(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上述したインプリント法は等倍でのパターン転写が行われる。このため、インプリントモールドに形成されるモールドパターンに対しては、縮小投影露光が行われるフォトリソグラフィー用の露光マスクに形成されるパターンよりも高い精度が要求される。また先に述べたように、インプリント法は、インプリントモールドをレジスト膜に押しつけてパターン転写を行う方法である。このため、モールドパターンを構成する各パターンの高さ位置および深さ位置などの断面形状も、転写によって形成される微細パターンの形状精度に大きく影響する。
【0008】
したがって、電子機器の小型化や集積度の向上にともない上述した各種微細パターンのさらなる微細化を進める場合、インプリントモールドに対しては、断面形状も含めてさらに形状精度の高いモールドパターンの形成が要求されるようになる。またインプリントモールドの製造に用いられるマスクブランク用基板に対しては、主表面に求められる平坦度が高くなり、特許文献1に記載の研磨方法では、その要求を満たすことが困難となってきている。
【0009】
これに対して、特許文献2に記載されているような、主表面の座標位置ごとに加工条件を変えた局所加工を適用した方法によれば、マスクブランク用基板の主表面を要求される高い平坦度に加工することが可能である。
【0010】
しかしながら、このような局所加工を施したマスクブランク用基板を用いて製造されたインプリントモールドを用いて転写対象物に対してパターン転写を行ったところ、転写対象物におけるパターン形成領域内に本来転写されるべきではない凹凸であり、転写されるべきパターンに比べて相対的に高さが低い凹凸が転写されてしまう領域が局所的に発生することが判明した。
【0011】
そこで、インプリントモールドのモールドパターンに問題がないか調べたところ、パターン精度が低い領域に対応するモールドパターンが、その周囲のモールドパターンに比べて高さ方向で局所的に盛り上がっており、これが局所的なパターン精度の低下を引き起こす原因となっていた。またさらにモールドパターンに盛り上がり(うねり)が生じた原因を鋭意研究した結果、インプリントモールドの原版となるマスクブランク用基板を製造する段階で行われた局所加工に原因があることが判明した。
【0012】
特許文献2にも開示されているように、局所加工においては、基板の主表面上に対して加工治具を走査させ、局所的に加工すべき領域のところでエッチングを行うことや走査速度を落として相対的に加工量を多くすることが行われる。このような局所加工による主表面の形状修正の場合、この局所加工の走査痕が加工面に残らないようにすることは困難であり、この局所加工の走査痕が、最終的に出来上がったモールドパターンに局所的な盛り上がり(ある程度の周期性をもった凹凸であるうねり)を生じさせる要因となっていた。
【0013】
そこで本発明は、インプリント法におけるパターン精度の向上を図ることが可能なインプリントモールド用のマスクブランク用基板およびマスクブランクを提供することを目的とする。また本発明は、これらのマスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法、およびインプリントモールドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上述の課題を解決する手段として、以下の構成を有する。
【0015】
(構成1)
2つの主表面を有する基板を用いて構成され、インプリントモールドを製造するために用いられるマスクブランク用基板であって、前記2つの主表面のうちの一方の主表面は、当該一方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側の第1領域の平坦度が100nm以下であり、かつ当該第1領域内における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする最高高さと最低高さの差が5nmよりも大きく、また前記2つの主表面のうちの他方の主表面は、当該他方の主表面の中心を含む一辺が40mmの四角形の内側の第2領域の平坦度が100nm以下であり、かつ当該第2領域内における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする最高高さと最低高さの差が5nm以下であり、当該他方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側の第3領域の平坦度が100nmよりも大きいことを特徴とするマスクブランク用基板である。
【0016】
(構成2)
前記他方の主表面における前記第2領域は、インプリントモールドの製造時にモールドパターンが形成される領域であることを特徴とする構成1に記載のマスクブランク用基板である。
【0017】
(構成3)
前記一方の主表面は、モールドパターンの転写を行う転写装置のモールド保持部にチャックされる面であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク用基板である。
【0018】
(構成4)
構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク用基板における前記他方の主表面に、パターン形成用の薄膜が設けられたことを特徴とするマスクブランクである。
【0019】
(構成5)
インプリントモールドを製造するために用いられるマスクブランク用基板の製造方法であって、2つの主表面を有する基板における当該2つの主表面に対し、研磨砥粒を用いた両面研磨を行う研磨工程と、前記研磨工程後における前記基板の一方の主表面に対し、表面形状を測定する形状測定工程と、前記形状測定工程で取得した表面形状を基に、前記一方の主表面に対してのみ、当該一方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側領域において相対的に凸になっている凸部を特定し、前記凸部に対して局所加工を行う局所加工工程と、前記局所加工工程後における前記基板の2つの主表面に対し、研磨砥粒を用いた両面研磨を行う最終研磨工程とを有するマスクブランク用基板の製造方法である。
【0020】
(構成6)
前記最終研磨工程後において、前記2つの主表面のうちの一方の主表面は、当該一方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側の第1領域の平坦度が100nm以下であり、かつ当該第1領域内における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする最高高さと最低高さの差が5nmよりも大きく、前記2つの主表面のうちの他方の主表面は、当該他方の主表面の中心を含む一辺が40mmの四角形の内側の第2領域の平坦度が100nm以下であり、かつ当該第2領域内における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする最高高さと最低高さの差が5nm以下であり、当該他方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側の第3領域の平坦度が100nmよりも大きいことを特徴とする構成5に記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0021】
