特許第6055966号(P6055966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6055966
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20161226BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2013-513740(P2013-513740)
(86)(22)【出願日】2011年6月6日
(65)【公表番号】特表2013-528055(P2013-528055A)
(43)【公表日】2013年7月8日
(86)【国際出願番号】GB2011000850
(87)【国際公開番号】WO2011154689
(87)【国際公開日】20111215
【審査請求日】2014年5月26日
(31)【優先権主張番号】1009513.1
(32)【優先日】2010年6月7日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1101400.8
(32)【優先日】2011年1月26日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516299202
【氏名又は名称】マイクロ‐シグネチャー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100153394
【弁理士】
【氏名又は名称】謝 卓峰
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー、マニエル
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−500837(JP,A)
【文献】 特表2013−513387(JP,A)
【文献】 Disease Markers, vol.27, (2009), p.255-268
【文献】 フナコシニュース2009年3月1日号, p.5 Vantage microRNA Detection Kit
【文献】 Aliment Pharmacol Ther, 2010年5月, vol.32, p.487-497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人から得られた試料について、miR-126、miR-223及びmiR-197からなる群より選ばれる、又はmiR-126、miR-24及びmiR-197からなる群より選ばれる少なくとも2種のマイクロRNAのレベルを測定することを含む、心血管障害を予測する方法。
【請求項2】
(i)miR-126及びmiR-223;又は、
(ii)miR-126及びmiR-24のレベルを測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
miR-126及びmiR-223のレベルを測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
miR-197のレベルをさらに測定する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
個人から得られた試料について、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-126、miR223、miR-320及びmiR-28-3pのレベルを測定することを含む、個人が糖尿病を有するかどうかを決定する方法。
【請求項6】
個人から得られた試料について、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-29b、miR-126、miR223及びmiR-28-3pのレベルを測定することを含む、糖尿病を予測する方法。
【請求項7】
さらに、次のマイクロRNA:miR-20b、miR-21、miR-24、miR-29b、miR-191、miR-197、miR-486及びmiR-150のうち1種以上のレベルを測定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
試料が組織試料、血液又は血漿である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
試料が血漿である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
非糖尿病である個人の適切な母集団の正常値を基準とし、当該基準と比べて、miR-15a、miR-126、miR223及びmiR-320が低レベルであり、並びにmiR-28-3pが高レベルであることより、個人が糖尿病を有することを決定する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
非糖尿病である個人の適切な母集団の正常値を基準とし、当該基準と比べて、miR-15a、miR-126、miR223及びmiR-320が低レベルであり、並びにmiR-28-3pが高レベルであり、並びにmiR-20b、miR-21、miR-24、miR-29b、miR-191、miR-197、miR-486及びmiR-150のうち1種以上が低レベルであることより、個人が糖尿病を有することを決定する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
非糖尿病である個人の適切な母集団の正常値を基準とし、当該基準と比べて、糖尿病の陽性予測が、miR-15a、miR-29b、miR-126及びmiR223が低レベルであり、並びにmiR-28-3pが高レベルであることより与えられる、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
糖尿病が2型糖尿病である、請求項5又は6に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病及び関連する合併症を検出する方法に関する。また本発明は、糖尿病を予測する方法に関する。また本発明は、血管障害及び心血管障害を予測する方法に関する。さらに本発明は、本発明の方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNA(miRNA)は小さなノンコーディングRNAの類であり、翻訳抑制因子として機能している。miRNAは、標的mRNAの3’側非翻訳領域(UTR)の相補的部位に基準塩基対形成を介して結合し、これらの転写物を分解し、又は翻訳を抑制する(Bartel DP. Cell. 2009 Jan 23;136(2):215-33(非特許文献1)、Pillai RS,
Bhattacharyya SN, Filipowicz W. Trends Cell Biol. 2007 Mar;17(3):118-26(非特許文献2))。miRNAは、発生、ストレス応答、血管新生及び腫瘍形成に重要な役割を果たすことが示されている(Kloosterman WP, Plasterk RH. Dev Cell. 2006 Oct;11(4):441-50(非特許文献3)、Stefani G,
Slack FJ. Nat Rev Mol Cell Biol. 2008 Mar;9(3):219-30(非特許文献4))。また、蓄積される証拠により心血管系におけるmiRNAの重要な役割が示される(Latronico MV, Catalucci D, Condorelli G. Circ Res. 2007 Dec
7;101(12):1225-36(非特許文献5)、van Rooij E, Marshall WS, Olson EN. Circ Res. 2008 Oct
24;103(9):919-28(非特許文献6)、Kuehbacher A, Urbich C, Zeiher AM, Dimmeler S. Circ Res. 2007 Jul
6;101(1):59-68(非特許文献7))。
【0003】
近年ミッチェルらは、血漿中にmiRNAが存在することを明らかにした(Mitchell PS et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Jul
29;105(30):10513-8(非特許文献8))。この血漿miRNAは細胞結合型ではないが微小胞中に存在し、内在性リボヌクレアーゼ(RNase)活性から保護されている。興味深いことに、血漿miRNAは特有の発現プロファイルを示す:すなわち、癌患者で特異的な腫瘍miRNAが同定される一方で(Tanaka M et al. PLoS One. 2009;4(5):e5532(非特許文献9))、組織由来miRNAは外傷のマーカーを構成する(Laterza
OF et al. Clin Chem. 2009 Nov;55(11):1977-83(非特許文献10)、Wang K et al. Proc Natl Acad
Sci U S A. 2009 Mar 17;106(11):4402-7(非特許文献11))。心血管疾患において、血中miRNAが敗血症、心筋障害及び心不全で研究されている(Wang GK et al. Eur Heart J. 2010 Mar;31(6):659-66(非特許文献12)、Ji X,
Takahashi R, Hiura Y, Hirokawa G, Fukushima Y, Iwai N. Clin Chem. 2009
Nov;55(11):1944-9(非特許文献13)、Tijsen AJ et al. Circ Res. 2010 Apr 2;106(6):1035-9(非特許文献14))。
【0004】
2型糖尿病(DM)は、心血管疾患の主要な危険因子のひとつであり、内皮機能不全並びに微小血管性及び大血管性の合併症に至る(Nathan DM. Long-term complications of diabetes mellitus. N Engl J
Med. 1993 Jun 10;328(23):1676-85(非特許文献15)、Frankel DS et al. Circulation. 2008 Dec 9;118(24):2533-9(非特許文献16)。しかしながら、血漿miRNAの系統的解析はまだ行われていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Bartel DP. Cell. 2009 Jan 23;136(2):215-33.
【非特許文献2】Pillai RS, Bhattacharyya SN, Filipowicz W. Trends Cell Biol. 2007Mar;17(3):118-26.
【非特許文献3】Kloosterman WP, Plasterk RH. Dev Cell. 2006 Oct;11(4):441-50.
【非特許文献4】Stefani G, Slack FJ. Nat Rev Mol Cell Biol. 2008 Mar;9(3):219-30.
【非特許文献5】Latronico MV, Catalucci D, Condorelli G. Circ Res. 2007 Dec7;101(12):1225-36.
【非特許文献6】van Rooij E, Marshall WS, Olson EN. Circ Res. 2008 Oct24;103(9):919-28.
【非特許文献7】Kuehbacher A, Urbich C, Zeiher AM, Dimmeler S. Circ Res. 2007 Jul6;101(1):59-68.
【非特許文献8】Mitchell PS et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Jul29;105(30):10513-8.
【非特許文献9】Tanaka M et al. PLoS One. 2009;4(5):e5532.
【非特許文献10】Laterza OF et al. Clin Chem. 2009 Nov;55(11):1977-83.
【非特許文献11】Wang K et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Mar 17;106(11):4402-7.
【非特許文献12】Wang GK et al. Eur Heart J. 2010 Mar;31(6):659-66.
【非特許文献13】Ji X, Takahashi R, Hiura Y, Hirokawa G, Fukushima Y, Iwai N. ClinChem. 2009 Nov;55(11):1944-9.
【非特許文献14】Tijsen AJ et al. Circ Res. 2010 Apr 2;106(6):1035-9.
【非特許文献15】Nathan DM. Long-term complications of diabetes mellitus. N Engl JMed. 1993 Jun 10;328(23):1676-85.
