(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6057312
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】土壌改良資材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/40 20060101AFI20161226BHJP
C09K 17/32 20060101ALI20161226BHJP
C05F 11/00 20060101ALN20161226BHJP
【FI】
C09K17/40 H
C09K17/32 H
!C05F11/00
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-49093(P2016-49093)
(22)【出願日】2016年3月14日
【審査請求日】2016年4月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506177051
【氏名又は名称】有限会社里源
(74)【代理人】
【識別番号】100092808
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 亘
(74)【代理人】
【識別番号】100140981
【弁理士】
【氏名又は名称】柿原 希望
(72)【発明者】
【氏名】青井 透
(72)【発明者】
【氏名】林 智康
(72)【発明者】
【氏名】竹本 隆博
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−263559(JP,A)
【文献】
特開2006−143791(JP,A)
【文献】
特開2004−016184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00−17/52
C05B 1/00−21/00
C05C 1/00−13/00
C05D 1/00−11/00
C05F 1/00−17/02
C05G 1/00− 5/00
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
浚渫で生じた土を脱水して得た浚渫土と、自活性線虫が生息する種線虫土と、バチルス菌が生息する種菌土と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を前記浚渫土と前記セルロース源との比率を1:1とし、前記種菌土及び種線虫土を5wt%〜10wt%混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合土を20℃〜45℃で発酵させバチルス菌を前記混合土中で優占化するとともに自活性線虫の増殖を促す発酵工程と、を有することを特徴とする土壌改良資材の製造方法。
【請求項2】
浚渫土は、底土を水とともに吸引した後、カルシウムを主成分とした無機中性凝集剤のみを添加して凝集させ、その後、脱水して得るとともに、
前記種菌土は乾燥もしくは次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌処理が施されバチルス菌が芽胞状態で生息することを特徴とする請求項1記載の土壌改良資材の製造方法。
【請求項3】
発酵工程後に、家畜糞を主原料とした堆肥を混合し、肥料成分としての窒素量、リン量、カリウム量を略同等とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の土壌改良資材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農地等の土壌を改良するための土壌改良資材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同じ作物を同じ場所で連作すると土壌生態系のバランスが崩れ、作物に病気や栄養障害などの連作障害が生じる。この連作障害の大きな原因として、連作作物に有害な寄生性線虫や病原菌の増殖が挙げられる。この連作障害の防止法としては、土壌を農薬やボルドー液(硫酸銅・石灰の混合液)等で殺菌することが一般的である。しかしながら、これら薬剤の使用は土壌の生態系をさらに破壊して土地が痩せる原因となる。また、多用すると連作障害への防止効果が減少することに加え、残留農薬の河川等への流出や農業従事者への健康被害が懸念される。
【0003】
薬剤を用いない連作障害の解消法として、下記[特許文献1]ではバチルス菌が優占化した微生物処理汚泥と上水汚泥とを混合し発酵してなる土壌改良剤に関する発明が開示されている。
【0004】
また、線虫は地力の指標とも言われ、土壌微生物の食餌関係においてはミミズよりもはるかに複雑で多様な関係を構築している。この線虫には前述した作物に有害な寄生性線虫のほか、他の線虫を捕食する捕食性線虫と動植物の遺骸や細菌等を餌とする腐生性線虫が存在し、これら捕食性線虫と腐生性線虫をあわせて自活性線虫という。そして、捕食性線虫は寄生性線虫を捕食して連作障害を抑制することが期待される。また、腐生性線虫のうち細菌食雑線虫は病原菌を捕食して連作障害を抑制することが期待される。
