特許第6055845号(P6055845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055845
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ペプチドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20161219BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20161219BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20161219BHJP
【FI】
   A61K37/02ZNA
   A61P37/02
   A61P29/00
   A61P43/00 105
   A61P3/10
   A61P29/00 101
   A61P19/02
   A61P1/04
   A61P9/10
   A61P17/06
   A61P27/02
   A61P1/16
   A61P13/12
   A61P25/02
   A61P9/00
   A61P25/00
   A61K48/00
   A61K31/7088
   A61K35/76
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-551680(P2014-551680)
(86)(22)【出願日】2013年1月14日
(65)【公表番号】特表2015-509095(P2015-509095A)
(43)【公表日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】GB2013050068
(87)【国際公開番号】WO2013104928
(87)【国際公開日】20130718
【審査請求日】2015年12月16日
(31)【優先権主張番号】1200555.9
(32)【優先日】2012年1月13日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】305031567
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ バーミンガム
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】レインジャー、 ジョージ エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ナレンドラン、 パース
(72)【発明者】
【氏名】マクゲトリック、 ヘレン
(72)【発明者】
【氏名】チメン、 ミリアム
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0053309(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/154496(WO,A1)
【文献】 特表2010−520236(JP,A)
【文献】 Diabetologia, 2010, vol.53, Suppl.1, p.S206
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
A61K 31/7088
A61K 48/00
A61P 1/00−43/00
A61K 35/76
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞媒介性慢性炎症疾患に関連する状態の治療および/または予防における使用のための、ペプチドを含む組成物であって、前記ペプチドは配列N’-SVTEQGAELSNEER-C’(配列番号1)からなりT細胞の移動を抑制する、組成物。
【請求項2】
前記状態が、T細胞自己反応性、T細胞媒介性慢性炎症疾患、および自己免疫疾患からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物
【請求項3】
前記状態が、糖尿病(1型)である、請求項1または2に記載の組成物
【請求項4】
前記状態が、若年発症糖尿病、関節リウマチ、クローン病、アテローム性動脈硬化症、乾癬、脂肪性肝炎および肝硬変を含む炎症性および線維性の肝疾患、ならびにブドウ膜炎からなる群から選択される、請求項1または2に記載の組成物
【請求項5】
前記状態が、腎障害、糖尿病性腎疾患、末梢神経障害、糖尿病性網膜症、および心・脳疾患からなる群から選択される、請求項1または2に記載の組成物
【請求項6】
前記T細胞の移動は、島細胞を血液供給から隔てる膵臓微小血管系の内皮を通した経内皮移動である、請求項1〜5のいずれかに記載の組成物
【請求項7】
前記T細胞は自己反応性T細胞である、請求項1〜6のいずれかに記載の組成物
【請求項8】
前記ペプチドが、膵島への自己反応性T細胞の徴集を抑制する作用をする、請求項7に記載の組成物
【請求項9】
T細胞媒介性慢性炎症疾患に関連する状態の治療および/または予防における使用のための、ポリヌクレオチドを含む組成物であって、前記ポリヌクレオチドは、配列N’-SVTEQGAELSNEER-C’(配列番号1)からなるペプチドをコードする、組成物。
【請求項10】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号2、配列番号3、およびそれらのDNA形態またはDNA/RNAハイブリッド形態からなる群から選択される、請求項9に記載の組成物
【請求項11】
前記ポリヌクレオチドはプロモーターに作動可能に連結される、請求項10に記載の組成物
【請求項12】
前記プロモーターは膵臓特異的プロモーターである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリヌクレオチドプラスミドに含まれる、請求項9〜12のいずれかに記載の組成物
【請求項14】
前記プラスミドウイルスベクターに含まれる、請求項13に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B細胞から分泌されるペプチドであって、T細胞(自己反応性T細胞を含む)の移動に対する抑制作用を有するものの使用に関する。これは、そのようなT細胞に関連する状態、特に1型糖尿病の治療および/または予防において応用性を有する。
【背景技術】
【0002】
膵島反応性T細胞は、ベータ細胞の破壊において中心的役割を果たし、従って1型糖尿病(T1D)の病理発生において中心的役割を果たす。明らかに、T細胞はT1D膵臓における膵島浸潤の主要な部分を構成しており、T細胞を標的とする免疫抑制剤はベータ細胞機能を保持させる。T1Dにおいて、膵島反応性T細胞が、血液から炎症性内皮を越えて膵島へと徴集される機序の理解については、ほとんど研究がなされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
健康な人であっても循環する膵島反応性T細胞を有するがそれらは無害であると見られることから、このことは特に問題となる。従って、T1Dにおいては、膵臓への反応性T細胞の輸送を妨げる内因性機序が欠損するのであって、もしそのような制御経路を回復することができれば、自己反応性T細胞を排除してベータ細胞機能を保持することが可能となり得ると、本発明者らは考える。脂肪細胞由来のサイトカインであるアディポネクチンは、T細胞の移動の制御において役割を担うが、T1Dにおいてアディポネクチンの循環レベルは変動しないと見られるため、状況はもっと複雑である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
