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特許6055852通信装置、通信システム、算出方法及び通信プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055852
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】通信装置、通信システム、算出方法及び通信プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/309 20150101AFI20161219BHJP
   H04W 24/08 20090101ALI20161219BHJP
   H04L 12/70 20130101ALI20161219BHJP
   H04W 88/02 20090101ALI20161219BHJP
【FI】
   H04B17/309
   H04W24/08
   H04L12/70 100Z
   H04W88/02 151
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-13051(P2015-13051)
(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-139892(P2016-139892A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2015年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100145698
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 俊介
(72)【発明者】
【氏名】本庄 勝
(72)【発明者】
【氏名】西村 康孝
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−289583(JP,A)
【文献】 特開2014−220621(JP,A)
【文献】 特開2006−013920(JP,A)
【文献】 特開2004−312725(JP,A)
【文献】 特表2011−509025(JP,A)
【文献】 特開2011−114416(JP,A)
【文献】 特開2009−5368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/309
H04L 12/70
H04W 24/08
H04W 88/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を発信する親機と無線通信可能な通信装置であって、
前記親機に対してサイズの異なるパケットを、前記パケットのサイズに応じて送信間隔を変更しながら複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得する取得部と、
前記取得部が取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出する増加量算出部と、
前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するリンク速度算出部と、
を備える通信装置。
【請求項2】
前記増加量算出部は、前記取得部が取得した複数の往復遅延時間のうち、それぞれのサイズのパケットに対応する最小の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記サイズがそれぞれ異なる前記パケットの組み合わせを1セットとし、複数セットのそれぞれに対応する複数の前記往復遅延時間を取得する、
請求項1又は2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記親機の無線通信を中継する中継装置の設置候補位置において送信した所定サイズのパケットに対応する往復遅延時間が、所定の閾値以下である場合に、前記設置候補位置が前記親機に近すぎて、前記中継装置の設置位置として不適切な位置であると判定する判定部と、
前記リンク速度算出部が算出した前記リンク速度から算出される実効スループットに基づいて、前記所定の閾値を更新する更新部とをさらに備える、
請求項1からのいずれか1項に記載の通信装置。
【請求項5】
電波を発信する親機と、当該親機と無線通信可能な通信装置とを備える通信システムであって、
前記親機は、前記通信装置からパケットを受信したことに応じて、当該通信装置に応答パケットを送信し、
前記通信装置は、
前記通信装置が、前記親機に対してサイズの異なるパケットを、前記パケットのサイズに応じて送信間隔を変更しながら複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した前記応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得する取得部と、
前記取得部が取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出する増加量算出部と、
前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するリンク速度算出部とを有する、
通信システム。
【請求項6】
電波を発信する親機とのリンク速度を算出する算出方法であって、
前記親機と無線通信可能な通信装置において、前記親機に対してサイズの異なるパケットを、前記パケットのサイズに応じて送信間隔を変更しながら複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得するステップと、
取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出するステップと、
前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するステップと、
を備える算出方法。
【請求項7】
電波を発信する親機と無線通信可能なコンピュータを、
前記親機に対してサイズの異なるパケットを、前記パケットのサイズに応じて送信間隔を変更しながら複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得する取得部、
前記取得部が取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出する増加量算出部、及び、
前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するリンク速度算出部、
