特許第6057216号(P6057216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057216インサート成形方法及びインサート成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057216
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】インサート成形方法及びインサート成形品
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20161226BHJP
   B29K 81/00 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29K81:00
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-179766(P2013-179766)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-47732(P2015-47732A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2015年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】591252622
【氏名又は名称】新生化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111257
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 栄二
(74)【代理人】
【識別番号】100110504
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智裕
(72)【発明者】
【氏名】宮田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】田中 良祐
(72)【発明者】
【氏名】久保 直人
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−295810(JP,A)
【文献】 特開平06−091694(JP,A)
【文献】 特開2010−111799(JP,A)
【文献】 特許第2927369(JP,B2)
【文献】 特開2006−027249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/24,
45/46−45/84,
63/00−65/82
B32B 5/00− 5/32,
15/00−15/20
C23C 28/00−28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型に金属導電体であるインサート部品をセットし、型締めしてキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填することによって熱可塑性樹脂とインサート部品とを一体成形するインサート成形方法であって、
インサート部品が銅又は銅合金からなり、
熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン系樹脂又は変性ポリフェニルエーテル樹脂からなり、
射出成形前にインサート部品における熱可塑性樹脂で覆われる部分の表面に主としてクロロスルホン化ポリエチレン、架橋剤および架橋促進剤を含む混合物からなる薄膜層を形成し、熱可塑性樹脂の溶融樹脂を射出する射出成形時の金型内で加温された金型及び溶融樹脂の熱を利用して薄膜層が架橋反応をおこしてインサート部品及び熱可塑性樹脂とも架橋させることを特徴とするインサート成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載のインサート成形方法を用いて形成されたインサート成形品であって、
ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン系樹脂又は変性ポリフェニルエーテル樹脂からなる樹脂絶縁体に、銅又は銅合金からなる金属導電体の一部が、主としてクロロスルホン化ポリエチレン、架橋剤および架橋促進剤を含む混合物からなる薄膜層の架橋を介して樹脂絶縁体及び金属導電体とも架橋して一体に結合されていることを特徴とするインサート成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と樹脂との密着性に優れたインサート成形方法及びインサート成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車へ搭載される電装部品の多くは、金属導電体が樹脂絶縁体と組み合わされて構成されている。これらの電装部品では金属導電体へ1から100アンペアレベルの大電流が流れるため、金属導電体が水分により誤作動を起こさないように樹脂絶縁体による防水は確実に行なう必要がある。特に電装部品の内部に水分が浸入した場合には、内蔵されている部品が故障する虞もあるので電装部品は防水機構を確実に備え付ける必要がある。
【0003】
そこで、電装部品は、金属導電体と樹脂絶縁体との密着性を上げるために、通常はインサート成形法により作製される。