【非特許文献16】Frankel DS et al. Circulation. 2008 Dec 9;118(24):2533-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
糖尿病である個人を特定するため、糖尿病及びその関連合併症を発症する危険のある個人を識別するため、また、個人が糖尿病をいかに効果的に管理しているかを監視するために、糖尿病に対するmiRNAシグニチャーが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、個人から得られた試料について、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-126、miR223、miR-320及びmiR-28-3pのレベルを測定することを含む、個人が糖尿病を有するかどうかを決定する方法を提供する。
【0008】
上記の測定を行うことにより、個人が糖尿病を有するかどうかを、高い特異性と感度をもって決定することが可能であることが分かった。特異性とは、この方法において、非糖尿病として同定された真の陰性(糖尿病ではない個人)の比率として定義される。感度とは、この方法において、糖尿病として同定された真の陽性(糖尿病である個人)の比率として定義される。本方法は、少数のバイオマーカー(すなわちマイクロRNA)のみを測定するので、比較的容易に行うことのできる高精度の検査を提供する。従って、個人が糖尿病であるかどうかの簡便で効果的な検査を提供する。
【0009】
本明細書において使用される「糖尿病」という用語は当業者には周知であり、1型と2型の糖尿病を指す。好ましくは、この用語は2型糖尿病を指す。さらに好ましくは、この用語は、未治療の又は十分に治療されていない2型糖尿病を指す。十分に治療された糖尿病は、本方法を用いては検出されないということが明らかとなった。その結果、本発明の第1の態様によると、本方法は、個人が効果的に治療されている場合、糖尿病に関連したマイクロRNAレベルの変動が検査で示さないので、糖尿病を有する患者が、この疾患を効果的に治療しているかどうかを確定することに使用することができる。従って、本方法は、糖尿病治療の有効性を監視することを可能にする。糖尿病を効果的に治療している個人とは、その空腹時血糖値を約3〜8 mmol/Lに、好ましくは約4〜7 mmol/Lに制御している個人である。
【0010】
糖尿病を有する個人について、miR-15a、miR-126、miR223及びmiR-320のレベルは減少するが、miR-28-3pのレベルは増加することが分かった。
【0011】
本発明の第1の態様による方法は、さらに、次の追加のマイクロRNA:miR-20b、miR-21、miR-24、miR-29b、miR-191、miR-197、miR-486及びmiR-150のうち1種以上のレベルを測定することを含む。追加のマイクロRNAの任意の組み合わせを使用することができる。追加の8種のマイクロRNAすべてを測定に使用してもよいが、好ましくは、1、2、3、4又は5種の追加のマイクロRNAのみを測定に使用する。糖尿病を有する個人において、追加のマイクロRNAすべてについて、そのレベルが減少することが分かった。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、個人から得られた試料について、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-29b、miR-126、miR223及びmiR-28-3pのレベルを測定することを含む、糖尿病を予測する方法を提供する。
【0013】
上記の測定を行うことにより、個人が糖尿病を発症する可能性があるかどうかを、高い特異性と感度をもって予測することが可能であることが分かった。特異性とは、この方法において、糖尿病を発症していないとして同定された真の陰性(糖尿病を発症していない個人)の比率として定義される。感度とは、この方法において、糖尿病を発症しているとして同定された真の陽性(糖尿病を発症している個人)の比率として定義される。本方法は、少数のバイオマーカー(すなわちマイクロRNA)のみを測定するので、比較的容易に実行することのできる高精度の検査を提供する。従って、個人が糖尿病を発症する可能性があるかどうかの簡便で効果的な検査を提供する。
【0014】
糖尿病の陽性予測は、miR-15a、miR-29b、miR-126及びmiR223のレベルの減少、並びにmiR-28-3pのレベルの増加によって与えられることが分かった。
【0015】
本発明の第1及び第2の態様による方法は、さらに、miR-454及び/又はRNU6b(核内RNA)のレベルを対照として測定することを含んでもよい。対照のレベルは、糖尿病を有する又は発症する可能性のある個人と、糖尿病ではない又は糖尿病を発症する可能性のない個人との間で、有意に相違するものではない。
【0016】
本発明の第1及び第2の態様による方法は、個人から得られた試料について実行される。この試料は、上記のマイクロRNAを測定することのできる任意の適切な試料でよい。好ましくは、試料は、血液、血清、血漿若しくは他の血液画分、又は組織試料である。もっとも好ましくは、試料は血漿試料である。
【0017】
miR-15aは、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-15aの配列は、受入番号NR_029485.1、バージョンGI:262205622で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0018】
miR-20bは、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-20bの配列は、受入番号NR_029950.1、バージョンGI:262205365で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0019】
miR-21は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-21の配列は、受入番号NR_029493.1、バージョンGI:262205659で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0020】
miR-24は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-24の配列は、受入番号NR_029496.1、バージョンGI:262205676で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0021】
miR-28-3pは、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-28-3pの配列は、受入番号NR_029502.1、バージョンGI:262205701で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0022】
miR-29bは、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-29bの配列は、受入番号NR_029518.1、バージョンGI:262205774で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0023】
miR-126は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-126の配列は、受入番号NC_029695.1、バージョンGI:262205369で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0024】
miR-150は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-150の配列は、受入番号NC_029703.1、バージョンGI:262205410で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0025】
miR-191は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-191の配列は、受入番号NC_
029690.1、バージョンGI:262205347で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0026】
miR-197は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-197の配列は、受入番号NC_029583.1、バージョンGI:262206094で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0027】
miR-223は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-223の配列は、受入番号NC_029637.1、バージョンGI:262206350で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0028】
miR-320は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-320の配列は、受入番号NR_029714.1、バージョンGI:262205473で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0029】
miR-454は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-454の配列は、受入番号NR_030411.1、バージョンGI:262205121で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0030】
miR-486は、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型miR-486の配列は、受入番号NC_030161.1、バージョンGI:262205146で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0031】
RNU6bは、当業者に周知の標準用語である。特に、ヒト型RNU6bの配列は、受入番号NC_002752.1、バージョンGI:84872030で、NCBIタンパク質データベースから得られる。
【0032】
誤解を避けるために、上記のマーカーの特異的配列は、本出願の優先日においてデータベースにあるバージョンで定義される。マーカーの特異的配列は代表的なものである。当業者であれば、ヒト個体群には多型変異体が存在すること、また、そのような多型変異体の同定は、当業者にとって標準的な技法であることを理解する。
【0033】
マイクロRNAのレベルを測定する方法は、ノーザンブロッティング、マイクロRNAアレイ、リアルタイムRT-PCR法、次世代シークエンシング、ディファレンシャルディスプレー法、RNA干渉法、RNaseプロテクション法などを含めて多数ある。このような方法は、当業者に周知である(例えば、Ach et al., BMC Biotechnology, 8, 69, 2008を参照)。好ましくは、マイクロRNAのレベルは、リアルタイムRT-PCR法を用いて測定される。
【0034】
上記で示されたマーカーのレベルが正常以上(高い/増加)かどうか又は正常未満かどうか(低い/減少)を決定するため、非糖尿病である個人の適切な母集団の正常値を測定する。適切な母集団は、例えば、食事、生活習慣、年齢、民族的背景、又はマーカーの正常値に影響し得るその他の特性に基づいて定義される。正常値が分かれば、測定値を比較することができ、標準的統計的方法を用いて有意差が決定される。測定値と正常値との間に実質的な相違(すなわち、統計的な有意差)がある場合、そのレベルが測定された個人は、糖尿病を有している又は糖尿病を発症する危険があると見なされる。
【0035】
本発明の第1の態様による方法は、糖尿病を有する個人を特定する他に、糖尿病治療の有効性を決定する。従ってこの方法は、糖尿病の正確な同定を確実にし、また、治療の有効性を監視することに使用することができる。本発明の第2の態様による方法は、糖尿病を発症する可能性のある個人を特定する。従ってこの方法は、食事や生活習慣の変更の他に、医療介入などの取るべき予防処置を可能にする。
【0036】
また本発明は、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-126、miR223、miR-320及びmiR-28-3pのレベルを検出するセンサーを提供する。好ましくは、センサーはさらに、次のマイクロRNA:miR-20b、miR-21、miR-24、miR-29b、miR-191、miR-197、miR-486及びmiR-150のうち1種以上のレベルを検出する。またこのセンサーは、対照のmiR-454及びRNU6bのうち1種以上のレベルを検出するためにあってもよい。
【0037】
また本発明は、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-29b、miR-126、miR223及びmiR-28-3pのレベルを検出するセンサーを提供する。またこのセンサーは、対照のmiR-454及びRNU6bのうち1種以上のレベルを検出するためにあってもよい。
【0038】
マイクロRNAのレベルを測定するのに適切なセンサーは当業者に周知であり、マイクロアレイを含む。センサーは、通常、センサーに接着させた、検出されるマイクロRNA に特異的な1種以上の核酸プローブを含む。その結果、核酸プローブはマイクロRNAの検出を可能にする。
【0039】
また本発明は、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-126、miR223、miR-320及びmiR-28-3pのレベルを検出するための試薬を含むキットを提供する。さらにこのキットは、次のマイクロRNA:miR-20b、miR-21、miR-24、miR-29b、miR-191、miR-197、miR-486及びmiR-150のうち1種以上のレベルを検出するための試薬を含んでもよい。さらにこのキットは、対照のmiR-454及びRNU6bのうち1種以上のレベルを検出するための試薬を含んでもよい。
【0040】
