(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記最内層は、前記無機充填剤含有水溶液に前記無機繊維製基材を浸漬した後、加圧脱水することにより、厚み4.5mm以下とされたものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の筒状断熱材。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学反応の自由エネルギーの変化を電気エネルギーに変換する装置で、使用する電解質の種類により、固体高分子型燃料電池、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物型燃料電池などに分類され、それぞれ、電気化学反応の種類に基づき、最適な運転温度がある。また、燃料電池に水素を供給する原燃料から水素に変換する改質装置については、改質反応に最適な温度で改質器を運転する必要がある。
【0003】
固体酸化物型燃料電池の最適運転温度は800〜1000℃程度であり、溶融炭酸塩型では600〜700℃程度であり、固体高分子型燃料電池の改質器の温度は、600〜750℃である。
発電効率を低下させないために、これらが設置される周囲環境温度にかかわらず、最適運転温度を維持する必要がある。燃料電池を周囲環境温度から断熱状態で運転できるように、燃料電池全体を覆う外筒と、電解質と空気極と燃料極とで構成される燃料電池本体部分との間を断熱材で覆っている。改質装置についても、装置全体を覆う外筒と改質器との間を断熱材で覆っている。外筒は、外部環境に直接曝されるので、取り扱い作業上、燃料電池本体の種類、運転温度にかかわらず、60℃以下、好ましくは50℃以下にまで、断熱しておくことが望まれる。一方、装置の小型軽量化の観点から、断熱材の容積を増大させることなく、換言すると外筒のサイズを増大させることなく、燃料電池本体が外部環境温度の影響を受けずに済むように、効率的に断熱できる断熱材が望まれる。
【0004】
1000℃程度までの高温に耐えることができる、軽量な断熱システムとして、特開2010−33745号公報(特許文献1)に、燃料電池本体及び/又はその附帯装置の周囲に、電池本体側から順に、可撓性無機質断熱材からなる第1の断熱材層、可撓性エアロゲル断熱材からなる第2の断熱材層、可撓性無機質断熱材からなる第3の断熱材層を有する3層構造の燃料電池用断熱システムが提案されている。ここで、第1断熱材層に用いられる可撓性無機質断熱材は、シリカ繊維、セラミック繊維などであり(段落番号0030)、第3断熱材層には、シリカ繊維、セラミック繊維の他、安価なグラスウールを用いることもできることが記載されている(段落番号0035)。また、第2断熱材層に用いられる可撓性エアロゲル断熱材としては、連続気泡構造のシリカ多孔体を不織布に分布させて気孔率97%以上とした断熱体素子が用いられている(段落番号0033)。
【0005】
特許文献1の断熱材は、シート形状の断熱材の端縁同士を突き合わせることによって1層ごとに環状に巻回、あるいはシート形状の断熱材の端縁を重ね合わせて、第1から第3までの断熱材層を順に螺旋状に巻回することにより、燃料電池本体に取り付けられる(段落番号0035)。
この特許文献1では、断熱材の機能を3つの断熱材層に分担させることによって、断熱材全体の充填厚さを減らせるとしている(段落番号0028)。例えば、1kW級の家庭用小型燃料用電池システムの場合、第1の断熱材層の厚みは5〜35mm程度であり、第2の断熱材層は、シート状のものを重ねることで、厚み12〜30mmとし、第3の断熱材層の厚みは4〜30mm程度である(段落番号0049−0052)。
【0006】
また、特開2007−100750号公報(特許文献2)には、燃料電池用改質器を断熱するために使用される断熱材に関して、シリカ繊維、アルミナ繊維等の無機繊維からなる中空成形体と、該中空成形体の中空部に無機粉体からなる充填材を充填した構成の断熱材が提案されている。
