(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、並びに、ステップ及びステップの順序などは、一例であって本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0030】
なお、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0031】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係るマイクロ流体デバイス1の構成について、
図1〜
図4を用いて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロ流体デバイスの概略構成を示す斜視図であり、
図2は、同マイクロ流体デバイスの分解斜視図であり、
図3は、同マイクロ流体デバイスの平面図であり、
図4は、同マイクロ流体デバイスの断面図である。
【0032】
図1〜
図4に示すように、本実施の形態に係るマイクロ流体デバイス1は、反応溶液が流れる流路100を備えるデバイス(マイクロチップ)である。
【0033】
流路100は、反応溶液が一方通行的に流れる反応流路であって、少なくとも、所定の異なる温度に設定された複数の温度領域が存在する反応部110を通過するように構成されている。そして、少なくとも反応部110における流路100には、反応溶液の送液方向に沿って断面積が減少する領域が含まれている。
【0034】
反応部110は、反応溶液を反応させるための領域である。本実施の形態において、反応溶液は、試料となる標的核酸を含む溶液であり、具体的には、標的核酸と標的核酸を増幅させるための反応試薬とを含む水溶液である。したがって、本実施の形態における反応部110は核酸増幅反応部であり、反応部110では、反応溶液に含まれる標的核酸が増幅する。なお、反応溶液には、ある種のアルコールや界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0035】
このように、本実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1は、試料となる標的核酸を増幅させるための核酸増幅デバイスとして用いられている。以下、マイクロ流体デバイス1を用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応:Polymerase Chain Reaction)法を実施する場合について説明する。PCR法は、ターゲットDNAを温度サイクルにより増幅させる技術である。反応溶液(反応流体)には、ターゲットDNAの他に、PCRプライマやポリメラーゼ酵素、バッファー等が含まれている。このような反応溶液に温度サイクルを付与することで、ターゲットDNAを増幅することができる。増幅したDNAの増幅量は、反応検出機構によって検出することができる。
【0036】
核酸増幅デバイスとしてのマイクロ流体デバイス1は、標的核酸を含む反応溶液が導入される導入部(インレット)120と、導入部120に導入された反応溶液に含まれる標的核酸を増幅させるための反応部110と、反応部110で増幅された標的核酸を含む反応溶液を排出するための排出部(ドレイン)130と、標的核酸を含む反応溶液を加熱するためのヒータ部140とを備える。
【0037】
具体的には、マイクロ流体デバイス1は、第1基板10と、第2基板20と、ヒータ部140とによって構成されている。また、ヒータ部140は、設定温度が異なる第1ヒータブロック141と第2ヒータブロック142とを備える。なお、本実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1の外形は、例えば縦の長さが40mmで横の長さが20mmの略矩形状である。
【0038】
以下、マイクロ流体デバイス1の各構成部材の詳細構成について、
図1〜
図4を用いて詳述する。
【0039】
[第1基板]
図2に示すように、第1基板10は、導入部120の一部を構成する第1凹部11と、排出部130の一部を構成する第2凹部12と、流路100を構成する溝部13とを備える。第1基板10としては、例えばシリコン基板を用いることができる。
【0040】
溝部13(流路100)は、第1凹部11と第2凹部12とをつなぐように形成されている。溝部13(流路100)には反応溶液が流れる。具体的には、第1凹部11(導入部120)に反応溶液が導入されると、当該反応溶液は、第2凹部12(排出部130)に向かって溝部13(流路100)内を進行する。
【0041】
図3に示すように、流路100は、蛇行するように形成された蛇行流路であり、第1ヒータブロック141(第1温度領域)と第2ヒータブロック142(第2温度領域)とを交互に繰り返して通過するように構成されている。
【0042】
