特許第6055831号(P6055831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055831
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】自動車車体用のクラッドされた薄板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20161219BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20161219BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20161219BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20161219BHJP
【FI】
   C22C21/00 E
   C22F1/04 Z
   B23K20/04 D
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 627
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694Z
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-527713(P2014-527713)
(86)(22)【出願日】2012年8月30日
(65)【公表番号】特表2014-529687(P2014-529687A)
(43)【公表日】2014年11月13日
(86)【国際出願番号】FR2012000344
(87)【国際公開番号】WO2013030469
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2015年2月6日
(31)【優先権主張番号】11/02673
(32)【優先日】2011年9月2日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515327177
【氏名又は名称】コンステリウム ヌフ ブリザック
【氏名又は名称原語表記】Constellium Neuf Brisach
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,エステル
(72)【発明者】
【氏名】アンリ,シルヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ギグリオンダ,ジル
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−207642(JP,A)
【文献】 特開2000−129382(JP,A)
【文献】 特表2009−535510(JP,A)
【文献】 特表2011−530657(JP,A)
【文献】 特開2008−101239(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/059826(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車車体の構成要素向けのアルミニウム合金製薄板複合材料において、複合材料の合計厚みの5〜10%の厚みのクラッド用薄板つまり「クラッド」が、芯材の少なくとも一方の側に適用される複合材料であって、重量百分率で表わされた組成が下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りがアルミニウムであることを特徴とする薄板複合材料。
【表1】
【請求項2】
芯材のマグネシウム含有量が0.4〜0.7であることを特徴とする請求項1に記載の薄板複合材料。
【請求項3】
芯材のマンガン含有量が0.05〜0.2であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄板複合材料。
【請求項4】
芯材の銅含有量が0.2に制限されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項5】
クラッド用薄板のケイ素含有量が0.45〜0.65であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項6】
クラッド用薄板のマグネシウム含有量が0.23〜0.29であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項7】
クラッド用薄板のマンガン含有量が0.10〜0.30であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項8】
クラッド用薄板が芯材の一方の側のみに適用されることを特徴とする請求項1からのいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項9】
クラッド用薄板が芯材の両側に適用されることを特徴とする請求項1からのいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項10】
T4P状態で、すなわち固溶化熱処理、焼入れ、50〜85℃でのコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却による予備時効を受けた状態で、NF EN ISO7438規格に準じて測定した場合、10%の引張り予備変形後に少なくとも140°という「三点折曲げ角度」α10%を呈することを特徴とする、請求項1からのいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項11】
10%の引張り予備変形の直後に得られた少なくとも140°という前記「三点折曲げ角度」α10%、不変である、すなわち少なくとも6カ月までの待機時間についてコイルの冷却後の周囲温度での待機時間に伴う推移が5°未満であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項12】
固溶化熱処理、焼入れ、50〜85℃でのコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却による予備時効、2%の引張り予備変形そして185℃で20分間の塗料焼付け処理の後の弾性限界Rp0.2が、最低200MPaであることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項13】
T4P状態で、すなわち固溶化熱処理、焼入れ、50〜85℃でのコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却による予備時効を受けた状態で、NF EN ISO7438規格に準じて測定した場合、10%の引張り予備変形後に少なくとも140°という「三点折曲げ角度」α10%を呈することおよび、固溶化熱処理、焼入れ、50〜85℃でのコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却による予備時効、2%の引張り予備変形そして185℃で20分間の塗料焼付け処理の後の弾性限界Rp0.2が、最低200MPaであることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一つに記載の薄板複合材料。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一つに記載の薄板複合材料を含むことを特徴とする自動車車体用薄板。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか一つに記載の自動車車体の構成要素向けのアルミニウム合金製薄板複合材料の製造方法において、芯材の少なくとも一方の側に同時圧延によってクラッド用薄板を適用する方法であって、芯材およびクラッド用薄板の重量百分率で表わされた組成が下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りがアルミニウムであることを特徴とする製造方法。