(構成7)
前記局所加工工程は、前記一方の主表面に対して局所加工治具を走査することで行われることを特徴とする構成5または6に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0022】
(構成8)
前記他方の主表面における前記第2領域は、インプリントモールドの製造時にモールドパターンが形成される領域であることを特徴とする構成5から7のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0023】
(構成9)
前記一方の主表面は、モールドパターンの転写を行う転写装置のモールド保持部にチャックされる面であることを特徴とする構成5から8のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法である。
【0024】
(構成10)
構成5から9のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板における前記他方の主表面に、パターン形成用の薄膜を設ける工程を有することを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
【0025】
(構成11)
構成4に記載のマスクブランクを用いるインプリントモールドの製造方法であって、前記マスクブランクの薄膜上に形成されたモールドパターンを有するレジスト膜をマスクとし、ドライエッチングによって前記薄膜にモールドパターンを形成する工程と、前記モールドパターンが形成された薄膜をマスクとしたドライエッチングにより、前記マスクブランク用基板の他方の主表面の中心を含む一辺が40mmの四角形の内側の第2領域内にモールドパターンを形成する工程と、前記薄膜を除去する工程とを有することを特徴とするインプリントモールドの製造方法である。
【0026】
(構成12)
構成10に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクを用いるインプリントモールドの製造方法であって、前記マスクブランクの薄膜上に形成されたモールドパターンを有するレジスト膜をマスクとし、ドライエッチングによって前記薄膜にモールドパターンを形成する工程と、前記モールドパターンが形成された薄膜をマスクとしたドライエッチングにより、前記マスクブランク用基板の他方の主表面の中心を含む一辺が40mmの四角形の内側の第2領域内にモールドパターンを形成する工程と、前記薄膜を除去する工程とを有することを特徴とするインプリントモールドの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
以上の構成を有する本発明によれば、インプリント法におけるパターン精度の向上を図ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明者は、局所加工を施したマスクブランク用基板を用いて製造されたインプリントモールドを用いて転写対象物に対してパターン転写を行った場合に、転写対象物におけるパターン形成領域内に本来転写されるべきではない凹凸であり、転写されるべきパターンに比べて相対的に高さが低い凹凸が転写されてしまう領域が局所的に発生する技術的課題を解決すべく鋭意検討を行った。
【0030】
これまで、インプリントモールドの製造に用いられるマスクブランク用基板は、モールドパターンが形成される側の主表面(パターン形成面)とその主表面とは反対側の主表面の2つの主表面がともに高い平坦度(たとえば、主表面の中心を含む一辺が142mmの正方形の内側領域における平坦度が100nm以下。)であることが求められていた。特許文献1に記載されているような主表面の全体に研磨液を含んだ研磨パッドが接触して行われる研磨方法では、このような高い平坦度に仕上げることが難しい。このため、特許文献2に記載されているような局所加工を行って、2つの主表面の平坦度を高めることが行われてきた。しかし、前記のとおり、この局所加工を行った主表面には、その局所加工の走査痕に起因する局所的な盛り上がりが発生してしまう。このようなマスクブランク用基板の2つの主表面に対し、一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする最高高さと最低高さとの差(Peak to Valley:以下、PVと記す)を複数箇所で測定したところ、いずれも5nmを超えていた。
【0031】
マスクブランク用基板を用いて作製されたインプリントモールドで転写対象物(光硬化樹脂等)に対してパターン転写を行う際、インプリントモールドは転写装置のモールド保持部に固定される。この固定の際、モールド保持部はインプリントモールドの側面に接触するだけでなく、パターン形成面とは反対側の主表面(チャック面)にも接触する。すなわち、チャック面は、ほぼ全面が転写装置のモールド保持部に接触して固定される。このため、チャック面の広い領域であり、主としてチャック面の中心を含む一辺が142mmの正方形の内側領域(第1領域とする。)では、高い平坦度(100nm以下)であることが必要とされる。この平坦度の要求を満たすために、マスクブランク用基板のチャック面に対して、局所加工を行う必要がある。すなわち、チャック面は、一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする高低差PVが5nmを上回ることになる。
【0032】
一方、インプリントモールドのモールドパターンが形成されている側の主表面は、モールドパターンが形成される所定領域の外側領域では全体的に高さが低くなる構造(所定領域が外側領域に比べて相対的に高さが高くなっている構造)を有している(この構造を台座構造という。)。この台座構造は、マスクブランク用基板のモールドパターンが形成される側の主表面における所定領域の外側領域をエッチングによって全体的に掘り下げることで形成されるのが一般的である。本発明者は、マスクブランク用基板のパターン形成面における所定領域の外側領域は、チャック面のような高い平坦度が必ずしも必要とされないと考えた。そして、マスクブランク用基板のパターンが形成される側の主表面に対して局所加工を行わないことを考えた。インプリントモールド用のマスクブランク用基板のパターン形成面におけるモールドパターンが形成される所定領域は、その中心を含む一辺が40mmの四角形の内側領域(第2領域とする。)である場合が多い。その第2領域における平坦度が100nm以下という基準であれば、主表面の全体に対して研磨液を含んだ研磨パッドが接触することで行われる研磨だけでも、その基準を満たす基板がそれなりの歩留まりで取得できる。
【0033】
前記の全体的な研磨を行った後であり、かつ局所加工を行っていない状態のマスクブランク用基板のパターン形成面における第2領域での平坦度が100nm以下の基準を満たすものに対し、その第2領域内で一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする高低差PVを複数箇所で測定したところ、いずれも5nm以下に収まっていた。ただし、パターン形成面における中心を含む一辺が142mmの正方形の内側の領域での平坦度を測定したところ、100nmを超えていた。そして、第2領域においてその基準を満たしているマスクブランク用基板のチャック面に対して局所加工を行い、第1領域での平坦度が100nm以下となるようにした。
