(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スイッチ制御部は、前記電流センサによって検出された前記一次側電流値または二次側電流値に基づいて、前記補助スイッチ下アーム及び前記補助スイッチ上アームを動作させるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の共振型電力変換装置。
前記スイッチ制御部は、回生動作時において、前記第1の充電電圧が前記第1の閾値より高い場合、前記第1の充電電圧の今回値と前回値との関係に応じて第1の遅延時間を増減し、前記第1の充電電圧が前記第1の閾値以下となった場合に、前記補助スイッチ下アームをオンにしてから前記第1の遅延時間の経過後に前記主スイッチ上アームをオンさせ、力行動作時において、前記第2の充電電圧が前記第2の閾値より高い場合、前記第2の充電電圧の今回値と前回値との関係に応じて第2の遅延時間を増減し、前記第2の充電電圧が前記第2の閾値以下となった場合に、前記補助スイッチ上アームをオンにしてから前記第2の遅延時間の経過後に前記主スイッチ下アームをオンさせることを特徴とする請求項1または2に記載の共振型電力変換装置。
前記スイッチ制御部は、前記電流センサによって検出された前記一次側電流値または二次側電流値に基づいて最大遅延時間及び最小遅延時間を設定し、前記第1、第2の遅延時間が前記最小遅延時間以上ないし前記最大遅延時間以下となるように制限することを特徴とする請求項3に記載の共振型電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る共振型電力変換装置の構成概略図である。この
図1に示すように、本実施形態に係る共振型電力変換装置は、SAZZ方式を採用した双方向DC/DCコンバータであり、SAZZ双方向チョッパ回路1、上スナバ電圧センサ2、下スナバ電圧センサ3、一次側電流センサ4、二次側電流センサ5、一次側電圧センサ6、二次側電圧センサ7及びスイッチ制御部8から構成されている。
【0015】
SAZZ双方向チョッパ回路1は、一次側端子11、12と、二次側端子13、14と、一次側平滑コンデンサ15と、二次側平滑コンデンサ16、17と、リアクトル18、19と、主スイッチ上アーム20と、主スイッチ下アーム21と、上スナバコンデンサ22(補助コンデンサ)と、下スナバコンデンサ23(補助コンデンサ)と、ダイオード24、25、26、27と、補助スイッチ上アーム28と、補助スイッチ下アーム29と、ダイオード30、31、32、33から構成されている。
【0016】
一次側端子11は、直流電源E(例えば直流電圧V1を出力するバッテリ)の正極端子に接続され、一次側端子12は、直流電源Eの負極端子及び二次側端子14に接続されている。二次側端子13は、負荷L(例えばモータ)の一端に接続され、二次側端子14は、負荷Lの他端及び一次側端子12に接続されている。一次側平滑コンデンサ15は、一端が一次側端子11に接続され、他端が一次側端子12に接続されている。二次側平滑コンデンサ16、17は、一端が二次側端子13に接続され、他端が二次側端子14に接続されている。
【0017】
リアクトル18は、一端が一次側端子11に接続され、他端がリアクトル19の一端及び補助スイッチ下アーム29のコレクタ端子に接続されている。リアクトル19は、一端がリアクトル18の他端に接続され、他端が主スイッチ上アーム20のエミッタ端子及びダイオード24のカソード端子に接続されている。
【0018】
主スイッチ上アーム20は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であり、コレクタ端子が二次側端子13に接続され、エミッタ端子が主スイッチ下アーム21のコレクタ端子に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている(配線については図示省略)。この主スイッチ上アーム20は、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号に応じて、オン状態或いはオフ状態に切り替わる。この主スイッチ上アーム20には、ダイオード30が並列接続されている。つまり、主スイッチ上アーム20のエミッタ端子にダイオード30のアノード端子が接続され、主スイッチ上アーム20のコレクタ端子にダイオード30のカソード端子が接続されている。
【0019】
