【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成24年9月26日ポルトガルにおいて開催された15th WORLD CONFERENCE ON EARTHQEUAKE ENGINEERINGで発表。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記制御対象区間を、時間的に一部重複させて設定し、各々の上記制御対象区間内の上記予測入力波形に対し、上記制御対象区間の終端のフィードフォワード制御力を0と仮定した境界条件で最適制御理論に基づく最適フィードフォワード制御力を算出するとともに、得られた最適フィードフォワード制御力のうち後続の上記制御対象区間と重複しない当該制御対象区間の開始部分の上記最適フィードフォワード制御力を順次接続することを特徴とする請求項1に記載のフィードフォワード制御力の算定方法。
【背景技術】
【0002】
近年、地震時に作用する地震動に対する応答を緩和して建築構造物の安全性を確保するための制震システムとして、アクティブあるいはセミアクティブ振動制御システムが採用されている。これらの振動制御システムは、その殆どが、制御対象となる上記建築構造物の地震動に対する応答量を用いたフィードバック制御によるものである。
【0003】
一方、地震発生時に発せられる緊急地震速報等のリアルタイム地震情報から、当該地震動が到達する前に、上記建築構造物における地震動の入力波形を予測して、当該入力波形に基づいて上記アクティブあるいはセミアクティブ振動制御システムをフィードフォワード制御すれば、上述したフィードバック制御に比べて、格段に制御性能が向上することが知られている。
【0004】
しかしながら、これまでその実現が困難であった。その理由としては、第1に、これから到達する地震動の予測が困難であったこと、また第2に、最適制御理論に基づいてフィードフォワード制御力を決定するためには、予め全時刻の地震動波形が必要であると考えられていたこと、等が挙げられる。
【0005】
このうち、上記第1の理由に対しては、先に本発明者等により下記特許文献1において、地震が発生した際に、その地震動が特定の想定点に到達する前に、当該想定点における地震動の入力波形をリアルタイムに推定することができるリアルタイム地震情報を利用したリアルタイム地震入力波形推定方法が提案されるとともに、当該推定方法に基づいて、下記非特許文献1において、実観測記録を用いた検討により、地震動の周期の数秒程度の長周期成分については、15秒程度の時間長であれば、これから到達する地震動の入力波形を予測できることが例証されている。
【0006】
しかしながら、上記第2の理由に対しては、現時点において有効な解決手段が無く、このため、依然として、地震動が到達する前に予測された一定時間長の入力波形だけでは、アクティブあるいはセミアクティブ振動制御システム等のフィードフォワード制御を実現することが困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、地震発生時に発せられるリアルタイム地震情報から得られた、これから到達する地震動の予測入力波形を用いて、構造物の地震応答をフィードフォワード制御するためのフィードフォワード制御力の算定方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、地震発生時に、当該地震が到達する前にリアルタイムに算出された特定の構造物に
作用する地震動の予測入力波形を用いて、上記構造物の地震動応答を制御するためのフィードフォワード制御力を算定するための方法であって、
上記地震動の予測入力波形を一定時間の複数のブロックに分割して制御対象区間として設定し、上記制御対象区間の終端のフィードフォワード制御力を0と仮定した境界条件で最適制御理論に基づく最適フィードフォワード制御力を順次算出することを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記制御対象区間を、時間的に一部重複させて設定し、各々の上記制御対象区間内の上記予測入力波形に対し、上記制御対象区間の終端のフィードフォワード制御力を0と仮定した境界条件で最適制御理論に基づく最適フィードフォワード制御力を算出するとともに、得られた最適フィードフォワード制御力のうち後続の上記制御対象区間と重複しない当該制御対象区間の開始部分の上記最適フィードフォワード制御力を順次接続することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1または2に記載の発明によれば、地震発生時に、特定の構造物に作用する一定の時間長の予測入力波形が得られた際に、上記時間長の制御対象区間に対して、最適制御理論に基づく最適フィードフォワード制御力を算出することにより、上記構造物に生じる上記地震動の応答をフィードフォワード制御することができる。
