(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の製造方法とは、下記一般式(1)で表されるハロゲン化カルボン酸エステルの製造方法であって、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素と、アルコールとを含む混合物に、酸素存在下で光照射するところに特徴を有する。
【0017】
【化2】
(一般式(1)中、Xは、ハロゲン原子又はハロゲン化メチル基を表し、Rは、置換基及び/又はヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を表す。)
本発明方法では、原料化合物として、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素、即ち、ハロ炭素及びハロゲン化炭化水素からなる群より選択される1以上のハロゲン化原料化合物を用いる。
【0018】
ハロ炭素やハロゲン化炭化水素(以下、ハロ炭素及びハロゲン化炭化水素を「ハロゲン化原料化合物」と称する場合がある)は、光や酸素の存在下で比較的容易に分解され、有害ガスであるハロゲン化カルボニルを発生する。このため一般的な市販品には安定剤として微量(例えば約1%)のアルコールが添加されている。したがって、反応系内に安定剤として用いられる量を超えるアルコールが存在する場合にはハロゲン化原料化合物の分解が抑制され、ハロゲン化カルボン酸エステルの生成反応は進行しないと考えられていた。
【0019】
しかしながら、本発明者は、鋭意検討の結果、酸素存在下で、ハロゲン化原料化合物とアルコールとの混合物に光照射することで、意外にも、ハロゲン化原料化合物の酸化的光分解反応が進行し、さらに、分解生成物であるハロゲン化カルボニルとアルコールとの反応により収率よくハロゲン化カルボン酸エステルが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
上述のように、本発明においては、光照射によりハロゲン化原料化合物から生成したハロゲン化カルボニルを、同一の反応系内で直接アルコールと反応させるため、有害なハロゲン化カルボニルを反応系外に放出させることなく、安全且つ簡便にハロゲン化カルボン酸エステルを製造することができる。また、本発明によれば、より簡便な光反応装置でハロゲン化カルボン酸エステルをその場で提供することができる。
【0021】
さらに、本発明は、有機溶媒等として大量に消費され、また大気に放出され大気汚染やオゾン層の破壊といった環境汚染の原因となっているハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素を原料とし、これを光分解することで有用な化合物を製造する技術であり、工業的にもまた環境科学的にも寄与するところは大きい。以下、本発明について説明する。
【0022】
本発明の製造方法において出発原料として使用するハロ炭素及びハロゲン化炭化水素とは、炭化水素が有する一部又は全部の水素原子がハロゲンで置換された化合物である。なお、本発明において「ハロ炭素」とは、炭化水素が有する全ての水素原子をハロゲンで置換した化合物を意味し、「ハロゲン化炭化水素」は、炭化水素が有する一部の水素原子をハロゲンで置換した化合物を意味する。ハロゲン原子としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)等が挙げられる。反応性及び生成物の有用性等の点から、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、塩素原子又は臭素原子がより好ましい。
【0023】
炭化水素は、直鎖状、分岐鎖状又は環状の内の1以上の構造を有するものであってもよく、また、不飽和結合を有していてもよい。炭化水素を構成する炭素数は特に限定されないが、例えば1〜50であるのが好ましく、より好ましくは1〜10、1〜8または1〜6であり、さらに好ましくは1〜5、1〜3、1〜2または1である。当然であるが、当該炭化水素の炭素骨格及び炭素数は、ハロ炭素及びハロゲン化炭化水素を構成する炭素の骨格及び数に相当する。ハロゲン化炭化水素におけるハロゲン原子による置換数としては、2以上が好ましい。なお、ハロ炭素におけるハロゲン原子による置換数は、必ず2以上である。炭化水素の炭素数が1〜3である場合、ハロゲン原子の数は例えば1〜8であるのが好ましい。より好ましくは2〜8であり、さらに好ましくは3〜8である。また、ハロゲン化炭化水素においては、1つの炭素原子に2以上のハロゲン原子が置換しているか、或いは、互いに隣り合う2つの炭素原子上にそれぞれ1以上のハロゲン原子が置換していることが好ましい。さらに、ハロゲン化炭化水素の末端の炭素が2以上のハロゲン原子で置換されていることが好ましい。
