特許第6056195号(P6056195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056195
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】音響信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
   H04R3/00
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-118177(P2012-118177)
(22)【出願日】2012年5月24日
(65)【公開番号】特開2013-247420(P2013-247420A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(74)【代理人】
【識別番号】100103735
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 隆盛
(72)【発明者】
【氏名】岡林 昌明
【審査官】 菊池 充
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0059492(US,A1)
【文献】 特開2007−293312(JP,A)
【文献】 特開2009−244344(JP,A)
【文献】 特開平03−173985(JP,A)
【文献】 特開2002−367278(JP,A)
【文献】 特開2009−217079(JP,A)
【文献】 特開2001−282237(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0227342(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0234477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00− 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミキサーから出力される1以上のチャンネルの音響信号をレコーディングする録音機能を有している音響信号処理装置であって、
前記ミキサーからチャンネル構成情報を取得して、レコーディング時に作成される新規プロジェクトのトラック構成情報に取得した前記チャンネル構成情報を反映させ、前記チャンネル構成情報が反映されて作成された1以上の前記チャンネルと同数のトラックに、1以上の前記チャンネルの音響信号をそれぞれ録音する際に、
前記チャンネル構成情報に含まれているチャンネル数とチャンネル名との情報が、少なくとも前記トラック構成情報のトラック数とトラック名との情報に反映されて、1以上の前記チャンネルと同数の前記トラックが作成されると共に、作成されたトラックのそれぞれに前記チャンネル名と同じトラック名が付与されることを特徴とする音響信号処理装置。
【請求項2】
ミキサーから出力される1以上のチャンネルの音響信号をレコーディングする録音機能を有する音響信号処理装置として機能しているコンピュータに、
前記ミキサーから取得したチャンネル構成情報を反映させて、1以上の前記チャンネルと同数のトラックとされたトラック構成情報の新規プロジェクトを、レコーディング時に作成するステップと、
1以上の前記チャンネルの音響信号を、1以上の前記トラックにそれぞれ録音するステップと、
を実行させ、前記録音するステップでは、前記チャンネル構成情報に含まれているチャンネル数とチャンネル名との情報が、少なくとも前記トラック構成情報のトラック数とトラック名との情報に反映されて、1以上の前記チャンネルと同数の前記トラックが作成されると共に、作成されたトラックのそれぞれに前記チャンネル名と同じトラック名が付与されることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ミキサーから出力される音響信号をレコーディングすることができる音響信号処理装置(DAW)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、施設内や校内の放送などの多数の人に音声情報を伝達する放送設備であるPA(Public Addressing)や、コンサート会場などの大規模会場であっても隅々まで音質を均一にして演奏音やボーカル音などを伝達する放送設備であるSR(Sound Reinforcement)の現場においては、楽器の演奏音やボーカル音をマイクで収音し、ミキシングしてパワーアンプや各種録音機器に送り出したり、エフェクタや演奏しているプレーヤに送り出すミキサーが用いられている。従来のミキサーは、マイクで収音された音響信号やシンセサイザー等のディジタル録音機器からの音響信号が入力される入力ポートと、ディジタルおよびアナログの音響信号を出力する出力ポートとを備えるI/Oユニットと、ディジタルの音響信号のミキシング処理やエフェクト処理を行う音響信号処理ユニットと、各種パネル操作子を操作することにより、演奏を最もふさわしく表現していると思われる状態に調整するコンソールとを備えている。ミキサーのアナログの音響信号が出力される出力ポートにはアンプが接続され、アンプには会場内等に設置された複数のスピーカが接続されており、アンプで増幅された音響信号がスピーカから放音されるようになされている。
