(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057305
(24)【登録日】2016年12月16日
    
      
        (45)【発行日】2017年1月11日
      
    (54)【発明の名称】骨盤回旋角度算出装置及び骨盤回旋角度算出方法、臼蓋被覆3次元形状推定装置及び臼蓋被覆3次元形状推定方法、骨盤回旋角度算出プログラム、並びに臼蓋被覆3次元形状推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B   6/00        20060101AFI20161226BHJP        
【FI】
   A61B6/00 350D
【請求項の数】9
【全頁数】16
      (21)【出願番号】特願2014-544568(P2014-544568)
(86)(22)【出願日】2013年10月31日
    
      (86)【国際出願番号】JP2013079495
    
      (87)【国際公開番号】WO2014069553
(87)【国際公開日】20140508
    【審査請求日】2015年5月1日
      (31)【優先権主張番号】特願2012-240259(P2012-240259)
(32)【優先日】2012年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
    
      
        
          (73)【特許権者】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
          (74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本  征二
        
      
      
        (72)【発明者】
          【氏名】小山  博史
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】花田  充
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】星野  裕信
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】山本  清二
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】山内  致雄
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】高橋  正義
              
            
        
        (72)【発明者】
          【氏名】清水  哲雄
              
            
        
      
    
      【審査官】
        原  俊文
      
    (56)【参考文献】
      
        【文献】
          特開2002−159478(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2010−131202(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2010−088892(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2009−219766(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2009−219776(JP,A)      
        
        【文献】
          特開2012−120648(JP,A)      
        
        【文献】
          米国特許出願公開第2006/0264731(US,A1)    
        
      
    (58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B      6/00−6/14        
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置であって、
  単純X線正面像を入力するX線画像入力手段と、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得手段と、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算手段と、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算手段は、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出するものであって、
  前記演算手段が、
    左右の涙痕間距離を算出する手段と、
    涙痕間の中点と恥骨結合との間の水平距離を算出する手段と、を有し、
    前記涙痕間距離と前記水平距離の比に基づいて骨盤の回旋角度を算出する、
骨盤回旋角度算出装置。
【請求項2】
  複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記涙痕間距離と前記水平距離の比と、骨盤の回旋角度との関係を蓄積したデータベース、又は、複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記涙痕間距離と前記水平距離の比と、骨盤の回旋角度との関係を示す回帰式を含み、
  前記演算手段は、前記データベース又は前記回帰式を参照することにより、前記単純X線正面像の前記涙痕間距離と前記水平距離の比から骨盤の回旋角度を算出する、
請求項1記載の骨盤回旋角度算出装置。
【請求項3】
  骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置であって、
  単純X線正面像を入力するX線画像入力手段と、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得手段と、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算手段と、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算手段は、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出するものであって、
  前記演算手段が、
    左右の閉鎖孔横径を算出する手段、を有し
    前記閉鎖孔横径の左右比に基づいて骨盤の回旋角度を算出する、
骨盤回旋角度算出装置。
【請求項4】
  複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記閉鎖孔横径の左右比と、骨盤の回旋角度との関係を蓄積したデータベース、又は、複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記閉鎖孔横径の左右比と、骨盤の回旋角度との関係を示す回帰式を含み、
  前記演算手段は、前記データベース又は前記回帰式を参照することにより、前記単純X線正面像の前記閉鎖孔横径の左右比から骨盤の回旋角度を算出する、
請求項3記載の骨盤回旋角度算出装置。
【請求項5】
  骨盤の単純X線正面像から骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する装置であって、
  単純X線正面像を入力するX線画像入力手段と、
  前記単純X線正面像に関して設定された骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークを取得する臼蓋ランドマーク取得手段と、
  前記単純X線正面像と前記臼蓋ランドマークとから、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算手段と、を有し、
  前記演算手段は、前記請求項1乃至4のいずれか一項に記載の骨盤回旋角度算出装置で算出された骨盤の回旋角度を用いて、前記臼蓋被覆の3次元形状を補正する、
臼蓋被覆3次元形状推定装置。
【請求項6】
  骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出方法であって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得ステップと、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算ステップと、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算ステップは、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップであって、前記演算ステップが、
    左右の涙痕間距離を算出するステップと、
    涙痕間の中点と恥骨結合との間の水平距離を算出するステップと、を有し、
    前記涙痕間距離と前記水平距離の比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
  又は、
    左右の閉鎖孔横径を算出するステップ、を有し
    前記閉鎖孔横径の左右比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
を含む、
骨盤回旋角度算出方法。
【請求項7】
  骨盤の単純X線正面像から骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する方法であって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークを取得する臼蓋ランドマーク取得ステップと、
  前記単純X線正面像と前記臼蓋ランドマークとから、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算ステップと、を有し、
  前記演算ステップは、請求項6の骨盤回旋角度算出方法で算出された骨盤の回旋角度を用いて、前記臼蓋被覆の3次元形状を補正する、
臼蓋被覆3次元形状推定方法。
【請求項8】
  骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置の演算手段を実行するためのプログラムであって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得ステップと、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算ステップと、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算ステップは、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップであって、前記演算ステップが、
    左右の涙痕間距離を算出するステップと、
    涙痕間の中点と恥骨結合との間の水平距離を算出するステップと、を有し、
    前記涙痕間距離と前記水平距離の比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
  又は、
    左右の閉鎖孔横径を算出するステップ、を有し
    前記閉鎖孔横径の左右比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
を含む、
骨盤回旋角度算出プログラム。
【請求項9】
  骨盤の単純X線正面像から骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する臼蓋被覆3次元形状推定装置の演算手段を実行するためのプログラムであって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークを取得する臼蓋ランドマーク取得ステップと、
  前記単純X線正面像と前記臼蓋ランドマークとから、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算ステップと、を有し、
  前記演算ステップは、請求項8の骨盤回旋角度算出プログラムで算出された骨盤の回旋角度を用いて、前記臼蓋被覆の3次元形状を補正する、
臼蓋被覆3次元形状推定プログラム。
 
