特許第6057423号(P6057423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057423
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】一液型液状エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/32 20060101AFI20161226BHJP
   H01B 3/40 20060101ALI20161226BHJP
   C08G 59/56 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   C08G59/32
   H01B3/40 J
   H01B3/40 G
   H01B3/40 F
   C08G59/56
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-41358(P2013-41358)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-169373(P2014-169373A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000216243
【氏名又は名称】田岡化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 一仁
(72)【発明者】
【氏名】沼田 有希
【審査官】 岸 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−079983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/32
C08G 59/56
H01B 3/40
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型電子部品または電気部品を気密封止または絶縁封止する一液型エポキシ樹脂組成物であって、
(A)常温で液体のエポキシ樹脂
(B)下記式(1)
【化1】

で表される化合物
(C)ジシアンジアミド
(D)ジシアンジアミド以外の潜在性硬化剤
を含有し、(A)及び(B)の合計量100重量部の内、(B)を5〜20重量部含有し、かつ(A)及び(B)の合計量100重量部に対し、(C)を1〜5重量部、及び(D)を3〜20重量部含有することを特徴とする一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
(D)がエポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
小型電子部品または電気部品がリレーであることを特徴とする請求項1または2記載の一液型エポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リレーを気密封止又は絶縁封止するための一液型液状エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リレーは、エレクトロニクス産業の発展とともに、その生産量も順調に伸びており、通信機器、OA機器、家電機器、自販機等使用される分野も多岐にわたっている。特にプリント配線基盤に搭載されるリレーが増加しつつある。その必要特性として、半田フラックスの侵入防止、部品の溶剤洗浄が可能であることあるいは半田リフロー処理後に気密性を保持できること等が挙げられ、樹脂等による完全気密封止型のリレーが多くなってきており、その信頼性要求は、ますます厳しくなっている。
【0003】
この様に、リレーとして、その気密性が強く要求されることに伴い、優れた封止材料が必要とされており、従来から、この様な目的のための封止樹脂としては、エポキシ樹脂が用いられていた。エポキシ樹脂組成物としては、ポリアミドアミン、酸無水物等の硬化剤とエポキシ樹脂とを使用直前に混合して使ういわゆる二液型エポキシ樹脂組成物と、潜在性硬化剤として、ジシアンジアミド等を予めエポキシ樹脂組成物と混合しておく、いわゆる一液型液状エポキシ樹脂組成物がある。
【0004】
一般に、二液型エポキシ樹脂組成物の欠点として、配合時の計量ミスによる硬化不良や配合後のポットライフが短い等が挙げられる。また、硬化剤にポリアミドアミン、脂肪族アミン等を用いた場合、硬化物の耐熱性が低く、封止後、半田槽を通過後の気密不良が生じることが多い。また、同様に酸無水物を用いた場合は、硬化温度を高くしなければならないという欠点があった。従って、最近では材料ロスが少なく生産性の高い一液型液状エポキシ樹脂組成物に移行している。
【0005】
従来から、一液型液状エポキシ樹脂組成物は、その電気特性や耐熱性の良好なことから電気、電子部品の生産にとっては必須の材料であり、接着剤、封止剤として使用されている。また、電気、電子部品の構成部材は、端子材料、コイル、磁石等以外は、プラスチック材料が主体であるため、硬化温度は120℃以下が望まれている。
【0006】
また、近年になって、電気、電子部品の小型化、軽量化や高密度化に伴い、各種部品の接着部分や封止部分における隙間の間隔が数μm以下と非常に狭くなってきている。数μm以下の極めて狭い隙間においては、毛細管現象により液状エポキシ樹脂と硬化剤との分離が発生し、この硬化剤と分離した液状エポキシ樹脂が可動部や接点部等の場所にまで入り込み、接点不良を始めとした特性不良を引き起こすという問題が発生している。
【0007】
上記問題を解決する手段として、以前、本願出願人らは隙間への流れ込み距離が改善された一液型液状エポキシ樹脂組成物を提案した(特許文献1)。この提案した方法によれば、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間への流れ込みに対し大幅な改善が見られたものの、隙間へ流れ込んだエポキシ樹脂組成物は前述の通り硬化剤と分離しているため完全に硬化せず、この未硬化のエポキシ樹脂が特性不良を引き起こす場合があった。
【0008】
