【文献】
Emily H. Smith; Dietrich Matern,Acylcarnitine Analysis by Tandem Mass Spectrometry,Current Protocols in Human Genetics 17.8.1-17.8.20,2010年
【文献】
Aiping Liu; Marzia Pasquali,Acidified acetonitrile and methanol extractions for quantitativeanalysis of acylcarnitines in plasma by stable isotope dilutiontandem mass spectrometry,Journal of Chromatography B,2005年,Vol.827, No.2,P.193-198
【文献】
山口清次,液体サンプル中のアシルカルニチンの安定性について,厚生労働科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業 タンデムマス導入による新生児マススクリーニング耐性の整備と質的向上に関する研究 平成23年度総括・分担研究報告書,厚生労働科学研究成果データベース閲覧システム,2012年12月28日,P.40-43,<URL: http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201117010A>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アシルカルニチンは、生体内において脂肪酸がミトコンドリア内膜へ運搬される場合に、脂肪酸とカルニチンとが結合して生成される化合物である。より詳しくは、ミトコンドリア外膜に存在するカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼIの作用によりアシルCoAとカルニチンからアシルカルニチンが生成される。
尚、アシルカルニチンは、その脂肪酸部分の炭素鎖長、不飽和結合の有無と数、炭素鎖に結合する水素原子の酸素原子又はヒドロキシ基への置換などにより、アセチルカルニチン、プロピオニルカルニチン、ステアロイルカルニチン、オレイルカルニチン、リノレイルカルニチン、マロニルカルニチン、3−ヒドロキシカルニチンなどに細分化されるが、本明細書中においては、それらを総称してアシルカルニチンと記述する。本明細書においては脂肪酸が結合していない遊離カルニチンについても、アシルカルニチンに含めるものとする。
【0003】
特に、医療の分野においては代謝異常の評価を行うために、血液や尿などの生体試料中のアシルカルニチンを分析することは極めて有用であり、例えば新生児を対象とした先天性代謝異常スクリーニングにおいて分析項目とされている。
【0004】
特許文献1には、質量分析計を用いて血漿中のアシルカルニチンを測定し、アシルカルニチンのプロファイルを得ることで、脂肪酸酸化障害(MCAD、VLCAD、SCAD、MAD、LCHAD、及びCPTII)に加え、一部の有機酸血症(プロピオン酸血症、メチルマロン酸血症、イソ吉草酸血症、1型グルタル酸血症、3−メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ欠損症、β−ケトチオラーゼ欠損症など)の診断に利用できると記載されている。
【0005】
一般的に、質量分析計を用いてアシルカルニチンを定量的に測定する場合には、標準物質としてアシルカルニチンを、内部標準物質として同位体標識されたアシルカルニチンを使用する方法が挙げられる。これら標準物質及び内部標準物質は、試薬メーカーから個別に購入するか、あるいは非特許文献1に示されるNeoBase非誘導体化MSMSキット(PerkinElmer社製)のようなキットを購入することにより入手可能である。しかしながら、これら標準物質及び内部標準物質は凍結乾燥品であり、使用前に適切な溶液を添加して完全に溶解させる工程が必要であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
標準物質及び内部標準物質の溶解の工程を簡略化する一般的な方法として、いくつかのメーカーから、あらかじめ溶液に調製された試薬が市販されている。例えば和光純薬工業株式会社からは、200mmol/L L−グルタミン溶液(×100)、MEM非必須アミノ酸溶液(×100)などのアミノ酸溶液が販売されている。
【0009】