驚くべきことに、ある種のペプチドがT細胞の移動を抑制し得ることを本発明者らは発見した。このペプチドは既知であるが、本発明者らは、アディポネクチンが、Bリンパ球から放出されるメディエーターを誘導することによって、T細胞移動に対するその作用を達成することを明らかにしたのである。このメディエーターはペプチドであり、T細胞の経内皮遊走の抑制因子であるとみられる。
【0005】
このペプチドは、N’-SVTEQGAELSNEER-C’という配列を有するか、または、その類似体であって、T細胞の移動を抑制するものである。
【0006】
すなわち、第1の側面において、本発明は、N’-SVTEQGAELSNEER-C’を含むペプチドを、必要とする患者に投与することによる、T細胞媒介性慢性炎症疾患に関連する状態の治療および/または予防のための方法を提供する。このペプチドは、Tリンパ球移動を抑制するその類似体またはバリアントであってもよい。
【0007】
上記状態は、任意で、T細胞自己反応性、T細胞媒介性慢性炎症疾患、および自己免疫疾患からなる群から選択される。あるいは、上記状態は、T細胞自己反応性またはT細胞媒介性慢性炎症疾患または自己免疫疾患であり得る。
【0008】
T細胞およびTリンパ球という用語は本明細書において互換され得ることは理解されるであろう。T細胞の移動は、任意で、経内皮的なものである。内皮は、任意で、島細胞を血液供給から隔てる膵臓微小血管系のものである。
【0009】
ペプチドは、任意で、単離されたペプチドである。ペプチドは合成(すなわち化学合成、例えば小分子医薬品と同じ態様による合成)してもよいし、または、例えば分離された細胞系(細胞培養)もしくは動物において遺伝子組み換えにより作製してもよい。
【0010】
本発明者らが有用であることを発見したペプチドのアミノ酸配列は、SVTEQGAELSNEER(配列番号1)である。この配列は、より大きなペプチドもしくはタンパク質、またはキメラタンパク質もしくは融合タンパク質のなかに含まれていてもよい。あるいは、ペプチドは、配列番号1のみからなるものでもよい。これらのすべてが、本明細書で使用されるペプチドの定義に該当する。配列番号1のペプチドは、14.3.3ゼータ/デルタ(14.3.3.ζδ)タンパク質の第28〜41アミノ酸を表し、14.3.3ゼータ/デルタ(14.3.3.ζδ)タンパク質は、YWHAZ遺伝子の245アミノ酸産物である。
【0011】
上記ペプチドの類似体またはバリアントも好適に使用され得る。この点において特に好ましいのは、保存的アミノ酸置換に基づく類似体(またはバリアント)である。好ましいペプチドは14アミノ酸の長さであるが、ペプチドは13、12、11、もしくは10アミノ酸まで短くてもよいし、または15、16、17、18、19、もしくは20アミノ酸まで長くもよい。アミノ酸が追加または除去される場合には、ペプチドのN末端および/もしくはC末端へのアミノ酸の追加またはN末端および/もしくはC末端からのアミノ酸の除去であることが好ましい。ペプチドをインビボにおける分解または除去から保護する、化学構造のその他の改変も、好ましいバリアントであり、一例として、当技術分野において知られているようにリンカーまたはスペーサーを利用するPEG化が挙げられるが、これに限定されない。最も好ましくは、類似体は、SVTEQGAELSNEERと比較して、所望の機能すなわちT細胞移動の抑制を維持するかまたは向上させるべきである。これは、同系の受容体(複数可)に対する親和性の変化、または、インビボにおけるペプチドの薬物動態学的プロファイルを改変させる変化を通じてなされ得る。インビボにおけるペプチドの薬理学的「プロファイル」を向上させるためにペプチドの化学を修飾することは、現在では当技術分野の技能の範囲内であり、それらの変化はアミノ酸置換のみに基づくわけではないことは、理解されるであろう。
【0012】
本明細書では、ペプチドについての言及がなされるが、別段の明示がない限り、その言及はそのペプチドのあらゆる類似体も包含することが理解されるであろう。
【0013】
ペプチドの作用は、その同系受容体(複数可)のアゴニストとしてのものであり得る。
【0014】
T細胞の移動の抑制は、前記細胞の(例えば血液から)膵臓への徴集であり得る。
【0015】
任意で、T細胞は自己反応性である。これらは、好ましくは膵臓を標的とするものであり得、特に膵臓の島細胞を標的とするものであり得る。T細胞は、CD4+またはCD8+であり得る。
【0016】
特に好ましい一実施態様において、本ペプチドは、膵臓の島への自己反応性T細胞の徴集を抑制(すなわち低減)する作用をする。
【0017】
ペプチドは、それが投与された個体に対して作用することが理解されるであろう。従って、T細胞の自己反応性とは、その個体由来の自己(すなわち、膵臓の島細胞)に対する反応性である。その個体は哺乳類であり、任意で、ラットもしくはマウスのようなげっ歯類、または霊長類、特に類人猿もしくはヒトである。
【0018】
ペプチドの存在がT細胞の移動を抑制する作用をするため、個体が晒されるペプチドの量を増加させることは、前記移動をさらに抑制する作用をする。任意で、移動の抑制のレベルは、移動を少なくとも50%減少させる(徴集されるT細胞の数に関して)ものであるが、最も好ましくは、この減少は少なくとも60%であり、より好ましくは少なくとも70%であり、より好ましくは少なくとも80%であり、より好ましくは少なくとも90%であり、より好ましくは少なくとも95%であり、より好ましくは少なくとも99%であり、最も好ましくは、無視できるレベルまで減少される。いうまでもなく、移動するT細胞が一切ないことが理想的だが、それは現実的ではないかもしれず、実際に必要とされるのは、標的組織(例えば島細胞)の正常機能が大部分維持および/または回復されること(あるいは、少なくとも可能な限りまたは望まれる限りまで正常レベルまで近くなって、治療される状態が緩和されること)だけである。
【0019】
本ペプチドは、従って、多くの状態を治療することにおいて最も有用である。これらには、T細胞が病理において役割をはたすもの、または、T細胞自己反応性に関連する状態が含まれる。これらは、T細胞媒介性の慢性炎症疾患および自己免疫疾患を含み得る。糖尿病(1型)が特に好適である。他の企図されるものとしては、若年発症糖尿病、関節リウマチおよびクローン病、アテローム性動脈硬化症、乾癬、炎症性および線維性の肝疾患(脂肪性肝炎および肝硬変を含む)、ならびにブドウ膜炎がある。本ペプチドは、従って、上記のいずれかを治療するために好ましく機能するが、最も好ましくは1型糖尿病(T1D)を治療するために機能する。本ペプチドは、残っている膵臓機能を救済または保存する役目を果たすと考えることができる。これは、自己反応性T細胞による攻撃のために起こった喪失機能であり得る。本ペプチドは、糖尿病性の帰結を改善させる役目(すなわち、T1Dの症状の低減)を果たすと考えることができる。本ペプチドはまた、腎性(例えば腎障害、糖尿病性腎疾患)、神経性(例えば末梢神経障害)、および心血管性の合併症(例えば糖尿病性網膜症、および急速進行型アテローム性動脈硬化による心・脳疾患)を含む、膵臓機能喪失に関連するその他の病的状態、T1Dに関連する膵臓機能喪失に関連するその他の病的状態を改善させる役目を果たすと考えることができる。従って、本ペプチドは、上記状態、特にT1Dおよびその併存症(上述の通り)の治療および/または予防において最も有用となり得る。
【0020】
本発明はまた、上記ペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を提供し、これもまた上記状態のいずれかの治療および/または予防において有用である。本ポリヌクレオチドはDNA、RNA、またはDNA/RNAハイブリッドであり得る。このポリヌクレオチドは、上記ペプチドまたはその類似体をコードする。可能な組合せは相当な数存在するが、本発明者らは、アミノ酸配列SVTEQGAELSNEER(配列番号1)をコードするポリヌクレオチドの少なくとも2つの例を提供する。これらは、