として機能させる通信プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置、通信システム、算出方法及び通信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線LAN等の無線通信機器の中継装置を設置する際に、当該中継装置の設置予定位置においてスループットが十分に出ているか否かといった検証が行われている。例えば、特許文献1には、無線LANの基地局装置に対して無線LAN制御信号を送信した回数と、当該無線LAN制御信号に対する応答信号を当該親機から受信した回数とに基づいてフレームエラーレートを算出し、スループットの理論値と、フレームエラーレートとに基づいて、当該無線LANのスループットを算出する測定装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4675743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、中継装置の設置予定位置においてスループットが十分に出ているか否かといった検証を行う場合には、子機又は中継機と、親機との間で取り得るスループットのうち、理論上の最大スループットであるリンク速度を特定し、当該リンク速度に基づいて設置予定位置が中継装置の設置位置として妥当か否かを判定することが望ましい。
【0005】
リンク速度を特定する際には、例えば、ユーザが子機を持ちながら、親機の周辺を移動することにより、複数の位置におけるスループットを測定し、これらのスループットの中から最大のスループットに基づいてリンク速度を特定することが考えられる。
【0006】
しかしながら、ユーザが測定していない位置が、最大のスループットを取る位置となる可能性があり、リンク速度を精度良く特定することができないという問題がある。また、精度良くリンク速度を特定するには、測定位置を増やす必要があり、ユーザにとって煩雑であるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、複数の位置においてスループットを測定せずに親機とのリンク速度を精度良く特定することができる通信装置、通信システム、算出方法及び通信プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様に係る通信装置は、電波を発信する親機と無線通信可能な通信装置であって、前記親機に対してサイズの異なるパケットを複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得する取得部と、前記取得部が取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出する増加量算出部と、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するリンク速度算出部と、を備える。
【0009】
前記増加量算出部は、前記取得部が取得した複数の往復遅延時間のうち、それぞれのサイズのパケットに対応する最小の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出してもよい。
【0010】
前記取得部は、前記サイズがそれぞれ異なる前記パケットの組み合わせを1セットとし、複数セットのそれぞれに対応する複数の前記往復遅延時間を取得してもよい。
前記取得部は、前記パケットのサイズに応じて送信間隔を変更しながら前記パケットを前記親機に複数送信してもよい。
【0011】
前記通信装置は、前記親機の無線通信を中継する中継装置の設置候補位置において送信した所定サイズのパケットに対応する往復遅延時間が、所定の閾値以下である場合に、前記設置候補位置が前記親機に近すぎて、前記中継装置の設置位置として不適切な位置であると判定する判定部と、前記リンク速度算出部が算出した前記リンク速度から算出される実効スループットに基づいて、前記所定の閾値を更新する更新部とをさらに備えてもよい。
【0012】
本発明の第2の態様に係る通信システムは、電波を発信する親機と、当該親機と無線通信可能な通信装置とを備える通信システムであって、前記親機は、前記通信装置からパケットを受信したことに応じて、当該通信装置に応答パケットを送信し、前記通信装置は、前記親機に対してサイズの異なるパケットを複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した前記応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得する取得部と、前記取得部が取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出する増加量算出部と、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するリンク速度算出部とを有する。
【0013】
本発明の第3の態様に係る算出方法は、電波を発信する親機とのリンク速度を算出する算出方法であって、前記親機と無線通信可能な通信装置において、前記親機に対してサイズの異なるパケットを複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得するステップと、取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出するステップと、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するステップと、を備える。
【0014】
本発明の第4の態様に係る通信プログラムは、電波を発信する親機と無線通信可能なコンピュータを、前記親機に対してサイズの異なるパケットを複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、前記親機が送信した応答パケットを受信するまでの時間である往復遅延時間を取得する取得部、前記取得部が取得した複数の往復遅延時間に基づいて、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量を算出する増加量算出部、及び、前記サイズの増加量に対する前記往復遅延時間の増加量に基づいて前記親機とのリンク速度を算出するリンク速度算出部、として機能させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の位置においてスループットを測定せずに親機とのリンク速度を精度良く特定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る通信システムの概要を示す図である。
図2】本実施形態に係る通信装置の構成を示す図である。
図3】中継装置の設置位置の適否判定用の画面の一例である。
図4】中継装置の設置位置の適否判定用の画面に判定結果及び適切度が表示された例を示す図である。
図5A】実際のスループットが、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きい場合のスループット特性の例を示す図である。
