特許第6056147号(P6056147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056147
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】海水供給装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/44 20060101AFI20161226BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20161226BHJP
   F28C 3/06 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   B63B35/44 N
   G21D1/00 R
   F28C3/06
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-17109(P2012-17109)
(22)【出願日】2012年1月30日
(65)【公開番号】特開2013-154781(P2013-154781A)
(43)【公開日】2013年8月15日
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 泰啓
【審査官】 中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−088998(JP,A)
【文献】 特開平11−153100(JP,A)
【文献】 特開2002−056878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/44
G21D 1/00
F28C 3/06
F04F 1/18
H01M 8/06
E02F 3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を汲み上げて、冷却水として発電設備の復水器を含む設備に供給する海水供給装置であって、
前記発電設備の復水器を含む設備の近傍から海水中に延びて設けられている第1の汲み上げ管および第2の汲み上げ管と、
前記第1の汲み上げ管内に設けられ、電気分解で水素の泡を発生する陰極と、
前記第2の汲み上げ管内に設けられ、電気分解で塩素の泡を発生する陽極と、
前記第1の汲み上げ管および前記第2の汲み上げ管の外側に設けられ、電気分解のための電源を前記陽極と前記陰極とに供給する本体と、
前記第1の汲み上げ管内の陰極から発生する水素の泡の上昇で汲み上げられた海水を貯留し、この海水から水素の泡を分離する第1のタンクと、
前記第2の汲み上げ管内の陽極から発生する塩素の泡の上昇で汲み上げられた海水を貯留し、この海水から塩素の泡を分離する第2のタンクと、
前記第1のタンク内の海水と前記第2のタンク内の海水を前記発電設備の復水器を含む設備に供給する供給手段と、
を備え
前記第1の汲み上げ管は、海水の水深部で前記陰極により発生させた、高圧常温の水素の泡を上昇させ、この水素の泡が常圧低温の状態に変化することで、冷却しながら海水を汲み上げ、
前記第2の汲み上げ管は、海水の水深部で前記陽極により発生させた、高圧常温の塩素の泡を上昇させ、この塩素の泡が常圧低温の状態に変化することで、冷却しながら海水を汲み上げる、
ことを特徴とする海水供給装置。
【請求項2】
前記第1のタンク内の水素を酸素と結合させることで発電し、発電した電力を、電源線を介して前記本体に供給する発電手段を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の海水供給装置。
【請求項3】
前記発電手段は、前記第1のタンク内の水素に酸素を結合させて生成した水を前記発電設備の復水器を含む設備に供給する、
ことを特徴とする請求項2に記載の海水供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海水中から汲み上げ管により海水を汲み上げてタンクに貯留させることで、海水を冷却水として設備に供給する海水供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火力・原子力などの発電設備の冷却装置としては、海水面(汲み上げ管の上流部水面、以下、取水面と称す。)下に設置したポンプ(冷却水ポンプ)の圧力と、冷却配管(汲み上げ管)内のサイフォン効果とにより、海水を汲み上げ、所定の高さに設置された復水器や補機などの設備内に循環させて冷却する海水供給装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような従来の海水供給装置について、図4を参照して説明する。図4は、従来の海水供給装置の構造を示す構成図であり、(a)はサイフォン式の配管構造を、(b)はサイフォン式の設備位置をアップした構造を、各々示している。この従来の海水供給装置は、サイフォン効果を活用した海水供給装置である。このサイフォン効果を活用するためには、図4(a)に示すように、取水面から設備(復水器や補機など)までの設置高さが制限されており、取水面から一定高さ(10m:汲み上げ管などの損失水頭)以下に設置する必要がある。すなわち、復水器や補機などの設備は、取水面から10m以上の高さではサイフォンリミットが切れて滑らかな送水ができなくなる不具合があった。