しかしながら、非特許文献1に示されるように、アシルカルニチンの溶液状態での安定性は、2℃〜8℃保存で30日間であり、アシルカルニチン溶液は1ヶ月を超える期間の保存安定性を有していないことが記載されている。
非特許文献2では、より詳細にアシルカルニチン溶液の安定性の検討がなされている。冷蔵(4℃)保管のpH8.0緩衝液中では長鎖アシルカルニチンの分解が、常温(21℃)保管の健常者血清中では短鎖から長鎖まで多くのアシルカルニチンの分解が認められた結果、アシルカルニチン分析に用いられる全ての検体(ろ紙血、血清、尿)について冷凍(−30℃)保管を推奨している。
すなわち、溶液状態でのアシルカルニチンの保存安定性の問題から、アシルカルニチン溶液は市販されていない。そのため測定者から、アシルカルニチンを溶解する作業が不要で、かつ長期間の保存安定性を有する、標準物質用試薬及び内部標準用試薬として利用可能なアシルカルニチン組成物が求められていた。
以上より、本発明は溶液状態で扱い易く、長期間の保存安定性を有するアシルカルニチン組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、アシルカルニチンを、有機酸を含有する有機溶媒によって溶解することで、アシルカルニチンを溶液状態で長期間、安定に保存できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
非特許文献2には、pH6.0〜8.0の中性バッファーにおいて、pH8.0ではアシルカルニチンの加水分解が増大することが示唆されているが、酸性の水溶液中でアシルカルニチンが安定であるとの知見は得られていない。さらに、有機溶媒中でのアシルカルニチンの安定性には言及されていない。
【0012】
本発明者らは、アシルカルニチンを有機溶媒に溶解し、有機酸を添加することで、溶液中のアシルカルニチンの保存安定性を飛躍的に高めることを発見した。さらに、上記有機酸として、質量分析で汎用されるものを使用することにより、質量分析計へ影響を及ぼすことのないアシルカルニチン組成物を完成させた。
【0013】
本発明は以下の内容に関する。
<1>アシルカルニチン組成物であって、
有機酸を含有する有機溶媒中に少なくとも1種類以上の式1の化合物が溶解していることを特徴とするアシルカルニチン組成物。
式1:(CH
3)
3N
+CH
2CH(OR
1)CH
2COO
-
ただし、式1中、R
1は水素原子、又は炭素数2〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪酸残基を表し、該脂肪酸残基に結合する水素原子は、酸素原子又はヒドロキシ基で置換されていてもよい。
<2>有機溶媒が、炭素数1〜5の有機溶媒である前記<1>に記載のアシルカルニチン組成物。
<3>有機溶媒が、炭素数1〜5のアルコール及びアセトニトリルからなる群より選ばれる少なくとも1以上である前記<1>または<2>に記載のアシルカルニチン組成物。
<4>炭素数1〜5のアルコールが、メタノール、エタノール及びイソプロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1以上である前記<3>に記載のアシルカルニチン組成物。
<5>有機酸が、1価から3価のカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上である前記<1>〜<4>のいずれかに記載のアシルカルニチン組成物。
<6>カルボン酸が、ギ酸、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、酪酸及び乳酸からなる群より選ばれる少なくとも1以上である前記<5>に記載のアシルカルニチン組成物。
<7>有機酸の体積濃度が、0.005%(v/v)〜5%(v/v)である前記<1>〜<6>のいずれかに記載のアシルカルニチン組成物。
<8>アシルカルニチンが同位体標識されている前記<1>〜<7>のいずれかに記載のアシルカルニチン組成物。
<9>45℃で24時間保管したときに、質量分析計による測定値から算出されるアシルカルニチンの残存率が80%〜120%である、前記<1>〜<8>のいずれかに記載のアシルカルニチン組成物。
<10>前記<1>〜<9>のいずれかに記載のアシルカルニチン組成物を使用する、質量分析計によるアシルカルニチンの測定方法。
<11>質量分析計による、先天性代謝異常スクリーニングの診断における前記<1>〜<9>のいずれかに記載のアシルカルニチン組成物の使用。
<12>前記<1>〜<9>のいずれかに記載のアシルカルニチン組成物を含むキット。
<13>有機酸、有機溶媒及び少なくとも1種類以上の式1のアシルカルニチン化合物を含むキット。
