【実施例1】
【0015】
図1は実施例1の高周波加熱装置の縦断面図、
図2は高周波給電口部100の拡大斜視図、
図3は誘電体軸部の要部拡大断面図、
図4は導体ピンの有無における減衰効果の解析結果、
図5は導体ピンの各部寸法を決めるための解析モデル、
図6は導体ピンの軸長さLによる減衰効果の解析結果、
図7は導体ピンの軸方向に垂直な断面の外寸D1による減衰効果の解析結果、
図8および
図9は導体ピンを内蔵した誘電体軸において、導体ピンのアンテナ誘電体軸内での軸長さLおよび外寸D1のとり方、
図10は導体ピンの形状の一例を示した斜視図、
図11は導体ピン、誘電体軸の軸方向に垂直な断面の外寸D1を示した図である。
【0016】
図1に示すように、本実施例の高周波加熱装置は、被加熱物11を収容する加熱室1と、加熱室1の底面に設けられた誘電体からなる被加熱物載置板2と、この被加熱物載置板2の下方に設けられた高周波供給室3と、マイクロ波エネルギーを発生するマグネトロン4と、マグネトロン4が取り付けられ、マイクロ波ネルギーを伝送する導波管5と、導波管5に導かれたマイクロ波エネルギーを高周波供給室3に放射するために高周波供給室3の底面(例えば中央部)に設けた結合孔6と、結合孔6を貫通して高周波供給室3内へ略垂直に設けた内導体7と、高周波供給室3内で内導体7の一端に略水平に連結された金属製の回転アンテナ8と、導波管5内で内導体7に連結された誘電体軸9と、誘電体軸9を回転駆動する駆動部10とを備えており、回転アンテナ8の回転は駆動部10により回転制御される。
【0017】
マグネトロン4で発生したマイクロ波エネルギーは導波管5に導かれ、結合孔6を貫通する内導体7との同軸モード結合により回転アンテナ8に伝搬され、高周波供給室3、被加熱物載置板2を通じて加熱室1内に放射される。ここで、マイクロ波ネルギーを伝送する導波管5が伝送路を、内導体7を介して導波管5からマイクロ波ネルギーが供給される高周波供給室3及び加熱室1で共振器を構成する。
【0018】
導波管5外側(駆動部10側)の誘電体軸9内部には、
図2に示すように、誘電体軸9の回転軸方向に略垂直に、該誘電体軸の中心軸断面を挟んで導体ピン12が例えばインサート成型などで内蔵される。ここで、略垂直とは誘電体軸9の軸方向と直角に交わる角度が90°±10°程度を示しており、この角度範囲であれば、本実施例の遮蔽性能が維持される。なお、誘電軸9内の導体ピン12の位置は、軸中央にあることが望ましい。
【0019】
また、
図3に示す導体ピン12の軸長さL、導体ピン12の軸方向と直交する断面における外寸D1、誘電体軸9の外寸D0とした場合、前記導体ピン12は導体ピン12の軸長さLと誘電体軸9の外寸D0の比L/D0が、0.58≦L/D0≦1.12、且つ導体ピン12の軸方向と直交する断面における外寸D1と誘電体軸9の外寸D0の比D1/D0が、0.08≦D1/D0≦0.52となる形状とした。
【0020】
導体ピン12は導体であれば如何なる金属でも構わないが、導電率の大きな導体がより望ましい。また、誘電体軸9は、本実施例のように回転による負荷がかかる場合、例えばアルミナなど強度の高いセラミックが用いればよい。
【0021】
次に、上記構成の作用について説明する。
図4は
図1の構造をもとに導波管5に誘電体軸9を設置し、TE10モード解析信号をY軸方向に与えた
図5の解析モデルにより、本実施例の効果を電磁波解析で計算したものである。
【0022】
計算では
図5に示す導波管5外側のアンテナの誘電体軸9の先端から5mm離した軸中心に電界強度観測点におき、その変化量を比較した。
図4に導体ピン12の有無による漏洩マイクロ波エネルギーの電界強度の解析結果を示す。
【0023】