このような断熱材は、まず、無機繊維、必要に応じて無機バインダーを混合して、所定の型内に投入してプレスすることにより一体成形する乾式成形法、又は無機繊維及び必要に応じて無機バインダー、カチオン系高分子凝集剤を添加したスラリーを調製し、所定の型内へこのスラリーを投入して、乾燥する湿式成形法によって中空成形体を製造し、得られた中空成形体の中空部に、充填剤となる無機粉体を充填した後、別途作製した円盤状成形物で、中空成形体の開口部を塞ぐことにより製造している(段落番号0043−0049、及び実施例)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2で提案されている断熱材を、円柱状の燃料電池本体に取り付ける場合、燃料電池本体の円柱の外径に対応する内径を有する筒状の中空成形体は、前記筒状体の空洞部を本体に外挿することにより行うことになる。そして、燃料電池本体や中空成形体の生産上のばらつき等の理由から、本体の真円度と中空成形体の空洞部の真円度とにずれがある場合、装着作業に際して、中空成形体を本体になじませるように、変形させることになる。しかし、無機繊維成形体の中空成形体は、一般に可撓性が不足し、変形にもろい。特に、中空成形体の真円度は、開口部の蓋となるリング状成形物により拘束されているため、過度の外力を加えて変形させると、断熱材が破壊してしまう。
【0009】
装着作業に伴う断熱材の破壊を防止するためには、中空成形体及びその上部開口部をふさぐ円盤状蓋材の真円度、空洞部の内径サイズを、本体の外径との関係において、誤差が極力少なくなるように、寸法精度を上げる必要がある。しかし、高温で運転される燃料電池本体や改質器、セラミック繊維等の無機繊維の成形体のいずれについても、高度な寸法精度を達成することは困難である。
【0010】
一方、特許文献1に開示の断熱システムは、第1断熱材層、第2断熱材層、第3断熱材層のいずれも可撓性材料で構成しているので、燃料電池本体への装着作業に伴う変形等により破壊するといったことはない。また、特許文献1の断熱システムとなる筒状断熱材を予め作製し、この筒状断熱材を外挿する代わりに、本体の外周に第1断熱層から順に巻回していくことにより、前記断熱システムを構築する方法(段落番号0053−0056及び実施例1、2)では、本体の真円度、ばらつきに関係なく対応できる。しかしながら、個々に、使用現場で巻回することにより装着する方法は面倒であり、燃料電池に断熱材を取り付ける組み立て工程として、生産性が劣る。
【0011】
特許文献1では、燃料電池や改質器の本体の外径に相当する芯管を用いて、これに第1断熱層から第3断熱層を順に巻回し、環状に積層することで、連続生産を可能とした筒状断熱材についても提案している(段落番号0063)。断熱材を予め円筒状とすることにより、円筒状断熱材を外挿するだけで、断熱材を装着することが可能となるので、組み立て効率の改善が期待できる。
【0012】
しかしながら、可撓性のシートを巻回して作製した円筒状断熱材は、いわゆる腰がなく、本体への外挿作業がしにくく、期待するような装着作業性を達成できていないのが現状である。
【0013】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、装着する円柱状熱機器の真円度や製品のばらつきにも柔軟に対応することができ、しかも外挿作業性に優れた筒状断熱材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、熱機器に外挿することによって装着できるように、予め成形した筒状断熱材であって、且つ装着される熱機器の外形(特に円柱状熱機器の場合には、真円の誤差)に合わせて、多少の変形が可能な可撓性を有する筒状断熱材であれば、作業性、生産性の要求を満足できると考え、可撓性を有する断熱材料を用いて、予め筒状に形成した筒状断熱材について、熱機器への外挿作業性を改善すべく、種々検討した。その結果、筒状断熱材の最内層を、装着される熱機器の外形(特に円柱状熱機器の場合には、真円の誤差)に合わせて、多少の変形が可能な可撓性を損なわいないレベルで、腰のある、いわゆる剛性の高い材料で構成すべきであると考えた。この点、分厚いマット状断熱材であれば、自立できるような、腰を有しているが、自立する程度までの腰、剛性を確保するためには、通常、無機繊維からなるフェルト又はその圧縮物(マット)状断熱材において、厚み40mm以上の断熱材を用いる必要があるが、このような分厚いシート状断熱材を用いて、マンドレル等に巻きつけることにより、径90〜200mm程度の筒体を形成することは困難である。
