特許第6057317号(P6057317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057317
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】分離装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
   C12M1/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-86515(P2012-86515)
(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公開番号】特開2013-215109(P2013-215109A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 佐登美
(72)【発明者】
【氏名】八木 浩
(72)【発明者】
【氏名】下平 滋隆
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−274923(JP,A)
【文献】 特表2005−529746(JP,A)
【文献】 特開2010−227014(JP,A)
【文献】 特開2010−233456(JP,A)
【文献】 特開2009−236848(JP,A)
【文献】 特開2008−002974(JP,A)
【文献】 特開平08−023967(JP,A)
【文献】 特開2011−120504(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0143879(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00 − 3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貪食能を有する細胞を含む細胞群の分散液を、前記細胞群に含まれる細胞の大きさに応じて分画し、前記分散液よりも前記貪食能を有する細胞の含有割合が高い分散液を得る分離装置であって、
前記分離装置は、
開口を備えた第1容器と、
第1開口と、該第1開口と対向する第2開口と、該第2開口を塞ぐフィルターと、を含む筒状の第2容器と、
を含み、
前記フィルターは、
基板と、
前記基板の少なくとも一部を覆う被覆膜と、
を備え、
前記基板は、第1基面、前記第1基面と対向する第2基面、および前記第1基面と前記第2基面に連続する内壁面を有する貫通孔を有し、
前記被覆膜は、前記第1基面、前記第2基面、および前記貫通孔の内壁面を被覆して親水性表面を形成し、
前記被覆膜は、
金薄膜と、当該金薄膜に非イオン性親水基を有するアルカンチオールが硫黄−金の結合を介して形成された自己組織化単分子膜、および、
生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体または共重合体、
の少なくとも一方であり、
前記第2容器の前記フィルターは、前記第1容器に収容され、
前記第1容器と前記第2容器の内壁面の少なくとも一部は、前記親水性表面を有し
前記第1容器の内壁面は、テーパー状の側面と、前記第2容器が前記第1容器に収容さ
れた場合に前記フィルターに対向する底面と、を有し、
前記第1容器の開口の面積は、前記第1容器の底面の面積よりも大きい、分離装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記非イオン性親水基は、ポリエチレングリコール基である分離装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記生体膜を構成するリン脂質は、グリセロリン脂質である分離装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである分離装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記貪食能を有する細胞は、当該細胞表面にスカベンジャー受容体を有する分離装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、
前記貪食能を有する細胞は、単球、樹状細胞およびマクロファージの少なくとも一種である分離装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
前記フィルターに形成された親水性表面は、水に対して70度以下の接触角を有する分離装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、
前記親水性表面は、少なくとも前記貪食能を有する細胞が接触する部分に形成された、分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
単球、樹状細胞、マクロファージなどの貪食機能を有する細胞は、様々な疾患の治療に有用であることが知られている。例えば、樹状細胞療法は患者末梢血を成分採血し、その中から単球のみを取り出し体外で樹状細胞に分化誘導したのち患者がん抗原を認識させ、患者体内に投与するプロトコルを経る。しかしながら、患者末梢血より採取した成分採血血液は単球のみばかりではなく、リンパ球などの血液成分を多く含んでいる。したがって、このような細胞を使用するために、骨髄や末梢血等から効率よく分離することができる分離装置が求められている。