しかしながら、樹脂絶縁体と金属導電体から成るインサート成形品は、線膨張係数の小さな金属と、成形収縮率や線膨張係数の大きい樹脂又は樹脂組成物とが接触しているため、射出成形時及び冷却時にその界面には大きな熱応力が発生して、金属導電体と樹脂絶縁体との界面の密着性が低下する問題がある。特に、成形後の冷却過程においては、樹脂絶縁体が大きく収縮するために金属導電体と樹脂絶縁体との界面の密着性が低下しやすい。その結果、金属導電体と樹脂絶縁体との間に隙間が生じ、その隙間から水が浸入する虞があった。
【0004】
そこで、例えば、樹脂絶縁体と金属導電体の間の隙間にたとえ多少の水分が入っても水分が通り抜けることが無いように樹脂絶縁体を十分な肉厚を有する構造とすることにより、樹脂絶縁体と金属導電体との隙間から電装部品の内部に水分が浸入することは防止できた。特に防水の必要がある部品についてはパッキン、オーリングなどのシーリング部材を使用することで十分な防水が実現できた。
【0005】
ところで、近年では、自動車の燃費改善などの目的で、電装部品の小型軽量化の要求に伴い、小型化を可能にするインサート成形が行なわれてきている。
小型軽量化用の樹脂絶縁体として、電気特性に優れ耐熱性が高いエンジニアリングプラスチックが使用されており、例えば、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂などが使われている。特に近年、低吸水で寸法安定性が良く、流動性が高い事により薄肉成形が実現できるポリフェニレンサルファイド樹脂が自動車電装部品へ使用されることが増加している。
【0006】
しかし、ポリフェニレンサルファイド樹脂を使った薄肉インサート成形においては、樹脂絶縁体の厚みが薄いために樹脂絶縁体と金属導電体との界面の微小な隙間から水分が電装部品内部へ侵入し、電子制御に悪影響を与える懸念があり、樹脂と金属との間の密着性の問題がクローズアップされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−030177号公報
【特許文献2】国際公開2009/078382号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような課題に対し、例えば、特開2010−030177号(特許文献1)ではポリフェニレンサルファイド樹脂へポリオレフィン系樹脂を配合する事により、樹脂絶縁体と金属導電体の密着性を向上させる発明が開示されている。
しかし、成形加工温度が高いポリフェニレンサルファイド樹脂へ、融点が100℃以上低いポリオレフィン系樹脂を添加すると、添加されたポリオレフィン系樹脂が炭化劣化することによる異物の問題、熱分解によって生じたポリオレフィン系樹脂の低分子量体によって金型を汚染する問題があり、また、形状や成形条件によっては密着の効果が十分発揮されないなどと課題も多く、新たな密着技術が望まれていた。
【0009】
新たな密着技術として、例えば、国際公開2009/078382号(特許文献2)には金属インサート部品の表面へ酸化銅I(Cu2O)及び酸化銅II(CuO)が含まれる酸化銅中の酸化銅I(Cu2O)の割合が所定の範囲内の酸化銅の層を形成することにより、銅系金属インサート部品とポリフェニレンサルファイド樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂といったエンジニアリングプラスチックとの間に強固な接着効果があると開示されている。
しかし、インサート部品へ表面処理を行なってから成形するまでの間を注意深く管理する必要が有り、量産化するには問題があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属導電体をインサート成形する際、金型の中で金属導電体と樹脂とが十分な密着を得ることにより、信頼性が高い防水効果を有する主に自動車へ搭載される電装部品(車載用電装部品)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るインサート成形方法は、成形金型に金属導電体であるインサート部品をセットし、型締めしてキャビティ内に熱可塑性樹脂を射出充填することによって熱可塑性樹脂とインサート部品とを一体成形するインサート成形方法であって、
インサート部品が銅又は銅合金からなり、
熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン系樹脂又は変性ポリフェニルエーテル樹脂からなり、
射出成形前にインサート部品における熱可塑性樹脂で覆われる部分の表面に主としてクロロスルホン化ポリエチレン、架橋剤および架橋促進剤を含む混合物からなる薄膜層を形成し、熱可塑性樹脂の溶融樹脂を射出する射出成形時の金型内で加温された金型及び溶融樹脂の熱を利用して薄膜層が架橋反応をおこしてインサート部品及び熱可塑性樹脂とも架橋させることを特徴とする。
【0012】
本発明者は、上記課題に対し、クロロスルホン化ポリエチレン(以下、CSMという)に、架橋剤などの補助材を添加して有機溶媒内で分散させた有機溶液を作製し、この有機溶液を金属導電体へ塗布し乾燥させて薄膜層を形成した後、薄膜層を有する金属導電体をインサート成形することによって、金型内で射出成形時に発生する熱によって薄膜層のCSMが架橋し、薄膜層を介して樹脂絶縁体と金属導電体の両者間に密着性が得られて、防水性が保持できることを見出した。