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、骨盤回旋角度算出装置及び骨盤回旋角度算出方法、臼蓋被覆3次元形状推定装置及び臼蓋被覆3次元形状推定方法、骨盤回旋角度算出プログラム、並びに臼蓋被覆3次元形状推定プログラムに関する発明である。具体的には、(1)骨盤腔より尾側の少なくとも涙痕又は閉鎖孔を解剖学的ランドマークに用いて、骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置、(2)骨盤回旋角度算出装置で算出された骨盤の回旋角度を用いて、臼蓋被覆の3次元形状を推定する臼蓋被覆3次元形状推定装置、(3)骨盤腔より尾側の少なくとも涙痕又は閉鎖孔を解剖学的ランドマークに用いて、骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出方法、(4)骨盤回旋角度算出方法により算出された骨盤の回旋角度を用いて、臼蓋被覆の3次元形状を推定する臼蓋被覆3次元形状推定方法、(5)骨盤回旋角度算出装置の演算手段を実行するための骨盤回旋角度算出プログラム、及び(6)臼蓋被覆3次元形状推定装置の演算手段を実行するための臼蓋被覆3次元形状推定プログラム、に関するものである。
 
【背景技術】
【0002】
  股関節は荷重関節であり、歩行に直接かかわる重要な関節である。変形性股関節症(関節軟骨の変形・損傷に起因し股関節痛の原因となる病態)などの原因により股関節が障害されると歩行困難が生じ、介護が必要な患者の増加が予想され、医療費の増加が懸念される。また、日本人の変形性股関節症の80%以上は、骨盤の形態異常である臼蓋形成不全(骨盤寛骨臼の被覆不足)により生じた2次性股関節症であり、診断や治療にあたり股関節の形態、動態評価は必須である。
【0003】
  股関節の形態を正確に評価するため、3次元評価が可能なCT撮影(コンピュータ断層撮影)が行われるが、荷重関節である股関節の病態を探るのに必要な立位での撮影ができないことが問題である。また、放射線被爆も医療コストも大きいため、症状の軽い患者や検診、経過観察にまでCT撮影を実施することは現実的ではない。更に、単純X線写真は大学病院から診療所まで、どの規模の施設でも撮影できるのに対し、CT撮影装置は中規模以上の病院にしかない。世界ではCT撮影装置が無い国もあり、単純X線写真から簡便に股関節変形の3次元形態、動態評価が可能なシステムが求められている。
【0004】
  単純X線正面像のみを用い、股関節の3次元形態、動態評価をする方法としては、単純X線像上の骨盤寛骨臼(寛骨臼の縁部分)の形状から、幾何学計算を用いて股関節の3次元評価を簡易的に行う方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
  また、上記方法は、PCモニター上で解剖学的ランドマークを医師が手入力し、臼蓋被覆を幾何学計算しているが、臼蓋被覆はX線撮影時の骨盤位置(傾斜・回旋)の影響を受けやすいため、被覆量を計算する際には骨盤位置を算出する必要がある。単純X線正面像における骨盤回旋の補正に関しては、骨盤腔内にみられる仙尾関節中央と恥骨結合上縁の水平距離を用いて骨盤回旋を補正する方法が知られている(非特許文献2参照)。しかしながら、前記方法に用いられている指標は、
図1に示すように、仙尾関節中央と恥骨結合上縁の距離の絶対値(図中の⇔)であり、人種や画像の縮尺の影響を受けるという問題がある。また、
図2に示すように、X線撮影時に被験者(特に生殖可能年齢者)が装着する性腺防護(写真中央上部の白い部分)、及び/又は腸管ガスなどにより、単純X線正面像で骨盤腔内にみられる仙尾関節を視認できない画像が多いという問題もある。
 
