【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人科学技術振興機構、「創発的機能制御性ペプチドアプタマーの創成」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING, 2008, vol.101, no.5, pp.1102 - 1107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
5’−非翻訳領域およびコード領域を含む核酸構築物であって、前記コード領域が提示対象ポリペプチドをコードする配列、第一の核酸結合性ポリペプチドをコードする配列および第二の核酸結合性ポリペプチドをコードする配列を含み、前記5’−非翻訳領域が第一の核酸結合性ポリペプチドに結合可能な第一の配列と、第二の核酸結合性ポリペプチドに結合可能な第二の配列とを含み、翻訳系に導入されたときに、前記核酸構築物のコード領域から翻訳される融合蛋白質が、前記第一の核酸結合性ポリペプチドと前記第一の配列との結合および前記第二の核酸結合性ポリペプチドと前記第二の配列との結合によって、前記核酸構築物に対応するRNAと複合体を形成する、核酸構築物。
第一の核酸結合性ポリペプチドおよび第二の核酸結合性ポリペプチドがboxB-associating peptide (Bap)およびCv-associating peptide (Cvap)ダイマーであり、第一の配列および第二の配列がboxB配列およびCv配列である、請求項1に記載の核酸構築物。
前記5’−非翻訳領域がboxB配列、Cv配列およびリボソーム結合配列を含み、前記コード領域が、読み枠を合わせて連結された、提示対象ポリペプチドコード配列、Bapコード配列、Cvapダイマーコード配列およびスペーサーコード配列を含む、請求項2に記載の核酸構築物。
前記5’−非翻訳領域がboxB配列、BIV TAR配列およびリボソーム結合配列を含み、前記コード領域が、読み枠を合わせて連結された、提示対象ポリペプチドコード配列、Bapコード配列、BIV Tatコード配列およびスペーサーコード配列を含む、請求項4に記載の核酸構築物。
第一の核酸結合性ポリペプチドおよび第二の核酸結合性ポリペプチドがBapおよびCvapダイマーであり、第一の配列および第二の配列がboxB配列およびCv配列である、請求項10または11に記載の核酸−蛋白質複合体。
請求項1〜9のいずれか一項に記載の核酸構築物を翻訳系に導入して前記コード領域にコードされる融合蛋白質を発現させ、第一の核酸結合性ポリペプチドと前記第一の配列との結合および前記第二の核酸結合性ポリペプチドと前記第二の配列との結合を介して該融合蛋白質と核酸構築物に対応するRNAとの複合体を形成させることにより、提示対象ポリペプチドを核酸構築物に対応するRNA上に提示させることを特徴とする、ポリペプチドを核酸上に提示させる方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<核酸構築物>
本発明の核酸構築物は5’−非翻訳領域およびコード領域を含み、コード領域は提示対象ポリペプチドをコードする配列、第一の核酸結合性ポリペプチドをコードする配列および第二の核酸結合性ポリペプチドをコードする配列を含み、5’−非翻訳領域は第一の核酸結合性ポリペプチドに結合可能な第一の配列と、第二の核酸結合性ポリペプチドに結合可能な第二の配列とを含む。
そして、本発明の核酸構築物は、翻訳系に導入されたときに、前記コード領域から翻訳される融合蛋白質が、該融合蛋白質に含まれる第一の核酸結合性ポリペプチドと第二の核酸結合性ポリペプチドがそれぞれ5’−非翻訳領域の第一の配列および第二の配列に結合することによって、核酸構築物に対応するRNAと複合体を形成する。
【0014】
ここで、第一の核酸結合性ポリペプチドと第一の配列の組み合わせおよび第二の核酸結合性ポリペプチドと第二の配列の組み合わせとしては、安定な核酸-ポリペプチド結合を形成できる組み合わせであればよく、公知の核酸配列-核酸結合性ポリペプチドを使用することができ、具体的には、boxB-associating peptide (Bap)とboxB配列、Cv-associating peptide (Cvap)とCv配列などが例示される。この中ではBapとboxB配列、CvapとCv配列が好ましい。第一の核酸結合性ポリペプチドと第一の配列の組み合わせおよび第二の核酸結合性ポリペプチドと第二の配列の組み合わせは同じ組み合わせでもよいが、異なる組み合わせの方が好ましい。
【0015】
ここで、boxB配列とはλファージのboxB配列のことであり(Lazinski, D., Grzadzielska, E., and Das, A. Cell 1989, 59, 207-218.; Legault, P., Li, J., Mogridge, J., Kay, L.E., and Greenblatt, J. Cell 1998,93, 289-299.)、本発明の核酸構築物に含まれるboxB配列としては、配列番号5の塩基番号20〜35で示される配列(RNAの場合はTをUに読み換える:配列番号38)が挙げられる。ただし、Bapが結合することができる限り、この配列において1〜数個(例えば、2,3個)の塩基が置換、欠失または付加されてもよい。
【0016】
Cv配列とはC-variant RNAのことであり(Nucleic Acids Research Supplement No. 1 99-100)、本発明の核酸構築物に含まれるCv配列としては、配列番号5の塩基番号41〜59で示される配列(RNAの場合はTをUに読み換える)が挙げられる。ただし、Cvapが結合することができる限り、この配列において1〜数個(例えば、2,3個)の塩基が置換、欠失または付加されてもよい。
【0017】
5’−非翻訳領域においては、第一の配列と第二の配列の順番はどちらが5’側でもよく、これらの一方または両方が複数存在してもよい。
第一の配列と第二の配列の間は3〜15塩基であることが蛋白質-RNA複合体の安定化の面から好ましい。
そして、5’−非翻訳領域においては、第一の配列と第二の配列の後にリボソーム結合配列(RBS)が存在することが好ましい。その場合、第一の配列と第二の配列のうち3’側に存在する配列とリボソーム結合配列との間隔は30〜40塩基であることがリボソームの結合しやすさの面から好ましい。