【0024】
具体的なハロ炭素としては、例えば、テトラフルオロメタン、テトラクロロメタン、テトラブロモメタン、テトラヨードメタン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサクロロエタン、ヘキサブロモエタン等のパーハロアルカン類;1,1,2,2−テトラフルオロエテン、1,1,2,2−テトラクロロエテン、1,1,2,2−テトラブロモエテン等のパーハロエテン等が挙げられる。一方、ハロゲン化炭化水素としては、例えば、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモメタン、ジブロモメタン、ブロモホルム等のハロメタン;1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン等のハロエタン;1,1,1,3−テトラクロロプロパン等のハロプロパン等のハロアルカン類等が挙げられる。具体的なハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素としては、パーハロC
1-2アルカン類、パーハロC
2アルケン類、2以上のハロゲン原子に置換されているC
1-2アルカン類からなる群より選択される1以上が好ましい。
【0025】
ハロ炭素及びハロゲン化炭化水素は目的とする化学反応や所期の生成物に応じて適宜選択すればよく、また、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、ハロ炭素とハロゲン化炭化水素を組み合わせて使用してもよいし、ハロ炭素またはハロゲン化炭化水素をそれぞれ2種以上組み合わせて使用してもよい。好適には、製造目的化合物に応じて、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素は1種のみ用いる。上記ハロ炭素及びハロゲン化炭化水素の中でも塩素原子を有する化合物が好ましい。
【0026】
本発明方法で用いるハロゲン化原料化合物は、例えば、溶媒としていったん使用したハロゲン化原料化合物を回収したものであってもよい。その際、多量の不純物や水が含まれていると反応が阻害されるおそれがあり得るので、ある程度は精製することが好ましい。例えば、水洗により水や水溶性不純物を除去した後、無水硫酸ナトリウムや無水硫酸マグネシウムなどで脱水することが好ましい。但し、1容量%程度の水が含まれていても反応は進行すると考えられるので、生産性を低下させるような過剰な精製は必要ない。かかる水含量としては、0.5容量%以下がより好ましく、0.2容量%以下がさらに好ましく、0.1容量%以下がよりさらに好ましい。また、上記再利用ハロゲン化原料化合物には、ハロゲン化原料化合物の分解物などが含まれていてもよい。
【0027】
本発明の製造方法では、R−OHの化学構造式[式中、Rは置換基及び/又はヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示す]を有するアルコールを出発原料の一つとする。アルコールとしてはヒドロキシ基を有するものであればその構造は特に限定されず、直鎖状、分岐鎖状、環状の内1以上の構造を有するものであってもよく、不飽和結合を有していてもよく、炭化水素基中にヘテロ原子(例えばN、O、S等)を有していてもよい。また、上記ハロ炭素及びハロゲン化炭化水素と混合したときに互いに混合しあうものである限りアルコールの炭素数も特に限定されないが、例えば炭素数1〜1000のものが好ましく用いられる。炭素数は3以上であるのがより好ましく、さらに好ましくは6以上であり、800以下、600以下、500以下、200以下または100以下であるのがより好ましく、80以下、60以下または50以下であるのがより一層好ましく、40以下、20以下または10以下であるのがさらに好ましい。ヒドロキシ基の数も特に限定されるものではなく、1分子中に1個のヒドロキシ基を有するアルコール、1分子中に2個以上のヒドロキシ基を有するジオール、トリオール又はポリオールのいずれも使用できるが、ヒドロキシ基の数は、例えば1〜6であるのが好ましい。また、アルコールは置換基を有していてもよく、具体的な置換基としては、炭素数1〜100のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基や、ハロゲン原子、カルボキシル基、ホルミル基、ニトリル基、炭素数1〜12のアシルオキシ基、ニトロ基等の電子吸引性基が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基、ホルミル基、ニトリル基、炭素数1〜12のアシルオキシ基およびニトロ基からなる群より選択される1以上の置換基が好ましい。置換基数の数は、置換可能である限り特に制限されないが、例えば、10以下、8以下または6以下が好ましく、4以下がより好ましく、1または2がよりさらに好ましい。また、炭化水素基が有していてもよいヘテロ原子としては、N、O、Sから選択される1以上のヘテロ原子を挙げることができる。
