【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度採択課題、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 平成20年度採択課題、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、イノベーション創出基礎的研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Kidney Int,2010年 1月,vol.77, no.1,p.23−28,published online November 4, 2009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した、生殖器摘出により加療中のイヌ又はネコに投与して、当該イヌ又はネコの怒り度・不安感を改善し、かつ当該イヌ又はネコの活動性(元気さ)、生化学検査値であるGOT、GPT、BUN、CRP又はCPK値、体温、及び呼吸数からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善することを特徴とする当該生殖器摘出により加療中のイヌ又はネコの身体状態の改善を促進するための方法であり、
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩であり、
活動性(元気さ)が、以下のスコア1〜7で評価され、
1.全く活動性(元気)なし(動けない:ぐったりしている)、2.外界の刺激にわずかに反応する(医療者従事者の動きにわずかに反応する、眼で追う、顔を上げる、起き上がろうとする)、3. 外界の刺激に反応して動く(起き上がる、動きがゆっくりであるがケージ内を移動できる)、4. 普通、正常に動く、5. 正常時よりもよく動く、6. 正常時よりもかなり動く、7. 非常に激しく動く、
怒り度・不安感が、以下のスコア1〜5で評価され、
1.落ち着いている、医療者従事者に慣れている、2.触れることができるが慣れていない、落ち着かない、3.不安で犬舎内を徘徊したり、隠れたりする、4.何とか触れることができる、5.触れることができないほど暴れたり、噛みにくる、
1つ以上の評価項目が、活動性(元気さ)、GOT、GPT、BUN、CRP、CPK値、又は体温を含み、
加療中のイヌ又はネコの状態が、怒り度・不安感がスコア5.又はスコア4.であり、かつ、評価項目のうち、生化学検査値であるGOTが996 IU/L以上、GPTが1000 IU/L以上、BUNが18.3〜31.5 mg/dL、又は体温 39.2〜40.1℃の1以上を示す状態であり、
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の投与方法が、静脈内又は皮下投与であり、投与回数及び投与期間が1日1〜数回及び1〜6日間である、方法。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである請求項1又は2に記載の方法。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した、慢性腎不全により加療中のイヌ又はネコに投与して、活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値であるGOT、GPT又はBUN、怒り度・不安感、体温、及び呼吸数からなる評価項目のうち2つ以上の評価項目を改善することを特徴とする当該慢性腎不全により加療中のイヌ又はネコの身体状態の改善を促進するための方法であり、
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩であり、
活動性(元気さ)が、以下のスコア1〜7で評価され、
1.全く活動性(元気)なし(動けない:ぐったりしている)、2.外界の刺激にわずかに反応する(医療者従事者の動きにわずかに反応する、眼で追う、顔を上げる、起き上がろうとする)、3. 外界の刺激に反応して動く(起き上がる、動きがゆっくりであるがケージ内を移動できる)、4. 普通、正常に動く、5. 正常時よりもよく動く、6. 正常時よりもかなり動く、7. 非常に激しく動く、
怒り度・不安感が、以下のスコア1〜5で評価され、
1.落ち着いている、医療者従事者に慣れている、2.触れることができるが慣れていない、落ち着かない、3.不安で犬舎内を徘徊したり、隠れたりする、4.何とか触れることができる、5.触れることができないほど暴れたり、噛みにくる、
2つ以上の評価項目が、活動性(元気さ)及び血球検査値を含み、
加療中のイヌ又はネコの状態が、評価項目のうち活動性(元気さ)がスコア1.又はスコア2.、血球検査値である血小板数が11.3×105/μL以下、生化学検査値であるGOTが996 IU/L以上、GPTが1000 IU/L以上、BUNが23.4〜44.2 mg/dL、体温が39.2〜40.1℃、又は呼吸数が100回/分以上の1以上を示す状態であり、
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の投与方法が、静脈内又は皮下投与であり、投与回数及び投与期間が1日1〜数回及び1〜6日間である、方法。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである請求項5又は6に記載の方法。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分とし、活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した、生殖器摘出により加療中のイヌ又はネコの怒り度・不安感を改善し、かつ当該イヌ又はネコの活動性(元気さ)、生化学検査値であるGOT、GPT、BUN、CRP又はCPK値、体温、及び呼吸数からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善するものであることを特徴とする、当該生殖器摘出により加療中のイヌ又はネコの身体状態の改善を促進するための医薬組成物であり、
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩であり、
活動性(元気さ)が、以下のスコア1〜7で評価され、
1.全く活動性(元気)なし(動けない:ぐったりしている)、2.外界の刺激にわずかに反応する(医療者従事者の動きにわずかに反応する、眼で追う、顔を上げる、起き上がろうとする)、3. 外界の刺激に反応して動く(起き上がる、動きがゆっくりであるがケージ内を移動できる)、4. 普通、正常に動く、5. 正常時よりもよく動く、6. 正常時よりもかなり動く、7. 非常に激しく動く、
怒り度・不安感が、以下のスコア1〜5で評価され、
1.落ち着いている、医療者従事者に慣れている、2.触れることができるが慣れていない、落ち着かない、3.不安で犬舎内を徘徊したり、隠れたりする、4.何とか触れることができる、5.触れることができないほど暴れたり、噛みにくる、
1つ以上の評価項目が、活動性(元気さ)、GOT、GPT、BUN、CRP、CPK値、又は体温を含み、
加療中のイヌ又はネコの状態が、怒り度・不安感がスコア5.又はスコア4.であり、かつ、評価項目のうち、生化学検査値であるGOTが996 IU/L以上、GPTが1000 IU/L以上、BUNが18.3〜31.5 mg/dL、又は体温 39.2〜40.1℃の1以上を示す状態であり、
静脈内又は皮下投与されるものであり、投与回数及び投与期間が1日1〜数回及び1〜6日間である、医薬組成物。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである請求項9又は10に記載の医薬組成物。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである請求項9〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分とし、活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した、慢性腎不全により加療中のイヌ又はネコの活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値であるGOT、GPT又はBUN、怒り度・不安感、体温、及び呼吸数からなる評価項目のうち2つ以上の評価項目を改善するものであることを特徴とする、当該慢性腎不全により加療中のイヌ又はネコの身体状態の改善を促進するための医薬組成物であり、
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩であり、
活動性(元気さ)が、以下のスコア1〜7で評価され、
1.全く活動性(元気)なし(動けない:ぐったりしている)、2.外界の刺激にわずかに反応する(医療者従事者の動きにわずかに反応する、眼で追う、顔を上げる、起き上がろうとする)、3. 外界の刺激に反応して動く(起き上がる、動きがゆっくりであるがケージ内を移動できる)、4. 普通、正常に動く、5. 正常時よりもよく動く、6. 正常時よりもかなり動く、7. 非常に激しく動く、
怒り度・不安感が、以下のスコア1〜5で評価され、
1.落ち着いている、医療者従事者に慣れている、2.触れることができるが慣れていない、落ち着かない、3.不安で犬舎内を徘徊したり、隠れたりする、4.何とか触れることができる、5.触れることができないほど暴れたり、噛みにくる、
2つ以上の評価項目が、活動性(元気さ)及び血球検査値を含み、
加療中のイヌ又はネコの状態が、評価項目のうち活動性(元気さ)がスコア1.又はスコア2.、血球検査値である血小板数が11.3×105/μL以下、生化学検査値であるGOTが996 IU/L以上、GPTが1000 IU/L以上、BUNが23.4〜44.2 mg/dL、体温が39.2〜40.1℃、又は呼吸数が100回/分以上の1以上を示す状態であり、
静脈内又は皮下投与されるものであり、投与回数及び投与期間が1日1〜数回及び1〜6日間である、医薬組成物。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである請求項13又は14に記載の医薬組成物。
グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである請求項13〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、加療中の健康な状態にない動物に投与して身体状態の回復を促進する回復促進治療剤及び治療方法等の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、グレリンを種々の病態により健康状態にない動物、特に治療のために入院した動物に投与すると、動物の状態を示す各種パラメータ(例えば活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、体温、怒り度・不安感及び呼吸数のうち1つ以上)が改善することを見出し、グレリンの投与により早期に加療中の動物の回復を促進させうることを見出した。さらに、病態の悪化により動けないような動物の治療においても、グレリン投与後にこれらのパラメータに基づき動物の身体状態が改善したことを見出した。
【0014】
即ち、本発明はグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分とする、加療中の動物の身体又は精神状態改善を促進するための動物用回復促進治療剤に関する。
また、本発明はグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を投与することからなる、加療中の動物の身体状態改善を促進するための治療方法に関する。
更に、本発明は加療中の動物の身体状態改善を促進する動物用回復促進治療剤を製造するためのグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の使用に関する。
以上のことから、本発明はより具体的には以下の事項に関する。
【0015】
(1)グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として含有し、活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、体温、怒り度・不安感及び呼吸数からなる評価項目のうち、1つ以上の評価項目を改善することを特徴とする活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療中の動物の身体状態の改善を促進する動物用回復促進治療剤。
(2)動物が手術後の動物である上記(1)に記載の回復促進治療剤。
(3)血球検査値における血球が、白血球、血小板又はヘモグロビンである上記(1)又は(2)に記載の回復促進治療剤。
(4)生化学検査値が、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)値、総コレステロール(T-CHO)値、アルカリフォスファターゼ(ALP)値、血液尿素窒素(BUN)値、血清クレアチニン(Cre)値、血中アンモニア(NH
3)値、総ビリルビン(T-bil)値、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値、血清カリウム(K)値又はC-反応性蛋白(CRP)値である上記(1)〜(3)記載のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
(5)動物が、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、感染症、寄生虫、炎症性疾患及び消化管疾患から選択される疾患に係る動物である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
(6)動物が、下部泌尿器症候群、慢性腎不全、腎不全、尿閉、尿路形成術、膀胱結石、伝染性呼吸器症候群、心不全、変形性関節症、脱臼、骨吸収、慢性肝炎、膀胱炎、栄養不良、低血糖、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、肺炎、貧血、削痩、下痢、嘔吐、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、イヌパルボウイルス(CPV)、発熱、肝疾患、ダニ寄生、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬傷、アナフィラキシー、落下事故、交通事故、外傷、裂傷、咬傷、肋骨骨折、骨盤骨折、大腿骨折、その他の骨折、断脚、椎間板ヘルニア、横隔膜ヘルニア、気胸、皮膚脂漏症、腹膜炎、熱中症、急性腸炎、腸閉塞、腸重積、胃捻転及び火傷から選択される疾患で加療中の動物である上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
(7) 加療の原因と評価項目の組み合わせが、以下から選択される;
1) 加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出等の生殖器官疾患であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値及びCRP値、体温及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