リボソーム結合配列としては、Shine-Dalgarno(SD)配列が挙げられ、例えば、配列番号5の塩基番号92〜97の配列が例示される。
【0018】
コード領域に含まれるBapコード配列とは、Bapをコードする配列のことであり(Legault, P., Li, J., Mogridge, J., Kay, L.E., and Greenblatt, J. Cell 1998,93, 289-299.; Austin, R. J., Xia, T., Ren, J., Takahashi, T. T., and Roberts, R.W. J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 10966-10967)、その配列としては、配列番号6のアミノ酸番号23〜45(配列番号33)をコードする配列が例示され、より具体的には、配列番号5の塩基番号172〜240で示される配列が挙げられる。ただし、前記boxB配列に結合することができる限り、配列番号33のアミノ酸配列において1〜数個(例えば、2,3個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されてもよい。
【0019】
コード領域に含まれるCvapダイマーコード配列とは、Cvapをコードする配列(Rowsell,S., Stonehouse, N. J., Convery, M. A., Adams, C. J., Ellington, A. D., Hirao, I., Peabody, D. S., Stockley, P. G., and Phillips, SE. Nat. Struct. Biol. 1998, 5, 970-975.; Wada, A., Sawata, S. Y., and Ito, Y. Biotechnol. Bioeng. 2008, 101, 1102-1107.)を2つ含む配列のことである。
Cvapコード配列としては、配列番号6のアミノ酸番号70〜199をコードする配列が例示され、より具体的には、配列番号5の塩基番号313〜702で示される配列が挙げられる。ただし、前記Cv配列に結合することができる限り、配列番号6のアミノ酸番号70〜199のアミノ酸配列において1〜数個(例えば、2〜5個、もしくは2〜10個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されてもよい。
CvapはダイマーでCv配列に結合することが知られているので、コード領域には前記Cvapコード配列が2つ含まれる必要がある。Cvapダイマーコード配列はCvapコード配列が連続して2つつながったものでもよいが、間にリンカーコード配列を介してCvapコード配列が2つつながった配列でもよい。
【0020】
また、第一の核酸結合性ポリペプチドおよび第二の核酸結合性ポリペプチドがboxB-associating peptide (Bap)およびRev(TRQARRNRRRRWRERQR:配列番号34)であり、第一の配列および第二の配列がboxB配列およびapI配列(5’-GGCUGGACUCGUACUUCGGUACUGGAGAAACAGCC-3’:配列番号39)またはapII(5’-GGUGUCUUGGAGUGCUGAUCGGACACC-3’:配列番号40)配列であってもよい。
【0021】
また、第一の核酸結合性ポリペプチドおよび第二の核酸結合性ポリペプチドがboxB-associating peptide (Bap)およびBIV Tat(SGPRPRGTRGKGRRIRR:配列番号35)であり、第一の配列および第二の配列がboxB配列およびBIV TAR配列(5’-GCUCGUGUAGCUCAUUAGCUCCGAGC-3’:配列番号41)であってもよい。
【0022】
Revの配列としては、配列番号34が例示されるが、前記apIまたはapII配列に結合することができる限り、配列番号34のアミノ酸配列において1〜数個(例えば、2,3個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されてもよい。
BIV Tatの配列としては、配列番号35が例示されるが、前記BIV TAR配列に結合することができる限り、配列番号35のアミノ酸配列において1〜数個(例えば、2,3個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されてもよい。
その他の例示するポリペプチド各配列においても、標的配列に結合できる限り、1〜数個(例えば、2,3個)のアミノ酸が置換、欠失または付加されてもよい。
【0023】
核酸結合性ポリペプチドとしては上記のものに限定されず、核酸配列に結合できるものであればよいが、ペプチド配列中のRとKの総数が6個以上であるポリペプチド、あるいは、ペプチド配列中のRの数が7個以上であるポリペプチドを使用することが好ましい。
また、ペプチド配列中に、RXR配列(Xは任意のアミノ酸)、RX
1X
2R配列(配列番号42、X
1,X
2は任意のアミノ酸)、RR配列の1種以上、より好ましくは2種以上、特に好ましくは3種全てが存在するポリペプチドを使用することが好ましい。
また、ペプチド配列中に、RXR配列、RX
1X
2R配列(配列番号42、X
1,X
2は任意のアミノ酸)、RRXRR配列(配列番号43、Xは任意のアミノ酸)の1種以上、より好ましくは2種以上、特に好ましくは3種全てが存在するポリペプチドを使用することも好ましい。
【0024】
第一の核酸結合性ポリペプチドおよび第二の核酸結合性ポリペプチドとして、上記のような2種類のポリペプチドを選択して用いればよいが、他の具体的な例として、下記が挙げられる。
・HIV-1 Tat:GRKKRRQRRR (10 mer)(配列番号44)
・JDV Tat:GRRKKRGTRGKGRKIHY (17 mer) (配列番号45)
・λ N:MDAQTRRRERRAEKQAQWKAAN (22 mer) (配列番号46)
・λ N mutant:GNARTRRRERRAEKQAQWKAAN (22 mer) (配列番号47)
