(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056087
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】非線形光学顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20161226BHJP
G02F 1/29 20060101ALI20161226BHJP
G02F 1/03 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
G02B21/06
G02F1/29
G02F1/03
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-197366(P2012-197366)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-52532(P2014-52532A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】511140194
【氏名又は名称】株式会社フォブ
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】中井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】大出 孝博
【審査官】
堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−112863(JP,A)
【文献】
特開2010−224044(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/084692(WO,A1)
【文献】
特開2012−042900(JP,A)
【文献】
特開2012−073152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00−21/00
G02B 21/06−21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光源から出射されるレーザー光を対物レンズにより試料中に集光させて非線形光学現象を誘起させ、この非線形光学現象によって生じる光を検出して試料を観察する非線形光学顕微鏡において、
印加電圧に応じて素子内部の屈折率が変化する電気光学効果を呈する第1の電気光学素子内に前記レーザー光を通し、前記印加電圧を制御することで、前記レーザー光を一方向に集光させる第1のモジュール、前記第1のモジュールで一方向に集光された前記レーザー光の偏光を90度回転させる1/2波長板、および、前記1/2波長板を通過した前記レーザー光を第2の前記電気光学素子内に通し、前記印加電圧を制御することで、前記レーザー光を前記一方向に直交する方向に集光させる第2のモジュールを備え、前記レーザー光を光軸方向に一次集光する焦点調節光学系と、
前記焦点調節光学系によって一次集光された前記レーザ光を光軸方向に二次集光して試料に照射する前記対物レンズを備える顕微鏡光学系とから構成され、
前記レーザー光が試料中に集光する光軸方向の位置を可変させることを特徴とする非線形光学顕微鏡。
【請求項2】
前記電気光学素子は、立方晶の状態のタンタル酸ニオブ酸カリウム結晶であることを特徴とする請求項1に記載の非線形光学顕微鏡。
【請求項3】
前記印加電圧は、前記電気光学素子の一面に間隔をあけて帯状に設けられた一方の一対の電極と、前記電気光学素子の前記一面に対向する他面に前記一方の一対の電極に対向して帯状に設けられた他方の一対の電極との間に印加されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非線形光学顕微鏡。
【請求項4】
前記非線形光学現象は、多光子吸収現象または高調波発生現象または和周波もしくは差周波発生現象またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱現象であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の非線形光学顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光源から出射されるレーザー光を対物レンズにより試料中に集光させて非線形光学現象を誘起させ、試料を観察する非線形光学顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の非線形光学顕微鏡では、電動モータや圧電素子を使用して、対物レンズや試料を載置するステージを移動させることで、焦点調節をしている。特許文献1に開示される顕微鏡装置では、演算回路により決定された駆動方向および駆動速度で電動モータを駆動して、対物レンズと標本面との相対位置を光軸方向へ移動することにより、焦点調節を行っている。
【0003】
しかし、対物レンズやステージを機械的に移動させるこのような顕微鏡では、焦点調節を迅速に行えず、ライフサイエンス分野におけるミリ秒オーダーで起こる速い生体現象などを三次元的に捉えることは不可能であった。また、電動モータや圧電素子を使用して光軸方向にレーザー光を高速に走査する場合、振動が発生する。振動は顕微鏡装置や画像に影響を与える恐れがあり、極力低減させる必要がある。
