(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057429
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】溶液の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20161226BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20161226BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20161226BHJP
B01J 49/50 20170101ALI20161226BHJP
【FI】
C02F1/44 K
B01D61/02 500
C02F1/44 A
C02F1/44 D
C02F1/42 A
C02F1/42 C
C02F1/42 B
B01J49/00 160
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-136198(P2013-136198)
(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公開番号】特開2015-9194(P2015-9194A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】田村 典敏
【審査官】
池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−253115(JP,A)
【文献】
特開2006−305541(JP,A)
【文献】
特許第4766719(JP,B2)
【文献】
特開昭51−008755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00−71/82
B01J 39/00−49/02
C02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオンと陰イオンとを含む溶液を逆浸透膜に通過させて前記陽イオンと陰イオンとを含む濃縮水と純水とに分離し、
該濃縮水と両性イオン交換樹脂を再生させる前記純水とを両性イオン交換樹脂に交互に通過させることで、前記濃縮水を、陰イオン濃度が高く陽イオン濃度が低い第1の溶液と、陽イオン濃度が高く陰イオン濃度が低い第2の溶液とに分離することを特徴とする溶液の処理方法。
【請求項2】
前記陽イオンはCa2+であり、前記陰イオンはSO42-であることを特徴とする請求項1に記載の溶液の処理方法。
【請求項3】
前記陽イオンと陰イオンとを含む溶液は、産業排水又は最終処分場の浸出水もしくは一次処理水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶液の処理方法。
【請求項4】
陽イオンと陰イオンとを含む溶液を前記陽イオンと陰イオンとを含む濃縮水と純水とに分離する逆浸透膜と、
該逆浸透膜で生じた濃縮水と両性イオン交換樹脂を再生させる前記純水とを交互に通過させることで、前記濃縮水を、陰イオン濃度が高く陽イオン濃度が低い第1の溶液と、陽イオン濃度が高く陰イオン濃度が低い第2の溶液とに分離する両性イオン交換樹脂とを備えることを特徴とする溶液の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の処理方法及び処理装置に関し、特に、産業排水や最終処分場の浸出水等を処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみなどを焼却した際に発生する焼却灰は、最終処分場の枯渇の虞に鑑み、近年、セメント原料としてリサイクルされている。都市ごみ焼却灰のうち、気体と共に運ばれて集塵装置で回収される飛灰は、10〜20%の塩素分を含むため水洗脱塩処理が必要である。水洗脱塩処理で発生する産業排水には、カルシウムイオン(Ca
2+)と硫酸イオン(SO
42-)とが含まれるため、排水処理設備ではスケール(CaSO
4)の発生を防止する必要がある。また、最終処分場の浸出水(以下「浸出水」という。)及び最終処分場の一次処理水(以下「一次処理水」という。)にも、カルシウムイオンと硫酸イオンとが含まれるため、浸出水等処理設備でもスケールの発生を防止する必要がある。
【0003】
ここで、一次処理水W2とは、例えば、
図3に示すように、最終処分場11の浸出水W1を凝集沈殿装置12に供給し、凝集剤等を用いて浸出水W1の重金属類等を沈澱させ、次に生物処理装置13に供給し、活性汚泥法、生物学的消化脱窒素法等を用いて浸出水W1のBODを低下させ、砂ろ過器14で浮遊する粒子を除去し、活性炭吸着塔15で残留性有機汚染物質を除去したものをいう。
【0004】
そこで、特許文献1には、カルシウムと硫酸とを含む溶液を逆浸透膜に通過させてカルシウムと硫酸とを含む濃縮水と純水とに分離し、純水を放流し、濃縮水に炭酸ソーダ(Na
2CO
3)を添加して炭酸カルシウム(CaCO
3)の結晶を析出させ、炭酸カルシウムの結晶を含むスラリーを濃縮し、濃縮後のスラリーを乾燥させる廃水の処理方法が記載されている。
