(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6056584
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】端子付き被覆電線、ワイヤーハーネス、及び防食剤
(51)【国際特許分類】
H01B 7/28 20060101AFI20161226BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20161226BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20161226BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20161226BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20161226BHJP
C09D 177/00 20060101ALI20161226BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20161226BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20161226BHJP
C09D 123/00 20060101ALI20161226BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20161226BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
H01B7/28 F
C09D5/08
C09D201/00
C09D133/00
C09D163/00
C09D177/00
C09D175/04
C09D183/04
C09D123/00
H01B7/00 306
H01B7/00 301
H01R4/62 A
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-59268(P2013-59268)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-186801(P2014-186801A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田中 成幸
(72)【発明者】
【氏名】高田 裕
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 直之
【審査官】
和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−011945(JP,A)
【文献】
特開平10−203671(JP,A)
【文献】
特開2012−041494(JP,A)
【文献】
特開2011−111632(JP,A)
【文献】
特開2011−179101(JP,A)
【文献】
特開2011−256429(JP,A)
【文献】
特開2012−001740(JP,A)
【文献】
特開2013−025932(JP,A)
【文献】
特開2013−025931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
C09D 5/08
C09D 123/00
C09D 133/00
C09D 163/00
C09D 175/04
C09D 177/00
C09D 183/04
C09D 201/00
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部を、接着性樹脂と吸油性有機高分子のみからなる防食剤により被覆しており、
前記防食剤中の前記接着性樹脂の含有量が40.0質量%以上であることを特徴とする端子付き被覆電線。
【請求項2】
前記防食剤中に含まれる前記吸油性有機高分子の量が、1〜50質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の端子付き被覆電線。
【請求項3】
前記吸油性有機高分子が、吸油性エラストマーまたは吸油性ゴムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の端子付き被覆電線。
【請求項4】
前記接着性樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線。
【請求項5】
前記接着性樹脂が、紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、及び二液反応硬化型樹脂より選択される樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の端子付き被覆電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項7】
接着性樹脂と吸油性有機高分子のみからなり、
前記接着性樹脂の含有量が40.0質量%以上であることを特徴とする防食剤。
【請求項8】
前記防食剤中に含まれる前記吸油性有機高分子の量が、1〜50質量%の範囲内であることを特徴とする請求項7に記載の防食剤。
【請求項9】
前記吸油性有機高分子が、吸油性エラストマーまたは吸油性ゴムであることを特徴とする請求項7または8に記載の防食剤。
