場合は、第1負極活物質層用バインダーは板状黒鉛粒子と結着しやすくなり、第1負極活物質層用バインダーは、板状黒鉛粒子同士、第1負極活物質層と集電体の間及び第1負極活物質層と第2負極活物質層との間をさらに良好に結着できる。
【0061】
第1負極活物質層の厚みは、第1負極活物質層の厚みと第2負極活物質層の厚みとの比が1:10〜2:1を満たすように設定することが好ましい。第1負極活物質層において、板状黒鉛粒子の形状は上記したように箔状であり、かつ板状黒鉛粒子の少なくとも一部は、その板面が集電体の表面に平行に配向しているので、第1負極活物質層は、同じ含有量(質量%)の他の黒鉛粉末を用いた場合に比べて、厚みを薄くできる。本発明で用いる第1負極活物質層の厚みが、第2負極活物質層に対して1/10以上の比率であれば、第2負極活物質層が膨張収縮しても、第1負極活物質層と第2負極活物質層及び集電体とが良好に結着して導電パスを形成できる。第1負極活物質層の厚みが第2負極活物質層に対して2より大きい比率であると、電池内における第1負極活物質層の占有率が大きくなり過ぎ、電池内において第2負極活物質層の厚みを小さくしなければならなくなるので好ましくない。
【0062】
集電体に第1負極活物質層を配置するには、板状黒鉛粒子及び必要に応じて第1負極活物質層用バインダーを含む第1負極活物質層形成用組成物を調製し、さらにこの組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、集電体の表面に塗布後、乾燥すればよい。なお、必要に応じて第1負極活物質層が配置された集電体を圧縮してもよい。
【0063】
第1負極活物質層形成用組成物の塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0064】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0065】
(第2負極活物質層)
第2負極活物質層は、Si、Si化合物、Sn及びSn化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。
【0066】
第2負極活物質層に含まれるSi、Si化合物、Sn及びSn化合物は粉末形状であることが好ましい。第2負極活物質層に含まれるSi、Si化合物、SnまたはSn化合物を第2負極活物質と称する。第2負極活物質が粉末形状の場合、第2負極活物質の平均粒径D
50は300nm以上20μm以下であることが好ましい。第2負極活物質の平均粒径D
50が300nmより小さいと、第2負極活物質の粉末の比表面積が大きくなり、第2負極活物質の粉末と電解液との接触面積が大きくなって、電解液の分解が進んでしまい、サイクル特性が悪くなる。また、第2負極活物質の平均粒径D
50が300nmより小さいと凝集により第2負極活物質の粒径が大きくなるため好ましくない。第2負極活物質であるSi、Si化合物はいずれも導電性が低いので、第2負極活物質の平均粒径D
50が20μmより大きいと、電極全体の導電性が不均一になり、充放電特性が低下する。
【0067】
またSi、Si化合物、Sn及びSn化合物は充放電時に膨張収縮するので、この膨張収縮を小さくするためにSi、Si化合物、Sn及びSn化合物の結晶子サイズは、1nm〜300nmであることがより好ましい。
【0068】
平均粒径D
50は、粒度分布測定法によって計測できる。平均粒径D
50とはレーザー回析法による粒度分布測定における体積分布の積算値が50%に相当する粒子径を指す。つまり、平均粒径D
50とは、体積基準で測定したメディアン径を指す。結晶子サイズはX線回折(XRD)測定で得られる回折ピークの半価幅からシェラーの式より算出される。
【0069】
Siは、微細であるほど、それを負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池はサイクル特性が向上する。そのため、Siとしては、ナノサイズの粒径あるいは結晶子サイズを有するナノシリコン粉末が好ましい。
【0070】
ナノシリコン粉末としては、例えば、層状ポリシランを熱処理することで得られるナノシリコン材料を好ましく用いることができる。層状ポリシランは、例えば、塩化水素(HCl)またはフッ化水素(HF)と塩化水素(HCl)との混合物と、二ケイ化カルシウム(CaSi
2)と、を反応させることで製造することができる。
【0071】
二ケイ化カルシウム(CaSi
2)は、ダイヤモンド型のSiの(111)面の間にCa原子層が挿入された層状結晶をなし、酸との反応でカルシウム(Ca)が引き抜かれることによって層状ポリシランが得られる。フッ化水素(HF)を用いることで、合成中あるいは精製中に生成するSiO
2成分がエッチングされる。
【0072】
フッ化水素(HF)と塩化水素(HCl)との組成比は、モル比でHF/HCl=1/1〜1/100の範囲が望ましい。フッ化水素(HF)の量がこの比より多くなるとCaF