【0004】
特に、この度の2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波による原子力発電所設備被害(発電機、冷却水ポンプが海水に浸かることによる安全機能停止)の防止対策として、復水器や補機等の設備を津波の影響を受けない安全な高さに持ち上げることは最も重要な課題となっている。
【0005】
そこで、従来の海水供給装置(例えば、特許文献1)では、ポンプだけのリフト力により数m持ち上げ(汲み上げ)、あとはサイフォン効果で循環させることで、設備の設置位置を一定の高さまでアップさせていた。この場合、図4(b)に示すように、設備の設置位置アップに伴って、冷却配管(汲み上げ管)の海への放水側もアップするため、このアップした放水側に、一端水槽(タンク)を配置して海水を受けることで、サイフォン効果(10m以下の損失水頭)が得られるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2883938号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の海水供給装置では、図4(b)のように設備の設置位置をアップさせた場合、図4(a)のような通常高さ(10m以下)のサイフォン式装置に比べると、新たに水槽の増加(追加)や、この水槽から海へ放水する配管ロスの増加、および取水ポンプのリフト力増加(エネルギーロス増加)などの、様々なロスが大幅に増加してしまうという不具合があった。
【0008】
そこでこの発明は、大幅なエネルギーロスの低減や、冷却水温の低下および取水量の低下を図ることにより効率的なアップリフトを可能とし、冷却水アップリフトにおける省エネルギー化が実現可能な海水供給装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、海水を汲み上げて、冷却水として発電設備の復水器を含む設備に供給する海水供給装置であって、前記発電設備の復水器を含む設備の近傍から海水中に延びて設けられている第1の汲み上げ管および第2の汲み上げ管と、前記第1の汲み上げ管内に設けられ、電気分解で水素の泡を発生する陰極と、前記第2の汲み上げ管内に設けられ、電気分解で塩素の泡を発生する陽極と、前記第1の汲み上げ管および前記第2の汲み上げ管の外側に設けられ、電気分解のための電源を前記陽極と前記陰極とに供給する本体と、前記第1の汲み上げ管内の陰極から発生する水素の泡の上昇で汲み上げられた海水を貯留し、この海水から水素の泡を分離する第1のタンクと、前記第2の汲み上げ管内の陽極から発生する塩素の泡の上昇で汲み上げられた海水を貯留し、この海水から塩素の泡を分離する第2のタンクと、前記第1のタンク内の海水と前記第2のタンク内の海水を前記発電設備の復水器を含む設備に供給する供給手段と、を備え、前記第1の汲み上げ管は、海水の水深部で前記陰極により発生させた、高圧常温の水素の泡を上昇させ、この水素の泡が常圧低温の状態に変化することで、冷却しながら海水を汲み上げ、前記第2の汲み上げ管は、海水の水深部で前記陽極により発生させた、高圧常温の塩素の泡を上昇させ、この塩素の泡が常圧低温の状態に変化することで、冷却しながら海水を汲み上げる、ことを特徴とするものである。
【0010】
この発明によれば、海水中で水素と塩素の泡を発生させ、発生した泡と海水とを汲み上げ管を介して海上に汲み上げ、この汲み上げた泡と海水とをタンクに貯留し、タンク内の海水が冷却水として設備に供給される。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の海水供給装置において、前記第1のタンク内の水素を酸素と結合させることで発電し、発電した電力を、電源線を介して前記本体に供給する発電手段を備える、ことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、発電手段が、当該水素を酸素と結合させて発電し、この発電による電力によって泡発生手段の電気分解を行えるようにする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の海水供給装置において、前記発電手段は、前記第1のタンク内の水素に酸素を結合させて生成した水を前記発電設備の復水器を含む設備に供給する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、陰極に発生した水素の泡とともに海水を冷却しながら汲み上げ、陽極に発生した塩素の泡とともに海水を冷却しながら汲み上げることで、泡の浮力によって海水が浮上されるため、海水を泡とともに効率的に汲み上げることができる。