(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記前分散処理工程で、前記混合溶液の温度を一定に維持しつつ、前記水と前記有機溶媒との混合比と前記前分散処理工程を行う時間との少なくとも一方を制御することによって、前記エッチング工程で形成される前記シリコンナノ粒子の粒径を制御することを特徴とする請求項1記載のシリコンナノ粒子の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーに対する関心が急速に高まっている。この中で、金属や半導体をナノメートルオーダーにまで微細化したものは量子ドットと呼ばれており、粒径によってバンドギャップエネルギーが増減し、光学的特性、電気的特性、磁気的特性、化学的特性などが変化する。また、量子ドットは、バルク結晶にはない物性を示すことや、微小サイズの粒子構造を持つことから、様々な分野への応用が期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
その中でもシリコン(Si)の量子ドットであるシリコンナノ粒子は、資源の豊富さや無毒性などの観点で、工業、医学、衣装、化粧、装飾の幅広い分野で応用されることが期待されており、現在、ディスプレイ、照明器具、太陽電池などの様々な分野で利用への期待が益々高まってきている。シリコンナノ粒子を利用した応用製品が使用されるようになれば莫大な効果が想定され、地球環境問題の解決に繋がることで社会的な波及効果も高い。
【0004】
シリコンナノ粒子の製造方法としては、シリコンナノ粒子の蛍光波長を正確に制御するために、現在、PVDやCVDなどのドライプロセスで製造することが主流となっている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るシリコンナノ粒子の製造方法の各工程を説明する模式的な説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るシリコンナノ粒子の製造方法のエッチング工程で、シリコン粒子の粒径が小さくなっていくことを説明する説明図である
【
図3】実験例1で、シリコンナノ粒子の蛍光波長をフォトルミネッセンスで発光特性として検出することを説明する斜視図である。
【
図4】実験例1で、前分散処理時間をパラメータとして変化させて製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果を示すグラフ図である。
【
図5】実験例2で、前分散処理時間を0分として製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果をヒストグラムで示すグラフ図である。
【
図6】実験例2で、前分散処理時間を15分として製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果をヒストグラムで示すグラフ図である。
【
図7】実験例2で、前分散処理時間を30分として製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果をヒストグラムで示すグラフ図である。
【
図8】実験例2で、前分散処理時間を45分として製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果をヒストグラムで示すグラフ図である。
【
図9】実験例2で、前分散処理時間を60分として製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果をヒストグラムで示すグラフ図である。
【
図10】実験例2で、前分散処理時間を75分として製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果をヒストグラムで示すグラフ図である。
【
図11】実験例2で、前分散処理時間を90分として製造したシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果をヒストグラムで示すグラフ図である。
【
図12】実験例3で、水とメタノールとの混合比をパラメータとして変化させたときのシリコンナノ粒子の蛍光波長の測定結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、すでに説明したものと同一または類似の構成要素には同一または類似の符号を付し、その詳細な説明を適宜省略している。
【0013】
また、図面は模式的なものであり、寸法比などは現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法比などは以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0014】