【0028】
具体的なアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、プロパルギルアルコール、エチニルアルコール、ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、プロペノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘプタノール、オクタノール、シクロオクタノール等の直鎖状、分岐鎖状又は環状脂肪族アルコール、又は脂環式アルコール類;フェノール、4−tert−ブチルフェノール、3,5−ジ−tert−ブチルフェノール、4−ニトロフェノール、4−フルオロフェノール、4−クロロフェノール、4−ブロモフェノール、ペンタフルオロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタブロモフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールC、ビスフェノールP等の芳香族アルコール類;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロレングリコール等の高分子量アルコール類が挙げられる。反応性の点からは1級アルコール又は2級アルコールが好ましく用いられる。また、鎖状脂肪族アルコールを原料とする場合には収率よくハロゲン化カルボン酸エステルが得られるので好ましい。アルコールは1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素と、アルコールの使用量は反応が進行し、所期の生成物が得られる限り特に限定されるものではなく、例えば、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素のモル数に対して1モル倍のアルコールを使用する場合にも上記反応は進行する。なお、反応効率および反応時間等の観点からは、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素に対するアルコールの混合比率(アルコール/[ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素]、モル比)は0.001以上、1以下とするのが好ましい。上記混合比率は、より好ましくは0.01以上であり、さらに好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.8以下であり、さらに好ましくは0.5以下である。上記混合比率が大きすぎる場合には、相対的にアルコール量が多くなるため未反応のアルコールが増加し、一方混合比率が小さすぎる場合には、反応系外へホスゲンが放出されてしまう虞があり、また、未反応のハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素が増加する。
【0030】
ハロゲン化原料化合物とアルコールとの混合態様は特に限定されない。ハロゲン化原料化合物及びアルコールの全量を予め混合しておいてもよく、反応容器中のハロゲン化原料化合物に対して、アルコールを数回に分割して添加してもよく、任意の速度で連続的に添加してもよい。また、ハロゲン化原料化合物とアルコールの一方または両方が常温で固体である場合には、これら原料化合物に対して適度に溶解でき、且つ本発明反応を阻害しない溶媒を用いてもよい。尚、本発明では、少なくとも一部のアルコールを、光照射前にハロゲン化原料化合物と混合しておく。
【0031】
本発明に係る反応では触媒や各種添加剤を使用することもできるが、所期の化合物を効率よく得る点からは、本発明では触媒や添加剤を使用しないことが好ましい。
【0032】
本発明では、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素とアルコールとを含む混合物に、酸素存在下で光照射を行う。酸素源としては、酸素を含む気体であればよく、例えば、空気や、精製された酸素を用いることができる。精製された酸素は、窒素やアルゴン等の不活性ガスと混合して使用してもよい。コストや容易さの点からは空気を用いることが好ましい。光照射によるハロゲン化原料化合物の分解効率を高める観点からは、酸素源として用いられる気体中の酸素含有率は約15体積%〜100体積%であることが好ましい。酸素含有率はハロゲン化原料化合物の種類によって適宜決定すればよく、例えば、ハロゲン化原料化合物として塩化原料化合物(ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロエタン等)を用いる場合は、酸素含有率15体積%〜100体積%程度が好ましく、臭化原料化合物(ジブロモメタン、ブロモホルム等)を用いる場合は、酸素含有率90体積%〜100体積%程度が好ましい。なお、酸素(酸素含有率100体積%)を用いる場合であっても、反応系内への酸素流量の調節により酸素含有率を上記範囲内に制御することができる。酸素を含む気体の供給方法は特に限定されず、流量調整器を取り付けた酸素ボンベから反応系内に供給してもよく、また、酸素発生装置から反応系内に供給してもよい。