5’-AGU GUU ACU GAA CAA GGU GCU GAG UUA UCU AAU GAG GAG AGA-3’(配列番号2);
あるいは
5’-AGC GUC ACC GAG CAG GGC GCC GAA UUG UCC AAC GAA GAG AGG-3’(配列番号3)
である。
【0021】
上記配列は、例にすぎず、RNA形態において示されているが、本発明は、DNA形態(UがTに置き換えられる)およびそのDNA/RNAハイブリッド形態、さらにはRNA、DNA、およびRNA/DNAハイブリッド形態の相補的配列(相補的配列はRNA、DNA、またはDNA/RNAである)も提供する。少なくとも80%の配列相同性を有するバリアントが好ましく、配列番号1と比べて例えば少なくとも50%の効力を有するペプチドをコードするバリアントが好ましい。バリアントは少なくとも機能を有し、85%の配列相同性、少なくとも90%の配列相同性、少なくとも95%の配列相同性、少なくとも99%の配列相同性もまた好ましい(もっとも近い整数に四捨五入する)。これは例えばBLASTのようなプログラムによって決定され得る。
【0022】
ペプチド(またはその類似体もしくはバリアント)をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(すなわち構築物)も提供される。ポリヌクレオチドは好ましくは適切なプロモーターに作動可能に連結される。プロモーターは例えば膵臓特異的プロモーターであり得る。
【0023】
上記ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、そのポリヌクレオチドを含有する、またはそのポリヌクレオチドが結合されている適切な媒体の投与により、送達され得る。例として、皮膚を通して発射される金粒子にポリヌクレオチドを結合することができる、いわゆる遺伝子銃が挙げられる。それに代えて、そしてより好ましくは、ポリヌクレオチド(例えばそれを含むプラスミド)は、ウイルスベクターまたはカプシド内に被包され得る。好ましい例としてはアデノウイルスベクターが含まれる。膵臓を標的とするものが好ましい。
【0024】
ペプチドの投与は、(例えば薬学的に許容される製剤の形態における)ペプチドそのものの送達によるものであるか、または、(例えば上述の形態における)ペプチドをコードするポリヌクレオチドの送達および発現によるものであり得る。これらは、注射によって、例えば血液に送達され得る。これは筋肉内注射または皮下注射であり得る。これらはまた、口内粘膜、鼻内粘膜、または直腸粘膜のように、粘膜経由で送達することもできる。これらはまた、スプレーもしくは錠剤の形態で、または坐薬の形態でも送達され得る。これらはまた、経口で胃に摂取することもできるが、しかしペプチドの場合には、胃腸消化の影響を軽減し、あるいはその影響に対抗するために、ペプチドをプロドラッグ形態で提供することが必要となり得る。
【0025】
一側面において有用ではあっても、ペプチドまたはそれをコードするポリヌクレオチドは(少なくともT1Dに関しては)膵臓にてあるいは膵臓へと標的指向化されるとは限らないし、そうされる必要性があるとも限らないことは、理解されるであろう。従って、任意で、ペプチドの送達のために必要となるのは、血漿における全身的提示を増加させることだけである。膵臓に特異的に送達することは必要とされない。それでも、代替的な実施態様においては、膵臓への特異的送達が使用され得るが、これは、それによって有効性が上昇し得るからである。ポリヌクレオチドについても同じことが言える。
【0026】
ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、標的指向化遺伝子治療の一部として、膵臓への直接的な標的指向化が企図される。
【0027】
本明細書で記述されるペプチド、ポリヌクレオチド、プラスミド、またはウイルスベクターを含む、薬学的に許容される組成物または調製物も提供される。任意で、薬学的に許容される組成物は、ペプチドを含み、注射または摂取に適したものである。
【0028】
上記で説明したように、上記状態、特にT細胞自己反応性、T細胞媒介性慢性炎症疾患、および自己免疫疾患を含むT細胞媒介性慢性炎症疾患に関連する状態を治療および/または予防する方法が企図される。糖尿病(1型)が特に好適である。若年発症糖尿病、関節リウマチおよびクローン病、アテローム性動脈硬化症、乾癬、炎症性および線維性の肝疾患(脂肪性肝炎および肝硬変を含む)、ならびにブドウ膜炎、ならびに上述したあらゆる病的状態も企図される。この方法は、ペプチドまたはポリヌクレオチドの治療量を、本明細書に記載する様式のいずれかにおいて、必要とする患者に投与することを含み得る。
【0029】
従って、T細胞自己反応性、T細胞媒介性慢性炎症疾患、および自己免疫疾患を含むT細胞媒介性慢性炎症疾患に関連する状態を治療および/または予防する方法が提供される。特に、その状態は糖尿病(1型)である。しかしながら、その状態は、若年発症糖尿病、関節リウマチ、クローン病、アテローム性動脈硬化症、乾癬、炎症性および線維性の肝疾患(脂肪性肝炎および肝硬変を含む)、ならびにブドウ膜炎からなる群からも選択され得、あるいは、腎障害、糖尿病性腎疾患、末梢神経障害、糖尿病性網膜症、および心・脳疾患からなる群からも選択され得る。
【0030】
本方法は、上記状態の治療のためのもの、または上記状態の治療に関するものであり得る。あるいは、本方法は、上記状態の予防のためのもの、または上記状態の予防に関するものであり得る。あるいは、本方法は、これらのあらゆる組合せであり得る。
【0031】
本明細書に記載される状態の治療および/または予防において使用するための、ペプチドおよび/またはそれをコードするポリヌクレオチドも提供される。本明細書における方法への言及は、そのような使用を包含する。
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明を説明するが、図面の内容は次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】アディポネクチンは末梢血リンパ球(PBL)の経内皮細胞移動を抑制する。
図2】コンパウンドCによるAMPKの阻害は、PBLの移動を回復させる。
図3】T1D患者からのPBLは、経内皮細胞移動に対するアディポネクチンの抑制作用から解放される。
図4】PBL上のアディポネクチン受容体の発現は、T1Dの患者において減少する。
図5】T1D被験者または健康な対照被験者におけるアディポネクチン受容体の発現は、アディポネクチンによるリンパ球移動抑制と相関する。
図6】異なる白血球サブセット上のアディポネクチン受容体の発現。
図7】B細胞は、アディポネクチン誘導性のT細胞抑制を媒介する。
図8】B細胞は、ペプチドの分泌を通してPBL遊出(transmigration)を制御する。
図9】分泌されたペプチドおよび14.3.3タンパク質の異なるアイソフォームの配列を示す。
図10】B細胞上清由来のMS/MS親イオンm/z 774.88と、合成バージョンのペプチドとの比較。
図11】本ペプチドは、インビトロで、内皮細胞を通したT細胞移動を抑制する。
図12】野生型マウス、または本ペプチドの存在下もしくは非存在下におけるB細胞ノックアウトマウスの炎症化腹膜中のT細胞の絶対数。
図13】末梢血リンパ球の経内皮細胞移動に対するアディポネクチン(Aq)の効果。 (A) 静的接着アッセイにて実施された、約40nMのEC50を有する投与量応答。 (B) フローベースのアッセイ(血液の流動を模倣する)における、リンパ球移動に対する15μg/ml Aqの効果。 (C) 抑制経路は、異なる組織から単離された内皮細胞において有効である(HUVEC = 臍帯;HSAVEC = 伏在静脈;HSEC = 肝臓類洞内皮細胞;HDMEC = 真皮微小血管内皮)。 (D) アディポネクチンの作用に対するAMP-キナーゼ阻害剤の効果。AMPKは、アディポネクチン受容体シグナル伝達に必要とされるシグナル伝達アダプターである。