また、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための例示であって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものではない。この発明の実施の形態は、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0015】
また、以下の説明で「水」は「純水」を意味する。また、有機溶媒としてメタノールを用いる例で説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係るシリコンナノ粒子の製造方法の各工程を説明する模式的な側面図であり、
図2は、本実施形態でのエッチング工程を説明する説明図である。本実施形態に係るシリコンナノ粒子の製造方法は、化学エッチング法によりシリコン粉末からシリコンナノ粒子を製造する方法である。
【0017】
本実施形態では、まず、水とメタノール(有機溶媒)との混合溶液10を作成する。そして、この混合溶液10にシリコン粉末を投入する投入工程を行う(
図1の(a)参照)。
【0018】
更に、シリコン粉末11を投入した混合溶液10に、所定出力で所定時間にわたって超音波振動Sを与えることにより、シリコン粉末11を構成するシリコン粒子を混合溶液内で予め分散させる前分散処理工程を行う(
図1の(b)参照)。この前分散処理工程によって、シリコン粉末11が分散されてなるシリコン粒子13が多数発生する(
図1の(c)参照)。本実施形態では、この前分散処理工程で、混合溶液10の温度を一定に維持しつつ、主に、水とメタノールとの混合比と前分散処理工程を行う時間との少なくとも一方を制御することによって、後述のエッチング工程で形成されるシリコンナノ粒子の粒径を制御する。
【0019】
なお、
図1では模式的にシリコン粉末11および個々のシリコン粒子13を描いているが、シリコン粒子13は、複数のシリコン粒子同士が凝集しているものも含む概念である。また、シリコン粉末11からシリコン粒子13への分散度は、超音波振動Sの出力、超音波振動Sを与える時間、混合溶液10の温度、混合溶液10の圧力、などの諸条件に影響される。
【0020】
前分散処理工程後、化学エッチングによりシリコン粒子13の粒径を細径化させることでシリコンナノ粒子15とするエッチング工程を行う。このエッチング工程では、前分散処理工程後の混合溶液に、フッ化水素酸と硝酸とを混合させた混合酸液12を加え(
図1の(c)参照)、超音波振動Sを与えながらシリコン粒子13の径を徐々に縮小させる(
図1の(d)参照)。
【0021】
なお、エッチング工程で、シリコン粒子13の径が徐々に縮小されていく原理を
図2に示す。シリコン粒子13の表面が硝酸で酸化され、この結果、シリコン粒子13の表面に酸化膜13mが形成される。そしてこの酸化膜13mはフッ化水素酸によって除去される。これが繰り返されるこによってシリコンナノ粒子(Si−NPs)15が形成される(
図1の(e)参照)。
【0022】
そして、シリコンナノ粒子15を、薬包紙あるいはメンブレンフィルターを用いて混合溶液10から回収し、乾燥させることで、所定粒径のシリコンナノ粒子15の粉体を得る。
【0023】
以上説明したように、本実施形態では、シリコンナノ粒子を製造する際、水とメタノール(有機溶媒)とを混合させた混合溶液10にシリコン粉末11を投入し、シリコン粉末11を構成するシリコン粒子12を混合溶液内で予め分散させる前分散処理を行っており、その後、シリコン粒子12をエッチングして所定の粒径にしている。従って、シリコン粒子12をエッチングする段階ではシリコン粒子12の凝集が大きく回避されている。よって、製造するシリコンナノ粒子15の粒径を充分に制御することができるので、意図した波長の蛍光を発するシリコンナノ粒子15を精度良く効率的に製造することができる。
【0024】
また、前分散処理工程で、混合溶液10の温度を一定に維持しつつ、主に、水とメタノールとの混合比と前分散処理工程を行う時間との少なくとも一方を制御することによって、シリコンナノ粒子15の粒径を制御している。従って、シリコンナノ粒子15の粒径制御がより高められている。なお、前分散処理時間の長さに応じてエッチング時間を調整することで粒径を制御することも可能である。
【0025】
また、前分散処理工程では、混合溶液10に超音波振動Sを与えることでシリコン粒子13を分散させている。従って、簡易な手法でシリコン粒子13の前分散処理を行うことができる。
【0026】
また、有機溶媒としてメタノールを用いている。従って、安価な溶媒で効率良く前分散させることができる。
【0027】
なお、本実施形態において、前分散処理工程では超音波振動Sによりシリコン粒子13を分散させたが、スターラ等の他の手法でシリコン粒子13を分散させてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、有機溶媒としてメタノールを用いたが、エタノール等の他のアルコールや、エーテル、アセトン、トルエンなどの他の溶媒を用いてもよい。
【0029】
(実験例1)
本発明者らは、前分散処理時間をパラメータとして変化させ、室温で、シリコンナノ粒子(Si−NPs)の蛍光の波長を検出する実験を行った。
