(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記発光体は、330〜495nmの波長の光を発する、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、半導体レーザ、有機EL発光体(OLED)、または、蛍光ランプである、請求項10または11に記載の発光装置。
画像表示装置は、液晶ディスプレイ(LCD)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、または、陰極線管(CRT)のいずれかである、請求項24に記載の画像表示装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、JEM結晶を主成分とし、既存のJEM蛍光体とは異なる発光特性(発光色や励起特性、発光スペクトル)を有する酸窒化物蛍光体、および、それを用いた用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、JEM結晶に様々な金属元素を添加して発光特性との関係を鋭意研究した結果、以下に記載する構成を講ずることによって、既存のJEM蛍光体とは異なる発光特性を有することを見いだした。また、特定の組成では、緑色から黄色の発光を示すことを見いだした。本発明は、前記した知見に基づく一連の研究の結果なされたものであって、これによって高輝度発光する酸窒化物蛍光体、蛍光体を利用した発光装置、画像表示装置、顔料および紫外線吸収剤を提供することに成功したものである。JEM結晶は特に耐熱性に優れることが期待され、JEM結晶を母結晶とする蛍光体には、その将来性が期待されている。そして、特定の組成を備える蛍光体においては、優れた発光特性が認められた。すなわち、その構成は、以下のとおりである。
【0010】
本発明による蛍光体は、MAl(Si,Al)
6(O,N)
10(ただし、M元素は、Ca、Sr、Eu、La、Sc、Y、および、ランタノイド元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であり、少なくともEu、並びに、Caおよび/またはSrを含む)で示されるEuで付活されたJEM結晶を含み、これにより上記課題を解決する。
前記蛍光体は、組成式Ca
aSr
bEu
cLa
dSi
eAl
fO
gN
hで示され、パラメータa、b、c、d、e、f、g、h(ただし、a+b+c+d+e+f+g+h=1とする)が、
0.02 ≦ a+b+d ≦ 0.06
0.0003 ≦ c ≦ 0.03
0.1 ≦ e ≦ 0.5
0.02 ≦ f ≦ 0.3
0.02 ≦ g ≦ 0.3
0.3 ≦ h ≦ 0.6
0 < a+b
の条件を満たしてもよい。
前記Euで付活されたJEM結晶は、
((Ca)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Ca,Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u
で示され、パラメータt、u、x、z(ただし、t+u+x = 1とする)が
0.3 ≦ t < 1
0.005 ≦ u ≦ 0.2
0.5 ≦ z ≦ 2
の条件を満たしてもよい。
前記パラメータxが、x=0であってもよい。
前記パラメータzが、
0.5 ≦ z ≦ 1.5
の条件を満たしてもよい。
前記M元素は、SrおよびEu、または、Sr、LaおよびEuであり、励起源が照射されることにより、495nm以上570nm未満の範囲の波長にピークを有する蛍光を発してもよい。
前記M元素は、CaおよびEu、または、Ca、LaおよびEuであり、Euの原子分率は、0.003以上0.03以下を満たし、励起源が照射されることにより、570nm以上590nm以下の範囲の波長にピークを有する蛍光を発してもよい。
前記M元素は、CaおよびEu、または、Ca、LaおよびEuであり、Euの原子分率は、0.0003以上0.003未満を満たし、励起源が照射されることにより、495nm以上570nm未満の範囲の波長にピークを有する蛍光を発してもよい。
前記Euで付活されたJEM結晶とは異なる結晶相あるいはアモルファス相をさらに含み、前記Euで付活されたJEM結晶の含有量は50質量%以上であってもよい。
本発明による発光装置は、少なくとも発光体と蛍光体とから構成され、前記蛍光体は、少なくとも上記蛍光体を含み、これにより上記課題を解決する。
前記発光体は、330〜495nmの波長の光を発する、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、半導体レーザ、または、有機EL発光体(OLED)であってもよい。
前記発光装置は、白色発光ダイオード、または、前記白色発光ダイオードを複数含む照明器具、または、液晶パネル用バックライトであってもよい。
前記発光体は、ピーク波長300〜450nmの紫外または可視光を発し、上記蛍光体が発する緑色から黄色光と他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光を混合することにより白色光または白色光以外の光を発してもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長420nm〜500nm以下の光を発する青色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記青色蛍光体は、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl
10O
17:Eu、SrSi
9Al
19ON
31:Eu、LaSi
9Al
19N
32:Eu、α−サイアロン:Ce、および、JEM:Ceからなる群から選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記緑色蛍光体は、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)
2SiO
4:Eu、および、(Ca,Sr,Ba)Si
2O
2N