また本発明は、次のマイクロRNA:miR-15a、miR-29b、miR-126、miR223及びmiR-28-3pのレベルを検出するための試薬を含むキットを提供する。さらにこのキットは、対照のmiR-454及びRNU6bのうち1種以上のレベルを検出するための試薬を含んでもよい。
【0041】
本発明のキットは、RT-PCRによりマイクロRNAのレベルを検出するための試薬を含んでもよい。
【0042】
本発明の第3の態様による方法は、個人から得られた試料について、マイクロRNA:miR-126のレベルを測定することを含む、血管障害を予測及び/又は診断する方法を提供する。
【0043】
miR-126のレベルは、血管障害、特に無症候性及び顕性末梢動脈障害を有する個人で低いことが分かった。
【0044】
上記の測定を行うことにより、個人が血管障害を有するかどうか又は発症する可能性があるかどうかを、高い特異性と感度をもって決定することが可能であることが分かった。特異性とは、この方法において、そのようなものとして同定された真の陰性(血管障害を有さないか又は発症しない個人)の比率として定義される。感度とは、この方法において、そのようなものとして同定された真の陽性(血管障害を有するか又は発症する可能性がある個人)の比率として定義される。本方法は、単独のバイオマーカー(すなわちマイクロRNA)又は多様なバイオマーカーを用いて比較的容易に実行することのできる高精度の検査を提供する。
【0045】
本明細書において使用される「血管障害」という用語は当業者には周知である。好ましくは、この用語は、末梢性動脈疾患、脳卒中、冠動脈疾患を含む冠状動脈障害、冠状動脈アテローム性動脈硬化症、高血圧症及び肺動脈アテローム性硬化症を含む肺血管障害、脳血管疾患、網膜症などを指す。特に好ましくは、血管障害は、末梢動脈又は環状動脈疾患である。この血管障害は、糖尿病と関連してもよく又は関連しなくてもよい。本発明の第3の態様よる方法は、血管障害を有する患者が効果的に治療されているかどうかを決定することにも使用することができる。
【0046】
本発明の第3の態様の例示は上記のとおりである。さらに、miR-126のレベルを測定する方法及び測定されたレベルが正常値より低いかどうかを決定する方法も上記のとおりである。
【0047】
本発明の第4の態様によれば、個人から得られた試料について、miR-126、miR-223及びmiR-197からなる群より選ばれる少なくとも2種のマイクロRNA、又はmiR-126、miR-24及びmiR-197からなる群より選ばれる少なくとも2種のマイクロRNAのレベルを測定することを含む、心血管障害を予測及び/又は診断する方法を提供する。
【0048】
miR-126のレベルは、心血管障害、特に心筋梗塞を有する個人で低いことが分かった。miR-223、miR-24及びmiR-197のレベルは、心血管障害、特に心筋梗塞を有する個人で高いことが分かった。
【0049】
上記の測定を行うことにより、個人が心血管障害を有するか又は発症する可能性があるかどうかを、高い特異性と感度をもって決定することが可能であることが分かった。特異性とは、この方法において、そのようなものとして同定された真の陰性(心血管障害を有さないか又は発症しない個人)の比率として定義される。感度とは、この方法において、そのようなものとして同定された真の陽性(心血管障害を有するか又は発症する可能性がある個人)の比率として定義される。本方法は、3種のバイオマーカーを用いて比較的容易に実行することのできる高精度の検査を提供する。
【0050】
本明細書において使用される「心血管障害」という用語は当業者には周知である。好ましくは、この用語は、冠状動脈アテローム性動脈硬化症などの冠血管障害;及び肺アテローム性動脈硬化症及び高血圧症などの肺血管障害を包含する。特に好ましくは、心血管障害は心筋梗塞である。この障害は、糖尿病と関連してもよく又は関連しなくてもよい。本発明の第4の態様よる方法は、心血管障害を有する患者が効果的に治療されているかどうかを決定することにも使用することができる。
【0051】
本発明の第4の態様の例示は上記のとおりである。さらに、miR-126、miR-223、miR-24及びmiR-197のレベルを測定する方法も上記のとおりである。
【0052】
好ましくは、本発明の第4の態様による方法は、個人から得られた試料について、
(i)miR-126及びmiR-223;又は、
(ii)miR-126及びmiR-24
のレベルを測定することを含む。好ましくは、miR-197のレベルもまた測定される。
【0053】
さらに好ましくは、本方法は、個人から得られた試料について、miR-126及びmiR-223のレベルを測定することを含む。好ましくは、miR-197のレベルも測定してもよい。
【0054】
本発明はまた、下記のマイクロRNAのうち少なくとも2種のレベルを検出するセンサーを提供する:
(i)miR-126、miR-223及びmiR-197;又は、
(ii)miR-126、miR-24及びmiR-197。
【0055】
好ましくは、本センサーは、
(i)miR-126及びmiR-223;又は、
(ii)miR-126及びmiR-24
のレベルの検出用である。好ましくは、miR-197のレベルも本センサーにより測定される。
【0056】
マイクロRNAのレベルを測定するのに適したセンサーは当業者に周知であり、上記のとおりである。
【0057】
本発明はまた、下記のマイクロRNAのうち少なくとも2種のレベルを検出するための試薬を含むキットを提供する:
(i)miR-126、miR-223及びmiR-197;又は
(ii)miR-126、miR-24及びmiR-197。
【0058】
好ましくは、本キットは、
(i)miR-126及びmiR-223;又は、
(ii)miR-126及びmiR-24
のレベルを検出するための試薬を含む。好ましくは、miR-197のレベルも本キットにより検出される。
【0059】
本発明のキットは、RT-PCRによりマイクロRNAのレベルを検出するための試薬を含んでもよい。
【0060】
次に本発明を、以下の図を参照して実施例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】miRNA共発現ネットワーク及びmiRNAトポロジー値を示す図である。A)0.85を超えるピアソン相関係数(PCC)値を有する、120種のmiRNA及び1020本の共発現リンクからなる共発現ネットワーク。結節点はmiRNAを表し、接線は共発現の存在を表す。B)ネットワークにおける30種のmiRNAに対するトポロジー値。30種の特異的に発現したmiRNAでは、13種がトポロジー的に重要な位置を占めた。
図2】血漿miR-126と糖尿病(DM)との関連性を示す図である。一般的DMを有する患者及び対応対照(データ示さず)において、13種の血漿miRNAをqPCRにより定量化した。内皮miR-126を一例として示す。倍変化及びp値は、単変量解析及び多変量解析から導かれる。右側のバーは、高血糖Lepobマウスの血漿において観察される倍変化との比較を与える。
図3】血漿miRNAと偶発DMとの関連性を示す図である。10年以上の観察期間のあるDMを発症した患者及び対応対照において、13種の血漿miRNAをqPCRにより定量化した。アスタリスク(*)はp<0.05を、アスタリスク(***)はp< 0.001を示す。
図4】主成分分析(PCA)及びネットワーク特性を示す図である。A)対照(n=99)、偶発DM(n=19)及び一般的DM(n=80)にまたがる13種のmiRNAの分類効率。主要重要度スコアが高くなれば、分類可能性が大きくなることを示す。B)最上位のN−評点miRNAの集合に適用されたサポートベクターマシン(SVM)分類指標の分類精度。最良の分類精度(0.77%)は、最上位の5−評点miRNAを用いて達成された。追加のmiRNAの集合は、SVM成績を増大させなかった。C)最上位の5−評点miRNAのPCA分解は、91/99(92%)の対照及び56/80(70%)のDMを有する患者を識別するのに十分であった。特に10/19(52%)の偶発DMを有する患者は、疾患が明白になる前に、既にDM患者としてクラスター化されていた。D)背景尤度関連性アルゴリズムにより推定される、対照(n=91)及び一般的DMである患者(n=56)における13種のmiRNA間の異なるネットワーク構造。対照ネットワーク(19個の結節点、23本のリンク)及びDMネットワーク(13個の結節点、18本のリンク)は、10種のmiRNA及び11本の連結を共有した。それにも関わらず病態は、変化したmiRNA−miRNA共発現値(miR-15a)で定義されているように再配線された、実質的な接線により特徴づけられた。
図5】内皮に由来するアポトーシス組織において、miR-126が減少していることを示す図である。A)内皮細胞(HUVEC)、内皮由来アポトーシス組織(AB)及びマイクロパーティクル(MP)における、高グルコースに応答したmiR-126レベル。B)DM患者及び対照の血漿試料から単離された血中アポトーシス組織(AB)及びマイクロパーティクル(MP)におけるmiR-126レベル。値は倍変化±SEを表す;* p < 0.05。
図6】調査した個人における種々のmiR間の相関性を示す図である。
図7】偶発心筋梗塞(MI)に対する血漿miRNAシグニチャーを示す図である。グラフは、疾患リスク(AICに基づくモデル並びに最小絶対収縮及び選択演算子により同定)に最も矛盾なく関連する3種のmiRNAについてのリスク推定を示す。ハザード比(95%CI)は、漸進的調整レベルを有する標準コックス回帰モデルから導き出された。MiR-223及びmiR-24は高度に相関し、ほぼ完全相関(r = 0.945)に達する。従って、miR-223をmiR-24と交換しても同様の結果を与える。
図8】異なる細胞型におけるmiRNAを示す図である。末梢血単核球(PBMCs)、血小板(PLTs)及び内皮細胞(EC)におけるmiR-126(A)、miR-223(B)及びmiR-197(C)発現の評価は、定量的ポリメラーゼ連鎖反応を用いて行った。サイクル閾値(Ct)を与えている。データは、3つの異なる標品から得られた平均±SDで示している。
図9】ディファレンスゲル内電気泳動(DIGE)を示す図である。スクランブルmiRNA又はmiR-126前駆体で処理したヒト臍帯静脈内皮細胞のDIGE分析(A)。調節解除されたタンパク質に番号付けし、表3に記載する。miR-126はPAI-1のmRNAレベル(B)及び正味の発現(C)に影響を及ぼさないが、ELISAで測定した培養上清中のPAI-1タンパク質分泌(D)及びPAI活性(E)を調節する。示されたデータは、独立した3試験の平均±SDである。*P値< 0.05(プレNeg対照に対する差異)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0062】
材料と方法
(研究被験者)
ブルーニコ(Bruneck)調査は地域住民をベースにした前向きの調査であり、最初はアテローム性動脈硬化症の疫学及び発症機序を調査するために計画され、後には糖尿病を含むすべての主要なヒト疾患を研究するために拡大された(Kiechl S et al. N Engl J Med. 2002 Jul 18;347(3):185-92、Bonora E et al.
Diabetes. 2004 Jul;53(7):1782-9、Kiechl S et al. Circulation. 2007 Jul 24;116(4):385-91、Kiechl S et al.
Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007 Aug;27(8):1788-95、Tsimikas S
et al. Eur Heart J. 2009 Jan;30(1):107-15)。1990年のベースライン評価で、調査対象母集団は、ブルーニコ(ボルツァーノ自治県、イタリア)のすべての住民について、40〜79歳(40歳代〜70歳代の各10年代について女性125名及び男性125名)の性別及び年齢で層化抽出された。計93.6%が参加し、919例の被験者についてデータ評価が完了した。1990年及び1995年の再評価(最初の5年)の間に、ある部分集団の63名が死亡又は引っ越した。残りの母集団において、追跡調査は96.5%(n=822)が完了した。RNA抽出は、822名の1995年追跡調査の一環として採取された血液検体から行われた。2000年及び2005年の追跡調査は、臨床評価項目については100%が完了し、また反復臨床検査については > 90%が完了した。ブルーニコ調査の手順は適切な倫理委員会により承認され、すべての研究被験者は、試験に参加する前に同意書を提出した。
【0063】
(病歴と検査)
各被験者について喫煙状態を評価した。習慣的なアルコール消費は、グラム/日を単位として数値化した。高血圧は、140/90 mm Hg以上の血圧(3回測定の平均)又は降圧薬の使用として定義した。肥満度指数は、体重割る身長の二乗(kg/m2)で算出した。腹囲及び腰囲(0.5 cm単位)は、それぞれ臍及び大転子の位置でプラスチックテープ計測器により測定し、腹囲対腰囲率(WHR)を算出した。社会経済的地位は、世帯の最高所得者の職業的地位及び教育水準に関する情報に基づき、3種のカテゴリー尺度(低、中、高)で評価した。DMの家族歴は一等親血縁者を指す。身体活動はベッケア(Baecke)スコア(スポーツ活動指標)(Baecke JA et al. Am J Clin Nutr. 1982 Nov;36(5):936-42)により数値化した。
【0064】
(検査方法)
血液試料は、一晩絶食後及び12時間の禁煙後に採取した。既知のDMを持たないすべての被験者に対して75 gの経口糖負荷(OGTT)を行い、耐糖能を証明するため120分後に血液試料を採取した。高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールは酵素的に測定した(CHOD-PAP法、メルク社;CV 2.2%〜2.4%)。低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールはフリーデバルト(Friedewald)の計算式により算出したが、トリグリセライドが > 4.52 mmol/Lで、直接測定した被験者を除いた。炎症マーカー及びその他のすべての検査値は、既に詳述されたように(Kiechl S et al. N Engl J Med. 2002 Jul 18;347(3):185-92、Bonora E et al.
