【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 1.「金沢大学イノベーションレポート」(特集号 2011−3)<VBL年報2010>第31〜32頁、平成23年3月 2.平成23年7月4日、http://wwwsoc.nii.ac.jp/jec/downloadoverviewpass.html
【文献】
Hikoya Hayatsu,Cellulose bearing covalently linked copper phthalocyanine trisulphonate as an adsorbent selective for polycyclic compounds and its use in studies of environmental mutagens and carcinogens,Journal of Chromatography,1992年,Vol.597,P.37-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「砂塵飛来有害物質及び微生物」とは、砂塵とともに飛来する物質や微生物の中で、人や動物の健康に害を及ぼすものをいう。砂塵とともに飛来する物質や微生物としては、例えば黄砂エアロゾルが挙げられ、黄砂エアロゾルには、発ガン性物質及び浮遊微生物(例えば、細菌、真菌、ウイルス、又はそれらの変異物)が含まれていることが知られている。具体的には、ピレン、フェナントレン、ベンゾ[a]ピレン(別称:3,4−ベンツピレン)などの多環芳香族炭化水素(PAHs)、及びニトロピレンなどのニトロ化多環芳香族炭化水素(NPAHs)等の多環芳香族炭化水素の誘導体、バシラス菌(Bacillus sp.)、ブドウ球菌(Staphylococcus sp.)などの細菌、コウジカビ(Aspergillus sp.)、ジェルカンデラ(Bjerkandera sp.)などの真菌等が挙げられる。ピレンは、ベンゼン環を4個もつ芳香族炭化水素であり、発ガン性物質と言われている。また、PAHsは大気中を長距離輸送される間に、ニトロ化体、水酸化体、キノン体などの誘導体に変化している場合があり、その誘導体の方が毒性が強くなることもある。例えば、PAHsの水酸化体は内分泌攪乱物質として作用する。バシラス菌は、地球上に広く分布しているグラム陽性細菌であり、病原性を示す種も存在している。
【0013】
(砂塵飛来有害物質及び微生物を除去する除去剤)
まず、本発明の一実施形態である砂塵飛来有害物質及び微生物を除去する除去剤について説明する。本発明は、カチオン化剤によりカチオン化されたセルロースに、下記式(I)で示される金属フタロシアニン誘導体(以下において、単に金属フタロシアニン誘導体ともいう。)が担持されている砂塵飛来有害物質及び微生物を除去する除去剤(以下において、砂塵飛来有害物質等除去剤とも記す。)に関する。
【0015】
上記式(I)中、MはFe、Co又はCuであり、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれカルボキシル基又はスルホン酸基であり、R
1、R
2、R
3及びR
4は同一又は異なってもよく、n1、n2、n3及びn4はそれぞれ0〜4の整数であり且つ1≦n1+n2+n3+n4≦8を満たす。
【0016】
上記砂塵飛来有害物質等除去剤において、平面構造の金属フタロシアニン誘導体が互いに積層されて層構造を形成しており、平面構造の金属フタロシアニン誘導体で形成された層構造の層間に、砂塵飛来有害物質及び微生物が吸着されて除去されると推定される。上記砂塵飛来有害物質等除去剤において、
図1に示しているように、カチオン化されたセルロースに金属フタロシアニン誘導体が担持されていることにより、フタロシアニン分子が分散した状態(単分子の状態)でセルロースの表面に多く存在することになり、多環芳香族炭化水素及び細菌などの砂塵飛来有害物質及び微生物に効果的に接触することができ、除去性能が高くなっていると思われる。また、上記砂塵飛来有害物質等除去剤は、金属フタロシアニン誘導体が種々の反応過程で生成する活性反応種により優れた抗菌性を発揮することができる。
【0017】
抗菌性が高いという観点から、上記R
1、R
2、R
3及びR
4はスルホン酸基であることが好ましい。上記R
1、R
2、R
3及びR
4がスルホン酸基であると、金属フタロシアニン誘導体が単分子で存在しやすく、活性反応種が生成しやすいことにより抗菌性が高くなると思われる。
【0018】
また、抗菌性が高いという観点から、上記中心金属Mは、Fe又はCoであることが好ましい。上記中心金属MがFe又はCoであると、抗菌性を発現するための活性反応種の生成が増加し、抗菌性が高くなると思われる。
【0019】
また、砂塵飛来有害物質及び微生物を除去する除去性能をより高めるという観点から、上記R
1、R
2、R
3及びR
4がスルホン酸基である場合、官能基の数、すなわちn1、n2、n3及びn4の合計(以下において、nともいう。)が1又は2であることが好ましい。すなわち、1分子の金属フタロシアニン誘導体において、スルホン酸基の合計の数は1又は2であることが好ましい。スルホン酸基は親水基であり、分子が大きいので、官能基が多いと層間への砂塵飛来有害物質及び微生物の吸着が阻害される場合がある。
【0020】
上記R
1、R
2、R
3及びR
4がカルボキシル基である場合は、nは4〜8であることが好ましい。より好ましくは、nが5〜8である。カルボキシル基が電子吸引性基であるため、nが4〜8であると、層間の電子密度が大きくなり、砂塵飛来有害物質及び微生物に対する吸着性能が向上し、吸着量が多くなる。特に金属フタロシアニン誘導体が鉄フタロシアニン誘導体の場合、フタロシアニン環が歪んだ構造になっており、コバルトフタロシアニン誘導体に比較して砂塵飛来有害物質及び微生物に対する吸着性能が劣るもののnが4〜8である場合は優れた吸着性能を有する。
【0021】
本発明において、上記スルホン酸基は、それの無機塩基と有機塩基を含む。同様に、上記カルボキシル基も、それの無機塩基と有機塩基を含む。無機塩基の場合、塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、銅(II)塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基の場合、好適な例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0022】