2:Euからなる群から選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記黄色蛍光体は、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN
3:Ce、および、La
3Si
6N
11:Ceからなる群から選ばれてもよい。
前記蛍光体は、前記発光体によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体をさらに含んでもよい。
前記赤色蛍光体は、CaAlSiN
3:Eu、(Ca,Sr)AlSiN
3:Eu、Ca
2Si
5N
8:Eu、および、Sr
2Si
5N
8:Euからなる群から選ばれてもよい。
前記発光体は、320〜450nmの波長の光を発するLEDであってもよい。
本発明の画像表示装置は、少なくとも励起源と蛍光体とから構成され、前記蛍光体は、少なくとも上記蛍光体を含み、これにより上記課題を解決する。
画像表示装置は、液晶ディスプレイ(LCD)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、または、陰極線管(CRT)のいずれかであってもよい。
本発明の顔料は、上記Euで付活されたJEM結晶からなる。
本発明の紫外線吸収剤は、上記Euで付活されたJEM結晶からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蛍光体は、MAl(Si,Al)
6(O,N)
10(ただし、M元素は、Ca、Sr、Eu、La、Sc、Y、および、ランタノイド元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であり、少なくともEu、並びに、Caおよび/またはSrを含む)で示されるEuで付活されたJEM結晶を主成分として含有することにより、従来のJEM蛍光体とは異なる発光特性を有する蛍光体となる。特定の組成では緑色から黄色に発光する蛍光体として優れている。上述する蛍光体は、少なくともCaまたはSrを含んでよい。すなわち、Caのみを含むJEM結晶(上記一般式において、a>0およびb=0)、Srのみを含むJEM結晶(上記一般式において、b>0およびa=0)、または、CaおよびSrを含むJEM結晶(上記一般式において、a>0およびb>0)を主成分として含有することを特徴とすることができる。そして、Euで付活されたJEM結晶は、少なくともEuを含んでよい(上記一般式において、c>0)。
また、Euで付活されたJEM結晶が、
((Ca)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Ca,Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u
で示され、パラメータt、u、x、z(ただし、t+u+x = 1とする)が
0.3 ≦ t < 1
0.005 ≦ u ≦ 0.2
0.5 ≦ z ≦ 2
の条件のみを満たす場合も、本発明の蛍光体として取り扱うことができる。ここで、当業者にとっては常識であるが、上記パラメータは全て0以上の数であり、tおよびuが上記条件を満足するので、xは、「0 ≦ x ≦ 0.695」を満足する。
【0012】
また、本発明の蛍光体は、励起源に曝されても材料劣化や、輝度の低下が少ない。そのため、VFD、FED、PDP、CRT、LCD、白色LEDなどの用途に好適である。本発明の蛍光体は、紫外線を吸収することから顔料および紫外線吸収剤に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明者らは、既存のJEM蛍光体を構成するJEM結晶に着目し、MAl(Si,Al)
6(O,N)
10(ただし、M元素は、Ca、Sr、Eu、La、Sc、Y、および、ランタノイド元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であり、少なくともEu、並びに、Caおよび/またはSrを含む)で示されるEuで付活されたJEM結晶を主成分として含む蛍光体を見出した。
【0015】
本発明の蛍光体では、蛍光発光の点からは、その構成成分たるJEM相(JEM結晶)を極力高い純度で含むこと、できれば単相から構成されていることが望ましいが、特性が低下しない範囲内で他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成することもできる。この場合、JEM相の含有量が50質量%以上であることが高い輝度を得るために望ましい。本発明において主成分とする範囲は、JEM相の含有量が少なくとも50質量%である。なお、JEM結晶の含有量の割合は、X線回折測定を行い、それぞれの相の最強ピークの強さの比から求めることができる。仮に混合物としての蛍光体があった場合は、JEM相の含有量を考慮して、混合物としての蛍光体の組成を考えることも可能である。すなわち、それぞれの相の含有量の割合を上述のような方法で特定し、それぞれの相の組成をそれに合わせて重み付けをして、合算することにより、JEM相を主成分とする蛍光体の組成を導くことができる。混合物としての蛍光体であってもJEM相の含有量が50質量%以上であれば、本発明の蛍光体に含まれる。
【0016】
特許文献1などの従来のJEM相は、一般式MAl(Si
6−zAl
z)N
10−zO
z(ただし、MはLa、Ceなどのランタノイド元素)で示されることが多かったが、本発明では、結晶中のMとして、Laに代えて、CaやSrなどの2価の金属イオンを置換できることができることがわかったため、
MAl(Si,Al)
6(O,N)
10
の表記をとる。これは、このような置換においてもJEM結晶を維持するためには結晶中のSiとAlとの合計数、および、OとNとの合計数は不変であるためである。ただし、Mとして2価の価数と異なる元素を用いると、Mの全体の価数が変わる。この場合は電気的中性を保つために、Si/Al比やO/N比は変化することがある。
【0017】
なお、上述の一般式MAl(Si
6−zAl
z)N
10−zO