【0015】
本発明者らは、シート状断熱材を用いて、径90〜200mm程度の円柱状乃至楕円柱状の熱機器への外挿作業性に優れた筒状断熱材について、更なる検討を重ねて、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明の筒状断熱材は、熱機器外周に外挿により装着される、環状積層構造を有する筒状断熱材であって、最内層が、
無機繊維からなるフェルト若しくはその圧縮物、又は無機繊維の糸状体を製織してなる布帛である無機繊維製基材
の前記無機繊維間間隙又は前記糸状体間間隙である空孔内に無機充填剤(但し、酸化により珪酸ガラスを生成し膨張するガラス前駆体を除く)
が含浸されている断熱材で且つ厚み4.5mm以下で、JIS L1096に基づいてガーレ式剛軟度試験機で測定される剛軟度が20mN以上の断熱材で構成されている。
好ましくは前記無機繊維基材の厚みは1.3mm以上で、且つ前記剛軟度は27mN以上である。
【0017】
前記無機繊維基材が、無機繊維の糸状体を製織してなる布帛
の場合、該布帛
の両面に、前記無機充填材含有層が形成されているものであってもよい。
前記最内層は、前記無機充填剤含有水溶液に前記無機繊維製基材を浸漬した後、加圧脱水することにより、厚み4.5mm以下とされたものであってもよい。
【0018】
前記無機充填剤は、前記無機繊維基材1m
2あたり、30g以上、付与されていることが好ましい
。
【0019】
前記無機充填剤は、シリカ、アルミナ
、コロイダルシリカ、アルミナコロイド、又はこれらの組合せであることが好ましい。前記無機充填剤は、吸水により増粘性、粘結性を有する無機充填剤であ
る。
前記最内層は、シート状無機繊維製基材の巻回始端部と巻回終端部とが、前記無機充填剤で接合されることにより筒状としたものであってもよい。
【0020】
前記筒状断熱材は、前記最内層上に積層されている中間断熱部と、外表面を構成する外表断熱部の3種類の断熱部からなる環状積層構造を有していて、前記中間断熱部は、繊維質基材に無機エアロゲルを分散させてなる可撓性断熱材であることが好ましい。
【0021】
本発明は、以上のような筒状断熱材を、外周に装着した熱機器も包含する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の筒状断熱材は、最内層が薄層であるにもかかわらず、外挿作業が容易である剛性を有し、しかも装着しようとする熱機器の偏心にも対応できる柔軟性を併せ持っているので、断熱材としての取扱性がよく、熱機器への装着作業を含む組み立て効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の筒状断熱材は、熱機器外周に装着される、環状積層構造を有する筒状断熱材であって、最内層が、無機繊維製基材に無機充填剤を付与してなり、厚み4.5mm以下で、JIS L1096に基づいてガーレ式剛軟度試験機で測定される剛軟度が20mN以上の断熱材で構成されている。
【0025】
<最内層の構成及びその製造方法>
はじめに、本発明の筒状断熱材の特徴となる最内層の構成について説明する。
本発明の筒状断熱材の最内層は、無機繊維製基材に無機充填剤を付与してなり、厚み4.5mm以下で、JIS L1096に基づいてガーレ式剛軟度試験機で測定される剛軟度が20mN以上の断熱材で構成されている。
【0026】
ここで、無機繊維基材としては、無機繊維の糸条体を製織してなる織布、編布等の布帛であってもよいし、無機繊維をカーディング等により平面状としたウエッブを積み重ねたフェルトやさらにニードルパンチ等により繊維同士をからませた不織布や綿状物、さらにこれらを圧縮したマット状物であってもよい。
【0027】