上記式(I)で示される金属フタロシアニン誘導体としては、例えば、金属フタロシアニンモノスルホン酸及びその塩、金属フタロシアニンジスルホン酸及びその塩、金属フタロシアニンテトラスルホン酸及びその塩、金属フタロシアニンオクタスルホン酸及びその塩、金属フタロシアニンモノカルボン酸及びその塩、金属フタロシアニンジカルボン酸及びその塩、金属フタロシアニンテトラカルボン酸及びその塩、金属フタロシアニンオクタカルボン酸及びその塩などが挙げられる。立体障害、安定性の観点から、上記砂塵飛来有害物質等除去剤には、金属フタロシアニンモノスルホン酸又はその塩と、金属フタロシアニンジスルホン酸又はその塩が混在していることが好ましい。
【0023】
上記式(I)中、MがCo、R
1がスルホン酸基であり、n1が2である場合、式(I)で示される金属フタロシアニン誘導体は、例えば、下記式(II)で示すコバルトフタロシアニンジスルホン酸となる。
【0025】
上記式(I)中、MがFe、R
1がスルホン酸基であり、n1が1である場合、式(I)で示される金属フタロシアニン誘導体は、例えば、下記式(III)で示す鉄フタロシアニンモノスルホン酸となる。
【0027】
上記式(I)中、MがFe、R
1、R
2、R
3及びR
4の全てがカルボキシル基であり、n1、n2、n3及びn4がそれぞれ1である場合、式(I)で示される金属フタロシアニン誘導体は、例えば下記式(IV)で示す鉄フタロシアニンテトラカルボン酸となる。
【0029】
上記式(I)中、MがFe、R
1、R
2、R
3及びR
4の全てがカルボキシル基であり、n1、n2、n3及びn4がそれぞれ2である場合、式(I)で示される金属フタロシアニン誘導体は、例えば下記式(V)で示す鉄フタロシアニンオクタカルボン酸となる。
【0031】
上記金属フタロシアニン誘導体は、市販のものであってもよく、公知の方法により製造したものであってもよい。例えば、鉄フタロシアニンテトラカルボン酸は、ニトロベンゼンにトリメリット酸無水物と、尿素と、モリブデン酸アンモニウムと、塩化第二鉄無水物とを加えて撹拌し、加熱還流させて沈殿物を得、得られた沈殿物にアルカリを加えて加水分解し、次いで酸を加えて酸性にすることで得られる。コバルトフタロシアニンオクタカルボン酸は、上記鉄フタロシアニンテトラカルボン酸の原料であるトリメリット酸無水物に替えてピロメリット酸無水物、塩化第二鉄無水物に替えて塩化第二コバルトを用いて同様の方法で製造可能である。コバルトフタロシアニンモノスルホン酸は、無官能のコバルトフタロシアニンにクロルスルホン酸を反応させてスルホン化を行うことで得ることができる。
【0032】
上記カチオン剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子、カチオン系高分子、クロスリンク型ポリアルキルイミン、ポリアミン系カチオン樹脂、グリオキザール系繊維素反応型樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合せて用いてもよい。中でも、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体が好ましい。上記第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体としては、例えば、下記式(VI)に示すN−N’−ジ−(3−クロロ−2−ヒドロキシ−プロピル)−N−N’−テトラメチル−n−ヘキサン−1,6−ジアンモニウムジクロライド(テトラメチルヘキサメチレンジアミン4級塩ともいう。)、部分3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル化ジアリルアミン塩酸塩・ジアリルジメチルアンモニウムクロライド共重合体などが挙げられる。下記式(VI)に示す第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体としては、例えば、「カチオノンKCN」(一方社油脂工業社製商品名) などの市販のものを用いることができる。第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、特に単分子中に2つの第4級アンモニウム塩を有するクロルヒドリン誘導体のように、カチオンサイト間の炭素鎖の長さ(アルキル基の長さ)、すなわちカチオンサイト間の距離が大きいカチオン剤でセルロースをカチオン化したとき、カチオンサイトがセルロースの表面に分散して存在するので、金属フタロシアニン誘導体がカチオンサイトと結合して単分子で存在しやすくなるため、砂塵飛来有害物質及び微生物に対する除去性能が高いと推定される。また、フタロシアニン誘導体との結合や砂塵飛来有害物質と反応するのに、立体障害となり得るビニル系などのポリマー、t−ブチル基などの官能基を持たないカチオン剤を用いた方が、砂塵飛来有害物質及び微生物の除去性能が高い傾向にある。
【0034】
上記セルロースは、特に限定されないが、改質し易い、具体的にはカチオン化し易いという観点から、コットン等のセルロース材料又は結晶性を有する再生セルロース材料であることが好ましい。本発明において、結晶性を有する再生セルロースとは、例えば一次膨潤度が150%未満である再生セルロースを意味する。上記結晶性を有する再生セルロースは、ビスコース法、銅−アンモニア法、溶剤法など通常のセルロース再生法により、安価に得ることができる。例えば、一般に結晶性を有するビスコースレーヨンであれば、一次膨潤度は90〜120%である。上記セルロースは、繊維、スポンジ、フィルムなどのいずれの形態であってもよいが、砂塵飛来有害物質及び微生物に対する吸着性能がより優れるという観点から繊維の形態であることが好ましい。上記砂塵飛来有害物質等除去剤において、上記セルロースが繊維形態である場合は、後述の砂塵飛来有害物質及び微生物を除去するセルロース繊維に該当する。
【0035】
上記砂塵飛来有害物質等除去剤において、上記金属フタロシアニン誘導体の担持量は、砂塵飛来有害物質及び微生物に対する吸着性能を発揮し得る範囲であればよく、特に限定されない。例えばセルロースに対して0.2〜5質量%であり、吸着性能がより優れるという観点から、0.5〜4質量%であることが好ましく、1〜3.3質量%であることがより好ましい。金属フタロシアニン誘導体の担持量が上記範囲内にあると、フタロシアニンがカチオンサイトに分散して結合するので、砂塵飛来有害物質及び微生物に対する吸着サイトが増加すると考えられる。金属フタロシアニン誘導体の担持量が多すぎると、フタロシアニン同士が会合し、砂塵飛来有害物質及び微生物に対する吸着サイトが減少するので、吸着性能が低下する場合がある。