Diabetes. 2004 Jul;53(7):1782-9、Kiechl S et al. Circulation. 2007 Jul 24;116(4):385-91、Kiechl S et al.
Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2007 Aug;27(8):1788-95、Tsimikas S
et al. Eur Heart J. 2009 Jan;30(1):107-15)、標準法により評価した。
【0065】
(糖尿病の確認)
DMの存在は、1995年に世界保健機関の診断基準(Bonora E et al. Diabetes. 2004 Jul;53(7):1782-9)、すなわち、空腹時血糖が7
mmol/L(126 mg/dl)である場合、若しくは2時間 OGTTグルコースが11.1 mmol/L(200 mg/dl)である場合、又は被験者がこの疾患の臨床診断を受けている場合に従って確定された。その後の10年間の追跡調査期間中、DMの偶発症例は、2000年及び2005年に入手されなかった2時間グルコースレベルを除き、同一も診断基準によって確定された。自己申告されたDM状態は、被験者を担当する一般開業医の医療記録とブルーニコ病院のファイルを精査することにより義務的に確認された。DMの自己申告症例は、有効な確認なしには受理されなかった。
【0066】
(肥満マウス)
すべての動物実験は、実験動物の利用と保護に対する施設委員会により承認された手続きに従って行われた。糖尿病患者において同定されたmiRNAプロファイルが高血糖動物にも適用されるかどうかを確定するため、本発明者らは肥満マウスの血漿中濃度を定量化した。この目的のため、8〜12週齢のLepobマウス(ob/obとして既知)(n=6)をジャクソン研究所から購入した。C57BL/6Jマウス(n=6)を対照として使用した。各マウスより計1 mLの血液を採取し、1200 gで4℃、20分間の遠心分離により血漿を分離した。血漿試料は一定分量とし、−80℃で保存した。
【0067】
(血漿よりRNAの単離)
全RNAは、miRNeasyキット(キアゲン社)を使用し、製造者推奨に従って調製した。簡単に説明すれば、200 μLの血漿をエッペンドルフチューブに移し、700 μLのQIAzol試薬と十分に混合した。室温で短時間放置した後、140 μLのクロロホルムを添加し、溶液を激しく混合した。次に、この試料を4℃、12000 rpmで15分間遠心分離した。上層の水相を新たなチューブに注意深く移し、1.5倍量のエタノールを添加した。次に試料を直接カラムに添加し、その会社の手順に従って洗浄した。全RNAは25 μLのヌクレアーゼフリー水で溶出させた。この25 μLの溶出液より、3 μLのRNA溶液の固定量を、各逆転写反応への投入量として使用した。
【0068】
(血中アポトーシス組織及びマイクロパーティクルよりRNAの単離)
血中微小胞を単離するため、糖尿病患者又は健常者の血漿試料を一緒にプールし(プール当たり30検体)、群あたり3プールを作成した。微小胞は、超遠心分離法により単離した。簡単に説明すれば、血漿試料を800 gで10分間遠心分離して沈殿物を除去した後、上清を10600 rpmで20分間遠心分離することによりアポトーシス組織を単離した。この沈渣はPBSに再懸濁した。上清を20500 rpmで2時間さらに遠心分離し、マイクロパーティクルを単離した。沈渣となったマイクロパーティクルはPBSに再懸濁し、残りの上清を微小胞除去血漿と見なした。全RNAは上記のようにmiRNeasyキットを使用して単離した。
【0069】
(逆転写と前置増幅)
個人の血漿試料の特異的miRNAレベルを評価するため、25 μLの前記溶出液より、3 μLのRNA溶液の固定量を、各逆転写(RT)反応への投入量として使用した。RT反応と前置増幅手順はその会社の推奨に従って準備し、上記のように実施した。RT-PCR及び前置増幅産物は−20℃で保存した。miRNAは、アプライドバイオシステムズ社のMegaplexプライマープール(ヒトプールA v2.1及びB v2.0)を使用して逆転写した。プールAは377種のヒトmiRNAの定量を可能とし、さらに290種のmiRNAは、プールBを使用して評価した。それぞれのアレイは、データ正規化のため、3種の内在性対照及び陰性対照を含んだ。RT反応は、その会社の推奨に従って実施した(0.8 μLのプールされたプライマーを、dTTPを含む0.2 μLの100 mM dNTP(デオキシヌクレオチド三リン酸)、0.8 μLの10×逆転写緩衝液、0.9 μLのMgCl2(25 mM)、1.5 μLのMultiscribe逆転写酵素、及び0.1 μLのRNAsin(20 U/μL)と混合し、7.5 μLの最終量とした。)。RT-PCR反応は次の通りに設定した:Veritiサーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社)を用い、16℃で2分間、42℃で1分間及び50℃で1秒間のサイクルを40回行った後、85℃で5分間温置した。RT反応産物はMegaplexプリアンプ・プライマー(プライマーA v2.1及びB v2.0)を用いてさらに増幅した。RT産物の2.5 μLの分割量を、12.5 μLの前置増幅マスターミックス(2×)及び2.5 μLのMegaplexプリアンプ・プライマー(10×)と混合し、25 μLの最終量とした。前置増幅反応は、試料を95℃で10分間加熱し、次に、95℃で15秒間及び60℃で4分間のサイクルを12回続けることにより行った。最終的に、試料を95℃で10分間加熱し、酵素不活化を確実にした。前置増幅反応産物は希釈して100 μLの最終量とし、−20℃で保存した。
【0070】
(タックマン(Taqman)miRNAアレイ)
血漿試料中のmiRNAの発現プロファイルは、ヒト・タックマンmiRNAアレイA及びB(アプライドバイオシステムズ社)を用いて測定した。PCR反応は、450 μLのタックマン・ユニバーサルPCRマスターミックスNo AmpErase UNG(2×)及び9 μLの希釈した前置増幅産物を使用し、900 μLの最終量で行った。100 μLのPCRミックスをタックマンmiRNAアレイの各ポートに分注した。次に流体カードを遠心分離し、機械的に密封した。qPCRは、製造者の推奨プログラムを使用し、アプライドバイオシステムズ社7900HTサーマルサイクラーで行った。結果の詳細分析は、リアルタイムStatminerソフトウェア(Integromics社)を用いて行った。
【0071】
(タックマンqPCRアッセイ)
タックマンmiRNAアッセイは、個々のmiRNA発現を評価するために使用した。0.5 μLの希釈した前置増幅産物を、0.25 μLのタックマンmiRNAアッセイ(20×)(アプライドバイオシステムズ社)及び2.5 μLのタックマン・ユニバーサルPCRマスターミックスNo AmpErase UNG(2×)と混合し、5 μLの最終量とした。qPCRは、アプライドバイオシステムズ社7900HTサーマルサイクラーで、95℃で10分間行ったのち、95℃で15秒間及び60℃で1分間のサイクルを40回行った。すべての試料について2回実行し、SDS2.2ソフトウェア(アプライドバイオシステムズ社)を用いて、miR-454及びRNU6bに対して標準化した。感度分析については、PCR効率に対するmiRNAレベルを、LinRegPCRソフトウェア(Kiechl S et al. N Engl J Med. 2002 Jul 18;347(3):185-92)を用いて補正した。
【0072】
(内皮細胞培養と微小胞の単離)
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)はCambrex社より購入し、1 ng/mL内皮細胞成長因子(シグマ社)、3 μg/mL ウシ神経組織由来内皮増殖サプリメント(シグマ社)、10 U/mLヘパリン、1.25 μg/mLチミジン、5%ウシ胎児血清並びに100 μg/mLペニシリン及びストレプトマイシンを補充したM199培地中で、ゼラチンコートフラスコで培養した。高グルコース(25 mM)に曝露したHUVECは、完全培地中で6日間培養した。対照(5 mMグルコース)として、HUVECを、浸透圧ストレスを排除するためマンニトールを補充した完全培地で培養した。第5日に細胞を計数し、同数の細胞をT75フラスコに播種してさらに1日間培養した。次に、細胞に血清と増殖因子を24時間与えず、前述のように(Prokopi M et al. Blood. 2009 Jul 16;114(3):723-32)、アポトーシス組織とマイクロパーティクルを単離した。簡単に説明すれば、培養上清を回収し、800 gで10分間遠心分離して細胞片を除去し、細胞はQIAzol試薬(T75フラスコ当たり1 mL)で溶解した。溶解物はmiRNA発現研究まで−20℃で保存した。次にアポトーシス組織を、上清を10600 rpmで20分間遠心分離することにより単離した。沈渣はPBS(T75当たり500 μLのPBS)に再懸濁し、−80℃で保存した。上清はさらに20500 rpmで2時間遠心分離し、内皮細胞から遊離したマイクロパーティクルを単離した。マイクロパーティクルもまたPBS(T75当たり500 μLのPBS)に再懸濁し、−80℃で保存した。全RNAは、PBS中のアポトーシス組織200 μLから、上記のようにmiRNeasyキットを用いて単離した。全RNAは25 μLのヌクレアーゼフリー水で溶出した。RNAはナノドロップ(NanoDrop)分光光度計を用いて定量化し、全RNAの20 ngを逆転写に使用した。
【0073】
(miRNA共発現ネットワーク推測と解析)
miRNA発現プロファイルの類似性は、可能なすべてのmiRNA組み合わせ間で、ピアソン相関係数(PCC)又は背景尤度関連性(CLR)を用いて調べた(Ramakers C et al. Neurosci Lett. 2003 Mar 13;339(1):62-6)。所定の閾値を超える依存関係を維持する組み合わせは、方向づけのない加重ネットワークの形式で表し、結節点はmiRNAとリンク(接線)に相当する。PCCは主要点(miRNA)間の直線関係を評価する方法であるが、CLRは相互情報計量に依存し、直線性を前提としないので(Roulston M. Physica D. 1997(110):62-6、Slonim N et al. Proc Natl Acad Sci U
