(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057323
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】血管奇形の塞栓硬化療法に用いられる血管圧迫用器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/12 20060101AFI20161226BHJP
【FI】
A61B17/12
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-229913(P2012-229913)
(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公開番号】特開2014-79420(P2014-79420A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】506111240
【氏名又は名称】学校法人 愛知医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【弁理士】
【氏名又は名称】板谷 康夫
(74)【代理人】
【識別番号】100131071
【弁理士】
【氏名又は名称】▲角▼谷 浩
(72)【発明者】
【氏名】石口 恒男
(72)【発明者】
【氏名】北川 晃
【審査官】
毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
独国特許出願公開第04424838(DE,A1)
【文献】
特開2000−157554(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3118148(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状部材と、このリング状部材を支持するプレートと、を備え、前記プレートは中央位置に貫通穴を有し、前記リング状部材は前記貫通穴と同心に前記プレートに取り付けられ、前記プレートの両端部が作業者より保持されて、前記リング状部材の先端が患者の被治療部位に押圧されるように構成されていることを特徴とする血管奇形の塞栓硬化療法に用いられる血管圧迫用器具。
【請求項2】
前記リング状部材は、放射線透過性とリング高さ方向に弾性を有する材料で成ることを特徴とする請求項1に記載の血管奇形の塞栓硬化療法に用いられる血管圧迫用器具。
【請求項3】
前記プレートは矩形であって、放射線透過性と撓み性を有し、かつ、透明若しくは半透明である材料で成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の血管奇形の塞栓硬化療法に用いられる血管圧迫用器具。
【請求項4】
前記リング状部材は、高さ方向に種類の異なる2層の弾性材料から構成され、前記プレートに結合される側の弾性材料は他の弾性材料よりも硬質であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の血管奇形の塞栓硬化療法に用いられる血管圧迫用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動静脈奇形等の血管奇形の塞栓硬化療法に用いられる血管圧迫用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
動静脈奇形等の血管奇形の塞栓硬化療法による治療に関し、医療従事者は被治療部位の異常血管を塞栓するための塞栓硬化物質を患者の被治療部に注入し、塞栓硬化物質を被治療部異常血管内に定着させなければならない。そのため、塞栓硬化物質の被治療部への注入の際に、被治療部位の動脈と静脈を体の表面外部から圧迫し、被治療部位の血流を制御する必要がある。この血流制御に関し、従来より、楕円形若しくは円形のプラスチックのリング状の血管圧迫用器具が用いられる(非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】AJNR Am J Neuroradiol.,24,1453-1455,2003
