特許第6057301号(P6057301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057301
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】経頭蓋磁気刺激を用いた認知マッピング
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
   A61B10/00 F
   A61B10/00 G
【請求項の数】24
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2013-555915(P2013-555915)
(86)(22)【出願日】2012年3月5日
(65)【公表番号】特表2014-511242(P2014-511242A)
(43)【公表日】2014年5月15日
(86)【国際出願番号】FI2012050218
(87)【国際公開番号】WO2012117166
(87)【国際公開日】20120907
【審査請求日】2014年7月4日
(31)【優先権主張番号】61/448,676
(32)【優先日】2011年3月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505141853
【氏名又は名称】ネクスティム オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128657
【弁理士】
【氏名又は名称】三山 勝巳
(74)【代理人】
【識別番号】100170601
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(72)【発明者】
【氏名】ヌヴォネン,トゥオマス
(72)【発明者】
【氏名】ハンヌラ,ヘンリ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーネフェルト,グスタフ
【審査官】 小田倉 直人
(56)【参考文献】
【文献】 A.T.SACK et.al,"Imaging the Brain Activity Changes Underlying Impaired Visuospatial Judgments : Simultaneous fMRI,TMS,and Behavioral Studies",CEREBRAL CORTEX,2007年,VOL.17 , no.12,pages 2841-2852
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
認知マッピングの方法であって、
タスクの提示に応じた被検者からの認知機能の基準となる反応を決定するステップと、経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイスを介して磁場を用いて脳のエリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを再び提示するステップと、
前記被検者の行動をマイクロフォン及び/又はカメラによって記録するステップと、
前記タスクに対する前記被検者の認知機能の基準となる反応、刺激中の記録された前記被検者の行動との間で、不一致が起こるかを比較するステップと、
刺激された前記脳の前記エリアが前記認知機能に関与しているか否かを、該比較の結果に基づいて判断するステップと、
を含み、
前記認知機能は、発話、言語、動作記憶及び意思決定の群から選択される、
前記被検者の認知機能の基準となる反応は、前記被検者が外部脳刺激なしでタスクを正確にかつ繰り返し実行する反応である、
認知マッピングの方法。
【請求項2】
前記タスクを1回又は複数回の更なる回数前記被検者に提示するステップであって、その間それに応じてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の1つ又は複数の更なるエリアを刺激するステップと、
前記タスクに対する前記被検者の認知機能の基準となる反応、刺激中の記録された前記被検者の行動のそれぞれとの間で、不一致が起こるかを比較するステップと、
刺激された前記脳の前記エリアのうちの1つ又は複数が前記認知機能に関与しているか否かを判断するステップと、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1のパラメータ組を用いてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の前記エリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを提示するステップであって、前記被検者の認知機能の基準となる反応と刺激中の記録された前記被検者の行動との間で不一致が起こる行動エラーが検出されない場合、前記第1のパラメータ組のパラメータのうちの少なくとも1つを変更するステップと、
新たなパラメータ組を用いてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の同じエリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを提示するステップと、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラメータ組は、刺激周波数、ピクチャ間間隔、刺激強度、ピクチャ−TMS間隔、パルスモード、パルス数及びタスク表示時間の群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記新たなパラメータ組を用いた刺激中の記録された前記被検者の行動との間で不一致が起こる行動エラーが検出されない場合、前記新たなパラメータ組の少なくとも1つのパラメータを変更するとともに、更新された新たなパラメータ組を用いてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の同じエリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを提示する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記プロセスは、前記刺激されているエリアが前記認知機能に関与していないと判断されるまで繰り返される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記脳の刺激される前記エリアは、事前に三次元マッピングされており、刺激される前記脳の前記エリア前記被検者の脳内又は表面上の特定の点にある、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記被検者の認知機能は、標準的な脳モデル、前記被検者の脳モデルに相当する脳モデル、又は前記被検者に特化した脳モデルから選択された脳のモデル上にマッピングされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記被検者の認知機能は、少なくとも部分的に前記被検者の脳のMRIに基づく、前記被検者に特化した前記脳のモデル上にマッピングされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記タスクは、前記被検者に一連の画像、音及び/又は質問を提示し、各提示に対して該被検者に反応させることである、請求項1乃至のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記タスクに対する前記被検者の認知機能の基準となる反応刺激中の記録された前記被検者の行動のそれぞれとの間で不一致が起こるかを比較することは、認知ユニットによって自動的に行われる、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
刺激された前記脳の前記エリアが前記認知機能に関与しているか否かを判断することは、認知ユニットによって自動的に行われる、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記TMSコイルデバイスを介して前記被検者の脳を刺激する前に前記被検者の運動しきい値(MT)又は発話停止しきい値を決定するステップを更に含
前記発話停止しきい値は、タスクにおいて発話停止又は中断を引き起こす刺激しきい値である、
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記TMSコイルデバイスはパラメータ組を用いて動作し、該パラメータ組は該決定するステップで決定された前記被検者の運動しきい値又は発話停止しきい値の1%〜110%の刺激強度を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記TMSコイルデバイスはパラメータ組を用いて動作し、該パラメータ組は各刺激に対して1〜100の刺激パルスを含む、請求項1乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記TMSコイルデバイスはパラメータ組を用いて動作し、該パラメータ組は1Hz〜100Hzのパルス周波数を含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記TMSコイルデバイスはパラメータ組を用いて動作し、該パラメータ組は10ms〜1.5secのピクチャTMS間隔(PTI)を含む、請求項1乃至16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
認知マッピングのためのシステムであって、
経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイスと、
前記TMSコイルデバイスに接続され、該TMSコイルデバイスに磁場を生成させることが可能な刺激制御部と、
被検者に対しタスクを提示するための提示ディスプレイと、
マイクロフォン及び/又はカメラと、
1つ又は複数のプロセッサを有する少なくとも1つの端末であって、該1つ又は複数のプロセッサは、
前記タスクの提示に応じた被検者からの認知機能の基準となる反応を決定、記録及び/又は入力するステップと、
前記(TMS)コイルデバイスを介して磁場を用いて脳のエリアを刺激している間に前記提示ディスプレイを介して前記被検者に前記タスクを提示するステップと、
被検者の行動を該マイクロフォン及び/又はカメラによって記録するステップと、
前記タスクに対する前記被検者の認知機能の基準となる反応、刺激中の記録された前記被検者の行動との間で不一致が起こるかを比較するステップと、
刺激された前記脳の前記エリアが前記認知機能に関与しているか否かを、該比較の結果に基づいて判断するステップと、
を実行するように構成される、少なくとも1つの端末と、
を備え
前記認知機能は、発話、言語、動作記憶及び意思決定の群から選択される、
前記被検者の認知機能の基準となる反応は、被検者が外部脳刺激なしでタスクを正確にかつ繰り返し実行する反応である、
認知マッピングのためのシステム。
【請求項19】
前記プロセッサのうちの少なくとも1つ又は複数は、
第1のパラメータ組を用いてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の前記エリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを提示するステップであって、前記被検者の認知機能の基準となる反応と刺激中の記録された前記被検者の行動との間で不一致が起こる行動エラーが検出されない場合、前記第1のパラメータ組の前記パラメータのうちの少なくとも1つを変更するステップと、
前記新たなパラメータ組を用いてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の同じエリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを提示するステップと、