【0030】
本実験例では、原料であるシリコン粉末としては100mgのシリコン粒子(粒径100nm、シリコン純度98%以上)を用いた。前分散処理時間としては、0、15、30、45、60、75、90(単位は何れも「分」)の各時間で行った。エッチング時間は全て15分とした。
【0031】
投入工程でシリコン粉末を投入する混合溶液としては、何れの前分散処理時間であっても、水5mlとメタノール5mlとを混合させたもの(溶液量は10ml)をテフロン(デユポン社の登録商標)製のビーカーに入れて用いた。
【0032】
エッチング工程で使用する混合酸液12としては、何れの前分散処理時間であってもフッ化水素酸20mlと硝酸2mlとを混合させたもの(溶液量は22ml)を用いた。エッチング時間は何れも15分とした。
【0033】
シリコンナノ粒子の発光特性は、フォトルミネッセンス(PhotoLuminescence:PL)により測定した。
図3は、本実験例で、シリコンナノ粒子の蛍光波長をフォトルミネッセンスで検出することを説明する斜視図である。
【0034】
本実験例では、キセノンランプ20に365nmの光学帯域通過フィルター(図示せず)を装着した。そして、キセノンランプ20(朝日分光製、LAX−100)から発せられて光学帯域通過フィルターを通過した光を励起光22として、製造したシリコンナノ粒子15に照射し、シリコンナノ粒子15の発光(蛍光)の波長を検出器24で検出した。検出器24としてはマルチチャンネル検出器(浜松ホトニクス製、C8808−01)を用いた。その際、室温で、加算平均回数20回、繰り返し計測10回、露光時間19msとした。測定結果を
図4に示す。なお、シリコンナノ粒子からの発光(蛍光)は肉眼で観察できるほど高輝度であった。
【0035】
図4から判るように、前分散処理時間の長さと発光のピーク波長との関係は、グラフ上で右下がりの一次関数で示される関係となっていた。
【0036】
本実験例により、前分散処理時間を制御することで、シリコンナノ粒子の発光波長を良好に制御できること、すなわち、シリコンナノ粒子の粒径を良好に制御できることが判った。
【0037】
また、発光波長は550〜730nmの範囲であり、緑色から赤色までの可視領域でのマルチカラー発光を実現できることが確認された。
【0038】
(実験例2)
また、本発明者らは、0、15、30、45、60、75、90(単位は何れも「分」)の各前分散処理時間について、シリコンナノ粒子の粒度分布として、シリコンナノ粒子の粒径と体積比との関係を、メックス製ゼータサイザーNano-ZSを使用して求めた。原料であるシリコン粉末としては、実験例1と同様、100mgのシリコン粒子(粒径100nm、シリコン純度98%以上)を用いた。投入工程でシリコン粉末を投入する混合溶液としては、何れの前分散処理時間であっても水10mlとメタノール10mlとを混合させたもの(溶液量は20ml)を用いた。
【0039】
測定結果を
図5〜
図11に示す。
図5〜
図11から判るように、前分散処理時間が長いほど、シリコン粉末の分散(シリコン粒子の分散)がなされている。
【0040】
また、
図5から判るように、前分散処理を開始する前、すなわち前分散処理時間が0分の場合では、シリコン粉末の粒径は2000nm程度であることが確認された。
【0041】
また、
図11から判るように、前分散処理時間を90分としたときには、10〜20nmの粒径のシリコン粒子が多量に存在していた。
【0042】
(実験例3)
本発明者らは、投入工程でシリコン粉末を投入する混合溶液について、水(H
2O)とメタノール(CH
3OH)との混合比をパラメータとして変化させ、シリコンナノ粒子(Si−NPs)の蛍光の波長を検出する実験を行った。本実験例では、前分散処理時間を全て同じとし、混合溶液の温度を一定とした。原料であるシリコン粉末、エッチング工程で使用する混合酸液12、および、シリコンナノ粒子の発光(蛍光)の測定方法、については実験例1と同じ条件とした。測定結果を
図12に示す。
【0043】
図12から判るように、水:メタノールの混合比と発光のピーク波長との関係は、グラフ上で右下がりの一次関数で示される関係となっていた。このようにメタノールの割合が高いほうが、発光のピーク波長が短い、すなわちシリコンナノ粒子の粒径が小さい、という結果になったのは、水に比べてメタノールのほうがシリコン粒子の分散性が良いのでエッチングが促進されたことが原因と考えられる。なお、水:メタノールが1:9の場合については、化学エッチングによって原料であるシリコン粒子が完全に溶けきってしまったため、発光(蛍光)を観測することができなかった。
【0044】
本実験例により、水とメタノールとの混合比を制御することで、シリコンナノ粒子の発光波長を良好に制御できること、すなわち、シリコンナノ粒子の粒径を良好に制御できることが判った。
【0045】
また、発光波長は550〜690nmの範囲であり、緑色から赤色までの可視領域でのマルチカラー発光を実現できることが確認された。