【0036】
上記金属フタロシアニン誘導体をカチオン化セルロースに担持させる場合、効果を阻害しない範囲で、二種以上の金属フタロシアニン誘導体を併用してもよく、金属フタロシアニン誘導体と他の機能剤を併用してもよい。具体的には、二種以上の金属フタロシアニン誘導体又は金属フタロシアニン誘導体と他の機能剤を混合して担持されることができる。或いは、二種以上の金属フタロシアニン誘導体又は金属フタロシアニン誘導体と他の機能剤を別々に担持してもよい。ただし、二種以上の金属フタロシアニン誘導体を併用する場合或いは金属フタロシアニン誘導体と他の機能剤を併用する場合、フタロシアニン同士が会合することやフタロシアニンの吸着サイトが閉塞することにより、砂塵飛来有害物質及び微生物に対する吸着サイトが減少する可能性があるため、一種の金属フタロシアニン誘導体を単独で使用することが好ましい。
【0037】
また、金属フタロシアニン誘導体を担持したカチオン化セルロースは、効果を阻害しない範囲で、二種以上併用してもよい。例えば、機能に応じて、PAHsのような有害物質に対して効果が高い金属フタロシアニン担持カチオン化セルロースと、抗菌性の高い別の金属フタロシアニン担持カチオン化セルロースを併用してもよい。特に、後述する繊維構造物として用いる場合は、繊維として混合することができるので、特に有効である。勿論他の機能性繊維と併用することも可能である。
【0038】
(砂塵飛来有害物質及び微生物を除去するセルロース繊維)
以下、本発明の他の一実施形態である砂塵飛来有害物質及び微生物を除去するセルロース繊維について説明する。本発明の砂塵飛来有害物質及び微生物を除去するセルロース繊維(以下において、単に砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維とも記す。)は、砂塵飛来有害物質及び微生物を吸着して除去する。上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維は、セルロースが繊維の形態になっている以外は、上記砂塵飛来有害物質等除去剤と同様であり、重複する部分については説明を省略する。
【0039】
上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維において、セルロースが繊維の形態になっていることで嵩があり大きな表面積を持つため、セルロース繊維に担持されている金属フタロシアニン誘導体が効率よく空気中の砂塵飛来有害物質及び微生物に接触することができる。
【0040】
上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維は、繊維強度が1cN/dtex以上であることが好ましい。2cN/dtex以上であることがより好ましく、2.4cN/dtex以上であることがさらにより好ましい。繊維強度が1cN/dtex以上であると、上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維を用い、カード法、湿式抄紙法、エアレイド法などにより繊維ウェブを形成し、糸、織物、編物、不織布などの繊維構造物に加工しやすい。
【0041】
上記セルロース繊維は、改質し易い、具体的にはカチオン化し易いという観点から、コットン繊維又は結晶性を有する再生セルロース繊維であることが好ましい。本発明において、結晶性を有する再生セルロース繊維とは、例えば一次膨潤度が150%未満である再生セルロース繊維を意味する。上記結晶性を有する再生セルロース繊維は、ビスコース法、銅−アンモニア法、溶剤法など通常のセルロース再生法により、安価に得ることができる。本発明において、「一次膨潤度」とは、湿式紡糸法により再生セルロース繊維を製造した後、乾燥工程を経ないで測定される膨潤度をいう。
【0042】
上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維は、イオン染色法により製造することができる。具体的には、セルロース繊維をカチオン剤によりカチオン化処理し、得られたカチオン化されたセルロース繊維のカチオン基と金属フタロシアニン誘導体が持つカルボキシル基やスルホン酸基などのアニオン基をイオン的に結合させ、カチオン化されたセルロース繊維に金属フタロシアニン誘導体が担持されている砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維を得る。
【0043】
(繊維構造物)
以下、本発明の他の一実施形態である繊維構造物について説明する。本発明の繊維構造物は、砂塵飛来有害物質及び微生物を吸着して除去する。
【0044】
上記繊維構造物は、上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維を含み、糸、織物、編物、ウェブ、不織布、紙、ネットなどのいずれの形態であってもよい。
【0045】
上記繊維構造物において、金属フタロシアニン誘導体の含有量は0.2質量%以上であり、吸着性能がより優れるという観点から、0.5〜4質量%であることが好ましく、1〜3.3質量%であることがより好ましい。
【0046】
上記繊維構造物は、上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維を100質量%含んでもよい。また、繊維構造物における金属フタロシアニン誘導体の含有量が0.2質量%以上になる限り、他の繊維を含んでもよい。上記繊維構造物が他の繊維を含む場合、上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。他の繊維としては、例えば、天然繊維、合成繊維、半合成繊維及び再生繊維を用いることができる。上記天然繊維は、木綿、麻又はパルプのようなセルロース繊維、羊毛又は絹のような蛋白質繊維から選ばれることが好ましい。上記合成繊維は、ポリオレフィン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリウレタン系繊維から選ばれることが好ましい。上記半合成繊維は、アセテートレーヨンのようなセルロース繊維であることが好ましい。上記再生繊維は、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンなどのセルロース繊維から選ばれることが好ましい。これらの繊維は、単一繊維であってもよく、複合繊維であってもよい。これらの他の繊維は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもちいてもよい。