を実行するように更に構成される、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記被検者の頭部との関連で前記TMSにコイルデバイスの位置を追跡するための少なくとも1つの追跡デバイスを更に備える、請求項18又は19に記載のシステム。
【請求項21】
ナビゲートされた脳刺激を実行するように構成された1つ又は複数のプロセッサを更に備える、請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
刺激に対する前記被検者の身体反応を監視するためのデバイスを更に備える、請求項18乃至21のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項23】
前記カメラは提示された前記タスクに対する前記被験者の反応を記録することが可能であり、前記タスクに対する前記被検者の認知機能の基準となる反応を刺激中の記録された前記被検者の行動と比較することは、基準を決定する間に前記カメラによって記録された特定のタスクに対する前記被検者の反応と、刺激中に前記カメラによって記録された前記被検者の反応とを比較するように構成された認知ユニット内の1つ又は複数のプロセッサにより実行される、請求項18に記載のシステム。
【請求項24】
前記カメラは提示された前記タスクに対する前記被験者の反応を記録することが可能であり、前記カメラからの供給は前記被検者に加えられる前記刺激と時間同期して連携する、請求項18に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の認知機能をマッピングする分野に関する。本発明の実施の形態に従って確実にマッピングすることができる脳の認知機能の例は、発話、言語、動作記憶、意思決定である。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの個人の脳の解剖学的構造は非常に類似しているが、異なる個人の脳の機能的配置は指紋のように特有である。これは、臨床医及び医師が、脳の解剖学の理解に基づいて、血栓、腫瘍及び脳卒中による損傷等の異常及び外傷を容易に特定することができるという神経科学における一般的問題へとつながる。しかしながら、現在のところ、これらの異常及び外傷の中及び周囲の脳物質の機能を視覚的に判断する方法がない。
【0003】
神経外科医は、MRI等の既存の技術を用いて患者の脳内の腫瘍の位置を求めることが容易に可能である。腫瘍の位置に基づいて、外科医は、腫瘍に到達し腫瘍を除去するための最良のルートと考えるものを計画することができる。しかしながら、外科医は、患者の機能を実質的に損なうことなく、腫瘍の周囲のどれだけの脳物質を除去することができるか、腫瘍へのルートが、異なる経路によって容易に回避することができる重大なエリア(area:野)をどのように通る場合があるか、腫瘍の除去によって患者の機能がどのように損なわれることになるか等のことを判断することができない。
【0004】
神経外科医がこれらのリスクのうちのいくつかを軽減するために有する1つの方法は、手術中に脳を直接電気刺激することである。脳の一部分を電流に曝すことによって、外科医が脳のその部分の機能に関する判定を行うことが可能である。運動反応について試験するとき、これは良好に機能することができる。なぜなら、人物の身体反応を視覚的に判断又は測定することが容易であるためである。例えば、助手は、患者の指が刺激に反応して動くか否かを見ることができる。
【0005】
そのような直接的な刺激方法によって多くの問題が発生する。1つには、手術中に脳機能の試験に費やされる任意の時間が、腫瘍又は他の外科的機能(surgical function)の実際の除去から奪われる。患者のリスクは手術の長さと直接相関しているので、これは軽減する必要がある要素である。したがって、脳の機能を正確に求める非外科的方法が明らかに必要とされている。
【0006】
現在の方法の別の主要な欠点は、運動機能を試験するのは比較的容易であるが、認知機能を正確に試験するのが極めて難しいことである。したがって、例えば発話、言語、動作記憶、意思決定等の1つ又は複数の認知機能を正確に試験する必要がある。
【0007】
さらに、これらの問題は、手術及び手術計画との関連で存在し生じるが、適用可能な解決策の使用は非外科的状況にも拡張することができる。例えば、治療中、認知機能の進展又は劣化を正確に追跡可能であることが極めて有用となり得る。これは、治療に対する患者の反応を試験する臨床状況、及び治療があるべき形で機能しているか否かを試験する調査状況の双方において有用となり得る。
【発明の概要】
【0008】
本発明の一態様は、被検者の認知機能をマッピングするためのシステム及び方法を提供することである。認知機能は限定ではないが、発話、言語、動作記憶、意思決定を含むことができる。
【0009】
本発明の或る特定の実施の形態の更なる態様は、認知機能を正確にマッピングするための非観血的なシステム及び方法を提供することである。
【0010】
本発明の或る特定の実施の形態によれば、タスクの提示に応じた被検者からの認知基準反応を決定するいくつかの方法が提供される。被検者の認知機能を正確にマッピングするために、正確な基準を定義することが重要である。
【0011】
本発明の或る特定の実施の形態によれば、後に脳の或るエリアを刺激している間に被検者に対しタスクを提示するステップを含む方法が提供される。或る特定の実施の形態によれば、上記刺激は非観血的方法で行われる。そのような非観血的方法の例は、経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイスを介して提供される磁場を用いるものである。
【0012】
本発明の或る特定の実施の形態によれば、タスクに対する被検者の基準反応のうちの1つ又は複数を、被検者の後の刺激中のタスクの実行と比較するステップを含む方法が提供される。
【0013】
本発明の或る特定の実施の形態によれば、刺激された被検者の脳のエリアが特定の認知機能に関与しているか否かを判断するステップを含む方法が提供される。
【0014】
本発明の或る特定の実施の形態によれば、被検者に対しタスクを2回以上提示し、その間それに応じて脳の2つ以上のエリアを刺激するステップを含む方法が提供される。タスクに対する被検者の基準反応を刺激中の被検者の行動のそれぞれと比較するステップと、刺激された脳のエリアのうちの1つ又は複数が認知機能に関与しているか否かを判断するステップとを更に含む或る特定の実施の形態が提供される。
【0015】
さらに、本発明の或る特定の実施の形態によれば、第1のパラメータ組を用いてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の前記エリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを提示するステップであって、前記被検者の基準と刺激中の前記被検者の行動との間に行動エラーが検出されない場合、前記第1のパラメータ組の前記パラメータのうちの少なくとも1つを変更するステップと、
新たなパラメータ組を用いてTMSコイルデバイスを介して磁場を用いて前記脳の同じエリアを刺激している間に前記被検者に前記タスクを提示するステップと、
を更に含む方法が提供される。
【0016】
本発明の或る特定の実施の形態によれば、以下の構成要素、すなわち、
経頭蓋磁気刺激(TMS)コイルデバイス等の刺激手段と、
TMSコイルデバイスに接続され、TMSコイルデバイスに磁場を生成させることが可能な刺激制御部と、
被検者に対しタスクを提示するための提示ディスプレイと、
1つ又は複数のプロセッサを有する少なくとも1つの端末であって、該1つ又は複数のプロセッサは、
タスクの提示に応じた被検者からの認知基準反応を決定、記録及び/又は入力するステップと、
例えば(TMS)コイルデバイスを介して磁場を用いて脳のエリアを刺激している間に例えば提示ディスプレイを介して前記被検者に前記タスクを提示するステップと、
前記タスクに対する前記被検者の基準反応を、刺激中の前記被検者の行動と比較するステップと、
刺激された前記脳の前記エリアが認知機能に関与しているか否かを判断するステップと、
を実行するように構成される、少なくとも1つの端末と、
のうちの少なくともいくつかの組み合わせを備えるシステムが提供される。
【0017】
本発明の更なる実施形態及び態様が本明細書においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態によるシステムの一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態による別の例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態による、別個の認知パッケージを備えるシステムの別の例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態による、発話マッピングのための高レベルのフローチャート又は方法を示す図である。
図5】本発明の一実施形態による発話マッピングのための方法のより詳細なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、個人の認知機能をマッピングする際に用いることができるシステム100の一例を示している。システム100は端末102によって制御される。端末102は、オペレータディスプレイ104、経頭蓋磁気刺激装置(TMS)108、追跡システム112、被検者ディスプレイ114及び被検者カメラ116に直接接続され、それらを直接制御する。端末102はいくつかの追加の機能及び構成要素、例えばTMSコイルデバイス110を制御する。
【0020】
ナビゲートされた脳刺激(NBS)によるナビゲーション
ナビゲートされた脳刺激(NBS)は、個人の脳の特定の位置又はエリアの刺激である。刺激は、複数の方法で生成することができるが、好ましい非観血的方法は、被検者の脳の特定の位置に刺激を引き起こす磁場を生成することによるものである。被検者の脳の機能の一部分をマッピングするために、任意の刺激の特定の位置を正確に知るべきである。したがってNBSは、刺激デバイス110の位置、又は少なくとも被検者の頭部及び/又は脳に対する刺激デバイス110の相対位置を知るために、112等の追跡システム及び追跡ソフトウェアを利用する。
【0021】
刺激デバイス110の位置を求めることができるいくつかの方法が知られており、いくつかが、少なくとも米国特許出願公開第2008/058582号「Transcranial magnetic stimulation induction coil device with attachment portion for receiving tracking device」において、より詳細に記載されており、この特許文献は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。これらの方法のうちの少なくともいくつかは、刺激デバイス110上の又は刺激デバイス110に取り付けられた追跡マーカーを含む。さらに、マーカーは、例えば米国特許出願公開第2005/075560号「Stereotactic frame and method for supporting a stereotactic frame」に記載されているように、被検者の頭部の1つ又は複数の位置に取り付けることができる。この特許文献は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0022】
刺激デバイス110及び/又は被検者の頭部の追跡にマーカーが用いられるとき、マーカーのうちの少なくともいくつか又は全てを認識することが可能な追跡システム112が利用される。例えば、用いられるマーカーが赤外光を反射することが可能である場合、追跡システム112は赤外線追跡システムであるか、又は少なくとも赤外線追跡システムを組み込む。そのような赤外線追跡システムは、赤外線カメラ等の1つ、2つ又はそれ以上の赤外線追跡デバイスを備えることができ、それらのデバイスは、3D環境において追跡される物体を空間的に位置特定することができる。
