特許第6057268号(P6057268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6057268撥水性マグネシウム材の製造方法および撥水性マグネシウム材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6057268
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】撥水性マグネシウム材の製造方法および撥水性マグネシウム材
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/57 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
   C23C22/57
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-31381(P2016-31381)
(22)【出願日】2016年2月22日
【審査請求日】2016年4月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 特許法第30条第2項適用、平成27年8月31日発行の「第132回講演大会 講演要旨集」 及び 平成27年9月10日 表面技術協会 第132回講演大会にて発表
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515306275
【氏名又は名称】TODA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 颯
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−241861(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/071058(WO,A1)
【文献】 特開2003−138382(JP,A)
【文献】 特開2007−008998(JP,A)
【文献】 特開昭51−149386(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/024877(WO,A1)
【文献】 特開2009−228087(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/097164(WO,A2)
【文献】 特開平11−264078(JP,A)
【文献】 特開2006−299328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00 − 30/00
B32B 1/00 − 43/00
C09D 1/00 − 10/00
C09D 101/00 −201/10
B05D 1/00 − 7/26
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が7以上26以下の脂肪酸およびセリウム含有物質を含有する水系の酸性処理液と、マグネシウム材とを接触させることを特徴とする撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項2】
前記酸性処理液における前記脂肪酸の含有量は0.04mol/L以上である、請求項1に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項3】
前記酸性処理液における前記セリウム含有物質のセリウム換算含有量は0.01mol/L以上である、請求項1または2に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項4】
前記酸性処理液における前記脂肪酸の含有量の前記セリウム含有物質のセリウム換算含有量に対するモル比は、5以上20以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項5】
前記酸性処理液は酸化性物質をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項6】
前記酸化性物質は硝酸系物質であって、前記酸性処理液における硝酸系物質の硝酸換算含有量は0.03mol/L以上である、請求項5に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項7】
前記酸性処理液のpHは3以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項8】
前記脂肪酸は炭素数が7以上26以下の飽和脂肪酸である、請求項1から7のいずれか一項に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【請求項9】
マグネシウム材からなる基材と、前記基材の上に設けられた撥水層とを備える撥水性マグネシウム材であって、