しかも、海水中の高圧状態で泡が発生されるため、泡の浮力および海水の浮上力が高まり、より効率的に海水を汲み上げることが可能となる。この結果、復水器や補機等の設備が高い位置に設置されていても、エネルギーや配管のロスを低減でき、冷却水アップリフトにおける大幅な省エネルギー化を実現することが可能となる。さらに、泡が上昇に伴って膨張することで海水を冷却する効果(気体膨張冷却効果)が発揮されるため、海水の冷却水としての効果が高くなり、設備の冷却に要する海水量を低減することが可能となり、この結果、冷却水の循環に必要なエネルギーをより低減することが可能となる。また、海水中で泡を発生させるだけであるため、構成が簡易で、費用を低減することができる。さらに、請求項1の発明によれば、第1の汲み上げ管および第2の汲み上げ管で汲み上げた冷却水が放射性物質等により汚染された水であっても、処分の対象としか扱われなかった放射性物質による汚染水を冷却水として使用することができる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、タンク内の水素を酸素と結合させて発電し、この電力によって電気分解を行うため、冷却水アップリフトにおけるシステム全体(装置全体)のエネルギー効率を高めることが可能になる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、冷却水を電気分解させて発生した水素により発電し、この発電において水素を酸素と結合させて水を生成するため、冷却水が汚染された水であっても、電気分解と結合とにより汚染物質を含まない純水として生成できる。この結果、発電の過程で純水を生成させて汚染された水を減量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の実施の形態に係る海水供給装置の概略構造を示す構成図である。
図2図1の泡発生手段と発電手段との動作状態を示す図である。
図3図1の汲み上げ管内を上昇する気体が膨張し冷却水の温度を低下させる状況を示す図である。
図4】従来の海水供給装置の構造を示す構成図であり、(a)はサイフォン式の配管構造を、(b)はサイフォン式の設備位置をアップさせた構造を、各々示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
図1は、この発明の実施の形態に係る海水供給装置の概略構造を示す構成図である。この海水供給装置1は、図1に示すように、火力・原子力などの発電設備における復水器や補機などの設備10に、海水Aを汲み上げて冷却水として循環させる装置であって、主として、泡発生手段20、汲み上げ管30、タンク40、供給手段50、発電手段60、とにより構成されている。
【0026】
泡発生手段20は、海水A中に設けられて泡Bを発生させる装置であって、海中の水深部に配設され、海水A中に電源線2を介して電源を供給して駆動させる本体21と、この本体21に各々接続されて電圧を加える陽極22bおよび陰極22aと、を備えている。
【0027】
すなわち、陽極22bおよび陰極22aにより海水A中に電圧を加えると、それぞれの電極から気体が発生されて電流が流れる。この陰極(−極)22aから発生する気体は水素(H)であり、陽極(+極)22bから発生する気体は塩素(Cl)である。このように電気分解によって発生する水素と塩素との気体が、図1に示した泡Bとして海水A中に含有される。この塩素と水素とは同じ体積で各々発生するが、塩素は水にとけやすいので、水素よりも集まる量が少ない。
【0028】
このように泡発生手段20は、海底と発電所敷地とをつなぐ配管の中に泡Bを含有させてエアーバブルアップリフト効果により、海水Aを海面よりも高い位置に送液させるものである。そして、泡Bを発生させる場合、前述した電気分解により水素(H)と塩素(Cl)との気体を発生させて泡Bを発生させている。
【0029】
すなわち、電気分解であるため、例えば、水深の深い海底へ空気を圧縮して圧送するエアーバブルアップリフト工法とは異なり、空気圧縮に必要なエネルギーを全く不要としている。特に、この泡発生手段20は、深い海底における高圧状態で気体(泡B)を発生させるため、後述する泡Bの上昇で減圧される気体膨脹冷却効果により、汲み上げられる冷却水(海水)の温度を同時に低下させることを目的としている。
【0030】
汲み上げ管30は、設備10の近傍から海水A中に延びて配設され、海水A中で泡発生手段20のエアーバブルアップリフト効果により、海上に海水を汲み上げるために海水A中に長く延びて配置されている。この際、汲み上げ管30は、水素(H)側の陰極22aに配設される水素汲み上げ管31と、塩素(Cl)側の陽極22bに配設される塩素汲み上げ管32と、を備えている。この汲み上げ管30は、エアーバブルアップリフト効果が得られるように長さと配管直径とを調整し、例えば、海水に泡を3%含有させることで、管内の水位が3m上昇させるなどの汲み上げを可能にしている。