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Konishi  N., “Determination  of  Acetabular  Coverage  of  the  Femoral  Head  with  Use  of  a  Single  Anteroposterior  Radiograph.  A  New  Compu−terized  Technique.”,  J.  Bone  and  Joint  Surg.,75−A(9),p1318−1333,1993
【非特許文献2】M  Tannast  et  al.,  “Tilt  and  Rotation  Correction  of  Acetabular  Version  on  Pelvic  Radiographs”,  Clin  Orthop  407:  182−190,  2005.
 
 
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
  本発明者らは、鋭意研究を行ったところ、骨盤腔より尾側の解剖学的ランドマークである少なくとも涙痕又は閉鎖孔を用いることで、X線撮影時の性腺防護の装着や腸管ガス等の影響を受けずに単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出できること、それら解剖学的ランドマークの距離の比から骨盤の回旋角度を算出することで、人種や画像の縮尺等の影響を受けることなく、骨盤の回旋角度を算出できること、更に、算出した骨盤の回旋角度を用いて、骨盤位置を推定し臼蓋被覆の3次元形状をあらわすことができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
  すなわち、本発明の目的は、骨盤回旋角度算出装置及び骨盤回旋角度算出方法、臼蓋被覆3次元形状推定装置及び臼蓋被覆3次元形状推定方法、骨盤回旋角度算出プログラム、並びに臼蓋被覆3次元形状推定プログラムを提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0009】
  本発明は、以下に示す、骨盤回旋角度算出装置及び骨盤回旋角度算出方法、臼蓋被覆3次元形状推定装置及び臼蓋被覆3次元形状推定方法、骨盤回旋角度算出プログラム、並びに臼蓋被覆3次元形状推定プログラムである。
【0010】
(1)骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置であって、
  単純X線正面像を入力するX線画像入力手段と、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得手段と、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算手段と、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算手段は、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出する
ものであって、
  前記演算手段が、
    左右の涙痕間距離を算出する手段と、
    涙痕間の中点と恥骨結合との間の水平距離を算出する手段と、を有し、
    前記涙痕間距離と前記水平距離の比に基づいて骨盤の回旋角度を算出する、
骨盤回旋角度算出装置。
(
2)複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記涙痕間距離と前記水平距離の比と、骨盤の回旋角度との関係を蓄積したデータベース、又は、複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記涙痕間距離と前記水平距離の比と、骨盤の回旋角度との関係を示す回帰式を含み、
  前記演算手段は、前記データベース又は前記回帰式を参照することにより、前記単純X線正面像の前記涙痕間距離と前記水平距離の比から骨盤の回旋角度を算出する、
前記(
1)記載の骨盤回旋角度算出装置。
(
3)
骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置であって、
  単純X線正面像を入力するX線画像入力手段と、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得手段と、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算手段と、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算手段は、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出するものであって、
  前記演算手段
が、
    左右の閉鎖孔横径を算出する手段、を有し
    前記閉鎖孔横径の左右比に基づいて骨盤の回旋角度を算出する、
骨盤回旋角度算出装置。
(
4)複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記閉鎖孔横径の左右比と、骨盤の回旋角度との関係を蓄積したデータベース、又は、複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記閉鎖孔横径の左右比と、骨盤の回旋角度との関係を示す回帰式を含み、
  前記演算手段は、前記データベース又は前記回帰式を参照することにより、前記単純X線正面像の前記閉鎖孔横径の左右比から骨盤の回旋角度を算出する、
前記(
3)記載の骨盤回旋角度算出装置。
(
5)骨盤の単純X線正面像から骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する装置であって、
  単純X線正面像を入力するX線画像入力手段と、
  前記単純X線正面像に関して設定された骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークを取得する臼蓋ランドマーク取得手段と、
  前記単純X線正面像と前記臼蓋ランドマークとから、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算手段と、を有し、
  前記演算手段は、前記(1)乃至(
4)のいずれか一に記載の骨盤回旋角度算出装置で算出された骨盤の回旋角度を用いて、前記臼蓋被覆の3次元形状を補正する、
臼蓋被覆3次元形状推定装置。
(
6)骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出方法であって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得ステップと、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算ステップと、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算ステップは、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ
であって、前記演算ステップが、
    左右の涙痕間距離を算出するステップと、
    涙痕間の中点と恥骨結合との間の水平距離を算出するステップと、を有し、
    前記涙痕間距離と前記水平距離の比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
  又は、
    左右の閉鎖孔横径を算出するステップ、を有し
    前記閉鎖孔横径の左右比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
を含む、
骨盤回旋角度算出方法。
(
7)骨盤の単純X線正面像から骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する方法であって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークを取得する臼蓋ランドマーク取得ステップと、
  前記単純X線正面像と前記臼蓋ランドマークとから、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算ステップと、を有し、
  前記演算ステップは、
前記(6)の骨盤回旋角度算出方法で算出された骨盤の回旋角度を用いて、前記臼蓋被覆の3次元形状を補正する、
臼蓋被覆3次元形状推定方法。
(
8)骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置の演算手段を実行するためのプログラムであって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得ステップと、
  前記解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算ステップと、を有し、
  前記解剖学的ランドマークは、少なくとも涙痕又は閉鎖孔を含むものであり、
  前記演算ステップは、前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ
であって、前記演算ステップが、
    左右の涙痕間距離を算出するステップと、
    涙痕間の中点と恥骨結合との間の水平距離を算出するステップと、を有し、
    前記涙痕間距離と前記水平距離の比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
  又は、
    左右の閉鎖孔横径を算出するステップ、を有し
    前記閉鎖孔横径の左右比に基づいて骨盤の回旋角度を算出するステップ、
を含む、
骨盤回旋角度算出プログラム。
(
9)骨盤の単純X線正面像から骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する臼蓋被覆3次元形状推定装置の演算手段を実行するためのプログラムであって、
  撮像済みの単純X線正面像を入力するX線画像入力ステップと、
  前記単純X線正面像に関して設定された骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークを取得する臼蓋ランドマーク取得ステップと、
  前記単純X線正面像と前記臼蓋ランドマークとから、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算ステップと、を有し、
  前記演算ステップは、前記(
8)の骨盤回旋角度算出プログラムで算出された骨盤の回旋角度を用いて、前記臼蓋被覆の3次元形状を補正する、
臼蓋被覆3次元形状推定プログラム。
 
