【実施例】
【0034】
次に、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0035】
‐測定方法‐
<還元粘度>
塩化ビニリデン系共重合樹脂組成物1gを50mlのテトラヒドロフランに加え、40℃で溶解し、濾過後メタノールによりポリマーを析出させ、洗浄、乾燥する。この乾燥ポリマー80mgを秤量し、溶媒として30℃のシクロヘキサノン20mlを加え、70℃で60分間加熱溶解させ、室温にて冷却後、濾紙で濾過し、溶液粘度測定用試料溶液とする。還元粘度は、試料溶液5mlをウベローデ粘度計に入れ、30℃の恒温槽に5分間放置後、通常の方法で流下秒数を測定し、次式(数1)により求めた。
(数1)還元粘度=(1/4)×{(T
2/T
1)−1}
T
1:30℃のシクロヘキサノン(溶媒)の流下秒数(秒)
T
2:30℃の試料溶液の流下秒数(秒)
【0036】
<押出加工性−1>
単軸押出機を用いて、樹脂温度約185℃にて環状に溶融押出し、10℃の冷却槽で急冷した後、室温にてインフレーション二軸延伸を行い、厚み25μm、幅約110mmのフィルムを作製した。この溶融押出したときの単軸押出機のスクリュー回転数を14rpmとしたときのロード(A)をEXTロードとし、30分間押出ししたときのロードの安定性を下記の基準にて評価した。
○:ロードのばらつきが±1A未満(実用上良好)
△:ロードのばらつきが±1A〜±2Aの範囲(実用下限)
×:ロードのばらつきが±2A以上(実用不適)
【0037】
<押出加工性−2>
(異物評価)
単軸押出機を用いて、樹脂温度約185℃にて環状に溶融押出し、10℃の冷却槽で急冷した後、室温にてインフレーション二軸延伸を行い、合計厚み40μm、幅1250mmの走行フィルム(ダブルフィルム)に対して、投光器で照明し、受光器で光の陰影を撮像し、信号処理して異物を検出する光学式欠陥検出装置(ヒューテック社製)を用い、大きさ0.5mm×0.5mm以上の異物をフィルム長さ1200mについて調べた。そのときの異物数を下記の基準にて評価した。
○:30個以下(実用上良好)
△:31〜100個(実用下限)
×:101個以上(実用不適)
(EXTロードばらつき評価)
単軸押出機を用いて、樹脂温度約185℃にて環状に溶融押出し、10℃の冷却槽で急冷した後、室温にてインフレーション二軸延伸を行い、合計厚み40μm、幅約1250mmのフィルムを作製した。巻き取り速度は20m/分であった。この溶融押出したときの単軸押出機のスクリュー回転数を34rpmとしたときのロード(A)をEXTロードとし、60分間押出ししたときのロードの安定性を下記の基準にて評価した。
○:ロードのばらつきが±1.5A未満(実用上良好)
×:ロードのばらつきが±1.5A以上(実用不適)
【0038】
<メタノール抽出量>
試料(フィルム)5gを、60℃のTHF(テトラヒドロフラン)100mlに浸漬して溶解させる。試料が溶解したTHF溶液を撹拌させながらメタノールを少量ずつ500ml滴下し、試料を再沈殿させる。この混合溶液の溶媒を90℃でドライアップさせた後、メタノール50mlを加え、再沈殿させた試料も含めて、ソックスレー抽出器にいれて上部に脱脂綿を乗せる。続いて、予め乾燥して質量を量った150mlの平底フラスコにメタノール70mlを入れ、ソックスレー抽出器に取り付けて85℃で24時間抽出する。平底フラスコを取り出し、90℃で溶媒をドライアップした後、平底フラスコを105℃に調整した乾燥器で1時間乾燥し、デシケーターで1時間放冷して抽出物の入ったフラスコの質量を求める。メタノール抽出量は、次式(数2)により求めた。
(数2)メタノール抽出量%=(B−A)/C×100 %
A:フラスコの質量(g)
B:抽出物の入ったフラスコの質量(g)
C:試料の質量(g)(5gである。)
【0039】
<アセトン抽出量>
メタノール抽出後の試料(メタノール抽出の作業において、フィルムを溶解した後、再沈殿させて、その後メタノール抽出した後に残った試料のことである。本願明細書において、「メタノール抽出後のフィルム」とも表現している。)を上部に脱脂綿を乗せてソックスレー抽出器に入れる。平底フラスコにアセトン120mlを入れ、ソックスレー抽出器に取り付けて75℃で24時間抽出する。抽出液を濾紙No.5A(「JIS P 3801−1995 ろ紙(化学分析用)」の規格に準ずる。)でメスシリンダーに100ml濾過し、予め乾燥して質量を量った150mlの平底フラスコに入れる。使用したメスシリンダーを四塩化炭素で洗浄し、洗浄液を平底フラスコに加える。80℃に調整した恒温水槽中でソックスレー抽出器を用いてアセトンをドライアップする。その後、105℃に調整した乾燥器で1時間乾燥し、デシケーターで1時間放冷して抽出物の入ったフラスコの質量を求める。アセトン抽出量は、次式(数3)により求めた。