2) 加療の原因が乳腺腫瘍、卵巣嚢腫、精巣腫瘍、唾液腺嚢腫又は肝腫瘤等の腫瘍であり、評価項目が活動性(元気さ)、体温、怒り度・不安感のうち1つ以上である;
3) 加療の原因が骨折、事故、脱臼又は椎間板ヘルニア等の整形外科領域疾患であり、評価項目が体温、怒り度・不安感、呼吸数、活動性(元気さ)、及び生化学検査値である GOT値、GPT値、BUN値及びCPK値のうち1つ以上である;
4) 加療の原因が尿閉、膀胱結石又は腎不全等の腎機能障害であり、評価項目が血球検査値である白血球数及び血小板数、生化学検査値であるクレアチニン(Cre)値及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
5)加療の原因が感染症又は寄生虫であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値、呼吸数及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
6) 加療の原因が皮膚炎、咬傷又は裂傷等の炎症性疾患であり、評価項目が体温、活動性(元気さ)、及び生化学検査値であるGOT値、GPT値及びBUN値のうち1つ以上である;又は
7) 加療の原因が嘔吐、下痢、栄養不良、衰弱、腸閉塞又は腸重積等の消化器疾患であり、評価項目が活動性(元気さ)である上記(1)〜(6)に記載の回復促進治療剤。
(8)グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩である上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
【0016】
なお、本発明で使用されるグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩は、上記したアミノ酸配列を含むペプチドであってもよく、具体的には、N末端に他のアミノ酸が付加したものでもよい。
【0017】
(9)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである上記(8)に記載の回復促進治療剤。
(10)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである上記(9)に記載の回復促進治療剤。
(11)グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 100 mg含有する上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
【0018】
(12)グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療中の動物に投与して、当該動物の活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、体温、怒り度・不安感及び呼吸数からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善することを特徴とする当該加療中の動物の身体状態の改善を促進するための治療方法。
(13)動物が手術後の動物である上記(12)に記載の治療方法。
(14)血球検査値における血球が、白血球、血小板又はヘモグロビンである上記(12)又は(13)に記載の治療方法。
(15)生化学検査値が、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)値、総コレステロール(T-CHO)値、アルカリフォスファターゼ(ALP)値、血液尿素窒素(BUN)値、血清クレアチニン(Cre)値、血中アンモニア(NH
3)値、総ビリルビン(T-bil)値、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値、血清カリウム(K)値又はC-反応性蛋白(CRP)値である上記(12)〜(14)のいずれか1項に記載の治療方法。
(16)動物が、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、感染症、寄生虫、炎症性疾患及び消化管疾患から選択される疾患に係る動物である(12)〜(15)のいずれか1項に記載の治療方法。
(17)動物が、下部泌尿器症候群、慢性腎不全、腎不全、尿閉、尿路形成術、膀胱結石、伝染性呼吸器症候群、心不全、変形性関節症、脱臼、骨吸収、慢性肝炎、膀胱炎、栄養不良、低血糖、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、肺炎、貧血、削痩、下痢、嘔吐、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、イヌパルボウイルス(CPV)、発熱、肝疾患、ダニ寄生、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬傷、アナフィラキシー、落下事故、交通事故、外傷、裂傷、咬傷、肋骨骨折、骨盤骨折、大腿骨折、その他の骨折、断脚、椎間板ヘルニア、横隔膜ヘルニア、気胸、皮膚脂漏症、腹膜炎、熱中症、急性腸炎、腸閉塞、腸重積、胃捻転及び火傷から選択される疾患で加療中の動物である上記(12)〜(15)のいずれか1項に記載の治療方法。
(18)加療の原因と評価項目の組み合わせが、以下から選択される;
1) 加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出等の生殖器官疾患であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値及びCRP値、体温及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
2) 加療の原因が乳腺腫瘍、卵巣嚢腫、精巣腫瘍、唾液腺嚢腫又は肝腫瘤等の腫瘍であり、評価項目が体温、怒り度・不安感及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
3) 加療の原因が骨折、事故、脱臼又は椎間板ヘルニア等の整形外科領域疾患であり、評価項目が体温、怒り度・不安感、呼吸数、活動性(元気さ)、及び生化学検査値である GOT値、GPT値、BUN値及びCPK値のうち1つ以上である;
4) 加療の原因が尿閉、膀胱結石又は腎不全等の腎機能障害であり、評価項目が血球検査値である白血球数及び血小板数、生化学検査値であるCre値、及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
5)加療の原因が感染症又は寄生虫であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値、呼吸数及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
6) 加療の原因が皮膚炎、咬傷又は裂傷等の炎症性疾患であり、評価項目が体温、元気さ、及び生化学検査値であるGOT値、GPT値及びBUN値のうち1つ以上である;又は
7) 加療の原因が嘔吐、下痢、栄養不良、衰弱、腸閉塞又は腸重積等の消化器疾患であり、評価項目が活動性(元気さ)である上記(12)〜(17)のいずれか1項に記載の治療方法。
(19)グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩である上記(12)〜(18)のいずれか1項に記載の治療方法。
(20)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである上記(19)に記載の治療方法。
(21)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである上記(20)に記載の治療方法。
(22)1回あたりグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として0.001 mg 〜 100 mg投与する上記(12)〜(21)のいずれか1項に記載の治療方法。
【0019】
(23)活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、体温、怒り度・不安感及び呼吸数からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善する、活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療中の動物の身体状態の改善を促進する動物用回復促進治療剤を製造するためのグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の使用。
(24)動物が手術後の動物である上記(23)に記載の使用。
(25)血球検査値における血球が、白血球、血小板又はヘモグロビンである上記(23)又は(24)のいずれか1項に記載の使用。
(26)生化学検査値が、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)値、総コレステロール(T-CHO)値、アルカリフォスファターゼ(ALP)値、血液尿素窒素(BUN)値、血清クレアチニン(Cre)値、血中アンモニア(NH
3)値、総ビリルビン(T-bil)値、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値、血清カリウム(K)値又はC-反応性蛋白(CRP)値である上記(23)〜(25)のいずれか1項に記載の使用。
(27)動物が、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、感染症、寄生虫、炎症性疾患及び消化管疾患から選択される疾患に係る動物である上記(23)〜(26)のいずれか1項に記載の使用。
(28)動物が、下部泌尿器症候群、慢性腎不全、腎不全、尿閉、尿路形成術、膀胱結石、伝染性呼吸器症候群、心不全、変形性関節症、脱臼、骨吸収、慢性肝炎、膀胱炎、栄養不良、低血糖、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、肺炎、貧血、削痩、下痢、嘔吐、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、イヌパルボウイルス(CPV)、発熱、肝疾患、ダニ寄生、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬傷、アナフィラキシー、落下事故、交通事故、外傷、裂傷、咬傷、肋骨骨折、骨盤骨折、大腿骨折、その他の骨折、断脚、椎間板ヘルニア、横隔膜ヘルニア、気胸、皮膚脂漏症、腹膜炎、熱中症、急性腸炎、腸閉塞、腸重積、胃捻転及び火傷から選択される疾患で加療中の動物である上記(23)〜(27)のいずれか1項に記載の使用。
(29)加療の原因と評価項目の組み合わせが、以下から選択される;
1) 加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出等の生殖器官疾患であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値及びCRP値、体温及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
2) 加療の原因が乳腺腫瘍、卵巣嚢腫、精巣腫瘍、唾液腺嚢腫又は肝腫瘤等の腫瘍であり、評価項目が体温、怒り度・不安感及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
3) 加療の原因が骨折、脱臼、椎間板ヘルニア又は事故の整形外科領域疾患であり、評価項目が体温、怒り度・不安感、呼吸数、活動性(元気さ)、及び生化学検査値である GOT値、GPT値、BUN値及びCPK値のうち1つ以上である;
4) 加療の原因が尿閉、膀胱結石又は腎不全等の腎機能障害であり、評価項目が血球検査値である白血球値及び血小板数、生化学検査値であるCre値、及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
5)加療の原因が感染症又は寄生虫であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値、呼吸数及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
6) 加療の原因が皮膚炎、咬傷又は裂傷等の炎症性疾患であり、評価項目が体温、活動性(元気さ)、及び生化学検査値であるGOT値、GPT値及びBUN値のうち1つ以上である;又は
7) 加療の原因が嘔吐、下痢、栄養不良、衰弱、腸閉塞又は腸重積等の消化器疾患であり、評価項目が活動性(元気さ)である上記(23)〜(28)のいずれか1項に記載の使用。
(30)グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩である上記(23)〜(29)のいずれか1項に記載の使用。
(31)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである上記(30)に記載の使用。
(32)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである上記(31)に記載の使用。
(33)動物用回復促進治療剤がグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 100 mg含有する上記(23)〜(32)のいずれか1項に記載の使用。
(34)活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、体温、怒り度・不安感及び呼吸数からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善する、活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療中の動物の身体状態の改善の促進に使用するためのグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(35)動物が手術後の動物である上記(34)に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(36)血球検査値における血球が、白血球、血小板又はヘモグロビンである上記(34)又は(35)のいずれか1項に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(37)生化学検査値が、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)値、総コレステロール(T-CHO)値、アルカリフォスファターゼ(ALP)値、血液尿素窒素(BUN)値、血清クレアチニン(Cre)値、血中アンモニア(NH