【0005】
ここで、本願発明者らは、バチルス菌を含む汚泥と自活性線虫が生息するセルロース源とを混合して所定の温度で発酵させる土壌改良資材の製造方法に関する[特許文献2]に記載の発明を行った。そして、このバチルス菌及び自活性線虫が大量に生息する土壌改良資材を土壌に混ぜ込むことで、バチルス菌自体が分泌する抗菌物質及び自活性線虫による捕食により土壌生態系の回復と連作障害の抑制を可能とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−274205号公報
【特許文献2】特許第4226065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、湖沼や堀、用水、人工池、農業用ため池等の貯水池には、土や砂、落ち葉、ゴミ、ヘドロ等の底土が徐々に堆積する。これら、底土の堆積は貯水池の水深を浅くして貯水池本来の機能を低下させる他、水質の悪化を引き起こす一因となる。よって、これら底土を除去する浚渫が定期的に行われる。しかしながら、浚渫で得られた浚渫土の再利用は未だ限定的であり、これら浚渫土の有効利用の実現が望まれる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、浚渫土を有効利用した土壌改良資材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)浚渫で生じた土を脱水して得た浚渫土と、自活性線虫が生息する種線虫土と、バチルス菌が生息する種菌土と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、
を前記浚渫土と前記セルロース源との比率を1:1とし、前記種菌土及び種線虫土を5wt%〜10wt%を混合する混合工程S202と、
前記混合工程S202で得られた混合土を20℃〜45℃で発酵させバチルス菌を前記混合土中で優占化するとともに自活性線虫の増殖を促す発酵工程S204と、を有することを特徴とする土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(2)浚渫土は、底土を水とともに吸引した後、カルシウムを主成分とした無機中性凝集剤
のみを添加して凝集させ、その後、脱水して得る
とともに、
前記種菌土は乾燥もしくは次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌処理が施されバチルス菌が芽胞状態で生息することを特徴とする上記(1)記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
(3)発酵工程S204後に、家畜糞を主原料とした堆肥を混合し、肥料成分としての窒素量、リン量、カリウム量を略同等とする(家畜糞堆肥混合工程S206)ことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の土壌改良資材の製造方法を提供することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る土壌改良資材の製造方法は、浚渫土を用いて土壌改良資材を製造する。これにより、従来使用用途が限定されていた浚渫土を有効利用することができる。また、カルシウムを主成分とする無機中性凝集剤を使用した浚渫土を用い
るため、凝集剤としてのカルシウム成分及びこのカルシウム成分が固定したリン成分が作物の肥料として機能する。これにより、農地等への施肥量を低減もしくは不要とすることができる。さらに、発酵工程後に家畜糞堆肥を混合する構成では、植物の成長に必要な3大栄養素がバランス良く配合されているため、土壌改良資材を基本肥料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る土壌改良資材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】本発明に係る土壌改良資材の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る土壌改良資材の製造方法の実施の形態について図面に基づいて説明する。ここで、
図1、
図2は本発明に係る土壌改良資材の製造方法のフローチャートである。先ず、本発明に係る土壌改良資材の製造方法は、浚渫土と、自活性線虫が生息する種線虫土と、バチルス菌が生息する種菌土と、バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を混合する混合工程S202と、この混合工程S202で得られた混合土を20℃〜45℃で発酵させる発酵工程S204と、を有している。
【0013】