図4より、誘電体軸9の先端からの距離S=5mmの軸中心を電界強度観測点とした場合、2450MHz〜2470MHzの周波数範囲では、導体ピン12を設けた本実施例の構成は、導体ピン12を備えていない構成に対し、約−15dBの減衰効果がある。つまり、本実施例では表面波の形で誘電体軸9に沿って導波管5外側に漏洩するマイクロ波エネルギーを抑制することができる。尚、上記の解析条件では誘電体軸9の材質をアルミナとし、一般的に使用される材料物性値である比誘電率εr’=9.5、誘電正接tanδ=0.0005を用いたが、他の誘電体材料であっても電波漏洩の抑制効果が得られる。
【0024】
また、
図6は導体ピン12の軸長さLによる減衰効果の解析結果、
図7は導体ピン12の軸方向に垂直な断面の外寸D1による減衰効果の解析結果である。
【0025】
この結果から、マイクロ波エネルギーの漏洩抑制に効果がある導体ピン12の形状は、導体ピン12の軸長さLと誘電体軸9の軸方向に垂直な断面の外寸D0の比L/D0が、0.58≦L/D0≦1.12、且つ導体ピン12の外寸D1と誘電体軸9の外寸D0の比D1/D0が、0.08≦D1/D0≦0.52であり、この形状の導体ピン12を用いることにより、誘電体軸9に沿って導波管5の外側に漏洩するマイクロ波エネルギーを抑制できる。尚、これらの解析結果は導体ピン12がない時の誘電体軸9先端から5mm離した電界強度観測点での電界強度をベースにした減衰効果をデシベル(dB)で示している。また、これらの解析は導体ピン12が誘電体軸9の軸断面中央に配置された理想的な例である。
【0026】
尚、本実施例に示す導体ピン12は、誘電体軸9の軸断面中央にインサート成型した構成を示したが、
図8のように誘電体軸9のみに、導体ピン12より大きい断面外形の貫通孔を設け、導体ピン12を挿入させる構成であっても差し支えない。また、本実施例は導体ピン12が誘電軸9を貫通して両端に軸が突出しても性能影響が少なく、同様な効果があることは言うまでもない。ただし、前述した特にL/D0≦1.12となるように付き出し部12aの長さL’は短くする事がより好ましい。尚、突き出す場合は片側のみ、あるいは両側に突き出しても構わない。製作上、一片のみ軸内に挿入し、片側が軸内、もう一方が突き出る方が作り易いし、抜けにくい。
【0027】
従って、誘電体軸9の両端に突出した導体ピン12を例えば曲げ等で変形させたり、接着剤で固定したり、別途固定用支持具を用いて位置固定しても何ら差し支えない。また、誘電体軸9に設けた穴に差し込んで圧入してもよいし、両者にネジ加工を施しネジ止めしてもよい。あるいは、導体ピン12の外表面に例えば溝などの凹凸を設け、差し込んだ際に抜け難い構造にしてもよいし、或いは導体ピン12を例えば銅などの軟らかい金属で構成し埋め込んでもよい。または、二つ折りにし、金属のバネ力を利用して固定させてもよい。
【0028】
また、
図8に示した構造の場合、誘電体軸9の外周面から導体ピン12の内蔵された長さL−L’は誘電体軸9の軸断面中央を通過する長さとすることが望ましい
一方、本実施例で示す誘電体軸9の外寸D0、導体ピン12の外寸D1とはその軸方向と垂直な断面の最大外寸を指す。よって、例えば導体ピン12の軸方向に垂直な断面が
図9に示すような直方体の場合、直方体の対角線の長さが外寸D0となる。また、
図10(a)〜(d)は上記導体ピン12の形状の例を示した斜視図であり、三角柱や四角柱、円柱などの柱状であれば容易に適用できる。
【0029】
ここで、
図11(a)〜(h)は上記の導体ピン12や誘電体軸9の軸断面の外寸D0、D1のとり方の例であり、外寸は導体ピン12の軸方向に垂直な断面形状によらず、おおよそ断面外形2点の最大長さとなる。よって、導体ピン12の形状は例えば円柱のような柱状でなく円筒のような筒状でもよい。また、軸回転しない誘電体軸を伝送路や共振器の開口に挿入する場合であっても、円柱でない上記形状でも差し支えない。
【0030】
