(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アクリルゴム(A)は、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ブトキシエチル、及び、アクリル酸メトキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリル酸エステルに基づく重合単位からなる重合体である請求項1記載の自動車用トランスミッションオイルシール。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の自動車用トランスミッションオイルシールは、少なくとも主リップ部が設けられたシールリップ部を有する弾性部材を備えた自動車用トランスミッションオイルシールであって、前記弾性部材は、アクリルゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含む組成物からなり、かつ、少なくとも前記主リップ部の表面に凸部を有するとともに、前記凸部が実質的に前記組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなり、前記フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン単位(a)とヘキサフルオロプロピレン単位(b)とを含む共重合体であることを特徴とする自動車用トランスミッションオイルシールである。
以下、図面を参照しながら本発明の自動車用トランスミッションオイルシールの実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の自動車用トランスミッションオイルシールの使用態様を模式的に示す断面図であり、
図2に示すA領域の拡大図である。
図2は、本発明の自動車用トランスミッションオイルシールを使用したトランスミッションを模式的に示す断面図であり、
図3は、
図1に示した自動車用トランスミッションオイルシールの斜視図である。なお、
図1の自動車用トランスミッションオイルシールは、
図3のA−A線断面を描画したものである。
【0019】
本発明の自動車用トランスミッションオイルシール11は、
図1〜3に示すように、径方向断面形状が略(逆)コの字状の円環構造を有し、フッ素樹脂(B)及びアクリルゴム(A)を含む組成物からなる弾性部材12、円環状の金属環16及びリングスプリング17を備えている。
弾性部材12は、内周側に車軸21に当接する径方向断面楔状の主リップ部13が設けられたシールリップ部を、外周側にハウジング20に密着するはめあい部14を有している。金属環16は弾性部材12に内蔵されており、これにより自動車用トランスミッションオイルシール11の補強の役割を果たしている。リングスプリング17は、主リップ部13の外周面側に配設されており、主リップ部13はリングスプリング17の付勢力により車軸21に当接されることとなる。
【0020】
自動車用トランスミッションオイルシール11は、リングスプリング17がトランスミッション10内部側に露出する向きで、主リップ部13がトランスミッション10の車軸21に摺動自在に当接し、はめあい部14がハウジング20に密着するように車軸21とハウジング20との間隙に圧入装着される。なお、
図2において、22はクランクシャフトに連結されるメインシャフト(入力シャフト)、23はメインシャフトと平行に配置されたカウンターシャフト(出力シャフト)である。
【0021】
また、自動車用トランスミッションオイルシール11は、車軸21のみならず、
図2に示すように、メインシャフト22、及び、カウンターシャフト23にも摺動可能に配設されている。
【0022】
ここで、自動車用トランスミッションオイルシール11は、弾性部材12がフッ素樹脂(B)及びアクリルゴム(A)を含む組成物からなるとともに、主リップ部13を有するシールリップ部30の表面には凸部31(
図4参照)を有している。即ち、自動車用トランスミッションオイルシール11は、車軸21との接触部に凸部31を有している。
【0023】
そして、自動車用トランスミッションオイルシール11は、上記凸部31を有するため、シャフト(車軸やメインシャフト、カウンターシャフト)との間の摩擦係数が小さく、摺動特性に優れる。
以下、本明細書において、単にシャフトと表記した場合、車軸、メインシャフト及びカウンターシャフトを含むこととする。
この摺動特性に優れるとの効果は、シャフトの回転数を問わず、低回転数から高回転数の全域に渡って奏することができる。これについてもう少し詳しく説明する。
自動車用トランスミッションオイルシール11の主リップ部13の材質は、フッ素樹脂(B)及びアクリルゴム(A)を含む組成物である。そのため、従来公知の他の自動車用トランスミッションオイルシールの材質、例えば、ニトリルゴムやアクリルゴム、フッ素樹脂(B)を含有しないアクリルゴム等に比べて摺動特性に優れている。
そのうえで、自動車用トランスミッションオイルシール11は、上記組成物からなる凸部を有している。
自動車用トランスミッションオイルシールがシャフトに対して摺動している場合、自動車用トランスミッションオイルシールとシャフトとの間にはオイルが介在している(油膜が形成されている)ことが知られている。そして、このオイルが両者の間で潤滑剤として機能すると考えられている。即ち、オイルが介在することにより、自動車用トランスミッションオイルシールは低い摩擦抵抗で摺動することができる。
一方、自動車用トランスミッションオイルシールは、シール材として機能することが大前提のため、そのシールリップ部はシャフトに隙間無く当接される。そのため、この状態から自動車用トランスミッションオイルシールとシャフトとの間にオイルが介在するには、シールリップ部が変形し、この変形に追従してオイルがシールリップ部とシャフトとの間に入り込むことが必要となる。ここで、シールリップ部の変形は、シャフトの回転に追従して生じるため、シャフトが高回転数で回転している際にはシールリップ部も変形しやすく、両者の間にオイルが入り込みやすくなる。これに対してシャフトの回転数が低回転数の場合には、高回転数の場合に比べてシールリップ部が変形しにくく、その結果、シャフトとシールリップ部との間にはオイルが介在しにくくなる。
そのため、シャフトの回転数が低回転数の場合は、高回転数の場合に比べて摺動特性が劣る傾向にあり、自動車用トランスミッションオイルシールにおいては、特に、シャフトの回転数が低回転数の場合における摺動特性の向上が望まれている。
これに対して、本発明の自動車用トランスミッションオイルシールは、上述したように、シールリップ部の表面に凸部を有しており、このため、オイルのトランスミッション外への漏れを防止するという本質的な機能は確保しつつ、微視的にはシールリップ部とシャフトとの間に極微小な空隙を有し、かつ、シャフトの回転に追従して変形しやすい構造を備えていることとなる。
そのため、本発明の自動車用トランスミッションオイルシールでは、自動車用トランスミッションオイルシールとシャフトとの間にオイルが介在しやすく、シャフトの回転数を問わず、低回転数から高回転数の全域に渡って摺動特性に優れることとなる。
【0024】
上記凸部は、実質的に上記組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなる。フッ素樹脂(B)は、アクリルゴム(A)に比べ格段に摩擦係数が低いのでシャフトと接した時の摩擦抵抗がアクリルゴム(A)に比べ格段に低くなる。このような上記凸部は、例えば後述するような方法により、上記組成物に含まれるフッ素樹脂(B)を表面に析出させて形成することができる。
そのため、上記凸部と上記凸部を有する弾性部材12とが一体的に構成されることとなり、シャフトの回転時に、脱落したり、欠損したりしにくいとの効果が得られる。
ここで、凸部が実質的に上記組成物に含まれるフッ素樹脂(B)からなることは、IR分析やESCA分析によってアクリルゴム(A)由来とフッ素樹脂(B)由来のピーク比を求めることで、凸部が実質的にフッ素樹脂(B)からなることを示すことができる。具体的には、凸部を有する領域において、IR分析によって、アクリルゴム(A)由来の特性吸収のピークとフッ素樹脂(B)由来の特性吸収のピークとの比(成分由来ピーク比=(アクリルゴム(A)由来のピーク強度)/(フッ素樹脂(B)由来のピーク強度))を、凸部と凸部外のそれぞれの部分で測定し、凸部外の成分由来ピーク比が、凸部の成分由来ピーク比に対して2倍以上、好ましくは3倍以上であることをいう。