【0004】
このため、従来、特許文献2に開示される液体変形レンズを用いた3次元共焦点顕微鏡や、特許文献3に開示される液晶レンズを用いた光ヘッド装置が提案されている。
【0005】
特許文献2に開示される3次元共焦点顕微鏡は、表面張力型の可変焦点レンズを対物レンズの手前に備え、この可変焦点レンズによって対物レンズの光軸方向への走査が行われる。可変焦点レンズは、互いに混ざり合わない第1の液体(例えば油)と第2の液体(例えば水)とが、板と電極と支持台とで囲まれた箱内に充填されて構成されている。第1の液体と支持台との接触角θは電極への印加電圧に対応して変化し、この印加電圧を制御することで、可変焦点レンズの焦点距離が調節される。
【0006】
また、特許文献3に開示される光ヘッド装置では、フレネルレンズ面と液晶層とを組合わせ、電界印加により液晶の配向を変化させ、フレネルレンズ面による回折効果の有無を切り替えて焦点距離を変化させる液晶レンズが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−8630号公報
【特許文献2】特開2004−317704号公報
【特許文献3】特開2007−73088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来の特許文献2に開示される液体変形レンズを用いた3次元共焦点顕微鏡は、特許文献1に開示される対物レンズを機械的に移動させる顕微鏡装置よりも、高速に焦点距離を変化させることは出来るが、それでも速度限界は50Hz程度である。従って、ライフサイエンス分野における速い生体現象を三次元的にリアルタイムに捉えることは、困難である。
【0009】
また、上記従来の特許文献3に開示される光ヘッド装置に用いられる液晶レンズは、非線形光学顕微鏡に用いられるものではないが、非線形光学顕微鏡に適用したとしても、速度限界が数10〜100Hzであり、ライフサイエンス分野における速い生体現象を三次元的にリアルタイムに捉えることは、やはり困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
レーザー光源から出射されるレーザー光を対物レンズにより試料中に集光させて非線形光学現象を誘起させ、この非線形光学現象によって生じる光を検出して試料を観察する非線形光学顕微鏡において、
印加電圧に応じて素子内部の屈折率が変化する電気光学(EO)効果を呈する
第1の電気光学素子内にレーザー光を
通し、印加電圧を制御することで、
レーザー光を一方向に集光させる第1のモジュール、第1のモジュールで一方向に集光されたレーザー光の偏光を90度回転させる1/2波長板、および、1/2波長板を通過したレーザー光を第2の電気光学素子内に通し、印加電圧を制御することで、レーザー光を一方向に直交する方向に集光させる第2のモジュールを備え、レーザー光を光軸方向に一次集光する焦点調節光学系と、
焦点調節光学系によって一次集光されたレーザ光を光軸方向に二次集光して試料に照射する対物レンズを備える顕微鏡光学系とから構成され、
レーザー光が試料中に集光する光軸方向の位置を可変させることを特徴とする。
【0011】
電気光学素子における電気光学効果による屈折率変化は、電圧を印加することで結晶内に生じる電磁場に由来するものであるため、液体レンズにおける液体を移動させる速度や、液晶レンズにおける液晶の配向を変化させる速度よりも、極めて速く起こる。このため、レーザー光源から出射されるレーザー光を電気光学素子内を通過させる本構成によれば、電気光学素子への印加電圧を制御して電気光学素子内の屈折率を可変させることで、レーザー光が試料中に集光する光軸方向の位置を極めて速く可変させることが可能となる。従って、レーザー光の焦点調節を高速にしかも振動を生じさせること無く行える非線形光学顕微鏡が提供される。
【0012】
また、本発明は、電気光学素子が、立方晶の状態のタンタル酸ニオブ酸カリウム結晶(以下、KTN結晶と称する)であることを特徴とする。
【0013】
KTN結晶は、電気光学効果が極めて大きく、印加電圧に対して屈折率を大きく変えることができることが以前より知られていたが、近年の技術発達により実用的な大きさおよび性能の単結晶を得ることが可能となった。また、適切な温度管理により立方晶となった結晶は可視光〜赤外光領域において透明なので光学部品として利用可能である。このようなKTN結晶は、非線形光学顕微鏡における高速な焦点調節装置に特に適しており、KTN結晶を焦点調節装置とする本構成の非線形光学顕微鏡によれば、ライフサイエンス分野における速い生体現象などを三次元的にリアルタイムに十分捉えることが可能となり、ライフサイエンス分野などにおける技術発達に資することとなる。
【0014】
また、本発明は、印加電圧が、電気光学素子の一面に間隔をあけて帯状に設けられた一方の一対の電極と、電気光学素子の前記一面に対向する他面に前記電極に対向して帯状に設けられた他方の一対の電極との間に印加されることを特徴とする。
【0015】
