(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粉末状のケイ酸カルシウム系材料及び前記材料に含浸された油状物質を含む粉末組成物であって、前記材料における細孔径10〜70nmの累積細孔容積が1.1cc/g以上であり、かつ、細孔径70〜500nmの累積細孔容積が2.0cc/g以下であることを特徴とする油状物質含有粉末組成物。
油状物質が、1)ドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエンサン(EPA)の少なくとも1種の成分、2)前記成分を含む可食性天然油及び3)その精製油の少なくとも1種である、請求項1に記載の油状物質含有粉末組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの従来の油状物質含有粉末では、酸化安定性(耐酸化性又は抗酸化性)という点で十分なものとは言えない。また、上記粉末に油状物質を多量に含有させた場合、これを圧縮成型して得られる成型体(例えば、顆粒(造粒物)、錠剤等)は、その硬度がなお低く、この点においてもさらなる改良が必要である。
【0009】
一般に、カプセル錠、粉末(未造粒品)等の剤形に対し、錠剤等は取扱い及び摂取が比較的簡便であること、服用量の適正化が簡便であること等の理由から、各種のサプリメント(機能性食品、栄養剤等)のほか、医薬品においても処方薬から市販薬まで広く利用される剤形である。
【0010】
魚油のような油状物質を含有する油状物質含有錠剤を製造する場合、油状物質を吸油性担体に吸着させた後に圧縮成型により錠剤化する方法等が一般的に用いられているが、従来技術ではラミネーション等の打錠障害が生じ易くなり、これは油状物質の含有量が多くなるほど顕著になる。ここで、ラミネーションとは、打錠圧力が不均衡にかかることにより錠剤が層状に剥離する現象であり、圧縮成型時に吸油性担体から油状成分が滲み出すことにより、粒子どうしの接合が阻害されるために生じると考えられている。
【0011】
ラミネーションが発生した場合には、外観不良となるのみならず、そこに含有される油状物質の分布が不均一になり、また摂取後の体内での崩壊性、溶出性等が不適当となり、商品価値が著しく損なわれてしまう。しかも、その結果として引き起こされる錠剤等の硬度低下により、例えば輸送時又はPTP包装から錠剤を取り出す際に割れ又は欠けが生じやすくなる。
【0012】
従って、本発明の主な目的は、良好な酸化安定性を有しつつ、圧縮成型性にも優れた油状物質含有粉末組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の細孔構造を有する粉末状ケイ酸カルシウム系材料に油状物質を含浸させることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の油状物質含有粉末組成物に係る。
1. 粉末状のケイ酸カルシウム系材料及び前記材料に含浸された油状物質を含む粉末組成物であって、前記材料における細孔径10〜70nmの累積細孔容積が1.1cc/g以上であり、かつ、細孔径70〜500nmの累積細孔容積が2.0cc/g以下であることを特徴とする油状物質含有粉末組成物。
2. 油状物質が、1)ドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエンサン(EPA)の少なくとも1種の成分、2)前記成分を含む可食性天然油及び3)その精製油の少なくとも1種である、前記項1に記載の油状物質含有粉末組成物。
3. 平均粒径が1〜50μmである、前記項1又は2に記載の油状物質含有粉末組成物。
4. 油状物質の含有量が30重量%以上である、前記項1〜3のいずれかに記載の油状物質含有組成物。
5. 前記項1〜4のいずれかに記載の油状物質含有組成物を圧縮成型することによって得られた成型体。
【発明の効果】
【0015】
本発明の油状物質含有粉末組成物によれば、特定の細孔構造を持ったケイ酸カルシウムに油状物質が保持されているので、優れた酸化安定性とともに、良好な成型性を発揮することができる。これによって、油状物質の滲み出し等に起因するラミネーション等も効果的に防止することができる。
【0016】
酸化安定性に関し、一般に、油状物質を吸油性担体に吸着させる際、油状物質は吸油性担体の粒子表面、そして吸油性担体の細孔内に保持される。この場合、粒子表面に保持されている油状物質は、常に空気と接触している環境にあり、容易に酸化される。これに対し、細孔内に保持されている油状物質は酸化されにくく、長期間安定的に油状物質を保持できる。
【0017】