主スイッチ下アーム21は、例えばIGBTであり、コレクタ端子が主スイッチ上アーム20のエミッタ端子に接続され、エミッタ端子が二次側端子14に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている(配線については図示省略)。この主スイッチ下アーム21は、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるPWM信号に応じて、オン状態或いはオフ状態に切り替わる。この主スイッチ下アーム21には、ダイオード31が並列接続されている。つまり、主スイッチ下アーム21のエミッタ端子にダイオード31のアノード端子が接続され、主スイッチ下アーム21のコレクタ端子にダイオード31のカソード端子が接続されている。
【0020】
上スナバコンデンサ22は、一端が主スイッチ上アーム20のコレクタ端子に接続され、他端がダイオード24のアノード端子に接続されている。下スナバコンデンサ23は、一端が主スイッチ下アーム21のエミッタ端子に接続され、他端がダイオード26のカソード端子に接続されている。
【0021】
ダイオード24は、アノード端子が上スナバコンデンサ22の他端及びダイオード25のカソード端子に接続され、カソード端子がリアクトル19の他端及びダイオード26のアノード端子に接続されている。ダイオード25は、アノード端子が補助スイッチ下アーム29のエミッタ端子に接続され、カソード端子が上スナバコンデンサ22の他端及びダイオード24のアノード端子に接続されている。
【0022】
ダイオード26は、アノード端子がリアクトル19の他端及びダイオード24のカソード端子に接続され、カソード端子が下スナバコンデンサ23の他端及びダイオード27のアノード端子に接続されている。ダイオード27は、アノード端子が下スナバコンデンサ23の他端及びダイオード26のカソード端子に接続され、カソード端子が補助スイッチ上アーム28のコレクタ端子に接続されている。
【0023】
補助スイッチ上アーム28は、例えばIGBTであり、コレクタ端子がダイオード27のカソード端子に接続され、エミッタ端子が補助スイッチ下アーム29のコレクタ端子及びリアクトル19、18の一端に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている(配線については図示省略)。この補助スイッチ上アーム28は、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるPWM信号に応じて、オン状態或いはオフ状態に切り替わる。この補助スイッチ上アーム28には、ダイオード32が並列接続されている。つまり、補助スイッチ上アーム28のエミッタ端子にダイオード32のアノード端子が接続され、補助スイッチ上アーム28のコレクタ端子にダイオード32のカソード端子が接続されている。
なお、このダイオード32は、必ずしも補助スイッチ上アーム28に並列接続する必要はない。
【0024】
補助スイッチ下アーム29は、例えばIGBTであり、コレクタ端子がリアクトル19の一端及び補助スイッチ上アーム28のエミッタ端子に接続され、エミッタ端子がダイオード25のアノード端子に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている(配線については図示省略)。この補助スイッチ下アーム29は、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるPWM信号に応じて、オン状態或いはオフ状態に切り替わる。この補助スイッチ下アーム29には、ダイオード33が並列接続されている。つまり、補助スイッチ下アーム29のエミッタ端子にダイオード33のアノード端子が接続され、補助スイッチ下アーム29のコレクタ端子にダイオード33のカソード端子が接続されている。
なお、このダイオード33は、必ずしも補助スイッチ下アーム29に並列接続する必要はない。
【0025】
上スナバ電圧センサ2は、上スナバコンデンサ22の電圧Vc1を検出し、その検出結果を示す電気信号をスイッチ制御部8に出力する。下スナバ電圧センサ3は、下スナバコンデンサ23の電圧Vc2を検出し、その検出結果を示す電気信号をスイッチ制御部8に出力する。一次側電流センサ4は、一次側端子11に流れる一次側電流I1を検出し、その検出結果を示す電気信号をスイッチ制御部8に出力する。二次側電流センサ5は、二次側端子13に流れる二次側電流I2を検出し、その検出結果を示す電気信号をスイッチ制御部8に出力する。一次側電圧センサ6は、一次側端子11、12間の一次側電圧V1を検出し、その検出結果を示す電気信号をスイッチ制御部8に出力する。二次側電圧センサ7は、二次側端子13、14間の二次側電圧V2を検出し、その検出結果を示す電気信号をスイッチ制御部8に出力する。
【0026】
