【実施例】
【0089】
序文−嵌込み接合に対する適性試験
さまざまな被験材料の嵌込み接合に対する適性は、NF EN ISO7438規格に準じて「三点折曲げ試験」により測定される。
【0090】
折曲げ装置は
図2に示される通りである。
【0091】
まず最初に、圧延方向にしたがって薄板Tの10%引張り予備変形を実施し、その後半径r=0.2mmのポンチBを用いていわゆる「三点折曲げ」を実施するが、このとき薄板は二本のロールRにより支持され、折曲げ軸は圧延および予備引張り方向に対し垂直である。ロールの直径は30mmであり、ロールの軸間距離は30+2tmmに等しく、ここでtは被験薄板Tの厚みである。
【0092】
試験の初めにおいて、ポンチは30ニュートンの予備力で薄板と接触させられる。ひとたび接触が確立された時点で、ポンチの変位をゼロと指標付けする。こうして、試験は、薄板の「三点折曲げ」を実施するような形でポンチを変位させることからなる。
【0093】
薄板の微小ひび割れが、ポンチ上で少なくとも30ニュートンの力の降下を導く場合、あるいは、微小ひび割れがない場合でポンチが14.2mm変位した場合(これは最大許容行程に対応する)に、試験を停止する。
【0094】
したがって、試験の終了時には、薄板試料は
図3に示されている通りに折曲げられた状態にある。こうして、嵌込み接合に対する適性は、度数単位で折曲げ角度αを測定することにより評価される。角度αが大きくなればなるほど、薄板の嵌込み接合または折曲げに対する適性は良好になる。
【0095】
実施例1
この実施例において使用する薄板複合材料は、ろう付け用薄板の製造のために利用され、当業者にとって周知の方法である同時熱間圧延によって製作した。
【0096】
一枚の芯材用薄板Aおよび二枚のより薄いクラッド用薄板Pから、同時熱間圧延、熱間圧延そしてその後の冷間圧延によって、各面上に1mmの合計厚みの5%つまり50ミクロンに各々相当する二枚のクラッド用薄板を有する、最終合計厚み1mmの複合材料Cを三回製作した。
【0097】
本発明に係る複合材料C1は、組成A1の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P1の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。
【0098】
本発明に係る複合材料C2は、組成A1の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P2の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。
【0099】
比較のため、第三の複合材料C3を同様に、組成A3の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P3の二枚のクラッド用薄板とで製作した。
【0100】
これら三つの複合材料を構成する薄板の、重量百分率で表わした組成を下表1にまとめており、他の元素は各々0.05未満でかつ合計の0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0101】
【表7】
【0102】
冷間圧延の後、三つの薄板複合材料を530℃で溶体化処理し、焼入れし、約85℃でのコイリングにより予備時効し、それと共にコイル状で周囲温度で低速冷却した。
【0103】
これと並行して、表1の組成の各々に対応する他の五枚のプレートを、複合材の各構成要素について熱間圧延の終了時に1mmの厚みの薄板を得るような形で、標準的方法で加工した。三つの薄板複合材C1、C2、C3および五つのモノリシック薄板A1、P1、P2、A3、P3について一連の加工手順は同一であった。
【0104】
周囲温度で二週間待機した後、そのときT4Pと呼ばれる冶金学的状態にある異なる材料の嵌込み接合に対する適性を、序文で記述した作業様式にしたがって評価した。
【0105】
10%の予備引張りにより、プレス加工による実際の形成の際に予め強く変形させられるゾーンの嵌込み接合における挙動をシミュレートすることができる、ということが指摘される。これにより同様に、自動車車体用薄板の形で使用される標準的材料(AA6111、AA6016、AA6014、AA6005A)の大部分が、ポンチが14.2mmというその最大行程に達する前にひび割れの発生を開始させるような形で、三点折曲げ試験をより厳しいものにすることもできる。
【0106】
これらの試験の結果は