【0023】
刺激デバイス110及び被検者の頭部の他の追跡方法は、上述した特許出願公開に記載されている。それに加えて、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく本システムとともに利用することができる対象の追跡方法を認識するであろう。例えば、そのような方法は、例えば可視光を捕捉及び/又は記録し、視覚的マーカー、光反射性マーカー、LED及び/又は対象自体を追跡することができる少なくとも1つのカメラを備える追跡システム112を含む。
【0024】
或る特定の実施形態では、刺激デバイス110、被検者の頭部、及び任意の他の所望の追跡対象(複数の場合もある)の双方を追跡する単一の追跡システム112が存在する。或る特定の他の実施形態では、或る特定の対象を追跡するために2つ以上の追跡システム112が利用されるか、又は1つ若しくは複数の対象が独自の追跡システム(図示せず)を有する。次に、追跡システム(複数の場合もある)からの情報が、直接又は間接的にNBSナビゲーションソフトウェアに送信される。
【0025】
追跡システム112からの追跡データはNBSナビゲーションソフトウェアに入力され、NBSナビゲーションソフトウェアは次に、オペレータディスプレイ104のNBS部分106にNBS情報を表示することができる。NBSディスプレイ106は、被検者の頭部に対する刺激デバイス110の位置をオペレータに示すことができることが好ましい。さらに、NBSディスプレイ106は、少なくとも刺激デバイス110の位置に基づいて、少なくとも1つの解剖モデル、例えば被検者の頭部のモデルを利用して、被検者の脳における実際の刺激位置及び/又は投影された刺激位置を示すことができる。解剖モデルの例は、被検者のCT、被検者のMRI、類似した被検者のCT若しくはMRI、又は標準的な頭部である。引用することにより本明細書の一部をなすものとする米国特許第7,720,519号「Method for three-dimensional modeling of the skull and internal structures thereof」は、NBSナビゲーションにおいて解剖モデルを選択し利用するためのいくつかの方法を開示している。
【0026】
NBSナビゲーションソフトウェアは、刺激器具を剛体として示すことが可能であり、コイル及び被検者の頭部の電磁特性をリアルタイムで又はオフラインでモデル化することによって、予測される脳活性化を示すことが可能である。これらのモデルは、球形モデリング等の既知の生体電磁法、境界要素法、有限要素法を適用することによって得ることができる。いくつかの追加機能が、実施形態例に関して、また米国特許出願第11/853,232号「A method for visualizing electric fields on the human cortex for the purpose of navigated brain stimulation」及び同第11/853,256号「Improved accuracy of navigated brain stimulation by online or offline corrections to co -registration」において、より詳細に記載されている。これらの特許文献の双方が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。さらに、当業者であれば、本明細書において説明されるNBSナビゲーションソフトウェア及び追跡システムに対する、本発明の範囲から逸脱しない変更を認識するであろう。
【0027】
刺激デバイス
被検者の脳の特定の部分を刺激するのに、刺激デバイス110が用いられる。本実施形態では、刺激デバイス110は、被検者の脳の部分を電気的に刺激することが可能な磁場を生成する磁気刺激コイルデバイスである。磁気刺激コイルデバイス110自体が通常1つ又は複数のワイヤーコイルを備え、それを電流が通過すると、コイル(複数の場合もある)が所望の磁場を生成する。適切な刺激デバイスの例が、米国特許出願公開第2008/058582号「Transcranial magnetic stimulation induction coil device with attachment portion for receiving tracking device」及び同第2008/058581号「Transcranial magnetic stimulation induction coil device and method of manufacture」に記載されており、これらの特許文献の双方が引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0028】
刺激制御部
刺激制御部は通常、刺激デバイス及び刺激制御ソフトウェアにパルスを送信するデバイスを備える。刺激制御デバイスは、例えば経頭蓋磁気刺激装置(TMS)とすることができる。TMSが自己完結型の動作及び刺激制御プログラムを含むこともできるし、刺激制御部をシステムの別の部分において、例えば自身の端末又は共有端末において管理することもできる。
【0029】
刺激制御ソフトウェアは、タイミング、強度、パルスモード、パルス数、パルス周波数等のパラメータを制御する。パラメータのうちの任意のもの又は全てをシステムによって自動的に制御することができるか、オペレータによって個々に制御することができるか、又はそれらの組合せとすることができる。刺激制御部はいくつかの入力を有することができ、2つ以上のコントローラによって部分的に制御することができる。例えば、刺激制御部は、部分的にオペレータ、ナビゲーション制御部、及び安全パラメータによって制御することができる。刺激制御部のいくつかの例は、米国特許第6,849,040号「Method and apparatus for dose computation of magnetic stimulation」に見ることができ、この特許文献は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。
【0030】
被検体の身体反応監視
脳刺激及びマッピングの間、いくつかの異なるタイプの被検者の身体反応を測定することができる。1つの身体反応監視の解決法は、被検者の身体の一部分、例えば指に取り付けられたEMGを用いることである。別の解決法は、例えば米国特許第7,440,789号「Electrode structure for measuring electrical responses from the human body」に記載されているように、1つ又は複数の電極(EEG、ECG、ガルバニック皮膚反応)をユーザーの身体に取り付けることである。この特許文献は引用することにより本明細書の一部をなすものとする。更に別の解決法は、マイクロフォンを用いて被検者からの口頭の反応を記録することである。更に別の解決法は、デジタルビデオカメラで被検者の挙動を記録することである。さらに、これらの解決法又は他の適用可能な解決法のうちの任意のものの組合せを用いることができる。
【0031】
認知刺激プログラム
認知刺激プログラムは、少なくとも1つの、好ましくは1組の提示題材を含み、この提示題材は、この題材に関連付けられたタスクを実行するように命令される被検者に対し提示される。提示題材は例えば、単一ピクチャ(picture:映像)、複数の単一ピクチャ、ピクチャ群、ビデオ、オーディオクリップ、テキスト等とすることができる。提示題材に加えて、認知刺激プログラムは、表示時間、ピクチャ間間隔、ピクチャTMS間隔、カウンター等の、題材の提示のための制御パラメータを含む。制御パラメータは、個々の提示題材、提示題材群、特定の個人、個人の群又は他の設定群(other set group)に関連付けることができる。認知刺激プログラムは、好ましくは少なくとも1つの制御パラメータに従って提示題材を提示する命令及び/又はコンピュータプログラムも含むことができる。
【0032】
本発明の或る特定の実施形態によれば、認知刺激プログラムはピクチャ及び/又は画像組を含み、これらはこれ以降、単に画像と呼ばれる。全体集合は例えば1000枚以上の画像を含むことができる。任意の1人の被検者に対し、認知刺激プログラムは、例えば限定ではないが100枚〜150枚の画像間で選択し、被検者に最初に表示することができる。被検者に示す最初の画像数は所定の数とすることもできるし、所定の判断基準が満たされるときに決めることもできる。例えば、所定の判断基準は、被検者が所定数の画像を正しく識別することとすることができ、例えば、所定の数が50であり、被検者が、示される165枚目の画像において50枚目の正しい画像を識別する場合、最初の画像組は165枚となる。
【0033】
認知タスク
被検者はキューを待つように命令され、キューが提示されると、患者は所定のタスク(例えば声を出して数えること、話すこと、画像の名称を言うこと)を実行するように要求される。タスク実行にタイムロックがかけられ、刺激デバイスはタスク実行を調整する(向上させる、邪魔をする、又は完全に中断させる)ことを試みて刺激を送達する。タスクを数回実行し、タスク実行における刺激された脳エリアの関与に関する確実性を得て、誤検出及び検出漏れの発生を低減することが好ましい。
【0034】
被検者の認知反応の監視
システムは、オペレータが実験に説明を加える(annotate)のに用いる反応デバイスも備えることができる。代替的に、システムは、例えば発話開始レイテンシ又は記録される他の身体反応の自動検出に基づいて実験記録に説明を加えるモジュールを備えることができる。自動検出は、ビデオ記録、オーディオトラック、生理的プローブからの読み値等に適用することができる。
【0035】
セッション記録
セッションデータは複数の方法で記憶される。NBSによって全ての刺激パラメータ(コイル位置、向き、及び刺激強度パラメータ)を記憶することができる。さらに、ビデオ又はオーディオトレースを記録して、一時的な、場合によっては不明確な効果の解釈を容易にすることができる。さらに、任意の生体信号を記録し、刺激パラメータ及び座標に関連付けることができる。
【0036】
図1は、大部分が自己完結型のシステム100の一実施形態を示している。例えば1つ又は複数のコンピュータとすることができる単一の端末102が、ナビゲーション制御部、刺激制御部、認知プログラム、及び少なくとも最初のセッション記録記憶装置を含む。システムへの入力は、少なくともナビゲーション制御プログラムへの入力である追跡デバイス112と、少なくともセッション記録への入力であるカメラ116及びオプションでマイクロフォン(図示せず)と、EMGデバイス(複数の場合もある)、電極等の任意の被検者の身体反応モニター(図示せず)と、オペレータにシステムのいくらか又は全ての制御を可能にする1つ又は複数のキーボード、ペダル入力、タッチスクリーン等のオペレータ入力(図示せず)とを含む。
【0037】
端末102からの出力は、オペレータディスプレイ104と、被検者ディスプレイ114と、TMS108とを含む。オペレータディスプレイ104は、例えば、好ましくは少なくともNBSディスプレイ106を表示し、例えば頭部モデル、以前の刺激位置及び/又は結果、投影された刺激位置、投影された強度、マッピングされたエリア、刺激されることになる位置、刺激パラメータ等を示す1つ又は複数のコンピュータディスプレイとすることができる。さらに、オペレータが、少なくとも任意の刺激に対する被検者の身体反応を表示する被検者反応ディスプレイ107、例えばEMGディスプレイも有することが好ましい。このティスプレイは、被検者の認知反応又は被検者の認知反応の標示、現在の又は最近の提示題材、及び全体的なシステム制御も表示することができる。被検者ディスプレイ114は、提示題材を被検者に表示するのに主に用いられることが好ましい。被検者ディスプレイ114は、例えばコンピュータモニター、テレビ、スピーカー又はそれらの組合せとすることができる。TMS108は刺激デバイス110に更に接続される。