前記撥水層は、固相のセリウム含有物質と炭素数が7以上26以下の脂肪酸に由来するカルボン酸含有物質とを含むことを特徴とする撥水性マグネシウム材。
【請求項10】
前記撥水性マグネシウム材の水に対する接触角は120°以上である、請求項9に記載の撥水性マグネシウム材。
【請求項11】
前記撥水性マグネシウム材の腐食電位は、前記マグネシウム材の腐食電位よりも0.5V以上貴である、請求項9または10に記載の撥水性マグネシウム材。
【請求項12】
前記撥水性マグネシウム材の腐食電流密度は、前記マグネシウム材の腐食電流密度の1/10以下である、請求項9から11のいずれか一項に記載の撥水性マグネシウム材。
【請求項13】
前記撥水性マグネシウム材は、JIS B0601:2001に規定される算術平均粗さRaが0.15μm以上である、請求項9から12のいずれか一項に記載の撥水性マグネシウム材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性マグネシウム材の製造方法および撥水性マグネシウム材に関する。本明細書において、「マグネシウム材」とは、マグネシウムおよびマグネシウム基合金(本明細書において、これらを「マグネシウム基金属材料」と総称する。)を含む材料を意味する。「撥水性マグネシウム材」とは、マグネシウム材に対して撥水処理を施して得られる部材であって、マグネシウム材よりも水(純水)に対する接触角(本明細書において「水滴接触角」ともいう。)が高くなった部分を有する部材を意味する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム基金属材料は、実用金属材料の中で最も軽くかつ適度な硬度を持っており、振動の減衰性が高いという優れた特性を持っている。このため、マグネシウム材は、構造材(例えば自動車のタイヤホイール用の材料)や機能材(例えば音響用振動板用の材料)として好ましく用いられている。
【0003】
しかし、マグネシウム材は電気化学的に卑であるため、錆びやすいという欠点がある。マグネシウム材の耐食性を向上させることを目的として、非特許文献1には、フッ化アルキルシラン(FAS)のコーティングをマグネシウム材に施す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】”Bioinspired construction of Mg-Li alloys surfaces with stable superhydrophobicity and improved corrosion resistance”、Kesong Liu, Milin Zhang, Jin Zhai, Jun Wang, and Lei Jiang、APPLIED PHYSICS LETTERS 92, 183103 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載された方法によれば、FASの極めて薄い層が形成されるが、この層を形成するためには、FASの1.0%エタノール溶液に、被処理部材であるマグネシウム材を12時間接触させ、その後、100℃で2時間加熱することが必要とされているが、その処理プロセスが多段階であることや処理時間が長いことが課題である。
【0006】
本発明は、耐食性の向上が期待される撥水性マグネシウム材の新たな製造方法を提供することを目的とする。本発明は、耐食性の向上が期待される撥水性マグネシウム材を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)炭素数が7以上26以下の脂肪酸およびセリウム含有物質を含有する水系の酸性処理液と、マグネシウム材とを接触させることを特徴とする撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0008】
(2)前記酸性処理液における前記脂肪酸の含有量は0.04mol/L以上である、上記(1)に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0009】
(3)前記酸性処理液における前記セリウム含有物質のセリウム換算含有量は0.01mol/L以上である、上記(1または2)に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0010】
(4)前記酸性処理液における前記脂肪酸の含有量の前記セリウム含有物質のセリウム換算含有量に対するモル比は、5以上20以下である、上記(1)から(3)のいずれかに記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0011】
(5)前記酸性処理液は酸化性物質をさらに含む、上記(1)から(4)のいずれかに記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0012】
(6)前記酸化性物質は硝酸系物質であって、前記酸性処理液における硝酸系物質の硝酸換算含有量は0.03mol/L以上である、上記(5)に記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0013】
