特許第6057673号(P6057673)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タチエスの特許一覧

<>
  • 特許6057673-車両用シートのフレーム構造 図000002
  • 特許6057673-車両用シートのフレーム構造 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6057673
(24)【登録日】2016年12月16日
(45)【発行日】2017年1月11日
(54)【発明の名称】車両用シートのフレーム構造
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/68 20060101AFI20161226BHJP
   A47C 7/02 20060101ALI20161226BHJP
【FI】
   B60N2/68
   A47C7/02 A
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-245915(P2012-245915)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-94607(P2014-94607A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】100086195
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 孝雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179855
【弁理士】
【氏名又は名称】藁科 えりか
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆
(72)【発明者】
【氏名】内野 純一
(72)【発明者】
【氏名】太田 洋平
【審査官】 望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−194913(JP,A)
【文献】 特開2005−005070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/68
A47C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートクッションフレームの左右のサイド部材に連結パイプが架設され、左右のサイド部材から突出する連結パイプの左右の端がサイド部材に溶接される車両用シートのフレーム構造において、ケガキ線からなる目印がサイド部材に並んで2本設けられて溶接ビードの始点位置を範囲で示した車両用シートのフレーム構造。
【請求項2】
シートクッションフレームの左右のサイド部材に連結パイプが架設され、左右のサイド部材から突出する連結パイプの左右の端がサイド部材に溶接される車両用シートのフレーム構造において、ケガキ線からなる目印がサイド部材に並んで2本設けられて溶接ビードの始点位置を範囲で示すとともに、基準位置を示すケガキ線が2本のケガキ線の中央にさらに設けられた車両用シートのフレーム構造。
【請求項3】
始点位置を範囲で示す2本のケガキ線と、2本のケガキ線の中央に設けられた基準位置を示すケガキ線との組合せが、離反して2組設けられた請求項記載の車両用シートのフレーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションフレームの左右のサイド部材間に連結ロッド(連結パイプ)を架設した車両用シートのフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのフレームには剛性が必要とされており、左右のサイド部材間に連結パイプを架設し、左右のサイド部材を連結してフレームの剛性を確保するフレーム構造が知られている。
たとえば、フロント部材(フロントフレーム)および左右のサイド部材(サイドフレーム)を平面略U字形状に組み合わせてなるシートクッションフレームにおいては、その左右のサイド部材の後端を連結ロッドで連結することにより一体化されて平面略矩形形状に構成される(たとえば、特開2008−285103号公報、特開2011−218842号公報)。連結ロッドは、通常、円形断面のパイプ材から形成される。
【0003】
シートクッションフレームのサイド部材の後端には、連結パイプ(連結ロッド)の取付け穴が形成され、取付け穴から連結パイプの左右の端を突出させ、連結パイプの端(突出端)が左右のサイド部材に溶接(溶着)されている。
このように、シートクッションフレームのサイド部材に連結パイプの左右端をそれぞれ溶接して連結パイプを左右のサイド部材に架設、溶着すれば、シートクッションフレームは一体化されて高い剛性の略矩形形状のシートクッションフレームが得られる。サイド部材への連結パイプの溶接(溶着)は、通常、連結パイプの円周全面でなく、その一部についてなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−285103号公報
【特許文献2】特開2011−218842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シートクッションの後端にはシートバックが取付けられており、後突、急停車など(以下、適宜「後突」という)が生じると、乗員の後方慣性移動による荷重(衝撃荷重)をシートバック、具体的にはそのフレーム(シートバックフレーム)が受ける。シートバックフレームはシートクッションフレームと同様に平面略矩形形状に形成され、その左右のサイド部材の下端、および、シートクッションフレームの左右のサイド部材の後端を貫いて、たとえばリクライニングシャフトが延ばされることによってシートバックフレーム、シートクッションフレームが連結される。そして、後突による衝撃荷重はシートバックフレームの(左右の)サイド部材を介してシートクッションフレームの(左右の)サイド部材の後端に伝達される。