前記無機繊維としては、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ−アルミナ繊維、ジルコニア繊維等のセラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、バサルト繊維などが挙げられ、これらのうち、好ましくは熱抵抗値(R)が大きいセラミック繊維が好ましく用いられる。
【0028】
布帛を構成する糸状体は、長繊維の単糸、撚り合わせ糸、引きそろえ糸であってもよいし、また、短繊維を紡績した紡績糸であってもよい。使用する糸条体の太さは、所定の剛性が得られるように、織り方、糸密度により適宜異なるが、通常、10〜400テックス、好ましくは30〜300テックス、より好ましくは50〜200テックスである。
【0029】
前記織布は、このような糸状体を製織することにより形成されたもので、製織方法は特に限定せず、平織り、斜文織り、朱子織、からみ織、模紗織り、これらを組み合わせた織り、さらには重ね折組織、パイル織物などでもよい。
前記編布(メリヤス)としては、縦編みメリヤス、横編みメリヤスのいずれでもよく、これに用いられる経糸、横糸としては、織布に用いられる上記糸条体と同様のものを用いることができる。
【0030】
このような布帛は、通常、糸密度15〜60本/25mm、好ましくは20〜60本/25mmである。従って、布帛の厚みが薄い場合には、厚み4.5mm以下の範囲内で、複数枚又は複数層、重ね合わせてもよい。
【0031】
フェルト、マットは、繊維同士が絡み合ったもので、その厚みは、製造方法等に依存するが、厚み4.5mm超のフェルト、マットの場合は、厚み4.5mm以下に圧縮することにより用いることができる。一方、厚みが薄いフェルト、マットの場合には、布帛の場合と同様に、複数枚又は複数層、重ねて用いてもよい。
【0032】
上記無機充填剤としては、シリカ、アルミナ等のセラミック粒子又は繊維、モンモリロナイト、バーミキュライト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイト、カオリナイト、スメクタイト、マイカ、タルク等の粘土、コロイダルシリカ、
アルミナコロイド、これらの組合せなどが挙げられる。
これらのうち、特にバインダーとしての機能を有する無機充填剤、すなわち、吸水により、増粘性、粘結性を有する無機充填剤が好ましく、具体的にはシリカ、コリダルシリカ
、アルミナコロイド、モンモリロナイトを含有することが好ましい。
【0033】
無機繊維製基材に付与される、上記無機充填剤の量は、最終的に形成される最内層として、剛軟度20mN以上となる量、好ましくは27mN以上となる量であり、無機充填剤の種類、基材における無機充填剤の存在態様等により適宜選択される。
【0034】
繊維製基材における無機充填剤の存在態様は、基材の種類、無機充填剤の付与方法により異なる。
繊維製基材が布帛の場合、通常、布帛では空孔が規則正しく整列して存在し、無機充填剤が空孔に保持されにくいことから、基材表面に塗工等することにより、無機充填剤を付与する方法が一般的である。一方、無機繊維が絡み合ってなるフェルト、マット状基材の場合、絡み合った無機繊維同士の間隙が不連続な空孔となっていることから、空孔内に無機充填剤を保持することが可能である。
【0035】
従って、基材として繊維絡み合い物(フェルト又はマット)を用いた場合には、
図1に示すように、繊維製基材10の空孔内に無機充填剤11が保持された構成となっていると考えられる。一方、基材として、布帛を用いた場合には、通常、
図2に示すように、無機充填材含有層12が、基材となる布帛10’の片面に積層(
図2(a)参照)、または両面に積層(
図2(b)参照)した状態となっている。
【0036】
無機繊維製基材に無機充填剤を付与する方法としては、通常、上記無機充填剤を水又は有機溶媒に分散させた分散液を、a)基材に塗工した後、乾燥することにより、あるいは、b)分散液中に基材を浸漬した後、乾燥することにより、あるいはc)分散液を基材表面にスプレー等することにより、基材の空孔に無機充填剤を充填、ないしは基材の表面に無機充填剤含有層を形成する方法が挙げられる。