(7)前記酸性処理液のpHは3以下である、上記(1)から(6)のいずれかに記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0014】
(8)前記脂肪酸は炭素数が7以上26以下の飽和脂肪酸である、上記(1)から(7)のいずれかに記載の撥水性マグネシウム材の製造方法。
【0015】
(9)マグネシウム材からなる基材と、前記基材の上に設けられた撥水層とを備える撥水性マグネシウム材であって、前記撥水層は、固相のセリウム含有物質と炭素数が7以上26以下の脂肪酸に由来するカルボン酸含有物質とを含むことを特徴とする撥水性マグネシウム材。
【0016】
(10)前記撥水性マグネシウム材の水に対する接触角は120°以上である、上記(9)に記載の撥水性マグネシウム材。
【0017】
(11)前記撥水性マグネシウム材の腐食電位は、前記マグネシウム材の腐食電位よりも0.5V以上貴である、上記(9)または(10)に記載の撥水性マグネシウム材。
【0018】
(12)前記撥水性マグネシウム材の腐食電流密度は、前記マグネシウム材の腐食電流密度の1/10以下である、上記(9)から(11)のいずれかに記載の撥水性マグネシウム材。
【0019】
(13)前記撥水性マグネシウム材は、JIS B0601:2001に規定される算術平均粗さRaが0.15μm以上である、上記(9)から(12)のいずれかに記載の撥水性マグネシウム材。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐食性の向上が期待される撥水性マグネシウム材の新たな製造方法が提供される。また、本発明により、耐食性の向上が期待される撥水性マグネシウム材が短い処理時間で提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例において製造した撥水性マグネシウム材の水滴接触角を測定した結果を示すグラフである。
図2】混合溶液(b)を用いて得られた撥水性マグネシウム材の電子顕微鏡による観察結果を示す画像である。
図3】混合溶液(c)を用いて得られた撥水性マグネシウム材の電子顕微鏡による観察結果を示す画像である。
図4】混合溶液(d)を用いて得られた撥水性マグネシウム材の電子顕微鏡による観察結果を示す画像である。
図5】混合溶液(b)を用いて得られた撥水性マグネシウム材の水滴接触角と接触時間との関係を示すグラフである。
図6】混合溶液(c)を用いて得られた撥水性マグネシウム材の水滴接触角と接触時間との関係を示すグラフである。
図7】混合溶液(d)を用いて得られた撥水性マグネシウム材の水滴接触角と接触時間との関係を示すグラフである。
図8】混合溶液(c)を用いて得られた撥水性マグネシウム材の表面分析結果を示すスペクトルである。
図9】実施例において製造した撥水性マグネシウム材の表面におけるC(炭素)含有量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材の製造方法では、脂肪酸およびセリウム含有物質を含有する水系の酸性処理液と、マグネシウム材とを接触させる。
【0023】
上記の酸性処理液が含有する脂肪酸は、飽和または不飽和の炭化水素基およびカルボキシル基(−COOH)を有する。カルボシキル基の少なくとも一部がイオン化(−COO)していてもよい。脂肪酸が有する炭素数は制限されないが、脂肪酸の反応を容易にする観点および脂肪酸の酸性処理液の溶解性を確保する観点から、脂肪酸の炭素数は、7以上26以下であることが好ましく、11以上20以下であることがより好ましい。脂肪酸の具体例として、カプリル酸、ペラルゴン酸 、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、
アラキジン酸、ベヘン酸等の飽和炭化水素基を有する脂肪酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、(9,12,15)‐リノレン酸、(6,9,12)‐リノレン酸、エレオステアリン酸等の不飽和炭化水素基を有する脂肪酸などが挙げられる。
【0024】
上記の酸性処理液における脂肪酸の含有量は限定されない。脂肪酸の含有量の一例として、0.04mol/L以上0.36mol/L以下とすることが挙げられる。酸性処理液によるマグネシウム材の処理がより効率的に行われるようにする観点から、酸性処理液における脂肪酸の含有量は、0.22mol/L以上0.34mol/L以下とすることが好ましい場合があり、0.24mol/L以上0.32mol/L以下とすることがより好ましい場合がある。
【0025】
上記の酸性処理液を含有するセリウム含有物質は、セリウム元素を含有する物質であって、水溶性を有していることが好ましい。このような物質として、3価のセリウムイオン(Ce3+)を含む物質が例示される。酸性処理液にセリウム含有物質を供給する物質(本明細書において「セリウム源」ともいう。)として、硝酸セリウム(III)6水和物、塩化セリウム(III)7水和物、塩化セリウム(III)無水物、硫酸セリウム(IV)4水和物、硫酸セリウム(III)5水和物などが例示される。
