【文献】
芦澤公一、山本兼滋,リチウムイオン電池用アルミニウム箔,Furukawa-Sky Review,日本,2009年 4月 1日,No.5,Page.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fe:0.1〜0.5mass%(以下mass%を単に%と記す。)、Si:0.01〜0.3%、Cu:0.01〜0.2%、Mn:0.01%以下を含有し、残部Alと不可避的不純物からなり、引張強さが230MPa以上、0.2%耐力が190MPa以上、導電率が55%IACS以上であり、180℃で1時間の熱処理を行った場合の熱処理後の引張強さが160MPa以上、0.2%耐力が140MPa以上であることを特徴とする電極集電体用アルミニウム合金箔。
請求項1に記載の電極集電体用アルミニウム合金箔の製造方法であって、Fe:0.1〜0.5%、Si:0.01〜0.3%、Cu:0.01〜0.2%、Mn:0.01%以下を含有し、残部Alと不可避的不純物からなるアルミニウム合金鋳塊に対し、以下の式(1)又は(2)を満足する条件での熱処理を行うことなく、開始温度150〜390℃且つ終了温度150〜300℃で温間圧延し、かつ、中間焼鈍を施すことなく冷間圧延と箔圧延を順に実施することを特徴とする電極集電体用アルミニウム合金箔の製造方法。
T>500 (1)
500≧T≧400 かつ t≧0.0004T2−0.4T+101 (2)
(Tは、加熱温度(℃)であり、tは、保持時間(時間)である。)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、鉛電池やニッケル水素電池などに比べ重量および体積当たりのエネルギー密度の点で優れており、搭載機器の軽量化、小型化が図れる。このため近年では、携帯電子機器用だけでなく、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの電源として盛んに利用され、今後、さらに需要がますます高まってくると予想される。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが正極と負極との間を移動する反応で充放電を行う電池であり、正極、セパレータ、負極の3層構造からなる。正極活物質にはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物、負極活物質にはグラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素系材料が主に用いられる。また、正極と負極を分離するセパレータにはポリマー多孔膜、電解液には非水溶媒が用いられる。
【0004】
リチウムイオン二次電池の正極は、一般に次のようにして製造される。まず、活物質(LiCoO
2等)、導電助剤(カーボンブラックなど)、結着剤(ポリテトラフルオロエチレン等)、増粘剤(ポリフッ化ビニリデン等)を溶媒に分散または溶解し、混練したペーストを調製する。このペーストを集電体となるアルミニウム合金箔に塗布後(以下、この「ペーストを集電体となるアルミニウム合金箔に塗布」する工程を活物質塗布工程と呼ぶ。)、溶媒を乾燥させて正極合材層を形成させる。さらに、活物質の密度を増大させるために、プレス機にて圧縮加工を施す(以下、この「プレス機にて圧縮加工を施す」工程をプレス加工と呼ぶ。)。このようにして製造された正極材はセパレータ、負極材と積層された後、捲回し、ケースに収納するための成形を行った後、ケースに収納される。
【0005】
ところで、アルミニウム合金箔にはある程度の強度が求められる。アルミニウム合金箔の強度が不足すると、活物質塗布工程で変形や切れなどの不具合が生じやすい。
【0006】
またリチウムイオン二次電池は自動車や電動工具などの大電流が必要とされる用途で利用されることがあり、このような用途では、集電体用アルミニウム合金箔の導電率が低い場合、電池の内部抵抗が増加して、出力電圧が低下してしまうという問題がある。
【0007】
このように、アルミニウム合金箔には、高強度と高導電率の両方が要求される。高強度を実現するには、Si,Fe,Mn,Cu等の元素を添加すればよいが、このような元素は、アルミニウムと金属間化合物を形成するので、このような元素の添加によって箔圧延時に切れが発生しやすくなったり、導電率が低下したりする。逆に、上記元素を添加しない高純度のアルミニウム合金は、強度が十分でない。このように、従来技術では、高強度と高導電率の両立は非常に困難であった。