このように、本発明のインサート成形方法によれば、銅及び銅合金からなるインサート部品の熱可塑性樹脂で覆われる部分の表面に、主としてクロロスルホン化ポリエチレンからなる薄膜層を射出成形前に形成しておき、薄膜層が形成されたインサート部品を金型内に配置させて熱可塑性樹脂を金型内に射出することで、薄膜層が金型内の高温の樹脂や金型で加熱されて架橋してインサート部品と熱可塑性樹脂とが薄膜層を介して良好に密着する。その結果、射出成形後に熱可塑性樹脂が熱収縮を起こしても薄膜層がその弾性力により熱可塑性樹脂の収縮を吸収するので密着性は維持される。そして、インサート部品である金属導電体と熱可塑性樹脂からなる樹脂絶縁体との間には隙間が形成されず、良好な防水機能を発揮できる電装部品が得られる。
【0013】
更に、本発明者は、金属導電体であるインサート部品の表面へ主としてCSMからなる薄膜層を形成したものを室温環境下で長期間保存したものをインサート成形したものであっても高い密着性を有していることも見出し、本発明のインサート成形方法によって得られるインサート部品が、量産性に適していることが分かった。
【0014】
本発明のインサート成形方法において、熱可塑性樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂とすることが好ましい。
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下PPS樹脂という)は、熱変形温度260℃以上、連続使用温度の実力値は170℃以上と優れ、耐薬品性にも優れ、絶縁性にも優れている。さらに、流動性がよく寸法安定性に優れるので精密な射出成形に適している。その結果、車載用として優れた電装部品が得られる。
【0015】
また、本発明のインサート成形品は、上記インサート成形方法を用いて形成されたインサート成形品であって、
ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン系樹脂又は変性ポリフェニルエーテル樹脂からなる樹脂絶縁体に、銅又は銅合金からなる金属導電体の一部が、主としてクロロスルホン化ポリエチレン、架橋剤および架橋促進剤を含む混合物からなる薄膜層の架橋を介して樹脂絶縁体及び金属導電体とも架橋して一体に結合されていることを特徴とする。
本発明のインサート成形品は、金属導電体と樹脂絶縁体との間に主としてクロロスルホン化ポリエチレンからなる薄膜層が形成されているので、薄膜層により樹脂絶縁体の収縮を吸収して樹脂絶縁体と金属導電体との密着性を良好にできる。その結果、金属導電体と樹脂絶縁体との間の隙間が形成されず、良好な防水機能が得られる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のインサート成形方法によれば、薄膜層を射出成形時の金型内で架橋させて金属導電体であるインサート部品と熱可塑性樹脂とを薄膜層を介して良好に密着することができ、熱可塑性樹脂が熱収縮を起こしても薄膜層がその弾性力により熱可塑性樹脂のひずみを吸収するので密着性は維持される。その結果、金属導電体と熱可塑性樹脂からなる樹脂絶縁体との間には隙間が形成されず、良好な防水機能を発揮した電装部品を作製できる。
また、本発明のインサート成形品によれば、本発明のインサート成形方法で形成された薄膜層により樹脂絶縁体の収縮を吸収して樹脂絶縁体と金属導電体との密着性を良好にできるので、金属導電体と樹脂絶縁体との間の隙間が形成されず、防水機能も良好な電装部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態であって、本発明のインサート成形方法で得られたインサート成形品の金属導電体と樹脂絶縁体の接合部周辺を示す部分断面斜視図である。
図2】本発明のインサート成形方法により評価用インサート成形品を成形するための金型断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のインサート成形方法により作製された密着性の高いインサート成形品の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
このインサート成形品は図1で示すように、金属導電体3の一部が樹脂絶縁体2によって覆われており、金属導電体3の表面において樹脂絶縁体2で覆われる部分に薄膜層4が形成されている。従って、金属導電体3における端子を構成する部分は、外部に露出させるので薄膜層4は形成されていない。なお、薄膜層4は、その端部が樹脂絶縁体2からはみ出した状態になってもよいし、樹脂絶縁体2よりも内方に位置させて樹脂絶縁体2で覆われた状態になってもよい。何れの場合でも、金属導電体3と樹脂絶縁体2とが薄膜層4を介して良好に密着する。
【0019】
樹脂絶縁体2と金属導電体3とを備えるインサート成形品1は、図示しないが、一般的に行なわれている固定金型と可動金型を用いた射出成形によるインサート成形方法により形成される。インサート成形をする場合には、まず、固定金型と可動金型とを型締めして、溶融樹脂を各金型で形成されるキャビティ内に射出する前に、金属導電体3の樹脂絶縁体2から突出させる部分を固定金型と可動金型とにより挟持し、キャビティ内に金属導電体3の少なくとも薄膜層4が形成された部分を配置させる。その後、キャビティ内に溶融樹脂を射出して成形する。溶融樹脂が射出されると、金属導電体3の薄膜層4は、溶融樹脂の流動性を良好にするために加温された固定金型及び可動金型から伝わる熱と溶融された樹脂の熱を利用して架橋(加硫)反応をおこす。この架橋効果により、金属導電体3と樹脂絶縁体2とが薄膜層4を介して密着したインサート成形品が得られる。