【請求項10】
前記接着性樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の防食剤。
【請求項11】
前記接着性樹脂が紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、及び二液反応硬化型樹脂より選択される樹脂であることを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の防食剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子付き被覆電線、ワイヤーハーネス、及び防食剤に関し、さらに詳しくは、電線導体と端子金具の電気接続部の防食性に優れた端子付き被覆電線、それを用いたワイヤーハーネス、及び防食性に優れた防食剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に配索される被覆電線の端末の電線導体には端子金具が接続されている。端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部においては、腐食を防止することが求められる。特に近年、自動車等の車両の軽量化などを目的として、電線導体の材料にアルミニウムやアルミニウム合金を用いることが検討されている。一方、端子金具の材料には銅や銅合金が用いられることが多い。また、端子金具の表面にはスズめっきなどのめっきが施されることが多い。つまり、電線導体と端子金具の材質が異なる場合が生じる。電線導体と端子金具の材質が異なると、その電気接続部で異種金属接触による腐食が発生する。このため、電気接続部を確実に防食することが求められる。
【0003】
電気接続部における防食を達成するために、電気接続部にグリースを注入したり、電気接続部を接着性樹脂によって被覆したりすることが試みられている。例えば、特許文献1には、防食用ポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−41494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
端子金具は、通常、加工油を用いてプレス加工により所定の形状に成形している。また、端子金具を電線導体に圧着する際にも加工油を用いる場合がある。加工時に用いられた加工油は端子金具の表面に不可避的に残留する。この油は、防食剤と端子金具との間の接着を阻害する。すると、防食剤と端子金具との間に空隙を生じやすくなり、その空隙から水分等が浸入しやすくなるので、十分な防食性能を得ることが困難となる場合がある。
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、端子金具表面に油が付着していても、防食剤が端子金具表面に密着し、電線導体と端子金具の電気接続部において高い防食性能が得られる端子付き被覆電線及びワイヤーハーネスを提供すること、そしてそのような高い防食性能を発揮できる防食剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係る端子付き被覆電線は、端子金具と被覆電線の電線導体とが電気的に接続された電気接続部を、接着性樹脂と吸油性有機高分子とを含有する防食剤により被覆していることを要旨とする。
【0008】
ここで、前記防食剤中に含まれる前記吸油性有機高分子の量が、1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0009】
また、前記吸油性有機高分子は、吸油性エラストマーまたは吸油性ゴムであることが好適である。一方、前記接着性樹脂は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種であることが好適である。また、前記接着性樹脂は、紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、及び二液反応硬化型樹脂より選択される樹脂より選択される樹脂であることが好適である。
【0010】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記の端子付き電線を有することを要旨とする。
【0011】
本発明にかかる防食剤は、接着性樹脂と吸油性有機高分子とを含有することを要旨とする。
【0012】
ここで、前記防食剤中に含まれる前記吸油性有機高分子の量が、1〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0013】
また、前記吸油性有機高分子は、吸油性エラストマーまたは吸油性ゴムであることが好適である。一方、前記接着性樹脂は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種であることが好適である。また、前記接着性樹脂は、紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、及び二液反応硬化型樹脂より選択される樹脂であることが好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る端子付き被覆電線によれば、防食剤に含まれる吸油性有機高分子が端子金具の表面に付着する加工油を吸油し、防食剤に含まれる接着性樹脂が端子金具の表面の金属に接着しやすくなる。これにより、高い防食性能が得られる。