スイッチ制御部8は、上スナバ電圧センサ2、下スナバ電圧センサ3、一次側電流センサ4、二次側電流センサ5、一次側電圧センサ6及び二次側電圧センサ7の出力信号に基づいて、主スイッチ上アーム20、主スイッチ下アーム21、補助スイッチ上アーム28及び補助スイッチ下アーム29のスイッチング制御を行うマイクロコントローラであり、具体的には各スイッチのゲート端子に、それぞれデューティ比の異なるPWM信号を出力する。
【0027】
次に、上記のように構成された共振型電力変換装置の動作について説明する。
本共振型電力変換装置の動作原理については、特許第4397938号公報に記載されているように既に公知であるので詳細な説明については省略するが、回生運転時(電力潮流方向が二次側→一次側の時)には、補助スイッチ下アーム29をオンにしてから上スナバコンデンサ22の電圧Vc1が最小となる時点で主スイッチ上アーム20をオンにすることにより、主スイッチ上アーム20のソフトスイッチングを実現でき、また、力行運転時(電力潮流方向が一次側→二次側の時)には、補助スイッチ上アーム28をオンにしてから下スナバコンデンサ23の電圧Vc2が最小となる時点で主スイッチ下アーム21をオンにすることにより、主スイッチ下アーム21のソフトスイッチングを実現できる。
【0028】
既に述べたように、特許第4397938号公報に記載の技術では、入出力電圧及び電流の計測値と、リアクトルやスナバコンデンサ等の回路定数とに基づいて、補助スイッチと主スイッチとのオンタイミング差(遅延時間Td)を算出していたため、回路素子の温度特性等、ハードウェア特性のバラツキが原因で上記遅延時間Tdを最適に制御することができず、スイッチング損失が増大する(効率が低下する)という問題があった。
【0029】
本共振型電力変換装置は、補助スイッチ下アーム29(或いは補助スイッチ上アーム28)をオンにしてから上スナバコンデンサ22(或いは下スナバコンデンサ23)の電圧Vc1(或いはVc2)が最小となる時点で主スイッチ上アーム20(或いは主スイッチ下アーム21)をオンにするという点で従来と同様であるが、補助スイッチと主スイッチとのオンタイミング差の制御手法(遅延時間Tdの設定手法)が全く異なるものである。
【0030】
図2は、主スイッチ上アーム20及び主スイッチ下アーム21の制御ブロック図であり、
図3は、補助スイッチ上アーム28の制御ブロック図であり、
図4は、補助スイッチ下アーム29の制御ブロック図である。なお、
図2〜
図4に示す各制御ブロックは、スイッチ制御部8が制御プログラムに従って各種演算処理を実行することによって実現されるソフトウェア的な機能を視覚化したものであり、各制御ブロックに相当するハードウェア回路がスイッチ制御部8に内蔵されているわけではない。
【0031】
図2に示すように、スイッチ制御部8は、主スイッチ上アーム20及び主スイッチ下アーム21を制御するためのソフトウェア的な機能として、電圧制御部31、力行/回生判定部32、力行/回生切替部33、力行電流制御部34、力行デューティ演算部35、回生電流制御部36及び回生デューティ演算部37を備えている。
【0032】
電圧制御部31は、二次側電圧センサ7から得られる二次側電圧値V2と、予め設定されている二次側電圧指令値V2refとの偏差がゼロとなるような一次側電流指令値I1refをPI演算によって算出する。
【0033】
力行/回生判定部32は、電圧制御部31にて算出された一次側電流指令値I1refに基づいて、共振型電力変換装置の運転状態が力行運転か回生運転かを判定する。具体的には、力行/回生判定部32は、一次側電流指令値I1refがゼロアンペア以上の場合(電力潮流方向が一次側→二次側の場合)に力行運転と判定し、一次側電流指令値I1refがゼロアンペアより小さい場合(電力潮流方向が二次側→一次側の場合)に回生運転と判定する。
【0034】
力行/回生切替部33は、力行/回生判定部32によって運転状態が力行運転と判定された場合に、一次側電流指令値I1refを力行電流制御部34へ出力し、力行/回生判定部32によって運転状態が回生運転と判定された場合に、一次側電流指令値I1refを回生電流制御部36へ出力する。
【0035】
力行電流制御部34は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1と、電圧制御部31から得られる一次側電流指令値I1refとの偏差がゼロとなるような操作量をPI演算によって算出する。力行デューティ演算部35は、力行電流制御部34から得られる操作量に基づいて、主スイッチ下アーム21に出力すべきPWM信号のデューティ比Dm2を算出する。なお、力行運転時には、主スイッチ上アーム20の動作はオフに維持される。
【0036】