【0034】
このような2つの主表面を有するマスクブランク用基板を転写装置のモールド保持部に固定し、転写対象物(光硬化樹脂等)に対してパターン転写を行った。これによって、マスクブランク用基板のパターン形成面にはモールドパターンが形成されていないため、パターン形成面の高低差PV(うねり)が転写対象物に転写されるかどうか検証することができる。転写対象物のパターン転写領域内に対して表面形状の観察を行ったところ、本来転写されるべきではない凹凸は確認されなかった。以上の結果から、従来のインプリントモールド用のマスクブランク用基板から作製されたインプリントモールドを用いて転写対象物にパターン転写した際、転写対象物に本来転写されるべきではない凹凸が形成されてしまっていたのは、マスクブランク用基板のパターン形成面に対して局所加工を行うことで生じる走査痕に原因があることが判明した。また、マスクブランク用基板のパターン形成面における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする高低差PVが5nmを超えていることに原因があることが判明した。
【0035】
他方、マスクブランク用基板のチャック面については、局所加工を行っても、そのマスクブランク用基板から作製されたインプリントモールドを用いて転写対象物にパターン転写を行った場合、転写対象物に本来転写されるべきではない凹凸が形成されないことが明らかとなった。また、マスクブランク用基板のチャック面における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする高低差PVが5nmを超えていても、転写対象物に本来転写されるべきではない凹凸が形成されないことが明らかとなった。
【0036】
以上の鋭意検討の結果、本発明におけるインプリント用モールドを製造するために用いられるマスクブランク用基板は、2つの主表面のうちの一方の主表面(チャック面)は、その一方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側の第1領域の平坦度が100nm以下であり、かつ第1領域内における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする最高高さと最低高さの差が5nmよりも大きいこと、2つの主表面のうちの他方の主表面(パターン形成面)は、その他方の主表面の中心を含む一辺が40mmの四角形の内側の第2領域の平坦度が100nm以下であり、かつ第2領域内における一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とする最高高さと最低高さの差が5nm以下であり、他方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側の第3領域の平坦度が100nmよりも大きいことを特徴とすればよいという結論に至った。
【0037】
また、本発明におけるインプリント用モールドを製造するために用いられるマスクブランク用基板の製造方法は、基板の2つの主表面に対し、研磨砥粒を用いた両面研磨を行う研磨工程と、研磨工程後における基板の一方の主表面(チャック面)に対し、表面形状を測定する形状測定工程と、形状測定工程で取得した表面形状を基に、一方の主表面に対してのみ、その一方の主表面の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側領域において相対的に凸になっている凸部を特定し、その凸部に対して局所加工を行う局所加工工程と、局所加工工程後における前記基板の2つの主表面に対し、研磨砥粒を用いた両面研磨を行う最終研磨工程とすればよいという結論に至った。
【0038】
このようなマスクブランク用基板や、マスクブランク用基板の製造方法で製造されるマスクブランク用基板を用いて、インプリントモールドを製造すれば、インプリントモールドを用いて転写対象物に対してパターン転写を行った場合に、転写対象物におけるパターン形成領域内に本来転写されるべきではない凹凸であり、転写されるべきパターンに比べて相対的に高さが低い凹凸が転写されてしまう領域が局所的に発生するという従来の技術的課題を解決することができる。
【0039】
以下、図面に基づいて、上述した本発明の詳細な構成を説明する。なお、各図において同様の構成要素には同一の符号を付して説明を行う。
【0040】
≪マスクブランク用基板≫
図1は、本発明のマスクブランク用基板の構成を説明するための断面図である。この図に示すマスクブランク用基板1は、凹凸のモールドパターンを有するインプリントモールドとして加工されるものであり、モールドパターンが形成される前のものである。このマスクブランク用基板1は、2つの主表面11,12を有する平板状の基板材料を用いて構成され、2つの主表面11,12に対してそれぞれ平坦化のための加工が施されている。2つの主表面のうち、一方の主表面11はチャック面(以下、チャック面11)であり、他方の主表面12はパターン形成面(以下、パターン形成面12)である。
【0041】
マスクブランク用基板1を形成する材料としては、インプリントモールドとして使用するのに要求される適度な強度や剛性を有する材料であれば特に制約はなく任意に用いることができる。このようなマスクブランク用基板1に適する材料としては、例えば、石英ガラス、SiO
2−TiO
2系低膨張ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、またはCaF
2ガラス等のガラス材料、シリコン、ステンレス(SUS)、アルミニウム、銅、またはニッケル等の金属材料、さらには樹脂材料などが挙げられる。
【0042】
これらのうちガラス材料は特に好適である。ガラス材料は、非常に精度の高い加工が可能で、しかも平坦度及び平滑度に優れるため、本発明により得られるインプリントモールドを使用してパターン転写を行う場合、転写パターンの歪み等が生じないで高精度のパターン転写を行える。特に、光硬化樹脂に対してパターン転写を行うインプリントモールドを作製するためのマスクブランク用基板1は、ガラス材料であることが望ましく、石英ガラスやSiO
2−TiO
2系低膨張ガラスが特に好ましい。
【0043】
マスクブランク用基板1は、一例としてチャック面11およびパターン形成面12の外形形状が一辺約152mm四方である。これらのチャック面11とパターン形成面12とは平行に設けられている。さらにチャック面11とパターン形成面12とを取り囲む4つの側面は、チャック面11とパターン形成面12に対して直交しており、4つの側面のうち対向する2組の側面同士が平行に設けられている。チャック面11およびパターン形成面12と各側面が交わる部分は、いずれも面取りがなされている。また、側面同士が交わるコーナー部分については、曲面の面取りがなされている。
【0044】
またマスクブランク用基板1の厚さは、特に制約はされないが、一例として6.35mmである。マスクブランク用基板1の厚さは、マスクブランク用基板1にモールドパターンを形成してインプリントモールドとした場合に要求される適度に、強度や剛性が保たれる厚さであり、転写装置のモールド保持部により側面から挟持できる程度の厚さであることとする。