【0020】
なお、キャビティ内に金属導電体3の少なくとも薄膜層4が形成された部分を配置させる際、薄膜層4の両端部は、キャビティの金型内面に接触させた状態にすることが好ましいが、薄膜層4の端部は、固定金型及び可動金型により挟持された状態になってもよいし、キャビティの金型内面よりも内方に位置させた状態となってもよい。
薄膜層4の端部が固定金型及び可動金型により挟持された状態で射出成形を行なうと、上述したように薄膜層4は樹脂絶縁体2からはみ出した状態になる。
また、薄膜層4の端部がキャビティの金型内面よりも内方に位置された状態で射出成形を行なうと、薄膜層4の端部は外部に露出せず、上述したように樹脂絶縁体2で覆われた状態になる。
【0021】
金属導電体3は、図1に示すように、銅又は銅合金の長尺な板材を使用目的にあった形状となるようにプレス成形等により成形してある。そして、金属導電体3の一部は、樹脂絶縁体2内に埋設され、金属導電体3のその他の部分は露出した状態になる。金属導電体3に用いられる金属として、具体的には銅、真鍮、りん青銅などが挙げられる。また、金属導電体3は、多くの場合スズメッキしたものが使われるが、目的に応じてニッケルメッキ、金や銀メッキが施されていても良い。
【0022】
そして、図1に示すように、金属導電体3の樹脂絶縁体2で覆われる部分の表面には、主としてクロロスルホン化ポリエチレン(CSM)からなる薄膜層4が形成されている。この薄膜層4は、樹脂絶縁体2と金属導電体3の密着性を上げるために形成しているのであって、射出成形前に予め形成しておく。従って、少なくとも金属導電体3の樹脂絶縁体2で覆われる部分の表面に薄膜層4が形成され、その他の部分には薄膜層4は形成されない。
【0023】
薄膜層4は、CSM、架橋剤(加硫剤)、架橋促進剤(加硫促進剤)などの混合物(以下、ゴム組成物という)から形成される。CSMの性能を有効に作用させる為に、酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、加工助剤、軟化剤、樹脂・金属導電体に対する濡れ性を改善する濡れ性改善剤などが必要に応じて添加される。
ゴム組成物は、CSM、架橋剤(加硫剤)、架橋促進剤(加硫促進剤)、受酸剤及び酸化防止剤などを有機溶媒内に投入して均質になるまで攪拌する。このようにしてゴム組成物の有機溶液を作製する。この有機溶液を金属導電体3の所定の部分に塗布して乾燥させることにより薄膜層4を形成する。
【0024】
本実施形態に使用されるCSMは、ポリエチレン、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体等へ塩素と亜硫酸ガスとを反応させ、塩素化とクロロスルホン化を行う事によってゴム状にしたものである。
【0025】
本実施形態に使用される架橋剤は、例えば、酸化マグネシウム、N,N’−m−フェニレンジマレイミド等のマレイミド化合物、ジクミルペルオキシド等の有機酸化物などを用いることができる。
【0026】
本実施形態に使用される架橋促進剤は、例えば、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のチウラム系化合物、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2、2,2,4−トリメチルキノリン、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジブチルジチオカルバミン酸塩系化合物、2−メルカプトベンズイミダゾール等を用いることができる。
【0027】
本実施形態に使用される受酸剤は、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の金属酸化物や金属水酸化物、ハイドロタルサイト等を用いることができる。
【0028】
ゴム組成物を溶解する溶媒としては、CSMに対し溶解する不活性な有機溶媒を用いる。具体的には、例えば、トルエン、キシレン、塩化メチレン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。そのなかでも、比較的入手しやすく安全性が高い,メチルエチルケトン、トルエンが好ましい。メチルエチルケトンは揮発性が高いことにより、金属導電体へ塗布後の乾燥時間が短縮される為に特に好ましい。
【0029】
ここで、CSM、架橋剤(加硫剤)、架橋促進剤(加硫促進剤)、受酸剤及び酸化防止剤をより均質に混合することを目的に、予めCSM及び添加剤をロール混錬機、ニーダー、バンバリーミキサー等で添加剤が均一に混じるまで混錬しゴム組成物固体を作製し、このゴム組成物固体を有機溶媒に溶かすと、より均質な有機溶液が作製できる。このように均質な有機溶液を用いて薄膜層4を形成することにより、インサート成形を行ったときに、より密着性の高いインサート成形品が得られる。
【0030】