S A. 2005 Dec 20;102(51):18297-302)、他の方法では見逃す可能性のある生物学的関係を検出するある程度の柔軟性を有する。PCCは、発現アレイのスループットの高い空間から、miRNAが発現された類似性のクラスターを検出するために用いたが、CLRは、qPCRで検証された規則的に関連したすべてのmiRNAプロファイルを同定するために用いた。PCCとCLRは時として同様の結果を与えるが、CLRは検証されたmiRNAに対して選択した。その理由は、CLR がmiRNA発現の非線型動態に対してPCCより鋭敏であり、また、生物学的に意味のある関係の同定において他のネットワーク推測法(例えばARACNE)よりも格段に優れている(Faith JJ et al. PLoS Biol. 2007 Jan;5(1):e8、Bansal et al. Mol
Syst Biol. 2007;3:78)ためである。PCC閾値は、miRNA共発現ネットワークが、生物を含むほとんどの実在のネットワークの特徴であるスケールフリー構造(Barabasi AL. Science. 2009 Jul 24;325(5939):412-3)を獲得し始める点に設定した。CLR閾値は、13種のすべてのmiRNAがネットワーク中に表れるが、miRNA間のリンクができるだけ少数であることを保ち続けるように選択した。
【0074】
(トポロジー解析)
プレスクリーニングの間に、miRNAを、網羅的miRNA共発現ネットワークにおけるトポロジー及び個々の高発現又は低発現に基づいて詳しく調べた。各miRNAについて、結節度、クラスター化係数及び固有ベクトル中心度を含むトポロジーパラメータを体系的に算出した。結節度は、所定のmiRNAに結合される接線の総数として定義される。クラスター化係数は、miRNAが共にクラスター形成する傾向の程度である。固有ベクトル中心度は、特定のmiRNAが、ネットワークの中でそれ自身重要である他のmiRNAと強く関連し合うという場合に、その特定のmiRNAがより大きな値を受けるというようなmiRNA重要度の評価基準である。
【0075】
(ネットワーククラスター形成)
miRNA共発現ネットワークのモジュール構造は、マルコフ(Markov)クラスター化(MCL)アルゴリズム(van Dongen S. Graph clustering by flow simulation 2000)を用いて同定した。これは、グラフ流動シミュレーションに基づく効率的、教師なし、かつ高精度のグラフクラスター化方法である(Enright AJ et al. Nucleic Acids Res. 2002 Apr 1;30(7):1575-84)。MCLの明らかな長所は、偽陰性接線存在下での不正確なクラスター化帰属を回避することができる能力である。これは、MCLが、局所区域における高次の結合性を共有し、かつ単なる一対連結ではないmiRNAに基づくクラスターを見出すという事実に起因する。
【0076】
(特徴選択、主成分分析、及び分類)
検証されたmiRNAの予測重要性は、10000ある決定樹の全体に対してブートストラップ集合を用いて算出した。各miRNAプロファイルには、対照、偶発糖尿病及び一般的糖尿病の種類をいかにうまく区別することができるかに基づいて特徴重要度値を割り当てた。次に、対照、偶発糖尿病及び一般的糖尿病のコホートが区別され得るかどうかを決めるため主成分分析(PCA)を用いた。PCAは、データをデータの大部分の変化を説明する2種以上の無相関成分に減らす手法である。PCAの識別力は、教師あり学習法であるサポートベクターマシン(SVM)アルゴリズムを用いて数値化した。SVMは、無作為に選択されたデータの半分について教育され、残りのサンプルについて検証される。この手順を10回繰り返し、最終的な修正分類比率を、すべてのSVM反復の平均として示した。分類はSVMに限定されず、当業者によく知られている他の機械学習方法を用いて、同等な精度をもって実施してもよい。
【0077】
(検体採取戦略と統計解析)
最初のマイクロアレイ・スクリーニングのため、5名のDM患者(ブルーニコ調査における80名の糖尿病患者から無作為に選んだ)それぞれから得た血漿の2プール、並びに年齢、性別、危険因子プロファイル(LDL、喫煙、高血圧)及びアテローム性動脈硬化症状態が同一の対照者から得た血漿の6プールを用いた。マイクロアレイで同定した30種の候補miRNAのqPCR及びmiRNA共発現ネットワーク推測は、糖尿病患者並びに糖尿病患者と年齢及び性別が一致する健常者対照のそれぞれ15サンプルの2群について行った。より大規模なコホートにおけるqPCRは、DMと相関性を示す13種のmiRNAに対して行った。タックマン(Taqman)アッセイは、(a)ブルーニコ・コホート(1995年、n=80)における糖尿病患者すべて、(b)1995〜2005年の間にDMを発症した患者19名、及び(c)空腹時血糖値が6.1 mmol/L(110 mg/dL)未満、2時間値血糖が7.7 mmol/L(140 mg/dL)未満かつDM病歴のない、年齢及び性別が同一の80名及び19名の対応する対照者の試料につき2回実施した。数個の適切な対応については、すべてについて昇順に番号を付け、コンピューターによる乱数発生器を用いて1つを選択した。最終的に、822名の個人全員についてmiR-126を測定した。一般に認められた基準がないため、すべてのqPCRデータは未補正Ct値のままで解析し、核内低分子RNAであり、次の基準:すなわち、すべての試料で検出される、発現レベルのばらつきが少ない、及びDM状態と無関係、を満たすmiR-454とRNU6bに標準化した。さらに、miR-454発現プロファイルは、他のmiRNAとほとんど相関性を示さず、血漿中の複雑なmiRNAネットワークの共発現モジュールの外側に位置した(図1)。データは、SPSSバージョン15.0及びSTATAバージョン10ソフトウェアパッケージを用いて解析した。連続型変数は、平均±SD又は中央値(四分位範囲)、及び数字と百分率の二値変数で示した。個々のmiRNAの倍変化は、(前)糖尿病症例と対照との各対応対を、miRNAの標準化された発現レベルで割ることにより算出した。倍変化の中央値は図中に示される。一般的又は偶発糖尿病患者と、適合した対照の対応群との間のmiRNAレベルの差異は、正確にP値を計算しながら、関連サンプルについてノンパラメトリック・ウイルコクソン検定を用いて分析した。生活様式及びDMに関連する他の変項の潜在的な交絡効果を説明するため、及び相互作用を分析するため、発明者らはさらに、自然対数変換したmiRNAの発現レベル(モデル当たり1つ)及び次の変項:すなわち社会的地位、DMの家族歴、肥満度指数、腹囲対腰囲率、喫煙状況、アルコール消費(g/日)、身体活動(スポーツ指標)及び高感度C反応性タンパク質についての対応データのロジスティック回帰分析を行った。モデル構築の詳細は、Hosmer及びLemeshowにより説明された(Hosmer DW LS. Applied Logistic Regression; 2000)。miRNAと上記変項並びに年齢及び性別との間の一次相互作用は、適切な相互作用項を含めることにより算出した。これらの項のどれも統計的有意差をもたらさなかった。示されたすべてのP値は両側である。
【0078】
結果
(網羅的miRNAプロファイリング)
最初のスクリーニングでは、754種の小さなノンコーディングRNAを対象とするヒト・タックマン(Taqman)miRNAアレイ(カードA v2.1及びカードB v2.0、アプライドバイオシステムズ社)を、2種は糖尿病患者で構成され、また6種は適切な対照(方法を参照)で構成された8種のプールされたサンプルに適用した。Ct値が36未満である148種のmiRNAのうち130種のmiRNAが流体カードAを用いて検出されたので、さらなるすべての分析はこのデータセットに集中し、その結果、DM患者において特異的に発現した30種の血漿miRNAが同定された(結果は示さず)。
【0079】
(miRNAネットワーク解析)
ネットワークトポロジーを用いたマーカー選択は、個々の高発現又は低発現の評価より再現性があるので(Chuang HY, Lee E, Liu YT, Lee D, Ideker T. Mol Syst Biol. 2007;3:140)、特異的に発現した30種のmiRNAを、miRNA共発現ネットワークにおけるそれらの局在性に基づいて試料採取した。miRNA共発現ネットワークは、大まかに連結された多くの結節点と結び付けられた少数のハブ(多くの生物学的ネットワークの特徴)が大半を占める。miRNAネットワークは、120種のmiRNA(結節点)と1020本の共発現リンク(接線)からなる(結果は示さず)。ネットワークの中では、特異的に発現した30種のmiRNAがトポロジー的に重要であった(図1A)。したがって、発現変化と異なった中心度が生物学的重要性の指標となり得ると仮定した。疾患関連結節点が生物学的ネットワークに対して重要であるのか又は重要ではないのかはまだ不明確であったので、本発明者らは、結節度値、クラスター化係数値及び固有ベクトル中心度値が極端なスペクトルを示す、特異的に発現した30種のmiRNAのうち13種を選択した(図1B)。MiR-454は、他のmiRNAの発現と相関性を示さず、またすべてのネットワークモジュールの外側に位置した唯一のmiRNAであった(図1A)。したがって、MiR-454を追加の正規化対照として使用した。
【0080】
(qPCRによる検証)
トポロジー的に独特な13種のmiRNAを、さらにqPCRにより定量化した。1995年の評価時に明らかなDMの患者すべて(n=80)を、年齢及び性別が対応した対照と比較した。miR-24、miR-21、miR-20b、miR-15a、miR-126、miR-191、miR-197、miR-223、miR-320、miR-486、miR-150及びmiR-29bの血漿レベルは糖尿病患者で低かったが、miR-28-3pはほとんどの場合高かった(結果は示さず)。RNU6bに対して標準化された9種のmiRNAは、糖尿病患者と対照との間で有意差を示し、また4種は、内皮のmiR-126を含めて、多重比較を実施した後でも有意なままであった(ボンフェローニP値< 0.000133)(図2)。しかしながら、個々のmiRNAは相互に独立しておらず、広く相互に関連するため、ボンフェローニ補正はこの設定で過度に控えめである。多変量解析において、miR-29bを除くすべてのmiRNAは、DMと有意に関連した(11種は逆相関を示し、miR-28-3pは正相関を示した。(結果は示さず))。別の実行では、miR-126は、全部のブルーニコ・コホート(n=822)について定量化し、miR-454に対して標準化した。ロジスティック回帰分析において、miR-126は一般的糖尿病の重要な予測因子として再び明らかとなり(オッズ比[95%CI]、0.38[0.26−0.55];P=2.72×10−7)、この関連性は、多変数アプローチにおいても存続した。予想した通り、miRNAレベルは、DM患者及び対照被験者の両方の空腹時血糖値と逆相関し(r = −0.191〜−0.335、miR-29b及びmiR-320を除き、それぞれp<0.05)、2時間血糖値(r = −0.091〜−0.239)及びHba1c濃度(r = −0.093〜−0.312)とはあまり一貫性がなかった。DMにおいて観察されたmiRNAの変動のほとんどは、8〜12週齢の高血糖Lepobマウスの血漿試料において独立して再現することができた(図2)。