式1:(CH
3)
3N
+CH
2CH(OR
1)CH
2COO
-
ただし、式1中、R
1は水素原子、又は炭素数2〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪酸残基を表し、該脂肪酸残基に結合する水素原子は、酸素原子又はヒドロキシ基で置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アシルカルニチンを溶解する作業を必要としない、長期間の保存安定性を有するアシルカルニチン組成物が提供される。本発明のアシルカルニチン組成物は、先天性代謝異常スクリーニング等の臨床検査に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、アシルカルニチンとは、式1で表される化合物群をいう。
式1:(CH
3)
3N
+CH
2CH(OR
1)CH
2COO
-
(式1中、R
1は水素原子、又は炭素数2〜30の飽和もしくは不飽和の脂肪酸残基を表し、該脂肪酸残基に結合する水素原子は、酸素原子又はヒドロキシ基で置換されていてもよい。)
【0017】
飽和又は不飽和の脂肪酸残基としては、表1に記載のものが挙げられ、これらのうち、炭素数2〜18の脂肪酸残基が、好適に使用される。先天性代謝異常スクリーニングなど臨床での評価項目に使用される主なアシルカルニチンを表2に示す。
【0020】
本明細書において、「アシルカルニチン」とは同位体標識されたアシルカルニチンを含むものとする。本発明によれば、同位体標識されたアシルカルニチンについても同様の保存安定性を有する。例えば、安定同位体で標識されたアシルカルニチン(以下、アシルカルニチン安定同位体ともいう。)として
2H9−カルニチン、
2H3−アセチルカルニチン、
2H3−プロピオニルカルニチン、
2H3−ブチリルカルニチン、
2H9−イソ吉草酸カルニチン、
2H3−オクタノイルカルニチン、
2H9−ミリストイルカルニチン、及び
2H3−パルミトイルカルニチンなどが例示できる。同位体標識の例として重水素標識を挙げたが、放射性同位体による標識や、炭素、窒素、酸素など他の元素による標識など、重水素標識に限らない。さらには、置換する原子数、置換する位置についても、例示したアシルカルニチン安定同位体に限らない。
【0021】
本発明で使用される有機溶媒としては、生化学で汎用されるものであれば特に制限されない。炭素数の異なるアシルカルニチンの混合物を効率よく溶解する点や,取り扱いや入手のし易さから、炭素数1〜5の有機溶媒が好ましく、炭素数1〜5のアルコール及びアセトニトリルがより好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノールがさらに好ましい。アシルカルニチンは加水分解することから、溶媒には水を含まないことが好ましい。
なお、本発明の有機溶媒は、後述する有機酸である場合も含まれるものとする。
【0022】
上記有機溶媒に溶解されるアシルカルニチンの濃度範囲は特に限定されないが、好ましい下限としては、1μmol/Lが挙げられ、好ましい上限としては、100μmol/Lが挙げられるが、70μmol/L、50μmol/L、40μmol/L、35μmol/Lが好ましい上限の場合もある。上記アシルカルニチン濃度が1μmol/L未満であると、長期間保存した場合に化学的な分解が進み安定性に悪影響を及ぼす。また、上記アシルカルニチン濃度が100μmol/Lを超えると、質量分析に供する場合に、アシルカルニチンを測定に適した濃度にするために複数回の希釈が必要となり、実験操作が煩雑となる。
なお、遊離カルニチンのメタノールへの溶解の上限は約0.4g/mL(約2.48mol/L)であり、アルコールに易溶であることが知られている。
【0023】
本発明で使用される有機酸としては、生化学で汎用されるものであれば特に制限されない。取り扱いや入手のし易さから、1価から3価のカルボン酸が好ましく、ギ酸、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、酪酸、乳酸などが例示できる。質量分析計での測定に要求される揮発性の観点から、ギ酸、酢酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸が好ましく、腐食性の観点から、ギ酸、酢酸、シュウ酸がさらに好ましい。
【0024】
