(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1、
図2に示す変速機100は、例えば油圧ショベル等のクローラ式車両の車軸部に設けられ、クローラベルトを駆動する走行モータを構成するものである。
【0015】
変速機100は、図示しない固定ハウジングに対して回転作動する回転ハウジング20を備える。回転ハウジング20の外周には図示しないスプロケットが連結される。回転ハウジング20とスプロケットが共に回転することで、スプロケットに噛み合う図示しないクローラベルトが循環し、車両が走行する。
【0016】
前記固定ハウジング及び回転ハウジング20は、クローラベルトが循環する経路の内側に配置される。回転ハウジング20は、車両フレームに連結される固定ハウジングに対して図示しないベアリングを介して回転自在に支持され、回転軸Oを中心として回転作動する。固定ハウジングの内部には、回転駆動源として図示しない油圧モータ(斜板式ピストンモータ)が設けられる。
【0017】
図2に示すように、回転ハウジング20の内部には、変速機構10が設けられる。変速機構10は、油圧モータのシャフト2に設けられるサンギア11と、回転ハウジング20の内壁に沿って設けられるインナーギア12と、サンギア11とインナーギア12の双方に噛み合う複数のプラネタリギア13と、各プラネタリギア13を支持するプラネタリキャリア14等と、によって構成される。変速機構10は、油圧モータのシャフト2の出力回転を減速して回転ハウジング20に伝達する。
【0018】
円筒状の回転ハウジング20は、その外周面22から突出する図示しないフランジ部を有し、このフランジ部に前記スプロケットが連結される。これにより、スプロケットは回転ハウジング20と共に回転作動する。
【0019】
回転ハウジング20の開口端には、回転ハウジング20の開口部を閉塞する円盤状のカバー40が設けられる。カバー40によって閉塞される回転ハウジング20の内部には、変速機構10を収容するギア室19が画成される。ギア室19には変速機構10を潤滑する潤滑油が充填される。
【0020】
図1に示すように、カバー40には、3つのポート47〜49が開口し、これらのポート47〜49を閉塞するプラグ(栓体)9がそれぞれ着脱可能に取り付けられる。
【0021】
ポート47はカバー40の中央に配置される。ポート47からプラグ9を外すことによって、ギア室19内に充填された潤滑油量をポート47を通じて確認することができる。
【0022】
ポート48はカバー40の下部に配置される。ポート48からプラグ9を外すことによって、ギア室19内の潤滑油をポート48を通じて外部に排出することができる。
【0023】
ポート49はカバー40の上部に配置される。ポート49からプラグ9を外すことによって、潤滑油をポート48を通じてギア室19内に充填することができる。
【0024】
ポート47〜49の内周にはネジ部が形成され、これらのネジ部にプラグ9がそれぞれ螺合して取り付けられる。
【0025】
プラグ9は、ポート47〜49のネジ部に螺合するネジ部9Aと、カバー40に着座するヘッド部9Bと、ヘッド部9Bの端面に開口する工具穴9Cと、を有する。プラグ9の脱着時には、作業者が図示しない工具を工具穴9Cに差し込み、工具を介してプラグ9を回転させる。
【0026】
ポート47のまわりにはカバー40の端面41に開口する窪む座ぐり穴43が形成される。座ぐり穴43にプラグ9のヘッド部9Bが収容され、円盤状のヘッド部9Bがカバー40の端面41から軸O方向に突出しないように配置される。
【0027】
カバー40には、端面41に対して環状に窪む段付き端面39が形成される。この段付き端面39にポート48、49が開口する。ポート48、49に取り付けられるプラグ9のヘッド部9Bが段付き端面39に着座し、ヘッド部9Bがカバー40の端面41から軸O方向に突出しないように配置される。
【0028】
次に、カバー40が回転ハウジング20に結合される構造について説明する。
【0029】
図2に示すように、回転ハウジング20の開口端の内周面には環状の取付座23が形成され、この取付座23にカバー40の外周部が嵌め込まれる。
【0030】
取付座23は、軸Oを中心とする円筒面状のハウジング内周面23Aと、軸Oに直交する環状の段付き部23Bと、を有する。
【0031】
円盤状のカバー40は、軸Oを中心とする円筒面状の外周面42と、軸Oに直交する環状の外周端面44と、を有する。
【0032】
カバー40の外周面42が取付座23のハウジング内周面23Aに嵌合することにより、カバー40は回転ハウジング20の径方向について支持される。なお、「径方向」は、回転ハウジング20の回転軸Oを中心とする放射方向を意味する。