【0003】
従来のPA/SRの現場においては、MTR(Multi Trak Recorder)を用いて、ミキサーから出力される各チャンネルの音響信号を別々のトラックにレコーディングしている。これにより、音楽制作時に別々にレコーディングしたドラムやベース、ギター、ピアノなどの各楽器音とボーカルのそれぞれの音量やパンを調節したり、ボーカルにエフェクトをかけたり、楽器毎に異なるエフェクトをかけたりすることができる。このようにして、レコーディング後にそれぞれの音響信号の音質を細かく調節することにより、音楽制作を行うことができる。
ところで、汎用のコンピューターを用いる音響信号処理装置において、ディジタル信号処理により演奏データの録音や編集、ミキシング等の音響処理作業を行うことが知られている。このような音響信号処理装置は、コンピューターに「DAWソフト」と云われるアプリケーションプログラムをインストールすることにより実現されており、デジタルオーディオワークステーション(Digital Audio Workstation:DAW)と呼ばれている。DAWの機能が進歩してリアルタイムレコーディングが可能になったこと、DAWが動作するコンピューターは可搬性に優れていることから、MTRに替えてPA/SRの現場においてDAWを用いてミキサーの各チャンネルの音響信号をレコーディングするようになってきている。
【0004】
ところで、PA/SRシステムとレコーディングシステムは、独立して設計/運用されることが多いことから、それぞれのシステムで、チャンネル構成情報あるいはトラック構成情報などのセッティングから運用までを個々に行っている。この場合、従来のDAWにおいて、トラックの構成情報をテンプレートとして保存しておき、新規プロジェクトをあらかじめプログラムに含まれるテンプレートからスタートすることで、プロジェクトごとに、トラックの構成を最初から設定する手間を省くことが知られている(非特許文献1参照)。
また、ミキサーおよびDAWとも、事前にチャンネル構成情報あるいはトラック構成情報などを設定しておくことが可能とされており、現場のセッティング時に、必要なケーブルを接続すると共に、論理的にもミキサーとDAWソフトとを接続すればよいようにされている。しかし、現場のセッティング時に、チャンネル数の変更などがあった場合は、ミキサー側およびDAW側において、それぞれセッティングを変更する必要があった。
【0005】
また、従来のDAWにおいては、トラックデータと、使用設定されている外部機器の特定情報と、外部機器のパラメータとを含むプロジェクトファイルが読み込まれた際に、通信網に接続されている音楽機器を検出し、検出された外部機器を、プロジェクトファイルの保存時に使用設定されていた外部機器に対応付けして、対応付けできた外部機器に対してパラメータ記憶手段の記憶するパラメータを転送することにより、該外部機器と該パラメータ記憶手段の間でパラメータを同期化することが考えられている。これにより、外部機器と該パラメータ記憶手段の間でパラメータを同期化することができ、対応付けすることのできた現存する音楽機器について保存時の音楽機能を復元することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Steinberg Media Technologies GmbH CUBASE LE5 オペレーションマニュアル,P.9-12,[online], [平成23年11月 3日検索],インターネット<http://www.zoom.co.jp/archive/Japanese_Manual/CubaseLE5_Operation_Manual_jp.pdf>
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−293312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ミキサーの各チャンネルの音響信号をDAWを用いてレコーディングする場合においては、ミキサーへの入力とは別とされた音響信号がDAWへ入力されたり、ミキサーの入力チャンネルのダイレクトアウトがDAWに入力されたり、ミキサーの入力チャンネルの任意のポイントからの出力がDAWに入力されてレコーディングされるようになる。このように、ミキサーとDAWで別個にセッティングが行われるため、レコーディングする際にセッティングの手間がかかったり、セッティングの急な修正が必要になったときも同様に手間がかかることになる。上記したように、レコーディングする際にお互いのマッチングを取りながら、DAWをセットアップするのは多くの手間がかかるという問題点があった。
