【実施例】
【0046】
上述した実施形態と同様の方法で作製した以下に示すインサート成形品の実施例1から9を比較例1及び2と比較してみた。なお、ゴム組成物を有機溶媒へ均質に分散させることができれば、有機溶液の作製法は限定しないが、本実施例及び比較例に使用した有機溶液は、より均質な薄膜層4Aを形成することを目的として、予めCSMゴム、架橋剤、架橋促進剤、受酸剤及び酸化防止剤を混錬してゴム組成物を作成し、このゴム組成物を有機溶媒へ溶かす方法を用いた。
【0047】
(ゴム組成物の作成)
クロロスルホン化ポリエチレン(TOSO−CSM(登録商標) CM−1500:東ソー株式会社製)100重量部に対し、
架橋剤及び受酸材として酸化マグネシウム(キョーワマグ(登録商標)150:協和化学工業株式会社製)4重量部、
架橋促進剤としてジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(ノクセラー(登録商標)TRA:大内新興化学工業株式会社製)2重量部、
酸化防止剤としてペンタエリスリトール(ノイライザー(登録商標)P:日本合成化学株式会社製)3重量部
を添加して、加圧ニーダー(INC−118型:株式会社井本製作所製)を用いて加工温度80℃で5分間混錬することによりゴム組成物を得た。
【0048】
(有機溶液の作製)
上記ゴム組成物を所定の濃度に合わせて計り取り、トルエン(和光1級トルエン:和光純薬株式会社製)の中へゴム組成物を投入し、スターラーを用いて4時間撹拌し有機溶液を得た。
【0049】
(インサート部品)
実施例及び比較例で使用したインサート部品3A(銅、真鍮及び燐青銅)は、
図2にも示すように、20mm×60mm×厚さ1mmの長方形の板状部材であって、樹脂絶縁体2Aで覆われる表面の表面粗さがRa0.15μmの金属板を使用した。
【0050】
(薄膜層の作製)
インサート部品3Aへ有機溶液をバーコーターによって塗布し、室温25℃の環境下で16時間自然乾燥して薄膜層4Aを得た。その薄膜層4Aの膜厚は、長方形の金属板の4つの角部と中心部の肉厚を測定し、予め測定しておいた金属板の厚みを引いて膜厚を計算し、5箇所の膜厚の平均値を膜厚とした。
【0051】
(成形材料)
本実施例及び比較例に使用した樹脂絶縁体2Aを形成するための成形材料はGFなどの補強材の添加濃度が異なる市販のポリフェニレンサルファイド樹脂を用意し、140℃の乾燥機で3時間以上乾燥したものを用いた。
【0052】
(インサート成形)
図2に示すように、固定金型5と可動金型6により、全長60mm×横幅60mm×厚さ1.7mmの平板形状のキャビティ7が形成される金型(日精樹脂工業株式会社製)を用いた。
図2に示すようにインサート部品3A(比較例1は薄膜層4Aなし)をキャビティ7内に設置し、型締め力980kN、プランジャー径25mmの射出成形機(LA−100:株式会社ソディック製)を用いてインサート成形を行うことによりインサート成形品を得た。インサート成形を行った時の主な成形条件は、樹脂温度320℃、金型温度130℃、射出速度30mm/sec、保圧40MPaとした。
【0053】
(インサート成形品の密着評価)
得られたインサート成形品を1日間室温で放置した後、染色浸透探傷液(カラーチェック(登録商標)FP−S:株式会社タセト製)の中へ室温で15分浸漬した。成形品表面に付着した染色浸透探傷液を取り除いた後、金属のインサート部品3Aと樹脂絶縁体2Aとを分離することにより、染色浸透探傷液の浸入の有無による樹脂絶縁体2Aとインサート部品3Aの密着性を評価した。
【0054】
(ヒートサイクル試験後の密着評価)
得られたインサート成形品は1日間室温で放置した後、−35℃と150℃のヒートサイクル試験を行った。試験はインサート成形品を−35℃にて15分間保持した後、150℃で15分間保持するサイクルを10回繰り返した。試験後、このインサート成形品を上記密着評価の方法と同様に染色浸透探傷液に室温で15分浸漬後、インサート部品3Aと樹脂絶縁体2Aとを分離して密着性を評価した。
【0055】
[実施例1]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、JIS H3100 によって規定されている名称黄銅、記号C2801P(以下、真鍮板C2801Pという)へ塗布・乾燥しインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は34μmであった。このインサート部品へ非強化のPPS樹脂(ジュラファイド(登録商標)0220A9:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のインサート成形品の密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は全体の約5%程度浸入した箇所があったが使用上問題が無い密着であると判断した。
実施例1により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品を非強化のPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0056】
[実施例2]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は30μmであった。このインサート部品へGFが30重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1130A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例2により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが30重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0057】
[実施例3]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は35μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例3により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが40重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0058】