【表2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にフェンダ、ドア、リアハッチ、ボンネット、ルーフまたはボディ構造の他の部品などの自動車車体用構成要素の、特にプレス加工および/または嵌込み接合による製造を目的とするAl−Si−Mg合金製、より詳細には「アルミニウム協会」の呼称に準じてAA6xxxシリーズの合金製の薄板の分野に関する。
【0002】
より厳密には、本発明は、アルミニウム合金製薄板で構成された自動車車体の構成要素向けの複合材料において、クラッド用薄板が芯材用薄板の少なくとも一方の側に適用され、両方の薄板が自動車車体の構成要素としてのクラッド材料の使用のために最適化された組成を有している複合材料に関する。
【0003】
本発明は同様に、同時圧延による前記薄板複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
自動車製造においては、車両重量を低減させ、こうして燃料消費量ならびに汚染物質および温室効果ガスの排出量を削減するために、アルミニウムを使用することがますます多くなっている。
【0005】
薄板は特に、車体の外皮部材、詳細にはドア、ボンネットおよびリアハッチを含む可動部分だけでなく、ルーフまたは屋根ならびに「ホワイトボディ」とも呼ばれるボディ構造構成要素の製造のために使用される。
【0006】
このタイプの利用分野では、以下のような、時として対立することのある一組の特性が求められる。すなわち、
− プレス加工作業および/または嵌込み接合作業のための高い成形性、
− 部品の重量を最小限に抑えながら、優れた一般的強度および耐デント性を得るための塗料焼付け後の高い機械的強度、
− 形成の際の弾性戻りを制御するための薄板の納入状態での制御された弾性限界、
− 形成前に長時間待機させられた場合の、納入状態の材料の成形性、詳細には嵌込み接合性という特性の安定性、
− ボディ構造部品に応用するための、衝撃時の優れたエネルギー吸収能力、
− 形成および塗装後の優れた表面品質、特に当業者にはローピングという名称で公知である形成の際に作り出される整列した粗度の不在またはごくわずかな存在、およびリューダース線の不在、
− 自動車車体において使用されるさまざまな組立て方法、例えば点溶接、レーザー溶接、FSW溶接、接着、クリンチングまたはリベット締めにおける優れた挙動、
− 塗装部品の優れた耐食性、特に糸状腐食耐性、
− 製造廃棄物の再生利用または再生利用車両の要件との相容性、
− 大量生産のために許容可能なコスト。
【0007】
以下で問題となる全てのアルミニウム合金は、相反する記載のないかぎり、「アルミニウム協会」により定期的に刊行されている「Registration Record Series」中で協会が定義する名称に準じて呼称されている。
【0008】
上述の要件により、Al−Mg−Si合金、すなわちAA6xxxシリーズの合金が選択されるに至った。
【0009】
欧州では、およそ1〜2.5mmの厚みを有するAA6016およびAA6016A合金は、特に、米国で広く使用されているAA6111合金などの銅含有量が比較的多い合金に比べてより優れた嵌込み接合適性およびより優れた糸状腐食耐性を保証しながら、求められるさまざまな特性との間のより優れた妥協点へと導くことから、この利用分野において最も多く使用されている。
【0010】
AA6016タイプの合金は、特に「Alusuisse」の仏国特許発明第2360684号明細書および「Cegedur Pechiney」の欧州特許第0259232号明細書中に記載されており、一方、AA6111タイプの合金は、「Alcan International Ltd.」の米国特許第4,614,552号明細書中に記載されている。
【0011】
ただし、塗料焼付け後のAA6016合金の機械的強度は、AA6111のものに比べて明らかに劣ったままであり、しかも焼付け温度が低下する傾向にあって時効における硬化効率が比較的悪いためになおさらである。
【0012】
このような理由から、より首尾一貫した軽量化を可能にするため、自動車メーカーは塗装後のより高い機械的強度を求めている。
【0013】
この目的で、「Pechiney」社は、AA6016合金の新規の変形形態、詳細には、焼入れ、2%の引張り予備変形および典型的には185℃で20分間の塗料焼付け後のおよそ240MPaの弾性限界を導く変形形態「DR120」を開発した。これらの開発は、複数の刊行物、特にR.Shahaniらの論文、「Optimised 6xxx aluminium alloy sheet for autobody outer panels」Automotive Alloys 1999、Proceedings of the TMS Annual Meeting Symposium、2000、pp.193〜203、およびD.Danielらの論文、「Development of 6xxx Alloy Aluminum Sheet for Autobody Outer Panels:Bake Hardening,Formability and Trimming Performance」IBEC’99 −International Body Engineering Conference、Detroit、1999、SAE Technical Paper N°1999−01−3195に記載されている。
【0014】
並行して、Alcanは、状態T4での成形性を削減することなく改善された、塗料焼付け後の弾性限界(典型的に270〜280MPa)を導く、6111−T4Pと呼ばれるAA6111合金の新規の変形形態を提案した。この製品は、特にA.K.Guptaらの論文、「The Properties and Characteristics of Two New Aluminum Automotive Closure Panel Materials」、SAE Technical Paper 960164、1996中に記載されている。
【0015】
最後に、「Pechiney」はその欧州特許出願公開第1633900号明細書中で、極めて硬質でそのためその形成が必然的にT4状態で行なわれるものの嵌込み接合適性には当然相変らず限界があるAA6056タイプのルーフ屋根用合金を提案した。
【0016】
これらの新規開発は、その大部分が、塗料焼付けにおける硬化を改善するため、焼入れ後に行なわれる予備時効タイプの最適化された熱処理を含んでいる。実際、このような処理が無い場合、焼付け時の硬化反応速度は、焼入れと焼付けの間の周囲温度での待機時間と共に低下し、工業的生産では数週間の待機は事実上不可避的である。この現象は、長年公知であり、例えばM.RenouardおよびR.Meillatの論文:「Le pre−revenu des alliages aluminium−magnesium−silicium」、Memoires Scientifiques de la Revue de Metallurgie、1960年12月、pp.930〜942中に記載されている。予備時効処理は、「Alcan International Ltd.」の欧州特許第0949344号明細書の対象となっている。