次に本発明における浚渫土に関して説明する。本発明における浚渫土とは湖沼や堀、人工池、農業用ため池等の貯水池の底に溜まった土や砂、シルト、落ち葉、ゴミ、ヘドロ等を浚渫した後、ゴミや落ち葉等の大きな夾雑物を除去し脱水したものである。
【0014】
ここで、本発明に好適な浚渫土の取得方法を説明する。先ず、浚渫を行う貯水池の底にポンプ等の吸引装置を降ろし、底土を水ごと吸引する。尚、吸引装置は水底を適宜移動して、浚渫場所を変えながら全体の浚渫を行う。このように、吸引装置を用いて浚渫を行うことで貯水池の遮水作業、排水作業が不要で、貯水池の機能を維持したまま浚渫作業を行うことができる。また、貯水池に生息する動植物の生態系を維持したまま浚渫作業を行うことができる。
【0015】
次に、吸引した底土水を例えばサイクロン型の分離装置に通水し、この分離装置によって砂や小石等の比較的重い重量物を分離除去する。次に、この底土水を所定の隙間を有する篩やベルトスクリーン等に吐出し、ここで落ち葉やゴミ、水生植物等の比較的軽い夾雑物を分離除去する。次に、これら夾雑物が除去された底土水に凝集剤を投入し攪拌する。この際使用する凝集剤はカルシウムを主成分とした無機中性凝集剤を用い
る。そして、この無機中性凝集剤の投入により水中の底土は凝集する。また、底土凝集後の上澄み液は適宜、浚渫中の貯水池に放流される。尚、凝集剤としてカルシウムを主成分とする無機中性凝集剤を用いることで、上澄み液を貯水池に放流した場合でも貯水池側のpHを変化させることが無く、また凝集剤成分が生態系に悪影響を及ぼすことも無い。さらに、カルシウムを主成分とする無機中性凝集剤は、水中のリン成分を固定して底土とともに排出する。このため、貯水池の富栄養化の原因となるリン成分を浚渫と同時に除去することができる。
【0016】
次に、凝集した底土は沈殿槽にて静置される。これにより、凝集した底土は沈殿濃縮する。そして、沈殿濃縮した底土は適宜抜き取られて脱水され、本発明に好適な含水率が50%〜55%程度の浚渫土となる。尚、このときの脱水方法としては、沈殿濃縮した底土を連続的に脱水するベルトプレスを用いることが好ましい。
【0017】
ここで、一般的な貯水池の底土はシリカを含むシルトや粘土、マグネシウム等のミネラル成分、有機物成分を豊富に含有している。そして、シリカはバチルス菌が芽胞を形成する際に必要な栄養素である他、各種ミネラル成分、有機物成分はバチルス菌や自活性線虫の優れた栄養源となる。このため、土壌改良資材に浚渫土を用いることで、発酵工程におけるバチルス菌及び自活性線虫の増殖を促進することができる。さらに、カルシウムを主成分とする無機中性凝集剤を使用した浚渫土を土壌改良資材に用い
るため、凝集剤としてのカルシウム成分及びこのカルシウム成分が固定したリン成分が作物の肥料として機能する。これにより、農地等へのカルシウム成分、リン成分の施肥量を低減もしくは不要とすることができる。
【0018】
次に、本発明におけるセルロース源に関して説明する。本発明におけるセルロース源とは、剪定枝、杉や檜等の樹皮バーク、キノコの原木栽培及び菌床栽培から出た廃菌床、腐葉土、おがくず、もやし滓、木炭や竹炭等の炭のほか、フスマ、米糠、トウモロコシ糠、大豆粕、オカラ、ビール粕、ウイスキー粕、焼酎粕、綿花粕、ダンボール等紙類、樹木の幹や根株の粉砕物、除草作業によって発生した草等、如何なるものを用いても良い。尚、これらセルロース源は基本的に廃棄物となるものを再利用することが好ましい。また、セルロース源は3mmから1cm、特に5mm程度の大きさに粉砕して用いることが好ましい。尚、これらのセルロース源は単独で用いても良いし複数種を混合して用いても良い。特に本発明に係る土壌改良資材の製造方法では発酵温度を20℃〜45℃に維持する。この発酵温度の調節は用いるセルロース源によって行うことが好ましい。例えば、主となるセルロース源に米糠等の発酵速度が速く発酵温度が高温となるものを用いる場合、発酵速度の遅い剪定枝や樹皮バーク等を適量混合する。これにより、全体の発酵温度が下がり20℃〜45℃の好適な温度範囲に維持することができる。また、反対に発酵温度が20℃に満たない場合には、発酵速度が速く発酵温度が高温となる米糠等のセルロース源を混合する。これにより、全体の発酵温度が上がり20℃〜45℃の好適な温度範囲に維持することができる。尚、これらセルロース源の混合は発酵温度に応じて発酵工程の途中に行っても良い。
【0019】
次に、本発明における種線虫土に関して説明する。本発明における種線虫土は自活性線虫(捕食性線虫及び腐生性線虫)が生息している堆肥や腐葉土、その他のセルロース源であり、特に製作後の土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて、これを種線虫土とすることが好ましい
。
【0020】