[実施例4]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は28μmであった。このインサート部品へGF及び無機補強材が合計65重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド6165A6:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例4により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGF及び無機補強材が65重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0059】
[実施例5]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を15重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は13μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のインサート成形品の密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は全体の約3%程度浸入した箇所があったが使用上問題が無い密着であると判断した。
実施例5により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層が薄いインサート部品をPPS樹脂でインサート成形を行う事でも良好な密着効果を有することを確認した。
【0060】
[実施例6]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は55μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例6により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層が厚いインサート部品をPPS樹脂でインサート成形を行う事でも良好な密着効果を有することを確認した。
【0061】
[実施例7]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、JIS H3100に規定されている名称タフピッチ銅、記号C1100Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は31μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例7により、銅板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが40重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0062】
[実施例8]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、JIS H3110に規定されている名称りん青銅、記号C5191Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は29μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例8により、燐青銅板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが40重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0063】
[実施例9]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は35μmであった。このインサート部品を室温25℃湿度50%に調湿した恒温槽の中に13日間放置した。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例9により、薄膜層を付与したインサート部品を室温環境下において長期に保管したものをインサート成形に用いても、良好な密着効果を有することを確認した。
【0064】
[比較例1]
薄膜層を形成しない真鍮板C2801Pをインサート部品とし、GFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
インサート成形品をキャビティから離型すると同時に樹脂からインサート部品が剥がれ落ちた。よって、インサート部品が樹脂へ密着していないことが判明した。
比較例1により、薄膜層を形成していないインサート部品では目的とする金属と樹脂との密着効果が得られないことを確認した。
【0065】
[比較例2]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は29μmであった。このインサート部品を170℃のドライオーブンで4時間架橋を行なった。このインサート部品をトルエンへ浸漬させ1時間経過した後、塗布面を観察したところ、薄膜層が金属板から剥離しなかった事により完全に架橋がなされていることを確認した。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
インサート成形品をキャビティから離型すると同時に樹脂からインサート部品が剥がれ落ちた。よって、インサート部品が樹脂へ密着していないことが判明した。
比較例2により、薄膜層が完全に架橋されたインサート部品を用いてインサート成形を行った場合は、目的とする金属と樹脂との密着効果が得られないことを確認した。
【0066】
実施例1〜9及び比較例1及び2の評価結果を表1に示す。尚、密着性の評価については下記指標によって記載した。
浸透液の浸入が見られず密着性が良好な場合は◎とする。
浸透液が微小に浸入した後が見られるが、使用上問題が無いと判断できる場合は○とする。
全面に浸入しており、密着性が悪い場合は×とする。
実施していない事柄は−とする。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の各実施例及び比較例の結果から、未架橋CSMゴム組成物による薄膜層がPPS樹脂を成形樹脂としたインサート成形時に金型内で加熱されて架橋することにより優れた密着性の改善効果があることが確認された。