図5B】実際のスループットが、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットよりも小さい場合のスループット特性の例を示す図である。
図6】RTTの要素を説明する図である。
図7】パケットに含まれるICMPデータの構成を示す図である。
図8A】取得部が送信したパケットのサイズと、当該パケットに対応して取得したRTTとの関係を表すグラフである。
図8B図8Aに、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量の算出結果に基づく直線を描画した図である。
図9】設置候補位置の適否の判定に係る処理の流れを示すフローチャートである。
図10】第3閾値の更新に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[通信システムSの概要]
図1は、本実施形態に係る通信システムSの概要を示す図である。通信システムSは、親機1と、通信装置2とを備える。通信システムSは、親機1の通信を中継する中継装置の設置候補となる位置を示す設置候補位置が、設置位置として適しているか否かを判定するシステムである。
【0018】
親機1は、電波を発信する機能を有しており、例えば無線LANのアクセスポイントである。通信装置2は、親機1と無線により通信可能な子機であり、スマートフォンやタブレット等の携帯端末である。本実施形態では、親機1が建物内に設置されており、通信装置2を持ったユーザが、当該建物内を自由に移動できることが想定されている。なお、親機1は、無線LANのアクセスポイントに有線により接続されたコンピュータであってもよい。
【0019】
通信装置2は、ユーザが設置候補位置に位置している場合に当該ユーザから所定の操作を受け付けたことに応じて、親機1に対してエコー要求を行うパケットを送信し、親機1から応答パケットを受信することにより、パケットを送信してから応答パケットを受信するまでの往復遅延時間(Round Trip Time、以下、「RTT」という。)を取得する(図1の(1))。そして、通信装置2は、取得したRTTに基づいて、設置候補位置が中継装置の設置位置として適切か否かを判定する(図1の(2))。そして、通信装置2は、判定結果を通信装置2の表示部に表示させる(図1の(3))。これにより、通信装置2のユーザは、設置候補位置が、中継装置の設置位置として適切であるかを確認することができる。
以下、通信システムSを構成する通信装置2の構成について説明する。
【0020】
[通信装置2の構成例]
図2は、本実施形態に係る通信装置2の構成を示す図である。
通信装置2は、表示部21と、入力部22と、無線部23と、記憶部24と、制御部25とを備える。
【0021】
表示部21は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等により構成される。表示部21は、例えば、制御部25の制御に応じて、中継装置の設置候補位置が、中継装置の設置位置として適切であるか否かを示す画面を表示する。
入力部22は、例えば、ボタンや、表示部21上に配置される接触センサ等により構成されており、通信装置2のユーザから操作入力を受け付ける。
【0022】
無線部23は、例えば、無線によって親機1等の外部装置と通信を行う。具体的には、無線部23は、制御部25から出力された信号を変調してRF(Radio Frequency)信号を生成し、アンテナ(不図示)を介して当該RF信号を無線送信する。無線部23は、アンテナを介して受信したRF信号を復調し、復調により得られた信号を制御部25に出力する。
【0023】
記憶部24は、例えば、ROM及びRAM等により構成される。記憶部24は、通信装置2を機能させるための各種プログラムを記憶する。例えば、記憶部24は、通信装置2の制御部25を、後述する取得部251、判定部252、適切度算出部253、表示制御部254、第2閾値算出部255、第3閾値算出部256、増加量算出部257、及びリンク速度算出部258として機能させる通信プログラムとしての速度測定用アプリケーションを記憶する。
【0024】
制御部25は、例えば、CPUにより構成される。制御部25は、記憶部24に記憶されている各種プログラムを実行することにより、通信装置2に係る機能を制御する。制御部25は、取得部251と、判定部252と、適切度算出部253と、表示制御部254と、第2閾値算出部255と、第3閾値算出部256と、増加量算出部257と、リンク速度算出部258とを備える。
【0025】
[設置候補位置の適否の判定]
取得部251、判定部252、適切度算出部253、及び表示制御部254は、協働することにより、中継装置の設置候補位置が、中継装置の設置位置として適切か否かを判定し、判定結果を表示部21に表示させる。以下、取得部251、判定部252、適切度算出部253、及び表示制御部254の、設置候補位置の適否の判定に係る処理について説明する。
【0026】
取得部251は、設置候補位置において、通信装置2が、親機1に対して所定サイズのパケットを送信し、当該パケットに対応するRTTを取得する。具体的には、まず、通信装置2のユーザは、通信装置2のメニュー(不図示)から速度測定用アプリケーションを選択し、通信装置2に速度測定用アプリケーションを実行させる。速度測定用アプリケーションが実行されたことに応じて、制御部25は、図3に示す、中継装置の設置位置の適否判定用の画面を表示部21に表示させる。
【0027】
図3に示す画面では、開始ボタンが表示されている。ユーザは、通信装置2を持ちながら中継装置の設置候補位置に移動する。そして、ユーザが、当該設置候補位置において開始ボタンを押下すると、取得部251は、ICMP(Internet Control Message Protocol)のpingを実行することにより、親機1に対してエコー要求を行うパケットを親機1に複数回送信する。親機1は、当該パケットを受信したことに応じて、応答パケットを送信する。
【0028】
取得部251は、親機1に送信した複数のパケットのそれぞれに対応する応答パケットを受信すると、例えば、応答パケットを受信した時刻から親機1に対してパケットを送信した時刻を減算することにより、複数のパケットのそれぞれに対応する複数のRTTを取得する。また、取得部251は、送信したパケットに対応する応答パケットを所定時間内に受け取らなかった場合、パケットがロスしたものとする。そして、取得部251は、通信装置2が、親機1に対して送信した複数のパケットのそれぞれに対応して応答パケットを取得できたか否かを判定することにより、パケットのロス率を取得する。
【0029】
また、取得部251は、同一の設置候補位置において取得した複数のRTTを用いて、RTTの平均値及び分散を算出する。また、取得部251は、設置候補位置における親機1の電波の強度を示す電波強度情報を取得する。
【0030】
