(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056559
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20161226BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20161226BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
H01M10/44 101
H01M10/48 A
H02J7/00 S
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-46625(P2013-46625)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-175150(P2014-175150A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】直井 克夫
(72)【発明者】
【氏名】小倉 廣一
(72)【発明者】
【氏名】一 雅雄
【審査官】
宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−345123(JP,A)
【文献】
特開2008−130474(JP,A)
【文献】
特開2010−032349(JP,A)
【文献】
特開2005−197279(JP,A)
【文献】
特開2012−243556(JP,A)
【文献】
実開平06−005125(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/42−10/48
H02J7/00−7/12、
7/34−7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と二次電池とを備えた電池モジュールであって、
前記二次電池のガス開放口は、ガス開放弁に連動する押圧部材を備え、
前記基板の一方の面は、ひずみ検出配線パターンと、前記二次電池を接続する基板端子を備え、
前記押圧部材は前記ひずみ検出配線パターンと対向するように前記基板の他方の面に当接し、
前記ひずみ検出配線パターンが接続される制御手段と前記基板端子間に設けられたスイッチ素子とが接続されていることを特徴とする電池モジュール。
【請求項2】
前記基板のうち、前記ひずみ検出配線パターンが配設された部分の厚みは、他の部分に比べ薄いことを特徴とする請求項1の電池モジュール。
【請求項3】
前記ひずみ検出配線パターンの少なくとも一部が、前記基板の弾性率よりも大きい部材によって前記基板に固着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池を用いた電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の普及は目覚しく、あらゆる分野の製品に展開されている。同時にその安全性は日々向上している。特に、二次電池は充放電時に化学反応を伴うため、その際に発生するガスに対しては、さまざまな対策が講じられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、単電池毎に設けられた安全弁全てをガスダクト部材で覆い、ガス排出経路を構成した組電池が開示されている。また、特許文献2には、リチウムイオン電池の安全弁を金属箔と破断線から構成し、万が一、使用状態において異常が生じガスが噴出した場合、安全弁の開放と共に破断線を断線し、導通を遮断する検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−049136号公報
【特許文献2】特開2005−322471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、二次電池が普及するにつれ、次第に電気自動車といった大型の装置にも搭載され始めている。こうした大型の装置に用いられる二次電池には、これまで以上に大きな電力が要求されている。そのため、接続する二次電池の数を増やして接続するか、あるいは接続する二次電池の数を増やさずに、ひとつひとつの二次電池の容量を大きくして、大電力の電池モジュールを構成しなければならない。
【0006】
当然ながら、接続される二次電池の数が多くなったり、個々の二次電池の容量が大きくなったりすると、電池モジュールの安全性の確保にも一段と細心の注意を払わなければならない。
【0007】
このように大電力の電池モジュールが大型の装置へ適用されることを考慮すると、特許文献1の組電池では、充放電が繰り返されるたびに、水素ガスが放出され続ける可能性があり、必ずしも安全な状態とはいえない。また、特許文献2の集合電池を用いたとしても、突発的なガス放出が生じたりすると、破断線が断線して導通を遮断した瞬間と同時に、バッテリーセルの内容物が外部に漏れ出すことも考えられる。
【0008】
そこで本発明は、二次電池の充放電に伴うガス発生をいち早く検知し、二次電池の外部へガスが放出される前に、充放電動作を停止させることが可能な電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の電池モジュールは、基板と二次電池とを備えた電池モジュールであって、前記二次電池のガス開放口は、ガス開放弁に連動する押圧部材を備え、前記基板の一方の面は、ひずみ検出配線パターンと、前記二次電池を接続する接続端子を備え、前記押圧部材は前記ひずみ検出配線パターンと対向するように前記基板の他方の面に当接し、前記ひずみ検出配線パターンが接続される制御手段と前記接続端子間に設けられたスイッチ素子とが接続されていることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、二次電池の内部に発生したガスが内圧を高めると、ガス開放口内に収納された押圧部材が基板を押し上げ、次第に押し上げられた基板の表面が盛り上がる。そうすると、ガス開放口に対向する基板の表面の配線パターンが変形し、配線パターンの電気抵抗値が変化する。その変化を検出した制御手段から電池モジュールの直列構造を遮断する信号が送られ、電池モジュールの出力を停止し、二次電池の安全性を確保することができる。