【発明の効果】
【0011】
  本発明においては、被爆量の多いCTを使用してなくても、単純X線正面像から精度よく骨盤の回旋角度を算出できる。また、本発明では、骨盤腔より尾側の解剖学的ランドマークであって、単純X線撮影時に装着する性腺防護や腸管ガス等の影響を受けない涙痕又は閉鎖孔を少なくとも使用して骨盤の回旋角度を算出しているので、骨盤位置を考慮せず撮影した単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出できる。更に、骨盤の回旋角度は前記解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出していることから、人種や画像の縮尺等の影響を受けることがない。
【0012】
  本発明においては、単純X線撮影は従来から一般的に用いられている方法であることから、過去に撮影した単純X線正面像がある場合は新たに撮影する必要はなく、また、同一患者の過去の単純X線正面像が複数ある場合は、本発明を用いた評価により、股関節形態の経年変化、関節症進行の経過等を評価することができる。
【0013】
  本発明の骨盤回旋角度は、性腺防護や腸管ガス等の影響、人種や画像の縮尺の影響を受けることなく算出することができる。したがって、従来は算出が困難な場合があった骨盤の臼蓋被覆の3次元形状を計推定する際の補正値として、本発明により算出した骨盤の回旋角度を使用することができる。
 
 
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、従来の骨盤回旋の補正方法において、補正値を算出する際の指標を示している。
 
【
図2】
図2は、図面代用写真で、性腺防護を装着した際の単純X線正面像を示している。
 
【
図3】
図3は、本発明の、単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する装置の構成の概略を示すブロック図である。
 
