【実施例1】
【0015】
図1に本発明の走行制御システム構成を示す。走行制御システムは、情報処理装置であるインフラサーバ側と、走行制御装置である車両側と、からなる。
【0016】
複数車両M7(
図1の車両A〜Cなど)と複数インフラサーバM1(
図1のインフラサーバA、Bなど)がネットワーク網M5を介して、通信することを前提とする。複数車両M7は、複数インフラサーバM1と接続するための車載端末M8をそれぞれの車両A〜Cの内部に保持する。この車載端末M8を車両に乗る各ドライバーM13が操作することで、出発予定時刻および行き先、行き先に至るまでの経路を決定する。
【0017】
なお、ここでの経路とは、
図3に示すようにドライバーM13の走行開始点と行き先最終点を結んだ複数の経路のことを表す。また、車載端末M8からの出発予定時刻および行き先、行き先に至るまでの経路は、無線通信により、ある基地局M6に収集され、ネットワーク網M5から交換機M4を介して、インフラサーバ側のいずれかのサーバM3に転送される。また、サーバM3は、車載端末M8から取得したデータを保存する複数の利用目的を持つデータベースM2を保持する。
【0018】
複数車両M7の内部構成としては、インフラサーバ側で算出された情報を車載端末M8から取得し、CANバスM12を通して、統合コントローラM9で車両を制御する情報量を演算する。車両を制御する情報量は、CANバスM12を通して、ブレーキコントローラM10やエンジンコントローラM11に送信され、複数車両M7が制御される。
【0019】
図2の走行制御システムにおいて、ドライバーが行き先を選択し、車両が車速を制御するまでの流れを示す。
【0020】
まず、ドライバーM13は、車両M7の車載端末M8に対して、出発予定時間、行き先および行き先に至る経路を選択する。車両M7は、ドライバーM13から受け付けた出発予定時間、行き先および行き先に至る経路を元にインフラサーバ側に情報を送信する。このような手順を踏む理由は、予め複数のドライバーがインフラサーバ側に経路を登録することで、渋滞を軽減させる経路設計が可能となるためである。
【0021】
インフラサーバM1では、複数ドライバーの出発予定時間、行き先および行き先に至る経路から渋滞を軽減させ、かつ車両全体としてエネルギー効率のよい最適な経路を算出し(P1)、車両側のドライバーに最適経路として提案する。提案された最適経路は、車両側の車載端末M8を通じてドライバーM13に表示される。
【0022】
ここでの最適経路とは、
図3に示す点線の経路のことを指す。
図3の例では、ドライバーの走行の開始点から行き先最終点を結んだ3つの経路があり、経路1は、2つの渋滞区間を通過するため、到着時間が10分と長くなっており、距離は短いが、エネルギー消費は大きい。また、経路2は、1つの渋滞区間を通過するため、到着時間が経路1より短い8分となっており、距離及びエネルギー消費は中くらい。また、経路3は、渋滞区間がない経路のため、到着時間が最短の5分となっており、距離は長いが、エネルギー消費は小さくなっている。渋滞を考慮すると、最も到着時間が短い経路は、経路3である。最も到着時間が短い経路3は走行距離が一番長いが、それでもエネルギー消費量が小さいため、ここでは、経路3のことを最適経路と呼ぶ。
【0023】
図2に戻り、ドライバーM13は、インフラサーバM1側から送信された最適経路を車載端末M8より確認し、最適経路を走行するかどうかを選択する。最適経路が選択されると車両M7側は、インフラサーバM1に選択結果を送信する。
【0024】
インフラサーバM1は、最適経路を走行する上で必要な経路通過車速パターンとホライズン長を算出し(P2)、車両M7側に通知する。車両M7は経路通過車速パターンとホライズン長から車両のエネルギー消費量を最適とするよう制御量を算出し(P3)、制御を開始する。
【0025】
ここでの経路通過車速パターンとは、
図4に示すある一定の距離までのドライバーへの推奨となる連続した通過車速パターンを意味し、全車両のエネルギー消費量が少なく、走行時間が短くなるように車両を走行するための目安となる。提案された経路を走行することにより、渋滞を軽減させ、エネルギー消費量が少ない経路で行き先まで走行することができる。また、ホライズン長とは、