【0026】
上記の酸性処理液におけるセリウム含有物質のセリウム換算含有量は限定されない。セリウム含有物質のセリウム換算含有量の一例として、0.01mol/L以上0.9mol/L以下とすることが挙げられる。酸性処理液によるマグネシウム材の処理がより効率的に行われるようにする観点から、酸性処理液におけるセリウム含有物質のセリウム換算含有量は、0.015mol/L以上0.045mol/L以下とすることが好ましい場合があり、0.02mol/L以上0.04mol/L以下とすることがより好ましい場合がある。
【0027】
上記の酸性処理液によるマグネシウム材の処理がより効率的に行われるようにする観点から、酸性処理液における脂肪酸の含有量のセリウム含有物質のセリウム換算含有量に対するモル比(本明細書において「第1モル比」という場合もある。)は、5以上20以下であることが好ましい場合があり、9以上16以下であることがより好ましい場合がある。
【0028】
上記の酸性処理液によるマグネシウム材の処理がより効率的に行われるようにする観点から、酸性処理液は酸化性物質をさらに含有してもよい。酸化性物質として、硝酸または硝酸イオン(本明細書において、これらを「硝酸系物質」と総称する。)、過酸化水素が例示される。酸化性物質の含有量は酸化性物質の種類に応じて適宜設定される。酸化性物質が硝酸系物質である場合には、酸性処理液における硝酸系物質の硝酸換算含有量は、0.03mol/L以上であることが好ましい場合があり、0.06mol/L以上であることがより好ましい場合がある。
【0029】
上記の酸性処理液におけるpHは7.0未満である。上記の酸性処理液によるマグネシウム材の処理がより効率的に行われるようにする観点から、酸性処理液におけるpHは、5以下であることが好ましい場合があり、3以下であることが好ましい場合がある。
【0030】
上記の酸性処理液の主たる溶媒は水である。酸性処理液の溶媒は、マグネシウム材の処理に影響を与えない範囲で、有機物質を含有してもよい。そのような有機物質として、アルコール類、エーテル類、エステル類などが例示される。有機物質を含有することにより、酸性処理液に対する脂肪酸の溶解度が向上する場合もある。
【0031】
被処理部材であるマグネシウム材として、純マグネシウム;AZ31,AZ61,AZ80等のマグネシウム−アルミニウム−亜鉛合金;ZK60,AM60,AMX602等他のマグネシウム基合金が例示される。
【0032】
上記の酸性処理液とマグネシウム材とを接触させる条件は限定されない。被処理部材であるマグネシウム材を適切に処理できる条件が適宜設定される。
【0033】
上記の酸性処理液と接触させる前に、マグネシウム材の表面の洗浄や活性化処理が行われてもよい。こうした処理が行われる場合には、処理中に超音波衝撃を加えることが有効であることもある。被処理部材であるマグネシウム材は、別途、表面処理を受けた部材であってもよい。
【0034】
酸性処理液とマグネシウム材とを接触させる条件の例として、室温(25℃)にて30分間接触させることが挙げられる。このように、本発明の一実施形態に係るマグネシウム材の製造方法では、酸性処理液とマグネシウム材とを接触させる際に液体の加温を必要とせず、また処理時間を1時間以内とすることが可能である。酸性処理液を加熱して接触を行ってもよい。その際の加熱温度として、40℃〜80℃程度が例示される。後述する実施例に示されるように、接触温度が室温で接触時間が数分間であっても、マグネシウム材の実質的な改質が生じる場合がある。
【0035】
上記の本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材の製造方法により製造された、本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、マグネシウム材からなる基材と、固相のセリウム含有物質およびカルボン酸含有物質とを含む撥水層とを備える。撥水層は基材の上に設けられる。撥水層は、基材の一部を含む構成となっていてもよい。
【0036】
固相のセリウム含有物質は、セリウムの酸化物を含む物質であると考えられる。
【0037】
X線光電子分光(XPS)測定装置を用いて撥水性マグネシウム材を測定したときに、得られたスペクトルは、C1sの結合エネルギーと帰属される領域に、カルボニル基の存在を示すような値(具体的には288eV程度)を有するピークを含み、このピークを与えるカルボニル基は、脂肪酸に由来するカルボン酸含有物質に含まれているものであると考えられる。
【0038】