有機溶液の塗布方法は、金属への樹脂設置部分へ塗布できる方法であれば限定されるものではなく、はけ塗り法、エアーブラシ法、浸漬法などの塗装方法、または、パット印刷法、シルク印刷法、インクジェット印刷法などの印刷方法を用いた塗布方法を使用することができる。また、1度の塗布で目的の膜厚を確保することが望ましいが、膜厚の均一性や厚い膜厚が必要な場合は複数回塗布してもかまわない。塗装により薄膜層4を形成する場合には、金属導電体3における薄膜層4を形成しない部分にマスキングをして塗装することにより、必要な部分だけ正確に薄膜層4を形成することができる。
【0031】
本実施形態では、ゴム組成物を有機溶媒へ溶かした時の有機溶液の濃度は、有機溶媒100重量部に対し、使用する有機溶媒、金属導電体への塗布方法、目的とする薄膜層4の厚みに応じて、CSMゴム組成物を10重量部以上70重量部以下の範囲で選定される。
【0032】
有機溶液のゴム組成物の濃度が低いと、薄膜層4の効果が小さく、結果として密着効果が低くなる。対して、有機溶液のゴム組成物の濃度が高すぎると、有機溶液が均一に塗布できず、結果として薄膜層4の厚みが不均一になる。そのため、有機溶液を噴霧などの塗装により塗布する場合は有機溶媒100重量部に対し、CSMゴム組成物を30重量部以上70重量部以下、印刷により塗布する場合は有機溶媒100重量部に対し、CSMゴム組成物を10重量部以上50重量部以下の範囲で調整される。
【0033】
本実施形態の有機溶液の乾燥方法は、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等の乾燥方法が用いられ、乾燥時間は有機溶媒が蒸発すれば限定されない。
しかし、加熱乾燥を選択する場合はCSMゴム組成物の架橋が起こらない乾燥条件であれば乾燥時間を短縮できることから好ましい。すなわち、乾燥温度が70℃以下であることが好ましい。また、室温温度以下の環境であれば乾燥後に長期保管してもかまわない。
【0034】
本実施形態においては、薄膜層4の膜厚は、金属導電体3の一部を熱可塑性樹脂中にインサートする方法、使用されるインサート成形品の使用温度及び大きさ、樹脂絶縁体2と金属導電体3の線膨張率の差により左右されるが、5μm以上100μm以下の範囲の薄膜層4を形成する。薄膜層4の膜厚が薄いと薄膜層4による密着の効果が低く、防水性能が劣ってしまう。また、薄膜層4の厚みが厚いと、インサート成形工程で薄膜層4が押し流され、押し流された薄膜層4が電装部品への異物になったり、金型を汚染させる原因となったりする。よって、好ましくは10μm以上60μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下でれば、安定した膜厚が形成され、かつ本目的の効果を奏することができる。
【0035】
樹脂絶縁体2を成形するために射出成形に使用される熱可塑性樹脂としては、耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性の良好なエンジニアリングプラスチックを用いることができる。その中でもポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ナイロン系樹脂及び変性ポリフェニルエーテル樹脂は耐熱性、耐薬品性、耐候性、電気特性が良好であり、自動車の各種バスバ成形品、ジャンクションボックスなどの車載電装部品に使用されているので好ましい。その中でもポリフェニレンサルファイド樹脂は上記特性に加え、寸法特性、低吸水性、薄肉成形性に優れており、ニーズにあった電装部品への適応性が高いことから特に好ましい。加えて、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、インサート成形中の樹脂温度が300℃前後、金型温度が150℃前後と高いことにより、架橋反応が確実に行なわれることから、信頼性が高い密着性が得られる。
【0036】
樹脂絶縁体2を射出成形する際、強度を増す目的で、熱可塑性樹脂にガラスフィラー(以下、GFという)や無機補強材、靭性を付与する添加剤などが電装部品としての性能上必要な分量で添加されていることが好ましい。さらに、結晶核材、離型材、酸化防止剤など成形助剤を適宜添加されていてもかまわない。
【0037】
続いて、本実施形態に係る図1に示すインサート成形品1の製造方法について具体的に説明する。
まず、金属プレス成形品である金属導電体3の表面における樹脂絶縁体2で覆われる部分に上述したように薄膜層4を形成する。
【0038】
次に、図示していないが、薄膜層4が形成された金属導電体3を固定金型及び可動金型内に収納するのであって、金属導電体3の両端部など樹脂絶縁体2が形成されない部分を可動金型または/及び固定金型に形成した嵌合凹部に嵌め込み、可動金型を移動させて型を締め、金属導電体3の嵌合凹部に嵌め込んだ部分を固定金型と可動金型とにより挟持させた状態にする。金属導電体3のうち、薄膜層4が形成された部分を含む樹脂絶縁体2で覆うべき部分は各金型とは非接触状態でキャビティ内に配置された状態になる。
このようにキャビティ内に金属導電体3が配置された状態で、図示しない射出成形機を用いて溶融した熱可塑性樹脂を、キャビティ内に射出してインサート成形を行なう。溶融した熱可塑性樹脂は、金属導電体3の表面に形成された薄膜層4を覆うようにキャビティ内に充填され、両金型内で所定の形状に固化する。
【0039】