【非特許文献2】AJNR Am J Neuroradiol.,28,528-530,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動静脈奇形の治療では、患者の血管に造影剤を注入し、医療従事者が塞栓硬化物質を被治療部に注入し、X線装置で血管造影下に被治療部位の血流状態を確認しながら治療を行う必要があるため、治療の間、X線が患者の被治療部位に照射される。その際、上記非特許文献1では、上記リング状の血管圧迫用器具をゴムバンドとアクリル棒で被治療部位に固定し、被治療部位の静脈の圧迫を行うが、動脈は医療従事者が直接手で圧迫するため、治療の間、医療従事者の被曝量が増大する。また、非特許文献2では、医療従事者が上記リング状の血管圧迫用器具を直接手に持って被治療部位の動脈と静脈を圧迫するため、同様に治療の間、医療従事者の被曝量が増大する。
【0005】
また、上記血管圧迫用器具の材料は硬質のプラスチックであるため、被治療部位の体表形状によって、血管圧迫用器具が被治療部位全体を均一に覆うことができない場合がある。また、塞栓硬化物質を被治療部位全体に定着させるためには正確な血流操作が必要であり、リング状の血管圧迫用器具を手に持って直接血管を圧迫して血流操作を行う必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、治療の際の医療従事者のX線被曝量を軽減し、使用時の安全性に優れ、かつ、血管の圧迫調整が容易で長時間使用しても医療従事者が疲れにくい血管奇形の塞栓硬化療法に用いられる血管圧迫用器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、リング状部材と、このリング状部材を支持するプレートと、を備え、前記プレートは中央位置に貫通穴を有し、前記リング状部材は前記貫通穴と同心に前記プレートに取り付けられ、前記プレートの両端部が作業者より保持されて、前記リング状部材の先端が患者の被治療部位に押圧されるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、前記リング状部材は、放射線透過性とリング高さ方向に弾性を有する材料で成ることが望ましい。
【0009】
また、前記プレートは矩形であって、放射線透過性と撓み性を有し、かつ、透明若しくは半透明である材料で成ることが望ましい。
【0010】
また、前記リング状部材は、高さ方向に種類の異なる2層の弾性材料から構成され、前記プレートに結合される側の弾性材料は他の弾性材料よりも硬質であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の血管圧迫用器具によれば、医療従事者が血管を圧迫するリング状部材を支持するプレートを保持して治療を行うため、医療従事者のX線被曝量を軽減でき、安全性に優れている。また、医療従事者は、リング状部材を直接操作せず、プレートを介してリング状部材で血管を圧迫するためその操作が容易であり、長時間使用しても疲れにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る血管圧迫用器具を患者に使用したときの斜視図。
【
図2】同血管圧迫用器具の組立前の部品構成を示した斜視図。
【
図3】同血管圧迫用器具の使用時の姿勢を示した斜視図。
【
図6】(a)は同血管圧迫用器具の第2の変形例の組立前の部品構成を示した斜視図、(b)は同血管圧迫用器具の第2の変形例を示した斜視図。
【
図7】
図1のA部を拡大して示し、同血管圧迫用器具を使用したときの被治療部位の血管の状態を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
本発明の実施形態に係る血管圧迫用器具について、
図1乃至
図7を参照して説明する。動静脈奇形は動脈と静脈が正常な毛細血管を介さずに異常な動静脈短絡ないしナイダス(nidus)と称される異常血管網を介して繋がる血管奇形であり、手足や胸などいろいろな体の部位に生ずる。
【0014】
この動静脈奇形の治療方法は、被治療部位の動脈と静脈の間の血管に、その血管を硬化させる塞栓硬化物質を注入して、被治療部位の動脈と静脈の間の血液の流れを遮断する。塞栓硬化物質の注入においては、被治療部位の血液の流れが速いと被治療部位に塞栓硬化物質が定着せず静脈を通じて塞栓硬化物質が被治療部位の外へ流れ出るため、被治療部位の血流を制限する必要がある。一方、被治療部位の血流を完全に遮断すると、注入した血管部分にのみ塞栓硬化物質が留まり塞栓硬化物質がナイダス(nidus)等を介して被治療部位全体に広がらない。そのため、塞栓硬化物質の注入は血管奇形部分の血流をある程度確保しながら被治療部位全体に広がるように行わなければならない。ここでは、腕の動静脈奇形を治療する場合を例として、本実施形態の血管圧迫用器具について説明する。