判定部252は、所定サイズのパケットに対応する、取得部251が取得したRTTに基づいて、設置候補位置が設置位置として適しているか否かを判定する。具体的には、判定部252は、パケットのロス率及びRTTの平均値に基づいて、設置候補位置が親機1から遠く、中継装置の設置位置として不適切な位置であるか否かを判定する。また、判定部252は、取得部251が設置候補位置において取得した電波強度情報が示す親機1の電波強度に基づいて、設置候補位置が親機1から遠く、中継装置の設置位置として不適切な位置であるか否かを判定する。
【0031】
より具体的には、判定部252は、ロス率が、予め定められた第1閾値以上、RTTの平均値が第2閾値以上、又は親機1の電波強度が第4閾値以下である場合に、設置候補位置が親機1から遠く、設置位置として不適切な位置であると判定する。
【0032】
例えば、通信装置2が送信したパケットの個数をn、ロス率をloss(n)、第1閾値をth_loss、RTTの平均値をave(n)、第2閾値をth_ave_max、親機1の電波強度をrssi、第4閾値をth_rssi_minとした場合に、判定部252は、以下の式(1)に示す条件式を満たすと、設置候補位置が親機1から遠く、中継装置の設置位置として不適切であると判定する。ここで、記号「||」は、論理和を示している。このようにすることで、通信装置2は、設置候補位置が親機1から遠すぎることをユーザに確認させることができる。なお、th_ave_maxは、所定の解像度の映像を視聴するために最低限必要とされるスループットに基づいて、第2閾値算出部255によって算出される。この算出の方法については後述する。
loss(n) ≧ th_loss || ave(n) ≧ th_ave_max|| rssi ≦ th_rssi_min ・・・(1)
【0033】
また、判定部252は、RTTの平均値に基づいて、設置候補位置が親機1に近すぎて、中継装置の設置位置として不適切な位置であるか否かを判定する。具体的には、判定部252は、設置候補位置における、所定サイズの複数のパケットの送信に対応するRTTの平均値が第3閾値以下である場合に、当該設置候補位置が親機1に近すぎて、中継装置の設置位置として不適切な位置であると判定する。
【0034】
また、判定部252は、取得部251が取得した分散に基づいて、設置候補位置が親機1に近すぎて、設置位置として不適切な位置であるか否かを判定する。具体的には、設置候補位置が親機1に近い場合、設置候補位置が親機1から遠い場合に比べて親機1の電波強度が強いことから、通信の遅延が生じにくく、RTTのばらつきが少なくなる。そこで、判定部252は、設置候補位置におけるRTTの分散が、第5閾値以下である場合に、当該設置候補位置が親機1に近すぎて、中継装置の設置位置として不適切な位置であると判定する。
【0035】
また、判定部252は、取得部251が設置候補位置において取得した電波強度情報が示す親機1の電波強度に基づいて、設置候補位置が親機1に近すぎて、中継装置の設置位置として不適切な位置であるか否かを判定する。具体的には、判定部252は、親機1の電波強度が、第4閾値よりも大きい第6閾値以上である場合に、設置候補位置が親機1に近すぎて、中継装置の設置位置として不適切な位置であるか否かを判定する。
【0036】
例えば、第3閾値をth_ave_min、RTTの分散をvar(n)、第5閾値をth_var、第6閾値をth_rssi_maxとした場合に、判定部252は、以下の式(2)に示す条件式を満たすと、設置候補位置が親機1に近すぎて中継装置の設置位置として不適切であると判定する。このようにすることで、通信装置2は、設置候補位置が親機1に近すぎることをユーザに確認させることができる。なお、th_ave_min及びth_varは、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットに基づいて、第3閾値算出部256によって算出される。th_ave_minの算出の方法については後述する。
ave(n) ≦ th_ave_min || var(n) ≦ th_var || rssi ≧ th_rssi_max ・・・(2)
【0037】
また、判定部252は、上述の式(1)及び式(2)のいずれの条件式も満たさない場合、設置候補位置が、中継装置の設置位置として適切な位置であると判定する。
ここで、通信装置2のユーザが、最適な設置候補位置を選択するために、通信装置2を持ちながら移動することが考えられる。このため、判定部252は、定期的(例えば1秒おき)に、取得部251が取得したRTTに基づいて、設置候補位置が設置位置として適しているか否かを判定する。例えば、判定部252は、通信装置2が同一の場所に位置している場合に、取得部251が当該同一の場所において過去n秒間に取得した複数のRTTの平均値を算出し、当該統計値が第2閾値以上である場合に、設置候補位置が親機1から遠く、設置候補位置が不適切な位置であると判定してもよい。
【0038】
この場合、通信装置2は、自身にかかる加速度を検出する加速度検出部(不図示)や、自身の位置を検出する位置検出部(不図示)を備えておき、判定部252は、加速度検出部が検出した加速度、及び位置検出部が検出した通信装置2の位置の少なくともいずれかに基づいて、通信装置2が同一の設置候補位置に位置しているか否かを判定してもよい。このようにすることで、判定部252は、同一の位置において過去n秒間に取得した多くのRTTに基づいて平均値を算出するので、当該同一の位置における電波状況を多く反映した平均値を算出することができる。
【0039】
適切度算出部253は、設置候補位置が設置位置として適していると判定部252が判定した場合に、RTT、所定解像度の映像を視聴するために最低限必要とされるスループット、当該映像を視聴するために十分とされるスループット、及びパケットのサイズとに基づいて、設置候補位置の、設置位置としての適切度を算出する。
【0040】
具体的には、適切度をGAUGE(n)とすると、適切度算出部253は、以下の式(3)に基づいて適切度を算出する。ここで、ave(n)は、th_ave_minよりも大きく、th_ave_maxよりも小さいことから、式(3)において、適切度は、0よりも大きく、1よりも小さい値となる。ここで、適切度が0.5に近ければ近いほど、設置候補位置が適切であることを示すものとする。また、適切度が0に近ければ近いほど、設置候補位置が親機1に近いことを示し、1に近ければ近いほど、設置候補位置が親機1から遠いことを示している。
GAUGE(n) = (ave(n) - th_ave_min) / (th_ave_max - th_ave_min)・・・(3)
なお、適切度算出部253は、取得部251が設置候補位置において取得した親機1の電波強度に基づいて、設置候補位置の設置位置としての適切度を算出してもよい。
【0041】