CSMゴム組成物からなる薄膜層4は、溶融樹脂の流動性を良好にするために加温された固定金型及び可動金型から伝わる熱と溶融された樹脂の熱を利用して架橋(加硫)反応をおこし、金属導電体3と樹脂絶縁体2とが薄膜層4を介して密着しインサート成形品が得られる。ここで使用される薄膜層4のCSMゴム組成物は、本目的の密着性が実現できる範囲であれば、一部架橋した状態のCSMゴム組成物が薄膜層4に含まれていてもかまわない。そして、樹脂絶縁体2が固化すると、型開きして成形品を取り出す。
【0040】
なお、ゴム組成物は室温環境では架橋反応が起こり難いので、金属導電体3へ有機溶液を塗布・乾燥を行った直後にインサート成形しても良いし、予め金属導電体3へ有機溶液を塗布・乾燥し薄膜層4を形成した後に室温環境下で金属導電体3を保管し、必要に応じて保管されている金属導電体3を用いてインサート成形を行っても上記と同等の密着効果が得られる。
また、インサート成形における樹脂の流動性を確保する為に、予め金属導電体3を予備加熱する場合があるが、薄膜層4のゴム組成物が大きく架橋させない範囲で予熱を施すことができる。
【0041】
以上のように、本実施形態のインサート成形品1は、金属導電体3の表面に薄膜層4を形成しているので、樹脂絶縁体2を構成するエンジニアリングプラスチック樹脂と金属導電体3との良好な密着を有し、確実な防水機能を有するインサート成形品1が得られる。
【0042】
尚、本発明に係るインサート成形方法は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能であり、導電性を有する銅又は銅合金の部品をインサート部品とするインサート成形品に適用でき、インサート部品の熱可塑性樹脂で覆われる部分の表面に薄膜層を形成した後に熱可塑性樹脂を射出成形して得られるものであれば、その形状等は特に限定されない。
【0043】
本発明のインサート成形方法では、インサート部品を単品で挿入した形態でもかまわないし、インサート部品を連続した帯形状で作成しておき射出成形後に分断する、いわゆるフープ成形の形態であってもかまわない。
【0044】
本発明のインサート成形方法により、特に防水性が求められる車載用電装部品、例えば、自動車用ECU、ジャンクションブロック、モーター周辺部品、電気自動車のバッテリー端子及びコネクタ、圧力センサー、温度センサー、加速度センサーなどのセンサーコネクターに対し、良好な部品が得られる。
【0045】
さらに、本発明のインサート成形方法は、車載用電装部品と同様の防水性が求められる家電部品にも応用することができる。例えば、モーター周辺部品、各種センサーコネクターなどにも応用することができる。
【実施例】
【0046】
上述した実施形態と同様の方法で作製した以下に示すインサート成形品の実施例1から9を比較例1及び2と比較してみた。なお、ゴム組成物を有機溶媒へ均質に分散させることができれば、有機溶液の作製法は限定しないが、本実施例及び比較例に使用した有機溶液は、より均質な薄膜層4Aを形成することを目的として、予めCSMゴム、架橋剤、架橋促進剤、受酸剤及び酸化防止剤を混錬してゴム組成物を作成し、このゴム組成物を有機溶媒へ溶かす方法を用いた。
【0047】
(ゴム組成物の作成)
クロロスルホン化ポリエチレン(TOSO−CSM(登録商標) CM−1500:東ソー株式会社製)100重量部に対し、
架橋剤及び受酸材として酸化マグネシウム(キョーワマグ(登録商標)150:協和化学工業株式会社製)4重量部、
架橋促進剤としてジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(ノクセラー(登録商標)TRA:大内新興化学工業株式会社製)2重量部、
酸化防止剤としてペンタエリスリトール(ノイライザー(登録商標)P:日本合成化学株式会社製)3重量部
を添加して、加圧ニーダー(INC−118型:株式会社井本製作所製)を用いて加工温度80℃で5分間混錬することによりゴム組成物を得た。
【0048】
(有機溶液の作製)
上記ゴム組成物を所定の濃度に合わせて計り取り、トルエン(和光1級トルエン:和光純薬株式会社製)の中へゴム組成物を投入し、スターラーを用いて4時間撹拌し有機溶液を得た。
【0049】
(インサート部品)
実施例及び比較例で使用したインサート部品3A(銅、真鍮及び燐青銅)は、図2にも示すように、20mm×60mm×厚さ1mmの長方形の板状部材であって、樹脂絶縁体2Aで覆われる表面の表面粗さがRa0.15μmの金属板を使用した。
【0050】
(薄膜層の作製)
インサート部品3Aへ有機溶液をバーコーターによって塗布し、室温25℃の環境下で16時間自然乾燥して薄膜層4Aを得た。その薄膜層4Aの膜厚は、長方形の金属板の4つの角部と中心部の肉厚を測定し、予め測定しておいた金属板の厚みを引いて膜厚を計算し、5箇所の膜厚の平均値を膜厚とした。
【0051】
(成形材料)
本実施例及び比較例に使用した樹脂絶縁体2Aを形成するための成形材料はGFなどの補強材の添加濃度が異なる市販のポリフェニレンサルファイド樹脂を用意し、140℃の乾燥機で3時間以上乾燥したものを用いた。
【0052】
(インサート成形)
図2に示すように、固定金型5と可動金型6により、全長60mm×横幅60mm×厚さ1.7mmの平板形状のキャビティ7が形成される金型(日精樹脂工業株式会社製)を用いた。図2に示すようにインサート部品3A(比較例1は薄膜層4Aなし)をキャビティ7内に設置し、型締め力980kN、プランジャー径25mmの射出成形機(LA−100:株式会社ソディック製)を用いてインサート成形を行うことによりインサート成形品を得た。インサート成形を行った時の主な成形条件は、樹脂温度320℃、金型温度130℃、射出速度30mm/sec、保圧40MPaとした。