・P22 N:NAKTRRHERRRKLAIER (17 mer) (配列番号48)
・φ21N:TAKTRYKARRAELIAERR (18 mer) (配列番号49)
・BMV Gag:KMTRAQRRAAARRNRWTAR (19 mer) (配列番号50)
・CCMV Gag:KLTRAQRRAAARKNKRNTR (19 mer) (配列番号51)
・Spuma Gag:TRALRRQLAER (11 mer) (配列番号52)
・Yeast PRP6:TRRNKRNRIQEQLNRK (16 mer) (配列番号53)
・Human U2AF:SQMTRQARRLYV (12 mer) (配列番号54)
・HTLV-II Rex:TRRQRTRRARRNR (13 mer) (配列番号55)
・FHV coat:RRRRNRTRRNRRRVR (15 mer) (配列番号56)
・S3:RRVAFRRIVRKAITRAQRR (19 mer) (配列番号57)
・S7:KTKLERRNK (9 mer) (配列番号58)
・S28:RKLRVHRRNNR (11 mer) (配列番号59)
・L16:RRAMSRKFRRNSK (13 mer) (配列番号60)
・L35:RAKKTRALRR (10 mer) (配列番号61)
このうち、HIV-1 TatはHIV-1 TAR(5’-CCAGAUCUGAGCCUGGGAGCUCUCUGG-3’:配列番号62)に結合し、JDV TatはJDV TAR(5’-GCUCUGGAUAGCUGACAGCUCCGAGC-3’:配列番号63)に結合する。
【0025】
核酸結合性ポリペプチドが結合する配列としては、上記のようなポリペプチドが結合できる配列であれば特に制限されないが、ステムループを形成する配列が好ましく、ループの長さが3〜10塩基、好ましくは3〜8塩基、より好ましくは3〜7塩基のステムループを形成する配列が望ましい。
例えば、上記で例示した配列に加え、下記のような配列が挙げられる。
・P22 boxB:5’-GCGCUGACAAAGCGC-3’ (15 mer) (配列番号64)
・HIV-1 RRE:5’-GGUCUGGGCGCAGCGCAAGCUGACGGUACAGGCC-3’ (34 mer) (配列番号65)
ただし、核酸結合性ポリペプチドが結合することができる限り、これらの配列において1〜数個(例えば、2,3個)の塩基が置換、欠失または付加されてもよい。
【0026】
コード領域において、第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列と第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列の順序は、5’−非翻訳領域における第一の配列と第二の配列の順序に依存し、5’−非翻訳領域において第一の配列(例えばboxB配列)が先(5’側)であれば、コード領域において第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列(例えばBapコード配列)を先(5’側)に配置し、第二の配列(例えばCv配列)が先(5’側)であれば、コード領域において第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列(例えばCvapダイマーコード配列)を先(5’側)に配置する。
第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列と第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列の間隔は60〜75塩基であることが蛋白質-RNA複合体の安定化の面から好ましい。
【0027】
コード領域においては、第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列と第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列の前(5’側)に、提示対象ポリペプチドコード配列を配置させ、これらを、読み枠を合わせて配置させることが好ましい。
ここで、提示対象ポリペプチドコード配列は、既知の配列でもランダム配列でもよい。また、長さも特に制限はなく、短いペプチドでも、蛋白質でもよい。
【0028】
提示させる配列既知のポリペプチドの種類は特に制限されないが、酵素、抗体、シグナル伝達因子、チャネル、細胞増殖因子、転写因子、接着因子、受容体などが例示される。なお、機能未知の蛋白質でもよい。
その由来は特に制限されず、ヒトを含む哺乳動物、植物、ウイルス、酵母、あるいは細菌など、あらゆる生物に由来する天然の配列を持つポリペプチドを用いることができる。あるいは、前記天然ポリペプチドの一部や、アミノ酸配列を改変した変異ポリペプチドを提示対象ポリペプチドとして利用することもできる。更に、人工的に設計されたアミノ酸配列を含むポリペプチドを提示対象ポリペプチドとすることもできる。
【0029】
ポリペプチドコード配列をランダム配列とする場合、任意のアミノ酸がランダムに配列したランダムポリペプチドをコードする配列とするのが好ましい。ランダムポリペプチドは、通常、5〜100残基、好ましくは5〜50残基、より好ましくは5〜20残基程度の長さからなるランダムなアミノ酸配列を有する。アミノ酸は天然のものでも非天然のものでもよく、これらが混合されたものでもよい。より簡便にはランダムポリペプチドは天然の20アミノ酸から選ばれるアミノ酸の一種類以上から構成される。
【0030】
ポリペプチドを全くランダムな配列(アミノ酸残基数n個)にする場合は、A,T,G,Cを3n個ランダムに配列させればよい。ただし、効率よくクローンを翻訳させるためには、終止コドンが出現しないよう、3m番目(m=1,2,3・・・,n)の塩基がTまたはCになるようにしてもよい。あるいは、特定の複数種類のアミノ酸のみからなるランダム配列になるようコドンを調整してもよい。
例えば、NRYコドンの繰り返しを利用することで、8種類のアミノ酸(Ser, Asn, Gly, Asp, Arg, His, CysまたはTyr)がランダムに出現するペプチド配列を発現させることが
できる。
N = A, G, C, T