【0038】
図示されるように、端末102はシステム100の態様を制御するための1つ又は複数の専用部分を有することができる。例えば、1つの専用セクションは、専用入力と、プロセッサ(複数の場合もある)と、ナビゲーションソフトウェアを含む記憶媒体(複数の場合もある)とを含むことができる。このとき、上記専用セクションは、ナビゲーションを制御する役割を果たし、ナビゲーションを利用するための端末102の別のセクション又は他のセクションへの1つ又は複数の出力を有することができる。同様に、認知ソフトウェアパッケージ、セッション記録、システム動作等のための専用セクションが存在することができる。
【0039】
図2は、図1のシステム100のものに類似しているが、追跡デバイス112及びTMS108に直接接続された専用NBSデバイス118が存在する点が異なるシステム120を示している。NBSデバイス118は、1つ又は複数のプロセッサ/コントローラと、コンピュータ可読媒体上に記憶されたナビゲーションプログラムとを含むことができる。さらに、NBSデバイス118はナビゲーション情報を記憶するための記憶媒体を含むことができる。ナビゲーション情報は、過去の又は最近の刺激位置と、最近の刺激デバイス110の位置と、ナビゲーションに関連するか又はナビゲーションによって求められる他の情報とを含むことができる。
【0040】
システムとともに、取り外し可能な記憶媒体(図示せず)を用いることができる。被検者又は被検者群に関する記憶された情報のうちのいくつか又は全てを、CD−ROM、DVD、サムドライブ又は外付けハードドライブ等の1つ又は複数の取り外し可能な記憶媒体に記憶することができる。端末102は、イントラネット、インターネット、サーバ、又はシステム制御プログラム若しくは被検者情報のうちのいくつか若しくは全てを記憶することができ、記憶しており、及び/又はそれらにアクセスを有する他の端末と通信することもできる。
【0041】
本発明の範囲から逸脱することなく、図1及び図2に提示されるシステムの多数の変形形態が可能である。例えば、NBSデバイス118及び追跡デバイス112は単一のハウジングに含めることができる。さらに、NBSデバイス118は、端末102に直接接続することもできるし、端末102及び追跡デバイス112に直接接続することもできるが、TMS108に直接接続することはできない。さらに、接続は図面において有線として示されているが、接続のうちの少なくともいくつかは無線とすることができる。
【0042】
図1及び図2によるシステムは、例えば臨床環境において、手術又は別の治療の前又は後に脳の認知機能をマッピングするのに用いることができる。1つの例は、被検者が脳内の発話機能の領域内又はその周囲に脳腫瘍を有するか又は有すると疑われる場合である。システムを臨床医の診療室、医師の診療室又は手術準備室(pre-operating room)において用い、腫瘍の近くの、必要な発話機能を行う脳の領域をマッピングすることができる。次に、このデータは、取り外し可能な記憶媒体に取り込まれるか又は電子送信されて、外科医又は手術室にエクスポートされ、それによって外科医は、手術後に患者に可能な限り多くの発話機能を残しておくために脳のいずれの部分を回避すべきかを知ることができる。
【0043】
この例の利点は、システムが脳に物理的に接触する必要なく3次元空間において認知機能をマッピングすることができることである。したがって、臨床医は、必要なだけの時間を費やして、場合によっては更にはいくつかのセッションにまたがって、脳の所望のエリアを適切にマッピングすることができる。そして、手術中、外科医は脳の特定の部分の詳細なマッピングされたデータを有することができるか又はインポートすることができるので、最初に脳機能をマッピングするのに貴重な時間を費やす必要がない。
【0044】
本発明の或る特定の実施形態の一般的な使用は、観血的処置中の回避及び/又は安全のための体積情報(正:volume)を求めることである。多くの例において、最も有用となるには、1cmの単位の分解能を有する体積情報(正:volume)を有することが好ましい。マッピングデータは通常、試験された位置、正の認知反応又は負の認知反応について示された2種類のデータを含むことができる。例えば、マッピングデータは、特定の1cmの部分について、(この部分又は1つ若しくは複数の近傍部分の刺激中に発話が影響を受けたので)この部分が発話に必要とされているか、又は(この部分又は1つの、複数の若しくは全ての近傍部分が刺激中に影響を受けなかったので)この部分が発話に必要とされていないことを示すことができる。そのような場合、負の認知反応データは、正の認知反応データよりも正確となり得る。したがって、非発話データ又は非認知反応データは、手術又は手術計画に示される及び/又は用いられる、主要な、主な、又は唯一のマッピングデータとすることができる。
【0045】
さらに、手術中に、システムからの3次元認知マッピングデータを、脳の表面又は3次元マッピングと組み合わせ及び/又は統合することができる。そのような実施形態では、脳又は腫瘍の一部分が取り除かれ、次に脳が欠落した部分に適合する(「脳移動(brain shift)」として知られる現象)と、マッピングデータは3次元認知データを新たな脳構成と相関させることができ、それによって新たな構成における脳の認知機能を、元の認知マッピングデータに基づいて依然として知ることができる。
【0046】
図3は、システム130からなる第1の部分を有する一実施形態を示している。これは図1及び図2に関して説明したものに類似しているが、システム140からなる第2の部分が第1の部分と別個になっている。システム130は、端末102と、オペレータディスプレイ104と、TMS108と、刺激デバイス110と、追跡デバイス112とを備える。システム130は、磁気脳刺激及び/又はナビゲートされた脳刺激及び/又は脳機能マッピングが可能な標準的な経頭蓋磁気刺激システムとすることができる。
【0047】
システム140は、有線又は無線でシステム130と接続して経頭蓋磁気刺激を通じた認知脳マッピングが可能な認知パッケージである。認知パッケージは、認知端末142と、ディスプレイ144と、記録デバイス146とで構成される。認知端末142は、認知プログラムの制御に関して上記で説明したような端末102に類似することができる。同様に、ディスプレイ144及び記録デバイス146は、それぞれ上記で説明したような被検者ディスプレイ114及びカメラ116に類似することができる。
【0048】
本実施形態では、認知パッケージ140は医療スタンド上に示されており、移動可能であることが好ましい。本実施形態の利点は、単一の認知パッケージを、いくつかの異なるTMS又は他のシステムとともに用いることができることである。同様に、いくつかの異なる認知パッケージを単一のTMSシステムとともに用いることができる。認知パッケージを、例えば手術前マッピングから手術室に持ち込んで、手術直前、手術中及び/又は手術直後に認知機能をマッピングするか又は認知機能のマッピングを検査することができる。
【0049】
認知パッケージ140は、他のタイプの脳刺激システム及び方法とともに用いることもできる。
【0050】
認知パッケージ140は、システム130の1つ又は複数の部分と直接通信することができる。例えば、認知端末142は、端末102が同じ端末の別個の部分であるかのように、その場合と同様に端末102と直接通信することができる。認知端末142はTMS108及び/又はNBS118と直接通信することもできる。さらに、端末102又は認知端末142のいずれかをシステムの主要コントローラとすることができる。
【0051】
1つの例では、認知パッケージ140は被検者がディスプレイ144上に提示された題材を見ることができるように被検者の前に置かれる。この際、オペレータはシステム130の端末102を通じて認知パッケージを制御することが可能である。オペレータがシステム130からの刺激シーケンスを開始すると、認知パッケージ140は刺激シーケンスの終了まで自律的に動作することができる。自律動作中、認知端末142はTMS108を直接制御及び/又は始動することもできるし、TMS108を制御及び/又は始動する命令を端末102に送信することもできる。同様に、NBS118、又は端末102のNBS部分は、認知端末142と直接インタラクトすることもできるし、端末102からの命令を通じてインタラクトすることもできる。
【0052】
図4は、認知機能をマッピングする例示的な方法200を示している。方法はシステムにおいて患者/被検者を設定することから始まる(202)。これは通常、任意の必要な身体監視デバイス及び追跡物体を被検者に取り付けることを含む。さらに、このステップは、追跡デバイス、追跡対象、追跡システム、身体監視デバイス、ディスプレイ、及び/又は他の必要なシステム構成要素を較正することを含むことができる。オペレータはオプションで、文献情報、位置、日付、時刻等の被検者情報及び/又はセッション情報を入力又はロードすることができる。
【0053】
方法の開始時(202)に、オペレータはナビゲーションにおいて用いられることになる解剖モデルも選択することができる。上記で説明したように、オペレータは標準的な頭部等の予めロードされた解剖モデル、被検者に類似した頭部モデル又は被検者自身の解剖モデル等を選択することができる。この段階において、オペレータは、被検者自身の解剖モデルをロードするか、例えばMRI又はCTから被検者のための解剖モデルを作成することもできる。この際、選択された解剖モデルは、オペレータのディスプレイ104のNBS表示セクション106に表示されることが好ましい。
【0054】
全ての必要な較正が行われ、基本情報が入力されると、オペレータは少なくとも、被検者の解剖モデルと、頭部モデルに対する刺激デバイス110の画像とをオペレータのディスプレイ104のNBS表示セクション106に見ることができるはずである。オペレータはまた、少なくとも、例えばディスプレイ104の部分107上の身体反応モニター(複数の場合もある)、例えばEMGディスプレイからの出力を見ることができるはずである。
【0055】
ステップ204において、被検者の運動しきい値(MT)がわかっているか否かが判断される。被検者がTMSを受け、被検者のMTがわかっている場合、オペレータは入力デバイス、例えばキーボード又はタッチスクリーンを介して被検者のMTを入力することができる。さらに、被検者又はオペレータが取り外し可能な記憶媒体又は患者のMTへの他のアクセスを有する場合、上記記憶媒体又は情報は既にロードされていなければこの時点でロードすることができる。次に、オペレータはMT値を試験してその精度を検査するか、又は直接ステップ208に進むことができる。
【0056】
例えば、被検者のMTがわかっていないか、利用可能でないか、又は所与の値が信頼できない場合、オペレータは被検者のMT206を決定することに進むことができる。MTを決定するための多数の方法が知られている。例えば、オペレータは一連の刺激を実行し、MTが決定されるまで、TMSパラメータ、タイミング及び強度を手動で調整し、ディスプレイ107を監視することができる。別の例は、プログラムによって、MTが決定されるまで、選択されたパラメータ(手動で調整されるか又は自動で調整される)において解剖モデルの選択された位置を刺激し、ディスプレイ107を監視するようにオペレータに指示することができるというものである。さらに、システムは、MTを求めることができるプログラムも含むことができる。
【0057】
ステップ204は本実施形態におけるMTに関して説明されているが、MTの代わりに他のしきい値を用いることができる。発話停止しきい値等のしきい値、例えばタスクにおいて発話停止又は中断を引き起こす刺激しきい値を、MTと併せて又はMTの代わりに用いることができる。例えば特定の認知機能を担うエリア等、運動系の外側の脳エリア(複数の場合もある)のEEGから求められる興奮性インデックスも、この意味においてしきい値として用いることができる。多くの実施形態において、しきい値は、認知マッピングのための刺激レベル、例えば強度の開始点として、及び/又は刺激レベル開始点の決定への入力、例えば被検者のデフォルトパラメータとして用いるために決定又は入力される。したがって、適切な又は好ましい刺激レベル開始点として又はそれを求めるのに用いることができる他のしきい値を、MT及び発話停止しきい値と併せて又はそれらの代わりに用いることができる。