【0053】
(インサート成形品の密着評価)
得られたインサート成形品を1日間室温で放置した後、染色浸透探傷液(カラーチェック(登録商標)FP−S:株式会社タセト製)の中へ室温で15分浸漬した。成形品表面に付着した染色浸透探傷液を取り除いた後、金属のインサート部品3Aと樹脂絶縁体2Aとを分離することにより、染色浸透探傷液の浸入の有無による樹脂絶縁体2Aとインサート部品3Aの密着性を評価した。
【0054】
(ヒートサイクル試験後の密着評価)
得られたインサート成形品は1日間室温で放置した後、−35℃と150℃のヒートサイクル試験を行った。試験はインサート成形品を−35℃にて15分間保持した後、150℃で15分間保持するサイクルを10回繰り返した。試験後、このインサート成形品を上記密着評価の方法と同様に染色浸透探傷液に室温で15分浸漬後、インサート部品3Aと樹脂絶縁体2Aとを分離して密着性を評価した。
【0055】
[実施例1]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、JIS H3100 によって規定されている名称黄銅、記号C2801P(以下、真鍮板C2801Pという)へ塗布・乾燥しインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は34μmであった。このインサート部品へ非強化のPPS樹脂(ジュラファイド(登録商標)0220A9:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のインサート成形品の密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は全体の約5%程度浸入した箇所があったが使用上問題が無い密着であると判断した。
実施例1により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品を非強化のPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0056】
[実施例2]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は30μmであった。このインサート部品へGFが30重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1130A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例2により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが30重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0057】
[実施例3]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は35μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例3により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが40重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0058】
[実施例4]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は28μmであった。このインサート部品へGF及び無機補強材が合計65重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド6165A6:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例4により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGF及び無機補強材が65重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0059】
[実施例5]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を15重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は13μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のインサート成形品の密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は全体の約3%程度浸入した箇所があったが使用上問題が無い密着であると判断した。
実施例5により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層が薄いインサート部品をPPS樹脂でインサート成形を行う事でも良好な密着効果を有することを確認した。
【0060】