本構成によれば、電気光学素子の一方の一対の電極と他方の一対の電極との間に電圧が印加されると、一方の一対の電極と他方の一対の電極との各間における電気光学素子内部に電界が発生する。この電界は、一方および他方の各電極が対向していない素子部分にも分布するが、電気光学効果による屈折率変化は電界の二乗に比例して起こるので、電極に近い電界が大きい素子部分で屈折率が大きく変化し、電極から離れた一対の電極間の中央の電界が小さい素子部分では、屈折率はあまり変化しない。光は屈折率の高い方に進んでいく傾向があるので、一方の一対の電極に挟まれた一面に入射したレーザー光は素子内部で光軸方向に偏向されて、他方の一対の電極に挟まれた他面から出射される。また、一方および他方の各一電極に挟まれた一側面に入射したレーザー光は素子内部で光軸方向に偏向されて、一方および他方の各他電極に挟まれた他側面から出射される。一方および他方の電極間に高い電圧を印加するほど屈折率は大きくなるので、レーザー光は素子内部で光軸方向に強く偏向され、焦点は電気光学素子により近づく。このように、一方および他方の電極間に印加する電圧の大きさを制御することで、試料中の光軸方向における焦点位置が可変されることとなる。
【0016】
また、本発明は、非線形光学現象が、多光子吸収現象または高調波発生現象または和周波もしくは差周波発生現象またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱現象であることを特徴とする。
【0017】
本構成によれば、レーザー光の焦点調節を高速にしかも振動を生じさせること無く行える、多光子励起蛍光顕微鏡または高調波発生顕微鏡または和周波もしくは差周波発生顕微鏡またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡といった非線形光学顕微鏡が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上記のように、レーザー光の焦点調節を高速にしかも振動を生じさせること無く行える非線形光学顕微鏡が提供され、ライフサイエンス分野における速い生体現象などを三次元的にリアルタイムに捉えることが可能となって、ライフサイエンス分野などにおける技術発達に資することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態による2光子励起蛍光顕微鏡の光路図である。
【
図2】
図1に示す2光子励起蛍光顕微鏡の焦点調節装置を構成するKTNモジュールの構造を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示すKTNモジュールが2個組み合わされてレーザー光が直交する2方向に集光される状況を示す斜視図である。
【
図4】一般的な光走査顕微鏡の光学系を示す模式図である。
【
図5】
図1に示す2光子励起蛍光顕微鏡の光学系を示す模式図である。
【
図6】
図1に示す2光子励起蛍光顕微鏡の制御系システム図である。
【
図7】本発明の一実施の形態の変形例による2光子励起蛍光顕微鏡の光路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明による非線形光学顕微鏡を2光子励起蛍光顕微鏡に適用した一実施の形態について説明する。
【0021】
図1は本実施の形態による2光子励起蛍光顕微鏡1の光路図である。
【0022】
本実施の形態による2光子励起蛍光顕微鏡1は、レーザー光源2として、フェムト秒モードロックチタンサファイアレーザーを用いており、レーザー光源2は、フェムト秒の瞬間のみ発光して超短パルス状のレーザー光を出射する。従って、レーザー光源2から出射されるレーザー光は平均光強度が低く保たれる一方、極めて高い密度の光となる。このレーザー光はビームエキスパンダ3,4およびシャッタ5を通過して高反射率ミラー6で反射し、第1のKTNモジュール7に入射する。第1のKTNモジュール7を通過したレーザー光はリレーレンズ8,9を経て1/2波長板10を通過し、第2のKTNモジュール11に入射する。第1のKTNモジュール7、1/2波長板10および第2のKTNモジュール11は焦点調節装置を構成し、後述するようにレーザー光を光軸方向のz軸方向に走査する。
【0023】
第2のKTNモジュール11を通過したレーザー光は高反射率ミラー12で反射し、集光レンズ13およびリレーレンズ14を通過して高反射率ミラー15で反射する。その後、リレーレンズ16および集光レンズ17を通過して高反射率ミラー18,19で反射し、スキャニングミラー20,21でx軸,y軸方向に走査される。走査されたレーザー光はさらにリレーレンズ22、チューブレンズ23およびダイクロイックミラー24を通過し、対物レンズ25によって試料26となる物体に集光されて照射される。
【0024】
試料26にレーザー光が照射されると、レーザー光が集光されているスポットの、蛍光色素によって染色された部分から蛍光が発生する。または、試料26が固有に持つ蛍光が発生する。レーザー光源2から出射されるレーザー光は上述のように光子の密度が高められているため、レーザー光が集光されて照射されることで、試料26において2光子吸収過程の非線形光学現象が起き、入射光の光強度の二乗に比例した強度の蛍光が発せられる。この蛍光は対物レンズ25で集められてダイクロイックミラー24で反射し、リレーレンズ27および赤外カットフィルター28を通過して照明光が取り除かれ、ダイクロイックミラー29で2つに分岐され、蛍光の種類に応じてフォトマルチプライア(PMT)30,31で増幅される。