【0047】
上記繊維構造物は、上記砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維と、必要に応じて、他の繊維を用いて公知の方法により製造することができる。例えば、上記繊維構造物が不織布である場合、まず、カード法、エアレイド法、湿式抄紙法、スパンボンド法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、静電紡糸法などにより繊維ウェブを形成した後、エアースルー不織布や熱圧着不織布などのサーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ニードルパンチ不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布などに加工される。
【0048】
本発明の繊維構造物として、ケミカルボンド不織布の一例を示す。まず、本発明の砂塵飛来有害物質等除去セルロース繊維と、必要に応じて他の繊維を混合して繊維ウェブを形成する。必要に応じて、繊維ウェブを不織布(例えば、ニードルパンチ不織布)に成形した後、バインダーを浸漬、噴霧(例えば、スプレーボンド)、コーティング(例えば、フォームボンド)等により付着させ、乾燥及び/又はキュアリングして、ケミカルボンド不織布を得ることができる。バインダーとしては、アクリルバインダー、ウレタンバインダーなどを用いることができる。バインダーの付着量は、不織布の形態を維持することができ、有害物質等の除去効果を阻害しない範囲であればよく、特に限定されない。例えば、不織布質量に対して、固形分で5〜50質量%であることが好ましい。
【0049】
上記繊維構造物は、衛生マスク、サージカルマスク、防塵マスク等のマスクに用いることができる。防塵マスクとしては、例えば、N95対応マスク(Particulate Respirator Type N95)、呼吸用保護具等が挙げられる。マスクに用いる場合、上記繊維構造物は、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、水流交絡不織布、スパンボンド不織布、又はメルトブローン不織布であることが好ましく、サーマルボンド不織布又は水流交絡不織布であることがより好ましい。また、マスクに用いる場合、構成繊維の繊度は、1〜10dtexであることが好ましく、より好ましくは2〜8dtexである。目付は20〜60g/m
2であることが好ましい。上記繊維構造物を用いたマスクを着用することにより、砂塵飛来有害物質及び微生物が体内に侵入することを防止することができる。
【0050】
マスクの具体的な構成としては、例えば、外側から内側(口側)にかけて、補強不織布、本発明の繊維構造物、精密濾過不織布、補強不織布又は柔軟不織布の順番で配置された積層構造が挙げられる。このような積層構造にすると、比較的粒子径の大きい砂塵を本発明の繊維構造物までに捕捉して除去作用を発揮し、粒子径の小さい砂塵は精密濾過不織布の主として表面で捕捉するので、精密濾過不織布の表面で捕捉した砂塵中の有害物質及び微生物に対する本発明の繊維構造物の除去作用を発揮することができる。或いは、補強不織布、精密濾過不織布、本発明の繊維構造物、補強不織布又は柔軟不織布の順番で配置された積層構造も挙げられる。このような積層構造にすると、比較的粒子径の大きい砂塵及び粒子径の小さい砂塵は精密濾過不織布の主として表面で捕捉し、仮に精密濾過不織布を通過した砂塵中の有害物質及び微生物に対して本発明の繊維構造物の除去作用を発揮することができる。補強不織布又は柔軟不織布としては、例えば、スパンボンド不織布、サーマルボンド不織布などを用いることができる。精密濾過不織布としては、例えば、メルトブローン不織布などの極細繊維不織布を用いることができる。
【0051】
また、上記繊維構造物は、エアフィルターに用いることができる。エアフィルターに用いる場合、上記繊維構造物は、織物、編物、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、スパンボンド不織布又は水流交絡不織布であることが好ましい。また、エアフィルターに用いる場合、構成繊維の繊度は、2〜50dtexであることが好ましい。目付は10〜150g/m
2であることが好ましい。エアフィルターとしては、例えば、空気調和設備(空調)用フィルター、エア・コンディショナー(エアコン)フィルター、空気清浄機フィルター、加湿器用フィルター、除湿器用フィルター、布団乾燥機用フィルター、洗濯乾燥機用フィルター、掃除機用フィルター、住宅換気システム用・換気口フィルター、自動車用キャビンフィルター等が挙げられる。上記繊維構造物を用いたエアフィルターを、例えばエア・コンディショナー(エアコン)に用いることにより、砂塵飛来有害物質及び微生物が室内に進入することを防止することができる。
【0052】
エアフィルターの具体的な構成として、空気清浄機フィルター、ビル、病院及び工場などで使用する空調用フィルター又は自動車等のエアコンフィルターである場合について説明する。これらの製品は、砂塵飛来有害物質及び微生物を当該空気清浄機フィルター、空調用フィルター又はエアコンフィルターで除去し、更なる汚染を防止するためのフィルターとして用いることができる。この場合、フィルターの形態は特に限定されないが、織物又は不織布であることが好ましく、不織布であることがより好ましい。上記不織布の場合には、スパンボンド不織布、ケミカルボンド不織布又はサーマルボンド不織布(特にエアースルー不織布)であることが好ましい。目付としては、15g/m
2以上であることが好ましく、15〜120g/m
2であることがより好ましい。上記フィルターは、本発明の繊維構造物を単独で用いて構成してもよい。或いは、フィルターの骨材として本発明の繊維構造物を用いて他の不織布やネット等と貼り合わせたものでもよく、骨材としてスパンボンド不織布などの補強不織布又は補強ネットを用いて本発明の繊維構造物と貼り合せたものでもよい。また、フィルターの形態は、平面(プレーン)でもよいし、プリーツ加工、ハニカム加工をしても良い。
【0053】