2、CaSiO系などの不純物が生成し、この不純物と層状ポリシランとを分離するのが困難であるため好ましくない。またフッ化水素(HF)の量がこの比より少なくなると、HFによるエッチング作用が弱く、層状ポリシランに酸素が多く残存する場合がある。
【0073】
塩化水素(HCl)またはフッ化水素(HF)と塩化水素(HCl)との混合物と二ケイ化カルシウム(CaSi
2)との配合比は、当量より酸を過剰にすることが望ましい。また反応雰囲気は、真空下又は不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。反応時間は0.25〜24時間程度で充分である。反応温度は、室温が好ましい。反応によりCaCl
2などの不要の反応生成物が生成するが、水洗によって反応生成物を容易に除去することができ、層状ポリシランの精製は容易である。
【0074】
製造された層状ポリシランを、非酸化性雰囲気下にて100℃以上の温度で熱処理することで、ナノシリコン材料が得られる。非酸化性雰囲気としては、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気が例示される。窒素ガス雰囲気では、窒化ケイ素が生成する場合があるので好ましくない。
【0075】
また熱処理温度は、100℃〜1000℃の範囲が好ましく、400℃〜600℃の範囲が特に好ましい。100℃未満ではナノシリコンが生成しない。特に400℃以上で熱処理されて形成されたナノシリコン材料を負極活物質とするリチウムイオン二次電池は初期効率が向上する。
【0076】
ナノシリコン材料のSi結晶子の大きさとしては、0.5nm〜300nmが好ましく、1nm〜100nm、1nm〜50nm、更には1nm〜10nmが特に望ましい。
【0077】
Si化合物としては、例えば、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、 CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SnSiO
3、LiSiO、SiO
v(0<v≦2)が使用できる。
【0078】
Si化合物としては、SiO
x(0.3≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物が特に好ましい。SiO
xは熱処理されると、SiとSiO
2とに分離することが知られている。これは不均化反応といい、固体の内部反応によりSi相とSiO
2相の二相に分離する。分離して得られるSi相は非常に微細である。また、Si相を覆うSiO
2相が電解液の分解を抑制する働きをもつ。したがって、SiとSiO
2とに分解したSiO
xからなる負極活物質を用いた二次電池は、サイクル特性に優れる。
【0079】
SiO
xのSi相を構成するシリコン粒子が微細であるほど、それを負極活物質として用いた二次電池はサイクル特性が向上する。xが下限値未満であると、Si比率が高くなるため充放電時の体積変化が大きくなりすぎてサイクル特性が低下する。またxが上限値を超えると、Si比率が低下してエネルギー密度が低下するようになる。0.5≦x≦1.5の範囲が好ましく、0.7≦x≦1.2の範囲がさらに望ましい。
【0080】
Snとしては、市販のSn粉末が使用できる。
【0081】
Sn化合物としては、例えば、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSnO、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)が使用できる。
【0082】
第2負極活物質としては、特に、その理論容量が大きいSi、Si化合物が好ましい。
【0083】
第2負極活物質層は、さらに第2負極活物質層用バインダーを含んでもよい。また第2負極活物質層は導電助剤を含んでもよい。
【0084】
第2負極活物質用バインダーは、上記第2負極活物質及び導電助剤を第1負極活物質層に繋ぎ止める役割を果たす。第2負極活物質用バインダーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の水溶性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムを用いることができる。
【0085】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために必要に応じて第2負極活物質層に添加される。導電助剤として、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(登録商標)(KB)、気相法炭素繊維(VGCF)等を単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。導電助剤の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、第2負極活物質層に含有される第2負極活物質100質量部に対して、1質量部〜30質量部程度とすることができる。