本発明では、吸油性担体として特定の細孔構造を有するケイ酸カルシウム系材料を採用することによって、より多くの油状物質を細孔中に保持できるようになった結果、油状物質は酸化から保護され、長期間安定的に保持することが可能になったものと推察される。
【0018】
成型性に関し、油状物質含有粉末組成物を圧縮成型しようとする場合、粒子表面に保持されている油状物質が粒子どうしの接着を阻害し、ラミネーション等の障害、あるいは成型体硬度の低下を引き起こすものと考えられる。細孔については、圧縮成型される際、比較的大きな細孔径を有する細孔が容易に潰れ、小さな細孔径を有する細孔はその形状を維持する。このため、油状物質を高い含有量で担持したとき、比較的大きな細孔径を有する細孔に保持されている油状物質は、ミクロな視点では細孔からの滲み出しが生じ、粒子どうしの接着を阻害し、ラミネーション等の障害や成型体硬度の低下を引き起こすのに対し、比較的小さな細孔径を有する細孔はその形状が維持されるため、小さな細孔径を有する細孔に保持されている油状物質は滲み出しにくくなるものと推察される。本発明では、特定の細孔構造を有するケイ酸カルシウム系材料を採用することによって、圧縮成型時に壊れない小さな細孔に多くの油状物質を保持することができる結果、ラミネーション等の障害を起こさず、成型体硬度が高い成型体(油状物質含有顆粒又は錠剤)を提供することが可能になるものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.油状物質含有粉末組成物
本発明の油状物質含有粉末組成物(本発明組成物)は、粉末状のケイ酸カルシウム系材料及び前記材料に含浸された油状物質を含む粉末組成物であって、前記材料における細孔径10〜70nmの累積細孔容積が1.1cc/g以上であり、かつ、細孔径70〜500nmの累積細孔容積が2.0cc/g以下であることを特徴とする。
【0021】
上記ケイ酸カルシウム系材料の細孔構造に関し、細孔径10〜70nmの累積細孔容積は、通常1.1cc/g以上であり、好ましくは1.1〜2.0cc/g、より好ましくは1.1〜1.5cc/gである。また、細孔径70〜500nmの累積細孔容積は、通常2.0cc/g以下であり、好ましくは0.6〜1.0cc/gであり、より好ましくは0.6〜0.8cc/gである。
【0022】
このように、本発明組成物では、細孔径10〜70nmの累積細孔容積が1.1cc/g以上、細孔径70〜500nmの累積細孔容積が2.0cc/g以下のケイ酸カルシウム系材料を吸液担体として採用することによって、細孔内に安定的に油状物質を保持し、かつ、圧縮成型時に細孔が壊れにくく、それによって成型時に障害が生じにくく、良好な成型体硬度を有する油状物質含有顆粒又は錠剤を提供することが可能となる。
【0023】
本発明組成物では、上記ケイ酸カルシウム系材料を吸油性担体として用いるので、吸油量がより高いことが望ましい。例えば、吸油量が2.5mL/g以上であり、さらには2.7mL/g以上であることが好ましい。すなわち、特定の細孔容積を有する本発明材料は、その細孔構造に由来し、高い吸油量を得ることができ、油状物質の高含有量化が可能となる。
【0024】
また、前記ケイ酸カルシウム系材料の比表面積は限定的ではないが、より高いことが望ましい。例えば、BET比表面積が通常50〜400m
2/g程度であり、特に100〜400m
2/gであることが望ましい。このような高い比表面積を有することによって、より高い吸油特性を得ることができる。
【0025】
前記ケイ酸カルシウム系材料は、粉末状の形態を有し、外観上は乾燥粉末状である。その平均粒径は、例えば本発明材料の用途、使用方法等に応じて適宜設定することができるが、圧縮成型性等の見地より、通常は1〜100μm程度とし、特に1〜50μm、さらには5〜25μmとすることが望ましい。
【0026】
本発明組成物中におけるケイ酸カルシウム系材料の含有量は限定的ではないが、通常は20〜70重量%程度とし、特に40〜50重量%とすることが好ましい。これによって、より効果的に油状物質をケイ酸カルシウム系材料に担持することができる。
【0027】
本発明組成物では、油状物質が上記ケイ酸カルシウム系材料に含浸されている。すなわち、上記ケイ酸カルシウム系材料を担体(吸油性担体)として油状物質が担持されている。これにより、本発明組成物の摂取前は油状物質がケイ酸カルシウム系材料中(特に細孔中)に閉じ込められ、固定化されているが、服用後には油状物質が体内に溶出することが可能となる。
【0028】
油状物質としては、可食性の油状物質である限りは、天然品又は合成品のいずれであっても良い。また、油状物質としては、例えば油類(油脂)、親油性物質等も含まれる。本発明では、特に、1)可食性天然油、2)その精製油及び3)これらの抽出成分の少なくとも1種を好適に用いることができる。上記天然油としては、魚油(カツオ油、サンマ油、イワシ油、サバ油等)、牛油、鯨油等の動物性油、大豆油、ゴマ油、エゴマ油、なたね油、月見草油、アマニ油等の植物性油が挙げられる。また、高リン脂質含有オイルとしては、例えばレシチン、レシチン高含有オイル、クリルオイル等を例示することができる。