図14】B細胞は、アディポネクチン媒介によるT細胞輸送の抑制のために必要であある。 15μg/mlのAqは、内皮細胞を通したリンパ球の移動を有意に減少させた。末梢血リンパ球調製物からB細胞を除去すると、この応答が完全に抑制された。これは、Aq刺激B細胞からの上清を使用して再構成することができ、Aq刺激B細胞からの上清もリンパ球移動を効果的に抑制することができたが、上清をブレフェルジンA(B細胞分泌の阻害剤)の存在下で調製した場合には、この効果は失われた。これらのデータは、B細胞から放出される溶解性メディエーターが必要とされることを実証している。
図15】B細胞から放出される14アミノ酸ペプチドがT細胞輸送を制御する。
図16】PEPITEMがT細胞遊出を抑制する。 A) 合成ペプチドはリンパ球の遊出を抑制することについて非常に有効であった一方、スクランブル化バージョン(天然ペプチド配列をランダムに再編成したもの)を含む対照ペプチドは、リンパ球移動を抑制することについて有効ではなかった。 B) 本ペプチドは約20pMのEC50を有していた。このペプチドは内皮細胞を通したリンパ球移動を効果的に抑制したため、本発明者らはこの因子を、経内皮移動のペプチド阻害剤(PEPtide Inhibitor of Trans Endothelial Migration)、「PEPITEM」と呼んだ。
図17】PEPITEMは、T細胞移動を抑制し、かつ、抗炎症調節性T細胞の徴集を促進する。 (A) PEPITEMは、アディポネクチンと同様のパターンでEC(内皮細胞)を通したT細胞移動を抑制する。(B) PEPITEMは、CD4+およびCD8+のメモリーT細胞の移動を抑制することについて有効であるが、好中球または単球(CD16-およびCD16+のサブセットを含む)に対しては効果を有さない。ナイーブリンパ球は、内皮細胞単層に接着しないため、この分析においては評価しなかった。(C) 興味深いことに、調節性T細胞(T-regs)(抗炎症性機能を有する)の移動の効率は、PEPITEMによって上昇した。
図18】PEPITEMは、直接的にはT細胞移動を制御しない。 やはり、PEPITEMの最も考えやすい作用様式は、T細胞の移動機能を直接的に制御するというものであった。しかしながら、実態はそうではなかった。PBLをPEPITEMで処理して、内皮のアッセイの前にその因子を洗い流した場合、リンパ球移動の効率は影響されなかった。しかしながら、内皮細胞をPEPITEMで前処理すると、リンパ球輸送の抑制がもたらされた、従って、PEPITEMは、内皮細胞を刺激して、T細胞輸送を抑制する因子を放出させることにより作用する。
図19】T細胞移動を抑制する内皮細胞によるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)合成の誘導。 PEPITEMはリンパ球移動を直接的には抑制していなかったので、本発明者らは、他組織におけるリンパ球輸送の既知制御因子であるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)がこの経路の終着段階であるという仮説を試験した。 A) S1P受容体アンタゴニスト(W146)は、アディポネクチンの抑制作用からリンパ球を解放する。 B) S1P受容体アンタゴニスト(W146)は、PEPITEMの抑制作用からリンパ球を解放する。 C) 外因性S1Pの添加は、用量依存的に、T細胞移動を抑制する。 D) 内皮細胞は、スフィンゴシンキナーゼ1(SPHK1)を発現するが、スフィンゴシンキナーゼ2(SPHK2)は発現しない。 E) SPHK1の阻害剤は、PEPITEMの抑制作用からリンパ球を解放する。
図20】S1Pは、細胞をICAM上に固定化しIP10(CXCL10)で活性化した場合に、リンパ球インテグリンLFA-1(CD11a/CD18;αLβ2)の親和性を調節する。 S1Pで処理されたメモリーT細胞上の、(A) 中間的親和性部位に対するKIM127、および、(B) 高親和性エピトープに対する抗体24。
図21】野生型マウス、または本ペプチドの存在下もしくは非存在下におけるB細胞ノックアウトマウスの炎症化腹膜中のT細胞の絶対数。 A) Jh-/-(B細胞ノックアウト動物)の腹膜中へのT細胞の徴集は、ベースライン(すなわち、PBSによる負荷後)において、野生型動物よりも多かった。ザイモサンの腹腔内注射による負荷後には、T細胞数は野生型動物において増加した。B細胞ノックアウトマウスにおいては、T細胞数の劇的かつ有意な増加があり、これはPEPITEMの存在下では有意に減少したが、スクランブル化ペプチドの存在下では有意に減少しなかった。 B) 非チフス性サルモネラ感染による負荷後のB細胞ノックアウト動物の肝臓へのT細胞の徴集は、野生型動物と比べて増加した。
図22】アディポネクチン/PEPITEM経路は、1型糖尿病の患者において改変される。 (AおよびB)1型糖尿病患者においては、健康な年齢一致対照と比べて、アディポネクチン受容体の発現が有意に減少している。(C)アディポネクチンによるリンパ球輸送の抑制は、B細胞上のアディポネクチン受容体の発現レベルと有意に相関し、従って、相関グラフ上で患者群と健常者群とが別個の集団に分離する。(D)重要なことに、患者のリンパ球はアディポネクチンによる刺激に対して不応であるが、外因性のPEPITEMの添加により、これらの細胞において抑制経路を再現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
WO2007127935は、ヒストン脱アセチル化酵素HDAC7に関するものである。この文献は、HDAC7を脱リン酸化する脱リン酸化酵素を同定することを試みて、HDAC7に結合する多数のタンパク質を見出しており、それらには、本明細書で配列番号1として記載されるペプチドが含まれている。上記文献が焦点としているのは、ミオシン脱リン酸化酵素(MYPT1)の「標的サブユニット」がHDAC7にも結合したということであり、従ってその教示は、ミオシン脱リン酸化酵素のこのサブユニットを介したHDAC7とミオシン脱リン酸化酵素との間の相互作用に向けられている。本発明者らのペプチドが何らかの価値を有することは何も記載されていないし、そのペプチドがHDAC7とミオシン脱リン酸化酵素の相互作用に干渉するということも記載されていない。US2002164668 (A1)およびUS20030064411 (A1)は、本発明者らのペプチドおよびそれを含む薬学調製物/組成物を、アルツハイマー病の治療との関係で開示している。US20040053309 (A1)もまた本発明者らのペプチドを開示しているが、毒性エフェクターに対する腎臓の応答に関連するタンパク質およびタンパク質アイソフォームの同定に関するものである。しかしながら、いずれの先行技術も、本発明者らのペプチドまたはその類似体の当該使用を開示していない。
【0035】
本発明者らは、脂肪細胞由来のサイトカインであるアディポネクチンが、炎症化内皮へのヒトT細胞の徴集を制御する能力について、関心を抱いてきた。以前には、アディポネクチン欠損マウスにおいて、内皮細胞への白血球接着が2倍増加すること、そして、重要なことに、組換えアディポネクチンの添加により白血球徴集が正常化することが示されていた。本発明者らのインビトロ研究においては、本発明者らは、静的トランスウェルアッセイ、およびフローベースの接着アッセイを使用して、TNF-αとIFN-γで刺激された内皮細胞を通したT細胞(末梢血リンパ球(PBL)の粗製単離物中のもの)の移動を追跡した。T細胞移動はアディポネクチンによって用量依存的に阻止された(図1)。
【0036】