【0008】
また、活物質塗布後の乾燥工程(以下、単に乾燥工程と呼ぶ。)では、100℃〜180℃程度の熱処理を実施するため、乾燥工程後の強度は素板強度に比べ低下する傾向がある。この乾燥工程後の強度が低すぎると、プレス加工時に中伸びが発生し易くなるため、捲回時に捲きしわが発生し、活物質とアルミニウム合金箔との密着性の低下や、スリット時の破断が起こり易くなる。活物質とアルミニウム合金箔表面の密着性が低下すると、充放電の繰り返しの使用中に剥離が進行し、電池の容量が低下するという問題がある。現状、乾燥工程としては150℃前後の熱処理が主流であるが、乾燥工程を効率化するために、例えば180℃といったより高温域でも十分な強度を維持できるアルミニウム合金箔が求められている。
【0009】
例えば、特許文献1には、素板の引張強さが98MPa以上である電極集電体用アルミニウム合金箔が提案されている。しかし製造工程中の切れの発生を防止するためには十分な強度とは言えず、さらに導電率に関する記載はない。一方、特許文献2、3には、素板の引張強さが200MPa以上である電池電極集電体用アルミニウム合金箔が提案されているが、主要元素としてMn、Mg等を添加した合金であるため、高い導電率を満足することはできない。特許文献4には、素板の引張強さが160MPa以上のリチウムイオン電池電極集電体用アルミニウム合金箔が提案されている。しかし、乾燥工程を想定した熱処理後の強度が低く、プレス加工時の中伸びを防止するには十分とは言えない。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<アルミニウム合金箔の組成>
本発明に係るリチウムイオン電池用アルミニウム合金箔の組成は、Fe:0.1〜0.5%、Si:0.01〜0.3%、Cu:0.01〜0.2%、Mn:0.01%以下を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる。
【0017】
Feは、添加することで強度を向上させる元素であり、0.1〜0.5%含有する。Fe添加量が0.1%未満では、強度向上に寄与しない。一方、Fe添加量が0.5%を超えると、Al−Fe化合物あるいはAl−Fe−Si化合物がアルミニウム合金箔内部及び表面に多く存在するようになり、ピンホールを増加させるので好ましくない。
【0018】
Siは、添加することで強度を向上させる元素であり、0.01〜0.3%含有する。Si添加量が0.01%未満では、強度向上に寄与しない。また、通常使用するAl地金には不純物としてSiが含まれており、0.01%未満に規制するためには高純度の地金を使用することになるため、経済的に実現が困難である。一方、Si添加量が0.3%を超えると、加工硬化性が高くなるために、箔圧延時での切れが発生し易くなるとともに、Al−Fe−Si化合物がアルミニウム合金箔内部及び表面に多く存在するようになり、ピンホールを増加させるので、好ましくない。
【0019】
Cuは、添加することで、強度を向上させる元素であり、0.01〜0.2%含有する。Cu添加量が0.01%未満では、強度が低下する。一方、Cu添加量が0.2%を超えると加工硬化性が高くなるために、箔圧延時での切れが発生し易くなる。
【0020】
Mnは、微量でも含有すると導電率を大きく低下させるために、0.01%以下に規制される。0.01%を超えると、高導電率を維持するのが困難になるので好ましくない。
【0021】
その他、本材料にはCr、Ni、Zn、Mg、Ti、B、V、Zr等の不可避的不純物が含まれる。これら不可避的不純物は、個々に0.02%以下、総量としては0.15%以下であることが好ましい。
【0022】
<素板強度>
本発明に係る電極集電体用アルミニウム合金箔の素板引張強さは230MPa以上、0.2%耐力は190MPa以上とする。引張強さが230MPa未満、0.2%耐力が190MPa未満では強度が不足し、活物質塗布時に加わる張力によって、切れが発生し易くなる。また、中伸びなどの不具合も引き起こし、生産性に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
【0023】
<熱処理後の強度>