【0017】
自動車車体の構成要素用のおよび大量生産用のアルミニウム合金製薄板の使用が一層進展していることを考慮すると、つねに軽量化を促進する形で他の特性を改変することなく厚みの削減を可能にするさらに一層改善された成分変化に対する要望がつねに存在している。
【0018】
当然のことながら、この推移は、弾性限界がさらに高くなった合金の使用を経由するものであり、T4状態すなわち固溶化熱処理と焼入れ後に形成され、予備時効と塗料およびワニスの焼付け作業の際に強く硬化する、ますます強度の高いAA6xxxシリーズの合金を使用することからなる上述の解決法は、その限界に達している。この解決法は、T4状態ですでに硬度が高くなり、そのため特に裏打ち部品上の外部パネルの嵌込み接合あるいは深絞りプレス加工などの厳しい作業の際に重大な形成上の問題を提起する合金に通じる。
【0019】
これらの問題点を解決するため、部品の幾何形状を修正することまたは形成方法ひいてはこのようにして得られる部品の形状特性を「劣化させる」ことからなる一時しのぎ的な解決法が、成形性の低いこれらの合金に対応する目的でまず使用された。
【0020】
例えば、嵌込み接合適性の低いこのような合金の場合、「フラット」Bと呼ばれる通常の嵌込み接合の代りに、「水滴型」Aと呼ばれる嵌込み接合方法を使用できるが、図1に示された通りの同じ実際のあそび2に対して、嵌込み接合された縁部と車体の他の要素との間のみかけのあそび1の増大というマイナスの効果が伴う。
【0021】
プレス加工適性が低い合金の場合、金型半径を強く鈍化させ、自在連節要素を使用することにより、形状の修正をもたらすかまたは保持応力を低減させることができる。このようにして、確かに部品をより容易にプレス加工することができるようになるものの、その場合その幾何形状を制御することはきわめて困難であり、そのため、可能な形状範囲は削減されることになる。
【0022】
いずれの場合でも、これらの解決法は、部品の幾何形状に対する重大な譲歩を課し、高い機械的特性を有する薄板の成形性を改善する必要性はひきつづき極めて深刻であり続ける。
【0023】
材料自体を基軸としてさらに展開された他の解決法も同様に、例えば高い機械的強度と優れた成形性の間の妥協点としての材料の通常の特性妥協点を改善する目的で出現した。単独の材料ではこの妥協点を改善できなかった場合には、同時圧延された薄板のサンドイッチで構成された複合材料を使用することによって、複合材を構成する薄板の異なる特性を組合せることで、通常は対立するものとみなされる二つ以上の特性の改善を同時に得ることができる。
【0024】
こうして、一般にAA3xxxシリーズのアルミニウム合金製芯材とAA4xxxシリーズの合金製のクラッド用薄板つまり外皮を結びつけた熱交換器のためのろう付け用薄板の分野では、同時圧延された薄板で構成された複合材料が公知である。
【0025】
さらに一部の航空機製造の利用分野では、AA2xxxシリーズのアルミニウム合金製芯材用薄板が1xxxシリーズの合金製クラッド用薄板と結びつけられる。
【0026】
これら二つの利用分野の場合、ここで問題となっているのは、熱交換、腐食または摩耗劣化ならびに機械的強度に関連する、ろう付けに対する適性の特定の要件を満たすことであるが、本発明により解決される課題との共通点は全く無い。
【0027】
自動車車体の分野においても複数の利用分野が公知である。
【0028】
一部の利用分野は、機械的特性を付与する芯材と、美的外観または優れた耐食性さらには形成の際の擦り傷または焼付きに対する優れた強度を付与するクラッド用薄板とを結びつけることを目指している。
【0029】
こうして、「住友」の特開昭55−113856号公報および特開昭55−113857号公報は、それぞれAA7xxxシリーズおよびAA2xxxシリーズの芯材用合金と、AA5xxxシリーズの合金製のクラッドとを結びつけて、高い機械的特性、優れた腐食性および光沢をうまく組み合わせたバンパーを製造している。
【0030】
「スカイアルミニウム」の特開平5−318147号公報および特開平5−339669号公報は、5xxxシリーズの合金製芯材と4xxxまたは6xxxシリーズの合金製クラッドとを組み合わせて、形成の際の擦り傷または焼付きに対する強度を改善するための表面における析出による硬化を可能にしている。
【0031】
同じ精神で、改善された耐食性を表面に付与する目的で、「Corus Aluminium」の仏国特許出願公開第2877877号明細書は、亜鉛含有量の低い1xxx、3xxxまたは7xxxシリーズのクラッド用合金と5xxxまたは6xxxシリーズの芯材用合金の組合せについて記載している。
【0032】
最後に、「神戸製鋼所」の特開昭62−158032号公報および特開昭62−158033号公報はというと、AA5xxxシリーズの合金製芯材用薄板と99%以上のアルミニウムの合金製クラッドとで構成された、優れた折曲げ適性を有する自動車車体用のクラッドされた薄板に関するものである。しかしながら、このような解決法には、一般的観点から見て塗料焼付け時に硬化が無い5xxxシリーズの合金を使用していることだけでなく、さらには耐デント性に関しても、特に「軟質の」クラッド用合金の使用を理由としていることからも、強度的に限界を有するというデメリットがある。
【0033】
ここでも同様に自動車車体の分野における使用についてであるが、同時圧延された薄板で構成された他の複合材料が、6xxx合金を互いに組み合わせている。
【0034】
「Novelis Inc.」の国際公開第2009/059826号は、この用途のためのアルミニウム合金製薄板の複合材料について記述しており、ここでクラッド用薄板つまり「クラッド」は芯材用薄板の少なくとも一方の側に適用され、その組成は、重量百分率で下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0035】
【表1】
【0036】
芯材用合金でマグネシウム、ケイ素および銅の含有量が高く、クラッド用薄板を構成する合金でマグネシウムおよびケイ素の含有量が高いことにより、クラッドされた薄板が形成および塗料の焼付け後に非常に高い機械的強度を得ることが可能となる。銅充填量の高い芯材用合金の耐食性は、クラッドにより表面において改善される。しかしながら、複合材料の嵌込み接合性は、AA6111合金製薄板のものよりも良いものの、特に予備変形後においては限定されたものにとどまる。経時的な嵌込み接合性の安定性、プレス加工性能、ならびに形成後の表面品質、詳細にはローピングの存在については言及されていない。
【0037】
「Aleris Aluminum Duffel BVBA」の欧州特許出願公開第2052851号明細書は、これもこの用途のためのアルミニウム合金製薄板の複合材料について記載しており、重量百分率で表わしたその組成は下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0038】
【表2】
【0039】