3)値、総ビリルビン(T-bil)値、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値、血清カリウム(K)値又はC-反応性蛋白(CRP)値である上記(34)〜(36)のいずれか1項に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(38)動物が、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、感染症、寄生虫、炎症性疾患及び消化管疾患から選択される疾患に係る動物である上記(34)〜(37)のいずれか1項に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(39)動物が、下部泌尿器症候群、慢性腎不全、腎不全、尿閉、尿路形成術、膀胱結石、伝染性呼吸器症候群、心不全、変形性関節症、脱臼、骨吸収、慢性肝炎、膀胱炎、栄養不良、低血糖、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、肺炎、貧血、削痩、下痢、嘔吐、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、イヌパルボウイルス(CPV)、発熱、肝疾患、ダニ寄生、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬傷、アナフィラキシー、落下事故、交通事故、外傷、裂傷、咬傷、肋骨骨折、骨盤骨折、大腿骨折、その他の骨折、断脚、椎間板ヘルニア、横隔膜ヘルニア、気胸、皮膚脂漏症、腹膜炎、熱中症、急性腸炎、腸閉塞、腸重積、胃捻転及び火傷から選択される疾患で加療中の動物である上記(34)〜(38)のいずれか1項に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(40)加療の原因と評価項目の組み合わせが、以下から選択される;
1) 加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出等の生殖器官疾患であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値及びCRP値、体温及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
2) 加療の原因が乳腺腫瘍、卵巣嚢腫、精巣腫瘍、唾液腺嚢腫又は肝腫瘤等の腫瘍であり、評価項目が体温、怒り度・不安感及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
3) 加療の原因が骨折、脱臼、椎間板ヘルニア又は事故の整形外科領域疾患であり、評価項目が体温、怒り度・不安感、呼吸数、活動性(元気さ)、及び生化学検査値である GOT値、GPT値、BUN値及びCPK値のうち1つ以上である;
4) 加療の原因が尿閉、膀胱結石又は腎不全等の腎機能障害であり、評価項目が血球検査値である白血球値及び血小板数、生化学検査値であるCre値、及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
5)加療の原因が感染症又は寄生虫であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値、呼吸数及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である;
6) 加療の原因が皮膚炎、咬傷又は裂傷等の炎症性疾患であり、評価項目が体温、活動性(元気さ)、及び生化学検査値であるGOT値、GPT値及びBUN値のうち1つ以上である;又は
7) 加療の原因が嘔吐、下痢、栄養不良、衰弱、腸閉塞又は腸重積等の消化器疾患であり、評価項目が活動性(元気さ)である上記(34)〜(39)のいずれか1項に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(41)グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜カルボキシ末端までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩である上記(34)〜(40)のいずれか1項に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(42)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである上記(41)に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(43)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである上記(42)に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
(44)動物用回復促進治療剤がグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 100 mg含有する上記(34)〜(43)のいずれか1項に記載のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩。
【0020】
評価項目は、単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよく、組み合わせとしては、例えば、元気さ及び生化学検査値、元気さ及び血球検査値、並びに元気さ、生化学検査値及び血球検査値等が好ましい。
1ドーズユニットとは、1回投与あたりのことをいい、投与は、1日1〜数回行うのがよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩が動物の種々の病態において、体の状態の回復を促進させる作用を持つことが明らかになった。当該作用に基づき病態又は手術の影響から体の状態が悪化した動物の個体に対してグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を投与することにより体の状態回復を促進することが可能となる。これにより、加療を要する健康状態にない動物の治療、特に手術を受けた動物の早期回復について、有効な回復促進治療剤及び治療方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の薬剤の投与対象である動物は、有用動物であればどのようなものでもよく、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳動物、鳥類、観賞用動物等どのようなものでもよいが、病気又は手術後の動物が好適である。病気又は手術のために活発さを失い、例えば、寝たきり、起き上がれない、歩けない等の身体的又は精神的に困難な状態にある動物がより好適である。具体的には、動物名としては、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等が挙げられる。特に、イヌ、ネコが好ましい。
本発明は、手術後の動物に有利に実施される。手術は、例えば、避妊、去勢、化膿部切除等、生殖器官疾患(子宮蓄膿症等)、腫瘍疾患(乳腺腫瘍等)、外科的疾患(椎間板ヘルニア、交通事故による怪我等)、泌尿器疾患(尿道口形成等)、骨疾患(骨折等)及び消化管疾患等の手術が挙げられる。例えば、本発明の治療剤を当該手術後の動物に適用すると驚くべき顕著な効果が奏される。また、本発明の治療剤は、手術を受けずとも疾患(慢性腎不全等の腎機能障害等)により身体状態が悪化した動物にも顕著な効果を奏するものである。
【0023】
本発明の治療剤の投与対象である動物は、「活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療中の動物」である。「活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療中の動物」とは、例えば腎不全等の慢性疾患、腫瘍、感染症、事故、手術等により体力及び活動性が損なわれぐったりした状態の動物である。活動性(元気さ)の具体的な状態としては、1. 全く元気がない(動けない、ぐったりしている)、2.外界の刺激にわずかに反応する(医療従事者の動きにわずかに反応する、眼で追う、顔を上げる、起き上がろうとする)、3. 外界の刺激に反応して動く(起き上がる、動きがゆっくりであるがケージ内を移動できる)、4. 普通、正常の動き、5. 正常時よりもよく動く、6. 正常時よりもかなり動く、7. 正常時に比べて非常に激しく動く、等が挙げられる。例えば、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、椎間板ヘルニア及び消化管疾患から選択される疾患に係る手術後の動物が好適である。骨疾患には骨折も含まれる。また、下部泌尿器症候群、尿閉、伝染性呼吸器症候群、慢性腎不全、変形性関節症、慢性肝炎、膀胱結石、栄養不良、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、貧血、削痩、下痢、嘔吐、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、イヌパルボウイルス(CPV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、肝疾患、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬症、アナフィラキシー、落下事故、肋骨骨折、及び火傷から選択される疾患で加療中の動物も好適である。本発明の治療剤は、このような加療中の動物の身体状態の改善を促進するために好適に用いられる。さらに本発明の治療剤は、特定疾患の治療剤と組み合わせてもよい。本発明において、「身体状態」は、特定の「精神状態」(例えば、落ち着いている、落ち着かない等)を含んでいてもよく、「身体又は精神状態」という場合がある。
【0024】
グレリンを種々の病態により加療を要する健康状態にない動物(特に治療のために手術を受けた動物)に投与して、動物の身体状態を示す各種パラメータを検討したところ、後述の実施例に具体的に示されるように、特定のパラメータ(活動性(元気さ)、血液学パラメータ(血球検査値)、血清生化学パラメータ(生化学検査値)、体温、怒り度・不安感、呼吸数、)が改善されることが見出されたことから、加療を要する動物への当該物質の投与は早期に当該動物の身体状態を改善し回復を促進することができる。特に動物病院において加療を要する動物として運び込まれることが多いイヌ又はネコの身体状態を改善し回復を促進することができることは非常に有用である。改善とは、好ましくは、本発明の剤を投与前の身体状態より、評価項目の数値が約20%以上改善されている状態を下限とし、健常値に戻る100%を上限とする範囲内に到達することをいう。
また、活動性(元気さ)、怒り度・不安感についての改善とは、例えば以下に示すように評価基準に対応するスコア等がグレリン投与後に改善される(例えば活動性についてはスコア等が上がり、怒り度・不安感についてはスコア等が下がる)ことをいう。
【0025】
そのような加療を要する動物の身体状態改善促進作用は、成長ホルモン分泌因子レセプターを介して起こり得る。即ち、本発明に係る成長ホルモン分泌因子レセプターに作用する物質であるグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩は、種々の病態又は事故に伴って生じた加療を要する動物に、元気さを失い、血球検査値の異常値、生化学検査値の異常値、高体温等を示した場合の治療において早期に当該動物の身体状態を改善し回復を促進するための回復促進治療剤において有効成分として用いることができる。また、グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を投与することにより、加療を要する個体における身体状態の改善を促進して早期回復させるための治療に用いることができる。更に、グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を、加療を要する個体における身体状態を改善して早期回復させるための回復促進治療剤を製造するために使用することができる。グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩は、加療中の動物の活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、体温、怒り度・不安感及び呼吸数からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善して加療中の動物の身体状態の改善を促進するために使用することができる。
【0026】
上記パラメータは公知の手法を用いて調べることができる。例えば、後述の実施例に記載されるように、動物に試験物質を静脈内、皮下、筋肉又は腹腔内注射して、当該動物から採取された血液、血清及び尿からの血球検査値、生化学検査値、活動性(元気さ)、体温、呼吸数等を測定することにより調べることができる。
【0027】
「活動性(元気さ)」とは、加療を要する動物の見た目の状態であり、観察者(例えば治療する者)が直接見て判断する当該動物の活動状態である。例えば加療を要する動物においては殆どの場合に「活動性」は低く、特に治療のために手術を受ける必要性のある動物の場合は手術する前から疾患等の影響で活動性(元気さ)は殆どの場合で、動かない、ぐったりしている、横臥している、伏臥している等の状態である。当該動物に治療により本願発明に係るグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を投与して「活動性(元気さ)」が改善するとは、治療前の状態に比べて上記状態が改善していることである。例えば、観察者に反応して首を上げたり、座ったり、起き上がったり、食べ物に反応したり、啼いたり等のように変化が捉えられた場合である。なお、活動性(元気さ)の具体的な評価方法としては、活動性(元気さ)を次のようにスコア化して評価した。1. 全く元気がない(動けない、ぐったりしている)、2.外界の刺激にわずかに反応する(医療者従事者の動きにわずかに反応する、眼で追う、顔を上げる、起き上がろうとする)、3. 外界の刺激に反応して動く(起き上がる、動きがゆっくりであるがケージ内を移動できる)、4. 普通、正常、5. 正常時よりもよく動く、6. 正常時よりもかなり動く、7. 非常に激しく動く(D.M.Broom: J. Animal Sci., 69: 4167 ? 75 (1991)参照)。なお、活動性(元気さ)が改善されるとは、上記のスコアがグレリン投与後に大きくなることをいう。
【0028】
本発明において血球検査値及び生化学検査値に係る各パラメータに基づく動物の身体の状態が改善したことに関する具体的な内容は以下のとおりである(LonJRich: Interpretation of Biochemical Profiles(AAHA's 45th Annual Meeting Proceeding's,1978)参照)。
【0029】
1.血球検査値
白血球:興奮、ストレス、炎症、癌、膠原病、白血球増加症、骨髄障害、アレルギーなどによって増加することが知られている。白血球は細胞などを貪食し、免疫情報を伝達し、さらに免疫能を発現して生体防御にかかわっている。細菌感染症があると一般に白血球数は増加するが、ウイルス感染症の場合はかえって減少することもある。白血球数が低下した症例では、グレリン投与前ではストレス又は組織の炎症等により増加していた白血球が、グレリン投与後にそれらの病態の改善にともなって低下した。