図5に示す最適経路において、将来起こりえる渋滞情報の最終点に到達するまでの時間を表す。
【0026】
図6の走行制御システムにおける
図1で示した複数車両M7および複数インフラサーバM1の内部の構成の一例を示す。
【0027】
車両側は交通流量全体の最適化を考慮しているため、
図1に示すように複数台数の車両を想定している。また、インフラサーバにおいても負荷分散などの観点から複数台数を想定している。
【0028】
図6における車両側は、
図1の車両M7の構成に示した通り、車載端末1と統合コントローラ17とエンジンコントローラ15とブレーキコントローラ16を持つ。
図6の統合コントローラ17は、目標車速算出処理12と最適目標車速度データベース13と目標制御量演算部14を持つ。
【0029】
車載端末1は、ドライバーの出発予定時間および行き先、行き先に至るまでの経路を登録し、最適な走行経路をインフラサーバ側から取得してドライバーへ表示する役割を持つ。また、車両側の目標車速算出処理12は、インフラサーバ側で生成した経路通過車速パターンとホライズン長を入力とし、車両のエネルギー消費量が最小となるように最適な目標車速度パターンを演算する。ここで演算された最適な目標車速度パターンは、最適目標車速データベース13に登録し、制御で使用する。
【0030】
目標車速度算出処理12で生成した最適な目標車速度パターンから目標制御量演算部14でスロットル開度およびブレーキ液圧などの制御量を演算し、エンジンコントローラ15およびブレーキコントローラ16にそれぞれ制御量を送信し、車両を制御する。
【0031】
図6におけるインフラサーバ側の経路受付処理2と最短経路算出処理4と渋滞情報取得処理6と経路通過車速算出処理8とホライズン長算出処理10などの処理は、
図1におけるインフラサーバ内のサーバM3のいずれかに配置される。また、経路受付データベース3や経路データベース5や渋滞データベース7や通過車速データベース9やホライズン長データベース11などのデータベースは、
図1のデータベースM2のいずれかに対応する。
【0032】
例えば、これらサーバM3に配置される処理は、インフラサーバAとインフラサーバBに分散させてもよいし、データベースM2もインフラサーバAとインフラサーバBに分散させてもよい。但し、分散させると処理とデータの流れの関係により、交換機M4およびネットワーク網M5を介してやりとりすることになり、通信による遅延が発生するため、車両M7の制御におけるリアルタイムの要件に応じてインフラサーバの構成を設計する必要がある。
【0033】
図6におけるインフラサーバ側は、経路受付処理2と、経路受付処理2で受け付けた車両の出発予定時間と行き先と行き先に至るまでの経路を保持する経路受付データベース3と、最短経路算出処理4と、車両が走行する最適経路と将来渋滞情報を保持する経路データベース5と、渋滞情報取得処理6と、複数道路区間の現在の渋滞情報を保持する渋滞データベース7と、経路通過車速算出処理8と、車両が走行する経路毎の経路通過車速パターンを保持する通過車速データベース9と、ホライズン長算出処理10と、ホライズン長を保持するホライズン長データベース11から構成される。
【0034】
ここでの渋滞情報には、区間平均通過時間といった情報を含むことを前提とする。現在の渋滞情報には、現在の区間平均通過時間および過去の区間平均通過時間を含み、過去の区間平均通過時間は、どの時間帯にどの程度の平均通過時間だったかの履歴を指す。この過去の区間平均通過時間は、将来の区間平均通過時間を予測するために必要なため、現在の渋滞情報に含めている。
【0035】
区間平均通過時間とは、
図12に示すように、経路の開始点から行き先最終点までの間を複数の区間に分離し、1つの区間を現在、車両が平均してどれだけの時間で通過しているかを表す。例えば、区間Aの場合は、車両は開始点から区間Bまでを平均10分で通過することができる。
【0036】