具体的に、反応部110における流路100は、ライン状の流路を所定間隔毎に折り曲げながら連続的に折り返すように(往復するように)形成されている。反応部110における流路100の折り返し回数は、例えば20〜70サイクル程度である。なお、一例として、1サイクルあたりの流路100(主流路100a)の長さは32mmとすることができる。
【0043】
本実施の形態における流路100は、所定長さのライン状の複数の主流路100aと、対向する各行の主流路100aの端部同士を接続する副流路100bとを有する。主流路100a及び副流路100bは、反応部110に設けられる。
【0044】
主流路100aは、第1ヒータブロック141と第2ヒータブロック142とを跨ぐように、第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142の長手方向に略直交させて設けられている。副流路100bは、第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142の長手方向に略平行するように設けられている。
【0045】
なお、流路100は、さらに、反応溶液を導入部120から反応部110に導くための流路である導入流路100cと、反応溶液を反応部110から排出部130までに導くための排出流路100dとを有する。
【0046】
導入流路100cの始端は、流路100全体としての入口であり、導入流路100cの終端は、反応部における流路100の入り口である。また、排出流路100dの始端は、反応部における流路100の出口であり、排出流路100dの終端は、流路100全体としての出口である。
【0047】
なお、本実施の形態において、流路100を構成する溝部13の内表面には、シリコン酸化膜が形成されている。シリコン酸化膜を形成することによって、流路100(溝部13)の壁面を親水化することができる。本実施の形態では、主流路100a、副流路100b、導入流路100c及び排出流路100dの全てにシリコン酸化膜が形成されている。
【0048】
このように構成される流路100はマイクロ流路であり、例えば断面形状は矩形状である。この場合、流路100を構成する溝部13の流路幅(溝幅)は、例えば20〜300μmであり、溝部13の深さは50〜150μmである。
【0049】
なお、溝部13の断面形状は、矩形に限らず、半円形又は逆三角形とすることができる。また、第1凹部11及び第2凹部12は、例えば円形開口の凹部とすることができる。また、第1基板10の材料はシリコンに限らず、樹脂又はガラスであってもよい。
【0050】
[第2基板]
図1に示すように、第2基板20は、第1基板10を覆う蓋部であり、第1基板10上に配置される。第2基板20としては、例えばガラス基板を用いることができる。
【0051】
図2に示すように、第2基板20には、導入部120の一部として、第2基板20を貫通する第1貫通孔21が設けられている。また、第2基板20には、排出部130の一部として、第2基板20を貫通する第2貫通孔22が設けられている。第1貫通孔21及び第2貫通孔22は、例えば円形開口を有する貫通孔である。
【0052】
第1基板10上に第2基板20を載置することによって、溝部13の開口部分が塞がれて全方位が密閉された流路100が構成される。これにより、流路100は、反応溶液の送液方向(進行方向)に垂直な断面における壁面全周が閉じられた構成となり、かつ、導入部120及び排出部130においてのみ外部空間と繋がる構成となる。このように、流路100の全方位を閉じることによって、送液中に反応溶液が揮発することを抑制できる。
【0053】
なお、第2基板20の材料はガラスに限らず、樹脂又はシリコンであってもよい。
【0054】
[ヒータ部]
図1〜
図3に示すように、ヒータ部140は少なくとも反応部110に配置されており、反応部110の流路100に送液される反応溶液は、ヒータ部140によって所定の温度が付与される。
【0055】
本実施の形態において、反応部110には、ヒータ部140として、所定の異なる温度に設定された第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142が配置される。つまり、反応部110には、第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142の2つのヒータブロックによって所定の異なる温度に設定された2つの温度領域が存在する。
【0056】
なお、第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142は、例えば直方体のアルミニウムやステンレス等の金属からなる金属ブロックを用いたヒータである。ヒータ部140としては、ヒータブロック以外に、ガラス基板上に金属薄膜を印刷等により形成した金属薄膜ヒータ等を用いることもできる。
【0057】
第1温度に設定された第1ヒータブロック141が配置された領域は、第1温度領域である。また、第2温度に設定された第2ヒータブロック142が配置された領域は、第1温度領域とは異なる温度領域である第2温度領域である。
【0058】