【0033】
なお、酸素存在下とは、ハロゲン化原料化合物とアルコールを含む混合物が酸素と接している状態、上記混合物中に酸素が存在する状態のいずれであってもよい。したがって、本発明に係る反応は、酸素を含む気体の気流下で行ってもよいが、生成物の収率を高める観点からは、酸素を含む気体はバブリングによりハロゲン化原料化合物とアルコールを含む混合物中へ供給するのが好ましい。
【0034】
酸素を含む気体の量は、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素の量、反応容器の形状等に応じて適宜決定すればよい。例えば、出発原料として20mlのハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素を使用する場合には、反応容器への酸素を含む気体流量を100ml/分以上とするのが好ましい。より好ましくは500ml/分以上であり、さらに好ましくは1000ml/分以上であり、10000ml/分以下であるのが好ましく、より好ましくは5000ml/分以下であり、さらに好ましくは3000ml/分以下である。また、反応系内への酸素の導入量としては、より少なく、例えば、10ml/分以上、500ml/分以下とすることも可能である。流量が多すぎる場合には、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素が揮発してしまう虞があり、一方少なすぎると反応が進行し難くなる虞がある。
【0035】
混合物に照射する光としては短波長光(好ましくは紫外線)を含む光が好ましく、より詳細には180nm〜500nmの波長を有する光が好ましい。なお、光の波長はハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素の種類に応じて適宜決定すればよいが、より好ましくは、180nm〜400nmであり、さらに好ましくは180nm〜300nmである。照射光に上記波長範囲の光が含まれている場合には、ハロゲン化原料化合物を効率よく酸化的光分解できる。
【0036】
光照射の手段は、波長180nm〜500nmの光を照射できるものである限り特に限定されないが、このような波長範囲の光を波長域に含む光源としては、例えば、太陽光、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ等が挙げられる。反応効率及びコスト等の点から、低圧水銀ランプ等が好ましく用いられる。
【0037】
光の強度や照射時間等の諸条件は、出発原料の種類や使用量によって適宜設定すればよいが、例えば、光の強度は10μW/cm
2照度以上であるのが好ましく、500μW/cm
2照度以下であるのが好ましく、より好ましくは100μW/cm
2照度以下であり、さらに好ましくは40μW/cm
2照度以下である。光の照射時間は0.5時間〜10時間とするのが好ましく、より好ましくは1時間〜6時間であり、さらに好ましくは2時間〜4時間である。光照射の態様も特に限定されず、反応開始から終了まで連続して光を照射する態様、光照射と光非照射とを交互に繰り返す態様、反応開始から所定の時間のみ光を照射する態様等いずれの態様も採用できるが反応開始から終了まで連続して光を照射する態様が好ましい。
【0038】
また、反応時の温度も特に限定はされないが、0℃〜50℃であるのが好ましく、より好ましくは10℃〜40℃であり、さらに好ましくは20℃〜30℃である。
【0039】
本発明の製造方法に使用できる反応装置としては、反応容器に光照射手段を備えたものが挙げられる。反応装置には、攪拌装置や温度制御手段が備えられていてもよい。
図1に、本発明の製造方法に使用できる反応装置の一態様を示す。
図1に示す反応装置は、筒状反応容器6内に光照射手段1を有するものである。筒状反応容器6内に、ハロ炭素及び/又はハロゲン化炭化水素とアルコールとを含む混合物を添加し、当該反応容器6内に酸素を含有する気体を供給又は上記混合物に酸素を含有する気体をバブリングしながら(図示せず)、光照射手段1より光を照射して反応を行う。前記光照射手段1をジャケット2等で覆う場合、該ジャケットは、前記短波長光を透過する素材であることが好ましい。また、反応容器の外側から光照射を行ってもよく、この場合、反応容器は、前記短波長光を透過する素材であることが好ましい。前記短波長光を透過する素材としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、石英ガラス及びパイレックス(登録商標)ガラス等が好ましく挙げられる。