【
図4】
図4は、本発明に用いられるX線画像の概略を示す図である。
 
【
図5】
図5は、本発明の解剖学的ランドマークである、涙痕、恥骨結合及び閉鎖孔の位置を示している。
 
【
図6】
図6は、涙痕及び恥骨結合を解剖学的ランドマークとして骨盤の回旋角度を算出する場合の指標の一例を示している。
 
【
図7】
図7は、閉鎖孔を解剖学的ランドマークとして骨盤の回旋角度を算出する場合の指標の一例を示している。
 
【
図8】
図8は、涙痕及び恥骨結合を解剖学的ランドマークとして骨盤の回旋角度を算出する場合の算出ステップの一例を示している。
 
【
図9】
図9は、女性の涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比と回旋の関係を表すグラフである。
 
【
図10】
図10は、女性の閉鎖孔横径の左右比と回旋の関係を表すグラフである。
 
【
図11】
図11は、男性の涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比と回旋の関係を表すグラフである。
 
【
図12】
図12は、男性の閉鎖孔横径の左右比と回旋の関係を表すグラフである。
 
【
図13】
図13は、図面代用写真で、表示部に表示された単純X線正面像に、臼蓋ランドマーク及び閉鎖孔の周辺部の位置を設定した画像である。
 
【
図15】
図15は、臼蓋被覆の3次元形状を推定する際の回旋角度θを用いた補正方法を説明する図である。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0015】
  以下、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
 
【0016】
  本発明に係る骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出方法は、例えば、
図3に示すような装置により実施される。
 
【0017】
  すなわち、
図3は、コンピュータを用いた骨盤の単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する骨盤回旋角度算出装置1(以下、単に「装置1」と記載することもある。)の一例を示す図である。装置1は、(1)被験者の骨盤付近を撮影した単純X線正面像を入力するためのX線画像入力手段10、(2)入力された単純X線正面像を表示することができ、表示された単純X線正面像に基づき、設定した解剖学的ランドマークを表示することができる表示部11、(3)解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて骨盤の回旋角度を算出する回旋角度算出部12、(4)X線画像入力手段10、表示部11及び回旋角度算出部12を制御する制御部13、(5)制御部13からアクセスされるプログラムメモリ14を含んでいる。なお、本発明において、単純X線正面像とは、
図4に示すようにX線照射管球から人体の骨盤付近を透過したX線の量を白黒で表した像を意味し、以下においては、単に「X線画像」と記載することもある。
 
【0018】
  X線画像入力手段10は、患者の骨盤付近のX線画像データを入力するものであって、X線画像入力手段10を用いたX線画像データの入力は、医師等の操作者が装置1を操作してDBや記録メディア等からX線画像を入力してもよいし、装置1が有する送受信手段によりインターネット等の通信ネットワークを介して入力してもよい。また、X線画像データは、後述する解剖学的ランドマークの位置が確認でき、その位置情報を入力できるものであればデータ形式については特に限定されるものではない。例えば、X線画像データは、CR(コンピューテッド・ラジオグラフィック)システムを用いて骨盤付近の画像を含む放射線画像(CR画像)として得るようにしてもよい。すなわち、撮影装置において、X線照射管球から発せられたX線を、被写体としての患者に向けて照射し、被写体を透過したX線を、蓄積性蛍光体を有するイメージングプレートに入射させて透過放射線画像をエネルギー情報として蓄積記録し、この透過放射線画像が蓄積記録されたイメージングプレートから透過放射線画像を読み取ってX線画像入力手段10に入力するようにしてもよい。また、X線画像入力手段10は、FPD(Flat−Panel  Detector)が搭載されたデジタルX線撮影装置からX線画像データを入力するようにしてもよいし、ネットワークを介して画像サーバからX線画像データを入力してもよいし、あるいはCD−ROM等の記録メディアからX線画像データを入力するようにしてもよい。
 
【0019】
  表示部11は、LCD等の表示画面を有し、X線画像入力手段10を用いて入力されたX線画像を表示する。この表示部11は、表示されたX線画像に医師が解剖学的ランドマークの位置を設定できるようにタッチ入力機能を有していることが望ましいが、装置1が有するキーボード又はマウスを医師が操作して表示部11に矢印等を表示し、解剖学的ランドマークの位置を設定してもよい。また、解剖学的ランドマークは、装置1が有する画像のエッジ検出手段を用いて、X線画像の輪郭からエッジ検出をして自動設定を行ってもよい。また、表示部11には、後述する回旋角度算出部12により算出された結果、例えば、医師等が設定した解剖学的ランドマークの距離、距離の比、距離の比から算出された骨盤の回旋角度等の少なくとも1以上の結果を表示できるようにしてもよい。勿論、表示部11には回旋角度算出部12により算出された結果以外にも、患者情報等、診断等に必要な情報を表示してもよい。医師等のユーザは、この表示部11に表示された回旋角度等の結果をみて診断を行ってもよいし、算出された結果に基づいて補正を行った3次元画像を表示部11に表示して、診断を行ってもよい。図示を省略したが、表示部11に表示された画像等をプリントアウトするプリンタや、各種データを保存する記憶装置あるいはこれらのデータを各種記録媒体に記録する記録手段を備えていてもよい。
 