R = A, G
Y = C, T
なお、ランダムポリペプチドが非天然のアミノ酸を含む場合は、コドンを公知の手段にしたがって改変すればよい。
【0031】
コード領域において、提示対象ポリペプチドコード配列、第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列および第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列は読み枠を合わせて連結される。ここで、「読み枠を合わせて連結される」とは、提示対象ポリペプチドと第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列と第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列が融合蛋白質として翻訳されるように連結されることを意味する。なお、提示対象ポリペプチドと、第一の核酸結合性ポリペプチドコード配と第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列は直接連結されてもよいが、提示対象ポリペプチドの自由度を確保するため、リンカーコード配列を介して連結することが好ましい。
【0032】
ランダムポリペプチドなどの提示対象ポリペプチドをコードする配列は人工的に合成し、制限酵素認識配列(実施例ではSfiI認識配列を利用している)を利用したり、PCRを利用したりして例えばBapコード配列とCvapダイマーコード配列の5’側に遺伝子工学的に連結することができる。ただし、提示対象ポリペプチドをコードする配列と第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列と第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列を全て人工的に合成してもよい。
【0033】
提示対象ポリペプチドコード配列の5’側に開始コドンATGを存在させることが好ましいが、開始コドンの後にタグペプチド(例えば、FLAG、ポリヒスチジン、GSTなど)を配置した後に提示対象ポリペプチドコード配列を配置してもよい。
【0034】
また、第一の核酸結合性ポリペプチドコード配列と第二の核酸結合性ポリペプチドコード配列の下流(3’側)にはスペーサーコード配列を配置することがポリペプチド(融合蛋白質)-リボソーム-RNA複合体安定性の面から好ましい。
スペーサー配列は10〜200アミノ酸の配列とすることが好ましい。スペーサー配列のアミノ酸配列は、提示対象蛋白質と標的物質との結合反応に悪影響を与えない配列であれば特に制限されないが、水溶性が高く、特殊な3次元構造をとらない配列であることが好ましく、具体的には、主にグリシンとセリンを含むいわゆるGSリンカーやファージのgeneIIIの部分配列などを用いることができる。
【0035】
コード領域の3’末端には終止コドンを設けてもよいが、リボソームを効率よく係止させるため、コード領域の3’末端には終止コドンを設けないことが好ましい。あるいは、コード領域の3’末端にSecM配列を付加してもよい。SecM配列はSecM stall配列とも呼ばれ、リボソーム内部で翻訳アレストを起こすと報告されている配列である(FXXXXWIXXXXGIRAGP:配列番号32)。SecMのアレスト配列を導入することで、ポリペプチド(融合蛋白質)-リボソーム-RNA複合体を効率よく維持できるのでリボソームディスプレイに特に有効である。
【0036】
本発明の核酸構築物を翻訳系に導入して得られる、ポリペプチド(融合蛋白質)-リボソーム-RNA複合体の一例の模式図を
図1の(2)に示す。「Peptide/protein libraries」と記載されているのが提示対象ポリペプチドであるが、ライブラリーである必要はない。従来のポリペプチド-リボソーム-RNA複合体は
図1の(1)のようにリボソームがRNA上で係止することで複合体が維持されるのみであるが、
図1の(2)の場合は、BapとboxB、CvapダイマーとCvの相互作用により複合体が安定化される。
【0037】
本発明の核酸構築物はDNAでもRNA(好ましくはmRNA)でもよい。したがって、「核酸構築物に対応するRNA」とは、核酸構築物がRNAの場合は核酸構築物そのもの、DNAの場合は核酸構築物から転写されて得られるRNAを意味する。
DNAの場合は、RNAを転写させるためのプロモーター配列を5’非翻訳領域の上流に付加することが好ましい。
プロモーターは、使用する発現系に応じて適宜、選択することができる。例えば、大腸菌細胞や大腸菌由来の無細胞翻訳系を用いる場合、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター等の大腸菌で機能するプロモーターが例示される。
【0038】
本発明の一例として、配列番号5,9,11,13,15に、プロモーター配列、boxB配列、Cv配列、SD配列、開始コドン、提示対象ポリペプチドコード配列、Bapコード配列、Cvapダイマーコード配列、スペーサーコードする配列を含む核酸構築物を例示した(
図2)。
そして、配列番号6,10,12,14,16にこれらの核酸から翻訳される融合蛋白質のアミノ酸配列を示した。ただし、本発明の核酸構築物とそれにコードされる融合蛋白質はこれらに限定されない。
【0039】
本発明の核酸構築物は、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクターなどに組み込まれてもよい。ベクターの種類は、用いる翻訳系やスクリーニング系にしたがって適宜選択することができる。
上記核酸構築物およびそれを含むベクターはMolecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001)などに記載されている公知の遺伝子学的手法によって作製することができる。
【0040】
<本発明の核酸構築物を用いてポリペプチドを核酸(RNA)上に提示させる方法>
上記核酸構築物を翻訳系に導入して前記コード領域にコードされる融合蛋白質を発現させることにより、第一の核酸結合性ポリペプチドと第一の配列との結合および第二の核酸結合性ポリペプチドと第二の配列との結合を介して融合蛋白質と核酸構築物に対応するRNAとの複合体を形成させることができ、提示対象ポリペプチドをRNA上に提示させることができる。