【0040】
上記反応後の生成物は、従来公知の方法で精製をしてもよい。また、出発原料として用いるハロゲン化原料化合物やアルコールが、多くの反応において媒体として用いられる溶媒である場合には、反応終了後、生成物を単離、精製することなく、反応溶液をそのまま他の反応の原料として用いてもよい。精製方法としては、蒸留、出発原料の減圧留去、カラムクロマトグラフィー、分液抽出、洗浄、再結晶等が挙げられる。
【0041】
本発明の製造方法により得られるハロゲン化カルボン酸エステルは下記一般式(1)で表される化合物である。
【0042】
【化3】
一般式(1)中、Xは、ハロゲン原子又はハロゲン化メチル基を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)及びヨウ素原子(I)等が挙げられる。反応性及び生成物の有用性等の点からは、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましい。なお、ハロゲン化原料化合物としてハロゲン化メタンを用いた場合にはXはハロゲン原子となり、炭素数2以上のハロゲン化原料化合物を用いた場合には主にハロゲン化アセチルハライドが生じ、Xはハロゲン化メチル基となる。当該ハロゲン化メチル基におけるハロゲン原子の数は、使用したハロゲン化原料化合物や、照射光のエネルギーなどによる。
【0043】
その他、炭素数が3以上のハロゲン化原料化合物を用いた場合には、酸素の存在と光照射によりハロゲン原子の転位や炭素鎖の切断が起こることによりXがハロゲン原子やハロゲン化メチル基であるハロゲン化カルボン酸エステルが生成する他、Xが炭素数2以上のアルキル基またはハロゲン化アルキル基であるハロゲン化カルボン酸エステルが生成することが考えられる。例えば、炭素数が3以上で且つ末端炭素が2以上のハロゲン原子に置換されているハロゲン化原料化合物を用いた場合には、以下の反応により、Xが炭素数2以上のアルキル基またはハロゲン化アルキル基であるハロゲン化カルボン酸エステルが生成する可能性がある。
【0044】
【化4】
[式中、Rは置換基およびヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基を示し、R
1はハロゲン原子及び/又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数2以上の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、Yはハロゲン原子または水素原子を示す]
Rは炭化水素基を表す。炭化水素基は、使用したアルコールの反応ヒドロキシ基以外の部分に相当する。よって、アルコールの炭素数の例示などは、炭化水素基にもそのままあてはまる。例えば、炭化水素基は、炭素数1〜1000の、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、又はこれらの基が2以上結合した基が挙げられる。炭化水素基は置換基を有していてもよく、また、N、O、S等のヘテロ原子を有するものであってもよい。さらに、炭化水素基の炭素原子に結合する一部又は全部の水素原子がハロゲン原子などの置換基で置換されていてもよい。置換基としては、炭素数1〜100のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、ハロゲン原子、カルボキシル基、ホルミル基、ニトリル基、炭素数1〜12のアシルオキシ基、ニトロ基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基、ホルミル基、ニトリル基、炭素数1〜12のアシルオキシ基およびニトロ基からなる群より選択される1以上の置換基が好ましい。
【0045】
脂肪族炭化水素基としては、炭素数が1〜1000のものが好ましく、3以上であるのがより好ましく、6以上であるのがさらに好ましく、炭素数は800以下、600以下、500以下、200以下または100以下であるのがより好ましく、80以下、60以下または50以下であるのがより一層好ましく、40以下、20以下または10以下のものがさらに好ましい。具体的な脂肪族炭化水素基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の鎖状又は分岐鎖状アルキル基、エテニル基、プロペニル基等のアルケニル基、エチニル基等のアルキニル基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基、ホルミル基、ニトリル基、炭素数1〜12のアシルオキシ基およびニトロ基からなる群より選択される1以上の置換基が好ましい。