無機充填剤の付与処理は、最内層となる筒体を形成する前でも、形成した後であってもよい。シート状繊維製基材に付与処理を行う場合、乾燥前に、加圧ローラ等で余分な水又は有機溶剤を脱水することにより、厚みを調節することができる。
【0037】
本発明の筒状断熱材に用いられる最内層は、以上のように無機繊維基材の無機充填剤が付与されたもので、厚み4.5mm以下、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3.0mm以下で、後述するJIS L1096に基づくガーレ式剛軟度試験機で測定される剛軟度が20mN以上、好ましくは27mN以上となる厚みである。最内層の厚みが4.5mmを超えると、内周と外周との直径差に該当する真円度が大きくなり、実質的に、シート状基材を用いて円筒体を作製することは困難だからである。特に、無機充填剤の付与により、剛軟度20mN以上、好ましくは27mN以上としたシート状基材では、延性が不足するため、直径90〜200mm程度の円筒状物であっても、曲率との関係で、円筒状とすることが困難だからである。
【0038】
本発明で用いられる最内層は、1層構造であってもよいし、複数層の積層構造であってもよい。1枚のシートを渦巻き状に巻回することにより、複数層の積層構造を有する最内層を形成することができる。尚、最内層が複数層で構成されている場合であっても、最内層を構成する厚み総量として4.5mm以下であり、最内層として、剛軟度が20mN以上であればよい。
【0039】
以上のような構成を有する最内層は、筒状断熱材の生産性の点から、シート状の基材を巻回することで筒形とする方法により製造されることが好ましい。ここで、筒状の形成は、無機充填剤を充填したシート状無機繊維製基材を巻回して筒状としてもよいし、まずシート状無機繊維製基材を巻回して筒状とした後、無機充填剤を付与してもよい。
【0040】
シート状の基材を巻回することにより筒体を形成する場合、通常、巻き終わり端部を、粘着テープ、固着バンド等を用いて固着することにより、あるいはシート裏面に塗布した接着剤で固着すること等により、筒形状を固定するが、無機充填剤として無機バインダーを使用することで、上記粘着テープ、固着バンドや接着剤が不要となる。
【0041】
すなわち、無機充填剤として、
コロイダルシリカやアルミナコロイドのように、バインダー機能を有するものを使用した場合、シート状無機繊維製基材に分散液を塗工後又はシート状無機繊維製基材を分散液に浸漬後に巻回して筒形とする、あるいは、仮留めにより筒形とした状態で無機バインダーを付与し、筒形の状態で乾燥すると、無機充填剤のバインダー機能により、繊維同士が結びつき、筒形が安定化する。さらに、バインダー機能を有する無機充填剤を用いた場合、1回の巻回の場合であっても、巻回始端部と巻回終端部とを接合することにより筒形を形成することができる。このような形成方法によれば、シート端部の重なりによる段差をなくすことができるので、特に円筒形の場合には、シートを渦巻き状に巻回して形成した円筒形と比べて、真円度が高い円筒体を得ることができるという利点がある。尚、巻回始端縁及び巻回終端縁となるシート状基材の縁部を斜めにカットしておくことで、接合面積を増大することができ、薄いシート状基材であっても、接合部の安定化を確保することができる。
【0042】
図3に、シート状無機繊維製基材を用いて最内層を製造する方法の一実施例を示す。
図3中、21がシート状無機繊維基材であり、20は筒状を形成するための芯材である(
図3(a))。芯材20に沿ってシート状無機繊維製基材21を巻き付け(
図3(b))、巻回始端部と巻回終端部とを接合することにより筒状を形成し(
図3(c))、この状態で、スプレー6で、無機充填剤含有液を噴霧(
図3(d))した後、乾燥器9に入れて乾燥すると(
図3(e))、接合部分が、無機充填剤のバインダー作用により接合一体化する。乾燥後、芯材20を抜き出せば(
図3(f))、筒状の最内層22が得られる(
図3(g))。
図3では、無機充填剤の付与処理(
図3(d))を、筒状の形成後に行ったが、例えば、上記a)又はb)の方法により、バインダー機能を有する無機充填剤を付与したシート状繊維基材を、乾燥前に芯材に巻き付けて筒状としてもよい。