【0015】
ここで、前記防食剤中に含まれる前記吸油性有機高分子の量が、1〜50質量%の範囲内であると、接着性樹脂の端子金具に対する密着性が効果的に向上されるとともに、吸油性有機高分子を多量に含有することによる防食剤の耐熱性の低下が回避される。
【0016】
また、前記吸油性有機高分子が吸油性エラストマーまたは吸油性ゴムである場合には、防食剤に柔軟性が付与されることで、応力緩和の効果で、防食剤と端子金具表面の間の接着性が、一層高められる。一方、前記接着性樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される場合には、高い防食性能が発揮される。また、前記接着性樹脂が紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、及び二液反応硬化型樹脂より選択される樹脂である場合には、電気接続部への塗布と硬化を高効率で行うことができる。
【0017】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記の端子付き電線を有するので、端子金具と被覆電線の電気接続部において、端子金具の表面に油が付着していても、高い防食性が得られる。
【0018】
本発明にかかる防食剤は、塗布される表面に油が付着していたとしても、高い接着力を発揮し、適用した部材に高い防食性能を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の端子付き被覆電線の一例の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の端子付き被覆電線の一例を示す外観斜視図であり、
図2は
図1におけるA−A線縦断面図である。
図1及び
図2に示すように、本発明の端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁体4により被覆された被覆電線2の電線導体3と、端子金具5が、電気接続部6により電気的に接続される。
【0022】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。
【0023】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁体4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁体4の上から加締める。
【0024】
端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)される。プレス加工の際には、炭化水素系の加工油などの加工油が用いられる。したがって、成形直後の端子金具5の表面には加工油が残留(付着)する。また、圧着(加工)の際にも、加工油が用いられることがある。この場合には、圧着直後の端子金具5の表面に加工油が残留(付着)する。また、端子金具5と同様、圧着直後の電線導体3の表面にも加工油が残留(付着)する。典型的な加工油の付着量はおおよそ0.01〜1.0mg/cm
2である。
【0025】
そして、端子金具5の表面にこのような加工油が付着した状態で、電気接続部6は、
図1において一点鎖線で示した範囲が、本発明にかかる防食剤7により被覆される。尚、
図1の電気接続部6は、防食剤7を透視した状態で示している。防食剤7は、電線導体3、電線導体3と端子金具5との接触部分等に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。
【0026】
防食剤7が被覆している具体的な部分は、以下の部分である。
図1に示すように、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように防食剤7で被覆する。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁体4側に少しはみ出すように防食剤7で被覆する。
図2に示すように、端子金具5の側面5bも防食剤7で被覆する。端子金具5の裏面5cは防食剤7で被覆しない。こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6を防食剤7により所定の厚さで被覆する。被覆電線2の端末が皮剥ぎされて電線導体3が露出した部分は、防食剤7によって完全に覆われていて、外部に露出しないようになっている。なお、電気接続に影響を与えないのであれば、端子金具5の電線固定部54の裏面側(ワイヤバレル52及びインシュレーションバレル53の裏面側も含む)を、防食剤7により被覆してもよい。
【0027】
したがって、電気接続部6を被覆する防食剤7の周端のうち3方が端子金具5の表面に接し、一方が絶縁体4の表面に接する。つまり、防食剤7の周端の大部分が端子金具5の表面に接する。
【0028】
ここで、従来一般の防食剤が使用される場合には、端子金具5の表面に加工油があると、防食剤の端子金具5表面に対する密着が阻害され、端子金具5の表面と防食剤との間に隙間ができる場合がある。すると、電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分の腐食が進行しやすくなる。これを防止するため、本発明にかかる防食剤7は、以下のような特定の組成を有する。
