【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の組電池は、一以上のリチウムイオン二次電池と、二以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池と、が直列接続されてなり、二以上の前記充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、それぞれ異なる充電深度領域に、急峻に電圧が変化する変曲領域を有することを特徴とする。ここで、「充電深度検知用リチウムイオン二次電池」とは、所定の充電深度で急峻に電圧が変化する変曲領域を有するリチウムイオン二次電池である。ここで、「充電深度」とは充電された電気量の割合をいい、満充電状態を100%とする。ただし、充電時の値に限定されるものではなく、充電時と放電時とのいずれの電気量も含む。「2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池」とは、異なった充電深度で変曲領域が発現する2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池を意味する。「変曲領域」とは、単電池電圧が充電深度の変化に対して急峻な変化を示す領域をいう。
図4に、本発明に用いることができる充電深度検知用リチウムイオン二次電池の、充電深度(X軸)と単電池電圧(Y軸)との関係を表す充放電カーブを示す。
図4において、単電池電圧が充電深度の変化に対して急峻に変化する変化領域90が、本発明でいう「変曲領域」の一例である。
【0008】
本発明の充電深度検知用リチウムイオン二次電池によれば、所定の充電深度で電圧の急変が検知される「変曲領域」が発現する。「変曲領域」は、所定の電圧Aにおいて充電が完了する活物質材料と、電圧Aにおいて放電が完了する活物質材料と、を混合して、一の正極又は一の負極の少なくともいずれかを作製し、これを充電深度検知用リチウムイオン二次電池に用いることで発現させることができる。
【0009】
このとき、変曲領域が異なった充電深度で発現する2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池を、組電池内に直列接続することで、組電池全体の充電深度を段階的に精度よく検知することが可能となる。2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池が、電極中の活物質材料の割合について相違していれば、2以上の充電震度検知用リチウムイオン二次電池は、異なった充電深度に変曲領域を発現する。直列接続からなる組電池において、2以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電圧を各々モニターし、一の充電深度検知用リチウムイオン二次電池において急激な電圧変動が観測されれば、組電池の充電深度は一の充電深度検出用リチウムイオン二次電池の変曲領域に対応する充電深度である。
【0010】
さらに、本発明において、充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、正極又は負極の活物質材料として、上記の充電深度に対し、
(1)この充電深度を100%とし、前記充電深度において充電状態が95%〜100%となる、一の活物質、
(2)この充電深度で定められる放電深度を100%の放電容量とし、前記放電深度において放電状態が95%〜100%となる、他の活物質と、
の少なくとも二種類の活物質を正極又は負極の少なくともいずれかについて混合した、混合活物質による正極又は負極を有するリチウムイオン二次電池であることが望ましい。
【0011】
この構成によれば、前記変曲領域での充電深度変化量が、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の電池容量の10%以内に発現させることができるため、充電深度の検知誤差が電池容量の10%以下となる。ここで、一般に組電池は、組電池全体の容量の90%程度は実使用に供されるべきものと考えられる。過放電防止のためには充電深度の検知を充電深度検知用リチウムイオン二次電池の容量の10%以下に抑えることが望ましい。上記の構成によれば組電池の充電深度測定精度を向上させられる傾向がある。加えて、組電池の容量をあらかじめ低く設定する必要がなくなるため、実質的に組電池容量の向上に寄与しうる。
【0012】
例えば、上記の所定の電圧Aにおける充電深度が±5%以内の関係にある二種類以上の活物質材料を混合して、正極又は負極のいずれかを作製する。これにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域における充電深度変化量を、電池容量の10%以内に収束させることができる。例えば、電圧Aにおける充電深度を100%とした場合に95%以上で充電が終了する活物質材料と、電圧Aにおける充電深度を0%とした場合に5%以下で放電が完了する活物質材料と、を正極活物質として又は負極活物質として混合することにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域を電池容量に対して10%以下に収束することができる。
【0013】
このとき、所定の電圧Aにおける充電深度が実使用域にある活物質材料は、電極における全活物質の電気容量割合として10%以下であることが望ましい。例えば、電圧Aにおける充電深度が20%から80%である活物質材料を、10%以下とすれば、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域を電池容量に対して10%以下に収束することができる。