本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、一例において、水滴接触角が120°以上である。水滴接触角が高いことにより、基材であるマグネシウム材に水分が接触する可能性が低減され、基材の酸化(腐食)が生じにくくなる。したがって、水(純水)に対する接触角が120°以上である本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、耐食性に優れる。撥水性マグネシウム材の耐食性をより安定的に向上させる観点から、本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材の水滴接触角は、130°以上であることが好ましく、140°以上であることがより好ましく、150°以上であることが特に好ましい。なお、水滴接触角が150°以上である材料は「超撥水材料」と呼ばれる。本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、好ましい一例において超撥水材料である。
【0039】
本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、一例において、腐食電位(参照電極:Ag/AgCl)が、基材をなすマグネシウム材の腐食電位よりも0.5V以上貴である。本明細書において、[{本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材の腐食電位(単位:V)}−{本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材の基材をなすマグネシウム材の腐食電位(単位:V)}]を「腐食電位差」(単位:V)という。このように腐食電位差が0.5V以上であることにより、撥水性マグネシウム材が水と接触しても酸化が生じにくくなる。この観点から、本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、耐食性に優れるものが得られやすいといえる。撥水性マグネシウム材の耐食性をより安定的に向上させる観点から、腐食電位差は1.0V以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、一例において、腐食電流密度が、基材をなすマグネシウム材の腐食電流密度の1/10以下である。本明細書において、{本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材の腐食電流密度(単位:μA/cm)/本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材の基材をなすマグネシウム材の腐食電流密度(単位:μA/cm)}を「腐食電流密度比」という。このように腐食電流密度比が1/10以下であることにより、撥水性マグネシウム材が水と接触しても電子の移動が生じにくく、撥水性マグネシウム材の酸化が生じにくくなる。この観点から、本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、耐食性に優れるものが得られやすいといえる。撥水性マグネシウム材の耐食性をより安定的に向上させる観点から、腐食電流密度比は1/50以下であることが好ましい。
【0041】
本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、一例において、JIS B0601:2001に規定される算術平均粗さRa(以下、「Ra」と略記する。)が0.15μm以上である。このようにRaが0.15μm以上であることにより、撥水性マグネシウム材の表面は凹凸形状を有し、撥水性マグネシウム材と水との接触面積が低減すると期待される。この観点から、本発明の一実施形態に係る撥水性マグネシウム材は、耐食性に優れるものが得られやすいと期待される。撥水性マグネシウム材の耐食性をより安定的に向上させる観点から、Raは、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。
【0042】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0043】
以下、以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
ミリスチン酸を0.4mol/L含有するpHが2の水溶液を溶液(A)として用意した。硝酸セリウム6水和物を0.1mol/L含有するpHが2の水溶液を溶液(B)として用意した。いずれの溶液も、硝酸水溶液(0.5mol/L)を用いてpH調整を行った。
【0045】
溶液(A)および溶液(B)を異なる体積比で混合して、下記の9種類の混合溶液を用意した。
【0046】
混合溶液(a) 溶液(A):溶液(B)=9:1
混合溶液(b) 溶液(A):溶液(B)=8:2
混合溶液(c) 溶液(A):溶液(B)=7:3
混合溶液(d) 溶液(A):溶液(B)=6:4
混合溶液(e) 溶液(A):溶液(B)=5:5
混合溶液(f) 溶液(A):溶液(B)=4:6
混合溶液(g) 溶液(A):溶液(B)=3:7
混合溶液(h) 溶液(A):溶液(B)=2:8
混合溶液(i) 溶液(A):溶液(B)=1:9
【0047】
AZ31(アルミニウム含有量:3質量%、亜鉛含有量:1質量%)からなるマグネシウム材(板状、主面の面積:4cm)を基材として用意した。