【0029】
防食剤7は、接着性樹脂及び吸油性有機高分子を含有するものからなる。防食剤7に含まれる吸油性有機高分子が端子金具5の表面に付着する加工油を吸収するので、防食剤7に含まれる接着性樹脂が端子金具5の表面の金属に接着しやすくなる。このため、防食剤7が、端子金具5の表面によく密着し、高い防食性能が得られる。
【0030】
防食剤7に含まれる吸油性有機高分子は、油を吸収可能な高分子化合物であれば、どのようなものでもよい。吸油性有機高分子の例として、吸油性エラストマー、吸油性ゴム、吸油性ゲルなどを挙げることができる。中でも、吸油性エラストマーまたは吸油性ゴムが好適である。吸油性エラストマーや吸油性ゴムは、高い柔軟性を有するので、接着性樹脂と混合された際に、端子金具5の表面に存在する油の吸収による効果だけでなく、柔軟性付与による応力緩和の効果によっても、防食剤7と端子金具5の間の密着性を高めることができるからである。吸油性エラストマーとしては、スチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー等を挙げることができる。具体的な吸油性高分子としては、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)カルボキシル基末端ブタジエンニトリルゴム(CTBN)、天然ゴム(NR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。吸油性有機高分子の吸油量としては、0.05ml/100g以上であることが好ましい。
【0031】
防食剤7中における吸油性有機高分子の含有量は、十分な吸油性を発揮し、防食剤7と端子金具5の密着性を高めるという意味において、1質量%以上であることが好ましい。一方、吸油性エラストマーや吸油性ゴムに代表される吸油性高分子の含有量を多くしすぎると、防食剤7の耐熱性が低下してしまうので、十分な耐熱性を確保するという意味で、その含有量は50質量%以下であることが好ましい。
【0032】
防食剤7に含まれる接着性樹脂としては、金属表面に接着可能な樹脂種であれば、どのようなものでもかまわないが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの樹脂のうち硬化性樹脂は、最終的に硬化物とされる。防食剤7には、着色用顔料、粘度調整剤、老化防止剤、無機充填材、保存安定剤、分散剤など、添加剤が加えられていても良い。
【0033】
防食剤7に含まれる接着性樹脂は、紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、及び二液反応硬化型樹脂より選択される樹脂であることが好適である。これらのような硬化型樹脂を防食剤7に用いることで、流動性の高い状態で防食剤7を電気接続部6に塗布したあと、防食剤7を端子金具5と被覆電線2の外周に密着した状態で硬化させることができるので、防食剤7による電気接続部6の被覆を高効率で行うことができる。硬化操作は、紫外線硬化型樹脂の場合は防食剤7を塗布した後に防食剤7に紫外線を照射することで行えばよく、熱硬化型樹脂の場合は防食剤7を塗布した後に防食剤7を加熱することで行えばよい。また、湿気硬化型樹脂は、大気中の湿気に所定時間晒されることによって硬化し、二液反応硬化型樹脂は、2種の液を混合した後に所定時間が経過することによって硬化するので、これらの樹脂を含む防食剤は、調製後、硬化が起こるまでの時間内に塗布を行い、放置して硬化させればよい。いずれの硬化形式の樹脂を使用するかは、防食剤7が適用される部位や使用環境等に応じて選択すればよい。
【0034】
紫外線硬化型樹脂の中には、紫外線硬化性に加え熱硬化性、湿気硬化性、二液反応硬化性、嫌気硬化性を付与したものがあり、これらは紫外線硬化後にそれぞれに応じた硬化方法によりさらに硬化すればよい。つまり、熱硬化性、湿気硬化性、二液反応硬化性を有する場合には、紫外線照射後に、前段落に記載の各方法でさらに硬化を行えばよい。嫌気硬化性を有する場合には、紫外線照射後に、金属と接触し、かつ酸素と接触しない環境で所定時間放置することで、硬化させればよい。また、湿気硬化型樹脂の中には、湿気硬化性に加え紫外線硬化性、二液反応硬化性を付与したものがあり、この場合は、紫外線硬化性を有する場合には紫外線硬化を行った後に、二液反応硬化性を有する場合には2種の液を混合した後に、防食剤を大気中の湿気に所定時間さらすことによって硬化させればよい。さらに、二液反応硬化型樹脂の中には、二液反応硬化性に加え紫外線硬化性、熱硬化性、湿気硬化性を付与したものがあり、この場合は、2種の液を混合した後に、前段落に記載したのと同様のそれぞれに応じた硬化方法により硬化すればよい。
【0035】