回生電流制御部36は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1と、電圧制御部31から得られる一次側電流指令値I1refとの偏差がゼロとなるような操作量をPI演算によって算出する。回生デューティ演算部37は、回生電流制御部36から得られる操作量に基づいて、主スイッチ上アーム20に出力すべきPWM信号のデューティ比Dm1を算出する。なお、回生運転時には、主スイッチ下アーム21の動作はオフに維持される。
【0037】
続いて、
図3に示すように、スイッチ制御部8は、補助スイッチ上アーム28を制御するためのソフトウェア的な機能として、遅延時間オン/オフ判定部41、最大遅延時間設定部42、最小遅延時間設定部43、遅延時間演算部44、遅延時間制限部45、補助スイッチ動作切替部46及び補助スイッチデューティ演算部47を備えている。
【0038】
遅延時間オン/オフ判定部41は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1を基に、遅延時間Tdを設定するか否か、言い換えれば補助スイッチ上アーム28を先行動作させるか否かを判定する。具体的には、遅延時間オン/オフ判定部41は、一次側電流値I1が一定値以下の場合に、遅延時間Tdを設定しない(補助スイッチ上アーム28を先行動作させない)と判定する。つまり、一次側電流値I1が一定値以下の場合、補助スイッチ上アーム28を先行動作させて主スイッチ下アーム21のソフトスイッチングを試みても、スイッチング損失の低減効果は小さいので、補助スイッチ上アーム28を先行動作させずに主スイッチ下アーム21をハードスイッチングさせる。
なお、主スイッチ下アーム21をハードスイッチングさせる場合、補助スイッチ上アーム28はオフの状態を継続させる。
【0039】
最大遅延時間設定部42は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1を基に、最大遅延時間Tdmaxを設定する。具体的には、最大遅延時間Tdmax(試験値或いは理論値でも良い)と一次側電流値I1との対応関係を示すテーブルデータが予め作成されており、最大遅延時間設定部42は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1に対応する最大遅延時間Tdmaxを上記テーブルデータから取得する。
【0040】
最小遅延時間設定部43は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1を基に、最小遅延時間Tdminを設定する。具体的には、最小遅延時間Tdmin(試験値或いは理論値でも良い)と一次側電流I1との対応関係を示すテーブルデータが予め作成されており、最小遅延時間設定部43は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1に対応する最小遅延時間Tdminを上記テーブルデータから取得する。
【0041】
遅延時間演算部44は、上スナバコンデンサ電圧値Vc1、下スナバコンデンサ電圧値Vc2、一次側電流値I1及び一次側電圧値V1を基に、
図5(a)に示すフローチャートに従って下スナバコンデンサ電圧値Vc2が最小となる遅延時間Tdを算出する。
【0042】
図5(a)に示すように、遅延時間演算部44は、上スナバコンデンサ電圧値Vc1、一次側電流値I1及び一次側電圧値V1を基に、下スナバコンデンサ電圧値Vc2の閾値Vcth2を設定する(ステップS1)。
図5(b)に示すように、主スイッチ下アーム21をオフ状態に維持しながら補助スイッチ上アーム28をオンにすると、下スナバコンデンサ電圧値Vc2は最大値から最小値に向かって降下するという挙動を示し、一次電流値I1によって最小値も変化する。よって、閾値Vcth2は、一次電流値I1に応じて下スナバコンデンサ電圧値Vc2の最小値に近い値(近似的に最小と見做せる値)に設定すれば良い。
【0043】
具体的には、理想配線を仮定すると、Vc1≧2×V1の場合、Vcth2=0とし、Vc1<2×V1の場合、Vcth2=Vc1−2×(Vc1−V1)=2×V1−Vc1とする。実際には、配線のインダクタンス成分により、一次側電流値I1に応じて上スナバコンデンサ電圧値Vc1が変化するので、試験的な経験値を用いて、一次側電流値I1に応じて上スナバコンデンサ電圧値Vc1を補正する必要がある。
【0044】
また、遅延時間演算部44は、下スナバコンデンサ電圧値Vc2の今回値を示す変数VAの値を、Vc2の前回値を示す変数VBに代入すると共に、今回取得したVc2の値を変数VAに代入する(ステップS2)。そして、遅延時間演算部44は、変数VAの値、つまり下スナバコンデンサ電圧値Vc2の今回値が、上記ステップS1で設定した閾値Vcth2より高いか否かを判定する(ステップS3)。
【0045】