【0086】
第1負極活物質層の表面に第2負極活物質層を配置するには、第2負極活物質及び第2負極活物質層用バインダー、並びに必要に応じて導電助剤を含む第2負極活物質層形成用組成物を調製し、さらにこの組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、第1負極活物質層の表面に塗布後、乾燥すればよい。なお、必要に応じて電極密度を高めるべく上記2層を配置した集電体を再度、圧縮してもよい。
【0087】
第2負極活物質層形成用組成物の塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0088】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0089】
図1に本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極を説明する模式図を示す。
図1に示すように、集電体1に第1負極活物質層2が配置され、第1負極活物質層2の表面に第2負極活物質層3が配置される。第1負極活物質層2には、板状黒鉛粒子21と第1負極活物質層用バインダー22とが含まれ、第1負極活物質層用バインダー22は、板状黒鉛粒子21同士の間、板状黒鉛粒子21と集電体1との間、及び板状黒鉛粒子21と第2負極活物質層3との間を密着させる。
図1において、ほぼすべての板状黒鉛粒子21の板面が、集電体1の表面に略平行になるように配向している。第2負極活物質層3には、第2負極活物質31と第2負極活物質層用バインダー32とが含まれる。第2負極活物質層用バインダー32は、第2負極活物質31同士の間、第2負極活物質31と第1負極活物質層2との間を密着させる。
【0090】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用負極を有することを特徴とする。上記リチウムイオン二次電池用負極を有するリチウムイオン二次電池は、サイクル特性が向上する。
【0091】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電池構成要素として、上記したリチウムイオン二次電池用負極に加えて、正極、セパレータ、電解液を有する。
【0092】
(正極)
正極は、正極活物質が結着剤で結着されてなる正極活物質層が、正極用の集電体の表面に配置される。正極活物質層は必要に応じて導電助剤をさらに含んでも良い。
【0093】
集電体は負極で説明したものと同様のものが使用できる。
【0094】
正極活物質としては、リチウム含有化合物あるいは他の金属化合物よりなるものを用いることができる。リチウム含有化合物としては、例えば、層状構造を有するリチウムコバルト複合酸化物、層状構造を有するリチウムニッケル複合酸化物、スピネル構造を有するリチウムマンガン複合酸化物、一般式: Li
aCo
pNi
qMn
rD
sO
x (Dは、Al、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選ばれる少なくとも1種。p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物、一般式:LiMPO
4で示されるオリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MPO
4Fで示されるフッ化オリビン型リチウムリン酸複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)、一般式:Li
2MSiO
4で示されるケイ酸塩系型リチウム複合酸化物(MはMn、Fe、Co及びNiのうちの少なくとも一種)を用いることができる。また他の金属化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム若しくは二酸化マンガンなどの酸化物、または硫化チタン若しくは硫化モリブデンなどの二硫化物が挙げられる。
【0095】
また正極活物質は、化学式:LiMO
2(MはNi,Co及びMnから選択される少なくとも1つである)で表されるリチウム含有酸化物よりなることが好ましく、さらに一般式: Li
aCo
pNi
qMn
rD
sO
x (DはAl、Mg、Ti、Sn、Zn、W、Zr、Mo、Fe及びNaから選ばれる少なくとも1種。p+q+r+s=1、0<p<1、0≦q<1、0≦r<1、0≦s<1、0.8≦a<2.0、−0.2≦x−(a+p+q+r+s)≦0.2)で表される層状構造を有するリチウムコバルト含有複合金属酸化物よりなることが好ましい。
【0096】
リチウム含有酸化物としては、例えば、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.6Co
0.2Mn