防食剤7に含まれる接着性樹脂が紫外線硬化型樹脂である場合には、紫外線硬化型アクリル樹脂を使用することが好適である。紫外線硬化型アクリル樹脂の具体例としては、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ウレタンメタクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、エポキシメタクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエステルメタクリレート系樹脂等を挙げることができる。防食剤7に含まれる接着性樹脂が熱硬化型樹脂である場合には、熱硬化型エポキシ樹脂を使用することが好適である。熱硬化型エポキシ樹脂の具体例としては、エポキシ系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、エポキシメタクリレート系樹脂等を使用することが好適である。防食剤7に含まれる接着性樹脂が湿気硬化型樹脂である場合には、湿気硬化型アクリル樹脂を使用することが好適である。湿気硬化型アクリル樹脂の具体例としては、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ウレタンメタクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、エポキシメタクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエステルメタクリレート系樹脂、シアノアクリレート系樹脂等を使用することが好適である。防食剤7に含まれる接着性樹脂が二液反応硬化型樹脂である場合には、二液反応硬化型アクリル樹脂を使用することが好適である。二液硬化型アクリル樹脂の具体例としては、アクリレート系樹脂、メタクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、ウレタンメタクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、エポキシメタクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエステルメタクリレート系樹脂、等を挙げることができる。
【0036】
なお、接着性樹脂は、種々の粘度を有するが、防食剤7が塗布される箇所や用途等に応じて、適宜粘度を選択すればよい。上記のような電気接続部に適用する場合、接着性樹脂が1000〜20000mPa・sの範囲の粘度を有することが好ましい。
【0037】
防食剤7の調製は、接着性樹脂、吸油性有機高分子、その他必要な添加剤を混合することによって行うことができる。この際、混合を容易にするために、適宜温度調節等を行ってもよい。吸油性高分子としてのゴム成分を防食剤塗布前に混合するに際し、ゴム成分はマスターバッチ状にして混合しても良い。
【0038】
ここで、接着性樹脂中に混合された吸油性有機高分子には、混合前の外形を維持したまま接着性樹脂中に分散される状態にあるものと、接着性樹脂中で相溶化した状態にあるものがある。
【0039】
防食剤7の塗布は、滴下法、塗布法、押し出し法等の公知の手段を用いることができる。また防食剤7の塗布の際、防食剤7を加熱、冷却等により温度調節してもよい。また、防食剤7の浸透性(塗布性)を高めるため、塗布する際には防食剤7を溶剤で希釈して液状にしてもよい。防食剤7中の接着性樹脂が硬化性のものである場合には、塗布後に、紫外線照射、加熱等、適宜硬化のための処理を行えばよい。
【0040】
以下、端子付き被覆電線1の各部について説明する。
【0041】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0042】
上記電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。
【0043】
絶縁体4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁体4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0044】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0045】
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記本発明にかかる端子付き被覆電線1を含む複数の被覆電線よりなる。ワイヤーハーネスを構成する被覆電線の全てが本発明にかかる端子付き電線1であってもよいし、その一部のみが本発明にかかる端子付き電線1であってもよい。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の実施例、比較例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0047】
<防食剤の調製>
(実施例)
紫外線硬化型樹脂(UV硬化樹脂)、熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、又は二液反応硬化型樹脂(二液硬化樹脂)と、吸油性高分子を、それぞれ表1〜5、6〜10、11〜15、16〜20に示した配合比で混合し、実施例A1〜A40、B1〜B40、C1〜C40、D1〜D40にかかる防食剤を調製した。
【0048】
(比較例)
各樹脂に吸油性高分子を混合せず、UV硬化樹脂そのものを比較例A、熱硬化型樹脂そのものを比較例B、湿気硬化型樹脂そのものを比較例C、二液硬化樹脂そのものを比較例Dとした。
【0049】
用いた樹脂及び吸油性高分子は、以下のとおりである。
【0050】
・UV硬化樹脂:東亞合成社製「アロニックス BU810」
・熱硬化型樹脂:サンユレック社製「GRS−817」
・湿気硬化型樹脂:スリーボンド社製「TB3056」
・二液硬化樹脂:電気化学工業製「G55−033A/B」
【0051】
(吸油性高分子)