zで示されるJEM結晶(JEM相)は、Jekabs Grinsらによって希土類金属によって安定化されたα−サイアロンを調整するプロセスにおいて生成することが確認された物質であり、表1に示すように結晶構造パラメータが報告されている(例えば、非特許文献1)。
【0019】
すなわち、表1によって示されるJEM相は、(1)特定のPbcn空間群(Space group)、(2)格子定数(a=9.4225、b=9.7561、c=8.9362Å)および(3)特定の原子サイトと原子座標とによって特徴づけられる物質である。その構成成分La、Al、M(SiおよびAl)、X(NおよびO)の固溶量が変化することによって表1中の格子定数は変化するが、(1)Pbcn空間群で示される結晶構造、および、(3)原子が占めるサイトとその原子座標とによって与えられる原子位置は変わることはない。表1において、座標はx、y、zの格子に対して0から1の値をとる。
【0020】
表1に記載されているようにこれらの基本的データが与えられれば、当該物質の結晶構造はこれによって一義的に決定され、その結晶構造の有するX線回折強度(X線回折チャート)をこのデータに基づいて計算することができる。そして、測定したX線回折結果と計算した回折データとが一致したときに当該結晶構造が同じものと特定することができる。
【0021】
本発明によるEuで付活されたJEM結晶によれば、表1において、Laに少なくともEu、並びに、Caおよび/またはSrを含むM元素がそれぞれの組成比の確率で入り、M(1)〜M(3)にSiおよびAlがそれぞれの組成比の確率で入り、X(1)〜X(5)にNおよびOがそれぞれの組成比の確率で入る。
【0022】
本発明による蛍光体は、好ましくは、組成式Ca
aSr
bEu
cLa
dSi
eAl
fO
gN
hで示され、パラメータa、b、c、d、e、f、g、h(ただし、a+b+c+d+e+f+g+h = 1とする)が、
0.02 ≦ a+b+d ≦ 0.06
0.0003 ≦ c ≦ 0.03
0.1 ≦ e ≦ 0.5
0.02 ≦ f ≦ 0.3
0.02 ≦ g ≦ 0.3
0.3 ≦ h ≦ 0.6
0 < a+b
の条件を満たす。これにより、Euで付活されたJEM相を主成分とするので、発光強度が高い蛍光体が得られる。
【0023】
パラメータa、b、dは、MAl(Si,Al)
6(O,N)
10において結晶中のM原子位置を占める主要金属であり、a+b+dが0.02未満あるいは0.06を超えると結晶構造を維持するのが難しくなるため、発光強度が低下する。しかしながら、a+b+dが0.01以上であっても同様な結晶構造を維持できる場合があり、特に周辺の環境によっては、a+b+dが0.005以上であってもよい場合があり得る。さらに、a+b+dが0.07以下であっても同様な結晶構造を維持できる場合があり、特に周辺の環境によっては、a+b+dが0.08以下であってもよい場合があり得る。
【0024】
パラメータcは、発光中心となるEuの添加量であり、cが0.0003未満では発光中心が少なくなり発光強度が低下する。また、0.03を超えると発光中心間でエネルギーが散逸する濃度消光が起きることがあり、発光強度が低下する。しかしながら、cが0.0002以上であっても発光強度をある程度維持できる場合があり、特に周辺の環境によっては、cが0.0001以上であってもよい場合があり得る。さらに、cが0.004以下であっても同様な発光強度をある程度維持できる場合があり、特に周辺の環境によっては、cが0.005以下であってもよい場合があり得る。
【0025】
パラメータeは、結晶の骨格を形成するSiの添加量であり、0.1未満あるいは0.5を超えると結晶構造を維持するのが難しくなるため、発光強度が低下する。
【0026】
パラメータfは、結晶の骨格を形成するAlの添加量であり、0.02未満あるいは0.3を超えると結晶構造を維持するのが難しくなるため、発光強度が低下する。
【0027】
パラメータgは、結晶の骨格を形成する酸素の添加量であり、0.02未満あるいは0.3を超えると結晶構造を維持するのが難しくなるため、発光強度が低下する。
【0028】
パラメータhは、結晶の骨格を形成する窒素の添加量であり、0.3未満あるいは0.6を超えると結晶構造を維持するのが難しくなるため、発光強度が低下する。
【0029】
より好ましくは、パラメータe、f、gおよびhは、それぞれ、
0.25 ≦ e ≦ 0.3
0.1 ≦ f ≦ 0.15
0.08 ≦ g ≦ 0.15
0.4 ≦ h ≦ 0.5
を満たす。これにより、本発明の蛍光体は、緑色から黄色発光を確実にする。
【0030】
なお、上記パラメータa〜hは、一般式MAl(Si,Al)
6(O,N)
10を満たすように、上述の範囲から選択される。
【0031】
本発明による、上述のEuで付活されたJEM結晶は、好ましくは、
((Ca)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Ca,Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u
で示され、パラメータt、u、x、z(ただし、t+u+x = 1とする)が
0.3 ≦ t < 1
0.005 ≦ u ≦ 0.2
0.5 ≦ z ≦ 2
の条件を満たす。これにより、特に発光強度が高い蛍光体が得られる。
【0032】
この式は、2価のCa、Sr、Euイオン、3価のLaイオンを含むJEM結晶において、発光特性改善に効果があると同時に安定な結晶が得られる組成である。
【0033】
パラメータtは、Ca、Srの2価のイオンの含有量であり、t+u+x = 1の条件で決まる値を含むことができる。
【0034】
パラメータxは、Laの3価のイオンの含有量であり、t+u+x=1の条件で決まる値を含むことができる。また、この3価のイオンを含まなくてもよい(x=0であってもよい)。
【0035】
本発明では発光中心としてEuを用いることができ、0.005 ≦ u ≦ 0.2の条件を満たす範囲を含むことができる。合計で0.005未満では発光を担うイオンの濃度が低く発光強度が低下する。また、合計で0.2を超えると発光中心イオン間の相互作用により発光強度が低下(濃度消光)することがある。
【0036】