【0045】
<チャック面11>
チャック面11は、マスクブランク用基板1を加工して製造されたインプリントモールドを用いてパターン転写を行う際に、転写装置のモールド保持部にチャックされる面であり、ほぼ全面がモールド保持部に対して接触した状態となる。
【0046】
このためチャック面11は、広い領域において高い平坦度が確保されていることとする。このようなマスクブランク用基板1においては、平坦度の測定が可能な広い領域であって平坦度を保証する領域として、チャック面11の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側に第1領域a1が設定される。この第1領域a1は、チャック面11の周縁を除いた中央に設定され、例えばその中心とチャック面11の中心とが一致している。この第1領域a1は、チャック面11の中心を含む一辺が146mmの四角形の内側領域であるとより好ましい。また、第1領域a1における四角形の一辺の長さは、マスクブランク用基板1の外形形状における一辺の長さを1としたとき、0.93〜0.96の範囲内となるようにすることが好ましい。
【0047】
このような第1領域a1は、平坦度が100nm以下であり、第1領域a1全域においての最高高さと最低高さとの差が100nm以下である。なお、平坦度とは、設定した領域内における基準面を基準とする高さに係る最高高さと最低高さとの差であり、以降同様であることとする。第1領域a1は、平坦度が80nm以下であるとより好ましく、50nm以下であるとさらに好ましい。
【0048】
また第1領域a1は、全領域的な平坦度に対しては高い平坦性が求められるのに対して、局所的な凹凸(うねり)に対する要求は高くはない。このため、第1領域a1は、その局所的な高低差PVが、次に説明するパターン形成面12の第2領域a2に必要とされる局所的な高低差PVよりも大きくてよく、その局所的な高低差PVが5nmよりも大きい。
【0049】
ここで、局所的な高低差PVとは、一辺が2mmの四角形の内側を算出領域とした最高高さと最低高さとの差であり、設定された領域内(ここでは第1領域a1内)においての任意の数か所を算出領域とし、各算出領域で測定した高低差PVの平均値として良い。これは、以降において同様である。なお、算出領域として設定した2mm×2mmの四角形の領域は、局所的な高低差によって表面に生じるうねりの形状のうち、インプリントモールドによるパターン転写に影響を及ぼす周波数数帯域のうねりを生じさせる局所的な高低差PVの有無を検出するのに適する領域として設定されている。
【0050】
なお、チャック面11の第1領域a1内における表面粗さ(一辺が10μmの四角形の内側領域を算出領域とする。)は、自乗平均平方根粗さRqで0.2nm以下であることが好ましく、0.15nm以下であるとより好ましい。
【0051】
<パターン形成面12>
パターン形成面12は、マスクブランク用基板1を加工してインプリントモールドを製造する際に、モールドパターンが形成される面である。このためパターン形成面12には、局所的な凹凸(うねり)も含めた高い平坦性が確保されるパターン形成領域として、パターン形成面12の中心を含む一辺が40mmの四角形の内側に第2領域a2が設定される。この第2領域a2は、例えばその中心とパターン形成面12の中心とを一致させた領域であることとする。この第2領域a2は、パターン形成面12の中心を含む一辺が50mmの四角形の内側領域であるとより好ましい。この第1領域a1は、チャック面11の中心を含む一辺が146mmの四角形の内側領域であるとより好ましい。また、第2領域a2における四角形の一辺の長さは、マスクブランク用基板1の外形形状における一辺の長さを1としたとき、0.26〜0.33の範囲内となるようにすることが好ましい。
【0052】
この第2領域a2は、平坦度が100nm以下であり、第2領域a2全体においての最高高さと最低高さとの差が100nm以下である。この第2領域a2は、平坦度が80nm以下であるとより好ましく、50nm以下であるとさらに好ましい。また第2領域a2は、以上のように全領域的に高い平坦性が求められるだけではなく、局所的な凹凸(うねり)に対する要求も高い。このため第2領域a2は、局所的な高低差PVが5nm以下である。なお、第2領域a2における局所的な高低差PVは、4nm以下であるとより好ましく、3nm以下であるとさらに好ましい。
【0053】
またパターン形成面12は、第2領域a2が上述した平坦度および局所的な凹凸(うねり)の規定値以内に保たれていれば、この第2領域a2を含むこれよりも広い領域全体に対しては、第2領域a2ほどの平坦度が要求されることはない。このため、平坦度の測定が可能な広い領域として、パターン形成面12の中心を含む一辺が142mmの四角形の内側の第3領域a3を設定した場合、この第3領域a3は、第2領域a2の平坦度よりも大きくてよく、その平坦度は100nmよりも大きい。なお、この第3領域a3は、例えばその中心とパターン形成面12の中心とを一致させた領域であり、第2領域a2を含む領域であることとする。
【0054】
なお、パターン形成面12の第2領域a2内における表面粗さ(一辺が10μmの四角形の内側領域を算出領域とする。)は、自乗平均平方根粗さRqで0.2nm以下であることが好ましく、0.15nm以下であるとより好ましい。第3領域a3においても、同様の表面粗さであるとより好ましい。
【0055】
<本発明のマスクブランク用基板の効果>
以上のようなマスクブランク用基板1によれば、パターン形成面12は、モールドパターンが形成される第2領域a2においての平坦度が100nm以下であり、かつ局所的な高低差PVが5nm以下である。このため、パターン形成面12の第2領域a2に凹凸のモールドパターンを形成した場合、各パターンの基準面に対する高さ位置および深さ位置を均一にすることができる。しかも、反対側のチャック面11は、広い範囲である第1領域a1の平坦度が100nm以下である。このため、このマスクブランク用基板1を加工して製造されたインプリントモールドを用いてパターン転写を行う際に、広い範囲で平坦度の高いチャック面11を転写装置のモールド保持部にチャックした場合に、チャックされた状態でのパターン形成面12の平坦性を保つことができる。したがって、モールドパターンの高さ位置および深さ位置の均一性を損なうことなく、転写対象物上のレジスト膜(光硬化樹脂等)へのパターン転写を行うことが可能になる。
【0056】
さらにこのようなパターン転写により、転写対象物上のレジスト膜に対して、高さ位置および深さ位置を均一に保った凹凸のパターン転写を行い、各パターンの高さ位置および深さ位置が均一なレジストパターンを形成することができる。これにより、このレジストパターンをマスクにした転写対象物のエッチングにおいては、寸法精度の高いエッチングが行われるようになり、転写対象物に精度良好なパターンを形成することが可能になる。
【0057】
