(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
〔実施形態〕
本発明は、例えば、適当な二酸化塩素ガス発生装置を使用して実施することができる。
本発明に適用可能な二酸化塩素ガス発生装置としては、大型の据え置き型の装置、小型の設置式の装置、小型携帯式の装置、あるいはゲルに発生用試薬を充填もしくは乾燥試薬を混合して半自動的に低濃度の二酸化塩素ガスを長期間発生するような器具が例示される。しかし、これらに限らず、例えば、随時、口腔内に低濃度の二酸化塩素ガスを吸入して使用するような装置を用いても良い。
当該二酸化塩素ガス発生装置は、反応槽、薬液を貯留可能な薬液タンク・液体ポンプ・空気ポンプ・希釈器等を備えて構成される。
【0027】
薬液タンクは2種類存在し、それぞれの薬液タンクに亜塩素酸塩水溶液及び酸を収容する。使用可能な亜塩素酸塩としては、亜塩素酸アルカリ金属塩(亜塩素酸ナトリウム・亜塩素酸カリウム・亜塩素酸リチウム等)、又は、亜塩素酸アルカリ土類金属塩(亜塩素酸カルシウム・亜塩素酸マグネシウム・亜塩素酸バリウム等)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、使用可能な酸としては、塩酸・硫酸・硝酸・燐酸等の無機酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
液体ポンプは、薬液タンクに付随して備えられており、タイマーにより精密に送液制御され得る。
液体ポンプによって、2つの薬液タンクから、それぞれ所定量の亜塩素酸塩水溶液及び酸を定期的に反応槽に送り込み、混合して反応させることによって二酸化塩素ガスを発生させる。発生した二酸化塩素ガスを、希釈器によって空気ポンプから送られる一定流速の空気と混和し、所定濃度(好ましくは、0.8ppm)まで希釈する。
【0029】
希釈された二酸化塩素ガスを、浮遊ウイルスが存在し得る所望の空間に供給し、その空間における二酸化塩素ガスの濃度を、動物は生存し得るが浮遊ウイルスが失活する濃度となるように維持する。
当該濃度は、浮遊ウイルスの動物への感染を防止し得る濃度、或いは、浮遊ウイルスが感染した動物の発病を抑制し得る濃度、或いは、浮遊ウイルスが感染して発病した動物を治療し得る濃度、とすることが可能である。
具体的には、後述のマウスのインフルエンザ感染実験の結果より、当該濃度を0.05ppm〜0.1ppmとなるように維持する。
【0030】
さらに、二酸化塩素ガスの濃度は、例えば以下のように設定することが可能である。
後述のマウスのインフルエンザ感染実験では、10LD
50以上という高い濃度のウイルスを投与しマウスに感染させている。一般的に劇場のように大きな施設内でインフルエンザのような呼吸器ウイルス感染症が生ずる場合には、極めて低い濃度のウイルスが問題となる。例えば、0.02LD
50のような濃度であっても感染は起こり得る。
この時の空気中のウイルス濃度は、上述した濃度の約500分の1(10LD
50/0.02LD
50)である。そのため、インフルエンザウイルスの感染を予防するたに必要な二酸化塩素ガス濃度は0.0001ppm(0.05/500)となる。
【0031】
即ち、本発明により、前記二酸化塩素ガス発生装置によって、空間内の二酸化塩素ガス濃度を極めて低濃度(0.0001〜0.1ppm)となるように維持する。このとき、二酸化塩素ガスの濃度は、動物に対して常に安全な濃度であると共に、浮遊ウイルスに対しては、常にその活性を失活或いは感染能力を欠如させる濃度を維持することが可能となる。
【0032】
(空間)
本発明に適用し得る空間とは、例えば劇場や飛行場のロビー・事務所・教室等のヒトが出入りする空間、或いは、マウスケージ・ビニールハウス等の動物を飼育又は植物を栽培する空間、或いは、ヒトの口腔内といった空間が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではなく、閉鎖状態又は開放状態を随時とり得るような空間であるならば任意の空間に適用することが可能である。
【0033】
(浮遊ウイルス)