【0029】
また、油状物質の具体的な成分としては、例えばビタミンA、ビタミンA誘導体、ビタミンE、ビタミンD、ビタミンK、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、βカロチン、ルテイン、アスタキサンチン、リコピン、リポ酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、トコトリエノール等の親油性物質を挙げることができる。
【0030】
特に、本発明では、1)ドコサヘキサエン酸(DHA)及びエイコサペンタエンサン(EPA)の少なくとも1種の成分、2)前記成分を含む可食性天然油及び3)その精製油の少なくとも1種を油状成分として好適に用いることができる。
【0031】
本発明で用いる油状物質の性状は、通常は液体であり、その粘度(25℃)は10〜1000mPa・s程度の範囲内であれば良い。本発明では、このような液体の油状物質をケイ酸カルシウム系材料に含浸させ、これを細孔内に保持することによって、外観上は粉末状(乾燥粉末状)の組成物とすることができる。
【0032】
本発明組成物中における油状物質の含有量は限定的ではないが、通常は30重量%以上の範囲内であれば良く、特に30〜80重量%とすることが好ましく、さらには50〜60重量%とすることがより好ましい。特に、本発明では、実施例にも示されているように、例えばケイ酸カルシウム系材料100重量部に対して油状物質100〜130重量部を効果的に担持させることができる。
【0033】
本発明組成物では、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて他の成分も添加することができる。例えば、セルロース、糖類等の一般的な賦形剤、クロスカルメロースナトリウム等の崩壊剤、無水ケイ酸等の流動化剤、並びにステアリン酸カルシウム等の滑沢剤のほか、防湿剤、安定化剤、結合剤等の添加物が挙げられる。また、溶出制御、苦味低減等の目的で糖類等によりコーティングを施したものであっても良い。
【0034】
2.油状物質含有粉末組成物の製造
本発明組成物の製造方法は、例えば(A)ケイ酸カルシウム系材料を調製する工程(調製工程)及び(B)前記ケイ酸カルシウム系材料に油状物質を含浸(担持)させる工程(含浸工程)を含む製造方法によって実施することができる。より具体的には、特に下記の製造方法によって好適に製造することができる。
【0035】
(A)調製工程
調製工程では、次のような方法により粉末状ケイ酸カルシウム系材料を調製する。この方法によって、所定の細孔構造を有する粉末状ケイ酸カルシウム系材料をより確実に得ることができる。
【0036】
すなわち、ケイ酸カルシウム系材料を製造する方法であって、
(1)水性媒体中にカルシウム原料を分散又は溶解させたカルシウム含有液にアルカリを添加して反応させることにより第1反応生成物を含む第1水性スラリーを得る第1工程、
(2)前記第1水性スラリー又はその水分量が調整された水性スラリーにケイ酸原料を添加して反応させることにより第2反応生成物を含む第2水性スラリーを得る第2工程、
(3)第2水性スラリー又はその水分量が調整された水性スラリーのpHを調整することによりケイ酸カルシウム系材料を含む第3水性スラリーを得る第3工程
を含む製造方法によって、粉末状のケイ酸カルシウム系材料を好適に調製することができる。以下において、各工程について説明する。
【0037】
第1工程
第1工程においては、水性媒体中にカルシウム原料を分散又は溶解させたカルシウム含有液にアルカリを添加して反応させることにより第1反応生成物を含む第1水性スラリーを得る。
【0038】
第1工程で用いるカルシウム含有液は、例えば水性媒体中にカルシウム原料を分散又は溶解させることによって調製される。
【0039】
前記カルシウム原料としては限定的でなく、公知のケイ酸カルシウムの製造で使用されているものと同様のカルシウム供給源を使用することができる。例えば、水溶性のカルシウム原料として、塩化カルシウム、硝酸カルシウム等のほか、水溶性の有機酸カルシウムが挙げられる。水不溶性又は水難溶性のカルシウム原料として、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、不溶性の有機酸カルシウム等を例示することができる。本発明では、反応液中に水酸化カルシウムとカルシウムイオンが共存していることによりケイ酸原料との反応が特異的に行われるという見地より、特に塩化カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等の少なくとも1種のカルシウム原料を好適に使用することができる。