遅延時間演算部44は、上記ステップS3にて「Yes」の場合(VA>Vcth2の場合)、変数VAと変数VBの差分値(=VA−VB)がゼロより大きいか否か、つまり下スナバコンデンサ電圧値Vc2の今回値が前回値より高いか否かを判定する(ステップS4)。
【0046】
遅延時間演算部44は、上記ステップS4にて「Yes」の場合(VA−VB>0の場合)、下記(1)式を用いて遅延時間Tdの変化量ΔTdを算出し(ステップS5)、上記ステップS4にて「No」の場合(VA−VB≦0の場合)にはステップS6の処理にジャンプする。
ΔTd=−1×ΔTd ・・・(1)
【0047】
遅延時間演算部44は、上記ステップS4にて「No」の場合、或いは上記ステップS5の終了後、下記(2)式を用いて遅延時間Tdを算出する(ステップS6)。
Td=Td+ΔTd ・・・(2)
【0048】
一方、遅延時間演算部44は、上記ステップS3にて「No」の場合、つまり下スナバコンデンサ電圧値Vc2の今回値が閾値Vcth2以下の場合、上記ステップS4、S5及びS6の処理を省略して、遅延時間Tdの変更を停止する。
【0049】
このように、スナバコンデンサ電圧Vcの今回値が閾値Vcthより高く、且つスナバコンデンサ電圧Vcの今回値が前回値以下の場合、スナバコンデンサVcが最小値に向かって降下していると推定され、スナバコンデンサ電圧Vcの今回値が前回値より大きい場合、スナバコンデンサVcが上昇していると推定される。この時のスナバコンデンサVcの降下速度或いは上昇速度は、回路素子の温度特性等、ハードウェア特性のバラツキによって変化する。
【0050】
そこで、上記の場合には、スナバコンデンサ電圧Vcが閾値Vcth以下となるまで、遅延時間Tdを一定の割合(ΔTd)で増減させることにより、ハードウェア特性のバラツキに対して最適な遅延時間Td(補助スイッチ24をオンにしてからスナバコンデンサ電圧Vcが近似的に最小となる時点)を求めることができる。
【0051】
以上が遅延時間演算部44による遅延時間Tdの算出処理に関する説明であり、以下では
図3に戻って説明を続ける。
遅延時間制限部45は、遅延時間演算部44によって算出された遅延時間Tdが、最大遅延時間設定部42にて設定された最大遅延時間Tdmaxと、最小遅延時間設定部43にて設定された最小遅延時間Tdminとの範囲内に収まるように制限する。具体的には、遅延時間Tdが最大遅延時間Tdmaxを越えた場合、その遅延時間Tdを最大遅延時間Tdmaxに設定し直す一方、遅延時間Tdが最小遅延時間Tdminを下回った場合、その遅延時間Tdを最小遅延時間Tdminに設定し直す。
【0052】
補助スイッチ動作切替部46は、遅延時間オン/オフ判定部41にて遅延時間Tdを設定しない(補助スイッチ上アーム28を先行動作させない)と判定された場合、補助スイッチ上アーム28の動作をオフに切り替える一方、それ以外の場合には、補助スイッチ上アーム28の動作をオンに切り替える(補助スイッチデューティ演算部47に遅延時間Tdの使用を許可する)。
【0053】
補助スイッチデューティ演算部47は、力行デューティ演算部35によって算出された主スイッチ下アーム21のデューティ比Dm2と、遅延時間制限部45から得られた遅延時間Tdとに基づいて、補助スイッチ上アーム28と主スイッチ下アーム21とのオンタイミング差が遅延時間Tdとなるような補助スイッチ上アーム28のデューティ比Ds1を算出する。
【0054】
一方、
図4に示すように、スイッチ制御部8は、補助スイッチ下アーム29を制御するためのソフトウェア的な機能として、遅延時間オン/オフ判定部51、最大遅延時間設定部52、最小遅延時間設定部53、遅延時間演算部54、遅延時間制限部55、補助スイッチ動作切替部56及び補助スイッチデューティ演算部57を備えている。
【0055】
遅延時間オン/オフ判定部51は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1を基に、遅延時間Tdを設定するか否か、言い換えれば補助スイッチ下アーム29を先行動作させるか否かを判定する。具体的には、遅延時間オン/オフ判定部51は、一次側電流値I1が一定値以下の場合に、遅延時間Tdを設定しない(補助スイッチ下アーム29を先行動作させない)と判定する。つまり、一次側電流値I1が一定値以下の場合、補助スイッチ下アーム29を先行動作させて主スイッチ上アーム20のソフトスイッチングを試みても、スイッチング損失の低減効果は小さいので、補助スイッチ下アーム29を先行動作させずに主スイッチ上アーム20をハードスイッチングさせる。
なお、主スイッチ上アーム20をハードスイッチングさせる場合、補助スイッチ下アーム29はオフの状態を継続させる。
【0056】