本発明における浮遊ウイルスとは、上記空間に浮遊し得るウイルスを意味し、例えば、インフルエンザウイルス・パラインフルエンザウイルス・ライノウイルス・鳥インフルエンザウイルス・SARSウイルス・コロナウイルス・RSウイルスといった呼吸器ウイルス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、一般に「呼吸器ウイルス」と称しないが、飛沫により呼吸器を介して二次感染する麻疹ウイルスや風疹ウイルスも本発明による予防や治療が考えられるため本発明の対象となる。
【0034】
(動物)
本発明において対象となる生物は、例えば、ヒト・家畜等の哺乳類・鳥類・爬虫類等、前記空間にて生存して浮遊ウイルスに感染する可能性を有する動物を指す。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(二酸化塩素ガス生成)
0.25%の亜塩素酸ナトリウム(NaClO
2)と0.9%の塩酸とをそれぞれ別の薬液タンクに充填しておく。これらは、それぞれのタンクに付随した液体ポンプにより、定期的に反応槽へ送られる。
亜塩素酸ナトリウムと塩酸とを混合して反応させた後に生成した二酸化塩素は、この中に空気を吹き込むことによりガスとして放出される。このとき放出された二酸化塩素ガスの濃度は約50ppmであった。放出された二酸化塩素ガスは、希釈器により一定流速の空気と混和され、低濃度に希釈される。
【0037】
本実験では、希釈後に放出された二酸化塩素ガスの濃度は0.8ppmであった。後述するように、マウスのケ−ジ内ではさらに希釈され、0.08ppmあるいはそれ以下となる。二酸化塩素ガスの濃度は、常に二酸化塩素測定器(4330−SP、米国インタースキャン社製)により測定した。
【0038】
(インフルエンザウイルスの調製)
インフルエンザウイルスは、予めA型インフルエンザウイルス株A/PR8(H1N1)を、犬腎細胞であるMDCK細胞(ATCC CCL34)を宿主として、2%牛胎仔血清を含む培地において増殖させたものを用いた。
このように増殖させたウイルスを、一旦燐酸塩緩衝液(PBS)に懸濁し、エアロゾル化して用いた。この時、懸濁したウイルスの濃度は、エアロゾルとしてマウスケ−ジ内に入れたとき、50%のマウスが死亡する濃度(LD
50)の10、100、1000倍の濃度となるようにそれぞれ調製した。
【0039】
(動物実験)
動物実験は、8週齢の雄CD−1マウスを用いて行った。このマウス15匹を一群とし、この一群を25.5cm×36.8cm×8.0cmの大きさのマウスケ−ジの中に入れた。この中へA型インフルエンザウイルスのエアロゾルを、流速12.5リットル毎分にて送気した。
この時、同時に0.8ppm濃度の二酸化塩素ガスを流速0.6〜1.8リットル毎分程度にて送気した。マウスケージ内の二酸化塩素ガスは、エアロゾルの存在により希釈される。
【0040】
本実験においては、マウスケ−ジ内の実測において二酸化塩素ガスは、0ppm、0.03ppm、0.05ppm、0.08ppmの濃度の設定が可能であったため、この4種類の濃度に於けるデータを得た。
【0041】
マウスに対してウイルスのエアロゾルを暴露する時間は15分とした。
原則として、ウイルスを含むエアロゾル導入と同時に二酸化塩素ガスの導入を行ったが、一部の実験に於いては、エアロゾル導入時よりも遅らせて二酸化塩素ガスの導入を行った。これは、後述するように、一旦、肺に入ったウイルスに対して二酸化塩素ガスが発病を防ぐか否かを確認するためである。
コントロール実験として、ウイルスを含まない燐酸塩緩衝液を用い、当該燐酸塩緩衝液のエアロゾルをマウスケ−ジ内へ導入した。
【0042】
ウイルス暴露後のマウスは、一旦一匹ずつ別個のマウスケ−ジに入れ、それぞれ隔離して2週間飼育した。この期間内において、ウイルス感染の有無とその程度(ウイルスの数)を確認するため、ウイルス暴露3〜4日目において15匹中の5匹からその肺組織を摘出した。
摘出した肺は擂り潰した後、ウイルスを分離してその量を定量した。
肺内のウイルスの定量は、肺の粉砕物を懸濁してその希釈系列を一旦作り、それを培養細胞に感染させ、TCID
50値(50%組織培養感染量)を求めることにより行った。
【0043】