【0011】
さらに、上記の発明において、前記基板のうち、前記ひずみ検出配線パターンが配設された部分の厚みは、他の部分に比べ薄いことが好ましい。このような構成にすることによって、ひずみ検出配線パターンが変形しやすくなり、電気抵抗値がより敏感に変化するようになる。これにより、セル内の内圧の変化に対する検知応答速度が一層向上し、電池モジュールの出力停止までの時間が一段と短縮され、安全性を向上させることができる。
【0012】
さらに、上記の発明において、前記基板の弾性率よりも大きい部材によって前記基板に固着されていることが好ましい。このような構成にすることによって、ひずみ検出配線パターンが固着されている一部に対し、固着されていないひずみ検出配線パターンが変形しやすくなり、電気抵抗値の変化も大きくなる。これによって、電池モジュールのセル内の内圧の変化を一段と感度よく検出でき、安全性をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、二次電池の充放電に伴うガス発生をいち早く検知し、二次電池の外部へ大量のガスが放出される前に、充放電動作を停止することが可能な電池ジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る電池モジュールの斜視図である。
【
図2】(a)
図1のA―A´断面図である。(b)ガス開放口に設けられた押圧部材と基板とが当接する部分の拡大図である。
【
図3】実施形態に係る電池モジュールをひずみ検出配線パターン側から俯瞰した図である。
【
図4】(a)ガスが発生していないときのひずみ検出配線パターンの状態を示す図である。(b)ガス発生時のひずみ検出配線パターンの状態を示す図である。
【
図5】実施形態の動作原理を説明するための模式図である。
【
図6】実施形態に係るガス開放口と基板との当接部を拡大した図である。
【
図7】実施形態に係るひずみ検出配線パターンを拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、実施形態に係る電池モジュールの斜視図である。
【0017】
本実施形態の電池モジュール1は、10個の二次電池20の接続端子21が基板10の貫通孔11を通して、基板10上に設けられた基板端子12にネジ(図示せず)で固定されている。基板端子12は、隣接する二次電池の陽極と陰極とを繋ぐように基板10上に印刷されている。ただし、基板端子12aと12bとの間は、スイッチ素子44で接続されている。基板10上には、個々の二次電池20に対応して、二次電池20と同じ数のひずみ検出配線パターン40が設けられている。
【0018】
次に、
図1のA−A´断面を表す
図2(a)を基に、ガス開放口30とひずみ検出配線パターン40の位置関係を説明する。
【0019】
二次電池20を構成するケース22の上端には、ガス開放口30が設けられており、このガス開放口30を塞ぐようにガス開放弁31が設けられ、ケース22の内容物を封止している。ガス開放弁31の上部には、ガス開放口30内に収納されるように押圧部材32が備えられている。押圧部材32の外径は、ガス開放口30の内径より僅かに小さく、先端が曲面となった略円柱形状である。この押圧部材32が、基板10の他方の面に設けられたひずみ検出配線パターンに対向するように、基板10の一方の面に当接している。
【0020】
基板10に用いられる素材は、FR4のような一般的な素材で構わないが、その場合は、押圧部材32には、基板10の硬度よりも固い、たとえばポリプロピレンのような素材を用いることが好ましい。なぜなら、押圧部材32の押圧で基板10を変形させなければならないからである。
【0021】
ケース22は、その一つが、たとえば、縦150mm、横135mm、幅25mmの直方体をなし、外部からの衝撃に耐えられるように、鉄、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金などといった十分に強度を保つことができる材料からなっている。
【0022】
図2(b)は、押圧部材32が基板10に当接する部分の拡大図である。この図に示すとおり、ガス開放弁31上の押圧部材32の先端は、基板10の下面に当接している。ケース22の内部が減圧状態となっているため、ガス開放弁31はケース22の内側方向に偏っている。このガス開放弁31には、樹脂をアルミの金属箔で覆ったアルミラミネート材のような十分な強度を持つ材料が望ましい。
【0023】
続いて、
図3を用い基板10の上面側をさらに詳細に説明する。ひずみ検出配線パターン40は、個々のケース22のガス開放口30に設けられた押圧部材32に対応するように基板10の上面側に配置されている。ひずみ検出配線パターン40は、基板10に印刷などにより直接形成されている。
【0024】
これらのひずみ検出配線パターン40は、制御手段50の一方の出力端子60から導線部42によって引き出される。導線部41は、ひずみ検出配線パターン40a、40c、40e、40g、40iの合計5つのひずみ検出パターン40をミアンダ状に連続して形成し、ひずみ検出配線パターン40iを周回して、出力端子60に戻る。
【0025】
同様に制御手段50の他方の端子61から引き出された導線部42は、ひずみ検出配線パターン40b、40d、40f、40h、40jの合計5つのひずみ検出パターン40をミアンダ状に連続して形成し、ひずみ検出配線パターン40iを周回して、出力端子61に戻る。
【0026】
同時に制御手段50は、基板端子12aと12bとの間に設けられたスイッチ素子44に無線や優先で制御信号を送信できるように接続されている。(図示せず)
【0027】