特許請求の範囲は、クラッドが0.25%未満または好ましくは0.20%未満の銅含有量を有し、好ましくはAA6005シリーズまたはAA6005Aシリーズに属していなければならず、一方芯材用合金は最高1.1%の銅を含むことができるという点を強調している。ここでもまた、発明の目的は、高い銅含有量を有する高い機械的強度を有する芯材用合金の耐食性および嵌込み接合性の改善にあると思われる。経時的な嵌込み接合性の安定性、プレス加工性能ならびに形成後の表面品質、詳細にはローピングの存在については言及されていない。
【0040】
最後に「Novelis Inc.」の欧州特許出願公開第2156945号明細書は、これもこの用途のためのアルミニウム合金製薄板の複合材料について記述しており、重量百分率で表わしたその組成は下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0041】
【表3】
【0042】
この最後の参考文献は図1〜4中で、熟成時間に伴う折曲げに対する適性の明瞭な変動を明らかにしており、これは、前記時間が極めて多くの場合可変的である工業的条件において問題を提起し得る。発明に係る材料がこの問題を解決したように思われるとしても、形成および塗料の焼付け後のその機械的強度は、相変わらず限定されたままである。プレス加工性能ならびに形成後の表面品質、詳細にはローピングの存在については言及されていない。
【0043】
説明された通り、当業者にとっては周知であり、形成の際に作り出される整列した粗度の形で現われるローピング現象およびプレス加工性能は、前述の参考文献のいずれによっても言及されていない。技術的現状の材料のいずれも、納入状態でのプレス加工および嵌込み接合加工における優れた成形性と;これらの成形性特性および特に熟成時間に応じた折曲げに対する適性の安定性と;形成および塗料焼付けの後の充分に高い機械的強度と;表面および芯材における耐食性と;形成後または形成および塗装の後の部品に対する優れた表面の外観;との間の自動車のホワイトボディ内での利用のためにここで求められている最適な妥協案に到達することを可能にしない。
【0044】
反対に、本発明に係る材料は、きわめてプレス加工性が高く充分な機械的強度を呈する芯材用合金と、より嵌込み接合性が高く形成後に優れた表面外観を呈するクラッド用合金(ただし両方共、合金6000の系統に属ししたがって塗料焼付け処理の際に硬化する傾向を有する)とを結びつけることによって、形成、詳細には冶金学的状態T4または予備時効を受けた状態T4Pでのプレス加工および嵌込み接合に対する適性と、塗料焼付け後の最終的な機械的特性、外観品質および耐食性の極めて有利なレベルとの組合せを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0045】
本発明は、厳しい条件下での深絞りプレス加工および嵌込み接合のための技術的現状に比べて優れ、経時的に安定した充分な成形性、外観品質、弾性戻りを制御しながらの塗料焼付けの際の顕著な硬化による充分な耐デント性、自動車車体において使用されるさまざまな方法にしたがった組立てにおける優れた挙動、薄片を形成することのない切断、および優れた耐食性、特に糸状腐食耐性および粒間腐食耐性、ならびに容易な再生利用可能性を保証する最適化された組成を呈する自動車車体の構成要素向けのアルミニウム合金製複合材料を提供することによって、対立するものとみなされることの多い特性のこの最適な妥協点を得ることを目的としている。これは同様に、形成の際に作り出されるローピング現象を最小限に削減することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0046】
本発明の目的は、自動車車体の構成要素向けのアルミニウム合金製薄板複合材料において、クラッド用薄板つまり「クラッド」が、芯材の少なくとも一方の側に適用される複合材料であって、重量百分率で表わされた組成が下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りがアルミニウムである薄板複合材料にある。
【0047】
【表4】
【0048】
有利には、芯材のケイ素含有量は1.1〜1.3の間に含まれる。
【0049】
芯材のマグネシウム含有量に関して言うと、それは有利には0.4〜0.7であり、同様に芯材のマンガン含有量も有利には0.05〜0.2であり、一方、厳しい腐食条件での利用分野については、芯材の銅含有量を0.2に制限することができる。
【0050】
クラッド用薄板のケイ素含有量に関して言うと、それは好ましくは0.45〜0.65であり、同様にクラッド用薄板のマグネシウム含有量も有利には0.23〜0.29であり、一方クラッド用薄板のマンガン含有量は有利には0.10〜0.30である。
【0051】
一般に、クラッド用薄板は、同時圧延により芯材上に適用される。
【0052】
特定の一実施形態によると、クラッド用薄板は芯材の一つの側にだけ適用される。
【0053】
別の態様によると、クラッド用薄板は、芯材の二つの側の各々に適用される。
【0054】
本発明の一変形形態によると、クラッド用薄板または各々のクラッド用薄板の厚みは、複合材料の合計厚みの5%に相当し、別の変形形態によると、それは複合材料の合計厚みの10%に相当する。
【0055】
典型的には、本発明に係る薄板複合材料は、10%の引張予備変形後、T4P状態で、すなわち固溶化熱処理、焼入れ、典型的に50〜85℃でのコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却による予備時効を受けた状態で、NF EN ISO7438規格に準じて測定した場合、10%の引張り予備変形後に少なくとも140°という「三点折曲げ角度」α(α10%)を呈する。
【0056】
その上、10%の引張り予備変形の直後に得られた少なくとも140°というこの「三点折曲げ角度」α10%は、コイルの冷却後の周囲温度での待機時間に伴ってほぼ不変である、すなわち少なくとも6カ月までの待機時間について典型的に5°未満の推移である。
【0057】
本発明に係る材料に典型的な別の特徴は、固溶化熱処理、焼入れ、典型的に50〜85℃でのコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却による予備時効、2%の引張り予備変形そして185℃で20分間の塗料焼付け処理の後の弾性限界Rp0.2が、最低200MPa、さらには220MPaであることにあり、これは、少なくとも80MPaという形成および塗装焼付けの際の硬化に相当する。
【0058】
有利には、本発明に係る薄板複合材料は、自動車車体用薄板を製造するために使用される。
【0059】
異なる実施形態によると、本発明に係る車体用薄板はプレス加工されたもしくは嵌込み接合されたまたはプレス加工され嵌込み接合された薄板である。
【0060】
最後に本発明は同様に、前述の変形形態の1つに係る自動車車体の構成要素向けのアルミニウム合金製薄板複合材料の製造方法において、芯材の少なくとも一方の側に同時圧延によってクラッド用薄板を適用し、芯材およびクラッド用薄板の重量百分率で表わされた組成が下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りがアルミニウムである製造方法も包含している。
【0061】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】「液滴型嵌込み接合」Aの際および従来の「フラットな」嵌込み接合Bの際の嵌込み接合された縁部と車体の他の要素との間の、同じ実際のあそび2に対する可視的あるいは見かけのあそび1を表わしている。
図2】厚みtの薄板Tの折曲げを行なうための半径rのポンチBと、二本のロールRで構成された「三点折曲げ試験」用装置を表わす。