一方、残りの10匹のマウスに関しては14日までその生死を観察した。この期間中、死亡した場合にはその時点において、死亡しなかった場合には14日目において、肺組織を摘出してホルマリンにて固定し、常法に従いその病理組織検査を行った。
【0044】
(二酸化塩素ガス0.08ppm同時投与)
マウスに対して1000LD
50量のウイルスのエアロゾルを15分間暴露し、それに対し二酸化塩素ガスを同時に、0.08ppm(マウスケ−ジ内の最終濃度)の濃度で投与した場合のマウスの生死を示す(表1)。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から明らかなように、0.08ppmの二酸化塩素ガスを投与したマウス群においては、マウスの死亡が明らかに遅れていることが分かる。この違いは統計学的有意差検定を行うことが出来、その有意水準(危険率)は0.0001以下であった(P<0.0001)。つまりこの違いは"統計学的に有意差あり"と認めることができた。
【0047】
次に同じ実験に関し、ウイルス暴露後3日目の各群15匹のマウスより、各群5匹のみ取り出し、その肺組織を摘出して擂り潰し、その中のウイルスを定量した(表2)
【0048】
【表2】
【0049】
表2に示すように、全肺組織中におけるウイルスの数をTCID
50値で示したとき、0ppm投与群の平均値は10
7.7、0.08ppm投与群の平均値は10
6.4であった。即ち、0.08ppmの二酸化塩素ガスを投与した群における値は、コントロール群(0ppm群)の僅か5%であった(値は指数表示である点に注意)。
【0050】
これより、二酸化塩素ガスの存在下においてウイルスの増殖が抑制されていたか、あるいは、感染時に活性を有するウイルス量が少なかったか、の何れかであると考えられる。
これらは、それぞれ、浮遊ウイルスが失活してマウス体内において殆ど増殖できない状態、或いは、浮遊ウイルスの感染能力が欠如してマウスへの感染を防止し得る状態、となっていると考えられる。
以上より、インフルエンザウイルスが1000LD
50量の濃度で存在する場合は、0.08ppmの二酸化塩素ガスを投与することにより、インフルエンザの発病に関して十分な抑制効果を示すことが判明した。
【0051】
次に、マウスに対して暴露するウイルスの濃度を変更して同様の実験を行った。
この実験では、ウイルス濃度が10LD
50(LD
50の10倍濃度)および100LD
50(LD
50の100倍濃度)のウイルスのエアロゾルを15分間マウスケ−ジに投与した。同時に0.08ppm(マウスケ−ジ内の最終濃度)の二酸化塩素ガスをマウスケ−ジに投与した。
その結果、ウイルス濃度が10LD
50のウイルス投与群では、0.08ppmの二酸化塩素ガス投与群においては、14日間でインフルエンザの発病は認められなかった(表3)。
【0052】
【表3】
【0053】
また、ウイルス暴露3日目におけるマウスの肺内におけるウイルス量は、二酸化塩素ガス投与群では明らかに少なかった(表4)。
【0054】
【表4】
【0055】
さらに、ウイルス濃度が100LD
50のウイルス投与群においても、ウイルス暴露後のインフルエンザ発病は認められず(表5)、肺内のウイルス量(表6)は、二酸化塩素ガス投与群において少なかった。
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
以上より、インフルエンザウイルスが10LD
50および100LD
50の濃度で存在する場合は、0.08ppmの二酸化塩素ガスを投与することにより、インフルエンザの発病に関して十分な抑制効果を示すことが判明した。
【0058】
(二酸化塩素ガス0.05ppm同時投与)
次に、10LD
50濃度のウイルスを投与した場合に関して、さらに低濃度(0.05ppm)の二酸化塩素を同時に投与した場合の効果を検討した。その結果、二酸化塩素ガス投与群では、インフルエンザの発症は認められず(表7)、肺内のウイルス量(表8)は少なかった。
このことから、インフルエンザウイルスが10LD
50の濃度で存在する場合は、0.05ppmの二酸化塩素ガスの同時投与によりインフルエンザの発症を抑制することが判明した。