0.2O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2、LiCoO
2、LiNi
0.8Co
0.2O
2、LiCoMnO
2を用いることができる。中でもLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNi
0.5Co
0.2Mn
0.3O
2は、熱安定性の点で好ましい。
【0097】
正極活物質はその平均粒径D
50が1μm〜20μmである粉末形状であることが好ましい。正極活物質の平均粒径D
50が小さいと、正極活物質の比表面積が大きくなる。このため、正極活物質の平均粒径D
50が小さすぎると正極活物質と電解液との反応面積が過度に増えることになり、その結果、電解液の分解が促進されて、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が悪くなる。従って、正極活物質の平均粒径D
50は1μm以上が好ましい。正極活物質の平均粒径D
50が20μmより大きいとリチウムイオン二次電池の抵抗が大きくなり、リチウムイオン二次電池の出力特性が下がる。正極活物質の平均粒径D
50は粒度分布測定法によって計測できる。
【0098】
結着剤は、上記正極活物質及び導電助剤を正極用の集電体に繋ぎ止める役割を果たす。結着剤として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びフッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリ酢酸ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂、ポリイミド及びポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、並びにスチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴムを用いることができる。
【0099】
導電助剤は、負極で説明したものと同様のものが使用できる。
【0100】
正極活物質層を正極用の集電体の表面に配置するには、正極活物質及び結着剤、並びに必要に応じて導電助剤を含む正極活物質層形成用組成物を調製し、さらにこの組成物に適当な溶剤を加えてペースト状にしてから、正極用の集電体の表面に塗布後、乾燥すればよい。なお、必要に応じて電極密度を高めるべく正極活物質層が配置された集電体を圧縮してもよい。
【0101】
正極活物質層形成用組成物の塗布方法としては、ロールコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0102】
粘度調整のための溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メタノール、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが使用可能である。
【0103】
(セパレータ)
セパレータは正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータは、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、あるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミックス製の多孔質膜が使用できる。
【0104】
(電解液)
電解液は、溶媒とこの溶媒に溶解された電解質とを含んでいる。
【0105】
溶媒として、例えば、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類が使用できる。環状エステル類として、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンが使用できる。鎖状エステル類として、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステルが使用できる。エーテル類として、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンが使用できる。
【0106】
また上記電解液に溶解させる電解質として、例えば、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を使用することができる。
【0107】
電解液として、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの溶媒にLiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3などのリチウム塩を0.5mol/lから1.7mol/l程度の濃度で溶解させた溶液を使用することができる。
【0108】