【0003】
単球等の細胞を分離する従来の手法として、(1)比重遠心法、(2)接着法、(3)磁気ビーズ法などが知られている。しかしながら、これらの手法では、汚染リスク、細胞ダメージ、分離効率の低さ、長時間の処理工程、高額な試薬コストなどの課題を有する。
【0004】
そこで、より簡便な手法としてフィルターを用いた分離装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、前述された分離手法の1つに「接着法」が挙げられていることから分かるように、単球及び単球から分化誘導される樹状細胞は容器や基材など、細胞と接触する材料との接着性が非常に高いという性質を有する。血液細胞における細胞接着メカニズムとしては、細胞接着分子(例えば、カドヘリン、インテグリンファミリー、セレクチン)を介した接着機構が血管内皮細胞やリンパ管等にて機能している。単球等の細胞がプラスチックやガラス等の容器や基板等の「非生体材料(非接着タンパク質材料)」と接着するメカニズムとしては、「非生体材料」上に被覆・吸着した接着タンパク質(リガンド)に細胞表面接着タンパク質(レセプター)が接着・結合することで容器や基材への細胞接着が完了すると考えられている(非特許文献1)。
【0006】
末梢血中の単球は血管外に遊走しマクロファージに分化する特性を持つ。マクロファージも単球及び樹状細胞と同様に容器や基板などに接着する性質がある。マクロファージを例とすると、マクロファージの細胞表面に存在する非生体材料異物に対し非特異的な接着に関与するレセプター(Macrophage Receptor with Collageneous Structure:MARCO)が非生体異物を認識し、異物を接着・細胞内へ取り込む。非生体異物が微小なプラスチックビーズの場合、異物を細胞表面に接着する過程を経て細胞内に取り込む(貪食する)が、異物が細胞内に取り込めないサイズの場合(例えば、容器や基板の場合)、これらの細胞は貪食を完了できないため異物(容器、基板等)の認識・接着を継続することになる。
【0007】
以上から、貪食能を有する単球、樹状細胞、マクロファージは、容器や基板などの非生体材料に接着する性質を他の血球細胞よりも強力に有すると考えられる。したがって、フィルターを用いて末梢血等から貪食能を有する細胞を分離する場合、他の血球細胞よりもフィルター表面に付着しやすく、フィルターの目詰まりが容易に発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−274923号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】岩田博夫著「バイオマテリアル」共立出版、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように強い接着性を有する単球等の細胞を、フィルターを用いて分離するためには、細胞接着を抑制してフィルターの目詰まりをさらに抑制することが望まれている。
【0011】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、フィルターの目詰まりが抑制され、分離効率が高められた分離装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本形態に係る分離装置は、貪食能を有する細胞を含む細胞群の分散液を、前記細胞群に含まれる細胞の大きさに応じて分画し、前記分散液よりも前記貪食能を有する細胞の含有割合が高い分散液を得る分離装置であって、前記分離装置は、フィルターを備え、前記フィルターの少なくとも一部は、金薄膜によって被覆され、当該金薄膜に非イオン性親水基を有するアルカンチオールが硫黄−金の結合を介して形成された自己組織化単分子膜、および、生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体または共重合体、の少なくとも一方によって被覆された親水性表面を有する。
【0013】
本形態に係る分離装置の備えるフィルターの少なくとも一部は、金薄膜によって被覆され、当該金薄膜に非イオン性親水基を有するアルカンチオールが硫黄−金の結合を介して形成された自己組織化単分子膜、および、生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体または共重合体、の少なくとも一方によって被覆された親水性表面を有する。貪食能を有する細胞のフィルター等の各部材へ細胞接着を抑制しようとする場合、細胞表面の非特異的接着関与レセプターMARCOが各部材を異物と認識しない処理を各部材に行う必要がある。本発明では、フィルター10の表面を被覆膜18で覆うことで、表面が親水性表面となる。これによれば、単球及び樹状細胞のMARCOレセプターによる各処理部材の認識を低減することができるため、フィルター10への細胞接着を抑制できる。したがって、貪食能を有する細胞がフィルターの表面に付着しにくくなるため、フィルターの目詰まりが抑制され分離効率が高められた分離装置を提供できる。また、フィルターの配置とフロー制御による簡易な構成からなる分離装置でもって、血液中の血球種を分離できる。すなわち、従来の細胞分離技術(遠心分離・磁気ビーズ等)ではなし得なかった低コスト・密閉系・試薬レスでの細胞を分離することができる。