【0020】
  回旋角度算出部12は、設定された解剖学的ランドマークを取得する解剖学的ランドマーク取得手段、(2)解剖学的ランドマークに基づいて骨盤の回旋角度を算出する演算手段を含む。また、回旋角度算出部12は、複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記涙痕間距離と前記水平距離の比と、骨盤の回旋角度との関係を蓄積したデータベース、及び/又は、複数の患者から取得した骨盤X線CTデータに基づいて作成した、前記閉鎖孔横径の左右比と、骨盤の回旋角度との関係を蓄積したデータベースを含む。前記演算手段は、解剖学的ランドマークの位置関係又は大きさに基づいて、上記データベースを参照しながら骨盤の回旋角度を算出する。なお、後述するとおり、本発明の解剖学的ランドマークを用いて算出した距離の比と骨盤の回旋角度は非常に相関関係が高い。したがって、個別データをデータベースに蓄積することに代えて、既存のデータから求めた回帰式を演算手段に記憶させておき、演算手段で算出された距離の比を回帰式に当てはめることで、直接骨盤の回旋角度を求めるようにしてもよい。
 
【0021】
  図5は、本発明の解剖学的ランドマークである涙痕又は閉鎖孔と、前記涙痕と組み合わせて用いられる恥骨結合の位置を示している。
図6は、涙痕及び恥骨結合を解剖学的ランドマークとして回旋角度を算出する場合の指標の一例を示しており、涙痕間距離の中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比を指標としている。なお、指標は、涙痕及び恥骨結合の距離を比で表せればとくに制限はなく、(右側涙痕と恥骨結合の距離−左側涙痕と恥骨結合との距離)と涙痕間距離の比等、適宜設定すればよい。
 
【0022】
  図7は、閉鎖孔を解剖学的ランドマークとして回旋角度を算出する場合の指標の例を示しており、涙痕間を結んだ線と平行になるように閉鎖孔に横線(横径)を引き、該横線の最長となる線の長さの左右比を指標としている。
 
【0023】
  プログラムメモリ14には、例えば、コンピュータを単純X線正面像から骨盤の回旋角度を算出する装置1として機能させるためのプログラムが予め格納されており、このプログラムが制御部13により読み出され実行されることで、本装置の動作制御が行われる。プログラムは、記録媒体に記録され、インストール手段を用いて、プログラムメモリ14に格納されるようにしてもよい。
 
【0024】
  以下に、本発明の装置1を用いた骨盤回旋角度算出方法の手順及び骨盤回旋角度算出プログラムについて説明する。
 
【0025】
  図8は、涙痕及び恥骨結合を解剖学的ランドマークとして骨盤の回旋角度を算出する場合の算出ステップの一例を示している。
 
【0026】
  先ず、ステップS100において、X線画像がX線画像入力手段10により入力される。このX線画像は、上記のとおり、医師等の操作者により入力されてもよいし、装置1が有する送受信手段により通信ネットワークを介して入力されてもよい。入力されたX線画像は、ステップS110において、表示部11の表示画面に表示される。
 
【0027】
  次に、ステップS120において、表示部11に表示されたX線画像に、医師が左右の涙痕の最も下方に位置する部分、及び恥骨結合の上縁部分を入力する。なお、上記のとおり、解剖学的ランドマークは、人力での入力に換え、装置1が有するエッジ検出手段により上記左右の涙痕の最も下方に位置する部分、及び恥骨結合の上縁部分を自動的に決定してもよい。
 
【0028】
  次に、ステップS130において、ステップS120で設定された涙痕及び恥骨結合の位置情報を、解剖学的ランドマーク取得手段が取得して回旋角度算出部12の演算手段に送り、演算手段の左右の涙痕間距離を算出する手段が涙痕間距離を算出し、涙痕間の中点と恥骨結合との間の水平距離を算出する手段が水平距離を算出する。そして、演算手段は、算出した前記涙痕間距離と前記水平距離の比を求める。そして、ステップS140で、演算手段は涙痕間距離と水平距離の比と骨盤の回旋角度との関係を蓄積したデータベース又は回帰式を参照することで、骨盤の回旋角度が求められる。最後に、ステップS150で、涙痕間距離、距離の比、骨盤の回旋角度等、回旋角度算出部12で算出された所望のデータが表示部11に表示され手順が終了する。
 