【0025】
凸部の形状について、図面を参照しながらもう少し詳しく説明する。
図4(a)は、シールリップ部が有する凸部の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の表面に垂直な直線B
1と直線B
2を含む平面で凸部31を切断した断面図であり、(c)は(a)の表面と平行な直線C
1と直線C
2を含む平面で切断した断面図である。そして、
図4(a)〜(c)には、シールリップ部の表面の微小領域を模式的に描画している。シールリップ部の表面には、
図4(a)〜(c)に示すように、例えば、略円錐形状(コーン形状)の凸部31が形成されている。
【0026】
ここで、凸部31の高さとは、シールリップ部の表面から突出した部分の高さをいう(
図4(b)中、H参照)。また、凸部31の底部断面積とは、凸部31を、シールリップ部表面と平行な平面(直線C
1と直線C
2を含む平面)で切断した面において観察される凸部31(
図4(c)参照)の断面に於ける面積の値をいう。
【0027】
シールリップ部は、シールリップ部の表面積に対して、凸部を有する領域の面積比が0.03(3%)以上であることが好ましい。より好ましい面積比は、0.15(15%)以上であり、0.30(30%)以上が更に好ましい。上記シールリップ部の表面における、凸部を有する領域の面積比は、上記凸部の底部断面積を評価する切断面において、凸部が占める面積の比率をいう。
【0028】
シールリップ部において、フッ素樹脂(B)の体積比は、上記シールリップ部に対して0.03〜0.45(3〜45体積%)であることが好ましい。体積比の下限は、0.05(5体積%)であることがより好ましく、0.10(10体積%)であることが更に好ましい。体積比の上限は、0.40(40体積%)であることがより好ましく、0.35(35体積%)であることが更に好ましい。
上記フッ素樹脂(B)は優れた耐熱性を有する。従って、後述する成形架橋工程や熱処理工程によって分解することがないので、上記体積比は、弾性部材を形成するために使用する後述の未架橋アクリルゴム組成物におけるフッ素樹脂(B)の体積割合と同一と推測できる。
【0029】
シールリップ部は、凸部を有する領域の面積比が、フッ素樹脂(B)の体積比の1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましい。シールリップ部は、シールリップ部表面における凸部を有する領域の比率が、シールリップ部のフッ素樹脂(B)の体積比よりも高く、後述する未架橋アクリルゴム組成物におけるフッ素樹脂(B)の体積比よりも高くなる。
シールリップ部は、この特徴によりフッ素樹脂(B)の混合割合が小さくても、アクリルゴムの欠点であった耐摩耗性、低摩擦性及び非粘着性が改善され、また、アクリルゴムの利点が損なわれることもなく、圧縮永久歪も小さいものとなる。なお、上記凸部を有する領域の面積比は、使用する用途によって、シールリップ部が低摩擦性、耐摩耗性、又は、非粘着性が必要とされる部分において達成されていれば、本発明の効果は十分に奏される。
【0030】
上記凸部は、高さが0.1〜30.0μmであることが好ましい。凸部の高さがこの範囲にあると、低摩擦性、耐摩耗性及び非粘着性が優れる。より好ましい高さは、0.3〜20.0μmであり、更に好ましくは、0.5〜15.0μmである。
【0031】
上記凸部は、底部断面積が0.1〜2000μm
2であることが好ましい。凸部の底部断面積がこの範囲にあると、耐摩耗性、低摩擦性及び非粘着性が優れる。より好ましい底部断面積は、0.3〜1500μm
2であり、更に好ましい底部断面積は、0.5〜1000μm
2である。
【0032】
シールリップ部は、上記凸部の高さの標準偏差が0.300以下であることが好ましい。この範囲にあると、耐摩耗性、低摩擦性及び非粘着性がより優れる。
【0033】
シールリップ部は、凸部の個数が500〜60000個/mm
2であることが好ましい。この範囲にあると、耐摩耗性、低摩擦性及び非粘着性がより優れる。
【0034】
凸部を有する領域の面積比、凸部の高さ、凸部の底部断面積、凸部の個数等は、例えば、キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用い、解析ソフトとして三谷商事株式会社製のWinRooF Ver.6.4.0を用いて算出することができる。凸部を有する領域の面積比は、凸部の底部断面積を求め、断面積合計の値が、測定全領域面積に占める割合として求められる。凸部の個数は、測定領域中の凸部の個数を1mm
2当たりの数に換算したものである。
【0035】
シールリップ部において、上記凸部はシールリップ部の表面の一部に形成されていればよく、シールリップ部の表面には該凸部が形成されていない領域を有していてもよい。例えば、低摩擦性、非粘着性等が要求されない部分には、上記凸部が形成されている必要はない。
以下、本発明の自動車用エンジンオイルシールを構成する各成分について詳述する。
【0036】
(A)アクリルゴム
アクリルゴム(A)は、アクリル酸エステルに基づく重合単位からなる重合体である。アクリルゴム(A)は、1種のアクリル酸エステルに基づく重合単位からなる単独重合体であってもよいし、2種以上のアクリル酸エステルに基づく重合単位からなる共重合体でもよいし、1種又は2種以上のアクリル酸エステルに基づく重合単位と、アクリル酸エステルと共重合可能な単量体に基づく重合単位とからなる共重合体であってもよい。
アクリルゴム(A)は、アクリル酸エステルの種類、重合単位の量を選択することにより、常態物性、耐寒性、耐油性等を調整することができる。
【0037】
アクリル酸エステルは、炭素数1〜12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル、又は、炭素数1〜12のアルコキシアルキル基を有するアクリル酸アルコキシアルキルエステルであることが好ましい。
アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−メチルペンチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−デシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、n−オクタデシルアクリレート等が挙げられる。
アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−(n−プロポキシ)エチルアクリレート、2−(n−ブトキシ)エチルアクリレート、3−メトキシプロピルアクリレート、3−エトキシプロピルアクリレート、2−(n−プロポキシ)プロピルアクリレート、2−(n−ブトキシ)プロピルアクリレート等が挙げられる。
【0038】
これらのアクリル酸エステルに基づく重合単位の量を調整することで、本発明の自動車用トランスミッションオイルシールの耐寒性や耐油性を調整することができる。
例えば、n−ブチルアクリレートの共重合比率を多くすると耐寒性を向上させることができる。また、エチルアクリレートの共重合比率を多くすると耐油性を向上させることができる。
【0039】
アクリルゴム(A)は、アクリル酸エステルに基づく重合単位、及び、アクリル酸エステルと共重合可能な単量体に基づく重合単位からなる共重合体であることも好ましい。
【0040】
アクリル酸エステルと共重合可能な単量体としては、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、架橋部位含有モノマー(但し、酢酸ビニルは除く)、及び、エチレンからなる群より選択される少なくとも1種の単量体が好ましい。
【0041】
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルコキシアルキルエステル等が挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、例えば、炭素数2〜14のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル、又は、炭素数2〜14のアルコキシアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。