(数3)アセトン抽出量%={(A−B)×E/(C×D)}×100%
A:抽出物の入ったフラスコの質量(g)
B:フラスコの質量(g)
C:試料の質量(g)(数2におけるC;5gのことである。)
D:100(ml)(ソックスレー抽出器で濾過後、回収した抽出液量である。)
E:120(ml)(抽出に使用したアセトン量である。)
【0040】
<重量平均分子量の測定>
アセトン抽出物30mgをスクリューキャップ付き三角フラスコに秤量し、テトラヒドロフラン30mlを加え、50℃の乾燥器に30分入れ、溶解する。その後、室温に冷却後、0.45μmのフィルターで濾過する。濾過液を、液体クロマトグラムに注入し、重量平均分子量を測定する。
カラム:KF806M+KF802+KF801(昭和電工社製)
ポンプ:型式GL−7410 (GL Sciences社製)
検出器:RI 型式 GL−7454 (GL Sciences社製)
温度:40℃
注入量:300μl
【0041】
<重合転化率>
重合転化率は、次式(数4)より求めた。
(数4)重合転化率%=(A−B)/C×100%
A:回収ポリマーの質量(g)
B:液状添加剤の総質量(g)
C:塩化ビニリデンモノマーの質量(g)+塩化ビニルモノマーの質量(g)
【0042】
<フィルム二層間剥離時間>
塩化ビニリデン系共重合樹脂組成物の幅50mm×100mm長さのダブルフィルムを準備し、該ダブルフィルムのフィルム片側に荷重3gの重りをつけ、100mm長さのダブルフィルムが完全に剥がれる時間を測定する。N=5の平均値。20秒以上を合格、20秒未満を不合格とした。
【0043】
<ラップ容器密着性>
前記の押出加工性−1及び−2にて試作したフィルムを用いて、容器との密着力を測定した。その内容は、外径72.5mmの湯飲み茶碗(笠間焼)にシングル化フィルムの外面が容器に接するように被せ、そのフィルムの上から、内径75mmの孔が開いた厚さ1mmの厚紙の当該孔を通して一定の力でフィルムを湯飲み茶碗に貼り付け、この状態で湯飲み茶碗を20kg台秤の上に置き、湯飲み茶碗の中央部のフィルムを直径30mmの平面がフィルムに接するように治具を速度300mm/minで垂直方向に押付け、フィルムが容器から滑り出したときの最大荷重を目測により読み取り、密着力とした。N=5の平均値。0.1kg以上を合格、0.1kg未満を不合格とした。
【0044】
(実施例1)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=83:17(質量比)で混合し、温度管理1にて、重合初期温度45〜50℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度60℃で保持する条件にて懸濁重合を行った。重合時間は28時間とした。このときの重合転化率は90.7%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、添加剤としてATBC、GDAML、ELOを合計で7質量部、粘着剤・粘着付与剤を合計で0.16質量部加え、混合し、コンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。ついで、単軸押出機を用いて、樹脂温度約185℃にて環状に溶融押出し、10℃の冷却槽で急冷した後、室温にてインフレーション二軸延伸を行い、厚み25μm、幅110mmのフィルムを作製した。重合レジンの還元粘度、試作フィルムのメタノール抽出量、アセトン抽出量、アセトン抽出物の分子量を測定し、表1に示した。更に、押出加工性−1のEXTロード及びその安定性として、ばらつき評価結果、フィルムの密着力、二層間剥離時間を測定し、表1に示した。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、VD:VC=82:18(質量比)として重合レジンを作製した。このとき、温度管理1にて、重合初期温度45〜50℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度60℃で保持する条件にて懸濁重合を行った。重合時間は27時間とした。このときの重合転化率は90.0%であった。次いで実施例1と同様な添加剤量を混合してコンパウンドを作製し、実施例1と同様な条件にてフィルムを作製し、評価を行なった。
【0046】
(実施例3)