【0046】
脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜20のものが好ましく、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
【0047】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えば、フェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、3,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、4−ニトロフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ペンタクロロフェニル基、ペンタブロモフェニル基等のアリール基が挙げられる。
【0048】
上記一般式(1)で表されるハロゲン化カルボン酸エステルとしては、例えば、フルオロ蟻酸エチル、フルオロ蟻酸プロピル、フルオロ蟻酸ブチル、フルオロ蟻酸ヘキシル、フルオロ蟻酸シクロヘキシル、トリフルオロ酢酸エチル、トリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル、トリフルオロ酢酸ヘキシル、トリフルオロ酢酸シクロヘキシル、フルオロ蟻酸−tert−ブチルフェニル、フルオロ蟻酸−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル、フルオロ蟻酸−4−ニトロフェニル、フルオロ蟻酸−4−フルオロフェニル、フルオロ蟻酸−4−クロロフェニル、フルオロ蟻酸−4−ブロモフェニル、フルオロ蟻酸−ペンタフルオロフェニル、フルオロ蟻酸−ペンタクロロフェニル、フルオロ蟻酸−ペンタブロモフェニル、フルオロ蟻酸−(2−メトキシエトキシ)エチル、クロロ蟻酸エチル、クロロ蟻酸プロピル、クロロ蟻酸ブチル、クロロ蟻酸ヘキシル、クロロ蟻酸シクロヘキシル、トリクロロ酢酸エチル、トリクロロ酢酸プロピル、トリクロロ酢酸ブチル、トリクロロ酢酸ヘキシル、トリクロロ酢酸シクロヘキシル、クロロ蟻酸−tert−ブチルフェニル、クロロ蟻酸−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル、クロロ蟻酸−4−ニトロフェニル、クロロ蟻酸−4−フルオロフェニル、クロロ蟻酸−4−クロロフェニル、クロロ蟻酸−4−ブロモフェニル、クロロ蟻酸−ペンタフルオロフェニル、クロロ蟻酸−ペンタクロロフェニル、クロロ蟻酸−ペンタブロモフェニル、クロロ蟻酸−(2−メトキシエトキシ)エチル、トリクロロ酢酸−tert−ブチルフェニル、トリクロロ酢酸−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル、トリクロロ酢酸−4−ニトロフェニル、トリクロロ酢酸−4−フルオロフェニル、トリクロロ酢酸−4−クロロフェニル、トリクロロ酢酸−4−ブロモフェニル、トリクロロ酢酸−ペンタフルオロフェニル、トリクロロ酢酸−ペンタクロロフェニル、トリクロロ酢酸−ペンタブロモフェニル、トリクロロ蟻酸−(2−メトキシエトキシ)エチル、ブロモ蟻酸エチル、ブロモ蟻酸プロピル、ブロモ蟻酸ブチル、ブロモ蟻酸ヘキシル、ブロモ蟻酸シクロヘキシル、トリブロモ酢酸エチル、トリブロモ酢酸プロピル、トリブロモ酢酸ブチル、トリブロモ酢酸ヘキシル、トリブロモ酢酸シクロヘキシル、ブロモ蟻酸−tert−ブチルフェニル、ブロモ蟻酸−3,5−ジ−tert−ブチルフェニル、ブロモ蟻酸−4−ニトロフェニル、ブロモ蟻酸−4−フルオロフェニル、ブロモ蟻酸−4−クロロフェニル、ブロモ蟻酸−4−ブロモフェニル、ブロモ蟻酸−ペンタフルオロフェニル、ブロモ蟻酸−ペンタクロロフェニル、ブロモ蟻酸−ペンタブロモフェニル、ブロモ蟻酸−(2−メトキシエトキシ)エチル等が挙げられるが、本発明法により製造されるハロゲン化カルボン酸エステルは上記例示の化合物に限定されるものではない。
【0049】
上記ハロゲン化カルボン酸エステルは、ウレタン、非対称炭酸エステル及びカルバミン酸エステル等を合成する際の原料として使用することができる。
【0050】
本願は、2014年4月9日に出願された日本国特許出願第2014−80559号に基づく優先権の利益を主張するものである。2014年4月9日に出願された日本国特許出願第2014−80559号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0052】
[NMR測定]