本実施の形態では、第1ヒータブロック141の温度が第2ヒータブロック142の温度よりも高くなるように設定されている。つまり、第1ヒータブロック141が配置された領域は高温領域であり、第2ヒータブロック142が配置された領域は低温領域である。
【0059】
高温領域である第1ヒータブロック141の温度は、例えば93℃〜98℃であり、本実施の形態では、核酸増幅反応の変性反応温度である約95℃としている。一方、低温領域である第2ヒータブロック142の温度は、例えば50℃〜75℃であり、本実施の形態では、アニール・伸長反応温度である約60℃としている。
【0060】
図3に示すように、ヒータ部140は温度制御部210に接続されている。これにより、第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142の各温度は、温度制御部210によって制御することができる。
【0061】
第1ヒータブロック141と第2ヒータブロック142とは所定の隙間をあけて並べられている。第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142の上には第1基板10が配置される。具体的には、流路100における主流路100aが第1ヒータブロック141と第2ヒータブロック142とを跨ぐようにして第1基板10がヒータ部140に載置される。これにより、流路100は、2つの温度領域を複数サイクルで往復するように構成される。
【0062】
この構成により、
図5に示すように、導入部120から反応溶液300を導入したときに、反応溶液300は、反応部110における2つの温度領域(第1ヒータブロック141及び第2ヒータブロック142)を交互に繰り返して通過するように排出部130に送液される。つまり、流路100を流れる反応溶液300に対してヒートサイクルを付与することができる。
【0063】
ここで、本発明の実施の形態に係るマイクロ流体デバイス1を用いた核酸増幅方法について、
図1〜
図4を参照しながら説明する。
【0064】
まず、
図4に示すように、ピペットを用いて反応溶液300を導入部120に注入する。本実施の形態では、標的核酸を含む反応溶液と反応試薬とを予め混合しておいた溶液を反応溶液としてマイクロ流体デバイス1の導入部120に導入している。
【0065】
導入部120に導入された反応溶液300は、流路100(導入流路100c)を通って導入部120から反応部110に送液される。
【0066】
図3に示すように、反応部110に到達した反応溶液は、第1ヒータブロック141と第2ヒータブロック142とを繰り返して往復するように主流路100a及び副流路100bを通ることになる。つまり、反応溶液は、ヒータ部140の高温領域(第1ヒータブロック141)と低温領域(第2ヒータブロック142)とを往復しながら送液されるので、加熱と冷却とが交互に繰り返されることになる。これにより、反応溶液に含まれる標的核酸は、高温領域での変性反応と低温領域でのアニール・伸長反応との繰り返しにより増幅する。このように、送液しながら反応溶液を昇降温させることができるので、非常に高速なフローPCRを実現することができる。したがって、反応溶液に含まれる標的核酸を高速に増幅させることができる。
【0067】
その後、反応溶液は、排出流路100dを通って反応部110から排出部130へと送液される。本実施の形態では、導入部120に導入された反応溶液の先端が排出部130に到達したときに、標的核酸を含む溶液(本実施形態では反応溶液)の導入部120への導入を停止させており、このときに流路100内に反応溶液が充填されることになる。なお、排出部130に到達した反応溶液は排出部130から随時排出される。
【0068】
このようにして反応溶液は流路100内を進行する。なお、本実施の形態では、流路100は、反応溶液を毛管力(キャピラリ力)により送液する毛管力運搬機構として、接触角θが鋭角である親水性表面の壁面を有する。具体的には、反応溶液300の送液方向に垂直な断面における溝部13の底部及び両側部の3つの壁面にシリコン酸化膜が形成されている。シリコン酸化膜を形成することによって溝部13の表面を親水化することができ、流路100の内壁面を親水性表面とすることができる。
【0069】
これにより、反応溶液は、気液界面に生じる毛管力によって流路100内を自送液(Self−propelled flow)されるので、流路100内の自動的に進行する。つまり、反応溶液は、自動搬送によって流路100内に送液されながら反応部110において周期的な温度変化が与えられる。
【0070】
なお、流路100の壁面の一部が親水性表面であればよいが、送液方向に垂直な断面における流路100の壁面全周が親水性表面である方がよい。この場合、第1基板10の溝部13の表面だけでなく、第2基板20の表面(内面)も親水性表面にすればよい。流路100の断面における壁面の親水性表面の割合が大きいほど、反応溶液に対する毛管力を大きくすることができる。
【0071】
ここで、流路100中の反応溶液の送液を毛管力(キャピラリ力)によって行う場合の送液速度について説明する。