実施例2において、重合初期温度42〜48℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度60℃で保持する条件にて懸濁重合を行い、重合時間を27時間とした以外は実施例2と同様にして、実施例3とした。このときの重合転化率は89.9%であった。
【0047】
(実施例4)
実施例2において、重合初期温度48〜53℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度62℃で保持する条件にて懸濁重合を行い、重合時間を28時間とした以外は実施例2と同様にして、実施例4とした。このときの重合転化率は90.3%であった。
【0048】
(実施例5)
実施例1において、VD:VC=82:18(質量比)として、重合レジンを作製した。このとき、重合初期温度45〜50℃で20時間保持し、その昇温し、重合後期温度60℃で保持する条件にて懸濁重合を行った。重合時間は27時間とした。このときの重合転化率は91.1%であった。次いで、粘着剤、粘着付与剤を無添加とし、その他の添加剤は実施例1と同様な添加剤量を混合してコンパウンドを作製し、実施例1と同様な条件にてフィルムを作製し、評価を行なった。
【0049】
(実施例6)
実施例1において、VD:VC=82:18(質量比)として、重合レジンを作製し、実施例1と同様な添加剤量を混合してコンパウンドを作製した。このとき温度管理1にて、重合初期温度44〜50℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度62℃で保持する条件にて懸濁重合を行った。重合時間は28時間とした。このときの重合転化率は93.6%であった。次いで、実施例1と同様な条件にてフィルムを作製し、評価を行なった。
【0050】
(比較例1)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=83:17(質量比)で混合し、温度管理3にて、重合初期温度52℃以下、重合後期温度57〜60℃、重合時間26時間の条件にて懸濁重合を行った。このときの重合転化率は87.0%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、添加剤とし、ATBC、GDAML、ELOを合計で7質量部、粘着剤・粘着付与剤を0.16質量部加え、混合し、コンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。次いで、単軸押出機を用いて、樹脂温度約185℃にて環状に溶融押出し、10℃の冷却槽で急冷した後、室温にてインフレーション二軸延伸を行い、厚み25μm、幅110mmのフィルムを作製した。実施例1と同様に評価を行なった。
【0051】
(比較例2)
塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=82:18(質量比)で混合し、重合初期温度47℃以下、重合後期温度57〜60℃、重合時間27時間の条件にて懸濁重合を行った以外は比較例1と同様に行い、比較例2とした。重合転化率は86.4%であった。
【0052】
(実施例7)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=83:17(質量比)で混合し、このとき温度管理1にて、重合初期温度40〜45℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度60℃で保持する条件にて懸濁重合を行った。重合時間は28時間とした。このときの重合転化率は93.0%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、添加剤としてATBC、GDAML、ESBOを合計で7質量部混合し、粘着剤・粘着付与剤無添加のコンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。ついで、単軸押出機を用いて、樹脂温度約185℃にて環状に溶融押出し、10℃の冷却槽で急冷した後、室温にてインフレーション二軸延伸を行い、合計厚み40μm、幅1250mmのフィルムを作製した。重合レジンの還元粘度、試作フィルムのメタノール抽出量、アセトン抽出量、アセトン抽出物の分子量を測定した結果を表2に示した。更に、押出加工性−2の異物評価、EXTロードの安定性評価結果、フィルムの密着力、二層間剥離時間を測定し、表2に示した。
【0053】