上記有機酸の濃度範囲は特に制限されないが、体積濃度で示すと、好ましい下限は0.005%(v/v)であり、0.01%(v/v)、0.15%(v/v)、0.2%(v/v)、0.25%(v/v)、0.3%(v/v)、0.35%(v/v)、0.4%(v/v)、0.45%(v/v)が好ましい下限の場合もあり、より好ましい下限は0.5%(v/v)である。
また、好ましい上限は5%(v/v)であり、4.5%(v/v)、4.0%(v/v)、3.5%(v/v)が好ましい上限の場合もあり、より好ましい上限は3%(v/v)である。
有機酸の濃度が下限より低いと、アシルカルニチン組成物の保存安定性の向上が期待できない。有機酸の濃度が上限より高いと,本発明を用いて質量分析計による測定を行う際,有機酸によって機器や測定結果へ悪影響を及ぼす可能性が否定できない。
【0025】
本発明にかかるアシルカルニチン組成物は、質量分析計を用いたアシルカルニチン測定において、標準物質、キャリブレーター、コントロール、内部標準物質などに好適に用いることができる。
本発明の供給の形態としては、アシルカルニチンと有機酸と有機溶媒とを混合したあらかじめ溶液状態にした形態が挙げられる。
また、本発明の別の供給の形態としては、それぞれを別個に用意し、使用時にすべてを混合して溶液状態にする形態、あるいは2つをあらかじめ混合して残りの1つを別個に用意し、使用時にこれらを混合して溶液状態にする形態も挙げられる。
本発明の別の供給の形態として、アシルカルニチンと有機酸との混合物、あるいは、アシルカルニチンと有機酸と有機溶媒とを混合後、有機酸を保持できる多孔性部材または賦形剤を添加し、さらに有機溶媒を除去した組成物など、後から有機溶媒を添加できる形態も取り得る。
本発明のその他の供給の形態として、凍結乾燥されたアシルカルニチンに、有機酸と有機溶媒とをそれぞれ添加する形態、あるいは、多孔性部材に含浸されたアシルカルニチンに、有機酸と有機溶媒との混合物を添加する形態を取り得る。
本発明の別の供給の形態として、アシルカルニチンと有機溶媒とを混合後、後から有機酸を添加できる形態、あるいは、あらかじめ有機溶媒と有機酸と混合後、後からアシルカルニチンへ添加できる形態も採り得る。
前記多孔性部材とは、アシルカルニチンを室温で保存した場合の安定性を損なわないことを限度として、試料抽出液に不溶性で、かつアシルカルニチンを溶液中に溶出可能でかつ乾燥状態で保持できる能力を有していれば制限なく使用することができる。
多孔性部材としては公知のものが使用でき、例えばろ紙、不織布、織布又はシート状発泡体等からなる多孔性部材が挙げられる。材質としては、公知の天然高分子及び合成高分子等が使用でき、例えば、綿、羊毛、セルロース、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリウレタン、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、絹、フィブロイン、リグニン、ヘミセルロース、キチン、エボナイト、ゴム、ガラス、石英及びセラミックス等が挙げられる。これらのうち、天然高分子が好ましく、さらに好ましくはセルロース及び綿であり、特に好ましくはセルロースである。
【0026】
本発明のアシルカルニチン組成物は、前記質量分析計を用いたアシルカルニチン測定により、先天性代謝異常症のスクリーニングにも使用することができる。
【0027】
本発明のアシルカルニチン組成物は、有機酸、有機溶媒及び少なくとも1種類以上のアシルカルニチン化合物を含む測定キットの形態で提供することもでき、キットには、ほかに、他の検査試薬、検体希釈液、使用説明書などを含むこともできる。他の検査試薬としては、同時に測定されることが予定されるアミノ酸、スクシニルアセトンの検査試薬が挙げられ、具体的にはこれらの内部標準液が挙げられる。
【0028】
〔参考例1〕メタノール中のアセチルカルニチン(C2)の安定性予測
まず、アシルカルニチンの中で、より不安定なアシルカルニチンを見出すため、表3に示すアシルカルニチン安定同位体について、メタノール溶液中、室温にて、1ヶ月間及び2ヶ月間保存したときの残存率を算出した。アシルカルニチン溶液は、表3に記載の濃度となるよう、アシルカルニチン安定同位体をメタノールに溶解した。アシルカルニチン安定同位体の測定は、以下の条件で実施した。保存直前(用時調製)及び所定期間保存後のアシルカルニチン溶液を測定し、下記式2より得られたピーク面積比から残存率(%)を算出した。
システム:LC−20Aシリーズ(島津製作所社製)及び4000QTRAP(AB Sciex社製)
<LC条件>
移動相:移動相A 0.5%(v/v)ギ酸水溶液
移動相B 500mmol/Lギ酸アンモニウム水溶液:500mmol/L