表示制御部254は、判定部252による判定結果、及び適切度算出部253による適切度を示す情報を表示部21に表示させる。具体的には、表示制御部254は、図3に示す、表示部21に表示されている中継装置の設置位置の適否判定用の画面に対して、判定結果及び適切度を表示させる。
【0042】
図4は、中継装置の設置位置の適否判定用の画面に、判定結果及び適切度が表示された例を示す図である。図4に示すように、適否判定用の画面には、中継装置の設置候補位置が、設置位置として近すぎるか、適切か、遠すぎるかを分類する第1領域221、第2領域222及び第3領域223が表示されている。また、適否判定用の画面には、停止ボタンが表示されており、この停止ボタンがユーザによって押下されると、取得部251がパケットの送信を停止するとともに、判定部252が判定を停止する。
【0043】
表示制御部254は、判定結果及び適切度をインジケータ220で示す。具体的には、表示制御部254は、判定結果が適切であることを示している場合、インジケータを第2領域222に表示させる。ここで、表示制御部254は、第1領域221と第2領域222との境界線に対応する横軸上の座標を、適切度「0」に対応する座標Xminとし、第2領域222と第3領域223との境界線に対応する横軸上の座標を、適切度「1」に対応する座標Xmaxとする。そして、表示制御部254は、適切度算出部253が算出した適切度に対応する横軸上の座標Xgaugeを以下の式(4)に基づいて算出し、当該座標Xgaugeにインジケータ220を表示させる。
Xgauge = Xmin + (Xmax - Xmin)*(1 - GAUGE(n)) ・・・(4)
【0044】
また、表示制御部254は、判定結果が親機1に近すぎることを示している場合、インジケータ220を第1領域221に表示させる。また、表示制御部254は、判定結果が親機1から遠すぎることを示している場合、インジケータ220を第3領域223に表示させる。
【0045】
ここで、判定部252が、設置候補位置が設置位置として適しているか否かを定期的に判定することから、表示制御部254は、当該判定の結果に基づいて、定期的にインジケータ220を再描画する。これにより、通信装置2のユーザは、インジケータ220の位置を確認しながら、設置候補位置のうち、最適と考えられる設置候補位置を選択することができる。
【0046】
[第2閾値及び第3閾値の算出]
第2閾値算出部255及び第3閾値算出部256は、それぞれ、第2閾値及び第3閾値を算出する。以下、第2閾値及び第3閾値を算出する処理について説明する。
【0047】
第2閾値算出部255は、所定の解像度の映像を視聴するために最低限必要とされるスループットと、パケットのサイズとに基づいて、当該映像を視聴するために最低限必要とされるRTTを第2閾値として算出する。
【0048】
最低限必要とされるスループットをth_min[Mbit/sec]、通信装置2が親機1に対して送信するパケットのサイズをD[byte]とすると、第2閾値th_ave_max[msec]は、以下の式(5)で求められる。例えば、最低限必要とされるスループットが6Mbps、パケットのサイズが56500byteである場合、第2閾値th_ave_maxは、150.6msecと求められる。
th_ave_max=D * 8 * 2 / th_min / 1000・・・(5)
【0049】
第3閾値算出部256は、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットと、パケットのサイズとに基づいて、当該映像を視聴するために十分とされるRTTを第3閾値として算出する。
【0050】
十分とされるスループットをth_max[Mbit/sec]、通信装置2が親機1に対して送信するパケットのサイズをD[byte]とすると、第3閾値th_ave_min[msec]は、以下の式(6)で求められる。例えば、十分とされるスループットが40Mbps、パケットのサイズが56500byteである場合、第3閾値th_ave_minは、22.6msecと求められる。
th_ave_min=D * 8 * 2 / th_max / 1000・・・(6)
【0051】
[第3閾値の更新]
ここで、無線通信において用いる無線LANの仕様や、子機のスペックによっては、実際のスループットが、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きかったり、小さかったりすることがある。
【0052】
図5Aは、実際のスループットが、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きい場合のスループット特性の例を示す図である。図5Bは、実際のスループットが、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットよりも小さい場合のスループット特性の例を示す図である。図5A及び図5Bに示す例では、横軸に、通信装置2が親機1から受信する電波の電波強度を示し、縦軸に、通信装置2が当該電波強度の電波を受信した位置における実際のスループットを示す。
【0053】
例えば、所定の解像度の映像を視聴するために十分とされるスループットが40Mps、当該映像を視聴するために最低限必要とされるスループットが6Mbpsである場合、図5Aに示すスループット特性では、設置候補位置が親機1に近すぎると判定される電波強度の範囲が、約−75dBm以上となり、通信装置2が親機1から遠い位置であっても親機1に近すぎると判定されてしまう。また、図5Aに示すスループット特性では、設置候補位置が設置位置として適切と判定される電波強度の範囲が、約−75dBmから約−80dBmまでの範囲に限られ、適切と判定されるエリアが限られるという問題がある。
【0054】
また、図5Bでは、設置候補位置が親機1に近すぎると判定される電波強度の範囲が存在せず、設置候補位置が設置位置として適切と判定される電波強度の範囲が、約−85dBm以上となる。これにより、通信装置2が親機1に近い位置であっても設置位置として適切と判定されてしまう。
【0055】
これに対して、通信装置2では、親機に対してサイズの異なるパケットを複数送信し、複数のパケットに対応するRTTを取得する。そして、第3閾値算出部256は、更新部として機能し、当該RTTに基づいて第3閾値を更新する。具体的には、第3閾値の更新は、取得部251、増加量算出部257、リンク速度算出部258及び第3閾値算出部256が協働することにより行われる。以下に、第3閾値の更新に係る処理について説明する。
【0056】
取得部251は、同一位置において、親機1に対してサイズの異なるパケットを複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応して、当該パケットを送信してから、親機1が送信した応答パケットを受信するまでの時間であるRTTを取得する。
【0057】