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
(二酸化塩素ガス0.03ppm同時投与)
さらに、10LD
50濃度のウイルスを投与した場合において、同時投与する二酸化塩素ガスの濃度を0.03ppmまで下げてその効果を見た。その結果、二酸化塩素ガス投与群(0.03ppm)とコントロール群(0ppm)とでは、インフルエンザ発症数(表9)と肺内ウイルス量(表10)において大きな差は見られなかった。
【0062】
【表9】
【0063】
【表10】
【0064】
このことから、インフルエンザウイルスが10LD
50濃度で存在する場合は、0.03ppmの二酸化塩素ガスを同時投与した場合においては、マウスにおけるインフルエンザの抑制については効果のないことが分かった。
【0065】
よって、二酸化塩素ガスを同時投与する場合のインフルエンザ発病抑制効果として、ウイルス濃度が10LD
50量の場合、二酸化塩素ガスの濃度は、少なくとも0.05ppm以上で有効であることを確認した。
【0066】
以上の実験より、空間において維持する二酸化塩素ガス濃度は、例えば以下のように設定することが可能である。
一般的に劇場のように大きな施設内でインフルエンザのような呼吸器ウイルス感染症が生ずる場合には、極めて低い濃度のウイルスが問題となる。例えば、0.02LD
50のような濃度であっても感染は起こり得る。
この時の空気中のウイルス濃度は、上述した実験の約500分の1(10LD
50/0.02LD
50)である。そのため、インフルエンザウイルスの感染を予防するたに必要な二酸化塩素濃度は0.0001ppm(0.05/500)となる。従って、このように極めて低濃度の二酸化塩素濃度となるように設定した場合、インフルエンザウイルスを失活させ、感染を抑制する効果が期待される。
【0067】
(二酸化塩素ガス0.08ppm遅発投与)
次に、10LD
50の濃度のウイルス投与群に対して0.08ppmの二酸化塩素ガスを投与するタイミングを、ウイルス暴露開始時から、5分、10分、15分遅らせ、それぞれの場合について二酸化塩素ガスの効果を調べた。尚、このとき、それぞれの場合について、二酸化塩素ガスの暴露時間は15分とした。
【0068】
本実験の目的は、一旦、肺に到達しそこへ定着して増殖したウイルスに対し、遅れて投与した二酸化塩素ガスが有効にインフルエンザ発症を防ぐか否かを確認することである。即ち、インフルエンザに対し「治療」効果があるかどうかを見ることである。
結果を表11と表12に示した。
【0069】
【表11】
【0070】
【表12】
【0071】
全ウイルス量の定量結果は、ウイルス暴露後15分経過した後に二酸化塩素ガスを投与したにもかかわらず、予測される量より少ないものであった。これにより、二酸化塩素ガスの遅発投与により、インフルエンザの症状を軽減することが出来ると考えられる。
この結果は、既に呼吸器系統の組織にインフルエンザウイルスが定着して増殖した場合であっても、二酸化塩素ガスを遅れて投与することにより、インフルエンザの症状を抑制できることを示すものである。即ち、二酸化塩素ガスが、インフルエンザを発病した動物に対して治療効果を発揮し得る可能性を示唆するものである。
【0072】
(低濃度の二酸化塩素によるタンパク質変性実験)
本実施形態では、例えば0.05〜0.1ppmという極めて低濃度の二酸化塩素ガスにて、ウイルスが失活し得る、或いは、感染能力が欠如することを、マウスのインフルエンザウイルス感染実験に基づき説明した。
このような二酸化塩素の抗ウイルス効果は、以下の実験によって説明できる。
【0073】
当該実験では、酵母の酵素であるグルコース−6―リン酸デヒドロゲナーゼ(glucose-6-phosphate dehydrogenase,以下G6PDと称する)に対して、低濃度の二酸化塩素を反応させ、G6PDの酵素活性がどのように変化するかを調べた。
【0074】
二酸化塩素は、終濃度が0.1,1,10,100,1000μM(ppm濃度に換算した場合、0.007,0.07,0.7,7,70ppm)となるようにPBSバッファー(20mM sodium phosphate buffer,pH7,130mM NaCl)に溶解させた(以下、二酸化塩素溶液と称する)。G6PDは、終濃度が80μg/mLとなるように夫々の二酸化塩素溶液に溶解させた。そして、25℃で2分間反応させた。