【0042】
酢酸ビニルは、弾性部材を形成するためのアクリルゴム組成物が熱老化した際に、その分子間を架橋させて、弾性部材の伸び等の機械的特性を維持させるために用いられる。酢酸ビニルの配合量を調整することにより、弾性部材の分子間架橋を調整することができる。
弾性部材は、熱や紫外線等の影響によりその主鎖が切断し、引張強さや破断伸びといった機械的特性が低下してしまうことがある。そこで、架橋反応を起こしやすいカルボキシル基を有する酢酸ビニルをアクリルゴム(A)の主鎖に共重合させておくと、アクリルゴムの主鎖が切断してしまった際に、酢酸ビニルに基づく重合単位中のカルボキシル基が架橋部位(架橋席)となって、切断した分子間を再度架橋させることができる。
【0043】
酢酸ビニルに基づく重合単位は、アクリルゴム(A)を構成する全重合単位に対して、15質量%以下であることが好ましい。酢酸ビニルに基づく重合単位の含有量がこの範囲であれば、弾性部材の耐熱老化性を維持しつつ、その機械特性の低下を抑制することができる。
【0044】
架橋部位含有モノマーは、必要に応じてアクリルゴムに共重合させるものであり、分子間架橋を進めて、得られるアクリルゴムの硬度や伸び特性を調整するためのものである。
【0045】
架橋部位含有モノマーとしては、活性塩素基、エポキシ基、カルボキシル基、及び、水酸基(但し、カルボキシル基に含まれる水酸基は除く)からなる群より選択される少なくとも1種を有する単量体が好ましい。
【0046】
架橋部位含有モノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、2−クロロエチルビニルエーテル、2−クロロエチルアクリレート、ビニルベンジルクロライド、ビニルクロロアセテート、アリルクロロアセテート等の活性塩素基を有する単量体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−ペンテン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、桂皮酸等のカルボキシル基を含有する単量体;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル等のエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
【0047】
架橋部位含有モノマーに基づく重合単位は、アクリルゴム(A)を構成する全重合単位に対して、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下である。架橋部位含有モノマーに基づく重合単位をこの範囲で使用すると効率的に架橋することができ、ゴム弾性を失うことがなく、弾性部材の強度も優れる。架橋部位含有モノマーに基づく重合単位が10質量%を超えると、得られた架橋物が硬化してゴム弾性を失ってしまうおそれがある。
【0048】
アクリルゴム(A)には、本発明の目的を損なわない範囲でこれらのモノマーと共重合可能な他のモノマーを共重合させることもできる。共重合可能な他のモノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、メチルビニルケトンのようなアルキルビニルケトン;ビニルエチルエーテル、アリルメチルエーテル等のビニルエーテル又はアリルエーテル;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル;アクリルアミド、プロピレン、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、エチレン、プロピオン酸ビニル等のエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
【0049】
アクリルゴム(A)がエチレンに基づく重合単位を有する場合、エチレンに基づく重合単位は、アクリルゴム(A)を構成する全重合単位に対して、50質量%以下であることが好ましい。エチレンを共重合させることによって、強度を著しく向上させたアクリルゴムが得られる。
【0050】
アクリルゴム(A)は、上記の単量体を乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等の公知の方法により共重合することにより得られる。
【0051】
アクリルゴム(A)は、全重合単位に対して、アクリル酸エステルに基づく重合単位が、40〜95質量%であり、活性塩素基及び水酸基(但し、カルボキシル基に含まれる水酸基は除く)からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するモノマーに基づく重合単位が、1〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステルに基づく重合単位が、50〜90質量%であり、活性塩素基及び水酸基(但し、カルボキシル基に含まれる水酸基は除く)からなる群より選択される少なくとも1種の基を有するモノマーに基づく重合単位が、2〜10質量%である。
【0052】
上記アクリルゴム(A)は、例えば下記の重合方法によってえられるラテックスを、通常の塩析操作によって、ポリマーを凝析させた後、水洗、乾燥させて得られたポリマーを後述する架橋方法等により架橋させて得ることができる。塩析剤としては、食塩等を用いることができる。
【0053】
2リットルビーカーに、アニオン性乳化剤、ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩5.0gを脱イオン水1250gに溶解し、それにアクリルゴムを構成するモノマー混合物を総量で300gを加え、小型ミキサーを用いて乳化する。つぎに、2リットル還流冷却管付重合容器内に、前記モノマー乳化液を投入し、窒素気流下で70℃まで昇温する。これに過硫酸アンモニウムの10%水溶液10gを添加して重合を開始させる。重合開始後、重合容器内の温度を初期の70℃から80℃まで上昇させ、80〜82℃の範囲で2時間、維持して重合反応を完結させる。
【0054】
(B)フッ素樹脂
フッ素樹脂(B)は、テトラフルオロエチレン単位(a)とヘキサフルオロプロピレン単位(b)とを含む共重合体(以下、「FEP」ともいう。)である。上記フッ素樹脂(B)を用いることによって、シールリップ部表面に実質的にフッ素樹脂(B)からなる凸部を形成することができ、その結果、低速走行時から高速走行時の全域に渡って摺動特性に優れる自動車用トランスミッションオイルシールとすることができる。
【0055】
FEPは、TFE単位(a)及びHFP単位(b)のみからなる共重合体、又は、TFE単位(a)、HFP単位(b)、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に基づく重合単位からなる共重合体である。FEPは、自動車用トランスミッションオイルシールの耐熱性が優れたものとなる点でも有利である。
【0056】
FEPが、TFE単位(a)、HFP単位(b)、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に基づく重合単位からなる共重合体である場合、TFE及びHFPと共重合可能な単量体としては、下記式:
CF
2=CF−ORf
6
(式中、Rf
6は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕、下記式:
CX
5X
6=CX
7(CF
2)
nX
8
(式中、X
5、X
6及びX
7は、同一若しくは異なって、水素原子又はフッ素原子を表し、X
8は、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表し、nは2〜10の整数を表す。)で表されるビニル単量体、及び、下記式:
CF
2=CF−OCH
2−Rf
7
(式中、Rf
7は炭素数1〜5のパーフルオロアルキル基を表す。)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられる。自動車用トランスミッションオイルシールの耐摩擦性及び非粘着性がより優れる点から、TFE及びHFPと共重合可能な単量体は、パーフルオロモノマーであることが好ましく、なかでも、PAVEであることがより好ましい。
上記フッ素樹脂(B)は、例えば、TFE/HFP共重合体、及び、TFE/HFP/PAVE共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の共重合体であることが好ましい。