図3】試験の測定結果である外角αと内角βを伴う「三点折曲げ」試験後の薄板Tを表わす。
図4】10%の引張り予備変形後のT4P状態の、すなわち固溶化熱処理、焼入れ、典型的に50〜85℃でのコイリングおよび低速冷却による予備時効を受け、その後「三点折曲げ」試験を実施する直前に10%の引張り予備変形を受けた1mmの薄板に対して実施された「三点折曲げ」試験の結果、つまり、縦座標において、基準材料A3、P3、C3および本発明に係る材料A1、P1、C1およびA2、P2、C2についての、芯材用薄板Ai、クラッド用薄板Piおよび複合材Ciのための度数単位で表わした外角α10%を表わしている。
図5】コイル冷却後の周囲温度での日数単位の待機(または熟成)時間tに応じた、芯材用薄板A1、クラッド用薄板P1および前記プレートから得た本発明に係る複合材料C1についての、10%の引張り予備変形後にT4P状態で測定された、度数単位の前記角度α10%の変動を表わしている。
図6】縦座標には10%の引張り予備変形後にT4P状態で測定された度数単位の角度α10%を、そして横座標には、固溶化熱処理、焼入れ、予備時効、2%の引張り予備変形および185℃で20分間の塗料焼付け処理の後に測定されたMPa単位の弾性限界Rp0.2−BHを、異なる基準モノリシック薄板A1、A3、P1、P2、P3、M1、M2、M3、M4について、ならびに本発明に係る二つの薄板複合材料C1およびC2について示している。
図7】縦座標には10%の引張り予備変形後にT4P状態で測定された度数単位の角度α10%を、そして横座標にはMPa単位の弾性限界Rp0.2−BHを、本発明に係る複合材料C1およびC2、本発明以外の複合材料C3、ならびにそれらの構成要素A1、A3、P1、P2、P3について示している。
図8】材料のプレス加工適性の特徴であるLDH(Limit Dome Height)の名称で当業者にとって公知であるパラメータの値を決定するために使用される工具のmm単位の寸法を明示している。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明は、クラッド用薄板が芯材の少なくとも一方の側に適用され、両方とも同じシリーズで特定の組成を有するアルミニウム合金製である薄板複合材料の使用と、ならびに「硬質」であるものの成形がむずかしい芯材用の合金と成形可能であるものの強度が不充分であるクラッド用薄板の外皮つまり「クラッド」用合金とを組合わせることにより、比較的薄いクラッド厚みにも関わらず、詳細には冶金学的状態T4すなわち焼入れ後での形成に対する大変優れた適性、そして特に場合によっては上述した予備時効処理と組み合わされた塗料焼付け処理後の高い機械的特性に対する大変優れた適性が備わった材料を得ることができるという、本出願人が行った予想外の確認とにもとづくものである。
【0064】
上述の特定の組成は、重量百分率で下表の通りであり、他の元素は各々0.05未満でかつ合計0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0065】
【表6】
【0066】
各合金を構成する元素に課せられる濃度範囲は、以下の理由によって説明される。
【0067】
Siは、塗料焼付けの際にMg2Siの形でMgと共に析出することによって、機械的特性を改善する。Mg2Siの化学量論との関係においてケイ素が余剰である場合、それはプレス加工における優れた成形性および塗料焼付けの際の大規模な硬化を得るために有利である。反対に、過度に高い含有量は、嵌込み接合での成形性にとって妨げとなる。
【0068】
このため、その数値範囲は芯材用合金についての方がクラッド用合金についてよりも大きい値で構成されている。
【0069】
Mgは、以上で見てきたようにSiと組み合わされた場合に0.15%からすでに、場合によって行なわれる予備時効の条件に応じて、塗料焼付けの際の硬化を可能にする。したがって、濃度の数値範囲には必然的に、特に折曲げによる成形性が優先されるクラッド用合金の場合の0.15〜0.30%(最適値は0.23〜0.29%)に比べて、高い強度が求められる芯材用合金のためには0.4〜0.8%というより高い値が含まれる。比較的高いSi含有量と組み合わされたクラッドにおける0.15%という最低値は、適切な耐デント性を得るために充分なものである。
【0070】
クラッド中のマグネシウム含有量は、材料加工の終了時点と折曲げまたは嵌込み接合による形成との間の待機時間の長さの如何に関わらず、折曲げに対する優れた適性を得るような形で意図的に0.3%に限定される。
【0071】
Mnは、Siと共にAl−Mn−Siタイプの分散質を形成すること、ベータ相に比べて成形性にとってより有利である鋳造および均質化の間の「アルファ」鉄共晶相の形成に対する作用を有すること、そして最終的結晶粒のサイズの制御に対する作用を有することを理由として、折曲げに対する適性を改善する。Mnは、同様に、結晶粒界における析出物の過度に高い濃度を回避することによって焼入れに対する感応性も制限する。
【0072】
高い含有量では、金属間の粗い一次的化合物の形成の危険性が高く、延性および成形性は著しく低下する。
【0073】
一般的にアルミニウムにとっての一つの不純物を構成するFeは、アルミニウム内でほとんど溶解できず、したがって、多くの場合結晶粒界に優先的に存在し特に折曲げにおける成形性にとっては不利であるFeAl3またはAl(Fe、Mn)Siなどの第二相粒子の形で見出される。このため、嵌込み接合性の非常に高いクラッド用薄板の存在のため、たとえ本発明自体の原理によりその効果の限定度は低くても、クラッド用合金および芯材用合金においてその含有量は0.3%に限定される。
【0074】
Cuは、塗料の焼付けの際の合金の硬化に寄与する。しかしながら、耐食性、本質的に糸状腐食に対する耐性に対するそのマイナスの効果は、複合材料の外皮を構成ししたがってこのタイプの腐食に直接曝露されているクラッド用合金および芯材用合金でのその値を0.3%に限定することになる。感応性の高い一部の利用分野について、そしてコーティングのタイプおよび様式に応じて、詳細には特に嵌込み接合された外部パネルに対する適用については、この限度を0.2%にすることができる。
【0075】
その上、芯材用合金は、特に切断または穿孔された縁部を介して、または表面の欠陥を矯正するためのもしくは修理の際の外皮の後続する研磨の後、外部と多少の差こそあれ直接的な接触状態になることができる。特に溶接による組立て作業は同様に、芯材の要素を表面にもってくる可能性がある。これらの状況に適応するため、芯材のCu含有量も同様に0.3%に限定される。
【0076】
Znは、機械的特性を幾分か改善するのに寄与するが、特に0.3%に至るまでの含有量については、Znは、構造的粒間腐食に対する耐性に対しプラスの効果を有する。そのため、特に銅を含む芯材用合金に対してこの割合でZnを添加することが有利であることが判明し得る。この限界を超えると、成形性に対するそのマイナスの効果および腐食の潜在的可能性を過度に低減させる危険性のため、その利点がことごとく失われることになる。
【0077】
最後に、TiおよびCrは、結晶粒のサイズの制御を可能にし、クラッドシートに対する利用については、嵌込み接合または深絞りプレス加工などの厳しい変形の際の、オレンジピールの出現を回避できるようにする。それらの含有量は、反対に、より高い濃度の場合の成形性に対するそれらの不利な効果を理由として、各々について0.2%に限定される。
【0078】