そこで、本発明はレコーディングする際に音響信号処理装置(DAW)のセッティングを容易に行えるようにした音響信号処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の音響信号処理装置は、ミキサーから出力される1以上のチャンネルの音響信号をレコーディングする録音機能を有している音響信号処理装置であって、前記ミキサーからチャンネル構成情報を取得して、レコーディング時に作成される新規プロジェクトのトラック構成情報に取得した前記チャンネル構成情報を反映させ、前記チャンネル構成情報が反映されて作成された1以上の前記チャンネルと同数のトラックに、1以上の前記チャンネルの音響信号をそれぞれ録音する際に、前記チャンネル構成情報に含まれているチャンネル数とチャンネル名との情報が、少なくとも前記トラック構成情報のトラック数とトラック名との情報に反映されて、1以上の前記チャンネルと同数の前記トラックが作成されると共に、作成されたトラックのそれぞれに前記チャンネル名と同じトラック名が付与されることを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ミキサーからチャンネル構成情報を取得して、レコーディング時に作成される新規プロジェクトのトラック構成情報に取得されたチャンネル構成情報が反映される。具体的には、チャンネル構成情報に含まれているチャンネル数とチャンネル名との情報が、少なくともトラック構成情報のトラック数とトラック名との情報に反映されて、1以上のチャンネルと同数のトラックが作成されると共に、作成されたトラックのそれぞれにチャンネル名と同じトラック名が付与される。このことから、ミキサーから出力されるチャンネルの音響信号を音響信号処理装置においてレコーディングする際のセッティングを容易に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例の音響信号処理装置を用いる音響信号処理システムの構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施例の音響信号処理装置がオーディオネットワークに接続されている他の音響信号処理システムの構成を示す図である。
図3】本発明の実施例の音響信号処理装置を用いる音響信号処理システムを構成するミキサーのハードウェア構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施例の音響信号処理装置を用いる音響信号処理システムを構成するミキサーの処理アルゴリズムを等価的に示す機能ブロック図である。
図5】本発明の実施例の音響信号処理装置を用いる音響信号処理システムを構成するミキサーにおける入力チャンネルと出力チャンネルの構成を示す回路ブロック図である。
図6】本発明の実施例の音響信号処理装置で実行される接続時の処理のフローチャートである。
図7】本発明の実施例の音響信号処理装置を用いるミキサーのチャンネル構成情報のメモリイメージを示す図である。
図8】本発明の実施例の音響信号処理装置のチャンネル構成情報のメモリイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例の音響信号処理装置を用いる音響信号処理システムの構成を示すブロック図を図1に示す。
図1に示す音響信号処理システムは、PA/SRシステムと、PA/SRシステムに接続されているレコーディングシステムとから構成されている。PA/SRシステムは、会場等に設置された複数本のマイク3a,・・・,3hからのアナログの音響信号と、シンセサイザー2からのディジタルの音響信号が入力されるミキサー1と、ミキサー1から出力されるミキシングされた音響信号を増幅するアンプ4と、アンプ4から出力される増幅された音響信号を放音する複数のスピーカ5a,・・・,5kとを備えている。また、レコーディングシステムはDAWソフトがインストールされ、DAWが動作しているパーソナルコンピュータ(PC)6から構成されている。このPC(DAW)6が、本発明の音響信号処理装置の実施例とされている。
【0013】
ミキサー1は、入力信号系列である複数の入力チャンネルと、入力チャンネルからの音響信号をミキシングするバスと、ミキシングされた音響信号を出力する出力信号系列である出力チャンネルを備えている。各入力チャンネルはそれぞれ入力される音響信号の周波数特性やミキシングレベル等を制御して各ミキシングバスに出力し、各ミキシングバスは入力された音響信号をミキシングして対応する出力チャンネルに出力する。本発明にかかるPC(DAW)6は、ミキサー1から出力された各入力チャンネルの音響信号を、複数のトラックを有するプロジェクトの各トラックにアサインして録音することができる。レコーディング時にミキサー1からPC(DAW)6に出力される音響信号としては、入力チャンネルのフェーダーより前の所定の箇所の音響信号が出力ポートから直接出力されるダイレクトアウト信号や、入力チャンネルのレベルを調整するフェーダーの直後のポストフェーダー信号とされる。ミキサー1から出力される音響信号は、ミキサー1において設定することができる。