T細胞遊出に対するアディポネクチンの作用は、アディポネクチン受容体(AR1およびAR2)を通じたシグナル伝達によって媒介されていた。AMP-活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)は、AR1およびAR2からの下流シグナル伝達における重要な中間体であり、AMPK阻害剤であるコンパウンドCによってPBLが30分間前処理された場合には、T細胞移動の抑制に対するアディポネクチンの効果は除去された。すなわち、T細胞移動は、アディポネクチンの非存在下で観察されたレベルにまで戻った(図2)。コンパウンドCは、アディポネクチンの非存在下では、移動に対して何ら効果を有していなかった。
【0037】
重要なことに、本発明者らは、T細胞移動のアディポネクチン媒介性抑制がT1Dの患者において有意に損なわれていること、すなわち、発明者らによるインビトロ移動アッセイにおいてアディポネクチンがT細胞徴集を制御する能力が、T1Dから単離されたPBLを使用する場合には失われることを発見した(図3)。本発明者らはここで、T1Dにおけるリンパ球上では、AR1およびAR2の両方が、有意に下方調節されていること(図4)、および、インビトロのT細胞移動のアディポネクチン媒介性抑制のレベルが、T1Dにおけるこれらの受容体の発現と見事に相関しており、内皮細胞遊出アッセイにおいて受容体密度をアディポネクチンに対する感受性に対してプロットした場合に、患者群と健常者対照群とが独立にクラスターを形成するほどであることを示した(図5)。
【0038】
本発明者らは、アディポネクチンが、T1DにおいてT細胞徴集を制御するための適切な標的になるとは考えていない。循環中のその濃度はT1Dにおいて変化しておらず、アディポネクチン生物学のバイオアベイラビリティ以外の側面が、機能の重要な仲介物であることが示唆される。さらに、アディポネクチンは代謝的恒常性において重要な役割を有する多面的な因子であり、深刻な標的外副作用の可能性が生じる。
【0039】
むしろ本発明者らは、T細胞移動を制御するアディポネクチンの下流の経路を標的とすることが、より正確な治療様式を提供すると考える。従って、本発明者らはここで、アディポネクチンが、新規メディエーターを誘導することによりT細胞移動に対するその作用を達成することを明確に示し、その新規メディエーターは、Bリンパ球から放出される、経内皮移動のペプチド性阻害因子であると考えている。重要なことに、Bリンパ球はアディポネクチン受容体を発現し、この因子による刺激に対して適切な様式で応答することができる(図6)。
【0040】
さらに、アディポネクチンによるT細胞移動の抑制は、混合リンパ球調製物(PBL)からB細胞を除去した場合には喪失し、T細胞の精製調製物に単離B細胞を添加した場合には、T細胞移動の抑制が再獲得される(図7a)。興味深いことに、やはり高レベルのアディポネクチン受容体を発現するナチュラルキラーリンパ球(NK細胞)は(図6)、T細胞の移動を制御する能力を有さず(図7b)、PBL細胞群の他の細胞成分ではなくBリンパ球のみによってT細胞移動の制御が媒介されることが示唆される。
【0041】
B細胞は、この系において、ペプチドを分泌することによりその作用を実現させる。従って、アディポネクチンで刺激されたB細胞によって馴化された上清は、T細胞移動を効果的に抑制することができる(図8)。さらに、B細胞分泌経路の阻害剤であるブレフェルジンAを使用して、B細胞から馴化培地中へのペプチドの放出を阻害した場合には、馴化上清の効果は消失した(図8参照)。
【0042】
本発明者らは、ここで、アディポネクチン刺激に応答してB細胞から放出される分泌ペプチドを決定的に同定した。質量分析的解析を使用して、アディポネクチン馴化B細胞上清、および関係する対照上清を精製して、LC-MS/MSにより分析した。タンパク質配列データベースの比較分析により、下記表1に記載する、アディポネクチン馴化B細胞上清に特有の単一の候補ペプチドが明らかとなった。
【表1】
【0043】
フラグメンテーション分析の統計学的にストリンジェントな性質のために、ソフトウェアは、高い正確性率を伴って決定的な配列を提供し、14.3.3ゼータ/デルタ(14.3.3.ζδ)タンパク質を前駆体タンパク質として同定することができた。事実、本ペプチドは、14.3.3.ζδタンパク質の第28〜41アミノ酸を表し、14.3.3.ζδタンパク質は、YWHAZ遺伝子の245アミノ酸産物である。ストリンジェントなデータベースサーチによって、このペプチド配列はこのタンパク質に固有であって、14.3.3タンパク質ファミリーの他の6つの構成員によってさえも共有されていないことが示されている(図9)。このペプチドは、免疫制御性分子のいずれの既知ファミリーの構成員でもなく、その化学的性質のために、魅力的な治療的可能性を有する。
【0044】
本発明者らは、このペプチドを合成することに成功した。B細胞由来ペプチドと合成バージョンとの比較解析は、質量分析において同一の質量:電荷比を示し、天然ペプチドが、14.3.3ゼータ/デルタタンパク質からの切り出しおよびB細胞からの分泌に先立って翻訳後修飾を受けていないことが示された(図10)。
【0045】
本ペプチドは、インビトロおよびインビボの両方において効力を有する。合成ペプチドを使用して、本発明者らは、本発明者らによるT細胞移動についてのインビトロアッセイにおいて用量応答曲線を作成した(図11)。本ペプチドは、このアッセイにおいて、約20pMのEC50を有する。本発明者らはまた、ザイモサン誘導性急性腹膜炎のインビボモデルにおいても本ペプチドを利用した(図12)。このモデルにおいて、本発明者らはまず、Bリンパ球(本ペプチドの細胞性供給源)のノックアウトが、Tリンパ球の腹膜腔への徴集の増加をもたらすことを示した。本発明者らは次に、B細胞ノックアウトマウスの血液および腹膜腔に本ペプチドを注入した後に実験を行った。本ペプチドは、ザイモサンによる負荷後における腹膜へのT細胞の徴集を有意に減少させることができた(図12)。
【0046】
理論に縛られることなく、本発明者らは、以下のことが、PEPITEMが炎症の際に内皮細胞を通したT細胞輸送を制御するパラダイムを表すと理解している:アディポネクチンは、Adipo-R1およびAdipo-R2(AR1/2)受容体を通じて働きながら、免疫制御性ペプチドであるPEPITEMのB細胞(炎症の際に内皮細胞表面に徴集される)からの放出を刺激する。PEPITEMは、その同系受容体を通じて内皮細胞を刺激して、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)の形成および放出を促進する。続いてS1Pが、S1P受容体(複数可)S1PR1/4を通じて、炎症の際に内皮細胞表面に徴集されたT細胞を刺激し、これが、T細胞が内皮細胞障壁を通って輸送されて炎症組織に入る能力を阻害するシグナルとなる。
【0047】
以下の実施例は、インビトロおよびインビボの両方の研究におけるこの経路の機能についての実験的証拠を提示し、ヒトにおける慢性自己免疫疾患に関連する経路機能の変化を実証し、PEPITEMペプチドのアイデンティティを記述する。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
〔アディポネクチンは、末梢血リンパ球(PBL)の経内皮細胞移動を抑制する〕
内皮細胞を、低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下でTNF-α/IFN-γで24時間刺激した。PBLを単離して、0.0001〜15μg/mlのアディポネクチンで1時間処理した。
【0049】
結果を図1に示す。(a)の部分は、静的接着アッセイにおいてアディポネクチンによってPBL遊出が有意にかつ用量依存的に減少したことを示し、(b)の部分は、アディポネクチンが、線形回帰により決定されるEC50が0.94μg/mlであることを示し、(c)の部分は、アディポネクチンが、フローベースの接着アッセイにおいてもPBL移動を抑制することにおいて同等に有効であったことを示す。データは、少なくとも3回の独立した実験を表すものであり、t検定、一元配置ANOVA、およびダネットの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.01、**p≦0.001、***p≦0.0001。