生成物の同定は、Bruker社製のAVANCE 500スペクトロメーター(500MHz)を使用して行った。各実験例で得られた生成物2mgを0.5mlの重クロロホルム(内部標準物質:テトラメチルシラン)に溶解し、温度20℃、積算回数16回の条件で
1H−NMRスペクトルを測定した。
【0053】
実験例1 クロロ蟻酸ブチルの製造
【0054】
【化5】
中央に直径30mmの石英ガラスジャケットを装着した筒状反応容器(直径42mm)を用意し、石英ガラスジャケットに低圧水銀ランプ(SEN Light社製、UVL20PH−6、20W、φ24×120mm)を入れ、反応容器内に水洗および蒸留により精製したクロロホルム20ml(250mmol、キシダ化学社製)とn−ブタノール0.46ml(5mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を加えた。混合溶液の攪拌下、空気を500ml/分でバブリングさせながら、温度20℃で、前記低圧水銀ランプにより光照射しながら、3時間反応を行った。反応の進行状態をNMRにより確認し、出発原料であるブタノールに由来するピークが確認されなくなった時点で反応を終了した。次いで、クロロホルムを減圧留去して、無色油状の粗生成物を得た。NMR測定により生成物がクロロ蟻酸ブチルであることを確認し、内部標準物質との積分値の比較から、収率が62%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.30 (t, 2H, J = 6.6 Hz), 1.72 (quin, 2H, J = 7.1Hz), 1.41 (m, 2H), 0.96 (t, 3H, J = 7.2 Hz)
実験例2 クロロ蟻酸ヘキシルの製造1
【0055】
【化6】
出発原料であるアルコールとしてn−ヘキサノール0.62ml(5mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を使用したこと以外は実験例1と同様にして光照射しながら、3時間反応を行った。クロロホルムを減圧留去して、無色油状の粗生成物を得た。NMR測定により生成物がクロロ蟻酸ヘキシルであることを確認し、内部標準物質との積分値の比較から、収率が70%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.32 (t, 2H, J = 6.8 Hz), 1.73 (quin, 2H, J = 7.1Hz), 1.36 (m, 6H), 0.90 (t, 3H, J = 7.0 Hz)
実験例3 クロロ蟻酸シクロヘキシルの製造
【0056】
【化7】
出発原料であるアルコールとしてシクロヘキサノール0.52ml(5mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を使用したこと以外は実験例1と同様にして、光照射しながら、3時間反応を行った。反応溶液のサンプリングによるNMR測定から、生成物がクロロ蟻酸シクロヘキシルであることを確認し、内部標準物質との積分値の比較から、収率が30%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.87 (m, 1H), 1.99 -1.31 (m, 10H)
実験例4 クロロ蟻酸−4−ニトロフェニルの製造
【0057】
【化8】
出発原料であるアルコールとして4−ニトロフェノール696mg(5mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を使用したこと以外は実験例1と同様にして光照射しながら、3時間反応を行った。反応溶液のサンプリングによるNMR測定から、生成物がクロロ蟻酸−4−ニトロフェニルであることを確認し、内部標準物質との積分値の比較から、収率が約10%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 8.35 (d, 2H, J = 9.2 Hz), 8.29 (d, 2H, J = 9.2 Hz)
実験例5 クロロ蟻酸ヘキシルの製造2
n−ヘキサノールの使用量を1.23ml(10mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)に変更したこと以外は実験例2と同様にして光照射しながら、3時間反応を行った。クロロホルムを減圧留去して、無色油状の粗生成物を得た。NMR測定により生成物がクロロ蟻酸ヘキシルであることを確認し、収率が70%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.32 (t, 2H, J = 6.8 Hz), 1.73 (quin, 2H, J = 7.1Hz), 1.36 (m, 6H), 0.90 (t, 3H, J = 7.0 Hz )
実験例6 クロロ蟻酸ヘキシルの製造3
【0058】