図4に提示されている。複合材の芯材を構成する二つの材料A1とA3の10%の引張り予備変形後の折曲げ角度は、A3がA1よりもわずかに良く折り曲がるにせよ、類似したものであるということが確認できる。
【0107】
反対に、複合材のクラッドを構成する三つの材料P1、P2およびP3は、明らかに異なる挙動を示す。すなわち、本発明に適合するP1とP2は140°超の折曲げ角度α
10%を有し、一方本発明に適合しないP3は、三つのうち最も折曲げ性の低い材料である。全体として、三つの材料を比較すると、P2は最も折曲げ性の高い材料であり、P3は最も性能の低い材料である。
【0108】
折曲げられた試料の外部面上のクラッドの割合が複合材料の合計厚みの5%にすぎないにも関わらず、複合材料の折曲げ性能がそれぞれの被覆物の折曲げ性能と類似しているという点を指摘しておくことが有利である。したがって、C2は最も折曲げ性の高い材料であり、C3は最も性能の低い材料である。
【0109】
本発明に係る複合材料C1およびC2は、本発明外の材料C3とは異なり、10%の予備変形の後140°超の折曲げ角度を有する。
【0110】
実施例2
実施例1と同じ三つの材料A1、P1およびC1を使用した。
【0111】
ここで、実施例1にある通りのコイルの加工の終了時点と折曲げ試験の実施との間の周囲温度での待機時間、つまり熟成時間の影響について検討した。実際、工業的プロセスにおいては、多くの場合薄板の納入と車体部品の製造のためのその使用の間には一定の待機期間が存在し、この期間は可変的であるものの6カ月に達する可能性がある。
【0112】
したがって薄板A1、P1およびC1は、可変的な長さの周囲温度での待機の後、前述の通りの「三点折曲げ試験」を受けた。
【0113】
結果は、
図5に提示されており、縦座標には度数単位で表わした折曲げ角度の値が、そして横座標には日数単位で表わした前記待機時間が示されている。
【0114】
14.2mmのポンチ行程、つまりこの試験において許容されているポンチの最大行程について150°という角度αが得られることから、複合材C1のクラッドを構成する材料P1の折曲げに対する適性は優れたものであることがわかる。同様に、この値は、待機時間または熟成時間の如何に関わらず達成され安定していることもわかる。
【0115】
複合材の芯材を構成する材料A1は、140°をはるかに下回る角度αの値で、折曲げに対する適性が比較的低い。その上、この材料について、待機は明らかに不利であり、6カ月後にはわずかに100°という角度αの値しか導かれないことが確認される。
【0116】
組成P1の50ミクロンの二つの層がクラッドされた組成A1の芯材で構成された本発明に係る複合材料C1は、140°超の角度αの値で、折曲げに対する非常に優れた適性を示す。本発明に係るこの複合材料C1の折曲げ性能は、待機が長くなった場合でも経時的に劣化しないという点を指摘しておくことが極めて有利である。ここでもまた、まず第一にクラッドの折曲げ性能が、複合材の折曲げ性能を制御するように思われる。
【0117】
したがって、本発明に係る複合材料C1を製作することによって、一方では角度αの値をほぼそのクラッドP1の値のレベルまで増大させること、そして他方では複合材C1の折曲げに対する適性を、コイルの加工終了時点と折曲げとの間の6カ月に至る待機時間に対し感応しないもの、つまり典型的に5°未満の推移とすることによって、芯材用モノリシック材料A1の折曲げ性能をきわめて顕著に改善することが可能となる。
【0118】
実施例3
この実施例では、本発明に係る実施例1の二つの複合材料C1およびC2を使用した。
【0119】
比較のため、同じ様式(垂直半連続鋳造、均質化、熱間圧延、冷間圧延、そして次に固溶化熱処理、焼入れおよび予備時効)にしたがって合金6xxx製の複数のモノリシック薄板を製造した。
【0120】
モノリシック薄板の重量百分率で表わした組成を下表2にまとめており、他の元素は各々0.05未満でかつ合計の0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0121】
【表8】
【0122】
一方では、自動車車体部品の製造の際の形成とその後の塗料焼付けをシミュレートする2%の引張り予備変形および185℃で20分間の熱処理の後、NF EN10002−1規格にしたがって従来の弾性限界Rp
0.2を測定した(Rp
0.2−BHと呼ばれる)。
【0123】
他方では、周囲温度で45日間待機した後、T4Pと呼ばれる冶金学的状態にある異なる材料の嵌込み接合に対する適性を、前述のものと同じ様式にしたがって評価した。
【0124】