パラメータzは、SiとAlとの比を決める値である。結晶構造中にはAlの指定位置が1個と、SiとAlとのいずれかが入ることができる位置が6個ある。パラメータzを変えることにより、結晶構造を保ったまま結晶中の6個の位置に占めるSiとAlとの比を変えることができる。zは0.5以上2以下の値が良い。0.5未満あるいは2を超えると結晶構造の安定性が低下して発光強度が低下する。中でも、0.5以上1.5以下は特に安定な結晶が得られるため発光強度が高い。
【0037】
結晶構造中にはOとNとのいずれかが入ることができる位置が10個ある。電気的中性の条件より、Nのパラメータが10−z−t−uであり、Oのパラメータがz+t+uであるとき、結晶構造が安定化するため、発光強度が高い。
【0038】
((Ca)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Ca,Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u
において、パラメータxが、x=0である場合、すなわち、
((Ca)
t,Eu
u)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Sr)
t,Eu
u)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Ca,Sr)
t,Eu
u)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u
は、結晶構造が安定であり、発光強度が高い。
【0039】
((Ca)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u、((Ca,Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u
において、パラメータzが、0.5 ≦ z ≦ 1.5の条件を満たす値である場合は結晶構造が安定であり、発光強度が高い。
【0040】
本発明によれば、組成を選ぶことにより、蛍光スペクトルにおいて、最大発光波長が495nm以上590nm以下であり、励起スペクトルにおいて最大励起波長が320nm以上460nm以下である蛍光体を得ることができる。このような蛍光体は紫あるいは青励起用途の緑色または黄色蛍光体として用いることができる。
【0041】
例えば、上述したMAl(Si,Al)
6(O,N)
10で示されるEuで付活されたJEM結晶であって、M元素が、SrおよびEu、または、Sr、LaおよびEuである、JEM結晶を主成分とする蛍光体は、励起源が照射されることにより、495nm以上570nm未満の範囲の波長にピークを有する緑色の蛍光を発することができる。好ましくは、Euで付活されたJEM結晶が、((Sr)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u(ここで、t+u+x = 1であり、tは0.3 ≦ t ≦ 0.9、uは0.005 ≦ u ≦ 0.2、zは0.5 ≦ z ≦ 2、xは0 ≦ xである)で表される。
【0042】
例えば、上述したMAl(Si,Al)
6(O,N)
10で示されるEuで付活されたJEM結晶であって、M元素が、CaおよびEu、または、Ca、LaおよびEuであるJEM結晶を主成分とする蛍光体は、励起源が照射されることにより、495nm以上590nm以下の範囲の波長にピークを有する緑色〜黄色の蛍光を発することができる。
【0043】
より詳細には、Euの原子分率が0.0003以上0.003未満の範囲(例えば、上述の組成式Ca
aSr
bEu
cLa
dSi
eAl
fO
gN
hにおいて0.0003 ≦ c < 0.003)であれば、495nm以上570nm未満の範囲の波長にピークを有する緑色の蛍光を発する。好ましくは、Euで付活されたJEM結晶が、((Ca)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u(ここで、t+u+x = 1であり、tは0.3 ≦ t ≦ 0.9、uは0.005 ≦ u < 0.06、zは0.5 ≦ z ≦ 2、xは0 ≦ xである)で表される。
【0044】
また、Euの原子分率が0.003以上0.03以下の範囲(例えば、上述の組成式Ca
aSr
bEu
cLa
dSi
eAl
fO
gN
hにおいて0.003 ≦ c ≦ 0.03)であれば、570nm以上590nm以下の範囲の波長にピークを有する黄色の蛍光を発する。好ましくは、Euで付活されたJEM結晶が、((Ca)
t,Eu
u,La
x)AlSi
6−zAl
zN
10−z−t−uO
z+t+u(ここで、t+u+x = 1であり、tは0.3 ≦ t ≦ 0.9、uは0.06 ≦ u ≦ 0.2、zは0.5 ≦ z ≦ 2、xは0 ≦ xである)で表される。
【0045】
本発明の蛍光体を電子線で励起する用途に使用する場合は、導電性を持つ無機物質を混合することにより蛍光体に導電性を付与することができる。導電性を持つ無機物質としては、Zn、Al、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、窒化物、または、これらの混合物を挙げることができる。
【0046】
本発明の蛍光体は、励起源に曝された場合の蛍光体の輝度の低下が少ないので、VFD、FED、PDP、CRT、LCD、白色LEDなどに好適に使用できる酸窒化物蛍光体である。
【0047】
また、本発明の蛍光体は、紫外線を吸収することから、紫外線吸収剤あるいは顔料として有効である。本発明の蛍光体は、黄色の物体色を有するので、顔料としても利用できる。
【0048】
本発明の蛍光体の製造方法は特に規定されないが、例えば、金属化合物の混合物であって、焼成することにより、JEM結晶の蛍光体を構成しうる原料混合物を、窒素を含有する不活性雰囲気中において1200℃以上2200℃以下の温度範囲で焼成することにより得ることができる。
【0049】
具体的には、所望の各元素を含有する化合物(例えば、窒化ケイ素(Si
3N
4)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、窒化ランタン(LaN)、酸化ランタン(La