【0072】
まず、流路100における毛管力を用いたキャピラリ力の理論について説明する。
【0073】
キャピラリ力を用いた溶液の送液は、駆動力であるキャピラリ力と、抵抗成分である圧力損失とのつりあいにより決定される。ここで、圧力損失P
dは、以下の(式1)で表すことができる。
【0075】
(式1)において、Qは流量、ηは溶液の粘性、lは流路長である。また、(式1)におけるD
hは、以下の(式2)で定義される水力直径であり、流路サイズや形状を反映するパラメータである。
【0077】
(式2)において、Sは流路断面積であり、Uは流路断面の外周長である。
【0078】
(式1)を、送液速度v及び流路断面積Sを用いて、さらに圧力損失係数αを導入して書き換えると、以下の(式3)で表すことができる。
【0080】
この(式3)は、ある流路に溶液を送液した場合、その圧力損失P
dは、流路長l及び送液速度vに比例することを表している。
【0081】
ここで、圧力損失P
dを示す(式3)とキャピラリ力P
cとの力のつりあい(P
d=P
c)より、キャピラリ力Pcによる送液速度vは、以下の(式4)で表すことができる。
【0083】
(式4)において、P
c/αは、流路のサイズや形状及び溶液種により決まる定数であり、ここで送液係数と定義して、キャピラリ力送液特性の指標として用いる。
【0084】
キャピラリ力P
cによる送液速度vは、この送液係数を比例定数とし、流路長l、つまり送液距離に反比例することになる。
【0085】
また、(式4)は、時間tと送液距離(流路長l)の微分方程式であるので、これを解くことにより、時間tに対する送液距離lは、以下の(式5)で表され、時間tの平方根に比例することになる。
【0087】
この送液特性を決定づける(式5)において、圧力損失係数αは、非常に大きな意味を持つパラメータである。
【0088】
ここで、キャピラリ力P
cについて詳述する。キャピラリ力P
cは、流路断面を構成する各辺における界面張力の足し合わせにより表現ですることができ、以下の(式6)で表すことができる。
【0090】
(式6)において、σは溶液の表面張力、Sは流路断面積、α
n及びθ
nはそれぞれ、流路断面を構成する辺の長さ及び接触角である。例えば、流路の断面形状が矩形である場合のキャピラリ力P
cは、以下の(式7)となる。
【0092】
ここで、w及びdは、それぞれ流路の幅及び深さであり、θ
l、θ
r、θ
t、θ
bは、それぞれ流路の左側壁面(左側面)、右側壁面(右側面)、上側壁面(上面)、下側壁面(底面)における接触角である。
【0093】
本実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1では、反応溶液が、温度の異なる領域及び形状の異なる領域を連続的に流れる。そのため、任意の温度や形状に対応できる送液理論を構築する必要がある。
【0094】
そこで、溶液(流体)が、ある流路をキャピラリ力P
cによって送液されるとし、液先端がx=lの地点にある場合を考える。キャピラリ力P
cは、送液される溶液の液先端のみが関与するので(式6)により表され、x=lにおける流路形状や温度により決定される。
【0095】
一方の圧力損失P
dは、x=0の地点からからx=lまでの地点の全ての領域が関与するので、(式3)を拡張し、以下の(式8)として考える必要がある。(式8)において、圧力損失係数αは、任意の地点xにおける温度や形状により決まる定数である。
【0097】
ここで、圧力損失P
dを示す(式8)とキャピラリ力P
cとの力のつりあい(P
d=P
c)より、フローPCRによる流路における送液速度vは、以下の(式9)により決定されると考えることができる。
【0099】
この(式9)は、右辺の分母が積分になっていることを除けば、(式4)と同じである。
【0100】
以上により、送液速度v(流速)は、キャピラリ力P
cと圧力損失係数αとによって算出することができる。
【0101】
[特徴構成及び作用効果]
次に、本発明の実施の形態に係るマイクロ流体デバイス1の特徴構成及び作用効果について、
図6A、
図6B及び
図7を用いて説明する。
図6Aは、本発明の実施の形態に係るマイクロ流体デバイスにおける流路の要部拡大平面図であり、
図3における実線で囲まれる部分Pの拡大図である。
図6Bは、
図6AのX−X’線における本発明の実施の形態に係るマイクロ流体デバイスにおける流路の断面図である。
図7は、本発明の実施の形態に係るマイクロ流体デバイスにおける反応溶液の送液時間と送液距離との依存性を示す図である。なお、
図7において、黒丸印及び黒三角印は各流路構造の実測値を示しており、また、実線及び曲線は各流路構造のシミュレーション値を示している。
【0102】
図6A及び
図6Bに示すように、本実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1では、少なくとも反応部110における流路100(主流路100a、副流路100b)には、反応溶液300の送液方向に沿って断面積が減少する領域が含まれている。