具体的には、まず、通信装置2のユーザは、通信装置2に速度測定用アプリケーションを実行させた後、所定の操作を行い、第3閾値を設定するための設定画面(不図示)を表示させる。この設定画面には、開始ボタンが表示されている。ユーザが、通信装置2が親機1と通信可能な範囲の任意の位置において開始ボタンを押下すると、取得部251は、当該位置においてICMPのpingを実行して、サイズの異なる複数のパケットの親機1への送信を開始する。そして、取得部251は、親機1に送信した複数のパケットのそれぞれに対応する複数のRTTを取得する。
【0058】
例えば、取得部251は、pingを実行する間隔を100msとし、1バイトから65000バイトまで1バイトずつパケットのサイズを増加させながらpingを実行する。
なお、取得部251は、サイズがそれぞれ異なるパケットの組み合わせを1セットとし、複数セットのそれぞれに対応する複数のRTTを取得してもよい。
【0059】
ここで、パケットの送信間隔が短すぎる場合には、単位時間あたりに送信するデータ量が増えすぎ、親機1に設けられているバッファがオーバフローしてしまい、パケットロスが発生する確率が高くなるという問題がある。そこで、取得部251は、パケットのサイズに応じて送信間隔を変更しながらパケットを親機1に送信してもよい。例えば、取得部251は、パケットのサイズが大きい場合には送信間隔を長くしてもよい。このようにすることで、パケットロスが発生する確率を低くし、取得部251が小さい値のRTTを取得する確率を高めることができる。
【0060】
増加量算出部257は、取得部251が取得した複数のRTTに基づいて、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量を算出する。具体的には、増加量算出部257は、取得部251が取得した複数のRTTのうち、それぞれのサイズのパケットに対応する最小のRTTに基づいて、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量(Δmin.RTT / ΔDicmpdata)を算出する。増加量算出部257は、例えば、最小二乗法を用いて、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量を算出する。
【0061】
リンク速度算出部258は、増加量算出部257が算出した、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量に基づいて親機1とのリンク速度を算出する。ここで、リンク速度は、親機1と、通信装置2との間のスループットの理論上の最大値である。
【0062】
ここで、無線通信によってパケットを送受信する際のRTTは、図6に示すように、親機1及び通信装置2における送信待ち(キャリアビジー)時間、ICMPのロード時間(ICMP load)、送信キューの待ち時間、フレーム間スペースとしてのDIFS(DCF Inter Frame Space)及びSIFS(Short Inter Frame Space)、バックオフ時間BO(Backoff)、データフレームの送信時間、ACKの送信時間、及びパケットロスに伴うパケットの再送時間から構成されている。
【0063】
送信待ち時間、ICMPのロード時間、送信キューの待ち時間を、それぞれTcb、Ticmp、Tqueuingとし、DIFS、BO、データフレーム、SIFS、ACKの通信にかかる時間を、それぞれTdifs、Tbo、Tdata、Tsifs、Tackとし、パケットロスに伴う再送の時間をTretransとすると、RTTは、以下の式(7)で表される。
RTT = 2Tcb + 2Tdifs + 2Tbo + 2Tdata + 2Tsifs + 2Tack
+ Tretrans + Ticmp + Tqueing・・・(7)
【0064】
ここで、RTTが最小値min.RTTとなるのは、送信待ち時間、送信キューの待ち時間、再送の時間、及びバックオフ時間BOが発生しない時であることから、min.RTTは、以下の式(8)で表される。
min.RTT = 2Tdifs + 2Tdata + 2Tsifs + 2Tack + Ticmp・・・(8)
【0065】
データフレームは、図7に示すように、物理ヘッダと、PLCP SDU(Physical Layer Convergence Protocol Service Data Unit)とから構成される。そして、物理ヘッダは、PLCPプリアンブル、及びPLCPヘッダから構成され、PLCP SDUは、802.11ヘッダ、IPヘッダ、ICMPヘッダ、ICMPデータ、及びFCS(Frame Check Sequence)から構成される。ここで、ICMPデータのサイズは、取得部251が指定するパケットのサイズに対応している。
【0066】
PLCPプリアンブル、及びPLCPヘッダに係る通信時間をそれぞれTplcppreamble、Tplcpheaderとし、802.11ヘッダ、IPヘッダ、ICMPヘッダ、ICMPデータ、及びFCSに係るデータ量をそれぞれ、D8011header、Dipheader、Dicmpheader、Dicmpdata、Dfcsとし、PLCPのリンク速度をBとすると、RTTの最小値min.RTTは、以下の式(9)で表される。
min.RTT = 2Tdifs + 2Tdata + 2Tsifs + 2Tack + Ticmp
= 2Tdifs + 2(Tplcppreamble + Tplcpheader)
+ 2 * 8 / B(D8011header + Dipheader + Dicmpheader + Dicmpdata + Dfcs)
+ 2Tsifs + 2Tack + Ticmp・・・(9)
【0067】
ここで、ICMPデータ以外のデータのサイズは固定値をとることから、式(9)は、式(10)に変換することができる。
min.RTT = 16 / B * Dicmpdata + Const・・・(10)
【0068】
式(10)より、RTTの最小値は、パケット(ICMPデータ)のサイズと比例関係にあることが確認できる。ここで、図8Aに、取得部251が送信したパケットのサイズと、当該パケットに対応して取得したRTTとの関係を表すグラフを示す。図8Aからも、パケットのサイズと、当該パケットのサイズに対応するRTTの最小値は、比例関係にあることが確認できる。したがって、パケットのサイズの増加量に対するRTTの最小値の増加量に基づいて、リンク速度を算出することができる。具体的には、パケットのサイズの増加量を△Dicmpdata、RTTの最小値の増加量をΔmin.RTTとすると、リンク速度Bは、以下の式(11)で求められる。
B=16 / (Δmin.RTT / ΔDicmpdata)・・・(11)
【0069】