【0031】
水素汲み上げ管31は、海水Aを汲み上げる終端を設備10に接続して供給せず、一端、タンク40に貯留させて、水素と分離させて海水Aのみを冷却水として設備10に送水させている。一方、塩素汲み上げ管32は、前述した塩素が水素よりも集まる量が少ないため、海水Aを汲み上げる海水量も少なくなる。しかし、塩素汲み上げ管32も、図示されていないが、水素汲み上げ管31と並行してタンクに接続させ、塩素と分離させて海水Aのみを設備10に送水させることも可能である。
【0032】
タンク40では、汲み上げ管30で汲み上げられた泡B(水素)と海水Aとを貯留して、この泡Bと分離させた海水Aを、図1に示した配管51とポンプ52とを備えた供給手段50により送水して設備10に供給している。
【0033】
また、タンク40内で分離させた水素と塩素とは、タンク40内から抽出(回収)して他の工程などに送って再利用される。この際、本実施の形態では、タンク40で抽出された水素をさらに用いて、装置自体に帰還させて再利用している。具体的に、タンク40で抽出された水素は、図1に示した配管41を介して発電手段60に供給されている。
【0034】
発電手段60は、タンク40内からの水素(H)に酸素(O)を結合(混合)させて発電する燃料電池の構造を備えている。そして、この発電手段60で発電させた電力は、前述した泡発生手段20に電源線2を介して供給されて使用される。ここで、発電手段60で発電させた電力は、泡発生手段20を駆動させる電力の約50%程度である。したがって、残り50%の電力は、図示されていない外部電源から、電源線2を介して発電手段60での電力とともに、泡発生手段20に供給されている。
【0035】
次に、このような構成の海水供給装置を用いた海水供給方法について、図1から3を参照して詳細に説明する。図2は、図1の泡発生手段20と発電手段60との動作状態を示す図である。また、図3は、図1の汲み上げ管30内の動作を示す図である。この海水供給装置を用いた海水供給方法は、まず、図1に示した泡発生手段20を駆動させ、海水A中の陽極22bおよび陰極22aに電圧を加える。この際、発電手段60は、タンク40から水素の供給がないため、駆動していない。したがって、駆動直後の泡発生手段20は、電源線2を介して、図示されていない外部電源から電源が供給されて駆動される。
【0036】
そして、泡発生手段20が駆動されると、陰極22bと陽極22aとの電極に電圧が加えられ、それぞれの電極から水素と塩素との気体が発生される。この気体が泡Bとなって、水素汲み上げ管31と塩素汲み上げ管32との各管内から海水Aを上昇させるようになっている。
【0037】
この際、海水Aの電気分解による気泡発生(電気分解式エアーバブルアップリフト)は、図2に示すように、周囲から圧力Pが加わり、高圧状態(深い水域)で海水を電気分解させるが、この場合、大気圧状態と同じエネルギーで同量の気体を発生させることが可能である。すなわち、前述したエアーバブルアップリフト工法のように、深い水域に気体を圧縮させて圧送するため必要とされるエネルギーなどが全く不要である。しかも、高圧状態(深い水域)では、深ければ深いほど海面上昇力が大きくなる(例えば、100mの深さで約3%軽くなる)ため、海水のアップリフト力が増加される。
【0038】
また、前述したエアーバブルアップリフト工法では、圧縮して吹き込まれる空気の圧力を高める必要があるため、その過程で気体圧縮熱が発生し、そのための冷却エネルギーが必要となり、全体のエネルギー効率を低下させる。これに対して、電気分解式エアーバブルアップリフトでは、発生させる泡(水素・塩素の泡)が、高圧・常温気体であるため、汲み上げ管30内の冷却水(海水A)の温度を低下させながら汲み上げることができる。すなわち、この方法で汲み上げた海水Aは、冷却に最も適した冷却水として設備10に供給されて、設備10を冷却するために必要な水量を低減し、冷却水の循環に必要なエネルギーをより低減することができる。
【0039】
具体的に、汲み上げ管30(水素汲み上げ管31、塩素汲み上げ管32)内を上昇する泡B(水素・塩素の泡)は、高圧状態(深い水域)から脱するように浮上し、常温からさらに冷却される。すなわち、上昇する泡Bは、図3に示すように、高圧・常温の状態から浮上することで、常圧・低温に冷却される。これは高圧状態で発生された泡B(気体)が、海面への上昇により減圧・膨張され、気体膨張冷却により気泡(気体)の温度が低下するためである。
【0040】
このように汲み上げ管30で気体膨張冷却されて汲み上げられた冷却水(海水A)は、図1に示したタンク40内で一端貯留され、気体である泡B(水素・塩素)を分離させた後、設備10に供給される。そして、冷却水から泡Bが分離された後、供給手段50のポンプ52を駆動させて配管51を介して設備10に冷却水が供給される。
【0041】