【0081】
(偶発糖尿病とmiRNAネットワーク)
需要なことに、数種のmiRNAはDMの症状が現れる以前に既に変化していた。1995年には正常血糖であった計19名の被験者が、10年間の追跡調査期間中にDMを発症した(1995〜2005年、糖尿病の診断までの平均間隔79.3月)。これらの被験者において、miR-15a、miR-29b、miR-126及びmiR-223のベースラインレベルは著しく低かったが、miR-28-3pは対応する対照に比較して高かった(図3)。
【0082】
(糖尿病におけるバイオマーカーとしてのmiRNA)
miRNAが、一般的糖尿病又は偶発糖尿病を有する個人を健常人対照から正確に区別することができるかどうかを判定するため、本発明者らは、主成分分析(PCA)を行うことにより、miRNAの予測力を評価した。興味深いことに、最もスコアの高い5種のmiRNA(miR-15a、miR-126、miR-320、miR-223、miR-28-3p)が2つの主成分に減少した場合、サポートベクターマシン(SVM)は、91/99(92%)の対照及び56/80(70%)のDM症例を正確に分類した(図4)。健常人として分類された24例のDM症例は、空腹時血糖(平均±SD、120.0±28.6 mg/dL対147.2±55.0 mg/dL、p=0.005)及びHba1c(平均±SD、6.03±0.75%対6.66±1.54%、p=0.016)が著しく低いレベルであり、十分な治療を受けた糖尿病患者を表す。注目すべきは、偶発DMを有する10/19(52%)の被験者は、疾患が明白になる前に、既に糖尿病と分類されていた。分類にさらにmiRNAを含めても、モデルの感度又は特異性は改善しなかった(図4B)。したがって、これら5種のmiRNAは、miRNAシグニチャーに基づく被験者の区別に対して最小必要要件であると見なすことができる。DMの診断手段として、miRNAの推定値は、背景尤度関連性を用いるmiRNAネットワークの推定によりさらに支持された。トポロジー的に、対照ネットワークは、DMネットワークよりさらに相互連結されており(それぞれ、平均結節度 = 3.9対2.8)、より多くの中心性結節点を含んだ(それぞれ、平均固有ベクトル中心度 = 0.24対0.20)(図4)。しかしながら、このmiRNAシグニチャーの可能性を評価するには、DM及び前糖尿病を有する患者の大規模で総合的な研究が必要である。
【0083】
(内皮由来アポトーシス組織におけるmiRNAとヒト血管疾患)
miRNAの中でDMに最も強く関連するものは、内皮特異的miR-126であった。以前このmiRNAは、血管健全性、血管新生及び創傷修復を調節することが示されていた(Fish JE et al. Dev Cell. 2008 Aug;15(2):272-84、Wang S et al. Dev
Cell. 2008 Aug;15(2):261-71)。miR-126は微小胞の内皮細胞から遊離される。高血糖が内皮細胞からのmiR-126遊離に影響するかどうかを判定するため、通常(5 mM)及び高(25 mM)グルコース濃度下で得られたHUVECのアポトーシス組織とマイクロパーティクルのmiRNAレベルを比較した。細胞miRNA濃度は変わらないままであったが、高グルコースは、内皮アポトーシス組織におけるmiR-126含量を著しく減少させたのに対し(図5A)、miR-24を除く他のmiRNAの排出には影響しなかった(結果は示さず)。インビボ実験と一致して、DM患者におけるmiR-126レベルの減少は、血中アポトーシス組織に限定された。
【0084】
最終的に、人口コホートから得られた証拠により、血漿中のmiR-126の減少は、無症候性及び顕性末梢動脈障害と相関することが示唆された。詳細には、miR-126は、下足関節上腕血圧比(< 0.9、n=77)(自然対数変換したmiR-126の発現レベルの1−SD単位に対する非調整及び年齢/性別調整オッズ比[95%CI]、0.51[0.39−0.67] P< 0.001及び0.72[0.54−0.95] P=0.025)及び初発症候性末梢動脈障害(1995〜-2005年、n=15)(自然対数変換したmiR-126の発現レベルの1−SD単位に対する非調整及び年齢/性別調整ハザード比[95%CI]、0.38 [0.20-0.72] P=0.0032及び0.46[0.23-0.93] P=0.030)と関連していた。後の分析においては、ベースラインにおける症候性末梢動脈障害患者37名は除外した。
【0085】
考察
本研究において本発明者らは、miR-126の顕著な減少を含む、DM患者の特徴的な血漿miRNAシグニチャーの存在を示し、この背景において、miRNAの潜在的な予後的重要性に対する予備的証拠を与える。また本発明者らは、血漿中のmiR-126の減少は、無症候性及び顕性末梢動脈障害と相関することを示す。
【0086】
(DMにおける血漿miRNA)
血漿miRNAは膜質の微小胞に入っており、リボヌクレアーゼ(RNase)分解より保護されている。これらの微小胞はさまざまな種類の細胞により放出されており、病態に依存して数、細胞起源及び組成が変化する(VanWijk MJ, VanBavel E, Sturk A, Nieuwland R. Cardiovasc Res. 2003
Aug 1;59(2):277-87)。累積する証拠により、微小胞は細胞活性化又はアポトーシスの結果として生じる副生成物であるだけではないという概念が支持される。それどころか、微小胞は細胞間伝達機構の新しい類型を構成する。DM患者並びにこれらの年齢及び性別が対応した対照における13種のmiRNA評価により、密接に相互連結されたネットワークを形成する、特徴的な血漿miRNAパターンが示された(図1及び4)。特に注目すべきことは、数種の血漿miRNAの調節解除はDMの兆候に先行するという知見である(図3)。これらの知見の臨床的関連は次の通りである;(1)miRNAはDMにおける主要な代謝経路の後成的制御に決定的に関与することが想定され、疾患の病態生理及び合併症に関する洞察を与える(この点において、内皮miR-126は、特に注目に値する)、(2)miRNAプロファイルは、前糖尿病段階であっても、早期の疾患予知及び介入治療を可能にするバイオマーカーとして役立つ。
【0087】
(バイオマーカーとしてのmiRNAプロファイル)
ネットワークトポロジーの発現差異及び概念を用いて、本発明者らは、13種のmiRNAの発現を同定し、評価した。検討した13種のmiRNAのPCAでは、最もスコアの高い5種のmiRNA(miR-15a、miR-126、miR-320、miR-223、miR-28-3p)が、非冗長分類に対して必要かつ十分であることが示される。重要なことに、miRNAネットワークは、DMにより著しく影響を受けた。推測されたDMネットワークは、対照ネットワークと比較して、差別的に線で結ばれた。この知見は、健常人対照と比較した、白血病患者におけるmiRNAの再配線に関する最近の報告と一致する(Volinia S et al. Genome Res. 2010 May;20(5):589-99)。トポロジー的に、対照ネットワークは、DMネットワークよりハブの除去に対して堅固であり(結果は示さず)、通常の状態での「保護的」トポロジーが示唆された(Jeong H et al. Nature. 2001 May 3;411(6833):41-2)。
【0088】
(miR-126及び糖尿病)
大部分の血漿miRNAは広く発現しているが、miR-126は内皮特異的と見なされており、miRNAの中で最も矛盾なくDMにより影響を受けると位置づけられる。全身性内皮機能不全はDMの既知の結果であり、血管合併症や異常な血管新生反応をもたらす。MiR-126は、血管健全性を維持するうえで中心的役割を果たすことが示されており(Fish JE et al. Dev Cell. 2008 Aug;15(2):272-84、Wang S et al. Dev
Cell. 2008 Aug;15(2):261-71)、またアポトーシス組織におけるmiR-126の遊離は、パラクリン的に血管を保護する(Zernecke A et al. Sci Signal. 2009 Dec 8;2(100):ra81)。本研究は、高グルコース濃度が細胞miR-126含量を変化させることなく、内皮アポトーシス組織におけるmiR-126レベルを減少させることを示すことにより、これらの知見をさらに詳しく説明する。特に、DM患者血漿のmiR-126の観察される減少は、同様に血中アポトーシス組織を限定する。miR-126はまた、本明細書において、末梢動脈障害を含む血管障害の効果的なマーカーであることが示された。
【実施例2】
【0089】
材料と方法
(研究被験者)
上記実施例1で用いられたものと同じ被験者について検討した。致死的及び非致死的心筋梗塞(MI)は、確定的疾病状態に対するWHO診断基準に従って確定した。
【0090】
(血漿からRNAの単離)
血漿からの全RNA抽出は、上記実施例1に記載したように、miRNeasyキット(キアゲン社)を使用して行った。
【0091】
(逆転写及び前置増幅並びにタックマンqPCRアッセイ)
上記実施例1に記載したように行った。
【0092】
(末梢血単核球(PBMC)及び血小板(PLT))
PBMCは標準手順に従って単離した。ヘパリン添加全血(5〜8 mL)を10 mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)(pH 7.4)で希釈し、ヒストパック1083の上面に重層して、400 g、30分間遠心分離した。PBMCは2回洗浄し、PBSに再懸濁して、血球計算器で計数した。血小板(PLT)は、前述のように健常人より単離した(Prokopi M et al. Blood. 2009 Jul 16;114(3):723-32)。簡単に説明すれば、抗凝固剤としてクエン酸デキストロース(ACD:120 mMクエン酸ナトリウム、110 mMグルコース、80 mMクエン酸、1:7 容積/容積)を用いて血液を採取し、インドメタシン(10 μM;シグマ−アルドリッチ社)の存在下、200 g、30℃で17分間遠心分離した。次に、多血小板血漿をプロスタサイクリン(0.1 μg/mL;シグマ−アルドリッチ社)存在下、さらに10分間、1000 gで遠心分離した。得られた血小板は、4×108/mLの濃度で改変タイロード−ヘペス(HEPES)緩衝液(145 mM NaCl、2.9 mM KCl、10 mM HEPES、1 mM MgCl2、5 mMグルコース、pH 7.3)に再懸濁した。