【0043】
具体的には、
図4に示すように、シート状無機繊維基材21を、無機充填剤含有液7に浸漬あるいは刷毛8を用いて塗布することにより(
図4(a))、無機充填剤含有液が付与されたシート状無機繊維基材31を予め得(
図4(b))、この無機繊維基材31を芯材20に巻き付け(
図3(c))、得られた筒状を乾燥器9に入れて乾燥する(
図4(d))。乾燥後、芯材20を抜き出すと(
図4(e))、筒状の最内層32が得られる(
図4(f))。
【0044】
以上のような構成を有する最内層は、厚みが4.5mm以下と薄く、しかも繊維状基材で構成されていることから、装着しようとする円筒状熱機器の真円のずれに応じて変形可能な可とう性を有する上に、外挿作業性に必要十分な剛性も有している。
【0045】
<筒状断熱体>
本発明の筒状断熱体は、上記で説明したような、無機繊維製基材に無機充填剤を付与してなる断熱材を最内層として有する環状積層構造の断熱体である。
その代表的態様を
図5に示す。
図5に示す筒状断熱体1は、上記構成を有する最内層2の上に、中間層3、外表層4が内周側から順に積層された3種類の断熱材からなる環状積層構造の断熱体である。最内層の内側の空洞5に、被断熱体となる熱機器が内挿されることになる。
【0046】
中間層3を構成する中間断熱部、外表層4を構成する外表断熱部は特に限定しないが、好ましくは、中間断熱部には、断熱性に優れた材料が用いられる。例えば、不織布に無機エアロゲルを分散させてなる可撓性断熱材、好ましくはシート状の可撓性断熱材を巻回したものが好ましく用いられる。具体的には、無機繊維からなる不織布に、無機エアロゲルを分散させたものである。
【0047】
中間断熱部に用いられる上記不織布としては、ガラス繊維やシリカ繊維、セラミック繊維等の500℃以上の耐熱性を有する無機繊維の不織布が好ましく用いられる。
【0048】
上記エアロゲルとしては、約0.5〜500ナノメートルの範囲である開口した細孔を有し、空隙率約80vol%以上、好ましくは90vol%以上、さらに好ましくは95vol%以上の連続気泡タイプの多孔質体が好ましく用いられる。このようなエアロゲルは、ゾル−ゲル法等で生成した湿りゲルを、当該湿りゲルに含まれている溶剤の臨界点より高い温度及び圧力下に曝すことで、前記溶剤を除去することにより得られる。このようなエアロゲルは、空気が格子状構造を超えて対流することができないため、優れた断熱材として作用することができ、結果として、このようなエアロゲルを分散させてなるシートも優れた断熱性を示すことができる。
【0049】
無機エアロゲルは、金属のアルコキシドが基になったものであり、シリカ、炭化物及びアルミナなどの材料が含まれる。これらのうち、シリカエアロゲルが、最内層2との親和性が一般に高く、且つ優れた耐熱性を示す点から、好ましく用いられる。
【0050】
上記のような構成を有する中間断熱部は、補強材として使用する繊維バットに不織布を用いるバッチ式ゾル−ゲルキャスティング方法、例えば特表2007−524528号公報に開示するような、ゾルの低粘度溶液とゲル形成を誘導する試剤(熱触媒又は化学触媒)を連続的に混合し、不織布上に、ゲル化を有効に発現させる速度でゾルを分配することによって、連続又は半連続のゾル−ゲルキャスティングする方法等によって作製することができる。
【0051】
中間層3の厚みは、筒状断熱材の全体のサイズ等により異なるが、最内層1より厚く、また、十分な断熱性を発揮できるように、全体サイズの制限範囲内で分厚くすることが好ましい。
【0052】
外表層4は、筒状断熱体の最外周面を構成することになる。外表層4を構成する外表断熱部の種類は特に限定しないが、中間層3として、上述のようなエアロゲルを分散した不織布を用いた場合、エアロゲルの飛散を防止出来る役目を有するものが好ましく用いられる。また、筒状断熱体としての外挿作業性に影響を及ぼさない程度の剛性、可撓性を有する断熱材で構成することが好ましい。
【0053】