2O
3)、酸化ユーロピウム(Eu
2O
3)など)の粉末を、所望の比率となるように秤量・混合する。混合粉末を窒化ホウ素製のるつぼに入れ、このるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉に設定する。電気炉内を拡散ポンプにより排気後、室温から昇温(例えば、800℃)し、高純度(例えば、純度99.999体積%)の窒素ガスを導入し、電気炉内を一定圧力(例えば、1Mpa)にする。次いで、電気炉内の温度をさらに昇温(例えば、1200℃以上2200℃以下)し、一定時間(例えば、2時間)保持すればよい。このようにして、本発明のEuで付活されたJEM結晶を主成分とする蛍光体を得ることができる。
【0050】
本発明の発光装置は、少なくとも発光体または発光光源と本発明の蛍光体とを用いて構成される。
【0051】
発光体または発光光源としては、発光ダイオード(LED)発光器具、レーザダイオード(LD)発光器具、半導体レーザ、有機EL(OLED)発光器具、蛍光ランプなどがある。LED発光装置では、本発明の蛍光体を用いて、特開平5−152609、特開平7−99345、特許公報第2927279号などに記載されているような公知の方法により製造することができる。この場合、発光体または発光光源は330〜495nmの波長の光を発するものが望ましく、中でも330〜420nmの紫外(または紫)LED発光素子または420〜495nmの青色LED発光素子が好ましい。これらのLED発光素子としては、GaNやInGaNなどの窒化物半導体からなるものがあり、組成を調整することにより、所定の波長の光を発する発光光源となり得る。
【0052】
本発明の発光装置としては、本発明の蛍光体を含む、白色発光ダイオード、白色発光ダイオードを複数含む照明器具、液晶パネル用バックライト等がある。
【0053】
このような発光装置において、本発明の蛍光体に加えて、Euを付活したβサイアロン緑色蛍光体、Euを付活したαサイアロン黄色蛍光体、Euを付活したSr
2Si
5N
8橙色蛍光体、Euを付活した(Ca,Sr)AlSiN
3橙色蛍光体、および、Euを付活したCaAlSiN
3赤色蛍光体から選ばれる1種または2種以上の蛍光体をさらに含んでもよい。上記以外の黄色蛍光体としては、例えば、YAG:Ce、(Ca,Sr,Ba)Si
2O
2N
2:Euなどを用いてもよい。
【0054】
本発明の発光装置の一形態として、発光体または発光光源がピーク波長300〜450nmの紫外または可視光を発し、本発明の蛍光体が発する緑色から黄色光と、本発明の他の蛍光体が発する450nm以上の波長の光を混合することにより白色光または白色光以外の光を発する発光装置がある。
【0055】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長420nm以上500nm以下の光を発する青色蛍光体を含むことができる。このような、青色蛍光体としては、AlN:(Eu,Si)、BaMgAl
10O
17:Eu、SrSi
9Al
19ON
31:Eu、LaSi
9Al
19N
32:Eu、α−サイアロン:Ce、JEM:Ceなどがある。
【0056】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長500nm以上550nm以下の光を発する緑色蛍光体を含むことができる。このような、緑色蛍光体としては、例えば、β−サイアロン:Eu、(Ba,Sr,Ca,Mg)
2SiO
4:Eu、(Ca,Sr,Ba)Si
2O
2N
2:Euなどがある。
【0057】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長550nm以上600nm以下の光を発する黄色蛍光体を含むことができる。このような黄色蛍光体としては、YAG:Ce、α−サイアロン:Eu、CaAlSiN
3:Ce、La
3Si
6N
11:Ceなどがある。
【0058】
本発明の発光装置の一形態として、本発明の蛍光体に加えて、さらに、発光体または発光光源によりピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体を含むことができる。このような赤色蛍光体としては、CaAlSiN
3:Eu、(Ca,Sr)AlSiN
3:Eu、Ca
2Si
5N
8:Eu、Sr
2Si
5N
8:Euなどがある。
【0059】
例えば、本発明の蛍光体が緑色発光する場合、ピーク波長300〜420nmの紫外光を発する発光体または発光光源と、この波長で励起され、ピーク波長420nm以上500nm以下の光を発する青色蛍光体と、ピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体と、本発明の緑色蛍光体との組み合わせがある。この構成では、発光体または発光光源が発する紫外線が蛍光体に照射されると、赤、緑および青の3色の光が発せられ、これらの混合により白色の照明器具となる。
【0060】
例えば、本発明の蛍光体が緑色発光する場合、ピーク波長420〜490nmの青色光を発する発光体または発光光源と、この波長で励起されピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体と、本発明の緑色蛍光体との組み合わせがある。この構成では、発光体または発光光源が発する青色光が蛍光体に照射されると、赤および緑の2色の光が発せられ、これらの光と、発光体または発光光源自身の青色光との混合により白色の照明器具となる。
【0061】
例えば、本発明の蛍光体が黄色発光する場合、ピーク波長420〜490nmの青色光を発する発光体または発光光源と、この波長で励起されピーク波長600nm以上700nm以下の光を発する赤色蛍光体と、本発明の黄色蛍光体との組み合わせがある。この構成では、発光体または発光光源が発する青色光が蛍光体に照射されると、赤および黄の2色の光が発せられ、これらの光と、発光体または発光光源自身の青色光との混合により白色の照明器具となる。
【0062】