【0012】
この際に、請求項1に記載の発明において、制御対象区間に対して最適制御理論を用いた最適フィードフォワード制御力は、上記制御対象区間の終端のフィードフォワード制御力を0とした境界条件を設定して、終端から逆時間方向へ算出する必要がある。このため、各々の制御対象区間の終端に近づくにつれて制御効率が低下する。
【0013】
この点、請求項2に記載の発明においては、上記制御対象区間を時間的に一部重複させて設定し、各々の上記制御対象区間内の上記予測入力波形に対して最適制御理論を用いて算出された最適フィードフォワード制御力のうちの、終端のフィードフォワード制御力が実際には0では無いことに起因する誤差が小さい当該制御対象区間の始端側の部分の算出結果を順次接続して、最適フィードフォワード制御力を得ているために、より一層制御効率を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(前提となる技術)
本実施形態において用いる最適制御理論に基づく最適フィードバック・フィードフォワード制御力の決定方法について説明すると、先ず変分原理に基づいて、最適制御理論による制御力の形式を誘導する。
【0016】
制御対象となる構造物の状態方程式が下式で表されるとする。
【数1】
【0017】
すると、最適制御理論における2次形式評価関数は、下式によって表される。
【数2】
【0018】
次いで、最適問題としてハミルトニアンを下式で定義する。
【数3】
【0022】
上記(1.7)式の両辺をtで微分すると、
【数7】
【0023】
(1.8)式は,全てのx(t)とs(t)に対して成立する条件から、以下の2式が得られる。
【数8】
【0024】
境界条件については(1.7)式から、
【数9】
【0025】
以下では、定常フィードバックゲインK(t
f→∞として積分区間を無限にした場合に得られる定数ゲイン)をフィードバック制御力として設定する.定数行列Kは、以下のリカッティ行列方程式の解として得られる。
【数10】
【0027】
(1.14)式を、(1.1)式に代入することにより、下式が得られる。
【数12】
【0028】
最適フィードフォワード制御力を決定する、s(t)に関する状態方程式は、下式である。
【数13】
【0029】
次いで、解析モデルとなる特定の構造物について、1自由度振動系を考える。なお、多自由度振動系に対しても同様である。
先ず、質量、剛性および固有振動数を、それぞれm
s、k
s、ω
sとし、減衰係数c
sと対応する減衰定数をζ
sとする。また、振動系の地面に対する相対変位をx
sとする。
すると、上記(1.1)式に示した状態方程式の行列式は、下式の通りである。
【0031】
また、上記(1.2)式において示した2次形式評価関数の重み係数行列は、下式で表される。
【数15】
【0032】
ここで、1質点振動系のパラメータは、ω
s=2πrad/s、ζ
s=0.01、m
s=1.0kgとする。
【0033】
次いで、本実施形態の前提となるフィードフォワード制御力の決定アルゴリズムについて説明する。
従来技術において述べたように、最適制御理論に基づいてフィードフォワード制御力を決定するためには、予め全時刻の地震動波形が得られている必要がある。そして、実際は、地震到達前に全時刻の地震動波形を得ることはできないが、仮に可能であったとした場合に、全地震動を制御対象区間としたフィードフォワード制御力は以下のようになる。
【0034】
先ず、上記(1.16)式における入力地震動をディラックのデルタ関数δ(t)に置換して、同式をt=t
fから逆時間方向に解くことによって、インパルス応答関数h(t)を得ることができる。
【0036】
上記(3.1)式のシステムの状態推移行列をΦ(t)とすると、非因果性時間関数であるh(t)は下式で表される。
【数17】
【0037】
ここで、状態推移行列Φ(t)は、(sI+A
cT)
-1の逆ラプラス変換により得られる。
時刻tにおけるフィードフォワード制御力は、
【0039】
上記(3.4)式の第2項は、コンボルーション積分である。そして、境界条件s(t
f)=0より、同式は、
【数20】
【0040】