【0014】
(2)上述の分離装置において、前記非イオン性親水基は、ポリエチレングリコール基であってもよい。
【0015】
これによれば、親水基であるポリエチレングリコールを有する部材表面の長鎖分子が熱運動により揺らぐため、細胞表面の非特異的接着関与レセプターと部材表面の結合機会をさらに低減することができる。
【0016】
(3)上述の分離装置において、前記生体膜を構成するリン脂質は、グリセロリン脂質であってもよい。
【0017】
これによれば、親水基であるリン酸基を有する部材表面の長鎖分子が熱運動により揺らぐため、細胞表面の非特異的接着関与レセプターと部材表面の結合機会をさらに低減することができる。
【0018】
(4)上述の分離装置において、前記生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンであってもよい。
【0019】
(5)上述の分離装置において、前記貪食能を有する細胞は、当該細胞表面にスカベンジャー受容体を有していてもよい。
【0020】
(6)上述の分離装置において、前記貪食能を有する細胞は、単球、樹状細胞およびマクロファージの少なくとも一種であってもよい。
【0021】
(7)上述の分離装置において、前記フィルターに形成された親水性表面は、水に対して70度以下の接触角を有していてもよい。
【0022】
(8)上述の分離装置において、前記親水性表面は、少なくとも前記貪食能を有する細胞が接触する部分に形成されていてもよい。
【0023】
(9)上述の分離装置において、開口を備えた第1容器と、第1開口と、該第1開口と対向する第2開口と、該第2開口を塞ぐ前記フィルターと、を含む筒状の第2容器と、を含み、前記第2容器の前記フィルターは、前記第1容器に収容され、前記第1容器と前記第2容器の内壁面の少なくとも一部は、前記親水処理面を有していてもよい。
【0024】
本実施形態に係る分離装置によれば、フィルター表面に加えて、貪食能を有する細胞が接触する可能性のある第1容器と第2容器の内壁面の少なくとも一部においても親水処理面が形成される。したがって、貪食能を有する細胞が分離装置内の表面に付着しにくくなるため、フィルターの目詰まりを抑制して分離効率を高めた分離装置を提供できる。
【0025】
(10)上述の分離装置において、第1導入口と、第1排出口を備えた第1容器と、第2導入口と、第2排出口を備え、前記フィルターを介して前記第1容器と連続した第2容器と、を含み、前記第1容器の内壁面の少なくとも一部は、前記親水処理面を有していてもよい。
【0026】
本実施形態に係る分離装置によれば、フィルター表面に加えて、貪食能を有する細胞が接触する可能性のある第1容器の内壁面の少なくとも一部においても親水処理面が形成される。したがって、貪食能を有する細胞が分離装置内の表面に付着しにくくなるため、フィルターの目詰まりを抑制して分離効率を高めた分離装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1(A)は、実施形態に係る分離装置が備えるフィルターの要部平面図、図1(B)は、図1(A)のIB−IB線における要部断面図。
図2図2(A)は、実施形態に係る分離装置1の斜視図、図2(B)は、実施形態に係る分離装置1の要部平面図及び要部平面図のA−A線における要部断面図。
図3図4(A)は、実施形態に係る分離装置2の要部断面図。
図4図3(A)および図3(B)は、実施形態に係る分離装置1の使用例を説明するための要部断面図。
図5図5(A)および図5(B)は、実施形態に係る分離装置2の使用例を説明するための要部断面図。
図6】実施例1−3、比較例1における測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0029】
1.本実施形態に係る分離装置の構成
次に、本実施形態に係る分離装置の構成を説明する。まず本実施形態に係る分離装置が備えるフィルター10の構成を説明した後、本実施形態に係る分離装置の例として分離装置1、2を説明する。なお、本実施形態に係る分離装置は、フィルター10を備える分離装置である限り特に限定されず、分離装置1、2の構成のみに限定されるものではない。
【0030】
1−1.フィルターの構成
図1(A)は、実施形態に係る分離装置が備えるフィルター10の要部平面図、図1(B)は、図1(A)のIB−IB線における要部断面図である。
【0031】
フィルター10は、貪食能を有する細胞を含む細胞群の分散液(被分離液)を、細胞群に含まれる細胞の大きさに応じて分画し、分散液(被分離液)よりも貪食能を有する細胞の含有割合が高い分散液(残渣成分を含む液)を得るために用いられる。
【0032】
ここで貪食能を有する細胞とは、細胞表面にスカベンジャー受容体(例えば、MARCOレセプター)を有する細胞である。貪食能を有する細胞は、例えば、単球、樹状細胞およびマクロファージの少なくとも一種であってもよい。