正極材の製造工程は、活物質中の溶媒を除去する目的で活物質塗布後に乾燥工程がある。この乾燥工程では100〜180℃程度の温度の熱処理が行われる。この熱処理により、アルミニウム合金箔は軟化して機械的特性が変化する場合があるため、熱処理後のアルミニウム合金箔の機械的特性が重要となる。現状の乾燥工程では150℃前後で熱処理される場合が多いが、生産性を向上させるためより高温域でも十分な強度を維持可能なアルミニウム合金箔が求められている。本発明では、180℃で1時間の熱処理を行った場合でも熱処理後の引張強さが160MPa以上、0.2%耐力が140MPa以上となるように製造条件を適切に制御する。この熱処理後の引張強さが160MPa未満、0.2%耐力が140MPa未満では、乾燥工程後のプレス加工時に中伸びが発生し易くなるため、捲回時に捲きしわが発生し、活物質の剥離やスリット時の破断が起こり易くなるため、好ましくない。
【0024】
<導電率>
導電率は55%IACS以上とする。導電率は溶質元素の固溶状態を示す。本願電極集電体をリチウムイオン二次電池に用いる場合、導電率が55%IACS未満では、放電レートが5Cを超えるような高い電流値で使用する際に、電池容量が低下するため、好ましくない。なお、1Cとは公称容量値の容量を有するセルを定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値のことである。
【0025】
<アルミニウム合金箔の製造方法>
本発明では上記合金組成のアルミニウム合金鋳塊を以下の工程で製造する。
前記組成を有するアルミニウム合金を常法に従って溶製し、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の鋳造法を適宜選択して鋳造する。
【0026】
鋳造したアルミニウム合金鋳塊に対し、以下の式(1)又は(2)を満足する条件での熱処理を行うことなく、開始温度150〜390℃で温間圧延を施す。
T>500 (1)
500≧T≧400 かつ t≧0.0004T
2−0.4T+101 (2)
(Tは、加熱温度(℃)であり、tは、保持時間(時間)である。)
【0027】
言い換えると、鋳造したアルミニウム合金鋳塊に対し、(a)400℃未満で熱処理を行うか、又は(b)400℃以上500℃以下で、t<0.0004T
2−0.4T+101を満足する比較的短時間の熱処理を行った後に、開始温度150〜390℃で温間圧延を施す。
【0028】
各加熱温度Tでの保持時間tの閾値(t=0.0004T
2−0.4T+101)は、表1に示す通りである。例えば、加熱温度が450℃である場合、保持時間が2時間よりも短ければ、熱処理が合金箔の強度に与える影響は大きくないが、保持時間が2時間以上になると合金箔の強度低下を招いてしまう。
【0030】
従って、式(1)又は(2)を満足する条件で熱処理を行ったり、390℃を超える高温にて温間圧延を開始した場合、素板強度および乾燥工程後の強度低下を招くおそれがある。素板強度および乾燥工程後の強度をより重視する場合、温間圧延開始温度の上限は好ましくは300℃、より好ましくは250℃である。一方で温間圧延開始温度が150℃未満では、1パス毎の圧下量が低下し生産性が極端に低下する。従って、温間圧延開始温度の下限は150℃とした。生産性をより重視する場合、前記下限温度は好ましくは200℃、より好ましくは245℃とする。
【0031】
温間圧延の終了温度は、150〜300℃とするのが好ましい。温間圧延時の終了温度は、ライン速度を変化させて、加工発熱や冷却条件を調整することによって決定することができる。なお、温間圧延されたアルミニウム板は、温間圧延機の出側で巻き取られてコイルとなり冷却される。温間圧延の終了温度を150℃未満とするには、加工発熱の発生を抑制するためにライン速度を大きく低下させることが必要となり、生産性が極端に低下してしまうため好ましくない。生産性をより重視する場合には前記終了温度の下限は200℃、さらに重視する場合には250℃とするのが好ましい。一方で温間圧延の終了温度が300℃を超えると、コイル冷却中に再結晶が進行するため、転位密度が低下し強度の低下を招く。
【0032】
鋳造後から前記温間圧延開始までの間には、アルミニウム合金鋳塊を所定の温間圧延開始温度に到達させるための熱処理が必要となる。この熱処理としては下記(1)〜(4)に一例を示すように、加熱、ファン空冷および水冷に代表される強制冷却もしくは自然放冷等による冷却工程、を組み合わせた1ステップ以上の工程が考えられる。
(1) 熱処理:1ステップ工程例 [ 加熱 ]⇒ 温間圧延
(2) 熱処理:2ステップ工程例 [ 加熱 → 冷却 ]⇒ 温間圧延
(3) 熱処理:2ステップ工程例 [ 加熱 → より高温まで(再)加熱 ]⇒ 温間圧延
(4) 熱処理:3ステップ工程例 [ 加熱 → 冷却 → (再)加熱 ]⇒ 温間圧延