[実施例6]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は55μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例6により、真鍮板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層が厚いインサート部品をPPS樹脂でインサート成形を行う事でも良好な密着効果を有することを確認した。
【0061】
[実施例7]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、JIS H3100に規定されている名称タフピッチ銅、記号C1100Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は31μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例7により、銅板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが40重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0062】
[実施例8]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、JIS H3110に規定されている名称りん青銅、記号C5191Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は29μmであった。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例8により、燐青銅板へCSMゴム組成物から構成される薄膜層を付与したインサート部品をGFが40重量部添加されて強化されたPPS樹脂でインサート成形を行う事により良好な密着効果を有することを確認した。
【0063】
[実施例9]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は35μmであった。このインサート部品を室温25℃湿度50%に調湿した恒温槽の中に13日間放置した。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
得られたインサート成形品の密着性評価では、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入が見られなかった。更にヒートサイクル試験後のサンプルの密着評価を行なったところ、薄膜層へ染色浸透探傷液の浸入は見られなかった。
実施例9により、薄膜層を付与したインサート部品を室温環境下において長期に保管したものをインサート成形に用いても、良好な密着効果を有することを確認した。
【0064】
[比較例1]
薄膜層を形成しない真鍮板C2801Pをインサート部品とし、GFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
インサート成形品をキャビティから離型すると同時に樹脂からインサート部品が剥がれ落ちた。よって、インサート部品が樹脂へ密着していないことが判明した。
比較例1により、薄膜層を形成していないインサート部品では目的とする金属と樹脂との密着効果が得られないことを確認した。
【0065】
[比較例2]
トルエン100重量部に対し、上記CSMゴム組成物を40重量部添加して有機溶液を作成し、真鍮板C2801Pへ塗布して乾燥することによりインサート部品を得た。このときの薄膜層の平均膜厚は29μmであった。このインサート部品を170℃のドライオーブンで4時間架橋を行なった。このインサート部品をトルエンへ浸漬させ1時間経過した後、塗布面を観察したところ、薄膜層が金属板から剥離しなかった事により完全に架橋がなされていることを確認した。このインサート部品へGFが40重量部添加されたPPS樹脂(ジュラファイド1140A1:ポリプラスチックス株式会社製)をインサート成形した。
インサート成形品をキャビティから離型すると同時に樹脂からインサート部品が剥がれ落ちた。よって、インサート部品が樹脂へ密着していないことが判明した。
比較例2により、薄膜層が完全に架橋されたインサート部品を用いてインサート成形を行った場合は、目的とする金属と樹脂との密着効果が得られないことを確認した。
【0066】
実施例1〜9及び比較例1及び2の評価結果を表1に示す。尚、密着性の評価については下記指標によって記載した。
浸透液の浸入が見られず密着性が良好な場合は◎とする。
浸透液が微小に浸入した後が見られるが、使用上問題が無いと判断できる場合は○とする。
全面に浸入しており、密着性が悪い場合は×とする。
実施していない事柄は−とする。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の各実施例及び比較例の結果から、未架橋CSMゴム組成物による薄膜層がPPS樹脂を成形樹脂としたインサート成形時に金型内で加熱されて架橋することにより優れた密着性の改善効果があることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のインサート成形方法及びインサート成形品は、自動車用の電気部品に適するものである。
【符号の説明】
【0070】
1 インサート成形品
2, 2A 樹脂絶縁体
3 金属導電体
3A インサート部品
4,4A 薄膜層
5 固定金型
6 可動金型
7 キャビティ
図1
図2