【0030】
血小板:急性出血後、骨外傷、ストレスにより増加すること、紫斑病、骨髄障害により低下することが知られている。血小板は出血を止めやすくするための重要な働きを持ち、この値が極端に減少すると出血をおこしやすくなる。グレリン投与前に病態によって低下していた血小板が、グレリン投与後に増加した。そのメカニズム等は不明である。
【0031】
ヘモグロビン:溶血性貧血、溶血(薬物、腎髄腫、タマネギ等)RBC産生不良、骨髄抑制(抗生物質等)などにより低下することが知られている。赤血球の中に含まれている酸素を結合する色素で、少ないと貧血となり、体中に酸素を運べなくなる。ヘモグロビンが低下した症例では、グレリン投与後にヘモグロビン値が上昇した。
2.生化学検査値
【0032】
GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ):急性肝炎、慢性肝炎、肝ガン、筋炎、心損傷または壊死により増加することが知られている。体の様々な臓器の細胞中に多く含まれている酵素でアミノ酸を作る働きをしている。体細胞は生成及び破壊を繰り返しており、血液中に一定量のGOTが流出している。 よって、臓器の損傷により、血液中のGOTは増大する。このことから、実施例の症例には臓器の傷害がグレリン投与前にあったが、グレリン投与後にはこれらの臓器のいずれかの傷害が改善された。
【0033】
GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(転移酵素)):GPTは肝細胞に多く含まれている酵素なので、肝細胞が障害(破壊)された場合、血液中のGPTの値が異常に上昇してくる。GPTもGOTと同様、肝細胞のほかに心筋及び骨格筋にも含まれているため、これらの病気の指標にもなるが、GOTに比べると含まれている量が少なく、上昇の程度は軽くなる。
このことから、実施例の症例には肝臓、心筋あるいは骨格筋の傷害がグレリン投与前にあったが、グレリン投与後にこれらの臓器のどれかの傷害が改善された。
【0034】
T-CHO(総コレステロール):溶血、糖尿、重篤なネフローゼ、高脂肪食、胆管閉塞、甲状腺機能低下症などにより増加することが知られている。このことから、実施例の症例では、総タンパク値は変化しておらず、BUN値が高値を示していたため、腎機能低下をきたした症例と考えられる。
実施例の症例ではグレリン投与後に、T-CHO値が低下(改善)した。原因として、腎機能の回復にともなって改善した可能性が考えられる。
【0035】
ALP(アルカリホスファターゼ):ALPはエネルギー代謝に関わる酵素のひとつで、殆ど全ての臓器又は組織に含まれている。特に胆道系の細胞に多く含まれているため、この細胞が障害を受けると細胞外に出てくるため血液中のALPは高値になる。従って、実施例の症例では胆道系を含む臓器に障害があってALPが高値となっていたものが、グレリン投与後に低下した。
【0036】
BUN(血液尿素窒素):血液尿素窒素とは尿素の中に含まれる窒素分のことで、血液中の尿素は腎臓に運ばれ、糸球体でろ過されて尿中に排泄される。ところが腎臓の排泄機能が低下すると尿素窒素が尿中にうまく排泄されず、血液中に増加する。
実施例において、グレリン投与前にBUN値が増加していた症例では腎障害があったが、グレリン投与後に腎機能が改善した。
【0037】
CRE(Cre)(クレアチニン):クレアチニンは筋肉内でクレアチンという物質から作られて血液中に出現し、腎臓の糸球体でろ過されて尿中へ排泄される。よって腎機能が低下すると血液中のクレアチニン濃度が高値になり、腎臓以外の影響を受けにくいことから、腎機能の障害を正確に反映するといわれている。実施例の症例では、投与前に腎機能低下があったが、グレリン投与後に腎機能が改善した。
【0038】
血中NH
3(アンモニア):肝障害、門脈大静脈短絡症候群などにより増加することが知られている。アンモニアは有害な物質で、意識障害が生じる原因となるため、肝性昏睡時などの病態を把握するために測定される。実施例の症例では、グレリン投与前に血中アンモニアが高値を示し、グレリン投与後に低下した。そのメカニズムについては不明である。
【0039】
T-bil(総ビリルビン):肝細胞障害、胆管閉塞、黄疸によって増加することが知られている。ビリルビンとはヘモグロビンから作られる色素で、赤血球が約120日の寿命を終える際、ヘモグロビンは分解され、間接ビリルビンが生成される。間接ビリルビンは肝臓で酵素の働きにより直接ビリルビンとなり、直接ビリルビンは胆汁の成分となって胆道に排泄され、最終的に便の中に排出される。間接ビリルビンと直接ビリルビンを合わせたものを総ビリルビンという。黄疸になると体が黄色くなるのはこのビリルビン色素が増加するためである。グレリン投与前の実施例の症例では赤血球が傷害されてT-bil値が増加したものと考えられる。グレリン投与後に病態が改善して値が低下した。
【0040】
CPK(クレアチニンフォスフォキナーゼ):クレアチニンフォスフォキナーゼは筋肉に多量に存在する酵素で、筋肉細胞のエネルギー代謝に重要な役割を果たしている。そのため、筋肉に障害があると、血液中のクレアチンキナーゼは高値になる。実施例の症例では、投与前に筋肉に障害があったが、グレリン投与後に筋肉の障害が改善した。
【0041】
CRP(C-反応性蛋白):炎症性疾患のある場合、炎症又は組織破壊の程度が大きいほど高値になり、炎症又は破壊がおさまってくるとすみやかに減少する。そのため病態の活動度又は変化、重症度、又は治療の予後をみるときには欠かせない検査である。実施例の症例では、投与前に重度の炎症があり、グレリン投与後にある程度炎症が改善した。
【0042】
血清カリウム(K):カリウムとは、神経の興奮又は心筋(心臓の筋肉)の働きを助ける、生命活動の維持調節に重要な電解質のひとつである。血液中のカリウム値は、細胞内液からの流出、腎臓でのろ過及び再吸収などによって変動する。体内のカリウムの90%は尿からの排泄によるため、腎不全などにより腎臓の機能が低下すると尿量が減少し、血液中のカリウムは高値になる。また、激しい下痢又は嘔吐のときには吐物又は便とともに体外に排出されるため、血液中のカリウムは低値になる。実施例の症例では身体状態が悪化していた期間が比較的長く血清カリウム値が低下した症例であったが、グレリン投与後に改善した。メカニズムについては不明である。
【0043】
本発明において、評価項目としての体温は、高体温又は低体温から改善されることが好ましく、以下に示すように高体温から改善されることがより好ましい。高体温(発熱)は、感染症、脱水症、慢性炎症性疾患、代謝亢進、貧血、妊娠、膠原病、髄膜炎、感染性心内膜炎、敗血症、急性化膿性胆管炎、悪性症候群、インフルエンザ、細菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎、オウム病、急性扁桃炎、細菌性髄膜炎、急性肝炎、肝膿瘍、胆石症、胆嚢炎、胆管炎、虫垂炎、子宮付属器炎、急性腎盂腎炎、急性前立腺炎、急性白血病、風邪、急性咽頭炎、肺結核、クラミジア・ニューモニエ肺炎、腎癌、悪性腫瘍、クローン病、子宮内膜炎、全身性エリトマトーデス、多発性筋炎、皮膚筋炎、ブルセラ症、マラリア、ホジキン病、胆道閉鎖症、多発性神経炎、脊髄障害、フェルティ症候群(フェルティ病)、関節リウマチ、脾腫等にみられる。また、熱中症又は横紋筋融解症、薬剤性アレルギーにおいても高体温を生じる。死産、難産、子宮蓄膿症、生殖器摘出によっても高体温を生じる。グレリン投与前に高体温であった実施例の症例では、グレリン投与後に体温が低下した。その要因については感染症等の何らかの要因が改善したことによる可能性が考えられた(メルクマニュアル家庭版(2004))。さらに、ネコはウイルス等による感染症が頻発することが知られており、次のようなもので発熱を伴う:ウイルス性上気道感染症、伝染性上部気道疾患、ウイルス性鼻気管炎、カリシウイルス感染症、汎白血球減少症(パルボ)、白血病ウイルス感染症、小腸のリンパ肉腫、急性リンパ芽球性白血病、エイズ、コロナウイルス感染症、伝染性腹膜炎、腸内コロナウイルス感染症、ヘルペスウイルス感染症、レオウイルス感染症、ロタウイルス感染症、ポックススイルス感染症、巨細胞形成ウイルス感染症、オーエスキー病、アストロウイルス感染症、ボルナウイルス感染症、西ナイルウイルス感染症、SARSコロナウイルス感染症、海綿状脳症、Bordetella bronchiseptica感染症、大腸菌群感染症、サルモネラ感染症、カンピロバクター感染症、パスツレラ感染症、レプトスピラ、Clostridium botulinum中毒、アクチノマイコーシス、G群連鎖球菌感染症、ペスト、ヘリコバクター・ピロリ感染症、野兎病、マイコバクテリウム感染症、結核、らい、非定型抗酸菌症、マイコプラズマ性結膜炎、Q熱(コクシエラ症)、バルトネラ、エールリッヒア、オウム病クラミジア、トキソプラズマ症、クリプトスポリジウム、コクシジウム症、トリコモナス症、ジアルジア症(「猫の医学 −内科・外科診療のすべて−」 加藤元・大島慧 監訳 文永堂出版(1997))。
【0044】
本発明において、評価項目としての呼吸数は、通常の呼吸数よりも多い又は少ない呼吸数から改善されることが好ましく、通常の呼吸数より多い呼吸数から改善されることがより好ましい。呼吸速拍とは、呼吸が速くなる状態のことである。一般的に呼吸が速くなる状態というのは、呼吸困難を起こしていると考えられる。呼吸困難を起こす病気としては肺炎、肺水腫などの肺性のもの、気管虚脱又は軟口蓋の異常のように上部気道性、肺性心又はフィラリア症などの心臓性、交通事故又は高所からの落下による横隔膜ヘルニア又は肺出血など外傷性、そして熱中症の場合でも呼吸速拍になる。このような動物を診察する場合、獣医師は呼吸を抑制しないように注意するが、一刻も早くレントゲンなど諸検査を行って原因を突き止め、適切な対処を行なうことが必要となる(獣医内科学(小動物編)文永堂出版、日本獣医内科学アカデミー編、2005年第1版、p104)。実施例の症例では、肺水腫を併発しており呼吸困難であったが、グレリン投与後に呼吸状態が改善した。
「怒り度・不安感」とは、加療中の動物が医療従事者(獣医師等)に接する態様を観察者が直接見て判断する当該動物の怒り度・不安感を示す評価項目である。例えば、当該動物は、加療中に、落ち着いている、医療従事者により触れることはできるが慣れていない、不安で犬舎内を徘徊したり隠れたりする、医療従事者により何とか触れることができる、医療従事者により触れられないほど暴れたり噛みにくる、という基準とした。特にイヌ又はネコの場合、イヌ又はネコが怯えることにより医療従事者がイヌ又はネコに触れることができないこと、及びイヌ又はネコが痛みのために怒って医療従事者がイヌ又はネコに触れることができないこと等の理由により、怒り度・不安度を明確に判別することができない場合があるために、怒り度・不安度としての評価項目を設定した。本発明において、評価項目としての怒り度・不安感の評価としては次のようにスコア化して行った。1.落ち着いている、医療従事者に慣れている、2.触れることができるが慣れていない、落ち着かない、3.不安で犬舎内を徘徊したり、隠れたりする、4.何とか触れることができる、5.触れることができないほど暴れたり、噛みにくる。怒り度・不安感が改善するとは、この評価スコアがグレリン投与後に低下することをいい、例えば、投与前のスコア5(触れることができないほど暴れたり噛みにくる)がグレリン投与後にスコア2(触れることができるが慣れていない)等に改善したような場合である。
【0045】
本発明に係る加療を要する動物の身体状態の改善を示すパラメータについて、グレリンの主な作用である食欲亢進作用及び成長ホルモン分泌促進作用との関連について以下に記す。即ち、血球検査、生化学検査等の一般検査項目(評価項目)において食事の影響を受ける項目は知られている。例えば、食後に上昇するパラメータとしては血糖値、中性脂肪(TG)があり、食事の影響を直接受けることが知られている(獣医内科学(小動物編)文永堂出版、日本獣医内科学アカデミー編、2005年第1版、p13)。総コレステロール(T-CHO) についても、食事摂取の影響を受けて高値を示すことが分かっている。一方、GOT(AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ))、GPT(ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ))、LDH、ALP、γ-GTP、CHE、CK、ビリルビンなどの肝臓、心臓機能に関わるパラメータは食事の影響を受けないことが知られている(獣医内科診断学 (文永堂)長谷川篤彦・前出吉光 監修、1997年)。
【0046】
腎機能を示すパラメータでは、BUN 及び CRE が汎用されるが、クレアチニンは尿素窒素に比べて、食事の影響を受けにくく、腎機能の指標としては的確と考えられている(CKD診療ガイド2009 社団法人 日本腎臓学会 編 ISBN 978-4-88563-185-6)。
【0047】
従って、今回改善が認められた生化学検査値(GPT、ALP、CPK、CRE等)は食事の影響を受けないパラメータであると考えられる。また、BUNは食事摂取により値が増加するパラメータであるが、本発明に係る試験ではグレリン投与後にBUN値が低下しており、食事量が増加したことによる影響とは考えられない。
【0048】
本発明においてグレリン投与後に高体温が低下する結果が得られたが、食事の体温に対する影響としては上昇することが知られており(Jensen M.ら:Am. J. Physiol., 268:E433 - E488)、この効果は食事摂取による影響とは考えられない。
また、多くの血液検査は、食事の影響をほとんど受けないことが知られている(Medical Practice 編集委員会 編:臨床検査ガイド2003〜2004,文光堂,2003.、小橋隆一郎 著:検査のすべて 病気の検査と病気の知識がすぐわかる、よくわかる,主婦の友社,2003.、西崎 統 著:ナース専科BOOKS 検査値 読み方マニュアル,ディジットブレーン,2002、安藤幸夫 著:病院の検査がわかる検査の手引き 改訂第三版,小学館,1999.)。例えば、白血球数は摂食によって一過性にやや増加することがあるが(実験動物の血液学 関ら編、ソフトサイエンス社(1981) p.364参照)、グレリン投与後に高値であった白血球数が低下したのは摂食亢進によるものではないと考えられる。
【0049】
従って、加療中の動物へのグレリン投与により、白血球正常化、血小板正常化、体温正常化、生化学検査値(GOT、GPT、ALP、CPK、CRP、T-Cho、T-bil、BUN、Cre、K、アンモニア)正常化が認められたことから、これらの検査値の高値或いは低値(血小板(PLT)及びK)を示す病態の治療に応用できる。本発明の治療剤により治療される病態としては、例えば、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、椎間板ヘルニア、消化管疾患等の疾患に係る手術後の症状が挙げられる。本発明の治療剤は、下部泌尿器症候群、尿閉、伝染性呼吸器症候群、慢性腎不全、変形性関節症、慢性肝炎、膀胱結石、栄養不良、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、貧血、削痩、下痢、嘔吐、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、イヌパルボウイルス(CPV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、肝疾患、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬症、アナフィラキシー、落下事故、肋骨骨折、火傷等の疾患の症状の治療にも有効である。