【0025】
焦点調節装置を構成する第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11は同じ構造をしており、
図2にそれら構造の斜視図が示される。
【0026】
各KTNモジュール7,11は、電気光学素子であるKTN結晶41に二対の電極42a,42bおよび43a,43bが設けられて、構成されている。一方の一対の電極42a,42bは、直方体状をしたKTN結晶41の一面のレーザー光入射面41aにレーザー光の入射位置を挟んで間隔をあけて帯状に設けられている。他方の一対の電極43a,43bは、KTN結晶41の一面に対向する他面のレーザー光出射面41bにレーザー光の出射位置を挟んで、一方の一対の電極42a,42bに対向して帯状に設けられている。
【0027】
KTN結晶41は、カリウム(K)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)からなる酸化物で、化学式はKTa
1−xNb
xO
3で表される。このKTN結晶41は、正方晶と立方晶の相転移温度より数度高い温度に保たれて、立方晶の状態で用いられ、金(Au)や白金(Pt)などからなる金属製の二対の電極42a,42bおよび43a,43b間に電圧が印加されることで、電気光学効果を呈する。2光子励起蛍光顕微鏡1では、第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11の各KTN結晶41内に上記のようにしてレーザー光を通過させ、二対の電極42a,42bおよび43a,43b間への印加電圧を制御することで、印加電圧に応じてKTN結晶41素子内部の屈折率を変化させ、レーザー光が試料26中に集光する光軸方向の位置を可変させる。
【0028】
すなわち、KTN結晶41の一方の一対の電極42a,42bと他方の一対の電極43a,43bとの間に電圧が印加されると、一方の一対の電極42a,42bと他方の一対の電極43a,43bとの各間におけるKTN結晶41内部に図示するように電界Eが発生する。この電界Eは、一方および他方の各電極42a,42bおよび43a,43bが対向していない素子部分にも分布するが、電気光学効果による屈折率変化は電界Eの二乗に比例して起こるので、電極42a,42bおよび43a,43bに近い電界Eが大きい素子部分で屈折率が大きく変化し、電極42a,42bおよび43a,43bから離れた一対の電極間の中央の電界Eが小さい素子部分では、屈折率はあまり変化しない。光は屈折率の高い方に進んでいく傾向があるので、一方の一対の電極42a,42bに挟まれたレーザー光入射面41aに入射したレーザー光Bは、素子内部で光軸方向に偏向されて、他方の一対の電極43a,43bに挟まれたレーザー光出射面41bから出射される。一方および他方の電極42a,42bおよび43a,43b間に高い電圧を印加するほど屈折率変化は大きくなるので、レーザー光Bは素子内部で光軸方向に強く偏向され、それにより焦点はKTN結晶41に近づく。従って、一方および他方の電極42a,42bおよび43a,43b間に印加する電圧の大きさを制御することで、試料26中の光軸方向(z軸方向)における焦点位置が可変されることとなる。
【0029】
KTN結晶41のEO効果は入射光の偏光面に依存的であるため、いわばシリンドリカルレンズとして作用し、レーザー光Bの光を一方向にのみ集光する。また、KTN結晶41の集光効果は入射レーザー光Bの偏波面に強く依存するので、2光子励起蛍光顕微鏡1では、第1のKTNモジュール7のKTN結晶41でx方向に集光されたレーザー光Bの偏光を1/2波長板10で90度回転させてから、第2のKTNモジュール11に入射させ、第2のKTNモジュール11のKTN結晶41によってx方向に直交するy方向にレーザー光Bを集光させて、
図3に概念的に示すように、集光させる。なお、
図3において
図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0030】
図4は一般的な光走査顕微鏡の光学系を示す模式図、
図5は、本実施の形態の2光子励起蛍光顕微鏡1の光学系を示す模式図である。なお、
図5において
図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0031】
一般的な光走査顕微鏡の光学系では、
図4に示すように、レーザー光Bは、集光レンズ51により、位置が固定の一次集光点52に集光させられる。そして、チューブレンズ53および対物レンズ54を通過して試料に照射される。この際、対物レンズ54が、実線で示されるa位置や点線で示されるb位置に移動させられることで、焦点位置は位置55aや位置55bに調節される。
【0032】
一方、本実施の形態の2光子励起蛍光顕微鏡1の光学系は、焦点調節装置による光学系が
図5(a)、これに結合される顕微鏡光学系が同図(b)に示される。上述のように、レーザー光源2から出射されるレーザー光Bは、同図(a)に示すように、ビームエキスパンダ3,4を通って第1のKTNモジュール7に入射させられ、リレーレンズ8,9および1/2波長板10を通過して第2のKTNモジュール11に入射させられる。この際、第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11への印加電圧が制御され、集光レンズ13,17で集光されることで、光軸方向の焦点調節が行われ、位置61aや位置61bに一次集光点が移動させられる。