【0048】
基材を室温(25℃)の水中で5分間超音波洗浄し、洗浄後の基材を乾燥させ、乾燥した基材を、液温が室温(25℃)に維持された上記の混合溶液のいずれかに浸漬させた。浸漬時間は、1分間〜30分間であった。
【0049】
浸漬後の基材を室温(25℃)の水中で5分間超音波洗浄し、乾燥させて、撥水性マグネシウム材を得た。
【0050】
浸漬時間を30分間として得られた撥水性マグネシウム材のそれぞれについて、主面の四隅および中央付近の都合5カ所に対して純水を滴下して接触角(水滴接触角)を測定した(測定装置:協和界面科学社製「DM−501」)。各撥水性マグネシウム材について5点での測定結果の平均値を求めた。測定結果を表1および図1に示す。図1において、丸印(○)は水滴接触角(平均値)を示し、エラーバーの上下限は測定における最大値および最小値を示す。なお、図1における横軸は、混合溶液中の溶液(A)の割合(体積割合、A/(A+B))である。
【0051】
【表1】
【0052】
混合溶液(a)から混合溶液(h)を用いて得られた撥水性マグネシウム材は水滴接触角が120°以上であった。混合溶液(i)を用いて得られた撥水性マグネシウム材(以下、「撥水性マグネシウム材(i)」といい、他の混合溶液を用いて得られた撥水性マグネシウム材についても同様とする。)も、平均前の測定値では120°を超える場合があった。撥水性マグネシウム材(b)は水滴接触角が150°以上であった。撥水性マグネシウム材(c)および撥水性マグネシウム材(d)も、平均前の測定値では150°以上となる場合があった。
【0053】
浸漬時間が30分間である撥水性マグネシウム材(b)から撥水性マグネシウム材(d)の電子顕微鏡による観察結果を図2から図4に示す。各撥水性マグネシウム材の表面には、微細な凹凸構造が形成されていることが確認された。図2から図4から、基材上に針状結晶が形成されていると考えられる。
【0054】
混合溶液(b)から混合溶液(d)を用いて、撥水性マグネシウム材の水滴接触角が浸漬時間(1分間〜20分間)に与える影響を評価した。結果を表2および図5から図7に示す。各図中の表示の意味は、図1と同様である。図5から図7に示されるように、接触時間を3分間以上とすることにより、撥水性マグネシウム材の水滴接触角を安定的に高めうることが確認された。
【0055】
【表2】
【0056】
表面形状測定装置を用いて、撥水性マグネシウム材(a)から撥水性マグネシウム材(i)のRaを測定した結果を表3に示す。表3に示されるように、撥水性マグネシウム材(a)から撥水性マグネシウム材(i)のいずれについても、Raは0.15μm以上となった。
【0057】
【表3】
【0058】
撥水性マグネシウム材(c)について、X線光電子分光装置(日本電子社製「JSM-9010MC」、線源:Mgkα)を用いて、表面分析を行った。C(炭素)に関する分析結果の妥当性を高める観点から、分析を開始する前に、撥水性マグネシウム材の表面のエッチング処理を行った。得られたスペクトルは、図8に示されるように、C1sの結合エネルギーと帰属される領域に、カルボニル基の存在を示す288eV程度を頂点とするピークを含んでいた。
【0059】
撥水性マグネシウム材(a)から撥水性マグネシウム材(i)のそれぞれについて、上記のX線光電子分光装置を用いて表面の組成分析を行った。この場合も、上記のエッチング処理を分析開始前に行った。その結果、図9に示されるように、基本的な傾向として、ミリスチン酸の含有量が高い混合溶液を用いることにより、撥水性マグネシウム材の表面におけるC(炭素)含有量が高くなることが確認された。
【0060】
浸漬時間を3分間から30分間まで変化させて得られた撥水性マグネシウム材(c)および未処理の基材(マグネシウム材)について、室温環境下、5質量%のNaCl溶液中にて分極測定(参照電極:Ag/AgCl)を行った。得られた分極曲線から、腐食電位Ecorr(単位:V)および腐食電流密度Icorr(単位:μA/cm)を求めた。その結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示されるように、腐食電位差を1.0V以上とすることが可能であり、腐食電流密度比を1/50以下とすることが可能であることが確認された。
【要約】
【課題】耐食性の向上が期待される撥水性マグネシウム材の新たな製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪酸およびセリウム含有物質を含有する水系の酸性処理液と、マグネシウム材とを接触させる。前記酸性処理液における前記脂肪酸の含有量は0.04mol/L以上であり、前記酸性処理液における前記セリウム含有物質のセリウム換算含有量は0.01mol/L以上であり、前記酸性処理液における前記脂肪酸の含有量の前記セリウム含有物質のセリウム換算含有量に対するモル比は、5以上20以下であることが好ましい場合がある。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9