上記リチウムイオン二次電池は車両に搭載することができる。上記リチウムイオン二次電池は、優れたサイクル特性を有するため、そのリチウムイオン二次電池を搭載した車両は、寿命、出力の面で高性能となる。
【0109】
車両としては、電池による電気エネルギーを動力源の全部または一部に使用する車両であればよく、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド鉄道車両、電動フォークリフト、電気車椅子、電動アシスト自転車、電動二輪車が挙げられる。
【0110】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0111】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
【0112】
第1負極活物質層の材料として、板状黒鉛粒子、平均粒径D
50が20μmの造粒黒鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、平均粒径D
50が5μmのSiO
x(0.9<x<1.1)及びナノシリコン粉末を準備した。板状黒鉛粒子及びナノシリコン粉末は以下のようにして作成した。
【0113】
(板状黒鉛粒子の作成)
スチレン(ST)1.82g、N−フェニルマレイミド(PM)0.18g、アゾビスイソブチロニトリル10mgおよびトルエン5mlを混合し、窒素雰囲気下、60℃で6時間重合反応を行なった。放冷後、クロロホルム−エーテルを用いて再沈殿により精製し、0.66gのST−PM(91:9)ランダム共重合体を得た。このST−PM(91:9)ランダム共重合体の数平均分子量(Mn)は、58000であった。
【0114】
ここで、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(昭和電工(株)製「Shodex GPC101」)を用いて以下の条件で測定した。
・カラム:Shodex GPC K−805LおよびShodex GPC K−800RL(ともに、昭和電工(株)製)
・溶離液:クロロホルム
・測定温度:25℃
・サンプル濃度:0.1mg/ml
・検出手段:RI
なお、数平均分子量(Mn)は、標準ポリスチレンで換算した値を示した。
【0115】
黒鉛粒子(日本黒鉛工業(株)製「EXP−P」、粒子径100〜600μm)20mg、ウレア−過酸化水素包接錯体80mg、上記ST−PM(91:9)ランダム共重合体20mgおよびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)2mlを混合し、室温で5時間超音波処理(出力:250W)を施して板状黒鉛粒子の分散液を得た。この分散液を濾過し、濾過物をジメチルホルムアミド(DMF)洗浄した後、真空乾燥して、板状黒鉛粒子を得た。この板状黒鉛粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、板状黒鉛粒子の長径は10μm〜20μm、短径は3μm〜10μm、厚みは30nm〜80nmであった。
【0116】
(板状黒鉛粒子の表面分析)
上記板状黒鉛粒子分散液(ST−PM(91:9)ランダム共重合体添加)をインジウム箔上に塗布して乾燥させ、板状黒鉛粒子塗膜を作製した。板状黒鉛粒子塗膜について飛行時間型二次イオン質量分析(TOF−SIMS、正イオン:m/z 0−250)を行い、板状黒鉛粒子塗膜の表面に存在する分子を分析した。その結果、板状黒鉛粒子塗膜の表面にはST−PM(91:9)ランダム共重合体が吸着していることがわかった。またST−PM(91:9)ランダム共重合体のフラグメントパターンから、ST−PM(91:9)ランダム共重合体成分のうち、ビニル芳香族モノマー単位を多く含有する共重合体成分が板状黒鉛粒子の表面に吸着しやすいことがわかった。
【0117】
また、得られた板状黒鉛粒子塗膜についてX線光電子分光(XPS)測定を行なったところ、塗膜表面近傍(表面から深さ10nmの領域)の炭素原子に水酸基が結合していることが確認された。さらに、塗膜表面近傍の炭素量および酸素量を測定し、炭素と酸素との原子比を求めた。その結果、炭素原子100に対し酸素原子は1.13であった。また原料である黒鉛粒子においては炭素原子100に対して酸素原子が約2であった。
【0118】
従って原料黒鉛粒子と比較すると板状黒鉛粒子においては炭素原子100に対して酸素原子が約1に低下した。このことから、芳香族ビニル共重合体は板状黒鉛粒子表面の水酸基に吸着して被覆していることが確認された。
【0119】
(ナノシリコン粉末の作成)
層状ポリシラン(Si
6H
6)の合成は、以下の条件で行った。0℃に冷却した36質量%濃度の塩酸56ml中へケイ化カルシウム(CaSi
2)3.3gをアルゴン気流中で添加した。混合物の発泡がなくなったのを確認した後に、混合物を室温まで昇温した。室温でさらに2時間撹拌を行った後、蒸留水を20ml加え、さらに10分撹拌した。混合物中に黄色粉末が浮遊した。この混合物をろ過し、残渣を蒸留水10ml、エタノール10mlで洗浄し、真空乾燥を行うことで層状ポリシラン2.5gを得た。この層状ポリシランを1g秤量し、O