なお、以降のマスクブランク用基板の製造方法で説明するように、チャック面11において142mm×142mmの広い範囲である第1領域a1を平坦度100nm以下とするには、局所加工を施したことによって実現される。この局所加工により、第1領域a1は、局所的な高低差PVが大きな値となる。一方、パターン形成面12における40mm×40mmの第2領域a2を、平坦度100nm以下、局所的な高低差PV5nm以下とするには、局所加工を施すことなく通常研磨のみとすることによって実現される。局所加工を施さないことにより、パターン形成面12の第3領域a3は、平坦度が大きな値となる。
【0058】
≪マスクブランク≫
図2は、本発明のマスクブランクの構成を説明するための断面図である。この図に示すマスクブランク2は、インプリントモールド用のマスクブランクであり、先に説明した本発明のマスクブランク用基板1におけるパターン形成面12上に、パターン形成用の薄膜21が設けられた構成である。
【0059】
パターン形成用の薄膜21は、単層構造でも積層構造でもよい。単層構造の薄膜21としては、クロム(Cr)を用いた材料で構成されたものが一例として挙げられる。また、積層構造の薄膜21としては、少なくともパターン形成面12側に位置する下層がタンタル(Ta)を用いた材料で構成され、この上層がクロム(Cr)を用いた材料で構成されたものが一例として挙げられる。
【0060】
クロム(Cr)を用いた材料としては、Cr単体、またはCrの窒化物、酸化物、炭化物、炭化窒化物、酸化窒化物、酸化炭化窒化物などのCr化合物があり、薄膜21が単層構造の場合はCrOCNが特に好ましい。
【0061】
タンタル(Ta)を用いた材料としては、例えばTaHf、TaZr、TaHfZrなどのTa化合物、あるいはこれらのTa化合物をベース材料として、例えばB、Ge、Nb、Si、C、N等の副材料を加えた材料などが例示される。
【0062】
以上のような薄膜21の構成および材料の例示はあくまでも一例であり、本発明はこれらに制約される必要はまったくない。
【0063】
なお、ここでの図示は省略したが、本発明のインプリントモールド用のマスクブランク2は、薄膜21の上に、さらにレジスト膜を形成した形態であっても構わない。
【0064】
以上のような構成のマスクブランク2においては、以降に詳細に説明するように、パターニングされた薄膜21をマスクにしてマスクブランク用基板1におけるパターン形成面12にモールドパターンを形成することで、インプリントモールドが作製される。
【0065】
<本発明のマスクブランクの効果>
以上のようなマスクブランク2によれば、本発明のマスクブランク用基板1を用いて構成されているため、本発明のマスクブランク用基板1と同様の効果を得ることができる。
【0066】
なお、本発明のマスクブランク用基板1やマスクブランク2は、チャック面に凹部を有するインプリントモールドを作製するためのマスクブランク用基板やマスクブランクにも適用可能である。このタイプのインプリントモールドは、チャック面の中心を基準とした所定の径を有する円形状の凹部が所定の深さで形成されているものであり、その径はパターン形成面12の第2領域a2の全体を包含する大きさとなっている。このインプリントモールドを作製するためのマスクブランク用基板1は、マスクブランク用基板1のチャック面11側から加工治具等によって掘り下げて凹部を形成する方法で製造可能である。この方法の場合、凹部を形成する前に、チャック面11の第1領域a1とパターン形成面12の第2領域a2および第3領域a3がともに前記の平坦度や局所的な高低差PVを満たすように研磨や局所加工を施しておく必要がある。
【0067】
また、チャック面11に凹部を有するマスクブランク用基板1を、パターン形成面12を有する第1の基材と、チャック面11を有し、チャック面11からそのチャック面11とは反対側の主表面にまで貫通した孔を有する第2の基材を貼り合わせた構成としてもよい。凹部は、第2の基材の孔と第1の基材のパターン形成面12とは反対側の主表面によって形成される。孔の形成前に第2の基材のチャック面の第1領域a1の平坦度を前記の平坦度を満たすように研磨および局所加工を行う必要がある。また、第1の基材のパターン形成面12の第2領域a2と第3領域a3が前記の平坦度や局所的な高低差PVを満たすように研磨を行う必要がある。そして、第1の基材と第2の基材に対してそれぞれ研磨等を施した後に、第1の基材のパターン形成面12とは反対側の主表面と、第2の基材のチャック面11とは反対側の主表面を貼り合わせることで、チャック面11に凹部を有するマスクブランク用基板が製造される。
【0068】
第1の基材のパターン形成面12とは反対側の主表面と、第2の基材のチャック面11とは反対側の主表面は、チャック面11に求められているような第1領域a1の平坦度を満たしていることが好ましい。このため、第1の基材のパターン形成面12とは反対側の主表面と、第2の基材のチャック面11とは反対側の主表面に対しては、貼り付け前に局所加工を施しておくことが好ましい。なお、これらの方法で製造されたチャック面11に凹部を有する各マスクブランク用基板1のパターン形成面12にパターン形成用の薄膜21を設けることにより、チャック面11に凹部を有するマスクブランクが製造される。なお、これらのようなチャック面11に凹部を有するインプリントモールドやその原版となるマスクブランク2やマスクブランク用基板1の場合、チャック面11の第1の領域a1における平坦度は、凹部が形成されている領域を除いて算出されたものを適用すればよく、その閾値は凹部が形成されてないチャック面11の場合と同様である。
【0069】
≪マスクブランク用基板およびマスクブランクの製造方法≫
図3は、先に説明した本発明のマスクブランク用基板の製造方法およびマスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。以下に、
図3のフローチャートと先の
図1を用いて本発明のマスクブランク用基板の製造方法を説明し、続けて
図3のフローチャートと先の
図2を用いて本発明のマスクブランクの製造方法について説明する。
【0070】
<研磨工程S1>
先ず研磨工程S1では、マスクブランク用基板1として加工される前の基板1を準備し、この基板1に対して両面研磨を行う。基板1としては、2つの主表面の平坦度や局所的な高低差PV以外は、先のマスクブランク用基板1で説明したと同様の、外形形状、および板厚に仕上げられた平板状のものを用意する。
【0071】
用意した基板1の2つの主表面のうち、いずれか一方をチャック面11として設定し、いずれか他方をパターン形成面12として設定する。一般に、基板1のいずれかの主表面において、その4隅のうち少なくとも1箇所にはノッチマークが設けられている。このノッチマークが形成されている側の主表面をチャック面11とすることが好ましい。そして、少なくともパターン形成面12における第2領域a2の平坦度が100nm以下となることを目標とした両面研磨を行う。
【0072】
ここでは、基板1の2つの主表面に対し2つの研磨パッドで挟持した状態での両面研磨を行う。2つの研磨パッドとしては、チャック面11とパターン形成面12よりも十分に大きな面積のものを用いる。この際、チャック面11とパターン形成面12とは、同じ条件で研磨を行ってよく、これによりチャック面11もパターン形成面12と同様の平坦性に研磨される。
【0073】