上記(3.5)から判るように、時刻tにおけるフィードフォワード制御力を決定するには、時刻tからt
fまでの全時刻歴がわかっている必要がある。
また、上記(3.5)式によって計算する方法としては、入力地震動をNブロックに分割し,各ブロックの終端をt
i(i=1、…..、N)とする。そして、i番目のブロックに対するフィードフォワード制御力は、
【数21】
【0041】
ここで、s(t
i−t)は、上記(3.4)式および(3.5)式を用いて、
【数22】
【0042】
i番目のブロックに対するフィードバック制御力は、上記(3.6)式で表される。この場合、z番目のブロックの時刻tから終端時間t
fまでの全ての時刻歴が必要である。以下、このようにして計算する方法をGFFCと呼ぶ(feed-forward control by global optimization )。
【0043】
(第1実施形態)
以上の前提技術のもとに、
図1に基づいて、本発明のフィードフォワード制御力の算定方法の第1実施形態について説明する。
このフィードフォワード制御力の算定方法においては、地震発生時に観測された地震動の情報から、当該地震が到達する前にリアルタイムに算出された特定の構造物に作用する一定時間の上記地震動の予測入力波形を用いて、上記構造物の地震動応答を制御するためのフィードフォワード制御力を算定するに際して、上記一定時間を制御対象区間として設定し、上記制御対象区間の終端のフィードフォワード制御力を0とした境界条件で、順次最適制御理論に基づく最適フィードフォワード制御力を算出する。これは、制御対象区間の終端t
iから地震動の全時刻歴の終端t
fまでの入力波形が無いものと考えることに相当する。
【0044】
ここで、上記制御対象区間のフィードフォワード制御力の算出は、以下の通りである。
先ず、部分的な2次形式評価関数を考える。
【数23】
【0045】
ここにおいて、時刻t
i以後はフィードフォワード制御力を0と仮定する(すなわち、境界条件s(t
i)=0を仮定する)。i番目のブロックに対する最適フィードフォワード制御力は、上記(3.5)式を用いて、下式で表される。
【数24】
【0046】
上記(3.10)式は、i番目のブロックに対するフィードフォワード制御力を表すものである。このようにして、終端のフィードフォワード制御力を0とした境界条件で、上記(3.10)式により順次制御対象区間についてフィードフォワード制御力を算出して接続する計算方法を、以下IFFCと呼ぶ(feed-forward control by individual optimization)。
【0047】
(第2の実施形態)
上記第1の実施形態において示したIFFCによって計算するフィードフォワード制御力は、終端のフィードフォワード制御力を0と仮定したことにより、本来のGFFCで計算するフィードフォワード制御力と上記(3.7)式の第1項、すなわち自由振動解の寄与分だけ異なっており、この分が制御性能の差となる。しかしながら、上記(3.6)式および(3.7)式に見られるように、自由振動解となる上記第1項は、後続の制御対象区間との境界の時刻t
fから逆時間方向にt
iまで積分することにより算出されるものであることから、|t−t
i|がある程度以上大きくなれば、状態推移行列Φ(t−t
i)が0に近づくため、両者の差は小さくなる。
【0048】
したがって、t
i−t≧T
dの時に、上記(3.7)式の第1項が充分小さくなると見なせる場合に、T
d+T
aよりも長い時間区間の地震動を予測することが可能であれば、IFFCで計算したフィードフォワード制御力は、t
i-1〜t
i-1+T
aの時間区間において、GFFCで計算したフィードフォワード制御力に等しくなると考えられる。
【0049】
本発明の第2の実施形態は、この原理を用いて、IFFCを改善したものであり、上記制御対象区間を、時間的に一部重複させて設定し、各々の制御対象区間内の予測入力波形に対し、順次第1の実施形態と同様にして最適制御理論に基づく最適フィードフォワード制御力を算出するとともに、得られた最適フィードフォワード制御力のうちの後続の制御対象区間と重複しない当該制御対象区間の開始部分(始端から一定時間)の最適フィードフォワード制御力を接続するようにしたものである。
【0050】
これを、
図2に基づいて具体的に説明すると、先ず時刻t=t
i-1において、第1の実施形態と同様にIFFCによりT
d+T
a時間区間分のフィードフォワード制御力を計算して、後続の制御対象区間と重複しないT
a時間分のフィードフォワード制御力のみを作用させる。
【0051】