例えば、緑色発光する本発明の蛍光体と、黄色発光する本発明の蛍光体とを用いる場合、ピーク波長420〜490nmの青色光を発する発光体または発光光源と、本発明の緑色蛍光体と、本発明の黄色蛍光体との組み合わせがある。この構成では、発光体または発光光源が発する青色光が蛍光体に照射されると、緑および黄の2色の光が発せられ、これらの光と、発光体または発光光源自身の青色光との混合により白色の照明器具となる。
【0063】
蛍光体の配合によって赤みがかった電球色、青白い光などの色調を調整することができることはいうまでもない。また、赤色蛍光体あるいは青色蛍光体の具体例は、上述したとおりである。
【0064】
本発明の発光装置の一形態として、発光体または発光光源が320〜450nmの波長の光を発するLEDを用いると発光効率が高いため、高効率の発光装置を構成することができる。
【0065】
本発明の画像表示装置は少なくも励起源と本発明の蛍光体とから構成され、液晶ディスプレイ(LCD)、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)などがある。本発明の蛍光体は、100〜190nmの真空紫外線、190〜380nmの紫外線、電子線などの励起で発光することが確認されており、これらの励起源と本発明の蛍光体との組み合わせで、上記のような画像表示装置を構成することができる。
【0066】
特定の化学組成を有するEuで付活されたJEM結晶を主成分とする本発明の蛍光体は、黄色の物体色を持つことから顔料又は蛍光顔料として使用することができる。すなわち、本発明の蛍光体に太陽光や蛍光灯などの照明を照射すると黄色の物体色が観察されるが、その発色がよいこと、そして長期間に渡り劣化しないことから、本発明の蛍光体は無機顔料に好適である。このため、塗料、インキ、絵の具、釉薬、プラスチック製品に添加する着色剤などに用いると長期間に亘って良好な発色を高く維持することができる。
【0067】
本発明の蛍光体は、紫外線を吸収するため紫外線吸収剤としても好適である。このため、塗料として用いたり、プラスチック製品の表面に塗布したり内部に練り込んだりすると、紫外線の遮断効果が高く、製品を紫外線劣化から効果的に保護することができる。
【実施例】
【0068】
次に本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
[合成に使用した原料]
合成に使用した原料粉末は、比表面積11.2m
2/gの粒度の、酸素含有量1.29重量%、α型含有量95%の窒化ケイ素粉末(宇部興産(株)製のSN−E10グレード)と、比表面積3.3m
2/gの粒度の、酸素含有量0.82重量%の窒化アルミニウム粉末((株)トクヤマ製のEグレード)と、比表面積13.2m
2/gの粒度の酸化アルミニウム粉末(大明化学工業製タイミクロン)と、酸化カルシウム粉末((株)高純度化学研究所製)と、酸化ストロンチウム粉末(高純度化学製)と、窒化ランタン粉末(LaN;高純度化学研究所製)と、酸化ランタン粉末(La
2O
3;高純度化学研究所製)と、酸化ユーロピウム粉末(Eu
2O
3;純度99.9%信越化学工業(株)製)とであった。
【0070】
[蛍光体実施例および比較例;例1から例17]
表2および表3に示す設計組成に従って、原料を表4の混合組成(質量比)となるように秤量した。秤量した原料粉末を窒化ケイ素焼結体製の乳棒と乳鉢とを用いて5分間混合を行なった。その後、混合粉末を窒化ホウ素焼結体製のるつぼに投入した。粉体の嵩密度は約20%から30%であった。
【0071】
混合粉末が入ったるつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成の操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を1×10
−1Pa以下圧力の真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して炉内の圧力を1MPaとし、毎時500℃で表5に示す設定温度まで昇温し、その温度で2時間保持した。得られた合成物のうち比較例1、実施例2および実施例4について光学顕微鏡で観察した。観察結果を
図1に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
図1は、比較例1、実施例2および実施例4の結晶粒子の観察結果を示す図である。
【0077】
図1によれば、合成物から取り出した結晶粒子は、いずれも数十μmのサイズを有していた。比較例1の結晶粒子は、42×45×45μm
3の大きさであった。実施例2の結晶粒子は、16×41×20μm
3の大きさであった。実施例4の結晶粒子は、46×47×50μm
3の大きさであった。
【0078】
これらの結晶粒子をエネルギー分散型元素分析器(EDS;ブルカー・エイエックスエス社製QUANTAX)を備えた走査型電子顕微鏡(SEM;日立ハイテクノロジーズ社製のSU1510)を用いて、結晶粒子に含まれる元素の分析を行った。その結果、比較例1の結晶粒子からLa、Eu、Si、Al、OおよびNの元素の存在が確認され、La、Eu、Si、Alの含有原子数の比は、0.75:0.25:5.8:1.2であった。実施例2の結晶粒子からSr、Eu、Si、Al、OおよびNの元素の存在が確認され、Sr、Eu、Si、Alの含有原子数の比は、0.9:0.1:4.8:2.2であった。実施例4の結晶粒子からCa、Eu、Si、Al、OおよびNの元素の存在が確認され、Ca、Eu、Si、Alの含有原子数の比は、0.5:0.5:5:2であることが測定された。
【0079】
次に、この結晶粒子をガラスファイバーの先端に有機系接着剤で固定した。これをMoKα線の回転対陰極付きの単結晶X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス社製のSMART APEXII Ultra)を用いて、X線源の出力が50kV50mAの条件でX線回折測定を行った。その結果、この結晶粒子が単結晶であることを確認した。
【0080】