複合材料は、唯一のクラッド用薄板を有することができる。この場合、クラッド用シートまたは薄板は、嵌込み接合されたパネルに対する利用のためには、嵌込み接合作業の際に外部に出現するような形で設置される。複合材料は、芯材用合金薄板の各面上にクラッド用薄板を含むこともできる。
【0079】
クラッド用薄板(または各クラッド用薄板)の厚みは、複合材料の合計厚みの5〜10%である。実際、典型的には3%の小さいコーティング厚みからすでに、特に折曲げおよびプレス加工における非常に顕著な成形性の改善が見られるのに対し、機械的特性、特に弾性限界Rp0.2は非常にわずかしか影響されない。
【0080】
各々について10%超の厚みの二枚のクラッド用薄板の場合、合計厚み20%を超えると、モノリシック薄板に比較した本発明の利点の妥当性を主張するには機械的特性の損失が過度に大きくなりすぎる。
【0081】
より厳密に言うと、クラッド用薄板または各クラッド用薄板の厚みは、機械的強度の低下を最小限に抑える上で有利に作用するため5%に選定され、あるいは衝撃の場合のエネルギー吸収能力または成形性を充分保つために10%に選定される。
【0082】
その上、本発明に係る複合材料のために使用されるクラッド用薄板は、優れた表面品質、特に形成の際に作り出される整列した粗度であり当業者にとってはローピングという呼称で公知のものの不在またはごくわずかな存在しか得られないようにすることを可能にするという点、そして芯材の場合にとってはより性能の低い挙動を隠蔽することもできるという点、が指摘される。
【0083】
最後に、本発明は同様に、上述の組成を有する合金製クラッド用薄板が、同じく上述の組成を有する合金製の芯材用の薄板の少なくとも一方の側に適用される、このような薄板複合材料の製造にも関する。
【0084】
この製造には、前もって、鋳造そして場合によっては圧延により、芯材用合金製の一枚のプレート、および芯材の厚みとは異なる厚みを有する一枚のプレート、または芯材の二つの面上のクラッドの場合には心板の厚みとは異なる厚みを有する二枚のプレートを調製するステップが含まれる。
【0085】
これらのプレートは、作製すべき複合製品の二枚または三枚の薄板に対応する。これらのプレートは、その後積重ねられ、それから熱間圧延され、そして場合によって最終的に到達すべき厚みがそれを必要とするならば冷間圧延される。
【0086】
圧延は、一定数のパスで行なわれ、必要な場合には一部のパスの間に中間焼きなましが一回または複数回行なわれる。
【0087】
当然のことながら、最も一般的なこの方法の使用は、排他的なものではない。すなわち、本発明に係る材料は、特に、ただし排他的にではなく出願人の2011年7月12日付けの仏国特許出願公開第11/02197号明細書中に記載の方法などの、典型的には少なくとも一つの分離器を用いた同時鋳造による、少なくとも二つのアルミニウム合金(芯材および一つまたは複数のクラッド)を有するプレートの垂直半連続鋳造方法によって得ることができる。
【0088】
本発明は、その細部において、以下の実施例を用いてより良く理解されるものであるが、ただしこれらの実施例に限定的な意味はない。
【実施例】
【0089】
序文−嵌込み接合に対する適性試験
さまざまな被験材料の嵌込み接合に対する適性は、NF EN ISO7438規格に準じて「三点折曲げ試験」により測定される。
【0090】
折曲げ装置は図2に示される通りである。
【0091】
まず最初に、圧延方向にしたがって薄板Tの10%引張り予備変形を実施し、その後半径r=0.2mmのポンチBを用いていわゆる「三点折曲げ」を実施するが、このとき薄板は二本のロールRにより支持され、折曲げ軸は圧延および予備引張り方向に対し垂直である。ロールの直径は30mmであり、ロールの軸間距離は30+2tmmに等しく、ここでtは被験薄板Tの厚みである。
【0092】
試験の初めにおいて、ポンチは30ニュートンの予備力で薄板と接触させられる。ひとたび接触が確立された時点で、ポンチの変位をゼロと指標付けする。こうして、試験は、薄板の「三点折曲げ」を実施するような形でポンチを変位させることからなる。
【0093】
薄板の微小ひび割れが、ポンチ上で少なくとも30ニュートンの力の降下を導く場合、あるいは、微小ひび割れがない場合でポンチが14.2mm変位した場合(これは最大許容行程に対応する)に、試験を停止する。
【0094】
したがって、試験の終了時には、薄板試料は図3に示されている通りに折曲げられた状態にある。こうして、嵌込み接合に対する適性は、度数単位で折曲げ角度αを測定することにより評価される。角度αが大きくなればなるほど、薄板の嵌込み接合または折曲げに対する適性は良好になる。
【0095】
実施例1
この実施例において使用する薄板複合材料は、ろう付け用薄板の製造のために利用され、当業者にとって周知の方法である同時熱間圧延によって製作した。
【0096】
一枚の芯材用薄板Aおよび二枚のより薄いクラッド用薄板Pから、同時熱間圧延、熱間圧延そしてその後の冷間圧延によって、各面上に1mmの合計厚みの5%つまり50ミクロンに各々相当する二枚のクラッド用薄板を有する、最終合計厚み1mmの複合材料Cを三回製作した。
【0097】
本発明に係る複合材料C1は、組成A1の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P1の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。
【0098】
本発明に係る複合材料C2は、組成A1の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P2の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。
【0099】
比較のため、第三の複合材料C3を同様に、組成A3の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P3の二枚のクラッド用薄板とで製作した。
【0100】
これら三つの複合材料を構成する薄板の、重量百分率で表わした組成を下表1にまとめており、他の元素は各々0.05未満でかつ合計の0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0101】
【表7】
【0102】
冷間圧延の後、三つの薄板複合材料を530℃で溶体化処理し、焼入れし、約85℃でのコイリングにより予備時効し、それと共にコイル状で周囲温度で低速冷却した。
【0103】
これと並行して、表1の組成の各々に対応する他の五枚のプレートを、複合材の各構成要素について熱間圧延の終了時に1mmの厚みの薄板を得るような形で、標準的方法で加工した。三つの薄板複合材C1、C2、C3および五つのモノリシック薄板A1、P1、P2、A3、P3について一連の加工手順は同一であった。
【0104】
周囲温度で二週間待機した後、そのときT4Pと呼ばれる冶金学的状態にある異なる材料の嵌込み接合に対する適性を、序文で記述した作業様式にしたがって評価した。
【0105】
10%の予備引張りにより、プレス加工による実際の形成の際に予め強く変形させられるゾーンの嵌込み接合における挙動をシミュレートすることができる、ということが指摘される。これにより同様に、自動車車体用薄板の形で使用される標準的材料(AA6111、AA6016、AA6014、AA6005A)の大部分が、ポンチが14.2mmというその最大行程に達する前にひび割れの発生を開始させるような形で、三点折曲げ試験をより厳しいものにすることもできる。