引き続いて、時刻t=t
i(=t
i-1+Ta)において、同様にIFFCによりT
d+T
a時間区間分のフィードフォワード制御力を計算して、T
a時間分のフィードフォワード制御力のみ作用させる。そして、以降、同様の計算を繰り返して、T
a時間分のフィードフォワード制御力のみを作用させて行く(接続して行く)。なお、第2の実施形態における以上の計算方法を、以下MIFFCと呼ぶ(feed-forward control by modified individual optimization。)
【0052】
以上の構成からなる第1および第2の実施形態によれば、地震発生時に観測された地震動の情報から、特定の構造物に作用する一定の時間長の予測入力波形を得た際に、上記時間長を制御対象区間とする予測入力波形に対して、最適制御理論に基づく最適フィードフォワード制御力を算出して接続することにより、上記構造物に生じる上記地震動による応答をフィードフォワード制御することができる。
【0053】
加えて、特に第2の実施形態によれば、上記制御対象区間を時間的に一部重複させて設定し、各々の上記制御対象区間内の上記予測入力波形に対して最適制御理論を用いて算出された最適フィードフォワード制御力のうちの、上記自由振動項における演算によって生じる誤差が小さい始端側の算出結果を接続して、上記一定時間の長さの最適フィードフォワード制御力を得ているために、より一層制御効率を高めることができる。
【実施例】
【0054】
上記第1および第2の実施形態に示したフィードフォワード制御力の算定方法による効果を確認するために、時刻歴応答解析による制御性能の検証を行った。
上記第1および第2の実施形態の前提技術において示した、解析モデルとなる特定の構造物について、1質点振動系の解析モデルの状態推移行列は、下式で表すことが出来る。
【0055】
【数25】
【0056】
地震発生時に予測された地震動の応答波形を模擬した入力地震動として、振動数ω
sの漸増振幅正弦波を用いた。最大加速度を1.0m/sとし、無次元化した制御の重み係数を、
【数26】
【0057】
この時の、1質点振動系のモード減衰定数は、フィードバック制御により21.7%に増加している。
図3は、フィードバック制御とフィードフォワード制御を併用した場合の、1質点振動系の速度応答を計算した結果を示すものである。なお、フィードフォワード制御力は、GFFCとIFFCにより計算し、参考のためフィードバック制御力のみを作用させた場合の結果も示してある。また、入力地震動は、4秒間の予測が可能であるとして、3ブロック分の時間長を設定している。
【0058】
図3(c)に見られるように、GFFCによる速度応答は、フィードバック制御に比べて同等の制御力で応答が大きく低減していることがわかる。また、IFFCによる速度応答は、GFFCの結果ほど低減していない。当該応答の差は、(3.7)式の第1項による影響である。
【0059】
次いで、
図4は、IFFCにより4秒間のフィードフォワード制御力を計算して、最初の1秒間を制御に使用するMIFFCによる結果を、GFFCとIFFCの結果と対比させて示すものである。
図4(b)から判るように、IFFCによるフィードフォワード制御力は、各ブロックの終端(4秒,8秒,12秒)で0になっており、これが制御性能劣化の原因となっている。一方で、MIFFCでは、フィードフォワード制御力がGFFCの結果とほぼ一致しており、制御性能もGFFCとほぼ同等である。
【0060】
次に、
図5は、正弦波ではない地震動に対するMIFFCの効果を調べるため、1940年エルセントロ地震NS成分(the N-S component of the 18 May 1940 El-Centro Earthquake)に対して、フィードバック制御と、フィードバック・フィードフォワード併合制御を行った結果を示すものである。
【0061】
ここで、最大加速度(PGA)は,1.0m/s
2に規準化している。
【数27】
【0062】
重み係数を変えたのは、それぞれの最大制御力を概ね一致させるためである。モード減衰定数は,フィードバック制御では21.7%、フィードバック・フィードフォワード併合制御では44.1%に増加している。フィードバック制御と、フィードバック・フィードフォワード併合制御に対する最大応答速度は、それぞれ0.135m/sと0.059m/sである。一方、最大制御力は、0.386Nと0.354Nである。最大制御パワーを計算すると、フィードバック・フィードフォワード併合制御では0.016W、フィードバック制御では0.051Wである。