【0058】
被検者のMTがシステム内にあるとき、認知基準がわかっているか否かを判断することができる(208)。例えば、システムが発話マッピングのために用いられる場合、認知基準は発話基準となる。発話基準は少なくとも部分的に、提示題材に関連して要求されたタスクを実行する被検者の能力、TMSなしで提示題材を見てから/聞いてからの被検者の反応時間、又はそれらの組合せである。被検者の発話基準を構成することができる追加の情報は、基準中に生じたエラーの数を含む。方法の残りの部分は、発話である認知機能に関して説明されるが、本方法は上記で検討したような他の所望の認知機能をマッピングするために用いることができる。
【0059】
被検者の発話基準がわかっていない場合、この発話基準を決定する(210)。被検者の基準を決定及び/又は記録するいくつかの方法が可能である。1つの例では、認知ディスプレイ114、144は発話マッピングにおいて用いられることになる提示題材の全てを順番に表示する。提示題材が一連の静止写真又は静止画像である場合、それぞれが提示され、被検者の反応が記され、測定され、及び/又は記録される。
【0060】
最良のマッピング結果を達成するために、提示題材は被検者にとって明白であるべきであり、被検者の反応はオペレータにとって明白であるべきである。例えば、画像が示され、被検者が画像又は画像の主題を認識しない場合、その画像は、マッピング中に用いられることになる提示題材の組から取り除くことができる。同様に、被検者が、画像が何であるか確信がないか、又は1つの画像について2つ以上の名称を与える場合、被検者の名称の選択を記す/記録することもできるし、画像を取り除くこともできる。例えば、自動車のピクチャが用いられるとき、或る被検者の反応は、自動車の型及びモデルの名称を言うことである可能性があり、別の被検者の反応は、「自動車」である可能性がある。所望の反応が「自動車」である場合、第1の被検者の反応を記す/記録することもできるし、そのピクチャを提示題材の組から取り除くこともできる。
【0061】
1つの例では、オペレータは、提示題材がいつ表示されるかを手動で選択し、提示題材の或る特定の部分が提示題材の組から取り除かれるべきであるか否かを判断することによって、基準決定ステップ210を制御することができる。オペレータは、決定ステップ中に他の情報を入力するか又はパラメータを編集することもできる。しかしながら、被検者の反応のタイミングが基準決定のために記録されることになるとき、基準決定の少なくとも一部分について記録デバイスを利用することが有用である。
【0062】
被検者の基準を決定する間、記録デバイス116、146を利用して、被検者の基準反応を記録及び/又は測定することができる。上記記録デバイス、例えばカメラは、単独で又はタイミング及び/若しくは認知プログラムと併せて各提示題材への被検者の反応時間を求めることができる。さらに、上記記録デバイスはまた、被検者の反応を追跡、記録及び/又は判断し、認知プログラムと接続して、僅かなオペレータ入力を用いて又はオペレータ入力を用いることなく被検者の基準を決定することができる。
【0063】
認知機能を正確にマッピングする重要な部分は、被検者のための正確な基準を確立することである。本発明の或る特定の実施形態によれば、基準は、被検者が外部脳刺激なしでタスクを正確にかつ繰返し実行する能力である。そのようなマッピングを必要とする多くの被検者が或る種の外部又は内部の脳外傷を被っているので、正確な基準を確立することは困難でありかつ時間がかかる可能性がある。
【0064】
本発明の或る特定の実施形態によれば、被検者が行うことを要求されるタスクは、画像間に比較的短い空間を有する複数の画像を識別することである。以下の例は、被検者のための基準及び認知マッピング中に用いる有用な画像組を正確に決定するための方法を説明するものである。
【0065】
第1の例では、被検者は所定の間隔で、例えば0.1秒〜5秒の間隔で複数の画像を示される。これらの複数の画像は、完全な画像組又は完全な画像組の部分組とすることができる。実際には、100枚〜150枚の範囲をとる画像の初期画像組を示すことは、認知マッピング中に用いられる許容可能なサイズの画像組を生成するのに十分であった。
【0066】
画像が被検者に初めて提示されるとき、被検者は例えば、許容可能な時間内に画像を識別する、回答する前に躊躇する、画像を誤って識別する、回答しない、回答できないことに苛立つ、画像に対する複数の回答間での選択に行き詰まる等の可能性がある。或る特定の実施形態では、被検者の実際の回答及び場合によっては回答の仕方に関する記録を行うことが好ましい。これは任意の数の方法で行うことができる。基準計算中に刺激が生じないので、被検者の反応の視覚的記録及び/又は音声記録が存在する可能性がある。次に、この反応は、対応する画像とともにシステムの短期メモリ又は長期メモリに記憶することができる。被検者の口頭での回答のテキストバージョンを、対応する画像、及び/又は被検者の回答及び/又は回答の仕方の手動での入力及び/又は検査とともに保存するための音声認識ソフトウェアの使用を含む更なる記録方法も用いることができる。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱しない、被検者の反応(回答及び回答の仕方)を記録及び/又は記憶する他の代替形態を認識するであろう。
【0067】
ほとんどの状況において、被検者が画像を適切に識別することができないか、比較的長い時間躊躇するか、画像に対する単一の回答を選択することができないか、又は別の形で許容可能な時間内に画像を明白に識別することができない場合、その対応する画像は認知マッピング中に用いられることになる画像組から取り除かれる。人によって同じタスクを行うのにかかる時間の長さが異なるので、躊躇は定量化するのが難しい問題である。したがって、本発明の或る特定の実施形態によれば、初期画像の完全な組が被検者に示され、継続する画像組から画像を破棄する前に被検者の反応が記録される。そのような実施形態において、システム及び/又はオペレータは、被検者からの最も成功した反応に対応する画像組を選択することができる。この組は、所定の数の画像、又は単にこれらの画像の全て若しくはこれらの画像のうちの最も良好な反応を有する一部分とすることができる。
【0068】
或る特定の実施形態では、初期画像組が示され、不成功の反応を有する画像が破棄されると、プロセスは1つ又は複数の追加のサイクルにわたって繰り返される。或る特定の実施形態では、画像が認知マッピング中に用いられることになる最終的な画像組において使用可能となるには、被検者から特定の画像への少なくとも3つの成功した同一の反応を受信することが必要である。しかしながら、必要な成功した反応数及び反応間の類似度は、被検者及び/又は他の環境要因の条件に基づいて変更することができる。
【0069】
被検者が2度目又はそれ以降に画像を示されるとき、被検者の反応は、被検者が1度目に画像を見たときに関して上記で説明したものと同じである可能性もあるし、異なる場合もある。例えば、被検者が反応するのに必要な時間又は回答そのものに差異が生じる可能性がある。例えば、被検者は画像を見て1度目に「カップ」と回答し、2度目に「マグ」と回答する場合がある。双方が単独で許容可能な回答であるが、ユーザーが刺激なしで反応を変えたこと(意味論的エラーとして知られる)は、多くの場合に画像を破棄する理由となり得る。
【0070】
意味論的エラーの判断はいくつかの方法で達成することができる。或る特定の実施形態では、被検者の以前の反応又は反応の一部分は、システムオペレータに表示及び/又は提示される。例として、システムが音声認識ソフトウェアを用いる場合、システムが1つ又は複数の以前の反応から認識した単語がオペレータに対し表示される。同時に又は代替的に、システムは、例えばヘッドセットを通じて、オペレータに対しユーザーの1つ又は複数の以前の反応を再生する場合がある。次に、システム、オペレータ又はそれらの組合せによって、反応が類似しているか、異なっているか又は同一であるかの判断を行うことができる。同様に、オペレータは被検者の初期反応において入力を行い、単純なチェックボックス又は同様の入力を介して、後続の反応が初期反応に一致しているか又は一致していないかを単に示すことができる。そのようなシステムは完全に自動化することもでき、類似性又は差異のオペレータによる検査又は確認を含んでも含まなくてもよい。或る特定の実施形態は、初期の及び/又は1つ若しくは複数の被検者の以前の反応又はその反応の一部分のオペレータへの表示又は提示を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0071】
本発明の或る特定の実施形態では、オペレータは被検者に表示された以前の画像及び現在の画像の双方を示される。これによって、オペレータが、以前の画像に対する被検者の反応に関する任意の観察を行い及び/又は記録するためのいくらかの猶予時間が与えられる。同様に、或る特定の実施形態では、オペレータに単なる以前の画像よりも多くのもの(例えば更なる以前の画像、完全に記録されていない反応を有する画像、次回の画像、上記画像のうちの任意のものの一部分、以前の反応若しくは現在の反応又は上記反応の一部分)を示すことができる。
【0072】
元の画像組から認知マッピング中に用いられることになる最終的な画像組を求める実際の方法は、多岐にわたる代替的な方法において達成することができる。例えば、画像は上述した理由のうちの任意のものにより組から即座に破棄することもできるし、組内に留まって、エラーが生じた後複数回示されることもできる。同様に、画像は一ラウンド内で順番に又はランダムに示すことができる。画像は単にランダムに示すこともでき、それによって、他の画像がそもそも示される前に、2つ以上の画像が繰り返される場合がある。被検者の反応によって示される後続の画像を決めることもできる。例えば、被検者が衣服の画像に適切に反応するのが困難である場合、システムは衣服の新たな画像を示さないことを選択することができる。
【0073】
実際に、患者は100枚〜150枚の画像組のうち、20枚〜100枚の画像に許容可能に反応することが可能であった。認知マッピングにおいて用いられることになる画像組の大きさは、複数の要因に基づいて変動することができる。しかしながら、システムのオペレータが或る特定の組の大きさを優先する場合、基準決定は、適切な数の画像が得られると終了することができる。
【0074】
さらに、本発明の或る特定の実施形態では、基準決定中に基準インデックスを特定することが好ましい。インデックスは例えば以下のもの、すなわち、示される画像の総数、示される一意の画像数、示されるカテゴリ(機械、人、アクション)当たりの画像数、エラーの総数、エラーの種類、意味論的エラーの数、躊躇の数、躊躇の長さ、同じ画像に対する複数のエラーの数、単一の画像に対する単一のエラーの数、連続するエラーの数、苛立ちのレベル、エラーの尤度に関連する苛立ちのレベル、上記の及び/又は任意の他の関連データ又は情報のうちの任意のものに関するパーセンテージ又は比のうちの1つ又は組合せに基づくことができる。基準インデックスは、例えば表示される全ての画像に対するエラーの数の単純なパーセンテージとすることができる。基準インデックスは、被検者がタスクを実行する能力を定量化するための複雑な独自の公式(proprietary formula)の結果とすることもできる。本発明の或る特定の実施形態による基準インデックスは実質的に、完全な数の反応を有する画像数と比較して、同様の画像に対するいくつかの正しい反応のうち、被検者が1つのみのエラーを生じる回数に基づく。
【0075】