【0057】
上記PAVEとしては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、及び、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、PMVE、PEVE及びPPVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0058】
フッ素樹脂(B)は、低摩擦性及び非粘着性がより優れる点から、パーフルオロフッ素樹脂であることが好ましい。
【0059】
フッ素樹脂(B)の融点は、アクリルゴム(A)の種類により適宜決定されるが、200℃以下であることが好ましく、190℃以下であることがより好ましい。融点が高すぎると、架橋成形時にフッ素樹脂が溶融せず、所望する形状の成形品が得られないおそれがある。また、シールリップ部の表面に後述するような凸部を形成する場合、充分な数の凸部を有するシールリップ部が得られないおそれがある。また、下限は特に限定されないが、例えば、150℃であってよい。また、フッ素樹脂(B)の融点は、アクリルゴム(A)の架橋温度以上であってよい。
更に、フッ素樹脂(B)の融点が上記範囲であることによって、弾性部材の低圧縮永久歪性を向上させることもできる。そのため、シール性に優れた特性の自動車用トランスミッションオイルシールが得られる。
フッ素樹脂の融点は、示差走査熱量計を用い、ASTM D−4591に準拠して、昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、一度融点ピークの吸熱終了温度+30℃になったら、降温速度−10℃/分で50℃まで降温させ、再度昇温速度10℃/分で吸熱終了温度+30℃まで昇温させ、得られた吸熱曲線のピークの温度を融点とする。
【0060】
フッ素樹脂(B)は、280℃におけるメルトフローレート〔MFR〕が0.3〜200g/10分であることが好ましく、1〜100g/10分であることがより好ましい。MFRが小さすぎると耐摩耗性に劣るおそれがあり、MFRが大きすぎると成形が困難になるおそれがある。
上記MFRは、ASTM D3307−01に準拠し、温度280℃、荷重5kgで測定して得られる値である。
【0061】
フッ素樹脂(B)は、シールリップ部の圧縮永久歪を小さくする観点から、動的粘弾性測定による70℃における貯蔵弾性率(E’)が10〜160MPaであることが好ましい。
上記貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定により70℃で測定する値である。より具体的には、アイティ−計測制御社製動的粘弾性装置DVA220で長さ30mm、巾5mm、厚み0.5mmのサンプルを引張モード、つかみ幅20mm、測定温度25℃から200℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件で測定する値である。70℃における好ましい貯蔵弾性率(E’)は10〜160MPaであり、より好ましい貯蔵弾性率(E’)は20〜140MPaであり、さらに好ましい貯蔵弾性率(E’)は30〜100MPaである。
【0062】
シールリップ部の圧縮永久歪をより小さくする観点からは、フッ素樹脂(B)は、特定の組成を有する下記フッ素樹脂(B1)及び(B2)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
フッ素樹脂(B1)及び(B2)は、特定の組成を有するテトラフルオロエチレン単位及びヘキサフルオロプロピレン単位からなる共重合体である。特定の組成を有するフッ素樹脂(B1)又は(B2)を用いることで、シールリップ部表面の低摩擦性及び非粘着性を損なうことなく、弾性部材の低圧縮永久歪性を向上させることができる。
【0063】
フッ素樹脂(B1)は、テトラフルオロエチレン(TFE)単位(a)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)単位(b)のみからなる重合体であり、TFE単位(a)/HFP単位(b)が、モル比で80.0〜87.3/12.7〜20.0である共重合体である。上記の特定範囲の組成を有するフッ素樹脂(B1)を用いると、弾性部材の圧縮永久歪性を悪化させることなく、シールリップ部に低摩擦性や非粘着性を付与することができる。
【0064】
フッ素樹脂(B1)は、弾性部材の圧縮永久歪性を悪化させない観点、機械物性を優れたものとする観点から、(a)/(b)が、モル比で82.0〜87.0/13.0〜18.0であることが好ましく、83.0〜86.5/13.5〜17.0であることがより好ましく、83.0〜86.0/14.0〜17.0であることが更に好ましい。(a)/(b)が大きすぎると、弾性部材の圧縮永久歪性が損なわれるおそれがある。(a)/(b)が小さすぎると、機械物性が低下する傾向がある。
【0065】
フッ素樹脂(B2)は、TFE単位(a)、HFP単位(b)、並びに、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に基づく重合単位(c)からなる共重合体であり、(a)/(b)が、モル比で80.0〜90.0/10.0〜20.0であり、(c)/{(a)+(b)}が、モル比で0.1〜10.0/90.0〜99.9である共重合体である(なお、{(a)+(b)}は、TFE単位(a)とHFP単位(b)との合計を意味する。)。(a)/(b)が、モル比で80.0〜90.0/10.0〜20.0であり、(c)/{(a)+(b)}が、モル比で0.1〜10.0/90.0〜99.9であることによって、弾性部材の圧縮永久歪性を悪化させることなく、シールリップ部に低摩擦性や非粘着性を付与することができる。
【0066】
フッ素樹脂(B2)は、圧縮永久歪をより小さくする観点、機械物性を優れたものとする観点から、(a)/(b)が、モル比で82.0〜88.0/12.0〜18.0であることが好ましい。
【0067】
フッ素樹脂(B2)は、(c)/{(a)+(b)}が、モル比で0.3〜8.0/92.0〜99.7であることが好ましい。
【0068】
TFE及びHFPと共重合可能な単量体は、上記と同じである。
【0069】
フッ素樹脂(B2)において、TFE及びHFPと共重合可能な単量体に基づく重合単位(c)は、PAVE単位であることが好ましい。そして、フッ素樹脂(B2)は、TFE単位、HFP単位、及び、PAVE単位のみからなる共重合体であることがより好ましい。
【0070】
上記アクリルゴム(A)及びフッ素樹脂(B)を含む組成物は、必要に応じてアクリルゴム中に配合される通常の添加剤、例えば充填剤、加工助剤、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤などの各種添加剤を含んでいてもよく、これらの添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
【0071】
つぎに本発明の自動車用トランスミッションオイルシールの製造方法について説明する。後述する製造方法によりシールリップ部表面に上記凸部を有する自動車用トランスミッションオイルシールを製造することができる。
【0072】
本発明の自動車用トランスミッションオイルシールは、(I)未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析組成物を得た後、未架橋アクリルゴム組成物を得る工程、(II)未架橋アクリルゴム組成物を成形し、架橋して、架橋成形品を得る成形架橋工程、及び、(III)架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱する熱処理工程を含む方法により、所定の形状の弾性部材を製造し、さらに、必要に応じて、金属環を内蔵させたり、リングスプリングを配設することにより製造することができる。なお、未架橋アクリルゴム(A1)は、架橋前のアクリルゴム(A)である。
【0074】
(I)工程
この工程は、未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析組成物を得た後、未架橋アクリルゴム組成物を得る工程である。
【0075】