経路受付処理2は、複数車両の車両端末1から入力された出発予定時間および行き先、行き先に至る経路を受け取り、経路受付データベース3に保持する。最短経路算出処理4は、経路受付データベース3から複数車両経路を取得し、渋滞データベース7から、その経路に対応する現在の渋滞情報から、将来の渋滞を予測し、将来渋滞情報を出力する。そして、ホライズン長データベース11からホライズン長を取得し、将来の渋滞発生区間を通過する全車両のエネルギー消費量と行き先までの到達時間が最低になるように全車両分の最適経路を算出し、複数車両の車両端末1に送信する。算出された各車両の最適経路および将来の渋滞情報は、経路データベース5で管理する。なお、最短経路算出処理4の詳細については、
図9、
図10を用いて後述する。
【0037】
経路通過車速算出処理8では、最短経路算出処理4で演算された最適経路と後述するホライズン長算出処理10で算出したホライズン長から所定の経路を通過する場合の経路通過車速パターンを算出し、車両側に送信する。算出された経路通過車速パターンは、通過車速データベース5で管理する。
【0038】
ホライズン長算出処理10は、最適経路と将来の渋滞情報を経路データベース5から取得し、その経路を通過する経路通過車速パターンを通過速度データベース9から取得し、ホライズン長を算出し、車両側に送信する。各車両のために算出されたホライズン長は、ホライズン長データベース11で管理し、次の経路通過車速パターンを算出するために、経路通過車速算出処理8で参照される。なお、最初の1回目の経路通過車速算出処理のためのホライズン長は、ある所定のホライズン長を使用して算出する。
【0039】
図5を用いてホライズン長の算出方法を示す。
【0040】
ホライズン長は、
図6に示すインフラサーバ側のホライズン長算出処理10で算出する。
図5の上部に示す経路データベース5 から取得する最適経路と将来の渋滞情報から、開始点から一番遠い渋滞情報の最終点を検索する。なお、渋滞情報は、区間平均通過速度を前提としているため、ある一定の区間平均通過速度の場合に、渋滞と判断する。なお、過去の区間平均通過速度と将来の区間平均通過速度を比較して、ある一定以上、将来の区間平均通過速度が遅くなっていれば、渋滞と判断してもよい。
【0041】
次に車両からの渋滞情報最終点までの距離と通過車速データベース9から取得した経路通過車速パターンを用いて、渋滞情報最終点に到達するまでの時間を算出し、その時間をホライズン長とする。
【0042】
以上のように本発明では、入力された車両の経路と現在の渋滞情報に基づいて将来の渋滞情報を予測し、将来の渋滞情報に基づいて将来の渋滞発生区間を通過する全車両のエネルギー消費量と行き先までの到達時間が最低になるように全車両分の最適経路を算出する最短経路算出処理4と、最適経路に基づいて将来起こりえる将来の渋滞情報を考慮して生成された最終点に到達するまでの時間を表すホライズン長を算出するホライズン長算出処理10と、最適経路とホライズン長に基づいて、所定の経路を通過する場合の経路通過車速パターンを算出する経路通過車速算出処理8と、を有し、ここで求めたホライズン長と経路通過車速パターンに基づいて車両を制御する構成とする。
【0043】
これにより、最終的な行き先まで起こりえる渋滞を予測して、最適経路および最適目標車速を算出しているため、特許文献1に示すような予期しない渋滞に遭遇してからの経路の再指定をすることなく、最初に計画した制御で行き先に到達できる可能性が向上する。
【0044】
図7に
図6で示した車両側の統合コントローラ17の詳細を示す。
【0045】
図7の統合コントローラ17は、目標制御量演算部R1と目標車速度算出処理R2と最適目標車速データベースR3を持つ。さらに、目標制御量演算部R1は、目標加速度算出R4と目標トルク算出R5とスロットル開度算出R6とブレーキ液圧算出R7を持つ。また、目標車速度算出処理R2は、目標車速度パターン調整処理R14と車両挙動算出処理R15とエネルギー消費量評価値算出R8と乗心地評価値算出R9と安全性評価値算出R10と総合評価値算出R11と最もJ_vehicleの値が大きくなる目標車速度パターンの抽出R12と次地点目標車速度取得R13を持つ。特に、目標車速度算出処理R2の中でも、エネルギー消費量評価値算出R8と乗心地評価値算出R9と安全性評価値算出R10と総合評価値算出R11を最適な車両挙動を求めるための評価関数と定義する。