これら二つの特性、すなわち45日間の待機および10%の予備変形でのT4P状態における嵌込み接合に対する適性、ならびに2%で、185℃20分間の予備変形後のRp
0.2−BHは、車体部品の製造向けの薄板に期待される性能を充分に良く表わすものである。
【0125】
実際、薄板は第一にT4P状態での形成後に嵌込み接合に適していなければならず、同様に、使用中の高い弾性限界、すなわち形成および塗料焼付けの後の組立て済み車両上に取付けられた自動車部品の高い弾性限界を導かなければならない。
【0126】
結果は、
図6に提示されており、縦座標には度数単位で折曲げ角度αが、そして横座標にはMPa単位でRp
0.2−BHが示されている。
【0127】
ここで、モノリシック薄板に対応する点が一直線上に整列していることがわかる。嵌込み接合に対する最高の適性を示す合金は、低いRp
0.2−BH値を示す。逆に最高のRp
0.2−BH値を達成できる合金は、T4P状態での嵌込み接合に対する適性が比較的劣っている。
【0128】
したがってモノリシック合金が整列している直線は、モノリシック薄板がこれら二つの特性の間で達成可能な妥協点を表わす。
【0129】
これに対し、本発明に係る複合薄板に対応する点C1およびC2は、およそ230MPaという同様に高いRp
0.2−BHに対し、143°の折曲げ角度αではるかに高い嵌込み接合に対する適性、すなわち、はるかに有利な妥協点を示しているということがわかる。
【0130】
実施例4
この実施例では、実施例1の複合材料を再度使用した。
【0131】
実施例3の場合と同じ特徴づけ、すなわち同じ様式にしたがってRp
0.2−BH値の測定と「三点折曲げ試験」を実施した。
【0132】
結果は、
図7に提示されており、前述のものと同様、縦座標には度数単位の折曲げ角度αがそして横座標にはMPa単位のRp
0.2−BHが示されている。
【0133】
最初に、点C1、C2、C3を検討すると、Rp
0.2−BHの同じ値について、本発明に係る複合材料C1およびC2の折曲げ試験にしたがった嵌込み接合に対する適性が、本発明外の複合材料C3のものよりも明らかに優れていることがわかる。
【0134】
したがって、複合材C3の芯材A3は複合材C1およびC2の芯材A1よりも折曲げ性が高いものの、被覆物P1およびP2が被覆物P3よりも高い折曲げ性を有するという事実は、複合材C3についての嵌込み接合または折曲げに対するより低い適性という形で現われている。
【0135】
したがって、当該技術分野そして特に「Aleris Aluminum Duffel BVBA」の欧州特許出願公開第1852250号明細書に教示されていることとは異なり、クラッド用薄板用のAA6005Aタイプの合金を使用するよりはむしろ、Rp
0.2−BHの値は低いものの嵌込み接合または折曲げに対する優れた適性を示すクラッド用薄板で、AA6016合金製芯材をクラッドする方がはるかに有利である。詳細には、本発明に係る複合材料C1およびC2のクラッド用薄板のマグネシウム含有量が0.3%未満であることによって、嵌込み接合または折曲げに対する適性は有意な形で改善される。
【0136】
実施例5
この実施例では、本発明に係る実施例1の二つの複合材料つまりC1およびC2を再度使用し、同じく実施例1由来の同じ1mmの厚みの組成A1のモノリシック薄板と比較した。
【0137】
その目的は、本発明に係る材料が、塗料焼付けの際の硬化に対する高い適性を保ちながらT4P状態での形成後のより優れた嵌込み接合適性を備えている上に、この同じT4P状態におけるより優れたプレス加工成形性をも有することを示すことにある。
【0138】
この最後の特性は、LDH(Limit Dome Height)の名称で当業者にとって公知のパラメータを決定することを通して評価された。このパラメータは、0.5〜2mmの厚みの薄板のプレス加工に対する適性を評価するために幅広く使用されている。これについては、数多くの刊行物、特にR.Thompson、「The LDH test to evaluate sheet metal formability − Final Report of the LDH Committee of the North American Deep Drawing Research Group」、SAE conference、Detroit、1993、SAE Paper n°930815で扱われている。
【0139】
ここで問題になっているのは、自在連節要素により周囲が固定されたブランク材のプレス加工試験である。ブランク材押えの圧力は、自在連節要素内の摺動を回避するために制御される。120×160mmというサイズのブランク材に、平面変形に近い様式で応力を加える。使用するポンチは半球形である。