上記共凝析の方法としては、例えば、(i)未架橋アクリルゴム(A1)の水性分散液と、フッ素樹脂(B)の水性分散液とを混合した後に凝析する方法、(ii)未架橋アクリルゴム(A1)の粉末を、フッ素樹脂(B)に添加した後に凝析する方法、(iii)フッ素樹脂(B)の粉末を、未架橋アクリルゴム(A1)の水性分散液に添加した後に凝析する方法が挙げられる。
【0076】
上記共凝析の方法としては、特に各樹脂が均一に分散し易い点で、上記(i)の方法が好ましい。
【0077】
上記(i)〜(iii)の凝析方法における凝析は、例えば、凝集剤を用いて行うことができる。このような凝集剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸アルミニウム、ミョウバン等のアルミニウム塩、硫酸カルシウム等のカルシウム塩、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化ナトリウムや塩化カリウム等の一価カチオン塩等の公知の凝集剤が挙げられる。凝集剤により凝析を行う際、凝集を促進させるために酸又はアルカリを添加してpHを調整してもよい。
【0078】
アクリルゴムの架橋系によっては架橋剤が必要であるので、工程(I)は、未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析組成物を得た後、共凝析組成物と架橋剤とを混合することによりアクリルゴム組成物を得る工程であることも好ましい。
架橋剤は、アクリルゴムの種類等によって適切に選択すればよく、一般的にアクリルゴム組成物の架橋に用いられる架橋剤を用いることができる。アクリルゴムの種類等によって、架橋剤は使用しなくてもよい。
【0079】
共凝析組成物と架橋剤との混合は従来公知の方法により行うことができる。例えば、オープンロールを使用して共凝析組成物と架橋剤とが充分に混合される程度の時間及び温度で混合すればよい。
また、架橋剤だけでなく、受酸剤、架橋促進剤、副資材等を混合してもよい。
【0080】
架橋剤の添加量は、特に限定されないが、未架橋アクリルゴム組成物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。上記範囲の添加量であることによって、充分な架橋処理が行える。架橋剤の量が0.1質量部未満では未架橋アクリルゴム組成物が架橋不足となり、得られる架橋物の引張強度や破断時伸び等の機械的特性が低下するおそれがある。また、10質量部を超えると、得られる架橋物が硬化してしまい弾性を失ってしまうおそれがある。
【0081】
架橋剤としては、ポリアミン化合物、イミダゾール化合物、及び、過酸化物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。未架橋アクリルゴム(A1)が架橋部位含有モノマーに基づく重合単位を含むものである場合、その架橋部位含有モノマーに応じて、適切な架橋剤を選択すればよい。
【0082】
例えば、架橋部位含有モノマーがカルボキシル基を有する単量体である場合、架橋剤としてはポリアミン化合物が好ましく、更に、架橋促進剤としてグアニジン系化合物を用いることが好ましい。
【0083】
ポリアミン化合物としては、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ペンタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、ビス(4−3−アミノフェノキシ)フェニルサルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン等の芳香族ポリアミン化合物、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族ポリアミン化合物等が挙げられる。
【0084】
グアニジン系化合物としては、グアニジン、テトラメチルグアニジン、ジブチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、ジ−o−トリルグアニジン等が挙げられる。
【0085】
架橋部位含有モノマーがエポキシ基を有する単量体である場合、架橋剤はイミダゾール化合物が好ましい。イミダゾール化合物としては、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−メチル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール・トリメリット酸塩、1−アミノエチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−エチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾ−ル、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールトリメリテート、1−シアノエチル−2−ウンデシル−イミダゾールトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕エチル−s−トリアジン・イソシアヌール酸付加物、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ−(シアノエトキシメチル)イミダゾール、N−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、N,N’−ビス−(2−メチルイミダゾリル−1−エチル)尿素、1−(シアノエチルアミノエチル)−2−メチルイミダゾール、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−アジボイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−ドデカンジオイルジアミド、N,N’−〔2−メチルイミダゾリル−(1)−エチル〕−エイコサンジオイルジアミド、2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2’−ウンデシルイミダゾリル−(1)’〕−エチル−s−トリアジン、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジベンジル−2−メチルイミダゾリウムクロライド等が挙げられる。
【0086】
架橋部位含有モノマーがエポキシ基を有する単量体である場合、架橋促進剤としては、エポキシ樹脂用の硬化剤、例えば熱分解アンモニウム塩、有機酸、酸無水物、アミン類、硫黄及び硫黄化合物等を用いることができる。
【0087】
架橋部位含有モノマーを使用していない場合、架橋剤は過酸化物であることが好ましい。過酸化物としては、例えば、3−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロ−ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−バラレート、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシ−イソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)−4−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシ)−4−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0088】
過酸化物の添加量は、例えば、未架橋アクリルゴム組成物100質量部に対して、5〜10質量部であることが好ましく、6〜10質量部であることがより好ましい。
過酸化物の添加量が5質量部未満では、架橋不足となり、得られる弾性部材の引張強度や破断時伸び等の機械的特性が低下するおそれがある。また、10質量部を超えると得られる弾性部材が硬化してしまい弾性が損なわれるおそれがある。
【0089】
未架橋アクリルゴム(A1)の種類によっては、架橋剤を使用せずに、受酸剤及び架橋促進剤を配合することで架橋することもできる。
【0090】
受酸剤としては、例えば、金属酸化物、金属水酸化物等を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム等が挙げられる。上記金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0091】