【0033】
図1(A)および図1(B)に示すように、フィルター10は、複数の貫通孔15を有する基板11と、基板11の表面を覆う被覆膜18から構成される。
【0034】
基板11は、第1基面12と、第1基面12と対向する第2基面13を有する。貫通孔15の内壁面14は、第1基面12と第2基面13を連続する面である。ここで、基板11は、図1(A)および図1(B)に示される例では、平面状に構成されているが、これに限らず、曲面状に構成されていてもよい。基板11の材料としては、被分離液の組成などを考慮して、例えば、金属、樹脂、ガラスなど、種々の公知の材料から選択して用いることができる。
【0035】
基板11の厚みTおよび貫通孔15の孔径Dは、被分離液の組成を考慮して適宜設定することができる。例えば、被分離液が貪食能を有する細胞を含む細胞群の分散液である場合、基板11の厚みTは、5μm以上、20μm以下であってもよい。また、貫通孔15の孔径D(後述される被覆膜18の膜厚を考慮した孔径)は、貪食能を有する細胞の径の30%以上、50%以下であってもよい。しかしながら、このような細胞の大きさには個体差があるため、上記範囲に限定されるものではなく、細胞の大きさに応じて適宜調整が可能である。
【0036】
また、フィルター10は、被分離液をろ過する際に所定の粒径以下の細胞を通過させることができる限り、特に限定されない。したがって、図示はされないが、フィルター10は、貫通孔がスリット状のフィルターであってもよい。
【0037】
被覆膜18は、フィルターの少なくとも一部を被覆することができる。図1(B)に示すように、被覆膜18は、基板11の第1基面12、第2基面13、および内壁面14を覆っていてもよい。また、図示はされないが、被覆膜18は、第1基面12および/または第2基面13のみを覆っていてもよい。
【0038】
被覆膜18は、(1)金薄膜と、当該金薄膜に非イオン性親水基を有するアルカンチオールが硫黄−金の結合を介して形成された自己組織化単分子膜(SAM:Self−Assembled Monolayer)、および(2)生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体または共重合体、の少なくとも一方から構成される。
【0039】
ここで、自己組織化単分子膜(SAM膜)とは、有機分子と基板材料の化学反応が起こり、有機分子が基板表面に化学吸着した後、複数の有機分子同士の相互作用によって吸着分子が密に集合して、分子の配向性がそろうように形成された有機薄膜のことである。
【0040】
被覆膜18が(1)金薄膜と、当該金薄膜に非イオン性親水基を有するアルカンチオールが硫黄−金の結合を介して形成された自己組織化単分子膜から構成される場合、非イオン性親水基(末端官能基)は、ポリエチレングリコール基であることができる。言い換えれば、フィルター10の表面19は、ポリエチレングリコール基(PEG基)で構成されることができる。
【0041】
ここで、金薄膜の膜厚は特に限定されないが、例えば、30nm以上、1000nm以下であってもよい。
【0042】
被覆膜18が(2)生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルの単独重合体または共重合体から構成される場合、生体膜を構成するリン脂質は、グリセロリン脂質であることができる。生体膜を構成するリン脂質の親水基の少なくとも一部と(メタ)アクリル酸とのエステルは、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPCポリマー)であることができる。
【0043】
フィルターの表面が被覆膜18に覆われていることで、フィルター10の表面19は親水性の表面となることができる。表面19は、水に対して70度以下の接触角を有していてもよい。より好適には、表面19は、水に対して30度以上50度以下の接触角を有していてもよい。
【0044】
貪食能を有する細胞のフィルター等の各部材へ細胞接着を抑制しようとする場合、細胞表面の非特異的接着関与レセプターMARCOが各部材を異物と認識しない処理を各部材に行う必要がある。本発明では、フィルター10の表面を被覆膜18で覆うことで、表面19が親水性表面となる。これによれば、単球及び樹状細胞のMARCOレセプターによる各処理部材の認識を低減することができるため、フィルター10への細胞接着を抑制できる。その詳細は後述される。
【0045】
1−2.分離装置1の構成
図2(A)は、本実施形態に係る分離装置1の斜視図、図2(B)は、本実施形態に係る分離装置1の要部平面図及び要部平面図のA−A線における要部断面図である。
【0046】
本実施形態に係る分離装置1は、開口21を備えた第1容器20と、第1開口31と、第1開口31と対向する第2開口32と、第2開口32を塞ぐフィルター10と、を含む筒状の第2容器30と、を含み、第2容器30のフィルター10は、第1容器20に収容されている。
【0047】