【0106】
これらの試験の結果は図4に提示されている。複合材の芯材を構成する二つの材料A1とA3の10%の引張り予備変形後の折曲げ角度は、A3がA1よりもわずかに良く折り曲がるにせよ、類似したものであるということが確認できる。
【0107】
反対に、複合材のクラッドを構成する三つの材料P1、P2およびP3は、明らかに異なる挙動を示す。すなわち、本発明に適合するP1とP2は140°超の折曲げ角度α10%を有し、一方本発明に適合しないP3は、三つのうち最も折曲げ性の低い材料である。全体として、三つの材料を比較すると、P2は最も折曲げ性の高い材料であり、P3は最も性能の低い材料である。
【0108】
折曲げられた試料の外部面上のクラッドの割合が複合材料の合計厚みの5%にすぎないにも関わらず、複合材料の折曲げ性能がそれぞれの被覆物の折曲げ性能と類似しているという点を指摘しておくことが有利である。したがって、C2は最も折曲げ性の高い材料であり、C3は最も性能の低い材料である。
【0109】
本発明に係る複合材料C1およびC2は、本発明外の材料C3とは異なり、10%の予備変形の後140°超の折曲げ角度を有する。
【0110】
実施例2
実施例1と同じ三つの材料A1、P1およびC1を使用した。
【0111】
ここで、実施例1にある通りのコイルの加工の終了時点と折曲げ試験の実施との間の周囲温度での待機時間、つまり熟成時間の影響について検討した。実際、工業的プロセスにおいては、多くの場合薄板の納入と車体部品の製造のためのその使用の間には一定の待機期間が存在し、この期間は可変的であるものの6カ月に達する可能性がある。
【0112】
したがって薄板A1、P1およびC1は、可変的な長さの周囲温度での待機の後、前述の通りの「三点折曲げ試験」を受けた。
【0113】
結果は、図5に提示されており、縦座標には度数単位で表わした折曲げ角度の値が、そして横座標には日数単位で表わした前記待機時間が示されている。
【0114】
14.2mmのポンチ行程、つまりこの試験において許容されているポンチの最大行程について150°という角度αが得られることから、複合材C1のクラッドを構成する材料P1の折曲げに対する適性は優れたものであることがわかる。同様に、この値は、待機時間または熟成時間の如何に関わらず達成され安定していることもわかる。
【0115】
複合材の芯材を構成する材料A1は、140°をはるかに下回る角度αの値で、折曲げに対する適性が比較的低い。その上、この材料について、待機は明らかに不利であり、6カ月後にはわずかに100°という角度αの値しか導かれないことが確認される。
【0116】
組成P1の50ミクロンの二つの層がクラッドされた組成A1の芯材で構成された本発明に係る複合材料C1は、140°超の角度αの値で、折曲げに対する非常に優れた適性を示す。本発明に係るこの複合材料C1の折曲げ性能は、待機が長くなった場合でも経時的に劣化しないという点を指摘しておくことが極めて有利である。ここでもまた、まず第一にクラッドの折曲げ性能が、複合材の折曲げ性能を制御するように思われる。
【0117】
したがって、本発明に係る複合材料C1を製作することによって、一方では角度αの値をほぼそのクラッドP1の値のレベルまで増大させること、そして他方では複合材C1の折曲げに対する適性を、コイルの加工終了時点と折曲げとの間の6カ月に至る待機時間に対し感応しないもの、つまり典型的に5°未満の推移とすることによって、芯材用モノリシック材料A1の折曲げ性能をきわめて顕著に改善することが可能となる。
【0118】
実施例3
この実施例では、本発明に係る実施例1の二つの複合材料C1およびC2を使用した。
【0119】
比較のため、同じ様式(垂直半連続鋳造、均質化、熱間圧延、冷間圧延、そして次に固溶化熱処理、焼入れおよび予備時効)にしたがって合金6xxx製の複数のモノリシック薄板を製造した。
【0120】
モノリシック薄板の重量百分率で表わした組成を下表2にまとめており、他の元素は各々0.05未満でかつ合計の0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0121】
【表8】
【0122】
一方では、自動車車体部品の製造の際の形成とその後の塗料焼付けをシミュレートする2%の引張り予備変形および185℃で20分間の熱処理の後、NF EN10002−1規格にしたがって従来の弾性限界Rp0.2を測定した(Rp0.2−BHと呼ばれる)。
【0123】
他方では、周囲温度で45日間待機した後、T4Pと呼ばれる冶金学的状態にある異なる材料の嵌込み接合に対する適性を、前述のものと同じ様式にしたがって評価した。
【0124】
これら二つの特性、すなわち45日間の待機および10%の予備変形でのT4P状態における嵌込み接合に対する適性、ならびに2%で、185℃20分間の予備変形後のRp0.2−BHは、車体部品の製造向けの薄板に期待される性能を充分に良く表わすものである。
【0125】
実際、薄板は第一にT4P状態での形成後に嵌込み接合に適していなければならず、同様に、使用中の高い弾性限界、すなわち形成および塗料焼付けの後の組立て済み車両上に取付けられた自動車部品の高い弾性限界を導かなければならない。
【0126】
結果は、図6に提示されており、縦座標には度数単位で折曲げ角度αが、そして横座標にはMPa単位でRp0.2−BHが示されている。
【0127】
ここで、モノリシック薄板に対応する点が一直線上に整列していることがわかる。嵌込み接合に対する最高の適性を示す合金は、低いRp0.2−BH値を示す。逆に最高のRp0.2−BH値を達成できる合金は、T4P状態での嵌込み接合に対する適性が比較的劣っている。
【0128】
したがってモノリシック合金が整列している直線は、モノリシック薄板がこれら二つの特性の間で達成可能な妥協点を表わす。
【0129】
これに対し、本発明に係る複合薄板に対応する点C1およびC2は、およそ230MPaという同様に高いRp0.2−BHに対し、143°の折曲げ角度αではるかに高い嵌込み接合に対する適性、すなわち、はるかに有利な妥協点を示しているということがわかる。
【0130】
実施例4
この実施例では、実施例1の複合材料を再度使用した。
【0131】
実施例3の場合と同じ特徴づけ、すなわち同じ様式にしたがってRp0.2−BH値の測定と「三点折曲げ試験」を実施した。
【0132】
結果は、図7に提示されており、前述のものと同様、縦座標には度数単位の折曲げ角度αがそして横座標にはMPa単位のRp0.2−BHが示されている。
【0133】
最初に、点C1、C2、C3を検討すると、Rp0.2−BHの同じ値について、本発明に係る複合材料C1およびC2の折曲げ試験にしたがった嵌込み接合に対する適性が、本発明外の複合材料C3のものよりも明らかに優れていることがわかる。
【0134】
したがって、複合材C3の芯材A3は複合材C1およびC2の芯材A1よりも折曲げ性が高いものの、被覆物P1およびP2が被覆物P3よりも高い折曲げ性を有するという事実は、複合材C3についての嵌込み接合または折曲げに対するより低い適性という形で現われている。
【0135】
したがって、当該技術分野そして特に「Aleris Aluminum Duffel BVBA」の欧州特許出願公開第1852250号明細書に教示されていることとは異なり、クラッド用薄板用のAA6005Aタイプの合金を使用するよりはむしろ、Rp0.2−BHの値は低いものの嵌込み接合または折曲げに対する優れた適性を示すクラッド用薄板で、AA6016合金製芯材をクラッドする方がはるかに有利である。詳細には、本発明に係る複合材料C1およびC2のクラッド用薄板のマグネシウム含有量が0.3%未満であることによって、嵌込み接合または折曲げに対する適性は有意な形で改善される。