図8Bは、図8Aに、増加量算出部257が算出した、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量の算出結果に基づく直線Lを描画した図である。図8Bに示すように、RTTの最小値に対応して直線Lが描画されていることが確認できる。リンク速度算出部258は、式(11)に基づいて親機とのリンク速度を算出する。
【0070】
ここで、リンク速度から算出される実効スループットの最大値が映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きい場合、通信装置2に対応するスループット特性は、図5Aに示すものとなり、設置候補位置が親機1に近すぎると判定される範囲が広くなるとともに、設置位置として適切と判定される範囲が限定される。ここで、実効スループットの最大値が、例えばリンク速度の70%程度となる場合、第3閾値算出部256は、リンク速度に0.7を乗算した値を実効スループットの最大値とみなす。
【0071】
第3閾値算出部256は、実効スループットの最大値が映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きい場合に、第3閾値を、当該第3閾値よりも低い値に更新する。具体的には、第3閾値算出部256は、実効スループットの最大値が映像を視聴するために十分とされるスループットよりも所定割合以上(例えば、第3閾値の120%)である場合に、式(6)に示すth_maxに実効スループットの最大値を適用して第3閾値を更新する。このようにすることで、設置候補位置が設置位置として適切と判定される範囲を広げることができる。
【0072】
また、実効スループットの最大値が映像を視聴するために十分とされるスループットよりも小さい場合、通信装置2に対応するスループット特性は、図5Bに示すものとなり、設置候補位置が適切と判定される範囲が広くなる。
【0073】
そこで、第3閾値算出部256は、実効スループットの最大値が映像を視聴するために十分とされるスループットよりも小さい場合に、第3閾値を、当該第3閾値よりも高い値に更新してもよい。具体的には、第3閾値算出部256は、実効スループットの最大値が映像を視聴するために十分とされるスループットよりも所定割合未満(例えば、第3閾値の80%)である場合に、当該第3閾値を、元の値よりも大きい値に更新する。このようにすることで、設置候補位置が設置位置として適切と判定される範囲を狭くすることができる。
【0074】
[設置候補位置の適否の判定に係るフローチャート]
続いて、通信装置2における処理の流れについて説明する。まず、設置候補位置の適否の判定に係る処理の流れについて説明する。図9は、設置候補位置の適否の判定に係る処理の流れを示すフローチャートである。ここで、判定部252の判定間隔はT秒であるものとする。
【0075】
まず、取得部251は、開始操作を受け付けたか否かを判定する(S1)。具体的には、取得部251は、図3に示す中継装置の設置位置の適否判定用の画面において開始ボタンが押下されたか否かを判定する。取得部251は、開始ボタンが押下されたと判定すると、S2に処理を移し、開始ボタンが押下されていないと判定すると、S1を再実行する。
【0076】
続いて、取得部251は、ICMPのpingを実行して親機1に対してパケットを送信する(S2)。ここで、取得部251は、T秒よりも短い時間ごと(例えば、数十ミリ秒ごと)にパケットの送信を行う。これにより、取得部251は、親機1に対して複数のパケットを送信する。続いて、取得部251は、パケットの送信を開始してから、T秒経過したか否かを判定する(S3)。取得部251は、T秒経過したと判定すると、S4に処理を移し、T秒経過していないと判定すると、S2に処理を移す。
【0077】
続いて、取得部251は、S2において送信されたパケットに対応する複数のRTTを取得する(S4)。ここで、取得部251は、T秒間に送信したパケットに対応する複数のRTTに基づいてRTT平均値及び分散を算出するとともに、パケットのロス率を算出する。
【0078】
続いて、判定部252は、パケットのロス率及びRTTに基づいて、設置候補位置が親機1から遠すぎるか否かを判定する(S5)。具体的には、判定部252は、式(1)に示す条件式を満たすか否か判定を行う。判定部252は、当該条件式を満たすと、設置候補位置が親機1から遠すぎると判定し、S6に処理を移す。その後、表示制御部254は、S6において、インジケータ220を第3領域223に表示させる。その後、表示制御部254は、S11に処理を移す。
【0079】
また、判定部252は、S5において、設置候補位置が親機1から遠すぎないと判定した場合、S7に処理を移す。そして、判定部252は、S7において、RTTの平均値及びRTTの分散に基づいて、設置候補位置が親機1に近すぎるか否かを判定する。具体的には、判定部252は、式(2)に示す条件式を満たすか否かを判定する。判定部252は、当該条件式を満たすと、設置候補位置が親機1に近すぎると判定し、S8に処理を移す。その後、表示制御部254は、S8においてインジケータ220を第1領域221に表示させる。その後、表示制御部254は、S11に処理を移す。
【0080】
また、判定部252は、S7において、設置候補位置が親機1に近すぎないと判定すると、設置候補位置が適切な位置にあると判定し、S9に処理を移す。適切度算出部253は、S9において、設置候補位置の適切度を算出する。
【0081】
続いて、表示制御部254は、S10において算出された適切度に基づいてインジケータ220を第2領域222に表示させる。その後、表示制御部254は、S11に処理を移す。
【0082】
S11において、取得部251は、設置位置の適否判定の停止操作を受け付けたか否かを判定する。具体的には、取得部251は、図4に示す中継装置の設置位置の適否判定用の画面において停止ボタンが押下されたか否かを判定する。取得部251は、停止ボタンが押下されたと判定すると、本フローチャートに係る処理を終了し、停止ボタンが押下されていないと判定すると、S2に処理を移す。
【0083】
[第3閾値の更新に係るフローチャート]
続いて、第3閾値の更新に係る処理の流れについて説明する。図10は、第3閾値の更新に係る処理の流れを示すフローチャートである。
【0084】
まず、取得部251は、第3閾値を設定するための設定画面において開始操作を受け付けたか否かを判定する(S21)。取得部251は、開始操作を受け付けたと判定すると、S22に処理を移し、開始操作を受け付けていないと判定すると、S21を再実行する。
【0085】
続いて、取得部251は、サイズがそれぞれ異なる複数のパケットを送信し(S22)、複数のパケットのそれぞれに対応するRTTを取得する(S23)。続いて、取得部251は、S22における複数のパケットの送信を予め定められた回数(N回)行ったか否かを判定する(S24)。取得部251は、複数のパケットの送信をN回行ったと判定するとS25に処理を移し、所定期間が経過していないと判定すると、S22に処理を移す。
【0086】