第1容器20は、開口21を有している。開口21の機能の1つは、被分離液の入口となることである。また、開口21の機能の1つは、フィルター10を介したろ液の出口となるところである。開口21は、フィルター10を通過したろ液の取り出しや、被分離液の供給に十分な大きさ及び形状であればよい。また、開口21は、少なくとも第2容器30に備えられたフィルター10が第1容器20に収容されるために十分な大きさ及び形状であればよい。図1(A)及び図1(B)に示される例では、開口21の形状は円形である。
【0048】
第1容器20は、内壁面22を有している。図2(A)および図2(B)に示されるように、内壁面22は、テーパー状の側面と、第2容器30が第1容器20に収容された場合に、フィルター10と対向する底面を有していてもよい。図示はされないが、内壁面22は、円柱状の側面であってもよい。また、内壁面22は、連続した曲面状の形状であってもよい。
【0049】
ここで、内壁面22の少なくとも一部は、フィルター10の被覆膜18と同じ被覆膜によって被覆されていてもよい。つまりは、内壁面22の少なくとも一部は、親水処理面を有していてもよい。これによれば、第1容器20の内壁面において単球等の貪食能を有する細胞の細胞接着を抑制することができ、分離装置の分離効率がより向上する。
【0050】
第2容器30は、第1開口31を有する。第1開口31の機能の1つは、フィルター10を介したろ液の出口となることである。また、第1開口31の機能の1つは、被分離液の入口となることである。第1開口31は、フィルター10を通過したろ液の取り出しや、被分離液の供給に十分な大きさ及び形状であればよい。図1(A)及び図1(B)に示される例では、第1開口31の形状は円形である。
【0051】
第2容器30は、第2開口32を有する。第2開口32は、フィルター10が設けられるために十分な大きさ及び形状であればよい。図2(A)及び図2(B)に示される例では、第2開口32の形状は円形である。
【0052】
第2容器30は、フィルター10を有する。フィルター10は、第2開口32を塞ぐように設けられている。図2(A)及び図2(B)に示される例では、第2開口32の形状は円形であるので、フィルター10の平面形状も円形に構成されている。また、図2(A)及び図2(B)に示される例では、フィルター10は平面状に構成されているが、これに限らず、曲面状に構成されていてもよい。
【0053】
第2容器30は、筒状の胴部34を有する。胴部34とフィルター10とは、一体的に形成されていてもよいし、独立に形成されていてもよい。胴部34は、内壁面35を有する。
【0054】
ここで、内壁面35の少なくとも一部は、フィルター10の被覆膜18と同じ被覆膜によって被覆されていてもよい。つまりは、内壁面35の少なくとも一部は、親水処理面を有していてもよい。また、胴部34の外壁面も同様に親水処理面を有していてもよい。これによれば、第2容器30の内壁面や外壁面において単球等の貪食能を有する細胞の細胞接着を抑制することができ、分離装置の分離効率がより向上する。
【0055】
1−3.分離装置2の構成
図3は、本実施形態に係る分離装置2の要部断面図である。
【0056】
本実施形態に係る分離装置2は、第1導入口121と、第1排出口122を備えた第1容器120と、第2導入口131と、第2排出口132を備え、フィルター10を介して第1容器120と連続した第2容器130と、を含む。
【0057】
第1容器120は、第1導入口121と、第1排出口122を有している。第1導入口121の機能は、被分離液の入口となることである。したがって、第1導入口121は、被分離液の供給経路151と接続されている。また、第1排出口122の機能は、ろ過後の残渣成分が含まれる被分離液および洗浄液の出口となることである。したがって、第1排出口122は、被分離液の排出経路(回収経路)152と接続されている。
【0058】
第1容器120は、内壁面123を有している。図3に示されるように、内壁面123の第2容器130側は、フィルター10で構成されている。図3に示すように、第2容器130側内壁面123の全面がフィルター10であってもよいし、一部のみがフィルター10で構成されていてもよい。
【0059】
ここで、内壁面123の少なくとも一部は、フィルター10の被覆膜18と同じ被覆膜によって被覆されていてもよい。つまりは、内壁面123の少なくとも一部は、親水処理面を有していてもよい。また、供給経路151および排出経路152の内壁面においても親水処理面が形成されていてもよい。これによれば、第1容器120の内壁面において単球等の貪食能を有する細胞の細胞接着を抑制することができ、分離装置の分離効率がより向上する。
【0060】
第2容器130は、第2導入口131と、第2排出口132を有している。第2導入口131の機能は、洗浄液の入口となることである。したがって、第1導入口131は、洗浄液の供給経路161と接続されている。また、第2排出口132の機能は、ろ過後のろ液および洗浄液の出口となることである。したがって、第2排出口132は、ろ液の排出経路162と接続されている。
【0061】
第2容器130は、内壁面133を有している。図3に示されるように、内壁面133の第1容器120側は、フィルター10で構成されている。図3に示すように、第1容器120側内壁面133の全面がフィルター10であってもよいし、一部のみがフィルター10で構成されていてもよい。