【0006】
後突時の頭部の急激な後傾に起因する頚部の損傷、いわゆるむち打ち障害を抑制するために、衝撃荷重のエネルギーを吸収する必要があり、シートバックフレームは衝撃荷重を受けて後傾することによってエネルギーを吸収する。
【0007】
シートバックフレームからシートクッションフレームに伝達された衝撃荷重は、シートバックの取り付けられた左右のサイド部材の後部、特に孔としてなる連結パイプの貫通部分(取付け穴周り)に集中的に作用する。
【0008】
連結パイプはその端がシートクッションフレームのサイド部材に溶接されているため、サイド部材への連結パイプの溶接状態がシートバックフレームの変形に起因するエネルギーの吸収に大きく影響する。つまり、シートクッションフレームの左右のサイド部材が適度の抵抗のもとで変形することによって、シートバックフレームが円滑に適当量後傾して、衝撃荷重のエネルギーを吸収する。
【0009】
シートクッションフレームのサイド部材への連結パイプの溶接(溶着)は連結パイプの円周方向での溶接ビードの長さによってその溶着強度を調整できる。従来においては、溶接ビードの長さが仕様図、作業図などで指定され、作業現場では、溶接ビードが指定の長さとなるように、連結パイプの回りで溶接されている。しかしこのような溶接の指定では、所定の溶接を確実に行うことが難しい。
【0010】
本発明は、所定の溶接を確実に行える車両用シートのフレーム構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、溶接ビードの始点位置が溶着強度に影響する大きな要因であることに注目し、溶接ビードの始点位置に目印を設けることにより、溶接の開始位置を一定とした溶接を可能としている。
すなわち、請求項1に係る本発明によれば、シートクッションフレームの左右のサイド部材に連結パイプが架設され、左右のサイド部材から突出する連結パイプの左右の端がサイド部材に溶接される車両用シートのフレーム構造において、ケガキ線からなる目印がサイド部材に並んで2本設けられて溶接ビードの始点位置を範囲で示している。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明では、目印を基準として溶接を開始し、連結パイプの端の回り(円周)で所定の方向に溶接ビードを一定の長さだけ延ばすことによって、溶接の開始位置が一定とした溶接が行え、所定の溶接が確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例に係るフレーム構造の組み込まれた車両用シートの斜視図を示す。
図2】シートクッションフレームの右のサイド部材の側面図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
シートクッションフレームの左右のサイド部材の後端に連結パイプが架設され、サイド部材から突出する連結パイプの左右の端がサイド部材に溶接される。ここで、溶接ビードの始点位置を示す目印がサイド部材に設けられ、連結パイプはこの目印を基準としてサイド部材に溶接される。たとえば、目印はサイド部材に刻印されたケガキ線とされ、ケガキ線が2本設けられて溶接ビードの始点位置が範囲で示される。また、ケガキ線を2本設けて溶接ビードの始点位置を範囲で示すとともに、2本のケガキ線の中央に基準位置に示すケガキ線をさらに設けてもよい。
【実施例】
【0015】
図1は本発明の一実施例に係るフレーム構造の組み込まれた車両用シートの斜視図、図2はシートクッションフレームの左のサイド部材の側面図をそれぞれ示す。
図1に示すように、たとえば、車両用シート10は、シートクッションフレーム20と、リクライニング装置32を介してシートクッションフレームに揺動可能に取付けられるシートバックフレーム30とを有している。
【0016】
シートクッションフレーム20は、左右のサイド部材(サイドフレーム)20L、20Rの前後端に2つの連結ロッドが架設された構成となっている。すなわち、鋼板をプレス加工してなる左右のサイド部材20L、20Rの前端の間、後端の間を2つの連結ロッド22F、22Reで連結した平面略矩形形状に構成されている。前後の連結ロッド22F、22Reは、通常、円形断面のパイプ材から形成されるが、必ずしも、円形断面のパイプ材に限定されない。
なお、実施例では、シートバックフレームの前の連結パイプ(連結ロッド)22Fを覆って左右のサイド部20L、20Rにカバー20Uが架設されている。
【0017】
実施例では、車両用シート10は車床上を前後方向にスライド可能なシートとして具体化されている。すなわち、車床上に固定された左右のロアレール24Lにアッパーレール24Uがスライド可能に係合されており、アッパーレール上に固定された左右のブラケット26間にシートクッションフレーム20が配置されている。
【0018】
左右のサイド部材20L、20Rに架設された前後の連結パイプ(連結ロッド)22F、22Reは、その左右の端がサイド部材に形成された取付け穴20aを挿通して突出し、突出した端の周面に沿って溶接されてサイド部材に溶着されている。
【0019】
後突が生じると、シートバックフレーム30は乗員の後方慣性移動による荷重(衝撃荷重)を受ける。シートバックフレーム30はシートクッションフレーム20と同様に平面略矩形形状に形成されており、その左右のサイド部材の下端、および、シートクッションフレームの左右のサイド部材の後端を貫いてリクライニングシャフト32aが延ばされて、シートバックフレーム、シートクッションフレームが連結されている。そのため、後突による衝撃荷重はシートバックフレーム30の(左右の)サイド部材を介してシートクッションフレームの(左右の)サイド部材20L、20Rの後端に伝達される。
そして、シートクッションフレームのサイド部材20L、20Rの後端の変形を伴いながらシートバックフレーム30が後傾して後突の衝撃によるエネルギーを吸収することにより、後突時の頭部の急激な後傾に起因する頚部の損傷、いわゆるむち打ち障害が抑制される。