以上のような両面研磨には、例えば遊星歯車機構を用いた研磨装置を用いて行われる。この研磨装置は、内歯歯車内に太陽歯車を中心として遊星歯車が設けられた遊星歯車機構を備えている。遊星歯車には、基板1がはめ込まれる孔が設けられている。このような研磨装置を用いた両面研磨においては、遊星歯車に形成された孔内にはめ込まれた基板1を、遊星歯車機構と共に2つの研磨定盤で挟み込む。研磨定盤の盤面には研磨パッドが貼り合わせられていることとする。この状態で、2つの研磨定盤の間(研磨パッドの間)に研磨砥粒を供給しつつ、遊星歯車機構内の太陽歯車および研磨定盤を同軸上で回転させる。これにより、基板1のチャック面11とパターン形成面12の両面に対して、全面に研磨パッドを押し当てつつ同時に研磨する。これにより、チャック面11とパターン形成面12との平行性を保ちつつ、チャック面11とパターン形成面12の研磨を行う。
【0074】
またこの両面研磨においては、例えば基板1がガラス材料で構成されている場合であれば、先ず、酸化セリウムを分散させた研磨砥粒を用いた一次研磨を1段階以上行い、その後、研磨装置および研磨パッドを換えてコロイダルシリカを研磨砥粒とした二次研磨を1段階以上行う。なお、一次研磨は、基板1の初期の表面状態によって必要に応じて行えばよく、コロイダルシリカを研磨砥粒とした研磨によって、パターン形成面12における第2領域a2の平坦度が100nm以下となるようにする。
【0075】
<形状測定工程S2>
次に形状測定工程S2では、研磨工程S1後における基板1のパターン形成面12の表面形状を測定する。表面形状の測定は、平坦度測定機を用いて行われ、基板1におけるパターン形成面12の中心を含む40mm角の第2領域a2を少なくとも含む領域に対して行われる。そして、測定された表面形状から、第2領域a2における平坦度が算出される。平坦度測定機としては、レーザ干渉式平坦度測定機、レーザ変位計、超音波変位計または接触式変位計が挙げられるが、これらに限定されない。このとき、平坦度測定機で基板1のチャック面11に対しても表面形状の測定が行われる。このチャック面11に対する表面形状の測定はチャック面11の中心を含む142mm角の第1領域a1を少なくとも含む領域に対して行われる。ここで測定されたチャック面11の表面形状は、局所加工工程S3で使用される。
【0076】
この形状測定工程S2の終了後には、形状測定工程S2で取得した表面形状の測定結果に基づいてパターン形成面12の平坦度が100nm以下であるものを選定する選定工程が行われる。この選定工程で選定されなかった基板1に対し、平坦度が十分であると判断されるまで、研磨工程S1を繰り返し行うようにしてもよい。
【0077】
<局所加工工程S3>
次いで局所加工工程S3では、形状測定工程S2で取得したチャック面11の表面形状に基づいて、基板1におけるチャック面11の第1領域a1に対してのみ、局所加工を行う。ここでは、チャック面11の第1領域a1に対して基準表面を設定し、この基準表面に対して相対的に凸になっている凸部を特定し、特定された凸部に対して局所加工を行う。これにより、凸部の高さを低くし、チャック面11の第1領域a1が、目標とする平坦性を有する表面形状となるように局所加工を行う。目標とする平坦性を有する表面形状とは、第1領域a1の平坦度が100nm以下となる形状である。
【0078】
このような局所加工には、局所領域の加工を行うことが可能であって、基板材料の表面に存在する凸部と凹部とが周期的に連なる凹凸形状の周期に対して充分小さい局所領域を加工できる加工方法が適用される。すなわち、加工する局所領域の直径のFWHM(full width of half maximum)値を、この凹凸形状の周期の1/2以下とすることが可能な加工方法が用いられる。
【0079】
加工する局所領域の直径のFWHM値は、先の凹凸形状の周期の1/4以下とすることがより好ましい。異なる周期の凹凸形状が複数存在する場合には、加工する局所領域の直径のFWHM値は、最も周期が小さい凹凸形状の周期の1/2以下とすることが好ましい。
【0080】
以上のような局所加工は、チャック面11に対して局所加工治具を走査することで行われる。チャック面11に対する局所加工治具の走査は、チャック面11の少なくとも第1領域a1に対して行われ、第1領域aの全面に対して行うことが好ましい。このような局所加工治具の走査方法としては、一方向に所定のピッチで走査させた局所加工治具を、走査方向の両端部において走査方向と垂直な方向に走査位置をずらすことで、第1領域a1内の全面に対して局所加工治具を走査させる、いわゆるラスタースキャンが例示されるが、これに限定されることはない。
【0081】
またこの際、形状測定工程S2で取得したチャック面11の表面形状に基づいて、各局所領域の加工量を算出し、各局所領域の加工量が算出した加工量となるように、第1領域a1内の各局所領域において局所加工治具の走査速度を制御する。
【0082】
以上のような局所加工の具体例としては、GCIB(Gas Cluster Ion Beam)等の各種イオンビームを用いたイオンビームエッチング、プラズマエッチング、あるいは磁気粘性流体研磨が用いられるが、これらに限定されない。
【0083】
このうち磁気粘性流体研磨法(MRF)は、磁気粘性流体(Magneto-rheological Fluid)を用いた磁気援用の局所加工方法であり、電磁石である回転するホイールの先端を局所加工の加工端とし、ホイールの先端と基板との間に磁性流体と研磨砥粒の混合液である磁気粘性流体を投入して研磨を行う。磁気粘性流体研磨法(MRF)の特徴は、機械的な圧力の影響が少ないため、加工表面に対する潜傷や歪みが発生し難いことである。
【0084】
磁気粘性流体研磨法(MRF)のよる局所加工を行うに際しては、磁気粘性流体の磁場強さ、粘度、および加工部への供給量、ホイール回転数、さらには加工表面(ここではチャック面11)とホイールの先端との距離、スポット径等を初期値として適宜に設定する。これにより、局所加工における加工精度の向上が図られる。
【0085】
なお、形状測定工程S2で取得したチャック面11の表面形状から、第1領域a1内の各局所領域の加工量を算出する際には、局所加工によって仕上げる平坦性が目標値として用いられる。しかしながら、この局所加工工程S3では、1回の局所加工のみによって加工表面の表面形状を目標とする平坦性に仕上げようとすると、加工情報の算出が発散して無駄な加工が増えて加工時間が長引く場合がある。このため上述した局所加工工程S3は、目標とする平坦性を段階的に上げた複数段階に分けて行うことが好ましい。
【0086】
また、チャック面11の局所加工工程S3の終了後には、チャック面11の形状測定工程と、これに続くチャック面11の平坦性を判断する判断工程とを行い、平坦性が十分であると判断されるまで、局所加工工程S3を繰り返し行うようにしても良い。局所加工工程S3を複数段階に分けて行う場合には、このような繰り返しを段階毎に行っても良い。
【0087】
<最終研磨工程S4>
最終研磨工程S4では、局所加工工程S3後における基板1のチャック面11とパターン形成面12とに対し、研磨砥粒を用いた両面研磨を行う。ここでの両面研磨は、例えば研磨工程S1よりも短い加工時間で行われる。この最終研磨工程S4においては、局所加工工程S3を行うことで生じたチャック面11の表面粗さの悪化を改善することを主な目的とし、コロイダルシリカを研磨砥粒として用いた研磨を行う。