【0093】
(内皮細胞培養)
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)はCambrex社より購入し、1 ng/mL内皮細胞成長因子(シグマ社)、3 μg/mLウシ神経組織由来内皮増殖サプリメント(シグマ社)、10 U/mLヘパリン、1.25 μg/mLチミジン、10%ウシ胎児血清並びに100 μg/mLペニシリン及びストレプトマイシンを補充したM199培地中で、ゼラチンコートフラスコで培養した。細胞は、1:4の比で3日ごとに継代培養した。
【0094】
(細胞形質移入及びプロテオミクス解析)
miR-126高発現のために、HUVECを、その会社の推奨に従ってリポフェクタミンRNAiMAX(インビトロジェン社)を用いて形質移入した。簡単に説明すれば、細胞をT75フラスコに播種し、翌朝、90 nMの最終濃度にしたプレmiR-126又は陰性対照プレNeg(Ambion)を用いて、無血清培地中で形質移入した。細胞は、プロテオミクス解析のための形質移入後48時間で回収した。重要技術は、ディファレンスゲル内電気泳動及び液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC−MS/MS)を含む、従来公表された手順の適応を含んだ。
【0095】
(逆転写酵素−PCR)
全RNAは、プロメガ逆転写システム(プロメガ社、マジソン、ウィスコンシン州)を用いてcDNAに変換した。cDNA産物は、遺伝子特異的プライマーを用いて、PCRにより増幅した。使用したプライマーは、PAI-1順方向:CAA CTT GCT TGG GAA AGG AG、及びPAI-1逆方向:GGG CGT GGT GAA CTC AGT AT、GAPDH順方向:CGG AGT CAA CGG ATT TGG TCG TAT、及びGAPDH逆方向:AGC CTT CTC CAT GGT GGT GAA GACであった。PCR条件は次の通りとした:すなわち、94℃で3分間の後、94℃で30秒間、58℃で1分間及び72℃で1分間のサイクルをPAI-1に対して30回、またGAPDHに対して28回、次に72℃で10分間とした。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動により分離した。
【0096】
(免疫ブロット)
HUVECを冷PBS(4℃、pH 7.4)で2回洗浄し、RIPA緩衝液(1 μg/mLロイペプチン、1 μg/mL アプロチニン及び100 μMフッ化フェニルメチルスルホニルを追加した10 mMトリス(pH 8.0)、10 mM EDTA、140 mM NaCl、1%トリトン、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS及び25 mMβ−グリセロール−PO4)中で氷上に回収し、次に、4℃、13000 rpmで15分間遠心分離した。この上清を回収し、ウエスタンブロット解析に使用した。免疫ブロットには、20 μgの細胞可溶化物をSDS-PAGEに適用した。PAI-1及びβ−アクチンに対する抗体はアブカムより得た。特異的抗体−抗原複合体は、ECLウエスタンブロット検出キット(アマシャム・ファルマシア・バイオテク、イギリス)を用いて検出した。
【0097】
(プラスミノーゲン活性化因子阻害因子(PAI-1)アッセイ)
プレmiR-126又は陰性対照プレNegで形質移入したHUVECの培養上清を、形質移入後24時間で回収した。PAI活性は、ミリポアのPAI活性キットにより、その会社の推奨に従って評価した。簡単に説明すれば、培養上清中のPAIを活性化緩衝液(4 M塩酸グアニジン、20 mM酢酸ナトリウム、pH 5.6、200 mM塩化ナトリウム、0.1%ツイーン20)により活性化した。次に、陽性対照としてウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(uPA)を使用し、酵素反応を行った。この反応において、発色基質は活性uPAにより切断され、405 nmでその光学濃度(OD)により検出した。PAI試料を添加することにより、uPAによる基質の切断が阻害された。酵素活性は、吸光度値を標準曲線と比較することにより測定した。
【0098】
(統計解析)
データは、統計パッケージSPSSバージョン15.0及びSTATAバージョン10.1を用いて解析した。通常は、分配連続型変数は平均±標準偏差(SD)で、非対称な分布のある変数は幾何平均±幾何SDで、また二値変数は数字及び百分率で示した。t検定及びフィッシャーの直接確率検定は、追跡調査期間中にMIを発症した人と発症しなかった人との間の参加者特性における差異を解析するために用いた。ガウス分布の近似値を求めるため、自然対数変換miRNAをすべての計算に用いた。miRNA間の相関性は、ボンフェローニ補正P値を伴うピアソン相関係数を用いて評価した。血漿miRNA間の複合推測をさらに探求するため、上記に詳述したようにネットワーク解析を適用した。自然対数変換miRNAレベルと偶発MIとの間の関連を評価するためには、コックス比例ハザード回帰モデルが適切であった。将来のMIに対する最高の予測能力を持つmiRNAのサブセット又はパターンを同定するため、2種類の異なる方法を使用した:(1)最初の方法は2段階法であった。候補miRNAの数及びそれに続く計算要求を減らすためには、緩やかな算入基準及び除外基準(P(入力)= 0.15及びP(除去)= 0.20;年齢、性別及び既往心血管疾患を調整した)を有する前方及び後方コックス回帰分析が適切であった。分析のどちらか又は両方から選ばれた8種類のmiRNA(miR-24、miR-126、miR-140、miR-150、miR-197、miR-223、miR-486及びmiR-885-5p)が、第2番目の「最良のサブセット」に適格であると見なした。適格なmiRNAのすべての組み合わせのコックス回帰モデルを計算し、このモデルについての、このモデルにおいて最大化された対数尤度に基づき、媒介変数の数の増加に対して罰則を与える、赤池の情報量基準(AIC)に従って比較した。低値のAICは好ましいモデルを示し、このモデルは、適切な適合(精度と複雑度との交換取引)を与える最少の媒介変数を有するものである。(2)第2の方法は、20種の候補miRNAに対して「最少絶対収縮及び演算子選択(lasso)アルゴリズム」を実行する、L1−罰則付与と呼ばれる手法を利用した。L1−罰則付与法は、回帰係数の推定値を、最尤推定値に関連するゼロに向けて圧縮する。この手法は、マイクロアレイデータから遺伝子シグニチャーを作りだし、共線性及び高次元性から生じる過剰適合を防ぐために使用した。圧縮量は、すべての回帰計数をゼロにまで圧縮する値まで、徐々に増加する同調媒介変数λ1により決定した。適合した回帰係数(y軸)対λ1(x軸)の図は、R統計ソフトウェアの「罰則付与」パッケージ(Goeman J.J., コックス比例ハザードモデルにおけるL1−罰則付与推定、Biom. J., 2010, 52 (1): 70−84、を参照)を用いて作り出した。lasso法は個々の説明変数の関連性及び頑健性を評価できるようにするが、回帰係数に対して先入観を伴う推定を生じる。従って、最終的に選択された3種のmiRNAに対するリスク推定(両方の方法ともに同じmiRNAシグニチャーを同定した。)は標準コックス回帰分析により計算され、年齢及び性別(モデル1)、喫煙状態(喫煙者対非喫煙者)、収縮期血圧、LDLコレステロール、糖尿病及び心血管疾患歴を加えたもの(モデル2)、他のmiRNAを加えたもの(モデル3)、肥満度指数、腹囲対腰囲率、HDLコレステロール、C反応性タンパク質及びフィブリノーゲンの自然対数を加えたもの(モデル4)について調整された。0.05未満の両側P値を有意と見なした。
【0099】
結果
(ブルーニコ調査における血漿miRNA)
820名の参加者があった1995年評価におけるベースラインの人口学的特性、臨床特性及び臨床検査値特性を図1に示す。すべての被験者は起源が白人であった。10年の追跡調査期間中に計47名の参加者が心筋梗塞を経験し、これは年間1000人あたり6.5人[95%CI 4.9−8.6]の発症率に相当した。最初のスクリーニングでは、754種の小さなノンコーディングRNAを網羅するヒト・タックマンmiRNAアレイ(カードA v2.1及びカードB v2.0、アプライドバイオシステムズ社)を、8種のプールされたサンプルに適用した。このサンプルは、異なる心血管危険因子(高コレステロール血、喫煙、高血圧、糖尿病)に適合したアテローム硬化型血管疾患のある被験者及びアテローム硬化型血管疾患のない被験者で構成された。Ct値が36未満である148種のmiRNAのうち130種のmiRNAが流体カードAを用いてヒト血漿中に検出されたので、さらなるすべての分析はこのデータセットに集中した。プレスクリーニングにおいて有望な標的として浮かび上がり、また血漿miRNAネットワーク内で、結節度値、クラスター化係数値及び固有ベクトル中心度値の極端なスペクトルを以前に示した8種の血漿miRNAを選択し、全ブルーニコ・コホート(n=820)について測定した。追加的な12種のmiRNAは、変形性関節症(n=820)に関する継続中のプロジェクトの一部として定量化した。
【0100】
図6に示されるようにmiRNAレベルは相互に強く相関し、あるものはほぼ完全な相関に至った(例えばmiR-24とmiR-223、r = 0.945)。MIを経験した参加者及び経験しない参加者におけるmiRNAの複雑な依存性は、miRNA−miRNA相関プロファイルとしてさらに精査した。相関パターンは、両群間で異なった。miRNAネットワークの「再配線」はmiR-126の周辺で生じ、miR-197、miR-223、miR-24及びmiR-885-5pが関与した。
【0101】
(血漿miRNAと偶発MIとの間の関連)