【0041】
翻訳系としては、大腸菌、昆虫、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、ヒト癌等に由来する細胞から得られたリボソームを含む無細胞翻訳系を使用することができる。リボソーム、tRNA、アミノ酸などを添加して再構成された無細胞翻訳系でもよい。市販のものでもよい。
なお、核酸構築物としてDNAを用いる場合は、プロモーターに応じたRNAポリメラーゼを加える。
【0042】
提示対象蛋白質としてランダムペプチドライブラリーを用いる場合、ライブラリーの規模は、通常1×10
3以上、好ましくは1×10
4以上、より好ましくは1×10
5以上、さらに好ましくは1×10
6以上である。
【0043】
なお、ポリペプチド-リボソーム-RNA複合体を形成させた後、リボソームをRNAから解離させてもよい。この場合、濃度50 〜 650 mMのEDTA(もしくはEGTA等のMg
2+イオンをキレートできる配位子)を翻訳系に添加すればよい。EDTAは最初から翻訳系に加えてもよい。リボソームをRNAから解離させることにより、リボソームを含まないポリペプチド-RNA複合体を得ることができる。
【0044】
<本発明の核酸構築物を用いて標的物質に結合するポリペプチド配列を選択する方法>
本発明のポリペプチド配列の選択方法では、次の工程(1)〜(3)を繰り返す。
(1)本発明の核酸構築物からランダムポリペプチドと第一の核酸結合性ポリペプチドおよび第二の核酸結合性ポリペプチドとの融合蛋白質を発現させ、核酸構築物に対応するRNA上にランダムポリペプチドライブラリーを提示する工程;
(2)標的物質に前記ライブラリーを接触させる工程;および
(3)標的物質に結合するポリペプチド配列を含む融合蛋白質を選択し、選択された融合蛋白質をコードする核酸配列を増幅する工程。
【0045】
具体的には、本発明の核酸構築物を翻訳系に導入してポリペプチド-RNA複合体を形成させた後、標的物質にランダムポリペプチドライブラリーを接触させ、ランダムポリペプチドライブラリーから標的物質に結合するポリペプチド配列を含む融合蛋白質を選択し、それをコードする核酸構築物を増幅する。
【0046】
標的物質に結合したポリペプチドを選択するには、標的ポリペプチドと結合したポリペプチドを、標的ポリペプチドと結合していない多数のポリペプチドの中からスクリーニングする必要がある。これはパニングとよばれる既知の方法に従って行う(Coomber (2002) Method Mol. Biol., vol.178, p.133-145)。パニングの基本的なプロトコルは以下のとおりである。
(I)標的物質にポリペプチドライブラリーを接触させる。
(II)標的ポリペプチドに結合しなかった、ライブラリーに含まれていたその他のポリペプチドを除去する。例えば、洗浄により除去することができる。
(III)除去されなかったポリペプチド、すなわち標的ポリペプチドに特異的に結合していたポリペプチドを回収する。
(IV)必要に応じ(I)から(III)の操作を複数回繰り返す。
【0047】
なお、工程(1)の後でEDTAなどによりポリペプチド-RNA複合体からリボソームを解離させておくと、「複合体のリボソームと標的分子との立体障害」や非特異的結合を解消することができるので好ましい。
【0048】
ポリペプチドライブラリーと標的物質を接触させ、結合を可能にする条件は公知であり(WO95/11922、WO93/03172、WO91/05058)、当業者にとって過度の負担なしに確立することができる。例えば、ビーズ、プレート、カラム等の担体に標的物質を結合させ、ここにポリペプチドとRNAの複合体を含む試料を接触させてもよい。また、標的物質が金属(金属塩や金属酸化物を含む)や含珪素化合物等の場合、ポリペプチドとRNAの複合体を含む試料にこれらの物質を添加することにより接触させることもできる。
【0049】
選択された複合体に含まれるRNAは、例えば、RT-PCRによって増幅することができる。RT-PCRによって、RNAを鋳型としてDNAが合成される。DNAを再びRNAに転写し、複合体の形成のために利用することができる。
【0050】
以上の操作を繰り返すことにより、標的物質に特異的に結合するペプチド配列が濃縮される。配列情報は、得られたRNAの配列を解析することにより同定することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を参照して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の態様に限定されない。
【0052】
実施例1:RNAモチーフに特異的に結合するペプチドおよび蛋白質を導入したテンプレートを利用する「安定架橋型リボソームディスプレイ法」の新規開発
ここでは、安定架橋型リボソームディスプレイ法の開発として、ペプチドライブラリーを翻訳するために利用するmRNAテンプレートの5'端に、二つのRNAモチーフ(boxBとCv)を導入した。さらに、ペプチドライブラリーをコードする配列の下流に、各RNAモチーフに特異的に結合するペプチド(Bap)および蛋白質(Cvapダイマー)をコードする配列を導入した。これにより、mRNAテンプレートの試験管内翻訳により発現したペプチド(Bap)と蛋白質(Cvapダイマー)が、各RNAモチーフと親和的に架橋構造を形成するため、これまでにない安定性を獲得した「ペプチド-Bap-Cvap-リボソーム-mRNA複合体(
図1(2))」を合成することができる。
【0053】
まず、「ペプチド-Bap-Cvap-リボソーム-mRNA複合体」を利用すれば、標的分子結合性ペプチドを選択することが可能であることを証明するため、ビーズに固定化した抗FLAG抗体を標的とした「FLAGペプチド選択実験」を行った(この実験は、ペプチドライブラリーを提示した複合体の中から標的分子結合性ペプチドを選択するモデル実験として、
図3の操作スキームに準じて行った)。
【0054】
まず、「ペプチド-Bap-Cvap-リボソーム-mRNA複合体」を合成するためのプラスミドDNA-I(配列番号1:
図4)とプラスミドDNA-II(配列番号2:
図4)の構築を行った。
プラスミドDNA-I は、SD配列・開始コドン・SfiI制限酵素サイト(1)・SfiI制限酵素サイト(2)・Bap配列・Cvap配列・Ps配列の順に並んだ人工配列を、市販プラスミドのクローニングサイトに導入することで構築した。また、プラスミドDNA-IIは、T7プロモーター配列・SD配列・開始コドン・SfiI制限酵素サイト(1)・SfiI制限酵素サイト(2)・Bap配列・Cvap配列・Ps配列の順に並んだ人工配列を、市販プラスミドのクローニングサイトに導入することで構築した。
【0055】
次に、プラスミドDNA-IIのSfiIサイトにFLAGペプチドを導入したプラスミドDNA-II-FLAG(配列番号8、部分配列は配列番号5)を構築し、それを鋳型にし、プライマーfp4(配列番号28)とrp3(配列番号31)を用いたPCRによりDNAテンプレート4-NS(
図4:NSは終止コドンがないことを示す)を合成した。
【0056】
そして、そのDNAテンプレート4-NSを利用してT7プロモーターからmRNAテンプレートを合成し、これを無細胞蛋白質合成系(バイオコゥマー社製 PURESYSTEM classic II)の翻訳反応に供することより、「FLAGペプチド-Bap-Cvap-リボソーム-mRNA複合体」を合成した。
【0057】
さらに、下記のペプチド選択実験の手順1に従って、その複合体と、抗FLAG抗体を固定化したビーズ(SIGMA-ALDRICH社製)を混合した後、抗FLAG抗体と特異的に結合した複合体のみをFLAGペプチド(SIGMA-ALDRICH社製)の添加により競合的にビーズから溶出した。そして、それら複合体から回収したmRNAを逆転写して得られたcDNAを鋳型にPCRを行い、そのPCR産物の電気泳動を行った。
【0058】
その結果、目的のFLAGペプチドをコードするmRNAの回収に成功していることが確認できた(
図1−(3))。これにより、「ペプチド-Bap-Cvap-リボソーム-mRNA複合体」を利用した「安定架橋型リボソームディスプレイ法」により、ペプチド選択実験を実行することが可能であることが示された。
【0059】
<ペプチド選択実験の手順1>
1. Selection buffer(250μl)と「ペプチド-Bap-Cvap-リボソーム-mRNA複合体」を有する翻訳液(50μl)を混合し、ビーズ(15μl)を添加した後、インキュベート(1 h, 4℃)する。
2. 1で処理したビーズをWashing buffer(300μl)で5回洗浄する。
3. 2で処理したビーズにFLAGペプチド(100μl)を添加し、さらにインキュベート(0.5 h,4℃)する。4. 1000rpm(5 min)でビーズを沈降させた後、上清(100μl)を回収する。
5. 4で回収したmRNAを精製(QIAGEN社製RNeasy kit)し、それをもとに逆転写(TAKARA社製PrimeScript Reverse Transcriptase)を行うことでcDNAを合成する。
6. 5で合成したcDNAを鋳型にしてPCR(TAKARA社製 PrimeSTAR GXL DNA Polymerase)を行い、そのPCR産物を電気泳動することで、mRNAの回収量を確認する。
Washing buffer : Tris-HCl(50 mM, pH 7.5), NaCl(150 mM), 0.5 % Tween
Selection buffer : Tris-HCl(60 mM, pH 7.5), NaCl(180 mM)
ビーズ : ANTI-FLAG-M2-Affinity Gel (SIGMA-ALDRICH社製)
FLAGペプチド (SIGMA-ALDRICH社製)
【0060】
実施例2:リボソームを解離させた複合体を利用する「安定架橋型ディスプレイ法」の開発
従来、リボソームディスプレイ法によるペプチド選択実験において問題とされてきた「複合体におけるリボソームと標的分子との立体障害」を解消することができれば、これまでに選択できなかったより強力な標的結合性ペプチドの創出が可能となる。
そこで今回、mRNAディスプレイ法とは全く異なる簡便な方法により、リボソームを有さない「ペプチド-mRNA複合体」を合成し、それら利用する新規ディスプレイ法の開発に取り組んだ。
【0061】
ここでは、上記の実施例1で開発した「ペプチド-Bap-Cvap-リボソーム-mRNA複合体」が、分子内架橋構造の形成により安定化していることに着目し、その複合体からリボソームだけを解離した「ペプチド-Bap-Cvap-mRNA複合体」の合成を試みた(
図2(D))。さらに、その「ペプチド-Bap-Cvap-mRNA複合体」を利用したペプチド選択実験の実行と評価により、今回の新たな「安定架橋型ディスプレイ法」の有用性を実証することにした。
【0062】
まず、
図2に示す4種類の複合体を形成するための人工蛋白質が、5'端にRNAモチーフを導入したmRNAとRNAモチーフを導入していないmRNAから同等に発現できることを確認するため、以下の手順で実験を行った。
【0063】
プラスミドDNA-I(配列番号1)とDNA-II(配列番号2)のSfiIサイトにFLAGペプチド(ペプチドライブラリーモデル)を導入したプラスミドDNA-I-FLAG(配列番号7、部分配列は配列番号3)とDNA-II-FLAG(配列番号8、部分配列は配列番号5)を構築した。そして、下記4種類のDNAを構築した。
(A)プラスミドDNA-I-FLAGを鋳型に、プライマーはfp1(配列番号25)とrp1(配列番号29)を用いてPCRによりDNAテンプレート1-S(配列番号9)を増幅した。
(B)プラスミドDNA-I-FLAGを鋳型に、プライマーはfp2(配列番号26)とrp1(配列番号29)を用いてPCRによりDNAテンプレート2-S(配列番号11)を増幅した。
(C)プラスミドDNA-I-FLAGを鋳型に、プライマーはfp3(配列番号27)とrp1(配列番号29)を用いてPCRによりDNAテンプレート3-S(配列番号13)を増幅した。
(D)プラスミドDNA-II-FLAGを鋳型に、プライマーはfp4(配列番号28)とrp1(配列番号29)を用いてPCRによりDNAテンプレート4-S(配列番号15)を増幅した。