【0029】
  解剖学的ランドマークとして閉鎖孔横径の左右比を用いる場合は、上記ステップS120において、涙痕及び恥骨結合に代え、表示部11に表示されたX線画像の閉鎖孔の周辺部を複数個所、及び左右の涙痕の最も下方に位置する部分を入力する。そして、ステップS130において、演算手段の左右の閉鎖孔横径を算出する手段が、左右の涙痕を結んだ線に平行であって閉鎖孔の最長となる横径である閉鎖孔横径を算出し、算出された左右の閉鎖孔横径の比を算出し、ステップS140で、閉鎖孔横径の左右比と骨盤の回旋角度との関係等を蓄積したデータベース又は回帰式を参照する以外は、
図8に示される手順に従って処理すればよい。なお、上記の方法では、X線画像の閉鎖孔の周辺部を複数個所入力し、コンピュータで閉鎖孔の輪郭の近似線を作成し、該近似線から閉鎖孔横径を算出しているが、定規等の補助手段を用いて閉鎖孔の最長となる横径を予め決定し、決定した横径部分のみを医師等が入力してもよい。また、人力で入力することに換え、装置1が有するエッジ検出手段を用いたエッジ検出により閉鎖孔の最長となる横径を自動的に決定してもよい。こうして求められた骨盤の回旋角度は、骨盤の単純X線正面像から骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する際の補正値として使用することができる。
 
【0030】
  次に、本発明に用いた解剖学的ランドマークが骨盤の回旋角度を決定する指標として優れているか、検証を行った。
 
【0031】
  外傷や疾患により骨盤部のCT像を撮影した症例のうち、骨盤の変形性変化が著明でない40例(男性20例、女性20例)を対象とした。THA3D術前計画ソフトZed  Hipを用いてCTデータから3次元画像の再構築を行い、anterior  pelvic  plane(APP)を基準面とした疑似X線画像(DRR画像)を作成した。APP  coronal像にて、(1)涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比、(2)閉鎖孔横径の左右比、を計測した。Zed  Hip上で骨盤を3°ずつ左右に12°まで回旋させ、各々の骨盤位置でのDRR画像で(1)、(2)を計測し、骨盤回旋角度との相関を調べた。なお、閉鎖孔横径の左右比については、より近似精度を上げるため、縦軸を対数で表した。
 
【0032】
  図9は、女性の涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比と回旋の関係を表すグラフであり、横軸は回旋角度、縦軸は涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比を表す。相関係数は、0.972であった。また、グラフから明らかなように、涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比と回旋の関係を表すグラフはほぼ直線となり、グラフの傾き((恥骨結合−涙痕中点)/涙痕間距離÷骨盤の回旋角度)は−0.00637であった。したがって、涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比をBとした場合、骨盤の回旋角度θは、回帰式:θ=B/−0.00637から算出することができる。なお、
図9に示す傾きは、上記女性20名から算出したデータであり、データを取得する人数等により傾きは変化するので、上記傾きは他の数値であってもよい。以下の
図10〜12に示す傾きも同様である。
 
【0033】
  図10は、女性の閉鎖孔横径の左右比と回旋の関係を表すグラフであり、横軸は回旋角度、縦軸は閉鎖孔横径の左右比のlogを表す。相関係数は、0.950であった。また、グラフの傾きは0.0732であった。
 
【0034】
  図11は、男性の涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比と回旋の関係を表すグラフであり、横軸は回旋角度、縦軸は涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比を表す。相関係数は、0.967であった。また、グラフの傾きは−0.00676であった。
 
【0035】
  図12は、男性の閉鎖孔横径の左右比と回旋の関係を表すグラフであり、横軸は回旋角度、縦軸は閉鎖孔横径の左右比のlogを表す。相関係数は、0.959であった。また、グラフの傾きは0.0918であった。
 
【0036】
  上記の結果が示すように、男女両群において,涙痕中点と恥骨結合との水平距離と涙痕間距離の比(相関係数=0.972(女)、0.967(男))、閉鎖孔横径の左右比(相関係数=0.950(女)、0.959(男))はいずれも骨盤の回旋角度と強い相関がみられた。
 