X線回折測定結果から単結晶構造解析ソフトウエア(ブルカー・エイエックスエス社製のAPEX2)を用いて結晶構造を求めた。表6に結果をまとめる。いずれの結晶も、斜方晶系に属し、空間群がPbcnであることを確認した。特許文献1の結果と比較しても、α、β、γは、何れも完全一致しており、また、a、b、cの各格子定数は、仮に平均値を真値とした場合、相対誤差が±1%以内であり、測定誤差等を考慮すれば、完全一致ということもできる。また、特許文献1の結果であるa=9.4225、b=9.7561、c=8.9362を真値として求めた相対誤差も±1%以内であった。
【0081】
【表6】
【0082】
比較例1、実施例2および実施例4以外の合成物を窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒とを用いて粉末状に粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定を行った。結果のいくつかを
図2〜
図4に示す。その結果、得られたチャートはJEM結晶に特異のパターンを示した。測定結果を、リートベルト解析計算ソフト(RIETAN−2000、泉富士夫作、朝倉書店、粉末X線解析の実際)によりX線回折図形シミュレーションを行ったところ、いずれの実施例の合成物もJEM結晶またはJEM結晶が主成分であり、JEM結晶の割合は85%以上であると判定された。なお、混合原料組成と合成物の化学組成とが異なっている部分は、不純物第二相として合成物中に微量混在していると考えられる。
【0083】
図2は、実施例3の合成物の粉末X線回折結果を示す図である。
図3は、実施例6の合成物の粉末X線回折結果を示す図である。
図4は、実施例15の合成物の粉末X線回折結果を示す図である。
【0084】
合成物の粉末X線回折結果(
図2〜
図4)は、いずれも、JEM結晶のX線回折パターンと同じであり、JEM結晶と同一の結晶構造を持つ結晶が主成分であることが確認された。
【0085】
さらに、EDS測定より、実施例3の合成物はEu、Sr、La、Si、Al、O、Nを含むことが確認され、Eu:Sr:La:Si:Alの比は、0.1:0.4:0.5:5:2であった。実施例6の合成物はEu、Ca、La、Si、Al、O、Nを含むことが確認され、Eu:Ca:La:Si:Alの比は、0.02:0.48:0.5:5:2であった。
【0086】
以上より、本発明の実施例の合成物は、Euが固溶したJEM結晶を主成分とする無機化合物であることが確認された。
【0087】
次に、比較例1、実施例2および実施例4の単結晶、および、実施例3、実施例5〜17の合成物の粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、緑色から黄色に発光することを確認した。これらの発光スペクトルおよび励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。結果のいくつかを
図5〜
図10に示す。また、励起スペクトルのピーク波長と発光スペクトルのピーク波長とを表7に示す。
【0088】
図5は、比較例1の結晶粒子の発光スペクトルを示す図である。
図6は、実施例2の結晶粒子の発光スペクトルを示す図である。
図7は、実施例4の結晶粒子の発光スペクトルを示す図である。
【0089】
図5によれば、比較例1の合成物(結晶粒子)は、波長530nmにピークを有する緑色の蛍光を発した。
図6によれば、実施例2の合成物(結晶粒子)は、波長530nmにピークを有する緑色の蛍光を発した。
図7によれば、実施例4の合成物(結晶粒子)は、波長590nmにピークを有する黄色の蛍光を発した。
【0090】
図8は、実施例3の合成物の励起発光スペクトルを示す図である。
図9は、実施例6の合成物の励起発光スペクトルを示す図である。
図10は、実施例15の合成物の励起発光スペクトルを示す図である。
【0091】
図8によれば、実施例3の合成物は、374nmで最も効率よく励起できることがわかり、374nmで励起したときの発光スペクトルは556nmにピークを持つ緑色の発光を呈することがわかった。
図9によれば、実施例6の合成物は、371nmで最も効率よく励起できることがわかり、371nmで励起したときの発光スペクトルは542nmにピークを持つ緑色の発光を呈することがわかった。
図10によれば、実施例15の合成物は、448nmで最も効率よく励起できることがわかり、448nmで励起したときの発光スペクトルは581nmにピークを持つ黄色の発光を呈することがわかった。
【0092】
【表7】
【0093】
以上より、本発明の実施例の合成物は、300nm〜380nmの紫外線、380nm〜460nmの紫色または青色光で励起され、495nm以上590nm以下の範囲の波長にピークを有する緑色から黄色発光する、Euが固溶したJEM結晶を主成分とする無機化合物からなる蛍光体であることが確認された。
【0094】
さらに詳細には、比較例1と、実施例2〜実施例17とから、MAl(Si,Al)
6(O,N)
10において、M元素として少なくともEu、並びに、Caおよび/またはSrを含む、Euで付活されたJEM結晶を主成分とする無機化合物が、緑色から黄色を発する蛍光体であることが分かった。
【0095】
また、実施例2および実施例3によれば、M元素がSrおよびEu、または、Sr、LaおよびEuである、Euで付活されたJEM結晶を主成分とする無機化合物は、励起源の照射によって、495nm以上570nm未満の範囲の波長にピークを有する緑色の蛍光を発することが分かった。
【0096】
実施例5〜実施例9によれば、M元素がCaおよびEu、または、Ca、LaおよびEuであり、Euの原子分率cは、0.0003 ≦ c < 0.003を満たす、Euで付活されたJEM結晶を主成分とする無機化合物は、励起源の照射によって、495nm以上570nm未満の範囲の波長にピークを有する緑色の蛍光を発することが分かった。
【0097】
一方、実施例4、10〜実施例17によれば、M元素がCaおよびEu、または、Ca、LaおよびEuであり、Euの原子分率cは、0.003 ≦ c ≦ 0.03を満たす、Euで付活されたJEM結晶を主成分とする無機化合物は、励起源の照射によって、570nm以上590nm以下の範囲の波長にピークを有する黄色の蛍光を発することが分かった。
【0098】
図11は、実施例3の合成物の物体色を示す図である。
【0099】