プライマーfp1は配列番号3の塩基番号1〜24の配列を含み、T7プロモーターを含んでいる。
プライマーfp2は配列番号3の塩基番号1〜24の配列を含み、T7プロモーター、boxB配列を含んでいる。
プライマーfp3は配列番号3の塩基番号1〜24の配列を含み、T7プロモーター、Cv配列を含んでいる。
プライマーfp4は配列番号5の塩基番号1〜35の配列を含み、T7プロモーター、boxB配列、Cv配列を含んでいる。
プライマーrp1は配列番号3の塩基番号1094〜1113および配列番号5の塩基番号1157〜1176に相補的な配列を含み、終止コドンを含んでいる。
【0064】
さらに、それらDNAテンプレートからT7プロモーターを利用した試験管内転写により合成した各mRNAテンプレートを、無細胞蛋白質合成系(バイオコゥマー社製 PURESYSTEM classic II)により翻訳することで、「FLAGペプチド-Bap-Cvap融合蛋白質」(配列番号10,12,14,16)の発現を行った。
【0065】
その結果、抗FLAG抗体-HRP(SIGMA-ALDRICH社製)と化学発光試薬(PIERCE社製)を利用したWestern blotting(
図5)において、mRNAの5'端におけるRNAモチーフの導入の有無に関係なく、同程度の蛋白質量が発現していることを確認できた。
【0066】
次に、
図2に示す4種類の複合体を利用したFLAGペプチド選択実験を行うため、以下の4種類のDNAテンプレートを構築した(
図4−1〜4)。
(A)プラスミドDNA-I-FLAGを鋳型に、プライマーはfp1(配列番号25)とrp3(配列番号31)を用いてPCRによりDNAテンプレート1-NS(配列番号9の最後に、taatgaの代わりに配列番号5の1177〜1626が付加した配列)を増幅した。
(B)プラスミドDNA-I-FLAGを鋳型に、プライマーはfp2(配列番号26)とrp3(配列番号31)を用いてPCRによりDNAテンプレート2-NS(配列番号11の最後に、taatgaの代わりに配列番号5の1177〜1626が付加した配列)を増幅した。
(C)プラスミドDNA-I-FLAGを鋳型に、プライマーはfp3(配列番号27)とrp3(配列番号31)を用いてPCRによりDNAテンプレート3-NS(配列番号13の最後に、taatgaの代わりに配列番号5の1177〜1626が付加した配列)を増幅した。
(D)プラスミドDNA-II-FLAGを鋳型に、プライマーはfp4(配列番号28)とrp3(配列番号31)を用いてPCRによりDNAテンプレート4-NS(配列番号15の最後に、taatgaの代わりに配列番号5の1177〜1626が付加した配列)を増幅した。
プライマーrp3は配列番号3の塩基番号1544〜1563および配列番号5の塩基番号1607〜1626に相補的な配列を含み、終止コドンを含んでいない。
【0067】
さらに、それらDNAテンプレートのT7プロモーターを利用した試験管内転写により合成した各mRNAテンプレートを、無細胞蛋白質合成系(バイオコゥマー社製 PURESYSTEM classic II)により翻訳した。そして、下記のペプチド選択実験の手順2にしたがって、EDTA(50 mM)を含有したバッファーと翻訳液を混合することでリボソームをmRNAから解離させ、
図2に示す4種類の複合体を得た。
【0068】
続いて、それら複合体と抗FLAG抗体を固定化したビーズ(SIGMA-ALDRICH社製)を混合した後、抗FLAG抗体と特異的に結合した複合体のみを、FLAGペプチド(SIGMA-ALDRICH社製)の添加により競合的にビーズから溶出した。そして、回収したmRNAを逆転写して得られたcDNAを鋳型にPCRを行い、各実験から得られたPCR産物を電気泳動することでmRNAの回収量を比較した。
【0069】
その結果、
図6(A)(18サイクル)の電気泳動では、「ペプチド-Bap-Cvap-mRNA複合体」を利用した場合にのみ、バンドを確認することができた。今回の電気泳動(
図6)では、各複合体から回収したFLAGペプチドのmRNA量が多いほど、PCRサイクル数が少ない条件でバンドが確認できることから、
図2(D)の「ペプチド-Bap-Cvap-mRNA複合体」が最も安定であると同時に、この複合体を利用すれば、「安定架橋型リボソームディスプレイ(
図1−(3))」と同様のペプチド選択実験を行うことが可能であることが明らかとなった。さらに、
図6(B)(21サイクル)の電気泳動では、
図2(B)の複合体と
図2(C)の複合体を利用した場合においてもバンドを確認することができたことから、これらを用いてもペプチド選択実験が可能であることが示された。
【0070】
<ペプチド選択実験の手順2>
1. Selection buffer(250μl)と各複合体を有する翻訳液(50μl)を混合し、ビーズ(15μl)を添加した後、インキュベート(1 h, 4℃)する。
2. 1で処理したビーズをWashing buffer(300μl)で5回洗浄する。
3. 2で処理したビーズにFLAGペプチド(100μl)を添加し、さらにインキュベート(0.5 h,4℃)する。
4. 1000rpm(5 min)でビーズを沈降させた後、上清(100μl)を回収する。
5. 4で回収したmRNAを精製(QIAGEN社製RNeasy kit)し、それをもとに逆転写(TAKARA社製PrimeScript Reverse Transcriptase)を行うことでcDNAを合成する。
6. 5で合成したcDNAを鋳型にしてPCR(TAKARA社製 PrimeSTAR GXL DNA Polymerase)を行い、そのPCR産物を電気泳動することで、mRNAの回収量を確認する。
Washing buffer : Tris-HCl(50 mM, pH 7.5), NaCl(150 mM), EDTA(50 mM), 0.5 % Tween
Selection buffer : Tris-HCl(60 mM, pH 7.5), NaCl(180 mM), EDTA(60 mM)
ビーズ : ANTI-FLAG-M2-Affinity Gel (SIGMA-ALDRICH社製)
FLAGペプチド (SIGMA-ALDRICH社製)
【0071】