また、本実施例は、駆動部10が回転アンテナ8を回動させる回転軸に本実施例を適用したものであるが、例えば加熱室1の定在波制御などの為に、加熱室1や導波管5などの共振器や伝送路内に、摺動或いは固定させて誘電体軸を挿入する構造に容易に適用できることは言うまでもない。この構成であれば、導体ピン12の断面形状と同様、誘電体軸の断面形状も任意の形状にすることができる。
【0031】
以上、本実施例の高周波加熱装置では、導波管5外側に突出した誘電体軸9内部に誘電体軸9の軸方向に略垂直に導体ピン12を設けることにより、誘電体軸9に沿って導波管5外側に漏洩するマイクロ波エネルギーが抑制されるので、誘電体軸9に連結された駆動部10および誘電体軸近傍の電気部品や装置の誤動作を防止でき、信頼性の高い高周波加熱装置を提供できるという効果がある。
【実施例2】
【0032】
図12は導体ピン12の他の実施例であり、円筒状の導体ピン12に軸方向あるいは軸方にひねったスリットを設けた構造の斜視図である。ここで、本実施例の導体ピン12は実施例1と同様に、伝送路である導波管5や共振器である加熱室1の開口である結合孔6に挿入される誘電体軸9に設けられる。
【0033】
図12(a)に示す導体ピン12は内部に空洞がある円筒状の構造であり、筒状の導体ピン12の軸方向に平行にスリット13がある。スリット13の間隙は極端に狭いと放電(スパーク)が生じ易くなるため、その隙間を例えば1〜2mm程度設ける必要がある。その場合、このスリット付き導体ピン12は電波的にほぼ円筒と見なされる。
【0034】
また、
図12(b)に示す導体ピン12は筒状の導体ピン12の軸方向に斜めにスリット13を設けている。ここで、前述のようにスリット13の間隙が狭い場合、電波的に円筒であるので、スリット13は十分な強度が得られる任意の角度で設けてもよいし、軸に対してスパイラル状でもよい。この場合もスリット13の隙間が例えば1〜2mm程度であれば、このスリット13付きの導体ピン12は電波的にほぼ円筒と見なされ、実施例1の形状範囲である、該導体ピン12の軸長さLと誘電体軸9の外寸D0の比L/D0が、0.58≦L/D0≦1.12、且つ該導体ピン12の軸方向に垂直な断面における外寸D1と該誘電体軸9の外寸D0の比D1/D0が、0.08≦D1/D0≦0.52で遮蔽効果が得られる。
【0035】
本実施例は、オーブン加熱が可能なオーブンレンジのような、加熱室1や導波管5の温度が100℃以上となり、誘電体軸9と導体ピン12に熱膨張差が生じる構造において、アルミナ等の硬質材料からなる誘電体軸9の割れや破壊を防ぐ導体ピン12の形状である。つまり、導体ピン12のスリット13は導体ピン12の熱膨張による径方向の変形をスリット間隙の変化により吸収できる。尚、導体ピン12のスリット13を波形に形成してもよいし、導体ピン12を導電性の弾性体で構成にしてもよい。
【0036】
尚、本実施例の導体ピン12は、少なくとも導体ピン12の一端を誘電体軸9から突出して成型した構造、或いは誘電体軸9に設けた穴に導体ピン12を差し込んで固定する構造、つまり、導体ピン12がその軸方向に自由に変形できる構造に適用できる。
【実施例3】
【0037】
図13、
図14は実施例3の加熱室底面に設けられた重量センサー14を備えた高周波加熱装置の縦断面図と斜視図である。本実施例は、共振器である加熱室1の被加熱物載置板2に載置した被加熱物11の重量を検出できるように、重量センサー14の誘電体軸9−1を下方から加熱室1に貫通した開口に挿入して被加熱物載置板2を複数ヶ所で支持する構造である。尚、本実施例の高周波給電口100は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0038】
図において、本体内には被加熱物11を収納し、加熱調理を行う加熱室1が設けられ、加熱室1の正面に被加熱物11を出し入れするドアが設けられる。加熱室1の底面下方には回転アンテナ8と回転アンテナ8を回転させる駆動部10が被加熱物載置板2の略中心位置に、重量センサー14が被加熱物載置板2の正面側ニ隅と奥側中央の計3ヶ所設けられている。