2を2.1体積%以下の量で含むアルゴンガス中にて500℃で1時間保持する熱処理を行い、室温まで冷却し、褐色のナノシリコン粉末0.8gを得た。
【0120】
このナノシリコン粉末に対して、CuKα線を用いたX線回折測定(XRD測定)を行った。XRD測定によれば、Si微粒子由来と考えられるハローを観測した。ナノシリコン粉末は、X線回折測定結果の(111)面の回折ピークの半値幅からシェラーの式より算出される結晶粒径が約5nmであった。
【0121】
(実施例1)
板状黒鉛粒子を90重量部、バインダーとしてPVDF10重量部とをNMPに溶解・混合して第1負極活物質層用スラリーを調製した。この第1負極活物質層用スラリーを、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、第1負極活物質層の目付けが1.0mg/cm
2となるように銅箔上に第1負極活物質層を配置した。その後、ロールプレス機により、集電体と第1負極活物質層を強固に密着接合させ、第1負極活物質層の厚みが20μmとなるように調整した。
【0122】
ナノシリコン粉末45質量部と、造粒黒鉛粉末40質量部と、アセチレンブラック7質量部と、ポリアミドイミド(PAI)を10質量部とを混合して第2負極活物質層用スラリーを調製した。
【0123】
この第2負極活物質層用スラリーを、第1負極活物質層の表面にドクターブレードを用いて塗布し、第2負極活物質層の目付けが1.0mg/cm
2となるように第2負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と第2負極活物質層を強固に密着接合させ、第2負極活物質層の厚みが20μmとなるように調整した。
【0124】
第1負極活物質層と第2負極活物質層とが塗布された集電体を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、200℃で2時間、真空乾燥機で加熱した後、所定の形状(φ11mm)に切り取り、負極とした。これを負極Aとする。
【0125】
負極Aにおいて、第1負極活物質層の厚みと第2負極活物質層の厚みの比は1:1であった。また第1負極活物質層の第1負極活物質層用バインダーの含有率は10質量%であった。
【0126】
(コイン型リチウムイオン二次電池の作製)
上記した負極Aを評価極とし、厚さ500μmの金属リチウム(φ13mm)を対極として、ハーフセルでの評価を行った。1モル濃度のLiPF
6/エチレンカーボネ−ト(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)(EC:DEC=1:1(体積比))溶液を電解液として、ドライルーム内でコイン型モデル電池(CR2032タイプ)を作製した。コイン型モデル電池は、スペーサー、対極、セパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びセルガード社製 商標名Celgard #2400)、および評価極を順に重ね、かしめ加工して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0127】
(比較例1)
負極Aの板状黒鉛粒子を造粒黒鉛粉末に変えた以外は負極Aと同様にして負極Bを得た。負極Aの代わりに負極Bを用いた以外は実施例1と同様にして比較例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0128】
(比較例2)
ナノシリコン粉末23.5質量部と、造粒黒鉛粉末59.5質量部と、アセチレンブラック7質量部と、PAIを10質量部とを混合してスラリーを調製した。
【0129】
このスラリーを、厚さ20μmの電解銅箔(集電体)の表面にドクターブレードを用いて塗布し、負極活物質層の目付けが1.0mg/cm
2となるように負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させ、負極活物質層の厚みが40μmとなるように調整した。
【0130】
上記のように負極活物質層を2層とせず、負極活物質層を1層とした以外は、負極Bと同様にして負極Cを得た。負極Aの代わりに負極Cを用いた以外は実施例1と同様にして比較例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0131】
(実施例2)
ナノシリコン粉末に代えてSiO
x(0.9<x<1.1)粉末を用いた以外は負極Aと同様にして負極Dを得た。負極Aの代わりに負極Dを用いた以外は実施例1と同様にして実施例2のリチウムイオン二次電池を得た。
【0132】
(比較例3)
ナノシリコン粉末に代えてSiO