【0046】
目標車速度算出処理R2は、インフラサーバ側で算出されたホライズン長と経路通過車速パターンを入力とし、最適目標車速度パターンおよび次地点目標車速を出力とする。目標車速度算出処理R2により算出した最適目標車速度パターンは、最適目標車速データベースR3で管理し、次のある区間に至るまでの目標車速を次地点目標車速度取得R13から取得し、目標制御量演算部R1で使用する。制御におけるリアルタイム性の要件にもよるが、最適目標車速データベースR3は、統合コントローラのメモリ上に保持し、データ取得のための通信遅延や検索時間がかからないように考慮する必要がある。
【0047】
図6で示したインフラサーバ側(情報処理装置側)で算出する経路通過速度パターンは、後述するが、将来の渋滞情報を考慮して全体車両の消費エネルギーを最小とするためのものであり、ここでの、最適目標車速度パターンは、車両のエネルギー消費量や乗心地や安全性などの車両単体の挙動を最適にするものであるため、目的が異なる。
【0048】
入力された経路通過車速パターンは、目標車速度パターン調整処理R14で調整後目標車速度パターンに変換する。変換の方法は、
図15を用いて、後述する。
【0049】
調整後目標車速度パターンは、車両挙動算出処理R15により、調整後目標車速度パターンで走行する場合の車両挙動を演算し、縦方向の加速度(a_long)と横方向の加速度(a_lat)と縦方向の障害物との距離(d_long)と横方向の障害物との距離(d_lat)を得る。
【0050】
エネルギー消費量評価値算出R8は、調整後目標車速度パターンから得た目標速度(v)と縦方向の加速度(a_long)を入力とし、エネルギー消費量評価値を算出する。
エネルギー消費量評価値は、エネルギー使用量が少ないほど評価値が高くなるように演算する。
【0051】
また、乗心地評価値算出R9は、縦方向の加速度(a_long)と横方向の加速度(a_lat)を入力として、乗心地評価値を算出する。
【0052】
乗心地評価値は、乗心地を決める急激な加速度の変化が小さくなるほど評価値が高くなるように演算する。
【0053】
安全性評価値算出R10は、縦方向の加速度(a_long)と横方向の加速度(a_lat)と縦方向の障害物との距離(d_long)と横方向の障害物との距離(d_lat)と調整後目標車速度パターンから得た目標速度(v)を入力として、安全性評価値を算出する。
【0054】
安全性評価値は、障害物に衝突するかカーブで横滑りするなどの危険度が小さいほど評価値が高くなるように演算する。
【0055】
これらの目標車速度算出処理R2の評価関数は、エネルギー消費量と乗心地と安全性などを考慮し、総合して評価値が最大になる様な最適目標車速度パターンを算出するための処理である。総合評価値算出R11により、それぞれの評価値算出処理の結果とインフラサーバから取得するホライズン長(T)から総合的に評価値J_vehicleとして算出する。
【0056】
上記で示した評価関数は、式1で表現することができる。式1のエネルギー消費量(Fuel)、乗心地(Comfort)、安全性(Safe)の定義は、それぞれ、
図7のエネルギー消費量評価値算出R8と乗心地評価値算出R9と安全性評価値算出R10に相当し、出力をそれぞれエネルギー消費量評価値と乗心地評価値と安全性評価値といった評価値で算出する。
【0057】
【数1】
【0058】
式1に示すエネルギー消費量(Fuel)、乗心地(Comfort)、安全性(Safe)の定義に対して、それぞれw1,w2,w3の重みパラメータを乗算し、結果を加算したものをある時間tからt+ホライズン長Tまで積分したものを想定しており、最終的には、評価値J_vehicleを算出する。
【0059】
このようにインフラサーバで算出したホライズン長を式1で用いることにより、インフラサーバ側で算出した将来の渋滞を予測した最適経路に対して、さらに車両単体のエネルギー消費量や乗心地や安全性を考慮した走行が可能となる。
【0060】