【0014】
また、本発明の音響信号処理装置がオーディオネットワークに接続されて構成された他の音響信号処理システムの構成を図2に示す。
図2に示す音響信号処理システムは、イーサネット(登録商標)などのオーディオネットワーク7を備えており、オーディオネットワーク7にAD/DA部1aと信号処理部(DSP部)1bとコンソール部1cとPC(DAW)6とが接続されて構成されている。また、オーディオネットワークには本発明にかかる音響信号処理装置の実施例であるPC(DAW)6が接続されている。AD/DA部1aは、マイクやシンセサイザーなどが接続される入力端子である物理的な入力ポートや、アンプ等が接続される出力端子である物理的な出力ポート、および、オーディオネットワーク7に接続される通信I/O端子を備えている。さらに、アナログ入力ポートに入力された複数のアナログ信号をディジタル信号に変換して出力するAD変換器と、アナログ出力ポート部に供給された複数のディジタル出力信号を、アナログ出力信号に変換して出力するDA変換器とを備えている。また、DSP部1bは、多数のDSP(Digital Signal Processor)を用いて構成されていると共に、オーディオネットワーク7に接続される通信I/O端子を備え、ミキシング処理やエフェクト処理などを行っている。
【0015】
コンソール部1cには、コンソールパネルに入力チャンネルのミキシングバスへの送り出しレベルを調整する複数の電動フェーダー、各種パラメータを操作するための多数の操作子やオーディオネットワーク7に接続される通信I/O端子が設けられている。コンソール部1cを扱うオペレーターは、演奏音やボーカル音の各オーディオ信号の音量や音色を、電動フェーダーや各種操作子を操作することにより、演奏を最もふさわしく表現していると思われる状態に調整している。PC(DAW)6にはDAWソフトがインストールされ、DAWが動作している本発明の実施例の音響信号処理装置であり、オーディオネットワーク7に接続される通信I/O端子を備え、音響信号の記録や再生、あるいはエフェクト付与やミキシング等の音響信号処理機能が実現されている。
AD/DA部1aとDSP部1bとコンソール部1cとがオーディオネットワーク7により論理的に接続されることにより、図1に示すミキサー1と同等のミキサーが実現される。この実現されたミキサーのレコーディングをPC(DAW)6で動作しているDAWで行うことができる。この際に、当該ミキサーにPC(DAW)6がオーディオネットワーク7により論理的に接続されていることから、DAWはAD/DA部1aとDSP部1bとコンソール部1cとで構成されるミキサーの任意の位置に論理的接続して、任意の位置の信号を取り出すことができるようになる。すなわち、上記した他の音響信号処理システムでは、入力チャンネルのダイレクトアウト信号やポストフェーダー信号などを、PC(DAW)6側で設定してDAWに録音することができるようになる。
【0016】
PC(DAW)6で動作しているDAWは、図1,2に示す音響信号処理システムにおけるミキサーから出力された各チャンネルの音響信号を録音する際に、新規プロジェクトを作成する。新規プロジェクトには、ミキサーのチャンネル数と同数のトラックを作成すると共に、各チャンネルのチャンネル名をトラックのトラック名として設定する。そして、チャンネル番号とチャンネル名をトラック番号とトラック名に対応させて、各チャンネルを各トラックにアサインして、各トラックにレコーディングする。この場合、本発明にかかる音響信号処理装置であるPC(DAW)6で動作しているDAWでは、新規プロジェクトを作成する際に、ミキサー側からチャンネル数とチャンネル名とのチャンネル構成情報を少なくとも取得して、取得したチャンネル数と同数のトラックを自動的に作成すると共に、取得したチャンネル名を各トラックにトラック名として自動的に付与する。これにより、PC(DAW)6でレコーディングを行う際に、ユーザーがミキサーのチャンネル数やチャンネル名を確認しながらセッティングすることなく、PC(DAW)6のDAWのレコーディング時のセッティングを容易に行うことができるようになる。
【0017】
ここで、図1に示すミキサー1のハードウェア構成を示すブロック図を図3に示す。なお、図2に示す他の音響信号処理システムで実現されるミキサーのハードウェア構成も図3に示すハードウェア構成と等価になる。