また、上記繊維構造物は、ベビーカーの保護カバーに用いることができる。ベビーカーの保護カバーに用いる場合、上記繊維構造物は、織物、編物、不織布、紙、ネットであることが好ましい。また、ベビーカーの保護カバーに用いる場合、構成繊維の繊度は、1〜10dtexであることが好ましい。目付は15〜80g/m
2であることが好ましい。上記繊維構造物を用いたベビーカー用の保護カバーにより、砂塵飛来有害物質及び微生物が子供の体内に侵入することを防止することができる。
【0054】
上記繊維構造物は、前述した用途以外にも、例えば、農作物用カバー、ペット・家畜用シールド材(保護シート)、ワイピングクロス、内装材、フロアマット、衣料(コート,ジャケットなどのアウター衣料、帽子、手袋等)、水処理用フィルター、吸着材、カーテン等に用いることができる。本発明の砂塵飛来有害物質及び微生物を除去する除去剤、セルロース繊維並びに繊維構造物は、砂塵飛来有害物質及び微生物を吸着して除去する用いることができ、その具体的な用途は特に限定されない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0056】
<セルロース繊維>
セルロース繊維として、ビスコースレーヨン繊維(商品名「コロナ」、ダイワボウレーヨン株式会社製)を用意した。上記レーヨン繊維は結晶性を示し、繊維強度が2.5cN/dtex、一次膨潤度が90〜120%であった。
【0057】
(実施例1)
イオン染色法により金属フタロシアニン誘導体が担持されたレーヨン繊維を作製した。カチオン化剤として、「カチオノンKCN」(一方社油脂工業社製の商品名)を用いた。まず、50g/LのカチオノンKCN(一方社油脂工業社製の商品名)と、15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液との混合液10Lに、上記レーヨン繊維(繊度1.7dtex、繊維長51mm)を浴比1:10の条件で入れ、85℃で45分間反応させた。得られたカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、濃度が0.2%owf(on weight of fiber)のコバルトフタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Co−pc−モノスルホン酸Na)及びコバルトフタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Co−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液(以下において、「濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液」と記す。)10L中に浸漬し、80℃で30分間撹拌してレーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後乾燥し、コバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0058】
(実施例2)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が1%owfのコバルトフタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Co−pc−モノスルホン酸Na)及びコバルトフタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Co−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0059】
(実施例3)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が2%owfのコバルトフタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Co−pc−モノスルホン酸Na)及びコバルトフタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Co−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0060】
(実施例4)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が3.3%owfのコバルトフタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Co−pc−モノスルホン酸Na)及びコバルトフタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Co−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0061】
(実施例5)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が5%owfのコバルトフタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Co−pc−モノスルホン酸Na)及びコバルトフタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Co−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にしてコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0062】
(実施例6)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が0.2%owfの鉄フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−モノスルホン酸Na)及び鉄フタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0063】
(実施例7)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が1%owfの鉄フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−モノスルホン酸Na)及び鉄フタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0064】