【0020】
本発明では、連結ロッド22Reの溶接のため溶接ビードの始点位置となる目印40を、シートクッションフレームのサイド部材20L、20Rに設けている。図2に示すように、目印40は、連結パイプ22Reの端の挿通される左右のサイド部材の取付け穴20aの回りでサイド部材20L、20Rに予め設けられる。目印40は、たとえば、ケガキによってサイド部材に刻印された線(ケガキ線)とされる。
【0021】
溶接の開始位置から溶接ビードWを延ばす方向、溶接ビードの長さ(溶接の長さ)などの溶接の要件は、シートクッションフレームのサイド部材の形状や構造、車床に対する連結パイプ22Reの相対高さなどの設計上の要因を考慮して車種ごとに設定されて、仕様図、作業図などで作業現場に指示される。そして、作業現場では、連結パイプを取付け穴20aから突出させてシートクッションフレーム20を仮に組み立ててから、ケガキ線(目印)40を始点位置として、仕様図などで従って溶接ビードWを所定の方向に一定の長さだけ延ばして連結パイプをサイド部材に溶着し、シートクッションフレームを一体化する。
【0022】
このように作業現場では、ケガキ線(目印)40を基準として溶接を開始し、連結パイプの端の回り(円周)で所定の方向に溶接ビードを一定の長さだけ延ばして、サイド部材20L、20Rへの連結パイプ22Reの溶接が行われる。この溶接では、溶接の開始位置が一定となり、仕様図などに従った所定の溶接が確実に行える。そして、溶接の開始位置が目視により容易に確認できるため、その後の検査の確実性が一層向上する。
【0023】
図2に示すように、ケガキ線(目印)40を2本設けて溶接ビードの始点位置を範囲で示せば、つまり、その許容範囲を明示すれば、溶接がより簡便に行え、高い作業性のもとで所定の溶接が容易に行える。2本のケガキ線の中央に基準位置に示すケガキ線40cをさらに設ければ、溶接ビードWの始点位置をより正確に一定とすることができ、所定の溶接が高い精度で行える。
通常、2本のケガキ線40a、40bは平行に設けられるが、連結パイプの軸中心からのびた放射線としてもよい。
【0024】
左のサイド部材20Lへの連結パイプ22Reの溶接について説明したが、右のサイド部材22Rにも同様のケガキ線(目印)40が設けられ、ケガキ線に基づいて連結パイプReが溶接されることはいうまでもない。
【0025】
一例をあげれば、中央のケガキ線40cからの左右のケガキ線40a、40bの間隔は略3mmとし、2つのケガキ線40a、40bで規定される溶接の始点範囲を略6mmとすることが好ましい。
【0026】
溶接ビードの始点位置となる目印40をケガキ線とすれば、消えることなく容易に目視できる。ケガキ線を目印40とすることが好ましいとはいえ、消えることなく容易に目視できればものであればよく、目印はケガキ線に限定されない。
【0027】
実施例では、2つの不連続の溶接ビードWのもとで後の連結パイプ22Reはサイド部材20Lに2ヶ所で溶接(溶着)されており、そのためのケガキ線40a、40b、40cの組合せが取付け穴20aの周りに2組設けられ、溶接ビードは中央のケガキ線(目印)40cから異なる方向に延ばされている。しかしながら、上述したように、溶接個所の数、溶接ビードWの方向、長さなどは、仕様図などの指示に基づくものであり、これに限定されない。
【0028】
サイド部材20L、20Rへの後の連結パイプ22Reの溶接(溶着)が、後突時のエネルギーの吸収に大きく影響し、前の連結パイプ22Fの溶接はさほど影響しない。そのため、前の連結パイプ22Fの取付け穴の周りに溶接のための目印(ケガキ線)40を設けて、目印のもとで溶接する必要はさほどない。
【0029】
しかしながら実施例では前の連結パイプ22Fもケガキ線(目印)のもとで溶接することとしており、後の連結パイプ22Reにおけると同様に、前の連結パイプ22Fの取付け穴20aの周りでサイド部材20Lに、範囲を規定する左右のケガキ線40a、40bとその中央にケガキ線40cを設けた目印を2組設けている。そして、溶接ビードWを異なる方向に伸ばして連結パイプ22Fがサイド部材20L、20Rに溶接されている。
【0030】
上記のように、本発明によれば、溶接ビードの始点位置に目印を設けているため、目印を基準として溶接を開始し、連結パイプの端の回り(円周)で所定の方向に溶接ビードを一定の長さだけ延ばすことによって、溶接の開始位置が一定となり、所定の溶接が確実に行える。
【0031】
上述した実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何等限定するものでなく、本発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全て本発明に包含されることはいうまでもない。
たとえば、実施例では、シートクッションフレームの左右のサイド部材の前後端でその間に2つの連結パイプを架設して平面略矩形形状にシートクッションフレームを構成している。しかしながら、フロント部材(フロントフレーム)および左右のサイド部材を平面略U字形状に組み合わせたシートクッションフレームのサイド部材に後の連結パイプだけを架設して平面略矩形形状にシートクッションフレームにもこの発明が採用できる。
さらに、通常、連結ロッドとして円形断面の連結パイプが採用されるが、円形断面のパイプ以外のものから連結ロッドを形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、自動車などの車両用シートに適するとはいえ、急停車によって頭部の急激な後傾に起因する頚部の損傷(むち打ち障害)が生じる可能性のある飛行機、船舶、列車等のシートにも応用できる。
【符号の説明】
【0033】
10 車両用シート
20 シートクッションフレーム
20L、20R 左右のサイド部材(サイドフレーム)
20a (連結パイプの)取付け穴
22F、22Re 前後の連結ロッド(連結パイプ)
30 シートバックフレーム
40(40a、40b、40c) 目印(ケガキ線)
W 溶接ビード
図1
図2