【0037】
  本発明の骨盤回旋角度算出装置により算出した骨盤の回旋角度は、臼蓋被覆3次元形状推定装置、臼蓋被覆3次元形状推定方法、及び臼蓋被覆3次元形状推定プログラムにおいて、骨盤回旋の補正値として用いることができる。臼蓋被覆3次元形状推定装置は、単純X線正面像を入力するX線画像入力手段と、前記単純X線正面像に関して設定された骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークを取得する臼蓋ランドマーク取得手段と、前記単純X線正面像と前記臼蓋ランドマークとから、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算手段とを含んでいる。
 
【0038】
  単純X線正面像を入力するX線画像入力手段は、骨盤回旋角度算出装置と同様のX線画像入力手段を用いることができる。臼蓋被覆3次元形状推定装置のX線画像入力手段は、骨盤回旋角度算出装置のX線画像入力手段と共通化してもよいし、別体として設けてもよい。
 
【0039】
  また、骨盤の臼蓋に関する複数の臼蓋ランドマークは、骨盤回旋角度算出装置と同様の表示部を設け、タッチ機能やマウス等を用いて、表示されたX線画像に臼蓋ランドマークの位置を設定すればよい。臼蓋ランドマークは、臼蓋関節面、大腿骨頭、臼蓋前縁、臼蓋後縁等、公知の臼蓋ランドマークを用いればよい。臼蓋被覆3次元形状推定装置の表示部は、骨盤回旋角度算出装置の表示部と共通化してもよいし、別体として設けてもよい。
図13は、臼蓋被覆3次元形状推定装置と骨盤回旋角度算出装置の表示部を共通化し、表示部に表示されたX線画像に、臼蓋ランドマーク及び閉鎖孔の周辺部の位置を設定した画像である。
 
【0040】
  設定された臼蓋ランドマークは、臼蓋ランドマーク取得手段により位置情報が取得され、臼蓋被覆の3次元形状を推定する演算手段に送られ、演算手段は臼蓋被覆の3次元形状を推定する。その際、非特許文献2に記載されている方法では、
図14に示す骨盤の回旋角度θは、仙尾関節中央と恥骨結合上縁の水平距離を用いて補正しているが、本発明の臼蓋被覆3次元形状推定装置では、骨盤回旋角度算出装置により算出した骨盤の回旋角度θを用いて補正している。
 
【0041】
  図15は、本発明の臼蓋被覆の3次元形状を推定する際の回旋角度θを用いた補正方法を説明する図である。非特許文献1に記載されている方法では、左右の仮想骨頭中心位置がX線フィルムから等距離にあると仮定して、仮想骨頭上に臼蓋縁を描くことで臼蓋被覆を算出している。一方、本発明の臼蓋被覆3次元形状推定装置、臼蓋被覆3次元形状推定方法、及び臼蓋被覆3次元形状推定プログラムにおいては、
図15に示すように骨盤回旋θ(
図15ではθ=2.5°)の分だけ、左右の仮想頭骨球中心がX線フィルムからずれている、つまり、左右の仮想骨頭中心位置がX線フィルムから等距離ではないと推定し、ずらした仮想骨頭上に臼蓋縁を描くことで被覆面積を計算している。
 
【0042】
  上記のとおり、本発明の骨盤回旋角度算出装置を用いると、性腺防護や腸管ガス等の影響、年齢、そして、人種や画像の縮尺の影響を受けることなく骨盤の回旋角度θを算出することができるので、従来は算出が困難な場合があった骨盤の臼蓋被覆の3次元形状を推定する際の補正値として使用することができる。
 
【0043】
  臼蓋被覆3次元形状推定装置は、骨盤の臼蓋被覆の形状の推定の他、単純X線正面像から人工股関節カップの設置状況(位置、角度)の推定にも使用することができ、人工股関節を体内に設置する手術をした後の設置位置の確認や経過確認の際に、算出した骨盤回旋角度を用いて骨盤位置を補正することで、カップ設置位置を正確に評価することができる。
 
【0044】
  なお、骨盤の臼蓋被覆の3次元的形状を推定する装置としては、上記の回旋角度の補正に加え、骨盤傾斜補正をすることもできる。骨盤傾斜に関しては、必要に応じて、非特許文献1に記載されている閉鎖孔縦径/涙痕間距離、又は、非特許文献2に記載されている恥骨結合上縁−仙尾関節垂直距離を用いて、補正をすればよい。
 
 
【産業上の利用可能性】
【0045】
  本発明の解剖学的ランドマークを用いることで、X線画像から骨盤の回旋角度を精度よく且つ簡単に決定することができる。したがって、単純X線正面像1枚を用い、股関節における臼蓋被覆の3次元評価を行うことができるソフトを開発する際の骨盤位置の補正データとして使用することができるので、医療機関等において患者の診断に有用である。