【0062】
ここで、内壁面133の少なくとも一部は、フィルター10の被覆膜18と同じ被覆膜によって被覆されていてもよい。つまりは、内壁面133の少なくとも一部は、親水処理面を有していてもよい。また、供給経路161および排出経路162の内壁面においても親水処理面が形成されていてもよい。単球などの細胞は、物理的ダメージによって粒径が変形することがある。また、単球などの細胞の粒径は、個体差があり、少量ではあるが、フィルター10の貫通孔15を通過する場合も考えられる。したがって、このような場合であっても、第2容器130や排出経路162内において単球等の貪食能を有する細胞の細胞接着を抑制することができ、細胞接着による経路の狭窄化等を防ぐことができるため、分離装置の分離効率がより向上する。
【0063】
2.本実施形態に係る分離装置の分離方法
次に、本実施形態に係る分離装置を使用した細胞の分離方法について、図面を参照しながら説明する。
【0064】
2−1.分離装置1
図4(A)および図4(B)は、本実施形態に係る分離装置1を使用した分離方法を説明するための要部断面図である。白抜き矢印は液体の流れを表す。なお、図2(A)及び図2(B)に示される構成と同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0065】
図4(A)に示される分離方法においては、第2容器30の第1開口31を入口として被分離液41を第2容器30に注入し、フィルター10を介したろ液42を第1容器20の開口21から回収する。
【0066】
図4(B)に示される分離方法においては、第1容器20の開口21を入口として被分離液41を第1容器20に注入し、フィルター10を介したろ液42を第2容器30の第1開口31から回収する。
【0067】
2−2.分離装置2
図5(A)および図5(B)は、本実施形態に係る分離装置2を使用した分離方法を説明するための要部断面図である。白抜き矢印は液体の流れを表す。なお、図3に示される構成と同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0068】
図5(A)に示されるように、ろ過工程においては、供給経路151と排出経路162のみを使用するため、排出経路152および供給経路161は図示しない弁等により経路を閉めておく。
【0069】
ろ過工程では、第1容器120の第1導入口121を入口として被分離液141を第1容器120に注入し、フィルター10を介したろ液142を第2容器130の排出口132から回収する。
【0070】
次に、図5(B)に示されるように、残渣成分(フィルター10を通過しなかった粒子)の回収(洗浄)工程おいては、供給経路161と排出経路152のみを使用するため、供給経路151および排出経路162は図示しない弁等により経路を閉めておく。
【0071】
回収(洗浄)工程では、第2容器130の第2導入口131を入口として洗浄液143を第2容器120に注入し、フィルター10上の残渣成分を含む洗浄液143を第1容器120の排出口122から回収する。
【0072】
また、排出経路162を開放状態のままで回収(洗浄)工程を行ってもよい。これによれば、洗浄液143によって第2容器130内に残ったろ液142を排出経路162から排出することができる。
【0073】
3.実施例
以下に実施例および比較例を示し、表および図面を参照しながら、本発明の分離装置に係るフィルター10等における目詰まりの抑制効果に関してより具体的に説明する。
【0074】
[実施例1]
Si基板表面にAu蒸着(膜厚200nm)を行った。その後、Au膜上に自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成した(SAM処理)。具体的には、基板表面をUV洗浄後(nm、W×5min)、ポリエチレングリコール鎖を有するアルカンチオール化合物(PEGチオール)をエタノールに希釈(0.1%)した溶液に4hr浸漬した。浸漬後の基板をエタノールにて洗浄し、さらに純水洗浄を行った。PEGチオール化合物のPEG鎖長は3であった(SAM処理条件1)。以上のPEGチオール処理の結果得られた基板の表面の接触角は約39°(親水性表面)であった。なお、接触角の測定は接触角計(協和界面科学社製:CA−W)にて、純粋に対する基板の接触角を測定した。
【0075】
次に、末梢血10mLを準備して、リン酸緩衝液(PBS)にて2倍希釈後、Ficoll−paque(GEヘルスケア社製)にて密度勾配遠心(400×g、30min)を行い、バフィーコートを採取した。得られたバフィーコートはPBSにて再懸濁し、遠心分離により再沈後、上清除去する操作を2〜3回繰り返し単核球細胞を得た。バフィーコートには単核球(リンパ球、単球)が分離されており、基板に対し強い接着性を有するのは単球であると考えられるため、今回基板に接着した細胞は単球として計数した。得られた単核球細胞をPBSに1×10個/mLの濃度で懸濁した。5mmφの開口スペースを設けたAu蒸着基板表面上に細胞懸濁液50μLを滴下、30min静置した。静置後基板表面をPBSにて洗浄し、基板表面に接着した単球細胞数を顕微鏡(0.4mm×0.6mmの範囲内)にて計測した。