【0040】
カルシウム含有液としては、例えば1)水性媒体中にカルシウム原料が溶解した溶液(すなわち、カルシウムイオンを含む溶液)、2)水性媒体中にカルシウム原料が分散した分散液、3)水性媒体中に分散したカルシウム原料とカルシウムイオンとを含む混合液のいずれであっても良い。
【0041】
水性媒体としては、水及び水溶性有機溶媒の少なくとも1種を使用することができる。水溶性有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類のほか、例えばアセトン等を使用することができる。本発明では、特に水を用いることが好ましい。
【0042】
カルシウム含有液におけるカルシウム原料の濃度は特に限定されないが、通常はカルシウム原料の固形分濃度が1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%程度となるように適宜調製すれば良い。
【0043】
アルカリとしては限定的でなく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アンモニウム塩、アンモニア水等を挙げることができる。特に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の少なくとも1種を好適に使用することができる。アルカリの添加量は、pHが8.0〜13.0、特に11.0〜12.5となるように調整することが好ましい。このようなpHになるようにアルカリを添加することによって、特に第1反応生成物として水酸化カルシウムを含む第1水性スラリーを好適に得ることができる。特に、第1水性スラリーにおいては、可溶性のカルシウム原料によるカルシウムイオンとアルカリとの反応で生成する水酸化カルシウム(固体のカルシウム化合物)とが共存していることが望ましい。
【0044】
第2工程
第2工程では、前記第1水性スラリー又はその水分量が調整された水性スラリーにケイ酸原料を添加して反応させることにより第2反応生成物を含む第2水性スラリーを得る。
【0045】
第2工程では、第1工程で得られた第1水性スラリーをそのまま無調整で用いることが好ましいが、必要に応じてその水分量が調整された水性スラリーを使用することも可能である。
【0046】
第1水性スラリーは、可溶性のカルシウム源によるカルシウムイオンとアルカリとの反応に生成する水酸化カルシウムによる固体のカルシウムが共存していることが好ましい。第1水性スラリー中にカルシウムイオン及び固体カルシウムが共存していることにより、ケイ酸原料との反応性、反応生成物の細孔構造に影響を与え、多孔質な反応生成物を効果的に得ることができる。
【0047】
ケイ酸原料としては、公知のケイ酸カルシウムの製造で使用されているものと同様のものを使用することができる。例えば、二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、シリカゾル等を挙げることができる。特に、二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム等の少なくとも1種を好適に使用することができる。
【0048】
ケイ酸原料の添加量は、所定のケイ酸カルシウムが生成するように設定する。すなわち、理論的にSiO2/CaOモル比が1.5〜6.5、より好ましくは1.5〜5.0の範囲となるように設定すれば良い。
【0049】
ケイ酸原料を第1反応生成物と混合し、反応させる。これによりケイ酸カルシウムを含む第2反応生成物を得ることができる。通常は、第2反応生成物は水性スラリーの形態で生成させることができる。反応温度は特に限定的ではないが、例えば5〜100℃、特に70〜80℃の範囲内で適宜設定することが好ましい。また、反応雰囲気としては大気中(大気圧下)とすれば良い。反応時間は、反応温度等に応じて適宜調節することができる。このように、本発明の製造方法では、水熱合成反応(オートクレーブ装置)に頼らず、比較的マイルドな条件下で第2反応生成物を得ることができる。
【0050】
熟成工程
本発明では、必要に応じて、第3工程に先立って、第2水性スラリー又はその水分量が調整された水性スラリーを予め熟成工程に供することが好ましい。熟成工程の実施により、未反応のカルシウムの反応を促すとともに、細孔構造の形成をより効果的に促進することができる。かかる見地より、熟成工程は、第2水性スラリーを撹拌しながら実施することが好ましい。熟成温度は限定的ではないが、一般に50〜70℃とすることが好ましく、特に55〜65℃とすることがより好ましい。熟成時間は特に制限されないが、通常0.5〜10時間とすれば良く、好ましくは1〜1.5時間とすれば良い。熟成する際の第2水性スラリーの固形分濃度は特に限定されないが、通常は1〜30重量%、より好ましくは3〜20重量%程度とすれば良い。