また、ここでの重みパラメータとは、エネルギー消費量と乗心地と安全性の優先度合いを表すパラメータである。例えば、w1の重みをw2とw3より大きくするとエネルギー消費量を少なく方向に制御でき、また、w2の重みをw1とw3より大きくすると乗心地が良くなる方向に制御することができる。これらの重みは、ドライバーの感覚に合わせてチューニングが必要である。
【0061】
これらの式1のエネルギー消費量および乗心地、安全性といった関数定義は、用途によってどれかを削って限定してもよいし、新たな項を追加してもよい。また、w1,w2,w3の重み自体を新たな式に置き換えて、重みを可変にとなるようにしてもよい。
【0062】
上記評価関数で算出した評価値J_vehicleは、
図7の目標車速度パターン調整処理R14により、目標車速度パターンを調整し、J_vehicleが最大となるような最適目標車速度パターンが得られるまで繰り返し算出する。最適目標車速度パターンを取得するまでの処理フロー(
図11)を後述する。
【0063】
目標車速度算出処理R2で算出した最適目標車速度パターンは、ある一定距離までの車速であるため、制御で全て一度に使う訳ではない。そのため、まず最適目標車速データベースR3に保持し、次地点目標車速度取得R13により、必要な区間の目標車速度だけを取得して目標制御量算出部R1に渡す。
【0064】
インフラサーバから取得する経路通過車速パターンから最適目標車速度パターンを算出する例を
図8に示す。
図8では、経路通過速度パターンを、前記式1で算出したJ_vehicleを最小とするような最適目標速度パターンに変換して、車両単体として最適な制御を実現する。
図8より、経路通過車速度パターンの動作は、2つの山がある形状をしているが、乗心地や安全性を考慮して、最適目標車速度パターンに示すように緩やかに制御するようになることを想定している。
【0065】
車両単体としての制御は、
図8のように算出した前記最適目標車速度パターンに追従するように、
図7に示す次地点目標車速度取得R13から取得した次地点目標車速を用いて、目標加速度算出R4で目標加速度に変換する。そして、目標トルク算出R5で目標加速度と走行抵抗を加算したものに、車両重量とタイヤ半径を乗算し、目標トルクを算出する。算出した目標トルクからスロットル開度算出R6及びブレーキ液圧算出R7でスロットル開度とブレーキ液圧を算出する。算出されたスロットル開度とブレーキ液圧は、それぞれエンジンコントローラとブレーキコントローラに送信し、車両を制御する。
【0066】
図11に
図7のエネルギー消費量評価値算出R8と乗心地評価値算出R9と安全性評価値算出R10と総合評価値算出R11と最もJ_vehicleの値が大きくなる目標車速度パターンの抽出R12を繰り返すロジックを含むフローを示す。
【0067】
まず、目標車速度パターン調整処理300により、評価する目標車速度パターンを生成する。ここで調整する目標車速度パターンは、
図15に示す例のように設定する。
図15は、
図8に示した経路通過速度パターンと最適目標車速度パターンの例に対して、一定距離ごとにP1〜Pnで分割している。目標車速度パターン調整処理300で調整するパラメータは、
図15におけるP1〜Pnごとの目標車速度の組み合わせに相当する。例えば、P1の距離の場合に、調整する目標車速度の値を、P1の距離の時の経路通過速度パターンの速度D1からマイナス所定速度からプラス所定速度の範囲の間でどの速度に設定するかどうかを決める。これをP1からPnまで繰り返し、P1からPnの目標車速度の組み合わせを生成し、P1からPnを滑らかに接続し、目標車速度パターンとする。経路通過速度パターンの速度からマイナス所定速度からプラス所定速度の範囲の値で次の目標車速度を設定する理由は、インフラサーバ側で全車両のエネルギー消費量を考慮しているため、経路通過速度パターンを大きく外れないように、車両を制御させるためである。
【0068】
次に、目標車速度パターン調整処理300で算出した目標車速度パターンを用いて、車両挙動算出301で車両の挙動を算出する。車両挙動を算出すると、横方向の加速度および縦方向の加速度および横方向の障害物との距離および縦方向の障害物との距離を得ることができる。これらの道路形状や先行車、障害物などの影響により変化する加速度や距離と目標車速度パターンを