【0076】
また、樹状細胞に関しては、まず末梢血単球より分化誘導した未熟樹状細胞を培地に2×10個/mLの濃度で懸濁した。5mmφの開口スペースを設けたAu蒸着基板表面上に細胞懸濁液50μLを敵化、30min静置した。静置後基板表面をPBSにて洗浄し、基板表面に接着した樹状細胞数を顕微鏡(0.4mm×0.6mmの範囲内)にて計測した。
【0077】
基準となる細胞数は、樹状細胞数は249であり、単球細胞は700であった。これを基準として接着率を算出した。また、細胞数の計測(樹状細胞)は、4℃、室温、37℃の3つの水準で行った。
【0078】
[実施例2]
実施例2においては、PEGチオール化合物のPEG鎖長は5であった(SAM処理条件2)。以上のPEGチオール処理の結果得られた基板の表面の接触角は約37°(親水性表面)であった。PEG鎖長と表面を接触角以外は、実施例1と同じ条件の基板を準備した。
【0079】
[実施例3]
実施例3においては、PEGチオール化合物のPEG鎖長は6であった(SAM処理条件3)。以上のPEGチオール処理の結果得られた基板の表面の接触角は約36°(親水性表面)であった。PEG鎖長と表面を接触角以外は、実施例1と同じ条件の基板を準備した。
【0080】
[実施例4]
実施例4においては、Si基板の代わりに、Niからなる基板に複数の貫通孔が形成されたフィルターを用いた。Niからなるフィルターを用いた点以外は、実施例1と同じ条件(SAM処理条件1)で金薄膜の上に自己組織化単分子膜(SAM膜)が形成されたフィルターを準備した。ただし、基板表面に接着した細胞数の計測は、樹状細胞に関してのみ行った。
【0081】
[実施例5]
実施例5においては、Si基板の代わりに、Niからなる基板に複数の貫通孔が形成されたフィルターを用いた。Niからなるフィルターを用いた点以外は、実施例2と同じ条件(SAM処理条件2)で金薄膜の上に自己組織化単分子膜(SAM膜)が形成されたフィルターを準備した。ただし、基板表面に接着した細胞数の計測は、樹状細胞に関してのみ行った。
【0082】
[実施例6]
実施例6においては、Si基板の代わりに、Niからなる基板に複数の貫通孔が形成されたフィルターを用いた。Niからなるフィルターを用いた点以外は、実施例3と同じ条件(SAM処理条件3)で金薄膜の上に自己組織化単分子膜(SAM膜)が形成されたフィルターを準備した。ただし、基板表面に接着した細胞数の計測は、樹状細胞に関してのみ行った。
【0083】
[実施例7]
フィルター材質(ポリカーボネート)、フィルタハウジング部材(ポリスチレン)及びろ液・残渣回収容器(例えばポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ガラス等)から構成されるろ過装置を、親水化処理剤MPCポリマー(日油製、0.5%エタノール溶液)に浸漬し、部材表面の親水化処理(MPC処理)を行った。末梢血をPBSにて4倍希釈し、親水化処理を行ったろ過装置を用いてろ過処理を行った。
【0084】
ろ過処理後のろ液及び残渣の血球数を多項目自動血球装置(Sysmex製:XE−2100)にて測定し、ろ液及び残渣の血球数を血球種ごとに合算し、ろ過前の各種血球数と比較し、ろ過装置による各血球種の回収率を算出した。
【0085】
[比較例1]
比較例1においては、実施例1において、金薄膜の上に自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成していない基板を使用した。基板が異なる点以外は、実施例1と同じ条件で基板表面に接着した細胞数の計測を行った。
【0086】
[比較例2]
比較例2においては、Si基板の代わりに、Niからなる基板に複数の貫通孔が形成されたフィルターであって、かつ金薄膜および自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成していないフィルターを使用した。基板が異なる点以外は、実施例1と同じ条件で基板表面に接着した細胞数の計測を行った。
【0087】
[比較例3]
比較例3においては、比較例2と同じフィルターではあるが、実施例1と同じ条件のUV洗浄のみを行ったフィルターを使用した。基板が異なる点以外は、実施例1と同じ条件で基板表面に接着した細胞数の計測を行った。
【0088】
[比較例4]
比較例4においては、Si基板の代わりに、Niからなる基板に複数の貫通孔が形成されたフィルターであって、かつ金薄膜のみが形成されたフィルターを使用した。基板が異なる点以外は、実施例1と同じ条件で基板表面に接着した細胞数の計測を行った。
【0089】
[比較例5]
比較例5においては、Si基板の代わりに、プラスチック製の培養ディッシュであって、かつ金薄膜および自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成していないものを使用した。基板が異なる点以外は、実施例1と同じ条件で基板表面に接着した細胞数の計測を行った。
【0090】
[比較例6]