【0050】
〔コンパウンドCを用いたAMPKの阻害は、PBLの移動を回復させる〕
内皮細胞を、低血清培地中で培養し、TNF-α/IFN-γで24時間刺激した。コンパウンドCを10μg/mlにて30分間 PBLに加えた後、アディポネクチンを15μg/mlにて1時間加えた。アディポネクチン処理は、遊出の減少を誘導し、これはコンパウンドCの存在下では正常な対照レベルまで回復された。結果は図2に示されており、そこではデータは3回の実験を表すものであって、一元配置ANOVAおよびダネットの多重比較ポストテストを用いて解析された。**p≦0.001、***p≦0.0001。
【0051】
〔T1D患者からのPBLは、経内皮細胞移動に対するアディポネクチンの抑制作用から解放される〕
内皮細胞を、低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下でTNF-α/IFN-γで24時間刺激した。結果を図3に示す。a)の部分は、T1DにおいてPBL遊出に対するアディポネクチン媒介性抑制が消失していることを示し、b)の部分は、アディポネクチン処理による遊出のパーセンテージを未処理PBLの遊出のパーセンテージで割ることによって抑制のパーセンテージが計算されたことを示す。HC(健常者対照)群についてはn= 13であり、T1D群についてはn=12である。データは、t検定および一元配置ANOVA、ならびにボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。***p≦0.0001。
【0052】
〔T1D の患者において、PBL上のアディポネクチン受容体の発現が低下する〕
アディポネクチン受容体AR1またはAR2を発現するPBLの頻度を、健康被験者または疾患被験者の各々について決定し、それぞれ図4a)および4b)に示している。データは、平均±SEMとして表され、t検定、またはデータがコルモゴロフ・スミルノフ正規性検定を通らない場合にはマン・ホイットニーt検定を用いて解析した。
【0053】
〔T1D被験者または健常者対照被験者におけるアディポネクチン受容体の発現は、アディポネクチンによるリンパ球移動の抑制と相関する〕
図5a)は、AR1の発現とリンパ球移動の抑制との間の相関を示し、図5b)は、AR2の発現とリンパ球移動の抑制との間の相関を示す。相関は、線形回帰分析を用いて決定された。
【0054】
〔異なる白血球サブセット上のアディポネクチン受容体の発現〕
図6a)およびb)は、異なる細胞型上のAR1(図6a)およびAR2(図6b)の発現を示す。データは平均±SEMであり、7人の健常者対照を表す。データは、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストホックテストを用いて解析された。***p≦0.0001。
【0055】
〔B細胞はT細胞移動のアディポネクチン誘導抑制を媒介する〕
図7a)は、PBLからB細胞(Bs)を枯渇させるとPBLの移動が消失し、単離T細胞にB細胞を加え戻すと回復することを示す。図7b)は、ナチュラルキラー細胞(NKs)の移動はアディポネクチンによって影響されず、NKsをT細胞に添加してもT細胞の移動は制御されないことを示す。データは平均±SEMであり、少なくとも3回の独立した実験を表す。データは、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。**p≦0.001、***p≦0.0001。
【0056】
〔B細胞はペプチドの分泌を通してPBL遊出を制御する〕
B細胞を単離して、15μg/mlのアディポネクチンの存在下または非存在下でインキュベートした。1時間後に上清(Sup)を採取してBs-ve PBLに添加したところ、PBL遊出のアディポネクチン抑制が有意に回復した。いくつかの実験では、B細胞は、B細胞分泌の阻害剤であるブレフェルジンA(BrefA)で処理された。これらの上清はT細胞の移動を制御することができなかった。このことは図8に示されているが、そのデータは平均±SEMとして示され、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された3つの独立した実験を表す。***p<0.001、ns=非有意。
【0057】
本ペプチドの配列を決定し、それを図9において14.3.3タンパク質の異なるアイソフォームとともに示している。上記表1も参照。
【0058】
〔B細胞上清由来および合成バージョンペプチドのMS/MS親イオンm/z 774.88の比較〕
m/z 774.88イオンは、解析プロトコールのフラグメンテーション産物であり、一般的にMS/MSを使用した同定のためにのみ使用されるが、比較のための重要なパラメータになり得る。
【0059】
B細胞上清由来およびペプチド解析の合成バージョンの親イオンm/z 774.88の質量分析プロファイルの比較が図10に示されており、これは同一の質量:電荷比を明らかにしている。これにより配列同一性が確認され、このペプチドは分泌前に翻訳後修飾を受けないことが示された。
【0060】
〔本ペプチドはインビトロで内皮細胞を通したT細胞移動を抑制する〕
アディポネクチン(陽性対照として、15μg/ml)または0.001〜10ng/mlの濃度のペプチドでPBLを処理し、スクランブル化ペプチドを陰性対照として使用した(10ng/mlで使用)。本ペプチドの特異性を実証するために、その他の生活性ペプチドも使用した(すなわち、10ng/mlの破傷風トキソイドペプチド(TTp)および10ng/mlのプロインスリン(PI))。結果を図11に示す。図11 a)は、PBL遊出は本ペプチドの存在下では用量依存的に減少したが、スクランブル化ペプチド対照、TTp対照、またはPI対照の存在下では減少しなかったことを示している。図11b)は、非線形回帰分析を用いて本ペプチドのEC50(18.6pM)を算出したことを示す。データは3回の独立した実験を表し、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.01、**p≦0.001、***p≦0.0001。
【0061】
〔野生型マウス、または本ペプチドの存在下もしくは非存在下のB細胞ノックアウトマウスの炎症腹膜におけるT細胞の絶対数〕
本ペプチドもしくはスクランブル化ペプチドの有りまたは無しでザイモサン(または対照としてのPBS)を48時間注入した後に、腹膜から白血球を採取した。T細胞はCD3の発現により同定した。本ペプチドまたはスクランブル化ペプチドは、300μg/マウスの最終濃度にて注射した。結果を図12に示すが、そこでは、各群についてデータは平均であり、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.01。
【0062】
[実施例2]
この実施例は、さらなる実験を行った結果を示すものであり、従って実施例1を補足する。
【0063】
〔末梢血リンパ球(PBL)の経内皮細胞移動に対するアディポネクチン(AQ)の作用〕