x(0.9<x<1.1)粉末を用いた以外は負極Bと同様にして負極Eを得た。負極Aの代わりに負極Eを用いた以外は実施例1と同様にして比較例3のリチウムイオン二次電池を得た。
【0133】
<第1負極活物質層の走査型電子顕微鏡(SEM)観察>
負極Aと負極Bの第1負極活物質層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
実施例1のリチウムイオン二次電池の負極Aの第1負極活物質層の断面のSEM観察結果を
図2に示す。比較例1のリチウムイオン二次電池の負極Bの第1負極活物質層の断面のSEM観察結果を
図3に示す。
図2からわかるように、ほとんどの板状黒鉛粒子の板面が集電体の表面に略平行に配向されていた。板状黒鉛粒子はその板面を集電体に平行にして降り積もるように順次積層されていた。
図3からわかるように、負極Bの第1負極活物質層には造粒黒鉛粉末が観察された。
図2と
図3とを比較すると、その形状から負極Aの第1負極活物質層のほうが負極Bの第1負極活物質層に比べて横方向の応力に強そうであることが推測できた。
【0134】
<初期容量測定>
実施例1、実施例2、比較例1〜3のリチウムイオン二次電池の初期容量を測定した。作製したコイン電池を25℃の恒温槽に1時間保持した後に充放電を行った。充電の終止電圧をLi対極で1.0V、放電の終止電圧をLi対極で0.01Vとし、0.1mAの定電流で充放電を行い、充電容量と放電容量とを測定した。この時の充電容量を初期容量とした。比較例1のリチウムイオン二次電池の初期容量を1.00とし、他の値を比較例1のリチウムイオン二次電池の初期容量との比で表した。単位は任意単位(a.u.)とした。
【0135】
<初期効率(%)の計算>
上記初期容量とした充電容量と、放電容量とから初期効率(%)を下記計算式で計算した。初期効率(%)=初期充電容量÷初期放電容量×100
<サイクル試験>
実施例1〜2及び比較例1〜3のリチウムイオン二次電池のサイクル特性を評価した。サイクル特性の評価としては、以下の条件で充放電を繰り返したサイクル試験を行い各サイクルの放電容量を測定した。初期容量を求めた際と同様に、充電の終止電圧をLi対極で1.0V、放電の終止電圧をLi対極で0.01Vとし、0.1mAの定電流で行う充放電を1サイクルとし、30サイクルまでサイクル試験を行った。初回サイクルと各サイクルの充電容量を測定した。30サイクル後の充電容量維持率は次に示す式にて求めた。
【0136】
30サイクル後の容量維持率(%)=(30サイクル後の充電容量/初期充電容量)×100
<クーロン効率測定>
上記サイクル試験において30サイクル目の充電容量と放電容量を測定し、30サイクル試験後のクーロン効率(%)を求めた。30サイクル後のクーロン効率(%)は次に示す式にて求めた。
【0137】
30サイクル後のクーロン効率(%)=(30サイクル後の充電容量/30サイクル後の放電容量)×100
各結果を表1にまとめて記す。
【0138】
【表1】
【0139】
表1からわかるように、実施例1と比較例1のリチウムイオン二次電池の各値を比較すると、初期容量、初期効率、30サイクル後充電効率、30サイクル後のクーロン効率のいずれも、実施例1のリチウムイオン二次電池のほうが高かった。このことから、板状黒鉛粒子を第1負極活物質層に用いることによって、造粒黒鉛粉末を第1負極活物質層に用いるものよりも、高電圧使用環境下において初期容量を下げずにサイクル特性が向上することがわかった。また比較例1と比較例2のリチウムイオン二次電池の各結果を比較すると、負極活物質層を2層構造とした比較例1のリチウムイオン二次電池のほうが、負極活物質層が1層の比較例2のリチウムイオン二次電池より、各結果の数値が高かった。
【0140】
また実施例2と比較例3のリチウムイオン二次電池の各値を比較すると、初期容量、初期効率、30サイクル後充電効率、30サイクル後のクーロン効率のいずれも、実施例2のリチウムイオン二次電池のほうが高かった。このことから第2負極活物質層がSiO
x粉末を用いても板状黒鉛粒子を第1負極活物質層に用いることによって、造粒黒鉛粉末を第1負極活物質層に用いるものよりも、高電圧使用環境下において初期容量を下げずにサイクル特性が向上することがわかった。
【0141】
また、実施例1と比較例1のリチウムイオン二次電池のサイクル試験後充電維持率の差と、実施例2と比較例3のリチウムイオン二次電池のサイクル試験後充電維持率の差をみると、第2負極活物質層にナノシリコン粉末を用いた実施例1のリチウムイオン二次電池のサイクル試験後充電維持率の向上効果のほうが、第2負極活物質層にSiO
x粉末を用いた実施例2のリチウムイオン二次電池のサイクル試験後充電維持率の向上効果に比べて大きく、板状黒鉛粒子を第1負極活物質層に用いる効果はナノシリコン粉末を第2負極活物質層に用いたほうが大きいことがわかった。これは充放電による膨張収縮がナノシリコン粉末のほうがSiO
x粉末よりも大きいため、板状黒鉛粒子による膨張収縮の抑制効果がより大きく効いたためと推察される。