【0103】
本実施の形態において、断面積が減少する領域における流路100は、流路断面積が単調減少するように構成されている。具体的には、断面積が減少する領域における流路100は、流路100の幅が先細りテーパ状であり、かつ、送液方向に沿って流路100の深さが一定である先細りテーパ構造となっている。つまり、流路100の上流から下流にかけて流路100の幅が漸次減少するように構成されている。
【0104】
このように構成される流路100は、
図7に示すように、反応溶液の送液時間に対する反応溶液の送液距離は比例している(
図7の「本発明」)。つまり、反応溶液の送液速度を一定に保つことができる。なお、
図7では、「本発明」の先細りテーパ流路として、深さが一定の150μmで、幅が300μmから20μmに漸次減少する流路を用いている。
【0105】
一方、流路断面積が一定である従来の流路(
図7の「従来例」)では、
図7に示すように、反応溶液の送液速度が一定ではなく、単位時間当たりの送液距離が徐々に短くなっていることが分かる。なお、
図7では、「従来例」の単純直線流路として、深さ及び幅がいずれも一定の150μmの流路を用いている。
【0106】
このように、流路100の構造設計によって反応溶液の流速を制御でき、反応溶液の送液速度を一定できることが分かる。なお、
図7に示すように、本発明も従来例もシミュレーション値と実測値とが概ね一致していることが分かる。
【0107】
以上、本実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1によれば、少なくとも反応部110における流路100には、反応溶液の送液方向に沿って断面積が減少する領域が含まれている。
【0108】
これにより、流路100内に流れる反応溶液の送液速度を所望に制御して反応溶液の送液速度を一定に保つことができる。このため、第1温度領域及び第2温度領域の各温度領域における反応溶液の存在時間を一定に保つことができる。したがって、反応溶液の反応効率を向上させることができる。
【0109】
特に、本実施の形態では、流路100をテーパ構造としているので、流路100の断面積が単調減少している。これにより、圧力損失及びキャピラリ力を連続的に変化させることができるので、反応溶液の送液速度をより一定に保つことができる。
【0110】
また、本実施の形態において、流路100の断面積が減少する領域は、反応部110における流路100の全体領域としている。つまり、反応部110の流路100の入口から出口にかけて漸次断面積を減少させている。本実施の形態では、流路100の幅を漸次小さくしている。但し、反応部100における流路100の全域で断面積を減少させなくてもよく、流路100の一部の領域の断面積を小さくする場合であっても、反応溶液の送液速度を所望に制御することができ、反応溶液の送液速度を一定に保つことができる。また、流路長さに対する流路幅の減少率は、例えば0.05μm/mm〜0.2μm/mm程度とすることができる。
図7の「本発明」では、ほぼ0.1μm/mmとしている。
【0111】
また、本実施の形態では、反応溶液として標的核酸を含む溶液を用いており、流路100が第1温度領域と第2温度領域とを交互に繰り返して通過するように構成されている。したがって、一定の送液速度とすることで反応溶液の反応効率を向上するので、高効率のフローPCRを実現することができる。つまり、高効率の核酸増幅を実現できる。
【0112】
また、本実施の形態では、流路100の断面積が減少する領域において、流路100の深さが一定となっている。これにより、エッチング等によって流路100を容易に作製することができる。さらに、流路100の深さを一定にすることによって、流路100の上方からレーザ光をスキャンして光学測定を行う際に測定光の光路長を一定に保つことができるので、測定精度を向上させることができる。例えば、核酸の増幅量を精度よく算出することができる。
【0113】
また、本実施の形態では、反応溶液は毛管力によって流路100に送液されるので、シリンジポンプ等の外部ポンプを用いることなく反応溶液を流路100内に進行させることができる。したがって、反応溶液を低コストかつ簡便に行うことができる。例えば、反応溶液として標的核酸を含む溶液を用いる場合、標的核酸の核酸増幅を低コストかつ簡便に行うことができる。
【0114】
(変形例)
以下、上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイスの変形例について説明する。
【0115】
(変形例1)
図8Aは、本発明の変形例1に係るマイクロ流体デバイスにおける流路の要部拡大平面図であり、
図8Bは、
図8AのX−X’線における本発明の変形例1に係るマイクロ流体デバイスにおける流路の断面図である。
【0116】
本変形例におけるマイクロ流体デバイスは、上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と同様に、反応部110における流路100には、反応溶液300の送液方向に沿って断面積が減少する領域が含まれている。