【0140】
図8は、このLDH試験を実施するためにこの実施例において使用される工具の寸法を明記している。
【0141】
ポンチと薄板の間の潤滑は黒鉛入りグリース(Shell HDM2グリース)によって確保される。ポンチ下降速度は50mm/分である。LDH値は、破断に至るまでのポンチの変位、つまりプレス加工の限界深度である。三回の試験の平均を取り、±0.2mmという測定値に対する95%信頼区間を得る。
【0142】
下表3は、圧延方向に対して平行に160mmの寸法を位置づけして、上述の薄板から切り取った120×160mmの標本について得られたLDHパラメータの値を示す。
【0143】
【表9】
【0144】
本発明に係る二つの複合材料C1およびC2が、同じ1mmの厚みの組成A1のモノリシック薄板よりも高いLDH値を有することがわかる。
【0145】
実施例6
この実施例は、形成の際のローピングの出現に関する本発明に係る材料の挙動を明らかにすることを目的としている。
【0146】
このために、以下に記載のローピング試験を行なった。
【0147】
試験すべき材料から、約270mm(横断方向)×50mm(圧延方向)の帯状物を切り取る。次に、圧延方向を横断する方向すなわち帯状物の長さ方向で15%の予備引張りを適用する。その後、帯状物をP800タイプの研磨紙の作用に付して、前記ローピング欠陥を顕示させる。このときこの欠陥を目視により評価し、1(重大なローピング)乃至5(ローピングの完全な不在)という尺度での評点により表す。
【0148】
この実施例中で使用する薄板複合材料を、一枚の芯材用薄板A4と二枚のクラッド用薄板P4から同時熱間圧延により製作した。同時熱間圧延、熱間圧延そしてその後の冷間圧延によって、各面上に1mmの最終合計厚みのそれぞれ5%および10%に各々相当する二枚のクラッド用薄板を有する最終合計厚み1mmの二枚の複合材料C4およびC5を二回製作した。
【0149】
本発明に係る複合材料C4は、組成A4の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P4の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。材料C4は、各々の面上に、各々最終合計厚みの5%に相当する二枚のクラッド用薄板を有する。
【0150】
本発明に係る複合材料C5は、組成A4の一枚の芯材用薄板と、同じ組成P4の二枚のクラッド用薄板とで構成されている。材料C5は、各々の面上に、各々最終合計厚みの10%に相当する二枚のクラッド用薄板を有する。
【0151】
これら二つの複合材料の構成要素の、重量百分率で表わした組成を下表4にまとめており、他の元素は各々0.05未満でかつ合計の0.15未満であり、残りはアルミニウムである。
【0152】
【表10】
【0153】
これと並行して、表4の組成A4に対応するもう1枚のプレートを、最終厚み1mmのモノリシック薄板を得るような形で加工した。
【0154】
以上で提示した各々の場合において、一つは中間焼なまし無しのもの(以下指標aで印づけする)そしてもう一つは形成および塗装の後に表面の外観を改善することを目的とした中間焼なましを伴うもの(指標b)という二つの冷間圧延方法を実施した。
【0155】
冷間圧延の後、異なる薄板材料を550℃で溶体化処理し、焼入れし、約50℃のコイリングおよびコイル状で周囲温度に至るまでの低速冷却により、予備時効した。
【0156】
周囲温度で二週間待機した後、そのときいわゆるT4Pの冶金学的状態にある異なる材料のローピングを、前述の作業様式にしたがって評価した。
【0157】
評価の結果を下表5に提示する:
【0158】
【表11】
【0159】
中間焼なまし無しの加工の場合(指標a)、芯材A4−aは重大なローピング欠陥を示し、一方、各々5%の厚みの二枚のクラッド用薄板と、同じ芯材A4で構成された複合材料C4−aは、非常に良好な表面外観を呈し、これは、各々10%の厚みの二枚のクラッド用薄板を有する複合材料C5−aの場合にはきわめて優良なものとなる。
【0160】
芯材A4−b自体が中間焼なましを伴う加工を受けており、そのため非常に良い表面外観(評定4)を有する場合、この芯材のクラッドによって得られる複合材料C4−bおよびC5−bは、ローピングに関して類似のさらにはそれ以上の結果を導く(評定5)。
【0161】
したがって、本発明は、ローピング欠陥に対する挙動に関する性能を損なうことなく中間焼なましから解放されることを可能にする。