【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の目的は、引張強度、伸び率、脱亜鉛防止性および切削性などの性能に優れた黄銅合金であって、高強度、耐摩耗性を要求される切削加工品、および鍛造品や鋳造品などの構成材料として使用されるのに適している黄銅合金を提供することにある。ことによって、大量の鉛を含有した合金銅に安全に代わって、人類社会の発展につながる含鉛製品に対する制限の需要を十分に満足させることができる。
【0008】
上述した目的を達成するために、以下のような、鉛、ビスマスおよびケイ素を含まない黄銅合金を提案する。
【0009】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物1と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、残量の亜鉛とを含む。
【0010】
本発明物1は、鉛、ケイ素およびビスマスを除去した状況下で、銅の含有量を60−65wt%に制御し、少量のアンチモンとマグネシウムを添加して銅との金属間化合物を形成することにより、合金の切削性を高めるとともに、合金の脱亜鉛防止性にも有用である。言い換えると、発明物1内にアンチモンとマグネシウムを添加してγ相を形成するのは、その切削性を改善した。当該合金の微細構造は、主にα相、β相、γ相、および結晶粒界あるいは結晶粒内に分布された柔らかくて脆い金属間化合物を含み、そのうち銅と亜鉛が黄銅合金の主要成分を構成する。アンチモンとマグネシウムの添加は、合金の切削性を改善するほか、同時に脱亜鉛防止性にも有用である。
【0011】
アンチモンの含有量が0.01wt%より低く、マグネシウムの含有量が0.1wt%よりも低いときに形成された合金は、工業生産において必要とする基本的な切削性に到達することができない。また、合金の切削性は、アンチモンとマグネシウムの含有量が増加するにつれて増加するが、合金中のアンチモンの含有量が0.15wt%であり、マグネシウムの含有量が0.5wt%であるときに、合金の切削性の改善効果が飽和する。
【0012】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物2と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、前記黄銅合金の全重量の0.05−0.3wt%のリンおよび/または0.05−0.5wt%のマンガンと、残量の亜鉛とを含む。
【0013】
比較してみると、発明物2は、発明物1の基礎の上に更に0.05−0.3wt%のリンおよび/または0.05−0.5wt%のマンガンを添加している。リンは、γ相を形成することができないが、アンチモンとマグネシウムにγ相の分布を良好に形成させる機能を備えているため、合金の切削性を向上させる。同時に、リンを添加したγ相は、主なα相の結晶粒を分散させ、合金の鋳造性能、耐腐食性を向上させる。銅、アンチモンおよびマグネシウムの含有量がそれぞれ60−65wt%、0.01−0.15wt%および0.1−0.5wt%の場合、リンの含有量は、0.05wt%よりも低いときに、その作用を発揮することができないが、0.3wt%よりも高いときに、逆に合金の鋳造性能と耐腐食性を下降させる。しかしながら、マンガンの添加は、合金の脱亜鉛防止性能と鋳造の流動性を増強するのに役立っている。マンガンの含有量は、0.05wt%より低いときに、その作用を効果的に発揮することができないが、0.5wt%であるときに、その作用の発揮が飽和値に到達する。
【0014】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物3と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、前記黄銅合金の全重量の0.05−0.5wt%のマンガン、0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.5wt%の錫、0.05−0.3wt%のリンおよび/または0.001−0.01wt%のホウ素と、残量の亜鉛とを含む。
【0015】
発明物3は、発明物1の基礎の上に更に黄銅合金の全重量の0.05−0.5wt%のマンガン、0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.5wt%の錫、0.05−0.3wt%のリンおよび/または0.001−0.01wt%のホウ素を添加している。
【0016】