最大遅延時間設定部52は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1を基に、最大遅延時間Tdmaxを設定する。具体的には、最大遅延時間Tdmax(試験値或いは理論値でも良い)と一次側電流値I1との対応関係を示すテーブルデータが予め作成されており、最大遅延時間設定部52は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1に対応する最大遅延時間Tdmaxを上記テーブルデータから取得する。
【0057】
最小遅延時間設定部53は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1を基に、最小遅延時間Tdminを設定する。具体的には、最小遅延時間Tdmin(試験値或いは理論値でも良い)と一次側電流値I1との対応関係を示すテーブルデータが予め作成されており、最小遅延時間設定部53は、一次側電流センサ4によって検出された一次側電流値I1に対応する最小遅延時間Tdminを上記テーブルデータから取得する。
【0058】
遅延時間演算部54は、上スナバコンデンサ電圧値Vc1、下スナバコンデンサ電圧値Vc2、一次側電流値I1及び一次側電圧値V1を基に、上スナバコンデンサ22の電圧Vc1が最小となる遅延時間Tdを算出する。なお、この遅延時間演算部54による遅延時間Tdの算出手法は、遅延時間演算部44と同様であるため説明を省略する。
【0059】
遅延時間制限部55は、遅延時間演算部54によって算出された遅延時間Tdが、最大遅延時間設定部52にて設定された最大遅延時間Tdmaxと、最小遅延時間設定部53にて設定された最小遅延時間Tdminとの範囲内に収まるように制限する。具体的には、遅延時間Tdが最大遅延時間Tdmaxを越えた場合、その遅延時間Tdを最大遅延時間Tdmaxに設定し直す一方、遅延時間Tdが最小遅延時間Tdminを下回った場合、その遅延時間Tdを最小遅延時間Tdminに設定し直す。
【0060】
補助スイッチ動作切替部56は、遅延時間オン/オフ判定部51にて遅延時間Tdを設定しない(補助スイッチ下アーム29を先行動作させない)と判定された場合、補助スイッチ下アーム29の動作をオフに切り替える一方、それ以外の場合には、補助スイッチ下アーム29の動作をオンに切り替える(補助スイッチデューティ演算部57に遅延時間Tdの使用を許可する)。
【0061】
補助スイッチデューティ演算部57は、回生デューティ演算部37によって算出された主スイッチ上アーム20のデューティ比Dm1と、遅延時間制限部55から得られた遅延時間Tdとに基づいて、補助スイッチ下アーム29と主スイッチ上アーム20とのオンタイミング差が遅延時間Tdとなるような補助スイッチ下アーム29のデューティ比Ds2を算出する。
【0062】
スイッチ制御部8は、上記のように、主スイッチ20、21のデューティ比Dm及び補助スイッチ28、29のデューティ比Dsを算出すると、デューティ比Dmを有するPWM信号を生成して主スイッチ20、21に出力すると共に、デューティ比Dsを有するPWM信号を生成して補助スイッチ28、29に出力する。
【0063】
これにより、回生運転時(I1ref<0)には、主スイッチ上アーム20及び補助スイッチ下アーム29がそれぞれのデューティ比でスイッチング動作し、各回路素子のハードウェア特性のバラツキに関係なく、補助スイッチ下アーム29がオンとなってから上スナバコンデンサ電圧Vc1が近似的に最小となる時点(遅延時間Tdの経過後)で主スイッチ上アーム20がオンとなる。
また、力行運転時(I1ref≧0)には、主スイッチ下アーム21及び補助スイッチ上アーム28がそれぞれのデューティ比でスイッチング動作し、各回路素子のハードウェア特性のバラツキに関係なく、補助スイッチ上アーム28がオンとなってから下スナバコンデンサ電圧Vc2が近似的に最小となる時点(遅延時間Tdの経過後)で主スイッチ下アーム21がオンとなる。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る共振型電力変換装置によれば、SAZZ双方向チョッパ回路1を構成する各回路素子のハードウェア特性のバラツキに影響されずに、最適なソフトスイッチング制御を実現することができる。
【0065】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更することが可能である。
例えば、上記実施形態では、SAZZ双方向チョッパ回路1の一次側電流値I1に基づいて、閾値Vcthの設定、最大遅延時間Tsmaxの設定、最小遅延時間Tdminの設定及び遅延時間Tdのオン/オフ判定を行う場合を例示したが、一次側電流値I1に替えて二次側電流センサ5によって検出される二次側電流値I2を用いても良い。