【0051】
第3工程
第3工程においては、第2水性スラリー又はその水分量が調整された水性スラリーのpHを調整することによりケイ酸カルシウム系材料を含む第3水性スラリーを得る。
【0052】
第3工程では、第2工程で得られた第2水性スラリーをそのまま無調整で用いることが好ましいが、必要に応じて第2水性スラリーの水分量が調整された水性スラリーを用いることもできる。
【0053】
pHの調整は、上記の水性スラリーから所定のケイ酸カルシウム系材料が形成されるように実施すれば特に限定されない。pH調整剤としても、酸(塩酸、硝酸、硫酸、有機酸等)又はアルカリ(水酸化ナトリウム等)のいずれも使用することができる。特に、本発明では、pHを7.0〜11.0程度に調整することが望ましく、特にpH8.0〜10.9とすることがより望ましい。このような範囲内でpHを調整することにより、水性溶媒中に溶存している二酸化ケイ素を析出させ、ケイ酸カルシウム中のカルシウムが酸により一部溶解し、二酸化ケイ素/ケイ酸カルシウム混晶体を調製することができる。このようにして、ケイ酸カルシウム系材料の粒子が分散した第3水性スラリーを得ることができる。
【0054】
固液分離工程、水洗工程等
本発明では、第3水性スラリーをそのまま各用途の原料として用いることができるが、必要に応じて第3水性スラリーを固液分離工程、水洗工程、乾燥工程、粉砕工程、分級工程等を実施しても良い。
【0055】
固液分離工程は、例えば加圧ろ過、減圧濾過、真空ろ過、自然ろ過、遠心ろ過等のような一般的なろ過により脱水を行うことで実施できる。この際、例えばフィルタープレス、遠心分離機等の公知又は市販の装置を用いることができる。
【0056】
水洗工程は、前記の固液分離工程によって得られた固形分を水洗すれば良い。水洗の程度としては、水洗ろ液の導電率は200〜300μS/cmとすれば良く、好ましくは200〜250μS/cmとすれば良い。
【0057】
乾燥工程は、自然乾燥又は加熱乾燥のいずれでも良いが、加熱乾燥の場合は通常60〜120℃程度の温度範囲に設定すれば良い。乾燥方法としては、実質的に剪断力がかからない条件下で乾燥することが好ましい。例えば静置乾燥、瞬間乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥、マイクロ波乾燥等の乾燥方法を用いることが望ましい。
【0058】
また、粉砕工程では、不純物が混入しにくい方法であれば良く、例えばせん断式、円板式、ローラー式、シリンダー式、衝撃式、ジェット式、高速回転式等の公知の粉砕方法を採用することができる。分級工程もその手段は限定されず、例えば乾式篩法である風力分級と篩分け等の公知の方法を採用することができる。
【0059】
(B)含浸工程
含浸工程では、上記工程(A)で得られたケイ酸カルシウム系材料に油状物質を含浸(担持)させる。なお、含浸させる油状物質としては、前記で述べた各種の物質を用いることができる。
【0060】
油状物質を含浸させる方法は特に制限されず、例えば粉末状ケイ酸カルシウム系材料に油状物質を添加及び攪拌することによって実施することができる。この場合の添加方法は限定されず、例えば1)直接添加する方法、2)予め油状物質を溶媒に分散又は溶解させた後に添加する方法等のいずれも採用することができる。
【0061】
上記溶媒は、油状物質を溶解させることができる溶媒(油溶性溶媒)であれば特に限定されるものではなく、用いる油状物質の種類等を考慮して適宜決定することができる。例えば、エタノール、プロパノール、メタノール等のアルコール類、クロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、酢酸エチル等の有機溶媒等が挙げられる。安全性が高く、かつ、揮発性が高いという見地より、エタノール、プロパノール等のアルコール類を用いることが好ましい。
【0062】
また、用いる油状物質の常温での粘度が比較的高い場合、その油状物質の沸点未満の温度範囲内で加熱して粘度を低下させることにより、粉末状ケイ酸カルシウム系材料への油状物質の含浸を促進することもできる。
【0063】
3.成型体
本発明は、油状物質含有粉末組成物を圧縮成型して得られる成型体も包含する。圧縮成型の方法は特に限定されず、例えばプレス成型(打錠を含む。)のほか、加圧下での造粒等を挙げることができる。また、圧縮成型は、乾式又は湿式のいずれであっても良い。