【0117】
本変形例におけるマイクロ流体デバイスが上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と異なる点は、上記実施の形態では、深さを一定とし幅を漸次減少させることで流路100のテーパ構造を構成したのに対して、本変形例では、幅を一定とし深さを漸次減少させることで流路100のテーパ構造を実現している。
【0118】
具体的には、
図8A及び
図8Bに示すように、流路100は、送液方向に沿って深さが先細りテーパ状であり、かつ、幅が一定である。
【0119】
以上、本変形例におけるマイクロ流体デバイスによれば、上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と同様に、反応溶液300の送液方向に沿って断面積が減少する領域が含まれている。
【0120】
これにより、流路100内に流れる反応溶液300の送液速度を一定に保つことができるので、第1温度領域及び第2温度領域の各温度領域における反応溶液300の存在時間を一定に保つことができる。したがって、反応溶液300の反応効率を向上させることができる。
【0121】
(変形例2)
図9は、本発明の変形例2に係るマイクロ流体デバイスの流路を示す拡大平面図である。
【0122】
本変形例におけるマイクロ流体デバイスは、上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と同様に、反応部110における流路100には、反応溶液の送液方向に沿って断面積が減少する領域が含まれている。
【0123】
本変形例におけるマイクロ流体デバイスが上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と異なる点は、上記実施の形態では、流路100の断面積を単調減少させていたのに対して、本変形例では、流路100の断面積を段階的に減少させている。
【0124】
具体的には、
図9に示すように、流路100における複数のライン状の主流路100aの幅を、反応溶液300の送液方向に沿ってラインごとに細くしている。なお、各ラインにおいては、主流路100aの幅及び深さは一定である。これにより、流路100の断面積を送液方向に沿ってラインごとに段階的に減少させている。
【0125】
以上、本変形例におけるマイクロ流体デバイスによれば、上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と同様の効果が得られる。つまり、流路100内に流れる反応溶液300の送液速度を所望に制御して反応溶液300の送液速度を一定にすることができる。したがって、第1温度領域及び第2温度領域の各温度領域における反応溶液300の存在時間を一定に保つことができ、反応溶液300の反応効率を向上させることができる。
【0126】
また、本変形例では、流路100を直線状に形成しているので、テーパ構造とする場合と比べて、流路100の設計及び作製が容易である。さらに、本変形例では、流路100の深さを一定にしているので、流路100の上方からレーザ光をスキャンして光学測定を行う際に測定光の光路長を一定に保つことができるので、測定精度を向上させることができる。
【0127】
(変形例3)
図10Aは、本発明の変形例3に係るマイクロ流体デバイスにおける流路の要部拡大平面図であり、
図10Bは、
図10AのX−X’線における本発明の変形例3に係るマイクロ流体デバイスにおける流路の断面図である。
【0128】
本変形例におけるマイクロ流体デバイスは、上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と同様に、反応部110における流路100には、反応溶液300の送液方向に沿って断面積が減少する領域が含まれている。
【0129】
本変形例におけるマイクロ流体デバイスが上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と異なる点は、上記実施の形態では、流路100をテーパ構造として断面積を減少させていたのに対して、本変形例では、流路100の断面積をピラー160によって調整している。
【0130】
具体的には、
図10A及び
図10Bに示すように、流路100内に円柱状のピラー160を複数本立てている。これにより、ピラー160が設けられた領域の流路断面積を、ピラー160が設けられた領域の流路断面積をよりも小さくすることができる。
【0131】
以上、本変形例におけるマイクロ流体デバイスによれば、上記実施の形態におけるマイクロ流体デバイス1と同様の効果が得られる。つまり、流路100内に流れる反応溶液300の送液速度を所望に制御して反応溶液300の送液速度を一定にすることができる。したがって、第1温度領域及び第2温度領域の各温度領域における反応溶液300の存在時間を一定に保つことができ、反応溶液300の反応効率を向上させることができる。
【0132】