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の処理方法では、炭酸ソーダの添加により廃水処理費用が高額となり、また、カルシウム除去で大量のケーキが発生するため、発生したケーキを最終処分場に埋め立てたり、その処理を外部委託する必要があり、外部委託した場合には高額の処理費用が掛かる。
【0006】
そこで、特許文献2には、浸出水を両性イオン交換樹脂でCa
2+含有水とSO
42-含有水とに分離し、各々別々に処理する浸出水の処理方法が記載されている。この方法によれば、炭酸ソーダを使用せずに排水処理工程でスケールが発生することを防止しながら排水を処理できるため、炭酸ソーダの添加に要する費用を削減することができると共に、ケーキの生成量を減らすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−305541号公報
【特許文献2】特許第4766719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献2に記載の処理方法では、多量の浸出水を処理するためには両性イオン交換樹脂の大型化が避けられず、装置コスト及び運転コストの面で改善の余地があった。また、両性イオン交換樹脂の再生に多量の工業用水を必要とするため、工業用水の確保が難しい地域等では実用化が困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、装置コスト及び運転コストを低く抑えることができると共に、工業用水の確保が困難な地域等でも実現可能な溶液の処理方法及び処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の溶液の処理方法は、
陽イオンと陰イオンとを含む溶液を逆浸透膜に通過させて
前記陽イオンと陰イオンとを含む濃縮水と純水とに分離し、該濃縮水
と両性イオン交換樹脂を再生させる前記純水とを両性イオン交換樹脂に
交互に通過させること
で、前記濃縮水を、陰イオン濃度が高く陽イオン濃度が低い第1の溶液と、陽イオン濃度が高く陰イオン濃度が低い第2の溶液とに分離することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、溶液全量ではなく濃縮水を両性イオン交換樹脂に通過させるため、両性イオン交換樹脂の処理水量を大幅に減らすことで両性イオン交換樹脂を小型化することができ、装置コスト及び運転コストを低減できる。
また、両性イオン交換樹脂の再生に用いる工業用水を不要とすることで、工業用水の確保が困難な地域でも対応可能となる。
【0013】
また、前記
陽イオンをCa2+とし、前記陰イオンをSO42-とすることができる。これによって、CaSO
4によるスケールトラブルを回避することができる。
【0014】
さらに、前記
陽イオンと陰イオンとを含む溶液を、産業排水又は最終処分場の浸出水もしくは一次処理水とすることができ、これらを低コストで処理することができる。
【0015】
また、本発明の溶液の処理装置は、
陽イオンと陰イオンとを含む溶液を
前記陽イオンと陰イオンとを含む濃縮水と純水とに分離する逆浸透膜と、該逆浸透膜で生じた濃縮水
と両性イオン交換樹脂を再生させる前記純水とを交互に通過させる
ことで、前記濃縮水を、陰イオン濃度が高く陽イオン濃度が低い第1の溶液と、陽イオン濃度が高く陰イオン濃度が低い第2の溶液とに分離する両性イオン交換樹脂とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、溶液全量ではなく濃縮水を両性イオン交換樹脂に通過させることで両性イオン交換樹脂の処理水量を大幅に低減し、両性イオン交換樹脂の小型化により溶液の処理コストを低減することができる。
また、再生に用いる工業用水を不要とし、工業用水の確保が困難な地域でも対応することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、装置コスト及び運転コストを低く抑え、工業用水の確保が困難な地域等でも実施可能な溶液の処理方法及び処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る溶液の処理装置の一実施の形態を説明するための全体構成図である。
【
図2】
図1に示す溶液の処理装置に用いられる両性イオン交換樹脂の運転例を示すグラフである。
【
図3】浸出水を一次処理水にする装置の一例を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、一次処理水W2を処理する場合を例にとって説明する。
【0021】
図1は、本発明を適用した一次処理水の処理システム1を示し、この処理システム1は、一次処理水W2をCa
2+とSO
42-とを含む濃縮水Cと純水Pとに分離する逆浸透膜2と、逆浸透膜2で分離された濃縮水Cとイオン交換を行う両性イオン交換樹脂3と、両性イオン交換樹脂3の運転状況を監視するモニタ槽4と、両性イオン交換樹脂3で分離されたCa
2+濃度が低くSO
42-濃度が高い第1の溶液L1を濃縮する濃縮装置5と、濃縮装置5で濃縮して得られたスラリーSを乾燥させる乾燥装置6とを備える。