(実施例8)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が2%owfの鉄フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−モノスルホン酸Na)及び鉄フタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0065】
(実施例9)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が3.3%owfの鉄フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−モノスルホン酸Na)及び鉄フタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0066】
(実施例10)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が5%owfの鉄フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−モノスルホン酸Na)及び鉄フタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Fe−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0067】
(実施例11)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が0.5%owfの鉄フタロシアニンテトラカルボン酸(Fe−pc−テトラカルボン酸)の水酸化ナトリウム溶液(pH12)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0068】
(実施例12)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が0.5%owfの鉄フタロシアニンオクタカルボン酸(Fe−pc−オクタカルボン酸)の水酸化ナトリウム溶液(pH12)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0069】
(実施例13)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が2%owfの鉄フタロシアニンテトラカルボン酸(Fe−pc−テトラカルボン酸)の水酸化ナトリウム溶液(pH12)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0070】
(実施例14)
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が2%owfの鉄フタロシアニンオクタカルボン酸(Fe−pc−オクタカルボン酸)の水酸化ナトリウム溶液(pH12)を用いた以外は、実施例1と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0071】
(実施例15]
濃度が0.2%owfのコバルトフタロシアニンスルホン酸塩の水溶液に替えて、濃度が2%owfの銅フタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Cu−pc−モノスルホン酸Na)及び銅フタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Cu−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして銅フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0072】
(実施例16 )
カチオン化剤として下記式(VII)に示す「PAS−880」(ニットーボーメディカル社製の商品名)を用いた。10g/LのPAS−880(ニットーボーメディカル社製の商品名)と、10g/Lのソーダ灰水溶液との混合液10Lに、レーヨン繊維(繊度1.7dtex、繊維長51mm)を浴比1:10の条件で入れ、80℃で30分間反応させた。得られたカチオン化レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後、濃度が1%owfのコバルトフタロシアニンモノスルホン酸ナトリウム(Co−pc−モノスルホン酸Na)及びコバルトフタロシアニンジスルホン酸ナトリウム(Co−pc−ジスルホン酸Na)が混在する水溶液10L中に浸漬し、80℃で30分間撹拌してレーヨン繊維を染色した。得られた染色レーヨン繊維を十分に水にて洗浄した後乾燥し、コバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。
【0073】
【化9】
【0074】
(比較例1)
実施例1のカチオン化処理前のレーヨン繊維を比較例1とした。
【0075】
(比較例2)
実施例1と同様に作製したカチオン化レーヨン繊維を比較例2とした。
【0076】
(比較例3)
一次膨潤度が250%の非晶質レーヨン繊維(繊度7.8dtex、繊維長51mm)に、下記式(VIII)で示す銅フタロシアニン系染料(リアクティブブルー21)を3.2質量%染着(担持)させたレーヨン繊維を用い、比較例3とした。
【0077】
【化10】
【0078】
(比較例4)
カチオン化レーヨン繊維に替えて、一次膨潤度が250%の非晶質レーヨン繊維(繊度7.8dtex、繊維長51mm)を用いた以外は、実施例8と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持された非晶質レーヨン繊維を得た。
【0079】
(比較例5)
カチオン化レーヨン繊維に替えて、一次膨潤度が250%の非晶質レーヨン繊維(繊度7.8dtex、繊維長51mm)を用いた以外は、実施例9と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持された非晶質レーヨン繊維を得た。
【0080】
(比較例6)
カチオン化レーヨン繊維に替えて、一次膨潤度が250%の非晶質レーヨン繊維(繊度7.8dtex、繊維長51mm)を用いた以外は、実施例10と同様にして鉄フタロシアニン誘導体が担持された非晶質レーヨン繊維を得た。
【0081】
実施例及び比較例のレーヨン繊維のPAHs吸着性能を下記のように評価し、その結果を下記表1に示した。また、実施例のレーヨン繊維における金属フタロシアニンの担持量を、金属フタロシアニンの仕込み量により算出し、その結果を下記表1及び表2に示した。