これにより冷却水を復水器や補機などの設備10内に循環させることで、設備10が冷やされて冷却作業が完了される。ここで、本実施の形態は、電気分解式であってサイフォン式でないため、図4(b)に示した水槽(タンク)を介さずに、前述した冷却作業を終えた冷却水を、そのまま海に放水することができる。
【0042】
ところで、図1に示したタンク40内で分離された水素は、配管41を介して発電手段60に送られて再利用される。この際、発電手段60は、従来周知の燃料電池であって、この燃料電池の発電の仕組みは泡発生手段20の電気分解と逆の反応である。すなわち、発電手段60は、水素(H)と酸素(O)とを反応させて電気をつくり出すようになっている。
【0043】
ただし、水素と酸素をそのまま反応させると燃焼してしまうため、図2に示した電極61a、61bを介し発電される。水素は陰極の電極61bで電子とイオンとに分けられ、水素の分解で発生された電子が流れて発電される。残った水素イオンは、イオン透過膜62を通じて陽極の電極61bで酸素および電子と結びつき、水に変わる。この水は、純水であるため、各種発電設備に再利用される。
【0044】
この水は、例えば、汲み上げ管30で汲み上げた冷却水(海水A)が放射性物質等により汚染された水であっても、この水を電気分解させて発生した水素を発電時に酸素と結合させるため、汚染物質を含まない純水として生成できる。また、汚染水は、汲み上げ管30で気体膨脹冷却効果によって冷却されるため、この汚染水を冷却水として使用できる。すなわち、処分の対象としか扱われなかった放射性物質による汚染水を冷却水として使用することができ、かつ汚染物質を含まない純水に生成できるため、冷却および発電の過程で汚染された水を減量化することができる。
【0045】
このようにタンク40の冷却水から回収された水素は、発電手段60に供給されて発電に用いられ、この発電された電力として電源線2を介して泡発生手段20に供給される。以上で、図1に示した設備10に冷却水である海水が循環され、設備10全体が良好に冷やされて発電設備を安全に運転させることが可能になる。
【0046】
以上のように、この海水供給装置1および方法によれば、海水Aを泡Bとともに汲み上げることで、泡Bの浮力によって海水Aが浮上されるため、海水Aを泡Bとともに効率的に汲み上げることができる。しかも、海中の高圧状態で泡Bが発生されるため、泡Bの浮力および海水Aの浮上力が高まり、より効率的に海水Aを汲み上げることが可能となる。この結果、設備10が高い位置に設置されていても、エネルギーや配管のロスを低減でき、冷却水アップリフトにおける大幅な省エネルギー化を実現することが可能となる。さらに、泡Bが上昇に伴って膨張することで海水Aを冷却する効果が発揮されるため、海水Aの冷却水としての効果が高くなり、設備10の冷却に要する海水量を低減することが可能となり、この結果、冷却水の循環に必要なエネルギーをより低減することが可能となる。また、海水中で泡Bを発生させるだけであるため、構成が簡易で、費用を低減することができる。
【0047】
また、タンク40内の水素を酸素と結合させて発電し、この電力によって電気分解を行うため、冷却水アップリフトにおけるシステム全体(装置全体)のエネルギー効率を高めることが可能になる。
【0048】
また、電気分解によって泡B(気体)を発生させるため、気体を送気するための圧縮エネルギーを費やすことなく、泡Bを発生させることができる。
【0049】
また、高水圧である水深部で電気分解によって高圧の泡B(気体)を発生させるため、泡Bの上昇に伴う気体膨脹冷却効果が大きく、冷却のためのエネルギーを費やすことなく、海水Aをより低温まで冷却することができる。この結果、設備10を冷却するために必要な海水(冷却水)量をより低減し、海水Aを汲み上げる(循環させる)のに要するエネルギーをより低減することができる。
【0050】
さらに、冷却水を電気分解させて発生した水素により発電し、この発電において水素を酸素と結合させて水を生成するため、冷却水が汚染された水であっても、電気分解と結合とにより汚染物質を含まない純水として生成できる。この結果、発電の過程で純水を生成して汚染された水を減量化することができる。
【0051】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、復水器や補機などの発電施設における冷却水の汲み上げについて説明したが、これに限定されるものではなく、海水Aにより冷却する装置であれば採用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 海水供給装置
2 電源線
10 設備
20 泡発生手段
21 本体
22a 陰極
22b 陽極
30 汲み上げ管
31 水素汲み上げ管(第1の汲み上げ管)
32 塩素汲み上げ管(第2の汲み上げ管)
40 タンク(第1のタンク)
41 配管
50 供給手段
51 配管
52 ポンプ
60 発電手段
61a、61b 電極
62 イオン透過膜
A 海水
B 泡
図1
図2
図3
図4