【0033】
カバー40の外周端面44が取付座23の段付き部23Bに当接することにより、カバー40は回転ハウジング20の軸方向について奥側(
図2において左側)に移動することが止められる。なお、「軸方向」は、回転ハウジング20の回転軸Oと平行な線が延在する方向を意味する。
【0034】
回転ハウジング20とカバー40の間には、ギア室19を密封するOリング3が介装される。カバー40の外周面42には環状のシール溝46が形成され、このシール溝46にOリング3が収容される。Oリング3は、シール溝46と取付座23のハウジング内周面23Aとの間に圧縮して介装される。
【0035】
回転ハウジング20とカバー40の間には、カバー40の抜け止めをする止め輪50が介装される。
【0036】
平板状の止め輪50は、リング状の止め輪本体部56と、止め輪本体部56の一部を切り欠くようにして形成される合い口間隙55と、合い口間隙55を画成する対の合い口端部51、52と、合い口端部51、52から径方向外側に突出する対の止め輪凸部53、54と、を有する。止め輪凸部53、54は、合い口端部51、52からフック状に曲折して延びるように形成される。
【0037】
止め輪50は、金属板を打ち抜いて平板リング状に形成される。なお、これに限らず、止め輪を樹脂によって形成してもよい。また、止め輪を金属線(ワイヤ)をリング状に曲げて形成してもよい。
【0038】
回転ハウジング20には、取付座23のハウジング内周面23Aに開口する環状のハウジング溝25が形成される。ハウジング溝25の溝内面は、互いに対向して径方向に延びるスリット状の溝側部と、この溝側部を結んで軸方向に延びる円筒面状の溝底部と、によって構成される。
【0039】
ハウジング溝25には、止め輪50が着脱可能に嵌め込まれる。止め輪50がハウジング溝25に嵌め込まれた状態で、止め輪本体部56の内周部が取付座23のハウジング内周面23Aから突出する。止め輪本体部56の内周部がカバー40の段付き端面39に当接することで、カバー40の抜け止めが行われる。
【0040】
図3に示すように、回転ハウジング20には、ハウジング溝25の溝内面に開口するハウジング凹部26が設けられる。このように開口したハウジング凹部26は、ハウジング溝25の溝底部から径方向に延びる対の段付き部26Aを有する。
【0041】
ハウジング溝25及びハウジング凹部26は、エンドミル等を用いる切削加工によって形成される。なお、これに限らず、回転ハウジング20を鋳造する際に、ハウジング凹部26を鋳抜き加工によって形成した後、ハウジング溝25を切削加工によって形成してもよい。
【0042】
回転ハウジング20は、環状の端面21を有し、この端面21の内側(
図2において左側)にハウジング凹部26が設けられる。なお、回転ハウジング20は、端面21を形成する部位を一部切り欠いて外部からハウジング凹部26が見えるようにしてもよい。
【0043】
止め輪50がハウジング溝25に嵌め込まれる際に、止め輪凸部53、54がハウジング凹部26に差し込まれる。ハウジング凹部26と止め輪凸部53、54が互いに係合することによって、回転ハウジング20に対して止め輪50が回転することが規制される。ハウジング凹部26と止め輪凸部53、54は、回転ハウジング20に対する止め輪50の回転を規制する止め輪回転規制機構60を構成する。
【0044】
カバー40の上部に取り付けられるプラグ9は、合い口端部51、52の間に挟まれるように配置される。プラグ9のヘッド部9Bの外周の一部が合い口端部51、52に当接することで、カバー40の回転が規制される。プラグ9と合い口端部51、52は、止め輪50に対するカバー40の回転を規制するカバー回転規制機構61を構成する。
【0045】
上記のプラグ9は、止め輪50に対してカバー40が回転することを係止する係止片として用いられる。なお、これに限らず、係止片として合い口端部51、52に係合する専用のストッパをカバー40に取り付けてもよい。
【0046】
次に、カバー40を回転ハウジング20に取り付ける動作について説明する。
【0047】
まず、カバー40の外周にOリング3が装着された後に、回転ハウジング20の取付座23にカバー40の外周部が嵌め込まれる。
【0048】
このときに、ポート49が回転ハウジング20の径方向についてハウジング凹部26と並ぶ(対向する)ように、回転ハウジング20に対するカバー40の回転位置が調整される。
【0049】
続いて、止め輪50がハウジング溝25に嵌め込まれるとともに、止め輪凸部53、54がハウジング凹部26に差し込まれる。
【0050】