【0082】
(PAHs吸着性能評価1)
4環構造を持つピレン(Pyr)を用いて、繊維のPAHsに対する吸着性能を評価した。レーヨン繊維50mgを5nMのピレン水溶液50ml中に浸漬し、37℃で1時間インキュベーションした。インキュベーション後に繊維を蒸留水で洗浄して負圧乾燥させた後、質量比が50:1のメタノール及び25%アンモニア水の混合液20mlを添加し、超音波により、ピレンを抽出した。抽出したピレンを、濃縮後に蛍光検出HPLCにより定量することで、繊維におけるピレンの吸着量を算出し、コントロール(繊維試料なし)に対する吸着率を求めた。吸着率の値が大きいほど、吸着性能に優れることを意味する。
【0083】
(PAHs吸着性能評価2)
3環構造を持つフェナントレン(Phe)を用いて、繊維のPAHsに対する吸着性能を評価した。レーヨン繊維50mgを50nMのフェナントレン水溶液50ml中に浸漬し、37℃で1時間インキュベーションした。インキュベーション後に繊維を蒸留水で洗浄して負圧乾燥させた後、質量比が50:1のメタノール及び25%アンモニア水の混合液20mlを添加し、超音波により、フェナントレンを抽出した。抽出したフェナントレンを、濃縮後に蛍光検出HPLCにより定量することで、繊維におけるフェナントレンの吸着量を算出し、コントロール(繊維試料なし)に対する吸着率を求めた。吸着率の値が大きいほど、吸着性能に優れることを意味する。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
表1から、実施例の金属フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維には、比較例のレーヨン繊維に比べて、同一条件下において約3〜8倍のピレンが吸着されていることが分かった。また、金属フタロシアニン誘導体の担持量が1〜3.3質量%の範囲の場合、ピレンに対する吸着性能がより優れることが分かった。また、表2から、金属フタロシアニン誘導体の担持量が1〜3.3質量%の範囲の場合、フェナントレンに対する吸着性能にも優れることが分かった。なお、ピレンに対する吸着率がフェナントレンに対する吸着率より高かった。
【0087】
また、金属フタロシアニン誘導体を同量(例えば2質量%)担持させた場合、ピレン吸着率が、スルホン酸基(SO
3−)、オクタカルボキシル基(8COO
−)、テトラカルボキシル基(4COO
−)の順番で低くなることが分かった。これは、立体障害による吸着サイトの数の差が要因であると考えられる。また、金属フタロシアニン誘導体における官能基がスルホン酸基である場合のPAHs吸着ピークと、カルボキシル基である場合のPAHs吸着ピークが異なる可能性も示唆された。
【0088】
実施例及び比較例のレーヨン繊維の抗菌性を下記のように評価し、その結果を下記表3に示した。
【0089】
(抗菌性評価)
金沢大学に保管されている黄砂飛来時に能登上空の大気中から採集し、培養し、単離したBacillus菌を用いて、繊維の抗菌性を評価した。まず、前培養として、YPD液体培地(酵母エキス5g/L、ポリペプトン10g/L、グルコース10g/L)10ml中に、2白金耳量のBacillus菌を入れ、30℃で18〜20時間浸透培養を行った。その後、前培養した菌液1mlを、試料繊維50mgを入れたYPD液体培地100ml中に移し、30℃で浸透培養を行った。8時間後と、12時間後と、24時間後に、それぞれ培養液を採集し、吸光光度計を用いて波長600nmで吸光度を測定し、細菌の濃度とし、コントロール(繊維試料なし)の細菌濃度に対する繊維混入溶液中の細菌濃度の比(以下において、単に細菌濃度の比とも記す。)を求めた。細菌濃度の比の値が小さいほど、抗菌性に優れることを意味する。
【0090】
【表3】
【0091】
表3から、実施例の鉄フタロシアニン誘導体又はコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を用いた場合、比較例のレーヨン繊維を用いた場合に比較して、細菌の濃度が顕著に低減していることが分かった。特に、本発明の所定の金属フタロシアニン誘導体を担持させたカチオン化レーヨン繊維が比較例3の銅フタロシアニン系染料を担持させたレーヨン繊維に比べて抗菌性が高くなったのは、フタロシアニンの担持方法が異なる、即ち比較例3はフタロシアニンが会合状態のままでセルロースに担持されているのに対し、本発明はカチオン化セルロースを用いることにより、フタロシアニンがカチオンサイトに分散して結合し、反応サイトが増加するためであると推測される。また、実施例2と実施例7の比較から、金属フタロシアニン誘導体における中心金属が鉄である場合、抗菌性がやや高いことが分かった。また、実施例8、13及び14の比較から、金属フタロシアニン誘導体における官能基がスルホン酸基である場合に抗菌性が最も高く、オクタカルボキシル基、テトラカルボキシル基の順番で低くなっていることが分かった。
【0092】
(実施例17)
実施例2のコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維が20質量%、銅イオン担持レーヨン繊維(繊度1.7dtex、繊維長38mm)が30質量%、ポリエステル繊維(繊度1.6dtex、繊維長44mm)が50質量%で配合された水流交絡不織布(目付50g/m
2)を作製した。
【0093】
(比較例7)
実施例2の繊維に替えて比較例1のレーヨン繊維を用いた以外は、実施例17と同様にして、水流交絡不織布(目付50g/m
2)を作製した。
【0094】
実施例17及び比較例7の水流交絡不織布を用いて、気中のピレン(Pyr)に対する吸着性を、気中実験Iで評価し、その結果を下記表4に示した。
【0095】
[気中実験I]
ピレンを塗布したフラスコをウォーターバスで30℃に加温してガス状ピレンを発生させ、その後ポンプを使ってピレン含有空気を吸引した。試料不織布を流路途中に設置し、ピレン含有空気を通気させ、流路の最後にはポリウレタンフォームを設置した。15L/分のポンプ流量で30分間通気させた後、試料不織布及びポリウレタンフォームにジクロロメタンを添加し、超音波により、ピレンを抽出した。抽出したピレンを、濃縮してろ過した後、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS、島津製作所(株)製のGC−17A/QP−5000)により、ピレンを定量し、繊維及びポリウレタンフォームへのピレンの吸着量を算出した。GC/MSの測定条件は、キャピラリカラム:DB−5MS(20m×0.25mm、J&W社製)、カラム温度:70℃(1分)/70〜300℃(32分)/300℃(5分)であった。試料不織布へのピレンの吸着量及びポリウレタンフォームへのピレンの吸着量の合計を、ピレン発生量合計とし、ピレン発生量合計に対する試料不織布へのピレンの吸着量の比率を、試料不織布(繊維)への吸着率とした。