【0064】
このため、本発明では、錠剤タイプ又は顆粒タイプの成型体を好適に採用することができ、これらの成型体は、本発明組成物を市販の打錠機又は造粒機を用いて打錠成型あるいは造粒することで得ることができる。例えば、錠剤タイプの成型体を製造する場合は、打錠機における打錠時の圧縮圧力を本発明組成物の処方、錠剤の所望の硬度等に応じて適宜決定するが、通常3〜20kNの圧縮圧力で打錠成型すれば良い。本発明組成物は、圧縮圧力が高い場合であっても、ラミネーション等の打錠障害が効果的に抑制されているため、十分な硬度(例えば錠剤においては40N以上、好ましくは50N以上)等を有する油状物質含有顆粒、錠剤を効率良く提供することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、実施例中に記載の「%」は「重量%」を意味する。
【0066】
実施例1
反応槽に水2500kgを投入し、液温を72.5℃に加温し、塩化カルシウム250kgを投入し、塩化カルシウムを完全に溶解させた。次いで48%水酸化ナトリウム液136kgを水で240Lにし、30分かけて反応槽へ滴下した。滴下終了後、3号ケイ酸ナトリウム520Lを水で2000Lとし、3時間で反応槽へ滴下した。その後、液温を60℃にし、1時間熟成を行った。熟成終了後、18%塩酸を用いて反応生成物のpHを9.0とした。次いで、フィルタープレスを用いて水洗を行い、導電率が250μS/cmになるまで水洗を行った。次に、得られた水性ケーキに水を加え、固形分7重量%の水性スラリーを調製した。このスラリーをスプレードライヤ(ODT−62型スプレードライヤ:大河原化工機)のディスク乾燥を用いて、入口温度400℃、出口温度170℃、ディスク回転数10000rpmで噴霧乾燥を行った。スプレードライヤのチャンバーとサイクロンより回収した粉末について、粉砕工程を経てケイ酸カルシウム系材料の粉末を得た。
【0067】
このようにして得られたケイ酸カルシウム系材料の粉末30gにカツオ魚油30gを室温で添加した後、卓上粉砕機ミルサー800DG(岩谷産業株式会社製)を用いて5分間混練することにより、ケイ酸カルシウム系材料に魚油を担持させ、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0068】
実施例2
加えた魚油の量を39gとした以外は、実施例1と同様にサンプルを調製し、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0069】
実施例3
スプレードライヤのディスク回転数8000rpm、回収をスプレードライヤのチャンバーのみとした以外は、実施例1と同様にサンプルを調製し、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0070】
実施例4
スプレードライヤのディスク回転数12000rpm、回収をスプレードライヤのチャンバーとサイクロンとした以外は、実施例1と同様にサンプルを調製し、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0071】
比較例1
市販のケイ酸カルシウム系材料として富田製薬株式会社製「フローライトR」Lot No:H5026Rを用いた以外は、実施例1と同様にサンプルを調製し、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0072】
比較例2
加えた魚油の量を39gとした以外は、比較例1と同様にサンプルを調製し、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0073】
比較例3
市販のケイ酸カルシウム系材料として富田製薬株式会社製「NFケイ酸カルシウム」Lot No:H30306を用いた以外は、実施例1と同様にサンプルを調製し、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0074】
比較例4
市販の二酸化ケイ素系材料としてエボニックデグサ社製「アエロジル200」Lot No:614020181を用いた以外は、実施例1と同様にサンプルを調製し、油状物質含有粉末組成物を得た。
【0075】
試験例1
実施例1、3、4及び比較例1、3、4の魚油担持前の各試料について、累積細孔容積、吸油量、比表面積、平均粒径をそれぞれ測定した。その結果を表1に示す。
【0076】
(1)累積細孔容積
Quantachrome社製水銀ポロシメーター「poremaster60GT」にて以下の条件で測定を行った。試料0.05gを測定用セルに封入し、水銀の接触角を140°、水銀の表面張力を480dyn/cmとして、測定した圧力から累積細孔容積を算出した。なお、解析範囲は、細孔径10〜70nm及び細孔径70〜500nmの範囲で行った。