架橋促進剤としては、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を用いることもできる。第4級アンモニウム塩としては、例えば、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルジメチルアンモニウムクロライド、1,6−ジアザ−ビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7−セチルピリジウムサルフェート、トリメチルベンジルアンモニウムベンゾエート等が挙げられる。第4級アンモニウム塩としては、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド、トリシクロヘキシルベンジルホスホニウムクロライド、トリシクロヘキシルベンジルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
【0092】
架橋部位含有モノマーが有してもよい水酸基としては、フェノール性水酸基が好ましく、フェノール性水酸基を有する架橋部位含有モノマーとしては、α−メチル−o−ヒドロキシスチレン、o−カビコール、p,m−ヒドロキシ安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、オイゲノール、イソオイゲノール、p−イソプロペニルフェノール、o,m,p−アリルフェノール、2,2−(o,m,p−ヒドロキシフェニル−4−ビニルアセチル)プロパン等が挙げられる。
【0093】
活性塩素基を有する架橋部位含有モノマーとしては、o,m,p−ヒドロキシスチレン、2−クロロエチルビニルエーテル、モノクロロ酢酸ビニル、クロロメチルスチレン、アリルクロライド等が挙げられる。
【0094】
工程(I)で得られた未架橋アクリルゴム組成物は、未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)の体積比(未架橋アクリルゴム(A1))/(フッ素樹脂(B))が、97/3〜55/45であることが好ましい。上記未架橋アクリルゴム組成物は、体積比(未架橋アクリルゴム(A1))/(フッ素樹脂(B))が上記範囲であることによって、低速走行時から高速走行時の全域に渡って摺動特性に優れる自動車用トランスミッションオイルシールを与えることができる。
フッ素樹脂(B)が少なすぎると、自動車用トランスミッションオイルシールの摺動特性が充分でなくなるおそれがあり、フッ素樹脂(B)が多すぎると、自動車用トランスミッションオイルシールの柔軟性が充分でなくなるおそれがある。得られる自動車用トランスミッションオイルシールの摺動特性及び柔軟性のバランスがよいことから、未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)との体積比(未架橋アクリルゴム(A1))/(フッ素樹脂(B))は、95/5〜60/40であることが好ましく、90/10〜65/35であることがより好ましい。
【0095】
上記未架橋アクリルゴム組成物は、未架橋アクリルゴム(A1)及びフッ素樹脂(B)、並びに、必要に応じて架橋剤、架橋促進剤、受酸剤等を含み、更に、相溶性向上のため、少なくとも1種の多官能化合物を含むものであってもよい。多官能化合物とは、1つの分子中に同一又は異なる構造の2つ以上の官能基を有する化合物である。
【0096】
上記未架橋アクリルゴム組成物は、フッ素樹脂(B)と未架橋アクリルゴム(A1)との相溶性向上のため、少なくとも1種の多官能化合物を含むものであってもよい。多官能化合物とは、1つの分子中に同一又は異なる構造の2つ以上の官能基を有する化合物である。
【0097】
多官能化合物が有する官能基としては、カルボニル基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アミド基、オレフィン基、アミノ基、イソシアネート基、ヒドロキシ基、エポキシ基等、一般に反応性を有することが知られている官能基であれば任意に用いることができる。これらの官能基を有する化合物は、未架橋アクリルゴム(A1)との親和性が高いだけではなく、フッ素樹脂(B)が持つ反応性を有することが知られている官能基とも反応しさらに相溶性が向上することが期待される。
【0098】
上記未架橋アクリルゴム組成物は、更に、通常のゴム配合物に添加される副資材を含むものであってよい。
【0099】
副資材としては、老化防止剤(例えば、ジフェニルアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体等)、加工助剤(例えば、ステアリン酸等)、充填剤(例えば、カーボンブラック、カオリンクレー、タルク、ケイソウ土等)、可塑剤、着色剤、安定剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面非粘着剤、柔軟性付与剤、耐熱性改善剤、難燃剤等の各種添加剤等が挙げられる。これらの副資材は、本発明の効果を損なわない範囲で使用すればよい。
【0100】
上記未架橋アクリルゴム組成物は、例えば、未架橋アクリルゴム(A1)及びフッ素樹脂(B)、並びに、必要に応じて使用される架橋剤、架橋促進剤、受酸剤、副資材等を、ゴム工業で使用される一般的なオープンミルロール、インターナルミキサー等により混練りすることによって得ることができる。このような方法で、ペレット等としてアクリルゴム組成物が得られる。未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して得られる共凝析組成物を用いる場合、未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)とを共凝析して共凝析組成物を得た後、この共凝析組成物と、上記受酸剤、架橋促進剤、副資材等を混練りすればよい。
【0101】
(II)成形架橋工程
この工程は、工程(I)で得られた未架橋アクリルゴム組成物を成形し架橋し、製造する弾性部材と略同形状の架橋成形品を製造する工程である。成形及び架橋の順序は限定されず、成形した後架橋してもよいし、架橋した後成形してもよいし、成形と架橋とを同時に行ってもよい。
【0102】
成形方法としては、たとえば金型などによる加圧成形法、インジェクション成形法などが例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0103】
架橋方法も、スチーム架橋、加圧成形法、加熱により架橋反応が開始される通常の方法、放射線架橋法等が採用でき、なかでも、加熱による架橋反応が好ましい。
【0104】
成形および架橋の方法および条件としては、採用する成形および架橋において公知の方法および条件の範囲内でよい。また、成形と架橋は順不同で行ってもよいし、同時に並行して行ってもよい。
【0105】
架橋を行う温度は、アクリルゴム(A)の架橋温度以上であり、フッ素樹脂(B)の融点未満であることが好ましい。架橋をフッ素樹脂(B)の融点以上で行うと、架橋成形時にフッ素樹脂(B)が溶融し、充分な数の凸部を有するシールリップ部を得ることができないおそれがある。架橋を行う温度は、フッ素樹脂(B)の融点より5℃低い温度未満であり、かつアクリルゴム(A)の架橋温度以上であることがより好ましい。架橋時間としては、例えば、1分間〜24時間であり、使用する架橋剤などの種類により適宜決定すればよい。
【0106】
また、自動車用トランスミッションオイルシールとして、金属環を備えた自動車用トランスミッションオイルシールを製造する場合は、この工程(II)において、例えば、予め金型内に金属環を配置しておき、一体成形を行えばよい。
【0107】
なお、未架橋ゴムの架橋において、最初の架橋処理(1次架橋という)を施した後に2次架橋と称される後処理工程を施すことがあるが、つぎの熱処理工程(III)で説明するように、従来の2次架橋工程と本発明の成形架橋工程(II)および熱処理工程(III)とは異なる処理工程である。
【0108】
(III)熱処理工程
この熱処理工程(III)では、得られた架橋成形品をフッ素樹脂(B)の融点以上の温度に加熱する。熱処理工程(III)を経ることにより、製造する弾性部材の表面に、(主にフッ素樹脂(B)からなる)凸部を形成することができる。
【0109】
熱処理工程(III)は、架橋成形品表面のフッ素樹脂(B)比率を高めるために行う処理工程であり、この目的に即して、フッ素樹脂(B)の融点以上かつアクリルゴム(A)及びフッ素樹脂(B)の熱分解温度未満の温度が加熱温度として採用される。