【0050】
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩により治療される上記以外の病態として、興奮、ストレス、癌、膠原病、白血球増加症、骨髄障害、アレルギー、心筋梗塞、骨格筋壊死、中枢神経の障害、尿毒症、中毒、免疫疾患、脂肪肝(肥満)、骨疾患、胆管閉塞、心筋炎、肝障害、腫瘍、急性膵炎、筋炎、甲状腺機能低下、胆汁鬱滞、糖尿病、胆道閉塞、黄疸、溶血、腎機能障害、尿路障害、出血、尿毒症、慢性腎不全、飢餓、循環器不全、肝門脈シャント、感染症、白血病、炎症、脱水症、慢性炎症性疾患、代謝亢進、貧血、妊娠、膠原病、髄膜炎、感染性心内膜炎、敗血症、急性化膿性胆管炎、悪性症候群、インフルエンザ、細菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎、オウム病、急扁桃炎、細菌性髄膜炎、急性肝炎、肝膿瘍、胆石症、胆嚢炎、胆管炎、虫垂炎、子宮付属器炎、急性腎盂腎炎、急性前立腺炎、急性白血病、風邪、急性咽頭炎、肺結核、クラミジア・ニューモニエ肺炎、腎癌、悪性腫瘍、クローン病、子宮内膜炎、全身性エリトマトーデス、多発性筋炎、皮膚筋炎、ブルセラ症、マラリア、ホジキン病、胆道閉鎖症、多発性神経炎、脊髄障害、フェルティ症候群(フェルティ病)、関節リウマチ、脾腫等が挙げられる。
【0051】
また本発明に係る試験において白血球の低下が認められたが、グレリンは成長ホルモン分泌を促進する作用を持つことが知られており(非特許文献1)、成長ホルモンは白血球数に影響することが知られている。即ち、成長ホルモン投与による副作用として、白血球増加が報告されている(ジェノトロピン(商品名)使用上の注意改訂 No.’08−17)。これは、本発明に係る試験での結果と逆であり、本発明における効果は、成長ホルモンによる作用とは考えられない。
【0052】
さらに、本発明において食欲が亢進しなかった症例で、活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値及び体温のうち1つ以上が改善した例が多数認められており、摂食による影響ではないグレリン投与による改善効果が確認されている。
【0053】
以上のことから、本発明に係る試験において改善が認められたパラメータは、グレリンの主な作用である食欲亢進作用及び成長ホルモン分泌促進作用によってもたらされた食事量の増加又は成長ホルモン分泌量の増加の影響によるものではないと考えられる。
【0054】
本発明において、加療の原因と評価項目との組み合わせの好ましい例を挙げると、例えば以下の組み合わせが挙げられる。
1)加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出であり、評価項目が元気さ、血球検査値である白血球数、ヘモグロビン値、又は血小板数、生化学検査値であるGPT又はCRP、又は体温である。
2)加療の原因が乳腺腫瘍であり、評価項目が元気さ、血球検査値である白血球数、ヘモグロビン値又は血小板数、又は生化学検査値であるGPT又は体温である。
3)加療の原因が骨折又は事故であり、評価項目が元気さ、生化学検査値であるGOT、GPT及び/又はクレアチニン値である。
4)加療の原因が尿道口形成であり、評価項目が元気さ、血球検査値である血小板数及び/又は白血球数、又は生化学検査値であるクレアチニン値である。
5)加療の原因が死産又は難産であり、評価項目が体温である。
6)加療の原因が感染症であり、評価項目が元気さ、血球検査値である白血球数又は生化学検査値である血清カリウム値、GOT及び/又はGPTである。
7)加療の原因が腎機能障害であり、評価項目が元気さ、血球検査値である白血球数、又は生化学検査値であるALP及び/又はCPKである。
8)加療の原因がアナフィラキシーであり、評価項目が元気さ、又は生化学検査値である血清アンモニア値である。
9) 加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出等の生殖器官疾患であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値及びCRP値、体温及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である。
10) 加療の原因が乳腺腫瘍、卵巣嚢腫、精巣腫瘍、唾液腺嚢腫又は肝腫瘤等の腫瘍であり、評価項目が活動性(元気さ)、体温、怒り度・不安感のうち1つ以上である。
11) 加療の原因が骨折、事故、脱臼又は椎間板ヘルニア等の整形外科領域疾患であり、評価項目が体温、怒り度・不安感、呼吸数、活動性(元気さ)、及び生化学検査値である GOT値、GPT値、BUN値及びCPK値のうち1つ以上である。
12) 加療の原因が尿閉、膀胱結石又は腎不全等の腎機能障害であり、評価項目が血球検査値である白血球数及び血小板数、生化学検査値であるクレアチニン(Cre)値及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である。
13)加療の原因が感染症又は寄生虫であり、評価項目が生化学検査値であるBUN値、呼吸数及び活動性(元気さ)のうち1つ以上である。
14) 加療の原因が皮膚炎、咬傷又は裂傷等の炎症性疾患であり、評価項目が体温、活動性(元気さ)、及び生化学検査値であるGOT値、GPT値及びBUN値のうち1つ以上である。又は
15) 加療の原因が嘔吐、下痢、栄養不良、衰弱、腸閉塞又は腸重積等の消化器疾患であり、評価項目が活動性(元気さ)である。
【0055】
本発明において用い得る物質としては、成長ホルモン分泌促進因子レセプター(GHS-R)に作用して細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有する物質を挙げることができる。
【0056】
成長ホルモン分泌促進因子レセプターとは、成長ホルモン分泌因子(GHS: growth hormone secretagogue)が結合するレセプターであり、GHS-R 1a、GHS-R 1b等のサブタイプが存在することが知られる。このうち、GHS-R1aのみがホスホリパーゼC関連のシグナル伝達関連受容体を活性化し、細胞内カルシウムを増加させることが知られる。本明細書中において、「成長ホルモン分泌促進因子レセプター(GHS-R)」と言うときは、特に断りのない限り、GHS-R 1aを意味する。
【0057】
GHS-Rに作用して「細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有する」か否かは、公知の手法を用いて細胞内カルシウムイオン濃度を簡便に測定することで容易に判断することができる。例えば、カルシウムイオン濃度変化によるFluo-4 AM (Molecular Probe社)の蛍光強度の変化を利用したFLIPR (Fluorometric Imaging Plate Reader, Molecular Devices社)を用いることができる。また、細胞内カルシウム濃度上昇活性を有するペプチドが、in vitro又はin vivoで成長ホルモン分泌促進因子活性を有するか確認するために公知の手法を用いることができる。例えばin vitroでは、成長ホルモンを分泌してGHS-Rの発現も確認されている細胞(例えば、脳下垂体細胞)に添加して、細胞培養液中に分泌される成長ホルモンを、抗成長ホルモン抗体を用いたラジオイムノアッセイによって測定することができる。in vivoでの成長ホルモン分泌促進活性を確認するためには、細胞内カルシウム濃度上昇活性を有するペプチドを動物の末梢静脈に注射した後の血清中の成長ホルモン濃度を測定すればよい。上記の方法のいずれかによって、カルシウム濃度を上昇させる物質であればどのようなものでもよい。
特に本発明において用い得る物質として好ましいものはグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩である。グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩及びこれらの製造方法としては、特許文献1に記載されるもの等が挙げられる。
【0058】
本明細書において「グレリン」とは、例えば、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ、シカ、ヒト等の各種有用動物由来のグレリンであり、特に配列番号1〜23のいずれか1つの配列を有するペプチドの、N末端から3番目のアミノ酸残基の側鎖の水酸基が脂肪酸によりアシル化されたペプチド化合物である。脂肪酸の炭素数は2、4、6、8、10、12、14、16又は18であることが好ましく、特に炭素数が8の場合(オクタノイル基)が好ましい。脂肪酸は、直鎖でも分岐鎖でもよく、飽和でも不飽和でもよい。
【0059】
本明細書において「グレリン誘導体」とは、上記グレリンに係るアミノ酸配列においてアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つGHS-Rに作用して細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有するペプチド化合物である。好ましくは上記グレリンに係るアミノ酸配列におけるアミノ末端から5番目のアミノ酸残基からカルボキシ末端のアミノ酸残基(例えば、配列番号1、4、6、7、8、10、14、16、20、21、22又は23に係るアミノ酸配列においてアミノ末端から5番目〜28番目のアミノ酸残基、配列番号2、3、5、8、9、15、17、18又は19に係るアミノ酸配列においてアミノ末端から5番目〜27番目のアミノ酸残基、配列番号13に係るアミノ酸配列においてアミノ末端から5番目〜26番目のアミノ酸残基、配列番号11又は12に係るアミノ酸配列においてアミノ末端から5番目〜24番目のアミノ酸残基)において、1個乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、且つ成長ホルモン分泌促進因子レセプター(GHS-R) に作用して細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させる活性を有するペプチド化合物である。また「1個乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列」という場合の欠失等されるアミノ酸の個数は、当該アミノ酸配列からなるペプチド化合物が所望の機能を有する限り特に限定されないが、例えば1〜9個程度、好ましくは1〜4個程度である。性質(電荷及び/又は極性)の似たアミノ酸への置換等であれば、多数のアミノ酸が置換されていても、所望の機能を消失しないと考えられる。更にグレリン誘導体のアミノ酸配列としては、天然型のアミノ酸配列と比較して70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、特に好ましくは95%、最も好ましくは97%の相同性を有することが好ましい。他の動物由来のグレリン(配列番号2〜23)においても同様である。
その他のグレリン誘導体については、例えば上記特許文献1の記載を参照して容易に設計することができる。
【0060】
加療を要する各々の動物(個体)に対しては、当該動物と同種由来のグレリンを用いることが好ましい。例えばイヌに対してはイヌ由来グレリンを用いることが好ましい。イヌ由来グレリンは例えば28個のアミノ酸からなる配列番号1に係るアミノ酸配列を有し、当該配列のアミノ末端から3番目のセリン残基の側鎖の水酸基が脂肪酸(n−オクタノイル基)によりアシル化されたペプチド化合物である。但し、本発明においてはグレリン誘導体も用いることができることから、必ずしも治療対象動物と同種由来のグレリンでなくても用いることができる。例えばネコに対してイヌ由来グレリンを用いることも可能である。ネコ由来グレリンは27個のアミノ酸からなる配列番号3に係るアミノ酸配列を有し、当該配列のアミノ末端から3番目のセリン残基の側鎖の水酸基が脂肪酸(n−オクタノイル基)によりアシル化されたペプチド化合物である。よって、配列番号1に係るイヌ由来グレリンとは2つのアミノ酸が異なり、配列番号2に係るイヌ由来グレリンとは1つのアミノ酸が異なるが、それらのイヌ由来グレリンをネコに用いることも可能である。他の動物においても同様である。
【0061】
本発明に係るグレリン及びその誘導体は常法により得ることができる(例えば、J. Med. Chem., 43, pp.4370-4376, 2000、特許文献1参照)。例えば、天然の原料から単離することができるし、又は組換えDNA技術及び/又は化学的合成によって製造することができる。更にグレリン及びその誘導体等のペプチド化合物においてアミノ酸残基に修飾(アシル化)が必要な場合は公知の手段に従って修飾反応を施すことができる。例えば組換えDNA技術を用いた製法においては、本発明に係るペプチド化合物をコードするDNAを有する発現ベクターにより形質転換された宿主細胞を培養し、当該培養物から目的のペプチド化合物を採取することにより本発明に係るペプチド化合物を得ることもできる。当該宿主細胞を選択することにより、当該細胞内において目的のペプチド化合物に修飾(アシル化)がされた化合物を得ることができる。また、当該ペプチドが修飾(アシル化)されていない場合は、所望により公知の手段に従ってアシル化等の修飾反応を行えばよい。
【0062】
遺伝子を組み込むベクターとしては、例えば大腸菌のベクター(pBR322、pUC18、pUC19等)、枯草菌のベクター(pUB110、pTP5、pC194等)、酵母のベクター(YEp型、YRp型、YIp型)、又は動物細胞のベクター(レトロウィルス、ワクシニアウィルス等)等が挙げられるが、その他のものであっても、宿主細胞内で安定に目的遺伝子を保持できるものであれば、いずれをも用いることができる。当該ベクターは、適当な宿主細胞に導入される。目的の遺伝子をプラスミドに組み込む方法又は宿主細胞への導入方法としては、例えば、Molecular Cloninng (Sambrook et al., 1989)に記載された方法が利用できる。
【0063】
上記プラスミドにおいて目的のペプチド遺伝子を発現させるために、当該遺伝子の上流にはプロモーターを機能するように接続させる。
【0064】
本発明において用いられるプロモーターとしては、目的遺伝子の発現に用いる宿主細胞に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、形質転換する宿主細胞がEscherichia属の場合はlacプロモーター、trpプロモーター、lppプロモーター、λPLプロモーター、recAプロモーター等を用いることができ、Bacillus属の場合はSPO1プロモーター、SPO2プロモーター等を用いることができ、酵母の場合はGAPプロモーター、PHO5プロモーター、ADHプロモーター等を用いることができ、動物細胞の場合は、SV40由来プロモーター、レトロウィルス由来プロモーター等を用いることができる。
【0065】