【0022】
逆浸透膜2は、水を通過させるがイオンや塩類等、水以外の不純物を通過させない性質を有する膜であって、海水の淡水化等に実用されている。この逆浸透膜2で一次処理水W2を純水Pと濃縮水Cとに分離する。
【0023】
両性イオン交換樹脂3は、逆浸透膜2から排出される濃縮水Cに含まれるCa
2+とSO
42-とを分離するために備えられ、例えば、母体を架橋ポリスチレン等とし、同一官能基鎖中に四級アンモニウム基とカルボン酸基等を持たせて、陽イオン陰イオンの両方とイオン交換をさせる機能を持たせた樹脂である。三菱化学株式会社製の両性イオン交換樹脂、ダイヤイオン(登録商標)、AMP03等を用いることができる。この両性イオン交換樹脂3は、水溶液中の電解質と非電解質の分離を行うことができると共に、電解質の相互分離を行うこともできる。
【0024】
濃縮装置5は、第1の溶液L1を濃縮するために備えられ、例えば、間接加熱によって液体を沸騰蒸発させる装置や、減圧により液体を蒸留する装置が用いられる。
【0025】
乾燥装置6は、濃縮装置5から排出されたスラリーSを乾燥させるために設けられ、例えば、ドラムドライヤー、スプレードライヤー、晶析装置等が用いられる。
【0026】
次に、上記構成を有する一次処理水の処理システム1の動作について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0027】
一次処理水W2を逆浸透膜2に通過させ、Ca
2+とSO
42-とを含む濃縮水Cと純水Pとに分離した後、濃縮水Cを両性イオン交換樹脂3に通過させ、イオン交換により濃縮水CをCa
2+濃度が低くSO
42-濃度が高い第1の溶液L1と、Ca
2+濃度が高くSO
42-濃度が低い第2の溶液L2とに分離する。また、逆浸透膜2からの純水Pの一部を両性イオン交換樹脂3の再生に用い、残りを放流する。例えば、一次処理水W2の水量1Qに対して0.9Qの水量の純水Pが得られ、0.1Qの水量の濃縮水Cが得られる。また、逆浸透膜2からの純水Pの一部(水量0.3Q)を両性イオン交換樹脂3の再生に用い、残り(水量0.6Q)を放流する。
【0028】
図2は、両性イオン交換樹脂3の運転例を示すグラフである。同図は、両性イオン交換樹脂3として、上述の三菱化学株式会社製のダイヤイオンAMP03を用い、一次処理水W2、及び再生水として逆浸透膜2からの純水Pを交互に両性イオン交換樹脂3に導入した場合に両性イオン交換樹脂3から排出された溶液の各成分の濃度を示している。このグラフにより、両性イオン交換樹脂3によって、一次処理水W2がCa
2+濃度が低くSO
42-濃度の高い第1の溶液L1と、Ca
2+濃度が高くSO
42-濃度の低い第2の溶液L2とに分離されていることが判る。
【0029】
モニタ槽4では、上記両性イオン交換樹脂3の運転状況を監視し、第1の溶液L1と第2の溶液L2との切り換えを行う。すなわち、両性イオン交換樹脂3から排出される溶液のCa
2+濃度やCl
-濃度、CODの値に基づき、排出される溶液を第1の溶液L1と第2の溶液L2とに分離する。例えば、第1の溶液L1と第2の溶液L2の水量は、前述のように一次処理水W2の水量を1Qとした場合、各々0.18Q、0.22Qである。
【0030】
モニタ槽4を通過した第1の溶液L1を濃縮装置5で濃縮し、乾燥装置6で乾燥して得られたケーキCAを外部委託等により処理する。一方、Ca
2+濃度が高い第2の溶液L2は、放流する。
【0031】
上述のように、両性イオン交換樹脂3によって、第1の溶液L1と、第2の溶液L2とに分離するため、第1の溶液L1、第2の溶液L2の各々にSO
42-とCa
2+とが共存することがなく、後段の装置において石膏スケールが付着する虞がないため、処理システムの安定運転を継続することができる。
【0032】
以上のように、本実施の形態では、両性イオン交換樹脂3の上流側に逆浸透膜2を設け、両性イオン交換樹脂3に供給する水量を減少させることで両性イオン交換樹脂3を小型化して装置コストを抑え、また、逆浸透膜2で得られた純水Pを両性イオン交換樹脂3の再生に利用することで、両性イオン交換樹脂3の再生に用いる工業用水を不要とすることができる。
【0033】
尚、上記実施の形態では、一次処理水W2を逆浸透膜2に通過させる場合について説明したが、浸出水W1や産業排水等を逆浸透膜2に通過させ、両性イオン交換樹脂においてCa
2+を多く含む溶液と、SO
42-を多く含む溶液とに分離してCaSO
4によるスケールトラブルを回避しながらこれらを処理することもできる。
【0034】
さらに、逆浸透膜2及び両性イオン交換樹脂3に通過させて処理する溶液に含まれるイオンは、Ca
2+とSO
42-とに限定されず、その他の陽イオン及び陰イオンを対象とすることも可能である。
【0035】
1 一次処理水の処理システム
2 逆浸透膜
3 両性イオン交換樹脂
4 モニタ槽
5 濃縮装置
6 乾燥装置
10 浸出水の処理システム
11 最終処分場
12 凝集沈殿装置
13 生物処理装置
14 砂ろ過器
15 活性炭吸着塔
C 濃縮水
CA ケーキ
P 純水
S スラリー
W1 浸出水
W2 一次処理水
L1 第1の溶液
L2 第2の溶液