図3に示すミキサー1は、CPU(Central Processing Unit)10が管理プログラム(OS:Operating System)を実行しており、ミキサー1の全体の動作をOS上で制御している。ミキサー1は、CPU10が実行する制御プログラム等の動作ソフトウェアが格納されている不揮発性のROM(Read Only Member)11と、CPU10のワークエリアや各種データ等が記憶されるRAM(Random Access Memory)12を備えている。CPU10は、制御プログラムを実行することにより、入力された複数の音響信号に音響信号処理をDSP20により施して混合処理を行っている。なお、ROM11をフラッシュメモリ等の書き換え可能なROMとすることで、動作ソフトウェアの書き換えを可能とすることができ、動作ソフトウェアのバージョンアップを容易に行うことができる。DSP20はCPU10の制御の基で、入力された音響信号の音量レベルや周波数特性を設定されたパラメータに基づいて調整してミキシングし、音量、パン、効果などの音響特性をそのパラメータに基づいて制御する音響信号処理を行っている。エフェクタ(EFX)19はCPU10の制御の基で、ミキシングされたオーディオ信号にリバーブ、エコーやコーラス等のエフェクトを付加している。
【0018】
表示IF13は、液晶表示器等の表示部14に音響信号処理に関する種々の画面を表示させる表示インタフェースである。検出IF15は、ミキサー1のコンソールのパネルに設けられているフェーダ、ノブやスイッチ等の操作子16をスキャンして、操作子16に対する操作を検出しており、検出された操作信号に基づいて音響信号処理に用いるパラメータの編集や操作を行うことができる。通信IF17は、通信I/O18を介して外部機器と通信を行うための通信インタフェースであり、イーサネット(登録商標)などのネットワーク用のインタフェースとされる。CPU10、ROM11、RAM12、表示IF13、検出IF15、通信IF17、EFX19、DSP20は通信バス21を介して相互にデータ等の授受を行っている。
【0019】
EFX19およびDSP20は音声バス25を介して入出力部を構成するAD22、DA23、DD24とデータ等の授受を行っている。AD22は、アナログの音響信号が入力される入力端子である物理的な1つ以上の入力ポートを備え、AD22の入力ポートに入力されたアナログの音響信号はディジタルの音響信号に変換されて音声バス25に送出される。DA23は、ミキシングされた混合信号を外部へ出力する出力端子である物理的な1つ以上の出力ポートを備え、DA23において音声バス25を介して受け取ったディジタルの音響信号はアナログの音響信号に変換されて出力ポートから出力され、この出力ポートに接続されている会場やステージに配置されたスピーカから出力される。DD24は、ディジタルの音響信号が入力される入力端子である物理的な1つ以上の入力ポートと、外部にミキシングされたディジタルの音響信号を出力する出力端子である物理的な1つ以上の出力ポートとを備え、DD24において入力ポートに入力されたディジタルの音響信号は音声バス25に送出され、音声バス25を介して受け取ったディジタルの音響信号は出力ポートから出力され、この出力ポートに接続されているレコーディングシステム等に供給される。なお、AD22およびDD24から音声バス25へ送出されたディジタルの音響信号はDSP20が受け取って上記したディジタル信号処理が施される。また、DSP20から音声バス25に送出されたミキシングされたディジタルの音響信号はDA23あるいはDD24が受け取るようになる。
【0020】
次に、ミキサー1の処理アルゴリズムを等価的に示す機能ブロック図を図4に示す。以下の記載においてはチャンネルをchと表す。
図4において、複数の入力ポート30を介して供給されるディジタルの音響信号は入力パッチ(Input Patch)31に入力される。この入力ポート30は、AD22およびDD24が備えている物理的な入力端子である。入力パッチ31では、音響信号の入力元である複数の物理的な入力ポートのそれぞれを、Nch(Nは1以上の整数:例えば96ch)とされる入力ch部32が備える論理的な各入力ch(Input Channel)32−1,32−2,32−3,・・・・,32−Nに選択的にパッチ(結線)している。この場合、入力ポートは複数の入力chにパッチすることができるが、入力chには一つの入力ポートしかパッチすることができない。各入力ch32−1〜32−Nには、入力パッチ31でパッチされた入力ポート30からの音響信号In.1,In.2,In.3,・・・,In.Nがそれぞれ供給される。各入力ch32−1〜32−Nでは、各入力chに入力された音響信号In.1,In.2,In.3,・・・,In.Nの音響特性等が調整される。すなわち、入力ch部32における各入力ch32−1〜32−Nに入力された各入力ch信号は、入力ch毎にイコライザやコンプレッサにより音響信号の特性が調整されると共に送り出しレベルが制御されてM本(Mは1以上の整数)の混合バス(Mix Bus)33およびL,Rのステレオのキューバス(Cue Bus)34へ送出される。この場合、入力ch部32から出力されるN入力ch信号は、M本の混合バス33の1ないし複数に選択的に出力される。
【0021】