【0033】
ここで工程(1)〜(4)について説明する。工程(1)は、アルミニウム合金鋳塊を加熱し、積極的な冷却を行うことなくアルミニウム合金鋳塊が150〜390℃となったところで、温間圧延を開始する工程例であり、工程(2)は、アルミニウム鋳塊を前記(1)、(2)式を満足しない範囲の条件にて加熱後、アルミニウム合金を強制冷却もしくは自然冷却等の意図した積極的な冷却工程により150〜390℃となったところで温間圧延を開始する工程であり、工程(3)は、アルミニウム合金鋳塊を前記(1)、(2)式を満足しない範囲の条件にて加熱後、温間圧延開始温度である150〜390℃まで再加熱し温間圧延を開始する工程であり、工程(4)は、アルミニウム合金鋳塊を前記(1)、(2)式を満足しない範囲の条件にて加熱後、強制冷却もしくは自然冷却等の意図した積極的な冷却工程により冷却し、その後再加熱により温間圧延に適した150〜390℃となったところで、温間圧延を開始する工程である。「前記(1)、(2)式を満足しない範囲の条件にて加熱」とは、(a)400℃未満の温度での加熱、又は(b)400℃以上500℃以下であり且つ、t<0.0004T
2−0.4T+101を満たす比較的短時間の加熱を意味する(Tは、加熱温度(℃)であり、tは、保持時間(時間)である。)。
【0034】
なお、鋳造後から温間圧延開始までに施す加熱および再加熱の加熱温度および保持時間は前記(1)、(2)式を満足しない範囲であり、素板強度および乾燥工程後の強度をより重視する場合の加熱および再加熱温度の上限は好ましくは300℃、より好ましくは250℃である。ここで、加熱温度が400℃未満の温度域においては長時間の保持を行っても材料特性上は特に問題がないが、保持時間が24時間を超えると生産性の低下やコストアップを招くため保持時間の上限は24時間以内とするのが好ましい。また、アルミニウム合金鋳塊が所定の温度に到達していれば保持を行う必要はないため、保持時間の下限は特に設けない。さらに、工程(3)、工程(4)に示すような再加熱を施す場合、第一ステップの加熱温度が仮に50℃であっても材料特性の上では全く問題がないため、加熱および再加熱温度の下限は設けない。ただし、最終の加熱ステップについては、温間圧延開始温度の制約から下限が150℃に限定される。前記熱処理は、工程(2)〜(4)に示すような2ステップ以上の工程としても、材料特性の上では特に問題はないが、製造工程数の増加によるコスト上昇あるいは生産性の低下を招くため、工程(1)に示す1ステップ工程が好適である。
【0035】
上記温間圧延終了後に冷間圧延および箔圧延を施すが、冷間圧延および箔圧延の前あるいは途中において、中間焼鈍は実施しない。中間焼鈍を実施すると、中間焼鈍前までの圧延によって導入された転位密度が低下し、強度が低下してしまう。
【0036】
最終箔圧延後のアルミニウム合金箔の厚みは5〜30μmとするのが好適である。厚みが5μm未満の場合、箔圧延中にピンホールが発生し易くなる。一方で30μmを超えると、同一体積に閉める電極集電体の体積及び重量が増加し、活物質の体積及び重量が減少する。これは、リチウムイオン二次電池の電池容量低下を招くため好ましくない。
【実施例】
【0037】
以下にこの発明の実施例を比較例とともに記す。なお以下の実施例は、この発明の効果を説明するためのものであり、実施例記載のプロセス及び条件がこの発明の技術的範囲を制限するものではない。
【0038】
表2に示す組成のアルミニウム合金を半連続鋳造法により溶解鋳造し、厚さ800mmの鋳塊を作製した。次に、この鋳塊を面削後、表3に示す条件で熱処理、温間あるいは熱間圧延を行い、板厚を3.0mmとした。その後冷間圧延と箔圧延を行い箔厚12μmのアルミニウム合金箔を得た。なお、比較例53では、温間圧延後に0.8mmまで冷間圧延を実施した後、400℃で3時間の中間焼鈍を実施した。中間焼鈍後は中間焼鈍を実施しなかった材料と同様に冷間圧延と箔圧延を行い箔厚12μmのアルミニウム合金箔を得た。さらに、表3には熱処理中での積極的な冷却および再加熱の有無とその条件についても記載した。なお積極的な冷却は、加熱保持後の鋳塊に対しファンを使用する強制空冷と、加熱保持後の鋳塊を室温で放置して冷却する放冷の2条件にて実施した。
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
前述した方法にて作製した箔厚12μmの各アルミニウム合金箔でリチウムイオン二次電池の正極材を製造した。LiCoO