【0015】
図1において、血管圧迫用器具1は、リング状部材2と矩形の透明又は半透明のプレート3から構成され、リング状部材2は矩形のプレート3に支持されている。注射器4には、患者の腕5の被治療部位5aの血管を塞栓するための塞栓硬化物質6が入れられている。また、X線装置(図示せず)が、被治療部位5aを観察するため治療に用いられる。治療を受ける患者はベットの上に寝かされて、X線装置のX線7が患者の背面側から患者の被治療部位5aに照射される。患者の被治療部位5aを通過したX線7は、患者の上方に設けられたX線検出器(図示せず)で検出される。X線7の照射範囲は、リング状部材2より少し大きな範囲であり、被治療部位5aの全体が観察できる範囲となっている。
【0016】
動静脈奇形の治療は複数の医療従事者で行われ、注射器4と血管圧迫用器具1は、それぞれ別の医療従事者が担当する。また、患者の被治療部位5aへ血液の流入及び流出と塞栓硬化物質6の血管への注入状態をX線装置で観察するため、造影剤が患者に投与される。
【0017】
血管圧迫用器具1を担当する医療従事者は、両手8でプレート3の長手方向の両端部3aをそれぞれ保持し、リング状部材2が患者の被治療部位5aを覆うようにプレート3を押圧する。プレート3の押圧により、リング状部材2によって被治療部位5aの動脈及び静脈が圧迫され、被治療部位5aへの血液の流入及び被治療部位5aからの血液の流出が制限される。
【0018】
注射器4を担当する医療従事者は、注射器4に入れられた塞栓硬化物質6を患者の被治療部位5aに注入し、X線装置で造影剤によって映し出される被治療部位5aの血流と塞栓硬化物質6の注入状態を確認する。塞栓硬化物質6が被治療部位5aの血管に的確に投与されていることが確認できれば、注射器4を担当する医療従事者は、さらに塞栓硬化物質6の投与を続ける。
【0019】
また、血管圧迫用器具1を担当する医療従事者は、同様にX線装置で、被治療部位5aの血流状態と注入された塞栓硬化物質6の状態を確認しながら、プレート3の両端部3aを保持した両手8で、被治療部位5aへのリング状部材2の押圧力を微妙に調整しながら被治療部位5aへの所定の血流を確保する。注射器4を担当する医療従事者は、塞栓硬化物質6が被治療部位5aの全体に広がったことを確認して塞栓硬化物質6の注入作業を終了する。なお、被治療部位5aへ注入された塞栓硬化物質6は、被治療部位5aの血流が早いと被治療部位5aに停滞せず、一方、被治療部位5aに血流がないと塞栓硬化物質6が被治療部位5a全体に広がらず、被治療部位5aの血管全体を塞栓することができない。
【0020】
以上のように、血管圧迫用器具1を担当する医療従事者と注射器4を担当する医療従事者は、X線装置で被治療部位5aの血流と塞栓硬化物質6の状態を観察しながら、血管圧迫用器具1で血流の調整を行い、塞栓硬化物質6が被治療部位5aの全体に広がり、被治療部位5aの血管が塞栓されるように、塞栓硬化物質6の投与を行う。
【0021】
図2において、血管圧迫用器具1は、ウレタンを材料とするリング状部材2とアクリルのプレート3で構成される。リング状部材2は、外径7cm位、内径5cm位、リング高さが3cm位で、リング高さ方向に弾性を備え、X線7を透過する材料で成る。リング状部材2は、リング高さ方向に弾性を備えているため、リング状部材2を被治療部位5aへ押し当てた場合、均等に血管を圧迫することができる。また、プレート3は、透明又は半透明で、長さ30cm位、横幅10cm位、厚み5mm位で、その中央に貫通穴3bが設けられ、撓み性とX線7を透過する材料で成る。このリング状部材2は、貫通穴3bの同心にプレート3に取り付けられる。
【0022】
リング状部材2とプレート3がそれぞれ放射線であるX線7を透過する材料で成されているため、治療の際に、血管圧迫用器具1は被治療部位5aへの血液の流れと塞栓硬化物質6の浸透の確認に影響を及ぼさない。また、プレート3が透明若しくは半透明であるため、医療従事者は被治療部位5aの血管の位置を直接確認しながら血管圧迫用器具1のプレート3への押圧が可能となり、さらに、リング状部材2の弾性とプレート3の撓み性により、押圧による被治療部位5aへの血流制限の調整も容易となる。
【0023】
図3において、血管圧迫用器具1は、リング状部材2を下面にして使用され、注射器4による塞栓硬化物質6は、この貫通穴3bから被治療部位5aへ注入される。