【0039】
重量センサー14として例えば測定原理が静電容量式の検出手段の概略を説明する。静電容量式では二枚の薄板金属材を略平行に対向して配置させコンデンサを形成し、被加熱物載置板2に載置された被加熱物11の重さに応じて薄板金属材(図示せず)の間隙(静電容量)を変化させることで、静電容量変化の検出から被加熱物11の重さを算出するものである。
【0040】
つまり、重量センサー14は、被加熱物載置板2に載置された被加熱物11の重さの変化を直に検知させるため、加熱室1に貫通して配置した誘電体軸9−1により、被加熱物載置板2と重量センサー14(薄板金属板)を連結させている。尚、誘電体軸9−1により、被加熱物載置板2の重量変化を伝える構造であれば、重量の検出手段は、静電容量式でなくとも例えば歪式等であっても差し支えない。
【0041】
尚、図示した被加熱物載置板2を3点で保持する重量センサー14は、被加熱物載置板2と被加熱物載置板2上に載置される被加熱物11の重さを被加熱物載置板2への載置位置によらず正確に検知することができる。
【0042】
また、本実施例では被加熱物載置板2に全ての重量センサー14の誘電体軸9−1が接触して安定して保持できるように重量センサー14の個数を3つとしたが、被加熱物載置板2を安定して保持できれば個数を3つに限る必要はない。
【0043】
加熱室1の下側には、被加熱物11を加熱するマイクロ波を供給するために、マグネトロン4、導波管5、回転アンテナ8等の高周波給電口部100が設けられている。
【0044】
回転アンテナ8は、加熱室1下方の高周波供給室3に収納され、被加熱物載置板2の取り外しの際に手で触れないようマイカ板2−1で覆う構成が採られている。ここで、マイカ板2−1はマイクロ波に対して低誘電体損失特性をもつので、回転アンテナ8の形状や回転速度によって変化する電磁波エネルギーを微小な減衰で加熱室1に伝えることができる。
【0045】
このように本実施例では、被加熱物11を収容する加熱室1と、加熱室1の底面に設けた誘電体からなる被加熱物載置板2と、この被加熱物載置板2の下方で加熱室1の底面を貫通して被加熱物載置板2に一端が接し、他端が加熱室1底面外側に設けられ重量センサー14に連結された誘電体軸9−1と、加熱室1の底面略中央部に設けた高周波供給室3と、マイクロ波エネルギーを発生するマグネトロン4と、マグネトロン4を取り付ける導波管5と、高周波供給室3底面中央部に設けた結合孔6と、該結合孔6を貫通して高周波供給室3内へ略垂直に臨んで設けた内導体7と、高周波供給室3に収納し内導体7の一端に連結した金属製の回転アンテナ8と、内導体7の導波管5内で連結し導波管5を貫通して設けられた誘電体軸9と、誘電体軸9の前記導波管5外部の一端に連結された駆動部10を備え、加熱室1底面外側に突出した誘電体軸9−1の内部に誘電体軸9−1の軸方向と略垂直に導体ピン12−1を設けた構成となっている。
【0046】
つまり、本実施例の高周波加熱装置では、加熱室1底面外側に突出した誘電体軸9−1内部に誘電体軸9−1の軸方向に略垂直に導体ピン12−1を設けることにより、誘電体軸9−1に沿って加熱室1外側に漏洩するマイクロ波エネルギーが抑制される。よって、実施例1と同様に、誘電体軸9−1に連結された重量センサー14および誘電体軸9−1近傍の電気部品、装置の誤動作を防止でき、信頼性の高い高周波加熱装置提供できる。
さらに、マイクロ波エネルギーの漏洩を抑制できるので、マイクロ波加熱における入力電力を向上し、高効率且つ短時間で加熱室の被加熱物を加熱することができる。例えば電子レンジであれば、マイクロ波加熱時の入力電力における最大電力の向上、最大電力の長時間維持が可能となる。