水酸化アンモニウム(9:1)/メタノール=1/9
分析時間:70分
溶出法:以下のグラジエント条件により溶離液Bの混合比率を直線的に増減させた。
0分(溶離液B 0%)→5分(溶離液B 0%)
5.1分(溶離液B 0%)→40分(溶離液B 100%)
40分(溶離液B 100%)→55分(溶離液B 100%)
55分(溶離液B 100%)→55.1分(溶離液B 0%)
55.1分(溶離液B 0%)→70分(溶離液B 0%)
流速:0.2mL/min
LCカラム:Scherzo SS−C18、3μm、3.0×150mm(Imtact社製)
カラム温度:50℃
試料注入量:5μL
<MS条件>
Ionization mode:ESI(Electrospray ionization)
Ion source:Turbo IonSpray
Scan type:MRM
Polarity:Positive
Q1/Q3は表3に記載した。
式2:
【0030】
アシルカルニチンの安定性を予測するため、表3の結果に基づき、最も残存率の低下の見られたアセチルカルニチン(C2)を指標とすることとした。表3の示す濃度のアセチルカルニチン溶液を、過酷条件を含めた4温度(45℃、22℃、4℃、及び−20℃)において保存する安定性試験を実施し、−20℃及び4℃における安定期間の予測を行った。尚、評価に供したサンプルに関して,該予測方法では、45℃で24時間保存すると4℃保存での約3ヶ月間、−20℃保存での約5年間に相当することが算出された。
<予測方法> 溶媒:メタノール
評価温度:45℃、22℃、4℃、−20℃
予測方法:アレニウスモデル
得られた結果を
図1に示す。
【0031】
〔実施例1〕0.1%(v/v)ギ酸含有メタノール及び各種有機溶媒中におけるアセチルカルニチン(C2)安定同位体の安定性
参考例1にて、選択したアシルカルニチンの中で最も残存率の低下が認められたアセチルカルニチン(C2)について、溶解溶媒の検討を実施した。
<試験条件>
溶媒:メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、0.1%(v/v)ギ酸含有メタノール、50%(v/v)メタノール水溶液
保存温度:45℃
保存時間:24時間
測定及び残存率の算出は、参考例1と同様に実施した。得られた結果を
図2に示す。
【0032】
〔実施例2〕1%ギ酸(v/v)含有メタノール及び各種有機溶媒中におけるアセチルカルニチン(C2)安定同位体の安定性
実施例1と同様に、アセチルカルニチン(C2)を用いて、有機酸添加の効果を確認するための検討を実施した。
<試験条件>
溶媒:メタノール、1%(v/v)ギ酸含有メタノール、1%(v/v)ギ酸含有エタノール、1%(v/v)ギ酸含有イソプロパノール、DMF
保存温度:45℃
保存時間:24時間
測定及び残存率の算出は、参考例1と同様に実施した。得られた結果を
図3に示す。
【0033】
〔実施例3〕1%(v/v)ギ酸含有エタノール及びメタノール中におけるアシルカルニチン(C0〜C18)安定同位体の安定性
実施例2で検討した1%(v/v)ギ酸含有エタノール及びメタノールに、表3に示すアシルカルニチン(略号:C0、C2、C3、C4、C5、C5OH、C5DC、C8、C12、C14、C16、C18)を溶解し、アセチルカルニチン(C2)以外のアシルカルニチンについても保存安定性を検討した。
【0034】
アシルカルニチンを含む1%(v/v)ギ酸含有エタノール溶液の調製は以下のように行った。
各アシルカルニチン(略号:C0、C2、C3、C4、C5、C5OH、C5DC、C8、C12、C14、C16、C18)をそれぞれ表3に示す濃度の15倍濃い濃度となるように1%(v/v)ギ酸含有エタノールに溶解して、アシルカルニチンを含む1%(v/v)ギ酸含有エタノール溶液(12種類)を調製した。次に、前記溶液を100μLずつ採取、混合し、さらに1%(v/v)ギ酸含有エタノール300μLを添加した。前記混合液をよく撹拌し、表3に示す濃度の各アシルカルニチンを含む1%(v/v)ギ酸含有エタノール溶液1500μLを調製した。
アシルカルニチンを含むメタノール溶液についても、同様に各アシルカルニチンを表3に示す濃度の15倍濃い濃度となるようにメタノールに溶解し、前記溶液(12種類)を100μLずつ採取、混合し、さらにメタノール300μLを添加した。前記混合液をよく撹拌し、表3に示す濃度の各アシルカルニチンを含むメタノール溶液1500μLを調製した。
<試験条件>
溶媒:メタノール、1%(v/v)ギ酸含有エタノール
保存温度:45℃