【化9】
クロロホルムに代えてテトラクロロメタン20ml(206mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)、n−ブタノールに代えてn−ヘキサノール0.62ml(5mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を使用したこと以外は実験例1と同様にして光照射しながら、3時間反応を行った。テトラクロロメタンを減圧留去して、無色油状の粗生成物を得た。NMR測定により生成物がクロロ蟻酸ヘキシルであることを確認し、収率が13%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.32 (t, 2H, J = 6.8 Hz), 1.73 (quin, 2H, J = 7.1Hz), 1.36 (m, 6H), 0.90 (t, 3H, J = 7.0 Hz )
実験例7 トリクロロ酢酸ヘキシルの製造
【0059】
【化10】
実験例1と同様、低圧水銀ランプを備えた筒状反応容器内に、ハロゲン化炭化水素として1,1,2,2−テトラクロロエテン20ml(196mmol、和光純薬工業株式会社製)とヘキサノール0.62ml(5mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)を加えた。混合溶液の攪拌下、空気を500ml/分でバブリングさせながら、温度20℃で、前記低圧水銀ランプにより光照射をしながら、3時間反応を行った。反応溶液のサンプリングによるNMR測定から、生成物がトリクロロ酢酸ヘキシルであることを確認し、収率が65%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.36 (t, 2H, J = 8.0 Hz), 1.78 -1.28 (m, 8H), 0.90 (t, 3H, J = 8.0 Hz)
実験例8 クロロ蟻酸ヘキシルの製造4
n−ヘキサノールの使用量を6.15ml(50mmol、試薬特級、和光純薬工業株式会社製)に変更したこと以外は実験例2と同様にして光照射しながら、3時間反応を行った。反応溶液のサンプリングによるNMR測定から、生成物がクロロ蟻酸ヘキシルであることを確認し、収率が約10%であることを確認した。さらに2時間、光照射しながら反応を継続したところ生成物の収率は15%(NMR測定)であった。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.32 (t, 2H, J = 6.8 Hz), 1.73 (quin, 2H, J = 7.1Hz), 1.36 (m, 6H), 0.90 (t, 3H, J = 7.0 Hz )
実験例9 クロロ蟻酸2−(2−メトキシエトキシ)エチルエステルの製造
【0060】
【化11】
中央に直径30mmの石英ガラスジャケットを装着した筒状反応容器(直径42mm)を用意し、石英ガラスジャケットに低圧水銀ランプ(SEN Light社製、UVL20PH−6、20W、φ24×120mm)を入れ、反応容器内に水洗および蒸留により精製したクロロホルム20ml(250mmol、キシダ化学社製)とジエチレングリコールモノメチルエーテル1.18ml(10mmol、試薬特級、東京化成株式会社製)を加えた。混合溶液の攪拌下、酸素を50ml/分でバブリングさせながら、温度20℃で、前記低圧水銀ランプにより光照射しながら、2時間反応を行った。反応の進行状態をNMRにより確認し、出発原料であるジエチレングリコールモノメチルエーテルに由来するピークが確認されなくなった時点で反応を終了した。反応溶液のサンプリングによるNMR測定から、生成物がクロロ蟻酸2−(2−メトキシエトキシ)エチルエステルであることを確認し、内部標準物質との積分値の比較から、収率が80%であることを確認した。
1H−NMR(溶媒:重クロロホルム)δ 4.47 (m, 2H), 3.78 (m, 2H), 3.67 (m, 2H) ,3.57 (m, 2H), 3.39 (s, 3H)
実験例10 回収ハロゲン化炭化水素を用いたハロゲン化カルボン酸エステルの製造
別の実験で用いたクロロホルムを回収して水洗した後、無水硫酸ナトリウムを使って脱水した。得られた回収クロロホルムを分析したところ、数%のヘキサン、数%の塩化メチレン、およびクロロホルムの分解物が含まれていた。当該回収クロロホルム20mlを用いた以外は上記実施例9と同様にして、クロロ蟻酸2−(2−メトキシエトキシ)エチルエステルを製造した。上記実施例9と同様に収率を求めたところ、収率は65%であった。
【0061】
以上のとおり、ハロゲン化炭化水素を回収して再利用した場合であっても、本発明方法によれば、ハロゲン化カルボン酸エステルを良好な収率で製造できることが証明された。