【0110】
加熱温度がフッ素樹脂(B)の融点よりも低い場合は、架橋成形品表面にフッ素樹脂(B)の凸部が十分に形成されない。アクリルゴム(A)及びフッ素樹脂(B)の熱分解を回避するために、アクリルゴム(A)又はフッ素樹脂(B)のいずれか低い方の熱分解温度未満の温度でなければならない。好ましい加熱温度は、短時間で低摩擦化が容易な点から、フッ素樹脂(B)の融点より5℃以上高い温度である。
【0111】
熱処理工程(III)において、加熱温度は加熱時間と密接に関係しており、加熱温度が比較的下限に近い温度では比較的長時間加熱を行い、比較的上限に近い加熱温度では比較的短い加熱時間を採用することが好ましい。
【0112】
上記(I)〜(III)の工程を経て製造した弾性部材は、その表面全体に凸部が形成されることとなるが、本発明の自動車用トランスミッションオイルシールにおいては、少なくともシールリップ部の表面に凸部が形成されていれば、シールリップ部の表面以外の部分に凸部がなくてもよい。そして、このような態様の弾性部材を製造する場合は、例えば、上記(III)の工程を行った後、研磨処理等により不要な部分の凸部を除去すればよい。
【0113】
ところで、従来行われている2次架橋は1次架橋終了時に残存している架橋剤を完全に分解してゴムの架橋を完結し、架橋成形品の機械的特性や圧縮永久ひずみ特性を向上させるために行う処理である。
【0114】
したがって、フッ素樹脂(B)の共存を想定していない従来の2次架橋条件は、その架橋条件が偶発的に本発明における熱処理工程の加熱条件と重なるとしても、2次架橋ではフッ素樹脂の存在を架橋条件設定の要因として考慮せずに未架橋ゴムの架橋の完結(架橋剤の完全分解)という目的の範囲内での加熱条件が採用されているにすぎず、フッ素樹脂(B)を配合した場合にゴム架橋物(ゴム未架橋物ではない)中でフッ素樹脂(B)を加熱軟化又は溶融する条件を導き出せるものではない。
【0115】
なお、本発明における成形架橋工程(II)において、未架橋アクリルゴム(A1)の架橋を完結させるため(架橋剤を完全に分解するため)の2次架橋を行ってもよい。
【0116】
また、熱処理工程(III)において、残存する架橋剤の分解が起こり未架橋アクリルゴム(A1)の架橋が完結する場合もあるが、熱処理工程(III)におけるかかる未架橋アクリルゴム(A1)の架橋はあくまで副次的な効果にすぎない。
【0117】
なお、上記熱処理工程(III)を行った後、必要に応じて、リングスプリングを配設する工程を行ってもよい。
【0118】
工程(I)、成形架橋工程(II)、及び、熱処理工程(III)を含む製造方法により得られる自動車用トランスミッションオイルシールは、フッ素樹脂(B)の表面移行現象によって、弾性部材の表面に凸部が形成されるとともに、表面領域(凸部内を含む)でフッ素樹脂(B)比率が増大した状態になっているものと推定される。
【0119】
なお、本発明の自動車用トランスミッションオイルシールは、上記工程(I)の代わりに、未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)の各々を単独で凝析した粉末を粉末混合して未架橋アクリルゴム組成物を得る工程、又は、未架橋アクリルゴム(A1)とフッ素樹脂(B)を溶融混練して未架橋アクリルゴム組成物を得る工程を含む製造方法によって得ることが可能であるが、フッ素樹脂(B)が未架橋アクリルゴム組成物中に均一に分散し、より優れた低摩擦性及び非粘着性を有する自動車用トランスミッションオイルシールを得ることができることから、上記工程(I)を含む製造方法により得られたものであることが好ましい。
【0120】
また、フッ素樹脂(B)の表面層への移行がスムーズに起こる点から、熱処理工程はフッ素樹脂(B)の融点以上での加熱処理が特に優れている。
【0121】
自動車用トランスミッションオイルシールの表面領域におけるフッ素樹脂(B)比率が増大した状態は、弾性部材の表面をESCA又はIRで化学的に分析することで検証できる。
【0122】
ところで、アクリルゴムの表面をフッ素樹脂(B)の塗布や接着で改質したものでは、その表面に本発明の自動車用トランスミッションオイルシールが有する特徴的な凸部は観察されないので、本発明のような組成物内のフッ素樹脂(B)が表面に析出した凸部を備えた自動車用トランスミッションオイルシールは、従来にない新規な自動車用トランスミッションオイルシールである。
【0123】
上記製造方法によれば、フッ素樹脂(B)の特性、例えば低摩擦性や非粘着性が、熱処理をしないものより、格段に向上したシールリップ部を有する弾性部材を供える自動車用トランスミッションオイルシールを得ることができる。しかも、弾性部材の表面領域以外では逆にアクリルゴム(A)の特性が発揮でき、全体として、低圧縮永久歪性、低摩擦性、非粘着性のいずれにもバランスよく優れた自動車用トランスミッションオイルシールが得られる。さらに、得られる自動車用トランスミッションオイルシールは、表面のフッ素樹脂(B)に富む領域が脱落や剥離することもなく、アクリルゴム(A)の表面をフッ素樹脂(B)の塗布や接着で改質した場合と比較して、耐久性に優れている。
【実施例】
【0124】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0125】
本明細書における各種の特性については、つぎの方法で測定した。
【0126】
(1)フッ素樹脂の単量体組成
核磁気共鳴装置AC300(Bruker−Biospin社製)を用い、測定温度を(ポリマーの融点+50)℃として
19F−NMR測定を行い求めた。
【0127】
(2)フッ素樹脂の融点
示差走査熱量計RDC220(Seiko Instruments社製)を用い、ASTM D−4591に準拠して、昇温速度10℃/分にて熱測定を行い、一度融点ピークの吸熱終了温度+30℃になったら、降温速度−10℃/分で50℃まで降温させ、再度昇温速度10℃/分で吸熱終了温度+30℃まで昇温させ、得られた吸熱曲線のピークから融点を求めた。
【0128】
(3)フッ素樹脂のメルトフローレート〔MFR〕
MFRは、ASTM D3307−01に準拠し、メルトインデクサー(東洋精機社製)を用いて、280℃、5kg荷重下で内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)をMFRとした。
【0129】
(4)フッ素樹脂の貯蔵弾性率(E’)
貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定により70℃で測定する値であり、アイティ−計測制御社製動的粘弾性装置DVA220で長さ30mm、巾5mm、厚み0.25mmのサンプルを引張モード、つかみ幅20mm、測定温度25℃から200℃、昇温速度2℃/min、周波数1Hzの条件で測定した。
【0130】
(5)架橋(加硫)特性
キュラストメーターII型(JSR(株)製)にて最低トルク(ML)、最高トルク(MH)、誘導時間(T10)及び最適加硫時間(T90)を測定した。
【0131】
(6)100%モジュラス(M100)
JIS K6251に準じて測定した。
【0132】
(7)引張破断強度(Tb)
JIS K6251に準じて測定した。
【0133】
(8)引張破断伸び(Eb)
JIS K6251に準じて測定した。
【0134】
(9)硬度(ショアA)
JIS K6253に準じ、デュロメータ タイプAにて測定した(ピーク値)。
【0135】
(10)凸部を有する領域の面積比、凸部の高さ、凸部の底部断面積、凸部の個数
凸部を有する領域の面積比、凸部の高さ、凸部の底部断面積、凸部の個数等は、例えば、キーエンス社製、カラー3Dレーザー顕微鏡(VK−9700)を用い、解析ソフトとして三谷商事株式会社製のWinRooF Ver.6.4.0を用いて算出した。凸部を有する領域の面積比は、凸部の底部断面積を求め、断面積合計の値が、測定全領域面積に占める割合として求められる。凸部の個数は、測定領域中の凸部の個数を1mm
2当たりの数に換算したものである。
【0136】
(11)トランスミッションオイルシールの回転トルク測定
以下に示す方法でトランスミッションオイルシールの回転トルクを測定した。
図5に示すオイルシールトルク試験機50では、シャフト54が軸受53を介してハウジング59内に回転自在に配設されている。シャフト54の先端側(