従って、外表断熱部としては、いわゆる繊維質断熱材として知られているグラスウールやロックウールなどをシート化した繊維質マット、フェルト、不織布などを用いることができる。無機繊維としては、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ−アルミナ繊維、ジルコニア繊維等のセラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、バサルト繊維などを用いることができる。コスト面からは、フェルトや、安価なグラスウールであってもよい。これらの素材は、筒状断熱材に求められる特性、使用条件などに応じて適宜選択される。
【0054】
外表層4の表面に、さらに無機バインダーを塗工してもよいし、繊維間間隙に無機バインダーが含浸されたものであってもよい。すなわち、最内層で使用したような繊維状基材に無機充填剤を付与したものを用いてもよい。
【0055】
また、外表層4は、予め筒状に成形されたものであってもよいし、シート状の断熱材を、中間層3上に、渦巻き状又は螺旋状に巻回することにより、形成してもよい。筒状断熱材の生産性の点から、渦巻き状又は螺旋状に巻回することにより形成することが好ましい。
【0056】
以上のような構成を有する本発明の筒状断熱材1は、装着対象となる熱機器への外挿部分となる最内層2が、自立可能な剛性を有しているので、外挿作業が容易である上に、円筒状熱機器の真円の形状のずれ、寸法精度のばらつき等に対応して変形できる程度の可撓性を有しているので、筒状熱機器への装着現場において、特殊な技能を必要とせずに済み、断熱材を装着した熱機器の組み立て生産性の向上をすることができる。しかも、筒状断熱材の大部分を中間層3が占有することになるので、中間層3の素材、種類に応じて、筒状断熱材全体として要求される可撓性、断熱性能を適宜設定することができる。
【0057】
〔用途〕
本発明の筒状断熱材は、筒状の燃料電池本体や燃料電池の改質器等の筒状熱機器の断熱材として、その外周に装着するのに利用される。本発明は、本発明の筒状断熱材を装着した熱機器も包含する。本発明の筒状断熱材を装着した熱機器は、本発明の筒状断熱材に基づいて、生産性に優れている。
【実施例】
【0058】
〔測定評価方法〕
(1)充填剤含有量(g/m
2)
基材の充填剤付与前の目付量X(g/m
2)とし、充填剤付与処理、乾燥後の目付量Y(g/m
2)として、下記式により算出した。
充填剤付着量=Y−X
【0059】
(2)剛軟度(mN)
JIS L1095,1096に準じて、ガーレ式剛軟度試験機を用いて、剛軟度を測定した。具体的には、89mm×25mmの短冊状サンプル片を左右に一定速度で移動するチャックに取り付けて、サンプル片を可動アームで動かし、サンプル片が支点の移動によって振り子を押していき、その曲げ反発性によって振り子から離れたときの角度目盛りを読み、これを剛軟度(mN)とした。
【0060】
(3)外挿作業性
燃料電池本体に該当する外径95mmの円柱体を準備し、この円柱体に、作製した筒状断熱材を手で外挿した。外挿時、筒状断熱材の端縁が円柱体端縁に当たって折れ曲がったり、めくれたりして、外挿が困難な場合を「×」、外挿作業時に屈曲することもあったが、外挿が容易ではないが、外挿可能な場合を「△」、容易に外挿できた場合を良好(「○」)とした。
【0061】
(4)断熱性
650℃の円柱に、作製した筒状断熱材を外挿し、筒状断熱材の外表層の表面温度を測定した。
【0062】
〔無機充填剤含有処理剤〕
表1に示すような3種類の無機充填剤(A1,A2,A3)を、水で希釈、又は希釈しないことにより、充填剤濃度が異なる種々の濃度の無機充填剤含有処理剤を調製した。尚、表1中の「スノーテックス」とは、日産化学工業社製の商品名であり、「サーモダイン」は新日本サーマルセラミックス株式会社製である。ベントナイトとしては、クニミネ工業株式会社から市販されているベントナイトを用いた。
【0063】
【表1】
【0064】
〔最内層用断熱材の作製及び評価〕
No.1−4:
基材として、ガラス繊維糸条体を朱子織してなる、縦25cm、横20cm、厚み0.3mmの布帛を使用し、表1に示すように、無機充填剤A1の希釈率を変えたスラリー状の無機充填剤含有処理剤に浸漬した後、加圧ローラを通過させて、余分な水を除去した。次いで、外径95mmの円柱状マンドレルに巻き付け、端部を重ねて合わせて、円筒体とした後、乾燥して、表2に示すような充填剤含浸量を有する最内層用断熱材を作製した。