保存時間:24時間
測定及び残存率の算出は、参考例1と同様に実施した。得られた結果を
図4に示す。
【0035】
実施例1、2、及び3を通じての結果と考察
実施例1(
図2)の結果は以下のとおりであった。アセチルカルニチン(C2)の保存安定性は、50%(v/v)メタノール水溶液で最も低く残存率5.4%であり、次いで有機溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル)で56.7%〜65.9%と残存率の向上が認められ、0.1%ギ酸含有メタノールで84.8%と大幅な残存率の向上が確認された。
【0036】
実施例2(
図3)では、実施例1において0.1%であったギ酸の含有量を1%に増加させた。また、メタノール以外にエタノール、イソプロパノールについてもギ酸を添加した。その結果、アセチルカルニチンの残存率は、0.1%ギ酸含有メタノールで84.8%(実施例1)、1%(v/v)ギ酸含有メタノールで97.0%と、ギ酸含有量の増加に伴い残存率も増加した。また、1%ギ酸含有エタノール及び1%(v/v)ギ酸含有イソプロパノールでの残存率はそれぞれ97.2%、96.9%と、1%(v/v)ギ酸含有メタノールと同程度の残存率を示した。
【0037】
実施例3(
図4)では、1%(v/v)ギ酸含有エタノールに、アシルカルニチン(略号:C0、C2、C3、C4、C5、C5OH、C5DC、C8、C12、C14、C16,C18)を溶解し、アシルカルニチンの脂肪酸の鎖長による安定性の差を検討した。結果として残存率は94.8%〜103.3%であり、短鎖、中鎖、長鎖の脂肪酸の鎖長差による残存率の違いは認められなかった。
【0038】
これら
図2、
図3、及び
図4の結果より、アシルカルニチンの溶液中での保存安定性は、水溶液よりも有機溶媒中に保存する方が安定であり、また、有機溶媒単体に溶解するよりも、有機酸を含有する有機溶媒中のほうが安定であることが示された。また、有機酸の含有量が増加するに従い、アシルカルニチンの保存安定性も向上することが示唆された。アシルカルニチンの有機酸含有有機溶媒中での保存安定性は、アシルカルニチンの脂肪酸の鎖長によって、大きな差は認められなかった。
【0039】
〔実施例4〕1%(v/v)ギ酸含有アセトニトリル中におけるアセチルカルニチン(C2)安定同位体の保存安定性
実施例1と同様に、アセチルカルニチン(C2)について、有機溶媒としてアセトニトリルを用いて有機酸添加による保存安定性効果を確認した。比較のために、アセトニトリル、メタノール及びエタノール単独についても試験をして保存安定性効果を確認した。
<試験条件>
溶媒:メタノール、エタノール、アセトニトリル、1%(v/v)ギ酸含有アセトニトリル
保存温度:60℃
保存時間:24時間
測定及び残存率の算出は、参考例1と同様に実施した。得られた結果を
図5に示す。
【0040】
〔実施例5〕ギ酸含有エタノール中におけるアセチルカルニチン(C2)安定同位体の保存安定性
実施例1と同様に、アセチルカルニチン(C2)について、各濃度のギ酸をエタノールに添加した溶媒における保存安定性効果を確認した。
<試験条件>
溶媒:0.005%、0.1%、1%、5%(v/v)の各濃度のギ酸含有エタノール 保存温度:60℃
保存時間:24時間
測定及び残存率の算出は、参考例1と同様に実施した。得られた結果を
図6に示す。
【0041】
〔実施例6〜9〕有機酸含有エタノール中におけるアセチルカルニチン(C2)安定同位体の保存安定性
有機酸として酢酸、乳酸、シュウ酸及びクエン酸を用いた以外は、実施例5と同様に試験をして、保存安定性効果を確認した。得られた結果を
図7〜10に示す。
【0042】
実施例4の結果と考察
実施例4の結果(
図5)より、アセチルカルニチン(C2)の保存安定性は、有機溶媒単独の溶媒中では低く、アセトニトリル中では26.2%であったが、これに有機酸を添加した1%(v/v)ギ酸含有アセトニトリル中では、60℃、24時間という過酷な条件下でも残存率100%であり、有機酸添加による残存率の大幅な向上が確認された。
以上から、有機溶媒としてアセトニトリルを用いた場合にも有機酸添加の効果が確認できた。
【0043】
実施例5〜9を通じての結果と考察
実施例5〜9の結果(
図6〜10)より、アセチルカルニチン(C2)の保存安定性は、有機酸としてギ酸、酢酸、乳酸、シュウ酸、クエン酸を用いて、これを有機溶媒に添加した場合でも高く、各種の有機酸添加による効果を確認することができた。また、添加濃度については、0.005%〜5%という広い範囲で有機酸添加による保存安定性の向上が確認された。