合金中に錫を添加するのは、同様にγ相を形成して合金の切削性を向上させるためである。また、錫の加入により、合金の強度を著しく向上させ、その塑性を改善させ、耐腐食性を増強させるようになる。しかしながら、錫を添加すると、コストが高まるという点を考慮するので、錫を添加するとともに、アルミニウムを添加するのは、合金の切削性を改善させるほか、合金強度、耐摩耗性、鋳造の流動性および耐高温酸化性も向上させることができる。上述した作用をより良く発揮するために、錫とアルミニウムの含有量は、それぞれ0.05−0.5wt%と0.1−0.7wt%とする。同時に、合金中に微量のホウ素を添加して合金の耐蝕性能を向上させ、また、ホウ素を加入した後、合金の脱亜鉛をより良く抑制し、その機械強度を増強することができると同時に、銅合金の表面の亜酸化銅膜の欠陥構造を改変し、亜酸化銅膜をさらに均一にし、緻密にし、また耐汚染性を向上させることが可能である。ホウ素の含有量は、0.001wt%よりも低いときに、上記した作用を発揮することができないが、0.01wt%よりも高いときに、上記した性能をさらに向上させることができないので、ホウ素の好ましい含有量は、0.001−0.01wt%である。リンとマンガンの含有量の範囲は、それぞれ発明物2と一致しており、その理由は、発明物2の理由と同じである。その中で、アンチモン、マグネシウム、アルミニウム、錫、リン、マンガンおよび/またはホウ素の添加の有無は、異なる製品の切削性に対する要求の高低に応じて選択されている。
【0017】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物4と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、前記黄銅合金の全重量の0.05−0.5wt%のマンガン、0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.5wt%の錫、0.05−0.3wt%のリンおよび/または0.001−0.01wt%のホウ素と、残量の亜鉛とを含み、前記マンガン、アルミニウム、錫、リンおよび/またはホウ素の総含有量は、前記黄銅合金の全重量の2wt%を超えない。
【0018】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物5と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、前記黄銅合金の全重量の0.05−0.5wt%のマンガン、0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.5wt%の錫、0.05−0.3wt%のリンおよび/または0.001−0.01wt%のホウ素と、残量の亜鉛とを含み、前記マンガン、アルミニウム、錫、リンおよび/またはホウ素の総含有量は、前記黄銅合金の全重量の0.2−2wt%を占める。
【0019】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物6と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、前記黄銅合金の全重量の0.05−0.5wt%のマンガン、0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.5wt%の錫、0.05−0.3wt%のリンおよび/または0.001−0.01wt%のホウ素と、残量の亜鉛および不可避な不純物とを含み、前記不純物は、前記黄銅合金の全重量の0.25wt%以下のニッケルおよび/または0.15wt%以下のクロムおよび/または0.25wt%以下の鉄を含む。
【0020】
発明物6は、発明物3の基礎の上に、いくつかの不可避な不純物、すなわち、機械的不純物であるニッケルおよび/またはクロムおよび/または鉄を含む。
【0021】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物7と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.05−0.5wt%の錫と、前記黄銅合金の全重量の0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.3wt%のリンおよび0.05−0.5wt%のマンガンから選択された2つ以上の元素と、残量の亜鉛とを含む。
【0022】
アンチモンとマグネシウムを含まない状況下で、合金の全重量の0.05−0.5wt%の錫を添加するのは、同様に工業生産の切削性に対する需要を満足させることができ、その含有量の範囲は、発明物3と一致し、その理由は、発明物3について説明した理由と同じである。その中で、アルミニウム、リン、マンガンの添加の有無は、異なる製品の切削性に対する要求の高低に応じて選択されており、その含有量の範囲は、発明物3と一致し、その理由は、発明物3について説明したものと同一である。
【0023】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物8と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.05−0.5wt%の錫と、前記黄銅合金の全重量の0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.3wt%のリンおよび0.05−0.5wt%のマンガンから選択された2つ以上の元素と、前記黄銅合金の全重量の0.01−0.15wt%のアンチモン、0.1−0.5wt%のマグネシウムおよび/または0.001−0.01wt%のホウ素と、残量の亜鉛とを含む。