続いて、プラグ9がポート49に螺合して取り付けられる。これにより、プラグ9のヘッド部9Bが合い口端部51、52の間に挟まれるように配置される。
【0051】
こうして、変速機100では、止め輪50及びプラグ9を介して回転ハウジング20の開口端にカバー40が取り付けられる。
【0052】
回転ハウジング20にカバー40が取り付けられた状態では、ハウジング溝25に嵌め込まれた止め輪50がカバー40の段付き端面39に当接することで、回転ハウジング20に対してカバー40が軸方向に移動することが規制される。これにより、回転ハウジング20に対するカバー40の抜け止めが行われる。
【0053】
さらに、回転ハウジング20にカバー40が取り付けられた状態では、プラグ9及び止め輪50によって回転ハウジング20に対してカバー40が回転することが規制される。
【0054】
例えばギア室19の潤滑油を交換する場合には、工具を介してプラグ9を回して脱着する作業が行われる。この作業時に、工具を介してカバー40に回転力が
図3に矢印Cで示すように加わる。このときに、プラグ9のヘッド部9Bが止め輪50の合い口端部51に当接するとともに、止め輪50の止め輪凸部53がハウジング凹部26の段付き部26Aに当接することで、回転ハウジング20に対するカバー40の回転が止め輪50を介して規制される。こうして、カバー40の回り止めが行われることにより、プラグ9の脱着作業が円滑に行われる。
【0055】
カバー40を回転ハウジング20から取り外す場合には、まず、プラグ9がポート49から取り外される。続いて、止め輪50がハウジング溝25から取り外される。そして、カバー40が回転ハウジング20の取付座23から取り外される。
【0056】
以上の第1実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0057】
〔1〕変速機100は、回転ハウジング20の開口端に嵌め込まれる円盤状のカバー40と、回転ハウジング20の開口端に形成されるハウジング溝25と、ハウジング溝25に嵌め込まれてカバー40に当接する環状の止め輪50と、回転ハウジング20に対する止め輪50の回転を規制する止め輪回転規制機構60と、止め輪50に対するカバー40の回転を規制するカバー回転規制機構61と、を備えるものとした。
【0058】
これにより、変速機100では、回転ハウジング20とカバー40の相対回転が止め輪50を介して規制される。止め輪50が回転ハウジング20の開口端にカバー40と並んで設けられることで、止め輪50の設置スペースを抑えることができ、変速機100の小型化が図られる。
【0059】
〔2〕カバー回転規制機構61は、止め輪50の合い口間隙55を画成する対の合い口端部51、52と、合い口端部51、52の間に挟まれるようにカバー40に取り付けられるプラグ9(係止片)と、を備えるものとした。
【0060】
これにより、カバー40に回転力が加わると、プラグ9が一方の合い口端部51、52に当接することで、カバー40が止め輪50に対して回転することが規制される。止め輪50の合い口端部51、52を利用してカバー40の回転を規制するため、止め輪50にプラグ9と係合する突起部等を形成する必要がない。その結果、止め輪50の製造コストを低減できる。
【0061】
〔3〕カバー回転規制機構61を構成する係止片は、カバー40に開口したポート49を閉塞するプラグ9であるものとした。
【0062】
これにより、プラグ9は、止め輪50に対するカバー40の回転を規制する係止片の機能と、ポート49を閉塞する栓体の機能を併せ持つ。その結果、カバー40に取り付けられる専用のストッパを設ける必要がなくなるため、カバー40に取り付けられる部品数が削減され、構造の簡素化がはかれる。
【0063】
〔4〕止め輪回転規制機構60は、回転ハウジング20に設けられて径方向に窪むハウジング凹部26と、止め輪50に形成されて径方向に突出し、ハウジング凹部26に係合する止め輪凸部53、54と、を備えるものとした。
【0064】
これにより、止め輪凸部53、54がハウジング凹部26に係合することで、止め輪50が回転ハウジング20に対して回転することが規制される。
【0065】
本実施形態では、ハウジング凹部26はハウジング溝25の溝内面に開口するものである。これに限らず、ハウジング凹部は、回転ハウジング20の他の部位に開口するものであってもよい。
【0066】
(第2実施形態)
次に、
図4を参照して、本発明の第2実施形態を説明する。以下では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明し、上記第1実施形態の変速機100と実質的に同じ機能を持つ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