続いて、増加量算出部257は、それぞれのサイズのパケットに対応する最小のRTTに基づいて、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量を算出する(S25)。
続いて、リンク速度算出部258は、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量に基づいて親機1とのリンク速度を算出する(S26)。
【0087】
続いて、第3閾値算出部256は、リンク速度算出部258が測定したリンク速度に基づいて実効スループットの最大値を算出する(S27)。
続いて、第3閾値算出部256は、S27において算出した実効スループットの最大値が、映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きいか否かを判定する(S28)。第3閾値算出部256は、実効スループットの最大値が、映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きいと判定すると、S29に処理を移し、第3閾値を当該第3閾値よりも低い値に更新する。また、第3閾値算出部256は、実効スループットの最大値が、映像を視聴するために十分とされるスループット以下であると判定すると、本フローチャートの処理を終了する。第3閾値算出部256は、実効スループットの最大値が、映像を視聴するために十分とされるスループット以下である場合に、第3閾値を元の値よりも大きい値に更新してもよい。
【0088】
[本実施形態における効果]
以上のとおり、本実施形態に係る通信システムSでは、通信装置2が、親機1とのRTTを取得し、当該RTTに基づいて、設置候補位置が中継装置の設置位置として適しているか否かを判定する。ここで、通信装置2は、ICMPのpingを使用してRTTを取得し、当該RTTに基づいて上記判定を行うことから、スマートフォン等の携帯端末を通信装置2として用いることができる。よって、通信システムSでは、専用の通信装置を用いることなく中継装置の設置候補位置が設置位置として適しているか否かを判定することができる。
【0089】
また、通信装置2は、親機1に対してサイズの異なるパケットを複数送信し、複数のパケットのそれぞれに対応してRTTを取得し、当該複数のRTTに基づいて算出したパケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量に基づいて親機1とのリンク速度を算出する。このように、通信装置2は、複数のパケットのそれぞれに対応した複数のRTTに基づいてリンク速度を算出するので、複数の位置においてスループットを測定せずに親機とのリンク速度を精度良く特定することができる。
【0090】
また、通信装置2は、サイズがそれぞれ異なるパケットの組み合わせを1セットとし、複数セットのそれぞれに対応する複数のRTTを取得するので、同一サイズのパケットによるRTTを複数取得することができる。これにより、通信装置2は、同一サイズのRTTの中からロスが最も少ないRTTを選択することができ、当該RTTに基づいて精度良くリンク速度を算出することができる。
【0091】
また、通信装置2は、実効スループットの最大値が、映像を視聴するために十分とされるスループットよりも大きい場合又は十分とされるスループット以下である場合に、第3閾値を実効スループットの最大値に基づいて更新するので、設置候補位置が設置位置として適切と判定される範囲が狭い場合、又は設置候補位置が設置位置として適切と判定される範囲が広すぎる場合に、当該範囲を調整することができる。
【0092】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。特に、装置の分散・統合の具体的な実施形態は以上に図示するものに限られず、その全部又は一部について、種々の付加等に応じて、又は、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【0093】
例えば、上述の実施形態では、設置候補位置の適否の判定と、第3閾値の設定とをそれぞれ別に行うこととしたが、これに限らない。例えば、通信装置2は、設置候補位置の適否の判定と、第3閾値の設定とをそれぞれ並行して行ってもよい。
【0094】
具体的には、取得部251は、パケットのサイズを1400バイトとしてpingを100回実行してRTTを取得し、その後、pingにおいて送信するパケットのサイズを32バイトとしてpingを100回実行してRTTを取得する。なお、パケットのサイズ及びpingの実行回数は、上述した回数に限定されるものではない。
【0095】
そして、判定部252は、パケットのサイズを1400バイトとした場合のRTTに基づいて、設置候補位置が設置位置として適しているか否かを判定する。
また、増加量算出部257は、パケットのサイズを1400バイトとした場合のRTTと、パケットのサイズを32バイトとした場合のRTTとに基づいてRTTの増加量を算出し、リンク速度算出部258は、増加量算出部257が算出した、パケットのサイズの増加量に対するRTTの増加量に基づいて親機1とのリンク速度を算出する。そして、第3閾値算出部256は、当該リンク速度に基づいて実効スループットの最大値を算出し、当該実効スループットの最大値に基づいて第3閾値を更新する。
【0096】
通信装置2は、これら取得部251、判定部252、増加量算出部257、リンク速度算出部258、第3閾値算出部256の処理を繰り返し行うことにより、設置候補位置の適否の判定と、第3閾値の設定とをそれぞれ並行して、リアルタイムに行ってもよい。このようにすることで、第3閾値がリアルタイムに更新され、設置候補位置が設置位置として適しているか否かを精度よく判定することができる。
【0097】
また、上述の実施形態では、RTTの平均値に基づいて、判定部252が、設置候補位置が中継装置の設置位置として適切か否かを判定したり、第3閾値算出部256が、第3閾値の更新を行ったりしたが、これに限らない。例えば、取得部251が、RTTの中央値や最小値といったRTTの統計値を取得してもよい。そして、判定部252が、当該統計値に基づいて設置候補位置が中継装置の設置位置として適切か否かを判定したり、第3閾値算出部256が、当該統計値に基づいて第3閾値の更新を行ったりしてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1・・・親機、2・・・通信装置、21・・・表示部、22・・・入力部、23・・・通信部、24・・・記憶部、25・・・制御部、251・・・取得部、252・・・判定部、253・・・適切度算出部、254・・・表示制御部、255・・・第2閾値算出部、256・・・第3閾値算出部、257・・・増加量算出部、258・・・リンク速度算出部、3・・・子機、S・・・通信システム
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10