次に、本発明における種菌土に関して説明する。本発明における種菌土はバチルス菌が生息する土や汚泥等であり、し尿処理乾燥ケーキ、農業集落排水余剰汚泥、下水処理脱水汚泥、上水処理脱水汚泥、その他の汚水処理汚泥等を用いることが好ましい。このとき、汚泥等は乾燥や次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌処理を施
す。この殺菌処理により雑菌は死滅もしくは減少するもののバチルス菌は芽胞状態で生存するため、発酵工程においてバチルス菌を優占化することができる。尚、種菌土は市販されている液体バチルス(液体中にバチルス菌を培養させたもの)を用いても構わない。また、製作後の土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて、これを種線虫土兼種菌土としても良い。
【0021】
ここで、バチルス菌とは枯草菌(Bacillus subtilis)であり、稲藁などに付着する菌である。また、バチルス菌はカビや細菌など、植物の病気を引き起こす28種の病原菌を殺菌する能力を持つことが知られている。中でもBacillus Thuringiensisは蛾や蝶の幼虫に対して殺虫効果があると言われ、微生物農薬としても知られている。よって、バチルス菌が優占化した本発明による土壌改良資材は、このバチルス菌自体が作物に有害な病原菌等の増殖を抑制する効果を有する。
【0022】
次に、本発明に係る土壌改良資材の製造方法を説明する。先ず、例えば前述の吸引装置等により底土を水ごと吸引し、カルシウムを主成分とした無機中性凝集剤を用いて底土を凝集沈殿した後、脱水した浚渫土を取得する(ステップS102)。また、所定のセルロース源を取得する(ステップS104)。また、必要であれば水処理施設等から乾燥汚泥等を種菌土として取得する(ステップS106)。また、必要であれば自活性線虫の生息が確認されている堆肥等を種線虫土として取得する(ステップS108)。
【0023】
次に、浚渫土、セルロース源、種菌土、種線虫土を混合して混合土とする(混合工程S202)。このときの混合方法は如何なるものを用いても良い。尚、前述のように、種菌土、種線虫土は初回のみ他所から取得して、次回以降は前に作製された土壌改良資材を適量採取もしくは残留させて種線虫土兼種菌土としても良い。このときの種線虫土兼種菌土の混合量は10wt%程度が好ましい。また、混合土の配合比としては浚渫土が40wt%〜80wt%、セルロース源が20wt%〜50wt%、種菌土及び種線虫土が5wt%〜10wt%程度とすることが好ましく、特に浚渫土とセルロース源の比率を1:1とす
る。
【0024】
次に、混合土を発酵させる(発酵工程S204)。このときの発酵温度は20℃〜45℃、さらに好ましくは20℃〜40℃に維持する。尚、発酵温度が45℃を超えると自活性線虫の生存に不適であり、また20℃に満たないと自活性線虫の増殖が鈍化する。また、このような20℃〜45℃の中低温で発酵することで複数種のバチルス属細菌種が発生し土壌生態系の復元及び連作障害抑制にさらに効果的となる。発酵温度の調整は高温の場合には発酵速度の遅いセルロース源の添加や攪拌等による放熱で行い、低温の場合には発酵速度の速いセルロース源を添加すること等によって行うことが好ましい。発酵工程の期間(発酵期間)は外気温や用いるセルロース源等によって変化するが、概ね数週間〜1ヶ月程度である。そして、この発酵工程により種菌土中のバチルス菌がセルロース源を栄養に増殖し優占化する。次いで、このバチルス菌を餌とする細菌食雑線虫が増殖する。そしてさらに、この細菌食雑線虫を捕食する捕食性線虫が増殖する。これにより、バチルス菌及び自活性線虫(捕食性線虫及び腐生性線虫)が優占化した土壌改良資材が完成する。尚、この土壌改良資材の含水率は概ね20%〜60%程度である。
【0025】
ここで、前述の方法によって取得した浚渫土を45wt%、セルロース源としての杉皮バークを45wt%、種菌土としてのし尿処理場の乾燥ケーキを10wt%それぞれ混合して発酵させたときの発酵日数と発酵温度、バチルス菌数(x10
8個/g)、自活性線虫数(頭/10g)を[表1]に示す。尚、[表1]の数値は発酵中の混合土の左、中央、右の3点の平均値を示している。また、[表1]では開始37日経過後に土壌改良資材を抜き取り、新たな浚渫土とセルロース源とを投入して再度発酵工程を行っている。
【表1】
【0026】
先ず、開始16日経過後、発酵温度が21℃と低温となったため追加のセルロース源として発酵速度の速い米糠を添加した。以後、発酵温度は26℃〜28℃で良好に推移した。また開始23日経過後、バチルス菌数は3.6x10
8個/gに増大した。しかしながら、線虫はほとんど確認できなかった。これは種線虫土を添加しなかったためと考えられる。よって種線虫土として自活性線虫の存在が確認されている堆肥を添加した。これにより、線虫数は2873頭/10gに増大(開始31日経過後)し、土壌改良資材として十分なレベルに到達した。さらに、開始37日経過後にはバチルス菌数は4.4x10