【0033】
集光レンズ13,17で位置61aや位置61bに一次集光されたレーザー光Bは、同図(b)に示すように、チューブレンズ23を通過後、位置が固定されている対物レンズ25によって位置62aや位置62bに焦点位置が調節される。
【0034】
図6は本実施の形態の2光子励起蛍光顕微鏡1の制御系システム図である。なお、同図において
図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0035】
第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11はそれぞれ同様な恒温槽71a,71b内に入れられている。各恒温槽71a,71bは窓72を備え、その内部にはヒータ73a,73bおよび温度センサ74a,74bが設置されている。各ヒータ73a,73bは温調回路75a,75b、各KTNモジュール7,11は高電圧ドライブ回路76a,76bに接続されている。また、温度センサ74a,74b、温調回路75a,75bおよび高電圧ドライブ回路76a,76bは、インターフェイス77a,77bを介してコンペンセーションコンピュータ78a,78bに接続されている。
【0036】
コンペンセーションコンピュータ78a,78bは、ソフトウエア79a,79bに従って動作し、温度センサ74a,74bによって計測される温度を参照しながら、温調回路75a,75bを制御して、各ヒータ73a,73bへの通電量を調節する。各ヒータ73a,73bへの通電によって恒温槽71a,71bの内部は、KTN結晶41の正方晶と立方晶の相転移温度(47℃程度)より数度高い温度に設定され、第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11の各KTN結晶41は立方晶の状態で用いられる。
【0037】
また、レーザー光をx軸,y軸方向に走査するスキャニングミラー20,21はx軸ガルバノミラー80,y軸ガルバノミラー81をそれぞれ構成し、x軸ガルバノミラー80,y軸ガルバノミラー81はx軸制御回路82,y軸制御回路83にそれぞれ接続されている。また、高電圧ドライブ回路76a,76bはインターフェイス77a,77bを介してz軸制御回路84に接続されている。これらx軸制御回路82,y軸制御回路83およびz軸制御回路84は同期信号発生回路85に共通接続されており、これらの間の同期がとられる。パーソナルコンピュータ(PC)86はx軸制御回路82,y軸制御回路83を制御し、スキャニングミラー20,21の角度を調節することで、試料26に照射されるレーザー光を試料26のxy平面においてx軸およびy軸方向に走査する。また、PC86はz軸制御回路84を制御し、高電圧ドライブ回路76a,76bを制御して、第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11の各KTN結晶41に設けられた電極42a,42bおよび43a,43b間への印加電圧を、例えば0〜1000[V]の範囲内で可変させる。これにより、試料26中に集光するレーザー光の焦点位置をz軸方向において調節する。
【0038】
また、フォトマルチプライア(PMT)30,31で増幅された試料26からの蛍光情報はアンプ87,88によってさらに増幅された後、画像メモリ89に記憶される。この画像メモリ89に記憶される蛍光情報は、試料26へのレーザー光の照射がx軸,y軸およびz軸方向に走査されることで、3次元の画像となり、PC86の画面に表示されて可視化される。
【0039】
このような本実施の形態による2光子励起蛍光顕微鏡1では、第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11の各KTN結晶41における電気光学効果による屈折率変化は、
図2に示すように電圧を印加することで結晶内に生じる電界Eに由来するものであるため、従来の特許文献2に開示された液体レンズにおける液体を移動させる速度や、従来の特許文献3に開示された液晶レンズにおける液晶の配向を変化させる速度よりも、極めて速く起こる。このため、レーザー光源2から出射されるレーザー光をKTN結晶41内を通過させる本構成によれば、KTN結晶41への印加電圧を高電圧ドライブ回路76a,76bによって制御してKTN結晶41内の屈折率を可変させることで、レーザー光が試料26中に集光する光軸方向(z軸方向)の位置を極めて速く可変させることが可能となる。従って、レーザー光の焦点調節を高速にしかも振動を生じさせること無く行える2光子励起蛍光顕微鏡1が提供される。
【0040】
また、KTN結晶41は近年の技術発達により実用的な大きさと機能を持った単結晶として得ることが可能となり、また、立方晶の状態のKTN結晶41は電気光学効果が極めて大きく起こり、低い電圧で屈折率を大きく変えることができる。このため、このようなKTN結晶41は、非線形光学顕微鏡における高速な焦点調節装置に特に適しており、KTN結晶41を上記のように焦点調節装置とする本実施の形態による2光子励起蛍光顕微鏡1によれば、従来の1000〜10万倍の速さで焦点調節を行えるようになる。また、電気光学効果を持つニオブ酸リチウム(LiNbO