【0014】
また、本発明において、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域での電圧変化量が100mV以上であることが望ましい。
【0015】
正極活物質又は負極活物質として混合する二種類以上の活物質材料の選択を、各固有電位に起因して生ずる電位差が100mV以上となる活物質材料の組み合わせとすることによって、上記の変曲領域における電圧変化量を100mV以上とすることができる。
【0016】
例えば、1C程度の比較的大きな電流(1Cは、満充電状態のリチウムイオン二次電池から一定電流で放電させた場合、1時間で放電終了する電流量)での充放電時の単電池電圧は、微電流時での充電時、放電時の単電池電圧に比べ、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下が、100mV程度大きく加味され観測されてしまう。そこでこの構成のように変曲領域での電圧変化量が100mV以上である充電深度検知用の単電池を用いることで、1C程度の充放電においても、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下は、変曲領域での電圧変化量に比べ小さくなり、変曲領域内での誤差で精度良く組み電池の充電深度を検知することができる。
【0017】
また、本発明において、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域での電圧変化量が300mV以上であることが望ましい。
【0018】
正極活物質又は負極活物質として混合する二種類以上の活物質材料の選択を、各固有電位に起因して生ずる電位差が300mV以上となる活物質材料の組み合わせとすることによって、上記の変曲領域における電圧変化量を300mV以上とすることができる。
【0019】
例えば、5C(5Cは、満充電状態のリチウムイオン二次電池から一定電流で放電させた場合、12分で放電終了する電流量)より大きな大電流での充放電時の単電池電圧は、微電流時での充電時、放電時の単電池電圧に比べ、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下が、300mV程度大きく加味され観測されてしまう。そこでこの構成のように変曲領域での電圧変化量が300mV以上である充電深度検知用の単電池を用いることで、5C程度の大電流での充放電においても、電池の内部抵抗を起因とする電圧上昇、電圧降下は、変曲領域での電圧変化量に比べ小さくなり変曲領域内での誤差で精度良く組電池の充電深度を検知することができる
【0020】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、複数種の正極活物質を混合した正極および/または複数種の負極活物質を混合した負極を有するものであることが望ましい。
【0021】
リチウムイオン二次電池の正極および負極の活物質は、それぞれ固有の電位を持つ。リチウムイオン二次電池の全体の電圧は、正極活物質と負極活物質とが本来有する電位の電位差である。一つの正極または負極において複数種の活物質を混ぜ合わせて電極とることにより、活物質間の電位の切れ目に急峻な電位差を持つ変曲領域をもたせることができる。このとき、複数種の正極活物質、または、複数種の負極活物質を適宜選択して組み合わせ、また活物質の比率を調整することで、任意の充電深度に変曲領域を設計することができる。
【0022】
また、二種以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、全て同じ種類の正極活物質の組み合わせからなることが望ましい。すなわち、二以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、全て同じ複数種の正極活物質を混合した正極および/または同じ複数種の負極活物質を混合した負極を有しており、複数種の正極活物質の混合比および/または複数種の負極活物質の混合比が異なるものである。
【0023】
二種類以上の充電深度検知用リチウムイオン二次電池を、全て同じ正極/負極活物質の組み合わせとすることで、変曲領域が発現する充電深度のみが異なり、各単電池の電池特性をほぼ均等とすることができる。これにより、高精度で充電深度を測定できる組電池が実現できる傾向がある。このとき、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極/負極活物質の種類は四種以下とすることが好ましい。四種類以下に限定した場合、必要以上に変曲領域が発現することはなく電池特性はほぼ均等とすることができ、さらに高性能な組電池が提供できる傾向がある。
【0024】
また、充電深度検知用リチウムイオン二次電池における複数種の正極活物質および/または複数種の負極活物質は、二種類の正極活物質および/または二種類の負極活物質を使用するものであることが望ましい。
【0025】
正極/負極活物質を二種類のみに限定することで、変曲領域の発現が明確な充電深度検知用リチウムイオン二次電池を設計することができ、さらに高性能な組電池が提供できる傾向がある。
【0026】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極活物質は、金属リチウムを基準として実使用域に3.5Vを含む正極活物質の存在量が、正極活物質全体の電気容量の割合として10%以下であることが望ましい。
【0027】
実使用域(例えば充電深度20%−80%)に金属リチウムを基準として3.5Vの電位が含まれる正極活物質を電気容量の割合として10%以下とすることで、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域で電圧の変動に要する充電深度変化量が10%以下となるため、より精度良く充電深度を検知することができる。