実施例3:「安定架橋型リボソームディスプレイ法」および「安定架橋型ディスプレイ法」における各種ポリペプチド・蛋白質の提示
上記の実験により、「安定架橋型リボソームディスプレイ法」および「安定架橋型ディスプレイ法」を利用して、標的分子に特異的に結合するペプチドの選択実験を行えることが明らかとなった。
【0072】
さらに、様々な長さのペプチド(プロテイン)ライブラリーをプラスミドDNA-IIに導入し、目的の機能を発現するペプチド(プロテイン)アプタマーを選択できる汎用的なディスプレイ法として確立するために、プラスミドDNA-IIに各種ポリペプチド・蛋白質を導入し、それらが発現できるかどうかを検証した。
【0073】
まず、プラスミドDNA-II(配列番号2)のSfiIサイトに、ポリヒスチジンタグ(H6)、Human epidermal growth factor (EGF)、FK-binding protein 12 (FKBP12)、Cyclophilin A(CypA)を導入した各種プラスミドDNA-II-H6(配列番号17)、DNA-II-EGF(配列番号19)、DNA-II-FKBP12(配列番号21)、DNA-II-CypA(配列番号23)を構築した。
【0074】
そして、それらプラスミドDNAを鋳型にし、プライマーfp4(配列番号28)とrp2(配列番号30)を用いたPCRによりDNAテンプレート5-H6-FLAG-S、5-EGF-FLAG-S、5-FKBP12-FLAG-S、5-CypA-FLAG-Sを合成した(
図4 5−XでXがH6,EGF,FKBP12またはCypA)。
プライマーrp2は配列番号5の塩基番号1157〜1176に相補的な配列を含み、FLAGコード配列と終止コドンを含んでいる。
【0075】
さらに、それらDNAテンプレートからT7プロモーターを利用した試験管内転写により合成したmRNAテンプレートを、無細胞蛋白質合成系(バイオコゥマー社製 PURESYSTEM classic II)により翻訳することで、各種蛋白質(配列番号18,20,22,24)の発現を行った。そして、抗FLAG抗体-HRP(SIGMA-ALDRICH社製)と化学発光試薬(PIERCE社製)を利用したWestern blotting(
図7)を行ったところ、各蛋白質の発現を確認することに成功した。
この結果は、プラスミドDNA-IIの利用により、様々なペプチド(プロテイン)ライブラリーを導入した「ペプチド(プロテイン)-Bap-Cvap-mRNA複合体」の合成が可能であり、目的のペプチド(プロテイン)アプタマーの選択実験を行うことが可能であることを示唆している。
【0076】
実施例4:RNAモチーフ-ペプチド架橋構造の新たな創成
安定架橋型リボソーマル複合体の多様化およびコンパクト化の可能性を模索すると共に、RNAモチーフ-ペプチド架橋構造体の多目的利用(例:機能性核酸・核酸医薬などのデリバリー)の潜在性を見出すため、RNAモチーフ-ペプチド架橋構造体(
図8)の新たな創成に取り組んだ。ここでは、天然に存在するRNAモチーフ-ペプチド相互作用および人工的に見出されたRNAモチーフ-ペプチド相互作用を規範として、ヘテロなタンデム化RNAモチーフとそれらに結合するタンデム化ペプチドを新規に設計した(
図8と表1)。そして、化学的手法により合成した各種RNAモチーフとペプチドを混合した後、電気泳動によるゲルシフトアッセイにより、RNAモチーフ-ペプチド架橋構造体の形成の可否について評価した(今回の実験は、下記の条件と手順に従って実行した)。
【0077】
例えば、タンデム化RNAモチーフ(TRM4:表1)とタンデム化ペプチド(TP3もしくはTP4:表1)を混合したところ、RNAモチーフ-ペプチド架橋構造体の形成を示すバンドシフト(
図9:矢印)を確認することができた。さらに、表1に示したすべてのタンデム化RNAモチーフとそれぞれに対応するタンデム化ペプチドとの架橋構造体の形成も電気泳動で確認することができた。これらの結果は、今回合成したタンデム化ペプチドが、定量的にRNAモチーフ-ペプチド架橋構造体を形成することができるだけでなく、実施例1〜3のペプチド(Bap)とタンパク質(Cvap)で構成される融合タンパク質に比べて分子量も小さいため(約1/6)、より取り扱い易い安定型リボソーマル複合体の合成に利用できることを示唆している。また、これらRNAモチーフ-ペプチド架橋構造体を利用したsiRNAやncRNAなどの機能性核酸・核酸医薬のデリバリーへの応用も期待できる。
【0078】
<RNAモチーフ-ペプチド混合溶液の調製と電気泳動>
(1)下記サンプルバッファーにより、RNAモチーフ溶液(1μM)を調製する。そして、70℃でインキュベーションした後、室温で放置する。
(2)下記サンプルバッファーにより調製した各種ペプチド溶液(1μM)と上記RNAモチーフ溶液を混合した後、総量10μLにメスアップする(最終のRNAのモル量:4 pmol)。
(3)10% PAGEにより、RNAモチーフとRNAモチーフ-ペプチド架橋構造体を分離した後、ゲルをSYBRGで染色してイメージ像を測定した(例:
図9)。
・サンプルバッファー:Tris-acetate (50 mM, pH7.5)、KCl (150 mM)、Tween-20 (0.1 %)、
Mg(AcO)
2(50 mM)、Zn(AcO)
2 (0.1 mM)
・電気泳動バッファー:Tris-acetate (10 mM, pH 7.5)
【0079】
【表1】
【0080】
<ペプチドの配列>
Bap : GNARTRRRERRAMERATLPQVLG(配列番号33)
Rev : TRQARRNRRRRWRERQR(配列番号34)
BIV Tat : SGPRPRGTRGKGRRIRR(配列番号35)
GS2 : GGGSGGGS(配列番号36)
GS3 : GGGSGGGSGGGS(配列番号37)
【0081】
<RNAモチーフの配列>
boxB : GGCCCUGAAAAAGGGCC(配列番号38)
ap I : GGCUGGACUCGUACUUCGGUACUGGAGAAACAGCC(配列番号39)
ap II : GGUGUCUUGGAGUGCUGAUCGGACACC(配列番号40)
BIV TAR : GCUCGUGUAGCUCAUUAGCUCCGAGC(配列番号41)