混合バス33においては、M本の各バスにおいて、N入力chのうちの任意の入力chから選択的に入力された1ないし複数の入力ch信号が混合されて、合計M通りの混合出力が出力される。M本の混合バス33の各バスからの混合出力は、Mchとされる出力ch部35の各出力ch(Output Channel)35−1,35−2,35−3,・・・・,35−Mにそれぞれ出力される。各出力ch35−1〜35−Mでは、イコライザやコンプレッサにより周波数バランス等の音響信号の特性が調整されて、出力ch信号Mix.1,Mix.2,Mix.3,・・・,Mix.Mとして出力され、このM出力ch信号Mix.1~Mix.Mは、出力パッチ(Output Patch)37に出力される。また、L,Rのキューバス(Cue Bus)34においてはN入力chから入力された1ないし複数の入力ch信号が混合されているキュー/モニタ用の信号がキュー/モニタ部(Cue/Monitor)36に出力される。キュー/モニタ部36においてイコライザやコンプレッサにより周波数バランス等の音響信号の特性が調整されたキュー/モニタ出力(Cue/monitor)は、出力パッチ37に出力される。
【0022】
出力パッチ37では、出力ch部35からのM出力ch信号Mix.1~Mix.Mおよびキュー/モニタ部36からのキュー/モニタ出力の何れかを、複数の出力ポート38のいずれかに選択的にパッチ(結線)することができ、各出力ポート38には、出力パッチ37でパッチされた出力ch信号が供給される。出力ポート38において、ディジタルの出力ch信号はアナログ出力信号に変換され、パッチされた出力ポート38に接続されているアンプにより増幅されて会場に配置された複数のスピーカから放音される。さらに、この出力ポート38からのアナログ出力信号はステージ上のミュージシャン等が耳に装着するインイヤーモニタに供給されたり、その近傍に置かれたステージモニタスピーカで再生される。また、出力パッチ37でパッチされた出力ポート38から出力されるディジタルの音響信号は、その出力ポート38に接続されているレコーディングシステムやDAT等に供給されてディジタル録音することができるようになる。また、キュー/モニタ出力はアナログの音響信号に変換され、出力パッチ37でパッチされた出力ポート38を介して、オペレータルームに配置されたモニタ用スピーカやオペレータが装着するヘッドホン等から出力されてオペレータが検聴できるようになる。このように、出力パッチ37では論理的なチャンネルである出力chを、物理的な出力端子である出力ポートに選択的にパッチングしている。
なお、図示していないが入力ch32−1〜32−Nの所定の位置を出力パッチ37で出力ポート38にパッチすることにより、ダイレクトアウトが実現されている。
【0023】
図4に示す入力ch部32における入力ch32−1〜32−Nは、全て同じ構成とされており、その内の入力ch32−iを例に挙げて入力chの構成を図5(a)に示す。
図5(a)に示す入力ch32−iには、入力パッチ31において入力ポートのいずれかがパッチされるにようになる。入力ch32−iは、アッテネータ(Att)41、ヘッドアンプ(H/A)42、ハイパスフィルタ(HPF)43、イコライザ(EQ)44、ノイズゲート(Gate)45、コンプレッサ(Comp)46、ディレイ(Delay)47、フェーダー(Level)48、パン(Pan)49を縦続接続して構成されている。アッテネータ41は、入力されたディジタルの音響信号の減衰量を調整しており、ヘッドアンプ42は、入力されたディジタルの音響信号を増幅しているアンプである。ハイパスフィルタ43は、特定の周波数より低い入力されたディジタルの音響信号の帯域をカットするフィルタであり、イコライザ44は、入力されたディジタルの音響信号の周波数特性を調整するイコライザとされており、例えば、HI,MID HI,LOW MID,LOWの4バンドの各バンド毎の周波数特性を可変できるようにされている。
【0024】
ノイズゲート45は、ノイズを遮断するノイズゲートであり、入力されたディジタルの音響信号のレベルが基準値以下となった際に、入力されたディジタルオーディオ信号のゲインを急激に低下させてノイズを遮断している。コンプレッサ46は、入力されたディジタルの音響信号のダイナミックレンジを狭くして、入力されたディジタルの音響信号が飽和することを防止している。ディレイ47は、音源とパッチされた入力ポートに接続されているマイクとの距離補正を行うように、入力されたディジタルの音響信号の時間遅延を行っている。フェーダー48は、入力チャンネル32−iから混合バス33への送り出しレベルを制御する電動フェーダ等のレベル可変手段であり、パン49は、入力チャンネル32−iからステレオに設定された2系統の混合バス33に送られる信号の左右の定位を調節している。
入力ch32−iから出力されるディジタルの音響信号は、任意の複数本の混合バス33に供給することができると共に、キューバス34にも供給される。
なお、ミキサーから出力されてPC(DAW)6に送ることのできるダイレクトアウトの位置は、アッテネータ41の直前、HPF43の直前、フェーダー48の直前などから選択することができる。
【0025】
また、図4に示す出力ch部35における出力ch35−1〜35−Mは、全て同じ構成とされており、その内の出力ch35−jを例に挙げて出力chの構成を図5(b)に示す。