【特許文献1】特開2010−047717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、リレーのような小型電子部品または電気部品を気密封止又は絶縁封止をする場合において、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間に流入しても、その隙間で完全硬化が可能で、かつ保存安定性の良好な一液性エポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の一液型液状エポキシ樹脂組成物について鋭意検討した結果、
(A)常温で液体のエポキシ樹脂
(B)下記式(1)
【0011】
【化1】

で表される化合物
(C)ジシアンジアミド
(D)ジシアンジアミド以外の潜在性硬化剤
を含有し、(A)及び(B)の合計量100重量部の内、(B)を5〜20重量部含有することを特徴とする一液型エポキシ樹脂組成物とすることにより、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間に流入してもその隙間で完全硬化が可能な一液型液状エポキシ樹脂組成物が提供可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0012】
本発明によればリレーのような小型電子部品または電気部品を気密封止又は絶縁封止をする場合において、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間に流入しても、その隙間で完全硬化が可能で、かつ保存安定性の良好な一液性エポキシ樹脂組成物が提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において用いられる(A)常温で液体のエポキシ樹脂としては、従来から一液型エポキシ樹脂組成物に使用されている、常温で液体のエポキシ化合物であれば、特に限定なく使用することが出来る。常温で固体のエポキシ樹脂を使用した場合、本願記載のエポキシ樹脂組成物とした場合に使用時加熱等で液状化する必要があり、好ましくない。本発明で用いられる常温で液体のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、カテコール、レゾルシン等の多価フェノール、またはグリセリンやポリエチレングリコールのような多価アルコールとエピクロルヒドリンを反応させて得られるポリグリシジルエーテル、あるいはp−オキシ安息香酸のようなヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル、あるいはフタル酸、テレフタル酸のようなポリカルボン酸から得られるポリグリシジルエステル、あるいは4,4−ジアミノジフェニルメタンやm−アミノフェノールなどから得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、さらにはフェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でもビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好適に用いられる。これらのエポキシ樹脂は単独あるいは混合して使用しても差し支えない。
【0014】
本発明において用いられる(B)下記式(1)
【0015】
【化2】

で表される化合物(以下TG3DASと称する)は一般に市販されているグレードのものが使用可能である。具体的には、小西化学工業(株)製「TG3DAS」、三井化学(株)製「TG3DAS」等が例示される。また、(B)TG3DASの使用量としては、(A)常温で液体のエポキシ樹脂と(B)TG3DASの合計量を100重量部とした際に、(B)TG3DASを5〜20重量部使用し、好ましくは10〜20重量部使用する。使用量が5重量部より少ない場合、数μm以下の極めて狭い間隔の隙間に流入した際に、流入したエポキシ樹脂組成物が硬化せず本願効果を発揮しない。20重量部より使用量が多い場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が急増し、エポキシ樹脂組成物が対象物に塗布しにくくなるといった使用上の問題が発現する。
【0016】
本発明において用いられる(C)ジシアンジアミドは、一般的に入手可能なものが利用可能であり、この中でも事前に粉砕を行い、#150メッシュパスしたものが好ましい。(C)ジシアンジアミドを添加しない場合は金属との接着性が低下し、小型電子部品または電気部品を気密封止または絶縁封止することが出来なくなる。また、その使用量は特に限定されないが、(A)常温で液体のエポキシ樹脂及び(B)TG3DASの合計量100重量部に対し、通常1〜10重量部、好ましくは1〜5重量部使用される。1重量部より少ない場合金属への接着性が低下し、また10重量部より多い場合、樹脂への接着性が低下し、1液型エポキシ樹脂組成物としての実用性が乏しくなる。
【0017】
本発明において用いられる(D)ジシアンジアミド以外の潜在性硬化剤としては、例えば、エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物、ヒドラジド化合物等が挙げられる。これらの内、エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物、変性脂肪族ポリアミン化合物が好適に用いられる。このような化合物の具体例としては、エポキシ樹脂イミダゾールアダクト化合物としては、例えば、味の素テクノファイン(株)製アミキュアPN−23、アミキュアPN−R、エアープロダクトジャパン(株)製サンマイドLH−210等が挙げられ、エポキシ樹脂アミンアダクト化合物としては、例えば、味の素テクノファイン(株)製アミキュアMY−24、アミキュアMY−Rや特開昭和57−100127号公報に示されたアダクト系化合物等が挙げられる。変性脂肪族ポリアミン化合物としては、例えば、(株)T&K TOKA製フジキュアーFXE−1000、フジキュアー FXR−1121等が挙げられる。また、(D)ジシアンジアミド以外の潜在性硬化剤の使用量は、(A)常温で液体のエポキシ樹脂及び(B)TG3DASの合計量100重量部に対し、通常、0.5重量部から30重量部使用し、好ましくは3重量部から20重量部使用する。(D)ジシアンジアミド以外の硬化剤を配合しない場合120℃以下では硬化しないため小型電子部品または電気部品を気密封止または絶縁封止するために使用できなくなり、30重量部より多い場合は接着性が低下し保存安定性が悪化する。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤、カップリング剤、着色剤等を配合することができる。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラスフィラー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミナ等が挙げられ、カップリング剤としては、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられ、着色剤としては、例えばカーボンブラック、酸化チタン等が挙げられる。