本システムは多くの場合に、腫瘍を有するか又は脳卒中等の脳損傷を被っている被検者とともに用いられる。したがって、被検者は或る程度の失語症を有する場合がある。いかなる度合いの失語症も、被検者がタスクを繰返し行う能力に影響を及ぼす可能性がある。失語症が進行した被検者の場合、認知マッピングのための適切な画像集合を選択するための条件を緩和することができる。条件が緩和される度合いは、少なくとも部分的に、被検者の1つ又は複数の基準インデックスに基づくことができる。
【0076】
さらに、基準インデックスを用いて複数の刺激セッション中の進行を監視することができる。例として、1つ又は複数の刺激セッション後に、被検者が第1の組と異なる画像組を用いて新たな基準決定を受ける場合、第1の組から計算された基準インデックスを第2の組から計算された基準インデックスと比較して可能な改善を監視することができる。複数の基準インデックスを計算することによって、例えば複数の刺激前計算及び/又は複数の刺激後計算によって、被検者の失語症の進行又は後退と切り離して、要因を漸進的に取り除くことが可能である。
【0077】
本発明の或る特定の実施形態によれば、基準決定中に、画像表示の時刻から発話開始時刻を測定することができる。被検者の平均時間及び/又は時間範囲を測定及び/又は計算することができる。例えば、平均的な人は、400ms〜700ms以内に反応する。しかしながら、人によってはその範囲外となり及び/又は長い通常反応範囲を有する可能性がある。この情報は、基準決定及び/又は刺激中に躊躇が生じたか否かを判断するときに考慮に入れることができる。このタイミングは、音声記録に基づいてリアルタイムで又は後処理中に測定することができる。いくつかの実施形態では、タイミングは、発話開始を判断する専用手段によって測定することができる。
【0078】
上記の例及び実施形態を可聴反応の記録及び測定に関して説明したが、被検者が理解可能な及び/又は記録可能な可聴反応を誘発することが可能な場合には当てはまらない。しかしながら、本明細書において説明したシステムは、発話する意図又は可聴でない形で反応する意図を検出する手段が用いられるとき、同じように機能する。一例は、被検者の発話の意図及び/又は意図される回答を判断するのに十分感度が高い、個人の喉及び/又は首に接触するセンサーである。極端な被検者の場合のそのような変更形態は、本発明の範囲から逸脱することなく当業者に認識可能となろう。
【0079】
本発明の或る特定の実施形態によれば、上記で説明したような基準決定は、認知マッピングの前に複数回(例えば2回以上)実行される。上記後続の基準決定は、初期画像及び/又は選択された画像の同じ組、同様の組、部分的に同様の組、又は異なる組を用いて実行することができる。
【0080】
図3に関連して説明されるようなシステムでは、認知パッケージ140を、例えばTMSシステム130から離して利用して被検者の発話基準を決定することができる。示されるようなモバイル認知パッケージ140を用いて、被検者の発話基準を、例えば診療室又は手術準備室において決定し、次に発話マッピングのためのTMSシステムを有する部屋に持ち込むことができる。別のオプションは、被検者の発話基準を決定することができる固定の認知パッケージ又は他の適したデバイスを特定の位置に有することである。このとき、その情報は取り外し可能な記憶媒体上にロードすることもできるし、マッピングシステム内に電子的に移し、ロードすることもできる。
【0081】
上記の例のうちの任意のものにおいて、被検者の発話基準を決定するシステムは、完全に自動化するか又は被検者によって実行し、オペレータ入力を一切伴わないことができる。そのような実施形態では、発話基準は、ユーザーによって自宅で、例えばウェブカメラを有するコンピュータにインストールされたプログラムを用いることによって若しくはそのコンピュータによってアクセス可能なウェブサイトを利用することによって、又はキオスクによって決定することさえできる。
【0082】
発話基準がわかっており、適切な情報、例えば反応時間、認知パラメータ、或る特定の提示題材の除去、被検者反応の表記等が被検者のMTとともに入力されると、発話マッピングパラメータ212を設定することができる。この図4は発話基準の前にMTが決定されることを示しているが、2つのステップは、例えば図5に関して検討されるように逆に行うことができる。
【0083】
発話マッピング214は初期パラメータから開始する。初期パラメータはデフォルトパラメータとすることもできるし、被検者又は被検者群に関するシステム内の情報のうちの任意のもの又は全てに基づくこともできる。オペレータは初期パラメータを用いて、脳の予期される発話エリアにおいてマッピングを開始する。マッピングは概して、被検者に題材を提示している間に脳の特定の部分を刺激し、刺激中に、被検者に題材の名称を言うように試みさせ、刺激されている特定の部分が発話に用いられるか否かを判断し、この特定の部分を結果を用いてタグ付けし、次に脳の別の特定の部分を刺激することを、エリアが十分にマッピングされるまで行うことからなる。
【0084】
発話マッピング214中、発話エリア内の脳のいくつかの特定の刺激された部分は発話に対する影響を引き起こすはずであり、他の部分は引き起こさないないはずである。いくつかの、又はより多くの特定の位置を刺激した後、刺激が被検者において所望の結果を生じているか否かを判断するために結果を評価すべきである(218)。
【0085】
TMSは、被検者の認知機能に対するいくつかの異なる顕著な影響を有することができる。特に発話に関して、脳の或る特定の部分のTMSは、引用することにより本明細書の一部をなす、Corina、D.P.他「Analysis of naming errors during cortical stimulation mapping: Implications for models of language representation」(Brain & Language (2010),doi:10.1016/j.bandl.2010.04.001)においてより詳細に記載されている、以下の影響のうちの少なくともいくつかを引き起こすことができる。
【0086】
無反応エラー−刺激によって、発話を制御する筋肉が動作不能になる可能性がある。刺激中にこの影響を受けている間、多くの場合に、被検者は発話を試みて、単語を形成又は明確に発声することができないことを認識する。しかしながら、刺激の直前又は直後は被検者の発話は正常となる。刺激は被検者の画像認識を妨げるか、又は別の形で被検者が画像の名称を言うのを妨げる可能性もある。この事象において、被検者は被検者ディスプレイを見続けるが提示題材に一切反応しない場合がある。
【0087】
単語のスイッチング又は意味性錯誤症−刺激によって、被検者は単語を互いにスイッチング又は置換する可能性がある。例えば、被検者は猫の画像を示される可能性があり、被検者は刺激中に犬又は自動車と言う場合がある。被検者は意識せずに置換を行い、誤って発話していることに気付かない場合もあるし、スイッチングを認識する場合もある。単語のスイッチングは、脳の特定の部分が発話において用いられていることの顕著な影響であるので、したがって基準決定中に被検者が提示題材を明確に識別することができることを確実にすることが重要である。発話基準決定中に被検者にピクチャが複数回示され、被検者の反応が変動する場合、これは単語のスイッチングを明確に検出することができるように画像を取り除くのに十分な理由となる。例えば炭酸飲料の缶のピクチャが複数回示され、被検者の反応が一度は「炭酸飲料」であり、次回は「缶」である場合、画像は取り除かれるべきである。
【0088】
造語症−単語のスイッチングと同様に、刺激によって被検者が不可解な、不完全な、たどたどしい、又は別の形で不鮮明な単語を発する可能性もある。刺激された発話の結果は、基準反応と同様であるが何らかの形で顕著に変わっている場合がある。発話マッピングが可能な限り正確であることを確保するために、オペレータ又はシステムの一部分によって、刺激された発話の結果と基準反応との間の関係に細心の注意を払い、いかなる顕著な差異も検出すべきである。被検者の発話全体における異常も考慮に入れるべきである。例えば、被検者が基準決定中に時々単語を不明瞭に発音するか又は苦労して口ごもる場合、被検者が基準決定中に或る特定の画像について特に口ごもらなかったというだけでは必ずしも、被検者が刺激中にその画像について口ごもったことにより、脳のその特定の部分が発話に関連していることを意味しない。そのようなシナリオでは、その時点で又は後の時点で脳の特定の部分を同じ提示題材又は異なる提示題材で再刺激することが有利であり得る。
【0089】
刺激中に、オペレータ又はシステムによって考慮に入れるべき他の発話特異性に気付く場合がある。オペレータ又はシステムは、被検者の基準と比較して全ての反応を考慮に入れ、発話マッピングが有効であるか否かを判断すべきである。結果の評価(216)中に、例えば刺激のうちのいずれも効果を生じず、マッピングが完全でない場合(218)、用いられている発話マッピングパラメータが許容可能及び/又は適切であるか否かを判断することができる(220)。
【0090】
パラメータが許容可能であると判断される(220)場合、発話マッピングは同じ位置若しくはエリア、又は好ましくは新たな位置若しくはエリアで継続することができる(214)。パラメータが許容可能でないと判断される場合、新たなパラメータを設定することができ(212)、発話マッピングを新たなエリア、又は好ましくは同じエリアで開始する(214)ことができる。セッションのための発話マッピングが完了した(28)と判断されると、発話マッピングが終了する(222)。
【0091】
認知マッピング中に、脳の1つ又は複数のエリア及び/又は領域がマッピングされ、それによって、上記エリア及び/又は領域のうち、認知機能を担う脳のエリア及び担わない脳のエリアの立体表現が定義される。上記で説明したように、多くの場合に、負の反応エリアが正の反応エリアよりも正確であることが起こり得る。さらに、被検者の反応の誤った読み値が存在する可能性がある。したがって、本発明の或る特定の実施形態では、脳の特定のエリアが複数回刺激され、各刺激からの反応が記録される。
【0092】
同じスポットを複数回刺激するとき、多くの場合に、複数の刺激を或る時間期間にわたって分散させて、同じスポット又は近傍のスポットの以前の刺激からの長引く影響が存在しないことを確実にすることが有利である。さらに、異なる画像を1回又は複数回示しながら同じスポットを複数回刺激することが有利であり得る。
【0093】
マッピングの進行を追跡するために、オペレータを支援する1つ又は複数のプログラム又はツールが存在し得る。本発明の或る特定の実施形態によれば、各位置が刺激された回数を追跡する自動ツール又は手動ツールが存在する。さらに、上記ツールは、各位置からの反応、及び/又は最後の刺激及び/又は最後の近傍の刺激からの実際の時間の長さ若しくは相対的な時間の長さ等の他のデータを示すこともできる。
【0094】
ツールは、各位置、エリア、領域、又はそれらの組合せのカウンターのように基本的なものとすることができる。基本ツールは、解剖モデルにわたって、自動的に生成されるか又はシステムのオペレータによって描画されたグリッドも含むことができる。このとき、ツールは例えばグリッドボックス、線、交点又はセクター等のグリッドのエリアについて総刺激量を示すことができる。基本ツールは、上記で検討したような追加情報、又はシステムのオペレータにとって価値のある他の情報も示すことができる。ツールは、位置又はエリアが、結果を証明するための受容可能なレベルの刺激を受信したとき、及び/又は或る特定の時間期間にわたってエリアの最大レベルの刺激に近づくか若しくは到達しているときを示すことができる。
【0095】
ツールを進化させて、次に刺激する1つ又は複数の優先的位置を示すこともできる。本発明の或る特定の実施形態では、ツールは、どこの後続の刺激を提案するかを判断するときに、過去の結果と、或る位置、近傍の位置、並びにより大きな関連エリア及び領域の刺激のデータとを考慮に入れる。また、ツールは、用いられた画像を考慮に入れ、次に示される刺激位置において表示されることになる画像を提案するか又は自動的に選択することができる。