上記のようにして得られた目的遺伝子を含有するベクターを用いて宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては細菌(例えば、Escherichia属、Bacillus属等)、酵母(Saccharomyces属、Pichia属、Candida属等)、動物細胞(CHO細胞、COS細胞等)等を用いることができる。培養時の培地としては液体培地が適当であり、当該培地中には培養する形質転換細胞の生育に必要な炭素源、窒素源等が含まれることが特に好ましい。所望によりビタミン類、成長促進因子、血清などを添加することができる。
【0066】
脂肪酸修飾(アシル化)ペプチドを直接製造するためには、当該ペプチドの前駆体ポリペプチドを適切な位置で切断できるプロセッシング・プロテアーゼ活性を有し、当該ペプチド中のセリン残基をアシル化できる活性を有する細胞が好ましい。このようなプロセッシング・プロテアーゼ活性及びセリンアシル化活性を有する宿主細胞は、当該前駆体ポリペプチドをコードするcDNAを含む発現ベクターで宿主細胞を形質転換し、該形質転換細胞がカルシウム上昇活性又は成長ホルモン分泌促進活性を有する脂肪酸修飾ペプチドを産生することを確認することにより選抜できる。
【0067】
培養後、培養物から本発明に係るペプチドを常法により分離精製する。例えば、培養菌体又は細胞から目的物質を抽出するには、培養後、菌体又は細胞を集め、これをタンパク質変性剤(塩酸グアニジンなど)を含む緩衝液に懸濁し、超音波などにより菌体又は細胞を破砕した後、遠心分離を行う。次に上清から目的物質を精製するには、目的物質の分子量、溶解度、荷電(等電点)、親和性等を考慮して、ゲル濾過、限外濾過、透析、SDS-PAGE、各種クロマトグラフィーなどの分離精製方法を適宜組み合わせて行うことができる。
【0068】
本発明に係るグレリン及びその誘導体は常法により化学合成することができる。例えば、保護基の付いたアミノ酸を液相法及び/又は固相法により縮合、ペプチド鎖を延長させ、酸で全保護基を除去し、得られた粗生成物を上記の精製方法で精製することにより得られる。アシル化酵素又はアシル基転移酵素で選択的に目的位置にあるアミノ酸の側鎖をアシル化することもできる。
【0069】
またペプチドの製造法は従来既に種々の方法が知られており、本発明に係るペプチドの製造も公知の方法に従って容易に製造でき、例えば古典的なペプチド合成法に従ってもよいし、固相法に従っても容易に製造できる。
【0070】
また、組換えDNA技術と化学合成を併用した製法を用いてもよく、修飾アミノ酸残基を含むフラグメントを化学合成により製造し、修飾アミノ酸残基を含まないその他のフラグメントを組換えDNA技術を用いて製造し、その後各々のフラグメントを融合させる方法でも製造することができる(特許文献1参照)。
【0071】
本発明に用いることができるGHS-R1aに作用する物質、グレリン及びその誘導体に係る塩としては薬学的に許容される塩が好ましく、例えば無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性又は酸性アミノ酸との塩などが挙げられる。
【0072】
無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
【0073】
有機塩基との塩の好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなどとの塩が挙げられる。
【0074】
無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が挙げられる。
【0075】
有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が挙げられる。
【0076】
塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が挙げられ、酸性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が挙げられる。
以上の塩の中でも特にナトリウム塩、カリウム塩が最も好ましい。
【0077】
グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容しうる塩を有効成分として含む本発明に係る薬剤は、薬理学的に許容しうる担体、賦形剤、増量剤などと有効成分とを混合等して個体(例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対して用いることができる。
【0078】
本発明の薬剤は、加療中の個体に対して、非経口的に、例えば静脈内、皮下、筋肉或いは腹腔内への注射により、所定量を単回又は複数回に分けて投与することが好ましい。個体が伴侶動物であり特に在宅治療の場合には皮下、筋肉内注射のほか、経鼻投与、経肺投与、坐剤投与、点眼投与が好ましい。
【0079】
本発明において薬剤の投与量は特に限定されず、使用目的又は投与対象の個体の年齢、体重、個体の種類、症状、状態及び併用薬剤等に応じて適宜選択可能であるが、単回又は複数回を成熟した個体に投与する場合、有効成分であるグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を1回あたり0.001 mg〜100 mgの範囲で投与することが好ましく、1回あたり0.01 mg 〜 10 mg で投与することがより好ましい。
【0080】
投与期間としては、上記の投与量を1日1回〜数回、1日間〜1乃至2週間程度投与することが好ましく、より好ましくは2日間〜1週間程度の投与が好ましい。
【0081】
薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。
また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0082】
賦形剤の好適な例としては、例えば乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、例えば結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0083】
崩壊剤の好適な例としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
溶剤の好適な例としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油などが挙げられる。
【0084】
溶解補助剤の好適な例としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0085】
懸濁化剤の好適な例としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子などが挙げられる。
【0086】
等張化剤の好適な例としては、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、例えばベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0087】
防腐剤の好適な例としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0088】
本発明の医薬又は治療剤の製剤形態としては、経口投与に適する製剤形態が好ましく、経口投与に適する製剤形態としては、例えば、シロップ、錠剤、カプセル等を挙げることができる。
本発明の医薬又は治療剤の製剤形態としては非経口投与に適する製剤形態が好ましく、非経口投与に適する製剤形態としては、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、又は筋肉内投与用等の注射剤、点滴剤、坐剤、点眼剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤又は吸入剤などを挙げることができるが、上記注射剤の製剤形態が好ましく、特に個体が成犬であり在宅治療の場合には経粘膜吸収剤、吸入剤、坐剤、点眼剤等の製剤形態も好ましい。これらの製剤形態は当業者に種々知られており、当業者は所望の投与経路に適する製剤形態を適宜選択し、必要に応じて当該技術分野で利用可能な1又は2以上の製剤用添加物を用いて医薬用組成物又は治療剤を製造することが可能である。
【0089】
例えば、注射剤、点滴剤又は点眼剤の形態の医薬又は治療剤は、有効成分であるGHS-R1aに作用する物質、グレリンと共に適切な緩衝液、糖溶液、等張化剤、pH調節剤、無痛化剤、防腐剤などの1又は2以上の製剤用添加物を注射用蒸留水に溶解して滅菌(フィルター)濾過後にアンプルまたはバイアル詰めするか、滅菌濾過した溶液を凍結乾燥して凍結乾燥製剤とすることにより調製し提供することができる。添加剤としては、例えばグルコース、マンニトール、キシリトール、ラクトースなどの糖類;ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマー類;グリセロールなどのアルコール類;グリシンなどのアミノ酸類;血清アルブミンなどのタンパク類;NaCl、クエン酸ナトリウムなどの塩類;酢酸、酒石酸、アスコルビン酸などの酸類;Tween 80 などの界面活性剤;亜硫酸ナトリウムなどの還元剤などを使用することができる。このような製剤は、用時に注射用蒸留水又は生理食塩水などを添加して溶解することにより注射剤又は点滴剤として使用できる。また、経粘膜投与には、点鼻剤又は鼻腔内スプレー剤などの鼻腔内投与剤(経鼻投与剤)等も好適であり、経肺投与には吸入剤等も好適である。
【0090】
1製剤中のグレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩の含量は好ましくは0.001 mg から100 mg、より好ましくは0.01 mgから10 mg である。本発明の剤は、グレリン若しくはその誘導体又はそれらの薬学的に許容される塩を有効成分として1ドーズユニットあたり好ましくは0.001 mg〜100 mg、より好ましくは0.01 mg〜10 mg含有する。該製剤を1日1回ないし数回投与することが好ましい。
【0091】
本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
(1)グレリン又はその誘導体を有効成分として含有し、活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値及び体温からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善することを特徴とする加療中の動物の身体状態の改善を促進する動物用回復促進治療剤。
(2)動物が手術後の動物である上記(1)に記載の回復促進治療剤。
(3)血球検査値における血球が、白血球、血小板又はヘモグロビンである上記(1)又は(2)に記載の回復促進治療剤。
(4)生化学検査値が、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)値、総コレステロール(T-CHO)値、アルカリフォスファターゼ(ALP)値、血液尿素窒素(BUN)値、血清クレアチニン(Cre)値、血中アンモニア(NH
3)値、総ビリルビン(T-bil)値、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値、C-反応性蛋白(CRP)値又は血清カリウム(K)値である上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
(5)動物が、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、椎間板ヘルニア及び消化管疾患から選択される疾患に係る手術後の動物である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
(6)動物が、下部泌尿器症候群、尿閉、伝染性呼吸器症候群、慢性腎不全、変形性関節症、慢性肝炎、膀胱結石、栄養不良、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、貧血、削痩、下痢・嘔吐症、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、イヌパルボウイルス(CPV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、肝疾患、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬症、アナフィラキシー、落下事故、肋骨骨折、及び火傷から選択される疾患で加療中の動物である上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
(7)加療の原因と評価項目との組み合わせが、1)加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出であり、評価項目が体温改善である;2)加療の原因が乳腺腫瘍であり、評価項目が元気さの改善である;3)加療の原因が骨折又は事故であり、評価項目が元気さの改善、又は生化学検査値であるGOT、GPT及び/又はクレアチニン値改善である;4)加療の原因が尿道口形成であり、評価項目が血球検査値である血小板数及び/又は白血球数改善、又は生化学検査値であるクレアチニン値改善である;5)加療の原因が死産又は難産であり、評価項目が体温改善である;6)加療の原因が感染症であり、評価項目が元気さの改善、呼吸速拍の安定化又は生化学検査値である血清カリウム値の改善、GOT及び/又はGPTの改善である;7)加療の原因が腎機能障害であり、評価項目が元気さ、血球検査値である白血球数の改善、又は生化学検査値であるALP及び/又はCPKの改善である;8)加療の原因がアナフィラキシーであり、評価項目が元気さ、又は生化学検査値である血清アンモニア値である上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
(8)グレリン又はその誘導体が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜28番目までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩である上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
【0092】
なお、本発明で使用されるグレリン又はその誘導体は、上記したアミノ酸配列を含むペプチドであってもよく、具体的には、N末端に他のアミノ酸が付加したものでもよい。
【0093】
(9)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである上記(8)に記載の回復促進治療剤。
(10)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである上記(9)に記載の回復促進治療剤。
(11)グレリン又はその誘導体を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 100 mg含有する上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の回復促進治療剤。