【0088】
以上により、チャック面11の第1領域a1と、パターン形成面12の第2領域a2および第3領域a3とが、先に説明した所定の平坦度および局所的な高低差PVに平坦化されたマスクブランク用基板1が完成する。
【0089】
以上の後、作製したマスクブランク用基板1を用いて
図2を用いて説明したマスクブランク2を製造する場合、次の薄膜形成工程に進む。
【0090】
<薄膜形成工程S5>
薄膜形成工程S5では、最終研磨工程S4を経て作製されたマスクブランク用基板1におけるパターン形成面12に、パターン形成用の薄膜21を形成する。薄膜21を形成する方法は、特に制約される必要はないが、なかでもスパッタリング成膜法が好ましく挙げられる。スパッタリング成膜法によると、均一で膜厚の一定な膜を形成することができるので好適である。
【0091】
例えばCrOCNからなる薄膜21をスパッタリング成膜法によって形成する場合、スパッタターゲットとしてCrターゲットを用い、チャンバー内に、アルゴンガス、ヘリウムガス、二酸化炭素および窒素の混合ガスをスパッタリングガスとして導入し、スパッタリング成膜を行う。
【0092】
以上により、
図2を用いて説明したマスクブランク2が得られる。
【0093】
なお、本発明のインプリントモールド用のマスクブランク2が、薄膜21の上に、さらにレジスト膜を形成した形態のものである場合、上述した薄膜形成工程S5の後に、薄膜21上にレジスト膜を形成する工程を行う。
【0094】
<本発明の製造方法の効果>
以上の製造方法によれば、マスクブランク用基板1を製造する際、基板1のチャック面11に対して局所加工を施したことにより、142mm×142mmの広い第1領域a1の平坦度を100nm以下とすることが可能である。一方、パターン形成面12は、研磨工程S1での両面研磨によりモールドパターンが形成される第2領域a2においての平坦度を100nm以下とすることができ、しかも局所加工を施さないことにより局所的な高低差PVを5nm以下に抑えることが可能である。
【0095】
これに対して、チャック面11の第1領域a1は、平坦度100nm以下とするために局所加工が施されているため、局所的な高低差PVが大きな値(5nm以上)となる。一方、パターン形成面12は、40mm×40mmの第2領域a2を、平坦度100nm以下、局所的な高低差PV5nm以下とするために局所加工を施さない。このため、第2領域a2を含む第3領域a3は、平坦度が大きな値(100nm以上)となる。
【0096】
以上により、本発明のマスクブランク用基板1およびマスクブランク2を製造することが可能になる。
【0097】
≪インプリントモールドの製造方法≫
次に、以上説明したマスクブランクを用いた本発明のインプリントモールドの作製方法を説明する。
図4は、本発明のインプリントモールドの製造方法を説明するための断面工程図であり、以下
図4に基づいてインプリントモールドの作製方法を説明する。
【0098】
先ず
図4Aに示すように、本発明のマスクブランク2の薄膜21上の全面に、例えば電子線描画用のレジストを塗布し、所定のベーク処理を行うことによりレジスト膜23を形成する。
【0099】
次に
図4Bに示すように、電子線描画機などを用いて、レジスト膜23に所定のパターン(例えばラインアンドスペースパターン)を描画した後、レジスト膜23を現像してレジストパターン23aを形成する。ここでは、マスクブランク2のパターン形成面12における第2領域a2上のレジスト膜23に対して、レジストパターン23aを形成する。
【0100】
その後
図4Cに示すように、レジストパターン23aを形成したマスクブランク2を、ドライエッチング装置に導入し、上記レジストパターン23aが形成されたレジスト膜23をマスクとして薄膜21をエッチング加工する。これにより、薄膜21に薄膜パターン21aを形成する。ここで、ドライエッチング装置からマスクブランク2を一旦取り出して、残存するレジスト膜23を除去してもよい。なお、上記薄膜21の層構成、材質によっては、エッチング加工を1段階ではなく、2段階以上で行うこともある。
【0101】
次いで
図4Dに示すように、薄膜パターン21aが形成された薄膜21をマスクとして基板1をエッチング加工し、基板1のパターン形成面12における第2領域a2に凹凸形状のモールドパターン10aを形成する。
【0102】
次に
図4Eに示すように、モールドパターン10aが形成されたマスクブランク2における薄膜21上に、台座構造用のレジストパターン25を形成する。台座形成用のレジストパターン25は、モールドパターン10aが形成された第2領域a2を覆う形状として形成する。次いで、レジストパターン25をマスクにしたエッチングにより、第2領域a2の外側の薄膜21を除去し、さらに基板1のパターン形成面12側をエッチバックする。このエッチングは、例えばウェットエッチングによって行う。このようなエッチングにより、モールドパターン10aが形成された第2領域a2を、その外側の領域よりも高くした台座構造27を形成する。エッチング終了後には、レジストパターン25、および薄膜21を除去する。
【0103】
これにより、
図4Fに示すように、基板1のパターン形成面12側の台座構造27に、モールドパターン10aが設けられたインプリントモールド3を得る。
【0104】
なお以上は、本発明のインプリントモールドの製造方法の一例であり、本発明のインプリントモールドの製造方法がこれに限定されることはない。本発明のインプリントモールドの製造方法は、本発明のマスクブランクまたは本発明のマスクブランクの製造方法用いたインプリントモールドの製造方法であればよい。
【0105】
例えば、このインプリントモールド3が、さらに孔を有する第2の基材を第1の基材に貼り合わせた構成である場合、マスクブランク2に代えて、第1の基材のパターン形成面に薄膜21を形成したマスクブランクを用い、
図4Eに示す状態まで加工を行い、台座構造27を形成する前または形成した後に、第1の基材のパターン形成面とは反対側の主表面に対して第2の基材を貼り合わせる工程を行うようにしてもよい。これにより、レジストパターン25によってモールドパターン10aを保護した状態で、第1の基材と第2の基材の貼り合わせを行うことができる。
【0106】
<本発明のインプリントモールドの製造方法の効果>
以上の製造方法では、本発明のマスクブランク2を用い、そのパターン形成面12において平坦度が100nm以下でかつ局所的な高低差PVが5nm以下の第2領域a2に対してモールドパターン10aを形成している。このため、高さが均一で精度良好なモールドパターン10aを形成することができる。しかも、チャック面11は、その広い範囲である第1領域a1の平坦度が100nm以下である。したがって、先に本発明のマスクブランク用基板の効果で述べたように、モールドパターン10aの高さ位置および深さ位置の均一性を損なうことなく精度良好なパターン転写を行うことが可能なインプリントモールドを作製することができる。
【0107】
≪インプリントモールドを用いた微細パターンの形成方法≫
図5は、本発明のインプリントモールドを用いたインプリント法を説明する断面工程図である。以下、この図に基づいてインプリント法によるパターン形成を説明する。
【0108】
先ず、