8個/gに増大し、線虫数は15198頭/10gに増大した。尚、通常の土壌の線虫数は0〜300匹/10g程度であり、本願発明による土壌改良資材の線虫数は極めて多いものといえる。また、通常の堆肥では発酵が進み高温になるので、線虫数は次第に減少する傾向にある。しかしながら、本発明では発酵温度を20℃〜45℃に維持するため自活性線虫が減少することはない。
【0027】
次に、土壌改良資材を抜き取った後、新たな浚渫土を45wt%、新たなセルロース源として杉皮バークと米糠の混合物を45wt%、種線虫土兼種菌土として先に完成した土壌改良資材を10wt%混合して混合土とし、これを発酵させた。この開始7日経過後、発酵温度が44℃と高温となったため天地返し等により一旦放熱した。これにより、以後の発酵温度は40℃以下で良好に推移した。また、バチルス菌数は2.7x10
8個/gと十分なレベルに増殖し、線虫数も347頭/10g確認できた。そして、開始11日経過後にはバチルス菌数は2.7x10
8個/g、線虫数は3310頭/10gに増殖し、土壌改良資材として十分なレベルに到達した。
【0028】
また、本発明に係る土壌改良資材の製造方法では、
図2に示すように、発酵工程後に家畜糞を主原料とした堆肥を混合し、肥料成分としての全窒素量、全リン量、カリウム量を略同等となるように調製しても良い(家畜糞堆肥混合工程S206)。尚、家畜糞堆肥としては豚糞堆肥、牛糞堆肥、鶏糞堆肥、及びこれらの混合堆肥が挙げられるが、中でも特に豚糞堆肥を用いることが好ましい。
【0029】
ここで、家畜糞堆肥を混合する前の土壌改良資材、混合する家畜糞堆肥(豚糞堆肥)、この家畜糞堆肥を10wt%混合した土壌改良資材の全窒素量(T−N)、全リン量(P2O5)、カリウム量(K2O)を[表2]に示す。
【表2】
【0030】
[表2]から、家畜糞堆肥を混合する前の土壌改良資材は全リン量が若干少なめであったが、全リン量が多めの家畜糞堆肥を適量混合することで全窒素量、全リン量、カリウム量が略同等の土壌改良資材が得られた。このようにして得られた土壌改良資材は、植物の成長に必要な3大栄養素がバランス良く配合されているため、基本肥料として使用することが可能となり、農地への施肥量の低減もしくは施肥自体を不要とすることができる。尚、発酵工程後の土壌改良資材及び混合する家畜糞堆肥の全窒素量、全リン量、カリウム量は用いる材料等により変化するため、家畜糞堆肥の選定及び混合量は発酵工程後の土壌改良資材に応じて適宜調整する。ただし、その混合量は概ね10wt%〜20wt%である。
【0031】
以上のように、本発明によって作製された土壌改良資材はバチルス菌及び自活性線虫が優占化しているため、これを農地等に混ぜ込むことで線虫の増加による土壌生態系の再生を行うことができる。また、土壌改良資材に含まれるバチルス菌は抗生物質を分泌して作物に有害なカビ(フザリウム等)や細菌の増殖を抑制する。また、自活性線虫のうち捕食性線虫は作物に有害な寄生性線虫を捕食して、これを駆除もしくは減少させる。これにより、連作障害を防止することができる。
【0032】
また、本発明に係る土壌改良資材の製造方法は、浚渫土を用いて土壌改良資材を製造する。この浚渫土は有機物やミネラル成分を豊富に含むためバチルス菌及び自活性線虫の増殖を従来よりも促進することができる。また、浚渫土自体が優良な肥料として機能する。さらに、カルシウムを主成分とする無機中性凝集剤を使用した浚渫土を
用いるため、土壌改良資材中にカルシウム成分とこのカルシウム成分が固定したリン成分を含み、これらも優良な肥料として機能する。これにより、農地へのカルシウム成分、リン成分の施肥量を低減もしくは不要とすることができる。
【0033】
またさらに、本発明に係る土壌改良資材の製造方法は、発酵工程後の土壌改良資材に家畜糞堆肥を混合し、肥料成分としての全窒素量、全リン量、カリウム量を略同等とすることで、土壌改良資材を基本肥料として用いることができる。これにより、土壌生態系の再生、連作障害の防止に加え、農地への施肥量の低減もしくは施肥自体を不要とすることができる。
【0034】
そして、本発明に係る土壌改良資材の製造方法は、従来使用用途が限定されていた浚渫土を有効利用することができる。
【0035】
尚、本例で示した土壌改良資材の製造方法は一例であり、各工程の手法、用いる浚渫土、種線虫土、種菌土、セルロース源は上記の例に限定されるものではなく、本発明は本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
S202 混合工程
S204 発酵工程
S206 家畜糞堆肥混合工程
【要約】 (修正有)
【課題】浚渫土を有効利用した土壌改良資材の製造方法を提供する。
【解決手段】浚渫で生じた土を脱水して得た浚渫土と、自活性線虫が生息する種線虫土と、バチルス菌が生息する種菌土と、前記バチルス菌の栄養となるセルロース源と、を混合する混合工程と、(2)前記混合工程で得られた混合土を20℃〜45℃で発酵させバチルス菌を前記混合土中で優占化するとともに自活性線虫の増殖を促す発酵工程と、を有する土壌改良資材の製造方法。
【選択図】なし