【0094】
(12)グレリン又はその誘導体を加療中の動物に投与して、当該動物の活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値及び体温からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善することを特徴とする加療中の動物の身体状態の改善を促進するための治療方法。
(13)動物が手術後の動物である上記(12)に記載の治療方法。
(14)血球検査値における血球が、白血球、血小板又はヘモグロビンである上記(12)又は(13)に記載の治療方法。
(15)生化学検査値が、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)値、総コレステロール(T-CHO)値、アルカリフォスファターゼ(ALP)値、血液尿素窒素(BUN)値、血清クレアチニン(Cre)値、血中アンモニア(NH
3)値、総ビリルビン(T-bil)値、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値、C-反応性蛋白(CRP)値又は血清カリウム(K)値である上記(12)〜(14)のいずれかに記載の治療方法。
(16)動物が、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、椎間板ヘルニア及び消化管疾患から選択される疾患に係る手術後の動物である上記(12)〜(15)のいずれか1項に記載の治療方法。
(17)動物が、下部泌尿器症候群、尿閉、伝染性呼吸器症候群、慢性腎不全、変形性関節症、慢性肝炎、膀胱結石、栄養不良、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、貧血、削痩、下痢・嘔吐症、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、イヌパルボウイルス(CPV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、肝疾患、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬症、アナフィラキシー、落下事故、肋骨骨折、及び火傷から選択される疾患で加療中の動物である上記(12)〜(15)のいずれか1項に記載の治療方法。
(18)加療の原因と評価項目との組み合わせが、1)加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出であり、評価項目が体温改善である;2)加療の原因が乳腺腫瘍であり、評価項目が元気さの改善である;3)加療の原因が骨折又は事故であり、評価項目が元気さの改善、又は生化学検査値であるGOT、GPT及び/又はクレアチニン値改善である;4)加療の原因が尿道口形成であり、評価項目が血球検査値である血小板数及び/又は白血球数改善、又は生化学検査値であるクレアチニン値改善である;5)加療の原因が死産又は難産であり、評価項目が体温改善である;6)加療の原因が感染症であり、評価項目が元気さの改善、呼吸速拍の安定化又は生化学検査値である血清カリウム値の改善、GOT及び/又はGPTの改善である;7)加療の原因が腎機能障害であり、評価項目が元気さ、血球検査値である白血球数の改善、又は生化学検査値であるALP及び/又はCPKの改善である;8)加療の原因がアナフィラキシーであり、評価項目が元気さ、又は生化学検査値である血清アンモニア値である上記(12)〜(17)のいずれか1項に記載の治療方法。
(19)グレリン又はその誘導体が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜28番目までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩である上記(12)〜(18)のいずれか1項に記載の治療方法。
(20)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである上記(19)に記載の治療方法。
(21)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである上記(20)に記載の治療方法。
(22)1回あたりグレリン又はその誘導体を有効成分として0.001 mg 〜 100 mg投与する上記(12)〜(21)のいずれか1項に記載の治療方法。
【0095】
(23)活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値及び体温からなる評価項目のうち1つ以上の評価項目を改善する、加療中の動物の身体状態改善を促進する動物用回復促進治療剤を製造するためのグレリン又はその誘導体の使用。
(24)動物が手術後の動物である上記(23)に記載の使用。
(25)血球検査値における血球が、白血球、血小板又はヘモグロビンである上記(23)又は(24)のいずれかに記載の使用。
(26)生化学検査値が、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)値、総コレステロール(T-CHO)値、アルカリフォスファターゼ(ALP)値、血液尿素窒素(BUN)値、血清クレアチニン(Cre)値、血中アンモニア(NH
3)値、総ビリルビン(T-bil)値、クレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値、C-反応性蛋白(CRP)値又は血清カリウム(K)値である上記(23)〜(25)のいずれか1項に記載の使用。
(27)動物が、生殖器官疾患、腫瘍、泌尿器疾患、骨疾患、椎間板ヘルニア及び消化管疾患から選択される疾患に係る手術後の動物である上記(23)〜(26)のいずれか1項に記載の使用。
(28)動物が、下部泌尿器症候群、尿閉、伝染性呼吸器症候群、慢性腎不全、変形性関節症、慢性肝炎、膀胱結石、栄養不良、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、貧血、削痩、下痢・嘔吐症、喘鳴、ネコ後天性免疫不全症候群(FIV)、ネコ白血病ウイルス(FELV)、イヌパルボウイルス(CPV)、ネコウイルス性鼻気管炎(FVR)、肝疾患、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬症、アナフィラキシー、落下事故、肋骨骨折、及び火傷から選択される疾患で加療中の動物である上記(23)〜(26)のいずれか1項に記載の使用。
(29)加療の原因と評価項目との組み合わせが、1)加療の原因が子宮蓄膿症又は生殖器摘出であり、評価項目が体温改善である;2)加療の原因が乳腺腫瘍であり、評価項目が元気さの改善である;3)加療の原因が骨折又は事故であり、評価項目が元気さの改善、又は生化学検査値であるGOT、GPT及び/又はクレアチニン値改善である;4)加療の原因が尿道口形成であり、評価項目が血球検査値である血小板数及び/又は白血球数改善、又は生化学検査値であるクレアチニン値改善である;5)加療の原因が死産又は難産であり、評価項目が体温改善である;6)加療の原因が感染症であり、評価項目が元気さの改善、呼吸速拍の安定化又は生化学検査値である血清カリウム値の改善、GOT及び/又はGPTの改善である;7)加療の原因が腎機能障害であり、評価項目が元気さ、血球検査値である白血球数の改善、又は生化学検査値であるALP及び/又はCPKの改善である;8)加療の原因がアナフィラキシーであり、評価項目が元気さ、又は生化学検査値である血清アンモニア値である上記(23)〜(28)のいずれか1項に記載の使用。
(30)グレリン又はその誘導体が、(i)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つを有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチド、及び(ii)配列番号1〜23に記載のアミノ酸配列のいずれか1つにおいて、アミノ末端から5番目〜28番目までのアミノ酸配列において1乃至数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加したアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目のアミノ酸残基が当該アミノ酸残基の側鎖に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドであって、且つGHS受容体に作用してカルシウム濃度上昇作用を有するペプチドからなる群から選択されたペプチド又はそれらの薬学的に許容される塩である上記(23)〜(29)のいずれか1項に記載の使用。
(31)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基が当該残基の側鎖の水酸基に脂肪酸が導入された修飾アミノ酸残基であるペプチドである上記(30)に記載の使用。
(32)グレリンが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有し、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチドである上記(31)に記載の使用。
(33)回復促進治療剤がグレリン又はその誘導体を有効成分として1ドーズユニットあたり0.001 mg 〜 100 mg含有する上記(23)〜(32)のいずれか1項に記載の使用。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例により本発明を具体的に示す。
本実施例ではグレリンとしてイヌ由来グレリン(配列番号1において、アミノ末端から3番目に位置するセリン残基の側鎖の水酸基がn−オクタノイル基によりアシル化されているペプチド化合物)を用いた。イヌ由来グレリンを化学合成した後、凍結乾燥して 1バイアルあたりに0.1、0.3、0.5、又は 1mgのイヌ由来グレリンを含有する投与用イヌ由来グレリンを調製した。
【0097】
動物に対する投与に際しては、イヌ由来グレリン 1mg あたり生理食塩水 2 mL で溶解して体重によって投与容量を変えて、静脈内、皮下又は筋肉内に注射した。
動物としては、活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療を要する動物であって身体状態の改善が必要と認めた動物である。動物病院に入院中の動物を用い、特にイヌ又はネコを治療対象とした。これらの動物は治療のために手術を受けている場合と受けていない場合がある。受けている場合の手術は子宮蓄膿症手術、生殖器摘出手術、乳腺腫瘍摘出手術、卵巣膿腫手術、肝細胞腫瘍手術、椎間板ヘルニア手術、横隔膜ヘルニア手術、骨折手術、消化管手術、尿路形成術である。
【0098】
各種病態における動物の身体の状態を示すパラメータとしては、活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、尿検査、電解質検査、体重、体温、怒り度・不安感及び呼吸数等を測定することにより評価し、動物の身体の状態の改善効果を検討した。当該効果は投与前及び投与後の各種評価項目の比較によって評価した。
【0099】
評価項目としては、活動性(元気さ)、体温、血液学パラメータ(血球検査値)、血清生化学パラメータ(生化学検査値)、怒り度・不安感及び呼吸数を用いた。活動性(元気さ)の評価は、観察者が以下の基準により眼で見た身体状態を評価した。スコア1.全く活動性(元気なし)(動けない:ぐったりしている)、2.外界の刺激にわずかに反応する(医療者従事者の動きにわずかに反応する、眼で追う、顔を上げる、起き上がろうとする)、3. 外界の刺激に反応して動く(起き上がる、動きがゆっくりであるがケージ内を移動できる)、4. 普通、正常に動く、5. 正常時よりもよく動く、6. 正常時よりもかなり動く、7. 非常に激しく動く。怒り度・不安感の評価についても、以下の基準により観察者が眼で見た動物の怒り度・不安感を評価した。1.落ち着いている、医療者従事者に慣れている、2.触れることができるが慣れていない、落ち着かない、3.不安で犬舎内を徘徊したり、隠れたりする、4.何とか触れることができる、5.触れることができないほど暴れたり、噛みにくる。
【0100】
(実施例1)
各種病態における手術後の入院動物のグレリン治療効果(単回投与)
イヌ由来グレリン(化学合成)の 13.2〜80 μg/kgを、動物病院に入院している手術後の動物(イヌ、ネコ)32症例に静脈内注射、皮下注射又は筋肉内注射(投与液:生理食塩水等)によって投与した。32症例の内訳は以下のとおりである。
【0101】
子宮蓄膿症手術及び生殖器官摘出手術:18症例、乳腺腫瘍手術:3症例(子宮蓄膿症併発例:1症例を含む)、椎間板ヘルニア手術:2症例、骨折及び交通事故による怪我の手術:3症例、尿路形成手術:3症例、消化管手術:2症例、気胸手術:1症例。
【0102】
これらの症例について活動性(元気さ)、体温、血液学パラメータ(血球検査値)及び血清生化学パラメータ(生化学検査値)について動物の身体状態の改善評価を行った。
結果を表1に示す。
【0103】
動物の身体状態の改善を促す効果が認められたのは以下の手術を受けた症例であった。なお、各評価項目に記載の数値は、改善効果ありの症例数/評価症例数(有効率)である。
活動性(元気さ)改善の有効率は91.7%(11/12)であり、有効率を症例別にみると子宮蓄膿症手術及び生殖器官摘出手術:85.7%(6/7)、乳腺腫瘍摘出手術:100%(2/2)、骨折及び交通事故による怪我の手術: 100%(3/3)、尿路形成術:100%(1/1)であった。特に、グレリンの投与前には起立できなかった動物が起き上がれるまでに回復したことは、投与前には予期せぬことであり注目に値することであった。
【0104】
高体温改善の有効率は62.5%(5/8)であり、有効率を症例別にみると子宮蓄膿症手術及び生殖器官摘出手術:75%(3/4)、乳腺腫瘍手術:100%(1/1)、椎間板ヘルニア手術:100%(1/1)、消化管手術:100%(1/1)であった。
【0105】
血液学パラメータ(血球検査値)改善の有効率は66.7%(4/6)であり、有効率を症例別にみると子宮蓄膿症手術及び生殖器官摘出手術:75%(3/4)、乳腺腫瘍手術:100%(1/1)、尿路形成術:50%(1/2)であり、例えば、高値を示していた白血球数が減少した例(44.1 x 10
3/μL → 17.7 x 10
3 /μL)、低値を示していた赤血球数が増加した例(214 x 10
4 /μL→ 304 x 10
4/μL)、低値を示していた血小板数が増加した例(13.9 x 10
4 /μL→ 58.5 x 10
4/μL)、低値であったヘモグロビンが上昇した例(5.1 mg/dL → 7.7 mg/dL)が認められた。
【0106】