【0096】
本発明の或る特定の実施形態によるツールは、或る特定のエリアの関与に関する判断が証明されるか否かを判断する際に、以前の結果も考慮に入れることができる。例えば、負の反応は正の反応よりも正確であり得るので、エリアが例えば3つの負の反応を有する場合、そのエリアは認知機能に関与していないことが証明されたとみなすことができる。一方、同じツールは、エリアが認知機能に関与していることを証明するのに3つの正の反応では十分でないと判断する可能性があり、したがって例えば関与を証明するのに4つの正の反応を必要とする場合がある。更なる拡張及び変形は容易に明らかとなろう。例えば、ある一つの位置が混合した反応を誘発する場合、例えば1つの負の反応の後に2つの正の反応が続く場合、ツールは、その位置のより完全な試験が必要であることを示すことができる。これは、エリアが脳の認知機能部分と非認知機能部分との間の特定された境界領域上にある場合にも当てはまり得る。
【0097】
ツールは、以前の刺激及び/又は以前の刺激の後処理からの以前のデータ又は他のマッピング手段を含む図録(atlas)も含むことができる。そのような図録を用いて、再試験のための特定の位置を特定し、例えば結果を確認するか又は変更/改善を検査することができる。本明細書において列挙されるツールは、単に適用可能なツールの非限定的な例として意図されている。システムに利用可能であり、認知マッピングプロセスにおいて役立つことができる情報を用いるツールの多数の変形形態を利用することができ、これらは本明細書に包含され、本発明の範囲から逸脱しない。
【0098】
部分的に又は完全に自動化された状態において、上記で説明したツールは、認知マッピング中のTMSコイル若しくはデバイスの位置決め及び/又は刺激のいくらか又は全てを指示するのに用いることができる。
【0099】
図5は、図4に関して説明したような方法200に類似した発話マッピングのための例示的な方法240を示している。開始時(242)に、被検者/患者の基準行動が記録される(244)。本例において、被検者は物体の一連のピクチャを示され、ピクチャ内の物体の名称を可能な限り迅速に口頭で言うタスクを提示される。被検者の反応及び反応時間はオペレータによって記録することができ、及び/又は1つ若しくは複数のカメラ及び/又はマイクロフォンによって自動的に記録することができる。
【0100】
1つの例では、各ピクチャは所定の長さの時間にわたって示され、その後、第2の所定の長さの時間にわたって、黒いスクリーン、空白スクリーン又は基準スクリーンが表示され、その後、次のピクチャが表示される。或る特定の実施形態では、画像間に空白画像又は黒い画像を伴うことなく画像を連続して示すことができる。各ピクチャが表示される所定の長さの時間は一定であることが好ましく、本明細書ではピクチャ表示時間と呼ばれる。ピクチャ間の所定の長さの時間は一定であることが好ましく、本明細書ではピクチャ間間隔(IPI)と呼ばれる。デフォルトの時間の例は、患者がタスクを行う能力に依拠して2秒〜5秒の範囲の連続ピクチャ間間隔(IPI)、約700msの表示時間、及び200ms〜400msの範囲のピクチャ−刺激間遅延である。
【0101】
被検者がタスクを行う能力が判断され(246)、被検者が満足にタスクを行うことができない場合、タスクの少なくとも1つのパラメータが調整される(248)。被検者が満足にタスクを行うことができない例は、被検者が1つ又は複数のピクチャを全く認識しないこと、画像の明確な名称を言うことができないこと、ピクチャ表示時間中に1つ又は複数のピクチャを認識することができないこと、ピクチャ表示時間中又はピクチャ表示時間及びIPIの組合せ中に画像の明確な名称を言うことができないこと、ピクチャが過度に迅速に表示されるか又は過度に高速に連続して表示されることにストレスを受けること等がある。被検者がタスクを行う能力を促進するために変更することができるパラメータは、IPI、表示時間を調整すること、及び/又は難しいか若しくは厄介なピクチャを取り除くことである。
【0102】
一度に1つのパラメータのみが調整されることが好ましいが、ステップ248において複数のパラメータを同時に調整することができる。新たなパラメータが設定され、好ましくは記録されると、新たなパラメータを用いて基準行動が記録され(244)、患者がタスクを満足に行うことができるか否か(246)が再び判断される。上記で検討したように、基準タスク記録は脳刺激を一切伴わずに行われる。したがって、プロセスの一部又は全体をTMSから切り離して行うことができ及び/又はTMSに接続せずに行うことができる。
【0103】
基準決定及びマッピング中の双方において、1つ又は複数の追加のキュー又はトリガーを画像の表示又はタスクの実行に加えることが有利であり得る。例えば、ピクチャを呼吸及び/又はまばたきに同期させることが有利であり得る。被検者が通常通り息を吸い、まばたきをし、又はいくつかの他の意識的な又は無意識の活動を行っている間にピクチャが示される場合、これは場合によっては、反応タイミングのばらつき等、反応の何らかの部分に影響を及ぼす可能性がある。したがって、本発明の或る特定の実施形態によれば、呼吸又はまばたき等の活動のキューが存在し、それらの活動のキューが画像表示又はタスクとのタイミングと合うように調節される。
【0104】
キューは例えば、音声キュー、視覚キュー又は触覚キューの形態をとることができる。ビープ音、スクリーン上のフラッシュ、一吹の空気、光、圧力又は他のタイプのキューを用いて被検者に或る特定の動作を行うように命じる。次に、システムは画像を表示するか、又は被検者に対し、活動が被検者の反応に干渉しないことは明白である十分に後の時点においてタスクを行うように要求することができる。これらのキューは、所定の時間又は間隔において設定することができる。それらのキューは、オペレータが必要と考える場合、オペレータによって開始することもできる。さらに、システムは例えば音声記録又はビデオ記録を通じて、まばたき及び呼吸等の被検者の無意識の活動を自動的に検出し、それに従って画像の表示時間又はタスクのタイミングを調整することができるので、上記活動は反応に干渉しない。
【0105】
基準タスク記録が終わると、上記で検討したように運動しきい値を記録することができる。さらに、この時点において他のTMSプロセスを実行することができる。例えば、発話マッピングの前に運動マッピング及び/又は手の運動領域マッピングを行うことができる。
【0106】
デフォルトパラメータを用いて発話マッピングが開始される(252)。デフォルトとして用いられる通常の刺激パラメータは5Hz〜10Hzの周波数で被検者のMTの90%〜130%の強度の2〜10パルスである。例えば、7Hzの周波数で120%のMT強度の5パルスはデフォルトの刺激パラメータに十分適している。更なる例は10Hzの7パルスである。しかしながら、適切なパラメータは例えば1Hz〜4000Hzの周波数で被検者のMTの1%〜120%の強度の1〜100パルスの範囲を取ることができる。或る特定の実施形態では、単一のパルスの代わりに高周波数バーストが用いられる。高周波数バーストは200Hz〜1000Hzの範囲をとることができ、各バースト内に2〜10パルスを含むことができる。さらに、刺激のためのデフォルトピクチャ表示パラメータ、例えばピクチャ表示時間、IPI等は、被検者の発話基準に基づくべきである。
【0107】
刺激に対する被検者の反応を増大させるか、又は進行中の認知脳プロセスをより効果的に中断するために、ペアパルス(二重パルスとしても知られる)又は高周波数バーストを用いることができる。ペアパルス又はパルスのバーストの最初のパルス及び後のパルス(複数の場合もある)の強度は等しくすることができるか、実質的に等しくすることができるか、又は最初のパルスは第2のパルス若しくは後のパルス(複数の場合もある)よりも高いか若しくは低い強度を有することができる。
【0108】
一連のRTM刺激パルスの代わりに二段階二重パルス刺激を用いることができる。二段階二重パルスは、2つの完全な正弦波を含むか又はそれらからなる。第1の二段階正弦波パルスが刺激コイルを通じて送達されると、次に第2の二段階正弦波パルスが送達される。
【0109】
第2のパルスは慣例的には同じか又はより大きい振幅を有することができるが、多くの場合に、第2のパルスが第1のパルス未満の振幅を有することが好ましいことがわかっている。二重パルスのパルス間間隔は多くの場合に、予期される生理学的効果に基づいて選択される。通常、短いパルス繰返し間隔は、長い繰返し間隔と逆の影響を有する。例えば、経頭蓋磁気刺激において用いられる二重パルスは、50Hz〜1000Hzの繰返し周波数に対応して、例えば1ミリ秒〜20ミリ秒の範囲のパルス間間隔を有することができる。
【0110】
現行技術の制約に起因して、二段階二重パルスの2つのパルス間の刺激において短い中断が存在する。この中断は、1つには、最初のパルスがコイルを通じて戻る必要があることによって生じる。中断の長さに対する1つの制約は、TMSデバイス及び/又はコイルにおいて用いられる任意の切替器(複数の場合もある)の速度である。別の制約は、パルス間でコンデンサを再充電するのに必要な時間量である。中断の長さは例えば0.1ms〜15msである。第1のパルス後に第2の二段階パルスを解放するのに必要なコンデンサ又はコンデンサ及び切替器(複数の場合もある)の組を有するTMSデバイスを構築することによって、パルス間で再充電する必要なく又は僅かにのみ再充電するのみで、少なくとも部分的には、この中断を物理的に可能な限り低減するか又 はなくすことができる。さらに、同様の持続時間、例えば0.1ms〜15msを有する中断は、オペレータが所望する場合、二段階二重パルス内に設計することができる。
【0111】
二段階二重パルスを用いた刺激中、各パルスを0又はニュートラルで開始する、すなわち正の位相でも負の位相でも開始しないことが有利である。二段階二重パルスからの第1のパルス及び第2のパルスのピーク振幅間の総持続時間の例は、3ms、7ms及び15msである。さらに、第1のパルス及び第2のパルスのピーク振幅間の差の例は、第2のパルスが第1のパルスよりも5%〜50%弱いという範囲をとる。しかしながら、これらのパラメータは単に有利なものであり、当業者によるそれらのパラメータの何らかの変更は本出願の範囲内にある。
【0112】
通常、第1のパルスの振幅は、パルス刺激の他の手段に関して上記で説明したように決定及び変更することができる。例えば、二段階二重パルスを用いるとき、MTが決定され、基準、及び/又は認知マッピング等のための初期刺激レベルを決定する際のガイドとして用いられる。二段階二重パルスを用いる利点のうちの1つは、二段階二重パルスにおける第1のパルスの振幅は、被検者の同じ又はより大きな反応を誘発するために、1つ又は複数の一段階パルスの振幅よりも例えば15%〜30%低くすることができることである。いくつかの場合、被検者の一段階刺激MTが決定されると、被検者の一段階刺激MTよりも18%〜20%低い第1の振幅を有する二段階二重パルス刺激を利用することによって、予測より最大10倍高い反応を誘発することができる。
【0113】
二段階二重パルスを用いることからいくつかの利点が生じる。例えば、二段階二重パルスからのパルスの絶対振幅は、同様の一段階パルス又は一連の一段階パルスによって必要とされる絶対振幅未満とすることができるので、被検者及びオペレータに対する総露出を制限することができる。同様に、ピーク振幅を低減することによって、脳内の細胞における温度上昇を低減することができる。別の例は、ピーク振幅を低減することによって表面の筋肉及び頭皮に対する刺激の負の影響を減らすことができることである。さらに、二段階パルスの影響は、例えば一段階パルス刺激の影響の最大で10倍又は更にはそれ以上となり得るので、単一の刺激中のパルスの絶対数を減少させ、刺激の終了と被検者の発話の開始との間により多くの時間を与えることができる。これによって、被検者の発話と刺激との間に重複がほとんどないか又はないことを確実にし、発話開始の検出をはるかに容易でより信頼性のあるものとすることができる。またさらに、別の利点は、二段階二重パルスによって誘発された反応が大きいほど、より高度の信頼性を認知結果に加える、例えば検出漏れの結果を低減することができることとすることができる。