図5Aに示すように、転写装置のモールド保持部41にインプリントモールド3を固定する。この際、インプリントモールド3におけるチャック面11の全面をモールド保持部41に接触させた状態でチャッキングすると共に、インプリントモールド3を側面側からモールド保持部41で挟持する。
【0109】
また、パターンを形成したい転写対象物31上に、レジスト膜(例えばUV硬化型樹脂や熱硬化型樹脂)33を塗布成膜しておく。この際、例えばインプリントモールド3がマスターモールドであれば、この転写対象物31は、レプリカモールド作製用のマスクブランクである。また例えばインプリントモールド3がレプリカモールドである場合、この転写対象物は半導体基板や電子基板など、電子機器を構成する各基板であることとする。
【0110】
次に
図5Bに示すように、転写対象物31上に形成したレジスト膜33に対して、インプリントモールド3のパターン形成面12を対向配置させ、レジスト膜33に対してインプリントモールド3のモールドパターン10aを押し付ける。この状態で、レジスト膜33を硬化させ、レジスト膜33にモールドパターン10aの凹凸形状を転写する。
【0111】
その後、
図5Cに示すように、硬化させたレジスト膜33からインプリントモールド3を剥がし取り、モールドパターン10aの凹凸形状が転写されたレジストパターン33aを得る。
【0112】
次いで
図5Dに示すように、レジストパターン33aをマスクにして転写対象物31をエッチングし、転写対象物31に凹凸形状のパターン31aを形成する。
【0113】
以上のようなインプリント法によるパターン31aの形成では、本発明のマスクブランクを用いて作製したインプリントモールド3を用いている。このため、先に本発明のマスクブランク用基板1の効果で述べたように、モールドパターン10aの高さ位置および深さ位置の均一性を損なうことなく精度良好にレジスト膜へのパターン転写を行うことが可能になる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例によって、本発明を実施するための形態をより具体的に説明する。
【0115】
(実施例1〜6および比較例1)
実施例1〜6および比較例1においては、先ず、所定形状、大きさ、板厚に加工した合成石英からなる基板1(大きさ152mm×152mm×厚さ6.35mm)を用意した。
【0116】
そして、研磨工程S1として、実施例1〜6および比較例1の各基板1に対して、遊星歯車機構を用いた研磨装置を用いた両面研磨を行った。この際、先ず、酸化セリウムを分散させた研磨砥粒を用いて一次研磨を行い、次いで研磨装置および研磨パッドを換えてコロイダルシリカを研磨砥粒とした二次研磨を行った。
【0117】
下記表1に示すように、この二次研磨では、実施例1〜6および比較例1において、それぞれ各研磨パッドを用いた。これにより、パターン形成面12における第2領域a2の平坦度が100nm以下で十分に平坦になるように研磨を行った。
【0118】
次に、形状測定工程S2として、実施例1〜6および比較例1の各基板1のチャック面11の表面形状を測定した。ここでも、干渉式の平坦度測定機(Corning Tropel社製 UltraFlat200M:商品名、以下同じ。)を用いた測定を行った。
【0119】
その後、局所研磨工程S3として、実施例1〜6の各基板については、チャック面11に対してのみ局所加工を行った。この際、表面形状測定工程S2で測定した表面形状に基づき、チャック面11の第1領域a1の平坦度が100nm以下となるように磁気粘性流体研磨法(MRF)による局所研磨を行った。一方、比較例1の基板については、チャック面11の第1領域a1およびパターン形成面12の第3領域a3の平坦度がそれぞれ100nm以下となるように磁気粘性流体研磨法(MRF)による局所研磨を行った。
【0120】
以上の後、最終研磨工程S4として、実施例1〜6および比較例1の各基板1に対して、遊星歯車機構を用いた研磨装置を用いた両面研磨を行った。この際、コロイダルシリカを研磨砥粒として用い、局所加工工程S3で加工表面に形成された局所加工の走査痕を低減した。
【0121】
以上のようにして、実施例1〜6および比較例1の各マスクブランク用基板1を作製し、それぞれについてチャック面11とパターン形成面12における各領域の平坦度および局所的な高低差PVを測定した。平坦度の測定には、平坦度測定機を用いた。局所的な高低差PVの測定には、走査型干渉計(Zygo社製NewView7300:商品名、以下同じ。)を用い、各領域における任意の9か所について局所的な高低差PVを測定して平均値を算出した。下記表1に、測定した結果を示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1に示すように、実施例1〜6の各マスクブランク用基板1のチャック面11は、局所加工を施したことにより、第1領域a1の平坦度が100nm以下であったが、局所的な高低差PVが5nmよりも大きかった。一方、パターン形成面12は、モールドパターンが形成される第2領域a2においての平坦度が100nm以下であり、かつ局所加工が施されていないことから第2領域a2における局所的な高低差PVが5nm以下に抑えられていた。またパターン形成面12は、局所加工が施されていないことから、第2領域a2を含む広い範囲の第3領域a3の平坦度は100nmよりも大きかった。
【0124】
これに対して比較例1のマスクブランク用基板は、パターン形成面12に対しても局所加工が施されたことにより、パターン形成面12の第2領域a2および第3領域a3は、ともに平坦度が100nm以下と良好であるのもの、モールドパターンが形成される第2領域a2における局所的な高低差PVが5nm以上であった。
【0125】
図6に、実施例1,6および比較例1のマスクブランク用基板について、前記の走査型干渉計で測定した各表面形状の画像を示す。
図6に示す測定結果は、第2領域a2に対応する領域内の任意の1か所における2.8mm×2.1mmの測定領域内の表面形状であり、表面高さをグラフィック表示した図である。なお、2.8mm×2.1mmの測定領域は、局所的な高低差PVを測定する2mm×2mmの算出領域を含む領域である。したがって、この測定領域で検出された局所的な高低差PVは、2mm×2mmの算出領域で検出された局所的な高低差PVよりも大きな値となりえる。また、
図6に示した局所的な高低差PVの値は、図示した領域の値である。
【0126】
図6に示すように、本発明を適用した実施例1,6のマスクブランク用基板におけるパターン形成面の第2領域a2での表面形状は、局所的な高低差PVによるうねり形状は見られなかった。これに対して、比較例1のマスクブランク用基板におけるパターン形成面の第2領域a2での表面形状は、局所的な高低差PVによるうねりの存在が確認された。以上の結果から、本発明を適用したマスクブランク用基板は、パターン形成面のモールドパターンを形成する領域である第2領域a2では、いずれも局所的な高低差PVによるうねり形状は生じないことがわかった。このため、本発明を適用したマスクブランク用基板からインプリントモールドを作製し、このインプリントモールドで転写対象物(光硬化性樹脂等)に対してパターン転写を行ったとしても、本来転写さえるべきではない凹凸であり、転写されるべきパターンに比べて相対的に高さが低い凹凸が転写される恐れはないといえる。