図5中、右側)には、油室52が設けられるとともに、オイルシール保持部材57が取り付けられている。測定用トランスミッションオイルシール51は、油室52とオイルシール保持部材57との間隙にオイルシール保持部材57に対して摺動可能に固定される。また、油室52にはロードセル56が接続されている。なお、
図5中、55はオイルシールである。
そして、測定用トランスミッションオイルシール51を取り付けた状態で、油室52の温度(油温)を所定の温度に設定し、シャフト54をモータ(図示せず)により所定の回転で回転させると、オイルシール保持部材57がシャフト54と一体的に回転し、かつ、測定用トランスミッションオイルシール51に対して摺動し、このときの測定用トランスミッションオイルシール51の荷重をロードセル56にて測定し、回転半径を乗じてトルク換算する。ここで、測定条件は、油温(試験温度)を常温とし、シャフト54の回転数を2000rpm又は5000rpmとした。
【0137】
(12)動摩擦係数
レスカ社製フリクションプレーヤーFPR2000で、加重20g(Pinは、φ5mm材質SUJ2)、回転モード、回転数120rpm、回転半径10mmで測定を行い、回転後5分以上経過した後、安定した際の摩擦係数を読み取り、その数値を動摩擦係数とした。
【0138】
アクリルゴム(A1)
XF−5140((株)トウペ製)エマルジョン 濃度31.1wt%
アクリルゴム(A2)
XF−5140((株)トウペ製)ベースポリマー
【0139】
合成例1 フッ素樹脂(B1)
攪拌機を備えた内容積3Lのステンレス製オートクレーブに、脱イオン水1767g、含フッ素アリルエーテル化合物としてCH
2=CFCF
2−O−(CF(CF
3)CF
2O)−CF(CF
3)−COONH
4の50%水溶液を0.283g(脱イオン水量の80ppmに相当する量)を、含フッ素アニオン性界面活性剤としてF(CF
2)
5COONH
4の50%水溶液を3.53g(脱イオン水量の1000ppmに相当する量)仕込んだ。オートクレーブ内を真空引きし、窒素置換した後、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕を3.4MPaになるように導入し、95℃まで昇温した。引き続き、HFP、TFEを圧力が4.0MPaになるまで導入した。引き続き、重合開始剤として3.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液16gを圧入して重合を開始した。重合開始剤を圧入した後、5分経った時点で圧力低下が始まるので、重合槽圧力を4.0MPaに保つようにTFE/HFP=70/30(モル比)の混合ガスを供給して重合を継続した。また、重合速度を維持するため、重合開始時から定常的に3.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を圧入し、重合終了時までトータル35gを追加した。重合開始4時間後に攪拌を停止してモノマーガスを放出し、反応を停止させた。その後、室温まで冷却して白色のTFE/HFP共重合体〔FEP〕ディスパージョン(エマルション)1990gを得た。得られたエマルションの一部を乾燥して固形分濃度を測定したところ、20.0質量%であった。
【0140】
得られたディスパージョン300gを2倍に希釈し、硫酸アルミニウムを加えて凝析し、スラリーを濾別した。回収したスラリーに1Lのイオン交換水を加えて再分散させた後、再び濾別して洗浄した。この洗浄工程をさらに3回繰り返した。引き続き110℃で乾燥して58gのポリマーを得た。
【0141】
得られたポリマーは以下の組成及び物性を有していた。
TFE/HFP=83.2/16.8(モル比)
融点:179℃
MFR:8.5g/10min(280℃、5kg)
70℃における貯蔵弾性率(E’):58MPa
熱分解開始温度(1%質量減温度):375℃
【0142】
合成例2 フッ素樹脂(B2)
攪拌機を備えた内容積3Lのステンレス製オートクレーブに、脱イオン水1767g、含フッ素アリルエーテル化合物としてCH
2=CFCF
2−O−(CF(CF
3)CF
2O)−CF(CF
3)−COONH
4の50%水溶液を0.283g(脱イオン水量の80ppmに相当する量)を、含フッ素アニオン性界面活性剤としてF(CF
2)
5COONH
4の50%水溶液を3.53g(脱イオン水量の1000ppmに相当する量)仕込んだ。オートクレーブ内を真空引きし、窒素置換した後、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕を3.4MPaになるように導入し、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕を17g圧入し、95℃まで昇温した。引き続き、HFP、TFEを圧力が4.0MPaになるまで導入した。引き続き、重合開始剤として3.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液16gを圧入して重合を開始した。重合開始剤を圧入した後、5分経った時点で圧力低下が始まるので、重合槽圧力を4.0MPaに保つようにTFE/HFP=70/30(モル比)の混合ガスを供給して重合を継続した。また、重合速度を維持するため、重合開始時から定常的に3.0質量%の過硫酸アンモニウム水溶液を圧入し、重合終了時までトータル35gを追加した。重合開始4時間後に攪拌を停止してモノマーガスを放出し、反応を停止させた。その後、室温まで冷却して白色のTFE/HFP/PPVE共重合体〔FEP〕ディスパージョン(エマルション)2000gを得た。
得られたエマルションの一部を乾燥して固形分濃度を測定したところ、20.3質量%であった。
【0143】
得られたディスパージョン300gを2倍に希釈し、硫酸アルミニウムを加えて凝析し、スラリーを濾別した。回収したスラリーに1Lのイオン交換水を加えて再分散させた後、再び濾別して洗浄した。この洗浄工程をさらに3回繰り返した。
引き続き110℃で乾燥して56gのポリマーを得た。
【0144】
得られたポリマーは以下の組成及び物性を有していた。
TFE/HFP/PPVE=84.2/14.8/1.0(モル比)
融点:178℃
MFR:9.2g/10min(280℃、5kg)
70℃における貯蔵弾性率(E’):63MPa
熱分解開始温度(1%質量減温度):372℃
【0145】
(充填剤)
ステアリン酸
パラフィンワックス
ナウガード#445(ユニロイヤル社製)
シーストV(東海カーボン(株)製)
【0146】
(架橋剤)
CHEMINOX AC−6(ユニマテック(株)製)
【0147】
(架橋促進剤)
ノクセラーDT(大内新興化学工業(株)製)
【0148】
実施例1
容量1Lのミキサー内に、水500ccと塩化マグネシウム4gをあらかじめ混合した溶液にFEP水性ディスパージョン(B1)とアクリルゴムディスパージョン(A1)とを、固形分が体積比で75/25(アクリルゴム/フッ素樹脂(FEP))となるようにあらかじめ混合した溶液400ccを投入し、ミキサーにて3分間混合し、共凝析した。
共凝析後、固形分を取り出し、80℃×48時間乾燥炉で乾燥させた後、オープンロールにて表1に示す所定の配合物を混合して、未架橋アクリルゴム組成物とした。
その後、自動車用トランスミッションオイルシールの金型に金属環を配設し、未架橋アクリルゴム組成物を投入して、8MPaに加圧して、180℃で5分間加硫させて、架橋成形品(適応軸径80mm、外径98mm、幅8mm)を得た。
その後、得られた架橋成形品を230℃に維持された加熱炉中に24時間入れ、加熱処理をし、
図3に示すような構造を有する自動車用トランスミッションオイルシールを得た。得られた自動車用トランスミッションオイルシールを用いて、凸部の数、底部断面積、高さ、凸部を有する領域の面積比を測定した。また、自動車用トランスミッションオイルシールの回転トルクを測定した。結果を表1に示す。
【0149】
実施例2
実施例1でFEPディスパージョン(B1)の代わりに(B2)を用いた以外は実施例1と同様の方法で自動車用トランスミッションオイルシールを得て各種測定を行った。
【0150】
比較例1
オープンロールにて、アクリルゴム(A2)に表1に示す所定の配合物を混合して、架橋性組成物とした。その後は実施例1と同様の方法で自動車用トランスミッションオイルシールを得て各種測定を行った。
【0151】
【表1】