【0019】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じてチキソトロピー剤を配合することができる。チキソトロピー剤としては、例えば、日本アエロジル(株)製アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、楠本化成(株)製ディスパロンC−308、ディスパロン4110、ディスパロン4300、ディスパロン6500、ディスパロン6600等が挙げられる。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製方法は、通常のエポキシ樹脂組成物の調製方法と同様に一般的な撹拌混合装置と混合条件が適用される。使用される装置としては、ミキシングロール、ディゾルバ、プラネタリミキサ、ニーダ、押出機等である。混合条件としてはエポキシ樹脂等を溶解および/または低粘度化し、撹拌混合効率を向上させるために加熱してもよい。また、摩擦発熱、反応発熱等を除去するために必要に応じて冷却してもよい。撹拌混合の時問は必要により定めればよく、特に制約されることはない。
【0021】
こうして製造されたエポキシ樹脂組成物の粘度は特に限定されないが、25℃における粘度が10〜150Pa・sであることが好ましい。10Pa・s以下や150Pa・s以上の場合、エポキシ樹脂組成物を対象物に塗布する際に、流れすぎて塗布が困難となったり、粘性が高すぎて塗布が困難となったりといった使用上の問題が発現する恐れがある。
【実施例】
【0022】
<粘度の測定>
後述の各実施例及び比較例で調整した各エポキシ樹脂組成物について、E型粘度計(東京計器(株)製)を用いて、測定温度25℃における粘度を測定した。
【0023】
<流れ込み距離の測定方法>
1.2枚のスライドガラス(縦26mm×横76mm×厚み1.5mm )の間に厚み9μmのスペーサーを相対する26mmの2辺に挟み、その両端をスライドガラスの上からクリップでとめる。
2.1.の2枚のスライドガラスの76mmの辺に均等に実施例1〜4、比較例1〜4で調製した一液型エポキシ樹脂組成物を塗布し、100℃で60分硬化させた後、隙間に入り込んだ距離の最大値を測定した。流れ込み距離の評価基準は下記の通り。
流れ込み距離(mm):
×:5.0を超える、○:3.0〜5.0、◎:3.0未満
【0024】
<流れ込み部における硬化度の評価>
上述の「流れ込み距離の測定方法」で測定したサンプルの流れ込み部分において、未硬化部の有無について目視にて評価した。硬化度の評価基準は以下の通り。
×:未硬化部あり、○殆ど未硬化部が無い、◎:未硬化部が全く無い
【0025】
<実施例1>
(A)常温で液体のエポキシ樹脂としてD.E.R.331J(ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ダウ・ケミカル(株)製、)50重量部及びjER807(ビスフェノールF型エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン(株)製)45重量部、(B)TG3DAS(小西化学株式会社製)5重量部(C)ジシアンジアミド2.5重量部、(D)ジシアンジアミド以外の潜在性硬化剤としてフジキュアーFXR−1121(変性脂環式ポリアミン化合物:(株) T&K TOKA社製)8重量部を混合した後、ミキシングロールを使って混練し、一液型液状エポキシ樹脂組成物を調製した。これらの一液型液状エポキシ樹脂組成物について、粘度、流れ込み距離及び流れ込み部における硬化度を測定し、評価した結果を表1に示す。
【0026】
<実施例2〜5および比較例1〜3>
(A)常温で液体のエポキシ樹脂及び(B)TG3DASの配合比を表1及び表2に示す通り変更する以外は実施例1と同様に一液型液状エポキシ樹脂組成物を調整し粘度、流れ込み距離及び流れ込み部における硬化度を測定し、評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0027】
<比較例4>
特開2010−047717号公報、実施例1に記載される一液型エポキシ樹脂組成物を別途調整し、粘度、流れ込み距離及び流れ込み部における硬化度を測定し、評価した。結果を表2に示す。なお、比較例4で使用したエポキシ樹脂等の略称の意味は下記の通り。
jER604:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン:ジャパンエポキシレジン(株)製
サンマイドLH−210:イミダゾールアダクト型硬化剤:エアープロダクトジャパン社製






【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
上記表1及び2に示す通り、(A)常温で液体のエポキシ樹脂と(B)TG3DASの合計量を100重量部とした際に、(B)TG3DASを5〜20重量部有する一液型液状エポキシ樹脂組成物は比較例4の従来公知の流れ込みを改善させた一液型液状エポキシ樹脂組成物と同等の流れ込み性能を有しながら、流れ込み部についても硬化が可能なエポキシ樹脂組成物となった。また、比較例2に示す通り、TG3DASの配合量が上述の基準で20重量部を超えた場合、急激に粘度が増加し、エポキシ樹脂組成物の使用性に問題が生じる恐れがあることが判明した。