【0024】
図4において、リング状部材2は、プレート3の貫通穴3bと同心に取り付けられる。また、貫通穴3bの大きさとリング状部材2の内径は、同一の大きさである。リング状部材2の下面は、プレート3に接着剤等で取り付けられる。
【0025】
図5において、血管圧迫用器具10は、リング状部材11のプレート3への固定方法の第1の変形例である。血管圧迫用器具10はリング状部材11とプレート3とで構成され、リング状部材11は、貫通穴3bに圧入されてプレート3へ固定される。リング状部材11がプレート3から外れないように、リング状部材11はプレート3との接触部分に段差11aを設けるのが望ましい。なお、リング状部材11は、放射線透過性がある弾性材料から成る。
【0026】
図6(a)(b)において、血管圧迫用器具20は、第2の変形例であり、リング状部材21とプレート3とで構成される。リング状部材21は、放射線透過性がある弾性材料から成るリング状部材21aと同じく放射線透過性がある弾性材料から成るリング状部材21bの2層から構成され、リング状部材21bはリング状部材21aよりも硬質な部材から成る。硬質のリング状部材21bがプレート3側に取り付けられるため、医療従事者のプレート3への押圧力が硬質な部材から成るリング状部材21bから血管圧迫用器具20の先端のリング状部材21aに直接的に伝わる。従って、血管圧迫用器具20の押圧力は、先端のリング状部材21aで吸収され分散されて被治療部位5aに伝わるため、適切な押圧力の調整範囲が広くなり、血流の調整を迅速に行うことができる。なお、リング状部材21bは、例えば、硬質ゴム等が該当する。
【0027】
図7において、
図1のAの部分を拡大したもので、プレート3に取り付けられたリング状部材2の中央に、被治療部位5aの血管の状態が示されている。被治療部位5aの血管の状態は、X線装置によって映し出された映像である。医療従事者がプレート3を押圧することにより、リング状部材2が動脈5b及び静脈5cを圧迫し、動脈5bからの被治療部位5aへの血液の流入及び静脈5cからの血液の流出は制限される。この血流の状態を観測しながら、医療従事者は、プレート3への押圧を調整し、塞栓硬化物質6が被治療部位5a全体に広がるように注射器4の塞栓硬化物質6を被治療部位5aの血管に注入し、被治療部位5aの血管を塞栓する。
【0028】
以上のように、本実施例の血管圧迫用器具1,10,20によれば、患者の被治療部位5aの血管の状態をX線装置で観察しながら治療を行うが、X線7の投射範囲は被治療部位5aであり、医療従事者は血管圧迫用器具1,10,20のプレート3の両端部3aを保持して治療を行うため、治療で使用されるX線での医療従事者への被曝が軽減される。従って、血管圧迫用器具1,10,20は安全性が高い医療器具である。また、医療従事者は、リング状部材2,11,21を直接操作せず、プレート3を介してリング状部材2,11,21で血管を圧迫するため、血管圧迫用器具1,10,20の操作が容易であり、長時間使用しても疲れにくい。
【0029】
被治療部位5aは一般的に円形の部材で覆うことができ、また、円形の部材であれば被治療部位5aを均一に押圧できるため、本実施形態では円形のリング状部材2,11,21を例として説明した。しかし、リング状部材2,11,21の形状は必ずしも円形である必要はなく、被治療部位5aが存在する患者の体の位置や被治療部位5aの形状に合わせて、適宜変更してもよい。また、リング状部材2,11,21のリングの大きさは、被治療部位5aの大きさや被治療部位5aが存在する患者の体の位置によって適宜変更される。また、リング状部材2、11,21の材質をウレタンを例として説明したが、シリコンゴムや液体を入れたリング状の袋等のリング高さ方向に弾性を有するものであればよい。
【0030】
プレート3の形状は、医療従事者が両手でプレート3の両端部3aを保持できるように矩形であることが望ましいが、医療従事者が操作可能な形状、長さであればよい。また、プレート3は、押圧力の調整が容易な撓み性を有するアクリルを例にして説明したが、リング状部材2,11,21がリング高さ方向に弾性を有しているため、プレート3は透明若しくは半透明であれば、撓み性は必ずしも必要としない。
【符号の説明】
【0031】
1,10,20 血管圧迫用器具
2,11,21 リング状部材
3 プレート
3a 両端部
3b 貫通穴
5a 被治療部位