・SEBS:旭化成社製「タフテックH1041」
・SBR:旭化成社製「タフプレン125」
・NBR:日本ゼオン社製「Nipol 1042」
・CR:電気化学工業社製「デンカ クロロプレン」
・CTBN:Emerald Performance Materials社製「Hypro 1300X31」
【0052】
<せん断接着試験>
スズめっき銅板に1mg/cm
2の密度で端子油(JX日鉱日石エネルギー社製「ユニプレス PA5」)を塗布したものに各実施例及び比較例にかかる防食剤を厚さ50μmで塗布し、ガラス板と張り合わせ、樹脂を硬化させたものを試験片として用い、JIS K6850に準拠して、引張りせん断接着試験を行った。防食剤を硬化させるに際し、実施例A1〜A40及び比較例AにかかるUV硬化樹脂を含むものについては、紫外線照射を行い、実施例B1〜B40にかかる熱硬化型樹脂を含むものについては、加熱を行った。また、いずれの実施例および比較例にかかる防食剤についても、樹脂の硬化は、反応率85%以上となるように行った。
【0053】
せん断破壊が起こった時の破壊面を肉眼で観察し、破壊形態が凝集破壊であるか界面破壊であるかを評価した。表1〜20において、凝集破壊が起こったものを「凝集」、界面破壊が起こったものを「界面」と示す。
【0054】
<耐熱性の評価>
各実施例及び比較例にかかる防食剤を紫外線照射等によって硬化(反応率85%以上)させ、15mm×15mm×1mmtの防食剤シートを作成した。次に、作成したシートを、ポリブチレンテレフタレート(PBT)製のハウジングで上下から挟み、50gの荷重をシート全体に印加した。この状態で120℃にて3時間放置した後、荷重を除去した。
【0055】
実施例A1〜A40及び比較例AにかかるUV硬化樹脂を含む防食剤については、ハウジングの面に防食剤樹脂が密着しているかどうかを目視にて確認して耐熱性を評価した。表1〜5において、密着が観測されなかったものを合格(耐熱性が十分である)「○」、密着が確認されたものを不合格(耐熱性が不十分である)「×」として示す。
【0056】
実施例B1〜B40、C1〜C40、D1〜D40及び比較例B、C、Dにかかる熱硬化型樹脂、湿気硬化型樹脂、二液硬化樹脂を含む防食剤については、室温にて引張試験を実施して、耐熱性を評価した。表6〜20において、破壊が起こった時の引張強度が0.2MPa以下で、かつ凝集破壊が起こっていないものを合格(耐熱性が十分である)「○」、それ以外のものを不合格(耐熱性が不十分である)「×」として示す。
【0057】
<結果及び考察>
表1〜20に、各実施例及び比較例にかかる防食剤における各樹脂と吸油性高分子の配合比(単位:質量%)と、せん断接着試験及び耐熱性評価の結果を示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
【表9】
【0067】
【表10】
【0068】
【表11】
【0069】
【表12】
【0070】
【表13】
【0071】
【表14】
【0072】
【表15】
【0073】
【表16】
【0074】
【表17】
【0075】
【表18】
【0076】
【表19】
【0077】
【表20】
【0078】
防食剤とスズめっき銅板の間に十分な接着強度が達成されている場合には、せん断接着試験において凝集破壊が観察されるのに対し、これらの間の接着強度が十分でないと、界面破壊が観察される。上記表1〜20によると、比較例においては界面破壊が観察されているのに対し、各実施例においては、凝集破壊が観察されている。
【0079】
表ごとに、用いた吸油性高分子及び樹脂が異なっているが、吸油性高分子及び樹脂の種類によらず、各実施例において、凝集破壊が観察され、高い接着強度が得られている。
【0080】
比較例においては、防食剤が樹脂のみによって構成されているため、端子油が塗布されたスズめっき銅板に対して、密着することができない。そのため、スズめっき銅板に対して低い接着強度しか得られず、せん断接着試験において、界面破壊が観察されたと考えられる。一方、各実施例にかかる防食剤は、吸油性高分子を含んでおり、吸油性高分子がスズめっき銅板に塗布された端子油を吸収する。そのため、防食剤に含まれる樹脂がスズめっき銅板に対して密着することができ、防食剤とスズめっき銅板の間に高い接着強度が得られる結果、せん断接着試験において凝集破壊が観察されたと考えられる。
【0081】
このように、防食剤に吸油性高分子を含むことにより、油が存在する表面に対しても高い接着力を発揮することができるが、吸油性高分子を多量に含むことにより、防食剤の耐熱性が低下する可能性がある。吸油性高分子の含有量が50質量%を超える60質量%である各実施例においては、吸油性高分子の含有量が多いことに起因して、耐熱性評価において高い耐熱性が観測されなかった。一方、それら以外の各実施例においては、吸油性高分子の含有量が50質量%以下であるため、十分な接着強度を達成しながらも、高い耐熱性が得られた。
【符号の説明】
【0082】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
3 電線導体
4 絶縁体
5 端子金具
52 ワイヤバレル
53 インシュレーションバレル
54 電線固定部
6 電気接続部
7 防食剤
【0083】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。