【0096】
【表4】
【0097】
また、実施例7の繊維の大気中のピレンとフェナントレン(Phe)に対する吸着性を、気中実験IIで評価し、その結果を下記表5に示した。
【0098】
[気中実験II]
ピレンとフェナントレンについて、粒子相とガス相への分配率と気中における繊維への吸着率を調べた。室内空気を、ガラス繊維フィルター(直径55mm)、実施例7の繊維(0.1g)、ポンプ、流量計という順番の流路をたどるように通過させた。なお、ガラス繊維フィルター及び実施例7の繊維によって、それぞれ、粒子状及びガス状PAHsが採集されることになる。室温(20±5℃)下、24時間(ポンプ流量:17.5L/分)PAHsを採集した。その後、直径が5mmになるようにカットしたガラス繊維フィルターに、エタノール10mlとベンゼン20mlを添加し、PAHsを超音波抽出した。実施例7の繊維には、質量比が50:1のメタノール及び25%アンモニア水の混合液20mlを添加し、超音波により、PAHsを抽出した。抽出したPAHsを、濃縮後に蛍光検出HPLCにより定量することで、ピレン及びフェナントレンの吸着量を算出した。
【0099】
【表5】
【0100】
表4の気中実験Iにおける実施例17及び比較例7の不織布によるピレン吸着率を比較した結果、気中においても金属フタロシアニン誘導体を担持したカチオン化レーヨン繊維を含む実施例17の不織布の方がピレンをより吸着しやすく、マスクやエアフィルターなどのフィルター用途として使用できることが確認できた。また、気中実験IIの結果から、実施例7の繊維が気中のピレン及びフェナントレンを吸着することが分かり、フィルター用途として使用できることが確認できた。
【0101】
(実施例18)
<マスクの作製>
実施例17の不織布を、ポリプロピレンスパンボンド不織布の上に載置し、さらに実施例17の不織布の上にポリプロピレンメルトブローン不織布とポリプロピレンスパンボンド不織布をこの順番で重ね合わせて、縦15cm、横15cmに切断し、3段にプリーツ折りして、横方向の端の中央部に耳掛け紐を設け、シート端の四辺をヒートシール加工し、マスクを作製した。このマスクは、外側から内側(口側)に向けて補強不織布(スパンボンド不織布)、精密濾過不織布(メルトブローン不織布)、実施例17の不織布、補強不織布(スパンボンド不織布)の構成となっている。このマスクを装着したところ、息苦しさもなく、装着性も良好であった。なお、このマスクは、実施例17の不織布を含むため、大気中のピレンなどの砂塵飛来有害物質を吸着することが可能である。
【0102】
(実施例19)
<エアフィルターの作製>
レーヨン繊維として、繊度5.5dtexであるビスコースレーヨン繊維(商品名「コロナ」、ダイワボウレーヨン株式会社製)を用いた以外は、実施例2と同様にして、1質量%のコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を得た。得られたコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維(繊度5.5dtex、繊維長51mm)40質量部と、銅イオン担持繊維(繊度7.8dtex、繊維長51mm)20質量部と、ポリエステル繊維(繊度30dtex、繊維長64mm)40質量部を混合し、カード機を用いて開繊した。得られたカードウェブをクロスレイヤーで積層して積層ウェブを作製した。次いで、アクリルバインダーを積層ウェブの両面にスプレーして、120℃で1分間乾燥し、150℃で3分間キュアリングして、アクリルバインダーが固形分で15質量%付着したケミカルボンド不織布を作製した。得られた不織布の目付は60g/m
2であった。得られたケミカルボンド不織布を所定の大きさに裁断して、プラスチック製ユニットにはめ込んで、空気清浄機用プレフィルターを作製した。このフィルターを空気清浄機に装着して使用したところ、十分なフィルター性能を発揮していた。なお、このフィルターは、金属フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を含むため、大気中のピレンなどの砂塵飛来有害物質を吸着することが可能である。
【0103】
(実施例20)
<エアフィルターの作製>
実施例18と同様にして作製した1質量%のコバルトフタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維(繊度5.5dtex、繊維長51mm)30質量部と、銅イオン担持繊維(繊度7.8dtex、繊維長51mm)30質量部と、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が高密度ポリエチレンからなる鞘芯型複合繊維(ダイワボウポリテック(株)製、商品名「NBF(H)」、繊度2.2dtex、繊維長51mm)30質量部を混合し、カード機を用いて開繊した。得られたカードウェブをクロスレイヤーで積層して積層ウェブを作製した。次いで、140℃の熱風加工機で熱処理して、鞘芯型複合繊維の鞘成分を溶融させて、サーマルボンド不織布を作製した。得られたサーマルボンド不織布の目付は60g/m
2であった。この不織布を空気清浄機用エアフィルターとして使用したところ、十分なフィルター性能を発揮していた。なお、このフィルターは、金属フタロシアニン誘導体が担持されたカチオン化レーヨン繊維を含むため、大気中のピレンなどの砂塵飛来有害物質を吸着することが可能である。
【0104】
本発明の砂塵飛来有害物質及び微生物を除去する除去剤(砂塵飛来有害物質及び微生物を除去するセルロース繊維)は、砂塵飛来有害物質であるPAHsに対して優れた吸着性能を有するとともに、砂塵飛来微生物である細菌に対しても優れた抗菌性を有する。よって、本発明の砂塵飛来有害物質及び微生物を除去する除去剤(砂塵飛来有害物質及び微生物を除去するセルロース繊維)は、黄砂エアロゾル由来の有害物質である発ガン性物質に対する吸着作用及び黄砂エアロゾル由来の微生物(細菌)に対する抗菌作用の両方の効果を示す繊維素材として提供することができる。