図5(b)に示す出力ch35−jには混合バス33におけるj本目からの混合出力が入力されている。出力ch35−jは、イコライザ(EQ)51、コンプレッサ(Comp)52、フェーダー(Level)53、バランス(Bal)54、ディレイ(Delay)55、アッテネータ(Att)56を縦続接続して構成されている。イコライザ51は、出力されるディジタルの音響信号の周波数特性を調整するイコライザとされており、例えば、HI,MID HI,MID,LOW MID,LOW,SUB MIDの6バンドの各バンド毎に電気的特性を可変することができる。コンプレッサ52は、出力されるディジタルの音響信号のダイナミックレンジを狭くして、出力されるディジタルの音響信号が飽和することを防止している。フェーダー53は、出力チャンネル35−jから出力パッチ37への出力レベルを制御する電動フェーダ等のレベル可変手段であり、バランス54は、出力チャンネル35−jがステレオに設定されている場合に、左右の音量バランスを調節している。ディレイ55は、スピーカの距離補正や定位の補正等を行うように、出力されるディジタルの音響信号の時間遅延を行っており、アッテネータ56は、出力パッチ37へ出力されるディジタルの音響信号の減衰量を調整している。
【0026】
本発明の実施例の音響信号処理装置であるPC(DAW)6がミキサー1に接続されたり電源が投入されたりした際には、図6に示すフローチャートとされた接続時の処理が起動される。また、PC(DAW)6が図2に示すオーディオネットワーク7に接続されたり電源が投入されたりした際にも、図6に示す接続時の処理が起動される。
接続時の処理がPC(DAW)6で起動されると、ステップS10にてミキサー1またはオーディオネットワーク7で構成されているミキサーのチャンネル構成情報を取得するか否かを指示するウィンドウがPC(DAW)6のディスプレイに表示される。ここで、ウィンドウにおいてユーザーがチャンネル構成を取得することを指示するボタンをポインティングデバイス等でクリックすると、チャンネル構成情報を取得すると判断されてステップS11に進む。ステップS11では、ミキサー1にチャンネル構成情報を要求するコマンドを送ってミキサー1からチャンネル構成情報を取得したり、オーディオネットワーク7で構成されているミキサーのチャンネル構成情報を持っているデバイス、例えばコンソール部1cにチャンネル構成情報を要求するコマンドを送ってコンソール部1cからチャンネル構成情報を取得する。チャンネル構成情報には、少なくともミキサーのチャンネル数とチャンネル名とのチャンネル構成情報が含まれている。
【0027】
ステップS11でチャンネル構成情報が取得されると、ステップS13にてPC(DAW)6でレコーディング時に新規作成されるプロジェクトに取得されたチャンネル構成情報が反映される。これにより、新規プロジェクトにおけるトラック数は取得したチャンネル数と同数になると共に、各トラックに取得したチャンネル名が各トラック名として順次に付与されるようになる。
また、ステップS10にてユーザーがチャンネル構成を取得しないことを指示するボタンをポインティングデバイス等でクリックした場合は、チャンネル構成を取得しないと判断されてステップS12に分岐する。ステップS12では、現在の設定が使用されるか、新規の設定がユーザーにおいて作成される。そして、ステップS13においてPC(DAW)6で新規作成されるプロジェクトにステップS12で設定された構成情報が反映される。この場合は、現在の設定あるいはユーザーが設定した構成情報の新規プロジェクトとなる。
【0028】
次に、ミキサー1あるいはオーディオネットワーク7で構成されるミキサーのチャンネル構成情報のメモリイメージを図7に示す。
図7に示すようにミキサーのチャンネル構成情報(Channel Setting)は入力チャンネル(Input Channel)側と出力チャンネル(Output Channel)側とのチャンネル構成情報からなる。図7では入力チャンネル側だけのチャンネル構成情報が示されているが、出力チャンネル側のチャンネル構成情報も同様の構成とされている。入力チャンネル側のチャンネル構成情報は、Port情報、Preference情報とParameter情報からなる。そして、Port情報は入力ポート30の構成情報であり、物理的な入力端子を有しているI/OボックスのID(識別情報)、Port番号、Port Name情報、ヘッドアンプの設定情報(H/A Setting)等の情報から構成されている。また、Preference情報は入力チャンネルのチャンネル数を示すCh番号情報、各入力チャンネルのチャンネル名を示すCh Name情報、入力チャンネルが表示された際の表示色を示すCh Color情報、ステレオペアのLink情報等から構成されている。さらに、Parameter情報はコンプレッサ(Comp)46等のダイナミクス系のDynamicsパラメーター、イコライザ(EQ)44のEQパラメーター、混合バス(Mix Bus)33およびL,Rのステレオのキューバス(Cue Bus)34への送り出しレベルのBUS Sendパラメーター、フェーダー(Level)48のFaderパラメーター、ミュートオンあるいはオフのMuteパラメーター等から構成されている。