【0075】
G6PDの酵素活性は、NADPとグルコース−6―リン酸を基質とし、分光光度計により、NADPHの吸収を見ることにより測定した。具体的な反応条件は、製造業者(シグマ社)の指示に従った。
【0076】
酵素活性の測定結果を
図1に示した。横軸の濃度はppm換算表示してある。縦軸の「比活性」は、タンパク質1mgあたりの酵素活性(unit/mg)を示している。
この結果、二酸化塩素濃度を0.07ppmとした場合は、二酸化塩素濃度が0ppmの場合と比べて酵素活性が6割程度(45/71)に低下している。
従って、0.07ppm程度の極めて低濃度の二酸化塩素であっても、酵素活性を阻害するものと認められた。これにより、本発明のように極めて低濃度の二酸化塩素の濃度範囲であっても、酵素活性を阻害するといった抗ウイルス効果を奏することが示唆される。
【0077】
(インフルエンザウイルスに対する二酸化塩素の有効性の確認実験)
インフルエンザに対する二酸化塩素の有効性を確認するため、以下に、二酸化塩素によるインフルエンザウイルスに存在する表面タンパク質の変性効果を調べた実験について説明する。
【0078】
インフルエンザウイルス粒子の表面には、ヘマグルチニン(hemagglutinin:以下HAと称する)、および、ノイラミニダーゼ(neuraminidase:以下NAと称する)という2つのタンパク質が存在する。
HAは、ウイルス感染の最初のステップ、即ちウイルスが宿主細胞表面に結合するために必要なタンパク質であり、ウイルス感染を進行させる作用がある。一方、NAは、宿主細胞中で増殖した子孫ウイルスと宿主細胞表面の結合を切断し、ウイルスを宿主細胞表面から遊離させる作用を有する。これにより、子孫ウイルスが拡散することを容易にし、ウイルス感染を拡大させることができる。
【0079】
従って、仮にHAの機能が欠損するとウイルスは感染することができなくなり、或いは、NAの機能が欠損すると、感染によって死亡する宿主細胞は最小限に抑えることができる。従って、これら二つのタンパク質のうち少なくとも一方が機能を失えば、ウイルスの感染能力が低下すると考えられる。
そこで、インフルエンザウイルスに二酸化塩素を反応させ、両タンパク質の機能がどのように変化するかを調べた。
【0080】
実験は、二酸化塩素に対する両タンパク質の変性効果を明確に調べるため、二酸化塩素の濃度範囲が2.7〜21.4ppmとなるように設定した。
二酸化塩素は、終濃度が40,80,160,240,320μM(ppm濃度に換算した場合、2.7,5.4,10.7,16.1,21.4ppm)となるようにPBSバッファーに溶解させた。インフルエンザウイルスは、終濃度が77μg/mLとなるように夫々の二酸化塩素溶液に溶解させた。その後、氷上で2分間反応させた。
反応後、公知の血液凝集反応試験により、HAの力価を測定した。測定結果を表13に示した。
【0081】
【表13】
【0082】
さらに、二酸化塩素濃度が5.4ppmの場合において、反応時間による力価の変動について調べた。測定結果を表14に示した。
【0083】
【表14】
【0084】
これより、インフルエンザウイルスに二酸化塩素を反応させた場合、HAは直ちに変性してその機能を失活することが示唆された。
【0085】
表15にNAの力価の測定結果を示した。
【0086】
【表15】
【0087】
これより、インフルエンザウイルスに二酸化塩素を反応させた場合、NAは直ちに変性してその機能を失活することが示唆された。
以上より、二酸化塩素はインフルエンザウイルスの感染能力を低下させるものと認められた。
【0088】
〔別実施形態〕
上述した実施形態では、ウイルスが存在する場所を「空間」として、劇場などのヒトが出入りする場所を例示した。しかし、これに限られるものではなく、ヒトが出入りする場所を、プール・浴場等の液中とすることが可能である。
また、対象となる生物として動物を例示したが、これに限られるものではなく、浮遊ウイルスに感染する可能性を有する植物も対象となり得る。