【0114】
ペアパルス及び/又は高周波数バーストを用いることによって、刺激からの影響のより容易な検出が可能になる。上記ペアパルス又は高周波数バーストのうちの1つ又は複数を、通常の刺激パラメータに関して上記で説明したように刺激パルスの単一の組において用いることができる。したがって、それらの使用を通じて、オペレータは刺激される領域が発話機能を有するか否かをより容易に判断することができる。
【0115】
多くの例において、被検者の発話機能又は認知機能が変更されたか否かを判断することは、オペレータが独力で判断することが困難であり得る。さらに、刺激に対する被検者の反応をリアルタイムで効率的に解析するのは更に困難であるか過度に多くのシステムリソース(処理電力、帯域幅等)を消費する可能性がある。したがって、システムによって収集された情報及びデータ、例えば刺激中及び基準決定中の被検者のビデオ及び/又は音声記録を通じて、被検者の反応を後に及び/又は事後解析を通じて遠隔位置で解析することができる。
【0116】
刺激のためのピクチャ表示パラメータは、刺激パラメータとみなすこともできるし、別個のパラメータ組とみなすこともできる。一例として、システムが例えば端末102によって集中的に制御されている場合、それらは単一のパラメータ組とみなすことができる。しかしながら、システムの制御部が例えば端末102と認知パッケージ140との間で共有されている場合、刺激パラメータは端末102により用いられることができ、一方、別個のピクチャ表示パラメータは認知パッケージ140により用いられる。
【0117】
次に、発話機能が疑われるエリアが試験される(254)。エリアはオペレータによって選択することもできるし、システム、例えばNBSすなわちナビゲーションソフトウェアによって選択されたエリアとすることもできる。このエリアは、試験するために、例えばオペレータNBSソフトウェアディスプレイ106上でオペレータに対し表示される。次に、このエリアはピクチャが被検者に表示されている間に刺激され、刺激に応じて被検者による行動エラーが存在したか否か(256)が検出される。
【0118】
刺激、ピクチャ表示及び反応監視のタイミングは重要である。プロセスの同期をとり、プロセスを制御するいくつかの異なる方法が利用可能である。1つの方法では、端末102はタイミングを制御し、第1のトリガーをTMS108に送信して、刺激デバイス110を介して刺激を自動的に生成する。次に、端末102は被検者ディスプレイ114に、刺激デバイス110の刺激に従った時点において所望のピクチャを表示させる。
【0119】
刺激及びピクチャの表示タイミング間の相関は、刺激及び表示が同じ時点に開始するか、表示が刺激の開始の僅かに前又は僅かに後に開始することとすることができる。さらに、ピクチャの表示は刺激と同じ時間の長さにわたって継続することもできるし、刺激の長さよりも僅かに短くするか又は僅かに長くすることもできる。タイミングの相関の1つの例は以下のとおりである。時点T=0msにおいて表示が開始する。時点T=300msにおいて刺激が開始し(PTI=300ms)、時点T=700msにおいて表示がオフになる。
【0120】
利用することができる別の方法は、システムの必要な要素を時間同期させること(time syncing)である。TMS108が少なくとも認知ソフトウェア及び端末102と時間同期している場合、端末102はTMS108及び認知ソフトウェアの双方に、特定の時点(複数の場合もある)において刺激し表示することのメッセージを送信することができる。そのような方法は、認知ソフトウェアが認知パッケージ140の一部分である場合に良好に機能する。
【0121】
オペレータがセッション、例えば試験位置選択、IPIを主に制御している場合、システムの制御、例えば本明細書において説明されるようなタイミング制御をナビゲーションソフトウェアによって処理することができる。認知ソフトウェアがセッション、例えば試験位置選択、IPIを制御している場合、システムの制御、例えば本明細書において説明されるようなタイミング制御を認知ソフトウェアによって処理することができる。後者のシナリオにおいて、認知ソフトウェアがセッションを制御しており、認知パッケージ140内に配置される場合、認知パッケージは発話マッピング中のシステムの主なコントローラとすることができる。
【0122】
オペレータは、マッピング中の被検者の反応を監視し、次に反応又は検出された行動エラーの指標を入力する役割を担うことができる一方、被検者の反応の監視はシステム、例えばカメラ116又は146を介して行うことができる。記録デバイスを利用して被検者の反応を監視するとき、記録デバイス及び/又は記録データ(recorded material)の見直し/解析を刺激と協調させるべきである。これは、上記で検討したように、記録デバイス及び/又は記録データを、システムの他の部分と時間同期させることによって行うことができる。さらに、記録デバイスは、システムの一部分、例えば端末102、ナビゲーションソフトウェア又は認知ソフトウェアによって送信されたトリガーによってアクティブ化することができる。記録デバイスをトリガーする別の方法は、例えば刺激中に刺激デバイス110によって生成される音とすることができる。刺激デバイス110の音の認識によって、例えば記録を開始することもできるし、記録データを用いてその認識にタグ付けをし、その点において被検者の脳が刺激されていたことを示すこともできる。
【0123】
行動エラーが検出される場合、オペレータはエリア258を、発話機能に関与しているとしてタグ付けすることができる。システムがエラーを検出する場合、システムは同様にそのエリアを自動的にタグ付けすることができる。システムが自動的にユーザーエラーを検出するとき、同時にオペレータによる見直しを行うことができる。例えば、システムがエラーを検出したがオペレータがエラーに確信がないか又は判断されたエラーが刺激以外の何かに起因すると考える場合、オペレータはタグを上書きし、及び/又はその部位の再試験に進むことができる。刺激の結果が満足の行くものである限り、オペレータは刺激デバイス110を新たな位置に動かし(260)、再び刺激を実行して次の疑わしい発話エリアを試験する。
【0124】
一実施形態では、認知プログラムは発話マッピングのフローを制御する。認知プログラムはIPIを設定し、ディスプレイを通じてオペレータに対し、次の疑わしい発話エリアがどこであるか、及び次の刺激がいつ生じるかを示すことができる。そのような実施形態では、オペレータは設定されたフローを上書きすることができる可能性があるが、主な役割は、次にスケジューリングされた刺激のために十分な時間でNBSディスプレイ106に従って刺激デバイスを適切に位置合わせすることである。認知プログラムは、オペレータが連続して又は別の設定された順序で辿ることになる所定の一組の点、例えば所定のグリッドを有することができる。認知プログラムは、以前の刺激のうちの少なくとも1つの結果に基づいて、次の刺激の順序又は特定の位置を選択することもできる。
【0125】
刺激が生じ、行動エラーが検出されない場合(256)、オペレータ又はシステムの一部分によって、所望の領域が十分にマッピングされたか否か(262)が判断される。発話のための脳のエリアを十分にマッピングするために、脳内の関心領域は、位置が発話に関連しないことを示すいくつかのタグ付けされた位置によって囲まれた、発話に関連する位置を示す一組のタグ付けされた位置を含むべきである。したがって、行動エラーが検出されず、関心領域が十分にマッピングされていない場合(264)、プロセスは別の位置を刺激することによって継続する。
【0126】
いくつかの例では、ステップ264において、行動エラーが検出されず、関心領域が十分にマッピングされたが発話マッピングが完了していないことが判断される可能性がある。例えば、関心領域が発話に関連していると考えられているが、行動エラーが検出されない場合、問題は用いられている刺激パラメータにある場合がある。この場合、刺激パラメータのうちの1つ又は複数が変更され、多くの場合、同じ以前のエリアのうちの1つが再度試験される。
【0127】
発話に関連しているはずのエリアにおいて行動エラーが検出されない場合に変更することができる刺激パラメータのうちのいくつかは、刺激周波数、IPI、刺激強度、TMS間隔、ピクチャTMS間隔(PTI)、パルスモード、パルス数及び/又はピクチャ表示時間から選択することができる。刺激パラメータを変更するとき、一度に1つのパラメータのみが変更されることが好ましい。さらに、図5のステップ266に示すような順序でパラメータが変更されることが好ましい。
【0128】
図5による一実施形態では、ステップ266において刺激パラメータが変更されることがステップ264において最初に判断されるとき、刺激周波数が増大される。刺激周波数が増大される量は、現在のパラメータの残余に基づいて又は所定の量だけ変動することができる。一例は、最初の周波数を5Hzとすることができ、これを7Hz〜10Hzまで増大させることができるというものである。プロセスが継続し、ステップ264におけるいくつかの試験後に、刺激パラメータが依然として適切でないと再び判断される場合、周波数を再び増大させることができるか、又は次のパラメータ、この例ではIPIを調整することができる。
【0129】
この例では、刺激パラメータが調整されることになる連鎖は、刺激周波数を増大させること、次にIPIを(例えば0.5秒だけ)短くすること、次に強度を(例えば被検者のMTの或るパーセンテージだけ又は10V/m等の所定の量だけ)増大させること、次にPTIを(例えば50msだけ)短くすること、そして最終的に、ピクチャの表示時間を(例えば50msだけ)短くすることである。この連鎖は連続して、すなわち1回目は周波数を増大させ、2回目はIPIを短くし、3回目は強度を増大させ、4回目はPTIを短くし、5回目は表示時間を短くし、6回目は周波数を増大させ、7回目はIPIを短くし、以下同様に行うことができる。
【0130】
連鎖は段階的に実行することもでき、この場合、周波数は所定の回数だけ増大されるか所定の限度まで増大され、次に連鎖は、IPIを所定の回数だけ短くするか又は所定の限度まで短くする次の段階に移り、以下同様である。一度に1つの変更のみを行うことが好ましいが、段階的に連鎖を実行するとき、周波数が或る特定の第1のレベルで開始する場合、その周波数を連続して或る制限まで(又は所定の回数だけ)増大させ、次にその周波数を制限未満であるが第1のレベルの上の或るレベルまで減少させ、次に、次のパラメータを調整することに進み、以下同様とすることが有利であり得る。
【0131】
本明細書において説明される連鎖は単なる一例であり、本明細書において明示的に説明されていない他の方法で刺激パラメータを変更することも本発明の範囲から逸脱しない。刺激パラメータが適切に設定され、その特定のセッション中にマッピングされることになる脳のエリアが完全に求められると(262)、発話マッピングが終了する(268)。この時点において、マッピングデータは、システム内のハードドライブ、例えば端末102又は142上の一時的でないコンピュータ可読記憶媒体に保存又はロードすることができる。さらに、マッピングデータは、MT、発話基準、刺激パラメータ等の追加情報を伴って又は伴わずに、外部の若しくは取り外し可能なハードドライブに又は遠隔サーバにロードすることができる。次に、同じシステム又は別のシステムによって後に上記情報を利用して、データを再マッピングするか、見直すか又は他の形で利用することができる。
【0132】
本発明は、本明細書で開示された例及び実施形態に限定されない。本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書において明示的に開示されていない多数の変形形態及び実施形態が当業者には明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5