図7の評価関数への入力とする。最終的に算出される最適目標車速度パターンとは、評価値J_vehicleが最大となるP1〜Pnの目標車速度の組み合わせを意味し、
図15のQ1〜Qnの目標車速度の組み合わせが最適な入力を滑らかに接続したものとなる。
【0069】
次に、目標車速度パターン調整処理300で算出した目標車速度パターンおよび車両挙動算出処理301で算出した縦方向の加速度などにより、エネルギー消費量評価値算出処理302でエネルギー消費量評価値を算出する。また、縦方向の加速度および横方向の加速度により、乗心地評価値算出処理303で乗心地評価値を算出する。また、目標車速度パターン調整処理300で算出した目標車速度パターンおよび縦方向の障害物との距離および横方向の障害物との距離および横方向の加速度より、安全性評価値算出処理304で安全性評価値を算出する。
【0070】
これら算出した評価値より、総合評価値Jc算出処理305で評価値を算出する。算出した評価値Jcが過去に算出したJmより大きいかどうかを判定(306)し、大きい場合は、評価値Jmを更新する(307)。小さい場合は、評価値Jmは更新しない。ここまでの目標車速度パターン調整処理300から最大値の更新(307)までを所定回数繰り返す。所定回数繰り返したかどうかを判定(308)し、完了していれば、評価値Jmの時の目標車速度パターンを最適目標車速度パターンとして、最適目標車速データベースに登録する(309)。
【0071】
最適目標車速データベース13から次地点目標車速度取得処理310により、次地点目標車速度を取得し、目標加速度算出処理311で目標加速度を算出する。次に、目標トルク算出処理312 により、算出した目標加速度と走行抵抗を加算して、車両重量とタイヤ半径を乗算して、目標トルクを算出する。算出した目標トルクにより、スロットル開度算出処理313とブレーキ液圧算出処理314により、スロットル開度とブレーキ液圧を算出する。
【0072】
以上から、本発明の走行制御装置の特徴は、渋滞情報を考慮して生成された一定の距離までの通過車速パターンである経路通過速度パターンに基づいて目標車速度パターンを生成する目標車速度パターン調整処理300と、将来起こりえる将来の渋滞情報を考慮して生成された最終点に到達するまでの時間を表すホライズン長Tとその目標車速度パターンに基づいて、評価値(エネルギー消費量評価値、乗心地評価値、安全性評価値など)を算出する評価値算出部(エネルギー消費量評価値算出処理302、乗心地評価値算出処理303、安全性評価値算出処理304、総合評価値算出処理305)と、を有する目標車速度算出部(R2、12)と、その評価値に基づいて車両を制御する制御量を算出する目標制御量演算部(R1、13)と、を備えるものである。
【0073】
図9に
図6の最短経路算出処理4の詳細構成を示す。
【0074】
最短経路算出処理4は、時間毎流入比率の予測処理100と時間毎流入比率の調整処理101と時間毎流入数算出処理102と将来区間平均通過時間の算出処理103と総消費エネルギーの算出処理104と流入比率評価処理105と最もJの値が小さくなる時間毎流入比率の抽出処理106と割合に合わせて各車両に経路を指示する処理107から構成される。
【0075】
ここでの流入比率とは、経路上のある区間に対して割り当てられる比率であり、同じ目的地を持つ車両が通過する複数の経路において、全体車両数に対するある区間を通過する車両数の比率のことを指す。例えば、
図13に示すように、経路の開始点から行き先最終点の間にある区間A、Bにおいて、全体車両数の8割が区間Aを通るとすると、区間Aの流入比率は0.8となる。また、区間Bには、全体車両数の残り2割が走行するため、流入比率は、0.2となる。
【0076】
次に、時間毎流入比率とは、車両の出発時刻により、時間帯ごとに、ある区間を通過する車両数の比率が変化するため、流入比率を時間毎に表現したものである。例えば、
図14(C)に示すように時間毎流入比率は、0時から23時までの時間帯において、ある一定の時間ごとに流入比率を割り出したものであり、6時頃は、流入比率が0.8であるが、9時頃では区間Aを通過する車両が減少し、流入比率が0.2となる。