図13を参照。内皮細胞を低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下で、TNF-α/IFN-γで24時間刺激した。PBLを単離して、0.0001〜15μg/mlのアディポネクチンで1時間処理した。(a)の部分は、静的接着アッセイにおいてPBL遊出がアディポネクチンにより有意にかつ用量依存的に減少したこと、および、アディポネクチンは線形回帰により決定されるEC50が約40nMであることを示している。(b)の部分は、アディポネクチンが、フローベースの接着アッセイにおいても、PBL移動を抑制することに関して同等に効果的であったことを示している。(c)の部分は、アディポネクチンが、異なる組織、例えばHUVEC(臍帯)、HSEC(肝臓類洞内皮細胞)、およびDMEC(真皮微小血管上皮)から単離された上皮細胞に対して有効であるが、HSAVEC(伏在静脈)からのものに対しては有効ではないことを示している。(d)の部分においては、AMPキナーゼ阻害剤であるコンパウンドCを10μg/mlにて30分間 PBLに添加された後、アディポネクチンを15μg/mlにて1時間添加した。AMPKは、アディポネクチン受容体シグナル伝達のために必要とされるシグナル伝達アダプターである。アディポネクチン処理は、遊出の減少を誘導したが、これはコンパウンドCの存在下では正常な対照レベルまで回復された。これらのデータは、アディポネクチンが、PBL上に発現されるその受容体に対する作用を通じて、リンパ球の遊出を制御する強い能力を有することを示している。データは、少なくとも3回の独立した実験をまとめたものであり、t検定、一元配置ANOVA、およびダネットの多重比較ポストテストを用いて解析された。**p≦0.01、***p≦0.001。
【0064】
〔T細胞はアディポネクチン受容体を有さない〕
前の実験の最も単純な解釈は、T細胞がAqの直接的制御下にあるということである。しかしながら、T細胞は適切な受容体を欠いている。しかしながら、他の白血球はAdipo- R1/2を有しており、単球およびB細胞はどちらも高いレベルの発現を示す。
【0065】
AdipoR1およびAdipoR2の両方のアディポネクチン受容体の発現を、ウサギ抗ヒトアディポネクチン受容体1および2抗体(フェニックスペプタイズ社)を使用したフローサイトメトリーによりPBMCに関して測定した。PBMC亜集団の汎用マーカー(垂直軸)に対して、アディポネクチン受容体発現を水平軸上に示す。AdipoR1およびAdipoR2は単球(CD14+)およびB細胞(CD19+)上に高度に発現されているが、T細胞(CD3+)上においては非常に低いレベルで発現されている。このことは、アディポネクチンはT細胞移動を直接的には制御し得ないことを示している。
【0066】
〔B細胞はT細胞輸送のアディポネクチン媒介性抑制のために必要である〕
図14を参照。内皮細胞を低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下で、TNF-α/IFN-γで24時間刺激した。ビーズによるポジティブ選択を用いたB細胞の除去後、および、ビーズによるネガティブ選択を用いて単離したB細胞による再構成後に、アディポネクチン(15μg/ml)の存在下または非存在下でPBL遊出を測定した。アディポネクチン処理B細胞、またはタンパク質分泌を遮断するためにブレフェルジンAで処理したB細胞からの上清を、PBLに添加した。
【0067】
末梢血リンパ球調製物からのB細胞の除去は、この応答を完全に阻害した。これは、やはりリンパ球移動を効果的に抑制する、アディポネクチンで刺激されたB細胞からの上清を使用して再構成することができるが、この効果は、B細胞分泌の阻害剤であるブレフェルジンAの存在下で上清が調製された場合には消失した。これらのデータは、B細胞から放出される可溶性メディエーターが必要とされることを示している。
【0068】
データは少なくとも3回の独立した実験をまとめたものであり、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.05、***p≦0.001。
【0069】
〔B細胞から放出される14アミノ酸ペプチドがT細胞輸送を制御する〕
図15を参照。B細胞は、ネガティブ選択を用いて単離し、アディポネクチンとともに1時間インキュベートした。上清を回収して、C18カラムで精製して大きなサイズのタンパク質を除去し、質量分析器によって獲得した。AQ刺激B細胞からの上清の質量分析を用いたプロテオミクス解析により、SVTEQGAELSNEERという配列を有する14アミノ酸のペプチドが明らかとなった。これを、刊行された配列および予測されている配列のインシリコライブラリーと比較したところ、このペプチドは、単一のヒトタンパク質に対する正確な配列相同性を示し、すなわち14.3.3ゼータ/デルタ(14.3.3.ζδ)タンパク質の第28〜41アミノ酸を表し、このタンパク質はYWHAZ遺伝子の245アミノ酸産物である。このペプチドは、既知の免疫調節ペプチドのファミリーのいずれの構成員でもないし、それらのいずれかと関係していたり、配列類似性を有していたりもしない。質量分析による合成ペプチドの分析は、天然ペプチドと同一の質量:電荷比を示し(m/z=774.88)、このことは、B細胞由来の産物は放出に先立っていかなる形態の翻訳後修飾も受けていなかったことを実証している。これらのデータは、同定された14アミノ酸ペプチドが、アディポネクチン刺激下におけるB細胞から放出されるメディエーターであることを示している。
【0070】
〔PEPITEMはT細胞遊出を抑制する〕
図16を参照。内皮細胞を低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下で、TNF-α/IFN-γで24時間刺激した。PBLは、アディポネクチン(陽性対照として、15μg/ml)、または0.001〜10ng/mlの濃度の本ペプチドで処理し、スクランブル化ペプチドを陰性対照として使用した(10ng/ml)。本ペプチドの特異性を実証するために、その他の生活性ペプチドも使用した(すなわち、10ng/mlの破傷風トキソイドペプチド(TTp)および10ng/mlのプロインスリン(PI))。a)の部分は、PBL遊出が本ペプチドの存在下では用量依存的に減少したが、スクランブル化ペプチド対照、TTp対照、またはPI対照の存在下では減少しなかったことを示している。b)の部分は、非線形回帰分析を用いて本ペプチドのEC50(18.6pM)を算出したことを示す。これらのデータは、PEPITEMが、アディポネクチンと同様に、PBL遊出を抑制することができることを示している。データは少なくとも3回の独立した実験をまとめたものであり、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001。
【0071】
〔PEPITEMは、T細胞移動を抑制し、かつ、抗炎症性調節性T細胞の徴集を促進する〕
図17を参照。内皮細胞を低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下で、TNF-α/IFN-γで24時間刺激した。PBLおよび異なるサブセットならびにPEPITEMを、異なる内皮細胞に添加し、遊出を測定した。異なるサブセットは、Treg、CD4+およびCD8+メモリーT 細胞ならびにナイーブT細胞についてのネガティブ選択を用いて単離した。ポジティブ選択を用いて異なる単球サブセットを単離した。
【0072】
(a)の部分は、PEPITEMが、異なる内皮細胞型において、アディポネクチンと同じパターンで、ECを通るT細胞移動を抑制することを示している。(b)の部分は、PEPITEMが、メモリーCD4+およびCD8+ T細胞の遊出を抑制することにおいて有効であるが、好中球または単球(CD16-およびCD16+のサブセットを含む)に対しては効果を有さないことを示している。この分析においては、ナイーブリンパ球は、内皮細胞単層に接着しないため、評価しなかった。(c)の部分は、調節性T細胞(Treg)(抗炎症性機能を有する)の移動の効率がPEPITEMによって上昇したことを示している。これらのデータは、PEPITEMが、メモリーT細胞およびTregの遊出を特異的に調節することができることを示している。
【0073】
データは、少なくとも3回の独立した実験をまとめたものであり、t検定および一元配置ANOVAならびにボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001。