図11は白黒写真なのでこの図自体からは合成物は明るい色であることがわかるだけだが、実際にはこの合成物は黄色の物体色を持ち、発色に優れていることを確認した。図示しないが、他の実施例の合成物も同様の物体色を示した。本発明の合成物である無機化合物は、太陽光または蛍光灯などの照明の照射によって、黄色の物体色を示すので、顔料または蛍光顔料として利用できることが分かった。
【0100】
[発光装置および画像表示装置の実施例;実施例18から21]
次に、本発明の蛍光体を用いた発光装置について説明する。
【0101】
[実施例18]
図12は、本発明による発光装置に相当する照明器具(砲弾型LED照明器具)を示す概略図である。
【0102】
図12に示すいわゆる砲弾型白色発光ダイオードランプ(1)を製作した。2本のリードワイヤ(2、3)があり、そのうち1本(2)には、凹部があり、365nmに発光ピークを持つ紫外発光ダイオード素子(4)が載置されている。紫外発光ダイオード素子(4)の下部電極と凹部の底面とが導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(3)とが金細線(5)によって電気的に接続されている。蛍光体(7)が樹脂に分散され、紫外発光ダイオード素子(4)近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂(6)は、透明であり、紫外発光ダイオード素子(4)の全体を被覆している。凹部を含むリードワイヤの先端部、紫外発光ダイオード素子、蛍光体を分散した第一の樹脂は、透明な第二の樹脂(8)によって封止されている。透明な第二の樹脂(8)は全体が略円柱形状であり、その先端部がレンズ形状の曲面となっていて、砲弾型と通称されている。
【0103】
本実施例では、実施例15で作製した黄色蛍光体とJEM:Ce青色蛍光体とを質量比で7:3に混合した蛍光体粉末を37重量%の濃度でエポキシ樹脂に混ぜ、これをディスペンサを用いて適量滴下して、蛍光体を混合したもの(7)を分散した第一の樹脂(6)を形成した。得られた発光装置の発色は、x=0.33、y=0.33であり、白色であった。
【0104】
[実施例19]
図13は、本発明による発光装置に相当する照明器具(基板実装型LED照明器具)を示す概略図である。
【0105】
図13に示す基板実装用チップ型白色発光ダイオードランプ(11)を製作した。可視光線反射率の高い白色のアルミナセラミックス基板(19)に2本のリードワイヤ(12、13)が固定されており、それらワイヤの片端は基板のほぼ中央部に位置し、他端はそれぞれ外部に出ていて電気基板への実装時ははんだづけされる電極となっている。リードワイヤのうち1本(12)は、その片端に、基板中央部となるように発光ピーク波長450nmの青発光ダイオード素子(14)が載置され固定されている。青色発光ダイオード素子(14)の下部電極と下方のリードワイヤとは導電性ペーストによって電気的に接続されており、上部電極ともう1本のリードワイヤ(13)とが金細線(15)によって電気的に接続されている。
【0106】
第一の樹脂(16)と実施例15で作製した黄色蛍光体とCaAlSiN
3:Eu赤色蛍光体とを質量比で9:1に混合した蛍光体(17)を混合したものが、発光ダイオード素子近傍に実装されている。この蛍光体を分散した第一の樹脂(16)は、透明であり、青色発光ダイオード素子(14)の全体を被覆している。また、セラミック基板上には中央部に穴の開いた形状である壁面部材(20)が固定されている。壁面部材(20)は、その中央部が青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた樹脂(16)がおさまるための穴となっていて、中央に面した部分は斜面となっている。この斜面は光を前方に取り出すための反射面であって、その斜面の曲面形は光の反射方向を考慮して決定される。また、少なくとも反射面を構成する面は白色または金属光沢を持った可視光線反射率の高い面となっている。本実施例では、該壁面部材(20)を白色のシリコーン樹脂によって構成した。壁面部材の中央部の穴は、チップ型発光ダイオードランプの最終形状としては凹部を形成するが、ここには青色発光ダイオード素子(14)及び蛍光体(17)を分散させた第一の樹脂(16)のすべてを封止するようにして透明な第二の樹脂(18)を充填している。本実施例では、第一の樹脂(16)と第二の樹脂(18)とには同一のエポキシ樹脂を用いた。達成された色度等は、実施例18と略同一である。
【0107】
次に、本発明の蛍光体を用いた画像表示装置の設計例について説明する。
【0108】
[実施例20]
図14は、本発明による画像表示装置(プラズマディスプレイパネル)を示す概略図である。
【0109】
赤色蛍光体(CaAlSiN
3:Eu)(31)、本発明の実施例9の緑色蛍光体(32)および青色蛍光体(JEM:Ce)(33)が、ガラス基板(44)上に電極(37、38、39)および誘電体層(41)を介して配置されたそれぞれのセル(34、35、36)の内面に塗布されている。電極(37、38、39、40)に通電するとセル中でXe放電により真空紫外線が発生し、これにより蛍光体が励起されて、赤、緑、青の可視光を発し、この光が保護層(43)、誘電体層(42)、ガラス基板(45)を介して外側から観察され、画像表示装置として機能する。
【0110】
[実施例21]
図15は、本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイパネル)を示す概略図である。
【0111】
本発明の実施例6の緑色蛍光体(56)が陽極(53)の内面に塗布されている。陰極(52)とゲート(54)の間に電圧をかけることにより、エミッタ(55)から電子(57)が放出される。電子は陽極(53)と陰極の電圧により加速されて、緑色蛍光体(56)に衝突して蛍光体が発光する。全体はガラス(51)で保護されている。図は、1つのエミッタと1つの蛍光体からなる1つの発光セルを示したが、実際には緑色の他に、赤色、青色のセルが多数配置されて多彩な色を発色するディスプレイが構成される。赤色や青色のセルに用いられる蛍光体に関しては特に指定しないが、低速の電子線で高い輝度を発するものを用いると良い。