また、本変形例のようにピラー160を設けることによって、反応溶液300中の試料及び試薬の拡散性を向上させることもできる。
【0133】
(変形例4)
図11は、本発明の変形例4に係るマイクロ流体デバイスの流路を示す拡大平面図である。
【0134】
本変形例におけるマイクロ流体デバイスは、流路100の一部が分岐されている。具体的には、
図11に示すように、先細りテーパ構造の流路100の先端が3つに分岐されている。
【0135】
このように流路100の一部を分岐させることによって、反応溶液300の液先端(先頭部分)の送液速度を制御するだけではなく、反応溶液300の液内部の送液速度も制御することができる。
【0136】
(変形例5)
図12は、本発明の変形例5に係るマイクロ流体デバイスの流路を示す拡大平面図である。
【0137】
上記実施の形態及び変形例では、マイクロ流体デバイスを、PCR法を実施するための核酸増幅デバイスに適用する例について説明したが、上記実施の形態及び変形例におけるマイクロ流体デバイスを、被測定物質を検出するためのセンサデバイスに適用しても構わない。例えば、マイクロ流体デバイスを、イムノクロマト法を実施するためのセンサデバイスに適用することができる。
【0138】
この場合、マイクロ流体デバイスに導入する反応溶液には、被測定物質として細菌又はウイルスが含まれており、当該マイクロ流体デバイスは、反応溶液に含まれる被測定物質を検出する。細菌やウイルスは、それぞれ特徴あるDNAを持っている。したがって、その特徴あるDNAをターゲットとしたプライマを設計することにより、マイクロ流体デバイスを、細菌やウイルスの種類や量を検出するセンサとして用いることができる。
【0139】
例えば、
図12に示すように、反応溶液300に含まれる被測定物質である抗原を特異的に検出する場合、
図12の領域Aでは、抗原と特異的に反応する物質(抗体)と、抗原との間に免疫反応が生じ、抗原と抗体とが特異的に結合して免疫複合体となる。なお、抗体には予め検出のための蛍光物質が固定化されていてもよい。また、抗原と抗体とを含む反応溶液300は、マイクロ流体デバイスに導入する前に混合してもよいし、抗体を予め領域Aに乾燥して配置しておいてもよい。
【0140】
免疫反応が生じて形成された免疫複合体を含む反応溶液300は、領域Bまで送液される。領域Bでは、抗原と特異的に反応する抗体(キャプチャー抗体)が予め用意されており、固定化抗体として固定化されている。領域Aで抗体と結合した抗原は、領域Bにおいて固定化抗体と結合する。つまり、固定化抗体上に免疫複合体がトラップされる。これにより、反応溶液300に抗原が含まれていた場合のみ領域Bにおいて蛍光を観察することができ、反応溶液300中の抗原を検出することができる。
【0141】
本変形例では、流路100がテーパ構造となっており、領域Bの幅が細くなっている。これにより、比表面積(体積に対する表面積)を大きくすることができるので、蛍光物質を濃縮することが可能になり、高感度の測定が可能になる。したがって、反応溶液300を効率よく反応させることができる。
【0142】
(その他)
以上、本発明に係るマイクロ流体デバイスについて、実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記実施の形態及び変形例に限定されるものではない。
【0143】
例えば、上記実施の形態及び変形例では、反応部110における流路100を蛇行流路として標的核酸を含む反応溶液に温度変化を繰り返し与えるフローPCRとしたが、フローPCRとせずに標的核酸を含む反応溶液に温度変化を繰り返し与えるようなPCRとしてもよい。但し、上記実施の形態のようにフローとした方が効率良くPCRを実施することができる。
【0144】
また、上記実施の形態及び変形例では、流路100を蛇行流路としたが、これに限らない。例えば、複数の高温領域(95℃)と複数の低温領域(60℃)とを交互にライン状に配列して、その上に直線状の流路が形成された基板を配置することによって、流路が高温領域と低温領域とを交互に通過するように構成してもよい。
【0145】
また、上記実施の形態及び変形例では、ヒータ部140は2つの温度領域としたが、互いに温度が異なる3つ以上の温度領域としてもよい。この場合、流路は、反応溶液が異なる複数の温度領域を周期的に通過するように構成されていればよい。
【0146】
また、上記実施の形態及び変形例では、複数の温度領域の各温度の設定は、ヒータブロックで行ったが、ペルチェ素子等の他の温度制御部材を用いて温度設定してもよい。
【0147】
また、上記実施の形態及び変形例では、反応溶液は毛管力によって流路100を送液したが、これに限らない。例えば、流路100にシリンジポンプをつないで、反応溶液を送液してもよい。但し、毛管力によって反応溶液を送液する方が、低コストかつ簡便に反応溶液を送液することができる。
【0148】
その他、各実施の形態及び変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。