【0077】
最短経路算出処理4は、経路受付データベース3の複数車両経路および渋滞データベース7の現在の渋滞情報を入力とし、将来渋滞情報および最適経路を出力とする。現在の渋滞情報には、現在の区間平均通過時間および過去の区間平均通過時間などを含み、将来渋滞情報には、将来区間平均通過時間を含む。最適経路は、将来区間平均通過時間と総消費エネルギーから流入比率評価処理105により算出する評価値J_routeが最小となるように時間毎の流入比率を求めて、その流入比率から各車両が走行する経路を生成する。
【0078】
また、ここで算出した最適経路は、経路データベース5に保持する。保持された最適経路は、
図6で示したように車両側の車載端末に送信され、その通りに走行するかどうかはドライバーが選択する。
【0079】
また、
図6より、算出した将来渋滞情報(将来区間平均通過時間)は、ホライズン長算出処理の入力となるため、将来渋滞情報(将来区間平均通過時間)も経路データベースに保持する。
【0080】
経路受付データベース3から取得する複数車両経路から、どの経路が全車両のどれだけの割合で走行されようとしているかを予め判断でき、また、渋滞データベース7から現在の渋滞情報に含まれる現在の区間平均通過時間と過去の区間平均通過時間が分かるため、時間毎流入比率の予測処理100において、時間毎の流入比率を区間毎に予測することができる。
【0081】
次に、時間毎の流入比率を時間毎流入比率の調整処理において、最適な経路を検索するために時間毎流入比率の調整処理101にて時間毎の流入比率を調整する。時間毎の流入比率の調整として、ある区間の流入比率が大きい場合は、他の区間に流入比率を分割して、全体としての流入比率が小さくなるようにする。
【0082】
この時間毎の流入比率の調整について、
図13に示す経路で、
図14の区間平均通過時間と流入比率が得られたケースを例に取って説明する。
【0083】
図14(A)と
図14(B)は、それぞれ区間A、Bにおける現在と過去の区間平均通過時間から算出した時間帯ごとの区間平均通過時間を表す。
図14(A)においては、6時から18時前までが混み合っており、平常時は平均5分で通過できるが、平均12分も通過に要することになる。
【0084】
また、
図14(B)においては、18時前から20時頃までが混み合っており、平常時は平均7分で通過できるが、平均15分も通過に要することになる。
【0085】
図14(C)と
図14(D)は、それぞれ区間A、Bにおける時間毎流入比率の例である。
図14(C)より、区間Aの6時から12時前までの流入比率が0.8となっており、
図14(A)からも区間平均通過時間が12分と長い時間帯に多くの車両が区間Aを通過しようとしていることが分かる。
【0086】
この時、
図14(D)より、区間Bを通過する車両が区間Aよりも少ないため、走行する道路に空間的な余裕があり、平均通過時間も区間Aでは、12分かかるところを区間Bでは、7分で走行できる。従って、インフラサーバ側から区間Aを走行する経路を想定していた車両に対して、区間Bを走行するように促すことで、消費エネルギーおよび区間平均通過時間を最小にできる可能性がある。
【0087】
例えば、
図14(C)を
図14(E)のように6時から12時前の流入比率を0.8から0.4に減少させ、
図14(D)を
図14(F)のように6時から12時前の流入比率を0.2から0.6に増加させる調整をする。上記の内容が、最適な経路を検索するために時間毎流入比率の調整処理101にて時間毎の流入比率を調整する方法となる。
【0088】
次に、調整された時間毎の流入比率より、時間毎流入算出処理102で、時間毎の流入数を算出する。時間毎流入算出処理102では、経路受付データベース3に保存された複数車両の経路により、全体で何台の車両が経路を走行しようとしているかが把握できるため、時間毎流入比率と時間毎の走行車両数を乗算して、時間毎の流入数を計算できる。
【0089】