血清生化学パラメータ(生化学検査値)改善の有効率は85.7%(6/7)であり、有効率を症例別にみると子宮蓄膿症手術及び生殖器官摘出手術:100%(3/3)、乳腺腫瘍手術:100%(1/1)、尿路形成手術:50%(1/2)、消化管手術:100%(1/1)であり、例えば、高値を示していたグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)値が低下した例(180 IU/L → 85 IU/L)、高値を示していた総コレステロール(T-CHO)値が低下した例(405 mg/dL → 260 mg/dL)、高値を示していたアルカリフォスファターゼ(ALP)値が低下した例(345 IU/L → 286 IU/L)、高値を示していた血液尿素窒素(BUN)値が低下した例(44.2 mg/dL → 29.3 mg/dL)、高値を示していた血清クレアチニン(Cre)値が低下した例(6.0 mg/dL → 1.1 mg/dL)、高値を示していたクレアチニンフォスフォキナーゼ(CPK)値が低下した例(1429 IU/L → 955 IU/L)、C-反応性タンパク(CRP)値が低下した例(測定上限以上 → 7.3 mg/dL)が認められた。
【0107】
【表1】
【0108】
以上の結果から、グレリンを上記のような症状が認められた疾患又は症状の手術後の動物に投与すると、特定の疾患又は症状において動物の身体状態を示すパラメータが改善されて、活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した加療中の動物の身体状態の回復が促進された。
【0109】
(実施例2)
各種疾患により身体状態が悪化して加療中の動物のグレリン治療効果(単回投与)
手術後のグレリン投与例で活動性(元気さ)、高体温、血液学パラメータ(白血球及び血小板)及び生化学パラメータ(GPT、BUN等)が改善したため、グレリン投与後にこれらのパラメータが改善していれば他の疾患でも身体状態の回復の促進が期待されると考えられた。
【0110】
そこで、活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した動物、例えば手術以外の病態で加療中の動物(18症例)にグレリンの12.9 〜 67.9μg/kg を静脈内注射、皮下注射、又は筋肉内注射して、手術以外の病態により身体状態が悪化した動物の身体状態の改善を、活動性(元気さ)、血液学パラメータ(血球検査値)、生化学パラメータ(生化学検査値)、体温等により評価した。
【0111】
複数の病気を併発しているケースが10例あったが、併発例も含めた疾患名は以下であった。
下部泌尿器症候群、尿閉、伝染性呼吸器症候群、慢性腎不全、変形性関節症、慢性肝炎、膀胱結石、栄養不良、衰弱、黄疸、循環不全、多臓器不全、肺水腫、貧血、削痩、下痢、嘔吐、喘鳴、発熱、FIV、FELV、CPV、FVR、肝疾患、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症、ハブ咬症、アナフィラキシー、落下事故、肋骨骨折、火傷
【0112】
これらの疾患のうち、カルテに評価項目が記載されたものは活動性(元気さ)16症例、生化学パラメータ(生化学検査値)11症例、血液学パラメータ(血球検査値)3症例、体温1症例であった。
【0113】
グレリン投与後に活動性(元気さ)は16/16例(例:動けない(スコア1) → 外界の刺激に反応して動く(スコア3))、体温は1/1例(例:40.2℃ →37.8℃)、血液学パラメータ(血球検査値)(白血球数(例:278 x 10
2 /μL→ 167 x 10
2/μL)及び血小板数(例:10 x 10
5 /μL→ 26.9 x 10
5/μL))は3/3例、生化学パラメータ(生化学検査値)(GPT(例:670 IU/L → 260 IU/L)、GOT(例:>1000 IU/L→ 187 IU/L)、CPK(例:1166 IU/L→ 64IU/L)、ALP(例:643 IU/L → 291 IU/L)、BUN(例:72.5 mg/dL → 15.4 mg/dL)、Cre(例:3.2 mg/dL→ 1.3 mg/dL)、NH
3(例:207μg/dL→ 302μg/dL)、T-bil(18.8 mg/dL→ 4.9 mg/dL))は11/11例に改善が認められた。結果を表2に示す。
【0114】
以上、手術後の身体状態が悪化した動物へのグレリン投与後に捉えられたこれらのパラメータの改善は、手術以外の病態で身体状態が悪化した動物においても同様に認められた。
即ち、グレリンの投与は活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した動物、例えば手術後に身体状態の悪化した動物及び疾患により身体状態が悪化した動物の回復促進に有用であることが明らかとなった。
【0115】
【表2】
【0116】
表2中の記載は、以下のとおりである。
感染症(FIV、FELV、CPV、FVR、フィラリア症、ヘモバルトネラ症、バベシア症)
腎機能障害(下部泌尿器症候群、尿閉、慢性腎不全、膀胱結石)
事故等(落下事故、肋骨骨折、火傷)
【0117】
(実施例3)
3−1.各種疾患群における加療中のグレリン投与症例における身体状態の改善(反復投与)
活動性(元気さ)の低下を呈して体力が消耗した動物として、動物病院に入院し、手術あるいは慢性、急性疾患等によって身体状態の悪化した動物(イヌ又はネコ合わせて48匹)を用いた。身体状態の悪い動物の各症例において、イヌ由来グレリンを反復静脈内又は皮下投与した。静脈内投与の用量は約5μg/kg 又は 10μg/kg、皮下投与の用量は約100μg/kg とした。反復投与の平均投与回数は約4回、最大投与回数は11回、投与期間は1日〜6日間であった。
グレリン投与前後の評価項目として、食欲、食事量、生化学検査値(GOT値、GPT値、BUN値、CRE値、CPK値、CRP値)、血球検査値(白血球(WBC)値、血小板(PLT)値)、体温、活動性(元気さ)、皮膚、毛並、体調、怒り度・不安感、呼吸数、その他を設定し、単回投与症例(実施例1及び2)とともに解析を行った。なお、解析は腎機能障害、腫瘍、骨折・事故等の疾患ごとに集計して行った(表−3−1参照)。投与前の値と投与後の値について対応のある t-検定を用いて統計解析を行った。対応する投与前の値と投与後の値の組が2対以下で対応しない値が2以上ある場合には対応のないt-検定を用いて解析を行った。
【0118】
結果1.腎機能障害(10例)
慢性腎不全、腎不全、尿閉、尿路あるいは膀胱結石等の腎機能障害と診断され入院加療中の動物であり、身体状態が悪い症例を有する動物にグレリンが投与された。グレリン投与前後のパラメータを解析したところ、血液学パラメータである白血球(WBC)数(5/5例、324 x 10
2 /μL→ 139 x 10
2 /μL)及び血小板(PLT)数(4/5例:11.3 x 10
5 /μL → 23.6 x 10
5 /μL)、血清生化学パラメータのCRE(血清クレアチニン)値(3/3例:3.2 mg/dL → 1.3 mg/dL)、ならびに活動性(元気さ)(5/6例)(例:スコア2(外界の刺激にわずかに反応する) → スコア3(外界の刺激に反応して動く))のスコアが改善したことから、腎機能障害の動物にグレリンを投与すると、動物の悪化した身体状態の回復の促進、すなわち炎症が起こっているときに上昇した白血球数の低下、凝固線溶系の状態を示す低下した血小板数の増加、腎機能の指標である増加したクレアチニンの低下、動物の活力を示す活動性(元気さ)の改善が認められた。
【0119】
結果2.腫瘍(14例)
乳腺腫、唾液腺腫、舌腫瘍、舌血管肉腫、肛門周囲腺腫、皮下腫瘤、肝腫瘤、精巣腫瘤等の腫瘍(腫瘤)と診断された動物であり、身体状態が悪い症例を有する動物にグレリンが投与された。グレリン投与前後のパラメータを解析したところ、活動性(元気さ)(7/8例)(例:スコア3(外界の刺激に反応して動く)→ スコア6(正常時よりもかなり動く))、体温(6/6例:39.8℃ → 38.6℃)及び怒り度・不安感(4/6例)(例:スコア5(触れることができないほど暴れたり噛みにくる)→ スコア2(触れることができるが慣れていない))のスコアが改善したことから、腫瘍(腫瘤)の動物にグレリンを投与すると、動物の悪化した身体状態の回復の促進、すなわち活動性(元気さ)の改善、炎症等で上昇した体温の低下、動物が興奮したり不安がったりしている状態の指標である怒り度・不安感の低下が認められた。
【0120】
結果3.骨折、事故等(9例)
交通事故又は落下事故による骨折、外傷、脱臼、椎間板ヘルニア、骨吸収等で加療中の動物であり、身体状態の悪い症例を有する動物にグレリンが投与された。グレリン投与前後のパラメータを解析したところ、肝臓、心臓、腎臓又は筋肉等の臓器障害の指標であるGOT値(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミラーゼ)(6/6例:996 IU/L → 22 IU/L)、主に肝障害の指標であるGPT値(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミラーゼ)(6/7例:1000 IU/L → 32 IU/L)、腎機能障害の指標であるBUN値(血液尿素窒素)(6/7例:18.3 mg/dL → 10.6 mg/dL)、心筋、骨格筋障害等の指標であるCPK値(クレアチンホスフォキナーゼ)(2/2例:42.4 IU/L → 9.4 IU/L)の血清生化学パラメータ、活動性(元気さ)(13/16例)(例:スコア1(動けない(立てない))→ スコア3(外界の刺激に反応して動く(起き上がる)))、体温(5/7例:39.2℃ → 38.0℃)、怒り度・不安感(6/10例)(例:スコア5(触れることができないほど暴れたり噛みにくる)→ スコア1(落ち着いている))、ならびに呼吸数が増加して呼吸速拍、努力呼吸等と判断された動物の呼吸数(2/2例:100回/分→ 50 回/分)の改善を示した。このことから、骨折、事故等で身体状態が悪化した動物にグレリンを投与すると、GOT値、GPT値、CPK値、活動性(元気さ)、体温、怒り度・不安感及び呼吸数を改善し、骨折、事故等により悪化した身体状態の回復を促進することが示唆された。
【0121】
結果4.生殖器官疾患(29例)
子宮蓄膿症、避妊及び去勢により生殖器を摘出した動物であり、身体状態の悪い症例を有する動物にグレリンが投与された。グレリン投与前後のパラメータを解析したところ、血清生化学パラメータ(生化学検査値)の BUN値(3/3例:31.5 mg/dL → 7.1 mg/dL)及びCRP値(5/5例:100 mg/dL → 16 mg/dL)、活動性(元気さ)(13/15例)(例:スコア1(全く元気がない) → スコア3(外界の刺激に反応して動く(起き上がる)))ならびに体温(11/11例:40.1℃ → 38.1℃)の改善が認められた。このことから、生殖器摘出によって身体状態の悪い動物にグレリンを投与すると、高値を示していたBUN値が改善し、炎症によって上昇した CRP値が低下し、動物の活力を示す活動性(元気さ)が改善し、炎症等によって上昇した体温が改善し、生殖器摘出により悪化した身体状態の回復を促進することが示唆された。
【0122】
結果5.感染症、寄生虫(15例)
FIV、FELV、CPV、FVR、伝染性呼吸器症候群、バベシア症、ヘモバルトネラ症、フィラリア症等の感染症、寄生虫により加療中の動物であり、身体状態が悪い動物にグレリンが投与された。グレリン投与前後のパラメータを解析したところ、血清生化学パラメータ(生化学検査値)の BUN値(2/2例:23.4 mg/dL → 16.4 mg/dL)及び活動性(元気さ)(10/11例)(例:スコア1(全く元気がない)→ スコア3(外界の刺激に反応して動く(起き上がる)))ならびに呼吸数(3/3例:100回/分→ 70回/分)の改善が認められた。このことから、感染症、寄生虫により身体状態の悪い動物にグレリンを投与すると、高値を示していた BUN値が改善し、動物の活力を示す活動性(元気さ)が改善し、酸素交換能が悪化して増加した呼吸数が改善し、感染症、寄生虫により悪化した身体状態の回復を促進することが示唆された。
【0123】
結果6.炎症性疾患(13例)
皮膚炎、多臓器不全、咬傷、口蓋裂傷、臀部外傷等により加療中の動物であり、身体状態が悪い動物にグレリンが投与された。グレリン投与前後のパラメータを解析したところ、血清生化学パラメータ(生化学検査値)のGOT値(3/4例:149 IU/L → 25.0 IU/L)、GPT値(4/4例:1000 IU/L → 282 IU/L)、BUN値(4/4例:18.6 mg/dL → 10.7 mg/dL)、活動性(元気さ)(9/9例)(例:スコア1(ぐったりしている)→ スコア3(外界の刺激に反応して動く(起き上がる)))及び体温(5/6例:39.8 ℃→ 38.7℃)が改善した。このことから、各種の炎症性疾患により身体状態の悪い動物にグレリンを投与すると、GOT値、GPT値、BUN値、体温が改善して活動性(元気さ)を改善することが示唆された。
【0124】
結果7.消化管疾患(7例)
嘔吐、下痢、多臓器不全、腸重積、胃捻転、急性腸炎等により加療中の動物であり、身体状態が悪い動物にグレリンが投与された。グレリン投与前後のパラメータを解析したところ、活動性(元気さ)(5/5例)(例:スコア1(動けない(歩けない))→ スコア5(正常時よりもよく動く))が改善した。このことから、各種の消化管疾患により身体状態の悪い動物にグレリンを投与すると、活動性(元気さ)を改善することが示唆された。
【0125】
【表3-1】
【0126】
3−2.手術及び非手術動物におけるグレリン投与症例での身体状態の改善
各種病態の手術後の身体状態が悪化した動物にグレリンを投与し、グレリン投与前後の身体状態を示す各種パラメータを解析した。手術は尿路形成術、骨折、脱臼、椎間板ヘルニア、横隔膜ヘルニア、腫瘍摘出、子宮蓄膿症等による生殖器摘出等である。その結果、活動性(元気さ)の改善、血液学検査値である血小板(PLT)数の改善、生化学検査値である GOT値、GPT値、BUN値、CRE値の改善、体温、怒り度・不安感、呼吸数の改善が認められた(表−3−2参照)。
一方、各種病態で身体状態が悪化した非手術の動物にグレリンを投与し、グレリン投与前後の身体状態を示す各種パラメータを解析した。病態はフィラリア症、ダニ寄生、バベシア症、ヘモバルトネラ症、咬傷、皮膚炎等である。その結果、活動性(元気さ)の改善、血球検査値である白血球(WBC)数の改善、生化学検査値であるGPT値、BUN値 の改善が認められた(表−3−2参照)。
以上のことから、手術後及び非手術の身体状態が悪化して加療中の動物にグレリンを投与すると、加療中の動物の身体状態の回復が促進された。さらに、手術後の動物で有意差を示すパラメータと非手術の動物で有意差を示すパラメータとを比較した場合、手術後の動物で有意差を示すパラメータ数は非手術の動物で有意差を示すパラメータ数よりも多いことが分かる。この結果によれば、活動性(元気さ)を呈して体力が消耗した加療中の動物へのイヌ由来グレリンの投与は、手術後の動物において特に顕著な効果を示すことが分かる。
【0127】
【表3-2】
【0128】
(実施例4)
【0129】
実施例3で解析した動物の中からグレリン投与後に摂食しなかった個体を集計し、活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値、怒り度・不安感、体温及び呼吸数の評価項目の改善について検討した。
実施例4の結果によれば、食欲が亢進しなかった症例、すなわち、グレリン投与後に摂食しなかった症例において、活動性(元気さ)、血球検査値、生化学検査値及び体温のうち1つ以上が改善されることが分かる。このことは、パラメータの改善が摂食による影響ではなくグレリンの投与によるものであることを示す。