制御手段50は、例えば、マイクロコンピュータやデジタルシグナルプロセッサ、または、それらを組み合わせたICなどの半導体素子から構成される。なお、本実施形態においては、制御手段50は基板10上に設けられているが、電池モジュール1とは切り離して、別に設けてもよい。
【0028】
スイッチ素子44は、導通と非導通を制御する信号を受信する端子を有している。制御手段50がひずみを検知したときは、スイッチ素子44を非導通とする制御信号が送信される。
【0029】
スイッチ素子44は、例えば、リレーを含む機械スイッチ、MOS−FET(電界効果トランジスタ:Metal Oxide Semiconductor−Field Effect Transistor)やIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ:Insulated Gate Bipolor Transistor)などの半導体素子である。
【0030】
次に、上述した構成に従い、
図4(a)、(b)を参考に本実施形態の電池モジュール1の動作について説明する。
【0031】
電池モジュール1を構成する二次電池20のケース22の内部には、リチウムイオンを挿入脱可能な正極、負極、セパレータ、およびリチウムイオンを含む電解液が封入されている。この電解質液中のリチウムイオンが正極から負極へ移動することにより充電され、逆にリチウムイオンが負極から正極へ移動することにより放電され、充放電が繰り返されるたびに化学反応が生じることになる。そして、充電時に電池内に蓄えられたエネルギーを放電することによって、電力が生じることになる。
【0032】
通常、二次電池は、電解液が分解反応を起こさないような電位窓範囲で充放電が行われるため、ガスの発生は殆ど生じない。よって、ケース22の内圧はほぼ一定に保たれ著しい変動が生じることはない。
【0033】
ところが、電池モジュール1を構成する二次電池20のいずれかが、他の二次電池に比べ著しく電池容量が減少すると、急速に充電が進み、二次電池の電圧が上昇し、電解液の酸化還元反応が起きガスが発生する。同様に、いずれかの二次電池の電圧が低下すると、電極を構成しているイオン導電性膜が分解しガスが発生する。さらに、温度上昇が伴うと、電解液の酸化還元反応や、イオン導電体膜の分解が著しく加速され、たちまち発生するガスが増えケース22内部の圧力が高まることになる。
【0034】
このとき、二次電池20のケース22の内部でガスが発生すると、次第に内部の圧力が高まり、ガス開放弁31が上方に向って膨れ上がる。膨れ上がったガス開放弁31は、押圧部材32を押し上げる。押し上げられた押圧部材32は、基板10を押し上げ、それまで
図4(a)のような状態にあったひずみ検出配線パターン40が、基板10と一緒に変形しだし、
図4(b)のように変形し、その形状ばかりでなく線幅も変化する。そうすると、ひずみ検出配線パターン40の電気抵抗値に変化が生じることになる。
【0035】
ここで、
図5を用い、ひずみ検出配線パターンの電気抵抗値の変化によるひずみ検出の原理を説明する。たとえば、長さがL、直径dの金属細線があるとし、その電気抵抗値はRとする。電気抵抗値Rは、長さが長いほど、直径が小さいほど大きくなるが、この金属細線に一様な引張ひずみが加わると、長さがσl延び、直径がdからd´まで変化する。この変化により、金属細線の電気抵抗値は大きくなる。このときの電気抵抗値の増加量をσRとすると、金属細線に加わるひずみεとの関係は、式(1)で表される。
σR/R=K・ε (1)
【0036】
このとき、Kはひずみ感度と呼ばれ、ひずみに対する抵抗の変化率の割合であり、抵抗体固有の特性を表す値である。Kが一定値であれば、ひずみと電気抵抗値の変化は比例関係になる。ひずみ検出配線パターンに使用される材料は、通常のプリント基板に使用される銅でも構わないが、例えば銅とニッケルの合金材料などのひずみ感度が一定な材料を用いることが好ましい。
【0037】
特にひずみ検出配線パターンに、一般にひずみ感度Kが一定であるような銅とニッケルの合金、特に銅とニッケルの重量比が50:50であれば、そのKの値はほぼ2となり、電気抵抗値の変化を安定的に検知できる。
【0038】
引き続き、本実施形態の動作について説明する。
【0039】
ひずみ検出配線パターン40の電気抵抗値に変化があると、直ちに導線部41、42を介して制御手段50にその信号が送られる。制御手段50は、ひずみ検出配線パターン40の電気抵抗値の変化を検知すると、スイッチ素子44に向って、基板端子12aと12bとの間の導通を遮断する信号を送信し、電池モジュール1の直列構造が遮断される。
【0040】
こうして、電池モジュール1を構成する二次電池20の直列構造の一部が、スイッチ素子44の働きによって遮られ電池モジュール1の動作を停止させる。
【0041】
電池モジュール1の停止をより感度良く行うため、
図6のように押圧部32が当接する基板10の肉厚を薄くしてもよい。部分的に基板の厚みが薄くなれば、肉厚の厚い部分に比べ、変形する割合も大きくなるからである。
【0042】
また、
図7のようにひずみ検出配線パターンの一部を基板よりも弾性率が大きい部材で覆い、基板10に押さえつけるように固定してもよい。
図7においては、ひずみ検出配線パターンのおよそ半分の領域に基板よりも弾性率が大きいアルミナ製の絶縁体70を配置し、その上から銅の膜部材71で固定している。こうすると、表面に露出したひずみ検出配線パターンは、固定された領域に比べ、変形しやすくなるため、ケース22内のガスによる内圧の高まりがより少ない場合であっても、電池モジュール1を安全に停止させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 電池モジュール、10 基板、11 貫通孔、12、12a、12b 基板端子
20 二次電池、21 接続端子、22 ケース、30 ガス開放口、31 ガス開放弁、32 押圧部材、40(40a,40b〜40j) ひずみ検出配線パターン、41 導線部、42 導線部、44 スイッチ素子、50 制御手段、60 出力端子、61 出力端子、70 絶縁体、71 膜部材