【0077】
(2)吸油量
試料1.0gを量り、黒色のプラスチック板に乗せる。上からビュレットに入れた煮アマニ油を4〜5滴ずつ滴下し、その都度ヘラで粉体と十分練り合わせる。全体が硬いパテ状の塊となったら1滴ごとに練り合わせ、最後の1滴で急激に軟らかくなる直前に滴下を終了し、その時の煮アマニ油滴下量を読み取り、次式により吸油量を算出した。
吸油量(mL/g)= 滴下した煮アマニ油の容量(mL)/試料の質量(g)
【0078】
(3)BET比表面積
高速比表面積細孔分布測定装置(Quantachrome社製:NOVA−4000e)にて以下の操作条件で測定を行った。
前処理条件:試料0.02gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で1時間脱気した。
測定及び解析:液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、相対圧0.1、0.2、0.3において、多点BET法によりBET比表面積を算出した。
【0079】
(4)平均粒径
試料を3分間超音波撹拌(超音波出力40W)した後に水中に分散させてレーザー回折法により水溶媒中にて測定を行った。測定装置としてMicrotrac社製「MICROTRAC MT3300EX II」を用いた。
【0080】
【表1】
【0081】
表1及び
図1の結果からも明らかなように、実施例1、3、4の油状物質未担持試料においては、細孔径10〜70nmの累積細孔容積が1.1cc/g以上に発達しており、細孔径70〜500nmの累積細孔容積が2.0cc/g以下と低くなっていることがわかる。
【0082】
試験例2
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた各試料について、前記試験例1(4)の測定方法に従って平均粒径を測定した。また、40℃保管環境下における3日、7日間の酸化安定性を以下の測定方法に従って測定した。なお、0日については、担持前の魚油について(6)の過酸化物価(POV)を測定した結果を示す。それらの結果を表2に示す。
【0083】
(5)粉末組成物からの油の抽出
油状物質含有粉末組成物30gをビーカーに取り、ジエチルエーテルを試料が十分に浸かる程度に入れ、約30分間、時々かき混ぜながら浸漬静置した。静置後、ジエチルエーテル層を分離、濾過した。40℃以下、減圧下で溶媒を留去し、得られた油状物質を試験液とした。
【0084】
(6)過酸化物価
上記(5)で得られた油状物質の過酸化物価(POV)を測定し、酸化安定性の指標とした。POVの測定は、社団法人日本油化学会制定「基準油脂分析試験法2003年版」記載のクロロホルム法に基づき行った。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の結果から明らかなように、実施例1〜4及び比較例1、2は40℃の環境下で7日間保管してもPOVの有意な差は認められず、顕著な上昇は起こらなかったことから、高い酸化安定性を有していることがわかる。
【0087】
試験例3
実施例1〜4及び比較例1〜4で得られた各試料18gに、ダイラクトーズS(フロイント産業株式会社製)11.7g、ステアリン酸カルシウム(太平化学株式会社製)0.3gを加えて混合し、卓上錠剤成型機HANDTAB−100(市橋精機株式会社製)を用いて、打錠圧10kNで打錠し、一錠あたり直径10mm、重量300mgの油状物質含有錠剤を得た。得られた各錠剤について、ラミネーション発生率、錠剤硬度を測定した。これらの結果を表3に示す。
【0088】
(7)ラミネーション発生率
得られた錠剤10錠中に発生したラミネーション錠の数を目視で確認し、ラミネーション発生率とした。
【0089】
(8)錠剤硬度
ロードセル式錠剤硬度計ポータブルチェッカーPC−30(岡田精巧株式会社製)を用いて10錠の錠剤硬度の平均値を錠剤硬度とした。
【0090】
【表3】
【0091】
表3の結果からも明らかなように、実施例1及び2の錠剤ではラミネーション等の打錠障害は起こらず、錠剤硬度も40N以上(特に50N以上)という高い値を示していることがわかる。それに対して、比較例1及び2ではラミネーションが発生し、錠剤硬度も低くなっていることがわかる。
【0092】
これらの結果からも明らかなように、本発明組成物を用いる場合には、より高い酸化安定性と成型性とを発揮できることがわかる。これに対し、比較例1及び2ではラミネーションが発生し、錠剤硬度も低くなり、比較例3及び4は、前記の表2の通り、酸化安定性が低いので、本発明組成物よりも劣っていることがわかる。