2を主体とする活物質に、バインダーとなるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を加えて正極スラリーとした。正極スラリーを、幅30mmとした前記アルミニウム合金箔の両面に塗布し、180℃で1時間の熱処理を行い乾燥した後、ローラープレス機により圧縮加工を施し、正極材試料を得た。各正極材試料について、活物質塗布工程における切れ発生の有無、活物質剥離の有無を評価した。結果を表4に示す。
【0042】
また、前述した方法にて作製した箔厚12μmの各アルミニウム合金箔について、後述する各種条件にて、素板の引張強さ、素板の0.2%耐力、180℃で1時間の熱処理後の引張強さおよび0.2%耐力、導電率、ピンホール個数を測定した。結果を表4に示す。
【0043】
なお、比較例41および42では箔圧延時の切れ発生により評価用の箔材を得ることができず各種評価に至らなかった。箔圧延時の切れの発生の有無についても表4に示す。
【0044】
またさらに、表4には温間および熱間圧延の圧延性についても記載する。温間又は熱間圧延の1パスでの最大圧下率が40%以上の場合を○、40%未満の場合を×とした。
【0045】
【表4】
【0046】
<引張強さ、および0.2%耐力>
圧延方向に切り出したアルミニウム合金箔の引張強さおよび0.2%耐力を、島津製作所製インストロン型引張試験機AG−10kNXを使用して測定した。測定条件は、試験片サイズを10mm×100mm、チャック間距離50mm、クロスヘッド速度10mm/分とした。また、乾燥工程を想定し、180℃で1時間の熱処理を行った後のアルミニウム合金箔についても、圧延方向に切り出し、上記と同じく引張強さおよび0.2%耐力を測定した。
【0047】
<導電率>
導電率は、四端子法にて電気比抵抗値を測定し、導電率に換算して求めた。
【0048】
<ピンホール密度>
12μmまで箔圧延されたアルミニウム合金箔を、巾0.6mで長さ6000mのコイル状とし、表面検査機にてピンホールの個数を測定した。測定されたピンホール数を全表面積で除すことで、単位面積1m
2当たりのピンホール数を算出し、ピンホール密度とした。
【0049】
<活物質塗布工程における切れ発生の有無>
活物質塗布工程において、正極材試料に切れが発生したか否かを目視で判定した。
【0050】
<活物質剥離の有無>
正極材試料にて活物質の剥離が発生しているか否かを目視で判定した。なお、一部分でも剥離が発生している場合は剥離ありとした。
【0051】
<考察>
本発明の条件範囲内にて製造した実施例1〜38では、導電率が高いことに加え、素板強度および乾燥工程を想定した熱処理後の強度が高いため、活物質塗布工程における切れ発生や活物質剥離もなかった。
【0052】
Fe量が本発明で規定する上限をはずれた比較例39では、導電率が低く、ピンホールも多く発生した。一方、Fe量が本発明で規定する下限をはずれた比較例40では、素板強度及び180℃で1時間の熱処理を行った後の強度が不足し、活物質塗布工程における切れと活物質の剥離が発生した。
【0053】
Si量が本発明で規定する上限をはずれた比較例41では、加工硬化性が高くなりすぎて箔圧延時に切れが発生した。
【0054】
Cu量が本発明で規定する上限をはずれた比較例42では、加工硬化性が高くなりすぎて箔圧延時に切れが発生した。一方、Cu量が本発明で規定する下限をはずれた比較例43では、素板強度及び180℃で1時間の熱処理を行った後の強度が不足し、活物質塗布工程における切れと活物質の剥離が発生した。
【0055】
Mn量が本発明で規定する上限をはずれた比較例44では、導電率が低下した。
【0056】
温間圧延開始温度が本発明で規定する上限をはずれた比較例45、熱処理条件が本発明で規定する上限をはずれた比較例46〜49、熱処理温度と温間圧延開始温度の両者が本発明で規定する上限をはずれた比較例50〜51では、素板強度及び180℃で1時間の熱処理を行った後の強度が不足し、活物質塗布工程における切れと活物質の剥離が発生した。
温間圧延終了温度が本発明で規定する温度範囲の上限をはずれた比較例52では、素板強度及び180℃で1時間の熱処理を行った後の強度が不足し、活物質塗布工程における切れと活物質の剥離が発生した。
中間焼鈍を施した比較例53では、素板強度及び180℃で1時間の熱処理を行った後の強度が不足し、活物質塗布工程における切れと活物質の剥離が発生した。
温間圧延開始温度が本発明で規定する下限をはずれた比較例54では、温間圧延中の1パスの圧下率が低下するため圧延性が劣化した。