上記第1実施形態に係る変速機100では、止め輪50の止め輪凸部53、54が回転ハウジング20のハウジング凹部26に係合する構成であった。これに対して、第2実施形態に係る変速機200では、止め輪70の合い口端部71、72が回転ハウジング20のハウジング凸部27に係合する構成とする。
【0068】
回転ハウジング20とカバー40の間には、カバー40の抜け止めをする止め輪70が介装される。
【0069】
平板状の止め輪70は、リング状の止め輪本体部76と、止め輪本体部76の一部を切り欠くようにして形成される合い口間隙75と、合い口間隙75を画成する対の合い口端部71、72と、を有する。
【0070】
止め輪70は、ハウジング溝25に着脱可能に嵌め込まれる。止め輪70がハウジング溝25に嵌め込まれた状態で、止め輪本体部76の内周部が取付座23のハウジング内周面23Aから突出する。このように突出した止め輪本体部76の内周部がカバー40の段付き端面39に当接することで、カバー40の抜け止めが行われる。
【0071】
回転ハウジング20には、ハウジング溝25の溝内面から突出するハウジング凸部27が設けられる。ハウジング凸部27は、ハウジング溝25の溝底部から径方向に延びる対の段付き部27Aを有する。
【0072】
ハウジング凸部27は、回転ハウジング20に一体形成されるが、これに限らず、回転ハウジング20と別体で形成される構成としてもよい。
【0073】
止め輪70がハウジング溝25に嵌め込まれることで、合い口端部71、72がハウジング凸部27に係合する。ハウジング凸部27と合い口端部71、72が互いに係合することによって、回転ハウジング20に対して止め輪70が回転することが規制される。ハウジング凸部27と合い口端部71、72は、回転ハウジング20に対する止め輪70の回転を規制する止め輪回転規制機構80を構成する。
【0074】
カバー40の上部に取り付けられるプラグ9は、合い口端部71、72の間に挟まれるように配置される。プラグ9のヘッド部9Bの外周が合い口端部71、72に当接することで、カバー40の回転が規制される。プラグ9と合い口端部71、72は、止め輪50に対するカバー40の回転を規制するカバー回転規制機構81を構成する。プラグ9は、止め輪70に対してカバー40が回転することを係止する係止片として用いられる。
【0075】
回転ハウジング20にカバー40が取り付けられた状態では、ハウジング溝25に嵌め込まれた止め輪70がカバー40の段付き端面39に当接することで、回転ハウジング20に対してカバー40が軸方向に移動することが規制される。これにより、回転ハウジング20に対するカバー40の抜け止めが行われる。
【0076】
カバー40に回転力が
図4に矢印Dで示すように加わるときに、プラグ9のヘッド部9Bが一方の合い口端部71に当接するとともに、他方の合い口端部72がハウジング凸部27の段付き部27Aに当接することで、カバー40が回転ハウジング20に対して回転することが止め輪70を介して規制される。
【0077】
以上の第2実施形態によれば、第1実施形態と同様に前記〔1〕〜〔3〕の作用効果を奏するとともに、以下に示す作用効果を奏する。
【0078】
〔5〕止め輪回転規制機構80は、回転ハウジング20に設けられて径方向に突出するハウジング凸部27と、止め輪70の合い口間隙75を画成し、合い口間隙75によりハウジング凸部27に係合する対の合い口端部71、72と、を備えるものとした。
【0079】
これにより、カバー40に回転力が加わると、合い口端部71、72がハウジング凸部27に係合することにより、止め輪70が回転ハウジング20に対して回転することが規制される。
【0080】
止め輪70は、第1実施形態の止め輪50における止め輪凸部53、54を持たないため、その製造コストを低減できる。
【0081】
本実施形態では、ハウジング凸部27はハウジング溝25の溝内面から突出するものである。ハウジング凸部は回転ハウジング20の他の部位に開口するものであってもよい。また、ハウジング凸部は回転ハウジング20と別体で形成されるものであってもよい。
【0082】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0083】
上記実施形態では、変速機がクローラベルトを駆動するものであったが、これに限らず、他の機械、設備に設けられるものであってもよい。
【0084】
上記実施形態では、変速機がシャフトの出力回転を減速して回転ハウジングに伝達するものであったが、これに限らず、シャフトの出力回転を増速して回転ハウジングに伝達するものであってもよい。