【0136】
実施例5
この実施例では、本発明に係る実施例1の二つの複合材料つまりC1およびC2を再度使用し、同じく実施例1由来の同じ1mmの厚みの組成A1のモノリシック薄板と比較した。
【0137】
その目的は、本発明に係る材料が、塗料焼付けの際の硬化に対する高い適性を保ちながらT4P状態での形成後のより優れた嵌込み接合適性を備えている上に、この同じT4P状態におけるより優れたプレス加工成形性をも有することを示すことにある。
【0138】
この最後の特性は、LDH(Limit Dome Height)の名称で当業者にとって公知のパラメータを決定することを通して評価された。このパラメータは、0.5〜2mmの厚みの薄板のプレス加工に対する適性を評価するために幅広く使用されている。これについては、数多くの刊行物、特にR.Thompson、「The LDH test to evaluate sheet metal formability − Final Report of the LDH Committee of the North American Deep Drawing Research Group」、SAE conference、Detroit、1993、SAE Paper n°930815で扱われている。
【0139】
ここで問題になっているのは、自在連節要素により周囲が固定されたブランク材のプレス加工試験である。ブランク材押えの圧力は、自在連節要素内の摺動を回避するために制御される。120×160mmというサイズのブランク材に、平面変形に近い様式で応力を加える。使用するポンチは半球形である。
【0140】
図8は、このLDH試験を実施するためにこの実施例において使用される工具の寸法を明記している。
【0141】
ポンチと薄板の間の潤滑は黒鉛入りグリース(Shell HDM2グリース)によって確保される。ポンチ下降速度は50mm/分である。LDH値は、破断に至るまでのポンチの変位、つまりプレス加工の限界深度である。三回の試験の平均を取り、±0.2mmという測定値に対する95%信頼区間を得る。
【0142】
下表3は、圧延方向に対して平行に160mmの寸法を位置づけして、上述の薄板から切り取った120×160mmの標本について得られたLDHパラメータの値を示す。
【0143】
【表9】
【0144】
本発明に係る二つの複合材料C1およびC2が、同じ1mmの厚みの組成A1のモノリシック薄板よりも高いLDH値を有することがわかる。
【0145】
実施例6
この実施例は、形成の際のローピングの出現に関する本発明に係る材料の挙動を明らかにすることを目的としている。
【0146】
このために、以下に記載のローピング試験を行なった。
【0147】
試験すべき材料から、約270mm(横断方向)×50mm(圧延方向)の帯状物を切り取る。次に、圧延方向を横断する方向すなわち帯状物の長さ方向で15%の予備引張りを適用する。その後、帯状物をP800タイプの研磨紙の作用に付して、前記ローピング欠陥を顕示させる。このときこの欠陥を目視により評価し、1(重大なローピング)乃至5(ローピングの完全な不在)という尺度での評点により表す。
【0148】
この実施例中で使用する薄板複合材料を、一枚の芯材用薄板A4と二枚のクラッド用薄板P4から同時熱間圧延により製作した。同時熱間圧延、熱間圧延そしてその後の冷間圧延によって、各面上に1mmの最終合計厚みのそれぞれ5%および10%に各々相当する二枚のクラッド用薄板を有する最終合計厚み1mmの二枚の複合材料C4およびC5を二回製作した。
【0149】
本発明に係る複合材料C4は、組成A4の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P4の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。材料C4は、各々の面上に、各々最終合計厚みの5%に相当する二枚のクラッド用薄板を有する。
【0150】
本発明に係る複合材料C5は、組成A4の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P4の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。材料C5は、各々の面上に、各々最終合計厚みの10%に相当する二枚のクラッド用薄板を有する。
【0151】
これら二つの複合材料の構成要素の、重量百分率で表わした組成を下表4にまとめており、他の元素は各々0.05未満でかつ合計の0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0152】
【表10】
【0153】
これと並行して、表4の組成A4に対応するもう1枚のプレートを、最終厚み1mmのモノリシック薄板を得るような形で加工した。
【0154】
以上で提示した各々の場合において、一つは中間焼なまし無しのもの(以下指標aで印づけする)そしてもう一つは形成および塗装の後に表面の外観を改善することを目的とした中間焼なましを伴うもの(指標b)という二つの冷間圧延方法を実施した。
【0155】
冷間圧延の後、異なる薄板材料を550℃で溶体化処理し、焼入れし、約50℃のコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却により、予備時効した。
【0156】
周囲温度で二週間待機した後、そのときいわゆるT4Pの冶金学的状態にある異なる材料のローピングを、前述の作業様式にしたがって評価した。
【0157】
評価の結果を下表5に提示する:
【0158】
【表11】
【0159】
中間焼なまし無しの加工の場合(指標a)、芯材A4−aは重大なローピング欠陥を示し、一方、各々5%の厚みの二枚のクラッド用薄板と、同じ芯材A4で構成された複合材料C4−aは、非常に良好な表面外観を呈し、これは、各々10%の厚みの二枚のクラッド用薄板を有する複合材料C5−aの場合にはきわめて優良なものとなる。
【0160】
芯材A4−b自体が中間焼なましを伴う加工を受けており、そのため非常に良い表面外観(評定4)を有する場合、この芯材のクラッドによって得られる複合材料C4−bおよびC5−bは、ローピングに関して類似のさらにはそれ以上の結果を導く(評定5)。
【0161】
したがって、本発明は、ローピング欠陥に対する挙動に関する性能を損なうことなく中間焼なましから解放されることを可能にする。
【符号の説明】
【0162】
1 可視的あるいは見かけのあそび
2 実際のあそび
t 厚み
T 薄板
r 半径
B ポンチ
R ロール
α 外角
β 内角
【先行技術文献】
【特許文献】
【0163】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1633900号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2877877号明細書
【特許文献3】国際公開第2009/059826号
【特許文献4】欧州特許出願公開第2052851号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第2156945号明細書
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