3)結晶などによっても、効果は劣るが、同様な顕微鏡を製作することができ、高速な焦点調節を行える。この結果、電圧の印加により屈折率が変化する電気光学効果を持った結晶、例えばKTN結晶41やLiNbO
3結晶など、中でもKTN結晶41を用いた本実施の形態による2光子励起蛍光顕微鏡1によれば、ライフサイエンス分野における速い生体現象などを三次元的にリアルタイムに十分捉えることが可能となって、ライフサイエンス分野などにおける技術発達に資することとなる。
【0041】
なお、上述した本実施の形態では、レーザー光源2から出射されるレーザー光を対物レンズ25により試料26中に集光させて非線形光学現象として2光子吸収過程を誘起させ、この2光子吸収過程によって生じる光を検出して試料26を観察する場合について説明した。しかし、非線形光学現象は2光子吸収過程に限定されることはなく、2光子以上の3光子といった多光子吸収過程、または第2高調波発生(Second Harmonic Generation)や第3高調波(Third Harmonic Generation)といった高調波発生現象、または和周波発生現象(Sum Frequency Generation)もしくは差周波発生現象(Difference Frequency Generation)、またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱現象(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)などの非線形光学現象であってもよい。これらの構成によれば、上記の実施の形態による2光子励起蛍光顕微鏡1と同様に、レーザー光の焦点調節を高速にしかも振動を生じさせること無く行える、多光子励起蛍光顕微鏡または高調波発生顕微鏡または和周波もしくは差周波発生顕微鏡またはコヒーレントアンチストークスラマン散乱顕微鏡といった非線形光学顕微鏡が提供される。
【0042】
また、上述した本実施の形態では、
図1に示すように、第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11間にリレーレンズ8,9を設けた場合について説明した。しかし、
図7に示すように、第1のKTNモジュール7および第2のKTNモジュール11間にリレーレンズ8,9を設けず、2個のKTNモジュール7および11間をリレーレンズ8,9によってリレーしない構成としてもよい。なお、同図において
図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。このような構成によっても上述した本実施の形態と同様な作用効果が奏され、さらに、焦点調節装置を構成する第1のKTNモジュール7、1/2波長板10および第2のKTNモジュール11を直につなげた1つのモジュール構造とすることができる。
【0043】
また、上述した本実施の形態では、KTN結晶41へのレーザー光Bの入れ方が、
図2に示すように、一方の一対の電極42a,42bに挟まれたレーザー光入射面41aに入射させ、他方の一対の電極43a,43bに挟まれたレーザー光出射面41bから出射させた場合について、説明した。しかし、一方および他方の各一電極42a,43aに挟まれた図の左方の一側面にレーザー光Bを入射させ、一方および他方の各他電極42b,43bに挟まれた図の右方の他側面から出射させるようにしてもよい。
【0044】
このような構成によっても、電極42a,42bおよび43a,43bに近い電界Eが大きい素子部分で屈折率が大きく変化し、電極42a,42bおよび43a,43bから離れた一対の電極間の中央の電界Eが小さい素子部分では、屈折率はあまり変化しないので、一方および他方の各一電極42a,43aに挟まれた一側面に入射したレーザー光Bは、素子内部で光軸方向に偏向されて、一方および他方の各他電極42b,43bに挟まれた他側面から出射される。従って、KTN結晶41へのレーザー光Bの入れ方をこのようにしても上述した本実施の形態と同様な作用効果が奏される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本実施の形態の2光子励起蛍光顕微鏡1を始めとする各非線形光学顕微鏡は、遺伝子研究や脳・神経学、細胞機能の解明などの医学・生物学の最先端研究分野、光学測定装置やレーザー加工機として工業分野などの様々な領域で活用することが可能である。このような活用により、科学や産業、医療に多大な貢献をすることが出来る。
【符号の説明】
【0046】
1…2光子励起蛍光顕微鏡
2…レーザー光源
3,4…ビームエキスパンダ
5…シャッタ
6,12,15,18,19…高反射率ミラー
7,11…KTNモジュール
8,9,14,16,22,27…リレーレンズ
10…1/2波長板
13,17…集光レンズ
20,21…スキャニングミラー
23…チューブレンズ
24,29…ダイクロイックミラー
25…対物レンズ
26…試料
28…赤外カットフィルター
30,31…フォトマルチプライア(PMT)
41…KTN結晶(電気光学素子)
41a…レーザー光入射面
41b…レーザー光出射面
42a,42b、43a,43b…一対の電極