尚、No.1は、充填剤含有処理剤による付与処理を行わなかったものであり、基材単独の特性を示す。
【0065】
No.5,6:
No.5は、No.1の基材(朱子織布帛)の片面にペースト状の充填剤含有処理剤を塗工した後、外径95mmの円柱状マンドレルに巻き付け、端部を重ねて合わせて、円筒体とし、乾燥したものである。基材の片面に、表2に示すような付与量を有する充填剤含有層が形成されている。
No.6は、充填剤含有処理剤の塗工を両面に施した以外は、No.5と同様にして作製したもので、基材の両面に充填剤含有層が形成されている。表2の充填剤の付与量は、両面の充填剤総量を示している。
【0066】
No.7−14:
基材として、縦25cm、横20cm、厚み3mmの矢澤産業株式会社製のスーパーウールマットYWMを用いた。このスーパーウールマットYWMは、シリカ繊維をウール状に解繊した後、ニードリングによりフェルト状に成形した無機繊維マットである。
このマット状基材を、表1に示すように、無機充填剤A1又はA3の希釈率(又は濃度)を変えたスラリー状の無機充填剤含有処理剤に浸漬した後、加圧ローラを通過させて、余分な水を除去した。次いで、外径95mmのマンドレルに巻き付け、端部を重ねて合わせて、円筒体とした後、乾燥した。こうして、表2に示すような充填剤の付与量を有する最内層を得た。
尚、No.7は、充填剤の付与処理をしなかったものであり、マット基材単独の特性を示す。
【0067】
以上のようにして最内層用断熱材について、上記評価方法に基づいて、剛軟度を測定するとともに、作製した円筒体を用いて、上記測定方法に基づいて外挿作業性を評価した。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
表2からわかるように、無機繊維製基材単独では、布帛、マットのいずれも、剛軟度が低すぎて、外挿することができなかった(No.1,7参照)。基材に無機充填剤を付与することにより剛軟度を上げることができ、20mN以上とすることにより、外挿作業が可能となるが、外挿作業性を満足するためには、剛軟度として27mN以上となるように無機充填剤を付与することが好ましい。無機充填剤の付与は、布帛基材を用いた場合には、充填剤含有層を、好ましくは両面に形成することにより、マット状基材を用いた場合には、内部に無機充填剤を含浸することにより達成可能である。
【0070】
また、無機充填剤の付与量の増加に伴って、剛軟度を上げることができることがわかる。
【0071】
〔筒状断熱材の作製〕
筒状断熱材D1,2:
上記で作製した最内層No.6、9を用いて、各々の最内層の表面に、ガラス繊維不織布にシリカエアロゲル(空隙率95vol%)を分散させたエアロゲルシート(厚み6mm)を7回巻回して、厚み42mmの中間層を形成した。
この中間層の外表面に、シリカ繊維フェルトを巻回することにより、厚み10mmの外表層を形成し、外径204mmの筒状断熱材を作製し、この筒状断熱材の断熱性を測定した結果を表3に示す。
【0072】
参考のために、厚み18mmのフェルト基材をマンドレル(外径95mm)に巻回し、さらにその上にガラス繊維不織布にシリカエアロゲル(空隙率95vol%)を分散させたエアロゲルシート(厚み6mm)を3回巻回して、厚み18mmの中間層を形成し、この中間層の外表面に、シリカ繊維フェルトを巻回することにより、外径203mmの筒状断熱材を作製し、外挿作業性及び断熱性を測定評価した。結果を併せて表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3からわかるように、本発明の筒状断熱材は、無機充填剤を付与していない、従来の無機繊維製基材をそのまま用いた場合と比べて、同等以上の断熱性能を示した。さらに、従来の無機充填剤を付与していない無機繊維製基材のままで用いた場合では、外挿作業性を満足できないのに対して、本発明の筒状断熱材は、剛性を有する薄型断熱材で最内層が構成されているので、外挿作業性を満足することができる。