【0028】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の正極活物質は、低電圧正極活物質がLiTiO
2、LiFePO
4のうちの少なくとも一つであり、高電圧正極材料は、Li(Ni
1-x-yCo
xMn
y)O
2(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li
a(Ni
1-b-cCo
bAl
c)O
2(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMn
2O
4、LiVPO
4、LiVOPO
4、LiCoO
2、LiMnPO
4、LiCoPO
4、LiNiPO
4のうちの少なくとも一つであることが望ましい。
【0029】
この構成によれば、LiTiO
2、LiFePO
4は、充電終了付近の電圧は3.5V以下の近傍であって低電圧正極活物質として選ぶことができ、Li(Ni
1-x-yCo
xMn
y)O2(ただし、0.1≦x≦0.5、0.1≦y≦0.5)、Li
a(Ni
1-b-cCo
bAl
c)O
2(ただし、0.9≦a≦1.3、0<b≦0.5、0<c≦0.7)、LiMn
2O
4、LiVPO
4、LiVOPO
4、LiCoO
2、LiMnPO
4、LiCoPO
4、LiNiPO
4は、放電開始付近の電圧は3.5V以上の近傍であり高電圧正極活物質として選ぶことができる。これらの選択により変曲領域における充電震度の変化量を提言することができるため、組電池の充電深度を精度良く検知できる。
【0030】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池の低電圧正極活物質はLiFePO
4であり、高電圧正極活物質はLiVPO
4、LiVOPO
4、LiCoO
2、LiMnPO
4、LiCoPO
4、LiNiPO
4のうちの少なくとも一つであることが望ましい。
【0031】
この構成によれば、オリビン骨格を有する正極活物質は比較的平坦な充放電カーブであり、放電末期、充電末期の充放電カーブは急峻に変化する。低電圧正極活物質、高電圧正極活物質共にオリビン骨格を有する正極活物質を用いることで、変曲領域での充電深度変化量が10%以下とすることが容易であり、精度良く充電深度の検知をすることができる。
【0032】
充電深度検知用リチウムイオン二次電池は、負極活物質を含み、負極活物質は、複数種の負極活物質として、一以上の低電圧負極活物質と一以上の高電圧負極活物質とを混合したものであって、低電圧負極活物質は、金属リチウムを基準として上限近傍の電位が0.5V未満の負極活物質のうちの少なくとも一種以上であり、高電圧負極活物質は、金属リチウムを基準として下限近傍の電位が0.5V以上の負極活物質のうちの少なくとも一種以上であることが望ましい。
【0033】
この構成によれば、金属リチウムを基準として約0.5V未満でほぼ放電が終了する(たとえば充電深度が5%以下)低電圧負極活物質と、約0.5Vでほぼ充電が終了する(たとえば充電深度95%以上)高電圧負極活物質とを、負極において組み合わせられる。これにより、充電深度検知用リチウムイオン二次電池の変曲領域における充電深度の変化量を10%以下とすることができ、さらに精度良く充電深度を検知できる。
【0034】
負極活物質は、低電圧負極活物質としてグラファイト、高電圧負極活物質としてハードカーボン、LiTiO
2、SiO
w(wは1〜4)、Al
2O
3のうちから選ばれる少なくとも1つを有することが望ましい。
【0035】
この構成によれば、グラファイトは放電終了付近の電圧は0.5V以下であって低電圧負極活物質として選ぶことができ、ハードカーボン、LiTiO
2、SiO
w(wは1〜4)、Al
2O
3は充電開始付近の電圧は0.5V以上であり高電圧負極活物質として選ぶことができ、充電深度検知用リチウムイオン二次電池に組み合わせて使用することで、精度良く充電深度を検知できる。
【0036】
本発明の組電池は蓄電装置として用いられることが望ましい。ここで、蓄電装置は上記の組電池と、少なくとも充電深度検知用リチウムイオン二次電池ごとに並列に設けられた電圧検知装置と、論理回路によって構成される充電深度検知装置と、を含み、充電深度検出装置は、充電深度検知用リチウムイオン二次電池において検知された電圧の値によって、組電池の充電深度を判断するものである。
【0037】
組電池に充電深度検知装置を接続した蓄電装置とすることで、蓄電装置自体が充電深度を検知することができ、電気自動車用蓄電装置や定置型蓄電装置として安全に使用できる。
【0038】
論理回路は、充電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧を検知したときに充電終了と判断し、放電時には変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧よりも小さい電圧を検知したときに放電終了と判断することが望ましい。
【0039】
リチウムイオン二次電池に印加される電圧は、充電時と放電時とで向きが異なる。印加される電圧の方向にしたがって、充電時の充電深度検知電圧を変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より大きい電圧とし、放電時の充電深度検知電圧を変曲領域内の電圧であって変曲領域中間電圧より小さい電圧とすることにより、変曲領域の電圧変化量を有効に使用し大電流時においても精度よく組み電池の充電深度を検知することができる傾向がある。