【0074】
〔PEPITEMは直接的にはT細胞移動を制御しない〕
図18を参照。内皮細胞(EC)を低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下で、TNF-α/IFN-γで24時間刺激した。PEPITEMをPBLとともに内皮細胞に加えるか、または、内皮細胞をPEPITEMで前処理して洗浄後にPBLを加えるか、または、PBLをPEPITEMで前処理して洗浄して内皮細胞に加えた。
【0075】
PBLをPEPITEMで処理して、この因子を洗い流した後に内皮上でのアッセイを行った場合には、リンパ球移動の効率は影響されなかった。しかしながら、内皮細胞をPEPITEMで前処理すると、リンパ球輸送の抑制がもたらされた。これらのデータは、PEPITEMが、内皮細胞を刺激してT細胞輸送を抑制する因子を放出させることにより働くことを示している。
【0076】
データは3回の独立した実験をまとめたものであり、対応のあるt検定を用いて解析した。*p≦0.05、**p≦0.01。
【0077】
〔内皮細胞によるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)合成の誘導がT細胞移動を抑制する〕
図19を参照。IFN-γ/TNF-α処理したHUVECを通したPBLまたはB細胞枯渇化PBLの遊出を、S1PRアンタゴニスト(W146、10μM)を用いてS1Pシグナル伝達を遮断した後に、アディポネクチン(15μg/ml)(a)またはPEPITEM(b)の存在下または非存在下において測定した。B細胞枯渇化PBLは、異なる濃度(0〜100μM)のS1Pで前処理され、IFN-γ/TNF-α処理HUVECを通した遊出を測定した(c)。SPHK1およびSPHK2のmRNA発現のレベルは、B細胞およびHUVEC(dの部分、n=2)からのRNAのリアルタイムPCRにより決定した。PEPITEM(10 ng/ml)の存在下、SPHK1特異的阻害剤(5μM)で前処理したIFN-γ/TNF-α処理HUVECを通したPBL遊出を測定した(e)。
【0078】
データは、T細胞上のS1P受容体の拮抗が、T細胞遊出に対するアディポネクチンおよびPEPITEMの抑制の喪失をもたらすことを示している(a、bの部分)。(c)の部分は、B細胞枯渇化T細胞へのS1Pの添加が、遊出の抑制を回復させることを示している。(d)の部分は、HUVECにおける S1Pキナーゼ1および2の高度な発現を示している(SPHK1および2)。(e)の部分は、SPHK1の阻害が、リンパ球をPEPITEMの抑制作用から解放することを示している。これらのデータは、PEPITEMが内皮細胞を刺激してS1Pを放出させ、それがリンパ球遊出を抑制することを示している。
【0079】
データは少なくとも3回の独立した実験をまとめたものであり、t検定および一元配置ANOVAならびにボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001。
【0080】
〔S1Pはリンパ球インテグリンLFA-1の親和性を調節する〕
図20を参照。96ウェルプレートを50ug/mlの組換えICAMで4℃にて一晩コーティングした。PBS 4% BSAを用いて1時間室温にてプレートをブロッキングし、IP-10(10ng/ml)および/またはS1P(10uM)で処理したPBLを30分間添加した。剰余の未結合PBLを洗い流し、リンパ球インテグリンLFA-1(CD11a/CD18;αLβ2)の中間親和性部位についてはKIM127抗体(10ug/ml)を使用して、高親和性部位については抗体24(10ug/ml)を使用して、4℃にてPBLを標識した。平均蛍光強度(MFI)を使用して、メモリーT細胞について両方の親和性部位の発現を測定した。データは、IP-10刺激により増加した中間親和性部位および高親和性部位の両方の発現が、S1Pの存在下で下方調節されることを示している。このデータは、S1Pが、リンパ球遊出にとって重要であるインテグリンLFA-1の親和性を調節することにより、リンパ球遊出を制御することを示している。データは2つの独立した実験をまとめたものである。
【0081】
〔野生型マウス、または本ペプチドの存在下もしくは非存在下でのB細胞ノックアウトマウスの炎症腹膜におけるT細胞の絶対数〕
図21を参照。(a)の部分では、野生型マウスまたはB細胞ノックアウト(Jh-/-)BALB/cマウスに100ugのザイモサンを注射した。本ペプチドもしくはスクランブル化ペプチドを伴わせて、または伴わせないで、ザイモサン(または対照としてのPBS)を48時間注入した後に、腹膜から白血球を回収した。T細胞はCD3の発現により同定した。本ペプチドまたはスクランブル化ペプチドは、300μg/マウスという最終濃度にて注射された。その結果を(a)の部分に示しているが、そこでは、各群におけるデータは平均であり、一元配置ANOVAおよびボンフェローニの多重比較ポストテストを用いて解析された。*p≦0.01。(b)の部分では、野生型マウスまたはB細胞ノックアウトC56BL/6マウスにネズミチフス菌(Salmonella typhirium)を注射した。5日後、肝臓を採取して、切片をT細胞について染色した。(b)の部分のデータは、肝臓切片における感染部位あたりのT細胞の数を示す。
【0082】
このデータは、マウスにおけるB細胞の不在が、ザイモサン誘導性炎症およびサルモネラ感染の際に、腹膜に、より高度なT細胞の徴集をもたらすことを示している。これは、PEPITEMによってザイモサン処置B細胞ノックアウトマウスにおいて低減されたが、スクランブル化対照によっては低減されなかった。これらのデータは、B細胞が、炎症部位においてPEPITEMを放出することによって、インビボの炎症の際にT細胞の徴集を制御するために重要となることを示している。
【0083】
〔1型糖尿病の患者においてアディポネクチン/PEPITEM経路は改変される〕
図22を参照。アディポネクチン受容体AR1またはAR2を発現するPBLの頻度を、フローサイトメトリーによって各々の健康被験者または疾患被験者について決定し、それぞれ(a)および(b)の部分に示している。データは平均±SEMとして表され、t検定、またはデータがコルモゴロフ・スミルノフ正規性検定を通らない場合にはマン・ホイットニーt検定を用いて解析した。内皮細胞を低血清培地中で培養し、アディポネクチンの非存在下で、TNF-α/IFN-γで24時間刺激した。健常者対照および1型糖尿病の患者からPBLを単離し、15μg/mlのアディポネクチンで1時間処理した。(c)の部分は、AdipoR2の発現とリンパ球移動の抑制との間の相関を示している。相関は線形回帰分析を用いて決定した。(d)の部分は、新たに診断された1型糖尿病患者に由来し、アディポネクチンまたはPEPITEMで前処理されたPBL(n=5)の遊出を示す。データはt検定を用いて解析した。**p<0.01。
【0084】
(a)および(b)の部分では、1型糖尿病の患者由来のPBLにおいて両方のアディポネクチン受容体(AdipoR1/2)の発現がより低いという結果が示され、(b)の部分では、AdipoR2の発現が低いほど、リンパ球遊出を抑制するアディポネクチンの能力がより低いことが示されており、(d)の部分では、それでもなおPEPITEMがリンパ球遊出を抑制することができた。
【0085】
1型糖尿病の患者由来のリンパ球は、アディポネクチン受容体の発現がより低いために、アディポネクチンの抑制作用から解放されているが、PEPITEMの外的添加によりそれが回復され得ることを、このデータは示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19-1】
図19-2】
図20
図21
図22
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]