【0024】
その中で、アンチモン、マグネシウム、アルミニウム、錫、リン、マンガンおよび/またはホウ素の添加の有無は、異なる製品の切削性に対する要求の高低に応じて選択されており、その含有量の範囲は、発明物3と一致し、その理由は、発明物3について説明したものと同一である。
【0025】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物9と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.05−0.5wt%の錫と、前記黄銅合金の全重量の0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.3wt%のリンおよび0.05−0.5wt%のマンガンから選択された2つ以上の元素と、前記黄銅合金の全重量の0.01−0.15wt%のアンチモン、0.1−0.5wt%のマグネシウムおよび/または0.001−0.01wt%のホウ素と、残量の亜鉛および不可避な不純物を含み、前記不純物は、前記黄銅合金の全重量の0.25wt%以下のニッケルおよび/または0.15wt%以下のクロムおよび/または0.25wt%以下の鉄を含む。
【0026】
発明物9は、発明物8の基礎の上に、いくつかの不可避な不純物、すなわち、機械的不純物であるニッケルおよび/またはクロムおよび/または鉄を含む。
【0027】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物10と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、前記黄銅合金の全重量の0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.5wt%の錫、0.05−0.3wt%のリン、0.05−0.5wt%のマンガンおよび0.001−0.01wt%のホウ素から選択された1つ以上の元素と、残量の亜鉛とを含む。
【0028】
その中で、アルミニウム、錫、リン、マンガンおよび/またはホウ素の添加の有無は、異なる製品の切削性に対する要求の高低に応じて選択されており、その含有量の範囲は、発明物3と一致し、その理由は、発明物3について説明したものと同一である。
【0029】
鉛、ビスマスおよびケイ素を含まず切削性に優れた黄銅合金(以下、発明物11と略称する)は、前記黄銅合金の全重量の60−65wt%の銅と、0.01−0.15wt%のアンチモンと、0.1−0.5wt%のマグネシウムと、前記黄銅合金の全重量の0.1−0.7wt%のアルミニウム、0.05−0.5wt%の錫、0.05−0.3wt%のリン、0.05−0.5wt%のマンガンおよび0.001−0.01wt%のホウ素から選択された1つ以上の元素と、残量の亜鉛および不可避な不純物を含み、前記不純物は、前記黄銅合金の全重量の0.25wt%以下のニッケルおよび/または0.15wt%以下のクロムおよび/または0.25wt%以下の鉄を含む。
【0030】
発明物11は、発明物10の基礎の上に、いくつかの不可避な不純物、すなわち、機械的不純物であるニッケルおよび/またはクロムおよび/または鉄を含む。
【0031】
本発明は、発明物3における一態様を例として、以下のようなステップを含む黄銅合金の製造方法をさらに提供する。
【0032】
1.銅とマンガンを提供し、温度を1000−1050℃に上昇させ、前記銅と前記マンガンによって銅マンガン合金溶液を形成する、
2.前記銅マンガン合金溶液の温度を950−1000℃に下降させる、
3.ガラス造滓剤で前記銅マンガン合金溶液の表面を覆う、
4.亜鉛を前記銅マンガン合金溶液に添加して銅マンガン亜鉛溶液を形成する、
5.前記銅マンガン亜鉛溶液に対して除滓を行い、アンチモン、アルミニウム、錫、マグネシウムを黄銅合金材料の溶液に添加して金属溶液を形成する、
6.前記金属溶液の温度を1000−1050℃に上昇させ、ホウ素銅合金、リン銅合金を添加して鉛、ビスマスおよびケイ素を含まない黄銅合金溶液を形成する、
7.前記黄銅合金溶液を出湯させて鋳造して前記黄銅合金材料を形成する。
【0033】
好ましくは、前記製造方法において、銅マンガン合金の提供を銅とマンガンの元素の提供ソースとする。
【0034】
好ましくは、前記製造方法において、使用される溶解炉は、高周波溶解炉であり、また、前記高周波溶解炉内に黒鉛坩堝を炉ライニングとする。
【0035】
高周波溶解炉は、溶解速度が速く、温度上昇が早く、清潔で汚染がなく、また、溶解過程中で自己攪拌することができる(つまり、磁力線の影響を受ける)などの特性を備える。