miRNA選択は2つの異なる方法に基づいた。(1)モデルにおける適合度と媒介変数の数の両方を検討する基準であるAICの比較を伴う段階的コックス回帰は、3種の望ましいmiRNAの組み合わせ:miR-126/-197/-223、miR-126/-197/-24及びmiR-126/-24/-885-5p(6個の自由度を持つそれぞれ〜563のAIC)を同定した。(2)L1−罰則付与コックス回帰分析において、miR-126、miR-197及びmiR-223は、いかなる罰則付与(λ1)レベルでも偶発MIと強い関連性を示し、ゼロに圧縮するべき回帰係数に最高のλ1を必要とするmiRNAとして浮かび上がったが、miR-24の性能はより悪かった。従って、本発明者らは、miR-24を含まないmiR-126/-197/-223の組み合わせを優先した。最終的に選ばれた3種のmiRNAに対して見積もられたリスクを図7に示す。miR-223及びmiR-197はMIと正の相関を示したが(多変数ハザード比2.19[95%CI 1.26−3.83]、P=0.006、及び1.79[95%CI 1.00−3.20]、P=0.049)、miR-126は疾病リスクと逆相関した(多変数ハザード比0.40[95%CI 0.22−0.73]、P=0.003)。性別、糖尿病又は既存の心血管疾患による影響修正はなかった(表2)。他のmiRNAを個々にmiR-126/-197/-223を既に含む多変数モデルに加えた場合、どれも統計的有意性をもたらさなかった。
【0102】
(血漿miRNAの細胞起源)
興味のある3種の血漿miRNAの細胞起源を確定するため、PBMC、血小板及びHUVECにおいて発現レベルを比較した。予期した通り、miR-126は内皮細胞において非常に豊富であった(図8A)。対照的に、miR-223はPBMC及び血小板で豊富であったが(図8B)、miR-197は3種類のすべての細胞型で同じように発現していた(図8C)。
【0103】
(miR-126の標的を同定するためのプロテオミクス解析)
内皮細胞のプロテオームに関するmiR-126の潜在的直接的及び間接的効果を選別するため、本発明者らは、10%のタンパク質発現の差を検出することができるディファレンスゲル内電気泳動(DIGE)を使用した。HUVECはmiR-126の前駆体(プレmiR126)又はプレmiRNA対照で形質移入した。miR-126の過剰発現はqPCRにより確認した。48時間後、細胞を回収し、プロテオームをDIGEにより比較した。異なって発現されたタンパク質スポットを切り取り(図9A)、トリプシンで消化し、LC−MS/MSにより同定した。プロテオミクスアプローチは、オープンアクセス・バイオインフォマティクス方法論(オープンソース予測ソフトウェア・プログラムmiRBase、TargetScan、miRNAviewer、MIRanda、PicTar)と組み合わせ、miR-126の直接及び間接効果を判別した。プロコラーゲン−リジン2−オキソグルタル酸5−ジオキシゲナーゼ2(PLOD2ヒト)のみが、種領域においてほとんど完全なワトソン−クリック塩基対合を有した(1つのG:Uゆらぎ)。
【0104】
(miR-126とPAI-1分泌)
MIとの関連で、プラスミノーゲン活性化因子阻害因子1(PAI1_HUMAN )の発現の違いが特に興味深かった。PAI-1は線維素溶解の強力な阻害物質である。先の報告と一致して、miR-126によるPAI-1の制御は、mRNAの分解又は翻訳阻害では起こらなかった(図9B及び9C)。しかしながらDIGEはまた翻訳後修飾における変化を視覚化した。従って、miR-126によるPAI-1の制御は、内皮のPAI-1分泌を変化させる翻訳後修飾によって生じる可能性がある。実際、プレmiR-126を形質移入したHUVECではPAI-1の分泌が有意に少なく(図9D)、培養上清中でPAI活性が減少することを説明するものとなった(図9E)。
【0105】
考察
miRNAの発現シグニチャーは、個別の病態に関連するリスクを評価する興味深い手段であることが分かっている。血漿miRNAは、主に白血球(〜40%)、血小板(〜30%)及び内皮細胞(〜10%)に由来する膜質の微小胞に入っている。本研究は、血漿miRNAと偶発MIとの間の関連性に関する、地域住民をベースにした初めての前向きの調査である。本発明のデータは、二次MIを有する被験者における、内皮miR-126周辺の血漿miRNAの「再配線」を強調する。さらに本発明者らは、miR-126発現が、MIリスクと逆相関することに対する潜在的な説明を与える内皮の線維素溶解特性を亢進させることの証拠を提供する。
【0106】
(心筋梗塞における血漿miRNA)
これまでに、miR-1、miR-133a、miR-133b、miR-499-5p及び心臓特異的miR-208aなどの筋細胞に豊富なmiRNAは、損傷した筋肉から遊離され、急性心筋梗塞後に検出されることが報告されている(Wang GK et al. Eur Heart J. 2010 Mar;31(6):659-66)。健常人においては、これらのmiRNAは血漿中に検出されないか、又は非常に少ないコピー数で存在する(Wang GK et al. Eur Heart J. 2010 Mar;31(6):659-66)。したがってこれらのmiRNAは、急性心臓障害の潜在的バイオマーカーとして役立つ可能性があるが、健常人におけるリスク評価には使用することができない。本発明者らの目的は、今後の心臓事象に先立つ可能性のある血中miRNAの変化を同定することであった。この目的のために、本発明者らは、ブルーニコ・コホートの1995年評価から得られた血漿試料を利用し、10年の観察期間(1995年〜2005年、MIまでの平均期間=72ヵ月)を通して、ベースラインmiRNAレベルとMI発生率との間の潜在的な関連性を分析した。大部分のmiRNAは高度に相互関係があるので、大域的発現パターンは、miRNAデータを共発現ネットワークとして表すことにより検討すべきであった。分析において、本発明者らは、プレスクリーニングにおいて有望な標的として浮かび上がり、また特有のネットワークトポロジーを示す8種のmiRNAを検討した。これらのmiRNAのうち3種:miR-126、miR-197及びmiR-223は、MIに対するmiRNAシグニチャーの一部を形成した。見いだされたものは標準的な血管危険因子とは独立しており、部分集団(男及び女、糖尿病及び非糖尿病、既往心血管疾患のある参加者及びない参加者)(表2)において不変であり、また異なる統計手法を用いた場合でも堅固であった。他の12種のmiRNAは、プレスクリーニングにおいてアテローム硬化性血管疾患とは関連せず、またヒト解析において、有意性に達しなかった。
【0107】
(miR-126と線維素溶解)
miR-126は内皮細胞において非常に豊富であったが、血小板や末梢血単核球などの他の細胞型においても低濃度ではあるが検出可能であった(図8)。従って、他のmiRNAに対する調整は、血漿中のmiR-126含有量に対する内皮の寄与を精密化することができる。miR-126及びその発現は、以前は血管の健全性及び内皮細胞の恒常性と結び付けられていた(22〜24)。miR-126の確認された標的は、Sprouty関連EVH1ドメイン含有タンパク質−1(SPRED1)である。SPRED1は血管新生シグナル伝達の細胞内阻害物質であり、ホスホイノシトール−3キナーゼ調節サブユニット2(PIK3R2)及び血管細胞接着分子1(VCAM-1)である。ここに本発明者らは、線維素溶解調節におけるmiR-126の新たな役割を明らかにする。本発明者らは、プロテオミクスを用いて、内皮細胞におけるmiR-126の過剰発現は、ウロキナーゼ型及び組織型プラスミノーゲン活性化因子(uPA及びtPA)(Diebold I et al. Thromb Haemost. 2008 Dec;100(6):984-91)として与えられる、内因性線維素溶解の主要な阻害物質であるPAI-1の分泌を有意に減少させることを見いだした。従って、miR-126レベルが低いことは、高いPAI-1活性及び低下した線維素溶解へと置き換えることができる。実際、高いPAI-1血漿活性は、アテローム血栓性心血管系事象のリスクが高まることと結びついており(Diebold I et al. Thromb Haemost. 2008 Dec;100(6):984-91、Smith A et al. The
Caerphilly Study. Circulation. 2005 Nov 15;112(20):3080-7、Kohler HP et al.
N. Engl. J. Med. 2000 Jun 15;342(24):1792-801、Thogersen AM et al. Circulation. 1998
Nov 24;98(21):2241-7、Hamsten A et al. Lancet. 1987 Jul 4;2(8549):3-9)、標準的再疎通療法(血栓溶解)への抵抗性を確定する可能性があり、また症候性糖尿病性大血管障害における主要な病態生理学的成分の構成要素となる。スルホニル尿素やインスリンのような標準的な抗糖尿病治療がPAI-1レベルを正常化することができないことは、血管リスクについて、これらの効果が満足のいかないものであることを部分的に説明することを示唆している。
【0108】
(miR-197及びmiR-223)
miR-223は、内皮細胞よりも血小板及び末梢血単核球において豊富であるが、miR-197は3種類のすべての細胞型で同じように発現している(図8)。現在のところ、この両方のmiRNAの潜在的な血管作用についての知識は限られている。miR-223は前駆細胞機能や顆粒球機能を負に調節することが示されており、またmiR-223と高度に相関しているmiR-24は、p53非依存性細胞周期阻害物質であることが示されている。
【0109】
結論
本研究により、血漿miRNAは一般住民においてMIリスクと関連しており、またmiR-126は、病態生理学的に、内因性線維素溶解の主要な阻害物質であるPAI-1の分泌と結び付いている可能性があることが明らかにされた。
【実施例3】
【0110】
ブルーニコ調査からの付加的な解析が行われた。具体的には2010年評価からのデータが含められている。そのため、参加者を10年間(1995〜2005年)ではなく15年間(1995〜2010年)追跡調査し、さらに20%多くの症例があった。
【0111】
結果の統計解析は上記実施例2に記載した通りに行った(結果は示さず)。
【0112】
miR-126とmiR-223との関連性は、15年間の観察期間を通してでもなお維持され、非致死的心筋梗塞より致死的心筋梗塞を有する患者において、より明白であった。具体的には、miR-126とmiR-223との組み合わせは、心血管障害の予測と診断に対して効果的な方法を提供する。miR-197については重要性が低下しており、3種のmiRNAの中では、miR-197は最弱のマーカーであることが示唆される。
【0113】
上記において引用されたすべての参考文献は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0114】
【表1】
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図6
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]