(実施例8)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=82:18(質量比)で混合し、このとき温度管理1にて、重合初期温度40〜45℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度60℃で保持する条件にて懸濁重合を行った。重合時間は28時間とした。このときの重合転化率は91.1%であった。この重合レジン100質量部に対して、添加剤としてATBC、GDAML、ESBOを合計で9質量部混合し、粘着剤・粘着付与剤無添加のコンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。フィルムの作製と評価は実施例7と同様に行なった。
【0054】
(実施例9)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=82:18(質量比)で混合し、このとき温度管理1にて、重合初期温度45〜50℃で20時間保持し、その後昇温し、重合後期温度60℃で保持する条件にて懸濁重合を行った。重合時間は28時間とした。このときの重合転化率は93.6%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、添加剤としてATBC、GDAML、ESBOを合計で9質量部混合し、粘着剤・粘着付与剤無添加のコンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。フィルムの作製と評価は実施例7と同様に行なった。
【0055】
(実施例10)
実施例8と同様の塩化ビニリデン:塩化ビニル=82:18(質量比)、共重合条件にて重合レジンを作製した。重合転化率は92.0%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、DBS、ATBC、ESBOを合計で4.6質量部を混合し、粘着剤・粘着付与剤無添加のコンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。ついで、実施例8と同様の方法にてフィルムを作製し、評価を行なった。
【0056】
(比較例3)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=82:18(質量比)で混合し、温度管理3にて、重合初期温度47℃以下、重合後期温度57〜60℃の条件にて懸濁重合を行った。重合時間は27時間とした。このときの重合転化率は86.6%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、添加剤としてATBC、GDAML、ESBOを合計で7質量部を加え、混合し、コンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。ついで、単軸押出機を用いて、樹脂温度約185℃にて環状に溶融押出し、10℃の冷却槽で急冷した後、室温にてインフレーション二軸延伸を行い、合計厚み40μm、幅1250mmのフィルムを作製した。フィルムの評価は実施例7と同様に行なった。
【0057】
(比較例4)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=82:18(質量比)で混合し、温度管理3にて、重合初期温度37℃以下、重合後期温度52〜54℃の条件にて懸濁重合を行った。重合時間は38時間とした。このときの重合転化率は86.6%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、添加剤としてATBC、GDAML、ESBOを合計で9質量部を加え、混合し、コンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。フィルムの作製と評価は比較例3と同様に行なった。
【0058】
(比較例5)
重合するモノマーとして、塩化ビニリデン(VD)と塩化ビニル(VC)とを塩化ビニリデン:塩化ビニル=81:19(質量比)で混合し、温度管理3にて、重合初期温度37℃以下、重合後期温度52〜54℃の条件にて懸濁重合を行った。重合時間は38時間とした。このときの重合転化率は82.0%であった。この重合レジン(塩化ビニリデン系共重合体)100質量部に対して、添加剤としてDBS、ATBC、ESBOを合計で4.6質量部を加え、混合し、コンパウンド(塩化ビニリデン共重合体樹脂組成物)を作製した。フィルムの作製と評価は比較例3と同様に行なった。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
実施例1〜10はいずれも、押出加工性、容器密着性に優れ、フィルム二層間剥離時間も十分であった。実施例5及び実施例7〜10は、粘着剤及び粘着付与剤を添加しなかったが、容器密着性に優れていた。比較例1〜5は、アセトン抽出量が少ないので押出加工性に劣り、容器密着性も得られなかった。