【0029】
これに対して、PC(DAW)6で動作しているDAWのトラック構成情報のメモリイメージを図8に示す。
図8に示すようにDAWのトラック構成情報(Track Setting)は入力トラック(Input Track)側と出力トラック(Output Track)側とのトラック構成情報からなる。図8では入力トラック側だけのトラック構成情報が示されているが、出力トラック側のトラック構成情報も同様の構成とされている。入力トラック側のトラック構成情報は、Preference情報とParameter情報からなる。そして、Preference情報はトラックのトラック数を示すTr番号情報、各トラックのトラック名を示すTr Name情報、トラックが表示された際の表示色を示すTr Color情報、ステレオペアのLink情報等から構成されている。さらに、Parameter情報はダイナミクス系のDynamicsパラメーター、イコライザのEQパラメーター、混合バスへの送り出しレベルのBUS Sendパラメーター、フェーダーのFaderパラメーター、ミュートオンあるいはオフのMuteパラメーター等から構成されている。
【0030】
上記した接続時の処理におけるステップS11で取得するチャンネル構成情報としては、ミキサーの少なくとも図7に示すPreference情報とされ、取得されたPreference情報がDAWにおいて作成される新規プロジェクトのPreference情報に反映されるようになる。すなわち、Ch番号情報およびCh Name情報がTr番号情報およびTr Name情報に反映されてチャンネル数と同数作成されたトラックにそれぞれ順次にチャンネル名と同じトラック名が付与されるようになる。さらに、Ch Color情報がTr Color情報に反映されて同じ順番でチャンネルとトラックとの表示色が同じとなり、Link情報がLink情報に反映されてチャンネルのステレオペアと同じステレオペアのトラックとされる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上説明した本発明においては、PC(DAW)6で動作しているDAWでレコーディングする際に作成する新規プロジェクトにおいて、少なくともチャンネル数とチャンネル名とのチャンネル構成情報を取得するコマンドをミキサー側に送り、このコマンドに応答してミキサー側はチャンネル構成情報をDAWに送るようにしていた。本発明はこれに限ることはなく、ミキサーの電源が投入された際に、ミキサーのチャンネル構成情報を送信する。そして、送信されたチャンネル構成情報を受信したDAWが動作しているPCでは、DAWがレコーディングする際にミキサーから受信したチャンネル構成情報におけるチャンネル数やチャンネル名の情報をトラック数およびトラック名に反映させた新規プロジェクトを作成する。そして、新規プロジェクトの各トラックに録音するが、チャンネル名と同じ名称のトラック名のトラックに、そのチャンネルが録音されるようになる。また、ミキサーが起動された際に、ミキサーのチャンネル構成情報をPC(DAW)6に送るようにしてもよい。この場合も、PC(DAW)6で動作しているDAWでレコーディングする際に、ミキサーから受けたチャンネル構成情報におけるチャンネル数やチャンネル名の情報をトラック数およびトラック名に反映させた新規プロジェクトを作成して、新規プロジェクトの各トラックに録音することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 ミキサー、1a AD/DA部、1b DSP部、1c コンソール部、2 シンセサイザー、3a〜3h マイク、4 アンプ、5a〜5k スピーカ、6 PC(DAW)、7 オーディオネットワーク、10 CPU、11 ROM、12 RAM、13 表示IF、14 表示部、15 検出IF、16 操作子、17 通信IF、18 通信I/O、19 EFX、20 DSP、21 通信バス、22 AD、23 DA、24 DD、25 音声バス、30 入力ポート、31 入力パッチ、32 入力チャンネル部、32−1〜32−i〜32−N 入力チャンネル、33 混合バス、34 キューバス、35 出力チャンネル部、35−1〜35−M 出力チャンネル 、36 モニタ部、37 出力パッチ、38 出力ポート、41 アッテネータ、42 ヘッドアンプ、43 ハイパスフィルタ、44 イコライザ、45 ノイズゲート、46 コンプレッサ、47 ディレイ、48 レベル調整、49 パン、51 イコライザ、52 コンプレッサ、53 レベル調整、54 バランス、55 ディレイ、56 アッテネータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8