比較例6においては、Si基板の代わりに、ろ過装置のハウジングに使用されるハウジング用プラスチック部材(ケモタキセル、クラボウ製、材質ポリスチレン)であって、かつ金薄膜および自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成していないものを使用した。基板が異なる点以外は、実施例1と同じ条件で基板表面に接着した細胞数の計測を行った。ただし、表面に接着した細胞数の計測は、単球細胞に関してのみ行った。
【0091】
[比較例7]
比較例7においては、Si基板の代わりに、ろ過装置のケースに使用されるプラスチック部材(ケモタキセル、クラボウ製、材質ポリスチレン)であって、かつ金薄膜および自己組織化単分子膜(SAM膜)を形成していないものを使用した。基板が異なる点以外は、実施例1と同じ条件で表面に接着した細胞数の計測を行った。
【0092】
[比較例8]
比較例6においては、実施例7において、MPC処理を行っていないろ過装置を使用した。ろ過装置がMPC処理されていない点以外は、実施例7と同じ条件でろ過装置による各血球種の回収率を算出した。
【0093】
以上の実施例1−7、および比較例1−8の測定結果を表1と表2に示す。表1は、実施例1−6、比較例1−7における計測結果を示す表であり、表2は実施例7および比較例8の測定結果を示す表である。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
3−1.接着率低減効果の評価
図6(A)は、実施例1−3、比較例1における単球の計測結果と基板表面の接触角の関係性を示す図である。図6(A)に示されるように、実施例1−3では単球の接着はまったく確認されなかったのに対し、SAM処理を行っていない比較例1では、81.9%の単球の細胞接着が確認された。また、接触角が水に対して70度以下(30度以上50度以下)である場合、単球の接着が確認されなかった。
【0097】
以上の結果、フィルターの表面を親水化処理することで、単球の細胞接着を顕著に抑制することができることが確認された。
【0098】
図6(B)は、実施例1−3、比較例1における樹状細胞の計測結果と基板表面の接触角および温度との関係性を示す図である。図6(B)に示されるように、実施例1−3では樹状細胞の接着は実質的に確認されなかったのに対し、SAM処理を行っていない比較例1では、71.9%(室温)の単球の細胞接着が確認された。また、接触角が水に対して70度以下(30度以上50度以下)である場合、樹状細胞の接着が確認されなかった。また、温度条件を室温から37℃に上昇させた場合、比較例1では、接着率の上昇し、91.2%となったことが確認されたのに対し、実施例1−3では、接着率の上昇は確認されなかった。
【0099】
以上の結果、フィルター表面を親水化処理することで、樹状細胞の細胞接着を顕著に抑制することができることが確認された。また、室温以上の温度環境下(37℃)であっても、細胞接着を抑制する効果が発揮されることが確認された。
【0100】
3−2.分離装置の回収率の評価
表2の結果から、貪食能を有する単球においてのみ、顕著な回収率の差異が確認された。単球以外の血液成分(赤血球、血小板、リンパ球)について接着抑制効果は認められなかった。好中球については若干の回収ロス低減が見られた。この結果から、各種ろ過部材への親水処理は単なる物理吸着の抑制ではなく、単球(好中球)のような貪食細胞由来の接着機構を抑制していると考えられる。
【0101】
以上の結果から、フィルターを含む分離装置の構成部材に親水化処理を行うことで、貪食能を有する細胞をより効率的に分離できることが確認された。
【0102】
3−3.基板材料の評価
Niからなるフィルターを使用した実施例4−6においても、表面を親水化処理することで、細胞接着を抑制する効果が発揮されることが確認された。また、比較例2−4の結果から、AuやNi等の金属製部材では、非常に高い比率で細胞接着が発生することが確認された。また、比較例5−7の結果から、ブラスチック部材に対しても、非常に高い比率で細胞接着が発生することが確認された。
【0103】
よって、フィルターを用いたろ過装置等の分離装置を使用した場合、フィルターのみならず、ハウジングや経路などの周辺部材表面においても細胞接着が発生することが確認された。
【0104】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0105】
本発明は、上述した実施形態及び使用例に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0106】
1、2…分離装置、10…フィルター、11…基板、12…第1基面、13…第2基面、
14…内壁面、15…貫通孔、18…被覆膜、19…表面、20…第1容器、
21…開口、22…内壁面、30…第2容器、31…第1開口、32…第2開口、
34…胴部、35…内壁面、41…被分離液、42…ろ液、120…第1容器、
121…第1導入口、121…第1排出口、123…内壁面、130…第2容器、
131…第2導入口、132…第2排出口、133…内壁面、151…供給経路、152…排出経路、161…供給経路、162…排出経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6