時間毎の流入数と渋滞データベース7の現在の渋滞情報に含まれる現在の区間平均通過時間および過去の区間平均通過時間により、将来の渋滞情報に含まれる将来区間平均通過時間の算出処理103で各区間における将来区間平均通過時間を算出する。将来区間平均通過時間を算出する理由は、時間毎流入比率の調整処理101により、時間毎の流入数が経路受付データベース3から取得した複数車両経路とは異なる経路となるため、変更後の経路と現状の渋滞情報で将来の区間平均通過時間がどのように変わるかを演算しなければ、渋滞を考慮した総消費エネルギーが計算できないためである。
【0090】
将来区間平均通過時間と選択された経路の諸元により、総消費エネルギーの算出処理104で、総消費エネルギーを算出する。選択された経路の諸元とは、道路の走行抵抗や高速道路および一般道路などの道路種別や経路の距離およびカーブ曲率など道路形状などの車両の消費エネルギーに影響するパラメータのことを指す。消費エネルギーの計算方法については既存の手法があるため、ここでは説明を省略する。
【0091】
流入比率評価では、将来区間平均通過時間の算出処理103と総消費エネルギーの算出処理104で算出された将来区間平均通過時間(DurationOfCar)と総消費エネルギー(AmountEnergyOfCar)を式2示すようにw1、w2の重みパラメータで加算し、tからt+ホライズン長Tまで積分し、流入比率評価処理105にて評価値(J_route)を算出する。ここでのホライズン長Tとは、
図6のホライズン長算出処理10で算出したものと同義である。
【0092】
【数2】
【0093】
その後、流入比率評価処理105で求めた評価値J_routeが最も小さくなる時間毎の流入比率を時間毎流入比率の抽出処理106にて選択する。最も小さくなる区間毎の流入割合を算出するためには、複数回数に渡り、時間毎流入比率の調整処理101から流入比率評価処理105を繰り返す必要がある。ロジックについては、
図10を用いて後述する。
【0094】
最もJの値が小さくなる時間毎流入比率の抽出処理106で選択した最適な時間毎流入比率から、どの車両にどの経路を割り当てるかを各車両に経路を指示する経路割当処理107にて算出する。最終的に各車両に経路を指示する処理107で算出した経路が最適経路となる。最後に前記最適経路と将来区間平均通過時間を経路データベース5に保持する。
図10に時間毎流入比率の調整処理101から流入比率評価処理105を繰り返すロジックを含めたフローを示す。
図9にも記載しているが、経路受付データベース3から取得する複数車両経路に基づき時間毎流入比率の予測処理201をする。
【0095】
次に、時間毎流入比率の予測処理201で算出した時間毎流入比率に対して時間毎流入比率の調整処理202を実施する。そして、時間毎流入比率が分かれば、時間毎にどれだけの車両が経路を通過するかが分かるため、次に、時間毎流入数算出処理203にて時間毎流入数を算出する。
【0096】
時間毎流入数と渋滞データベース7の現在渋滞情報に含まれる現在の区間平均通過時間および過去の区間平均通過時間を用いて、将来区間平均通過時間算出処理204にて将来区間平均通過時間を算出する。
【0097】
将来区間平均通過時間と選択された経路の諸元を用いて、総消費エネルギー算出処理205にて全車両の総消費エネルギーを算出する。次に、総消費エネルギーと将来区間平均通過時間を用いて、時間毎流入比率の評価値Jc算出処理206にて評価値Jcを算出する。評価値Jc が評価値Jm より小さいか否かを判定(207)、つまり、算出した評価値Jcとその時点で最小な評価値Jmと大小比較をし、時間毎流入比率の評価値の最小値の更新処理208により小さい評価値を選択し、時間毎流入比率の評価値の最小値を更新する。
【0098】
時間毎流入比率の調整処理202から時間毎流入比率の評価値の最小値の更新処理208までの処理を所定回繰り返したかどうかを判定(209)し、時間毎流入比率の調整処理202で時間毎流入比率を調整して、評価値が最小となる流入比率を検索する。評価値が最小となる流入比率が算出できれば、どの車両にどの経路を走行させるかの計画が可能であるため、流入比率の割合にあわせて、各車で使う経路を算出し、車両側の車載端末に指示を出す(210)。